インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「これが私の生きる道!地球編3(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-02-09 02:18/2006-06-25 13:24)
BACK< >NEXT

この国は開戦以来、中立を保ってきた。
古来より中立国はその国の意思よりも、周りの国
の思惑が作り出すものである。
オーブは開戦以来、中立国としてプラントに食料
や水を輸出し、プラントの物資にオーブの刻印を
つけて地球各国に輸出して手数料を稼ぎ、地球産
の物資やレアメタルにオーブの刻印をつけてプラ
ントへ輸出して利鞘を稼いできた。
オーブが存在する事によって多数の交戦国が利益
を確保して、オーブは多額の貿易利益を稼ぎ、そ
の利益を求めて多国籍の企業が支社を作る。
各国の政治家は徹底交戦を口にしながら、空襲や
本国への攻撃から家族を避難させる為に別荘を買
い、オーブの学校に子供を通わせる。
今のオーブには、様々な種類の人間が移住して繁
栄を謳歌していた。

 
オーブの秘密ドックに到着した俺達は、隣で修理
を受けている戦艦を見て驚いていた。
先日、俺達を攻撃したアークエンジェルの同型艦
が、多数の損傷を受けてボロボロになっていたか
らだ。

 「これは、どういう事なのかしら?」

 「さあ、お迎えの外交官が教えてくれるでしょ
  う」

 「しかし、奇妙な光景ですね。中立国ならでは
  の光景ですか?」 

 「アーサーさん、中立国では交戦国の軍艦は武
  装を解除してから入国するのが常識です。だ
  から、俺達は、秘密裏にドック入りしてるん
  ですよ」

 「それにしても、向こうの艦の損傷はひどいわ
  ね」

 「機動艦隊を追撃していたら、あの艦しか見つ
  からなかったみたいで、袋叩きにされたよう
  ですね」

 「向こうの機動艦隊は、歴戦の提督が指揮して
  いたらしいですよ」

そんな話をしながら艦を降りると長髪の三十歳前
後の男性が出迎えてくれた。

 「やあ、タリア。久しぶりだね」

 「あなた、出迎えの外交官って・・・」

 「アーサーさん、あの人は・・・」

 「デュランダル外交官だよ。タリア艦長の旦那
  さんだ」

アーサーさんと小声で会話をしていると、デュラ
ンダル外交官が俺達に話しかけてきた。

 「始めまして、カザマ隊長。私は外交官のギル
  バート・デュランダルです。タリアがいつも
  お世話になっています」

 「いいえ、私の方こそお世話になりっ放しで」

 「アーサー副隊長にも、いろいろ面倒をかけて
  いるようで申し訳ありません」

 「私は頼りない上司なので助かっていますよ」

 「そう言ってもらえるとありがたい」

 「さて、挨拶はこれくらいにしてあれは何です
  か?」

そう言って、俺は例の敵戦艦を指差した。

 「多大な損傷を受けた艦を修理してもらうため
  に、戦闘データを供与することになりました
  。と言うギブアンドテイクのお話の結果なの
  だよあれは」

 「容疑者は?ウズミ殿ですか?」

 「共犯はホムラ殿で黙認はウナト殿とミナ殿だ
  。つまり、中立国のオーブは誰にでもいい顔
  をするのさ、代金さえいただければね」

 「大変わかりやすい話で結構ですね。それで、
  我々の滞在を許可した上に、修理とモビルス
  ーツの補給までしてくれるのは誰ですか?」

 「それは、ウナト殿とミナ殿で、ウズミ殿とホ
  ムラ殿は黙認だ。ついでに、元オーブ軍のパ
  イロットを傭兵としてこの艦に派遣してくれ
  る約束になっているのさ」

 「そして我々も実戦データの提出をするわけで
  すか?」

 「中立国オーブは侵略を恐れている。他国に占
  領されれば中立国のうまみがなくなってしま
  うのでね。だから、万が一の事態に備えて独
  自の軍備を整えているのさ。成果はモビルス
  ーツの独自開発と、それを動かすOSの開発
  の成功だ」 

 「ナチュラルが使えるOSですか?」

 「ああ、画期的なOSが1人の技術者によって
  開発されたらしい。その技術者が誰なのかは
  不明だが」

 「では、俺達は用無しでは?」

 「いや、オーブの欠点は実戦経験が無い事だ。
  それを補うための傭兵の派遣と実戦データの
  供与だろう」

 「しかし、複雑な話ですね」

 「ああ、私もたまにわからなくなる事がある。
  ウズミ殿は完全中立を理想にしているから、
  どの勢力とも仲良くしようとするからな。今
  回の敵艦、(ドミニオン)という名前らしい
  が、あの艦の艦長はブルーコスモスの強行派
  に所属しているのに、取引をして艦を修理さ
  せている。ホムラ殿はウズミ殿に考えは近い
  が独自の動きを見せていて、我々とも仲良く
  しているが、地球連合の穏健派とのパイプが
  太い。ミナ殿とウナト殿は連合寄りだったが
  、最近は我々とも交渉をするようになった。
  その成果が、傭兵の派遣とモビルスーツの補
  給となって現れているわけだ」 

 「複雑ですね。メモを取りたくなってきました
  」

アーサーさんの言う事はもっともであり、俺もメ
モを取りたくなってきた。

 「結局、彼らはオーブの国益の為にいろいろと
  動いているのだ。彼らの目的は中立政策の維
  持で一致している。プラントはオーブの中立
  は望ましいと思っているし、連合の反ブルー
  コスモス派もオーブの中立は望ましいと考え
  ている。しかし、一番の問題は、最近ブルー
  コスモス強行派の中で、オーブや他の中立国
  が地球連合に加盟しないのはおかしいと唱え
  ている連中が力を持ち始めた事なのだ。オー
  ブの国力が連合に入れば、勝利は容易いと考
  える近視眼的な意見がまかり通っているらし
  い」

 「そして、止めは新型モビルスーツとOSです
  か?」

 「そうだ。だから、ウズミ殿はブルーコスモス
  とつながりの深い(ドミニオン)を懐に入れ
  て向こうの警戒感を解こうとしている。そし
  て、我々も懐に入れて平等に接しているのだ
  」

 「長い説明ご苦労様です」

 「ありがとう」

 「ギルバートはいろいろ大変なのね」

 「ああ、私は外交官になってかなり悪党になっ
  たつもりでいたが、オーブの政治家に比べれ
  ばまだらしい」

 「確かに、一筋縄ではいかないみたいですね」

 「その通りだ。さて、話が長くなってしまった
  が、バルトフェルト司令官から預かった彼女
  は元気かな?親御さんに返さないといけない
  のでね」

 「元気ですよ。ところで彼女何者なんです?」

 「彼女の名前はカガリ・ユラ・アスハ。オーブ
  の獅子の1人娘なのさ」

 「えっ!」

しまった!俺はオーブの支配者の娘にカガリちゃ
んなんて・・・。
終わったかな?俺。

 「ははは、私が連れてきましょうか?別れの挨
  拶もしないといけませんし」

俺は艦内に急いで戻ってカガリを探す事にした。
すると、通路で人だかりが出来ていて、アスラン
達の姿も確認できた。

 「アスラン、この人だかりは何?」

 「カガリですよ」

彼が顔を向けた方向には、中年のふくよかな女性
がカガリを引きずって歩いている光景が見える。
とりあえず今までの無礼を謝らなければ、外交問
題になるかも知れない。
俺は意を決して、カガリの前に出る。

 「カガリ姫、今までの無礼な言動と行動の数々
  、平にお許しのほどお願いいたします」

正しい言葉使いなのか微妙に怪しいが、一生の内
で数回しか使わないであろう言い回しを使う。

 「はあ?お前何言ってるんだ?何か悪いもので
  も食べたか?お前に姫なんて言われると気味
  が悪い」

俺の心配をよそに、所詮カガリはカガリであるよ
うだった。

 「悪い、俺も慣れない言葉使って蕁麻疹が出て
  きた。でも、ドレス姿が似合っているな。さ
  すがは、お姫様って感じ」

 「えへへ、そうか?」

二人で話していると、先ほどの女性が俺に話しか
けてくる。

 「カザマ様でいらっしゃいますか?私は幼少の
  頃から、カガリ様の身の回りのお世話をさせ
  ていただいているマーヤと申します。カザマ
  様には、カガリ様がいろいろとお世話になっ
  たそうで、代わってお礼申し上げます」

 「いえ、大した事はしていませんので」

 「そうですか、後日改めてお礼させていただき
  ますので、今日はこれで失礼させていただき
  ます」

マーヤさんはカガリを引っ張って艦を降りてしま
う。
あれ?俺が彼女を連れて来ないといけなかったよ
うな?

 「本当にお姫様だったんだ・・・」

シホは呆然としている。 

 「まずいな俺は・・・」

カガリと喧嘩ばっかりしていたイザークは、困っ
ているようだ。 

 「そう言われれば気品があった様な」

ニコル、それは気のせいだ。

みんなが複雑な反応を見せている中で、アスラン
は冷静そのものであった。
多分、彼だけは彼女から正体を聞いていたのだろ
う。
アスランは、随分と信頼されているようである。

 「そうだ!デュランダル外交官のところに戻ら
  ないと」 

俺は、デュランダル外交委員長の元に急いで戻っ
ていった。

 「カザマ君、悪かったね。姫は御付きの女性が
  連れて行ってしまったようだ。さて、我々も
  行くとするか」

 「どこにです?」

 「ウズミ殿の元へだ。姫を送ってくれたお礼が
  言いたいそうだ。君達も一緒に来てくれ」 

 「わかりました・・・」

何で、そんなVIPと会わなければいけないんだ

緊張してしまいそうだ。


俺達は会見場所の面接室までの廊下を歩いていた

面子は俺、タリア艦長、アスラン、ラスティー、
デュランダル外交官の5名である。
アーサーさんは、艦内の責任者が不在ではまずい
ので、留守番をしている。
大変羨ましい、代わってほしい。
面接室近くまで歩いて行くと、反対側から連合の
制服を着た五人組が歩いてきた。
見知った顔が多いが、知らない人もいる。
マリュー大尉、バジルール少尉、フラガ大尉、五
十歳前後の渋いおっさんと四十歳前後の小男は初
めて見る顔だ。 

 「タリアさん、例の(ドミニオン)の乗組員達
  ですかね?」

 「多分そうね。それでどうするの?」

 「まさか、いきなり撃たれたりはしないでしょ
  うから、会釈でもして通りすぎれば問題ない
  ですよ」

 「決まりね」

小声での相談は終わり、俺達が会釈をして通り過
ぎようとすると、四十歳位の小男が話しかけてく
る。

 「おや?あなたがたは、無様に艦を破壊された
  ザフト軍の皆さんではありませんか。戦力不
  足のザフト軍の皆さんには、例え連合から盗
  んだ艦でも手痛い損害でしたな」

 「いいえ、お気になさらずに。先日無能な指揮
  で機動艦隊を1つ失った地球連合軍ほど困っ
  てはいませんから」

俺は、おっさんの嫌味を嫌味切り返してやる。

 「しかし、ザフト軍の皆さんも大変ですね。中
  立国のオーブに、わざわざ戦力の無心に訪れ
  るとは」

 「地球連合軍の皆さんも壊れた艦を直してもら
  うために、必死にオーブに頭を下げて大変で
  すね」

再び嫌味を放ってきたので、更に切り返してやる
事にする。

 「もし、皆さんが降伏したくなったらいつでも
  私に相談してください。多少の便宜は図って
  あげますよ。申し遅れました。私は(ドミニ
  オン)艦長プリンス大佐です」

 「申し出は大変ありがたいのですが、もしそう
  いう事態になってしまったら、あなたのよう
  な小物ではなく、もっと偉い方に頼むので安
  心してください。申し遅れました。私はカザ
  マ隊隊長ヨシヒロ・カザマです」

プリンス大佐の顔は、引きつった笑みを浮かべて
いた。
後ろにいる四人は、笑いを必死にこらえているよ
うだ。

 「では、失礼します」

俺達は、プリンスのバカを置いて面接室に歩いて
行った。

 

俺がオーブの獅子と対面して一番に感じた事は、
とにかく大きいという印象だった。
別に、背が高いとか横幅があるとかそういう事で
はなくて、巨大なオーラの様なものを感じたのだ

さすがに、一国の指導者だった人は違うなと感じ
ていると、ウズミ様が口を開いた。

 「カザマ隊長、うちのバカ娘がいろいろと迷惑
  をかけたようだな。娘に代わってお礼申し上
  げる」

 「いいえ、それほどの事はしていませんから」

 「そう言ってもらえるとありがたい」

 「それで、今日の用事はそれだけなんですか?
  」

 「いや、実は頼みたい事があるのだ。私ではな
  いのだが、ミナとウナトがお願いしたい事が
  あるらしい」

 「ミナ殿とウナト殿本人は何処なんです?」

 「あれはいろいろと忙しくてな。私が代理でお
  願いする事になる」

 「わかりました。それでお願いとは?」

 「君達のモビルスーツの実戦時のOSデータを
  提供して欲しい。代わりに我々は、補充のモ
  ビルスーツと傭兵のパイロットを提供する。
  勿論、(アークエンジェル)も修理しよう」

 「わかりました。上に許可を求めてから・・・
  」

 「カザマ君、ザラ国防委員長もシーゲル議長も
  すでに了承している事なんだ」

デュランダル外交官が黙っていたのだから、当た
り前なのだが、一応確認をとっておく事にする。 

 「では、私に異論はありません」

 「それと、もう1つ。君はオーブ国籍のヨシヒ
  ロ・アマミヤの名前で、モルゲンレーテ社に
  出向して欲しいのだ」

 「ここでその名前が出るとは思いませんでした
  。断ると私は逮捕ですか?二重国籍ですもの
  ね」

 「いや、あくまでも外の目をごまかす為だ。我
  々は君を逮捕できない」

 「どうしてです?」

 「オーブは、連合に配慮してプラントを正式な
  国家として認めていない。ゆえに、君はただ
  のオーブ国民なのだ」

オーブの政治家はやっぱり狸が多いと感心してし
まう。
心理的に安心させて、願い事をするようだ。

 「モルゲンレーテ社には、君の父上がいる。久
  しぶりの親子の対面だ。ちゃんと話をしなさ
  い」

それを考えると、何よりも気が重いくなってしま
う俺であった。


会見を終えて帰り道を歩いていると、向こうから
キサカさんが歩いてきた。

 「やあ、カザマ隊長、いろいろすまなかったな
  。私の本当の身分はオーブ軍空挺第一師団所
  属レドニル・キサカ一佐だ」

 「顕職なのに、お姫様の護衛任務なんて大変で
  したね。ところで、カガリちゃんは?」

 「ウズミ様と派手に遣り合ってな。謹慎処分を
  喰らっている。どうせ、すぐに抜け出すだろ
  うがな」

 「言えてますね」

 「だろう、じゃあ私はこれで」

キサカさんと別れた俺達は、アークエンジェルに
戻り、今後の事を検討する事にした。

 「俺がモルゲンレーテ社に出向してしまうと、
  最低一週間はここに戻れません。後の事は二
  人におまかせしますよ」

 「そうね。公称オーブ国民のあなたが、ここに
  いるのは拙いかもしれないわね。わかったわ
  、留守は任せて。修理を監督しながら待って
  るわ」

 「隣の艦が悪さをしないように、見張っていま
  すよ」

 「それは、大丈夫みたいですよ」

 「どうしてです?」

 「(ドミニオン)の艦長は、オーブで政治向き
  の活動が多くて、艦の修理が終わるまで戻ら
  ないそうです。それに、彼は部下の勝手な行
  動が許せません。小心者ですから」

 「そうですか、一応注意しておきます」

 「タリアさん、そろそろ旦那さんと待ち合わせ
  の時間でしょ。早く行ってくださいよ。俺達
  は二人で仲良く留守番していますから」

タリア艦長は、デュランダル外交官と久しぶりに
デートをするらしいので気を使って早めに行かせ
る事にしたのだ。

 「アーサーさん、俺達もデートしたいですね」

 「本当だね」

オーブでの一日目の夜は、こうして更けていくの
であった。。

 
翌日早朝、俺は「ストライク」に乗ってモルゲン
レーテ社の秘密工場に向かう事にする。
横を見ると、ドミニオンからも「ストライク」が
出てきて並んで工場に向かって歩いていく。
敵同士が、同じモビルスーツに乗って仲良く並ん
で歩いていく光景はとても奇妙なものであった。

ある岩山の前に立つと、偽装していた扉が開き、
中に入ってからハンガーに機体を置いてコックピ
ットを降りると、向こうの「ストライク」のパイ
ロットと顔が合った。

 「久しぶりだな。(黒い死神)」

 「そちらこそ、(エンデュミオンの鷹)」 

 「いろいろ言いたい事はあるが、オーブでは、
  なしにしようぜ」

 「そうだな、俺も賛成だ。キリが無いからな」

二人で話していると、モルゲンレーテ社のジャン
パーを着た女性が近づいてくる。 

 「呉越同舟なのに悪いわね。始めまして、私は
  ここで研究主任を務めているエリカ・シモン
  ズです」

 「ヨシヒロ・アマミヤです」

 「ムウ・ラ・フラガ少佐だ」

 「あれ?出世したの?」

 「あの船に乗っている褒美だ。お前こそ、カザ
  マじゃないのか?」

 「家庭の事情だ」

 「詳しくは聞かないよ」

 「サンクス」

 「それでね。今日はストライクの調査をするか
  ら、あなた達には仕事はないのよ。午前中は
  工場の見学でもしていて。午後からは遊びに
  行ってもかまわないから」

 「やりましたね、フラガ少佐」

 「ラッキーだな、カザマ」

 「あっ、そうだ。カザマ君は、お父様が探して
  いたから逃げないでね」 

 「了解・・・」

その後2人で工場を見学する事にする。
司令室のようなブースがあるので行ってみると、
ガラス越しでモビルスーツが機動試験をしていた

 「フラガ少佐、あれがオーブのモビルスーツみ
  たいですね」

 「そのようだな。しかし、動きがいいね。コー
  ディネーターのパイロットが乗っているのか
  な?」

 「あなただって、(ストライク)を綺麗に動か
  していたじゃないですか」

 「あのOSは人を選ぶんだよ。モーガン大尉と
  俺の他に動かせるのは数人しかいない代物だ
  」

 「じゃあやっぱり、コーディネーターのパイロ
  ットなのかな?」

 「それは違うぞ、ヨシヒロ」

聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
後ろを向くと、親父が立っていた。

 「親父・・・」

 「お前には多少問い正したい事があるのだが、
  今は仕事中だ。夕方、家に連行する事にする
  。覚悟しておけよ」

いきなりの死刑判決に俺は硬直してしまった。

 「えっ、お前の親父さんなの?」

フラガ少佐が驚きの声をあげながら、俺に聞いて
くる。

 「間違いなく俺の親父だ」

 「似てないな」

 「「ほっとけ!」」

 「それで、あのモビルスーツとパイロットがコ
  ーディネーターじゃないって話は?」

 「ああ、あのモビルスーツは(M−1アストレ
  イ)と言って、オーブが独自に開発した量産
  型の新型モビルスーツだ。OSは一人の天才
  技術者が開発したもので、ナチュラルでもあ
  の動きが可能だ」

 「天才科学者ね。誰なの?」

 「最重要機密だ教えられん」

 「だそうだよ、フラガ少佐。プリンスのバカが
  おかしな真似をしない事を祈るよ」

 「大丈夫でしょ。他に色々忙しいみたいだから
  」

 「じゃあ、俺は他に用事があるから行くぞ。夕
  方六時正面玄関でな。逃げるなよ」

そう言い残して親父は去っていった。

 「お前、何かしたの?」

 「軍人になったのを隠してた」

 「そりゃ、大変だな。今日は頑張れよ」

 「頑張ってみます」

そんな会話をしている内に、お昼になったので食
堂で昼食をとる事にした。
フラガ少佐はお休みなので先に出掛けて行き、俺
は食後にコーヒーを飲みながらのんびりしている
と、少年・少女の集団の会話が聞こえてきた。

 「すっかり、お昼ごはんが遅くなっちゃったね
  」

 「キラが集中しすぎるから・・・」

 「いいんじゃないの。お陰で仕事がはかどった
  んだから」

 「仕事が早く終われば、休みが取り易いしね」 

 「レイナはキラとデートでしょ」

 「ミリィーはトールとデートでしょ」

 「さて、何を食べるかな?」

 「よお!お前ら元気だった?」

少年、少女達は顔見知りだったので、俺から話し
かけてみる事にした。 

 「お兄さん!」

 「兄貴!」

 「ヨシヒロさん!」

ヘリオポリス事件以来の久しぶりの再会であった

  


 「お兄さん、お父さんと会った?」

俺達はテーブルを囲んで会話を始める。
キラ達は昼食を取りながら、俺はコーヒーをお代
わりしながら、近況などを話始めた。
 
 「会ったよ、夕方家に連行するってさ」

 「お母さん喜ぶよ」

 「そうだよ。ヘリオポリスで私達が会った話を
  したら羨ましがっていたもの」

 「そうか、ところでお前達何やってるの?」

 「モルゲンレーテ社で研究の手伝いです。これ
  で単位がもらえるので・・・」

トールが事情を教えてくれる。
キラ達が通っているカレッジは、モルゲンレーテ
社との関係が深く、工業科の彼らは実習の一環と
して研究の手伝いをしているらしい。

 「お前達、優秀なんだな」

 「俺達というよりは、キラなんですけどね。残
  りの連中はキラの手伝いなんですよ」

 「ふーん、あれ?サイの婚約者のフレイさんだ
  っけか。彼女は?」

 「彼女は普通科なんで手伝えませんよ。それに
  、彼女とは婚約解消になってしまいました。
  なんでも新しい婚約者が出来たそうで。彼女
  は大西洋連邦外務次官の娘なんで、いろいろ
  大変なんですよ」

 「ああ、彼女はアルスター外務次官の娘さんな
  のか。サイ、悪い事を聞いちゃったな」

 「いえ、いいんですよ。実はそれほどショック
  でもないんです。デートすらした事なかった
  ですからね」

 「それで、兄貴はここで何をしているの?」

俺は、多少の事実を隠しながらキラ達に事情を話
した。

 「じゃあ、暫らくはオーブにいられるんだ」

 「まあね。艦の事は部下に任せてあるし」

 「ヨシヒロさんて凄いんだな。その歳で部隊を
  率いているなんて」

カズイが俺を尊敬の目で見つめている。

 「ザフトでは結構普通の事なんだよ。新しい組
  織だし人手不足なんでね」

 「ふうん、あっそろそろ時間だ。私達は仕事に
  戻るから、夕方ちゃんと待っててね」

 「わかったよ」

レイナ達は昼食を終えると、食堂を出て仕事に戻
って行った。

 「さて、夕方まで何をしようかな」

俺は暇を持て余して、あちこちをうろついていた

すると、エリカ・シモンズ主任が俺を見つけて話
かけてきた。

 「暇なら付き合わない?」

 「付き合います」

俺が彼女について行くと、野外演習場と書かれた
プレートが貼ってある扉を見つけた。

 「ここよ」

扉を開けると、先ほどの「M−1」が三機で格闘
訓練らしき事をしていた。

 「これは?」

 「パイロットの訓練と、データ取りを同時にや
  っているんだけど・・・」 

 「実戦的ではありませんね。動きは悪くないけ
  ど、戦場であの動きはしませんよ」

 「そこなんだよ、お前達が呼ばれた理由は」

いきなり後ろから親父が登場したので、俺は驚い
てしまった。

 「脅かすな!どうしていきなり現れる?」

 「趣味だ」

 「そんな趣味はやめてしまえ!」

数年前は結構普通の親父だったのだが、オーブで
何かが変わってしまったようだ。

 「あの、話を進めて欲しいんだけど」  

さすがに、エリカ・シモンズ主任はじれてきたよ
うだ。

 「つまり、高性能のOSで動きは格段に良くな
  ったが、オーブ軍は実戦の経験が無いので、
  モビルスーツの戦闘マニュアルがないに等し
  い。更に、戦闘時に必要な様々な動作のデー
  タを集めてOSに反映させなければ、俺達ナ
  チュラルは効率的に戦闘が出来ない。だから
  、お前達はここにいるのだ」

 「ご丁寧に、地球連合軍とザフト軍の両方から
  データを集めて利用するばかりでなく、情報
  をリークして、オーブを侵略する事の難しさ
  を上層部に報告させる。オーブは狸だね。誰
  の差し金?」

 「ほぼ全員だ」

 「データ取りは明日の午前からでしょ。俺に個
  人的に頼みたい任務は?」

 「ここにいる間、あの三人ともう一人を訓練し
  て欲しい。名教官だったらしいじゃないか」

 「違うよ、生徒達が優秀だっただけだ。あいつ
  らは大丈夫なのか?」

 「あの三人は、多数の兵士の中から選抜されて
  きたんだ。才能は保障する」

 「もう一人は?」

 「そろそろ見えてくるはずだが」

演習場を見ると、ピンク色のモビルスーツが現れ
、俺の度肝を抜いた。
 
 「何あれ?(ストライク)に似ているね」

 「あのモビルスーツの名前は(ストライクルー
  ジュ改)と言って、名前通り(ストライク)
  の改良機よ」 

 「俺の開発した新型バッテリーでフェイズシフ
  ト装甲の展開時間と稼動時間が20%アップ
  していて、シールドにはラミネート装甲と強
  制冷却装置を組み込み、敵のビームをセンサ
  ーで探知すると自動的にシールドで防御する
  システムが採用されている。将来的には、機
  体の全装甲をラミネート装甲にする予定だ。
  その他には、背中のバックパックと各部のス
  ラスターを強化していて飛行時間が大幅にア
  ップしている他、通信機能と探知センサーを
  強化していて、指揮官機としての活躍が期待
  されている」

 「ふーん、機体は凄いんだね。パイロットはヘ
  ボみたいだけど」

 「聞こえたぞ!誰がヘボだ!」

聞きなれた少女の声で思いっきり怒鳴られてしま
った。
どうやら、「ストライクルージュ改」のパイロッ
トはカガリのようだ。
数分後、親父の指示で訓練を終えたモビルスーツ
から、全パイロットが降りてきて俺に挨拶をして
きた。

 「こんにちは、アサギ・コードウェルです」

 「ジュリ・ウー・ニェンです」

 「マユラ・ラバッツです」

 「ヘボパイロットのカガリ・ユラ・アスハだ」

俺の発言で、カガリは臍を曲げてしまったようだ

 「そんなに怒らないでよ。カガリちゃん、機嫌
  直してね」

 「うるさい!私は実機に乗ったのは、今日が初
  めてだったんだ!」

 「それなら大したものだ」

 「本当か?」

 「才能あるよ」

カガリの機嫌はすぐに良くなる。
実際、初めてであれだけ乗れればたいしたものだ

 「ねえ、カガリちゃん謹慎中じゃないの?」

 「公式には外に出て無いから問題無い」

「そんなわけないでしょ」って顔をエリカさんが
しているが、親父はどっちでもいいみたいだ。 

 「俺が彼女達を鍛えればいいわけね」

 「そうだ」

 「わかったよ、では早速!それで、俺のモビル
  スーツは?」

 「用意してるわ」

俺は自分に用意された「M−1」に乗り込みOS
の調整をする。
その後、実際に動かしてみると、思っていたより
も動きが良い。
もしかしたら「シグー」よりも高性能かもしれな
い。

 「では、全員の実力を見ます。はじめは一対一
  で、そのあとは二対一、三対一、最後は四対
  一でかかってきて下さい」

 「一対一はともかく、四対一だと!絶対に倒し
  てやる!」

俺の言葉が、カガリの闘争心に火をつけたようだ

格闘戦メインの演習は、いくら彼女達が逸材でも
俺にかなうわけもなく、彼女達の全敗で一時間ほ
どで終了した。

 「アマミヤさん強すぎ・・・」

 「手加減してください・・・」

 「絶対、勝てない・・・」

 「ちきしょう!なんて強さだ!」

俺は涼しい顔をしていたが、四人は疲労で地面に
へたり込んでいた。

 「実戦経験者の実力は理解できたでしょう?明
  日は基本から教えるから今日は解散ね」

 「あれ?エリカさん、親父は?」

 「忙しい方だから、どこかに行ったわよ」

 「そうですか。さて、待ち合わせまで二時間か
  。何をしようかな?」

 「私達とお茶でも飲みましょう」

俺は三人娘の一人である、マユラさんにお茶に誘
われた。

 「そうだね、少し付き合ってくれる?」

 「はい、喜んで」

 「私も行く〜」

 「私も〜」

 「私も行くからな」

俺達は食堂に戻りお茶を飲む事にした。
そこでの会話は、俺が質問に答えている事が多か
った。
家族の事、プラントでの生活、戦場での話など。

 「でも、さすがですよね。(黒い死神)は伊達
  じゃないですね」

マユラが俺を手放しで褒めてくれた。
彼女は、三人の中でリーダー的な役割をしている
らしい。

 「本当、全然かなわないし。凄い腕前ですよ」

ジュリもそれに続けて俺を褒めてくれた。

 「私達、大丈夫かな?」

アサギは自信をなくしたのか、少し心配そうだ。

 「お前達は、私の親衛隊になるんだから、そん
  なに弱気になってどうする?」

カガリは、弱気になった三人に激を入れた。

 「親衛隊?」

 「私には、オーブ軍准将の地位を与えられてい
  るから、有事の際は軍を指揮しなければいけ
  ないのだ。そのためのモビルスーツと親衛隊
  だ」

 「准将が前線に出ちゃだめでしょ」

クルーゼ隊長じゃあるまいし、それは、あまりに
も無謀だ。

 「後方での指揮はベテランの将校が執るから大
  丈夫だ。私の役割は、前線に出て兵士の士気
  を上げる事なんだ」 

 「めちゃめちゃ危険だそれ」

 「お前は前線に出ているだろ」

 「カガリ様と違って、アマミヤさんは凄腕だか
  ら比べられません」

 「マユラ!うるさいぞ!」

 「まあまあ、カガリちゃん落ち着いて」

こんな無茶を決めたのは誰だろうか?
俺はそれが気になってしまった。

 「仕方ない、教えられる限りの事は教えるから
  」

 「「「ありがとうございます」」」

 「すまないな」

 「あの〜、アマミヤさんて彼女いますか?」

 「あっアサギ、抜け駆けはずるい!」 

 「そうよ!で、どうですか?」

 「いるよ、一応」

ラクスの事は伏せて事実を答える事にした。
まさか、三人もラクスが彼女だとは思うまい。

 「残念、別れたら教えてくださいね」

 「友達でかっこいい人いますか?」

 「彼女いてもいいから食事に誘ってくださいよ
  。カザマ部長のように」

今、俺は、おもしろい情報を聞いてしまった。
これはあとで何かの役に立つかも知れない。

 「お前達、真面目にやれよ・・」

無視されていたカガリのつぶやきが、俺の耳に聞
こえて来るのであった。

 


夕方、モルゲンレーテ社の正面玄関に行くと、す
でに親父達が待っていた。
どうやら、逃亡はできないようだ。

 「ほう、逃げなかったようだな」

 「家はどこにあるの?」

 「社宅よ、徒歩1分」

俺には、覚悟を決める時間すらないらしい。


高級そうな造りの社宅の前に到着してから、親父
は呼び鈴を鳴らした。
すると、エプロンをした母さんが中から出てきた

容姿は数年前とまったく変わっていないようだ。 

 「ただいま、母さん。久しぶりだね」

 「おかえり・・・」

俺は、涙を流した母さんに抱きつかれてしまう。

 「ごめんなさい」

親不孝をしてしまった俺は、その一言しか言えな
かった。


感動の再会が終わり、夕食を食べる事にする。
数年ぶりの母さんの手料理は、とても美味しく、
プラントでは味わえないものであった。
食後、お茶を飲みながら話をする事にする。

 「それで、どのくらいオーブにいられるの?」

 「一週間は大丈夫」

 「そう、ならここで寝泊りすればいいわね」

 「ここは通勤に便利だしね」

 「ええ。だから、だらしないお父さんでも遅刻
  しないで済むもの」

親父の反論は特になかった。
基本的に、親父は母さんに逆らわないし、反論し
ない。
と言うか、出来ないのが真相のようだ。
世間一般では、尻に敷かれているとも言う。

 「それで、お前はどうして軍人になってそれを
  隠していたんだ?最後まで、隠し通せるわけ
  がないだろう」

俺はあきらめて全ての事情を説明した。

 「つまり、軍の学校に行けば、資格取り放題で
  就職に便利だと思ったわけだ。それで、いつ
  のまにか戦争に駆り出されていたと」

 「そんな理由で学校に行ってて、赤服なんだ。
  凄いね兄貴は。しかも隊長なんでしょ」

カナはザフト軍の事をあとで調べていたようだ。

 「凄いと言ったって人殺しだからね。挙句に、
  ヘリオポリスでのあの事件だ。俺は家族を殺
  してしまうところだった」

そう、俺が人殺しである事実は何も変わらないの
だ。

 「気にするな。俺達はあそこにいなかったし、
  レイナとカナはお前が助けたんだ。モルゲン
  レーテ社の工場も当日は秘密保持のために、
  社員がほとんどいなかったから、死者もほと
  んどいない。そう、気に病むなよ」

それでも、死人がゼロだったわけじゃない。
俺は親父に気を使われているらしい。

 「更に、俺は長期出張という名目で左遷されて
  いたんだ。正直、全然悲しくない」

 「親父はGの開発に加わっていなかったのか?
  」

 「いや、あれのバッテリーは俺の仕事だ。やっ
  つけ仕事だから、性能はいまいちだけど」

 「結構、性能は良かったけど」

 「今の(M−1)に比べれば屑みたいなものだ
  。最新技術を他国に渡せるか」

シビアだが正論だ。
親父はその件で逆らって、左遷されたのだろう。

 「お父さん、お兄さん、仕事の話はそれで終わ
  り」

 「わかったよ」

 「了解」

 「ねえ、ヨシヒロ。あなた恋人はできた?」

仕事の話が終った瞬間、母さんにいきなり直球を
投げつけられた。

 「まあ、一応できたんだけど。色々事情が複雑
  でなんというか、国家機密にかかわるという
  か」

 「何言ってるのお前?」

俺のあやふやな発言で、親父に不思議がられてし
まう。

 「お兄さん、ラクス・クラインと付き合ってい
  るんだよ」

 「「「えっ!」」」

 「レイナ!お前黙っていろって!」

 「家族に隠し事は良く無いよ。それにね、そろ
  そろ・・・」

 「ピンポーン」

 「はいはい」

呼び鈴が鳴ったので、母さんが玄関に急いで向か
った。

 「お母様、始めまして。ヨシヒロさんとお付き
  合いさせていただいています。ラクス・クラ
  インと申します」 

俺にも予想外であったピンクの台風が、我が家を
直撃したのであった。


食後にリビングでくつろぐ六人の家族は、どこに
でも見られる光景であったが、普通と違うのはそ
の中の一人が、プラントのアイドルだったという
事だ。
ラクスは日本茶を飲みながら、お茶請けの煎餅を
かじっている。
海苔煎餅とゴマ煎餅がお気に入りのようだった。

 「あの、ラクス・・・」

 「はい、なんでしょう?」

 「どうしてオーブにいるの?」

 「実は私、世界の平和を訴えるために地球各国
  でコンサートツアーを実施する事にいたしま
  した。地球連合加盟国では無理ですが、中立
  国とプラント同盟国を回る事になっています
  」

 「オーブでは新聞で報道してるわよ」

カナはラクスのオーブ入りを知っていたようだ。

 「それでね、ラクスに会えるかなって以前聞い
  た連絡先に連絡したの。その時にお兄さんが
  戻って来るって教えてあげたら、ラクスが会
  いたいって言うから住所を教えたのよ」

レイナ、ラクスといつの間に仲良くなった?

 「そうだったんだ。それで、いつオーブに来た
  の?」

 「はい、つい先ほどです」

 「今日は遅いから送りますよ。宿泊先はどこで
  すか?」

 「ここです」

 「ああ、ここなんだって・・・えっ!家?」

 「はい、レイナが泊まっていけばいいって」

 「お父さん、お母さん。別にいいよね?」

 「私は全然かまわないけど」

 「あの、ラクスさん。一つ質問があるんだけど
  」

 「なんですか?お父様」

ラクスにお父様と呼ばれた親父の顔は、珍しく真
っ赤になっていた。

 「あなたは確か、ザラ国防委員長のご子息と婚
  約をしていたと思うのだが・・・」

 「はい、それは事実です。しかし、その婚約は
  父とパトリックおじ様が決めた事で、本当に 
  私が好きなのはヨシヒロだけなのです」 

ラクスの気持ちを聞いて嬉しくなるが、少し恥ず
かしくもあった。

 「ヨシヒロ、可愛い彼女でよかったわね。お父
  さんも意地悪な事を言わないの」

 「いや、俺は別に反対してないんだけど、世間
  の噂を確認したかっただけで・・・」

 「お父さん、何言ってるの?」

親父は、カナにバッサリと切り捨てられてしまっ
た。

 「お父様、気になさらないでくださいね」

 「うん」

四十歳過ぎのおっさんが「うん」はないだろと思
うのだが、親父はラクスに素直に返事をしていた

 「でも、婚約者のアスランは可哀想ね。私も姉
  貴に聞いた時は驚いちゃった」 

 「カナ、知ってたの?」

 「うん、でもニコルにも秘密にしてるんだよ。
  さっき、メールが来た時動揺しちゃったよ」

 「そうか。でも、アスランならカガリちゃんと
  仲良くしてるから大丈夫だよ」

 「えっ、カガリってアスハ家の?」

レイナは俺の言葉に驚いているようだ。 

 「そうだよ」

 「知らなかった」

カナも続けて驚いている。

 「お前達こそ、カガリちゃんを知ってるの?」

 「オーブのお姫様じゃないの。知ってて当然で
  しょう」

あれ?カガリって、公式にはそれほど有名じゃな
かったような?

 「お父さんが、ウズミ様とお友達だから」

 「えっ、そうなの?」

 「左遷されてた時に色々お世話になったんだ。
  それが縁で、今は(M−1)の開発を任され
  ている」

 「親父ってそんなに偉いの?」

 「ヒラだけど、役員待遇だよ」

親父は、モルゲンレーテ社部長取締役に就任して
いて、モビルスーツの開発と量産を一任されてい
るらしい。

 「兄貴の方はどうなの?」

 「ヘリオポリスからずっと縁があってね。今は
  、モビルスーツの専属教官をやってる」

俺は、レイナ達にカガリとの関係を細かく説明し
た。

 「アスランにはそのような方がいたのですね。
  よかったですわ」

ラクスは自分の事のように喜んでいる。
障害が1つ消えた事も理由の一つなのだろうが。

 「まあ、色々あったけど丸く収まってよかった
  よ。俺は明日仕事だから寝るわ」

 「私も、明日はコンサート本番ですので」

 「私もキラのお手伝いがあるから」

 「私は休みだからニコルとデート。ラクスから
  プラチナチケットも貰ったし」

 「へえ、ニコルは積極的だな。大したものだ」

 「じゃあ、みんなおやすみなさい」

母さんが綺麗に閉めて、みんなが無事に就寝しよ
うとするが・・・。

 「ちょっと待て!カナ。ニコルって誰だ?」

 「私のボーイフレンド」

 「ありえない、認めないぞ!」

 「親父、カナも十六歳なんだから、ボーイフレ
  ンドの一人くらいるだろう。それに、さっき
  ニコルの名前が出た時に聞けよ。俺は眠いん
  だよ!」

 「うるさい!俺の可愛い天使だったカナとレイ
  ナが・・・」

 「お父さん、レイナとキラ君が付き合ってるっ
  て聞いて泣いちゃったのよ」

母さんが俺に過去の事を教えてくれた。 
四十歳過ぎのオッサンが泣くなよ・・・。

 「とにかく、眠いから明日にしよう。カナ、明
  日デートが終わったら、ニコルを連れてこい
  」

 「それはいいんだけど、ラクスはどうするの?
  」

 「ニコル様にも秘密を共有して貰いますわ」

 「それで決まり。親父、寝るぞ!」

ニコルに選択の自由はない。
死なばもろとも、秘密を共有して貰う事にする。 

 「俺の可愛い天使達が・・・」

 「ここに、可愛い息子がいるだろ」

 「こんなのヤダ・・・」

親父は俺を一瞥して、かなり失礼な事言う。
傷つく言い方だな。

 「みんな、バカは放っておいて寝るぞ」

埒が明かないので、約一名を除き俺達は就寝する
事にするが、親父は夜遅くまでイジケテいたよう
であった。


(オーブ滞在二日目)

翌日の朝、俺達は起床後に朝食を食べてそれぞれ
に出かける事にする。
モルゲンレーテ社に出勤すると、フラガ少佐では
なく渋いおじさんが俺を待っていた。

 「(黒い死神)か?」

 「ああ、ヨシヒロ・アマミヤだ。あんたは?」

 「モーガン・シュバリエ大尉だ」

 「(月下の狂犬)か。よろしく」

挨拶が終わった後、俺達は「ストライク」に乗り
込み、たくさんの計器やセンサーがついたコック
ピットに座る。

 「おはよう、お二人さん。早速、実戦的な機動
  や模擬戦をお願いするわね」

エリカさんから指示が無線で入り、俺達は演習場
まで「ストライク」を歩かせた。
 
 「モーガン大尉、手加減してね」

 「お前にそんな事できるか」

演習場でエリカさんの指示に沿って様々な動きを
行い、模擬弾や訓練用の剣を使って1対1で模擬
戦をする。
模擬戦ながら、緊迫した雰囲気で一通りの動作を
終えると、もうお昼になっていた。

 「ご苦労様。午後は収集したデータの解析と、
  OSの改良作業に入るから、あなた達はお休
  みよ」

 「俺は、お嬢さん方への訓練があるのでしょ?
  」

 「カザマは仕事熱心だな。俺は昼飯を食べたら
  買物へでも出かけるかな」

フラガ少佐とモーガン大尉は俺をカザマと呼ぶ。
アマミヤなんて偽名では呼ばないそうだ。

 「モーガン大尉、昼飯に行こうぜ」

 「ああ」

食堂へ向かい、テレビを見ながら昼飯を食べてい
ると、ラクスのコンサートが中継されていた。

 「ラクス・クラインか」

 「知ってるの?モーガン大尉」

 「月では人気があったぞ。中立国経由でレコー
  ドも入っていたし、俺も好きだ」

 「へえ、初耳だ」

 「ブルーコスモス系の将校が嫌な顔をするのだ
  が、好みの歌にまでケチをつけるから嫌われ
  ていてな」
 
 「なるほどね」

 「オーブなら品揃えが良さそうだな。新曲も売
  ってるかもしれないな」

そんな話をしていると、二人の女性が入って来た

 「ラミアス副長とバジルール中尉ではないか。
  一緒にどうだ?」

モーガン大尉が二人を同席に誘った。 

 「ええ、いいわね」

 「ご一緒させていただきます」

 「お二人はどうしてここへ?」

俺は二人に質問してみた。

 「(ドミニオン)の新機材の搬入手続きのため
  に来たのよ。ついでにお昼でもってね」

 「うちの艦長は来てないな」

 「こっちも艦長は来てないぞ。ラミアス少佐は
  副長だ」

 「あんな貧相な小男は見たくない」

 「言えてるな」

 「そうね」

 「それには賛同いたします」

呉越同舟ながら、四人の意見が一致する。 

 「人望もなさそうだね」

 「(アークエンジェル)の艦長はどんな人なの
  ?」

逆に、こちらの艦長の事をマリューさんに聞かれ
る。

 「結婚していて子供もいるけど、綺麗な人だよ
  。艦長としても優秀だし」

 「みたいね。最後の一撃は予想できなかったわ
  」

 「意外と負けず嫌いみたいでね」

 「では、私はこれで失礼します」

食事を先に食べ終わった、バジルール中尉が席を
立った。
やはり、敵である俺とは話しずらいようだ。

 「俺も出かけるとするか」

続けてモーガン大尉も席を立ち、マリューさんと
二人きりになったところで、彼女の方から話を切
り出された。


 「カザマ君、約束は守ってもらうわよ」

 「約束ですか?」

 「食事に誘ってくれるんでしょ」

 「えっ、あれはそのなんと言うか・・・」

 「駄目よ、約束は約束よ」

 「明日の夕方六時に正面玄関で。車を回します
  ので」

 「楽しみにしてるわね。それじゃあ」

話が決まると、マリューさんは席を立って「ドミ
ニオン」へと戻って行った。
しかし、驚いてしまった。
マリューさんが、ヘリオポリスでのあの出来事を
覚えていたとは。
とにかく、約束は約束なのでセッティングをしな
いと・・・。
俺はノートパソコンを開いてネットを検索した。

 「どこのお店にしようかな?」

俺のお昼休みは、お店探しとその予約に費やされ
たのであった。


午後の時間は、三人娘とカガリを鍛えまくる事に
する。
今日は基本動作の復習なので、ひたすら動き回ら
せた。

 「カガリちゃん、一人だけ遅れてるぞ。ランニ
  ング五週追加!」

 「畜生!なんで私だけ・・・」

人間の動作でモビルスーツでも出来る事を次々に
やらせる。
これは、俺やアスラン達もやっていた基本的な訓
練である。
三人娘は、それなりに訓練をやっていたようなの
でスムーズに動くが、カガリはまだまだのようで
あった。
訓練の時間はあっという間に過ぎ、夕方になって
しまう。

 「では、今日は終わり」

俺も一緒に訓練メニューをこなしているが、慣れ
ているのであまり疲労感は無かった。
勿論、四人はへとへとに疲れているが・・・。

 「カザマ、どうして疲れてないんだ?」 

 「何年もやってるからだよ」

 「こんな事を何年もやってるのか?」

 「ザフト軍のパイロットはみんなやってる。地
  球連合軍やオーブ軍だってそうさ。プロの軍
  人なのだから。カガリちゃんは将校なんだか
  ら、そのくらいの事は理解してないとダメだ
  よ」 

 「わかったよ」

 「では、今日は解散!」

俺は退社して家までの短い距離を歩いて帰宅する

家に戻ると、母さんが夕食の仕度をしていた。
リビングでは、ニコルとカナが先に帰宅していて
お茶を飲んでいた。

 「よう、ニコル。(アークエンジェル)のみん
  なは元気なのか?」

 「みんな結構暇なんで、半分ずつお休みなん
  ですよ。一日おきにお休みなんで最高です」

 「俺なんて、真面目に働いているのに」

 「みたいですね。カナから聞きました」

 「ラクスのコンサート最高だったよ」

 「俺も行きたかったけど・・・」

 「ヨシさん、大ファンですものね」

そんな話をしていると、レイナと親父が帰って来
た。

 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 「お邪魔させていただいています。ニコル・ア
  マルフィーです」

 「カナの父です」

普通に挨拶はしているが、その表情は不機嫌その
ものだ。

 「さあ、夕食が出来ましたからみんなどうぞ。
  ニコルさんも遠慮しないで」

 「はい、いただきますお母さん」

俺がニコルと付き合ってきて気が付いた事の1つ
に、彼があまり緊張しないという事と物怖じしな
いという事があった。
実は、あの六人の中で一番図太いのはニコルなの
だ。
音楽家は、大勢の観客の中で演奏しなければいけ
ないのだから、必要な才能なのだろう。

テーブルに着いて食べ始めようとした時にチャイ
ムが鳴り、ラクスも帰宅してくる。
今夜もいろいろと混乱しそうであった。

食後、お茶を飲みながら話をする。
今日のお茶請けは大福だった。
ニコルは草大福が、ラクスは豆大福がお気に入り
のようであった。

 「彼の名前はニコル・アマルフィー。プラント
  最高評議会のアマルフィー技術委員長の息子
  で俺の優秀な部下でもある。そして、カナと
  も付き合っているみたいだ」

 「よかったわね。お母さんはカッコイイ男の子
  大歓迎。レイナの彼氏のキラ君もカッコイイ
  ものね」

母さんはいい男なら特に問題はないようだ。

 「息子の俺もなかなかのイケメンだしね」

 「ヨシヒロはそれほどでも」

母さんは、それをキッパリと否定した。
ひどい母親だな!

 「カナ!お父さんは認めないぞ。お前は騙され
  ているんだ!」

「(騙されてるって何を騙すんだよ!)」俺は心
に中で親父にツッコミを入れた。

 「うるさいな、親父は黙ってろよ」

 「ニコル様は誠実な方ですわ。認めてあげてく
  ださいな」

 「うん」

 「早っ!」

何で親父はラクスに弱いんだ?

 「あの・・・。そういえば、どうしてラクス様
  がここにいるのですか?」

 「ニコル様、ラクスと呼んでくださいな」

 「ラクス、問題はそこじゃないよ」

カナの指摘は最もであった。

 「私は、愛する方にお会いするために、ここに
  いるのです」

 「アスランはここにいませんが?」

 「アスランではありません。ヨシヒロですわ」

 「えっ、それって・・・」

鋭いニコルは、真実を悟ったようだ。

 「ニコル、俺はお前達の交際を暖かく見守って
  きたよな」

 「ニコル様、秘密は守っていただきますわ」

 「わかりました・・・」

ニコルは秘密を共有する仲間になった。
だが、アスランと仲の良い彼は苦悩するであろう

 「アスランがヘタレだから悪いんですよね」

俺は大切な事を忘れていた、ニコルは誰よりも図
太い事を・・・。

 

夜遅くなると、ニコルは「アークエンジェル」に
帰っていき、俺達は就寝する事にする。
明日はマリューさんとデートだ。
さっきラクスに明日の晩の予定を聞いたら、政府
主催の晩餐会に出席するので遅くなるらしい。
とても都合がいい。
さて、明日はどうなるのだろう。
そんな事を考えながら床に就くのであった。


(オーブ滞在3日目)

朝、俺はいつものように家を出て出勤する。
今日はフラガ少佐と仕事をしたが、マリューさん
とデートをする事実は隠さねばならない。
仕事自体は昨日と変わりなく終了し、午後はカガ
リ達の訓練で時間を潰す。
待ち合わせの時間が近づいたので、着替えて正面
玄関に行くと、すでにマリューさんが待っていた

 「ダメよ、女性を待たせては」

 「十分前ですよ」

 「それでもダメ、今日はどこに連れていってく
  れるの?」

 「今、車がきますから」

予約していたタクシーが到着したので、二人で乗
り込む事にする。

 「でも、この服装だとたいした場所に行けない
  わね」

 「大丈夫ですよ。そこのところは抜かりはあり
  ません」

タクシーは俺の指示であるブティクに到着する。

 「予約してたアマミヤだけど、早速頼むね」

 「かしこまりました」

店員はマリューさんを奥に案内する。

 「俺も適当に何か頼むよ」

 「はい」

暫らくすると、赤い胸元の開いたドレスを着たマ
リューさんが出てくる。

 「とても良く似合いますよ」

 「ありがとう。ねえ、どうしてサイズがわかっ
  たの?」

 「俺は目視で女性のサイズが大体わかります」

 「あまり自慢できる特技ではないわね」

 「今日は役に立ちましたよ」

服装が決まったので、俺達は店を出て予約したレ
ストランに向かう。
このお店はオノゴロ島一の高級店で、昨日ネット
で見つけたので予約しておいたのだ。

 「いらっしゃいませ」

 「予約していたアマミヤですが」

 「お待ちしていました。こちらへどうぞ」

俺達は、席に通されてからメニューを渡された。
その後、適当に料理を選んでから、それに合うワ
インをソムリエに聞いてから選んだ。
ワインが注がれ、オードブルが運ばれてきたので
乾杯をする事にする。

 「では、二人の再会を祝して」

 「「乾杯」」

 「今日はあまりに用意がいいから驚いてしまっ
  たわ」

 「まあ、多少は経験ありなんで」

 「本当に多少なの?」

 「そうしておきましょう」

オードブルの皿が空くと、タイミングを見計らっ
て次の料理が運ばれてくる。
高級店だけあって味も中々だ。
料理とワインを楽しみながら、二人は様々な話を
する。

 「でも、あなたは不思議な人ね。私の婚約者を 
  殺したのはあなたなのかも知れないのに、憎
  しみが湧いてこないわ」

 「俺も先日部下を殺されたのに、あんまりわだ
  かまりがありませんね」

 「そうね、でも私は規格外軍人だから」

 「俺も、あなたと会っている時点で軍人失格で
  すよ」

 「私も今日出かけるって言ったら、ナタルに色
  々聞かれてしまって困ったわ」

 「ナタル?バジルール中尉の事ですか?」

 「ええ、友達なのよ」

 「あの人と友達なんですか?」

 「彼女、とっつきにくい面もあるけど、意外と
  女性らしいし可愛いところもあるのよ」

 「まあ、美人なのは認めますけど。キツイ美人
  が好きな男も多いですから」

 「あら、彼女にはキツイのね」

 「ヘリオポリスで彼女がもう少し早く降伏して
  いれば無駄な犠牲は減りましたからね。部下
  も民間人も」

 「彼女は彼女なりに一生懸命だったのよ。少尉
  でいきなり艦の責任者にされたら、誰でも混
  乱するわよ」

 「マリューさんは優しいですね」

 「軍人としては失格だけどね」

 「いいんじゃないですか?戦争の拡大で俄か仕
  官が増えてますから。それを除いても、プリ
  ンスみたいなバカが大佐ですからね」

 「あいつはコネで出世してるからね」

 「アズラエル派ですか?」

 「よく知っているわね」

 「まあ、情報はいろいろと」

さらに話し込んでいると、デザートが運ばれてく
る。

 「でも、残念ね」

 「何がです?」

 「せっかく良い男なんだけどね。もう二〜三歳
  年上なら良かったのに。それに、本命がいる
  みたいだし」

 「どうしてわかるんですか?」

 「女の勘よ。で、実際は?」

 「色々障害がありますけど、彼女の事は愛して
  いますよ」

 「残念」

 「マリューさんなら、他にいくらでも彼氏が出
  来そうですけどね。フラガ少佐やモーガン大
  尉はどうなんですか?」

 「モーガン大尉は妻帯者よ。フラガ少佐はいい
  人なんだけど、少し軽いのよね。それに、ナ
  タルが彼に気があるみたいなのよ」

 「そうなんですか」

 「まあ、気楽に探すとするわ。さてと、そろそ
  ろ時間ね。艦に戻らないと」

 「送りますよ」

 「ありがとう」

席を立って入り口に向かうと、一組の若い男女が
前で会計をしていた。
よく見ると、アスランとカガリだった。

 「カガリちゃん、今日は晩餐会じゃないの?」

 「そんなのはサボったって、カザマか!」

 「やあ、カガリちゃんアスランとデート?」

 「まあ、そんなところだ」

カガリは全く否定せず、「女性は強し」を実地で
示していた。

 「えっ、ヨシさんどうしてここに?」

アスランが俺に気が付いて、驚いた表情のまま話
かけてくる。 

 「以前の約束を果たしにきたのさ」

 「よくわかりません」

 「ラクスは晩餐会に出てるんだろ?」

 「すいません。この事は内緒に・・・」

 「秘密は守ろう。俺の方も内密に頼むな」

 「はい、それは勿論」

お互いに後ろめたい点がある同士、裏取引が即座
に成立する。

 「では、俺は彼女を送っていくから。アスラン
  、門限に遅れるなよ」

俺達は、先にタクシーに乗って店を後にした。

 「彼女達は誰?」

 「オーブのお姫様とプラントの王子様の秘密の
  恋」

 「ふうん、ロマンチックね」

 「俺も当事者だから。王子様の婚約者を奪って
  しまったからね」

 「でも、彼には他に相手がいるから大丈夫でし
  ょう?」

 「それでも内緒なのさ」

 「わかったわ、私も秘密は守るわ。今日は楽し
  かったわ、次はいつかしら?」

 「戦争が終わって、お互いに生きていたらです
  ね」

 「そうね、お互いに生きていたらね。それで、
  このドレスは返さないでいいの?」 

 「プレゼントですよ」

タクシーはモルゲンレーテ社の正面玄関に到着す
る。

 「では、また今度」

 「また今度ね。カザマ君、目をつむってくれる
  ?」

 「はい」

目を瞑ると、彼女の香水の匂いと、口びるの柔ら
かい感触が伝わってきた。

 「今日のお礼よ。じゃあね」

マリューさんは小悪魔的な笑みを浮かべながら、
「ドミニオン」に帰っていった。

 
いきなりの幸運に、浮き上がりそうな体を抑えな
がら帰宅すると、玄関で冷たい笑みを浮かべたラ
クスが立っていた。
どうやら、バレてしまったらしい。
俺の心は、一気に絶頂からどん底に落下した。

 「ヨシヒロ、今日は美しい方と楽しいデートで
  良かったですわね。私は最近、デートに連れ
  ていって貰っていないのに」

 「あの、ラクスさん。これには色々と事情があ
  りまして」

 「お部屋で詳しく伺いますわ。いらしてくださ
  いな」

怖い!最悪だ!誰だ情報を漏らしたのは?

 「兄貴、悪いわね。ちょうど出かけるところを
  目撃してさ」

 「お兄さん、浮気はラクスが可哀想よ」

 「ラクスさん、甘やかしてはだめよ」

母さん、俺をかばってくれないのか?

 「処置なしだな」

 「親父だって、会社の若い女性を食事に誘って
  いるだろうが!」

 「ヨシヒロ!お前!」

 「うるさい!道連れだ!」

 「お父さん、あなたにもお話があります」

 「お父さん、不潔」

 「所詮、親子なんだよね」

親父と俺は、汚物を見るような目でレイナ達に睨
まれ、明け方まで説教されたのであった。


(オーブ滞在4日目)


急遽、俺は休みを貰う事になった。
原因は昨日の浮気騒動のせいだ。
親父が色々と便宜を図ってくれるそうなので、特
に問題は無いらしい。
親父は、昨日の件で更にラクスに弱くなってしま
ったようだ。
今日はレイナもお休みでキラと遊びに出かけるら
しいのだが、彼女達は首都近辺まで出かけるよう
なので、俺達とは鉢合わないだろう。

俺達はオノゴロ島のショッピングモールへ出かけ
た。
ここには多数のアウトレットショップが出店して
いて、デートスポットとしても有名であった。
今日のラクスは、カナに借りたTシャツとジーン
ズ姿でベースボールキャップを被って髪を隠して
いた。
いつもと違う格好にドキドキしながら、様々なお
店を巡る事にする。
彼女にアクセサリーなどをプレゼントして、お昼
はファーストフードのお店に入る。
俺は、アカデミー時代にはよく利用していたのだ
が、ラクスは初めてのようだ。
良家のお嬢様だから、当たり前なのだが。

 「私、ハンバーガーって初めて食べます」

世の中には想像を絶するお嬢様が存在するようだ

午後は、彼女が行ってみたいという場所に行って
みる事にするが。

 「あの、ラクス。ここは・・・」

世間でいうところのラブホテルという場所だ。
俺は、オーブにもあるのだと感心してしまった。

 「レイナがとても面白い場所だと教えてくれま
  したので」

どうやら、レイナはキラとこっそりと行っている
らしい。  
肉親の生々しい話を聞いて多少テンションが下が
ってしまうが、ここは素直に入る事にする。

 「わかりました。入りましょう」

躊躇する歳でもないので遠慮なく入る事にして、
約三時間後にホテルから出てくる。

 「ゲームやカラオケまでできるのですね。私の
  歌はまだなかったようですが」

 「その内に入るでしょうから大丈夫ですよ。今
  更なんですけど、スキャンダルとかになりま
  せんか?」 

 「その為のクライン派ですわ」

えっ、そうなの?ラクスの発言に危険なものを感
じたのだが、考える事は止める事にする。
考えると負けである事を本能で理解しているから
だ・・・。

二人でホテル街を歩いていると、別のホテルから
若いカップルが出てくるところを目撃した。

 「レイナの情報は確かだったわね。面白いし、  
  秘密は保てるし」

 「本当だな」

何となく見覚えというか、完全に見覚えがあるの
で目を凝らしてよく見ると、その二人はラスティ
ーとシホであった。

 「えっ、ラスティー、シホ・・・」

 「ヨシさんと・・・ラクス様!」

 「ラスティー様、シホお久しぶりですね」

 「ラクス・・・、ヨシヒロさん・・・」

四人でお互いの名前を呼びながら、硬直していた
のだが、俺は事態の解決を図る事にする。
 
 「話合いが必要だな」

 「「「ええ」」」


俺達は自宅に戻り、二階の空き部屋で密談を始め
た。

 「つまり、ラクス様はヨシさんが好きで、アス
  ランはカガリが好きって事?」

 「そういう事だ」

 「ラスティー様、ラクスと呼んでくださいな」

 「で、シホはこの事を知っていたと」

 「カガリとアスランの事は知らなかった。ごめ
  んね、ラクスとの二人だけの秘密だったから
  」

 「でも今では、俺の家族とニコルも知ってるぞ
  」

 「そして、俺も秘密を知ってしまったわけだ」

 「秘密は厳守してもらうよ」

 「わかりました」

 「では、話は無事終わりだ。親父達も帰ってく
  るから、夕食にしよう」

 「「「了解」」」

下に下りると、親父達が帰宅していたので、ラス
ティー達を紹介して夕食にする。

 「お母様が作ってくれるメニューに似てますね
  。とても美味しいです」

夕食のメニューは、半分日本人のシホには好評だ
った。

夕食後、お茶を飲みながら話をする。
今日のお茶請けは近所の人に貰った「白い恋人ブ
ラック」であった。

 「あの、ヨシさん。どうして黒いのに(白い恋
  人)なんですか?」

日本に滞在した経験が少ないシホは、不思議でし
ょうがないらしい。 

 「普通の(白い恋人)は白いからだ」

 「黒いのなら(黒い恋人)すればいいのでは?
  」 

 「それだと不吉だろう」

 「そんなものですか?」

 「日本人とはそんなものだ。ところで、みんな
  は元気か?」

 「退屈なんで、休暇取りまくってますよ。隣の
  船も全然人がいません」

軍人達の堕落ぶりに少し心配になってしまった。

 「パイロット連中は?」

 「アスランとニコルは休日になると出かけて、
  夜まで帰ってきません。俺達はデートしてい
  ますし。ディアッカは1人で何かしてます。
  イザークだけは気合いを入れて訓練してます
  」

 「あいつは真面目だからな。
  もう少し遊べばいいのに」

 「たまに趣味に没頭してますけど・・・」

イザークの趣味は民俗学研究で、日本の古いもの
が大好きだ。
十七歳にしてはジジムサイ趣味だ。

 「タリア艦長は休日は旦那さんと会ってるみた
  いですし、副隊長は買物に行ったり、釣りを 
  楽しんでいるようですよ」

 「アーサーさん、釣りが趣味なの?」

 「いいえ、海岸を散歩してたら釣りをしてたお
  じいさんに気に入られて、それからだそうで
  す」

 「あの人らしいな」

 「ええ」

話し込んでいたら遅くなってきたので、ラスティ
ー達は「アークエンジェル」に帰り、俺達は普通
に就寝するのであった。  


(オーブ滞在5日目)

この日は会社では特になにも無かった。
夕方家に帰ると、夕食の材料が足りないので買物
をしてきて欲しいと母さんに頼まれた。
俺は親父の車を借りて買物に行く。
と言っても、モルゲンレーテ社の社用車なのだが

付いてきたラクスとカナと目的の品物を探してい
ると、髪の赤い少女が買物をしていた。

 「あれ?フレイ、何やってるの?」

 「カナ、久しぶりね。研究の手伝い大変そうね
  。それと、ヨシヒロさんお久しぶりです」

 「やあ、久しぶり。夕食の買物かい?」

 「ええ、別宅にお客さんが来るから。
  初めてだけど、料理でもしようかと」

えっ、初めて・・・、ご冥福をお祈りします。 

 「フレイ、料理できないでしょ・・・。そのお
  客さん死んじゃうよ」

カナはフレイの料理の腕前を知っているらしく、
止めに入った。

 「失礼ね!大丈夫よ」 

根拠があるのかは不明だが、フレイはそれをキッ
パリと拒絶した。

 「あの、フレイさんの得意料理は何ですか?」

 「ええとね、あっあなた、ラクス・クライン!
  」

フレイは、新聞に載っていたラクスがスーパーに
いるとは思っていなかったようで、驚きの声を上
げていた。

 「はい、ラクス・クラインと申します」

 「ないけど、大丈夫よ」

 「あの、フレイさんは誰に作るのですか?」

 「一応、婚約者みたい」

 「一応?サイが言ってた新しい婚約者?」

 「ええ、そうよ。いきなり変わるから実感はな
  いけど」

 「そう、大変だね」

 「どうせ、すぐに婚約解消になるわよ。セイラ
  ン家はそれで有名だから」

セイラン家と言えば、五大氏族で名家のはずなの
だが、俺には名家の事情が理解できなかった。

 「まあ、私は普段料理しないから。ラクスさん
  もそうでしょ」

 「ラクスは料理上手だよ」

俺にも良く作ってくれるし、味も良いのでそれは
事実だ。

 「嘘!まずい、私も料理くらいね・・・。じゃ
  あ、私は急ぐからまたね」

彼女は風のように去っていってしまった。 

 「あの娘がよくわからない・・・」

 「私も友達だけど・・・」

 「あのスタイルは羨ましいですわね」

ラクスは多少、胸にコンプレックスがるようなの
で、フレイのスタイルが羨ましいようだ。
その後、普通に買物を済ませてから、俺達は帰宅
するのであった。

 


(オーブ滞在六日目)

この日もそれほどの出来事はなかったが、午後に
カガリ達の特訓をしていると・・・。

 「よし!今日はここまで」

 「なあ、カザマ」

 「何?カガリちゃん」

 「私達は上達しているのか?お前に全然歯が立
  たないんだけど」

 「あのね、俺は三年以上訓練してるの。一週間
  で抜かれたら俺の立場がないでしょ。大丈夫
  だよ、確実に上達してるから」

 「そうだよな」

カガリは納得してくれたようだ。
仕事を終えて家に帰ると、ラクスが出迎えてくれ
る。
はじめは驚いたが、今ではそれに慣れてしまい、
嬉しくもあった。

 「愛する方を出迎えるのが、快感になってしま
  いましたわ」

 「いいな、ラクス」

 「私もキラを出迎えたい」

 「そうね。お父さんなんか出迎えても面白くな  
  いものね」

 「ううう・・・」

一人悲しんでいる親父がいたが、皆に無視されて
いた。

 


(オーブ滞在七日目)

今日はいよいよ最終日である。
午前中にフラガ少佐とモーガン大尉に出会う。
今日は、二人とも揃っているようだ。

 「俺達は明日出発だからな。今の内に挨拶をし
  ようと思って」

 「そうですね。次に戦場で会ったら確実に俺が
  倒しますから、今のうちに謝っておきます」

 「言ってくれるね。俺達も仕事だからさ勘弁し
  てくれよ」

 「会わない事を祈ります」

 「無理だろうけど」

 「ところでさ。お前、ラミアス少佐とデートし
  たんだって?」

フラガ少佐はどこかで聞きつけてきたらしく、俺
に詳しい状況を聞いてきた。

 「違いますよ、以前の約束を果たしただけです
  」

 「本当か?」

 「本当です。そんなに心配なら、もう少ししっ
  かりしてくださよ。フラガ少佐は少し軽いそ
  うです」

 「えっ、そうなの?もっとしっかりするか」

 「無理だろうな」

モーガン大尉の的を得たツッコミがフラガ少佐に
入った。

 「ひどいな、大尉は」

 「事実だろう」

 「じゃあ、時間だからさ。じゃあな」

 「さらばだ」

彼らと別れた後、研究室に顔を出すとエリカさん
がいた。

 「あら、カザマ君。今までありがとうね」

 「俺、役に立ってたんですか?」

 「十分に役に立ったわよ。あれを見て」

研究ブースのガラス越しに一機の「M−1」が見
える。
その動きは一週間前よりも洗練されていた。

 「あなた達の洗練された動きが再現されている
  からね。これだけで性能がアップしているわ  
  」

 「そうですか。あのパイロットは誰なんです?
  凄い腕前ですね。カガリちゃん達より遙かに
  上ですよ」

 「気がついたのね。彼が例の天才技術者よ。テ
  ストパイロットとしても優秀なの。彼と模擬
  戦をしてみない?」

 「いいですね。わくわくしますよ」

俺もパイロットのはしくれ、凄腕のパイロットに
は興味がある。
俺は自分の「M−1」に乗り込み、演習場へと歩
いて行く。

 「では五本勝負ね。はじめ」


模擬戦は熾烈さを極め、結果は三本を取る事がで
きた俺の勝ちだった。
しかし、俺が勝てたのは経験値で勝っていたから
だ。
こいつの技量は異常だ。
多分、アスラン達でも勝てない。
反応速度、動体視力、運動神経、全て俺に勝ち目
はなく、奴が経験を積めば確実に俺は勝てなくな
るだろう。

 「なんなんだ?こいつは・・・」

「M−1」から降りたパイロットを見ると、それ
は見た事のある少年であった。

 「キラ・・・」

 「ヨシヒロさん・・・」

 「天才技術者はやっぱりお前か・・・。でも、
  パイロットは想像できなかった」

実は、俺は天才技術者の正体はキラであると確信
していた。
ヘリオポリスで解析を頼まれていたジンのOSの
量を見て、普通の学生が1人でやるような量では
なかったからだ。
あの量を一人でこなすような奴は、本当の天才だ
と思っていたのだ。

 「しかし、大した腕だ。お前、アスランよりも  
  確実に上だぞ。どのくらい訓練したんだ?」

 「OSを研究するなら自分でも操縦できた方が
  いいと思いまして、二ヶ月ほどです」

二ヶ月のみでここまで成長したら、更に訓練を積
んだら大変な事になってしまう。
こいつが、俺達の敵にならない事を祈るのみだ。

 「大丈夫よ、彼は戦場に出さないもの」

俺の表情を読み取ったエリカさんが、キラを実戦
に出さない事に太鼓判を押した。

 「キラが一戦場で活躍するより、OSを開発し
  た方が戦力は上がりますしね」

 「そういう事」

いくらキラが凄腕でも、戦況を一人では変えられ
ない。
それよりも、OS開発者のキラの方が敵には脅威
のはずだ。
俺達も一対一では倒せないが、集団で倒せば問題
ない事も事実なのだ。

 「でも、キラの存在は秘密なんんでしょ?俺に
  教えてもいいの?」

 「もう、プラントにも連合にも知られてしまっ
  たの。それで、プラントの情報部とは協定を
  結んで、彼を地球連合に渡さないように努力
  しているわけ」

 「プラントでは、キラのOSはそれほど役に立
  たないですしね」

 「ええ、だからこの件に関しては協定を結んだ
  のよ」

 「キラも大変ですね」

 「監視が物凄いもの」

あれ?そんな厳しい監視下でレイナと
あんな所に行ってるの?
ラブホテル前を見張る多数の護衛の人間に同情し
てまう。

 「あなたのお父さん、最近機嫌が悪いのよ」

 「何となくわかります」

それは、娘が彼氏とラブホテルに行っている報告
を聞かされるのだから、機嫌も急降下するであろ
う。
その後、取り留めのない話をしてから、俺は昼食
を取りに食堂に行くのであった。


午後の時間は、カガリ達への最後の訓練になった

いつも通りに訓練を行いながら、修正すべき点、
長所として伸ばす点を一人ずつ確認しながら、デ
ィスクに記載していった。
 
 「じゃあ、今日で訓練は終わりだ。後はこのデ
  ィスクの内容に沿って自主訓練してね」

 「「「了解で〜す」」」

 「わかったよ。なあ、カザマ。お前戦争が終わ
  ったらオーブに来ないか?モルゲンレーテ社
  でも軍でもいいし、私の護衛でもいいぞ。そ
  うすれば家族も安心するだろう。レイナとカ
  ナも喜ぶぞ」

 「妹達を知ってるの?」

 「最近、ここで知りあった。なっ考えておいて
  くれよ」

 「わかった、選択肢として考えておくよ」

 「そうか、よかった」

 「「「会話に入りこめない・・・」」」


モルゲンレーテ社で別れの挨拶をすませて、家に
帰ると母さんが俺の送別会の準備をしていた。
今日は、庭でガーデンパーティーを開くようだ。
先にキラ達が来ていて、テーブルを並べたり照明
を置いたりして準備をしていた。
女性陣はレイナ、カナ、ラクス、ミリィが料理を
手伝っている。
準備も終わり、親父が乾杯の音頭をとった。

 「今日はバカ息子のために、わざわざありがと
  うございます。では乾杯!」

 「「「乾杯」」」

 「バカは余計だろうに・・・」

俺が文句を言っていると更に来客が現れた。

 「悪い、抜け出すのに時間がかかってさ」

 「あれ?カガリちゃん」

 「「「私達もいるわよ」」」

カガリが、三人娘を引き連れて現れた。

 「カザマ君、元気に仕事してた?」

 「今日はご馳走になるよ」

 「私も連れてきてもらいました」

タリア艦長とデュランダル外交官とアビー嬢も、
続けて登場した。

 「すいません、遅れました」

 「誰が行くか、じゃんけんで決めたんで遅くな
  りました」

 「ヨシヒロさん、勝ちましたよ」

ニコル、ラスティー、シホもやって来た。

 「タリアさん、アーサーさんは留守番ですか?
  」

 「半分は仕事だから仕方ないわ」

 「後で差し入れでもしましょうか?」

 「そうね」

 「ニコルは勝負強いな」

 「アスランとイザークは、最初に出す手が決ま
  っているんです」

 「あいつら優秀なんだけど、どこか抜けてるか
  らな」

 「これも勝負です」

ラスティーとシホも、自分達が勝てたのでそれで
良しと考えているようだ。

 「それでは、勝者は楽しんでください」

 「「「了解」」」

パーティーは始まり、デュランダル外交官は親父
と酒を酌み交わし、タリア艦長は同じく遅れてや
ってきたキラの母さんとウチの母さんと話始め、
若い連中は一つに集まって話はじめる。

 「結構、楽しい一週間だったな。戦争がないっ
  てすばらしい」

 「確かに楽しかったですね」

 「ニコルはカナと一緒にいられたからでしょ」 

 「シホとラスティーは、一緒の休みが多かった
  ですね」

 「そ、それは・・・」

 「シホ、気がついていないのはイザークとアス
  ランくらいなんだから、隠さなくていいわよ
  」

タリア艦長が、大声で真実を教えてくれた。

 「ブリッジ要員で、気が付いていない人なんて
  いませんよ」 

アビー嬢も続けて発言する。

 「そちらはラブラブでいいわね」

 「ミリィーはトールがいるじゃない」

 「レイナもキラがいるじゃない」

 「あぶれてるのは俺達だけ?」

婚約を解消され、彼女もいないサイが確認すると
、カズイから衝撃の事実が飛び出した。

 「ごめん。僕、カレッジの先輩と付き合ってる
  」

 「ああ、やっぱり俺だけ・・・」

 「俺も一番年上だけどそうだから」

 「ヨシヒロさんも1人ですね。モテそうですけ
  どね」

サイが不思議がっているが、本当は彼女がいるの
で少し悪いような気がした。

 「じゃあ、私が貰うわ!」

いきなり一人の赤髪の少女が乱入してくる。

 「遅れてごめんね。ミリィーに誘われたんだけ
  ど、バカ婚約者を撒くのに時間がかかってね
  」

フレイは俺に抱きつきながら遅れた理由を説明し
た。
ラクスでは味わえない豊かな胸の感触をお腹で楽
しみながら、マリューさんクラスである事を確認
した。

 「いや、それはいいんだけど。フレイはヨシヒ
  ロさんが好みなの?」

ミリィーが突然の事に動揺しながら、フレイに質
問をする。

 「ええ、いい男だもの。紳士だし。頼りがいが
  あるし」

 「あの、フレイさん。俺はコーディネーターだ
  よ」

 「それはいいの。ブルーコスモスの教えに従っ
  て、私と結婚して子供を作れば、コーディネ
  ーターはナチュラルに回帰してくのよ!」

フレイは物凄く強引な自説を展開する。
確かに、ブルーコスモスの初期の活動目的はそれ
だったはずだが、俺と大西洋連邦外務次官の娘と
の色恋沙汰は危険であろう。

 「フレイには婚約者がいるだろう」

サイが俺に助けを出してくれた。
彼の気配りに、心の中で感心と感謝をしてしまう

 「サイ、ごめんなさい。あなたはいい人だった
  けど、新しい婚約者は最悪!絶対に嫌!」

そこまで嫌われる男ってどんな奴なのだろう?

 「サイさんっていい人で終わるタイプなんです
  ね」

アビーの鋭い指摘にキラ達が全員で頷き、サイは
悲しそうな表情をしている。 

 「それで、ヨシヒロさんはどう思っているんで
  すか?」

ミリィーが俺に最終決断を迫ってきたが、非常に
困った事になってしまった。
ここで、ラクスの事を話すと大混乱に陥ってしま
う。
デュランダル外交官、タリア艦長、カガリ、アビ
ー、キラの母さんなど、他にも数人の人達がいて
全員に秘密が漏れたら、爆発的に広がってしまう
可能性があった。  

秘密を共有しているシホ、ニコル、ラスティーも
困ったような表情をしていて、レイナ、カナ、キ
ラも同様であった。
ふとラクスの方を見ると、彼女は微笑んでいるが
、後ろに絶対零度の暗黒のオーラが見える。
彼女の異変に気が付いたシホも金縛りにあったよ
うに動かなくなっていた。

 「わかりました。今まで隠してきましたが、も
  う我慢できません。ここにいる皆さんにお話
  しておきます。私が唯一愛し、将来を誓って
  いる人は、ここにいるヨシヒロだけです。ア
  スランとは親同士が決めた婚約者でしかあり
  ません。そこのところを理解しておいてくだ
  さい」

突然の事実の公表に全員の表情が凍りつき、全員
が首をカクカクと縦に振っていた。

 「デュランダ次期外交委員長!」 

 「はい、ラクス様」

 「わかっていますね」

 「はい、承知しております」

 「タリア艦長!」

 「はい、なんでしょう」

 「戦争が終わったら、プラントに戻りたいです
  か?」

 「戻りたいですわね」

 「ではよしなに」

 「カガリさん」

 「えっ、私?」

 「アスランと仲良くしてくださいね。秘密の厳
  守もお願いします」

 「アスランにもか?」

 「はい、当然です」

 「その他の方々も口外無きようにお願いします
  」

 「「「はい」」」

その後は、右側にフレイ左側にラクスが腕を組ん
できて、何も食べられず飲めずで最悪だった。
みんなは俺を意図的に避けているようだ。

 「お腹すいた」

 「ヨシヒロ、はいあーんして」

 「ヨシヒロさん、はいどうぞ」

みんなの視線が俺に突き刺さった。

 「フレイさんは、オーブでヨシヒロとお別れで
  すけど、私はコンサートツアーで付いて行き
  ますから」

 「くやしい!でもラクスさん、予定ってものが
  あるでしょうが!」

 「ヨシヒロの部隊の行動予定は、パトリック小
  父様に聞いているので大丈夫ですわ」

どうやら、ザラ国防委員長経由で俺の行動が筒抜
けになっているようだ。
だから、あんなタイミング良く現れる事ができた
のであろう。

 「デュランダル外交官、助けて・・・」

 「昔の人は言った。君子危うきに近寄らず」

 「親父助けて・・・」

 「モテる男は敵だ」

 「みんな助けて・・・」

 「自分で精一杯」

 「アスランが不憫で・・・」

いや、アスランは決して不幸じゃない。

 「アスランは休みに僕の家に来て、ラクスの自
  慢をしてたんだ。カガリみたいな暴力女なん
  て、好きになるわけがない」

キラはすっかりアスランに騙されているようだ。
二人は休日に仲良くデートをしていて、完全に付
き合っている状態なのだ。

 「キラ!暴力女で悪かったな!」

 「だって、事実じゃないか」

キラはカガリに含むところがあるらしく、カガリ
と新たな争いを開始してしまった。
  
 「はいはい、みんなデザートよ」

不穏な空気が拡大するかと思われたその時、母さ
んの一言で争いが終了する。
母の力は偉大だであるようだ。
デザートは普通のイチゴだったがとても美味しか
った。
その後、「アークエンジェル」組は残った料理を
お土産にして艦に戻り、カレッジ組は家路に着い
た。

 「必ず、私の物にするわ!」

フレイはラクスに宣戦布告をして帰っていった。
これから俺に新たな重荷が増えるようだ。
こうして、俺の一週間のオーブ生活は終了したの
であった。


(ドミニオン艦内)

 「やっぱり、カザマ君には女難の相があるわね
  。手を出さずに大正解」

 「ラミアス少佐何を見てるんです?」

 「月刊誌の占い」

 「当たるんですか?」

 「ナタルも女性なんだから、こういうのも見な
  さいよ」

 「占いなんて非科学的なものは信じません」

 「固いわね。フラガ少佐との相性はいいみたい
  よ」

 「本当ですか?」

「ドミニオン」は明日出港でったが、艦内は平和
そのものであった。


(オーブ滞在最終日)

俺は、朝起床をして荷物をまとめてから、家族に
別れの挨拶をする。

 「いろいろありがとう。楽しかったよ。戦争が
  終わったらまた来るから」

 「元気でね。体に気をつけて」

 「変な女に引っかかるなよ」

下らない事を言って、親父は全女性陣ににらまれ
る。

 「兄さん、元気で」

 「必ず帰ってきてね」

 「いろいろお世話になりました。お義父様、お
  義母様」

お父様・お母様の感じが微妙に違う気がする。

 「ラクスまた来てね」

 「ラクスさん、ヨシヒロを頼むわね」

 「ばいばい、ラクス」

 「息子をお願いします。ラクスさん」

俺は、ラクスをモルゲンレーテ社で借りた車に乗
せて空港まで送っていく事にした。

 「ラクス、次のコンサートは何処なの?」

 「カーペンタリア、ジブラルタル、ビクトリア
  、ケープタウン、マダガスカル、赤道連合、
  カオシュンの順番です。次はカオシュンでお
  会いしましょう」

 「俺、次はカオシュン?」

 「はい、そうらしいです」

最重要機密の俺達の行動を、なんでラクスが知っ
ているのだろう?
でも、正確な情報なのも事実であるので、参考に
させて貰う事にする。
暫らく車を走らせると、空港に到着した。

 「じゃあね、ラクス。昨日は焼もちを焼いてく
  れて嬉しかったよ」

そう言って、ラクスとキスをしてから別れた。
その後、車を返して秘密ドックに帰ると、一週間
ぶりの「アークエンジェル」は新品の様になって
いた。

 「ただいま戻りました。タリアさん、アーサー
  さん」

 「お帰りなさい。楽しかったでしょ」

 「私もいい骨休めになったよ」

 「ええ、こんな任務なら大歓迎ですけど。さて
  、アスラン達の様子でも見てきますね」

 「カザマ君、二時間後にデュランダル外交官が
  補充のモビルスーツと傭兵の補充兵を伴って
  来るので、ブリッジに集合してくれとの事だ
  よ」 

 「わかりました」

俺が、ブリッジにから格納庫に降りると、艦内の
修理も完璧に終わっていて綺麗な状態であった。

 「よう、アスラン久しぶりだな」

 「ヨシさん楽しかったですか?」

 「一応、仕事をしてたの」

 「カガリを教えてたらしいですね」

 「まあ、基本だけね」

 「ヨシさん、お久しぶりです」

 「ディアッカ、ナンパは成功したか?」

 「ははは、それよりオーブでいい物を手に入れ
  たのに、イザークが偽物だって言うんですよ
  」
ナンパの成功率の話は、笑いで誤魔化されてしま
ったが、ディアッカの成果を聞いておくことにす
る。
 
 「何を手に入れたんだ?」

 「千利休の作った扇です。今度の発表会で使い
  ます」

 「ディアッカ!千利休は茶道の有名人だ。扇な
  んて作っていない」

 「いくらだったんだ?ディアッカ」

 「1000アースダラーです」

 「千利休も扇を作っていたかもしれないけど、
  1000アースダラーは安すぎだ」

 「ほらみろ。俺は目利きだからそんな偽物には
  引っかからない。俺の人魚のミイラは本物だ
  !」

 「人魚なんているわけないだろ」

 「昔はいたんだ。環境破壊で絶滅したんだ」

 「イザークよ、昔はサルや鯉の体を継いで偽者
  の人魚を作っていたんだ」

 「本当ですか?」

 「中にはそうでないものもあるんだが・・・」

 「2人は無駄な散財をしたんですね」

ニコルが二人に冷静にツッコミを入れた。

 「ちきしょう!」

 「あの骨董屋のオヤジ!」

「アークエンジェル」艦内とイザーク達は相変わ
らずのようであった。


二時間後、ブリッジでデュランダル外交官から、
補充モビルスーツと、傭兵パイロットの紹介をさ
れる。

 「使用機種は(M−1改飛行試験型)が五六機
  納入されます。この機体は(ストライクルー
  ジュ改)からデータを取った飛行パックシス
  テムを搭載した新機種です。補充パイロット
  は四名です」

俺の次の新型機は、オーブ製のモビルスーツにな
るらしい。

 「では、パイロットを紹介する。入ってきなさ
  い」

デュランダル外交委員長の合図で、逞しい男性パ
イロットが一人と若い女性パイロットが三人入っ
てきた。

 「えっ、君達は・・・」

 「モトユキ・ババ元一尉です」

 「マユラ・ラバッツ元三尉です」

 「アサギ・コードウェル元三尉です」

 「ジュリ・ウー・ニェン元三尉です」

 「隊長のカザマですよろしく・・・」

 「カザマ隊長はこのままカオシュンに向かって
  くれ。本国の指示ではそうなっている」

 「了解」

戦力は補充されたが、正直なところ戦力不足だ。
本国は何を考えているのか?
俺達はこれからどうなるのか?
それは誰にもわからなかった。

 


        

        (おまけ)

俺の名前はイザーク・ジュール。
カザマ隊のエースパイロットだ。
俺達は、最近地球連合軍の精鋭との戦い大きな損
害を出し、そのためにオーブで艦の修理と補給を
する事になった。
隊長は、オーブ国内での政治向きの任務のために
艦を離れ、艦長と副隊長がは交代でブリッジに詰
めている。
隣で敵の艦が修理を受けている以上、気は抜けな
い。
隊長が留守の今、俺達が頑張らねば!

 「イザーク、僕出かけてきます」

 「俺も」

 「私もです」

 「暇だな。ハロでも作るか」

 「アビーちゃんをお茶に誘おう」

 「お前ら!弛んでいるぞ!ヨシさんが不在の今
  、俺達が頑張らないと!」

 「大丈夫ですよ。その時になったら頑張ります
  から」

 「そうそう。緊張の糸を張りすぎると、万が一
  の時に使い物にならなくなるぞ」

 「今日はお休みですので」

 「頑張り過ぎは良くないって、ヨシさんがいつ
  も言っているだろう?」

 「アビーちゃんは、時間取れるかな?」

 「・・・・・・・・・」

無駄に気合いの入っているのは、イザークだけで
あった。

 「よし、今日は訓練だ。シミュレーターでトッ
  プスコアを出すぞ!」

 「イザーク、俺は出かけるぞ」

 「俺は買物だ」

 「暇ですね。食堂でお茶でも飲みましょう」

 「俺も付き合う」

 「私も」

 「お前ら!いい加減に気合い入れろ!」

 「ヨシさんがちゃんと休めってさ」

ラスティーが隊長の指示を伝える。 

 「イザークもお休みですよ。休む時にちゃんと
  休まないと、他の人が気まずくなるんですよ
  」

ニコルが、遠まわしにイザークに忠告する。  

 「うるさい!俺は自分の道を行くんだ!」

 「バカですね」

ニコルの言葉は何よりも辛らつであった。


そして、数日後・・・。

 「俺は、今日は骨董品屋めぐりをするので留守
  を頼む」

 「はいはい、大丈夫ですよ。イザーク」 

 「俺も大丈夫」

 「私もです」

 「俺は出かけるから」

 「俺もナンパしに行こう」

 「とにかく!俺は出かけるからな!あとの事は
  ちゃんとやるんだぞ!」

イザークは、念を押してから出かけて行った。

 「「「「「(やれやれ、やっと出かけてくれた
  か)」」」」」

それが、全員の偽らぬ気持ちであった。

 
俺は、オーブの街中で骨董品屋巡りをした。
だが、この国は歴史が浅いので品揃えがいまいち
だ。
ヨシさんの故郷日本なら、沢山の名品があるだろ
うに。
疲れたので、オープンカフェでコーヒーを飲む事
にする。
プラントと違って、コーヒーが美味しかった。
中立国であるこの国には、戦争が原因の物資の不
足などないのであろう。
コーヒーを飲み干してから、カフェを出て次のお
店を地図で探していると、一人の赤い髪の少女が
助けを求めてきた。

 「すみません。悪い男に追われているのです」

 「お嬢さん、お任せあれ」

あれ?以前にどこかで見たような?

 「おい、そこのオカッパ君。これは二人の関係
  だから邪魔しないでくれたまえ」

以前の事件のせいで、俺をオカッパと呼ぶ奴は、
絶対に許さない事に決めていたのだ。

 「貴様!彼女が嫌がっているだろうが。この、
  紫モミアゲが!」

 「言ってはならない事を言ってしまったようだ
  ね。僕は君を許さない」

 「許さなければどうなのだ?」

 「君をぶちのめす!」

モミアゲがかかってきたので瞬時に殲滅する。
戦って見ると、口先だけで物凄く弱かった。
特に、訓練を受けた俺には楽勝であった。

 「ありがとうございます。おかげで助かりまし
  た」

 「礼を言ってもらうほど、こいつは強くなかっ
  た」

 「あの、お名前は?」

 「イザーク・ジュールだ」

 「フレイ・アルスターです」

 「では、俺は予定があるので」

 「さようなら」

うら若き女性を暴漢から守るという、大変にいい
事をした俺は、骨董品屋で掘り出し物を見つける
事に成功していた。
それは、人魚のミイラという大変貴重な物であっ
た。
やはり、善行はするべきだと思った一日であった


(その日の夕方、アルスター邸)

 「というわけで、その男の人に助けて貰ったの
  。結構いい男なんだけど、カザマさんには、
  ちょっと及ばないかな?」

 「そうか。フレイは、新しい婚約者とは合わな
  いか」

 「パパ、ごめんなさい。生理的に受け付けない
  の」

 「まあ、暫らく我慢しておくれ。戦争が終わる
  までに、別の候補を探しておくから」

 「わかったわ、パパ」

 「(イザーク・ジュールか。確かエザリア議員
  の息子だったな。彼は候補としては悪くない
  か・・・)」 

大西洋連邦の強かな政治家は、戦争終結とその後
の安定に向けて、何かを企んでいる様子であった

 

        あとがき

オーブ編終了です。
後はプラントで新議長が選ばれ、オペレーション
スピットブレイクの発動。連合の反撃が始まり
ます。
カザマ隊長の戦場は暫らく太平洋です。
更新が早くできるといいな。 

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!