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▽レス始

「ジャンクライフ−6−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-02-01 17:52)
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「ここは、どこ?」

水銀燈は見たことも無い風景を目の前にして戸惑うようにしてそう呟いた。燃え盛る炎、巻き上がる砂煙、聞こえてくる雷鳴にも似た爆発音。
どれもが水銀燈の記憶には無い完全なる現実感を持ってそこに存在している。
それらを眺め、水銀燈はなぜここにいるのかと、眠る為にトランクに入る前の出来事を思い出す。
もう何度目になるのか分からない就寝前の優との攻防に勝利し、自分は安心して眠りについたはずだ。

「メイメイ」

己の人工精霊の名を呼ぶが、いつもであるならばすぐに現れるはずの精霊は、現れることなく沈黙をもたらす。
水銀燈は瞬時にそこから考えられる可能性を推測し、一つの答えとたどり着く。
己の夢の空間であるのならば、精霊であるメイメイは容易く呼び出しに応える事が出来る。
それが出来ない、そして自分の記憶にも無い場所。そこから導き出される応えは一つ。

「優の夢に、引っ張られた?」

ミーディアムとドールの繋がりは、力の供給だけの繋がりではない。二人の繋がりは、それこそ概念空間ともいえる記憶の領海を介して繋がっている。
簡単に言えば心と心が繋がっているようなものだ。故に、水銀燈はミーディアムである優の夢にその繋がりを通して引きずり込まれたのだろう。
そこまで考え、その考えに水銀灯は納得すると、次に主役を探した。
即ち、この夢を見ている優の姿を。

「あれは……」

視界にその二人の姿を捉えた。一人は輝かしいはずの金髪を汚し、泣きじゃくっている女性。
そして、もう一人は片腕を失い、そこから大量の血を流しながらもその顔に感情を浮かべていない青年。
水銀燈は直感的にそれが優である理解した。
好奇心か、それとも別の何かか、水銀燈は二人に近づき、二人のやり取りに耳を済ませた。

「早く、逃げろ。俺はもう、もたない」
「いやよ! どうして、どうしてなのよ!? 私は、私は貴方を裏切ったのに、どうして!」

女性は錯乱しているのか、しきりに首を横に降り、無表情な青年の前で泣き叫んでいる。

「下らない」
「えっ?」
「守りたいと思うものがあり、守れる力が俺にあった。ならば、この結果は享受すべきものだ」
「そんな、そんなの!?」
「さて、ここでこんな不毛なやり取りをするのにも飽きた。次の人生に生きるとしよう。」

そういうと青年は目を瞑る。力尽きたわけでもない、絶望しているわけでもない。安らかであり、故に満ちたりた顔で青年はその生涯を終える。
そして、その青年の物語は一度幕を閉じ、そして次に幕があけるまで青年にとっては一瞬であり、そして他者にとっては長い眠りが始まる。
水銀燈はそれらを見終え、そして湧き上がる不快感に身を振るわせた。
これは夢、現実ではなく、目覚めれば消える幻に過ぎない。その筈なのに、その青年が死んだという事が心を抉る。
湧き上がる不快感は出口を求め荒れ狂い、そして、零れ出る。

「いやよ!!」
「なにがだ?」
「えっ?」

気がつけば半ばトランクを無理やり開いたように水銀燈は立ち上がっていた。
息が荒く、無意識のうちに怯えるようにして優の方に視線を向け、彼が不思議そうに自分を見ている事に安堵した。


ローゼンメイデン−ジャンクライフ−


「ねぇマスター。」

それは、古い古い、蒼星石と呼ばれるローゼンメイデンがこの世に生まれ、そして初めて体験したアリスゲームの時のお話。
ローゼンメイデンの姉妹人形達は自分達が戦わなくてはならないという宿命を知りつつ、それを初めて体験し、戸惑いを感じていた頃のお話。

「なぁに? 蒼星石?」

蒼星石の初めてのミーディアムは輝かしい金髪を笑顔が似合う少女から大人の女性へと変わろうとしている女の人だった。
彼女は蒼星石のことをありのまま理解し、その上で受け入れ、幾度かのアリスゲームの戦いを乗り越えてきた。
そんな彼女に蒼星石は戦うたびに膨れ上がるある一つの悩みを打ち明ける事にした。
いや、誰かに話さなければその重みに潰されてしまいそうだった。

「聞いてもらいたい事があるんですけど」
「あら、それは翠星石には聞かせたくない話?」
「いえ、聞いたんですけど……」
「貴方が納得できるような答えじゃなかったのね。じゃあ、話してみて。私の答えで貴方が納得できるかは分からないけど」

優しげな彼女の微笑みに、蒼星石も微笑を返すと、いくらか緊張を解いてその悩みを口にした。

「僕らの戦いは、一体なんなんでしょう?」
「アリスゲームのこと?」
「はい。アリスゲームがお父様の求める完璧な乙女であるアリスに僕らがたどり着くためのものだとは分かっています。でも、その為に実の姉妹と戦うなんて!!」

大好きな父を疑うわけではなかった。だが、大好きな父に問うてはみたいと戦うたびに思っていた。
どうして、戦わせるのですか? 今の私達では駄目なのですか? どうして、私達を仲良くさせたのですか?
生まれた時から決まっていた宿命。定められた果てへとたどり着く道。

「宿命なんだと。お父様の為なんだと。なんど、そう自分に言い聞かせても僕は!!」

すっと、蒼星石の被っていた帽子は彼女の手によって外され、その代わりのように暖かな手が蒼星石の頭部を撫でた。

「優しいのね蒼星石は。そして、ごめんなさい。私には、貴方に言ってあげられる言葉はないわ」
「……」
「だって、それは貴方達姉妹が出さなくてはならない答えだと思うの」
「僕達姉妹が?」

そんな時、カランッと彼女の親が経営する店の扉が開く音がして、蒼星石は慌てて普通の人形のように動くのをやめた。
彼女はそれを確認すると、一度頷いて、入ってきた客に視線を向けた。

「あら、いらっしゃい」
「頼まれ事だ。友人に、この手紙を貴方に渡してくれと頼まれた」

入ってきた男は、軍服に身を包んだ無表情の男性だった。その瞳は彼女を写しているはずなのに、誰も写していないかのように黒く濁っている。
彼女もそれに気がついたのか、少し寂しそうな顔に変わる。だが、男性はそれを気にすることなく、彼女の手に頼まれた手紙を渡した。
彼女はそれを受け取り、さっと目を通す。

「麗しの姫君ですって? 貴方の目にも私はそううつっている?」
「好きに解釈するといい。で、返事は?」
「ふふっいつも答えてくれないのね。まぁいいわ。答えはいつもと同じよ」
「そうか。ならば用は済んだ。邪魔をした」
「あっ、ちょっと待って! 貴方に聞いてみたい事があるの」
「なんだ?」

そこで彼女は蒼星石の方にちらりと視線を向けると、再び青年に視線を戻し、告げた。

「宿命で、貴方が自分の親しい人と戦わなくてはならなくなったら貴方ならどうする?」
「宿命でか?」
「宿命でよ」
「下らない」

その次にその青年が言った言葉は、この後、ずっと蒼星石の記憶に刻み込まれる事となる。
蒼星石が悩んでいる事を下らないと切り伏せたその青年は、

「戦う。ということは、自分に戦う理由があるから戦うのだ。宿命などというものは戦う理由にはならん。いや、理由を宿命と名づけるものも中にはいるがな」
「じゃあ、貴方は自分に戦う理由が無ければ戦わないという事?」
「挑んでくるのなら、戦う。己を守るために。挑んでこないのであれば放っておく。戦う理由が無いからな」

まるで、演劇の脚本のセリフを棒読みで読むように抑揚の無い口調でそう言うと、

「では、またくる」

と告げて去っていった。
青年は知らない。それが蒼星石の悩みを解き、彼女のスタンスまでをも確立させる言葉になったという事を。
これはそんな、蒼星石の古い古いお話。


「ゆ、め?」

蒼星石はその目を開き、自分の今の状況を確認した。古い畳の上で、まるで死人のように眠っている老婆の姿がまず目に入る。
それから視線を巡らしていき、本来ならその中で眠るはずの自分のトランク、仲睦まじい家族の写真。
そこまで見て、蒼星石は自分の体に巻かれた赤色のロープに視線を向けた。
今回、蒼星石のミーディアムとなった人間は精神を病んだ老人であった。
事故で息子を失い、妻もそれ以来眠り続け、そこから生じる孤独ゆえに精神を病んでしまったのだ。

「今日も、探さなくちゃ」

いつも一緒にいた姉の翠星石はそんな老人に見切りをつけて去ってしまった。
老人を助けるには、老婆の夢に入り、老婆の根本ともいえる木を探し、その木をなんとかしなくてはいけないのだが

「真っ白で、いくら探しても見つからない」

こんなことならば、姉の翠星石に自分の考えを話し、協力してもらえばよかったという考えがよぎるが

「ううん。これは、僕が勝手に思ったことだから」

そう言って、誰かに助けを求めるという考えを蒼星石は切り捨て、再び眠り続ける老婆に視線を向ける。
だが、その視線はすぐに室内の化粧台へとそそがれることとなる。

「あら、起きていたのね蒼星石。」
「っ、水銀燈!!」
「そう、警戒しないでよぉ。今日は貴方と戦いに来たわけじゃないわ。」

姉妹達の中でも一番好戦的な筈の水銀燈の言葉が信じられるはずも無く、蒼星石はその警戒を緩めない。
水銀燈はそんな蒼星石をつまらなそうに眺め、馬鹿にしたように微笑んで見せた。

「アリスゲームが目的じゃないとしたら、君は何をしに来たんだい?」
「それは、俺が話そう。」

どくんっ、と蒼星石のローザミスティカが揺れ動いたような錯覚が生じた。
鏡から一人の少年が現れ、水銀燈の隣に並ぶようにして立ち、その視線を蒼星石に向けた。
夢にでてきた青年ではない。体つきも、容姿も、いや、そもそもあの青年と再び会うなんてありえない。
なのに、その口調が、感情を宿さないその顔が、そしてなによりその瞳が、蒼星石の心を強く揺さぶる。

「あ、貴方は?」
「水銀灯の婚 「優」 ミーディアムである樫崎 優だ」

蒼星石は、僅かにつまらなそうな感情を見せた少年を前にして上手く考える事が出来ないのを感じていた。
水銀燈はそんな蒼星石に怪訝な視線を向けるものの、隣に立つ優に今日訪れた意味を言うように促した。
優はそんな水銀燈に頷いて見せると、蒼星石と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「はじめまして、だな蒼星石。先ほどもいったが、俺は水銀燈のミーディアムである樫崎 優だ。」
「あっ、はい。はじめまして、蒼星石です。」
「うむ。で、今回俺とまいすいーとは 「優」 水銀燈がきた理由だが、君に一つ提案があってやってきた」
「提案。ですか?」
「ああ。俺達と組まないか?」
「組む? 仲間になれってことですか?」

そう言って、蒼星石は困惑した瞳を水銀灯に向ける。
蒼星石にしてみれば、水銀燈が誰かと組むなどという事は考えられない事だからだ。

「お馬鹿な真紅が、アリスゲームである雛苺のローザミスティカを奪わないでなぜか下僕にしちゃったのよ。それに加えて、貴方のお姉さんの翠星石までも真紅の所に行っちゃって。まぁ、弱い者がいくら集まろうが構わないんだけど、優が」
「弱者は単体ゆえに弱者なのだ。群れればそれは弱者ではない。と、俺は思っている。故に、こちらも君を引き込みたいのだ」

そこまで聞いて、蒼星石は首を横に降り、二人に拒絶の意思を告げた。

「ほら、優。だから無駄な事はしたくないっていったじゃない」
「理由を、聞かせてくれるか?」
「……第一に、僕は水銀燈と貴方を信頼できません。第二に、僕はマスターをほっとけませんから」
「第一の理由は理解した。だが、第二の理由は……」

あっと、短く蒼星石は声を上げた。呆れたように少し肩をすくめて見せるその仕草は、夢の中の彼と同じ仕草であった。
感情を感じさせなかった彼が唯一見せた感情の動きゆえに、蒼星石は鮮明にその仕草を覚えている。

「下らない。が、今回はそれを使用させてもらおう」
「え、ぁ」
「君のマスターを救う事に協力しよう。それを見て、俺と水銀燈が信頼できるかを判断してもらいたい。」
「ちょっと、優!?」
「返答は?」
「あ、はい。わかりました。」

気がつけば蒼星石は頷いていた。それに対し、優は満足したように笑みを見せると水銀燈に視線を向けた。

「道は作った。進むのはお前だ。指示を」
「あなたねぇ、そこまで言うんだったらなにか手を考え付いているのかと思ったじゃない!!」
「??」

何を言ってるんだねチミィ、という表情を浮かべる優に対し、水銀燈は吼えた。

「このっ、馬鹿! 考えなし! どうして、私のミーディアムがこんなのなのよぉ!!」

日頃よほど鬱憤が溜まっているのか、水銀燈は普段の彼女を知る人にしてみれば信じられないほど激しく、しかし明るい怒りを吐き出した。
対する優はそんな水銀燈を楽しいものを見るように見つめている。

「あの、水銀燈?」
「なによっ!!」
「そんなに、大声を出したらお爺さんが……」

その言葉に水銀燈は怒鳴るのをやめて、耳を澄ます。

「かぁぁぁずぅぅぅきぃぃぃ」

老人が呪詛にも似た声で、無くなった息子の名を呼びながら近づいてくるのがわかる。
水銀燈はまだ言い足りなさそうにしながらも、キッと優を睨みつけてから、化粧台の鏡にその身を沈めた。

「では、またくる」

その言葉は、夢の中の青年が去り際にいった言葉と同じで

「はい。楽しみにしています」

と、自分のマスターだった女性と同じように微笑んで、蒼星石はそう告げた。
嬉しい、と心のどこかで呟いていた。


あとがき
今回は萌え要素半減でお送りしました。
バカップル、仲間を集うの巻きです。
次回は「揺れる乙女心、三角関係は蜜の味」をお楽しみに。(コレも当然嘘ですよ)

>FOXさん
水銀燈がイイダロ!!!(゜∀゜)

>空羽さん

>あぁ…水銀燈様はもうすでに、ただのツンデレキャラに

彼女も抵抗したのです。己のアイデンティティの為に、そして大切な何かの為に
しかし、敵は強大でした。
人の話を聞かない、思考自己完結、有限実行を心情とする敵の前に彼女は……あんなことやそんなこと、はてにはあん(以下略

>HAPPYEND至上主義者さん
皆さんお気づきのように優は物凄く腹黒いです。
その腹黒い行為を、腹黒い行為だとは思わずにやっているところが彼の恐ろしいところです。
それと、優の心理描写ですが、それはまぁ番外編なので書けたらなと思います。
確実に壊れ表記をつけることになると思いますがね。

>かれなさん
かれなさんの感想を見て、ローゼンメイデンの六感が発売されている事を知った俺orz
本屋を三件回ってやっと入手しました。して、内容はというと……ムハーーー!! やべ、これっ、萌え、嫁に(自主規制)
すいません。我を忘れてしまいました。六巻の水銀燈こそが優に振り回されている水銀燈です。
えっ、優の場合はあれより酷いですか? ハハハッそれは貴方方の勘違いですよ。

>D,
ご指摘の通り、言われてみれば微妙にfateのあの二人のようですね。
キャスターを溺愛する葛木……いいかも。

>樹影さん
あの噂は本当か!! 優の半分は佐山 御言で出来ていた!!
今回はこの噂の真相に迫りたいと思います。現場の新庄さん?

「ちょっ、やめてよ佐山君、僕、そんなにされたら、あっ」
「ふふ。恥ずかしがる事は無いよ新庄君」

ブツンッ
え〜現場との電波が悪いようです。噂の真偽は確認できませんでしたが、まぁ世界に未知はつきものです。
では、皆さん又次回ぃー。作者スキル提供でお送りしました。

>lafiさん
にゃんにゃんにゃー……あっ! 
……こほん。ども、スキルです。こんにちは。
えっと、水銀灯の事ですが、彼女の劣等感をどのようにして消し去るかは優の手腕にかかっています。
まぁ、まだ出会ってそんなたったわけでもないので、劣等感を完全に拭い去るのはまだ無理でしょう。

>黄色の13さん
新発売! ま炉茶。日本UCATから、著作権侵害だと訴えられそうなお茶の発売です。

「このお茶は俺が嫌がる水銀燈に無理やり飲ませているお茶だ。薬を混ぜているのを感づいたらしく最近は抵抗が激しい。故に俺は考えた。まわり全員が飲んでいれば水銀燈の警戒心も薄れ飲むのではないかと。媚薬が少々入ってるので、気になる女を落としたい薬の力を借りねばムリな者達にオススメだ。昔の人はよく言ったものだ。勝てば官軍。○ってしまえば後の祭りと。」

>西環さん
いえ、真紅達は優が水銀燈のミーディアムだと気づいてますよ。
水銀燈も真紅達に、自分にミーディアムがいるのがそんなに驚きか? といってます。
まぁ、そんなことはおいといて本題は猫耳水銀燈(えっ?)ですね
っていうか、隠れ党員だと言わずにさぁ皆の前にて出来なさい。
恥ずかしがる事は無い。君は一人じゃない。さぁ、声高らかに叫ぼうではないか!!
にゃ(以下略)

>秦さん
少し認識違いをしていますね。優は周りが見えていないのではありません。
周りなんてどうでもいいのです。ここ、今度のテストに出るからチェックしておくように。

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