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▽レス始

「宵闇に映える〜四〜(ネギま!、型月,etc)」

Dirtyface (2006-01-29 00:30)
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 戦闘はアンデルセンの疾走から始まった。
 月光があるとはいえ、暗く見通しが悪い足場、にもかかわらず見惚れるほどの早さだった。
 二人の距離を詰めるのに、恐らく一秒もかからないだろう。エヴァンジェリンの華奢な身体に肉薄し、首を切り離すには十分すぎて釣りがくるほどだ。
 しかし、その神速ともいえる速度に、エヴァンジェリンは見事に反応してみせた。

「 ―――― 」

 いつの間にか手にしていた鉄扇で銃剣を受け止めるや否や、それは蛇の如く腕に絡みつく。
 アンデルセンの身体が、宙に舞う。
 自分が投げられたと感じた瞬間、アンデルセンは蹴りを放つ。
 しなやかな鞭のような蹴撃。けれど、エヴァンジェリンの頭部へと吸い込まれる時、腹部に強烈な衝撃を受けた。
 エヴァンジェリンの能力は何も魔術ばかりではない。
 封印される前は、膨大な魔力とそれにまかせた広範囲で極悪な攻性魔術に注目が集まっていたが、一世紀にも及ぶ研鑽を積んだ体術と魔術の組み合わせこそが、彼女を『闇の福音』たらしめているものだったのだ。
 ――― なんだと ―――!
 アンデルセンは内心で舌打ちする。エヴァンジェリンの力は、考えていた以上に強力だと実感して。
 アンデルセンは痛みを訴える腹部を無視して、すかさず体勢を整える。そして、エヴァンジェリンを中心にして円に、じりじりと間合いを計る。

「魔術を使わずにして、その戦闘能力か。それでこそ『闇の福音』。殺しがいがある」

 攻撃を喰らったにもかかわらず、アンデルセンは尚吼える。

「何。百年程前、日本を訪れたときにチンチクリンなおっさんに習った体術だ。以来一世紀、暇つぶしに研鑽していた。わざわざ魔術を使わずに済む分、存外に役立っている。何事にも手を出してみるものだな」

 だが、そんな余裕すら感じさせる言葉とは裏腹に、彼女の呼吸は荒い。
 エヴァンジェリンは神経質に目の前のアンデルセンと周囲の闇に気を配る。いつ、攻撃や応援が来るか分からないからだ。
 エヴァンジェリンは無意識に頬を触れる。今の攻防で自分の頬に傷ができていた。ざっくりと切れている傷、出血はない。出血はないが呼吸は苦しかった。
 吸血鬼としての本能が、ニゲロニゲロと警鐘をならす。
 状況は切羽詰まっていた。先の攻撃は捌くことこそできたが、それは相手が真正面から向かってきたからこそ。
 その上、封印のために魔力がほぼ使用不可のため、魔力による強化及び魔術は使えない。
 ――― ちっ、こんなことなら鋼糸か魔術用の媒体をいくつか持ってくるんだった。
 戦力差は大きい。当然、決め手に欠けるエヴァンジェリンに倒す手段はない。かといって逃げることは現状では、ほぼ不可能。
 ――― それにだ。
 アンデルセンの目だ。あの目は今まで幾度も見てきた。忘れられるはずもない狂人の目だ。
 愉しんでいる。この『闇の福音』を前にして、本来なら絶望的なはずの、緊張に満ちた状況を、アンデルセンは愉しんでいた。
 もしかすると ――― アンデルセンにとって、異端たる『夜族』との戦闘は苦行ではなく喜びなのかもしれない。
 エヴァンジェリンは今まで殺人行為を愉しんだことはない。
 そうしなければ生きていけなかったから。
 けれど奴は違う。
 奴は殺し合いが好きなのだ。狂愛と言ってもいい。相対する異端が強大で強大であるほど、アンデルセンは狂喜する。
 エヴァンジェリンは思う。ここ十五年こそ平穏であったが、十の誕生日を迎えてから殺し合いの連続であった。
 裏切られたから殺す。嘲笑ったから殺す。利用しようとしたから殺す。殺そうとしたから殺す。殺す、殺す、殺す。
 こんな姿にした男や、こんな人生歩ませた運命と神を何度呪ったことか。
 ――― 私はただ、普通に暮らしたかっただけなのに ―――
 それは無理だ、と内心呟く。
 エヴァンジェリンは自分というものをよく理解していた。
 自分が あまりにも人を殺しすぎていること。後戻りすることなど、とうの昔に不可能だということを。
 ――― それでも、私は ―――
 生きたい、エヴァンジェリンはそう思った。
 だが、そのためにはこの絶望的な状況をなんとかしなくてはならない。目の前にいる神の僕たる死神の鎌から逃れなくては。
 急速に研ぎ澄まされる意識。
 それとともに洩れでる殺意の塊。
 アンデルセンは仮にも『聖堂騎士』の名をもつ異端狩りだ。
 一歩間違えれば自分は瞬時に解体されるだろう。
 それでも生き残るのは自分だ、と意味も無く確信する。
 自らを死地に晒すことによって得られる光。
 何一つ信じられない中でたった一つ信じられると言い切れる、このちっぽけな命。
 殺す。
 生きてきた人生の半分近くを殺し合いに費やしたエヴァンジェリンは、そんな単純で最も愚かな方法でしか生き残ることができない。
 エヴァンジェリンの荒い呼吸が闇夜に吸い込まれる。
 荒く、激しく、誇り高く。
 月明かりに照らされる両者の顔。
 闇も、光も、世界ですら、濃厚に漂う死の前では同じなのだろうか。
 微かに流れる風の音は、どこかワルツのよう。

「――― 魔力が封印されているという報告はどうやら本当のようだな。この期に及んで魔術による強化を行わないのはそういうことなのだろう?」
「だからどうだというのだ?『聖堂騎士』。魔力がなくとも狂信者ひとりぐらい殺せるぞ」
「吼えるな『闇の福音』。『化け物』は主の威光の前に豚のような悲鳴をあげて死ね」

 闇夜の中、アンデルセンの気配を感じたときから判っていたことだ。自分の命が風前の灯だということは。
 ここで危険をおかしてアンデルセンを倒したとしても無駄なこと。後から無数に刺客が送り込まれるだけだ。そして魔力を封じられた自分はきっと殺されるだろう。
 けど、そんなことは今まで、鬱になるほど体験してきたことだ。
 無謀に無謀を積み重ねると、いつしか不可能は可能になる。
 生命とは無駄と無謀を繰り返すことで進化する、と昔知り合った魔術師の台詞を思い出した。エヴァンジェリンも今までの経験から同感だった。

 ――― 私の名はなんだ?
 ――― 私の二つ名なんだ?
 ――― 私はなんだ?
 ――― 我が名は吸血鬼エヴァンジェリン。『闇の福音』。最強無敵の悪の『魔法』使いだ!
 ――― ならば、この程度の危機で尻込みするな!

 そう意気込んで、アンデルセンを再度睨む。
 強く、右手の鉄扇を握り締める。
 神が、運命が、世界が、自分を殺そうとするならば、それ諸共跡形もなく消し去るまでだ。
 だが、エヴァンジェリンは気が付かない。彼女の背後から死神が忍び寄っていることに。自分の命はすでに死神の顎に囚われていると、最後まで気付かない。

 次の瞬間、背中に激しい衝撃を感じて――― 彼女の意識は途絶えた。

 

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