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▽レス始

「運命と宿命 第五話(GS+Fate)」

九十九 (2005-12-23 04:44/2005-12-23 06:04)
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二月二日

朝食の時に、横島の一流の丁稚さが、またも発揮された。

医食同源を基本とした料理は、味の方は、私が作ったのに比べれば劣るが、十分に美味しく、なにより魔力回復に効果があった。

なんでも、医食同源は仙術と陰陽術を習う過程で覚えたらしく、食事にしても、いつも師匠に作ってもらうのも悪いので、料理については横島には珍しく自発的に取り組んだらしい。しかし、プロの魔法料理人と比べればまだまだで、修行が足らないそうだ。

朝食後の紅茶を飲みながら、今後の方針をきっぱりと口にした。

「横島、私はマスターになったからって、自分の生活を変えるつもりはないわ」

「つうことは、学校に行くってことっすか?」

向かいの席に座っている、横島が紅茶を飲みながら返答する。

「そういうこと。何か問題ある?横島」

「そりゃ、問題は沢山ありますけど、何か言ったところで、変えるつもりは無いんでしょう」

「判ってるじゃない」

横島はどこか諦めた様な表情で言ってくる。

なんていうか、やっぱりねとか聞こえてきそうな感じだ。横島は信用は出来ないが、信頼は出来るタイプだ。

セクハラについても、ぎりぎり許せるラインでやってくるし、自己を縛る令呪をわざわざ作ったのは、私に対する忠誠の証でもあるだろう。

「凛さん、一つだけ言いっすか。学校に行くってことは、一般人を危険に曝す可能性が出てきます。凛さんは、その覚悟がありますか」

横島が、真摯な眼で聞いてくる。どこか、期待している様な眼だ。

「ある。私は魔術師になると決めた時から、その覚悟は出来ているわ」

「さすがっすね。本当に、そういうとこ憧れますよ」

横島はどこか遠くを見るような眼で見てくる。自分には出来ないことを、渇仰するような、そんな感じ。

「横島、行くわよ!」

ティーカップを荒く置き、横島に号令を掛ける。

横島は、どうして、あんなに真直ぐ人を賞賛するのか。今の私は、呆れるくらい赤面している。

本当に。私は、不意打ちに弱いと、改めて思い知らされてしまった。

「Schliesung Verfahren,Drei」

施錠の魔術を掛け、家を出る。隣にはサーヴァントの横島が控えている。

今の横島は、仙術と符を使い、限りなく見えにくい存在になっている。その上、気配遮断も行ってるから、ラインが繋がっている私ですら、横島の存在が希薄に感じられる程だ。

だが、この状態だと、能力が制限される為に、戦闘等を行う時は、解除を余儀なくされるらしい。

それにしても、危なかった。家を出る前に、横島が言ってくれなかったら、どうなってたことか。

私は、遠坂家遺伝のうっかりをしてしまい、横島をどうやって、学園内に侵入させるかを考えていなかった。

そのくせ、普通に横島と一緒に、学園に登校しようとするとは、いやはや危ない所だった。

学園一の優等生である遠坂凛が、学生でもない男と一緒に登校したという事だけで、ちょっとしたニュースになりかねない。

それにしても、他のマスターもこういうとこで、苦労してるのだろうか。


「横島。これ、もう結界張られてない?」

「そうっすね、完全では無いようですけど。下手したら、既に準備は終わってる可能性があるっすね。それで、凛さんはどうするんすか?」

「横島、判ってて、聞いてるでしょ」

「そうっすね、躊躇い無くぶっ飛ばすってところっすか」

「正解よ」

学校に到着すると、既に異変が起きていた。空気は淀み、学校は異界一歩手前といった有様である。

しかし、なんとも下手くそな結界の張り方といえる。これが、宣戦布告のつもりなのかは追々解るだろう。

その時は、人様のテリトリーを侵害した罪を、しっかり払ってもらうことにしよう。

「それじゃ、凛さん、放課後に合流しましょう」

「ちょっと、どこ行くの?」

「結界の基点探しっす。それで、出来ることなら解除までもっていくつもりっすけど」

「さすがは、陰陽師ね。頼むんだわ。それじゃ、放課後、私の教室で」

「了解っす。さて、美人な子いるかなあ」

去り際に不穏な言葉があったが、これは、放課後に問い詰めることにしよう。


さてと、まずは真面目に結界の基点でも探しますかね。屋上に起点が在るはずだから、そこを視てから、順々に調べていくか。

俺は屋上に上がり、学園に仕掛けられた結界の種類を調べた。

「やっぱりか、こんな悪趣味なモン仕掛るんじゃねーよ」

この学園に漂っている空気等から、大体見当は付けていたが、実際眼にすると結構へこむ。

魂食いの結界。平安時代とかなら、まだわからんでもないが、現代において、これほどの結界を脹れる奴はそうは居らん筈だ。

まあ、魔術とかに関してなら、この世界の方が優れているみたいだから、なんとも言えんが。

しかし、凛ちゃんみたいな人がマスターで良かった。

この世界の魔術師と呼ばれる奴らは、凄く自分本位らしく、知識欲の権化みたいな連中も居るそうだからな。

そういう、マッドな科学者みたいな奴は下手したら、この結界みても、知らんぷりしかねん。

そんな奴とは、絶対に反りが合わないだろうからな。つうか、知識欲盛んな科学者は好きじゃない、むしろ嫌いだ。人権という言葉を知らんからな、あいつらは。

その点、凛ちゃんは根は優しいからな、間違いなく、この結界を壊すことに賛同してくれるだろう。美人だし、魔術師としても優秀だし、実に良いマスターに巡り合えたもんだ。

けど…。本当に凛ちゃんは、凄いよな。

俺は、人を巻き込むのが怖かった。だから学校を辞め、美神さんとこを辞め、妙神山に住み込むことにした。でも、結局それは逃げてるのと変わらない。修行する必要は絶対に有った。けれど、辞める必要は無かったんだ。俺はただ怖かっただけだ。自分のせいで誰かが死ぬのが、その覚悟がなかったんだ。

凛ちゃんは、その覚悟を持っている。俺に、出来なかったことを平然とこなす様は、本当に凄く憬れる。

けれど、もし一般人に被害が出たら、凛ちゃんは悲しむんだろうな。きっと。

やっぱ、そんな顔みたくねえよな。

よっしゃ、そうと決まれば、ぱっぱと基点を探して、この結界を無力化させるよう準備しますか。

で、基点探しも終わり、結界を退去させるための札も作りました。放課後まで、時間も十分あります。

さあ、いよいよ、美人探しの旅が始まります。

お、早速美人レーダーに反応がありました。目の前には、ちょっと青みがかった黒髪を持った女の子が見えます。

俺のレーダーによるとあの娘だな。俺はさらに気配を隠すと、すうーと彼女に近づいていく。

む、少しこの娘から魔力を感じるぞ、つうことは、この娘が凛ちゃんが言ってた間桐の魔術師だな。

しかし、いい体してますねぇ。

最近は、凛ちゃんの大人しい胸しか見てなかったから、眼福ですなあ。実に。

だが、彼女の体をよく視た事で、そんな考えは、吹き飛んでしまった。冗談じゃねえぞ。女の子の体をなんだと思ってんだ。

これが、間桐の魔術師のやり方かよ。

蟲。彼女の体には虫が巣くっていた。俺だって、呪術が盛んだった平安時代の術の記憶を持っている。その記憶の中には、蟲使いのコトだって入っていた。己が体を巣にして、共に生き、共に死ぬ。一心同体で共存する、それが基本的な蟲使いの在り方だ。

けど、彼女の体にいるのは、そんな虫じゃないだろう。

彼女の魔力を糧にして、ただ生きるだけの寄生虫。それが彼女の体内に居る蟲だ。

間桐ちゃんには悪いけど、視せてもらうぞ。最低限の魔力を出し、文珠『視』を使用する。

別に使わなくても、集中すれば視えるが、俺の一片の見落としで、間桐ちゃんに迷惑かけたくないからな。

あー、本気でやばい。

文珠を使ったことにより、ばっちり解っちまった。彼女に寄生している虫がどんな奴か。

文珠を使い、心臓に巣くってる奴を視た事で、沸点まじかだった、俺の感情は暴発しそうだ。おかげで、隠形の法が解けかけている。

殺気を出したら、完全にではないが、解けちまうからな、俺レベルの隠形の法は。

とりあえず、今は離れよう。

じゃねえと、直ぐにでも、心臓をに居る奴を握り潰したくなっちまうからな。


「ふぅー」

深呼吸して、気を落ち着ける。

今は屋上に居る。間桐ちゃんの体を視て、切れそうだったので退避してきたのだ。

殺気だった体を落ち着け、間桐ちゃんのことについて考える。

彼女は、蟲使いではないのだろう。それは、体内に居る虫のことから考えても明らかだ。俺の眼には、はっきりと視えた。虫が、魔力を暴食しているのを。

蟲使いの中には、魔力を食料として虫にやっている奴もいる。けど、あんなにも無節操に魔力を食う虫は居ない。その行為は、サポートする役割の虫が、主人を食い潰そうとしている様なものだ。それは、蟲使いとしては、本末転倒だろう。

しかし、どういうことなんだ。

凛ちゃんは間桐の家系はもう駄目だ、と言っていたが、彼女は、凛ちゃん並に魔力を持っている。魔術師としては、一級品だと思うんだけど、何か理由があるんだろうか。

この問題は、家に戻った時にでもさりげなく聞いておこう。彼女は間桐家の娘だから、遠坂の当主である凛ちゃんでは、手出しは難しいだろう。

それに、優しいといっても、凛ちゃんは魔術師だ。きっと、間桐ちゃんの体の事を言っても、怒りはするかもしれないが、行動はしないだろうな。

はあ、凛ちゃんに変に気遣ってもらうのも悪いし、俺一人でやるしかないか。

けど、彼女の一番の問題は、心臓に取り付いている奴だな。全く、平安時代でもしないような、悪趣味なことしてんじゃねえよ。

自分の体を虫に変え、人の体に寄生するなんて。

人の急所に取り付き、さらに神経深く食い込むようにしていたし、何よりも他の虫とは違い、そいつの持つ雰囲気は、生存本能だけではなく、きっちり人間味を帯びていた。このことから、ほぼ間違いなく、人間だろう。

しかし、危なかった。文珠を使わなければ、そこまでは判らずに、使い魔か何かと勘違いしていたかもしれん。

もし気付いていなかったら、最後の最後で、絶体絶命に陥る所だった。

なんたって、使役しとる奴を倒して、安心したところに、復活アーンド人質なんて展開になる可能性だってあったんだしな。

全く、デミアンみたいな奴だな。

まあ、厄介さにおいては、今回のほうがずっと上だけど。

心臓に巣くっている奴は、おそらく間桐臓硯だろう。もう一人の間桐である慎二については、凛ちゃんも言っていた通り、魔術回路もなく、一般人の雰囲気しか持っていなかったからな。部外者が、これだけの事をやるのは信じられないし、ほぼ間違いなく、相手は臓硯で決まりだな。

待ってろよ、外道。あんな可愛い孫にしでかした罪は、きっちり払ってもらうからな。


うーむ、いかん。考えに熱中しっとたら、もう刻限まじかになってしまった。

いや、まあ仕方ないんだけどな。流石に手を抜いて考える訳にもいかんし。

しかし、これはこれ、それはそれ、ということで、自分でもアホだと思うが、今からでも遅くない。美人探しの旅を続けよう。

時間が無いために、俺の美人レーダーによる直感を信じるしかない。

教室が、立ち並ぶ廊下を走りぬけ、ピーンと来た所で立ち止まる。既に放課後になり、人が少ないのがメッチャ悲しいぞ。

ピーン。ここか、クラスの標識をみると2‐Aとある。凛ちゃんのクラスじゃないか。ざぁーと見て、美人を探す。

茶色の髪の女の子が目に入る。勝気な目が印象的だ。ふむ、胸当てをはめ、胴着を着ているということは弓道部か。

部活中なのに教室にいるということは、なにか、忘れ物でもしたんだろう。

出来れば、名前が知りたい所だが、

「美綴。悪いが、これを藤村先生に渡しといてくれないか」

ナイスタイミング、先生。そうか、美綴ちゃんていうのか。

ていうか、この教師、只者じゃねーぞ。気配が薄く、あの正中線から全く外れないしっかりとした歩き、一体何者だよ。

やばい、時間が迫っている。せめて、もう一学年だけでも見ておきたい。俺は、ダッシュでその場を後にした。

しばらく走っていると、数人の女生徒を引き連れている、嫌味な男が目に入った。間桐慎二である。

近づいて話を聞いてみると、慎二が、男子生徒に弓道場の掃除を押し付けているようだ。そして、衛宮と呼ばれた男子生徒は、人の良いことに了承したみたいだ。

うーむ、びっくり。衛宮って魔術師じゃん。

さっきまでは、気付かなかったが、衛宮は本当に僅かながら、魔力を発しているようだ。

集中して視てみると、きっちり魔術回路がある。このことについては、凛ちゃんに報告しよう。

後、何故かは判らないが、衛宮は敵だと、俺の直感が告げている。俺の敵というか、男の敵な感じがするが。いや、根拠は全く無いんだけどな。ほんと、なんでだろうか。

やり取りを聞いていたせいで、時間になってしまった様だ。俺はやりきれない気持ちで、凛ちゃんの教室に足を向けた。

凛ちゃんは、窓際で夕日を見ていた。その姿は、どきりとする程に綺麗で、とても話しかけられる雰囲気では無かった。

この状況は、夕日を眺めている俺には、話しかけ辛いといっていた皆と、きっと同じ状況なんだろう。

俺も凛ちゃんと同じ様に、夕日を通して、郷愁の念に浸ることにした。


放課後になり、教室に居るのは、私一人のなった。

横島には、人が居なくなった位に来てくれと言ってある。もうそろそろ、来てもいい筈だ。

黄昏時になり、夕日に教室が染め上げられ、教室が朱に染まる。この情景は、どこか哀愁を誘う雰囲気がある。そんな空間に、私もつられてしまった様だ。

窓際に行き、真っ赤な夕日を眺める。

その光景は、四年前のあの日を思い出す。夕日と同じ赤銅色の髪を持った男の子。そして、私のトラウマになった男の子。

「ふぅ」

随分と長い間、夕日を見ていたようだ。既に夕日は沈み、教室は静寂に包まれている。

「横島、遅いわね。何かあったのかしら?」

呟いて、横島に渡された札を取り出す。

その札のうちの、連絡用の札を手に取る。この札は、対となる札を持つ相手に一言分の念を送る効果がある。しかし、効用範囲は、この学園一帯を覆うくらいで、それほど広くはない。

札に念を込めようとした、その瞬間に、ここ最近よく感じる悪寒が走る。それと同時に振り返り、左腕を対象に向ける。

「横島さん、どういうつもりかしら?」

対象は、冷や汗をだらだらと、目に見えるほどに掻き、必死に弁解してくる。

「お待たせしたせいで、体が冷えているだろうから、暖めようにと思ってですね。はい、決して疚しい気持ちから抱きつこうした訳ではないっすよ」

「お気遣い結構です」

簡潔に答え、弾丸を発射する。

「それで、何で遅れたの?」

「ちょっと、思い出に浸ってました」

横島が頬を掻きながら、照れたように答える。

「また、夕日でも眺めてたんでしょ」

「うっ、凛さんも眺めてたんすから、お会いこっつうことで、どうすか?」

「横島、あんた教室に来てたの?」

「それが、どうかしたんすか?」

「だったら、なんで直ぐに声をかけてくれなかったのかしら?ねえ、横島さん」

横島は、頭をわしゃわしゃと掻き、ばつ悪そうな表情をして、返答してきた。

「なんつーか、あの時の凛さんには、話掛けづらかったんすよ」

うっ、そうか、あの時に横島は来たのか。確かに、あんな風にされてたら、声掛けづらいわよね。

「えっと、結界の基点は見つけたの?」

私もばつ悪くなったので、急激な話題転換を図る。横島も、これ幸いと思ったのか、何も言わずに乗ってきてくれた。

「ええ、大体の目星はつけました。それで、今から凛さんと一緒に回って行こうと思ってるんすけど」

「やるじゃない。それじゃ、早速案内してくれる」

横島と一緒に、校内を回りながら、今日の成果を聞いていく。

実際、横島は校庭に居る時点で、結界の起点が屋上にあることに気づいていたらしい。

横島の眼は、はっきりいって異常だ。

その土地に残った念を視たり、離れた位置から、結界の起点を把握する等、一級の魔術師でも、そう出来ないことを、あっさりやってのける。

その上,魔術師の魔術回路も回路として視ることが出来る。実際に、私の魔術回路数を言い当てたことから本当なのだろう。

集中しているときの、横島の眼はうっすらとだが蒼に染まる。故に浄眼と呼ぶべきだろうか。

しかし、霊視を特化させたモノらしいから、霊眼のほうが正しいのだろうか?……霊眼のほうがいいわね、なんとなくだけど。

「ところで、横島。美人な子いた?」

私は、さり気無く、何でもないように言う。

「ええ、いましたよ。一年生では、間桐ちゃんが。二年生は凛さんを除けば、美綴ちゃんとか。……凛さん、急に寒くなってきたんすけど」

横島の危機感知能力は、ある意味欠陥品ね。だって、自分から危険の中に飛び込んでくるんですもの。

「横島さん。貴方は、何をしていたのかしら?」

「そりゃあもう、マスターの為に、えっさかほいさか結界の基点探ししてましたよ…。唯、男の性と申しましょうか、これは仕方のないことなんすよ」

「そう、それなら、朝に聞こえた、美人な子いるかなあとの発言はなんだっ
たんですかね、横島さん」

「げっ。………なんだったんすかねえ?」

状況証拠も言質もとれたわね。それじゃ、懺悔の時間よ。

「がっ!ぶっ!!へぶぅ……」

寸頸の三連撃を喰らった横島は、地面に蹲って悶絶している。

「横島、夜はシリアスな時間よ。OK。」

「Yes、ma'am」

横島は言うと、すっくと立ち上がり、居直る。

何ていうか、本気で撃ったのに、こうもピンシャンしている姿を見ると自信が無くなってしまいそうだ。

「凛さん。そう云えば、魔術師、凛さんと、間桐ちゃん意外にもう一人居ましたよ」

思考が停止する。………冗談でしょ。

「横島。それ、本当?」

「勿論、名前は衛宮。魔術回路の数は二十七本。内、稼動しているのが一本で、後は錆びついているというか、多分、巧く使えない状態っすね。後、凛さんとは違う、妙な回路してたっす」

今度こそ思考が停止した。

「ねえ、横島。今、衛宮って言った?」

「言ったっすけど。もしかして、知り合いなんすか?」

本当に、嘘や冗談の類ではないようだ。

あの夕日のなか。跳べないと判っているのに、挑み続けたあの姿が、またも私の脳裏を掠める。

「凛さん、あの男に何かあるんすか?」

横島が気遣う様に聞いてくる。随分と、私は驚いていたみたいね。

「ん。まあちょっとね。それよりも、妙な回路って?」

思考を切り替えて、直ぐに質問を返す。

横島は、何か聞きたそうだったが、きっちりと答えを返してくれた。

「ええ、なんていうか、魔術回路が肉体の神経と半ば同化してるんすよね」

「へえ、一回調べてみたいわね。でも何で私は気づかなかったのかしら?」

「さっきも言いましたけど、回路が一本しか使われてないっぽいんすよね。だからじゃないですか」

成る程。一本位では、魔力は然程でないからね。でも、二十七本もあるのに、何で一本しか使わないのかしら?

彼は、正規の魔術師ではないのかしら。普段、便利屋としての彼を見る限り、魔術師とはかけ離れた生き方だし。

「で、やってきました。弓道場!」

「って、行き成りどうしたのよ」

ていうか、弓道場?。さっきまで、グラウンドに居た筈なのに。あー、またしても自分の世界に突入してたっぽい。

「そりゃー、ここに衛宮がいるからっすよ。と言う訳で、聖杯戦争を知っているかどうか確認してきて欲しいんすけど」

「判ったわ。それじゃ、横島は万が一の為に着いて来てちょうだい」

横島の返答を背に聞きながら、弓道場の中に入る。

衛宮君は、道場を掃除しているようだ。どうせ、誰かに頼まれたのだろう。本当に人が良いというか、間違いなく、魔術師向きじゃない。

私の存在に気づいたのか、掃除を止め、驚いた声で言ってくる。

「遠坂、どうしたんだ、こんな時間に」

彼が、余りにも驚いた顔をしているので、思わず、からかいたく為ってしまった。

「衛宮君に会いに来た、と言ったらどうしますか?」

彼は、顔を赤面させて、口をパクパクさせている。おもしろい。ここまで、からかい概のある奴はそうは居まい。

もっと、からかいたい所だが、下手に長居をする訳にもいかない。

「冗談ですよ。それより衛宮君、聖杯戦争って知ってますか?」

変な小細工をせずに、直球で勝負する。

さっきから考えていたが、もしかしたら、彼は自分が、魔術師であることを解っていないのではないだろうか。

それなら、魔術回路を一本しか使ってないのだって、説明がつく。だって、その存在自体、知らないのだから。

衛宮君は、ほっとした表情をすると、直ぐに怪訝な顔になり、

「なんだそりゃ。どっかで、また戦争でも起きるのか」

彼は、満足のいく答えを返してくれた。

「いえ、なんでもありません。それより、早く帰ったほうが、良いんではないですか」

「む、それは俺のセリフだ。遠坂こそ早く帰った方がいいだろ。もう外は暗いんだし」

「それなら、一緒に帰ってくれますか。やっぱり、女一人だと何かと物騒ですから」

「えっ」

彼は、予想通り顔を真っ赤にして、返答に窮している。いや、本当にからかい慨がある。

「すみません、困らせてしまったみたいですね。私は帰りますが、掃除、頑張って下さいね」

「えっと、遠坂がいいって言うんなら、送るぞ」

「気持ちだけ受けとっときますね。それじゃあ、さようなら」

「冗談だったのか。それじゃ、気をつけて帰れよ」

そうして、衛宮士郎は聖杯戦争関係者でないことが証明された。

それにしても、おもしろかったわ。そう言えば、一成とは親友だったわよね、今度二人が一緒に居るときにでも、からかってみよう。

衛宮君の嫌疑が晴れたので、再度、結界の基点の案内を受ける。

その際、横島が、ぶつぶつと、衛宮君について文句を言っていた。あいつは、男の敵じゃーとか言い、さらに、剣呑な光を眼に宿して、あいつは、女性の敵っすよ、と私に忠告してきた。横島は、衛宮君を見た瞬間、変に直感したらしい、こいつは俺の敵だと。

そして、さっきの会話で確信したらしく、今の内に殺しましょうと、やばい発言を繰り返している。というか、世間的に見ても、百%横島の方が女性の敵だろう。

そんな馬鹿なやり取りをしつつも、横島は、しっかりと基点を案内するという、変な器用さを発揮して、最後の締めにと屋上に移動した。

「さて、凛さん。どうしますか?」

屋上の呪刻を調べて、この結界がどういうモノか解った。実は、薄々気づいてはいた。これが、どんなモノなのかは。

これは、魂食いの結界。

結界内の人間の体を溶解して、そこから出る魂を搾り取る、血の要塞。

「どうするも、こうするもないわ。決まっているでしょう、消すわ!」

「わかりました。それじゃ、早速消しましょうか」

横島は、嬉しそうな声を出し、札と文珠を取り出す。

私では、完全には消せないが、横島は、複数の文珠と札を併用すれば可能なんだろう。

ここに来る途中、横島は基点の上に札を貼り付けていた。おそらく、横島は初めから判っていたのだろう。この結界の効果、そして、それを知った私がどうするかまで。全く、私の希望通りの展開なのに、何処か釈然としないわね。

準備が終わったんだろう、横島は立ち上がり、呪を唱え始める。

我が名は横島忠夫…

不意に、横島の詠唱が止んだ。

「ちょっと、横島。どう「おい、覗き見は趣味わりーぞ」

私の言葉を遮って、横島は第三者に話しかける。

「俺に気づくとは、結構鋭いじゃねーか」

第三者は、給水塔の上に存在し、十年来の友人に話しかけるような涼やかさで、返してきた。

暗闇にありながら、はっきりと判る、その存在感。

その口元に浮かぶ笑みは、獲物を見つけた獣の様で、深い群青を纏った男は、明らかにこの異様な状況を楽しんでいる。

「職業柄、霊とかの気配には敏感なんだよ」

この異様な空間を和ませるように、横島の軽い声が響き渡る。

負けじと、私も出来るだけ余裕が有るように、青身の男に問いかける。

「これ、貴方の仕業?」

「いいや。小細工は魔術師の仕事だ。俺たちは命じられたまま、戦うだけだ。そうだろ坊主」

横島と同じように軽く、しかし、殺意に満ちた声を発する。それを受け、横島は、ふっ、と馬鹿にするような笑みを浮かべ、

んな訳あるかー!!基本的に、俺は戦う気なんぞ欠片も無い。俺が聖杯戦争に参加してるのは、未だ見ぬ美女に会うためじゃ!よって、男のお前に用は無い。そんなに戦いたけりゃ、他所を当たってくれ、このバトルジャンキーが!」

怒涛の反論を行った。しかし、その発言によって、何かが砕け散った。主に空気とか、雰囲気とかが。

「……本気か。お前」

男は、呆れたような声で横島に質問する。それについては、私も問い質したい。

「あったりまえじゃ。英霊を呼び出すということは、神話、伝承に出てくる、もう会えない美人を呼び出せるってコトだろう。それに期待するのは、男として当然だろうが」

横島は、自信満々に宣言する。それ言葉を受け、男は心底可笑しそうに笑い始めた。

「くっ、いや坊主の言う通りだ。それに期待することは、男としたら当然だな」

「だろうが」

はい?何言ってるの、この男達は。

私が呆然とする横で、二人の男は、すっかりと意気投合し、本当に、十年来の友人の様に談笑している。

さっきまでのシリアスな空気は何処に行ったんだろうか。なんだか、私一人置いてけぼりくらってるんですけど。

…横島置いて帰っちゃおうかしら。

私がいじけそうになっている中、二人の会話は、好みの女性は、という問題で盛り上りをみせている。

本気で、いい加減にしときなさいよ。全くこんな、ちゃらけた雰囲気になったのも、全部横島のせいだ。

本当に後で、覚えてなさいよ、横島!

「さてと、そろそろ戦ろうか。お前のマスターも待ってるみたいだしな」

「あー、やっぱり駄目?」

「バトルジャンキーって呼んだのは、お前だろう」

「やっぱりなあ。あいつに何処か似てると思ったんだよ。はぁ。」

私が、横島に殺気を出したお陰か、漸く話が終わったらしく、横島が私に話しかけてくる。

「凛さん。案の定駄目でした。つう訳で、戦闘準備、いいっすか」

「横島さん。私は既に戦闘体勢に入ってます。」

私は、八つ当たり気味に、横島を睨む。そりゃもう、邪眼並みで。

「いや、そのー、あいつ、めっちゃ強そうだから。出来れば話し合いで済ませたかった、訳でですね、はい」

「横島さん。夜はシリアスな時間と言いましたよね?後は貴方次第ですよ」

私は、右手の甲をちらつかせながら言う。横島は、裏の意図を読み取ったらしく、びくっとして、男に向き直った。

男は待っていてくれたらしく、真紅の槍片手に準備体操なんかしている。

なんか、聖杯戦争のイメージが、ぼろぼろと音を立てて崩れていく気がする。

「おっ、もういいのか。それじゃ行くぜ」

この一言で、ちゃらんぽらんな空気は変貌した。大気に殺意が満ち、呼吸をするだけで、神経がすり減らされる。

ランサーの殺気は、正に肉食動物のそれだろう。

その眼光だけで、相手を威圧し、隙を見せれば、一撃のもとに命を奪い取る。絶対的な上位者の殺気。

これに比べれば、最初の殺意なんて、遊び半分のモノでしかない。彼の中で、本当に遊びは終わったんだろう。

それほどの、殺気を一身に受け、横島は尚泰然としている。横島も、遊びは終わったということか。

今から、最初の戦いの幕が上がる。マルチ対ランサー。さあ横島、貴方の力見せて貰うわよ。


あとがき
やっと、主人公にセリフが。そして、登場しました兄貴さん。
横島君との掛け合いはどうだったでしょうか。
ランサーは、hollowで、その女好きっぷりを、いかんなく発揮してくれてましたし、横島君と会えば、いいナンパ仲間になると思いました。
シ○ィーハンターでいう、冴○さんとミ○クさんみたいな。
ただ、横島君の、いい男に対する嫉妬心が出なければ、でしょうが。
しかし、進まない。
本当は、「うっかりスキル発動!丁稚と一緒に登校しよう」がありました。が、実際書いたら、とんでもない長さに、おそるべし虎先生。話を進める為にも、泣く泣くカットしました。
戦闘を楽しみにしてた方、本当に申し訳ありません。前哨戦ということで、どうか、ご勘弁して下さい。
本気で遅筆ですが、楽しんで頂けたら幸いでございます。

渋様
本格的な戦いは次話になります。
ありがとうございます。今後も頑張ります。

メル様
ロボは、出てきませんので、あしからず。

nao様
そこまでいくと、パワーバランスが難しいので、ちまちまと、出して行こうと思っています。

Ras様
横島君の固有結界は出す予定ですが、どっちになるのやらです。
遅筆ですが、よろしくお願いします。

とり様
むしろ、士郎のほうが、取られそうです。

T城様
そういって貰えれば幸いです。
今後も出来るだけ、おもしろい作品を書けるように、頑張ります。

ルイス様
ありがとうございます。
令呪については、第三話をご確認ください。

AS様
流石に、文珠で一撃必殺は出来ない様にします。
サーヴァント戦は、どっちでしょうかね?自分でも判断つきません。
これからも、頑張ります。

なまけもの様
マルチは、これからも、地味に出していくつもりです。
ヒロインについては、実際問題、一人二人位しかいないんですよね。困ったもんです。

カシス・ユウ・シンクレア様
一応強さ的には、小竜姫さまの方が、サーヴァントよりも、ちょっと強い位に考えています。超加速を抜いた場合でですが。
美神さん達が、戦闘についていけたのは、竜神グッズを使用している等、アイテムによる、効果があった為だと思います。勿論、遠坂さん位になら、神魔グッズを使用しなくても勝てるでしょうが。
ヒロイン票、受け取っておきます。

通りすがり様
ありがとうございます。
これからも、一生懸命頑張りたいと思います。

草薙様
実際どうなんでしょうね。
イリヤは、「士郎は、体だけじゃなくて、精神もアーチャーの影響をうけているのよ、だから体も丈夫になってるし……」とか言ってますし、やっぱり、アーチャーの腕のお陰でもあるし、魔力による身体能力向上もあったんでしょう。

召使様
横島でも、不能は嫌なんでしょう。しかも、令呪という強力なものを受けては、下手したら、再起不能になりかねませんし。まあ、自分で作ったんですが。
更新遅くてすみません。楽しんで貰ったら幸いです。

REKI様
遠坂さんは苦労してます。
文珠については、全くもって同意見です。

ちなみに横島君のステータスは、暫定ですが、こんな感じになっています。

クラス マルチ
マスター 遠坂凛
真名 横島忠夫
性別 男
身長・体重 176cm65kg
属性 中立・中庸(煩悩でも可)
パラメーター 筋力D、耐久C、敏捷C、魔力B、幸運C、宝具E〜EX 
スキル 霊能力、陰陽術、仙術、悪運、仕切りなおし、カリスマ(偽)

身長については、美神さんの設定である168cmから考えたものです。高すぎると思われた方は、二年の歳月で伸びたということにしといて下さい。某正義の味方のことを考えれば、さほど無理は無いと思いますので。
どうも、読んで頂いて、ありがとうございました。
それでは、九十九でした。

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