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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第一話 運命の始まり 前編(SEED運命)」

ANDY (2006-01-09 06:07/2006-01-09 19:40)
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 かつて、地球・プラント間で大掛かりな戦争があった。
 それは、多くの命を、多くの夢を、多くの明日を奪い合い、どちらかが自分の夢を守るために起こした争いだった。
 そこには、ただお互いを敵としかみなさない、一元的な感情しか存在しなかった。
 だが、その戦争も一応の終焉、『停戦』と言う名の形で終わることになった。
 だが、忘れてはならない。
 その戦争が、『終戦』と言う形ではなく『停戦』と言う形で終わったと言うことを。
 いうなれば、砂を全て落としきらずにいる砂時計の如く、ただ管の途中で詰まっているだけであると言うことを。
 少しの衝撃を加えるだけで、また砂が流れ、落ち始めると言うことを。
 だが、人はそれを忘れる。認識しない。
 なぜなら、それを覚えていること、認識することは苦しいから。辛いから。
 だから、偽りの平和を謳歌する。
 だから、虚飾に満ち溢れた世界を守ろうとする。
 だが決して見誤るな。
 世界は未だ、平和にはたどり着いていないと。
 今の世界は、ただの後半戦へと向かうハーフタイムでしかない、と言う事を。
 世界は、未だ『戦争』と言う名の爆弾を抱え込んでいると言う事を。

 そして、戦の始まりを知らせる笛がなる。
 新たなる、喜劇にして悲劇、悲劇にして喜劇なる戦争の始まりを知らせる鐘が鳴る。

C.E73年10月。
 この日、世界は新たなる劇の舞台へとその姿を変える。
 その始まりは、ここ、L4宙域に浮かぶ一つのコロニーから。
 そのコロニーの名は「アーモリーワン」。
 ここに、今新たなる「衝撃」が世界を震撼させる。


 けたたましく鳴り響く電子音に導かれ、夢と言う別世界に存在していた意識が、現実と言う世界に引き戻されるのを感じながらシンは目を覚ました。
「あ〜、ねみぃ〜」
 目を半分以上閉じたまま、今の自分の偽りない本音を口にしながらシンは自分の寝ていたベッドから身を起こした。
 その部屋は、安物のホテルのように簡素とした内装であった。
 備えつきの家具は、今まで寝ていたベッドと、机と椅子が一脚ずつ、そしてクローゼットが一つであった。
 ここは、軍施設内にある宿舎の一室であった。
 ここ数日使い込んでいた仮の宿の様相を気にした風もなく、シンは未だおぼつかない足取りで浴室へと足を向けた。
 未だ体に付着しているように感じるアルコールを、熱いシャワーの湯で洗い流したいと思っていたからだ。
 浴室に着き、寝巻き代わりに着ていたTシャツと短パンを脱ぎ捨て、ここ数ヶ月でまた一段と逞しくなったその肉体へ湯を頭の先から浴びた。
 湯が排水溝へと流れ落ちるのに合わせて、体の中に残っていたアルコールも流れていくような気がした。
 熱い湯で火照った体に、冷水を浴びせ意識をクリアにすると、また湯を、今度は体温を暖める事を目的に軽く浴びて、シンは浴室から出た。
 備え付けのバスローブを羽織、髪を少し乱暴に拭いているとコール音が部屋に響いた。
「ん?」
 その音に首をかしげながら、シンはコール音を発している受信機の受話器を耳に当て応答した。
「はい。シン・アスカですが」
『ああ。久しぶり、シン。俺、ヨウランだけど』
「ヨウラン?久しぶりって、昨日の午前にインパルスの搬入の時にあっただろう」
 受話器から聞こえてきたのは、同期にして友人であり、新たな職場での同僚であるヨウラン・ケントの声であった。
『まあまあ。社交辞令って言う奴だ』
「いつからそんな律儀な性格になったんだか」
 友人のどこか偉ぶっている様子に笑いながら、シンはそう切り替えした。
『それより、今日シン暇か?』
「ああ。まあ、午後三時からブリーフィングだけど。それまでは暇だな」
『それは好都合だな。なあ、一緒に買い物に街に行かないか?』
「買い物?」
『そう。何かこまごまとしたものを買いにさ。次買い物できるのはいつかわかんないんだからな』
「ああ、それもそうだな。うん。行くか。メンツは?」
『俺とシンだけ』
「あれ?ヴィーノは?」
『ああ、あいつは昨日休日って言うシフトだったから。俺は今日が休日』
「ああ、そう言えばそんな事をレイたちも言っていたような気が……………」
『おいおい。忘れてたのかよ』
「いや、昨日のパーティーで少し飲まされてな」
『パーティー?』
「まあ、ただのアピール活動だよ。どこの芸能人だと勘違いしてるんだか」
 素っ頓狂な声を上げるヨウランに説明しながら、シンは昨日の酒がもう体に残っていない事を確認した。
『ああ、噂のセカンドシリーズの御披露目会か』
「そう。それ。まあ、それはどうでもいいや。で、いつ行く?」
『今から三十分後に検問前でどうだ?』
「ああ、じゃあ俺がエレカーに乗っていくな」
『あいよ。じゃ、後でな』
「おう」
 そう答えると同時に通信が切れた受話器を置き、シンは服を身につけながら、朝食を食べる暇がないな、と思った。
 着替え終わると、シンは財布など細々なものをポケットなどに突っ込み部屋を後にした。
 途中にあった自動販売機からコーヒーとホットドックを買うと、それを胃に流し込みながら宿舎のすぐ隣にあるエレカー乗り場へと足を向けた。
 空が、作られたものだからこその美しさを惜しげもなく誇示していた。


『軍楽隊最終リハーサルは1400より第3へリポートにて行う』
「違う違う、ロンド隊のジンはすべて式典用装備だ第3ハンガーと言っただろ!!」
「マッケラーのガズウートか、速く移動させろ」
「ライフルの整備しっかりやっておけよ、明日になってからじゃ遅いんだからな」
『ガトー隊、第2整備班は第6ハンガーに集合せよ』
 それらの喧騒の中でバギーに乗って移動している一組の男女がいた。
 男の方は、緑の作業服を着た、少年と青年の中間に差し掛かった面差しに、前髪に赤いメッシュが入っていると言う珍しい格好だった。
 女の方は、Z.A.F.Tの中でも成績優秀者の内のTOP10にしか与えられない赤の制服を着た赤い髪の少女だった。
 二人を乗せたバギーが、軽快に進んでいると、突如横手から巨大な脚が出現した。
「うわっ」
 移動してきたジンにぶつかりそうになり、慌てて運転していたヴィーノ・デュプレはハンドルを動かし、その巨大な鋼の脚と熱烈なキスを回避するべくハンドルを切りかわした。
「はぁ〜、なんかもうごちゃごちゃね」
 どこか足取りがしっかりとしていない、つい先ほどかわしたジンを見て赤い髪の少女、ルナマリア・ホークはそんな感想を口にした。
「仕方ないよ、こんなの久しぶり………、って言うか初めての奴も多いんだし。俺たち見たいにさ」
 ルナマリアの感想に、笑いながらそう答えながら、ヴィーノは先ほどよりも若干スピードを押さえ周囲に視線を送った。
「ま、そうなんだけどね。せめてこっちに気づいて欲しいんだけどな〜」
 何事もなく目的地へと歩いていったジンに、ルナマリアはそんな感想を新たに口にした。
 そのセリフにどう答えればいいのか分らず、ヴィーノは別の話題をルナマリアに振った。
「でもこれでミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道なのかな?」
「多分、そうなんじゃないの?ミネルバの艦載予定機を見る限りじゃあ、地上戦も一応視野に入れてるみたいだし」
「地球に対しての抑止力、って言うヤツ?」
「そんなカッコいい物じゃないでしょうけどね」
 そう答えながらも、その言葉は正鵠を射ているとルナマリアは思った。
(というか、海戦用MSが載ってる時点で予想できるでしょう)
 セカンドシリーズ―ザフトの新設計思想の基に造られた機体―その中に完璧地上戦を想定した機体が二体あるのだから、疑う余地はないだろう。
 有事の際には、すぐに地球に降り立つ、所謂斬り込み隊長的な役割なのではないだろうか。
 そんな事を思いながら、ルナマリアは視線を横にずらした。
「あ、レイ!」
 その視線の先に、男女の間を越えた友情を築くことの出来た仲間が歩いおり、ルナマリアは咄嗟に声をかけた。
 その声が聞こえたのか、長い金髪の青年―レイ・ザ・バレル―は、軽く手を上げ応えると、再び歩き去った。
 その、どこか不愛想な行動にルナマリアは気分を害せずに、視線を前に戻した。
 自分たち以外には彼は早々手を上げる事などしない、そのことが分っているので気分は悪くならなかった。
(でも、もう少し愛想を良くした方が得だと思うけどね)
 アカデミー時代、レイに熱を上げていた女子が多くいたことを知っているだけにそんな事を埒もなく考えた。
 そうこうするうちに、バギーは目的に確実に近づいており、目の前に巨大な鋼の艦が目に入ってきた。
 その艦の名は、ミネルバ。
 ローマ神話における知恵と工芸、そして戦を司る女神の名を冠したその艦は、その羽が羽ばたかせる時が来るのを静かに待っていた。


「あ、レイ!」
 突如知った声が耳に飛び込んで来たのに促され、視線を向けると友情を結べた仲間の少女が、乗っているバギーの助手席からこちらへと手を振っていた。
 それに軽く手を上げて応え、再び目的地へと足を向けた。
 歩くこと数分で目的地へとたどり着くと同時に、今しがた到着したヘリの中から一つの集団が建物へと向かって移動していた。
 その光景を目にすると、レイはめったに見せない笑顔を浮かべヘリのほうへ駆け寄っていった。
 ヘリから降りて来たのはクライン派の一人であり、ナチュラルとの融和政策を進めている現議長ギルバート・デュランダルとその側近達であった。
 ヘリから降りて来た議長は数人の補佐官と共に会話をしながら移動し、部下の報告に耳を傾けていた。
「彼の言う事もわかるがね。だがブルーコスモスは組織というよりも主義者達のことだろう?」
 議長はそう言いながら歩いていると、ふと視界の端にレイが入ったのに気がつき、レイへ向けてわずかに微笑むと笑顔を向けた。
「いくら条約を強化したところで主義者達の引き起こすテロは防ぎきれんよ」
 レイへと数瞬、笑みを送るとすぐに別の側近にそう言葉を送りながら建物の中へと消えていった。
 その議長の背を見送ると、レイは立ち去っていった。


「議長!!」
 建物の中に居た補佐官が、入ってきたギルバートを確認すると慌てて賭けより耳打ちをした。
「オーブの姫がご到着です」
 その言葉に一瞬鋭いまなざしを浮かべたが、すぐに笑みを浮かべこう応えた。
「やれやれ、忙しい事だな」
 そう言うと、ギルバートは会見の用意を部下に指示し、会見の場へとその足を向けた。


「大佐」
「ん?なんだい?リー」
 とある艦の艦橋で、二人の男が会話をしていた。
 一人は、白い軍服を纏った巌のような表情をした中年に差し掛かった男。その襟元には『少佐』という階級を表すものが輝いていた。
 もう一人は、一言で言えば怪しい、二言で言えば仮面の変人。そのような代名詞がすぐに浮かびそうな様相だった。先ほどの男と同じつくりの、でも色が逆の黒い軍服を身に纏い、その視線を隠すかのように頭部半分に仮面を被っていた。
 襟元には『大佐』の階級章が輝いていたが、誰がそれを信じるか、と叫びたくなる格好であった。
「彼らは上手くやると思いますか」
「なに、心配してるのかな?な〜に、大丈夫でしょうよ」
「…………お言葉ですが、所詮彼らは生体CPU、MSに乗ってこそその真価を発揮するのでは」
「ま、リーの心配ももっともなんだけどね」
「その心配は必要ない」
 何かを口にしようと大佐の声を掻き消すように、新たな声が響いた。
 それは二人とは異なり、女性の声であった。
「これはこれは。ようこそガーティ・ルーへ、フロウ・PA」
 その声の主を目にすると、仮面の男は露になっている口元を僅かに歪ませそう応じた。
「特殊部隊『PA』所属、ケーラ・アズ・アントゥルース中尉です」
 そう敬礼をしながら答えるのは、まだ少女といっても差し支えのない亜麻色の髪をした女性だった。
「『ファントムペイン』所属、ネオ・ロアノーク大佐だ。着艦を許可するよ」
 そう姿勢を正すと敬礼の応じて答礼をした。
「艦長のイアン・リー少佐です。アントゥルース中尉、先ほどのお言葉の意味は」
 自分の娘ほどの年の少女にそう尋ねた。
「ええ。彼らは以前までのとは違うアプローチで作られていますので。MSに乗っていなくてもコーディネイターに遅れは取りません」
 そう答えると、ケーラは持ってきた荷物の中から一つの書類を渡した。
 その書類を受け取り、中身を確認したネオは、一瞬口を噤むとすぐに目の前の少女へと視線を向けた。
「これはまた。たいそうなものを持ってきたね〜」
「保険、だと思っていただければ幸いですが」
 嫌味を混ぜた物言いにひるむことなく、そう答えるとケーラは二人に背を向けた。
「どちらに?」
「格納庫へ。整備班に指示を出さなくてはなりませんので」
 そう答えるとケーラは艦橋を後にし、それを見送った男二人はそろって軽くため息をついた。
「やれやれ。あんなお嬢様が軍人になるとは、俺も年かね〜」
 そうおどけて言う上司の言葉に応じずに、リーは軍帽を被りなおすと視線をモニターへと移した。


「さて。そろそろ鳴らしましょう。開幕のベルを」
 格納庫へと続く通路を歩きながら、ケーラと名乗った少女は歩いていた。
 そこに浮かぶ表情は、無であり、言い表しようのない笑みであった。
「そして、知らせましょう。誰が真に優れているか。教えましょう、誰が愛されるべきなのかを」
 歌うように言葉を紡ぎながら踏み込んだそこに、それはいた。
 黒き鎧を纏った鋼の巨人が。
「さあ、第二幕の開幕よ」


「そういえばさ、他のセカンドシリーズのパイロットについてシンは知ってんの?」
「まあね。と言っても、一人以外は昨日顔を合わせたのが初めての人ばかりだったんだけどな」
 街へと出た目的のそれをほぼ消化することが出来たシンに、ヨウランはそのような事を尋ねてきた。
 ヨウランの質問に、シンは少し苦笑を浮かべながら答えた。
 実際、パイロットはそのままテストパイロットだった自分たちが受け持つのでは、と思っていた矢先に、正規のパイロットの面通しが行われたのが昨日のパーティ会場であったのには驚いたのだが。
「その一人って言うのはどんな人なんだよ?」
「マーレ、って言うアビスのパイロットなんだけど。一言で言えば、気難しい人だな」
「げぇ!マジかよ」
「マジだな。やれ、メインカメラが汚れてる、シートの上にごみがある、スティック周りが汚れてる、って叫んでは整備の人を困らせてたな」
「マジで?!」
「いや、冗談だ」
 驚愕の声を上げるヨウランに、シンは無常な一言を平坦な声で告げた。
「……………シ〜ン〜!!」
「まあ、今言ったのは冗談だけど、気難しいのは本当だな。自分にも厳しい分どうしても他人にも厳しくなってしまうようだぞ。でも、まともに仕事をした分には正当に評価をしてくれる人だな。あ、あと重度のナチュラル嫌いだ」
 地の底から響くような唸り声を上げるヨウランの糾弾の声を微風の如く聞き流し、シンは自分が持っている、当人に聞かれれば頭をはたかれる人物評を語った。
 まあ、初対面の時はかなり敵意をむき出しで睨まれることも多かったんだけどな。と、胸の中でシンは呟いた。
 今でこそ友好な関係を築いているが、実際、マーレは典型的なコーディネイターが持つエリート意識と言うものが常人より多くあり、そのため、まったく新しい設計思想で作られたインパルスに対して並ならぬ興味を持っていたのだった。
 その新型が、アカデミーを卒業したばかりのガキにパイロットの座を奪われた、と言う事実が受け入れられずにシンに辛く当たっていたのだが。
(まあ、俺も黙ってやられるほどかわいい性格じゃなかったけどな)
 胸中でそんな事を呟き、パイロット時代に繰り広げたいざこざの数々をいくらか思い描きながらシンは道の角を曲がった。
 いや、曲がろうとしたところに、誰かがぶつかってきた。
「うわ?!」
「あ?!」
 咄嗟に、自分の両手で下げていた荷物を放り出し、ぶつかった拍子に倒れそうだった相手を抱きかかえた。
      ふに
「(ふに?)大丈夫か?」
 なにか、自分の左手が柔らかく、弾力に富んだものを掴んだのを感じながらシンは自分の胸の中にいる人物に尋ねた。
「?」
 その相手は、どこか不思議な感じの光を宿した赤い瞳と、金糸と見間違うような髪を肩まで伸ばした、どこか子犬のような少女だった。
「え〜と、立てる?」
 その少女の様相に、一瞬驚いたがシンはすぐに押し隠すと、少女を支えながら体勢を立て直すのを手伝った。
 その際、自分の左手が少女の胸を握っているのに気がついたが、それを顔に出すようなへまはけしてしなかったが。
「………だれ?」
「俺?俺は、シン。君は?」
「………ステラ」
 どこか、少し浮世離れした雰囲気の少女の問いに、シンは微笑みながら答えた。
 その答えを聞き、シンの問いかけに少女―ステラ―は一拍間をあけて答えた。
 そして、答えると同時に突然顔を左右に向け何かを探し始めた。
「どうした?」
「……スティング、アウルがいない」
「「はい?」」
 ステラの呟きの意味が一瞬分らず、傍観者に徹していたヨウランと一緒にシンは間抜けな声を上げてしまった。
((もしかして、迷子って言う奴?))
 そんな事をお互いに思いながら、こめかみの辺りに汗を浮かべてアイコンタクトを取り合うことにした。
 時間にして数十秒。その間ステラは所在無さげに視線を彷徨わせていた。
「じゃあ、一緒に探そうか」
「………ん」
 背中がすすけているヨウランに荷物番を任せ、シンはステラにそう提案を持ちかけた。
 その提案にステラは、一拍間をあけて頷いた。
 シンは、ステラの手を握るとステラが向かおうとしていた方向に足を向けて歩き始めた。
 その際、背後から聞こえる文句の声が耳に入ってきた。
「くそ、あ〜のラッキースケベが。シンが街でナンパした女の子の胸を揉んだ、って言いふらしてやる」
 その言葉を聞いた瞬間、後でどのような手段を使ってもそんな悪質なデマを吹聴するのを防がなくては、とシンは心のメモに書きなぐった。


(さて。どうしたもんだか)
 シンは、ステラの手を軽く握りつつ、ステラのアウルとスティングの説明を聞き流しながらこれから自分の取る行動について考えていた。
 シンのなかある大鷹真矢の記憶は、未だに健在であり、自分の家族構成やイベントの結果などは覚えているのだが。
(テレビの話なんて大筋でしか覚えていないっての。それ以上にインパクトの大きい出来事がこの数年の間に怒涛の如くに起きすぎてたからな)
 そう。大まかなあらすじはまだ覚えているのだが、例えば第十話をOPからEDまで正確に約三十分の内容を説明できるか、と聞かれれば胸を張って「NO!!」と答える自信がシンにはあった。
 そんな状態のシンでも、いま自分の手を握り返しながら楽しそうに仲間の事を説明している女の子の最後はどうだったのかは覚えていた。
(………フリーダムに殺されたんだよな〜。そのあと、シンはインパルスの特性を活かしてフリーダムを撃墜することに成功していたけど。あれって、どう見てもコックピット貫いてたよな〜。あれで生きてたら、キラは瞬間移動能力者っていう与太話に真実味が増すよな〜)
 向こうで見た話は、インパルスとフリーダムの直接対決の回までだった。
 その後どのようなエンディングを迎えたのかは分らなかったが、これだけはあれを見た瞬間思ったものだった。
(まあ、やっと前作の主人公を物理的に排除したんだから、その後の残りの話はシンが主人公の路線で話が進んだんだろうな〜。それに最終OPはシンの新型がタイトルバックを飾って―)
((いえいえ。それがそうでもないんですよね〜(やな〜)))
 少し昔を懐かしんでいたら、聞きたくない声が頭の中に響いてきた。
(…………今俺は女の子と歩いているので、あんたらの金を貰っても聞きたくない漫才を聞く余裕はないんですが)
(うわ、ひど!)
(まあ、ずいぶん冷たい言い方ですね)
(黙りなさい。この、名もなき電波さんたち)
 突如として頭の中に響いてきた声に対して、シンは酷く冷淡な声でお帰りを願った。
 どうでもいいが、何でこうもこんな電波を受信してしまうんだろう、とテストパイロット期間中の健康診断で脳波に異常は見られないと言う診断結果は嘘だったのか、とシンは真剣に悩み始めた。
 そんなシンの悩みなど関係なく、頭の中の声は遠慮なく会話を一方的に展開し始めた。
(ううう。最近の若いもんはつめとうてかなわんわ〜)
(いえいえ。○ッちゃん、このように冷たい少年もいればあの女の子の様にいい子もいるじゃないですか。まだまだ若い人も捨てたものではないですよ)
(おお!そうやそうや。いや〜、あの子はエエ娘やからな〜。それでいてベッピンで、またあの空色の髪がきれいでな〜)
(…………はい?)
 聞き流そうとしたシンの耳?に、聞き逃してはならない単語が飛び込んできた。
空色の髪?いやいや、まさかまさかそんなはずは………。
(そういえばこの間、急に暇な時間が出来たもので、彼女を私のお茶会に招待したんですよ)
(あら、初耳やな〜。○ーヤンがお茶を入れられるなんて)
(いえいえ。私ではなく、守護者の座にいる○ミ○に頼んだんですよ)
 その言葉を聞いた瞬間、シンの脳裏に赤い白髪の青年が執事よろしく給仕をしている姿が浮かんだ。
 なんだか、その姿は悲しくなるぐらい似合っていた。
(…………とんでもない災難だな)
 シンはそっと哀悼の思いを送ることにした。
(ほ〜。そうなんか〜。次はワイも誘ってや〜)
(……………というか、まてまてまて!!あ、あんたら、俺以外にもこんなことしてるのか?!)
((………………ソンナコトナイデスヨ?))
(なぜ片言?!というか、その前の間は何だ!!それに、最後なんで疑問系!!)
 そんな、どこかふざけた存在にシンは過去最高のツッコミを入れたのだが―
(ん〜、まだちょっと踏ん張りが甘いんやな〜)
(そういえば、彼は関西の出身でしたから今度連れて来ますか?)
(おお!そうやな。ヨ○ッチに熱血コーチ役を頼むのも手やな)
―歯牙にもかけられなかった。
 それよりも、不穏な言葉を述べ始めたその存在にたいしてシンが取れた行動は―
(ゴメンナサイ)
―降参することだった。

(どうでもいいが、何の用なんだ?)
 シンはどこか疲れを滲ませた声で用件を聞くことにした。
(ええ。そうでした)
(そやそや。ワイらはこれがいいとうてきたんやった)
(なに?)
((とことん掻き回して私たち(ワイら)を楽しませて〜な(くださいね)♪))
(……………………帰れーーーーーー!!!)
 のんきな声で聞かされた言葉に、シンは怒りを滲ませた声色で頭の中で叫んだ。


「あ、スティング!アウル!」
 頭の中で叫ぶと同時に、シンの耳にステラの喜色を滲ませた声が聞こえた。
 その声の向かう方向を向くと、青い髪の少年と緑の髪の少年が何かを探しながら歩いていた。
「あの二人?」
「うん!!」
 確認を取るシンの問いかけに、ステラは元気よく頷いて肯定した。
 そして、シンの手を握ったまま二人の下へと駆け寄ろうとし、その動きに引きずられるようにシンも走り出した。
「どこいったんだよ。このバカー!!」
「ステラー!!」
「スティング!!アウル!!」
 往来で大声を上げている二人に、ステラは声をかけた。
 その声に弾かれるように二人はこちらを向いた。
「「ステラ!!」」
 二人はそう叫ぶと同時にこちらに慌てて駆け寄ってきた。
「このバカ!なにやってんだよ、お前は〜」
「まったく。心配したんだぞ」
「………スティング、アウル。ごめんなさい」
 二人に叱られたステラは、しゅんとなりながら謝った。
「で、あんた誰?」
 そんな三人の様子を眺めているシンに、青い髪の少年が訝しげな表情を隠そうともせずに尋ね、隣の緑色の髪の少年も表情は隠しているがその眼光は少し警戒の色を滲ませていた。
 そんな二人にどう説明をしようかと考えているシンの代わりに、ステラが簡潔に説明をした。
「シン。スティングとアウル探すの手伝ってくれた」
 その、あまりに簡潔な説明に、青髪の少年は胡乱げな表情を浮かべ、緑色の髪の少年は深くため息を吐いた。
「どうも、連れが迷惑をかけたようで。すみませんでしたね」
「ああ、いや。そんなたいした事はしていないから気にしないでくれ」
 感謝の言葉を述べる緑髪の少年に、シンはそう答えるとステラの方へと視線を向けた。
「よかったな。見つかって」
「うん!」
「じゃあ、俺はもう行くけど、もう迷子にならないように気をつけるんだぞ?」
「?シンは、来ないの?」
「ステラ!」
「何言ってんだよ、このバ〜カ!」
 ステラに別れの言葉を送るシンの顔を、ステラは不思議そうな顔で見つめながらそんな言葉を言った。
 その言葉に驚いたのか、緑色の髪の少年は少しきつい叱責の声をかけ、青い髪の少年はステラを馬鹿にしたような声で非難した。
「あ〜、俺にも俺の都合があるからな」
 そんな三人の様子に冷や汗をかきながらシンは何とかそのような言葉を口にした。
「ほら。あいつもああいってるじゃん。あきらめろ、このバ〜カ」
「余りわがままは言うな。すいませんね。変な事を言ってしまって」
「………うん」
「いえ。気にしないでください」
 そう答えながら、シンは上着のポケットに合ったものを取り出し、ステラに渡した。
「はい」
「…………?な〜に?」
 渡されたものを目にした瞬間、ステラは感嘆の声を上げた。
「きれい!」
「ま、ただの飴なんだけどね」
 それは、鮮やかな包装紙に包まれた飴玉であった。
 予想以上の喜びように驚きながら、シンは少しおどけてそういった。
「じゃあ、俺はそろそろ行くな。な〜に、またいつかどこかで会える」
 そういうと、シンはステラの頭を軽く撫でてその場を後にした。
「なに、あいつ?」
「さあな?ただのお人よしの馬鹿なんじゃねえの?それよりも行くぞ」
 そんなシンの様子を見ていた二人は、そんな感想を口にすると、ステラを囲むようにしながら歩き始めた。
「…………おいしい」
 ステラは、口に飴を方張りながら歩いた。
 口の中に広がるのは、さっきまで一緒にいた少年の目の色と同じ赤い包装紙に包まれていたストロベリー味だった。


―中書き―
 新年明けましておめでとうございます。
 本年もわが作品と、我が愛しき登場人物一同共によろしくお願いいたします。

 はい、硬い挨拶もここまでにして、年末のファフナースペシャルを見て涙がとまらなかっらANDYです。
 あれはいい作品だです。もう、作品が掲げるテーマがダイレクトに伝わってすごかったです。特にイヌ。今年の干支だからかかなりきました。
 見てない人、どうにかして見てください。それだけの価値があります。
 どこぞのSPと同じキャラデザなのになんでこうも伝わってくる感動に差があるんだかw

 さて、年末に報告したとおりに本編基準の話がスタートしました。
 今回は、第一話のCM前までです。
 どうだったでしょうか。
 微妙に本編との差をつけているんですが。

 次回は、MS戦になります!……………多分。
 続き早くできるように頑張りますのでお楽しみにしていてください。


追伸:今回はレス返しを休ませていただきます。

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