前回のあらすじ。
何とかデビルキシャーとの邂逅を回避した俺、式森和樹(旧・立花玲夜)。
その後突然現れた青の魔法使いに拉致られの弟子になった俺は挨拶回りという名のデスマーチに連行される事になったのだった。
流される人生って楽なようで案外辛いです。
俺は今、伽藍の堂という事務所に居る。
青子ねえ(流石に『お姉ちゃん』と呼ぶのは俺が危険なので妥協させた)の実の姉である所の蒼崎橙子氏の事務所兼仕事場兼『魔術師の工房』だ。
ソファに座ってぬるくなったコーヒーを飲む俺の向かいには、何処か遠くへ逝った目をしている男性が座っている。
黒尽くめの格好で、人の良さそうな顔をした彼の名前は黒桐幹也。この伽藍の堂の従業員である。
最も従業員と言っても、今現在高校生の彼はバイト待遇だ。この辺り原作とのズレがあるようだが、原因は分からない。
――やはり俺が介入した影響なのか?
或いは、まぶらほとクロスオーバーしている事が原因か。
益体の無い考えをそこで打ち切り、幹也さんに視線をやる。
じっと見つめても何も反応しない幹也さんに嘆息し、彼の視線の先を辿る。行き先は頭上。何隔てる物無く、澄んだ青空が目の前に広がっている。
ぶっちゃけ天井が無かった。
そして遙か上空で怪獣大決戦を行う二つの影。
一つは言わずもがな、我が師にして世界に四人しか居ない魔法使いの1人。『マジックガンナー』『人間ミサイルランチャー』などと言った物騒極まりない二つ名を欲しいままにする人物、蒼崎青子。
片や、その姉。最高位の人形遣いにして封印指定の魔術師。ルーンを専攻魔術として操り、伽藍の堂オーナーを務める、礼園女学院OGにして魔眼憑き。冷たい人格なのに根はロマンチスト。スピード狂で美少年好き、蒼崎橙子。
上空から聞こえてくるのは互いが互いに向けた罵詈雑言と激しい騒音。いや、正確に言うなら爆音とか破壊音とかそういう類の言葉が正しい。
無数の氷柱が宙を舞い、乱れ飛ぶ光弾がそれを砕く。
爆炎が空を埋め尽くせば、レーザーが如き閃光がそれを切り開く。
おまけに流れ弾は事務所の壁を破り、柱を穿つ。爆炎の残り火が家具を焼き、落下してきた氷柱がそれを消し止めつつ破壊する。
弾幕シューティングと言ってもおかしくない光景は勢いを緩める気配すらなく、既にテンションはレッドゾーンを振り切って常時ブラッドヒート状態。結界のせいで流れ弾の集中砲火を食らっている事務所は現在進行形で倒壊の危機。ついでに中に居る俺と幹也さんは命の危機。
四方の壁は既に瓦礫に埋まり、それが無いとしても扉は骨子から歪んで開かない。
唯一の脱出方法は空でも飛んで吹きさらしの天井から、などという何処ぞの似非密室トリックみたいなこの状況。
…………どうにかして逃げらんないものかね、これ。
――30分前。
「来てやったわよ姉貴ー!」
「帰れむしろ死ね」
カカカッ!
扉を開けた瞬間、三本のナイフが飛んできて壁に突き刺さる。
何故かペーパーナイフがコンクリの壁に根本まで突き刺さっているが、その辺は敢えてスルーしておく。
で、ちょうど射線上に居た俺はと言うと、青子ねえの手で保護されて出戻りの危機を回避していた。というか思い切り胸に抱かれていた。感想としては柔らかくて良い感じ。
ただ良い感じは良い感じなのだが、頭に血が上りすぎて目眩がするので出来れば離してもらえると嬉しかったりする。
「あ、ごめんごめん。ちょーっと刺激が強すぎたかな?」
「い、いえ……大丈夫です」
「顔真っ赤にしながら言っても説得力は無いわね。お姉ちゃんは素直な子の方が好きよ」
青子ねえがぷにぷにと頬を突いてくるが、男子校出身で免疫ゼロな俺としては天国的地獄から脱出したばかりで頭が茹だっている。
「随分と珍しいものを連れているな。また首輪でも付けるつもりか?」
そしてそれ以前に目の前の橙子氏の殺気が気になってそれどころではない。
「この子は弟子よ、弟子。面白い掘り出し物を見つけたから、弟子を持ってみるのもいいかなってね。ショタ好きの姉貴と一緒にしないで欲しいわ」
見事な売り言葉に買い言葉。
見えます。二人の間で高まった殺気が陽炎のように揺らめいているのが俺にも感じられます。
ついでに至近距離で食らってる高校生らしき男が泡吹いてます。
運悪く部屋の中央、入り口と橙子氏の座っているデスクの中間に居たのが彼(後で黒桐幹也だと判った)の不幸でした。南無ー。
「半人前が弟子? 寝言は死んでから墓の中で言って欲しいものだな。耳障りで仕方がない」
「『なり損ね』の分際でよく言うわね。正直に言いなさい、私が羨ましいってね」
「はっ、何故私がホームレス如きを羨ましがらなければならない」
「人の名前で協会から恵んで貰ってるヤツが何言ってるんだか」
「何、有効利用というやつだ。何せ壊すしか能の無い輩が居るからな。実に簡単に金を引き出せたよ」
「引きこもりの万年金欠症は自己弁護が大変ね」
「囀るなアオアオ」
「黙れショタコン」
「………………」
「………………」
「「――――死ね!!」」
とまあ、そんな感じで怪獣大決戦は勃発した。
純粋な破壊力で言うなら青子ねえが何段も上手。だがそこは流石に封印指定、様々な属性と多彩なスキルを使って張り合う橙子氏は端から見れば全くの互角だった。
ちなみに屋根は最初の激突で無くなった。真正面からぶつかり合った魔力が逃げ場を求めて天井をぶち破ったのだ。
多分俺が助けなければ幹也さんも同じ結末を迎えたと思う。
その幹也さんは怪獣大決戦が勃発してしばらくして目を覚ました。覚まして、簡単な自己紹介を交わして、何気なく天井の残骸に目をやった瞬間に逝った。
「………………大丈夫ですか、幹也さん」
「大丈夫だよ和樹くん。俺は、これからも頑張っていくから」
あまりの屍ぶりに心配になって尋ねた俺の言葉に対して、返ってきたのはまぶしい程の笑顔だった。ただし目は死んでいたが。
この人が将来白髪にならないか、冗談抜きで心配である。
そうこうしている内に怪獣大決戦という名の姉妹喧嘩は佳境に入ったらしい。
三桁を超える光弾の嵐、無数の氷柱が弾け、爆炎が空を彩り、雷光が弾け、何故か大量の黒猫がニャーニャー言いながら空を飛んでいる。
…………いや、橙子さんの使い魔だという事は判っているのだが、あのビジュアルはどうにかならないものだろうか。
ともかく、人外魔境の様相を呈している空間、その外側で二人は動きを止めていた。
ピクリとも動かず魔力を高める青子ねえ。
大量のルーン文字を空中に描き積層型立体魔法陣を形成していく橙子氏。
静と動。奇しくも、弾幕を挟んで向かい合う二人はその行動さえ対極に位置していた。
大量に飛び交っていた弾幕が互いに食い合い、その数を徐々に減らしていく。
最後の一組が消失した瞬間、互いの最後の一撃が放たれた。
「ソーン・イス・ユル!!」
先に攻撃を放ったのは橙子氏。魔法陣が発動し、絶対零度の巨大な氷の槍が青子ねえに襲いかかる。
「スヴィア・ブレイク!!」
だが万物を凍らせる死の棘は、刹那の遅れで放たれた青子ねえの魔力の波動に打ち破られた。
レーザーじみた光は一瞬の膠着を経て氷塊を粉々に粉砕。そのまま直進し、大技の直後で咄嗟に動けない橙子氏を打ち据える。
雪のように舞い落ちる氷片の中、重力に捕らわれ落下していく橙子氏。
対する青子ねえはそれを追撃する事無く、勝ち誇った笑顔で勝利に酔っていた。
橙子氏の敗因、それは純粋な破壊力では青子ねえに敵わないと知りながら、頭に血が上ったせいか、最後の最後で真っ向勝負をしてしまった事。
逆に青子ねえの勝因をあげるならば、一撃目発動中は無敵判定って強いよねという事である。
ドスンッと鈍い落下音が響いた。
受け身も取れずに落下した橙子氏は、運の良いことに事務所のソファーと幹也さんの屍に受け止められていた。だがそのダメージは深く(上空数十メートルから落下してきた人間にクッションにされた幹也さんのダメージは更に深かったが)、瞳は閉じられたまま開く気配がない。
「あー、すっとした。この敗北を切欠にその逝かれた人格を少しは矯正すると良いわ。それじゃあね〜♪」
一方、勝利セリフを残してその場から立ち去る青子ねえ。
そして、すっかり忘れ去られて置いて行かれる俺。
目覚めた橙子氏は、哀れに思ったのか俺を住み込みの弟子として受け入れてくれた。
…………人の優しさって、ホントに胸に染みるものなんだね。
ちなみに青子ねえが俺の事を思い出したのは一ヶ月後の事だったと追記しておく。
青子先生、放任主義にも程があると思います。
<<蛇足という補足>>
・リンカーコア
魔力源泉核。原作では魔術回路を用いて生命力を魔力に変換していたが、本作ではチャクラを用いて魔力を生命力に変換している。よって魔力の源泉であるリンカーコアが壊れると生命活動も停止する。
リンカーコア自体には魔力を外部に放出する機能は存在せず、無理矢理取り出そうとすればコアにダメージが及ぶ。魔法[1]参照。
またリンカーコアは引力じみた力で肉体を個の形に留めており、これが無くなった場合肉体が個を保てずに塵と化す。
・魔術回路
リンカーコアから魔力を引き出す為の水路。マナからオドを汲み上げる柄杓でもあり、基盤となる大儀礼へ通じるアクセス路でもある。
魔術を使用するのに必要な物。ただし路が存在する以上、常時微量な魔力が流出する事は避けようが無く、魔術師はそれを隠す為に様々な対策を施す必要がある。また、流出する魔力量は本人の保持魔力量や回路の堅固さに左右される。
魔術回路は生成時に魔法回数を消費する為、魔術師は総じて魔法回数が少ない。よって魔術師のほとんどは一般人として世間から隠れている。
誰でも持っている物では無いため、世間からその存在は隠匿されている。
なお魔術回路を持つ者はリンカーコアが壊れても魔術回路が代わりをする為、肉体が塵にならない。ただし生命力の元たる魔力の源泉が無い為、生命活動自体は停止する。
なお原作で凛が『奇跡に届きたいなら死ぬまで魔術回路をぶん回せ』みたいな事を言っていますが、本作においてアレはオーバーロードした魔術回路がリンカーコアから直接魔力を絞り出す為。平たく言うと魔術と魔法[1]のいいとこ取りみたいな事が可能になる。代償はリンカーコアの崩壊=死。
<<あとがきという言い訳>>
今回は短めでお送りしました。ドミニオです。
怪獣大決戦をもう少し詳しく書こうかとも思ったのですが、無駄に長いのも読みづらいと思ったので。
ではレス返しを。
>ネコ科さん
確かにフラグは立ちましたが……うちの夕菜のキシャー度は多分かなり高いとだけ言っておきます。
白騎士フラグは……恐らく一方的に白騎士の方から押しつけられる事でしょう。
>にゃんこそば!!さん
呼び名は結局「青子ねえ」になってしまいました。精神年齢20歳なので、その辺で妥協した模様。
「姉さま」は何時か必ず呼ばせてみせましょう、はい。
完結は……出来るのかなぁ(汗
>kitaさん
魔"砲"少女ですか、なんて言い得て妙(笑
リンカーコアは仰るとおり燃え魔法少女アニメから取ってます。
本作品は当初、第零話から派生してIF設定で色々な世界に行く予定でした。なので幾つかの作品世界で共通の設定が作られており、用語もあちこちから引っ張って来てます。リリカルも行き先候補の一つだったというわけでありますよ。
彼女達が出たら……多分"非殺傷設定"のせいでお仕置きに手加減が無くなります(汗
>文駆さん
不幸引き寄せ体質……それもまた『主人公属性』の一つ。
キシャーフラグ立ちました。出会った瞬間問答無用で殲滅出来ない辺りが彼の甘さでしょう。そして将来後悔するのです。
後悔後先に立たずを地で行く男、それが玲夜クオリティ!
>緋月さん
母親を見る限り明らかにキシャーは『遺伝』してますから。きっと生まれつきキシャーだったのでしょう。
志貴の強化に関しては実は考えてたりします。ただそれが無くても『殺し合い』なら志貴が勝ちそうです。元一般人の主人公は決定的に甘い所があるでしょうから。
>3×3EVILさん
ナニと言うと……いわゆる『オレキャラ』ってヤツでしょうか。主人公至上主義みたいな。
個人的には主人公至上主義も嫌いなわけでは無いんですが(作品としてのクオリティが高ければ)……『他人の幸福砒素の味』ではありませんが、安パイ人生なんて見ててツマラナイですよね。
という事でうちの主人公は無闇に不幸度が上がるのでした。
>カットマンさん
きっと後で気付いて頭を抱えた後、色々と根回しを始めるのです。
でも報われません。だって主人公だから。
彼の最大の過ち……それは『主人公属性』を望んだ事です。
無論、恵は気付いていましたが。
>アクセル・ウェイカーさん
スランプはきついですよね。『書けないものは書けないんじゃー!』と叫びたくなります。
そんな時有効な対処法はこれ、『プラシーボ』『とーかこーかん』『ライトオアダイ』。和訳すると『気休め』『何かを得る為には以下略』『書くか死ぬか』。……内容は名前から推測してください。
カップリング&能力は原作キャラを考慮した上で趣味を押し通すつもりです。……ちなみに18禁は書けませんよ?
>黒アリスさん
リンカーコアは前述の通りですが、初心者向け魔力制御法は偶然です。積層型立体魔法陣はバスタードだったりしますが。
まぶらほ世界の魔術師にも『魔術』の存在を知る人間は居ます。ただ余りにも『魔法』が社会に浸透してしまった為、今更使うのを止めるわけにはいかないという切ない事情が。
2−Bの面々と魔術師達は……気は合うかも知れませんが、手は取れないでしょう。下手すると使い捨て魔力タンクとかにされそうです。
マザーズガーディアン面白いです。作品としては短編集で一番かも?
でもキャラ個人で見ると睡蓮が一番好きなのですよ……ほとんど活躍してないけど(泣
>新聞寺さん
作者としてはこういう書き込みも出てくるだろう、と予想はしてました。
いや、そう言いながら思いっきり凹んでるんで世話ないんですが(汗
幸いにも好意的な意見の方もいるようなので、何とかがんばろうと思います。
>SINさん
作者も同意見です。
ただそう思わない人も居るから、こういう書き込みが無くならないのだろうとも思います。目的がどっちかは私には判らない事ですが。
応援ありがとうございます。
>どこぞの某さん
ありがとうございます。
とりあえず気力の続く限りはがんばる所存であります。
>フラットさん
残念ながら大筋ではそんな感じです。
その辺は元々が作者の極めて個人的な趣味・嗜好の発露ですから、諦めて頂くしか無いかと。
言い方は悪いですが、所詮は趣味作品ですので、読者を魅せる事を至上におく商業作品とは違います。無理に書きたい物と別の物を書くのもどうかと思いますし。
期待外れなら『くだらない作品』と捨て置いてくださって構いませんので。無論、読者を無視しているわけでは無いのですが。
>サイサリスさん
実は1話と2話の間に2日ほどの時間が経っており、その間に一応の説得は終わってます。
あっさり説得に成功してる辺りは色々裏事情があるのですが、その辺は後の話で多分出てくると思います。
>空気さん
>O2さん
まあ自分でもイタイとは思います。だからこそ第0話時点で『反応如何では投稿を止める』と言っているわけですし、実際にレスが無ければ投稿を止める予定でした。
設定公開に関しても、邪魔なら読み飛ばしてください。所詮は蛇足として書いている物です。
上でも述べているように、本作は個人的趣味の産物です。別に殊更に目新しさを目指しているわけではありませんし、やはり言い方は悪いですが読者の方々の為に書いているわけでもありません。
本作の投稿を始めたのは、自分の文章を他人が読んでどういう反応をされるのかが知りたかったからです。『これは駄目だ』『これを止めろ』などと言われても、意見としては聞きますが、ただ言われたままその通りにする事はありません。
別に駄作と断ずるのは個人の自由ですが、荒らしと取られる行動をこの場でとるのは止めてください。読んでいる方々が不快な思いをします。
というわけで、プロローグ三部作『異世界に飛ばされ編』終了しました。
何というか予想外に好評なようなので、続けて投稿することになりそうです。
レスの数を見た時は思わず頬をつねりたくなりました。必ずしも好意的な意見だけでは無いようですが、ある程度は覚悟していた事ですし。
今後の話の展開ですが、一気に8年間すっ飛ばしてまぶらほ本編に進めようかと思っています。
作品内タイムスケジュール的には
『伽藍の堂に居候編』
『アルトの城に訪問編』
『伽藍の堂で修行編』
『聖杯戦争に巻き込まれ編』
『白い夏の騒動編』
『MMMに拉致られ編』
『三人娘が強襲編(まぶらほ本編)』
と続くのですが、流石に全部やってたら本編に辿り着く前に力尽きそうなので(汗
そういうわけで間の8年は『The blank of 8years』とでも名付けて外伝で書くかも知れません。機会と要望と気力があれば。
ちなみに、実は作者、まぶらほ関連の資料は一つも持ってなかったりします。
いえ、小説(最新刊を除いた)全冊、アニメ全話見てるんですが、物自体は引っ越しの時に手放してしまったのですよ。
よって記憶を辿りつつ、他の方の二次創作を参考にしつつ書いていたり。
そんなわけで間違いがあるかも知れない事をこの場で先に謝っておきます。
……ところで注釈の壊れキャラってどの程度から『壊れキャラ』なんでしょう。もしかして本作も壊れキャラ注釈が必要だったり?
次話は現在執筆中なので多少間が空くと思います。
以上、あとがきという言い訳 by ドミニオでした。
・追記
何度も削除やら修正やらかまして申し訳ありませんでした。
どうも機種依存文字に引っかかってたようです。ご迷惑おかけしました