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▽レス始

「ジャンクライフ−3 −(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-01-11 18:07)
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彼は賞賛されるべきだったのだ。たった一人で、不可能に挑み、それを可能へと変えた彼は蔑まされることもなく賞賛されるべきだったのだ。
お前達には無理だろう。お前達には考える事すらできないだろう。初めから『今』を完全なものとして捉えているお前達に彼の想いはわからないだろう。
欠けていない者達には、一度だって理解することは出来ない。なぜなら、完全とは何かを理解できないからだ。
抗う必要などないと声高々に叫ぶお前達には彼の可能にした事がどれほどお前達に意味があるか理解できまい。
彼のおこなった事がお前達がどういう存在であるかを露呈させた事に気づこうともしないだろう。
彼は、一人寂しく死んでいった。隣には誰もおらず、ただ無念と憎悪だけを残して死んでいった。
お前達には理解出来まい。出来てたまるものか。
私だけが理解できる。私だけが彼の隣に立てる。だって、私も彼と同じように――――


ローゼンメイデン−ジャンクライフ−


オタク――すなわちアニメ等が好きな人であった優は学校でもそれをネタに苛められていたので登校拒否になった少年だ。
かつての優であるならばもう二度と学校に行きたいなどとは思わなかっただろう。
他者に干渉され、傷つけられ、それに抗う術を持たないのだから当然の事だ。
目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んで部屋に閉じこもり、都合のいい空想の世界に浸る。
これは現実からの逃亡ではない。現実から身を守っているだけだ。
と、言うのが以前の優の自論である。
だが、今の優は違う。現状が悪いのでありれば改善してやればいい。
己に嘲笑と謂れのない侮蔑の言葉を吐きかけるなら相応の事を返してやればいい。
身体を痛めつけられる事などどうでもいい。精神を痛めつけられる事も構わない。
ただ、自分という唯一無二のものの価値を下げられることだけは納得しない。
その理念に沿って優は久々にやってきた学校で行動した。
即ち、久々に来た優をからかった岸本、中西という不良ともいえる少年を痛めつけた。
そして、職員室にて説教を受けていた。

「先生は悲しいぞ樫崎。やっと登校してくれたと思ったら喧嘩なんて……。」
「侮蔑の言葉を吐き、俺を見下した態度で接してきた。それに対してそれ相応の事をしてやっただけだ。」
「岸本と中西がお前に対してちょっかいをかけていたという事は聞いている。でも、だからといって、喧嘩は駄目だ樫崎。」
「なぜだ?」
「暴力では何も解決しない。今度こんな事があったら先生に言ってくれ! 先生はお前の味方だ!!」

優のクラスの担任である梅岡という男の言葉に優は笑ってしまった。

「あはははははっ。暴力では何も解決しない!? な、なにを馬鹿な事を!! くくっ、そんな、そんな戯言を言う奴は初めてだ!!」

優は腹を抑え、笑いを必死にかみ殺そうとするが抑えきれずまた声を上げて笑ってしまう。
この場に水銀燈がいれば目を丸にして驚いた事だろう。
ニヤリと悪巧みを思いついたようにしか笑わない優が大声で笑い転げているのだ。

「か、樫崎! 何がおかしいんだ!!」
「ふ、くく。すまない。真面目な顔で、そんな当たり前のことを言うから年甲斐もなく笑ってしまった。」

優は何度か深呼吸をすると落ち着きを取り戻し、呆けた顔をしている梅岡を見る。
若く、愚かで、無知で、それ故に己の価値観は正しいと声高に叫んでいる若造。
それが梅岡に対して優が下した評価である。

「梅岡先生。確かに暴力では何も解決しない。それは当然の事だ。」
「わかってくれるか! 樫崎!!」
「というよりも暴力とは問題を解決させるためにもちいるのではない。問題をねじ伏せるために存在するのだ。」

例えば、二人の子供が一つのケーキを取り合っていたとしよう。二人ともそのケーキが丸まる一つ食べたくて、喧嘩をしている。
半分にすればいいという人がいるかもしれないが、そんな風に半分にしなくても最も簡単に、そして最大の利益を得る方法が存在する。
それは喧嘩し、暴力を使い、勝利する事だ。そうすれば敗者には何も与えられず、勝者は望みがかなう。
原始から続く単純な法則。解決を目指すのではなく、問題の根底の破壊。
理解できないと言う風に首を捻る梅岡に優は失望と共に笑みを浮かべる。

「まぁ、俺は古い価値観で物を言っているに過ぎない。先生の新しく、輝かしい価値観を尊重して今後、あの二人が絡んできたときには相談しよう。」
「そ、そうか。」

呆然と、妙な威圧を放つ優に梅岡はそう呟くと去っていく優の後姿を見送った。
近くの席にいた同僚が優の口調や、態度について文句を言っているが梅岡にはそれすらも頭に入ってこない。
なにか、そうとてつもないなにかを相手に話していた様な感じがして梅岡は深く椅子に座り込む。
気がつけば掌がじっとりで汗で濡れていた。


優が教室に足を入れた瞬間、それまでざわざわと賑わっていた他の生徒達が喋るのをやめる。
優はそんなことには全く気づかず、自分の席に着いた。
そしてまた、それまで停滞していた場の空気が動き始める。
優には友人と呼べるような人間はいない。
過去の優は気が弱く、友達を作るのがとてつもなく下手糞であり
今の優は気が強く、友達を作れと言われれば作る事も出来るがその必要性を感じていない。
いや、そもそも作ったところでそれは友と呼べるものではなく、教室内での居心地を良くする為の道具みたいなものだ。

「樫崎君。」

周りのざわつきに我関せずと座っていた優に声をかけるものがいた。
クラス委員の柏葉 巴である。
短く切り揃えられた髪と感情の色を余り見せない瞳、整った顔立ちは可愛いというよりも美人という言葉が似合うそんな少女だ。

「なんだ?」
「顔の傷。血が出てる。保健室に行った方が……。」
「問題ない。この程度の傷、放っておけば治る。」

傷、といっても唇の端が喧嘩の時に殴られた衝撃で切れているだけだ。
血が少しばかり流れてはいるがこんなもの放っておけば瘡蓋となって治る。

「えっと、ごめんなさい。」
「? なぜ謝る?」

優は気がついていないが、優の喋り方はひどく他人に不快感を与える。
偉そう、心配してもらっているのに冷たい、二人を遠巻きに見ているモノ達は口をそろえてそう優の口調を評価している。

「その……。」

困ったように視線を彷徨わせ、最後には視線をそらす巴に優は溜息をついた。

「言いたいことがあるのならはっきりと言え。そうしなければ相手には何も伝わらん。」
「別に、なんでもないの。ごめんなさい。」

優の言葉に巴は先ほどまでよりもっとひどく困惑、というよりも狼狽すると逃げるように自分の席へと去っていた。


学校から帰ってきた優は机の上に鞄を投げると、制服の上着も脱いで、こちらはベッドへと投げた。
部屋を見渡し、水銀燈がいないことを確認すると優はつまらなそうに溜息をついてその場に座り込む。
だが、なにかを思いついたのか水銀燈の入っていたトランクを手に取ると、カチリと金属音を鳴らして開けた。

「――――いないのか。」

残念そうにそう呟くとトランクを閉め、ベッドにもたれかかる。
しんっと周りが静まり返り、瞬時にしてそこは優一人だけしかいないような雰囲気に変わる。
だが、突如として姿見に備え付けられた鏡が光だし、そこからにゅっと小さな手が現れた。
その手を見ただけで優の顔に笑みが浮かぶ。
立ち上がると鏡に近づき、その鏡の中に両手を突っ込んでなにかを掴むと抱え上げるようにして引っ張り出した。

「……。」
「おかえり。まいすいーとはにー。」

苦虫を噛み潰したような顔の水銀燈と笑みをたたえた優の視線が交差する。

「触らないで。」

ひゅっと水銀燈が優の顔めがけてビンタをするが、優はそれを顔を後ろにそらすだけで避ける。

「随分だな水銀燈。」
「ふんっ。」
「まったく、部屋に帰ればお前がいなくてつまら……心配していた夫にこの仕打ちとは。」

そう言いながらもまるで大事なものを扱うように丁寧に水銀燈を床に下ろすと優は天井を見上げ嘆いた。

「私はねぇ、アリスゲームで忙しいのよ。」

苛立った様子で水銀燈は優にそう言った。

「ほぅ。他の人形が目覚めたという事か。」
「ええ。そうよ。」
「それは――――。」

この目だ、と水銀燈は下唇を噛み締めた。
この、濁った目が現れると自分に余裕が無くなる。優がこの目をするのでは、と考えると余裕が消えうせる。
それはまるで鏡に映った自分の目を見るようで、ひどく気に入らない気持ちにさせられる。

「とりあえず、挨拶をしといたわ。優、貴方の人形を一つ使ったから。」
「ふむ。どの人形かは知らないが、まぁこの部屋にあるものなら好きに使うといい。」
「あら、貴方にはこの部屋に大切なものは無いのかしら? そんなことを言うと全部燃やしちゃうわよ。」
「かまわん。」

その瞬間、水銀燈はぞくりと体中に寒気が走るのを確かに感じた。
微笑んでいるように見える優の口元、しかしあれは微笑むと言うよりはニタリと悪巧みを思いついた人間特有の―――

「この部屋、いや、この世界の中で俺にとって大切なのはお前だけだ水銀燈。」

ぼふんっと音が聞こえそうなほど水銀燈は顔を真っ赤にすると、すぐ傍においてあったトランクの中へと飛び込んだ。
ジャンク、と蔑みの言葉と己の欠陥を嘲笑う視線しか感じた事の無い水銀燈は優のああいう『愛』の言葉に弱いのだ。
からかわれているだけだとか、嘘を言っているとか、否定的な考えが脳裏を占めるが、水銀燈は嬉しいようなこちょばいような感情を持て余し、
結局のところそれら全てを投げ捨てた。
つまりのところ、不貞寝である。

「ふむ。逃げていては解決しないぞ水銀燈。さぁ、でてきていちゃいちゃしようではないか。聞こえているか水銀燈!」

トランクの外でなにやら声が聞こえるが、水銀燈はそれを無視した。
トランクに閉じこもる等と自分らしくないと思いつつも、この関係が心地よいと感じるが故に――――。


あとがき
あけましておめでとうございます。
ということで、優、学校に行くの巻。というのが、今回のつけるとしたら題名になるでしょう。
次回からは本格的にアリスゲームに優と水銀燈が絡んでいきます…行くと思う……いけたらいいなぁ、ということでがんばります。

>空羽さん。
ほほぅ。貴方も水銀燈スキーの一人でしたか。
水銀燈のあの執念までの完璧への想い。それをこの作品で描き、良い方向へ持っていけたらなぁと思っています。
>幻覚キャベツさん。
残念でした。新婚生活もないまま、戦いに突入です。
まぁ、戦いの中で彼ら二人は新婚さながらの生活を繰り広げるでしょうがね。
>D,さん
ヤる気だったのです。優には相手が人形なんて関係ありません。
動いて、喋って、意思があれば、優にとってそれは人と同じなのですよ。きっと。
そうでないと、ただのやばい人に……。
>西環さん
あぁよかった。違和感はいまのところないようですね。
水銀燈は慌ててこそその真価が発揮されると信じています。
アニメでも、慌ててくれないかなぁ……。

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