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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第一話 運命の始まり 後編(SEED運命)」

ANDY (2006-01-12 03:42)
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 水溢れる惑星より、一羽の渡り鳥が天に浮かぶ夢の具現者たちの都へと渡ってきた。
 その鳥は、その背に無き父の衣服を身に纏った年若い雌獅子を乗せていた。
 その雌獅子は、己の理想を胸に歩んでいた。自分の道は正しい。そう信じて疑わずに。
 だが、この世に決して否定されない考えが存在するなど、ありえるのだろうか。
 その答えは、もしかしたら見つからないのかもしれない。
 C.E73年10月。
 その日、ここで何かが始まる。
 その場所の名前は「アーモリーワン」。
 新たなる夢が生まれるはずの場所である。


 軍工廠司令部にある執務室へ向かい、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハは数名の随員を伴い、現プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルとの会談の場へ向けてその脚を運んでいた。
 内々、かつ緊急に会見を行いたいというカガリの、要望、いや、ほぼ我侭といってもよい申し出を聞き入れてくれた相手には感謝をしているのだが、このような場所で行うとはカガリはまったく想定していなかった。
 新造戦艦の進水式を明日に控えた前日に、しかもそれを行うこのコロニーで、だ。
 自分は相手に馬鹿にされ、遠まわしに会見を拒絶されているのでは、とカガリは一瞬考えてしまった。
 それを随員であり、恋人でありボディーガードであるアスラン・ザラ―現在はアレックス・ディノと名乗っている―に自分の不安と言う名の考えを言ったのだが、
「元々、このような突発的な会見をお願いしたのはこちらの方です、アスハ代表。それに、『プラント本国に赴かれるよりは目立たぬだろう』という、デュランダル議長のご配慮もあっての事、だと思いますが」
と言われ諭されてしまい、納得がいかないのだが納得しなくてはならず、それがまたカガリの気分を著しく害していた。
 そのような気分のまま歩を進めると、一つのドアの前にたどり着いた。
 そのドアのノブに手をやる案内人の後姿を確認しながら、カガリは自分の心の中に平静さを取り戻そうと、深く息を吸い吐いた。
 そして、ドアが開ききるとカガリは胸をはり、一国の代表として恥ずかしくない態度で室内へと足を一歩踏み出した。
秘書官らしき随員を引き連れたデュランダルがすでに室内に入っており、彼はカガリの姿を認めると、柔和な笑みを浮かべながら歩み出て近づいてきた。
「やあ、これは姫。遠路はるばるお越しいただき、申し訳ございません」
「いや。議長にもご多忙の所こうしてお時間を頂き、ありがたく思う」
 カガリも真っ直ぐに彼を見たまま歩み出て手を差し出すと、それに応じるようにデュランダルは恭しい手つきでその手を握った。
 それからデュランダルは、カガリから視線を僅かにずらすと、その背後にいる駐在大使の一人と幅の広いサングラスをかけた青年―アスラン―に目を留めたが、さして気にした様子も無くカガリにソファに掛けることを勧め、自分もソファに腰掛けた。
「お国はいかがですか?姫が代表となられてからは実に多くの問題を解決されて・・・・・・。私も盟友として、大変嬉しく、そして羨ましく思っておりますが」
「いや、まだまだ至らぬ事ばかりだ」
 如才ないこちらを煽て上げる賞賛の議長の言葉に、カガリは苦いものを含んだ口調でそう答えた。
 デュランダルの言う通り、傍から見ればオーブの復興は目覚しいものがあるだろう。
 先の大戦中、連合軍の侵略によって国を焼かれ、停戦までの間属国としてオーブは扱われていた。
 だが大戦の影響で弱体化した連合軍の支配からは、停戦後間もなく逃れ、再び中立国としての立場を維持して今日に至る。

「―――で? この情勢下、代表がお忍びで、それも火急のご用件とは、一体どうした事でしょうか」
 そうデュランダルは訊ねるが、この質問は全くの無意味だろう。
 一国の代表ともあろう者が、わざわざこうして訪問してくる者の用件を知らぬ筈などないのだから。
 この問いかけは、相手に僅かなりとも考える時間を与えるための方便のようなものだった。
「我が方の大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件のご相談―――との事ですが?」
「……私には、そう複雑であるとも思えないのだがな」
 どこか挑戦的な響きを含みつつ、カガリは議長の目を見据えながら言った。
「だが、未だにこの件に関する貴国の明確なご返答が頂けないという事は―――やはり、複雑な問題なのか?」
「ほう・・・?」
 その一方的に紡がれる喧嘩腰な物言いに、双方の随員達が緊張した表情になるが、当のデュランダルは気にした様子もなく首を傾げた。
「先の大戦の折に流出した我が国の技術と人的資源。これらの軍事利用を即座に止めていただきたいと、以前から申し入れている」
 今では当たり前となっている、MS単体でのビーム兵器の利用。
 そして高性能MSに搭載された、実体弾をほぼ無効化するPS装甲。
 これらは全て、かつてオーブに本社を持つモルゲンレーテと連合軍が合同で作り上げた、5体のMSのデータが基盤となっている。
 そして、かつてオーブが焼かれた際、多くのオーブの民がその地を離れ、終戦後も戻らなかった者がいる。
 その内、コーディネイターである者はプラントを第二の故郷とした。
 本来なら国を見限り、出て行った者がその後他国で何をしようと、それは代表と言えども口出しできる事ではない。
 だがここで問題となるのが、プラントに上がったコーディネイターの殆どが、モルゲンレーテの技術者であるという事だ。
 大戦後も各国では軍備の増強を怠らない。それどころか、増強しているのが現状であり、世界の暗黙の了解であった。
 その強すぎる力で、かつて自分たちも焼かれかけたと言うのに、人はその恐怖を忘れて新たな力を求め、そして滅びの火を手放そうとしない。
 いつか、その力が自分たちを焼くかもしれない。その逆に、その力が自分たちを守ってくれる。そのような考えは誰もが持ち消せないものであった。
 世界は、誰も信じず、疑心暗鬼の状態が続いていた。

 そんな世界の流れを押しとどめたい―――それが、カガリの強い願いだった。
 聞くものによっては、世界の綺麗な部分しか見ようとしない、絵空事の児戯に等しい理想に聞こえてしまうのだが。

 一方のデュランダルは、目の前の雌獅子が発する鋭い視線をかわすようにはぐらかすような笑みを浮かべ、黙ってカガリの要請を聞いていた。
 その表情はまるで、やんちゃな子供の悪戯を大目に見る教師のもののようだった。
「(器が違いすぎる・・・・・・)」
 カガリの背後でそれを見ていたアスランは、この会見の結果を予想して、暗澹たる気分になった。
 相手との立つ場所が、見据える先が余りにも違いすぎていた。
 カガリは、世界を全て綺麗な状態にしようと躍起になっているのに対し、デュランダルは、世界の全てのバランスを取ろうと、綺麗も汚いも全て認めて纏めようと言う考えが見え隠れしていた。
 どちらが大衆に受け、どちらが指導者として正しいのか、そんな埒もない事を考えながら、アスランは二人の会談を見守ることしか出来ない自分に歯がゆさを感じながら、ただ直立不動の姿勢で立っていた。

 カガリとデュランダルが会見を行っていた頃、ステラ達3人は町外れの大きなビルボードの前にいた。
 それに映る映像をしばらく見上げていたステラだったが、その映像が同じものの繰り返しだと気付くと、その視線を空に向けた。
 この空には、太陽がない。
 そのことに、言いようのない寂しさを感じながら、今度は自分の髪と同じ色の包装紙を開き、取り出した中身を口の中に入れた。
 口の中に広がる、やさしい蜂蜜の味に頬を自然にほころばせた。
「プラントって毎日が晴れでいいよなぁ。天気予報なんていらねぇじゃん」
「バーカ、プラントだって雨くらい降るさ」
 アウルの言葉にステラが飴を転がしながら黙ってこっくりと頷いていると、スティングがそんな二人を馬鹿にしたような声色で口を挟んだ。
「え、うそ!? なんでわざわざ雨なんて降らさなきゃなんないんだよ?」
「さあ、色々あんじゃないの? 雨降らさないとさ」
「雨降りなんてサイアクじゃん。服とか濡れるし。な、ステラ?」
「……うん」
 アウルに同意を求められ、ステラは頷いた。
 雨の音は嫌いだった。
 それを聞いていると、まるで世界には自分しかいない、そんな寂しさに襲われてしまうから。
 そんな2人を見ていたスティングは、こちらに近づいてくる1台の車を見つけた。
 ここに来るまでに何度か目にしたものと同型のものであった。
 彼らの前に停まったバギーの前部座席には、ザフトの軍服を着込んだ軍人が乗っていた。
 スティングの視線に気づいたその軍人達が頷くのを見て、3人はバギーの後部座席に乗り込んだ。

 彼らを乗せたバギーはそのまま軍工廠に向かい、入り口のゲートでIDを見せると、守衛は特に不審に思わずに彼らを敷地内に入れた。
 そのIDには、『軍工場内案内係』という言葉がプレスされていた。
 少しでも、平和と言うものを広めるために、より市民の理解を得るために行われているイベントに関するものであった。
 その効果があったのだろうか、MSが歩き回る軍施設の中だというのに、多くの見学者が行き交い、見学をしていた。
 そんな、どこか平穏とした空気を生み出している工廠内をバギーは走り、やがて、ある格納庫の前に停車した。

 カードをキースリットに宛がいながら、こちらに視線で尋ねてくる軍人に軽く頷いて三人は答えた。
 其れを確認すると、軍人はカードをキースリットに通した。
 重々しい音と共に重厚な扉が開くと、彼らは中に駆け込んだ。
 それと同時に軍人達からスティング達に武器が手渡された。
 スティング達は慣れた手つきで渡された武器に弾倉を装填し、ステラはナイフを鞘から抜き放ち、その光沢を眺めた。
 それと同時に何かのスイッチがステラに入った。
 軽く舌で唇を舐める。先ほどまで優しいと感じていた味が、今は言いようのない不快感を持っていた。
 それを振り払うために、ステラはスティングを見つめた。
 その視線を感じたのか、スティングはステラとアウルを見つめると、その顔に言いようのない笑みを張り付かせた。

―さあ、ここからがパーティーの本番だ―

 スティングの顔は、そのような意味を宿し、さっと腕を上げ、勢いよく振り下ろした。
 そのスティングの合図と共に彼らは物陰から飛び出した。
 中にいた軍人達が気付かない内に銃声がこだまし、スティングの連射を食らった兵士達がなぎ倒された。
 それを合図に軍人達が侵入者達に銃を向けたが、それはあまりにも遅すぎた。
 アウルが宙で側転することで兵士達の放った銃弾を避け、逆に兵士達はアウルが空中で放った銃弾によってその命を刈り取られて行った。
 その動きは、コーディネイターの目から見ても不可解で、非現実的なものだった。
「アウルっ、上だ!!」
 スティングの声に、アウルは振り返りもせず肩越しに両手の銃口を背後に向け、コンテナの上にいた兵士達を撃ち落した。
 スティング達が銃弾をばら撒く間に、ステラは片手に持ったナイフで次々に喉笛を切り裂き、片手に持った拳銃で確実に心臓を撃ち抜いていった。
 ナイフを振るう度に白いドレスが翻り、血飛沫が紅いまだら模様を描き、言いようのない背徳感を宿した美しい血化粧を施していった。
「なに?!」
 目の前に立つ、他の者とは違う赤い服を着た男の心臓にめがけて銃弾を放つ。
 目の前にいた男は、驚愕の表情を張り付かせたまま倒れた。
 それを見ても、そこには何の感情も存在しなかった。
 ただ、敵を討ち滅ぼす。
 それが、自分の存在意義だと、何かが頭の中で囁いていた。
 それに逆らうつもりはステラにはなかった。
 飛び散り、唇にかかった血を舐める。
 錆びた鉄の味と、この場に不釣合いな蜂蜜の味が仄かにした。
 それに不快を感じ、それを消すために銃弾と刃を振りかざした。

 そうして数分もせずに二十数名はいた兵士達は全滅し、格納庫は制圧された。
 奇襲であったとは言え、コーディネイター、それも紅服を含んだザフトの兵士達が僅か5人の男女に敗北したのだ。
 このことから、この襲撃者達の腕前の異常さがわかると言うものだった。

 辺りに動く者がいなくなったのを確認すると、ステラは気のない動作でナイフを放り捨てた。
 倒すべき敵が見えなくなってしまったからだろうか、先ほどまで美しく見えていたナイフの光沢が、酷く不細工なものに見えてしまっているのは。
 アウルも周囲を確認し、両手に持った銃を床に放り投げながら、スティングに声を掛けた。
「スティング!」
「よし、行くぞ!」
 スティングの号令と共に、3人はそれぞれ三基のクローラーに向かい、その上に横たわる灰色の巨人のコックピットに飛び込んだ。
 シートに座ってからコンソールを操作してOSを立ち上げると、手元のモニターに文字が浮かび上がった。
―――Generation
   Unrestricted
   Network
   Drive
   Assault
   Module
『G U N D A M』―――全ての頭文字を繋げるとそういう一種の名前のようになってしまう。ガンダム、とでも読むのだろうか。
<どうだ?>
 通信機からスティングの声が響く。
<OK 、情報通りだ>
「いいよ」
 アウルが応じ、ステラも作業を続けながら答えた。
 その手が踊るように動き、教えられた通りに起動シークエンスをこなす。
 やがてエンジン音がクローラーを震わせ、三機の巨人が立ち上がった。
 ロックが外れ、電源ケーブルがはじけ飛んだ頃になってようやく、工廠内にサイレンが響き渡った。
 瀕死の状態だった兵士が警報ボタンを押したようだが、余りにもそれは遅すぎた。
 鉄灰色だった三機の装甲が、揺らめくように色づいていった。
 スティングの乗る『ZGMF-X24S カオス』はモスグリーンに。
 アウルの乗る『ZGMF-X31S アビス』はネイビーブルーに。
 そして、ステラの乗る『ZGMF-X88S ガイア』は黒に。 
 三機のガンダムは警報の鳴り響く格納庫に立ち並び、その姿を堂々と見せ付けた。
 まるで、愚かなる人類を淘汰するために使わされた戦神であるかのように、威風堂々と立ち並んでいた。


 アスランとカガリは、デュランダルに連れられ会談の場であった執務室から出ていた。
 突然、工廠内を案内しようと言い出した彼に続き、カガリとアスランはMSが歩き回る工廠を歩いていた。
 MSが歩く度に地響きが聞こえ、辺りからはオイルの匂いがするこの場所を見て、アスランは郷愁のようなものを覚えていた。
 嘗ては自分が身を置いていた場所だと思うと、ついつい辺りに立ち並ぶMSに目が行ってしまった。
 軍を抜け、平穏な生活に身をおく今でも、かつて培った習性は早々なくならないと言う事実に、内心苦笑しながらサングラスで隠れている視線を周囲に向けていた。
 自分がいた頃主力だった『ジン』や『シグー』の他にも、当時は実戦配備が始まったばかりだった『ゲイツ』も見え、その改良型も見えていた。
 薄黄色の戦車のような機体は、恐らく『ザウート』の次世代機だろうか。
 そんな事を埒もなく考えていると、心地よい、議長の落ち着いた声が耳に入ってきた。
「姫は先の戦争でも自らMSを駆り、前線で戦われた勇敢なお方だ」
 デュランダルは時折、行き交うMSや格納庫の中を解説しながら、この行為を言い訳するように言って聞かせてきていた。
「また、最後まで圧力に屈せず自国の理念を貫き通した、『オーブの獅子』ウズミ様の後継者でもいらっしゃる」
 父の名を持ち出され、カガリはやや感傷的な気分になってしまった。
「―――ならば今この情勢下の中、我々がどのような道を取るべきかは、よくお分かりの事と思いますが……」
(上手いな)
 議長の交渉術の上手さに、アスランは内心舌を巻かずにいられなかった。
 自分の行為を肯定され、しかも尊敬して止まない人物も持ち上げる。そうすることで、先ほどまであったカガリの警戒をほんの僅かだが崩すことに議長は成功していた。
 そして、その警戒の薄くなった瞬間に自分たちの行為の正当性を訴える。
 人は、自分の事をよく言う、褒めてくれる相手に対してはどうしても無防備になってしまう。
 その特性を活かし、交渉を進める議長の手腕は見事としか言いようがなかった。
「我らは自国の理念を守り抜く、それだけだ」
 そのようなことに気づかず、カガリは自分が信じて疑わない思いを口にした。
 まるでそれが、至上の宝物であるがの如く。
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない?」
「……そうだ」
頷くカガリを見て、デュランダルも笑みを浮かべながら同意するように頷いた。
 だが、その笑みが、為政者のものとしてではなく、学校の劣等生が初めてテストでよい点を取ったときに教師が浮かべるもののようにアスランには見えて仕方がなかった。
「それは我々とて同じです。そうであれたなら、一番良い」
 しかし彼は柔和な笑みを浮かべたまま、こう続けた。
「―――だが、力なくば、それは叶わない」
 そう言った時、アスランはたまたま覗き込んだ格納庫に並んだ機体を見て、息を呑んだ。
 それを見た随員の1人が、どこか誇らしげに声を掛ける。
「『ZGMF-1000 ザク』。これは、ザクウォーリアと呼ばれるタイプですな。ニューミレニアムシリーズとしてロールアウトした、我が軍の最新鋭機です」
 モスグリーンを基調とした機体は、モノアイや鎧武者を思わせる全体のフォルムから、ジンやゲイツの流れを若干だが感じさせる。
 アスランがその機体―ザクに目を奪われている間も、デュランダルの話は続いていた。
「それは姫とて、いや、姫の方がよくお分かりでしょう? だからこそ、オーブも軍備を整えていらっしゃる」
 力なくば叶わない物が存在する、それはカガリもよく分かっていた。
 事実、先の大戦で、オーブは力及ばずその地を焼かれてしまったのだから。
 だがカガリはその言葉に反発するように、突然ぶっきらぼうに言い返した。
「その、『姫』というのは、やめていただけないか?」
「これは失礼しました―――アスハ代表」
 虚を衝かれたように目を見開いた後、笑いを噛み殺しながら頭を下げたデュランダルを、カガリは憤然とした表情で睨んだ。
 余りにもその慇懃無礼さに、ようやく不快感を感じ始めたのだった。
 歩を進めながら、デュランダルは中断された話の続きを話す。
「しかし、ならば何故?何を怖がっていらっしゃるのですか、あなたは」
 その見透かすような声に、カガリは頭を上げた。
「大西洋連邦の圧力ですか? オーブが我々に条約違反の軍事供与をしている、と?」
 あまりにも正確に図星を衝かれ顔色を変えたカガリを見て、デュランダルはなおも言葉を紡ぐ事を続けた。
「ですが、そんな事実は無論ない。確かにかのオーブ防衛線のおり、難民となった同胞を、我らプラントが温かく迎え入れはしましたが」
 工廠内で作業をしている技官の中には、カガリを見て顔を上げる者もいる。顔を見るなり逸らすものも中にはいた。
 現在話題とされている、元オーブ国民なのだろう。
「その彼らが、ここで暮らす為に持てる技術を活かそうとするのは、仕方のない事ではありませんか?」
「だが! 強すぎる力は、また争いを呼ぶ!」
 プラントに向けて放たれた核の炎、そして『ジェネシス』から放たれた死へと誘う光。
 これらで多くの命が奪われる瞬間を間近で見ていた彼女は、死の道具を次々と生み出そうという行為を黙って見ていられないのだ。
 だがデュランダルは動じる気配もなく、ゆるやかにかぶりを振った。
「いいえ、姫。争いがなくならぬから、力が必要なのです」
 その言葉にカガリが息を呑んで立ち尽くしていると、突如警報が鳴り響いた。
 その余りにも突発的な自体に、カガリと議長を含んだ周囲の人間は視線を彷徨わせた。
「なんだ?」
 2人が周囲を見回すと、工廠内の兵士達が自体を把握しようと動き始めていた。
 アスランもカガリの側によって、周囲を油断なく見渡し、いつでも行動に移れるような体勢を取った。
 そんな周囲の人間の警戒を嘲笑うかのように、一棟の格納庫の巨大な扉を、数条のビームが貫いた。
 扉は吹き飛ぶようにして溶け落ち、ビームの向かった格納庫では何かが誘爆したのか、大きな爆音を轟かせていた。
「カガリっ!」
 アスランがカガリを抱いて物陰に飛びのくと同時に、爆風がさっきまで彼らのいた場所を駆け抜け、そこにあるもの全てを吹き飛ばすかのように駆け抜けていった。
「い、一体何が!?」
 もがくようにして身を起こしたカガリが、呆然と声を上げた。
 デュランダルも随員達に庇われて無事なようで、周囲に視線を向けながら危なげなく立ち上がっていた。
(何が起こったんだ?)
 アスランが物陰から顔を出して爆発のあった方を見ると、風に吹き流されて行く爆煙の中から、3つの巨大なシルエットが現れた。
「カオス、アビス……それに、ガイアだとっ!?」
 随員の1人が煙の中から現れたMSを見て、驚愕と共にその名を口に出した。
 2つの目と2つの角を持った特長的な頭部に、ジンやゲイツに比べるとすらりとした直線的なフォルム。
 それぞれに特殊武装を施されてはいるが、その基本的なデザインは見間違えようがない。
「あれは!」
「ガンダム!」
 嘗て両者共に駆った愛機を思わせるその姿に、アスランが絶句し、カガリが愕然と呟いた。
 二人の脳裏には、ある場所で起きた事件が思い浮かんでいた。
 今は無きコロニー「ヘリオポリス」で起こった強奪事件のことが。
(悪夢、だな)
 かつての自分たちが行った行為を再現され、アスランは言いようの無い思いに苛まれずにはいられなかった。


<まずは格納庫を潰す! ほら、もたもたしてるとMSが出てくるぜ!>
 スティングが陽気に叫び、それに応えるようにアウルが素っ気なくステラに命じた。
<ステラ、お前は左な>
「わかった」
 それに淡々と答えると、ステラはガイアを四足のMA形態へと変形させ、素早い動きで工廠内を走り回り、その獰猛な牙と爪で躍り掛かった。
 黒い疾風が格納庫の間を駆け抜け、背部ビーム砲が放たれる度に、格納庫内のジンやシグーが爆発し、格納庫を吹き飛ばしていった。
 その動きは、獣神のごときだった。
 アビスは、両肩の甲羅のようなシールドから突き出した連装砲で手当たり次第に格納庫を撃ち抜き、やはり周囲を火の海に変えていった。
 そしてカオスは、ビームライフルで式典用ジンを豪華な射的の的を射落とすように、片っ端から撃ち抜いていた。
 背面の兵装ポッドが開き、一斉に放たれたAGM114ファイヤーフライ誘導ミサイル数十発が、次々に格納庫に着弾し、炎の花を広げていく。
 命と言う名の水を得て咲き誇る紅蓮の炎の花は、余りにも美しかった。
その花を咲かせたカオスは、元々強襲用として設計されたので、この仕事はまさにうってつけだった。

 だがザフト側も奇襲の衝撃から立ち直ると弾かれるように、迎撃の為に次々とMSを発進させた。
 空戦用MS『ディン』が翼を広げて飛び立ち、大火力を誇る『ガズウート』が戦車形態から二足歩行に切り替え、砲撃を浴びせた。
 その雨の如き銃弾の中を、ステラは射線を見切って地を蹴り、空中からお返しと言わんばかりにビームを放った。
 それを鈍重なガズウートが避けられる筈もなく、あっけなく機体を貫かれ、大量の弾薬と共に爆発し、大きな炎の花を咲かせた。
 炎の花が、太陽のない空を焦がしあげる中を、鋼鉄の獣を操り駆けながら、ステラは自分の血が徐々に温度を高めていくのを感じた。

―――これは最高の機体だ。私のガイア!

 声にならない歓喜を上げながら、ステラは襲い掛かってくるジン数体をその獰猛な爪で切り裂かせるべくガイアを操った。
 言いようの無い快感が脳を犯し、浸していった。
 その感触をもっと味わうために、ガイアは更なる獲物を求め、その一対の目を淡く輝かせて飛び立った。


「姫をシェルターへ!」
 最初の衝撃から立ち直ると直ぐに、デュランダルは随員にそう指示を出した。
 それに従って兵士が先導すると、アスランは呆然としているカガリの肩を抱いて彼の後に続いた。
「なんとしても抑えるんだ!ミネルバにも応援を頼め!」
 流石にデュランダルは冷静さを取り戻し、事態の収拾に掛かっていることに感心しながら兵士の後についていった。
 そのよく通る声を背中に受けながら、アスランは瞬きの間に火の海と化した工廠内を見た。
 あの三機のMS、かつて自分が駆った愛機、『ZGMF-X09A ジャスティス』の流れを汲むと思われる、あの新型MS。
 強すぎる力はまた争いを呼ぶ―――このカガリの危惧は、現実のものとなってしまった。
 その事実に、アスランは言いようの無い不安を抱くと共に、どこかで開幕のベルが鳴り響いているような気がした。

 先導されるまま格納庫の間を走っていた彼らだったが、建物の陰を出た所でアスランは足を止めた。
 ほんの十数メートル先で、MS同士が戦闘を繰り広げていたのだ。
 カオスがビームサーベルでジンを貫いたのを見て、アスランはカガリを抱いて建物の陰に飛び下がる。
 直後、機体は爆発し、炎は反応の遅れた先導の兵士をあっという間に飲み込んだ。
「くそっ! こっちだ!」
 案内役を失った以上、出来るだけ戦闘区域から離れるしかない。
 そう考えたアスランは、カガリを促して走るが、工廠内を縦横無尽に走り回るガイアや、上空から放たれるディンの砲撃が、狙い済ましているかのように彼らを邪魔しようとする。
「ちっ! どうすれば………あれは!?」
 未だに打開する事の出来ない現状にイラつきながらアスランが見渡した先にあったもの、それは、路上に横たわっている機体、つい先程見た新型MS、ザクだった。
 破壊された格納庫から飛び出したらしいそれを見て、アスランは一筋の光明を見出したような思いになった。
「来い!」
 カガリを促してそれに駆け寄ると、幸運にも仰向けに倒れたザクのコックピットは開いていた。
「乗るんだ!」
「え!?」
 戸惑うカガリを抱き上げてコックピットに入ると素早くシートに着き、慣れた動作で起動シークエンスを立ち上げる。
 自分がいた頃とは多少レイアウトが違っているが、大体の見当はつくし、基本的な部分は変わっていないことに感謝をすると同時に、場違いな安心感を持ってしまった。
「お前………」
 踊るようにOSを立ち上げていくアスランに、カガリは言いようの無い思いを滲ませながら声をかけた。
 MSに乗るのは先の大戦以来、そしてもう二度と触れたくはないと思っていたアスランの気持ちを知るだけに、カガリはアスランを心配しているのだろう。
 だが、アスランはその思いをありがたいと思うと同時に、少しイラつきながら短く吐き捨てた。
「こんな所で、君を死なせるわけにいくか!」
 むしろこの状況では、この中の方が外よりははるかにマシな避難所だった。
 操縦系統は旧型と異なってはいるが、基本的な事は変わらないのだから、動かせないわけじゃない。
 それを確認すると同時に、アスランはシートに備え付けられたベルトで体を固定した。
 モニターに光が入り、外の様子を見ようと機体を起こすと、胸の排気口から熱せられた排気が噴出し、上に積もった瓦礫がばらばらと落下した。
 その、命の息吹と言ってもよい行為に、獣神の五感は捕らえたのか、こちらを向いたかと思うと同時に体を起こしたばかりのザクを目掛けて、ガイアが向かってきた。
「しまった!」
 ガイアがビームライフルを構えるのを見て、アスランは反射的にレバーを操作し、ペダルを踏み込んだ。
 ザクがスラスターの噴射で横に飛びのくと同時に、ビームが背後の壁を貫いた。
 そのまま着地の足で踏み切り、ガイアへと肩を向け突っ込んだ。
 一方のガイアはそのスピードに虚を衝かれたのか、ショルダータックルをまともに受け、背後に吹き飛ばされた。
「くっ、PS装甲か!!」
 ガイアに殆どダメージがない事に苛立ちながらも、アスランはこの機体の性能に舌を巻いていた。
 PS装甲の有無はともかく、機動性とパワーだけなら先の大戦で自分が駆った『GAT-X303 イージス』といい勝負、あるいはそれ以上かもしれない。
 そんな事を考えている間にも、ガイアは体勢を整え、今度はビームサーベルを抜いて向かってきた。
 その構えからは、必ず殺すと言う気迫がにじみ出ていた。
 それを見たアスランは、左肩に装着されたシールドからビームトマホークを抜き放ちこれに応戦する構えを取った。
 ガイアの斬撃をシールドで受け止めて素早く反撃するが、向こうもシールドを掲げてそれを受け止める。
「くっ!」
 この機体に乗ったのはカガリを守る為であって、勝つ為ではない。
 そう思ってなんとか後退しようとするが、ガイアはまるでそんな思いに関係ない、ただ自分に殺されろ、と語るかのようにひたすら斬りかかってきた。
 とてもじゃないが後退する隙なんてなかった。
(ならば、戦って勝ち取るのみだ!)
 決意を込めてガイアを睨むアスランの耳に、突如さっき聞いた言葉がよみがえった。
―争いがなくならぬから、力が必要なのです―
(なんて矛盾!!)
 その事実に愕然としながらも、アスランは目の前のガイアから視線を逸らすことはなかった。


 戦闘区域からほど近いドックに、淡いグレイの戦艦が繋留されていた。
 前方に突き出した艦首の両側に大きな三角形の翼が広がり、両舷にモビルスーツ用ハッチを備えている。
 船体下部を赤に塗り分けられ、従来のザフト艦に比べてやや直線的な印象のするそれは、どちらかと言えばオーブ系船舶に似ていた。
 この戦艦の名はミネルバ。明日に進水式を控えた、ザフトの最新鋭艦だった。

「それにしても、いよいよ明日ですね」
 自分の仕事をやり終えた黒い軍服を纏った男が、自分の上位に座っている女性に声をかけた。
「そうね。あっという間に明日になってしまったわね」
 黒い軍服の男、副長であるアーサー・トラインにそう笑みを浮かべながら、艦長であるタリア・グラディスはそう答えた。
 艦長であるタリアは、その若い、女性と言う身でありながら白い軍服に袖を通すに値する知識に溢れた光を目に宿しながらアーサーとの会話を続けた。
「そういえば艦長。残りのセカンドシリーズの搬入はどうしましょうか」
「そうね。予定では三時からパイロットを交えてのブリーフィングがあるから、四時ぐらいに搬入開始かしらね」
「艦長、副長。お疲れ様です。お飲み物をお持ちいたしました」
 これからのタイムテーブルを確認している二人に、後ろから声がかけられた。
「あら。ありがとう」
「すまないね。アリシア君」
 二人は、声をかけてきた人物―アーサーと同じ黒の軍服を羽織った銀糸と透き通るような蒼さを宿した瞳を持つ女性に礼を述べた
「いえ。これも補佐官の務めですから」
 そういいながら、アリシアは二人に飲み物が入った容器を渡した。
 アリシア・ノエル。ミネルバの副長補佐官として配置された女性である。
 彼女の役職はその名の通り、アーサーの補佐がメインなのだが、気が利く性格なのだろうか、細々とした作業も進んで行う器量を持っていた。
 また、戦術眼なども優秀で、近い将来艦長職につくのもそう遅くないほどの優秀さを持っていた。
 アリシアに渡された飲み物、コーヒーを口に含みながらタリアは周囲を見回した。
 他のクルーもそれぞれが飲み物を口に含みながら小休止を取っていた。
 アリシアが用意したものであろうことに、当たりをつけながら、目の前で仲良く会話をしている二人に休憩を取るように指示を出そうとしたその瞬間、爆音と揺れが襲ってきた。
「何事?!」
 その揺れに驚きながら、タリアは事態を把握するために通信士に尋ねた。
「………艦長!!新型MSが何者かに強奪され、工廠内を破壊しているとのことです!!」
 一拍間をおいて、赤い髪をツインテールにしている少女はタリアにそう情報を報告した。
「なんですって?!メイリン、格納庫に連絡。いつでも対応できるようにと伝えて!アーサー!!彼は?!」
 矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、タリアは連続して立ち上る煙を映し出すモニターをにらみつけた。
 これが、新たなる大戦の切欠にならないことを願いながら、タリアは部下に指示を出した。


「どうよ。調子は」
『うむ。ここの整備の者達は技量がなかなか高いようだ。なかなか快適な暮らしを提供してもらっているよ』
「それはよかったことで」
 緑の作業服に着替えたヨウランは、一機の戦闘機のコックピットの中で一人そう会話をしていた。
「事情を知らないヤツが見ると危ない人間に見えるぞ」
「何言ってるんだか。危ない人筆頭候補の人間が」
 放り投げ渡された飲み物の缶を受け止めながら、パイロットスーツに着替えたシンにそう言葉を返した。
「どうだ。インフィ。調子は」
『ヨウラン・ケントにも答えたが、良好だ。少なくとも、今すぐ戦闘を命じられても十全の力を発揮することが可能だ』
「な〜に物騒な事を言ってるんだか」
 ヨウランからチェックボードを受け取りながら、シンはコックピットに座ると同時に苦笑しながら相棒にそう答えた。
 インフィ。正式名称:インフィニティ。無限と言う名を冠する擬似人格を持った人工知能である。
 その主な役割はパイロットの補佐と同時に、試作機であるインパルスの機動データなどの解析などである。
 最初に出会ったときは、製造ナンバーを名乗っていたのだが、シン自らがインフィニティーと命名した。
 それは、記憶の中にあった「8」と言う存在に習い、「8」を横倒しにして「∞」としたからだった。
 また、可能性、運命は無限にある、という思いを込めて名づけたのであった。
 テストパイロット時代を通して多くの人とふれあい、また、同種の存在の「8」の教育もあり、今では一端の口を聞けるようになっていた。
 そんな相棒に、苦笑しながらシンは戦闘機、コアスプレンダーのチェックを行った。
「よし。確認終了、っと。あとは、合体機能の最終確認だな」
 そう口にすると同時に、格納庫を衝撃が襲い掛かってきた。
「な、なんだ?!」
「プラントで地震?!」
『これは、爆発による衝撃だな』
 インフィの言葉に弾かれるように、シンはヘルメットを取りに向かった。
「お、おい!シン!!」
「ヨウラン、すぐにインパルスが出れるようにしてくれ!!敵だ!!」
「敵、って………」
 そう指示を出し、かけ去ったシンの後姿をぼうっと見ていると大きな声が格納庫内に響いた。
「何をしている!全員、資材などの固定を急げ!!襲撃が一回と決まっているわけではないんだぞ!!」
 周りにいる整備員にそう指示を出しているのは、整備班長であり、かつての大戦の中を生き抜いてきた熟練のマッド・エイブスだった。
「班長!」
「ヨウラン、お前も早く動け!」
『それよりも、各種フライヤーのチェックを頼みたい』
 指示を出すエイブスの声を遮るように、インフィはそう要望を述べた。
「なに?」
『情報を集めたところ、新型が何者かに強奪されたようだ。先ほどの衝撃はMSが破壊された爆発によるものだ。新型に対抗できるのは我々しかいない。ゆえに、各種フライヤーのチェックを早急に行う事を要求する』
 その答えに弾かれるように、二人は行動に移った。
 そして、その直後、格納庫内に緊急放送が鳴り響いた。

<コンディションイエロー発令!!コンディションイエロー発令!!これは訓練ではありません!!>
 鳴り響くメイリンの声を聞き流しながら、シンはヘルメットの気密をしながらコックピットに乗り込んだ。
 各種シークエンスを起動させながら、シンは言いようの無い思いを胸の中に押しとどめていた。
<インパルス発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーへ……>
「艦長!!状況は?」
 機銃とミサイルポットに実弾が装填されている事を確認しながら、シンは艦橋へと通信を繋げた。
『シン?準備は?』
「もう終わっていますよ。状況は?」
 聞き返してくるタリアの目を見つめながら、再度シンは問いかけた。
『状況はおもわしくないわ。一方的にこちらがやられているのが現状よ。それと、あなたにこんな事を命じるのは酷だと思うけど、新型三機は捕獲しなさい』
「……この非常時に何を悠長なことを」
『ええ。同感ね。でも、上からはそう指示が来ているのよ。納得して』
 どこかはき捨てるように答えるタリアに、胸の中で同情しながらシンは言質をとるためにこう尋ねた。
「了解。一つ聞きますけど」
『なにかしら』
「無傷じゃなくていいんですよね」
『おい、シン!あれは我が軍の………』
『副長、抑えてください』
『…………ええ。大破で無ければ許可します。当艦が受けた命令は『捕獲』であって『無傷で』という指示は受けていないわ』
「了解」
 言質をとったシンは、そう答えるとキャノピーを下ろした。
 通信の先では誰かが何かわめいていたが、それは向こうに任せればいいだろう。
 そう思いながら、シンは各種フライヤーとのリンクを確認し始めた。
「お前がさっきあんな事を言ったからだぞ」
『論理的根拠が無いな。それに、あのような軽口でいちいち責任制を追及し始めれば、人間社会はすぐに瓦解してしまうぞ』
「流せよ。愚痴なんだから」
『そうか。モジュールはどうする』
「コロニー内で戦闘だからな。自分で自分家を壊すほどバカには成りたくないし、それに、短期決戦を狙うなら『ソードシルエット』だな」
 そう結論付けると、シンは別のチャンネルを開いた。
「メイリン!」
『シン?どうしたの』
「ああ。モジュールだがソードで頼む。力で三機を捻じ伏せる」
『艦長!………了解。艦長の許可も出たわ』
「じゃあ、それで頼む」
『うん。シン』
「ん?」
『気をつけて帰ってきてね』
「おう!」
 どこか、泣きそうな顔でそう言うメイリンに、シンは力強い、男の笑みを浮かべながら約束の言葉を発した。
 それを見つめて、軽く頷くとメイリンは自分の仕事に取り掛かった。
<モジュールはソードを選択。シルエットハンガー二号を解放します。シルエットフライヤー、発進スタンバイ!>
 発進シークエンスに従い、ハンガーからカタパルトデッキへとリフトで運ばれるコアスプレンダーの中で、シンはメイリンの声を耳にした。
 コアスプレンダーがカタパルトデッキに現れると同時に前方のハッチが開き、その隙間から所々に煙の混ざった薄青い空が覗いた。
 それに眉をしかめると、スティックを軽く叩く。
「行くぞ、相棒!」
『まかせろ、相棒!』
 一つのコックピットの中で二つの声が響くのに合わせて、メイリンの声が響いた。
<ハッチ解放、射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常、進路クリア……コアスプレンダー発進、どうぞ!>
「シン・アスカ。コアスプレンダー、出るぞ!」
 掛け声と共に左手のスロットルを全開にし、その直後カタパルトによる加速が身体をシートに押し付けるのを感じた。
 一瞬の内に全方位が開け、シンは差し込む光に僅かに目を細めた。
 主翼に自身のパーソナルマーク『大いなる鷹が矢の芯を掴み飛び立っている』絵がペイントされているそれに、コロニーの採光を反射させるように機体を傾けて旋回すると、工廠内から立ち上る黒煙が視界をふさぎ、予想以上の被害に愕然としてしまった。
 数十棟の格納庫が倒壊し、一つ、また一つとMSが破壊され、小さな火球が現れては消えていく。
 その火球が現れる度に誰かが死んでいくのかと思うと、言いようの無い怒りで頭が沸騰し、砕けそうなほど強く奥歯を噛み締めていた。
『チェスト、レッグ、ソードシルエットの射出を確認』
 沸騰しそうな頭に、冷静な声が響いた。
 インフィの報告を耳にすると同時に、頭の中の熱が僅かに下がる気がした。
 冷静さを思い出させてくれた相棒に、心の中で礼を述べると同時に、レーダーで確認した。
ミネルバのカタパルトから新たに三個のユニットを射出した。
 そのどれもが戦闘機とは違う形状をしていた。
 その間にもシンは工廠上空を飛び、目的の機体を捉えた。
 黒くほっそりとしたフォルムの機体―ガイアが、一機のザクウォーリアと対峙していた。
 スペック的にはガイアよりも劣るはずのザクで互角に渡り合っているのを見て、シンはザクのパイロットの技量に感嘆する。
(さすが、前作の主人公って言うやつか)
 あのザクに乗っている人物を思い浮かべ、そんな感想を思うシンの目に、その背後から緑色の機体―カオスが迫っているのに気付いた。
 ザクのパイロットはガイアに気を取られているせいか、カオスの接近には気付いていないようだった。
「危ないっ!」
 通信もつなげていないのに、叫んでも意味など無いのだがそう叫ばずにはいられなかった。
 死角から躍り掛かったカオスに気付いたザクが慌てて防御姿勢を取ろうとしたが、間に合わずに左腕を切り飛ばされた。
 体勢を崩したザクにカオスが止めを刺そうとする。
「やらせるかよ!!」
 そのカオスへと向けて、シンは搭載されていたミサイルを全弾発射して浴びせかけた。
 コアスプレンダーから放たれたミサイルが、カオスの背中に直撃した。
 PS装甲のおかげで被害らしい損害は出ていないが、隙は出来たらしく、その間にザクは大きく後退した。
「間一髪、か」
 間合いを広げることが出来たザクを確認し、そう呟くと同時にスロットルを押し込んだ。
 シンは棒立ちになったカオスとガイアに、空になったミサイルポットをぶつけ、体勢を崩した二機の横をすり抜け、再び上空に舞い上がった。
『ナイスコントロール!!』
「そりゃどうも!!」
 インフィの軽口に答えながら、シンは飛んでくる機影を確認した。
遅れて射出されたユニットがコアスプレンダーに追いついたのだった。
 シンはそれらと相対速度を合わせ、この機体特有のシステムを起動させた。
 コアスプレンダーの機首が折れ、翼端と共に機体下部に折りたたまれる。
 同一軸上に並んだ各ユニットにビーコンが発せられたのを見て、シンはスロットルを絞った。
 後方のユニットにコアスプレンダーが接合し、同時にユニット下部がスライドしてMSの下半身となる。
 更に加速した機体は、次に前方のユニットと接合し、折りたたまれていた両腕が展開し、四本の角を持つ特徴的な頭部が現れた。
 最後に二本の対艦刀が取り付けられたユニット―シルエットフライヤーが背面に装着され、同時にVPS装甲が展開される。
 鉄灰色だった機体は、白と赤を基調とする鮮やかな色に変化し、左肩にシンのパーソナルマークを誇らしげに掲げていた。
 その、機体が変色する音が聞こえるわけではないのだが、シンの耳には堅牢な鎧を身に纏った巨人の息吹が聞こえたような気がした。
 対艦刀『エクスカリバー』を両手に持つと、自重と擬似重力、それにバーニアの推力を生かして、新たに緊張状態になろうとしていたガイアとザクの間に降り立った。
 『ZGMF-X56S インパルス』、それが、この機体の名だった。
『合体成功!各種機関オールグリーン!!行け!!シン!!』
 インフィの声に応えるように、シンは一振りが十数メートルにも達するエクスカリバーを柄の部分で結合させ、頭上で大きく振りかぶると、切っ先をガイアに向け、同時にビーム刃を形成させた。
「なんで、何でこんなことをするんだ、あんたらは!!」
 怒りの咆哮とともに振るわれる、騎士王と歌われた王の持つ剣と同じ銘を持つそれを構え、シンはコックピットの中で吼えた。
 その瞳に映るのは、炎に包まれた工廠内の無残な光景。
 そして、瓦礫の中から何かを取り出そうとする人々の姿が、サブモニターに映し出されていた。
「そんなに戦争がしたいのか!?」
 どこかにいるであろう、今回の事件の主犯に向けて、届かないと分っていながらもシンは問いかけた。
「うおぉぉぉぉ!!」
 裂帛の気合の声を滲ませ、シンはいま自分に出来る事を行うために敵を打ち倒すための舞踏を舞った。


―後書き―
 今回は自分でも驚くぐらいに創作作業が進み、短期間でここまで作れた自分にビックリしているANDYです。
 原作どおりの展開で今回は第一話は終了です。
 もしかしたら、今回は過去最高の文字数かもしれません。よくやった自分!w
 さて、今回は前回と比べてギャグはなしの真面目モードで行ってみましたが、どうだったでしょうか。
 少しでもガンダムらしさが皆様に伝わればうれしい限りです。
 さて、今回もまたオリキャラや作者の好みの設定が出てしまいました。
 それらの感想を聞くのが楽しみな反面、とても怖いですw
 今回のパーソナルマークですが、この話を作っていくに当たりどうしてもやりたいな〜、と思っていたので思い切ってやって見ました。
 私設定ですが、一応今世界は平和と言うことになっており、軍人も市民に愛されるようにならないといけない。そして、市民の中でも赤服はエリートと言う認識があるので、それを利用して軍のアピール活動をしよう、という狙いで、シン達のアカデミーの卒業年度の赤は全員パーソナルマークを機体につけることが認められていたのです。
 ちなみに、なぜインパルスが先に搬入されていたのかと言うと、パーソナルマークを入れる数が多いから、でした。w
 贔屓ではないんですよ、原作のマーレさん(この辺は単行本で確認してください)w
 ちなみに、マーレさんのマークは『白鯨を貫く三又の槍』あたりが妥当では?理由は、ね〜。

あ、そうそう、今回の冒頭のナレーションは銀河万丈でお願いします。
あの、痛快娯楽復讐劇アニメの冒頭のようにw

 さて、何か少しマニアに走りそうな話はこの辺までにしましょうか。
 では、毎回恒例のレス返しに行きたいと思います。

レス返し
>3×3EVIL様
 感想ありがとうございます。
 見られましたかw。私も見ましたが、もう突込みしかいれられませんでしたよ。
 なんでラクスをトップに据え置くことが出来るのか、はなはだ疑問でしたね。
 あと、ミネルバのウィングですが、あれはカッコイイからですよ!!多分w
 そうでもなければ意味が無いんですよね〜。
 ゾイドは私も見ています。作画は荒いけど良作だと思っていますから。
 第三部は、どうなるんでしょうね。生暖かい目で見守りましょう。TBSをw
 今年も苦しむと思いますが、これからも応援お願いいたします。

>京様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>ATK51様
 お久しぶりです。感想ありがとうございます。
 ボンボン版は感動の名作ですよ。本家の迷作をあそこまで良策にした手腕には素直に脱帽です。
 ええ、精神的帰化をするべきか迷ってたのですが、やはり向こうの世界を考える時には彼らが必要かと思って登場させました。
 まあ、ギャグパート以外の出演は控えさせますけどw
 105ダガーを購入されたのですか。なかなかの良作ですよね。
 アルブレードよりも、BD1号のようにしてリアル路線で攻めてみるのはどうでしょうか。
 運命本編は、ある意味全員被害者ですよね。
 前作主人公カップルも、もう少し明確な言葉があればあそこまで叩かれなかっただろうに。
 盲目の愛は、相手も回りも不幸にする、と言う良い例でしたね。
 全ての人に公平な愛、それが製作サイドの義務だったのでは、といまさらながら思います。
 なんだか真面目な事を述べてしまいましたが、これからも応援お願いいたしますね。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 ええ、ケーラ嬢は色々とかき回してくれますよ。おたのしみに。
 今回の話は満足していただけたでしょうか。
 それが少し心配です。だって、今回ギャグが全然無いからw
 これからも応援お願いいたします。

>葱ンガー様
 感想ありがとうございます。
 ぶしつけながら言わせてもらえますが、あなたはサイコメトラーですか!!
 何でこうも私の構成を当てられるんだか(涙)(前々回レス参照)
 葱ンガー様の想像通り、シンの相棒として登場しましたのが『インフィ』です。
 外見は『8』と同じです。また、店頭アニメで『8』は会話をすることが出来ていたのでこちらでもそのようにしました。
 声は、皆様の想像で補完してくださいw
 また、タイトルは変更しました。
 でも、いつかは『シン君の主人公物語』と銘打ちたいと思っていますw
 今回の話はどうだったでしょうか。
 次回は格闘がメインです。ええ、あれが出ますよ。オリキャラの機体が。
 次回もお楽しみに。

>友紀様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 ああ、タイトル変更と言う愚行を犯したためにご迷惑をおかけしてしまったようで。ゴメンナサイ。
 テストパイロット時代は、色々と小出しにしながら語っていく予定ですので、お楽しみに。
 空色の髪の女性は…………ノータッチで行きましょうw
 ファフナーのように、命を大事に扱いながら作品が描ければいいと思っています。ちなみに、全巻レンタルで借りてきて見直しましたw
 これからも頑張るので応援よろしくお願いいたします。

>なまけもの様 
感想ありがとうございます。
タイトル変更の愚行、ここに謝罪いたします。
 議長の変化は…………今はヒミツですw
 オリキャラの彼女、実はすごい秘密を持っていますが、それは徐々に明らかになっていきます。
 でも、あながち無関係、と言うわけではないんですよね。あ、いっちゃったw
 連合三人組の運命は………未定ですので暖かい目で見守ってあげてくださいw
 これからも応援お願いいたします。

>剣様
 感想ありがとうございます。
 そこまで褒めていただけるとは、光栄です。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 これからも応援よろしくお願いいたします。

>シヴァやん様
 感想ありがとうございます。
 オリキャラはこれから色々と動いていくので応援してあげてください。
 まあ、フラグは基本かな?と、思いましたのでw
 空色の髪は…………想像にお任せします。
 これからもよろしくお願いいたします。

>春の七草様
 感想ありがとうございます。
 いえ、シンのサービスシーンって、原作ではなかったな〜と思ったらいつの間にかモニターにでていましたw
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>彼方様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 これから家のシン君と共に頑張っていきますので、応援お願いいたします。
 ちなみに、何股かは未定ですw

>輝翔様
 感想ありがとうございます。
 かなり前に第何羽まで見ていたのか、と言う質問にやっと応える事が出来て肩の荷が下りました。
 まあ、家のシン君なら何とかしてくれると思いますよ。
 これからも応援お願いいたします。

>T城様
 感想ありがとうございます。
 うちの子が全話見ていたら…………おお、コワ!!
 かなり怒り狂いそうですねw
 これから色々と話をいじくっていきますが、楽しみに待っていてください。
 皆が幸せになれるよう、最大限努力していきますので。
 これからも応援お願いいたします。

>二代目ムサシ様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 これから、オリキャラたちを交えながら躍動した話を書いていきますので応援お願いいたします。
 まあ、彼女については、突っ込まないでくださいw

>レンヤ様
 感想ありがとうございます。
 今回はザフト側にもオリキャラ出現です。
 どうだったでしょうか。
 あの爆発は演出だけを先走りした結果ですよね。
 どうやってもかすり傷じゃあすまないはずなんですが。ARMSでも内蔵しているんでしょうかw
 空色の髪は、誰も明言していませんので、ご想像にお任せいたします。
 ええ、そうですよ、今想像された彼女、ということにしておいてくださいw
 これからも応援お願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア
 感想ありがとうございます。
 連合三人組との関係は、これから考えていくつもりです。
 これからも応援お願いいたしますね。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 ついに原作の流れになりました。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

>花鳥風月様
 感想ありがとうございます。
 ついに本編に突入いたしました。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 また、お褒めのお言葉をいただき、大変うれしく思います。
 これからも応援お願いいたします。

>テトラ様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 まあ、フリーダムにもあったんですよ。イージスの自爆の衝撃を無効にしてしまった連合製のセーフティシャッターが!!w
 そうと思ってないと、しょうがないですよ。
 これからも応援お願いいたします。

 さて、今回も多くの方に感想をいただけて感謝の思いで一杯です。
 それにしても、angelaの歌はいいな〜。
 ファフナーSPの歌は気持ちが優しく、そして切なくなれる秀作です。
 ぜひ聞いてください。個人的にはこの歌を自作のEDにしたいですね。
 いえ、身分不相応だと思うのですがw
 では、次回もお楽しみに。

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