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「これが私の生きる道!地球編4(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-02-12 10:16/2006-02-14 20:24)
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(5月1日プラント定例評議会)

この日の評議会では重要な投票が行われた。
シーゲル議長の退任による、新議長の選挙である。
この選挙は事実上、カナーバ外交委員長と
ザラ国防委員長の一騎討ちでカナーバ議員が有利
であると予想されていた。

 「投票の結果、新議長はカナーバ外交委員長
  に決まりました。おめでとうカナーバ」

議員達から拍手が起こり、カナーバ委員長は議長席
に座る。

 「ありがとうございます。今は大変な時期
  ですが、誠心誠意頑張らせていただきます」

 「やはり勝てなかったな。おめでとう。
  カナーバ」

ザラ委員長がお祝いの言葉を述べる。

 「閣僚メンバーに変更はありませんが、
  私が務めていた外交委員長の後任には
  デュランダル外交官を指名します。
  彼は議員ではありませんが、今までの
  功績を評価しての指名です」

 「彼の実績は理解している。異論のある者は
  おるまい」

シーゲル元議長が発言する。

 「ありがとうございます。では会議に入ります。
  第一に戦況の確認に入ります。ザラ委員長、
  お願いします」

 「まず、宇宙の方だが、状況は安定している。
  月のプトレマイオス基地では艦船の量産と
  乗組員の訓練が進んでいるが、今は戦力の
  増強が第一のようで積極的な戦闘は起こって
  いない。通商破壊も順調で、我が軍の損害も
  予想よりも低いものとなっている。
  唯一の懸念は、輸送量の増大で輸送の成功率
  自体が上がっているという事だ。
  地球では第二次作戦までは順調に終了した。
  ジブラルタルとその周辺、アフリカ大陸、
  マダガスカル島、イスラム連合、太洋州連合、
  赤道連合、シンガポール、オーブ、
  カオシュン、日本、自由南アメリカ合衆国。
  中立国と同盟国で南方バリアの展開に成功
  している。まあ、南アメリカではゲリラ活動
  で精一杯だが。
  第3次の作戦では、パナマのマスドライバー
  を破壊して連合のあせりを誘い、カオシュン
  侵攻とオーブ侵攻の阻止を目的とする」

 「その後の展開は?」

エルスマン議員が尋ねる。

 「多分、連中は宇宙で全ての決着をつけようと
  するだろう。ついでに、地球でもザフト軍
  戦力の足止めをするだろうが、本命では
  あるまい。その最後の大攻勢を防げば
  講和の目が見えてくる」

 「やつらが戦争をやめなかったら?」

アマルフィー委員長が質問する。

 「それは、経済的に無理です。
  二回目の戦力再建など経済の自殺です。
  スポンサーであるロゴスが許しません。
  連合の中立派や反ブルーコスモス派、
  オーブやスカンジナビア王国も仲介
  に入ってくれますよ。
  まずは停戦してから、先の国で新しい
  国連のような組織を作り、地球連合と
  統合させてなし崩し的にプラントを
  独立国家として認めさせます」

カナーバ新議長が答える。

 「その予備交渉はすでに済んでいると?」

 「はい、しかしこれからザフト軍には負けは
  許されません。一度惨敗すれば今までの
  努力は全てパーです」

 「厳しいですな」

 「マッケンジー委員長、大丈夫ですよ。
  予想勝率は6割を超えていますから。
  ザラ委員長が育て上げたザフトを信じて
  あげてください」

 「1つ質問なのだが?」 

 「なんですか?マッケンジー委員長」

 「最終決戦までやって、ザフトと連合の損害予測
  はどのくらいなのだ?」

 「連合は半分は殲滅させる予定です。
  我々の損害は30%を想定しています」

 「厳しいな。普通の軍隊なら30%も損害を
  出したら全滅扱いなのだがな」

 「相手は多数ですから。70%残らないと後の
  交渉が難しいのですよ」

カナーバ新議長は冷たい方程式を口にする。

 「わかった。次は一ヶ月後のオペレーション
  スピットブレイクの詳細ついてだが」

 「はい、これも詳細はザラ委員長が説明します」

 「オペレーションスピットブレイクの目標は
  パナマだが、事前にアラスカのジョシュア
  を狙う作戦だという偽情報を流してある。
  無論、彼らとて簡単には引っかかるまいが
  多少の戦力はアラスカに送らないといけない
  だろうから、戦力の分散化には成功する
  だろう。それと、当日のスケジュールだが、
  始めに、カーペンタリアを出た潜水艦隊が
  通り魔的に大量の弾道ミサイルを発射して
  退却する。
  ミサイルの照準は現地に潜入している工作員
  と南米のゲリラ勢力にビーコンを設置して
  貰うので大丈夫だ。
  その後、すぐにクルーゼ隊長指揮の
  モビルスーツ隊が大西洋側の潜水艦隊から
  発進して目標のみを完全破壊する。
  尚、枝作戦としてカオシュンから特殊攻撃部隊
  が出撃してグアムの連合基地を奇襲。太平洋側
  の敵の目を惹き、潜水艦隊のミサイル発射を
  援護します」

 「ザラ委員長、グアム基地攻撃の部隊は危険では
  ないのかね?」

シーゲル元議長は質問する。

 「ええ、一番危険です。ですが、実行部隊は歴戦
  のカザマ隊です。きっとやりとげますよ」

ザラ委員長が答える。

 「確か、あの部隊にはオーブから受けいれた
  傭兵がいたと思いますが」

エザリア議員が質問する。

 「実は、オーブの傭兵はアフリカや
  カーペンタリア、ジブラルタルにも配置されて
  いるのだ。オーブ国民であるコーディネーター
  の彼らが実戦を経験してオーブに戻る。
  実に効率的なシステムだ。
  例外として、カザマ隊にはナチュラルの傭兵の
  訓練とオーブの新型モビルスーツの性能テスト
  も兼ねてもらっているが」

再び、ザラ委員長が答える。

 「オーブは連合の恨みを買いそうですな」

 「買っているでしょうが、オーブからの物資が
  無いと連合諸国は民需物資が不足してしまい
  ます。政治家が民衆の支持を失ったら終わり
  ですから黙認していますよ。
  最も、ブルーコスモス強行派はそんなオーブ
  が許せないそうですが」

カナーバ新議長の説明が続く。

 「それ故に、オーブ侵攻は阻止できないのか」

 「はい、しかし1度侵攻が防げれば次回
  の可能性はずっと減ります」

 「わかった」

シーゲル元議長がうなずく。

 「では、次に戦力補強の件についてアマルフィー
  委員長から説明があります」

カナーバ新議長が話をふる。

 「説明させていただきます。
  かねてからの懸案であった新型量産
  モビルスーツですが、デュエルとバスターは
  一定数量産を終了して前線部隊に配置済み
  です。
  それと、先週からゲイツの先行量産型が
  ラインを出て前線に配属されているので、
  オペレーションスピットブレイクでは
  その勇士が見られると思います。
  次期量産モビルスーツについてですが、
  連合がOSの不備に目をつむり多数の
  モビルスーツを前線に配備し始めている
  現状を踏まえて、候補の選定に入っています。
  まず、第一にセカンドステージシリーズ
  という計画の候補からザクという機体の
  開発を促進します。
  そして、それが終了するまではゲイツを
  改良して対応します」

 「確か、核動力搭載の機体が数種類ありません
  でしたか?」

カナーバ新議長が質問する。

 「はい、開発はほぼ終了していますが、
  研究用と抑止効果を狙った機体なので前線には
  配置が不可能です。手足の付いた核爆弾に
  乗りたがるパイロットはいないと思いますし、
  万が一爆発したら外交問題に発展してしまい
  ます」

 「そんな機体に予算をかけたのかね?
  先日もゴンドワナとかいうデカブツ宇宙空母
  の件で抗議したはずなのだが」 

マッケンジー委員長の機嫌が悪くなる。 
彼は前の会議で予算効率の悪い巨大空母を建造中
だった宇宙艦船部門に抗議したのだ。
戦時中にそんな手間と予算をかけた空母など
作っても完成する前に戦争が終わる可能性は
高いし、戦後に完成しても平時の軍事費を
圧迫するだけだと。
結局、完成率40%まで進んでいたゴンドワナ
は建造を認められたが、艤装や性能を簡略化
されて建造費を圧縮された。

 「これらの機体は完成したニュートロンジャマー
  キャンセラーを搭載した機体です。
  連合もニュートロンジャマーを回収して
  この装置の完成を急いでいるので、抑止
  の為には必要なものなのです」

アマルフィー委員長は説明する。

 「では、モビルスーツは必要ないだろう。
  極端な話、核弾頭にそれを搭載して
  撃てば終わりだ」

マッケンジー委員長が更に追及する。

 「始めは高出力の動力源を求めて試作していた
  ものなのですが、今ではバッテリーの研究が
  進んで必要性が薄れてしまったのです。
  いくら核動力が半永久的に動いても、
  モビルスーツまで半永久的には動きません
  ので」

 「あまり答えになっていないが」

 「つまり、この研究が現行の機体の強化に
  繋がり、費用効率を上げているのです。
  更に、次期量産モビルスーツの研究台と
  しても役に立ちました」

 「具体的にはどういう効果が出たのだ?」

 「つまり、新しい高出力バッテリーの装備
  とコネクターの増設によってジンやシグー、
  バクー、ディンなどもビームサーベルが
  使えるようになったのです。
  ビームライフルももう少しで使用可能に
  なると思われます」

 「まあ、技術力を上げる為には新規の開発は
  有効だからな。
  しかし、君達の軍事研究所はわが社の
  研究室に比べると、珍奇な研究が多いな」

 「商売ではないので、趣味に走ってしまう
  研究員が多いのですよ。
  まあ、失敗は成功の母なので多少の事は
  目を瞑ってください」 

 「わかった。ところで、核動力機とは
  どんな機体なのだ?」

 「ほとんどがゲイツなど機体に核動力を搭載
  しただけのものです。
  新規のものは1機目はドレッドノートと
  いうGの解析をした後に作った新型を
  ベースにしたものです。
  2機目はフリーダムという中距離戦の機体
  で背中にビーム砲やレールガンを多数
  背負わせています。3機目はジャスティス
  という近距離専門の機体です。
  4機目はプロヴィデンスという機体で
  ドラグーンシステムを搭載した特殊機です」

 「ドラグーンシステム?」

 「連合軍の(エンデュミオンの鷹)が使用
  しているガンバレルシステムと同じものです」

 「せっかくの新型機なのに使えないとは」

エルスマン議員が残念そうに言う。

 「何とかなりませんか?」

エザリア議員がアマルフィー委員長に
懇願する。

 「下手に戦場に出して鹵獲されると、大変な事
  になってしまいます」

 「通常動力に換装してはどうだね」

シーゲル元議長が尋ねる。

 「それなら、Gを使う方が効率がいいです。
  なにしろパワーがあるので稼働時間が
  極端に短いのです。
  オーブで高性能のバッテリーが開発された
  らしいのですが、それがあればあるいは
  ・・・」

 「わかりました。オーブと共同開発を
  しましょう。こちらはモビルスーツの
  データを向こうはバッテリー等の
  周辺技術を提供して貰って新しい機体を
  開発します」

カナーバ新議長が提案する。

 「そんな事をして大丈夫ですか?」

 「大丈夫です。Gの前例がありますし、こちらに
  技術者を招聘して研究をしてもらいます。
  ヘリオポリスでの連合のようなミスは
  犯しません」

 「そうだな。上手い手だ」

ザラ委員長も賛成する。

 「では、デュランダル新外交委員長に連絡
  しておきます」

 「では次の話題は・・・・・・」

その後も会議が進み、夕方閉会になった。
閉会後、シーゲル元議長は席に座ったままの
ザラ委員長に話しかける。

 「どうだ、たまには一緒に飲まんか?
  私の慰労会だ」

 「いいな、よしおごろう」

2人は落ち着いた感じのバーでカウンターに
座る。

 「では、議長職ご苦労だったな」

 「そちらは議長になり損ねたな」

 「「乾杯」」

グラスの酒を飲み干す。

 「実は、予想していたのであまりショックは
  無いのだ」

 「そうなのか?」 

 「ああ、世の中の流れが終戦に向かって進んで
  いる。もし長期戦になるのなら、俺が当選
  していたさ。外交畑のカナーバが議長に就任
  した事実は世界を駆け巡り、地球各国の政治家
  は終戦と戦後の政治状況を意識するように
  なるだろう。シーゲルもそれを見越して
  俺に票を入れなかったのだろう」

 「気付かれてたか。すまんな議長就任のチャンス
  を潰して」 

 「議長職など気が重くてたまらん。
  苦労性シーゲルやカナーバにお似合いだ」

 「だが、戦争はまだ終わっていない。
  お前の手腕がまだ必要だ」

 「大丈夫さ、戦争が終わるまでは国防委員長職
  はまっとうするさ」 

 「戦後はどうするのだ?」

 「議員を辞任して第2の人生を歩む」

 「何をするのだ?」

 「勉強する。レノアはプラントが食料を自給
  できるように、日々ユニウスセブンで頑張って
  いた。俺はレノアの意思を継ぎ、研究者になる。
  歳は取ったが、後30年くらいは現役で動ける
  だろう」

 「そうか・・・。応援させて貰うよ」

 「ありがとう。だが、まずは戦争を終わらせない
  とな」

 「そうだな・・・」

夜は更けていった。


(月プトレマイオス〜パナマ上宙航路)

 「あー、暇だな。今回は俺達はラッキーだったな」

輸送船団旗艦巡洋艦「バークレイ」の艦橋で
ムーア大尉がつぶやく。

 「大尉、昨日の艦隊は大損害を出したそう
  ですよ。俺達も気をつけないと」

索敵担当のミック少尉が苦言を呈する。

 「ミックは心配性だな。昨日が当たりなんだから
  今日はハズレなんだよ」

 「そんな法則あてになりませんよ」

 「大丈夫だって、俺達には頼もしい護衛が付いて
  いるんだから」

 「ストライクダガーの部隊ですか?
  あんなマリオネットども役に立ちませんよ。
  ザフトのモビルスーツの動きを見た事
  ないんですか?」

 「あるよ。だから、あいつらが盾になるから
  俺達は安心なの。最後には降伏すればいいし」

 「司令官殿が聞いたら怒りますよ」

 「大丈夫だよ。あのジジイは耳が遠いんだよ。
  輸送艦隊も人手不足だからってあんなジジイ
  司令官にしやがって」

 「確か、俺達が生まれた頃に退役したんです
  よね」

 「そう、お情けで准将にして貰って退役した
  んだ。でも戦争って怖いよな。あのジジイ
  が現役に復帰しちゃうんだから」

例の司令官は椅子に座ってチェスの本を読んで
いる。
こちらの会話はまったく聞こえていないようだ。

 「本当に俺達勝てるんですかね?」

 「知らないよ、戦死しなければ俺達は勝ち
  なんだよ」

そんな会話をしていると、熱源探査に反応が出る。

 「あれ?反応があるんだけど、何もありませんね」

 「機械の故障か?」

 「そんなはずは無いんですけど」

ムーア大尉は副指令の仕事をまっとうするべく
直衛のモビルスーツ隊と連絡をとる。

 「おい、敵はいるのかいないのかどっち
  なんだ?」

 「こちらも見えませんよ」

パイロットから連絡が入る。

 「故障か?」

そう思った瞬間、ブリッジの前方にいた
ストライクダガー数機に槍のようなものが
突き刺さり場発する。
更に、黒いモビルスーツが現れ腕をブリッジに
向けた。

 「なっ、モビルスーツ!」

 「こちらミゲル隊の隊長ミゲル・アイマンだ。
  降伏を勧告する。断るとブリッジが潰れて、
  真空を遊泳するハメになるが」

 「バカか!一機で何ができる。
  モビルスーツ隊、あいつを倒せ!」

 「無理です。先ほどから敵の反応増大。
  迎撃に向かっています。
  直衛のモビルスーツは全滅です」 

 「早く言えよ!」

 「この騒ぎであなた聞いてなかったでしょ!」

 「俺は上官だぞ!」

 「だったら、何とかしてくださいよ」

 「わかった!」

おもむろに彼は後ろを向き、老司令官に伺いを
立てる。

 「司令、どうしましょうか?」

 「降伏でいいだろう」

 「了解しました」

結局、彼らは降伏した。
モビルスーツ隊は全機撃破され、MA隊も
壊滅したからだ。
おまけに敵艦隊に包囲されてしまい、打つ手
が無くなってしまったのだ。

 「俺達、捕虜ですか。惨めですね」

 「俺達は生き残ったんだ。勝ち組だ。
  それに、戦後は軍人が大量に戦死してるから
  俺達は軍に残れる可能性が高い!」

 「そうですかね?」

 「そう思おう」

約10分後、艦内にザフト軍の陸戦隊が突入して
きて彼らの戦争は終了した。

 「そういえば、あのジジイの言葉初めて
  聞いたよな?」

 「就任時に挨拶してたでしょうが」

 「忘れてた・・・」

 「捕虜は農場で働かされるらしいぞ」

 「農奴ですか?」

 「給料が出るらしい」

 「捕虜でも軍から給料出るから収入アップ
  ですね」

 「お前、気楽だな」

 「仕方ないですよ。それよりも司令官も
  働くんですかね?」

 「どうせ、椅子に座ってチェスの本を読んで
  いるさ」

 「それじゃあ、今と変わりないですよ」

その後、老司令官は労働困難とみなされ特別な
保養施設で終戦まで過ごす事になる。


(ミゲル隊旗艦フユツキ艦橋)

 「ただいま、オキタ艦長」

 「ミゲル、出撃は控えろって言っただろうが!」

 「すまないね。ブリッツの戦法が使えるのは
  最後だと思ったら、我慢できなかった」 

 「あんな都合のいい戦法はもう無理だろうな」

 「でしょ、明日からはブリッツの改修作業に
  入るから、出撃はしないよ」

 「嘘つけ!ゲイツで出撃するくせに」

 「あれは数がまだ少ないからみんなに怒られ
  ちゃうよ」

 「信じてやるよ」

 「ありがとさん」

 「しかし、ゲイツは高性能だな。
  連合の量産機なんて歯が立たないな」

 「でも、少しずつ動きがよくなっている。
  報告書は上げないと」

 「そういえば、カザマも大苦戦したらしいな。
  連合の新型モビルスーツに」

 「死にかけたって連絡がきた」

 「あいつが死ぬのか?死神なのに」

 「だよな。あいつが死ぬところは想像できない」

 「お前もだけどな」

 「ハイネもそうだな」

 「憎まれっ子世にはばかるだ」

 「意味違わなくない?」


(アークエンジェル)


オーブを出てから5日、俺達はカオシュンを目指して
航行を続けている。
カオシュンまでの島々は赤道連合とザフト軍が少数の
守備隊を置いているので一応ザフトの勢力圏である。
連合は現在、この地域の占領は考えていないようだ。
唯一の懸案事項は東アジア共和国参加国の旧フィリピン 
であるが、連日ハイネがカオシュンからディン部隊で
長躯して基地を叩き続けたらしいので、戦力は壊滅
状態らしい。
俺達は何とかすり抜けられそうだ。

 「さて、新兵の特訓だ!」

 「カザマ君、ほどほどにね」

 「それだと戦死してしまうので、ビシビシ
  行きます」   

ブリッジから降りて格納庫に向かう。

 「全員集合!」 

ババ一尉と3人娘が集合する。

 「では、恒例の飛行訓練を行う。実戦形式なので
  気を抜かないように」 

 「「「了解」」」

M−1は6機あるので、オーブ組4人と俺。
あと1人は交替で乗り込んで2対4で模擬戦を
行う。
始めは彼らの技量を心配していたが、実際には
それほど悪くは無かった。3人娘は俺が教えて
いたし、エリート軍人のババ一尉はナチュラル
とは思えない腕前だ。

 「イザーク、速攻で勝負をつけるぞ!」

 「まかせてください」

俺達はM−1を操り、ババ一尉の編隊に
突っ込む。
イザークは3人娘を圧倒的な技量で翻弄する。
はじめは簡単に撃墜されていた彼女達だが、
今では3人で共同して防御を固めている。
時折反撃をしているようだが、イザーク
は簡単にかわしていく。
一方、俺はババ一尉にライフルを撃ちかけ
ながらサーベルを抜いて切りかかる。
ババ一尉も俺に気が付きビームをかわし
ながらサーベルを抜きそれを受け止めた。

 「やりますね、ババ一尉!」

 「俺には余裕が無い!」

2人で戦いを続けるが、優勢な俺は彼を
追い詰めて行く。

 「おーい!マユラ、ジュリ、アサギ!
  隊長を放っておいていいのか?」」

俺は、ババ一尉を更に追い詰めていく。
3人はイザークの攻撃をかわすのに精一杯
になっている。

 「マユラ、どうしよう。ババ一尉がやばい」

 「誰か援護に行けないの?」

 「無理よ!」 

その瞬間、3人に隙ができた。

 「隙あり!」

イザークが演習用のサーベルでアサギの機体を
袈裟切りにする。
判定コンピューターが撃墜を宣言する。

 「あーん、やられちゃった」

2機になってしまったマユラ達はその後次々に
撃墜され、ババ一尉も大分粘ったが俺に倒された。
結局、その日はもう一度演習を行い、先ほどよりは
多少粘ってその日の訓練は終了した。
訓練終了後、モビルスーツを着艦させて機体を
ハンガーにおく。

 「ご苦労さん。昨日より大分良くなっている」

 「本当ですか?」

マユラが聞いてくる。

 「撃墜されるまでの時間が長くなっている」

 「あんまり嬉しくない褒め言葉ですね」

 「イザークやアスランも最初はそんなもの
  だったんだ」 

 「本当ですか?」

 「本当だ」

 「俺もまだまだだな」

ババ一尉が申し訳なさそうに言う。

 「個人技の方は合格なんですけど、マユラ達に
  気を使ってください」

 「面目ない」

実際、ババ一尉ほどの実力ならザフトでも十分
に通用するだろう。 
キラのOSと新型モビルスーツの組み合わせは
ナチュラルの熟練兵が操るとシグーに匹敵する
実力になる。
ザフトに敵対していない今はいいが、もし連合
に組するようになれば・・・。     

 「それにしても、このM−1は高性能ですね」

 「あなたの父上が開発の指揮を執ったの
  だよ」 

 「カザマ部長は私達を食事に招待してくれて、
  その席で私達の要望や意見を聞いてくれて
  たんです」

えっ、そうだったのか。
悪いことをしてしまったな。
先日、母さんに親父を売ってしまった過去
を思い出す。

 「この機体は凄いですね。飛行できるし、
  重要部分にはフェイズシフト装甲が
  使われている。そして、ビームライフルと
  ビームサーベルが標準装備ですしね」

 「まあ、この機体は指揮官用のカスタム機
  ですから。量産用の機体にはフェイズシフト
  装甲は無理ですよ。コストがかかり過ぎます」

 「でしょうね。ザフトでもフェイズシフト装甲
  を装備している機体は少数ですよ」

今、ザフトでフェイズシフト装甲を装備している
機体は量産されたデュエルとバスターが数十機
ずつほどで、後は少数の試作機のみである。

 「では、今日はもう終わりです」

 「俺は、シミュレーションで練習するよ」

ババ一尉はM−1用のシミュレーションルーム
へ向かう。

 「イザークさん、教えて貰いたい事が
  あるんですけど」

マユラはイザークに質問に行く。

 「私達も教えてください」

アサギとマユラもイザークの元に向かう。
意外にも彼女達が乗り込んでから、一番面倒
を見ているのはイザークだった。
堅物の彼が女性と長時間接しているので艦内
でも話題になっている。
多分、彼は純粋に部下の面倒を見ているの
だろうが。
次によく面倒を見ているのはアスランである。
彼女達がカガリの親衛隊に就任する事が
影響している。彼女達の腕が上がれば、
カガリの生存率が上がるからだ。
後の連中もそれなりに面倒を見ているが、
ディアッカはナンパ癖が仇になり微妙に
避けられていた。
彼女達は必死なので、彼の軽さが許せない
ようだ。
俺はラクスの件があり、仕事以外での会話が
少なくなってしまった。

 

翌日、アークエンジェルはフィリピン近海に
到着した。
当初は奇襲等を予想していたのだが、どこから
も攻撃が無い。

 「タリアさん、攻撃がありませんね」

 「カオシュンの部隊に壊滅させられてから
  補給が無いそうですよ」

 「東アジアは相当切羽詰まってますね」

 「今までの消極的な姿勢が影響して、連合から
  の補給が減らされたらしいわ」

 「旦那さんの情報ですか?」

 「ええ、そうよ」

東アジア共和国は今、崩壊の危機を迎えている
らしい。
中心国である中国の中華思想が他の構成国
の反感を買ってしまったのだ。
今までは力で押さえていたのだが、開戦時に
ザフトに惨敗してしまい戦力が落ちたので
舐められてしまったらしい。
朝鮮半島は従順だが、中国国内は異民族の
独立闘争が活発になり、日本は中立国同然
になり、台湾は分離独立してしまった。
ベトナム・ラオス・タイなどは戦意が低く、
マレーシア・シンガポール・インド・スリランカ・
バングラデッシュは大西洋連邦の援助で
戦っている有様だ。
戦後の分離独立は避けられないだろう。

 「しかし、大国中国ですよ。もう少し
  頑張ると思うのですが」

俺は日本人なので、大国中国のイメージが
先行する。

 「だから、上海で大艦隊の整備を進めているわ。
  モビルスーツ隊も用意しているみたいね。
  ストライクダガーのコピーらしいんだけど、
  性能はよくわからないわ」

 「そんな戦力があるならフィリピンを援護
  すればいいのに」

 「フィリピンよりも、日本と台湾の方を
  取り戻すのが優先みたいよ。
  フィリピンは放置されているからまだ
  東アジア共和国所属だけど」

 「それは大変ですね。ハワイに大西洋連邦の
  大艦隊がいるんでしょ。挟み撃ちですね」

 「いいえ、先に自衛隊、台湾海軍、ザフト艦隊
  が太平洋艦隊と激突して我々が惨敗したら、
  先に日本と台湾に侵攻して領土を取り戻す
  つもりらしいわ。
  逆に我々が勝ってしまったら、大人しく次の
  機会を待つらしいのよ」

 「それって・・・」

 「火事場泥棒に近いですね」

 「近いのでは無くて、そのものよ」

あきれてものが言えない・・・。

 「ギルバートもあきれていたわ」

 「でも、タリア艦長が旦那さんから情勢を
  聞いてもらっていてラッキーでした」

 「本当、ギルバート外交委員長夫人様々ですよ」

 「やめてよ、恥ずかしいでしょ」

そんな話をしていると。

 「カザマ隊長、敵らしき反応その数約30です」

索敵担当バート・ハイムの報告が入った。

 「よし、全モビルスーツ出撃!俺も出撃する。
  俺はオーブ組の面倒を見るから後は
  ラスティーが指揮を執れ」

 「了解!」

格納庫に降りた俺はM−1を機動させる。
この機体はグゥルが無くても飛べるので
非常に便利だ。
一機残ったM−1に今日はシホが乗り込んだ。

 「今日は私がお供します」

 「久しぶりに頼むぞ。シホ!」 

俺達は敵に向かって勇んで出撃していく。
特に、オーブ組は初めての実戦だ。
初陣の新兵は信じられないミスをする事が
あるので、俺がフォローする。

 「敵は戦闘機が30機くらいだ。慎重に
  落とせよ」

 「「「了解!」」」 

オーブ組の4人はビームライフルを撃つ。
が、戦闘機隊の錬度はたいした事が無く
面白いほど簡単に落ちていく。

 「へっ、何でこんなに弱いんだ?」

 「タリア艦長が言ってましたよ。
  上海の大艦隊優先だって」

 「これじゃあ、こいつらは・・・」

 「捨て駒ですね」

いくら人口が多いからといってもこれでは
可哀想だ。

 「可哀想だけど、情けは禁物だ。
  こんな連中に10分以上かけるな!」

結局、戦闘機はすべてオーブ組に落とされる。

 「カザマ隊長、第二派がきます。
  これは、モビルスーツの反応です。
  数は約10機」

再び、報告が入る。
数分後、目視できるようになったモビルスーツは
ストライクダガーであった。
数は正確には9機で3個小隊といったところだ。

 「初のモビルスーツ戦だ油断するな。
  ラスティー、オーブ組の援護に入れ。
  お前達は一機も落とすな」

 「「「了解!」」」 

 「では、戦闘開始!」

気合いをいれたのだが、これも拍子抜けだった。
9機の内、3機が戦闘前に火を噴いて
落ちたのだ。

 「あれ?どうして?」

シホが不思議そうに質問してきた。

 「あのな、大西洋連邦でも完全な飛行パック
  は実用化されていない。オーブでも少数の
  カスタム機だけだ。プラントに至っては、
  ディン以外の機体の飛行は不可能ときている。
  そんな状況で、東アジア共和国の
  モビルスーツが簡単に飛べるわけない
  だろう。しかもあのダガーデットコピー
  らしいから、耐久度も低いのだろう。それに
  高出力の飛行パック・・・無茶すぎだ」

結局、ダガー部隊は5分で壊滅した。
戦果はオーブ組だけで俺達は撃墜しなかった。
したくも無かったが。 

 「ラスティー、残骸を回収しておけ。
  ババ一尉、マユラ、アサギ、ジュリ
  引き上げるぞ」

 「了解!」

戦闘後、食堂でみんなでお茶を飲んでいると、
ラスティーとニコルが帰ってきた。

 「残骸の回収終わりました」

 「ご苦労さん、一杯どうぞ」

俺はお茶を淹れてやる。

 「で、どうだった?」

 「エイブス班長が自殺機だと言ってました」

 「だろうな。戦闘前に33%の戦力が自滅
  するんだ。あんな機体に乗せられる
  パイロットが気の毒だ」

 「それと、残骸を見て気が付いたのですが、
  あのモビルスーツ二人乗りです。
  シートが二つありました」

ニコルが続けて報告する。

 「どうしてだ?」 

 「あっ、わかりました」

マユラが気付いたらしい。

 「教えてくれ」

イザークが答えを聞く。

 「あの機体はOSの精度が低いんですよ。
  だから操作が複雑です。
  それを解決する為に、2人乗りにすれば
  操作を分担できます」

 「なるほど。でももったいない話だな。
  パイロットの養成が追いつかないだろう」

ババ一尉が感想を述べる。 

 「人口が多い中国だからできる芸当ですね。
  多少、戦死しても補充が出来ますし。
  中国の人民の海は健在ですね」

 「あの広さで2人乗りかよ。俺はごめんだ」

ディアッカは心底いやそうな顔をする。

 「でも、どうしてあそこに敵がいたんですかね?
  確か、ここら辺の戦力は壊滅状態だって話じゃ
  ないですか」

ニコルが疑問を呈する。 

 「密かに輸送して、俺達にぶつけて実力を
  試したのかも」

ラスティーが推論を述べる。

 「真相は不明だが、アークエンジェルの速度を
  上げさせた。明日の昼にはカオシュンに
  到着するぞ」

 「あの、どうして今までは速度が遅かったん
  ですか?」

アサギが聞いてくる。

 「君達の訓練の為だ。オーブ近辺は敵が少ない
  からな。丁度よかったんだ。
  だが、カオシュンでは毎日が実戦だぞ」

 「本当ですか?」

ジュリが不安そうに聞いてくる。

 「毎日、10機前後の航空機が領空を
  侵犯してスクランブルがかかるそうだ。
  訓練には丁度いい場所だ」 

 「よかったー」

 「あのな下手に台湾を攻撃してしまうと、
  取り返した時は廃墟でした。なんて状態に
  なるかもしれないから攻撃はほとんど
  ないんだよ。偵察は毎日だけど」

俺が説明を加える。

 「じゃあ、気楽なものですね。カオシュンでは」

 「甘いぞ、アスラン。俺は何かいやな予感が
  する。そう、厄介な任務が下される予感が」

俺の予感は程なく的中する事になる。


(ハワイパールハーバー基地司令室)

 「ハルバートン少将、まさかここに着任とは
  思いませんでしたね」

 「再び日が当たってきたのはいいが、
  また私には門外漢だ。私は宇宙艦船の
  専門家なんだ」

 「まあ、いいではありませんか。ここで功績を
  あげれば再び宇宙に出られますよ」

2人は主のいない司令官室のソファーに座って、
会話をしていた。
南米でのゲリラ掃討に一定の成果を上げた2人は
来たるカオシュン・ヨコスカ攻略作戦で
モビルスーツ部隊の指揮を執るべく、ここに
艦隊司令として呼ばれていたのだ。

 「おお、ハルバートン少将、コープマン准将
  よく来てくれたな」

ドアが開き、長身でスラっとした初老の軍人が
入室してくる。

 「左遷されていた我々をお呼びいただき、
  ありがとうございます」

 「あれは、誰がやっても結果は一緒だったさ」

 「そう言っていただけるとありがたいです」

 「まあ、世間話はこれくらいにして本題だ。
  来月初旬、再建が終了した太平洋艦隊で
  ヨコスカを攻略、次いでカオシュンを
  陥落させて台湾全土を占領する。
  君達は新設された第7機動艦隊を指揮して
  くれ。この艦隊は空母4隻からなる機動艦隊
  でモビルスーツ108機を運用可能だ」

 「大戦力ですね」

 「ああ、だが我々にはモビルスーツの知識が不足
  している。そこで君達が指名されたのだ」

 「我々もそれほど詳しくはありませんが、
  精一杯やらせていただきます」

 「期待している」

 「あの、1つ質問してよろしいですか?
  スプルーアンス大将閣下」

 「何かね?」

 「日本を占領するのですか?
  あそこは東アジア共和国領ですが」

 「完全に東アジアと袂を分かってしまったのだ。
  始めはカオシュンのみの攻略だったのだが、
  それに連動してプラントの同盟国として参戦
  するとの情報が入ったので、どうせ潰すなら
  先に日本の方をという話になったのだ」

 「日本を占領するんですか?」

 「ヨコスカだけ占領して、政府が交渉する。
  多分、大西洋連邦に加盟させる事になる
  だろう。政治家共はその線で動いている」

 「東アジア共和国が黙っていませんよ」

 「上海で艦隊を整備しているようだな。
  モビルスーツも勝手にコピーして配備
  しているらしい。火事場泥棒を狙って
  いるらしいからヨコスカまでは時間が
  勝負のカギになるな。無論、カオシュン
  も同様だが」

 「わかりました。それで、敵の戦力は?」

 「自衛隊と台湾海軍。それとザフトがどれだけ
  の援軍を出すかで大きく変わる。
  参謀本部では我々の60%くらいの規模に  
  なるだろうと予想している。

 「厳しいですね」

ハルバートン少将はザフトの強さをよく知って
いるので表情がさえない。

 「大丈夫、3ヶ国軍合同だ。指揮で揉める
  だろう。モビルスーツもザフト以外は
  少数だろうし」

 「日本と台湾がモビルスーツを配備しているの
  ですか?」

 「ああ、これが資料だ」

スプルーアンス大将はファイルと手渡す。
ハルバートン少将が資料を見るとモビルスーツ
のスペックが記載されている。 

 「日本国統合一号機動歩兵(レップウ)
  開発は、トヨタ、ミツビシ、ヒタチ、フジ
  イシカワジマハリマその他有名な大企業の
  ほとんどが参加。
  主要部分はフェイズシフト装甲を装備。
  シールドはユーラシアのアルテミス要塞
  で使用されていた、光波シールドを利用
  したものを装備。ビームライフル・
  ビームサーベル標準装備。フライトパック
  標準装備で飛行可能。推論として、
  オーブから技術が多数供与されている
  可能性が高い」

頭が痛くなってきた。
もの凄い高性能機だ。

 「スプルーアンス大将、戦況を一変しかねない
  高性能機なのですか・・・」

 「ああ、だが数が揃わない。推定でも20機
  が精々だ。それなら対応可能だ」

 「それなら、多少安心です。それでOSは
  どうなっているのですか?」

 「ウチよりは少し上。オーブより下という状況
  らしい」

 「微妙ですね」

 「ああ」

 「大体状況はわかりました。早速仕事に
  入ります」

2人は司令官室を退出して自分達の艦隊司令部へ
向かう。
部屋に入ると以外な客人が待っていた。

 「ラミアス少佐、バジルール中尉、フラガ少佐、
  モーガン大尉・・・」 

 「プリンス中佐、生きていたのかね・・・」

コープマン准将のつぶやきが部屋に響いた。


(アークエンジェル)


5月7日、俺達は台湾沿岸に到着した。
カオシュン基地の管制官の許可を取り、これから
着陸するのだ。

 「カザマ隊長、出迎えのモビルスーツ隊が 
  アークエンジェルの周りを飛んでいます」

バートから報告が入る。

 「ハイネが張り切っているな。
  あいつと直接会うのは何ヶ月ぶりだろう」

 「ヨシヒロさんの同期の方は凄いですね」

 「あいつは天才だ。俺は絶対奴には勝てない」

アカデミーでは俺の方が成績優秀だったが、
それは総合成績であって、モビルスーツの操縦では
2人の方が上だった。
俺はそれを自覚しているので、個人技よりも集団戦
を重視して生き残ってきたのだ。
最近は任務の性格上、集団戦がとりにくいが。 

 「ハイネの愛機はディンのカスタム機か。
  いじり過ぎて別物だなあれは」

 「パーソナルカラーはオレンジなんですね。
  でも、ミゲルさんとかぶっていませんか?」

 「そうね、どうしてかしら?」

タリアさんも不思議そうだ。

 「俺もよく知らないんですよ」

 「あっ、他の機体も一部がオレンジ色だね。
  ハイネ隊って事なのかな?」

よく見ると、他のディンの機体の一部がオレンジ色
で塗られている。
彼は部下に慕われているようだ。
俺の部下にも機体の一部を黒に・・・。

 「私はパーソナルカラーは嫌いです」

シホにいきなり断られる。

 「アークエンジェル着陸準備」

アークエンジェルはカオシュン基地の艦船ドックに
入港する。

 「さて、基地司令に挨拶しましょうか」

 「今日は誰を連れて行きますか?」

アーサーさんに聞かれる。

 「タリアさんが行かないとまずいからアーサーさん
  は留守番をお願いします」

 「緊張しないで済むから大歓迎だね」

 「後は、イザークとアスランとシホですかね」

 「イザークですか?」

 「オーブ組の様子を一番よく知っているからです」

 「聞かれると私ではね」

 「私も自信ないです」

タリアさんとシホが相次いで答える。

 「では、出発!」

俺、タリアさん、シホ、アスラン、イザークの5人は
車に乗って基地司令室に向かった。
そして、ドアをノックして入室する。

 「カザマ隊隊長ヨシヒロ・カザマ到着しました」

 「おお、ご苦労さん。早速だが、本国からの指示
  を伝える。6月1日に発動する
  オペレーションスピットブレイクのかく乱任務
  として、グアム奇襲作戦を実施せよ。以上だ」

 「奇襲でグアムをですか?
  多分、生きて帰れませんよ私達」

 「大丈夫だ。秘策がある」

 「秘策ですか?」

 「アークエンジェルにミラージュコロイドを
  装備させる。モビルスーツと違い、エネルギー
  が尽きないので長時間の展開が可能だ。
  姿を消してグアムに接近して奇襲。後は全力
  で待避してくれ」

本当に大丈夫か?
多少の疑問を感じる。

 「まあ、命令ですので拒否はしません。
  全力で頑張ります」

 「頑張ってくれ。それと、作戦実施までは
  モビルスーツ隊を艦から降ろして訓練を
  してくれてかまわないから」

 「了解です。基地防衛の一翼を担わせて
  いただきます」 

俺達はさっさと部屋を出てモビルスーツ部隊の
責任者に挨拶に向かう。
責任者といっても・・・・・・。

 「よう!カザマ生きてたな!」

 「当たり前だ。勝手に殺すな!」

 「今日は早速、歓迎会だぜ!」

 「いいね、飲みに行くか?」

 「その前に中華料理を食いに行こうぜ!」

 「そうだな、中華は外せないな」

 「あの、盛り上がっているところ悪いんだけど、
  ちゃんと仕事をしてね」

タリアさんに釘を刺された。

 「俺はハイネ隊隊長ハイネ・ヴェシテンフルス
  だ。ハイネと呼んでくれ」

 「あの有名なオレンジハイネですか」

 「ちょっと待て!ええと君は・・・」

 「シホ・ハーネンフースです」

 「シホ、その渾名は止めてくれ」

 「どうしてですか?敵味方それで通じますよ」

 「俺は認めてないの。まったく誰が広げたんだよ。
  普通は(黄昏の〜)とか(夕日の〜)とかが
  一般的だろうが」

 「夕日はかっこ悪いです」

まさか俺が広げたとも言えないので誤魔化す事
にする。

 「まあ、その内いい渾名がつくよ。
  それより、仕事しようぜ」

 「そうだな、仕事するか。お前達には宿舎と
  モビルスーツ用のハンガーを用意してるから、
  自分の機体を置いてくれ。聞いてると思うが、
  2日に1回ほどスクランブルがかかるから
  交替で発進して追い払ってくれ。
  空いた時間は訓練してくれてかまわない」 

 「毎日じゃないの?スクランブル」

 「息切れしたみたいよ。接近しすぎた機体を
  相当落としたから」

 「了解だ。これがパイロットの名簿だ」

俺は書類を渡す。

 「何?女の子が4人もいるの?羨ましい。
  俺の副官なんてむさ苦しいよ。シホと
  代えて欲しいぜ」

ハイネの部隊は全員男らしい。
と言うか、基地全体が男ばかりだ。
女性兵は看護科と事務・通信・秘書業務の
一部の人達だけだ。

 「男くさいな。ここ」

 「大きなお世話だ。それより早く呼んで紹介
  しろ。俺の部下が喜ぶから」

 「忠告しておくが、彼女達は必死に技量を
  磨いているからナンパ的な言動を取ると
  嫌われるぞ。真面目に指導してくれる紳士
  がお気に入りなんだ」

だからイザークとアスランは慕われていて
ディアッカは避けられている。

 「伝えておこう。嫌われたらあいつら自殺
  しかねない」

 「外に行けば、女なんていっぱいいるだろう」

 「ここの司令が堅物で外出許可が出にくいん
  だよ」   

 「ここに缶詰なの?」

 「外で問題をおこすと外交問題になりかねない
  から、ピリピリしてるんだよ」

 「逆に危険だ。暴発しかねない」

 「何回も言ってるんだけど聞いてくれないん
  だよ」

あきれてものが言えなかった。

 「俺達の歓迎会の場所は基地内なの?」

 「それは大丈夫。特別に許可を貰ったから。
  中華食うぞー」

ハイネが異常にハイテンションだった。

 「仕事して欲しいわ」

 「本当ですね」

タリアさんとシホがつぶやいていた。

その後、タリアさんはアークエンジェルの
改修作業を監督する為に戻り、俺達パイロットは
モビルスーツを機動させて仮のねぐらに機体を
置いた。
そして、ハイネ隊のメンバーとお互いに自己紹介
をしたところで夜になったので、夜の街に繰り出す
事にした。

 「さあ、中華食うぞー!」

 「「「おー!」」」

俺達は予約していたお店に入り、料理を注文する。
尚、男性が圧倒的に多いので女性は1人づつ
各テーブルに散っている。
少々可哀想な気がしたが、女性を一纏めにすると
暴動が発生しそうなので仕方が無かった。

 「おお、この店テーブルが回るよ。高級店だ!」

 「カザマさん、恥ずかしいから小さい声で
  お願いします」

隣に座っているジュリが小声で忠告するが、俺
以外の連中も大騒ぎなので意味が無かった。

 「お姉さん!紹興酒ビンでお願い」

 「かしこまりました」

ハイネは酒を注文する。

 「では、ここまで生き残れた幸運に乾杯!」

 「「「乾杯!」」」

みんなで乾杯してから料理を食べ始めた。

 「本場は中国本土なんだけど、台湾の中華も
  旨いや」

 「そういえば、アカデミーの近くのラーメン屋
  まだやってるかな?
  あそこのマーボー豆腐が美味しいんだよ」

 「ああ、あの店ね。今年の一月の時点では営業
  してたぜ」

 「帰ったら行かないとな」

 「そうだな」

俺とハイネはくだらない会話に華を咲かせる。

 「ジュリさん、料理をお取りしましょうか?」

 「えーと、チンジャオロースをお願いします」

 「何か飲み物を追加で取りましょうか?」

 「まだ大丈夫です」

女性達は多数の男達に、お姫様のような扱いを
受けていた。

 「可哀想だな。あいつら久しぶりの外出なんだろ」

 「そうなんだよ。せめて週一くらいで外出させて
  やりたい」

 「何とかするか」

 「どうやって?」

 「アカデミー時代と同じ手だ」

 「弱みを握って脅迫か?」 

 「ああ、そうだ。何か無いか?」

 「噂なんだけど、愛人がいるらしいんだよ」

 「堅物そうだったぞ」

 「だから、あくまでも噂だ」

 「だが、火の無いところに・・・」

 「煙は立たない」

 「「証拠を掴むぞ!」」

 


翌日、俺達の部隊は訓練をしながら時間を過ごす。

 「M−1に乗せてくれ」

ハイネが頼みに来たので乗せてあげる。
ついでに俺はハイネのディンに乗せてもらう。

 「なんてじゃじゃ馬なんだ!」

 「ちゃんと乗りこなしてたじゃん。さすがだな」

 「お前のM−1の操縦も様になってたぞ」

ある程度動かした後、2人でお茶を飲みながら
話をする。

 「あのディンは何だ?凄い加速で死ぬかと
  思った」 

 「お前がそんな事で死ぬか。あれはゲイツの
  高性能バッテリーを積んでスラスターを大幅に
  強化しているから、重力下ではゲイツより高速
  で動けるんだ。武器もビームマシンガン
  とビームサーベルが使用可能だ」

 「ビームマシンガン?」

 「ああ、武器の試作品だ。ビームライフルより
  効率的に長時間使える」  

 「そうか、それは既にディンではないよな。
  それで、M−1はどうだった?」

 「高性能機だな。ナチュラルでもそこそこ
  使えるんだろ?」

 「ああ、ババ一尉なんてかなりの凄腕だ。
  あれがオーブで量産されているんだ」

 「オーブが敵にならない事を祈るのみだな」

 「ああ、それで話は変わるが例の件は
  どうなった?」

 「司令は今日、経済界の連中と会食があるので
  基地を出る。ラクス様のコンサート絡みで
  打ち合わせも兼ねているようだ。
  会食自体は10時前には終了するが、その後
  の行動は不明だ」

 「ラクスのコンサートがあるのか?」

 「何呼び捨てにしてるんだよ!」

 「本人にそう呼べって言われたから」

 「ちきしょう!どうしてだ!」

 「彼女の婚約者が部下だから親しいんだよ」

 「アスランか、俺の部下に出来ないものか
  ・・・」

ハイネが思考の海に沈んでしまう。

 「おい!それでどうするんだよ!」

 「勿論尾行する。足は用意した」

 「では、今夜決行だ!」


夜10時、高級ホテルの入り口からザフトの
軍服を着た中年の男が出てくる。
彼は迎えは呼んでいないようでタクシーに
乗って郊外に向けて移動し始めた。

 「あやしいな。タクシーなんて使って」

 「本当だ。ババ一尉はどう思います?」

 「俺が何故運転手なんだ?しかもこんな尾行
  まがいの事を・・・」

 「ババ一尉は運転手顔だもの」

 「そうそう」

 「理由になっていない・・・」

ババ一尉は悲しい顔をしながら車を走らせる。
どんな状況でも確実に任務をこなすところが
プロの軍人らしかった。
暫らく街中を走ったタクシーは郊外の怪しげな
場所に到着した。

 「ここは何処?」

 「ああ、売春街だな」

 「あれ?司令の奴タクシーの中で
  着替えたらしいな」

 「こんなところを軍服でうろつけないだろ」

予め私服に着替えていた俺達も車を降りて
追跡に入る。

 「カザマ、ハイネ、基地は大丈夫なのか?」

 「副官に一任している」

 「ラスティーに任せてある」

 「お前達よりマシかもな・・・」

ババ一尉のつぶやきは誰にも聞こえなかった。
その後、司令は奥に向かって歩いていった。
俺達も尾行を開始する。

 「おお、綺麗な姉ちゃん」

 「ここで決めないのかな?」

 「奥は年増しかおらん」

 「なんでババ一尉が知ってるの?」

 「昔、知り合いに聞いた」

 「ハイネ、本当かな?」

 「自分も経験ありなんだろ」

 「俺の品位を貶めるな!」

結局、司令は売春街を抜けて貧しい農村に到着して
一軒の農家に入っていった。

 「あれ?おかしいな?」

 「貧しい農家の娘でも囲っているのか?」

 「これでは証拠が掴みにくい」

問題の家の前で3人で相談していると、中からいきなり
司令が顔を出した。

 「お前達何やってるんだ?」

 「散歩です」

 「「嘘付け!」」

ハイネとババ一尉に突っ込まれた。

結局、家に入れてもらった俺達は1人で暮らして
いるらしい老婆にお茶とお菓子を貰い、司令と
向かい合って座っていた。 

 「お前達、外出禁止命令が理解できなかった
  のか?」

 「それは理解していますが、あまりに理不尽
  です。部下が可哀想過ぎます」

 「それで、私の弱みでも握って脅迫しようと
  したのか?」

 「はい、そうです」

 「「カザマ!」」

 「で、上手くいったか?」

 「ここに若い女性でもいれば簡単だったん
  ですけど」

 「ここは妻の母親が1人で暮らしている。
  他に人はおらん。
  私は心配だからたまに様子を見に来てるのだ」

 「そうですか。俺の祖父母も日本ですよ」

 「心配にならんか?」

 「なりますが、親戚が近くにいますので」

 「そうか。本当はプラントに来て欲しいの
  だが、宇宙は嫌だそうな」

 「祖父母は外国すら嫌だそうです」

 「ははは、そうか。俺達の戦争なんて関係
  ないんだよな年寄りには」

 「ええ、自分の国から旅行以外で出たこと
  のない人間が宇宙のコロニーの独立の話
  なんて、夢物語なんですよ」  

 「だろうな。お義母さんも日々の生活と、
  俺が持ってくる孫と娘の写真と近況報告
  以外に興味がないのだ」

 「実はお願いがあるのですが」

 「外出許可の緩和だろ。週一回休暇の時くらい
  ならいいさ」

 「ありがとうございます。でもどうして急に?」

 「急じゃない。本当は許可を出すつもりでいた。
  ただ、その前に悪さをして閉じ込められる
  とどうなるのかを経験させただけだ。
  兵士のモラルを保たせるのは大変なんだ。
  ここは占領地では無い。俺達は間借り人だ
  1人の悪行が全てをダメにしてしまう事
  があるんだ」

結局俺達の行動は無駄足だったが、
結果として外出許可が出たのでよしとする
事にした。
ババ一尉はかなり不満があるようだが無視
しよう。

 「俺は何でつき合わされたんだ?」

 「管理職の義務かな?」

 「そんなわけあるか!」

それから一週間。
俺達は訓練を繰り返しながら、たまにスクランブル
発進をして東アジア共和国の戦闘機を迎撃した。
1回だけ例の飛行するストライクダガーが
飛来したが、9機の内2機が煙を吹いて落ちて
いき、残りはハイネ隊に全滅させられた。

 「相変わらず進歩が無いですね」

これは毒舌家ニコルの弁だ。

 

そして、次の日。
この日はラクスのコンサートが開かれるので、
アスランは休暇を取り会場に出掛けて行った。
俺は休暇が取れないので、基地でお仕事だ。

 「アスランはいいよな。可愛い婚約者がいて」

ハイネが羨ましそうに語っているが、事実を
話すわけにもいかないので適当に相槌をうつ。

 「彼女しばらく台湾でオフだって。オーブから
  毎日移動と仕事で大変だったらしいし」

ラクスが台湾でオフ・・・。
イヤな予感がする・・・。

 「ハイネはよく知ってるな」

 「ラクス様は明日の午前中、基地の慰問に来て
  くれるんだ。知らなきゃ失礼だろ」

なんでハイネがラクスのオフを知っていないと
失礼にあたるんだ? 

 「何とかお近付きになりたいよな」

距離的には可能だろう。
俺の親友だし・・・。

 「アスランが聞いたら怒るぞ」

 「俺は純粋に1ファンとしてだな・・・」

あきらかに怪しい。

 「真面目な話、余計な野心は身を滅ぼすぞ」

 「そうなのか?」

 「それは保障する」

 「じゃあ、止めとく」

俺達の会話を3人娘が聞いていた。

 「カザマさん大変だよね」

 「私達も大変なの。秘密を洩らしたらどうなるか
  ・・・」 

 「とにかく秘密は厳守よ」

 「秘密って何だろう?」

ババ一尉の疑問に答える人はいなかった。


翌日、ラクスがカオシュン基地で慰問のコンサート
を開いた。
特設会場が設置されて、多数の兵士が集合する。
会場の垂れ幕には「ラクス・クラインの歌とお話」
と書いてあった。

 「微妙な集会名だな」

 「センス無いですよね」

ニコルが厳しい意見を述べる。

 「まあ、ラクス様が重要で会の名前は
  どうでもいいからな」

ハイネは気にならないらしい。

 「さあ、始まるぞ」 

観客の拍手と歓声が上がり、壇上にラクスが登場
する。

 「みなさん、本日はお忙しい中。私の為に
  お集まりいただいてありがとうございます。
  精一杯歌いますのでみなさん楽しんでいって
  くださいね」

 「「「はい!」」」

みんな素直に返事をする。
非常にシュールな光景だ。
ラクスは持ち歌を数曲歌い、アンコールにも答えて
から、トークショーに入る。
ふと気が付くと、ハイネがトークショーの司会を 
していた。
いつ決まったんだろう?

 「ハイネさん、侮りがたし!」

ラスティーが感心していた。

 「私、本日の司会を務めさせていただきます。
  ハイネ・ヴェステンフルスです。
  ラクス様、本日はありがとうございました。
  カオシュン基地を代表してお礼申し上げます」

 「どういたしまして。ハイネ様、楽しんで
  いただけましたか?」

 「はい、我ら一同大変楽しませていただきま
  した。さて、本日はラクス様との
  トークショーを開催いたします。質問のある
  奴手を挙げろ!」

 「「「はいはいはい」」」

質問タイムか・・・。
かなり使い古された設定だ。
ラクスへの質問は好きな食べ物や本のタイトル、
好きな花の名前など無難な内容のものが多い。
彼らは清純派のラクスを信じ込んでいるらしい。
が、最後の質問が波乱を呼んだ。

 「では、最後の質問いってみよう!」

 「はい!」

 「では、そこの君どうぞ!」

1人の若い整備兵をハイネが指名する。

 「はい、ラクス様はもしアスランさんよりも
  好きな方が出来てしまったらどうしますか
  ?」

まずい、極一部にはクリティカルな質問だ。
俺、ニコル、ラスティー、シホ、3人娘は
下を向く。
遠くで見学していたタリア艦長にも冷や汗が
出てくる。

 「どうしました?タリア艦長」

 「何でもないわよ」

少し動揺しながら、アーサーさんの質問に答えて
いた。  

 「もしそのような方が出来ましたら、自分の
  気持ちに正直になりますわ。その方を選ぶ
  でしょう。最も、今はアスランがいるから
  大丈夫ですが」

 「おー!頑張るぞ!」

質問した若い整備兵君は大喜びだ。

 「刺激的なお答えありがとうございました。
  最後に我らの代表から花束の贈呈です」 

何故か俺とアスランが花束贈呈の人員に選ばれて
いた。俺はアスランと舞台に上がって順番に花束
を渡す。

 「アスラン、ありがとう」

ラクスはアスランの頬にキスをする。
観客からは歓声とブーイングが混じったものが
聞こえる。
次に俺が花束を渡す。
握手くらいかな?と思っていると、彼女は背伸び
をして同じく頬にキスをした。

 「えっ!」

会場がシーンとなる。
ハイネも驚きで声が出ないらしい。

 「ヨシヒロさん、日頃アスランがお世話に
  なっています。これからもよろしくお願い
  しますね」

彼女の声で会場から大きな歓声があがった。

 「おーっと、婚約者の内助の功だ。
  アスランは幸せ者だー!」

ハイネも勘違いをしてくれて俺の危機が去る。
正直、心臓が止まるかと思った。
その後ラクスは会場を去り無事に慰問会は終了した。

 「カザマ、お前羨ましいやつだな!」

ハイネが後ろからヘッドロックをかけてきた。

 「本当、羨ましいですよ」

ディアッカも同調する。

 「ヨシさん、すいません。ラクスが迷惑を
  かけてしまって」 

アスランが謝ってきた。

 「えっ、まあ驚いたけどラッキーだったな」

 「アスラン、ラクス様は悪くない!
  カザマが全て悪いんだ!」

ハイネの辞書にはラクスの悪事は存在しない。

 「それで、ラクスはこれからオフなんでしょ。
  アスランはどこかで会うの?」

俺はアスランに聞いてみる。

 「休日に会う約束はしいていますが、後は
  わかりません」

 「まあ、アスランも一週間オフってわけには
  いかないからな」 

ハイネが少し嬉しそうに言う。
ラクスの言葉で自分にも多少のチャンスが存在
していると思っているらしい。
本当はハイネは男女関係には敏感なのだが、
長い間女性から遠ざかっていたせいで鈍っている
ようだ。

 「すいません、カザマ隊長ですか?
  司令官がお呼びです」

1人の若い兵隊が俺を呼びにきた。

 「何だろうね?」

 「カザマ、何かしたか?」 

 「失礼だな。ハイネじゃあるまいし」

 「俺は品行方正で通ってるの!」

 「お前が品行方正なら俺は聖人レベルだ!」

 「すいません、急いでください」

兵に促される。
司令室にノックをして入室する。

 「ヨシヒロ・カザマ出頭しました」

 「ご苦労」

 「何の用事です?」

 「実は、ラクス嬢のボディーガードを
  頼みたいのだ」

えっ、何故に俺?

 「状況が理解できません」

 「ラクス嬢は一週間の休暇を取られる。
  その間、護衛が必要なのだ」

 「プロの護衛に頼んでください」

俺を窮地に陥れるな。

 「ラクス嬢の指名だ。厳つい男性は嫌だそうな。
  それに、知り合いだから気楽でいいと」

 「なら、アスランで良いではありませんか。
  婚約者なんだから」

 「公私混同は避けたいそうな。
  君なら顔見知り程度だから丁度いいだろう」

 「はあ、拒否権は無いんですか?」

 「何か問題でもあるのか?」

あるけど言えません。

 「ありませんが」

 「では、頼むよ」

押し付けられてしまった・・・。


ハイネ隊の司令部に戻ると、皆に質問攻めに
される。

 「おい、何の用事だったんだ?」

 「ラクスの護衛任務を仰せつかった」

 「羨ましいな、変わってくれよ」

 「司令に許可を貰ってこい」

ハイネは速攻で連絡するが、即座に拒否される。

 「お前がいなくなったら、誰がモビルスーツ隊の
  指揮を執るんだよ」

 「忘れてた・・・」

忘れるなよ。

 「ヨシさん、ラクスをお願いします」

 「ああ、まかせろよ」

アスランは俺を疑いもしないらしい。

 「アスラン、ちょっとこっち来い!」  

俺はアスランと2人きりになる。

 「なあ、俺も一応男なんだよ。万が一にも
  間違いがあったらどうするの?」

俺は以前からの疑問を問いただす。

 「もしそうなったら、俺は2人を祝福しますよ」

 「えっ、そうなの?何で?」

 「俺はカガリが好きなんです。ラクスに恋愛感情
  はありませんよ」

即答された。
そうか、アスランはカガリが好きなんだ。
だから、ラクスに恋人が出来てもそれは彼には
かえって喜ばしい事なんだ。

 「ヨシさんとラクスはお似合いですよ」

こいつ、実は知っているんじゃ・・・。

 「あくまでも万が一の可能性の話だ。留守を
  頼む」

 「了解です」

 「俺が戻ってすぐにグアムに向けて出発だろう。
  オーブ組の訓練をイザークと頼むぞ」

本当は色々準備しないといけないんだけど・・・。
アーサーさんに一任してしまえ。
パイロット達に別れを告げてからアークエンジェル
に行き、一週間分の荷物をまとめてブリッジに
挨拶に行く。

 「タリアさん、アーサーさん、後をお願いします」

 「ええと、頑張ってね・・・」

タリアさんが複雑な表情をしている。

 「護衛任務かい?専門外で大変そうだね」

事情を知らないアーサーさんが優しい言葉
をかけてくれる。

 「では、行ってきます」

基地を出ると、出迎えの車が来ていた。
窓が開きラクスが顔を出す。

 「ヨシヒロ、早く乗ってくださいな」 

直接出迎えか・・・。 
俺はドアが開いた後部座席に乗り込む。

 「ラクス、心臓に悪いから止めてくれよ」 

 「何がです?」

ラクスは笑顔を浮かべながら聞きかえす。

 「自分の胸に聞いてみろよ」

 「そんな・・・、私はヨシヒロに会いたい
  だけなのに・・・」

ラクスの表情が一瞬にして暗くなる。
前の運転手を見ると、彼は無表情でかえって
怖い・・・。

 「いや、あの、俺もラクスには会いたかったん
  だけど、立場とか仕事とか色々あってさ」

 「本当ですか?」

 「本当だよ」

 「嬉しい!」

ラクスは再び笑顔を浮かべて俺に抱きつく。
再び運転手を見るが、彼は無表情のままだ。
とても不気味だ・・・。

 「ラクス、どこに行くんですか?」

ラクスは開いたコンサートが話題になってしまった
ので、素顔で歩くと確実にバレてしまうだろう。
確かオーブでもそうだったはずなのだが、普通に
街中を歩いていたな。
あれは不思議だった。 

 「芸能人や政治家御用達の秘密厳守の
  ペンションがあるので一週間そこで
  過ごします。2人っきりですわ」

以前にそんな事が・・・。
デジャブか・・・。

 「そう、あれは2人が始めて出合った時、
  キャンプ場での素敵な一夜でしたわ。
  それを再び実現しようと思いまして」

ああ、思い出した。
アスランが連絡1つよこさなかったんだ。

 「あの、実はアスランと・・・」

俺は、2人で話した会話をラクスに教える。

 「アスランは自分の幸せを掴んだのです。
  私達は祝福してあげましょう」

障害が1つ完全に消えたからな。

 「でも、ザラ閣下とシーゲル元議長は
  どうするの?」

 「パトリックおじ様はアスランの意思を
  尊重すると思います。父は・・・」

 「父は?」

 「父はもう知っていますので」

 「えっ!」

だから俺は愚連隊の指揮を任されて、危険な戦場に
廻されてるのか?

 「今度、プラントに戻ってきたら挨拶に来い
  との事です」

あれ?俺もう逃げ道無いよな。

 「さあ、着きましたわ」

俺は一週間ラクスと楽しく過ごした。
貧乏性の俺は休暇を無駄に出来ないのだ。
それに、ラクスは多少奇抜なところはあるが、
基本的に可愛いので文句は無い。
結局、アスランは連絡1つ寄越さなかった。
休日はカガリと長時間電話で話していたらしい。
多少、腹が立った。


護衛?の仕事が終わり、カオシュン基地
に帰還するとアークエンジェルは改修が終了して
いてモビルスーツ隊も積み込まれていた。

 「ただいま、みんな」

 「ラクス様と一緒で楽しかったか?」

何故かそこにいたハイネに聞かれる。

 「慣れない護衛任務で大変だった」

思いっきり嘘である。
彼女には多数の護衛がついていて、俺は遊んで
いただけだ。

 「まあ、彼女に万が一の事があると
  首だろうしな」

ハイネは騙されてくれたが、ニコル、ラスティー、
シホにはバレバレの様だった。

 「じゃあ、俺は帰るわ。お前の顔を確認
  しただけだから」

ハイネが帰っていく。

 「じゃあ、時間もないから仕事するか」

まずは現状の報告を頼む。

 「はい、モビルスーツは以前と変わりありま
  せん。パイロットも人数に変化なしです」

シホが報告する。

 「へっ?補充無しでグアムを奇襲するのか?
  俺達、帰還できるのか?」

 「アークエンジェルには特殊装備を多数積み込む
  ので、機体数を増やせません」

 「特殊装備?」

 「グアム基地の滑走路と補給施設を完全破壊する
  為の改良型D型装備と、特殊爆弾を発射する為
  の大型バズーカが機体数分あります。後は爆薬
  を多数詰め込んだグゥルがあり、M−1が
  乗って行って敵基地に突っ込ませます」

 「少ない戦力で破壊力を増す為のものか。
  それで、グアムの護衛戦力は?」

 「グアムは最前線ですが、我が軍の脅威が
  少ない為に戦力は少ないです。モビルスーツ
  も配備されていません」

 「なら、時間をかけなければ大丈夫か?」

 「ええ、ですが太平洋艦隊の進撃路に
  当たるので基地の規模が大きいのです。
  基地自体の破壊には時間がかかります」

 「シホ、無理に全部破壊する必要は無い。
  こちらは奇襲部隊で陽動が任務なんだ。
  はじめだけ派手にやってすぐに逃亡
  しないと、帰れなくなるぞ」

 「そうですね」

 「モビルスーツの状況はわかった。
  ブリッジに上がるぞ」

俺達はブリッジへ上がり、タリアさんと
アーサーさんから報告を受ける。

 「カザマ君、元気だった?」 

 「何とか元気です」

 「護衛任務で気を使っただろう」

善人のアーサーさんは疑いも無く心配してくれる。
少し、罪悪感を感じる。 

 「それで、艦の状態はどうです?」

 「ミラージュコロイド発生装置は正常に作動
  するわ。問題は展開すると艦のスピードが
  落ちてしまう事ね」

 「だから明後日に出発するんですよ。
  ゆっくり現地に近づかないと」

 「いくら姿が見えなくても、赤外線探知では
  引っかかってしまうのよ。不安は消えないわ」

 「船舶や航空機の通行が少ないルートを
  選んで通るしかないですね」

 「真珠湾を奇襲した南雲提督の心境ね」

 「おお、マニアックな事知ってますね
  タリアさん」

2日後、アークエンジェルは夜陰にまぎれて出発
した。
敵に見つからないで、グアムまで到着できるのか?
奇襲は成功するのか?
無事に帰れるのか?
不安で一杯だった。


         あとがき

次はオペレーションスピットブレイク開始
です。
クルーゼが久々に登場します。
当然、隣で苦労する人がいます。
アデス艦長ではありませんが・・・。
次回の更新はわかりません。

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