???サイド
そこは、様々な可能性が最後に行き着く無限の廃虚。
そこは、全てのものが存在し、何一つない凍えた世界。
そこは、夢と現実の狭間にある無限に存在する可能性の墓場の一つ。
そこは、時空の隙間に開いた最後の楽園。
そんな不完全でありながら完全で、完璧でありながらいい加減で、絶対でありながら無数にある世界の片隅に四人の超越者たちがいた。
かつて朱い月を打倒した第二法の魔法使い『魔導元帥』キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
『表』の神々を統べる『神族の最高指導者』愛称キーやん。
『表』の魔族を統べる『魔族の最高指導者』愛称サッちゃん。
千の顔を持つ邪神『這い寄る混沌』愛称ナイア。
本来なら冗談でもありえてはならないメンバーが集うここは終焉という名の異常の前線。
世界を守護する最初で最後の砦にして、避けられぬ崩壊が組み込まれた生贄の場。
来るべき厄災であり集団でもある『彼の存在』をずらすためだけの世界という壮大な人柱。
それが、この消えゆく世界の定め。
円形のテーブルを取り囲むのは人知を遥かに超越した存在である四人。彼らは一様に真剣な表情を浮かべ、額には玉のような汗が滲みでている。死徒どころか並の幻想種ならばプレッシャーだけで灰になりかねないほどの重圧が辺りを満たしていた。
四人はそれぞれ数枚のカードを手に持ち、自身のそれも含めて正面に座る人物のカードへと忙しなく視線を走らせている。四人の囲むテーブルの中央に眼を移せば数十枚のカードが無造作に置かれており、そこから彼らが持つカードがトランプであることを知る事ができた。
ゴクリッと、誰かが息を呑む音が静寂に包み込まれた空間の中でやけに大きく響く。
それを合図としたのか、キーやんの瞳がカッと見開かれた。
「勝負です!!」
力強い咆哮と共にキーやんは手札から一枚のカードを選び、どこかのカードゲームアニメ並みの勢いでテーブルに叩きつけるようにして置く。
そのカードはハートのK。これだけなら普通のトランプで終わりなのだが、明らかに絵柄がおかしい。普通、Kのカードにはその名の通り剣を持った王の姿が描かれているはずだが、何故かそのKには文珠を両手に構えたシリアスモードの横島忠夫の姿が描かれていた。
「フ……あまい!!」
わずかな嘲笑の後、ナイアもまた叩きつけるように一枚のカードをテーブルに置く。
出されたカードはクローバーのQ。しかし、これにも本来とは異なる絵柄である神通鞭を構えた美神令子の姿が描かれていた。
口先を歪に裂きながら、ナイアは得意気に語りだす。
「知っての通り、忠夫くんは雇い主である令子ちゃんには逆らえない。何を考えて忠夫くんを出したのかは知らないけど……この勝負、僕の勝ちだ」
何だか理不尽な物言いだが、このゲームはそういうものなのだから仕方がない。
ルールは簡単。正面に向き合う者同士で事前に選んだ手札を用いて戦い、出されたカードに戦闘能力以外の要因で勝利できる者の勝ちという至極単純なものだ。
唯一普通と異なる点は、それが数多の平行世界の果てで本当に確定していなければならないというところか。
その点で言えば、横島忠夫に美神令子をぶつけるのは正しい判断といえよう。
しかし、そんな事はキーやんとて十分承知している。
「これが、勝利の鍵です!」
勝利を確信した笑みと共にキーやんはクローバーのQの上に一枚のカードを重ねる。
そのカードは……
「ハートのJ!?紅麗くんか!まさか、ここでそのカードを切ってくるとはね……」
このカードによってあっけなく美神が買収される。つまり、紅麗の勝ちだ。
ちなみに勝ったカードはそのまま捨て札となり、負けた場合は自分が出したカードの中から一枚選んで手札に戻す。それを繰り返し、最初に手札のカードを無くした者の勝ちというシンプルなものだ。
それ故に、あるいは始めに出すカードで勝敗が決まることもある。
「ふふふ。これで私のカードは後二枚。自慢じゃありませんが、今までで最強の組み合わせですよ?」
ルール上、最後の二枚は同時に出す事が許されている。つまり、組み合わせ次第では誰にも手を出す事が出来ない鉄壁の砦となることもあるのだ。
「君が残しているのはZと]か……確かにある意味じゃ最強の組み合わせだけど、良心は痛まないのかい?」
残っているカードを把握しているナイアは自分でさえ戸惑いかねない組み合わせに思わず尋ねてしまうが、
「勝つ事に意味があるんです!」
一切の迷い無くキーやんは一言で切り捨てた。
「……さすがは神族の最高指導者。言う事が違うね。でも……」
当然のように言い切るキーやんにナイアは共感と感心の念を覚えるが、四枚の手札から一枚のカードを抜き取ると凶悪な一面を曝け出す。
「邪神の策略には、後一歩だけ及ばなかったようだ」
ナイアはもったいぶるかのように指に挟んでいる一枚のカードをゆっくりとめくる。それは……
「ば、ばかな……そのカードは……」
「ダイヤのQ。変態の殲滅者、神凪綾乃。これによって変態は出された瞬間に強制的に手札に戻る。もちろん君のハートの]、竜くんもね。これで君の目論見だったメサイアちゃんとのコンボは不可能だよ」
ちなみにこれは特殊能力カードであり、普通に使用することは出来ないがある状況の中で抜群の効力を発揮する。他にも色々な効力を持つカードが存在するのだが、今は関係ないので流させてもらう。
「な、なぜあなたがそのカードを!?ま、まさか……宝石の翁!!」
ナイアが持っているはずの無いカードの登場にキーやんはテーブルに身を乗り出して慌て、続けて本来このカードを持っているはずの人物に殺気すら乗せて矛先を向ける。
「隣り合う者同士なら一枚だけカードの交換は可能……これで、ワシの勝ちだ」
最高神の殺意すら特に気にした様子は無く、淡々と語るゼルレッチは残った二枚のカードを静かに場に出す。出されたカードはクローバーのZ、アル・アジフとダイヤのK、大十字九郎。数ある組み合わせの中でも最強クラスの組み合わせだ。
「あちゃー。そら勝てんわ。これで十勝二十敗……調子でぇへんなー」
「さて、これでそっちの動きは封じた事だし、令子ちゃんを出して、これでフィニッシュだ」
安い微笑みを振り撒きながらナイアは手札に戻された美神のカードを切り、残り二枚のカードを置く。
クローバーのA、八神和麻とクローバーのW、高槻巌。最強でも最高でもないが、相性自体は悪くないのでキーやんの手札では手の出しようが無い。
「ま、また負けてしまいました……三十敗目……」
「あはは!神族の最高指導者ともあろうものが病み上がりの邪神に全敗してちゃ示しがつかないよ?」
おどけた風にナイアは笑うが、これには声を荒げてキーやんが喰いついた。
「黙りなさい!それと、病み上がりは自業自得ですよ」
「そうやな。アレはちっとやり方が強引すぎやで」
「アルクェイドの目前であの行動は迂闊すぎる」
それにサッちゃんとゼルレッチも交じり、三者三様にナイアを非難する。
「その件については謝っただろう?まさか、銀次くんがあそこまでやるとは思ってなかったんだ」
ナイアにしては珍しい事に心の底から反省の色を示す。示しながら、片手は右足をさすっていた。
「直撃を受けてれば、ちょっと不味かったかもね」
だが、それはいったいどういう事なのだろう。さすっている右足は蜃気楼のように実体と虚像の狭間で揺らいでいて、闇を色濃くのぞかせている。
あの時、銀次が『雷帝』に目覚めたすぐ後に天へと放たれた雷は別次元にいるはずのナイアを撃ち抜いたのだ。ナイアのポテンシャルを考えればかわせなくもなかったはずなのだが、まさか別次元にまで力が及ぶとは予想すらしていなかったのだろう。
結果、わずかに反応が鈍る事になり、直撃こそしなかったものの右足の膝から先を吹き飛ばされた。
もちろんナイアも失った右足を再生させようとしているのだが、『雷帝』の力のためか、うまく一定の形を保てないのだ。力の大部分を別のことに使っているためとはいえ邪神にこれほどの影響を与えるなどたいしたものである。
「さすがは虚像の城、無限城の申し子だ。単純な威力と神秘の質なら九郎くんの魔術兵装にすら匹敵してたよ」
「当然です。わざわざ無限城にパイプを繋げているんですから、あれぐらいやってもらわなければ逆に困りますよ。そんな事より、アレの状況はどうなっているんですか?」
「そんな事よりって、キミも酷いなぁ。まあ、あっちは鷲羽ちゃんも加わってくれたから作業は順調に進んでるよ。ただ……五体のうち一体の侵入は、もう始まっている。たぶん、数時間後にはあの世界に出現するんじゃないかな?」
予期していた事といえ、ちっとも嬉しくない報告に三人は一様に顔を顰めた。
「あちゃー……予定よりむちゃくちゃ早いやないか。どないんすんや?アレもまだ八割しか溜まってへんで?」
「どうもこうもあるまい。現状でアレの相手が出きるのは『水晶』だけだ。予定通り、ワシがアレの出現位置を南米にずらす。後は、『水晶』の本能にかけるとしよう」
言いながら席を立つゼルレッチ。こうして話している時間がおしいといわんばかりに宝石で出来た虹色に輝く短剣を素早く懐から取り出すと、音も無く虚空へと消えた。
「私たちも持ち場につきましょう」
「そやな。んじゃ、また後で」
続けてキーやんとサッちゃんの姿も消える。
一人この世界に取り残されたナイアはつまらなそうに散らばったカードを指一本動かす事無く纏め、色を無くした瞳で何も無い灰色の空を見上げた。
「こことは違う世界で星の記憶が生み出した『忘却の王』エンドレス……しかも、他の四体とは異なって限りなくオリジナルに近い能力を有している世界の破壊者……対するは僕たちが選んだ『破滅』のジョーカーにして最強の死徒二十七祖第五位、アルティメットワン、アリストテレス、タイプ・マアキュリー……か」
世界を渡り歩き、その二つの名の意味を知る者ならば何の冗談だと笑うだろう。
それほどに、それらは桁外れで馬鹿馬鹿しい。
だが、ナイアは言う――――
「世界の終焉を知らす狼煙としては、まあまあかな?」
――――どれほど馬鹿げた戦いであろうと、この程度はただの始まりに過ぎないのだと。
黄昏の式典 第十六話 〜自分らしく〜
闘技場サイド
雄々しく立ち並ぶ数十にも及ぶ石柱は夕焼けの淡い光を浴びて暗い影の道を作り出し、世界の表と裏を明確に際立たせる。時の流れの中で消えゆくはずの夕焼けは作り物であるために決してその場から離れようとせずに、世界の中間を色濃く示し続けている。
そんな動かない時の中でたった二つだけ、悠然と歩みを刻む影があった。
それは次の闘争者たち。この場にて武闘を奏でる選ばれし者達だ。
一人の名はピエトロ・ド・ブラドー。
吸血鬼でありながら生粋の聖職者という変わり者なバンパイア・ハーフ。
一人の名は浅葱ルミナ。
世界を満たす大気を自在に操る事ができる風の能力者。
この雄大な世界において唯一ともいうべき特異な存在である彼らの熱く燃える瞳に写るのはこれから戦い、倒すべき相手の姿。
決して退かず、決して乱れず、決して揺るがず。
二人は互いの距離を詰めていき、申し合わせたかのように同時に立ち止まった。
それは前の試合の再現か。美神とチェルシーがそうであったように、二人もまたテイルが雪之丞に敗北の味を舐めさせた大穴を挟んでいる。
「……なあ」
試合に向けて集中力を高めていたピートだったが、唐突に話しかけてきたルミナの声に意識を惹かれる。
「……なんですか?」
無視してもよかったはずなのだが、そこは人が良いピートだ。わずかな警戒を抱きながらも律儀に話に応じた。
「どうしてこの大会に参加してんだ?」
何の前触れも無い直球の問い掛けにほんの一瞬だけピートは返答に困ったが、別に隠すような事でもないと判断すると少しだけ恥ずかしさを覗かせて静かに語りだす。
「僕は……お世話になっている人のためです。その人は良い人過ぎて、困っている人がいたら自分の身を顧みずに行動してしまうんですよ。だから、僕は少しでもその人の負担を減らすためこの大会に参加しています」
言うまでもなく、ピートの言うお世話になっている人物というのは唐巣神父の事だ。以前のように食費にまで困る事は無いが、それでも生活が苦しい事に変わりはない。それに教会もだいぶ古いので所々ガタがきている。
そんな時に美神からこの大会の事に誘われたのだ。もちろんピートはそれに飛びついた。
誘われた際に美神がどんな結果になろうとも教会の修理費を出すという約束を提示したのも大きい。
ちなみにピート、雪之丞、横島は知らないことだが、実はあの時の契約書に書かれていた参加しただけで一億というのは全員に有効であり、美神はちゃっかり全員分を受け取っていたりする。
まあ、いかに金の亡者と謳われる美神であろうとそこら辺の良心ぐらいは意外に残っているので、後にこの三億を影ながら三人のために使う事になるのだがそれはまた別の話だ。
話を聞き終えたルミナは何故か頭を抱え、深いため息を吐き出した。
「……やっぱり、色々理由があんだなー」
「あなたはどうなんですか?なにか特別な理由が……」
「……無い」
「え?」
若干の沈黙の後、ようやく耳に届くくらいの小さな声で呟かれた予想外の返答にピートは試合前だという事も忘れて思わず目を丸くする。それを見たルミナは苦虫を噛み潰したような顔で不機嫌そうに声を荒げた。
「俺は金髪としっぽ頭に無理やり連れて来られたんだよ。理由を聞いてもはぐらかしやがるし、雷娘に聞いても知らねぇって言うし……あー!せっかくルリと一緒に過ごすチャンスだってーのにどーして俺はこんなわけわかんねーとこにいるんだーー!!」
ふざけんなと言いたげなルミナの嘆きの咆哮を途中から聞き流しながらピートは訝しげに眉を顰める。
ピートが知る限り、この大会の優勝賞金は百億。確かに膨大な金額だが、仲間にまでその事を隠す必要は無いだろう。第三者として見ていた限りでは仲間内の仲も悪くは無かったはずだ。
(どういうことだ?)
ここに来て、ピートもこの大会に疑問を感じ始めた。
なにせよくよく考えてみれば、ピートはこの島に着てからというもの大会関係者の口から一度も優勝賞金についての話どころか単語すら聞いた覚えが無い。
「あの……」
その事をルミナに言確認しようとピートは口を開きかけるが、
「副将戦!ピート選手VSルミナ選手!!始め!!」
まるでそれをさえぎるかのように、唐突に司会が始まりを告げた。
虚を突かれたためだろう。反応が遅れたピートは開きかけていた口を慌てて閉じ、今まで脳内を占めていた余計な思考を強引に中断すると硬い動きでルミナへと身構える。だが、ルミナは刀の柄に手を置いてこそいるが襲い掛かってくる事はなかった。
素人目で見ても致命的な隙であったはずだというのに仕掛けてこなかったのはなぜか?
聡明なピートは一つ一つの矛盾を大袈裟に捉えてしまい、自らの思考にとって雁字搦めに動きを封じられてしまった。だが、その束縛もすぐに解かれる事になる。他ならぬルミナの言葉によって。
「元々俺から話しかけたんだ。不意打ちなんてしねーよ。けど、やる以上は負ける気はねぇぜ」
最初、ピートはルミナの言葉を理解する事ができなかった。これだけの観衆の中でなおも相手を気遣うその余裕。その心。通常ではありえない。少々呆気に取られていたピートだったが、それがルミナから挑戦状だという事に気づくと一転して不適な笑みを浮かべた。
ならば、ここで返すべき言葉は決まっている。
「……僕もですよ。戦うからには絶対に勝ちます」
たった二言三言のやり取り。それだけで二人はなぜか確信することできた。たとえこの試合の結果がどうなろうと、目の前の相手が良い友人になれる事を。
そして、どのような結果になるにしろ簡単に倒せそうにない事を。
「いくぜぇ!!」
短い宣言に全ての気合を込め、風を纏いてルミナが動く。その動きを表現するならば疾風。これ以上の言葉は無いだろう。隔てる大穴など意にも介さず、空を飛ぶようにしてピートに斬りかかる。
「うおおおっ!!」
だが、ピートも黙ってやられてやるつもりなど微塵も無い。自らに喝を入れるかのような雄叫びを上げ、全身に霊気を纏いて力ある矢となると剣を迎え撃つために自らを放った。
序盤の定石である様子見を完全に無視した全力同士のぶつかり合い。
退く事無く、気負いする事無く突き進んだ二人は大穴の中心で正面から激突しあい、後方に勢い良く弾け飛んだ。
「ちぃ!!」
「くっ!!」
短い苦悶の声の後に二人は体勢を崩しながらも霊気を、風を、眼前の敵へと解き放つ。
光の矢と風の刃は主と同様に大穴の中央で衝突して競り合いを続ける。
だが、主たちと結末は異なり、ここに勝者が誕生する。勝利したのは、風の刃だった。
ピートの放った霊派砲はわずかな停滞の後に風の刃に切り裂かれて消滅したのだ。なおも突き進む風の刃は威力を衰えさせながらもピートを両断せんと襲い掛かる。
「この程度!」
だが、ピートは霊能力者としての第六感に任せて連続で霊派砲を放ち、目に見えぬはずの風の刃を迎撃した。しかし、抵抗もそれまでだ。風の刃はただの空気の塊として解き放たれ、空中にあるピートの身体を流していく。
「もらったぜ!」
それを好機と見たのか、何の障害もなく優々と地に足をつけたルミナは一息つく事も無く再び風に乗ってピートへと斬りかかった。
ピートの体勢は未だに崩れたままだ。ルミナがこれを好機だと思うのも無理は無い。
だが……そう思うこと自体が、すでにピートの策略に嵌っている証拠でもあった。
「てやあああああ!!」
気合の咆哮の下、ルミナは愛刀『新子烏丸』を上段から振り切る。タイミング、速度、力、全てが噛み合った一撃は一瞬の澱みすらなくピートの右肩から左腰を斬り裂いた。ルミナも命を奪うつもりは無いので両断する事だけは避けたが、それでも致命傷に近い重傷だ。
(……どういうことだ?)
だが、絶対の勝利を約束された状況だというのにルミナの表情は優れなかった。
刀は確かにピートを斬り裂いたはずだ。だというのに、手応えがまるでない。それどころか何も無い空中を薙いだような、そんな感覚なのだ。
ルミナが今まで感じた事のない奇妙な感覚に戸惑っている、その時だった。ピートの姿が、霧になって消えたのは。
「なっ!?」
いま目の前で起こった事態が信じられず、ルミナは目を見開いて驚愕する。
だが、それも一瞬のこと。背後で奇妙な風の流れを感じ取ったルミナは振り返りながら直感に任せてとっさに風の盾を張る。
「はああああっ!!」
力強く響いた裂帛の咆哮の後に訪れたのは霊派砲の雨。さすがにこの数の霊派砲を至近距離で防ぎきる事は出来ずにルミナは為す術もなく地面に勢い良く弾き飛ばされていった。
「まだまだっ!!」
だが、ピートは攻撃の手を緩めない。なおも上空から霊派砲をマシンガンの如く撃ち続ける。ピートは確信にも似た予感があった。この程度でやられてくれるほど、柔な人物がこの大会にいるはずが無いと。狙いを逸れた霊派砲は地を削り、周りの石柱すらも薙ぎ倒していく。
砲撃は一分ほど続いただろうか。唐突にピートの攻撃は止んだ。
「はぁはぁはぁ……」
体力と霊力を半分ほど使った容赦の無い攻撃。被弾していた箇所は激しい攻撃によって舞った砂塵によって隠されているが、原型を留めていない事だけはわかる。
(これなら……)
恐らく倒せたわけではないだろうが、これだけやれば相手も疲弊しているだろうと確信する。止めの追撃を加えようとピートが動こうとしたその時。不自然に砂塵が真一文字に切り裂かれた。
「っ!?」
ピートはその軌跡から慌てて退避するが、不意を突かれたため避けきれずに頬の皮を浅く切り裂かれる。
地上から不自然な暴風が轟き、砂塵が吹き飛ばされる。
風の轟く中心には当前のようにルミナが悠然と立っていた。身体中のいたるところに傷が目立つが、致命傷にはほど遠い掠り傷のようなものばかりだ。
ルミナは今の攻撃でボロ布と化したコートを脱ぎ捨て、上空にいるピートを睨む。
「いったいどーなってんだ?俺もいろんな能力を見てきたけどよ、身体を分解させる奴なんて始めてだぜ」
「……僕はバンパイア・ハーフです。身体を霧に変えるぐらい、わけないことですよ。しかし、どうやってあの攻撃を防ぎきったんですか?僕も念のために余力を残していたとはいえ、決して手加減はしてなかったはずなのに……」
「別に特別な事はしてねーよ。風を盾にしただけだ。数発は喰らっちまったけどな。その分は利子つけて返させてもらうぜ!」
戦意を増したのか、ルミナ自身が意図せずして口先がつりあげる。ピートはその様子を見て悔しげに表情を歪めていた。今のは手の内が知られていないからこそ最高の奇襲だった。それを完璧ではないにしろ余力すら残して防がれたのはかなり痛い。
「そんじゃー仕切り直しだ!」
言いながらルミナは抜き身になっていた刀を鞘に収め、居合いの構えを取る。
「浅葱流剣術『烈風』!!」
目で追う事すら困難な速さで抜き放たれた刀は暴風を纏って巨大な風刃を成した。今までとは正しくケタが違う風の刃を避けようとピートは慌てて身体を霧に変えようとするが、反応が遅れた分だけわずかに風の方が早い。
「ちぃ!!」
激しい舌打ちを鳴らしながらピートは身を捻って迫るそれをかわす。その際に服の一部を持っていかれたが、運良く怪我は無いようだ。しかし、安心したのも束の間。すぐ後ろでチンッという鉄が重なる音が響く。
慌てて振り返ると、そこにはいかにして回り込んだのか、再び居合いの構えを取ったルミナの姿があった。
「二発目!『烈風』!!」
さすがにこの距離で放たれた風の刃をかわしきる事は到底できず、直撃こそしなかったものの腹部を浅く掠る。
「がはっ……!!」
だが、これほどの規模、力となるとそれだけでも十分致命傷だ。喉に込み上げてきた少量の血を吐き出しながらピートは視界の端でルミナが刀を納めたのを見た。
(ま、まずい!?)
もしも次の一撃を受ければ間違いなく敗退する。そう直感したピートは傷の事など考えずに霧へと変わるとすぐさま地に降り立った。プライドからか膝こそついていないが、その出血量は人間ならば明らかにヤバイ。
額に脂汗が張り付くなか、ピートの眼前にルミナが降り立った。
「おい!無理すんなよ。その怪我じゃもう戦えねーだろ」
それは気遣いからの忠告だったのだろう。その証拠にルミナはピートの予想に反して三撃目を放つつもりはまったくなかった。
その心遣いには嬉しいものがあるが、ピートにも意地がある。
「僕は、バンパイア・ハーフだと言ったはずです。これぐらい……どーってことありません!」
強がりではなく、実際にこの程度ならまだ余裕がある。なにせかつては胸を剣で貫かれた事もあるのだ。それと比べればかすり傷のようなものだ。
しかし、この状態で勝てるかどうかと問われれば不可能といわざるを得ないだろう。
今の攻防でわかった事だが、ルミナの動きは魔装術を用いた雪之丞を上回っている。攻撃力で考えてもパピリオの霊派砲と同等クラスだ。いうなれば、対人戦闘のレベルが違う。ピートがルミナに勝っているものといえばスタミナ、回復力、身体能力、特殊能力と広い範囲で見たものでしかなく、絶望的なまでに決定力に欠けていた。
もっともピートが勝つ方法がないわけではない。ピートは奥の手をまだ隠している。それを使えば何とか互角にまでは持っていけるだろう。
ならばどうしてそれを使わないのか?
ピートの脳裏に試合前、密かに告げられた美神の言葉が蘇る。
「いい、ピート。バンパイア・ハーフっていうのは最初の選手紹介の時に知られてるからしょうがないとしても、だからこそアレを使うのは止めなさい。もし使ったらシエルさんはまだいいとして、殲滅者チーム……特にアンデルセン神父は間違いなくアンタを消しに来るはずよ。アンタの存在は教会の教義に反する。いいえ、教会の意義を根本から覆す可能性すらあるの。わかったわね?どんなに追い詰められても絶対に使うんじゃないわよ。その結果負けても、私は何も言わないから」
あの美神が、この賞金がかかった大会で負けてもいいとまで言ったのだ。それは確信しているからだろう。もし知られれば、ピートの命が無い事を。ピート自身それはシエルやアンデルセンの存在を知った時から抱いていた事だ。
だが、それでも……
雪之丞の戦いを見て、美神の戦いを見て、それだけでは無い。この大会で行われる戦いの数々を見ながらピートはずっと思っていた。
未知なる強敵である彼らと、尊敬する師の元で今まで学んだ事の全てをぶつけて戦いたいと。
だから、すでにピートに迷いは無かった。
隠す事でもない。これは自分の信念の一欠けら。どうしてそれを隠す必要などある?
「!?ダメよ、ピート!!止めなさい!!」
控えのベンチから試合の様子を見ていた美神はピートの雰囲気の変質に気づき、声を荒げる。
その声はピートの耳に届いていたが、すでに決めてしまったピートには意味の無いことだ。
(すみません、美神さん。けど、僕はどうしても……全力で戦いたい!!)
最後に心の中で美神に謝罪し、ピートは覚悟を決めた。
「そうかよ……続けるってんなら、容赦しないぜ!」
漲る戦意を感じ取ったからか、ルミナは宣言通り容赦の無い風の刃を再び放つ。それをあらかじめ予期していたピートは霧になってかわし、再び上空に姿を現した。
しかし、そう何度も同じ手に掛かるほどルミナはあまい相手ではない。すぐさま風の流れを読みピートの位置を確認すると数十発の霊派砲でも防ぎきれない規模の風をほとんど一瞬で集める。
だが、ピートの取った行動は今までのどれでも無かった。
ピートは胸の辺りまで片手を持ち上げ、十字を切りながら早口で聖句を唱える。
「主よ、精霊よ!我が敵をうちやぶる力を我にあたえたまえ!!願わくば悪を為す者に主の裁きを下したまえ……!!」
ピートの唱えるそれに会場にいる大多数の者たちは目を見開き、声を上げて驚愕する。なぜなら、ピートはありえないことを言っている。絶対に、ありえてはいけないことを言ってしまっているのだ。
それに構う事無く、ピートは力強い宣言と共に力を解放した。
「アーメン!!」
解き放たれた神聖なエネルギーはルミナを取り囲むようにして展開し、その力を発揮する。
「うおっ!?」
今までとは明らかに異なる力の発露に驚愕し、ルミナはとっさに集めていた風を防御に回した。
「ちょ、ちょっと待て!お前、バンパイアなんだろ!?それがどうして主とかなんとか言ってんだよ!?」
「確かに僕は邪悪な吸血鬼の血を引いています……だが、僕の心は主への愛と正義に溢れている!光か闇かを決めるのは血なんて曖昧なものじゃない。心なんだ!!正義の心があれば邪悪な力もまた光に変える事ができる!!僕はそれを教えられた!!」
様々な異能が入り混じるこの場で、一切の後悔をせずにピートは力強く自分という存在を宣言した。
月夜・黒猫・鷲羽ちゃん・スプリガン・デモンベインチームサイド
医務室での出会いから打ち解けた月夜・黒猫・鷲羽ちゃんチームは同じく打ち解けていたスプリガン・デモンベインチームを交えて一緒に第五試合を観戦していた。
そして現在。ピートが行った所業に対し、あっちの方面にある程度の知識を持っている者たちは一様に信じられないと言いたげに目を見開いて唖然としている。
「……ただのダンピールではないと思っておったが、あのような事を可能にするとはな……」
アルは厳しい視線で闘技場を駆け巡るピートの姿を追いかけ、千年の時を経た魔導書の威厳を以って静かに呟く。
「この目で見てもまだ信じられませんね。聖と魔……正反対の位置にある光と闇の力を同時に行使するなんて……」
その言葉を追うようにしてシエルも冷徹な瞳に若干の畏怖の念を込めてピートを睨んでいる。
他にもこの事態の重大性がわかる者たち、九郎、優、トレイン、アルクェイド、セフィリア、エルザまでもが唖然とした面持ちをしていた。
ちなみにピートの行ったアレがどういう風に凄いのかいまいちわからない他の面々は一様に首を傾げている。
「……なあ、どこがどう凄いんだい?動きはそれなりにマシになったけどさ、そこまで大した事ないじゃいか」
場の雰囲気に耐えられなくなったからか、魎呼がわからない組を担当して質問する。しかし、魎呼の言い分ももっともだ。確かにピートは周りが驚きを示してから動きがよくなった。いや、よりわかりやすく言うならば戦い方の範囲が広がり今までわずかにあったぎこちなさがなくなっている。
だが、けっきょくはそれだけだ。
こういうのも何だが、ピートの戦闘能力はこの大会の基準で言うならば下から数えた方が早いだろう。対してルミナは中堅かそれ以上。現状で互角の戦いを繰り広げられているのは、単にピートの戦い方がうまく、上空という絶対領域を保持しているからに他ならない。
とてもじゃないが、アルたちが驚く理由など見等もつかなかない。
「アレは、そんなに簡単な問題ではありません。いうなれば、今まであった世界のバランスを根本から覆す……その要因になりかねないのです」
その問いに答えたのは、意外にもセフィリアだった。セフィリアは『クライスト』の鞘を強く握り、暖かくも冷たい眼光の先に風の刃をかわしながら神聖な力を行使するピートの姿を写す。その様はまるで自身が戦う場合の戦闘シュミレーションをしているようでもある。
「そうね……シエルが目の前にあるカレーを食べないのと同じぐらいの異常よ」
無機質な表情のまま、アルクェイドは真顔で気の抜けた事を零す。しかし、それはシエルを知る者にとって効果抜群の説得力があった。
「そ、それは異常というか……」
「奇跡ですね……」
「……どうやら、あなた達とは一度じっくり話し合ったほうがいいみたいですね」
月夜チームはこれで理解したようだが、他の面々はわからない。精々シエルがカレー好きなのがわかっただけだ。
「ふむ……九郎が一晩で大金を所持する、ではわからぬか。どういったものか」
「……いえ、私は理解できました」
「というかそんなことありえるロボ?」
「は、ははは……いいよ。いいですよーだ。どうせ俺は生涯貧乏探偵ですけどあんな大それた事の引き合いに出すんじゃねぇ!!ってーか納得すんな!!」
「つまり、俺たちが信じられないのは結果じゃなくて過程なんだ。あいつは魔に属するバンパイアの血を引いているのに聖の力を使った。ってことは魔の力を制御しながら聖の力を制御してるってことだ。普通は正反対の位置にある力を同時に使おうとすれば反発しあって術者ごと消滅する……それをあいつは完全に制御してるんだよ」
あまりにも確信をついた発言に逆切れしている九郎を尻目に、人造人間であるエルザを除けば理解できた者の中でもっとも若い優ができるだけわかりやすいように説明した。
「それだけじゃありません。バンパイアの血を引くピートさんが主の力を行使できるということは他の魔に属する化け物もそれができる可能性があるということです。こんな事、もし公に知られれば世界を大きく揺るがす事態になりかねません」
不足した部分を補うかのようにシエルが優の説明にいくつか付け加える。
「……あの人は、どうなるんですか?」
沈黙していたイヴは嫌な予感に表情を曇らせながら、静かに問いかける。それに答えたのはトレインだった。
「……普通に考えればどっかの組織に殺される。だが……」
「ええ。この大会の裏を考慮すると生かされる可能性が高いと思います」
殺されるというところで身を硬くしたイヴだったが、その先にある意味のわからないシエルの言葉にえ?と短く声を零した。
「どういうことですか?」
「それに、この大会の裏とは?」
今まで話についていけずに沈黙していた天地と阿重霞だったが、大会の裏という単語に反応する。そもそも魎呼、鷲羽を含めた四人が大会に出場したのは何らかの者の指示のようなものからだ。気になるのも当然だろう。
「あなた方ももう気づいているはずです。この大会が異常だということが」
周りを見渡しながら、シエルは言う。
この大会は仕組まれていると。間違いなく裏があると。
そして……
「私たちは、何らかの目的のために集められたんです」
自分達には何らかの役割があるはずだと、シエルは確信を込めて言い切った。
闘技場サイド
観客の動揺など意に介さず、闘技場にて絶えず繰り広げられる副将戦は一進一退の展開を見せていた。先ほど挙げたようにピートの戦い方の幅が増え、臨機応変に対応できるようになったためだ。
しかし、状況としては未だにルミナが押しているのが現実だ。ルミナの一撃は迂闊に受ければピートといえどもそれだけで致命傷になりかねない。そのため、接近戦だけは絶対に許してはならなかった。
ピートは付かず離れずの距離に身を置き、中距離戦を続けている。
一方のルミナは得意の接近戦に持ち込みたいところだが、距離を詰めようにも飛び上がった瞬間の隙を突かれる事は間違いないので攻め入る事が出来ない。試合はジリ貧になりかけていた。
(クソッ!)
(このままじゃ……)
だが、時間が経つにつれ徐々に両者の顔に焦りが浮かんでくる。
ピートも、ルミナも、限界が近づいてきているのだ。ピートは体力と霊力が、ルミナは能力の使用限界が。本来ならピートの方がスタミナ等は人間であるルミナより上のはずなのだが、いかにバンパイアの血が流れていようと目に見えぬ風の刃が襲ってくる脅威に神経をすり減らし、その度に霊派砲で反撃をしていればすぐに底が見えてくる。
(このままじゃ負ける!こうなったら……)
(どうせ限界が近いんだ!だったら……)
二人は同時に覚悟を決める。そして、
((次で勝負を決める!!))
同時に決断した。
先に動いたのはルミナだ。抜き身の刀を鞘に収め、隙が出来るのを承知で眼を瞑り、静かに居合いの構えを取る。
ルミナの意思に呼応するかのように風が、大気が、流れを変える。今までとは桁違いの大気の鳴動にピートは畏怖の念を覚え、身体が震えるのがわかる。だが、これはピートにとってもチャンスだ。相手が全力の一撃で来るということは、裏を返せば決定的な隙が生まれるという事でもある。
ピートは震える身体を左腕で戒め、
「来い!!」
自然に向かって言い放った。
それを合図としたのか、集中という束縛によって封じられていたルミナの眼光がピートを鋭く射抜く。
「いっけーーーー!!」
渾身の咆哮の下。鞘走りの音すら消えてなくなるほどの速度を以って振り切られた刀の周囲に風が轟き、強大な刃となってピートへと疾った。その様は圧巻の一言であろう。隔てるもの全てを巻き込んで突き進む風の暴力は勢いを衰えるどころか刻一刻と勢力を増して奔り続ける。
この暴力を直接向けられているピートにしてみれば今すぐにでもこの場から離れたいのが心情だろう。だが、それはできない。勝利するための最後の一筋の光は、まだ完全に形を成していない。
(まだだ……もう少し……)
ピートが望むそれは刹那の判断。自らの直感のみを信頼した当てずっぽうというべき無謀。だが、この状況で他に頼れるものなどない。ピートは知っている。信じる事こそが、力になるという事を。
(いまだ!!)
微かに思考を過ぎった閃きに従い、ピートは身体を霧に変える。一瞬後。霧となった身体は暴風に飲み込まれた。
「……やった、か?」
風の余波が残るなか、ルミナは自然体でピートのいた上空を見上げポツリと呟く。捉えた感覚はあったが、絶対とは言い切れない。何よりも、未だに身体は戦闘態勢を保ったままだ。
まだ、何か来る――――
身に突き刺さる緊張感がそう告げている。
「…………」
ルミナは鞘を地面に抛ると、開いた左手でゆっくり刀の柄を握る。両手に握られた刀は胸の辺りで垂直に構えられ、眼は閉じられていた。
静寂が辺りを包むなか、一つの変化が訪れた。
散り散りになっていた霧が、ルミナの背後に集中しだす。
それに気づいていないのか、未だルミナに動く気配は無い。
霧は徐々に形を成し始め、物音一つなく無音でルミナの背後に顕現し始めた。
これこそがピートの狙い。最後の最後の大博打だ。それはとても単純な考えだ。子どもでもわかるだろう。
ピートの考えた最後の手段。
力で押し切られるならば、力を出す間も無く倒す。
(もらった!)
残る全ての力を両手に集め、ピートは無防備なルミナの背中に狙いを定めた。
実際、それはうまくいっていた。ルミナの最強の一撃を隠れ蓑にした完璧な奇襲。
そう……少なくとも、背後に回りこむまでは完璧だったのだ。
「なっ!?」
漏れた声は勝利の歓喜にあらず、驚愕のそれ。なぜならありえないことに、ピートとルミナの視線が交差した。
「これで終わりだぜ」
あくまでも静かに呟くのはルミナ。
それがピートの耳に届いたころには、すでにピートに意識はなかった。
「勝者!ルミナ選手!!」
大将戦 横島忠夫VSシエル・メサイア
GSチームサイド
医務室に運ばれていったピートと雪之丞(連行)を見送ると、場には重苦しい空気が流れ出す。
「不味いわね……」
そこに込められた意味は二つ。一つは一勝二敗で追い込まれた事。もう一つはピートが吸血鬼の能力と神聖な力を使えるのがバレたことだ。
この世界において教会がもっとも敵視している存在である吸血鬼。その中でも指折りの古き血脈の一つでもあり、現存する数少ないオリジナル・バンパイアの血を引いている者が主の力を行使するなど前代未聞だろう。
今までは宗教の浸透が薄い日本国内だったから良かったものの、こんな世界各国の大物が集まっていそうな所でそれをバラすのは自殺するのと同じようなものだ。
その事をピートは身を以って知っているはずなのだが、律儀な性格が災いした。見た目によらず燃えやすいのだ。
(帰ったらどうにかしないとね……)
現状でどうこうできる問題では無いので美神は最重要事項として脳内に登録すると次に現状の問題に思考を移す。チラッと横目で横島を見てみる。表面上では顔を真っ青にして騒いでいるが、内面では未だに沈んだままだ。
(こいつは……)
今までは横島の気持ちも考えて気づかない振りをしてきたが、この状況でこんな道化を見ていると徐々に苛立ちが先行してくる。何とか意識から外そうと努力するも距離が近いので嫌でも耳に入ってきてしまう。
美神は我慢して我慢して、遂に爆発した。
「いい加減にしなさい!!いつまでもウジウジしてんじゃないわよ!!」
どこからともなく神通棍を取り出すと美神は横島の顔面を躊躇無く殴りつける。
「ゴブっ!?い、いきなりなんスか!?っておわ!?」
いきなりの美神の蛮行に横島も当然抗議するが、美神はそんな事など気にも解さず横島の襟元を乱暴に掴むとそのまま横島を壁まで押しやった。
「あ……」
正面から美神と相対することになった横島は、言葉を失った。美神の瞳の奥にある真剣さの中に混じった怒りの色に思わず今までつけていた日常の横島忠夫の仮面を外してしまう。
「アンタが何を悩んでるのなんか知らない。喋りたくないんならそれでもいい。けどね、これだけは言っておくわ。今の横島クン、これぽっちも横島クンらしくないわよ」
「俺らしく、ない……?」
なぜか胸に痛いほど響く言葉に押され、横島は呆然とそれだけ呟く。
「そうよ。いつものアンタはね、馬鹿だから何も考えないで周りをどうでもいい事に巻き込むのよ。だけど今の横島クンは違う。無理して考えて、周りを遠ざけようとしてるわ。はっきりいって空元気だってバレバレなのよ。アンタがそんなんじゃ調子でないでしょうが」
あまりにも真っ直ぐに言ってくる美神の言葉に横島は眼を見開き、苦笑した。
「は、ははは……辛口、ですね」
「当たり前よ。回り道してちゃ伝わらないでしょ。特にアンタみたいなタイプはね」
擦れた声で呟いた中に本当の意思がこもっている事に気づき、美神は襟から手を離す。
「反論できないのが悔しいっスね……ありがとうございました」
横島は一度、美神に頭を下げた。そしてゆっくりと闘技場へと向き直ると確かな足取りで闘技場の中央に歩んで行く。
それを美神はたった一人で見送りながら、思わず愚痴を零す。
「ったく……いつまで経っても手間をかけさせるんだから。でも、どうにか吹っ切れたみたいね」
アンダーグラウンドチームサイド
「思っていたより手間取ったみたいだね、ルミナ」
戻ってきて開口一番に告げられた嫌味な一言にルミナは明確な苛立ちを表情に出すが、今は言い返す気力も無いのか、
「うるせーよ」
これだけ返しただけだ。これにはテイルの方が毒気を抜かれたらしく、面白くなさそうに鼻を鳴らすとそれっきり何も言う事は無かった。
「これで二勝一敗ね」
そこにチェルシーが中央スクリーンに映し出されている戦績を見ながら呟く。自分のところで黒星が付いているのは気に入らないが、どうせチーム戦だと割り切ると次の対戦相手の名前へと視線を向ける。
「横島忠夫、ね……」
必ず美神令子と一緒に名前が挙がる不可思議な人物。どういった能力を保有しているのか、戦闘方法はどうなのか、色々と謎が多い人物だが、一つだけわかっている事がある。
それは、アシュタロスを倒す際に重要なキーになっていたということだ。
「楽には、勝たせてくれないでしょうね」
誰に聞かせるわけでもなく小さく呟くと、その横島忠夫とこれから試合を行うシエルに視線を向ける。できる事ならアドバイスの一つでも送ってやりたいところだが、相手の詳細がわからない以上下手な助言は逆効果になりかねない。
「後は私が勝てば初戦突破か……一番手もいいけど、こういう場面で登場も悪くないよね」
シエルは楽しげに笑い、わずかな気負いもなく闘技場に足を踏み入れて行った。
闘技場サイド
横島は歩きながら美神の言葉を何度も何度も思い出す。
その度にあまりの理不尽さに苦笑いが漏れてくるが、それがまたあの人らしいと最終的には笑顔に変わる。
美神の言葉は無茶苦茶だと思う。何を悩んでいるのかも知らず、ただらしくないという理由であそこまで言うなど、普通はしない。
ただ、それが横島は嬉しかった。何を悩んでいるのかを知らずにあそこまで言ってくれた美神の言葉が、横島は何よりも嬉しかった。
そして、悩んでいた事がバカバカしく思えた。
悩む必要など元から無かったのだ。自分はあの時にいったいどうしてあの選択をしたのだ。
自分で後悔して、苦しんで、迷いに迷った末に決断したのだろう。
ならばどうして悩む必要がある。
たとえそれを他人にどう言われ様と、自分の思いを変える事は無い。
あの選択を横島は世界にいる誰よりも後悔している。だからこそ、横島だけは絶対にあの選択を間違いだと思ってはいけないのだ。
必要なのは後悔だけで十分過ぎる。間違いだと嘆く事も、悩む事も、そんな余分なものはいらない。
それは、アイツの命を懸けた決意に泥を塗る事になってしまうから。
演技などという紙のように薄いものではなく、心の底からアイツが好きでいてくれた自分らしくいる事が、自分に出来る最大の手向けなのだ。
だから、この場も自分らしく戦おう。
目の前にいるのは対戦相手となる少女。普段の思考で考えれば、取るべき戦闘方法は一つしか出てこない。
(俺らしい戦い方……それは!)
当たり前の決意を胸に秘め、横島は試合に備えてわずかに腰を落とした。
「大将戦!横島選手VSメサイア選手!!始め!!」
試合の開幕のベルを鳴らす司会の言葉に、シエルは躊躇無く後方に跳んだ。
普段なら真っ先に攻撃を仕掛けるはずのシエルが退いた理由は……横島のあの眼だ。絶対に揺らぐことの無い決意を練り固めたような、綺麗で何よりも強い輝きを放つ眼。アレを直視したとき、シエルは畏怖にも似た念を覚えた。あろう事か、見ず知らずの初対面の相手にシエルは気圧されたのだ。
それどころか、
(真っ向から戦ったら不味い!)
こんな強迫観念すら植え付けられていた。故に後退。わずか一跳びで五メートルもの距離を稼いだシエルは子どもとは思えないほどの戦闘者の顔を覗かせながら横島を見据え……ようとした。
(いない!?)
ほんの一瞬だけ目を離しただけ。それなのに、すでに横島の姿はそこに無かった。慌ててシエルは辺りに視線を走らせ、運良く見つけた。
だが、シエルは他ならぬ自身の眼を信じる事ができなかった。
シエルが横島から目を離したのは本当に一瞬のはずだ。そして、二人の距離は二十メートルほどはあった。いや、シエルが後方に跳んで稼いだ距離を含めれば二十五メートルはあっただろう。
ならばなぜ……
「三十六計逃げるにしかずーーーー!!」
横島の姿は豆粒のように小さくなっているのだ?
気がつけばゆうに百メートルは離れている。あれほどの足ならばオリンピックで金メダルを取るなど容易いことだ。
「え?え?あ……ちょ、ちょっと待てーーーー!!」
あまりにも見事な逃走に思わずシエルは追いかける事も忘れて唖然としながら見惚れてしまったが、現状を認識すると慌てて追いかけた。
だが、それは無駄であり無意味。
前を往くのは生粋の逃亡者。
敵に背を向け全力で逃げ去る者なり。
それがなぜ、たかだか小娘一人に捕まる事があろうか?
(は、速い!?)
シエルは一向に追いつく事が出来ない事実にただ驚愕していた。それどころか距離を詰める事すらできていない。速さのみで考えるならばシエルの方が横島より若干上だ。それなのにシエルが距離を詰められないのは、単純にうまいのだ。横島は意図してか、はたまた本能の成せる業か、周りの石柱や瓦礫を利用する事でつかず離れずの距離を保たせている。
「俺は風だ!風になるのだーーーー!!」
少々ハイになっているようだが、足は決して止まらない。というか主旨を見失っている気がするのは気のせいだろうか?
「このっ!!」
終わらない追いかけっこに苛立ったのか、はたまたこんな奴にわずかにでも畏怖の念を抱いた自分への情けなさからか。シエルは声に隠しようのない怒りを滲ませ、追いかけながら能力を開放する。
それはシエルの周りをバチバチと音を鳴らしながら駆け巡り、紫電となって顕現した。
最早言うまでも無いだろうが、シエルの能力は雷。
主たるシエルの怒りに呼応するようにして荒れ狂う雷はいくつもの雷の球を形作る。
「行けェ!迅雷裂破!!」
シエルの号砲の下。意思に従い雷の球は高速で虚空を駆け、背後から横島に襲い掛かる。
だが、次の瞬間シエルはありえないものを目撃する事になる。
「見える!俺にも敵が見えるぞ!!」
背中に眼があるのか。人間離れした、というか明らかに超越した動きで横島は巧みに電の球を避けまくる。その様は幼いいたいけな子どもが見ればトラウマになることうけあいだ。
ちなみにそれを見たシエルの感想はというと。
「に、兄ちゃん……いくらなんでも人として今の避け方はどうかと思うよ」
怒りも忘れて呆然とするほどである。
だから、シエルは見落としてしまった。横島の手から、一つの丸い玉がこぼれたのを。
その後も似たような攻防が飽きる事無く繰り返される。三十分は過ぎようかというのにシエルは未だに横島を捕まえられずにいた。もっとも横島の方も無傷というわけにはいかず服には焦げ後、身体の方にも軽い火傷が見える。
延々と繰り広げさせる逃走劇のなかで、不意にシエルの動きが止まった。それに気づいた横島も大袈裟すぎる用心をして百メートル近く距離をおいて立ち止まる。
正直、横島の内心はドキドキだ。
(こ、怖かったーー!最初の方はそうでも無かったけど、最後の方は殺意が脂のように乗りに乗りまくってたぞ!?やっぱ、女の子は怒らせたらあかんなー……まあ、でもこれで……)
身を縛っていた恐怖から開放されたことにホッと一息ついた所で、横島は違和感に気づいた。
(これは……ヤバイ!!)
普段の生活から磨き抜かれた野生動物顔負けの勘が告げる。ここにいるのはマズイ。すぐにこの場から退避しろと。
だが、それはほんのわずかに遅い行動だった。
偶然足に当たった小石が前に跳び、前方で粉々に弾け飛ぶ。
「いッ!?」
それを見ていた横島は慌てて一、二歩下がり、恐る恐るそこら辺に転がっているちょうどいいサイズの瓦礫を手に取ると前方に向けて投げてみる。結果は……さっきの小石と一緒だった。
弾け飛ぶ石に自分の姿を重ね、横島は生唾を飲み込む。
「『雷壁方陣』。雷の結界だよ。これで、もう逃げられないよね?」
背後から、クスクスという笑みとともにそんな言葉が聞こえてきた。恐る恐る振り返ると、
「ようやく捕まえたよ、おにーちゃん♪」
五十メートルほど離れた場所で物凄く可愛らしく微笑んでいるシエルがいた。
こことは別の場所で見たならばロリコン否定派の横島も胸がときめくものがあっただろう。
だが、現状でそんなことはありえない。
横島は誰よりも理解していた。あの笑顔は怒りが臨界点を超えたためだと。
そう……おキヌちゃんが時々怖くなるように。
そしてその笑顔の意味は、哀れな子羊ならぬ腹正しいゴキ○リを叩き潰せる事を喜んでいるのだと。
(殺される。殺される。きっと間違いなく殺される。他の誰にでもなく。他の何にでもなく。俺はあの子に殺される!?)
あの笑顔だけで横島は半ば死を覚悟した。
すでに脳裏には走馬灯のように美神にしばかれる日々が……
(はっ!?俺らしく=しばかれる!?)
最後の最後で嫌な方程式に気づいてしまった。
なんて現実逃避をしてる合間にもシエルは笑顔で近づいてくる。すでに二人の距離は三十メートルを切っていた。横島の耳にもバチバチという処刑執行音がはっきり聞こえている。
「あのー……つかぬことお伺いしますが……MEはKILLですか?」
「大丈夫!死ぬことはないよ……たぶん、ね」
一瞬だけ浮かんだ冷たい微笑を横島は見逃さなかった。
どうやら、この大会に参加しているだけの事はあり、年若いながらもいくつも死線をくぐってきたんだなーと思う。
両者とも若干キャラが変わっている気もするが、内面に秘めた人格が表面に現れてきたのだろう。特にシエルは。
一歩、また一歩。シエルは焦らす様にゆっくり近寄ってくる。その度に周りには電の球が浮かび、すでにその数は二十を超えていた。
「棄権するなら今のうちだよ?」
最後に残ったわずかな温情からか、シエルはあくまで笑顔を崩す事無く最終通告を下す。
だが、目は語っている。棄権をするなと。この鬱憤を少しでも晴らさせろと。
「ふっ……」
しかし、横島はその通告を鼻で笑い飛ばした。
「GSをあまく見るなよチビッ娘。こんな状況……俺が今まで切り抜けてきた死線に比べればたいした事無いぜ!そっちこそ、今のうちに棄権した方が身のためだぞ?」
追い詰められた状況の中で、横島はあくまでも余裕を演じて強がりを言う。
足がガクガク震えているのが全てを台無しにしているが……
「ふーん……なら、手加減する必要は無いよね?」
どうやら、ドでかい墓穴を掘ったようだ。
シエルは周りに浮かべていた全ての雷の球体を一つに纏め、さらに力を注ぎ込む。現れたのは、巨大で強大な高密度の電気の塊。触れた物をことごとく消滅させる破壊の具現だ。
「喰らえ!『雷振通天球』!!」
明らかに普段のシエルが出せる限界以上の力を誇る雷振球は隔てる石柱を軽々と薙ぎ倒しながら一直線に横島に迫る。避けようにも背後は『雷壁方陣』で封じられているため避けられない。側面に逃げようにも余波で吹き飛ばされたところに追撃の一撃を喰らうことは目に見えている。
「ど、どわああああああーーーー!?」
結果。動きを封じられた横島は為す術も無く雷振球の爆発に飲み込まれた。
半径十メートル内を跡形もなく吹き飛ばした雷振球の余波で周りの大気がバチバチと帯電するなか、シエルは大げさにため息を一つ吐いた。
「つまんないの……これなら最初の人とかの方が良かったよ」
すでに横島に対するシエルの評価は地に堕ちている。最初に怯まされたのも心のどこかに油断があったからだろうと決め付けた。何の感慨も無く一向に勝利宣言を行わない司会に文句を言おうと身体を動かそうとして、
「え?」
ようやく、身体がまったく動かない事に気がついた。
混乱する思考のなか、目の前の砂塵から何かが飛び出して来たことに気づく。慌てて意識を向けると、またもシエルは混乱した。
「なっ!?なんで……!?」
そこにいたのは、横島だった。しかも信じられない事だが、雷振球の直撃を受けたはずなのにほとんど無傷に近い。相次ぐ混乱のなかでそれでも反応できたのは今までの戦闘経験からだろう。シエルはほとんど無意識のうちに迫る横島へととっさに雷の矢を放つ。
だが、それを横島はかわそうともせずに右手に生み出した六角形の盾、サイキック・ソーサーで弾き飛ばす。
この時点で、すでにシエルには文字通り為す術が無かった。
眼前まで走り寄った横島は右手に持った何かをシエルの額に押し当てる。
それは、『眠』の文字が浮かぶ文珠だった。
「あ……」
『眠』はすぐさま効力を発揮させ、シエルを深い眠りへと誘う。それに抗う事など、出来るはずがない。
横島は効力が効いたのを確認すると深いため息を零しながら左手で発動させていたもう一つの文珠を消す。
「っと」
その途端、倒れ掛かったシエルの身体を慌てて支える。傍目から見れば危ない人にしか見えない。
「あ、危なかったー……マジで死ぬかと思った」
実を言うと横島は最初からこれを狙っていた。なにせ相手は子ども。しかも十年後が楽しみな美少女なのだ。基本的に子どもにはあまい横島にとってこれほど戦いにくい相手もそういない。
そこで横島はかつてメドーサに行った『専』と『糸』の文珠によるコンボを使用したのだ。
これは単体では意味を成さないが、相手を中心に置いて点とした時に効力を発揮して『縛』となる少々特殊な文珠使用法でもある。後は相手を怒らせて冷静な判断力を削る事が目的だったのだが……ここで唯一の誤算が生じた。
それは、シエルが怒りすぎたという事だ。
最後の一撃にしても『眠』のために用意していた文珠をとっさに『護』に変えて使用したから良かったものの、直撃を受けていれば横島でも全治一週間の大怪我を負うところだった。
そのシエルはいま、先ほどの鬼気迫る様子が嘘のように横島に支えられ、寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
(寝顔は可愛いもんだよな……)
あまりにも安らかな寝顔を上から覗き込み、横島は思わず頬が綻んでしまうが、はっ!と意識を覚醒させると首をぶんぶん振って叫んだ。
「ち、違う!俺はロリじゃないんやーーーー!!九郎さんとは違うんやーーーー!!」
これを聞いたどこぞの貧乏探偵が勢い良くずっこけたのも、その貧乏探偵に女性陣が凍てついた視線を向けたのも、眼帯をつけた紳士が隣に座っている少女を貧乏探偵から遠ざけたのも、みんな秘密である。
「勝者!横島選手!!二勝二敗の同成績により美神、横島選手VSテイル、ルミナ選手によるタッグ戦を行います!!」
南米サイド
『黄昏の式典』が行われる島から遠く離れたここでは、一つの動きがあった。
突然、静寂が包む森林を幻想的な虹色の輝きが包み込む。
これだけなら綺麗の一言で済むだろう。
だが、その輝きの中から、何かの巨大な手が出てきた。
まずは片腕から、次に頭を、胴体を、この世界に顕現させていく。
全てが顕現し終えた時、そこに世界を終焉に導く終わりなき者が声無き産声を上げた。
これこそが来るべき災厄たる『彼の存在』の先兵、『忘却の王』エンドレス。
予期された五体の超越者たちの中で唯一オリジナルに近い力を誇る歪んだ世界の修正者。
ゆっくりと手を振るう。ただそれだけで、数十キロメートルにも及ぶ森林は跡形もなく消し飛んだ。
歪んだ世界を滅ぼすために、エンドレスは破壊の限りを尽くす。
だが、このような無粋な行いは新たな破壊者を生み出す。
いや、それは違う。
生み出すのではなく、目覚めさせるのだ。
――――その声無き咆哮に、いわれなき破壊に惹かれるように――――
――――この世でもっとも美しい水晶の蜘蛛――――
――――最強の死徒二十七祖第五位――――
――――アリストテレスにしてアルティメットワン――――
――――星の化身たるタイプ・マアキュリー――――
――――『ORT』が、眼を覚ました――――
あとがき
どうもー黒夢です。
いつも『黄昏の式典』をご覧して下さっている皆様方、新年あけましておめでとうございます。
タイトルはこっちの方がいいだろうと思ったので勝手ながら変えさせていただきました。
今回は気づいた方もいるかもしれませんが、ようやく第一部も終盤に入ってきました。
本編でも最後に触れましたが、すでに世界での初戦は始まっています。
まあ、月姫世界最強との呼び声高いORT VS RAVE世界最強の存在エンドレス……普通に戦ったら間違いなく世界地図を一新しなければならないですね……
さて、そんな細かい事はさておき、今回の試合についてですが……やはり、ピートにも全力で戦ってもらいたかったので神聖な力を使ってもらいました。後の事は美神に任せます。あの方ならどうにかしてくれる事でしょう。結果についてはどう考えてもルミナの方が上だと判断しました。
やはり、主人公の力は偉大です。
大将戦は……ごめんなさい。対戦カードが決まった時点でこうする事を考えました。他の試合と比べるとダントツで思考時間が短いです。ちなみにあくまで私はですが、横島は自分のペースに相手を乗せて倒すのが通例だと思っています。
所々にネタを振り撒いてしまいましたが、たまにはこういうのもいいだろうと見逃してください。
というか横島……書けば書くほど相手をギャグの方向に持っていってしまう……なんて怖い子でしょう。
おまけ
相性表
ピート ― ルミナ ◎
これは最早言うべき事はありません。以前にお話したと思いますが、ルミナの大会中もっとも仲が良くなるのは優ですが、それと同じぐらい仲がいいです。
横島 ― シエル ○
限りなく◎に近い○です。なぜ◎にならないのかというと、今回の試合が原因です。まあ、基本的に横島は子どもや人外に好かれやすいのでよっぽどの事が無い限り○以上は確実です。シエルも持ち前の明るさでだいたいは○以上です。
裏設定 番外編
『彼の存在』……は今回の本編でかなり出したので現状で語れる事はありません。
というわけで要望があった現登場作品を挙げようと思います。
・GS美神 極楽大作戦!!
・東京アンダーグラウンド
・シャーマンキング
・BLACK CAT
・スプリガン
・風の聖痕
・烈火の炎
・機神咆哮デモンベイン
・Get Backers 〜奪還屋〜
・天地無用!魎皇鬼
・ヘルシング
・月姫or歌月十夜
・Fate/hollow ataraxia
・ARMS
・とある魔術の禁書目録
・ブギーポップ
・灼眼のシャナ
・魔法先生ネギま!
ちなみにこれは一度でも明確に主人公級のキャラが登場した場合に限ります。ARMSについては、高槻巌氏は私の中で永遠の主人公だからです。
次に本編内のコメントで参戦が確定されているのです。もっとも、ここまでいくとそれぞれに番外編を立てない限りあまり活躍しません。その分、印象に残すように試行錯誤を重ねますが。
・ヴァンパイア十字界
・武装錬金
・金色のガッシュ
・封神演義
・絶対可憐チルドレン
・カードキャプターさくら
等です。書き漏れがあるかも知れませんが、その際はご報告お願いします。他にもこれはさすがに無理だろう、こんなんだして収拾つくのか、と思われるようなのも出る予定です。
次回はタッグ戦になりますが、それだけでは短いので少しおまけも入れたいと思っています。
これは本編には欠片も関係ない本当にただのおまけですのでご注意ください。
わかりやすく言うと、私が以前第八話で書いた架空の横島VS衛宮みたいなものです。
なお、もし要望があれば言ってください。シリアス、バトル、ギャグ等何でも構いません。
それでは次回、黄昏の式典 第十八話 〜決意の証〜をよろしくお願いします。
ついでに皆様に質問を一つ。私の1話は長いでしょうか?ご意見よろしくお願いします。