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▽レス始

「まぶ月〜第五夜〜(まぶらほ+月姫+他)」

ドミニオ (2006-02-13 07:17)
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 前回のあらすじ。

 人為的災害と言うか人間災害の不幸に見舞われ、部屋を焼け出された俺、式森和樹。
 夜の冷たい風にも負けず、今日も俺は頑張らされてます。
 …………アヴァロンに引きこもりたいと願う、今日この頃。


 ガチャリとドアノブを回す。
 ぐるりと部屋を見渡せば、中にあるのはありふれた物ばかり。
 ベッドに机に、本棚、テレビに冷蔵庫にレンジ……他諸々の生活家電、生活雑貨。
 だが、それでもここは俺の……俺の、部屋なのだ。

「ああ、やっと帰って来れたよ俺のへ」

 ぷちっ。

 突然、ドサドサと頭上から降ってきた大量のダンボールに潰される俺。
 うん、そう言えばあった気がする、こんなイベント。

「和樹さん!? 酷い、誰がこんな事を……

 アンタだ、アンタ。


「――何やってんの、あんた達?」

「あ、玖里子さん」
「玖里子先輩」

 呆れ声に振り返れば、そこには例によって例の如く玖里子先輩が居た。

「聞いてください、玖里子さん!」
「玖里子先輩、助けてください」

「…………はあ?」

 玖里子先輩に詰め寄る涙目の夕菜と、倒れ伏したまま動ない黒こげの俺
 無論、俺の部屋に住むと言って譲らない夕菜に対して強硬に反抗した結果なのだが…………凄いよ、死んでないよ俺。何時の間に不死身属性が付いたんだろーなー。AHAHAHAHA。


 ――しばらくお待ち下さい。


「つまり、夕菜は和樹の部屋に住みたい。和樹はそれが嫌、と」

 説明を聞き終えた(夕菜の説明は多分に主観が混じっていたので聞き流し、俺が説明した)玖里子先輩は、うーん、と悩むフリをし

「オッケー、判ったわ。それじゃあこうしましょう。和樹はそのままこの部屋に住む。夕菜は向かいの空き部屋に移る。これでどう?」

 などとのたまった。

「向かい、ですか?」

「そ。同じ部屋じゃないけど近いし、同室じゃなければバレても何とか誤魔化せるでしょ。朝霜のおばさんはあたしが何とかしてあげるわ」

「でも……」

「ここに住んだりしたら男子にバレるのは時間の問題だしね。ここは妥協しておくべき所だと思うけど?」

「そう……ですね」

 なおも説き伏せる玖里子先輩に、概ね納得する夕菜。
 どうでもいいが俺の意志が完全無視されてる気がする。

「じゃあさっそくお部屋を見ないと。家具とかお洋服とか運んで。あ、お布団も」

 そう言って夕菜はいそいそと空き部屋へ向かう。
 多分この後エリザベートが出てくるのだろう。

「ねえ、玖里子先輩」

「なに?」

「空き部屋あったんなら俺、テント生活する必要なかったんじゃ……」

「…………」

「…………」

「ま、まあいいじゃない、もう済んだ事なんだし!」

「…………はあ」

 長い溜息を吐く俺。
 管理人さんも何で教えてくれないかな……。

 ――ちなみに後日聞いた所、『楽しそうでしたので、そちらの方がいいのかと』という返答が返ってきた。
 管理人さん、アレは楽しそうじゃなくて必死そうと言うのです。

「キャアァァァァァァ!!」

 あ、出たみたいだな。


「――と言うわけで。俺達は今、エリザベートの甲冑を回収しに洋館に来ています」

 ちなみにメンバーは俺、エリザベート、玖里子先輩に夕菜。
 原作と違って凛が居ないのは『どうせ居ても喋らないから』という作者の都合だ。

「などと言うメタな発言をする俺」

 最近微妙に壊れてきたよネ。

「……誰に言ってるの?」

「気にしないでください。物語の都合と言うヤツですヨ」

 またなの名を行数削減と言う。

「……にしても、何で甲冑?」

 エリザベートが向かいの部屋に現れたという事は、設定は小説版の筈。なのに何でアニメ版オリジナルの甲冑回収イベントが起こってるんだ?

「…………まあいいか」

 この手の理不尽は今に始まった事じゃないし。

 で、洋館に到着。
 有刺鉄線が張り巡らされた上に、べたべたと結界護符が張りまくられた洋館は、入れないと言うよりもむしろ入りたくない
 いやー、厄介事に自分から首を突っ込むのはバカのやる事ですヨ?

 俺の場合、デフォルトで厄介事多いしねッ!

 まあ、それはともかく屋敷の結界である。

「ふーん、かなりの強度を持った結界ですね」

「ほう、判るのか式森」

「まあね。霊視の類は割と得意だから」

 正確には単純なスペックなら高い、と言うべきか。

「ふむ。我が家臣に相応しい能力じゃな……」

 ――なんか不穏な事呟いてませんかこの人?

「駄目です。わたしじゃ破れそうにありません」

 結界破壊を試みていた夕菜が悔しそうに言う。

「でしょうねえ。地脈を利用した儀式級結界だし、普通なら単独の魔術師で破れるようなもんじゃないわよ」

 駄目じゃん、それ。
 と言うか、そういう事は先に言おうよ。

「でも、和樹なら破れるわよね」

「ああ、はいはい。そういう事ネ

 まあ、必要無い筈のイベント起こしてるわけだし、何かしら意味があるとは思ったけどさ。
 こんな結界があるのに何も言わずに連れてきた辺り、あからさま過ぎてむしろ笑えますよ?
 いやー、だってねえ。琥珀さんに比べたら……。

 俺の脳裏に浮かぶのは、緑色の液体入りの注射器を持った割烹着のメイドさんの姿。

「酷いですねー、和樹さん。そんな事言う人はお注射ですよー」

 あはー、と嗤う脳内琥珀さん。
 ……やばい、リアル過ぎて笑えん。

「んじゃ結界破るんで下がっててくださいよーっと」

 悪寒を振り払いつつ、若干投げやりになりながらも結界の前に移動する。

 ――――タン。

 足先が地面を踏み鳴らした。

 タタンタンタンタンタタン。

 掌を胸の前で組み、地面を踏み鳴らす音がリズムを刻む。

 タタンタタタンタタンタタタンタン。

 脆弱な精神をトランス状態へ引き上げる為の特殊な韻。
 テンションが高い時には必要の無い行為だが、これがあるのと無いのとでは難度が軽く桁一つは違う。

「――届け我が呼び声」

 呪文を唱える。
 それは自身に訴えるもの。
 己の裡より魔術を引き出すもの。
 同時に『向こう』への申請でもある。

「空の彼方、時の彼方、万華鏡の果ての果て。
 切り開くは銀の道、虹の海、合わせ鏡の遙か奥。
 歪んだ旅路を超え、我が手に来たれ印持つ者」

 身も蓋も無い程ストレートな内容の呪文。
 いや、だって自己暗示なら判りやすい方がいいじゃん?

「我が呼ぶ汝の名は『至高の斬手』」

 組んだ掌の間のゲートから引き抜かれるのは四尺の長さを持つ長刀、『狩人の鎌』。
 光を受けてギラリと輝く白刃の威容に、背後の二人が息を呑む。

「この間も使ってたけど……それ、魔法じゃないわよね」

「そうですよ。もう判ってるんでしょう?」

「……そうね。『魔術師』を生で見たのは初めてよ」

「ま、俺は落ち零れ……いや、欠陥品かな、だから、これしか出来ないんですけど」

「とてもそうは見えないけど……」

「実際に俺が魔術でやっているのは物質転送だけです。それさえも使用魔術を限定し、機能を限定し、精神を補強し、数小節における呪文を唱えてやっと可能にしている。正しく欠陥品というヤツですよ」

 俺の欠陥、それは『精神が神秘を拒絶する』という事。
 ハイスペックな肉体と魂(ハードウェアと電源)を持っていながら、それを操る精神(ソフトウェア)が大昔の型落ち品。例えるなら最新のスパコンにWindows3.1を入れていると言った所だろうか。年寄りは頭が固いと言い換える事も出来る。

「だからこそ、こういう物に頼る必要がある」

 呟き、刃を振り下ろす。
 パリン、と硝子の割れるような音を立て、結界はあっさりと霧散した。

「なるほど、かなりの力を持つ魔剣じゃな」
「凄いです、和樹さん!」
「あれだけの結界を……」

「まあ、そういうものですから」

 三人の言葉に、そう答える。
 玖里子先輩だけは納得行かない様子だが、俺はこれ以上の説明をする気は無い。
 いちいち手の内さらす義務はないのだ。

 なお、以降の描写は省略する。
 結論だけ言うと、屋敷に入って程なく、無事に甲冑は見つかった。
 めでたしめでたし、――――とは行くはずも無く。


「キャアァァァァァァ!!」

「……また?」
「夕菜!?」
「どうしたのじゃ!」

 突然悲鳴を上げた夕菜に慌てて駆け寄る俺達。
 何だか二人と俺の間に果てしない温度差があるようだが気にしてはいけない。

「血、血文字が……」

 震えながら一方の壁を指さす夕菜。

「血文字……?」

 んなもん、原作には無かった筈だが。
 見れば、夕菜が指さす先には確かに大きく赤い文字が書かれていた。

 『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、用心しろ。』

 作品が違う。

 まさかこの世界はホグワーツとも繋がってマスとか言わんだろうな。
 もの凄く高い確率でヴォルデモート復活の生け贄とかにされそうなんだが。

「妾がおった時はこんなもの無かったぞ」

「ふーん、誰のイタズラかしら」

 そんな俺の内心に関わらず、淡々と状況を検分しやがる皆様方。

 ちくしょう、この理不尽さを共有出来る仲間は居ないのか!?

 ついでに言うとこの後は特に何事も無かった。
 誰かこのイベントの意味を教えてください。


「――さて。そろそろいいでしょう、玖里子先輩」

 洋館から帰る途中、玖里子先輩を引き留める。
 ちなみに夕菜はエリザベートを連れて空き部屋に荷物を運び込みに行った。
 面倒が無くて実に結構。
 だってほら、俺が玖里子先輩と二人きりになりたいとか言ったら確実に燃やされるし。

「借し一つですよ」

「何言ってるの、和樹?」

「朝霜寮、移動させたいんでしょう?」

 怪訝そうな顔を一変させ、押し黙る玖里子先輩。
 甲冑を取りに行かせたのも多分、俺が本当に魔術師か確認したかったとか、そんな所だろう。

「……何で知ってるのよ」

「まあ、俺にも情報源って奴があるんですよ」

 身も蓋も無く言うと原作読んだからと言う事になるが。

「ま、そういうわけなんで」

 再びゲートを開き、別の『切り札』を呼び出す。

「それは……?」

 何か言いたげな玖里子先輩を手で制し、手の中の相棒に話しかけた。

「さて、寮が合体しないように上手く座標設定してくれよ」

 理想は互いの廊下の端で繋がるように隣接した状態。
 自由に行き来出来ないとキシャーが降臨しそうだからな。 

 杖を振る。寮の頭上に展開される巨大な魔法陣。

「次元転送、発動」

 次の瞬間、女子寮はあっけない程に至極あっさりと跳んだ。


 で、帰ってきた俺を待っていたのは柱と壁に埋まった俺の部屋

「――何故にッ!?」

「あらら、座標設定は完璧だったみたいだけど、建物の形状を計算に入れてなかったみたいね」

 簡単に言うと、ちょうど朝霜寮の突き出た部分が俺の部屋にジャストミート
 これが落ちゲーだったら寮が消えてるくらいに、ピッタリと俺の部屋だけが被害にあっていた。

「俺の……部屋は……」

「流石に柱とか通ってるから壊すわけにも行かないわねえ。ま、いいじゃないの、あっちに住めば。夕菜もこの状態なら朝霜寮の方に住むでしょうし」

 そう言って玖里子先輩が指さす先には例の空き部屋

「よろしく頼むぞ、式森!」

 でもってそこにはめっさイイ笑顔のエリザベートが居るわけで。


 翌日、目を覚ました俺は何故かロープで縛られていた

「解いて欲しくば妾の家臣になるのじゃ!」

 ――――マジ勘弁して。


<<補足という蛇足>>
・アポート
 物質転送。任意の物体を手元に空間転移させる、和樹の唯一の魔術。
 ただし和樹はスペックが足りていない為、使用可能魔術を完全に限定する事で使用可能としている。
 また和樹の場合、自分の『蔵』との間でしか物体のやり取りが出来ず、やり取りする物体自体にも己の魔力でマーキングをする必要がある。
 召還中は常に魔力を消費し、魔力消費を切る事で自動的に『蔵』に送還される。
 呪文詠唱を省略した略式召還も可能だが、略式召還には魔力消費の増加、召還時間の制限などのデメリットが存在する。

・『蔵』
 宝石翁が生み出した特殊な空間。内部はメビウスの輪のように歪んだ空間で構成されており、広さは有限であるが、果てはない。
 独立空間として存在し、マスター登録された者以外は干渉できない。これは宝石翁自身にも適用され、破壊する事は出来ても内部に干渉する事は不可能。
 和樹の魔力を用いた『召還』『送還』によってのみ内部との物体のやり取りを可能とする。
 『蔵』の作成には冬木のセカンドオーナーも関わっており、『うっかり』でアイテムを収納する前に空間を閉じてしまった為、和樹の魔法を使用して収納した。
 これによって和樹は魔法回数を一つ減らしたわけだが、一度に収納出来る存在規模に限界があった為、内部に収納されているアイテムは僅かに三つだけとなっている。


<<あとがきという言い訳>>
 第五夜をお贈りしつつ、予告通りに(若干遅れましたが)旧第四夜を削除しました。
 ではレス返しです。


>3×3EVILさん
 いや、あくまで『おまけ』ですよ、狂い愛バージョンは?(汗
 と言うかそれは本当にラヴラヴなのかと自問自答(汗
 ちなみに
【補償】:〔心〕〔compensation〕身体面・精神面において人より劣っていると意識されたことを補おうとする心の働き。(goo辞書より引用)
 …………わぁお(汗

>D,さん
 少なくとも素質は絶対あると思いますよ。
 こう猪突猛進な所とか視野狭窄な所とか唯我独尊(と言うか人の話を聞かない)な所なんて、ベクトルが違えば正にそれだと思いますし。
 まあ『狂い愛』夕菜は意図的に歪めてありますが。

>雷樹さん
 『狂い愛』はあくまで創作ですので、違うと思いますよ。
 ……と言うかリアルで居るんだ、マジに(汗
 責めに回ったのは志貴です。流石に和樹がやったら今頃生きてないでしょう。
 遠野家地下王国でガタブル震えながら猫アルクに慰められてそうです。

>文駆さん
 すんなりこういうキャラが出来る辺り、やっぱり合ってるんでしょうねえ。
 うちの主人公はきっと昔からそんな役回り。だって理不尽に曝される側だし。ちなみに過去の使用者は恐らく橙子さん。対青子用絶対防御シールド、ただし貫通されないだけで盾の耐久度はガンガン減ります、みたいな。

>浜さん
 凛のイベントはやる予定なので、可能性はあります。
 その割には今回の話といい割食ってる気もしますが(汗
 凛フラグが立つかどうかは、この先の作者と読者様方の胸中次第と言った所でしょうか。

追記:前回のレス返しでサイサリスさんの敬称が抜けていた事をお詫びします。すいませんでした。

 さて、やっと五話目です。
 今回は和樹の魔術についての説明が入った為か、かなりローテンション。
 説明文的な物を入れるとどうにも文章がシリアス寄りになってしまうのが悩み所です。最初のやたら高いテンションは何処に行ったのでしょう(汗
 そして凄い勢いでスレていく和樹。あの純真だった和樹は何処へ行った。

 前回の『狂い愛』夕菜がえらく好評です。
 というか本編よりおまけのが反響高いってどういう事ですか(汗
 単なる思いつきだったんですが、散発的に『おまけ』として書くのもいいかも? とか思ってしまったりしますよ?
 ちなみに現在の腹案としては

・部屋に閉じこめられ、笑顔ですり寄る夕菜に怯える和樹
・完全に壊れてお人形状態の和樹と、それを愛でる夕菜
・現状を諦め夕菜を受け入れてしまった自虐系和樹
・夕菜を受け入れ『騎士』とか『執事』みたいな事をする『お前も十分狂ってるよ』な和樹。気分はイリヤとバーサーカー?

 辺りでしょうか。他に案があれば出して貰えると嬉しかったり。

 次回はベヒーモス編か凛(お弁当)編……の筈だったんですが、今回が大分ローテンションになった為、バトルが含まれるベヒーモス編は先送りにして凛編をやります。
 以上、あとがきという言い訳 by ドミニオでした。

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