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「幻想砕きの剣 8-1(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-02-01 22:33)
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 ある日の事である。
 大河は授業の真っ最中に、例によって眠っていた。
 しかし、普段と違って夢を見る。


(……誰だ…?)


 夢の中で、人影が見える。
 その人影は微かに発光していて、なぜか輪郭が歪んでいる。
 僅かに見える影が動き、何かを喋っているのが見えた。


(……聞こえない…)


 ガラスに遮られているかのように、微かな音しか聞き取れない。
 もどかしい。


(誰なんだ、一体…)


 いくら神経を研ぎ澄ましても、声は殆ど聞き取れない。
 それどころか、人影は急速に遠ざかって言った。
 必死で声を出しているようなので、こちらも必死で耳を澄ます。


(……ダウ…ニー?)


 かろうじてそれだけが聞き取れた。
 ダウニーがどうかしたのだろうか。
 首を傾げる大河。

 その途端、大河は自分のすぐ傍に巨大な気配がある事を感知した。
 慌てて振り向く…と言っても、体があるのかどうか判別できなかった…。
 しかし、そこには何もない。
 ただ“海”に酷似した空間が広がっているだけ。

 その空間に、なにやら線が走っていた。
 その線を伝って、時折光が行き来する。


(この線は………そうだ、これを知っているぞ…。
 これは……確か、何かのプログラムだったはずだ。
 そのものじゃないが、このプログラムが動作するための触媒だった…)


 頭がもやもやする。
 視界と脳裏に霞がかかって、うまく頭が回らない。


(何だ?
 これは何だ?
 これは誰の気配だ?
 そうだ、俺は知っているぞ。
 この懐かしい気配は、俺の…俺の友人…戦友だった、あの…)


 そこまで考えた時、大河の意識はどこかへ急速に浮上していった。


「師匠!」


「…あん!?」


 カエデの声で目が覚めた。
 眼を開くと、カエデの顔がアップで映る。
 普通なら驚くところかもしれないが、カエデのような美人の顔だ。
 むしろ気分がいい。
 …とりあえず舌を突き出してカエデの唇を舐めてみた。


「ふひゃ!?」


「……どうした?」


「どっ、どどどどどうしたって、ししょ、師匠がいきなり…!」


 顔を真っ赤にして悶えるカエデに萌える大河。
 伽では開き直っているのか慣れたのか、ここまで慌てる事はないのだが…やはり場所と時間の違いだろうか?
 今度は青姦でもやって存分に恥ずかしがらせようと思う大河だった。


「で、どしたん?」


「ちょ、ちょっとお待ちを……すーはー、すーは……よし、落ち着いたでござる…。
 どうしたもこうしたも、授業が終わったでござるよ。
 珍しいでござるな、普段は授業終了の30秒前になると起きてくるのに」


 予知能力でもあるのか、どんなに深く眠っていても、大河は同じタイミングで目が醒める。
 周囲の学生達もそれを学習していて、大河が起きると終了の号令も出されていないのに、筆記用具や教科書を片付けるようになっていた。

 その大河が珍しく起きない。
 しかも、今は午前中最後の授業…普段の大河なら、授業終了と供に学食へすっ飛んで行っている。
 それが一体何事なのだろうか。


「……なんか…夢を見てた」


「夢? 雅の都で群狼と呼ばれた人斬り集団と戦う夢でござるか?」


「頬に十字傷なんかついてねーぞ、俺は…。
 なんだっけな…。
 ひどく大事な事を見逃しているような気がするんだけど…」


 頭をかきながら、大河は立ち上がった。
 何はともあれ、昼飯である。
 学生達の最優先事項だ。
 思い出せない夢なんぞよりも、こちらが優先されるのは当然だろう。


「早く行くでござるよ。
 みんな待っているでござる」


「リリィもか?」


「ふふ…先日の一件以来、もう師匠に懐きまくっているでござるからなぁ〜。
 ついでに待っている、と主張していたでござるが、今頃は未亜殿がからかい倒しているでござろう」


 楽しげな笑みを浮かべるカエデ。

 リリィは先日の乱交以来、普段の状態でも大河に懐いている。
 本人は必要以上に親しげにしないように気をつけているつもりらしいが、大河を前にすると妙にしおらしくなったり、頬を染めていたり、髪のセットを気にしたり、指を突付き合わせてコネコネしていたりと、全く隠せていない。
 それがまた面白くて、誰も『バレバレだよ』などとは忠告してやらないのだが。

 やはり大河を完全にご主人様だと認識しているらしい。
 大河に撫でられると、無意識にネコモードを発動させてしまうのだ。


 パタ、と教室の扉が開いて、ナナシが顔を出した。


「ダーリン、カエデちゃん、そろそろ行くですの。
 ルビナスちゃんは、何か研究があるとか言ってこれなかったですの」


「ん、わかった。
 ところで、ルビナスの研究って今度はなんだ?」


「ん〜、よく解らないけど、他のケモノの因子を、リリィちゃんとミュリエルちゃんにアタッチメントほーしきで取り付けられるようにするとか何とか…」


 大河はピシっと固まった。
 つまり、ネコ・ヒョウ以外に、他の動物にもなれる、という事だろうか。

 見たい。
 猛烈に見たい。
 同じネコでも種類を変えたり、キツネミミシッポにしてその山吹色の毛皮に頬擦りしたり、ああそうだヘビにして舌を長くするのもいいかもしれない。
 長くなった舌でPI−をチロチロされたら、きっと気持ちいいだろう。


「…師匠、煩悩が丸出しでござるよ」


「そういうカエデこそ、ヨダレヨダレ」


「おっと、これは失敬……」


 ヨダレを拭うカエデだが、またすぐに垂れてくる。
 それ以上言ってもムダなので放置し、大河は頭を切り替えた。


「さて、非常に楽しい妄想は一端中止して、そろそろ食事に行こうか」


「ハイですの!
 ナナシはもーっちょっとで全メニュー制覇できるですの!
 でも、流石に鉄人ランチだけは…」


 どうやら新しい体の機能には、無限の胃袋は付けられてないらしい。

 トリップしたままで足元が覚束ないカエデをつれて、大河とナナシは教室の外にでる。


「お待たせ…あれ、学園長?」


 教室から出ると、リリィ達の前にミュリエルが立っていた。
 流石に先日…と言っても一週間ほど前だが…の行為で後ろめたいのか、リリィ達は俯いている。

 ミュリエルは大河にチラリと視線をやって、少し頭を下げた。
 思わず頭を下げ返す大河。

 ベリオが勇気を振絞ってミュリエルに問いかけた。


「あ、あの…どうしたんですか、こんな時間に?
 今はまだお忙しいはずでは…」


 さては乱交の一件を処罰しに来たのでは、と恐れているベリオ達。
 しかし、ミュリエルは無表情のまま、乱交については何も言わない。


「ええ、確かに忙しいのですが…ついでに立ち寄りました。
 重要な用件があったので…」


 ビクリと体を震わせるベリオ達。
 リリィなど、最悪絶縁でも言い渡されるのではないかと、内心ではガタガタ震えていた。

 その内心を見逃すようなミュリエルではないが、今はフォローもトドメも入れない。


「で、その用件ってーのは?」


 元凶だというのに、物怖じ一つしてない大河である。
 大河としては、リコに刻ませた術のおかげで自分が洒落にならない攻撃を受ける事はないと解りきっているし、何よりミュリエルの根っ子の部分が完全に屈服しているのを見抜いていた。
 何度か誘いをかけてみた時など、目を潤ませながらも必死で理性を保とうとしていた。
 結局タイムリミットが来て大河の方から去ったのだが、その時のミュリエルの縋るような眼差しがハートにクリーンヒットしてヒートアップな大河だった。

 今のミュリエルは、例え策謀を巡らせようとも大河を傷つける事はできない。
 最後の最後で、確実に切っ先が鈍る。
 そんなミュリエルは、大して恐ろしくもない。

 ミュリエルが大河と渡り合えるのは、その冷徹さによる部分が大きい。
 私人としての情を捨て、利用できるモノはどんなモノでも利用し、己の全てを殺して透徹しているからこそ、フローリア学園の長という重い足枷に繋がれながらも大河に対抗できた。
 学園長の立場は、そこそこ権力を使う事は出来るが、それ以上に体面と規律に縛られる。
 フットワークの軽い大河を相手にするには分が悪い。

 それが崩れた時…私情を持ち込み、大河を操って私欲を満足させ始めた時から、ミュリエルが敗れる事は決まっていたようなものだ。

 ミュリエルは大河に恨めしい視線を少し送り、すぐに改めた。
 いつも通りの鉄面皮に戻る。


「非常に重要な話です。
 今日の午後3時に、救世主候補生ならびにルビナス・フローリアス、ナナシさんは、必ず学園長室に集合しなさい。
 例えルビナスが研究室に引き篭もっていたとしても、絶対に連れてきてください」


 真顔で恐ろしい事を言う。
 実験に没頭するマッドを連れ出すなど、一体誰が出来るのか。


「そ、それは…ヘタすると研究棟がメチャクチャになります…」


「壁をブチ抜いてでも連れてきなさい。
 三つまでなら部屋を崩壊させても構いません」


 ミュリエルはマジだ。
 それを悟ったカエデの背筋に寒気が走る。
 ミュリエルは大河に向き直った。


「それと、大河君。
 先日言っていた、重要な話というのを聞かせてもらいます。
 時間は空いていますね?」


「今から?」


「いえ…昼休みが終わってからで構いません。
 午後の授業は公休扱いにします」


「ん、了解しました」


 また俺を操ろうなんて考えないで、と茶化そうかと思ったが、今のミュリエルは学園長の仮面を深く被っている。
 今からかった所で、冷たい視線を向けられて終わりだ。


「用件はそれだけです。
 それでは、私は行かねばならない所があるので」


 それだけ言って、フローリア学園の女傑は振り向いて去っていった。

 その姿が見えなくなって、ようやく緊張が解けるリコ達。


「はぁ…はぁ…し、心臓にわるい…」


「…アンタらなんかまだマシよ……義理とはいえ母娘であんな事しちゃった私はどのツラさげて…」


「で、でもミュリエル学園長も嬉しそうでしたが…」


「リコ、そういう問題では…」


「…はぁ〜〜〜〜」


 その場にへたり込まんばかりの救世主候補生達。
 ナナシだけは、去って行ったミュリエルに手を振っていた。
 彼女はあまり緊張を感じなかったらしい。
 度を越えて楽天的なのは、ゾンビでなくなってからも変わっていないようだ。

 そんな彼女達を尻目に、大河は腕を組んで考える。


「ふむ……今日は可愛がってくれとかいうんじゃ無さそうだな。
 アレは本気の目だった……。
 いよいよ動き始めたか?」


「? 何が?」


「いや、なんでもない」


 リリィの問いかけに、大河はサラっと答える。
 不思議そうな顔をしたリリィだが、それ以上追求はしなかった。


「ま、アレだ、先日の乱交の事に付いては、多分お咎めなしだ」


「? 何でそんな事が解るんですか?」


「ふっ…なぁリリィよ」


「何で私に振るの!?」


「決まってるじゃないか、2人揃って『飼ってください』なんて言ったのは「らぶらぶビーム!」げはっ!?」


 思わずビームを放つリリィ嬢。
 一拍置いて、ハッと正気に戻る。
 慌てて周囲を見回すと、未亜を筆頭にカエデ達がニヤニヤ笑いを浮かべている。
 ナナシとリコでさえも、獲物をいたぶるネコのような笑みだ。


「へぇ〜、今のがらぶらぶビームかぁ」


「芸術的攻撃ですねぇ、らぶらぶビーム


「指先だけじゃなくて、目からも出せそうですよね。 らぶらぶビーム


「お熱いでござるなー、リリィ殿〜? だってらぶらぶビームでござるからなぁ〜?」


「いい名前ですの、らぶらぶビーム


「ふっ、愛いヤツよのう。 らぶらぶビーム


「うぅっ……う、うるさーい!」


「「「「「「わはははははははーーー!!!」」」」」」


 暴れだすリリィ。
 なんか炎とか氷とか電撃とかその辺の石とか消しゴムとか、色々と宙を飛ぶ。

 大河達はバラバラに逃げ出した。


「待てー! 逃げるなーーー!」


 バラバラに逃げ、リリィを振り切った大河。
 別に一人になった訳ではなかった。
 そもそもリリィが暴れたのは一階の廊下なので、バラバラに逃げるといっても2方向に分かれただけである。

 大河と一緒に逃げてきたのは、ベリオとリコ。
 まだクスクス笑いながら息を整えている。


「ふ、ふふ…あ、あのリリィが……本当に言ってたんですね。らぶらぶビーム」


「いえいえ、あれでリリィさんは結構純情可憐なオトメですから…あ、もうオトメじゃありませんけどね」


 珍しいモノを見た、と思っているのだろう。
 幻影石で記録しておけばよかった、などと言い出す始末である。

 一頻り笑って、ベリオとリコは周囲を見回した。
 中庭まで走ってきていたらしい。
 今は昼休みなので人が多い。

 救世主クラスは何かと問題を起こすので敬遠されがちだが、それさえ無ければ見目麗しい女性が揃っている。
 大河も絶世の、というほどではないが整った顔立ちである。
 大人しくしていれば、そこそこ注目を集める事になる。


「ふぅ…結構走りましたね。
 これからどうします?
 食事にするにしても、皆バラバラになっちゃいましたし」


「食堂に行けば合流できると思うが……リリィ、まだ怒ってるかな?」


「恐らく」


 怒ってはいなくても、出会い頭に照れ隠しとして爆炎とか叩き込まれそうだ。
 それに、今はそれよりも考えなければならない事がある。


「……食事の事は後にするとして…。
 ルビナスの事、どうしましょうか…」


「つれて来い、と言われても…」


 リコとベリオが揃って腕を組んで考え込む。
 確かに戦力を考えれば、力尽くで引きずり出す事は出来るだろう。
 いかに研究棟の中がルビナスの居城と言えど、こちらは救世主クラス全員である。
 2,3人脱落するかもしれないが、捕獲する事は充分可能だろう。


「でも、それをやると後が恐ろしいです…」


「マッドですからねぇ…」


 ダイレクトにベリオ。
 ルビナスの実験の邪魔をしたら、どんな恐ろしい事になるか…。
 臨床試験に無断で使われたらと思うと、おちおち水も飲めない。
 例えミュリエルからの命令だと言っても無駄だろう。
 何とか穏便に連れ出せないかと、頭を抱える2人。

 しかし大河だけは、ノホホンと構えていた。
 例えダーリンと呼ばれる彼でも、実験の邪魔をすればホルマリン漬けにされかねないだろうに。


「…大河君、えらく暢気ですね?」


「ん? あー、俺は一時から学園長と話があるからな。
 多分長引くだろうから、自然とルビナス捕獲の担当からは外れる事に…」


「…ず……ずっこい!
 ご主人様、それは幾らなんでも酷いです!
 私達を見捨てるんですか!?
 旅は道連れって言うじゃないですか、一緒に特攻しましょうよ!」


 語調を荒くして怒るリコである。
 ご主人様発言に周囲の生徒達がギョっとしたが、そこら辺はスルーされている。

 ベリオも大河を恨めしげに見つめていた。


「ええい、旅は道連れでも世は情け容赦無しじゃ!
 大体立場が逆だったら、お前らルビナスに向かって喧嘩売れるか!?」


「そんなの速攻で逃げ出すに決まってます!」


「リコ、言ってる事がメチャクチャというか墓穴を掘っています…。
 ……大河君、やっぱり代わってくれませんか?」


「代わってもいいかもしれんけど、その場合は学園長と一対一で話す事になるぞ」


 あれだけの事をしてしまった学園長と。
 その気まずさは並大抵のものではないだろう。

 ベリオはあぅ、と呻き声を上げた。
 どっちも地獄である。


「ま、まぁそう気を落すなって…。
 まだルビナスが実験中だって決まった訳じゃないんだし」


「決まってます…世の中にはマーフィーの法則というのがあるんです。
 エネルギーは消費され、原子は崩壊し、朝のトーストはジャムを塗った方を下にして落下するんです。
 しかもついさっき、ルビナス本人が実験に取り掛かるって言ってました」


 無論、リリィとミュリエルの新コスチューム(?)の為の実験である。
 邪魔をしたら色々な意味でブッコロされよう。

 暗澹とした未来を想像して、2人は今すぐ逃げたくなった。


「…そ、そうだ!
 前から考えていたんですが、ちょっと買いたい物があるんですよ!」


「何ですか?」


「ここではちょっと…大河君の部屋に行きましょう」


 2人は現実逃避をしたようだ。
 大河も敢えて現実に引き戻すような冷酷な突っ込み入れず、2人に付いていく。

 途中で学食のパンを買い、それを昼食にする。
 少し食べ足りないが、午後になると風雲ルビナス城に突撃するのだ。
 このくらいにしておかねば、消化しきれず戻してしまう可能性がある。


「それで、買いたい物って?」


「買いたい…というよりは、もう買ってしまっているのですが…。
 なにせモノが大きいので、持ってこれないんです。
 業者さんに頼もうにも、ちょっと……大河君の部屋にこんな物を持ち込んでいるのが知れたら…」


 風紀に関わります、とベリオは呟いた。
 もう救世主クラスには縁のない言葉だが、それだけにベリオは格好だけでもつけたいらしい。
 曰く、『爛れているのは救世主クラス内の人間関係であって、寮内の風紀ではありません』。
 ナニする時には大河の部屋でヤる事が多いから、十分寮内の風紀は乱れいてると思うのだが。


「とにかく、寮長の私がこんな事をしていると知れたら、恥ずかしいとかそういう感情を除いてもよくありません。
 具体的に言うと、『寮長がヤってるんだから、俺たちだっていいじゃないですか』とか言って、女子寮に沢山の男子生徒が押しかけてきません。
 それは大河君も望む所ではないでしょう?」


「そりゃな……色々とバレそうだし、一週間前みたいなバカ騒ぎも出来なくなりそうだし」


 男同士という事で、いきなり屋根裏部屋に乱入されかねない。


「それにしても、結局何を買ったんですか?」


「ええ、実はリコに召喚かテレポートで持ってきてもらいたいのです。
 はっきり言って、今の…というかこれからの私達には必須品ですよ」


「「?」」


 ベリオは大河の机の引き出しから、何か紙切れを取り出した。
 どうでもいいが、既に大河の部屋には救世主候補生達の私物が山のように詰め込まれている。
 机の引き出しは言うに及ばず、クローゼットの中、空っぽだった本棚まで、各々が好き勝手に持ち込んだ私物で埋め尽くされていた。
 リリィは勿論、ちゃっかりミュリエルの私物まで置いてある。
 多分何か仕掛けられているのだろうが、別にいいやと放置している大河だった。

 それはともかく、ベリオは引き出しから取り出した紙を大河とリコに見せる。


「ベッド…の広告ですか?」


 その紙には、様々な形のベッドや布団が書かれていた。
 アヴァターは根の世界だけあって、様々な文化形態に発展する可能性を秘めている。
 普通のベッドは言うに及ばず、なにやらピラミッドのような形のベッド、どう見ても棺桶にしか見えないベッド、他にも『どこに寝るんだ』と聞きたくなるような形のベッドが描かれていた。

 その中に、一つだけ赤い丸がつけてある。
 キングサイズ、と追記されてあった。


「このベッド…を買ったんですか?」


「ええ、少し前に通販で。
 私が直接出向いて、その……こういった、明らかにアレ用だと解るベッドを買うのは恥ずかしいですから」


 新婚夫婦で出向けば恥ずかしくないかも、と大河にチラリと視線をやった。
 大河は苦笑し、また機会があったらな、と視線で返す。

 リコはそれに気付いているのかいないのか、品物の概要に目を通している。


「…随分大きいですね…。
 これをこの部屋に?」


「ええ。
 だってほら、その…順番に一人ずつシている日はいいですけど、一週間前みたいに総出の時は、このベッドは小さすぎるじゃないですか。
 前から思っていたんですけど……全員が寝れるだけの大きさのベッドと布団を買ったほうがいいんじゃないかって。
 シた後に、ほら、私とかって大抵気絶してしまうでしょう?
 そうなると自然と、裸のまま眠る事になるわけで…」


 恥ずかしげに話すベリオ。
 確かに、と大河は頷いた。

 それは彼も気にしていたのだ。
 ベッドは小さく、同時に寝れるのは詰め込んでも3人から4人が限界。
 気絶する者が出ると、最優先でベッドに寝かせ、布団をかけてやらねばならない。
 自然とベッドの上は狭くなり、行為は床の上に移る。
 また一人、また一人と気絶してベッドのスペースが狭くなり、最終的には大河自身が眠るスペースもなくなってしまうのだ。
 今まで誰も風邪を引いてないのが不思議で仕方がない。


「それでこの際だから、部屋の半分以上を占める大きさのベッドに変えてしまおう、って訳か」


「そういう事です。
 そうなると今のベッドは邪魔になりますね…。
 誰か他の人に譲るものイヤですし、これもリコの逆召喚でゴミ処理場に転移させましょう」


「そうですね。
 これくらいならお安い御用です。
 それで、このベッドは何処にあるのですか?」


「ええと、王都のUMA店は解りますか?
 別に未確認生物がやっている店じゃありませんよ。
 そこの2階にある倉庫に置いてあるはずです。
 召喚術で転移させると最初に言っておいたので、目印をつけてくれています。
 えーっと……あ、この契約書ですね」


 リコに契約書を渡すベリオ。
 リコはそこに染み込んでいる魔力の波動をチェックする。
 この魔力の波動を元に、召喚対象を探り当てるのだ。
 以前、禁書庫に潜った時にもリコは同じ事をやっている。
 あの時は自室の食べ物に印をつけていた。


「それでは、まずは今あるベッドを逆召喚して送り出します。
 えーと、粗大ゴミ処理場は…」


 学園の地図を思い浮かべ、リコは召喚陣を起動する。
 一瞬光が溢れ、大河達の思い出…主にエッチな汁…が染み込んだベッドは消えてなくなった。

 大河が頭を掻き毟る。


「…なんだかな…結構愛着沸いてたのかな。
 ちょっと寂しい…」


「大河君、物を捨てられないタイプなんじゃないですか?」


「んー、まぁ倹約癖がついてたし、まだ使える物を捨てるのはちょっとな…」


 ベリオと大河は、会話しながら壁際に下がる。
 リコが召喚陣を起動した。


「それでは、今度は新しいベッドを転移させます。
 部屋の真ん中でいいですね?」


「ああ、やってくれ」


 大河に了承を得て、リコは魔法陣に魔力を流し込む。
 少しずつ何かが集まっているのを大河は感じた。


「なぁベリオ、これ、勝手に持ち出していいのか?
 店の人に何か言っておかなきゃいけないんじゃ?」


「大丈夫ですよ、ちゃんと事前に言ってあります。
 もし契約無しに持ち出そうとしたら、その瞬間お店の方で物凄い警報が鳴るんです。
 あっという間に捜査班が集まってきて、すぐさま誰が持ち出そうとしたのか調べ上げます。
 そしてその相手を、それこそマフィアかKGBみたいにしつこくしつこくしつこくしつこく追い回すんですよ。
 あのお店に関しては、そう言った伝説が幾つか残っているそうです」


 どんな店員教育してんだろーか。
 実はブラックパピヨンが何やら燃えていたりしたのだが、それは関係ない。
 ともあれ、そういう事なら問題ない。

 大河はリコに視線を戻した。


「ところで、ふと思ったんだが…」


「何です?」


「こんな狭い所にでっかいベッドを持ってくるよりも、普通に救世主クラスの部屋を使わせてくれてもいいんじゃないか?
 そっちの方が絶対楽だし、スペースもあると思うんだが」


 特に何も考えずに言ったのだが、ベリオは少しムっとした。


「ダメですよ。
 大河君、まだアナタは満足してないんですか?
 私達救世主候補生のみならず、ナナシさんにルビナスさん、学園長先生にダリア先生まで毒牙にかけてるのに」


「な、何でそうなる?」


「だって、普通に部屋を使わせたら、他のクラスの女の子達と接触する機会が多くなるじゃないですか。
 大河君だって一応は救世主候補生っていうブランド物なんですから、何とか玉の輿に乗れないかと考える人が絶対に出てきます。
 そうなると、逆に大河君が食べちゃって屈服させるのが目に見えています」


「べ、ベリオお前な…」


「まぁ、それは置いておくとしても、今ほど好き勝手にできなくなりますよ?
 屋根裏には他に部屋がないから私達以外は誰も訪れませんけど、下の階層になると話は違います。
 壁に耳をつけて盗み聞きしたりされるかもしれませんし、隣でギシギシアンアンやってると、夜中に安眠妨害になっちゃいます。
 その点、屋根裏部屋は他の部屋との接点が少ないですし、来る時も私達救世主クラスの部屋の前を必ず通らなければいけません。
 逆夜這いに対するセキュリティもバッチリですね」


 最後の一つだけは別になくても、と思った大河だが、ベリオの目が怖いので笑って誤魔化した。
 実際、先週ミュリエルやダリアまで巻き込んでの乱痴気騒ぎがばれなかったのは、屋根裏部屋での事だったからこそである。


「ま、別にいいけどな…何だかんだ言っても、この部屋に愛着沸いちまってるし」


「そうですねぇ……私達も、自室と言われて屋根裏部屋を連想するくらいですから……。
 あ、ベッドが来ますよ」


 大河はベリオの指差す先を見る。
 なにやらリコが眉間にシワを寄せていた。


「どうしたんです、リコ?」


「……思った以上に……大きいです…」


 想定外の重さと大きさに、召喚が梃子摺っているらしい。
 しかし今手伝える事は何も無い。
 息を詰めて見守るベリオと大河。

 ゆっくりと、光の中からベッドが現れる。


「っしょ…よいっしょ……ふぅ、重い…」


 非力な手で、光の中からベッドを運び出そうとするリコ。
 ベッドは光の微粒子を纏いつかせていた。


「リコ、俺も手伝うよ」


「私も」


 ベリオと大河がベッドに取り付いた。
 さすがに3人ともなると一人分の負担は軽くなる。

 息を合わせて、ベッドを引っ張る。
 ずっ、ずっとベッドがその全様を表していく。


「こ、これはまた大きい…」


「もう一回り小さくてもよかったかもしれませんね…」


「と、とにかくもう少しです…」


 屋根裏部屋の半分近くを埋めるベッドは、光ながら空中に浮いている。
 これは召喚に使ったゲートがまだ閉じておらず、擬似的な無重力状態になっているからだ。


「それじゃ、最後の一踏ん張り…やーれい」


「ほーれい」


「そーれい……と、全部出てきました!」


「うーむ…冗談抜きでデカイな」


 大河は出てきたベッドを見て呆然と呟いた。
 バカみたいに大きなベッドが部屋の中に浮いているのは、ちょっと不気味でさえある。


「ご主人様、ちょっと離れてください。
 そろそろ普通の状態に戻りますから、ベッドが落ちてきます」


「あ、危ないですねぇ…」


 ベリオと大河がそそくさと距離を取る。
 一拍置いて、ベッドが纏っていた光が消えた。
 そして低高度ながらも、その巨大な質量が自由落下。


ズガァン!


 屋根裏部屋の床…下の階の天井に落下したベッドは、その重さに相応しい轟音を立てた。


「……や、ヤバくないか?」


「一応振動を防ぐ結界が押し留めていたようですけど」


 落下の衝撃は、以前ベリオが貼ってリリィとかが何時の間にか強化していた結界に受け止められたようだ。
 何にしろ、少々迂闊だったようだ。
 今回はよかったものの、ヘタをすると衝撃で床が抜けていたかもしれない。


「ま、結果オーライってやつですね…あれ、リコは?」


「真っ先にベッドの上に乗ってるぞ」


 リコは轟音の事など気にも止めず、靴を脱いでベッドの上に上がっている。
 弾力チェックをしているのか、その辺を適当にボスボス叩いていた。

 大河は自分も、と後に続く。


「俺も乗ってみよっと!」


「あっ、それを買ったのは私ですから、私が一番先でしょう!?」


 ベリオも後に続いた。
 ピョン、と飛び乗り、その弾力を堪能する。


「うーん、柔らかいし弾力は強すぎず弱すぎず…いい仕事してますね」


「ええ、いい買い物をしました」


「今日からはこのベッドの上で……ご主人様、可愛がってくださいね?」


 さて、話は変るが、屋根裏部屋に張られた結界の解説をしよう。
 この結界、あくまで『内側からの振動を外に漏らさない』という効果しかない。
 決して『内側からの振動を無効化』するのでも、『衝撃を吸収する』のでもない。
 例えば屋根裏部屋の壁に向かって思い切り蹴りを叩き込めば、音と振動は吸収されても衝撃は吸収されない。
 吸収された振動は、床が壊れない程度の勢いで溜まっていく。
 むしろ振動を吸収する分、揺れる事によって衝撃を逃すという事が出来なくなっているのだ。

 何が言いたいかというと、内側からの衝撃は確実に部屋を傷つける、という事だ。
 巨大な質量を持ったベッドの落下に加え、ベッドの上に飛び乗るバカ3人。
 あまつさえ、その弾力を愉しむかのようにトランポリンの如く撥ねている。
 そんな事をしたらベッドが傷むというのに。

 で、その衝撃及び振動のパワーは漏れなくベッドの下の床に直撃し、蓄積され、ついには……。

 メキ……

「ん?
 今何かイヤな音がしなかったか?」


「え? 私は何も…」


ミキミキ…


「……撤回します。
 聞こえました」


ミシミシミシ……


「…ベッドの下からです」


  みしみし……ビキッ!


「こ、これは…」


「ちょっと…」


「ヤバイかも…」


 ベキィ!


 一際大きな音が響くと供に、大河とベリオはベッドから飛び降りた。
 リコは瞬間移動で下の階層に移動し、人が居ない事を確かめる。
 そして瞬間移動でまたすぐに離れた。


 メキャ! ベキベキ!
  バキャリ!!
  ごごごごっごごご………


 次の瞬間、屋根裏部屋の床がベッドの重みで踏み破られる。
 一点が破れてしまえば後はなし崩しで、ベッドがどんどん傾いていく。
 その下になっている部分は、割れた床にあっという間に呑まれていった。


 ごごごごごご……ガヅン!


 ベッドが止まった。
 どうやら下の階層の壁か床にぶつかったらしい。

 呆然と見詰める3人の視線。


「……どうしよう」


「下には人は居ませんでしたが…」


「あ、また動き出します!」


 ベリオが叫ぶと供に、今度はベッドが一気に滑り落ちる!
 
ズドガァン!

 ドゴォ!


「きゃあっ!?」


 どうやら今度は完全に落下し、しかも壁をぶち抜いたっぽい。
 あまつさえ、隣の部屋の住人らしき人の声。


「こ、これは…冗談抜きでヤバイですね」


「…わ、私は知りません」


「俺もバッくれたい所だけど…」


 何はともあれ、怪我人の確認をしなければ。
 大河達は部屋から出て階段を駆け下りていった。


「それで……下に居たのはサリナ・エルニウムさん…大河君の知人の通称『同人少女』で、壊れた部屋の替わりに救世主クラスの部屋…特にリリィと同室を希望している、と?」


「ま、まぁそんな所です。
 ……あの子、そんな名前だったのか…」


 午後1時。
 大河はミュリエルに呼び出された通り、しっかり出頭してきていた。
 別に後始末を押し付けてきた訳ではない。
 ベッドは放っておくと2次災害の恐れがあるので、逆召喚で一端リコの部屋に放り込んだ。
 ベリオの部屋に送らなかったのは、リコの部屋の方が余分なスペースが多いから。

 幸い怪我人も居なかったし、壁と天井がブチ抜かれた事以外は大した被害はなかったのだ。


 ミュリエルは頭を抱えている。
 寮でテロがあったと言われて慌ててみれば、実態はこのザマである。


「ついに寮にまで被害が出ましたねぇ…今までは研究棟か教室くらいだったのに」


「当事者が他人事みたいに言ってるんじゃありません!」


スパーン!


 大河の頭を、どこからともなく取り出したハリセンで思いっきり叩く。
 直接的な被害を与えようとすると術による介入が起こるので、怪我をさせない武器(?)に切り替えたらしい。

 張り飛ばされた頭を撫でながら、内心『ミュリエルにハリセン……意外と悪くない』などと考えている大河。
 悪びれない大河に溜息をついて、ミュリエルは腰を下ろす。


「はぁ……怪我人も居なかった事だし、この事については後回しにします。
 先に言っておかなければならない事もありますし」


「言っておかなければならない事?」


「そちらは救世主クラスが全員揃った時に話します。
 今は……大河君、アナタの言う『重要な話』が先です。
 そうでしょう、赤の主?」


「外れ、青の主…いや、ここまで来て誤魔化しても仕方ないか。
 俺は白の主だ」


 ミュリエルと大河の目が鋭くなる。
 ミュリエルは周囲を警戒し、臨戦態勢を整えている。
 イムニティの襲撃を警戒しているのだろう。


「生憎、イムニティはここには居ない。
 今は王宮でクレアの護衛をやってるよ」


「イムニティが…?」


 信じた訳ではないだろうが、ミュリエルは警戒を解いた…ように見せかける。
 ミュリエルも大河も、お互いにどこまで踏み込むべきか、頭脳をフル回転させていた。


(大河君はやはり白の主だった…。
 しかし、普段の行動を見ていると疑わしくなるとはいえ、彼は明らかに“破滅”ではなく人類寄り。
 少なくとも世界を破滅させるとは考えにくい。
 千年の封印の間に、イムニティに変化があったのかしら?
 いえ、希望的観測は禁物。
 次の“破滅”に焦点を絞っているだけかもしれないし…。
 もしそうならば、もう一度イムニティを封印しなければならない。
 大河君の性格からして、その場合はまず間違いなく敵に回るか妨害をするでしょうね。
 暫定的ながら敵、と…。

 クレア様の護衛をしている、と言ったわね…。
 つまり、クレア様も大河君の側という事?
 いえ、護衛は気付かれなくても出来るし、裏を返せばいつでも寝首をかけるという事。

 そもそも何処まで何を知っているの?)


(例え術を刻んでいたとしても、ミュリエルは危険だ…。
 油断すれば即座に俺が無力化される。

 さて、どこまで話すべきか…俺が以前のイムニティのように新しい世界を望む可能性がある限り、ミュリエルは何らかの手を打とうとする。
 俺が望まなくても、イムニティが新世界の野望を捨てているか確信出来ないだろうし…。
 …無様だな、俺達も足の引っ張り合いをするジジィどもと同じか。

 一気に引き込めるとは思ってない。
 住み分け、同盟、容認、どこまで譲歩する?
 例え同盟まで漕ぎ着けたとしても、恐らくミュリエルは完全な味方にはなってくれない。
 それはまだ早い…クレアが1000年前の真実を発掘して、ミュリエルを追い詰める材料が出来てからだ)


 しばし沈黙した後、ミュリエルは口を開いた。


「それで?
 救世主となれば、何でも願いが叶うと言われているでしょう。
 大河君、アナタは何を望むの?
(救世主の真実を知っているなら、何かを望むとは言わない…)」


「別に。
 強いて言うなら、ハーレムとか楽園とか……いやゴメンナサイスイマセンモウイイマセンカラ、ソノスルドイツメヲシマッテクダサイ」


 冷たい目で手だけ雪ヒョウモードを発現させて大河を睨みつけるミュリエルだった。


「ま、まぁ真面目な話、救世主になる気はないよ。
 イムニティから色々と聞く前でさえ、あれだけ胡散臭い情報が目白押しだったんだ。
 “破滅”はどうにかするけど、救世主はまた別の話だ。

 で、ミュリエルはどうする?
 俺や赤の主に何かできるか?」


「真面目な話をしている時には学園長と呼びなさい。
 名前で呼ぶのはベッドルームの中だけで充分です。

 正直な話、アナタには何も出来ません…。
 大河君の命を奪えば、その時点で救世主は降臨してしまいます。
 監視をするのが精一杯でしょうかね。
(実際は、その手でもう一方の主を殺さないと誕生しないんだけど…無反応ね。
 この辺の事はオルタラから聞いてないのかしら?)」


「またそんなウソをついて…。
 永久封印刑なり、意識だけ奪うなり、精霊の主としての権利を譲渡させずに無力化する方法なら幾らでもあるでしょうが」


「それもアナタが…それともイムニティがですか?
 刻んだ術によって不可能となりました。
 正直な話、私は手詰まりですね」


「ウソくさ…。
 時間さえあれば、その術を解く事が出来るんじゃないのか?」


 ジャブの応酬が続く。
 しかし実りのない会話に大河は痺れを切らしたのか、大きく溜息をついた。


「ま、ナンだな…こんな事ばっかりしてても意味がない。
 どうだ、協定を結ぶってのは?
 そうだなぁ…両方に術をかけよう。
 術をかけるのは赤の精霊…ミュリ…学園長のいうオルタラ。
 それなら信用できるだろ?」


「…例えオルタラと言えど、そう簡単には信用できません。
 彼女はその性質上、主に逆らう事は出来ません。
 目下、赤の主となっている可能性があるのは救世主候補生のみ。
 その全員が大河君を中心として動いています。
 赤の主を経由して、アナタの意を通す事もできるでしょう」


「中心は俺でも、主人は俺じゃない。
 リリィの飼い主は俺でも、決めるのは本人だ。
 俺が言ったって、間違っていると思ったら誰も聞きはしない。
 それくらい解って言ってるんだろ」


「…そうですね。
 では、お互いに敵意を抱いたり、裏切りと取れるような行動をすれば知らせが行く…。
 テレパシーの応用でどうでしょう」


「妥当……かな?」


 最初の一戦でケリがつくとも思っていない。
 緒戦ではこんな物だろう。
 ミュリエルは目下の問題となる白の主とイムニティの情報を得たし、大河はミュリエルとの間合いを計りなおした。
 収穫は多くはないが、少なくもない。

 ミュリエルと大河は一息ついた。
 既に時刻は2時半。
 一休みすれば、すぐに救世主候補生達が集まってくるだろう。


「なぁ学園長、リリィにフォローを入れてやったらどうだ?
 張り飛ばされるんじゃないか、勘当されるんじゃないかってビクビクしてるぞ」


「アナタがそれを言いますか…いい面の皮の厚さですね」


「いやぁ、美形だなんて照れるなぁ」


 冷たい目で大河を一瞥し、スルー。
 ボケを流された大河はちょっと寂しそうだ。


「…気まずいのは私だって同じです。
 ですが、リリィが私を責めたのも事実ですし…」


「最初に嗾けるよりも先にリリィを押し倒したのは学園長なんじゃが…」


「マタタビのお蔭で、その辺全く記憶がございません。
 この際ですから、もう少し悩んでもらいましょう。
 甘えてくれて嬉しいのは嬉しいのですが、昔からリリィは私の動向を気にしすぎるきらいがあります。
 自立には丁度いいでしょう」


「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす…か」


「ネコとヒョウですけどね…あぁ、両方ネコ科ですか。
 そうすると私とリリィは人類ネコ科」


 一応、大河とミュリエルの抗争は一段落ついた。
 どの道、今のミュリエルに出来る事は根回しだけである。
 何かあった時に、すぐさま大河を無力化できるようにする準備。

 それに、大河が救世主になる気はないというのは本当だろう。
 彼にはそれをする動機が無い。
 自分が死ぬ気も無いだろうが、要は救世主を誕生させなければいいだけである。


(つまり…私がするべき事は、非常事態に備えた根回しと、大河君達の支援、ですね…。
 まぁ、今までと変わりないと言えばその通りですが……。
 しかし、どうしたものでしょう…今後の事を考えると、大河君に限らず救世主候補生は最前線に送る事が決定しています。
 強い戦力ですから、存分に使わないと…。
 ですけど、そうすると自然と赤の主と白の主の危機も増え、従って救世主が誕生する可能性が…。
 戦う毎に強くなり、神を受け入れる器が完成してしまうかも…)


 ジレンマである。
 しかし、ミュリエルの決意は変らなかった。


(大河君…もしも貴方ともう一人の主が、何かの理由で救世主として覚醒してしまいそうになったら…その時は、あらゆる手段を使って私がこの手で殺します)


 ミュリエルが内心で拳を握り締めていると、扉がノックされた。
 救世主候補生達が来たのだろうか。


「入ってください」


「失礼します」


 入ってきたのは、救世主クラスではなかった。
 大河とミュリエルが思わず目を点にする。


「だ、だうにー先生…」


「ダウニー・リード、参上しました」


「あ、あー……ご苦労様です」


 何故かミュリエルはダウニーに頭を下げる。
 それを見て、ダウニーも一礼した。
 頭を下げると、髪の毛が垂れる。


「…ダウニー先生、また随分とイメージチェンジしましたな」


「ええ、もう当分髪の毛は切らないと決めたのです。
 アフロからカツラ、波平と髪型を変えたせいか、髪の貴重さというものが身に染みましたので」


「だ、だからって…えらく極端な伸ばし方をしたもんですな」


「いっその事、ヒゲも剃らずに美髯公を目指そうかとも思ったのですが」


 ダウニーは自身で言っている通り、髪を切っていない。
 流石に視界を遮る部分は切っているが…。
 そのため髪が異様に伸びて、肩を通り越して胸元に届くほどだ。

 そして頭頂部は、引き抜かれたダメージが痛恨のものだったのか、まだ生えてきていない。


「どこかで見たような……髪型ですね」


「R・新堂と呼んでください」


「サッカーが上手くなりそうなニックネームですな」


 一言で言うと、ダウニーの頭はカッパのようになっていた。
 そして後ろは伸ばしている。
 どっかのサッカー選手と同じ髪型である。
 …どっちかというと落ち武者の方が近いかもしれないが。
 落ち武者カット、カッパもどき、ア○シンド…どれで呼ぶべきだろうか。


 呆然とする大河とミュリエルとは裏腹に、ダウニーは悟りでも開いたかの如く穏やかな表情だ。
 こんな顔をされると、笑うに笑えない。

 微妙に顔を引き攣らせていると、またドアが叩かれた。
 今度こそ救世主クラスである。


「入ってください」


「はい、失礼しま……!?」


 入って来たベリオが、ダウニーの頭に目をやってギョっとした。
 後から入って来たカエデ達も、これまた硬直している。

 ミュリエルは敢えてそれを無視して問いかける。


「ルビナスはどうしました?」


「い、一応連れてきたですの。
 ルビナスちゃんを連れ出すまで、それはそれは辛く長く厳しく痒く生ぬるい戦いを経て…」


「途中経過は結構です」


「そうですの?」


 武勇伝を聞かせたかったのか、それとも体験してきた地獄を人に共有させたかったのか、ナナシは残念そうだ。
 扉を開き、不貞腐れた表情でルビナスが入って来た。
 やはり実験を中断するハメになったらしい。

 よく見ると、ルビナスを連れ出したであろうリリィ達は、どことなくボロボロになっているようだ。


「…大河、よくも自分だけ逃げたわね」


「しょーがないだろ、学園長直々に呼び出されてんだから。
 で、そんなにヤバかったのか?」


「お兄ちゃんを恨みたくなるくらいにね……ルビナスさんに対抗できるのは、お兄ちゃんくらいだっていうのに!
 廊下を歩けばタライが降ってくる、センサーが反応して落とし穴が開く、道を曲がればバナナの皮が落ちててスッ転ぶ、ドアを開ければバケツとか塗料が降ってくる……」


 何だかベタなやつが入ってた気がするが、確かにその手のトラップは大河に任せるのが一番いいだろう。
 カエデでもいいのだが、相手をからかったり惑わせたりするタイプの罠は大河の専門だ。
 なぜなら人をからかうのが好きなだけあって、その手口もある程度予想がつくから。

 思い出して屈辱に震える未亜達は置いておいて、ミュリエルは本題を切り出した。


「さて、救世主クラスの今後の事ですが」


 身を硬くする未亜達。


「最初は前回と同じように、何度か遠征を繰り返して実戦経験を積んでもらう心算でした。
 しかし、事態は急変しつつあります。
 ホワイトカーパス州では既に“破滅”との大規模な戦いが頻発しており、戦力的にはまだホワイトカーパスが有利ですが、このまま“破滅”のモンスターが増え続ければ、そう遠くない内に均衡は崩れ去るでしょう」


「“破滅”がもう出現しているのですか!?」


 ベリオが悲鳴交じりの声を上げる。
 リリィ達も目を丸くしたが、ミュリエルは意に介さない。


「“破滅”自体は先日の遠征でも出現していたでしょう?
 ただ、組織的というか…文字通り軍団規模のモンスターの集団は、まだ数える程しか現れていません。
 ダウニー先生、お願いします」


「はっ」


 ミュリエルの命を受けて、ダウニーは大きな地図とグラフを取り出した。
 地図を広げ、魔力で空中に固定する。
 レビテーションの応用である。

 R・新堂な髪型を誰もが敢えて無視する中、ダウニーは淡々と説明を始める。
 ポインタで地図の一点を指した。
 山と河に囲まれた、やや海に近い場所である。


「まず、ここがホワイトカーパスです。
 地学的には恵まれた場所ではありますが、政治的な中枢からは程遠い場所にあります。
 現在、“破滅”の軍団は主にこの辺りに出現し、ホワイトカーパス領の精鋭達と小競り合いを繰り広げています。
 小競り合いと言っても、その被害は決して無視できるものではありませんが…。

 楽観的な目算では、このホワイトカーパス州の戦力だけでも、あと一ヶ月は持ち堪えられると言われています。
 ですが、実際にはあと一週間もすると大分情勢が変ると思われます。

 次に、ここ…ゼロの遺跡と呼ばれている遺跡がある街です」


 ホワイトカーパス州からポインタを離し、今度は少し離れた場所にある街を指す。


「ここは以前の“破滅”の際に、最終決戦の場となったと言われている場所です。
 まぁ、実際には眉唾物なのですが…火のない所に煙は立たぬ、との言葉通り、それに近い何事かがあった場所なのは確かです。

 この街から、王宮に連絡が届きました。
 “破滅”のモンスターらしき魔物達が、街の周囲をうろついているそうです。
 嘘か真か、夜中に街の中に侵入する事さえあるとか。

 ですが、この場所は戦略的に言えば何の価値もありません。
 無論、“破滅”のモンスター達が執着する理由があるとも思えません。
 では何故“破滅”のモンスターは、この街の周りをうろついているのか…。
 農作物もそれほど多くなく、街の住民を標的にしているのだとしても、少々住民の数が少なすぎます。

 さて、今度はこちらのグラフなのですが」


 今度はダウニーは、グラフにポインタを当てた。
 統計学の心得でもあるのか、こういった図表から情報を読み取るのが苦手なカエデでもある程度内容の見当がつく。
 どうやら“破滅”のモンスターの増殖率と、こちらの戦力の被害の大きさと比較しているらしい。


「こちらの右上がりになっている線は、今後の“破滅”のモンスターの増加率です。
 ホワイトカーパス州はよく持ち堪えてくれていますが、それによるダメージを加味しても、この増え方は脅威です。
 “破滅”のモンスターは、どこからともなく次々に沸いて出てきますが、人間はそうは行きません。
 こちらの棒グラフが、人間側…ホワイトカーパス州の戦力です。
 見ての通り、右に行くほど…つまり戦いが長引けば長引くほど、戦力低下の勢いが増していきます。
 戦争は数だよ、という名セリフがありますが、それは全てではないにせよ真実です。
 戦力を数値として計算する場合、人数の2乗をその値とする事があります。
 2名なら2×2=4、10名なら10×10=100という訳ですね。
 個人個人の技量や作戦を計算に入れていませんが、これは解りやすい例えです。
 4人対5人の戦いならば、(5×5)−(4×4)=9の戦力差。

 4対5で戦う時、一人につき一人を相手にすると仮定しましょう。
 当然の事ながら、これでは一人余ります。
 余った一人が誰かの加勢をすれば、そこでの戦力差は2対1となり、当然2が勝ちます。
 すると加勢してもらった人も担当した相手が倒れたので自由になり、これまた他の人に加勢する事ができるようになります。
 このように、一人の人数の差でも、結構な違いが出るのです。
 まぁ、戦争と呼ぶような大規模な戦では一人二人の違いは掻き消されてしまいますが…」


 立て板に水、とばかりに解説するダウニー。
 それはそこそこ為になる内容ではあったが、脱線している事には変わりない。


「ダウニー先生、話を本筋に戻してください」


「失礼しました。
 とにかく、見ての通り長期戦では勝ち目がありません。
 あっという間に数が削られてしまい、飲み込まれるのが目に見えています。
 そこで、クレシーダ殿下とホワイトカーパス州代表のアザリン様は、何かしら一大作戦を練っているのです」


「一大作戦…ですか?」


 未亜が不安そうな顔をする。
 しかし、ミュリエルはそのもの問いた気な表情をピシャリとシャットアウトした。


「残念ながら、この作戦は最終段階に入るまで他言無用となっています。
 どこから漏れるか解りません。
 例え救世主候補生と言えど、教える事は出来ないのです。」


「…そう、ですか」


 未亜は自分達が信用されていないのかと思ったが、大人しく引き下がった。
 大河がその頭をポンポンと叩く。

 無理もないと言えば無理もないのだ。
 救世主クラスの立場は、政治的に言えば単なる王族の手駒と大差ない。
 末端の人間に、そんな大きな作戦の内容を教える理由は何もない。
 まぁ、その大河が作戦の内容を知っているのは誰も知らなかったが…。


「話を戻しますが、その作戦のために、ホワイトカーパス州の戦力は不可欠なのです。
 ですので、時期尚早ではありますが……ホワイトカーパス州に、援軍として向かってもらう事になります」


「「「「「「「 !? 」」」」」」」


「ちょ、ちょっと待ってください!
 それって、思いっきり最前線送りじゃないですか!
 いくら召喚器付きとはいえ、ルーキーには荷が重過ぎます!」


 ルビナスが思わず声を荒げる。
 不貞腐れていたのも忘れてしまったようだ。

 しかしミュリエルは冷徹に反論する。


「いつまでも温存していては、成長も望めません。
 手荒なのは認めますが、時間がないのです。
 それに、ホワイトカーパスには良い将や武人が揃っています。
 成長の糧とするには、これ以上ない場所です」


「時期尚早ではある、と言ったでしょう。
 それに、今のままではホワイトカーパス州は遠からず飲み込まれます。
 それを防ぐためにも、何らかの戦力を送り込まねばなりません」


「たった数人を送り込んでも、何の意味もないでしょう!?」


「救世主候補生のみを送るのではありません。
 傭兵科のOB・OGを中心に、戦力を掻き集めます。

 …ルビナス、これは決定事項なのです」


「……ッ!!」


 ルビナスが歯噛みする。
 未亜達は、不安げに視線を交し合った。

 大河一人だけが冷静に、一歩進み出る。


「それで、続きは?
 遠征するのは、ホワイトカーパス州だけじゃないんだろう?」


「その通りです。
 先ほど話した、ゼロの遺跡。
 こちらにも向かってもらいます。
 ここで“破滅”のモンスター達が何をしているのか調査し、しかる後にホワイトカーパス州へ向かうことになります」


「戦力を逐次投入する意味は?」


「実戦経験を積ませるため…というのが建前ですが、実際には人手が足りないからですよ。
 救世主候補生は、単騎でも普通の訓練を受けた騎士や戦士よりも数段強力な力を発揮します。
 しかし所詮単騎は単騎。
 全体を見れば、10の力を持つ1人と、1の力を持つ10人では後者の方が多くの働きができるのです。
 調査のために何人もの兵士達を送り込むより、強力な力を持つ救世主候補生を2,3人送り込み、兵士達は最前線に向かわせるのです」


 ふん、と大河が腕を組んで考え込む。
 どの道、やるしかないのだが。
 ホワイトカーパス州に向かうのは、恐らくアザリンの作為でもあったのだろう。
 政治的に大した意味を持たない土地であるのに、賢人達が態々援軍を送るとも思えない。
 それを助けに行くのだから、裏で何か動きがあったと見るべきだろう。


(…実を言うと、アザリンと取引する時の条件がそれだったんだけどな。
 このままじゃ賢人どもの保身のために盾にされるのが目に見えてるから、要職について軍を動かせって)


 まさかここまでスムーズにやってのけるとは思わなかった。
 虚空を見詰める大河を他所に、未亜が尋ねる。


「それで、出発は何時に?」


「…明日の昼に、王宮から迎えが来ます。
 王宮で色々と仔細な説明を受け、準備を整えるために一泊し、しかる後にそれぞれの場所へ向かってもらう事になります」


「…明日…」


 未亜の表情が暗くなる。
 リコ達も押し黙っていた。

 が、そんな中でも限りなく(脳が)明るい娘が一人。


「ハィ!
 質問ですの!」


「オヤツは300円まで、バナナはオヤツに入りません」


「じゃあバナナを山ほど持っていくですの…じゃなくて!」


 ナナシが大きく手を上げて質問した。
 ミュリエルは即座に反したが、ナナシの質問は違ったようだ。


「そーじゃなくて、誰がドコに向かうんですの?
 ナントカの遺跡に向かうのは3人くらいなら、誰が向かうんですの?
 ナナシはダーリンと一緒がいいですの〜」


「「「「「「 !!!!! 」」」」」」


 女性陣の目がギラリと輝いた。
 それを見たダウニーは無意識に一歩下がり、大河は寒気を感じ、ミュリエルはミュリエルで目が鋭くなる。



「私はお兄ちゃんと一緒が当たり前!」
「それはただの我侭です! 回復役の私が適任ですよ!」
「ベリオじゃこのバカが暴走したら止められないでしょ、私が適任よ!」
「師弟の絆は断ち切れぬモノでござる!」
「私は大河さんと一緒にいないと、あっという間にエネルギーが尽きて空腹になってしまいます!」
「ダーリンと一緒に行くのは私よ! この豊富な知性をダーリンは必要としているのよ!」
「やーん、みんな纏めて他爆装置でふっ飛ばしちゃいますの〜!」
「私なんてずっと置いてけぼりなんですよ! 少しは我慢しなさい!」
「学園長まで何故混ざるんです!?」
「お義母様、駄々を捏ねた所で付いて来れない者は付いて来られません!」
「拉致が空きません、何かで勝負しましょう!」
「それなら救世主クラスの能力試験が丁度いいです!」
「ならば今からでも始めるでござるよ!」
「ナナシちゃん、今こそニューボディの真価を発揮する時よ!」
「ルビナスちゃんもホントは敵ですけど、この際だから同盟を組むですの!」
「ええい、煩いですよ貴方達!」


 あっという間に始まる大論争。
 ミュリエルまでも参加しているその論争に、大河は暫し呆然としている。

 ダウニーはというと、相変わらず何を考えているのか理解に苦しむ表情で論争を眺めている。


「…ふむ、モテますね、大河君」


「…それは皮肉っすか?」


「いえいえ、素朴な感想です。

 あー、皆さん、少し提案があるのですが」


「「「「「「「「 ああん!? 」」」」」」」」


 ものごっつぅ怖いメンチを切る女性陣。
 しかしダウニーは飄々とした態度を崩さない。
 メンチの余波だけでガタガタブルブルしていた大河は、初めてダウニーを心の底から尊敬した。


「提案なのですが、救世主クラスの能力試験で決定するというのは構いません。
 ですが、その場合どうしてもエキサイトしすぎてしまうでしょう。
 明日には最前線へ出発するというのに、怪我でもしてしまっては笑い話にもなりません。
 そこで、能力試験の内容は、私と一対一…または2、3人のチームで戦うというのはどうでしょうか?
 判定は…そうですね、ダリア先生にお願いしましょう」


「ちょっ、ダウニー先生本気ですか!? 正気ですか!? 自殺願望っすか!?」


 慌てて止めようとする大河だが、ダウニーは少し笑っただけである。


「本気だし正気だし、自殺願望でもありません。
 ただ、少し思う所があるのです。
 大河君、無論君も参加するのですよ」


「え゛、オレも?」


「心配しなくても、私の側ではなくて救世主チームで、です。
 後に戦うチームほど有利になりますが……その辺も計算済みです。
 それに、仮に私が勝ったからと言って、命令権を使う事もありません」


 大河はダウニーの顔をマジマジと見た。
 一体何を考えているのだろうか。

 ふと女性陣に目をやると、ダウニーの態度に毒気を抜かれたのか、迫力が少々萎んでいる。
 これを狙ってやったのならば、大河はダウニーを師と仰いだかもしれない。


「どうやら承諾していただけたようですね。
 では、先に闘技場に向かっています。
 学園長、後は…」


「わかっています。
 少々我を忘れてしまいましたが…。
 ですが、ダリア先生は王都まで泊りがけで出掛けています。
 この際だから、審判は無しでいいでしょう」


 ミュリエルが少し頬を染めて、視線をずらした。
 それに大河が萌えていたが、ダウニーは一顧だにせずに学園長室を出て行く。

 未だに視線で牽制し合っている救世主候補生+2を横目にして、大河はミュリエルに話しかけた。
 ……ちなみにダリアが王都まで出張しているのは、ミュリエルの鉄槌を恐れただけだったりする。


「…何を考えてるんでしょうね?」

「さあ……ヤケでは無さそうでしたが……。
 何か悪いモノでも食べたんでしょうか?
 不気味なくらい毒気とか棘とか在りませんでしたし…」

「これが夢の中だと思っているとか」

「妖精さんでも来てるんじゃない?」

「ニセモノって事は」

「傀儡の術で、誰かがあやっているのでござろう」

「悪い物でも食べたんでしょう。 胃が弱そうですし」


 カエデの言葉に、過去の過ちを思い返してちょっと頬を引き攣らせたミュリエル。
 まぁ、その結果があの乱交なので、今となっては別にいいのだが。
 それはそれとして、ミュリエルはついでとばかりに言い添える。


「そうそう、私もダウニー先生のチームで参加させてもらいますよ」


「え、何で?」


「ま、置いていかれるんですし…ちょっとした八つ当たりみたいなものですね。
 それに、チームの内容は既に決定しているんです。
 どういう意味か…解るでしょう?」


「そりゃまぁ……。
 そもそも、チームのメンバーを俺達で自由に決められる訳じゃないし。
 幼稚園の遠足やってるんじゃないんだから、な」


「ご主人様、早く行きましょう!」


 背後から声をかけられ、大河が振り向くと、救世主候補生達は扉を開けて出て行く所だった。
 大河とミュリエルも立ち上がり、その後に続く。

 しかし。


「…前方から瘴気が漂ってきますね…」


「オンナの戦い、ですなぁ…」


 そこはかとなく、息がし辛かった。
 未亜達はというと、新たな戦いに突入している。


「だから、新しいベッドがあるんだから私の部屋が一番妥当です」


「一番妥当って言うなら、兄妹の私の部屋が当然でしょ」


「飼いネコを放っておくと、ストレスで病気になっちゃうのよ」


「あら、リリィちゃんの部屋は他の同棲希望者がいるじゃない。
 それより私の実験室ってのはどう?
 白衣で、ってのも結構オツよね」


「じゃあ、みんなで地下のお墓でキャンプですの〜。
 そしてコッソリ抜け出して…にゅふふ♪」


「拙者、師匠と一緒に寝れるならどこでもいいでござるよ〜。
 仮にも側室であるからして、北の方を押しのけてまで師匠を引っ張り込む事は出来ぬでござる。
 ここら辺でポイント稼ぎでござる」


「みなさんフケツです!
 大河君は、私が一晩責任もって監視と世話をします!

 それに、リコの部屋のベッドだって、元はといえばベリオの物だしねぇ」


 どうやら、今度は今晩大河がどこに泊まるかで議論しているらしい。
 本人もすっかり忘れていたが、大河の部屋…屋根裏部屋はベッドの重みでぶち壊れてしまっている。

 実際の所、どこに泊まろうと全員が押しかけてくるのは目に見えているのだが…オンナのプライドというヤツだろうか。
 大河は頭を抱えている。
 誰を選んでも角が立ちそうだ。

 ミュリエルは大河を見て笑っていたが、ふと大河の耳元に口を寄せた。


「私の部屋はどうかしら?
 小難しい密談を時々してるから、今回もその話だって言えば少しは納得するんじゃない?
 実際、色々と話したい事があるから」


「…この連中が納得するかな…。
 学園長命令、って事にすれば確かに少しはマシになるかも…」


「こういう事に権力を使うのは良くありませんよ」


「どの口で言うかな…」


「ま、いずれにせよ、今夜はみんな纏めて、たっぷり可愛がってもらうわよ。
 明後日から、みんなバラバラになるんだから…そのくらいしなきゃ甲斐性なしになっちゃうわよ、飼い主さん?」


 そう言って、ミュリエルは大河の耳の穴に少しだけ舌を這わせた。
 妙に舌がザラザラして長いと思ったら、どうやらミュリエルはネコモードを口の中だけ発動させているようだ。
 この短期間でそこまで習熟できるとは、ミュリエル・シアフィールド恐るべし。
 …それとも、一人でこっそり練習していたのだろうか?
 舌が長くなれば、その分テクニックの幅も増えるし。

 そんな事を大河が徒然と考えているのを察したのか、ミュリエルはクスリと笑う。


「試してみますか?
 私の部屋を選べば、それこそ全身を使って御奉仕しますよ…」


「………り、理性が…」


 キレかけている。
 というか、夜まで待たずにこの場で押し倒しかねない。

 ミュリエルが、舌を這わせた後に軽く息を吹きかけた。

 ふらふらとミュリエルに抱きつこうとする大河。
 だが。


カンッ!


「………(汗)」


 大河の前を、何かが高速で通り過ぎる。
 動きを止め、ギチギチ音を立てながら振り返った大河の目に…恐ろしい真実が映る。
 それは……893モードは未亜だけの特権ではない、という真実だったそうだ。


「…大河君、やはりダウニー先生のチームで出ますか?
 味方に背後から撃たれては洒落になりませんよ」


「あうぅぅ……」




えー、R・新堂さんに冥福を祈る時守です。
そろそろシリアスキャラに戻そうと思います…。

最近忙しいッス。
いえ、大半は時守の趣味なんですが…まずスパロボ。
次に試験勉強(試験休みなのに持込の紙も作ってません)。
そして就職活動(何もしてませんが)。
さらに自力でゲームを作ってみようと、プログラムの勉強…。
何より幻想砕きの執筆!
ふぅ、何でこんなに忙しいんだ…?
はい自業自得ですゴメンナサイ。

C言語はそこそこ使えるつもりだったんだけど…自信喪失中デス。
学校の課題程度とはワケが違う…。


それではレス返しです!


1.沙耶様
ヒョウにしようかトラにしようか、散々悩みました。
お告げを下さった電波の神様に、祈りを捧げましょうw


2.鈴音様
巫女さん好きの先輩ですか、イイ人ですねw
時守も一度完全に飲まれました。
もうチャンポンで飲みません。

収集?
そんなのつけてどーするんです。
暴走するのに任せて入れば、もうなる様になりますよw


3.ネコ科様
今後の18禁ですか…もうこんなにエネルギーを使う話は書けないでしょうし…。
また大まかな粗筋だけになるかもしれません。


4.ATK51様
某陛下を襲うのはヤバすぎですよ。
ドム君にブッコロされます…。

リリィとミュリエルは…和解…したのかなぁ?
あと一歩、って所でしょうかね。


5.くろがね様
いえいえ、フローリア学園は当分健在です。
ただし中身がものスゲー変るでしょうけどw
妹メイドは某HPでやっておられるので、未亜には別のコスチュームを着けてみたいと思います。

アシュ様と横島は……横島は最終決戦のちょっと前辺りでしょうか。
アシュ様は最終決戦でルシオラが死んだ後、ゴタゴタあって一時休戦、その時に確実な消滅をチラ付かされて、ルシオラ復活の手伝いも兼ねてスカウトされました。
当然横島の感情も神魔界のイザコザもあって荒れに荒れ、全竜交渉なみのややこしい取引が頻発してよーやく一段落ついた…という設定です。


6.皇 翠輝様
コンプリートおめでとう大河!
そして一段落おめでとう私!
でも当分は神様の御光臨は無さそうです。


7.蓮葉 零士様
おおぅ、正に人生芸ですね!
体を張って、マッドへの道を一直線にどーぞ!

セルとアルディアは…確かに何か書いた方がいいと思いますが……ね、ネタが浮かばない…。
ジュウケイがアルディアに連れて来られた彼氏(誤解)を暗殺しようとするシーンとか、初めて会ったジュウケイにセルが脅えまくるシーンとか、あと別の人格になったアルディアに徹底的に扱き使われるセルとかのシーンは思いつくんですが…。
オチとアルディアとセルの微妙な関係が思い浮かばない…。


8.3×3EVIL様
え、えらくオープンな妹さんですな…好感が持てます。

さて、次のリリィとミュリエルは開発ですか…。
まずは勝手にどこかに行かないように躾けて、さらにトイレの場所を覚えさせましょうw
あと猫団子もやりたいですねぇ。

妹さんへ 一対一ではないですが、崩壊寸前まで嬲るのは別のキャラでやる予定デス。


9.博仏様
ええ、逝く所まで逝って来ましたよ。
次回以降…というと、リリィ&ミュリエルの濡れ場ですか?
それとも進化の事ですか?
はたまた他のメンツの属性でしょーか?
……どーしましょう、超えられる自信はありませんよ。


10.EDGE様
神様は私の所にだけ居るのではありません。
萌えを愛する全ての人々の中にいらっしゃるのです。
…当分他の方々の所に行くので、その間自分でどうにかしろとの仰せです。


11.竜神帝様
時守も自分で読み返して何も言えません…。
本当に自分で書いたのかなぁ…どこの妖精さんの作品なんだ?


12.悠真様
ヒョウの先の究極体と完全体…獅子?
それともいっそシーサーとか。
子ネコりりぃを作るなら、ロリ化薬を作ってリリィに飲ませましょう。
若返り薬だから、ミュリエル学園長辺りが必死に確保しようとするかもしれませんがw
む、そうなると女子○生のミュリエルが見れるかも?


13.アレス=アンバー様
結構な破壊力があったようでw
琥珀さんと組ませたら…俺の想像力が追いつきませんッ!!
箒と注射を持って聳え立つマジカルアンバー。
その隣にはマッドな笑顔で試験管とビーカーを持って並び立つルビナス。
そして両者の間に、ちっこく座るナナシ(パンダの着ぐるみ)。
…怖いような一部和むような。

クレアとイムについては、もーノーコメントとしか(笑)


14.砂糖様
確かに酒の力は怖いっすねぇ…。
が、上手く使えば電波の受信率が上がるのです。
これが酒の有効利用というモノだッ!

う〜ん、次は何をするべきか…。


15.596米様
むぅ、ツワモノですね…。
そーか、ああいうのも華なのか…。
…いっそ今度はリコに飲ませるべきか?

嫌悪感は感じてなかったと思いますが、羨んでいたかは…。
どっちかというと、唖然として何も考えられなかったと思いますが。


16.流星様
カエデにイヌミミは既に予約に入ってますぜ。
丁度いい機会は当分先になりそうですが…。

しっとマスクスーパーストロンガー…しかし一般人よりは強いとは言え、しっとマスクは元が弱いので、パワーアップしても大した戦力には…。
そーか、やられっぷりが派手になるのか!


17.根無し草様
カキコありがとうございます!

りりぃは幻想砕きの中で一番の傑作になりそうです…。
というか、アレ以上のエロとか萌えを引っ張り出す自信が皆無です。
それなりにやっていく所存なので、今後ともよろしくお願いします。


18.試作弐号機様
おお、何と的確なネコの表現!
勿論ミュリエルは、おいでおいでとやると待ってましたとばかりにテクテク寄ってきますw

ヒョウに関してはまだ案はありませんが、一つだけ考えている事があります。
多分誰でも思いつくと思いますが…。

クレアはこれで両刀使いですな。
レズ一応OK、ノーマルOK、SとMもOK…満載だw
流石は王女…。

次のターゲットは…別作品のキャラになりそうです。
同人少女にしたかったのですが、ストーリー展開に時間がなく…(涙)


19.米田鷹雄(管理人)様
いつもご苦労さまです<m(__)m>


20.カシス・ユウ・シンクレア様
いやぁ、救世主云々以前に本人の資質ではw
ルビナスが責められているのは、策士策に溺れると言うか自業自得というか…。

イムの今後が心配です…さて、次はどうしてくれよう…。

救世主クラスの男性化とかは一応考えました。
が、それは多分………の時に一緒にやります。
三点リードに何が入るかの詮索はご勘弁をw


21&26.なまけもの様
別の意味でもちょっと遠い理想郷ですなw

ニーソはいいですね、ニーソは…いつかクレアとリリィのダブルニーソとか…。
ブラックパピヨンは…アレはニーソか?

イムは…飲むだけじゃなくぶっかけはアリですか?
幾らなんでも場所と人を選びますね…。

私も肉球触りたいッ!
では、ウチのワンコのにくきうをぷにぷにして来ます。


22.神曲様
自分で創作しておきながら何だが、「私は、幻想砕きの剣が、大好きだっ!」
ふぅ、自分の作品を好きだというのは微妙に恥ずかしいモノですね。
幼稚園の時に金賞を取った絵を晒し者にされた経験がありますが、それに微妙に近いッス。

これはまた…ヘルシングっすか。
なんと言うか、趣味がモロに出ている演説ですね、感動モノですw


リコに利尿剤は効くのかな?
ちなみに私が好きな幻想砕きの剣の順番は、@萌えAコメディBエロCシリアスでしょーか。
結局自分で書いているんですから、色々と間違った愛情とかも感じてますw


23.古人様
トラ…トラ…大虎か…。
………浮かべる、電撃出せる、そして一応幻術も使えるっぽい。
影が薄い張子の虎になるか、はたまた語尾に「だっちゃ」をつけるか。
当然後者なのですが、その時は…虎縞ビキニと角も追加じゃー!
む、しかし角と一緒にネコミミが生えるとバランスが悪いか…?


24.アルカンシェル様
濡れ場はムズカシイっす。
3話分のエネルギーを使い果たしました…。

ルビナスが復活していて一番ありがたい事はコレですね、薬一つでどんな不条理も誤魔化せるw

ラブでない濡れ場はちょっと書けそうにないですね。
調教モノはOKなんですけど…。


25.K・K様
オギャンオス!

実際パピヨンとベリオはどうにかせねばと思っているのですが、いいネタが無いんです…。
今考えているネタは一応戦闘用のモノなので、濡れ場に使えるのは当分先…。
とりあえず騒動を起こしてもらいまシタ。

う〜ん、救世主候補に対する……その手があった…。
実を言うと、この辺のはかなり付け足しっぽく書いたんで。
エロに全力投球してましたから、気力が残ってなかったよーです。


27.神〔SIN〕様
私もおもいっきり引き込まれましたw
原作じゃダークというかバイオレンスなのに、こちらは桃色ですにゃあ…うん、時守はこっちの方が好きです。

古い話題を持ち出しますね…正直、どれだけの方が覚えてくれていたか不安でした。
何せ一章進めるのにめったやたらと時間がかかりますから…ごめんなさい、全部私がナメクジ並みなのが悪いんです。


28.舞ーエンジェル様
う、穿つ?
穿つんですか?
ピアスですか、それとも人体改造ですかい!?
人体改造するなら「やめろショッカー!」がいいですかい!?

ショタ…ショタか……うん、不可能じゃないなぁ…。
若返り薬を作って、ネココンビと大河に使ってショタ・仔ネコ・女子○生の三段コンビ?
ロベリアだけじゃなくて色々と喜ぶ人が居そうですね。
…ショタは…ブラパピにも似合うなぁ…。


29.ナイトメア様
激動の時代ですな…学会がまた命名でえらく揉めそうです。
書の精霊は学名は何とつけられているのだろう…。

もしもシリーズ…ド○フっすか!?
ダウニー先生、君も男だったんだね…その事だけは僕の心に刻んでおくよ。

カエデの暴走…使えるやもしれぬ…。
む、しかしこの方法は未亜に使う予定だったんだが…タイミング次第かな〜。

相変わらずネタが満載ですねw


30.なな月様
萌えがあれば万事OK…なんちゅーかもう、何の抵抗もなく心にスーっと入ってきて、我輩は我輩はぁ!
今年に入って聞いた最高の名言です、いやマジで。
…何、万事OKじゃない?
そんなヤツは覚悟が足らん!

わかっていただけましたか!
高貴で気高く、ちょっとサドくて、さらに崩れると物凄い…これがネコミュリエルだー!
ふっ、退けないという台詞は退ける所があるヤツが吐く台詞だぜ。
ネコとヒョウを忘れて戻れますか? いや戻れまい!

ぐあー、ニャバロン入りてー!
きっと桃色と萌えとあとエロスがー、ぐああああ!
…あれ、今何かよぎったぞ?

青い空。
爽やかな風。
辺り一面はなだらかなカーブを描く草原。
そう、ここには他に誰も居ない。
ニャバロンの主である大河と、大自然の中で限りなく裸に近い姿で昼寝をしているネコりりぃとネコミュリエル以外は!
誰も居ないから、どこで青姦しても問題なし!
しないとしても、岩の上で素肌を晒して日光浴をしている2匹はまるで絵画のよう…。

…アルヨ、ニャバロンハデンパノナカニアルヨ。
いやぁ、至福の電波を受信しました…世界よなな月様よアリガトウッ!

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