少し時間はさかのぼり、ランスがカラーの村に向かいはじめて約一時間後
パットン達は現状を再整理する為にも、再び軍議を開いていた
「やっぱり迂闊に攻め込めねぇな」
「あぁ、スードリ13を攻めたとしても、その後ろにはミネバの野郎がいる
さらに、ロレックス将軍率いる第五軍が来る可能性が低いわけじゃないからな」
パットンとヒューバートは、カラー族との同盟が締結した前提で軍議を進めていたが
もともと軍兵の数では、約3倍近い量の差がある上に
レリューコフ側との同時連携作戦を行おうにも、砂漠を通して情報を伝えた後行うしかない為に、完全に膠着に陥っていた
「やはりアリストレスやレリューコフの狙い通りに宣戦布告をした後引きずり出すしかないの」
フリークもパットン達の意見と同じ考えらしく、攻め込まずに相手から出てくるのを待つという作戦を通すべきだと考えていた
無論、早期決着に持ち込めるならそれに越したことはない、だが、勝ち目がないなら迂闊に攻め込むわけにはいかないのだ
ただでさえ首都ラング・バウは相手の本拠地となっており、さらにシーラ皇帝は救えたといっても、パメラ皇后は未だに相手の手の中
此方にもパットン王子という旗印が会ったとしても、士気という面でも互角なのが精一杯なのだ
ならば、防衛戦に徹することで相手を引きずり出して各個撃破をする、それが最善だろう
しかし、その考えは脆くも崩れ去ることとなった、諜報兵が持ってきた一つの情報によって
その情報とは、第三軍、第四軍、第五軍が既に出陣体制を整えているという物と
パットン達は軍議中の為に気付かなかったが、ステッセルがヘルマン全土に演説を行っているという物だった
パットンはその情報を聞くと急ぎその演説を録画していたラレラレ石を持ってこさせた
そして、兵が持ってくると即座に、それを再生したのだ、その内容は・・・
「ヘルマン帝国に住まう者達全員に聞いて貰わなければならない事件が発生してしまった
皆も知っているとおり、ここしばらくシーラ様は御顔を見せられない状態にあった
今までは無用な混乱を避ける為に皆に言うのは伏せていたのだが、シーラ様はラング・バウより連れ出されたのだ
連れ出したのは悪漢レリューコフ、彼は栄光あるヘルマン第一軍の将軍でありながら、自らの栄達を望み
敵国であるリーザスと結び、シーラ様の御身をそのための人質としたのだ!!
さらに、私の得た情報によると、レリューコフは麻薬を使い、シーラ様の意思さえも支配しようとしている!!
この様な、自らの野心の為にシーラ様を傀儡にする様なことを許していいはずがない!!
さらに!!アリストレスも反逆者であるあのパットン王子を擁立し、シーラ様を廃するつもりだという!!
この様なことを許していいのか!!断じて否!!
栄光あるヘルマンの民達よ、悪漢レリューコフ、アリストレス、パットン達を許してはならない!!
シーラ様の御為に、今こそ立ち上がるのだ!!」
ステッセルの背後に、皇后パメラが、辛そうに顔を伏せた状態で玉座に座っており
そのパメラの隣に立っていたステッセルが、この様な演説をしていたのだ
シーラの真実を知るものは極一部であり、ステッセルの専横を深く知っている物も、少数である
ボルゴZに押し込められた者の多くは、『シーラ様への反逆罪』という物だったからだ
それだけに、この演説には効果があった、多くの真実を知らない民間人を、丸ごと敵に回す羽目になってしまうからだ
先んじてレリューコフやアリストレス、パットンが統治していた地域は税率を引き下げたりする事で、ある程度の民心を得ていたが
たとえそれでも、民に犠牲を強いる事となる市街戦を行うことはほぼ不可能といってもいいだろう
この様な演説をされた後にそのような事をしては、無用な敵を作るだけになるからだ
この放送を見たパットンは、酷く悔しそうな顔をすると、即座にアリストレスに向かって伝達兵を送った
作戦の全面見直しと、アリストレスの軍との連携をさらに密な物にする為に・・・
ヘルマン帝国 アークグラード
このアークグラードにあるヘルマン第一軍の本営でも、同じように動揺が走っていた
リーザスを通しての兵糧確保、アミランの復帰、予想以上に人員をかき集めてくれたカオスとガンジー
そして、予想だにしなかった『JAPAN』からの同盟打診と、その際の贈り物としての援軍
リーザスからの物だとは思ってはいたが、早期に決着をつけたいレリューコフはその同盟を受け入れ
ようやくローゼスグラードを攻める準備が整った瞬間に、あの演説が放送されたのだ
レリューコフは侵攻作戦を急ぎ中断させ、全将軍を急ぎ集め、緊急軍議を開いていた
「随分と厄介なことになりましたな、あの演説の結果、私の集めた兵の間にも動揺しているものがでてきています」
最初に口を開いたのはガンジーだった
ガンジーは、『王のカリスマ』とでも言うべき独特の魅力を持って、自由都市から流れてきた冒険者やヘルマンに居る傭兵をかき集めていたのだが
先ほどの演説の結果、戦意を失った物が少なからず出てきたしまっていたのだ
「まぁ、私たちの方はまだ大丈夫だったけど・・・・」
そう言ったのは、カフェ・アートフル、かつて『レディ』という名前で、『レディ商隊』を率いていた女性だ
そして、彼女は、『エターナルヒーロー』の一人でもあった
いま、何故彼女がここにいるかといえば、まさしく偶然が重なった者であった
段々とヘルマン内乱の確率が高くなり始めたので、一端自由都市方面へと退避しようと隊を率いてログAに向かっていたときに
偶々、そう、本当に偶然、ガンジーへの対抗心から兵を集めようとしていた、かつての戦友、カオスとであったのだ
そしてカオスは、最初に『レディ』の姿を見たときは、あまりにも変わりすぎていた為に正体に気付いていなかったが
レディが率いていた、自警の為の集団である『カルフェナイト』の統率されていた動きに興味を示し
何となくレディと話していたときに、ある違和感に気付いたのだ
それは、『魔剣』でもある自分にはさほど影響がない物だったが、まるで『心』を操られるような感覚と
それ以上に、『レディ』が何かを隠すように、自分に何かを『気付かせないように』しているような感覚だった
それを感じたときに、カオスは昔の、ある一人の仲間を思い出した
十分に可愛かったくせに{カオス主観で}、何かあるたびに自分と日光を比較して勝手に落ち込んでいた
そして、自分達のリーダーのような存在だったブリティシュに恋していたにもかかわらず、必死にそれを押し隠していた
そんな彼女を、自分は『俺専用の肘置き』といってからかっていた、そして彼女も、そんな自分に本気で食いかかってきていた
そんな、懐かしい仲間、神官戦士である、カフェ・アートフルの事を
カオスはその事に気付いた瞬間、レディに詰め寄っていた
『御前はカフェだろう!!』と、どれだけ否定しても、『この俺が間違うか!!』と断言して、詰め寄り続けた
そんなカオスに根負けして、レディはゆっくりと自分の正体について、そして何で今こんな事をしているのかをカオスに語った
神とであった時に、『魔王や魔人』を倒す力を望んだ日光とカオス、そして『全ての知識』を望んだホ・ラガ達を
そして、神に会う前の戦いで、傷つき、置いてくるしかなかったブリティシュを裏切るように、『全ての男を魅了する美』を望んだ自分の事
そしてその結果、何人もの男に監禁され、犯され続けていたという事
いつしか自分の身を護る為に、身寄りのない女性達を集め、娼館のような商隊を作り、さらに女性だけの自警団を作ったこと
そして最後に・・・『こんな穢れた、裏切り者の自分を、皆に見せたくなかった』という事を
その告白を聞いたカオスが最初にした事は、レディに、渾身の力を込めてびんたをする事だった
そしてその後、即座に自分の知る事、『神』の悪意を、自分の今までの現状を語った
そしてその上で、レディの頭を掴み、その目をのぞきながら、真剣な顔でカオスはこう言ったのだ
「何があっても、俺達は仲間だろう!!反省している仲間をいまさらせめるわけがねぇだろう!!
御前が、そんな体がいやだってんなら必ず、何とかする方法を探してやる!!
俺だけじゃ出来なくとも、ホ・ラガも居れば日光も居る、『仲間』がいるんだ!!」
その言葉に、レディは、まるで子供の様に泣きじゃくった
今まで、『裏切り者』と、『穢れている』と自分を責め続けたレディにとって
自分の、かつての『仲間』だったカオスに、そう言って貰えるのは、特別な意味があったのだ
まるで、『御前の全ての罪を許す』と言われたような、そんな意味が・・・・
その後カオスは、即座にホ・ラガに会いに行こうとしたが、その矢先にホ・ラガの方からカオスに会いに来たのだ
そして、唐突な事に呆然としているカオスに、ホ・ラガはまるでお使いを頼むような気軽さでこう言ったのだ
「今のリーザスの戦力では、ヘルマンを取り込んだとしても魔人領へと介入まではできんだろう
ならば、我等『エターナルヒーロー』の力も結集する事にしようと、私は考えた
幸いに『あの者達』は戦争に夢中で私の動きにさほどの注意を向けていない
だからこそこの隙に、エターナルヒーローを全員結集させる事にした
其処でカオス、君には『解呪の泉』から水を、この瓶いっぱいに取ってきてもらいたい
あぁ安心したまえ、泉までは私が一気に送ろう、その泉の水を使えばカフェももとの姿に戻れるだろう
この全てを知る私がいっているのだ、間違いない事だ
そうだな、折角だからカフェも一緒に送ってあげよう、帰りはこの特性帰り木を使えばすぐにここまで戻ってこれる
では送るぞ、武運を祈る」
そういってホ・ラガは強引に瓶を押し付け、混乱しているカオスとレディを無視して、転送魔法を使って強引に送り出した
そして、その事に動揺しだしたレディ商隊の面々に向かって、再び口を開いた
「なに、1500年ぶりに本当の姿での逢瀬ができるのだ、今日くらいおおめに見てやってくれ」
そのホ・ラガの言葉に納得する物があったのか、レディ商隊の、副隊長のような人物は深く頷くと
レディの帰りを待つ為にと、ログA郊外で野営の準備を始めたのだった
そして、元の姿に戻ったカフェとカオスが戻ってきたのは明朝の事であり
その時の、どこか不満そうな顔をしたカオスと、どこか嬉しそうな顔をしているカフェの顔が実に相対的だったと、その二人を見たものは語っている
その後、カフェは『高位の神官が居た方が治療は楽でしょ?』と言う一言で、レリューコフ陣営に迎えられていた
商隊の方は一時休業という形だったが、レリューコフ側から給与が入る事と、何より『職業斡旋』をしてくれると言う事で、特に不満の声などは出ていなかった
「私の部隊は大丈夫です、先んじて情報管制を敷いた上で、ある程度は伝えておいた事が功を制したみたいです」
カフェの報告に続いて、アミランが部隊の状態を報告する
「我等はもともと殿の命によってこの地に参っただけ、あのような演説で動揺しているものはおりませぬ」
それに続く形でJAPAN軍の援軍部隊総大将を担っている本多忠勝がそう言った
それらの報告を聞いた後、レリューコフはしばらく考え込む素振りを見せていたが、ゆっくりと地図を開き、駒の用意をした上で話し始めた
「まずは当初の予定通りアークグラード郊外に陣を構え、其処を絶対防衛戦とする
アークグラードに防衛網を張るのは儂とアミラン、ガンジーとカオス、そしてカフェの部隊とし
シベリア方面の防備をJAPAN軍に依頼したい・・・よろしいかな?」
「構いませぬが、やや防備が偏っておりませんかな?」
レリューコフの言葉に、忠勝は頷いた後に疑問を返した
其れもそうだろう、ほぼ全軍をアークグラードにおいているような布陣なのだ
たしかに、アークグラードは現状では生命線と言えるが、かといってシベリア方面から敵が迂回してこないとは限らないのだ
「確かに偏っておりますが、これが最善ともいえる布陣なのです
我等はリーザスと同盟を結ぶ事で食料の輸入を可能にし、万全ともいえる体勢ではありますが
対しての相手側には、さほど多くの食料の備蓄もないでしょう
ラング・バウにはある程度はあるでしょうが、それでも長期戦になれば瓦解するのは確実
ましてシベリア方面より迂回すると言う事は、補給路を断ってくれというようなものです
シベリア方面に迂回してくる事はほぼ確実にないでしょうが、陽動部隊が来る可能性は少なからずあります
そう言った場合に備えて、民を護る為にもJAPAN軍の皆さんにはここを護ってもらいたい
今は此方からできる事はありませぬが、都市防衛を任せる事で、JAPANへの信頼の証とする、いかがですかな?」
「承知、その任承った」
レリューコフの言葉に、忠勝は納得したと言った表情で深く頷いた
伝達の兵によれば、敵が来るのは明日昼ごろと言ったところだと言う
それに確実に対処するべく、レリューコフ達は即座に布陣を敷いていった
流石に、かつての同僚達と戦うことになる為に、動揺していない兵士がいないといえばうそにはなるが
布陣前に、レリューコフが行った『真実』の報告によって、兵の覚悟は決まっていた
そうして、ヘルマンでは爆発に備えて、各軍が着々と準備を続けるのであった・・・・
その頃、リーザスはなにもしていなかったと言うと、そうではない
ヘルマンでステッセルが演説を行うちょうど一週間ほど前にまでさかのぼるのだが
小川健太郎が、『難攻不落の楽園都市シャングリラ』を落としたと言う報告を受け、緊急軍議を行っていたのだ
その軍議に参加したのは緑の軍代表のアールコート、白・赤の軍代表としてエクス、黒・青・魔法軍代表としてバレス、そして女王であるリアとマリスの五人だった
「シャングリラが落ちたとなるとバラオ山脈には最低限の護りだけで十分となろう
健太郎殿の働きによって、大地の聖女モンスターハウセスナースととの盟約に成功
其れによってゼス、ヘルマン両国へとの侵攻する際の最大の拠点を得たといえるだろう」
「しかし今へルマンを急ぎ攻めるのも、ゼスを攻めるのも得はないように思えます
まして未だに川中島への対処も漠然とした物に過ぎない状態です
今はシャングリラを得ただけで、十分とするべきでしょう」
まず最初に口を開いたのは、やはりというか、場慣れしているバレスとエクスの両名であった
「川中島の方への対処は、今かなみさんに頼んで情報を収集していますので
其れが終わり次第、可能になると思います」
そんな二人の発言の後に、川中島攻略をリアに任じられていたアールコートが、現状の報告を行った
リアとしてはとっとと川中島の連中を『排除』したかったのだが、正当な理由もなしに攻め寄せれば世界を敵にまわすようなものになる
だから、アールコートの策を受け入れ、今はひたすらにかなみ達を使って情報収集に徹していたのだ
「取りあえずヘルマンの方は、同盟を結んでる方が負けて少しでも穴が開いたらそのまま『御馳走様』できるようにしてね」
そんな三人を見ながら、リアは女王の顔をしてそう言った
リアが言う『御馳走様』とは、一気に『首都ラング・バウ』まで攻め入ると言う事である
同盟を結んでいる方を無視して攻め寄せるのは不可能、というよりも、そのような事をしたらリーザスの名に泥を塗る事になるのだが
同盟を結んでいる方が敗北し、其れを『助ける』と言う名目で『敵軍』を攻めてしまえば、その泥の量は限りなく少なくなる
多少の汚名をかぶることになるが、たとえそれでもヘルマンを実質的に『制圧』する事に比べれば、大して損はないだろう、むしろ得といえる
リアの言葉に、バレスは深く頷くと、秘策を話し始めた
「まずこのシャングリラだが、なんとしても気をつけねばならん事がある
それは、『最新鋭の装備で身を包んだ脱走兵が逃げ込む』ことじゃ」
バレスの言葉に、エクスもニヤリとした笑みを浮かべる
「そうですね、『最新鋭の装備』をしている部隊を下手に捕まえようとすると損害だけが出ますからね
まして『聖女の護り』を受けたシャングリラに逃げ込まれたりしてしまっては
『捕まえたくても捕まえる事が出来ません』ね」
そんなエクスの言葉に、真意を悟ったアールコートも、控えめに、しかし確りと口を開く
「それに・・・万が一にも『副将軍』を人質に取られたりしたら、余計に動けませんよね
『副将軍が人質』になったりしたら、町を素通りさせるしか、ありませんよね」
その言葉に、リアは怪しく微笑んだ後、マリスに耳打ちをした
そして、その翌日、『最新鋭の装備で身を包んだリーザス緑の軍兵』達が、『白の軍と緑の軍の副将』を人質に、シャングリラに逃亡したと言う情報が流れた
そしてその情報は、その日のうちに即座に握り潰されたのだった、リーザスの軍部以外に一切もれることなくして
こうして、様々な思惑を絡ませて、戦場は整った
ついに始まるヘルマンの内乱、勝者は果たしてどちらになるのであろうか?
ただ、兵達は一刻も早い終結を望み、戦へと向かっていくのであった・・・・
あとがき
今回はインターミッション&詰め込み過ぎな感覚がある状態でした(汗
私もここまでするつもりは無かったのですが・・・自分の技量不足を痛感していますorz
次回、ついにヘルマン内乱勃発となります
早くに終わるかもしれませんし、意外と長期戦になるかもしれません
そろそろ勢いが落ち始めると思いますが、精一杯頑張って執筆します
出来れば気長に、お待ちください
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