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▽レス始

「ジャンクライフ−5−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-01-25 16:02/2006-01-25 17:25)
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樫崎 香織は疲れていた。その疲れは肉体的なものではなく、精神的なものであったが、香織はしんどそうに溜息をつく。
どうしてこんなにも疲れるのか、と思考を巡らせば、すぐにその答えへと香織の思考はたどり着く。
実の兄であり、オタクであり、ひきこもりであった兄の事だ。
香織の兄、樫崎 優は典型的な引きこもりであった。学校でいじめられ、現実回避の為に空想へと浸り、他人との関わりを断つ。
なんとかしたいと思った事もある。香織の兄である優は男のはずなのだが、その外見、そして心はほとんど女性だといってもよかった。
気弱な性格、おどおどした態度、握れば折れそうな華奢な体、伸びた髪、そして白い肌。
一度、変質者に襲われて人間不信になり、そして学校でのいじめが兄の人嫌いを決定づかせ、そんな兄を救いたいと思うものの周りの眼を気にして何も出来なかった。
何も出来なかったから、何もしなかったから、

「ああなっちゃったのかなぁ」

そんな兄が突然変わった。外見特徴は全く変わっていないが、性格と態度は完全に変貌していた。
気弱な性格ではなく、強気な性格へ、おどおどした態度が、尊大な態度へ。
それに加えて、兄は不思議な人形を持ってきた。人形としてみるのならばそれは完成された造形美を持つ価値ある人形だろう。
しかし、それには意思があった。動く事が出来た。
香織の日常が、兄に引きずられるように非日常に変わっていくのが分かる。

「……」

香織は洗面所に着くと服を脱ぎ、それを洗濯機へと入れていく。
シャワーでも浴びてすっきりすれば、この疲れも幾分かはマシになるだろうと香織は風呂場へと足を踏み入れる。
風呂場の椅子に座り、シャワーを持ってお湯の温度を調整すると頭からそれを浴びる。
疲れが解けていく。眠るときと、この瞬間だけは兄の事から解き放たれ……

「湯は、心臓から遠い箇所から浴びるべきだ。言うなれば足からだ。頭部から浴びるのは正直やめたほうがいいぞ香織」
「……」

……なかった。香織の動きが第三者の声によって凍りつき、しばらくして無理やり動かすように声のしたほうへと顔が向けられる。

「どうした?」

そこにはいた。兄がいた。湯船につかり、タオルを丁寧にたたんで頭に乗せた兄が、無表情でそこにいる。
どうして、なぜ、私今裸、え、最近流行の妹萌え? 等と数多くの事が瞬時に香織の脳裏に沸きあがり、そして

「ばかぁーーーー!!」

全ての思いは投げた洗面器に集約され、優の顔面に向かっていく。
だが優はそれを余裕で受け止めると、ぎゃあぎゃあ騒いでいる香織を一瞥し、家族なのに裸を見られたぐらいで此処まで騒ぐものなのかと妙な事を学習していた。


ローゼンメイデン−ジャンクライフ−


水銀燈は疲れていた。とてつもなく疲れていた。いますぐにでもトランクの中に入って眠ってしまいたいと思うほど疲れていた。
その疲れの原因は水銀燈のミーディアムである樫崎 優に起因する。
ドールを所有する他のミーディアムを見つけたといったので、その人間の住居を突き止めてこいといって送り出したはずなのに、優はそれを突き止めずに猫耳という不可思議なヘアバンドを持って帰ってきた。
嫌な予感はしたのだ。いや、嫌な予感しかしなかった。猫耳を持ってにじり寄って来る優との追いかけっこは二時間にもわたった。
結局は姿見の鏡を使い、nのフィールドに逃げる事で優の魔の手から水銀燈は逃れる事が出来た。

「らしくない。人間如きから逃げるなんて、本当にらしくない」

水銀燈は自分に言い聞かせるように何度も呟くと、ふとベッドの上に無造作に投げ捨てられている優の携帯に目がいった。
それはいつも優が身に着けているものであり、水銀燈は特に理由も無くそれを手に取ると折りたたみ式のそれを開く。
まず目に入ったのは、見慣れた自分の顔だ。

「変えてないのね」

水銀燈は携帯についてのことは優から聞いて知っていた。携帯について説明され、そして壁紙にしたいからと写真を撮られたのはついこの前の事である。
こうやって、別の形にしてまでも、自分のことを思ってくれている人がいる。
水銀燈はそこまで考えると顔を赤くして、顔をぶんぶんっと振った。おかしい、らしくない、でも悪い気分じゃない。
水銀燈はそのまま携帯をいじくると、ピクチャーとかかれた場所をクリックし、そしてそこにある一つの写真に眉をひそめた。
その写真を選び、スイッチを押すとその写真が拡大される。

「……真紅」

胸の辺りに黒く、渦巻くものが現れ、水銀燈の顔は不機嫌そうに冷たく、それでいて残酷に変わっていく。
携帯を持つ手に力が入る。

「真紅ぅ」
「そのドールは真紅というのか」

その声に驚いて、反射的に自分の背後にいるものに攻撃をしかけた水銀燈は、そこにいるのが優だとわかり、その手を止めた。
後ろから絡み取られるように抱きしめられ、頭を撫でられる。

「放しなさい。触れないで」
「何を不機嫌になっている? 嫉妬か? 俺の携帯に他のドールが入っていたのが気に食わないのか?」
「そ、そんなんじゃないわ」
「ふむ。そうか、で、どうだ? その真紅というのに対抗して、こちらも猫耳をつける気に……」

そこで水銀燈ははじけるようにして優の手の中から逃れた。

「そう。突然、変な事を言い出すから何かと思ったら、貴方真紅がこんな耳をつけているのを見て、興奮でもしたのぉ? だから、私にもつけようと思ったのねぇ。」

そう言って、水銀燈はクスクスと人を馬鹿にしたように笑い

「汚らわしいわ人間。人形に欲情するなんて貴方、終わってるんじゃなぁい?」
「――何を勘違いしている」
「勘違いぃ? あらぁ、自分の異常の言い訳でもするつもり?」

水銀燈は笑う。結局のところ、優も変わらないのだ。そして、それは当然の事だと思う。
完璧なものと、壊れたものとでは、だれもが完璧なものを選ぶ。
対抗? 違う。優は自分に完成品と同じような格好をさせて、完成品のように見立てるつもりなのだ。
染み付いた劣等感が暴走している。
そして冷たいものが戻ってくるのを感じながら、水銀灯は笑い

「この猫耳をつけているお前になら欲情するだろうな水銀燈。他の人形がどうとかそんなことはどうでもいい」
「なんですって?」
「何を勘違いしている水銀燈。俺にとって価値あるものはお前だけだ。お前以外が、この猫耳をつけていても何も感じん」

ぎしり、とベッドが軋み、そして

「ば、ばばばばば馬鹿! 近づかないで優。こら、猫耳を持って近づいてこないで! 優!!」
「怖いのは最初だけだ。問題ない。じきに慣れる。俺はそう信じている」
「このっ、毎回、毎回、いい加減にしなさいよぉ!!」

樫崎 香織は疲れていた。とてつもなく疲れていた。これは肉体的な面で来るものではなく、精神的に来るものである。

「毎日、毎日、やめてよね。バカップル」

バカップルの会話など毎日のように聞かされている香織はしんどうそうに溜息を着いた。
隣の部屋から聞こえてくる二人のやり取りは、甘ったるくて胸がかきむしりたくなる。
香織は変わってしまった兄と、それの彼女である人形に自分が日常から非日常へと引きずり込まれていくのを知り、また溜息をつくのだった。


「落ち着いた」
「本当ね」
「本当だ。もう、それをはずしても構わない。これで、壁紙は昼と夜のローテーションで、ノーマル水銀燈と猫耳水銀燈によって征服された」
「何言ってるのよ馬鹿」

水銀燈は結局付けられた猫耳を外して放り投げると、姿見の鏡から飛び込んでくるようにして現れた人口精霊メイメイに視線を向けた。
真紅の監視をさせていたメイメイからの情報を聞きながら、水銀燈は優への警戒を緩めない。
そうして情報を聞き、水銀燈はその内容に笑みを浮かべた。

「へぇ、真紅が、雛苺を……。アリスゲームのルールを守らなかったのね真紅ぅ」

その情報が水銀燈を怒らせる内容であったのは確かであった。
アリスゲーム−ドール達が、完全なる乙女『アリス』へと至る為に繰り広げられる戦闘遊戯。そこにおいての絶対的なルールの一つ、勝者は敗者の心臓とも言えるローザミスティカを奪い、その力を我が物としなくてはいけないというものがある。
そう、敗者は敗者となった時点でこの世界から退場しなくてはいけないのだ。

「少し、分からせてあげなくちゃね」
「ん、水銀燈。どこかいくのか?」
「ええ。ちょっと、アリスゲームのルールを守らなかったお馬鹿さんに挨拶しないと。そうだ。優、貴方の言っていたミーディアム、柏葉 巴だったかしら。その子、もうミーディアムじゃなくなったわ」
「ふむ。では、もう接触しなくていいという事だな」
「ええ。その柏葉 巴とかいう人間のドールである雛苺。敗者の癖にまだ存在しているみたい」
「ほぅ。それは面白い。負けたというのに存在しているのか。それは見てみたいな」

優はアリスゲームというものを水銀燈からの説明で聞いていたので、敗者はローザミスティカを勝者に渡して消えなくてはならないと思っている。
故に思う。敗者はどのような顔をして、生きながらえているのかと。

「その挨拶、俺も一緒に行ってもいいか?」
「好きにすればいいわ」

そう言うと、水銀燈はもう会話は終わりといわんばかりに姿見の鏡にその体を溶け込ませる。
優もそれに躊躇することなく、鏡に体を溶け込ませると笑みを浮かべる。
楽しくなってきた、とその顔が告げていた。


ローゼンメイデンが一体である真紅が、その黒い羽に気がついたのはトイレに閉じ込められていた同じドールである雛苺を救出したときであった。
自分のミーディアムであり。下僕である桜田 ジュンはどういうわけか珍しく家にはいない。
いたのであれば偵察に向かわせるのだが、いないのでは仕方ないと真紅はその黒い羽が飛んできたであろう方向にある部屋に視線を向ける。

「これが、攻撃であるならばあの娘しかいないわね」
「どうしたのなの真紅? うわぁ、なにそれぇ? 鳥さんの羽なのぉ? 雛もほしいのぉ!!」
「煩いわ雛苺。それに欲しいのなら、この羽の持ち主に頼みなさい」

そこまで言うと真紅は気持ちを落ち着かせ、そこにいるであろう存在に声をかける。

「でてきなさい。いるのはわかっているわ」

そして、その声に呼び込まれるようにして、物置部屋の大きな鏡から想像通りの人物が姿を現す。

「久しぶりねぇ。真紅。それに敗北者なのに存在している雛苺。」
「なにをしにきたの?」
「なにをしにきた? あら、当たり前のことを聞くのね真紅。あなたのお馬鹿さん加減が変わっていなくて安心したわぁ。」
「煩いわ水銀燈。それに、馬鹿って言ったほうが馬鹿なのよ。」
「クスクス。そんなことはどうでもいいのよ真紅。それよりも、私、貴方に聞きたい事があるのぉ。」

真紅が無言で先を促し、雛苺が怯えるように真紅の背中へと隠れる。

「どうして、敗北者である雛苺がまだ動いているのかしら真紅? 貴方がその娘のローザミスティカがいらないっていうのなら、私が貰ってあげてもいいのよぉ。」
「あぅっ! 真紅ぅ。怖いのぉ〜。」
「黙りなさい。水銀燈。雛苺を狙うというのなら、主人である私が相手をしてあげるわ。」
「主人? どういうことなの真紅ぅ?」
「雛苺は私という媒介を通して、ミーディアム無しで弱いけど力を使えるの。言うなれば私の下僕だわ。」
「信じられなぁい。そんなことしてなんの価値があるのぉ?」
「その価値は私が決めるわ。言っておくけど、水銀燈。これから先、貴方が向かってくるというのなら私と雛苺の二人でお相手するわ。」
「ふふっ。弱い者がどれだけ集まっても弱い事に変わりは無いのよ真紅。」
「弱いかどうか、貴方自身で確かめなさい!! ミーディアムを持たない一人ぼっちの貴方の力で!!」
「――――それは、違うな。」

水銀燈に対し、攻撃を仕掛けようとしていた真紅の腕が止まる。暗闇の中に、人がいた。
その指に嵌められた指輪を見て、真紅は水銀燈に視線を向ける。

「クスクス。どうしたのぉ? そんな間抜けな顔をしてぇ? 元々そんな顔だったかしらぁ?」
「水銀燈。……貴方」
「そんなに私がミーディアムを持つ事が驚く事なのぉ? 真紅。ぼぉっとしてたら、死ぬわよ。」

水銀燈の漆黒の羽が宙を舞った。それは敵を射つくさんばかりに、真紅と雛苺の場所へと突進していく。
真紅はそれを慌てて、自分の力の具現である薔薇の花びらの盾で防ぐと、お返しとばかりに攻撃を返す。
両者の実力は拮抗し、攻めては防ぎ、防いでは攻め手を繰り返す。
優はそれを眺め、そして無造作に近くにあった変な仮面を手に取ると真紅に向かって投げた。

「なにっ!?」

真紅にしてみれば、水銀灯の攻撃だけに集中していたので優のソレは予想外の攻撃であった。
故にそこに決定的な隙が生まれ、そしてその隙を水銀燈は逃さない。
羽での攻撃をやめると瞬時に真紅との間合いをつめ、その胸を抉ろうとして、突如床から生えた苺轍の蔓によって体を拘束される。

「真紅を助けるのぉ!」
「雛苺! このっ、敗者は引っ込んでなさい!!」

が、すぐにその拘束を解き、後ろに飛びのく。すると水銀燈のいた場所に真紅の薔薇の花びらが殺到する。

「驚いたわ。ミーディアムが戦いに参加してくるなんて……。」
「おかしなことではあるまい。嫁が勝ちたいと願う戦いを夫が黙ってみていられるものか。」
「嫁? 夫? なにをいっているの貴方??」
「そ、そんなこと気にしてる暇は無いわよ真紅!」
「くっ。」

少し顔を赤くした水銀燈の攻撃を、真紅は迎撃する。
再び戦いが始まろうとしたとき、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえ、

「だたいまぁ〜。」

と、なんとも暢気な声が響いた。

「水銀燈。」
「邪魔が来たようね。優、一度引くわ。」

水銀燈と優は瞬時に状況を理解し、短く会話をすると鏡へとその身を投げ込んだ。

「逃げるの!」

真紅のそんな苛立った声が聞こえたが、二人ともソレを無視する。
今回の戦闘で真紅が倒せるなどとは水銀灯は考えていなかった。
本当に挨拶だけするつもりだった。軽くからかって、自分という存在を相手に意識させる。
それだけが今回の目的だ。
故に、引くことに対してなんの後ろめたさも悔しさも無い。
倒すからには、幾重にも罠を仕掛け、その上で確実に倒す。
そして、勝ち進み、完璧なる乙女『アリス』へと至るのだと水銀燈は自分に言い聞かせる。

「勝ってみせる。」

いや、勝てるはずだ。なぜなら、今は一人ではないのだから。


あとがき
バカップルに悩む一般市民とバカップル敵と戦うの豪華二本立てでした。
次回はバカップル宇宙へ、水銀燈は猫耳も〜どの二本ってことで、どうっすか?(もちろん嘘です)


>3×3EVILさん。
ローゼンメイデンの二次創作。真紅、雛苺などは比較的キャラを掴むのは簡単なのですが、水銀燈は難しいです。
毎回、毎回、そこだけを気をつけております。故に、違和感ないよという言葉を頂きとても安堵しております。

>空羽さん。
ということで、いよいよ優達のアリスゲームが動き始めました。
といっても、まだ前哨戦を終えただけですがね。

>D,様
猫。ゴロニャン。水銀燈の猫さ加減が今回は出せたと思います。

>lafiさん

>水銀燈に猫耳!いや、是非付けたいですよ。

つけました。
ビジュアル的にお見せすることはできませんが、そこは各自の脳内シアターにて放映してみてください。
そして萌えてください。水銀燈の猫耳最高!! と、そう思えたあなたは仲間です。

>西環さん

>そして猫耳水銀燈! いや、実物は出ていませんが。
絶対に拒否するでしょうね、でもその反応がまた(以下略)

この時点で貴方は既に猫耳水銀燈を脳内シアターにて放映していたと判断します。
そして、今回で再び放映する事でしょう。故に貴方は既にわれわれ猫耳水銀燈スキーの仲間です。
合言葉は『にゃ〜ん。』です。忘れないように にゃ〜ん。あっ、ごめっ、石投げないでっ(以下略

>秦さん
優の秘密はこれから明かされていくので、お楽しみに。

>信州さん。
どうも、この作品が一番といっていただいてありがとうございます。
これからも皆様が萌えていただけるような作品を書いていきたいです。
では、日々高得点のもぇを会得するため頑張ります。ってことで、もぇもぇもぇ〜。

>HAPPYEND至上主義者さん。
ども、はじめまして。
一応、アニメを見ないでも分かるように書いておりますが、見た方が確実に面白いのでどうか見てください。
その方がイメージもしやすいでしょうし
水銀燈の可愛らしさと素晴らしさと愛しさと……(以下略)
すいません。我を忘れました。ということで、次回もお楽しみに。

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