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「幻想砕きの剣 7-6(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-12-21 20:39)
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 さて、ちょっと時間を遡る。
 クレアとイムニティは王都へ帰る途中。
 ナナシは相変わらず人形のままだし、未亜とリコは2人で特訓中。
 ベリオはというと、何気にブラックパピヨンと悪巧み中だったりする。


「……確かに、そうなれば大きな戦力になると思いますが…」


「だろ?
 アタシ達にとっても、大河にとっても悪い話じゃないと思うけど?」


「そうですね…。
 大河君との約束がある限り、アナタはもう盗みを働いたりしないでしょうし」


「…(実はこの間大暴れして来たんだけどね)。
 何か問題でもあるの?」


「ありますよ。
 時間です、時間。
 ルビナスさんはあれほど忙しそうなのに、これ以上負担をかけてもいいのでしょうか…。
 それは置いておくとしても、ホムンクルスをもう一体作ってくれなんて、どう理由をつけるんです?
 材料の問題もありますし…」


「それがあったか…」


 今、ベリオはブラックパピヨンと会話している。
 口に出さずに会話する事も出来るが、根は同一人物なのだ。
 どうしても心の中で思った事が意図せず相手に伝わってしまったりするので、区切りを設けるために二人は物理的な会話を好む。
 しかし往来でやると黄色い救急車を呼ばれてしまうため、もっぱら自室での会話が主となる。
 鏡の中の相手に向かって話しかけるのだ。

 2人は、別々の肉体を持てないかと思案していた。
 これは以前から考えていた事である。
 単純に戦力が増えるという事もあるが、ブラックパピヨンとベリオは既に独立した人格と言っていい。
 以前はベリオと統合する事を望んでいたブラックパピヨンだったが、今は違う。
 統合…言い換えれば吸収、または死。
 大河と出会う前のように、ベリオがブラックパピヨンを認識していない状態ならともかく、お互いに「別人として」認識しているのである。
 例え根幹が同じでも、性格と個別の意思を持てば、それは別人と言える。
 唯でさえ独立しかけている人格達が、相手と自分を独立した存在同士だと認識したのである。
 相手を吸収する事は殺す事、吸収される事は死ぬ事だと明確に認識してしまった。
 この時点で、既に統合は不可能になったと言える。

 それならば、と2人は考えた。
 やはり自分の中に誰かが居る、というのはあまり気持ちのいい物ではない。
 相手が自分の分身だからそれほどの嫌悪感は感じないが、単純に不便である。
 専ら表に出ているベリオはともかく、ブラックパピヨンは暇で暇でしょうがないのだ。
 何せ、自分の存在を知っている人物しか居ない時か、人気の無い場所でしか表に出てこれない。
 フラストレーションも溜まるだろう。


「そもそも、もしホムンクルスを作成してくれたとしても、私達は離れられるのでしょうか?」


「互いの認識はどうあれ、結局根は同じだものねぇ…。
 最悪、魂や精神の均衡が崩れて廃人になるか…」


「ですね…」


 2人は溜息をついた。
 と言っても、肉体は一つなので一人分しか聞こえなかったが。


「はぁ…やっぱりムリなのかねぇ?」


「大河君なら、どこかに抜け道を発見するかもしれませんけど…」


 顔を顰めるブラックパピヨン。
 何もかも大河に頼っているようで、気に入らなかったのだ。
 しかし、ルビナスがダメならばやはり第一候補は大河である。
 案外、ルビナスに相談すればあっさりと何らかの方策を示してくれるかもしれない。
 だがルビナスがブラックパピヨンの正体を知らないので、無理な話だ。
 実際は少し前に正体は割れているのだが、2人はそれを知らなかった。


「ところで…もし何かの手段で別々の体を得られたら、何をする?」


「私ですか?
 そうですねぇ……ああ、まずはアレですね、授業をサボってみたいです」


 えらく簡単な願いである。
 それならこのままでも出来そうな気がするが。


「そんな事でいいのかい?」


「私にとっては大変な事です。
 授業をサボって平然としている大河君やカエデさんと違って、無断欠席で内申書に傷がつくのではと心配で心配で…。
 だからアナタが代返してくれれば、それはもう伸び伸びと寛げます。
 授業というのは本人が出ていなければ意味がありませんが…ま、偶にはね」


「内申書なんて無いだろー」


 ナチュラルにブラックパピヨンを身代わりにしようとするベリオだった。
 身代わりにされるブラックパピヨンは、特に反論しようとはしない。

 なぜなら、もし実行していれば、恐らく翌日からはベリオ・トロープの周囲からの評価は一変しているであろうから。


(ククク…もしそんな事をしたら、あの教師の弱みとか暴露したり衆人のド真ん中で大河に迫ったりして、そんでもって後始末は全部押し付けて…♪)


「…聞こえてますよ」


「ふっ、よりにもよってアタシに押し付けようなんて考えが甘いのさ。
 それで? 他にはないのかい?
 ちなみにアタシは…そうね、白昼堂々食べ歩きしたり、大河と組んで大騒動を巻き起こしたいね!
 それにクレアの事も、色々と楽しそうだし」


 大河がクレアを調教しようとしているのを知っているブラックパピヨンだった。
 クレアの性格もそうだが、ソッチ方面でもブラックパピヨンの嗜好に合致していたりする。


「もしそうなったら、フローリア学園最大のトラブルメーカートリオ誕生ですね…ダリア先生も入れて、カラミティ・カルテットとでも名づけましょうか。
 それから、私のしたい事……そうだ、私はアナタみたいに、召喚器なしで大ジャンプとかしてみたい!」


 既に体が出来たら、とかいう次元ではなくなっている気がするが、そこは気にしない。

 ブラックパピヨンは、素の状態のベリオとは比べ物にならないほど運動神経がいい。
 なにせ正面から戦わないとはいえ、トレイターを召喚した大河を相手に渡り合ったのだ。
 後天的な人格であるブラックパピヨンは、どういう理屈か体のリミッターをある程度無視できる。
 おかげで時々ベリオは筋肉痛に悩まされる…湿布を使うべきか迷っているのは、乙女のプライドにかけて断固ヒミツだ。


「はは、そりゃいいわ。
 アンタがアタシみたいに飛んでも、空中でバランスを崩すのが関の山よ。
 だって、アタシの飛び方は単に飛んでるだけじゃなくて、魅せるために体の隅々まで制御してポーズを取りながら飛ぶんだよ。
 バレエ選手もかくや、って感じさ。
 でもベリオ、アンタじゃ無理だ」


「なんでさ」


「誰の口調?
 ま、ベリオじゃ体の制御以前に…パンチラとか見られたくないだろ?
 ああ、大河だけならオッケー?」


「うっ…」


 反論に詰まる。
 ブラックパピヨンは更に攻撃を続ける。
 しかも、ベリオにとっては致命的なヤツを。


「それに、一人になったら、あれよ、また書きたいんじゃないの?
 アヴァターに来る前にこっそり書いてた、
『ベリオ・トロープ 柔らかい夢のポエム集』。
 安らぎの島編・星の寝所編・優しい雨編、その他合わせて現在8巻、未完が一作


「!)!+‘#”チ!?%QマX%キ’あZ!#”?&G’?д<?>ぼ?&!?@ーU!T6?CUん!」


「あっはっは、忘れたかい?
 アタシはあの頃からアンタと一緒に居たんだよ?
 誰にも見つからないつもりでコソコソ執筆してたハズカチ〜ポエム、ぜーんぶ見てたもんね♪
 ええと、確かその辺に一冊確保しといたのが…」


「う、ウソ!?
 アヴァターに来る前に全部燃やしたのに!?」


「こっそり一冊確保しといたのさ。
 ふふふ、これを大河とか未亜に見せたらどうなるかねぇ?」


「そ、そんな方向の羞恥プレイはいや〜〜〜〜〜〜!」


 慌てるベリオ。
 変わって喋りだすブラックパピヨン。
 傍から見ると、それはそれは異様な光景だったそうな。


「今から朗読してあげようか?
 大丈夫、ベリオが聞こうとしなくても耳を塞いでも、アタシの声はちゃーんとベリオの中に届くから。
 ええっと、そうそう、一番気に入ってたのは…こんな感じだったっけ?

 夜空を着飾るお星様。
 きっとあなたは一人で王子さまを待つ私を見て涙を流す。
 やさしい涙は雨になって、私の「イーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーーー!」


 羞恥のあまり大暴れしまくって、部屋の半分くらいがボロボロになった所で、ようやくブラックパピヨンは朗読を止めた。
 実は気が済んだのではなくて、ポエムの続きを思い出せなくなっただけなのだが。
 人生の恥を思い出したのか、ベリオの顔はまだ赤い。

 ベリオはふぅ、と溜息をついた。
 話題を変えようと、なんとか平静を保って会話を続ける。
 今にも再び悶えそうなのだが、そんな事をしたらブラックパピヨンの悪戯心を刺激しまくってしまう。

 最悪の場合、ベリオが寝ている間に体を操作し、大河達の前で朗読しかねない。
 何とか口封じしようと思うベリオだった。


「ま、悩んでいても仕方ありません。
 とにかく明日の準備をしないと…部屋の片付けは…帰ってきてからでいいですね」


「そうだね。
 じゃ、頑張ってね〜♪」


 そう言って、あっさりとベリオの奥に引っ込むブラックパピヨン。
 引きとめようとしたベリオは、思わず腰を浮かせて固まった。


「あ、ちょっと!
 手伝ってくださいよ!
 魔法も少しは使えるんでしょう?
 明日持って行く聖水を強化しないと!」


 鏡に向かって手を伸ばし、勢い余って突き指なんぞしてしまう。
 思わず指を押さえて蹲った。

 ベリオの後ろには、少し大きめの水筒が聖水をタップリと詰め込んでいた。
 この上に自分の魔力を流し込んで、その効力を上げるつもりなのだ。


「はぁ……結構しんどい作業なのに…。
 途中で集中力が切れちゃいますね…」


 それでもやれる所まではやろうと、ベリオはユーフォニアを呼び出した。
 内心、ブラックパピヨンに文句を言っている。


「そう言えば、あの子はユーフォニアを使えるのかしら?
 というか、私って最近本気で地味ですね…原作でもそうだったけど、最初の方に集中して出番があると、後になって竹箆返しが来るんでしょうか?
 はぁ、シナリオで損している気がします……。
 今回の章は、リリィの一人舞台っぽいですしねぇ…」


 ベリオはその後、ずーっと聖水に魔力を流し込んでいた。
 特別な事は何も無く、動きが無いので視点を他に移すとしよう。

 さて、今度はカエデである。
 礼拝堂裏手の森の中で、時々ガサッ、ガサッと茂みや枝が揺れる。
 さらに、小さな風切り音が響く。
 よく見ると、所々に金属の塊…クナイが刺さっているのが解る。

 カエデは森を縦横無尽に駆け回りながら、投擲術の訓練をしているのだ。
 そのまま暫く走り回っていたが、少し広い場所に出た。

 カエデは枝の上から勢いを落さずに飛び出し、開けた場所の中心に着地する。


「ふっ、せっ! はっ、フンッ!」


 短く、鋭い呼気。
 それに連動して、カエデの手が、足が、肘が膝が宙を裂く。
 どうやら投擲術から、体術の訓練に切り替えたらしい。

 そのまま小一時間ほど続けていただろうか。
 カエデはピタリと動きを止めた。
 そして半身に構え、目を閉じる。

 カエデの瞼の裏に浮かぶのは、父と母を殺した憎き仇のシルエット。
 ひどく大柄なその影は、ゆっくりと剣を振り被る。
 カエデは動かない。
 そのまま数秒ほど対峙した。

 と、剣が振り下ろされる!
 カエデは最小限の動作で懐のクナイを取り出し、剣を迎え撃つ!
 剣とクナイが激突し、クナイが砕け散る……寸前に、カエデは一歩踏み込んだ。
 そのままクナイを持った手を振りぬき、投擲する。
 投げられたクナイは、シルエットの頭部を射抜き……カン!という音を立てて、木に突き立った。

 カエデが目を開ける。
 木に突き刺さったクナイを見つめ、悔しげな顔をした。


「ダメでござる……これでは剣撃を受け止めるどころか、問答無用で一刀両断でござるよ…」


 クナイを引き抜いて、懐に戻す。
 空を見上げた。


「……この世界でも、空は同じでござるなぁ…」


 日当たりの良い森の広場で、カエデはゆっくり腰を下ろした。
 そのままごろんと大の字に寝転がる。


「ふぅ…こんなザマで、拙者はヤツを討てるのでござろうか…。
 どんな卑怯な手段をとったのかは知らぬでござるが、仮にも父上と母上を殺した手練…。
 このゴーグルのお蔭で多少はマシになったとは言え、本当に戦えるのか…」


 カエデは大河から貰ったゴーグルに触れた。
 これがあれば、目を開いていても血を直視しないで済む。
 付けてみて解ったが、意外と視界は制限されない。
 まるでカラーコンタクトでも嵌めているかのようだ。
 着けたままにして頼っていては血液恐怖症は克服されないが、カエデの目的は恐怖症の克服ではなく仇討ちである。
 克服できるチャンスや方法が見つかれば挑戦するが、それまでは使うしかあるまい。

 ゴーグルに触れると、大河の声が聞こえるような気がした。


「……いかんいかん、また戦う前に負ける所だったでござる。
 師匠に諭されたというのに、学習しないでござるなー」


 学習云々の問題ではない気がする。
 こういう心理的な問題は、少しずつ身に付けていくしかないのだから。

 カエデはさっと起き上がる。
 自分の体を念入りに検査し、体が充分ほぐれている事を確かめる。


「ん、今日はこのぐらいにするでござる。
 明日に疲れを残しては、話にならぬでござるからな。
 そうと決まれば、師匠の部屋に行くでござるよ!」


 決めてしまえば即断即決。
 自室に行かないのは、一人になりたくないからだ。
 別段寂しいとかいう事ではないが、あまり一人で居るとまた落ち込んでしまいそうだ。
 何せカエデはダウナー忍者である。


「そんじゃー、師匠の部屋で昼寝でござる!
 できれば師匠に添い寝してほしいでござるなぁ。
 未亜殿は……まぁ、アレはアレで中々…」


 …カエデは染められて来ているようだ。
 それはともかく、カエデはゆっくり歩きながら森を抜ける。
 その辺に突き刺さっているクナイを抜きながら、のんびり歩く。

 やはりカエデには、忍者がどうとか言うよりも日向で暢気に笑っている方が性に合うようだ。
 忍びとしての才能は受け継がれているが、両親の性格までは受け継がれなかったのかもしれない。


「師匠ー?
 ……居ないでござるか」


 大河の部屋にやって来たカエデだが、そこには誰も居なかった。
 カエデは、大河が学園を走り回っていた事を思い出す。


「確かクレア殿に何か用事がある、と言っていたでござるな…。
 まだ終わってないのでござろうか?」


 そう言いつつも、いそいそと布団を整えるカエデ。
 その目が、ふと机の上にある白い封筒に止まった。


「? 恋文でござるかな?
 …師匠が書いた訳ではなさそうでござるが……」


 何の疑問も無く、ヒョイと封筒を手に取るカエデ。
 念のために振ってみたが、剃刀が入っているとかいう事はなさそうだ。
 ついでにラブレターでもないらしい。
 それにしては無骨である。
 …というか、封筒を閉めるシールが髑髏と爆弾な時点でラブレターではない。


「カミソリメールでもないし、恋文でもない…。
 師匠の知人からでござるか」


 裏返してみると、そこには差出人らしき名前が書かれている。
 が。


「…………ど、どこの暗号文でござる?」


 全く読めなかった。
 そこまでやって、ふとカエデは我に帰る。

 考えてみれば、今自分がやったのはプライバシーの侵害だ。
 しかも師と仰ぐ大河のプライバシー。
 自分がとんでもない無礼をしていた事に、カエデはようやく気付いた。


「わっ、わっわ!?」


 慌てて手紙を机の上に戻すカエデ。
 しかし慌てていたせいか置いた場所が悪かったのか、封筒がフワリと宙を舞う。
 さらに慌てて封筒に手を伸ばす。

 パシッ


「………ふぅ…」


 カエデの手は、封筒に折り目一つ付けずに封筒を摘み取った。
 が、不運は終わらない。

ペラリ


「あ」


 一度開けられてシールの粘着力が弱っていたのか、封筒が開いてしまったのだ。
 中身が封筒から滑り落ちる。
 流石のカエデも、今度は間に合わない。


「あっちゃー…」


 手紙が床に落ちる。
 手を頭につけて天を仰ぐカエデ。

 手紙が落ちたくらいで、と思わなくも無いが、そこは礼儀とかの問題である。
 師匠のプライバシーを勝手に覗きかけた挙句、ご友人からの手紙を落として汚す。
 強い汚れが無かったからいい物の、カエデにとってはこれだけでも懲罰モノである。
 …大河の事だから、多分エロエロな懲罰になるだろう。

 とにかく拾わねば、とカエデは手を伸ばす。
 下敷きもそうだが、床にくっついた紙というのは取りにくい。


「このっ、このっ! へばり付いてるんじゃないでござる!」


 折り目を付けたりしないために、指先だけで手紙を拾い上げようとするカエデ。
 四つん這いになり、何気にお尻がフリフリ揺れていたりする。
 それはともかく、一分ほど時間をかけて、カエデはようやく手紙を回収する事に成功した。


「ふぅ…やっと取れたでござる。
 どれ、後はこの封筒に入れて………?」


 カエデの動きがピタリと止まる。
 手紙に書かれている字は、カエデの知らない文字だ。
 元の世界で使われていた文字とも、アヴァターで使われている文字とも違う。
 しかし、その中に一言だけ見慣れた文字があったような気がしたのだ。

 それだけならば、さっさと手紙を戻してしまえばいい。
 内容が気になるが、無礼を犯してまで見る理由も無い。
 だが、その文字は決して見逃せない言葉だったような気がするのだ。


「………………師匠、申し訳ないでござる」


 葛藤の末、カエデは手紙を読む。
 読むと言っても、さっぱり理解できないので『見る』と言った方が正確か。

 その中に、一言だけ、やはり見慣れた文字があった。
 その一言とは…。


「ムドウ………」


 カエデが仇として追う、八虐ムドウの名だった。


「ただいまー…っと」


 クレアとの会談及びゴニョゴニョを終え、アルディアに責められるセルを放置し、大河は部屋に帰ってきた。
 人が入って来た形跡はあるが、さほど気にするような事ではない。
 今日に限らず、大河の部屋には大抵誰かが居るからだ。
 もう完全に溜まり場と化している。
 侵入者の可能性もあるが、場所が場所なだけにそれは考慮に入れなくてもいいだろう。
 そもそも学園一の危険人物、当真大河の部屋に近付くのはそう簡単な話ではない。
 ルビナスが(勝手に)付けた警報装置やらカエデが(これも勝手に)設置した防犯装置やらベリオが(こっそり)張っている浮気防止用の結界やら。
 ベリオの結界に関しては今更という気もするが、少なくとも女を連れ込むのは防げるらしい。
 そんな訳で、大河の部屋に近づけるのは学園の関係者ぐらいだ。
 近付いたとしても、必ず記録が残るようになっている。
 どーいうセキュリティだ。

 それはともかく、大河が部屋を見回すと、ベッドの上で蹲っているカエデが居た。
 天真爛漫なカエデにしては珍しく、一言も口を利かない。
 ネガティブゾーンに落ち込んでいるのかと思ったが、そういう趣きでもなさそうだ。


「……カエデ?」


「……ん」


 身じろぎする。
 しかしそれ以上の事はなかった。
 いや、よく見ると胸の前でカエデは両手を組んでいる。

 不思議に思って声をかけようとすると、カエデの手の中にある紙切れが目に入った。
 一拍置いて、大河はハッとして机の上を見る。
 そこに置いておいたはずの手紙が消えていた。


(抜かった…!
 なんか妙な強迫観念に突き動かされて急いで学園長室に向かったから、手紙を始末しとくのを忘れてた…)


 その脅迫観念の正体は、ミュリエルがかけた術の効果だったりする。
 それはともかく、大河はまだ読む途中だった手紙の内容を思い出す。
 例によってアシュタロスからの手紙で、ついでに隊長からの返事も書かれていたようだ。
 まだそこまで読んでいない。


「……読んだのか?」


「…………失礼とは存知ながらも…」


 口数が少ない。
 これは本格的に憎悪に呑まれているかもしれない、と大河は気を引き締める。


「読めたか?」


「………こんな暗号文、さっぱり解らないでござる」


「……まぁ、そーだろうな」


 カエデから手紙を受け取る。
 改めて見ると、一文だけ全く別の文字が存在している。
 さらにその一部が、違う文字…そこが“八虐 ムドウ”の文字だ。
 これがカエデの国の文字なのだろう、と大河は察した。


「師匠…奴の事を知っていたのでござるか?」


「知ってたのは俺じゃない。
 昔世話になった人だ…。
 ま、それもどこまで覚えているやら…」


「…………」


 カエデは今にも大河に掴みかかりそうな自分を抑えている。
 忍びとして、自らの感情を抑える業は必須…と言うより最早サガである。
 相手が主君・師匠と仰ぐ大河ならば尚更だ。
 へっぽこ忍者のカエデといえど、それは身に染みている。


「それでも…拙者は…」


「今から読む。
 ええと…あ、この部分だけだな。

 八虐ムドウは…」


 大河はそこで言葉に詰まった。
 別に焦らしている訳ではない。
 単に大河も隊長の使う言語を読むのは久しぶりなので、上手く訳せないだけだ。

 カエデがぐっと身を乗り出す。


「八虐ムドウは!?」


「………笑う


「……………………は?


 思わずカエデの目が点になった。
 気が抜ける。
 憎悪に呑まれていたカエデが、何の脈絡もなく通常状態に戻ってしまった。


「わ、笑うってそれは…」


「……それしか書いとらん。
 隊長、筆不精なヒトだったからな…」


「限度があるでござるよぉ!」


 絶叫する。
 ナンかもう色々とアホらしくなってきたカエデだった。
 手紙をヒラヒラ振って苦笑する大河。


「まぁ、隊長がコレだけしか知らないって事もありそうだけど…。
 それにしてもコレ、どーいう意味だろうな?」


「そりゃヤツも外道ではあれども人間でござるから、笑うくらいするでござろうが…」


「意訳せにゃならんだろーが…もう検討もつかんな」


 可能性としては色々と思い浮かぶが、どちらにせよ戦闘の役には立ちそうにない。
 意気込んで損したでござる、とカエデは肩を落とした。
 そのカエデを見て、大河は苦笑しながらも安心した。
 憎悪は燃え続けているが、今はもう大丈夫だ。

 へたり込むカエデの隣に、大河は腰を下ろした。


「師匠〜…その隊長って、一体どんなヒトなんでござるか…」


「ま、まぁ言いたい事は解るが…」


 恨み節というか愚痴というか。
 大河は返事をしなかった。
 求められていないのが解っているからである。
 現に、カエデは返事も聞かずに愚痴を垂れ流している。


「普通、もーちょっと詳しく書くでござるよな?
 なんでござるか、一言だけ『笑う』って。
 相手に主張とかを理解させようとする誠意とか努力とかが、全く持って見られないでござる。
 これはもう筆不精とかそういう次元じゃないでござろう。
 拙者、思わず文盲かと思ってしまったでござるよ」


 あと似たような言葉が延々と。
 カエデの愚痴を聞き流しながらも、大河はアシュタロスからの手紙に目を通す。




 やあ大河君、元気かね?
 こちらではルシオラの復活が上手くいき、万々歳といった面持ちだよ。
 しかし残念な事に……私としてはこれはこれで面白いのだが……ルシオラの体は万全ではない。
 体に魂が慣れていないので、横島君との既成事実が作成できないのだ。
 今のままで強行しても、ルシオラだけ何も感じる事出来ない、いわばオ○ホールのような状態だからね。
 ルシオラとしては既成事実を優先するべきか、それとも雰囲気や浪漫を優先すべきか迷っているようだが、親として現段階のまま激しい行為をするのは認められない。
 まぁ、主な理由は、この際だからもうちょっと修羅場を見せて欲しい、なのだが。
 実際、中々面白いぞ。
 この前は人工幽霊一号君が、胃袋もないのに胃痛を訴えたほどだ。
 既成事実を優先しようとしたルシオラに誘惑され、横島君が飛び掛り、そしてどこからともなく沸いて出た女性陣に撃墜されるのだ。
 あの花戸という少女でさえ、なにやら霊波砲を放つ…と思ったら、それは貧乏神だった。
 弾き飛ばされた衝撃で巨大化し、責任を取って身内になれ、とか言っていたが…ルシオラからの殺気を受けて、根性だけでスモール化してしまった。
 あと殺気でロンゲ公務員の髪が灰色っぽくなった。
 今後カツラを送ろうと思う。
 君のところの…ダニーといったか?
 ダニーとお揃いの、フノコカツラにしようと思うのだが…ひょっとして、もう髪型が変ってしまったかね?

 まぁ事ほど左様に、傍から見ている分には面白い…巻き込まれると私でも怖いが。

 それはともかくとして、君が隊長と呼ぶ人物…名前を忘れてしまった…から、返信を受け取っているぞ。
 彼の世界の文字は私もよく知らないから、丸写しする事にした。

『破遅ф脚г駈八虐ムドウ牟泊鵜刃(^◇^)』

 うむ、やはりさっぱり理解できん。




「…ふむ、よこっち…またお預け状態か」


 未亜との関係を察して、清々しく暴走してくれた友人の顔を思い浮かべる大河。
 あの時は中々大変だった。
 動かなくなるまで殴り合って、動かなくなったら動かなくなったで倒れたまま罵り合い、さらに動けるようになったらまた殴り合い。
 そしてダブルノックアウトした挙句、すぐ傍でトトカルチョをやっていた友人達に八つ当たりを喰らった。
 遠い目をしている大河を他所に、カエデはまだ愚痴り続けている。


「大体でござるなぁ…」


 カエデの愚痴は、夕食の時間まで続いたそうだ。


 深夜の事である。
 生徒の殆どが寝静まった頃に、寮から一人の人影が出てきた。
 闇が濃くてよく見えないが、心なしか肩を落としているように見える。

 周囲をササっと見回して人目がない事を確認すると、人影はフローリア学園の正門へ移動する。
 当然の事ながら、門は閉じられていた。
 しかし呪文…恐らくレビテーション…を唱えたらしく、フワリと浮き上がって塀を越え、フローリア学園の外に出た。

 月にかかっていた雲が晴れた。
 人影の姿が露になる。
 赤い髪、マント、赤を基調としたフローリア学園の制服、色々と詰め込まれているらしき小さな袋。
 いわずと知れた、リリィ・シアフィールドであった。
 彼女にしては珍しく、集中力を欠いているのか、レビテーションがあっちに揺れてこっちに揺れてと忙しい。
 まぁ、元々不得意な術ではあるのだが。

 それでもなんとか無事に着地すると、振り返ってフローリア学園を見た。
 暫く何か考えていたようだが、ポツリと呟いた。


「…バカな事してるわね、私も……」


 懐に入れたお守り…どう見ても何かの燃えカスだ…に触れて、リリィは頭を振った。


「……大丈夫…大丈夫、怖くない…私は強い…“破滅”なんかに負けない、大河なんか好きじゃない、ネコミミは好きだけど大河に惚れてなんていない…」


 ブツブツブツブツ。
 一分ほど自分に言い聞かせるように呟いていたリリィは、気持ちを切り替えたのか、向きを変えて森に入っていく。
 暗い森の中を、自分で産み出した灯りを頼りに歩く。
 覚悟していたとはいえ、夜の森は不気味だった。
 しかしリリィはそれを強引に黙殺し、森を一直線に進んだ。
 そう深くない場所に、一頭の馬が繋がれている。


「起きてる?」


 ブルルゥ


 リリィの声に呼応したかのように、馬は嘶く。
 頑丈そうな、一級の馬である。

 ネコミミを燃やしてしまい、魘されながら眠ったリリィだが、夕方あたりになると目が覚め、眠れなくなっていた。
 そこでどんな葛藤があったのかは、リリィ本人にしか解るまい。
 経過はどうあれ、リリィは自分だけで先に行くことに決めた。
 贖罪のつもりなのか、それともただの意地なのか、他の何かかは解らない。

 リリィは正門が閉まる前に、こっそり馬を確保していた。
 人目につかないように作業するのは大変だったが、馬が予想外に賢かった事が幸いだった。

 リリィは馬を連れて森から出る。
 広い場所に出た馬は、ようやくスッキリしたとばかりに空を見上げている。


「早速で悪いけど、ちょっと走ってもらうわよ…。
 馬術はあんまり経験ないんだけどね」


 そう言って、リリィは鐙に足をかけて馬に上る。
 馬も大人しく待っていた。
 少々危なっかしくも馬にまたがると、リリィは馬に走るように指示を出す。
 当分は一本道である。
 目的地までは遠いが、途中で馬が力尽きたらヒッチハイクで行けばいい。


「じゃ、行くわよ!」


    ヒヒーン


 一際高く鳴くと、馬は勢いよく走りだした。


「ちょっ、待って待って!
 もっとゆっくり!
 いやああぁぁぁ暗い前が見えない何か掠った揺れるううぅぅぅ!?」


 ただし、ちょっとへっぽこな騎手を乗せて。


 一夜が明けた。
 流石に大河もナニをしたりせずにゆっくり眠り、カエデは愚痴を言うだけ言って(最終的には大河の女癖についての愚痴になった)スッキリしたらしく、添い寝を希望しつつも自室に帰って行った。
 王都に行ったイムニティからは、全く反応がない。
 マスターとして少々情けなくも寂しい気持ちになったが、気持ちは解らなくもない。
 大方、大河が心配した通りに聖地にハマってしまったのだろう。
 ひょっとしたら、クレアと一緒に漫画を読みふけって徹夜したのか、とも思った大河。
 その推測は思いっきり的中していたのだが。

 それはともかく、空には適度に雲があり、気温も暖かい。
 これから遠征でなければ、ピクニックとでも洒落込みたい気分である。
 しかし現実はそう甘くない。
 救世主クラスは、事前に指定された時刻よりも2時間ほど送れてフローリア学園正門に集まった。

 カタブツのベリオでさえも、2時間後にやって来た。


「皆さん、おはようございます…あふ…」


 ベリオが欠伸をし、肩の凝りを解しながら現れる。
 胸がおっきいから凝りやすいのだ。
 殺意を覚えた者が数名居たとか居ないとか。

 軽く手を上げて未亜達は答え、ベリオの手から水筒…聖水を受け取った。
 しかし、水筒は一つ余る。


「……?
 リリィが居ませんね。
 どうかしたんでしょうか?」


「リリィ殿にしては珍しいでござるな」


「リリィさんとベリオさん以外では、それほど珍しくありませんが」


 リコが何かを言っているような気がするが、そんな事を気にする大河達ではない。
 それはともかく、ベリオは時計を見る。


「ギリギリセーフでしたね」


「……私は未だに疑問なんだけど、どーして指定された時刻から2時間も送れて集まるのが普通なの?」


 どーでもいい事ではあるが、集合時間…授業はともかくとして、こう言った課外授業の際には、予め予定されたスケジュール通りに進んだ試しがない。
 それは何処でも同じだが、フローリア学園ではその傾向がさらに強い。
 生徒達が何かしら揉め事に首を突っ込むのもその理由の一つだが、何より大きな理由は…。


「指定された時刻の前後2時間を目安とする、ダリア時間は学園の常識ですよ」


「…ベリオさんまで染められてるし」


 ぶっちゃけた話、そういう事だ。
 実際には2時間もずれる程酷くはなかったのだが、生徒達がイメージで言い始め、それを聞いたダリアが拗ねてしまったのである。
 そして本当に2時間近く遅れて来るようになってしまった。
 どーしてクビにならないのか不思議である。

 さてそのダリアだが、眠たそうにフラフラ歩いてきた。
 彼女にしては珍しく、あからさまに疲れているのが解る表情だ。


「みなさ〜ん、おはようございまぁ〜す」


「…ど、どーしたんですかダリア先生ともあろう人が!?
 口調も普段よりトーンが低いし、よく見ると化粧が普段より厚くべち


 大河の顔面に、ダリアの張り手が突き刺さった。
 たまらず仰け反りかえる大河。
 それを見ても、未亜達の反応は今ひとつだ。


「今のは大河君が悪いですよねぇ」


「最近はマシになってきたけど、お兄ちゃんってデリカシー無いから」


「それはともかくとして、ダリア先生、どうかしたのでござるか?」


「…」


 張り手からアイアンクローに移行したダリアを見て、口々に言う。
 しかしダリアはホホホ、と笑って誤魔化した。


「大した事じゃないわよ〜。
 ただ、昨日の夕方くらいから、仕事が急に増えてね〜。
 徹夜で書類とかとカリカリカリカリ…」


 ふああぁ、と大欠伸するダリア。
 その間も大河の顔面を掴む手は、その力を増している。


「そんなに忙しかったんですか…」


「ええ、お蔭で本当に2時間も遅刻しちゃったわ。
 ま、充分過ぎるほど時間に余裕を持たせておいたから、別にいいんだけど」


 今は10時である。
 集合は本来8時だったのだが、ダリア時間により今まで伸びた。

 そんなに時間があるなら二度寝をしたかったなー、と思う大河だった。


「ゴメンねー、今から遠征だっていうのに、こんな気が抜けた顔を見せちゃって」


「ダリア先生は普段から気が抜けてめきょ……いませんごめんなさい」


「よろしい。
 本当は、適度に緩んだ顔を見せて、緊張を解してあげようと思ったのに」


 指がコメカミに1センチばかり減り込んでいる大河。
 さすがに謝ったが、ダリアは手を離さない。


「いえ、普段のダリア先生の顔を見ると、抜けちゃいけない緊張まで抜けそうですよ」


「どちらかというと、ダリア先生も頑張っているんだなー、と解って気合が入りましたから」


「意外な人物が仕事をしていると、自分も負けないように、と思います」


 さっきから何気に色々と言われているダリアだったが、この程度で凹んでいては昼行灯は演じられない。
 ただし八つ当たりに大河を掴む手にちょっとだけ力を篭めた。

 カエデはダリアとの会話から外れて、周囲をキョロキョロ見回していた。
 時計を見る。


「……妙でござるな…。
 いくらなんでも、リリィ殿が来るのが遅すぎるでござるよ。
 出掛けに部屋に寄ってみたでござるが、誰も居なかったし…」


 カエデの呟きを聞いて、大河はダリアの手の中からニュルリと抜け出した。
 異様な感触にダリアが自分の手を見つめているが、無視して大河はカエデに詰め寄った。


「本当に居なかったのか?
 トイレに行っていただけ、とかのオチは?」


「無いでござる。
 拙者、故郷での生活柄、朝は早いのでござる…二度寝は好きでござるが。
 今日も日の出と供に起き、持って行く物の点検をしていたのでござる。
 それでちょっとした事に気がついて、朝っぱらから迷惑ながら、リリィ殿に貸して欲しい物があったでござるよ。
 ところがノックをしてみても、反応も無し。
 念のために扉に耳を付けて中の気配を探ってみても、寝息も無し。
 これはおかしいと思って、ピッキングで鍵を外して部屋に入ってみた所、リリィ殿どころか寝床を使った後すら…」


 何気にプライバシーを侵害しているような気がするが、そんな事を気にする面子ではない。
 大河を筆頭に、諜報員のダリア、人間世界の法にはあまり関心のないリコ、ベリオはブラックパピヨンの半身でもあるのでもう慣れっこ。
 未亜はというと、彼女は大河と物心付いたときから付き合っているのである。
 男女の中になってからは、浮気調査のために似たような事をした経験もしばしば。


「何ですぐに言わなんだ!?」


「いや、てっきり師匠の所かルビナス殿の所だと…」


 うぐっ、と反論の言葉に詰まる大河。
 それはともかくとして、ダリアの顔に緊張が走った。


「それじゃあ、リリィは居なかったのね?
 ひょっとして……功を焦ったかしら?」


 ダリアの呟きを聞いて、ベリオはふっと考えた。
 彼女はフェアな性格ではあるが、それ以上に直情径行というか、頭に血が昇ると自分が何をしているのか、気付かなくなる節がある。
 気付いていても、意地を張って突き進む事はそれ以上に多い。
 例えば救世主になるため、または何かに…例えばミュリエルや大河…に、反発したとすれば?
 彼女は暴走してもおかしくない。


「こ、こんな事をしている場合じゃありませんよ!
 ただでさえ初めての実戦なのに、カッカしたまま一人で戦いに行くなんて…、
 それに相手のモンスターは、知能だってあるんでしょう!?
 早くリリィを探さないと!」


 言うや否や、走り出そうとするベリオ。
 しかし、その頭を手がガシっと掴んだ。


「落ち着け、ベリ……オ…」


 タタタタタタタ……


 もとい、帽子を手がガシっと掴んだ。
 ベリオは大河の手が帽子を掴んでいる事にも気付かず、そのまま走り出した。
 大河の手の中に残ったのは帽子のみ。
 なんというか、妙に気まずい。
 未亜達から放たれる冷たい視線に冷や汗を流す大河。


「……あ、ベリオさん戻ってきた」


 帽子が無いのに気付いたらしく、ベリオは砂煙を上げながら大河の所に走ってきた。
 よほど慌てているのだろう、大河の手から帽子を奪い返すと、また走り出そうとする。

 が、今度は肩に手をかけられる。


「落ち着くでござる、ベリオ殿」


「あらっ?」


 重心を巧みにずらし、もう一方の肩にも手を置いて、上手くベリオを方向転換させたカエデ。
 その鮮やかな手際に、リコが思わず拍手をする。
 照れ笑いをするカエデを、ベリオがムッと睨みつけた。

 となりから未亜がベリオに話しかける。


「落ち着いてください、ベリオさん…。
 リリィさんが暴走して先に向かっているなら、学園内を探してどうするんです?」


「………あ」


 未亜に言われて、ベリオはようやく正気に返った。
 考えてみればその通り。
 功を焦ったにせよ反発したにせよ、暴走したとすれば向かう先は学園ではなく、遠征先である。
 学園内を探した所で、何も見つかりはしない。


「…すいません、取り乱しました。
 しかしそうなると、早く出発した方がいいですね」


「そうでござるな。
 とにもかくにも、リリィ殿に追いつく事が先決…」


「そうと決まれば、早く出発よ〜。
 リリィが学園内で見つかったら、後から行かせるから。
 全速力で行ってくれって頼むから、乗り心地が悪くても我慢してね」


 少しでも早く、と大河達は走って馬車に乗り込んだ。
 ダリアが御者と二言三言交わして去っていく。
 全員乗り込んだのを確認して、大河が御者に話しかけた。


「全員乗り込んだ、出発してくれ。
 聞いただろうけど、急いでな。
 …目的地まで、どれくらいかかる?」


「…………どれくらい?
 どれくらい、だと?」


「…あ?」


 御者の様子がおかしい。
 今気づいたが、なぜか彼の体はブルブル震えている。
 何となくヤ〜ナカーンジ〜な予感がする大河。


「大河さん?
 どうしたんですか?」


 リコが大河の後ろから顔を出す。
 怪訝な顔をしていたが、その視線が御者を捕らえるに至ってピタリと止まる。
 リコの額から冷や汗が垂れた。


「………このパターンは…」


「……アレだな。
 少なくとも早く着きはするが…」


「…ヘタをすると永久に着きませんよ…。
 一番説得力のある予測は、途中で馬車が限界を超えて立ち往生…」


「うっわー、すげーりあるだー」


 棒読みで会話するリコと大河。
 2人の様子を不思議に思ったのか、残りの面子の視線も集中している。

 と、その時、小気味よいほどに響くムチの音!
 大河がお手本にしたいと思うほどの快音である。

 諦念の領域に達したリコと大河を他所に、その音を聞いてカエデ達は10センチほど飛び上がった。


「どれくらい、どれくらいと聞いたなぁ!?
 そんな事はその辺の2流御者に言いやがれ!

 何を隠そう、送迎最速理論の後継者にして研究者、ヘッドキャラクターDとは俺の事よ!
 無念にも理論構築の半ばにして引退した師匠に代わり、誰よりも早く、誰よりも確実に客を目的地に送り届ける!」


「は、速さと確実さだけですか!?
 安全、安全は何処に行ったの!?」


「嬢ちゃん、この世界に生まれ落ちた瞬間から、安全なんてありゃしないんだ!
 そういう道を通っている時に限って慢心し、命を落す!
 だったら最初から危険な道を選ぶまでよ!」


「危険な道に入ったら確実じゃないです!
 せめて交通法規は守ってください!」


「生憎今日はいくらスピードを出しても、(馬車の)反対車線を走ろうとも交通法規を無視した事にはならない。
 何故なら上から承諾が出ているからだ。
 一刻も早く目的地に到着せよ、そのためなら道路交通法を無視しても構わん、とな!
 許可が出ている以上は違反ではない!」


「ぜ、絶対的な事故のパターンでござるよ!
 それにその承諾は、ダリア先生が言っただけでござろう!?
 学園長先生が承諾するかどうかは解らぬでござろう!」


「そんな事は俺のテクニックを見てから言いやがれ!
 例え後から無効だと言われても、証拠がなければ裁かれない!
 おう小僧、目的地までの時間だがな、俺が燃えれば燃えるほどに、コイツら(馬達)が猛れば猛るほどに!
 そう、限界なぞ有りはしない!
 俺達の魂の力で、それこそ光だって超えるのさ!

 光速を超えたら安全に止まれないからやらないけどな!
 行くぜ、フーンサイキ、コクオー、マキバオー!
 今日という今日はスピード制限無しだ!
 足並み揃えろとも言わねぇ!
 解っているさ、お前たちが最も速くなるのは真剣勝負…否、決闘の時だ!
 ハイヨー!」



パシィン!


「「「「いやああああぁぁぁぁ!?」」」」


「むぅ、ちょっと共感してしまった…」


 スピード狂候補一人と四人の乙女…もう乙女じゃないけど…の断末魔の絶叫が響く。
 それと同時に、ゴットンと馬車が大きく揺れた。
 リコの体勢が崩れる。

 そして次の瞬間、馬車は凄まじいスピードで走り始めた!


「あああっ、リコちゃん!」


「…………!!!」


 慣性の法則に引っ張られ、リコの体が倒れていく。
 体勢が崩れていた所に急加速が来たので、完全にバランスを崩してしまったのだ。
 間の悪い事に、鍵を掛けておいた馬車の扉が開いてしまった。
 老朽化していたし、元々質のいい鍵ではなかったのだろう。
 リコの体が馬車の扉から転げ落ちる。


「リ、リコ!」


「はい」


「うおっ!?」


 思わず駆け寄って、馬車の後ろを見る大河。
 しかし、リコの声はすぐ横から聞こえた。
 慌てて振り向くと、顔色一つ変えずにちょこんと正座しているリコの姿。
 その周りでは、未亜達が立ち上がろうとしたまま止まっている。


「リ、リコ…大丈夫だったんですか?」


「はい。
 地面に落ちる前に、テレポートで戻ってきました。
 ………ちょっと死ぬかと思いましたが」


 ベリオのおっかなびっくりの問いかけに、平静そのものの言葉を返すリコ。
 何はともあれ、リコが無事だったので気が抜けて腰を下ろす一同。
 大河が扉を閉めた。


「…それにしても、凄い加速でござったな…」


「うん…こんなにスピード出して、大丈夫なのかなぁ?」


 未亜が前を見る。
 御者は相変わらず猛り狂い、狂ったようにムチを入れている。
 そのムチを受ける馬達も、それこそ狂ったように走り続けていた。
 一頭だけ妙に小さい、本当に馬かと問いたくなるような姿だったが気にしない。

 周囲の景色はというと、もう全く見えない。
 これが神の領域か、と大河は呟いた。
 それは冗談としても、本気で時が見えそうだ。
 ただしその『時』というのは走馬灯の事だが。


「…馬も馬車も、目的地まで保つんでしょうか?
 ………御者は最初から壊れてるけどね」


 ブラックパピヨンが顔を出した。
 慌てて未亜は御者を見るが、もう完全に自分の世界に入っている。
 背後に赤黒いオーラを背負っていた。

 これなら聞かれる事もないだろう。
 形容し難い声で哄笑しているので、こちらの声が聞こえているかどうかも怪しい。
 少なくとも正気は失っている。


「心配しなくても、自分の正体を悟られるようなヘマはしないわ。
 それに、学園みたいな所に雇われている人間は、乗せた人間が世紀の大悪党だろうと口外しないの。
 ヘタに口を滑らせると、即刻クビチョンパって事もあるんだから」


「…やけに詳しいでござるな?」


「ああ、コイツ一応貴族…か?
 とにかく金持ちの出なんだよ。
 その辺の事はあまり詮索すんな…自分でバラしといてなんだが」


 ブラックパピヨンは大きく伸びをする。
 昼間から外に出てくるのは久しぶりなのである。


「さて…大河、アンタリリィに何かした?」


「…出し抜けに何だよ」


 いきなりの質問に、憮然とする大河。
 しかし未亜もリコもカエデも、大河の味方はしていない。


「何も蟹も、リリィに一番影響を与えてるのはアンタなの。
 学園長もそうだけど、それだとリリィは何だかんだと言って従う。
 リリィがこんな無謀なマネをする原因があるとしたら、一番可能性が高いのは大河なわけね」


「…反論できん」


 確かに、リリィに最も影響を与えているのは大河だろう。
 何せ『ネコりりぃ』なるキャラクターまで作り上げてのけたのだ。


「で、どうなんですか、ご主人様?」


 ブラックパピヨンと同じく、知らない人間に聞かれる危険性は無いと判断したリコ。
 呼称が変っている。
 が、その視線は少々痛い。


「……まぁ、心当たりは…無い…ことも無い…」


「話しなさい」


「…ヤー」


 未亜の一言で、大河は反抗すら出来ずに従った。
 針のむしろのような雰囲気の中で…相変わらず御者は狂笑を続けている…大河はポツリポツリと話し出す。

 それは、数日前の情事での事。
 丁度未亜達はダリアに性技を教わりに行っている時の事である。
 カエデはネコりりぃの事を知らないのでその辺は何とか誤魔化して、リリィを怒らせてしまった時の事を話した。
 すると、四人の指先が大河を一斉に指す。


「「「「お前が悪い」」」」


「…わーってるよ、そのくらい…」


「いーや解ってない!
 少なくとも大河、アンタは空気とリリィの性格を読み違えた。
 ベッドルームのオトコとして、最大級のミスじゃないの?

 以前からそうでしたが、大河君はデリカシーが無さ過ぎます!」


「そうでござるよ、師匠。
 デリカシーがないのも師匠の持ち味として捉えているでござるが、今回はちょっとよくないでござる」


「私達はその辺と上手く折り合ってるけど、意地っ張りなリリィさんじゃねぇ…」


「大河様は、愚鈍かと思われます」


 口々に攻撃される大河。
 流石に旗色が悪い。


「いやもう勘弁してくれって…。
 それにしても、まさかここまで反発するとはなぁ…」


 大河の目算では、それほど深刻な事態に発展するとは思っていなかった。
 こう言ってはナンだが所詮はコメディタッチなケンカだったし、お互い意地っ張りと言えど、それほど後に引き摺る性格でもない。
 何かの切欠で何時ものように激突し、それから元通り、ぐらいに思っていたのだ。
 リリィの意地っ張り度や自尊心を甘く見ていたと言えよう。

 しかし、カエデはその点厳しかった。


「反発したのは師匠のせいかもしれぬが、リリィ殿の暴走は本人の責任でござるよ。
 例え師匠と揉めていようとも、それによって自身の戦力が上がる訳ではないでござる。
 戦況が千変万化する戦場では、昨日の敵と手を組んだり、今日の友とかち合う事も…。
 そんな時、感情に任せて行動するなぞ愚の骨頂。
 自らの命は、自らの選択の結果を持って守るのが当然。
 仇を追う拙者が言っても説得力はないでござるが…自ら死にに向かったようなものでござる」


 カエデの何時になく厳しい言葉に、誰もが黙り込む。
 彼女が育った環境は、そういう物であったのだ。
 現にカエデは、仇の事を憎んではいても、父母が死んだのは本人の責任だ、と思っている。
 信じるべきモノを見誤った選択の結果、死んでしまった。
 直接の原因はムドウでも、無警戒に受け入れてしまったのは本人なのだ。
 それでも仇討ちを望んでいるのは、ただの個人的な感情である。

 静まってしまった馬車の中に、ムチと狂笑と蹄の音が響く。
 大河はボリボリ頭を掻いた。


「とにかく、ずっと到着を待っているだけってのも不毛だしな…。
 周りの景色がビュンビュン流れていくから、ここがどの辺りかも解らん…。
 かと言って、あの人に『ちょっと止まってくれ』なんて言った日には、馬の代わりに俺が走る事になりかねん。
 うむ、とりあえず大まかな予定を決めておくか。

 まず、到着するまでのリリィが見つからなかった場合だが…」


「きょーほほほほほほほ」


「その時には、魔物と戦闘中か、欺かれて捕獲されていると思った方がいいでしょう。
 何かに化けているかもしれません。
 目的地に到着したら、生存者がいても一度は『これは魔物か』と疑ってかかってください」


「うん、解った。
 リコちゃん、ネクロノミコンで偵察とか出来ない?」


「ひーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」


「出来ない事もありませんが、魔物に発見されてしまうでしょうね…。
 あの子も同じ魔物ですから。
 そうなると、リリィさんや村人を人質にされてしまうかもしれません」


「とにかく先に人質の救出、それから討伐でござるな。
 誰かに見つかる前に周囲の偵察、見つかってしまったら強行突破…」


「うびゃらぼげぼげどばばばば」


 謎の笑い声と作戦会議を載せて、馬車は走り続ける。
 馬車がガタガタ音を立てているのに全く壊れた様子がないのは何故だろう。
 そして正しい道筋を通っているのかは、誰にも解らない。


 大河達よりもかなり先。
 リリィは目的の村に到着していた。
 相変わらず、その表情は暗く、集中力が欠けているのが解る。
 別に馬酔いしている訳ではない…多分。


「ふぅ…ご苦労様。
 アナタはここで休んでいて。
 何かあったら、逃げてもいいからね…」


 リリィは馬に水と餌を与え、木に繋がずにその場を離れた。
 馬は少し寂しげな声でヒヒンと鳴いたが、リリィの姿が見えなくなると水を飲み始める。
 しかし妙に落ちつかないらしく、、周囲を警戒している。
 鼻がピクピク動いている所を見ると、血の匂いか魔物の匂いでもするのだろうか。
 ブルルッと一声鳴くと、また馬は食事に戻った。


「………人気がないわね…」


 村に入ったリリィは、周囲を警戒しながら進む。
 しかし人間の気配はおろか、人質をとっている筈の魔物の気配すらしない。
 民家の中を覗きこんでみたが、やはり何もない。


「……どうなってるのかしら…。
 魔物が他の場所に移動した…?
 いえ、それじゃ人質の大部分を手放さないといけなくなる…。
 確かに人質は多ければいいって訳じゃないけど…」


 そこまでの知能があるのだろうか?
 人質と言っても、実際は餌だと思っているのではないか。
 リリィは『食事』の場面を想像して、奥歯を噛み締めた。
 実際には、魔物はあまり人間を食べない。
 単に殺すだけである。
 だがどちらにしろ、この状況では大差ない。


「……魔物を倒すにしろ人質を救出するにせよ、とにかく誰かを見つけないと…。
 魔物が人質をとって閉じこもってから王宮に知らせが来たという事は、誰かがどこかに隠れているはず…」


 ただでさえ地理感が無いのだ。
 無闇に歩き回っても、奇襲を受ける危険が増すだけである。
 しかし結局の所、人を探すためにも歩き回らなければならない。


「とはいえ、幾ら何でも村の中には居ないわよね。
 魔物がすぐ側に居ると思ったら、誰だって逃げ出すもの…。
 普通に考えれば森の中……いえ、それじゃ獣に襲われるわ。
 ………ああもう、早くしないと皆が来ちゃうっていうのに!」


 ここまで先走って何の収穫もなし、だと幾ら何でもバツが悪い。
 そりゃ敵に捕まったりするよりはマシだろうが、あまりにも情けない展開である。

 リリィはとにかく、村の外側を回ってみる事にした。
 外の森から中の様子を窺うつもりである。
 それほど大きな村ではないから、一周するのに時間はかからない。
 モンスター対策のつもりだろうか、柵が村の周囲全体を取り囲んでいる。
 何もしないよりはマシだと思ったのかもしれないが、作るのならもう少し高くしたほうがいいんじゃないか、とリリィは思った。

 気配を消しながら…リリィはそんな芸当は出来ないので、実際には息と足音を抑えて…リリィは村を偵察する。


 30分もすると、村の大まかな構造を把握する事が出来た。
 しかし、やはり人間は一人も居ない。


「………血の跡だわ…」


 柵から少し離れた所に、地面の色が変っている場所がある。
 そこから何かを引き摺って行ったような形跡が見られた。
 どうやら、殺した人間を魔物が引っ張って行ったらしい。

 リリィは知らず知らずの内に、両手を握り締める。
 と、グラリとリリィの体が揺らいだ。
 反射的に木に手を付き、体を支える。


「………大丈夫、大丈夫…私は強い…。
 もう村の皆が…殺された時みたいな、弱い子供じゃない…」


 蘇りそうになるトラウマを、必死に押さえ込むリリィ。
 ここで倒れようものなら、即刻モンスターの餌になるのが決定してしまう。
 ナニが悲しゅーて、ネコりりぃをモンスターの触手プレイなんぞ使わにゃならんのだ。

 キッと顔を上げて、リリィは村の中に入って行く。


(ざっと村の建物を見た所、大人数の人質を捕まえておけそうな所は一箇所だけ…。
 人質が居なければ、放火でもしてモンスターが燻りだされるのを待てばいいんだけど…。
 それにしても、本当に村人が居ないわね。
 ……最悪の事態、想定しなくちゃいけないのかな…)


 だが、まだ確定した訳ではない。
 とにかくさっさと倒してしまおう、とリリィは行動し始めた。
 隠れて行動しようにも、この村は遮蔽物が少なすぎる。
 建物と建物の間は結構離れているし、隠れるのに丁度いい茂みも無い。
 ならば、ヘタに隠れようとせずに正面から行く。


(隠れてるって事は自分の行動を制限するって事でもあるものね。
 それに、周囲に隠れる物が無いのは相手も同じ。
 むしろこっちの方が奇襲を避けやすい…多分)


 慣れない戦況分析をするリリィ。
 この辺り、所詮はルーキーであるとリリィは痛感した。
 教科書通りに進むべきか、それともレールを外れるべきか。


(…大河はそのヘンの状況判断が、妙に上手かったわね。
 ………いけないいけない、あんなヤツの事を考えてる場合じゃないわ)


 憮然とした表情のリリィ。
 表通りに出ようとした瞬間だ。


「あの…」


「!」


 リリィに後ろから声がかけられ、反射的にリリィは蹴りを放った!
 ダメージを与える事よりも、牽制と距離を取る事を目的とした一撃だ。
 蹴り抜くのではなくて、土台にして跳躍する。


「うあっ!」


「え?」


 リリィが飛び上がった反動で吹き飛ばされたのは、14,5歳くらいの少女だった。


 その頃の大河達………


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


「師匠ー、なんかヘンな箱を見つけたでござるよ」


「なになに…ニトロチャージャー?
 これってアレか、バイクにつける…」


「でもこの箱、どう見たって機械じゃないよ。
 馬をこれ以上早く走らせるのかな?」


「リコ、ニトロチャージャーって何です?」


「爆発の力を使って、猛烈な加速を生み出す装置…でしょうか。
 いずれにせよ、この状況じゃ使ったらお陀仏ですね」


 目的地まで、あと二十分くらいの位置まで辿り着いていた。
 出発して精々30分くらいしか立っていない。
 普通に進めば、半日はかかる距離である。
 形相とかはともかくとして、確かに腕のいい御者であった。 
 しかし、本人達は現在どの位置にいるのか、さっぱり把握していない。


「いたた……」


「ご、ごめんなさい…いきなり声をかけられたから、てっきり敵かと思って…」


 リリィは蹴り倒した少女に謝り倒していた。
 威力はそれほど強くない蹴りだったが、少女はモロに喰らってしまった。
 蹴られた腕に、足跡がついているかもしれない。

 腕を摩りながら、少女はリリィに目を向ける。


「えーと、どちら様でしょうか…。
 今、この村は魔物達が占拠しているので、早い所逃げた方が身のためですよ」


「あ、申し遅れました。
 王宮から指令を受けた、救世主候補生のリリィ・シアフィールドです。
 この村を襲ったモンスターを殲滅するために、ご協力をお願いします」


「! きゅ、救世主候補の方なんですか!?」


 少女は驚いて、リリィをまじまじと見る。
 救世主のイメージと、リリィから受ける印象が噛み合わないのだろうか。

 リリィも少女を観察する。
 一見すると、何処にでもいる村娘である。
 スレンダーな体格で、髪はショートカット。
 歳に見合った、と言うべきか、華奢な体つきだった。


「あ、すいません、ジロジロ見ちゃって…。
 私は村の生き残りの、エレカ・セイヴンです。
 早速ですけど、モンスターを…」


「わかっています。
 それで、そのモンスターの姿や数を教えていただきたいのですが」


 内心、使い慣れない丁寧語に四苦八苦しながら、リリィはエレカから情報を引き出そうとする。
 周囲を警戒しながら、リリィは話す。
 しかし、内心では彼女の事を少々疑っていた。


(この人、人間かしら?
 魔物が化けているって事は…?
 こんな所に一人で、しかも戦いも出来そうにない女の子が居るなんて不自然よ。
 そもそも他の人たちはどうしているのかしら)


 リリィは魔力感知を用いて、エレカの体を流れるエネルギーをチェックした。
 魔力でなくても、人間の体はエネルギーが常に流れている。
 それを見れば、エレカが本当に人間なのか、魔物が化けているのか、あるいは操られていないかは見当が付く。

 結果は…白。
 エレカは人間である。


(警戒のしすぎだったかな?
 でも、やっぱりどうして……)


 エレカが人間であろうとも、こんな所に一人で居る理由は説明が付かない。
 むしろ不自然さがいや増すだけである。
 自殺願望でもあるのだろうか。


「セイヴンさん、何故こんな状況なのに、一人で出歩いているんです?
 他に誰か居ないんですか?」


 リリィの質問に、ギクシャクしながら答えるエレカ。
 救世主候補を前にして緊張しているのか、失礼があってはならないと思っているのだろうか。


「エレカでいいです。
 あの、実は私、魔物から指名されてるんです。
 えっと、あの、人質になっている人のご飯とか、運ばないといけませんから、だから…」


「…それで非力なエレカさんが選ばれた、と」


「……はい。
 指名を無視すれば人質を、こ、殺すと言われては…。
 どうしてか解りませんけど、私が食事を持ってきたりしている間は、人質を殺さない、と言われたんです。
 幸い、私もモンスターに何かされたりはしていません…。
 あ、他の皆さんは、村から離れた所にある洞窟に避難しています」


 気丈なエレカ。
 しかし矢張り拭いがたい恐怖を味わい続けているのだろう。
 その表情は、青ざめて今にも折れそうである。


「そうでしたか…。
 でも、もう大丈夫です。
 きっとモンスターを滅ぼして見せます!」


 リリィの言葉を受けて、エレカは少し笑った。


「それで、あのモンスターですけど…。
 ええと、数は…一匹だけでした。
 姿は…なんていうか大きな亀が、沢山の触手を持っているような…」


「一匹だけで、亀…ですか」


 リリィは想像したが、藻が沢山ついている亀しか想像できなかった。

 一匹だけなのはありがたいが、問題は触手である。
 生理的嫌悪感はさて置くとしても、手が多いという事は一度に出来る事が多いという事だ。
 最も考えられるのは、一本の手で人質を見せびらかして盾にしながら、残った触手全体で攻撃、というパターンだ。
 四方八方から伸びる触手を避け、人質を傷つけられる前に魔物を倒せるか?
 増して亀のような、という事は頑丈な甲羅があると考えられる。
 防御力はかなり高いと思っていいだろう。


(正直、厳しいわね…。
 一人じゃ勝算は低い…)


 救世主クラスの面々が脳裏をよぎる。
 同時に大河のあの発言が聞こえた気がする。

 頭がカッとなったリリィだが、強引にクールダウンさせた。
 大河に反発してここまで来てしまったリリィだが、流石にそれだけで無謀な勝負に挑むような事はしない。
 とはいえ、大河達の到着を大人しく待ってやるような気にもなれない。
 結局、無謀と解りながらもリリィは救出作戦を決行する事に決めた。
 この瞬間にも、人質達の体力は削られているのだ。


「エレカさん、ここに居るという事は、ひょっとして食料を届けに行く途中なんですか?」


「は、はい。
 この荷物の中身全部がそうです」


 そう言って、エレカは割りと大きなバッグを示してみせた。
 重さ故か、ずっと足元に置いたままだったのである。
 リリィはそれを見て考える。


(……使える、かしら?
 危険だけど………エレカさんは、頼めば協力してくれると思う…。
 でも、一般人を巻き込むのは…いえ、もうとっくに彼女は当事者なのよね…。
 気は進まないけど…)


 このタイミングの良さは、大河達が来るまで待っても得られないだろう。
 反発する心を脇に退けて、リリィはタイミングを取るか戦力を取るか考える。
 逡巡するリリィ。
 それに終止符を打ったのは、エレカ本人だった。


「あの、リリィさん…私に出来る事はありませんか?」


「……危険です、やめておいた方が…」


「父が囚われているんです!」


 声を抑えながらも、エレカは叫ぶ。
 必死の形相である。


「父は体を壊しているんです…。
 もう時間がありません。
 私に出来る事なら、何でもします!
 だから、父が生きている間に…お願い……」


 涙を流すエレカ。
 そう言われてしまうと、リリィは断れない。
 いや、普段であれば断っただろう。
 例え時間が無くても、それに流される訳にはいかない。
 無闇に特攻しても、待っているのは最悪の結果だけなのだ。

 しかし、今のリリィは少し違った。
 無闇に特攻してここまで来てしまったように、今は只でさえ情緒不安定である。
 それ以上に、エレカからの懇願のタイミング。
 迷っているリリィを後押しし、父を“破滅”に殺されてしまった時の事を思い出させるような懇願。
 それによって、リリィはエレカの懇願を受け入れてしまった。


「…解りました。
 では、危険ですが…協力してもらいます。
 まず、あの建物の構造を…」


「はい!
 えーと、構造自体はそれ程複雑ではありません。
 まずここが入り口で、左右に二つずつ部屋があります」


 エレカは地面にしゃがみこみ、落ちていた石で地面に地図を書き始めた。


「階段は玄関を入ってすぐ先にあり、モンスターが立て篭もっているのは2階なんです。
 で、2階はこんな風に、階段から真っ直ぐに廊下が伸びていて、左右に分かれています。
 魔物と人質が居るのは右側の突き当たり…一番大きい部屋です」


「……食料を渡す時、魔物が受け取るのですか?」


「いえ、人質の一人です。
 ドアから見えた時には、魔物はいつもここに居ました」


 地面に描かれた部屋の奥を指すエレカ。
 暫く考えるリリィ。


「…これなら……壁を貫通して、攻撃を仕掛けられる…。
 2階までレビテーションで浮かび上がって、そう……ファルブレイズノンで爆破、粉塵を巻き起こして目晦ましを…。
 その間に逃げてくれれば…」


 しかしこれは賭けである。
 魔物が予定通りの場所に居るとは限らないし、煙幕を張った所で、ムチャクチャに触手を振り回されればそれまでだ。
 奇襲で混乱してくれるかもしれないが、人質だって混乱するだろう。
 何か、魔物の動きを抑える物は?


(あ…そう言えば、ルビナスに教えてもらった術で作ったのが…)


 リリィは肩から提げていたバッグを探り、一つの缶を取り出した。
 これはリリィが作った…ルビナスが作ったなら、危なっかしくて使えない…アイテムで、対象に投げつけるとあっという間にトリモチに捕らえられたのように動けなくなる代物だ。
 しかし所詮は初心者のリリィが作った物なので、効果はそれほど長続きしない。
 しかし、それでも充分である。
 これで時間を稼ぎ、それでもまだ逃げ切れないようならばヴォルテックスで痺れさせるなり、アークディルで凍らせればいい。


「よし……エリカさん、作戦を説明します。
 まず、普段通りに食料を届けてください。
 魔物の姿を視認できればいいのですけど…それは都合がよすぎます。
 何とか気付かれずに、人質になっている人に脱出の準備をするように伝えてください。
 そしたら…」


 リリィの説明は続く。
 エレカは真剣な顔で聞き入っていた。


 一方大河達…。


「話は変るけどさ…。
 皆は召喚器の力が強くなってる、って感じた事無い?」


 唐突に未亜が言い出した。
 首を傾げるベリオ達。


「召喚器が…ですか?
 私は特に何も……カエデさんは?」


「拙者も無いでござるな。
 リコ殿?
 ………そもそも召喚器は?」


 そう言われて、ベリオはふと気がついた。
 誰も今まで気にしてなかったが、リコの召喚器を見た事が無い。
 ただ、救世主クラス成立当初から居たので、彼女が召喚器を使えるかなど疑問に思ってもいなかった。
 ベリオはリコに聞いてみた事が何度かあるが、未亜と契約する前のリコは…大河と会う前、と言った方が正確かもしれないが…極端過ぎるほどに無口だったため、何を聞いても単語か沈黙しか返ってこなかったのだ。

 未亜と大河はリコの正体を知っているため、召喚器が無くても不思議には思わなかった。
 いざとなったら助け舟を出すつもりだったが、それは不要だった。


「私の召喚器は『赤の書』です。
 戦闘ではなく、救世主候補生の探索に特化しています。
 聞いた話では、前回の“破滅”の際にも、そう言った救世主候補生は居たそうです。

 ちなみに、現在『赤の書』は戻ってこれません。
 召喚の塔が破壊されてしまいましたから…。
 ですが、『赤の書』は私の一部でもあります。
 その力は常に私と共にあるので、召喚器として呼び出す事は出来ませんが、力を奮う事はできます」


「そうだったんですか…」


 ちなみに思いっきりウソである。
 顔色一つ変えずに、あっさりと答えるリコ。
 いずれ聞かれる時のために、あらかじめ答えを用意しておいたのだろう。

 感心ベリオ達を他所に、未亜は同じ質問を繰り返す。


「で、その力が強くなったりしてないの?」


「………いえ、そんな事は」


 そう答えた後、リコは未亜に念話を送る。


(強くなってはいますが、それはマスターと契約し、ご主人様からも…その、エネルギーを受け取っているからです。
 基本性能自体が上昇している、という訳ではありませんよ)


「ふーん…。
 お兄ちゃんは?
 正直言って、聞くのがちょっと怖いけど」


「何でだよ」


「いや、だって…ねぇ?」


「ですねぇ…」


「だから何だって!」


 目と目で会話するベリオと未亜に、少し苛立つ大河。
 その横から、カエデが口を挟んだ。


「師匠、拙者も『シスコンの鑑』事件の事は聞き及んでいるでござる。
 ただでさえ闘技場の半分以上を穴ボコに変えてしまうよーな破壊力を持っているのに、さらに破壊力が上がったと言われれば、そりゃ恐ろしくもなるでござろう。
 だって余波で拙者達もふっとばされそうだし」


「う…」


 尤もである。
 自分で意識してあの破壊力を出した事が無い分、その主張もよく解る。
 何時どんな切欠で放たれるか、自身にも予測不能なのだ。
 乱戦のド真ん中で放たれようものなら、敵も味方も残らないだろう。

 旗色悪しと見て、話題の転換を図る。


「で、でも未亜、どうしてそんな事を聞くんだ?」


「ん〜……昨日ね、リコちゃんと訓練してたんだけど…ちょっと流れ矢が壁に当たっちゃって、穴が開いちゃったの」


「またですか…」


 溜息をつくベリオと、笑って誤魔化す未亜。
 実は未亜、闘技場で壁に損傷を何度も与えていたりする。
 まぁ、仕方がないと言えば仕方がない。
 接近戦タイプで(他に比べて)リーチの短い大河とカエデ、放った術を魔力でコントロールできるベリオ、リリィ、リコと違い、未亜の矢は一度放たれると問答無用ですっ飛んで行く。
 しかも召喚器だけあって飛距離も普通の弓矢より数段遠くまで飛ぶ。
 結果、外れてしまった矢が壁に直撃、破壊力のままに損傷…という事態が何度もある。
 ちなみに、地面に対する破壊頻度は大河がトップだ。
 爆弾と大斧がその主な原因。


「そ、それでね?
 当たった所の破壊後が、以前に壊した後の……大体2倍くらいあったの。
 私本人は、そんなに強くなった覚えもないし…それで召喚器の力が強くなってるんじゃないかな、って」


「2倍…ですか…」


「はい。
 後で見てゾッとしました」


 無表情に言うリコ。
 リコの耳元に口を寄せ、大河は囁いた。


(それ、リコと契約したからじゃないのか?)


(み、耳がくすぐったいです…。
 わ、私と契約すれば確かに能力は飛躍的に伸びますが、それは召喚器ではなく本人の力です。
 力のコントロールをするための訓練でしたが…あの破壊力は、それだけではありません)


 頬を赤らめながらも答えるリコ。
 リコによると、現在未亜に流れている力は、ほぼ全て自身の身体能力強化に当てられているのだそうだ。
 確かに弓にも力は必要だが、それを考慮しても破壊力が大きすぎる。
 現在のままでは、精々2割り増しが限界なのだ。


「で、師匠はどうなんでござるか?」


「………確かに…心当たりはあるな」


 大河の答えに、ベリオが冷や汗を垂らした。

 大河の場合、それこそイムニティとの契約のせいかもしれないが、大河はそれだけではないと思っていた。
 大河は黙って目を閉じ、自分の体の中に意識を少し沈める。
 そして、自分の内側に何かが繋がっているのを感じた。


(………やっぱり…何かある…。
 これはイムニティとの繋がり…)


 繋がりの一つは、イムニティと契約した事で出来たライン。

 そしてもう一つ、得体の知れない力がある。
 それは自分の中に存在するにも拘らず、大河の中から湧き出てくる物でもなく、外部から注入される物でもない。
 その『何か』が、自分を少しずつパワーアップさせている原因である、と大河は悟っていた。


(これ、何なんだ…?
 一秒毎に、少しずつ力が増してくるのを感じる…。
 元の世界に居た時は、こんな物は感じなかった。
 となるとアヴァターに来てからだが…。
 一番可能性があるのは召喚器だけど、ベリオもカエデも感じてないんだよな?
 トレイターとジャスティが特別なのか?)


 そこまで考えて、大河は意識を戻した。
 考えても解からない…情報が少なすぎる。


「まぁ、いいんじゃないか?
 理由がどうであれ、戦力が増えるのは心強いしな」


「そうでござるな。
 未亜殿、頼りにしているでござるよ♪」


「暢気ですねぇ…」


 そう言うベリオも、然程深刻に考えている様子はない。
 未亜自身、危機感を持っていた訳ではなかったし、ちょっと疑問を感じただけなのだ。
 が、気になるものは気になる。


「ねぇリコちゃん、召喚器が強くなる事ってあると思う?」


「…正直言って考えづらいです。
 考えられるとすれば、召喚器が何かの外的要因によって、一時的にその出力を増しているのでは…」


「ふぅん…」


「ハイヨーウ!!!」


がたがたがたがたたたた…


 その時、御者の声が一際高く響いた。
 馬車の揺れ方が変る。
 カエデが外を見ると、馬車は減速に入っていた。

 燃えている…物理的に何やら真っ赤な光を放った目で、御者が振り返った。
 思わずビビって後退する大河達。


「おうお客さん、到着したぜ!
 途中で色々と突破してきたが、どうでぃ、見事なこの記録!
 半日かかる距離を、たったの一時間足らずよ!
 だが、まだまだ頂は遠い!
 送迎最速理論の完成のため、師匠を越えるため、コイツラを再び全力で走らせてやるその日のために!
 俺様はさらなる領域を目指すのさーーーーーー!」


 狂ったような大笑い。
 さっさと逃げようと、扉を開ける大河達。
 しかしそのスピードは減速しているとはいえ、まだまだ飛び降りたら骨折くらい出来そうなスピードだ。


「……お先に失礼します」


「あっ、リコ、テメー!」


 が、まずリコが瞬間移動で逃げた。


「それじゃあ私も…」


「ベリオ殿まで!?」


 次に、なんとベリオが飛び出した。
 思いもしなかった裏切りである。
 飛び出したベリオは、どういう原理か杖に乗って滑空し、スピードを殺す。
 空中ダッシュは、召喚器の力を持ってすればそれほど難しくないらしい。

 残されたカエデ、大河、未亜は顔を見合わせる。


「………どうする?」


「…まぁ、減速しはじめているんだから、放っておいても止まりはするだろうが…」


「何か…ん?
 アレは…何でござるか?」


 飛び降りるべきかどうか思案していた大河達。
 しかし、カエデが前方を指差した。
 そちらを見ると、何やら煙が濛々と立ち上っている。


「火事…?」


「いや…あれは……爆発の煙でござる!
 師匠、あそこは目的の村ではござらんか!?」


「何だと!?」


 カーブした道の向こうに、門と柵らしき物が見える。
 カエデの言ったとおり、目的の村らしい。

 恐らく、リリィが戦闘中なのだろう。


「チッ、あのバカが!!
 …仕方ない、御者さん、あの門を通った所に止めてくれ!」


「了解了解了解ーーーー!」


 叫びながら、御者は手綱を複雑に操作する。
 馬車がグルリと振り回され、大河達は危うく転げ落ちかけた。
 そして、砂煙を上げながら…。


「ば、馬車がドリフトしてるーーーー!?」


「「馬車じゃねええぇぇぇ!!!」」


 真横に滑り、カーブを曲がって行った。
 減速しているとはいえ、メチャクチャ怖い。


「ごおおぉぉぉっぉぉっる!」


 御者の雄叫びと供に、馬車は門を潜り抜けた。
 そして馬達が揃って四肢を突っ張り、全力ブレーキ。
 そして更に。


「うおおりゃあああああ!
 足・ブレーーーーキ!」

 ずざざざざざざざ!


 なんと御者が馬車から身を乗り出し、地面に足を突き立ててブレーキをかけた。
 その効果は凄まじく、あっという間にスピードが落ちる。
 盛大な砂煙を上げながら、馬車は注文どおりの場所に停止した。


ヒヒヒヒイイィィィィィンン!!


 そして雄叫びを上げる馬達。
 それを聞き届けて、御者は満足げに気を失った。


「……死ぬかと思った」


「…トラウマになりそう」


「……と、とにかく急ぐでござるよ!」


「「!! そーだった!」」


 御者は後から来るであろうベリオとリコに任せる事にして、大河達はちょっとフラつく足に活を入れて爆発元に向かう。
 それぞれ召喚器を呼び出し、走っていく先には、相変わらず煙が立ち昇っていた。



明日!
明日ようやく!
DSDの発売だーーーーーーーー!
今日から冬休みだし、ゲームやってSS書いて布団に包まって、贅沢三昧の時守です。

クレア様ルートを目指し、明日は朝一でゲームショップ巡りに挑もうと思います!
無かったら…まず泣いて、その無念をSSにぶつけようw
…明日…晴れてくれるといいなぁ…ゲームを買いに行って、途中で氷で滑ってこけそうです…。

では、レス返しです!


1&2.くろこげ様
そういえば、確かにビルをぶっ飛ばして事がありましたね。
それ以外にも、放射能で融合してたり…。
でもそれだと、攻撃→反作用で骨折→治療→攻撃と、一撃放つ毎にメッチャ痛い思いをしなければならないという…。


3.砂糖様
ええまったく、我ながらなんという事を…後になって後悔しました、イロイロと…。

イムには属性付加はほぼ完了…と。
クレアにはエロを感じてくれるよりも萌えてくれた方が嬉しいですね〜、などと言いつつエロを強いる時守でした。
はぢらう乙女もいいですが、妖艶なクレアもいいと思いませんか?

同人少女には、思いっきり語ってもらいました。
物凄い勢いで電波が飛んできたシーンで、結構前から温めていたんです。


4.神曲様
はっはっは、ダイジョーブダイジョーブ、モーマンタイネー(棒読みで)
幻想を元に、か……それ、別の設定でちょっと考えてたんですよ。
でもすっかり忘れてて…思い出せたからメモっときます。

同人アジア……本かペンでゴーレムを粉微塵にするのでしょうか。


5.竜神帝様
もう逃げられないのは確定です。
でも、大河はリリィがネコミミを燃やしてしまった事を知りません。
……まじでどーしよー。


6.黄色の13様
し、尻にマッサージはセクハラスレスレですぞ!?

イムと同人少女がタッグを組む……恐ろしいコンビが出来そうな気がします。
サークル名は何にしようかなぁ…まず最初のモデルになるのは、間違いなく救世主クラスですね。

オープンエロス!?
というと、NARUTOのカカシやジライヤのようなオープンスケベの上を!?
昨日買って読んでます♪
なるほど、これは確かに……イイキャラですなッ!


7.ATK51様
お久しぶりです。
政治と性事…まつりごとでも可。
乱交祭りになりかけてますから。

ベリオにコスプレですか……看護婦さんでもさせてみましょうか?
スパロボはあまりやってないんですが、友達に詳しい連中が居るので聞いてみようと思います。


8.流星様
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいやホントにごめんなさい申し訳ありません!
でも大河も予備は持ってません。
元々同人少女に頼んで集めてもらったのですから、入手ルートも知りませんし…。
まぁ、なんとかパワーアップさせて復活させようと思います。

破滅の将の“あの人”は、属性の関係でちょっと問題ありです。
洒落にならない方向に壊れるかもしれませんから。


9.鈴音様
そうですか…もうそんな時期なんですねぇ…。
今頃は追い込みに入っている人達が沢山いるのでしょうか。
ああ、時守も行きたいです…欲しいものが色々あるのに。

考えてみれば、アヴァター全土がかなり濃くなっている気がします。
戦闘開始は次の節ですが…こっちはあっさり片がつきそうな予感がします。


10.ディディー様
軽率な事をしたわ、の前にはビンタじゃなくてレーザーを打ち込まれそうです。
ペルシャネコ…ペルシャか…。
白い…白いミミが…!!
いや、でもペルシャはリリィよりどっちかと言うと…(ニヤリ)

イムがどこまで逝くかは、もう電波しだいですね。
もっと先まで逝ってほしいものです。


11.3×3EVIL様
DSメンツの中で、まともな人間なぞもうとっくに絶滅しましたよ。
羞恥系…でしょうか?
大河は…今のままだと、流石に単騎では無理ですね。
パワーアップさせようと目論んでいます。


12.なまけもの様
降ってきた水は世界意思と人類の総意というヤツです。
ネコミミを守れ、全軍突撃!って感じで。

ヨガスマッシュ喰らった子供は、名前も知らないどっかの貴族の子供です。
ストーリー上、アルディアにしてもいいのですが…。
クレアは人様のモノをかっぱらうような教育は受けてないでしょう。

同人少女…いつか同人無敗とか名づけてみたいです。
でもそうなると、同人誌一つで“破滅”の軍団をぶっ飛ばすくらい強くしないと…。

まぁ、クレアにピアッシングは当分先…それこそ“破滅”が去ってからです。
重要な会議の最中にピアスというのも萌えますが、生きるか死ぬかの瀬戸際ではヤバいでしょう。


13.水城様
同人少女はギャグで重宝すると言うより、もうギャグ以外に使い道がなくなっています。

イムは…確かに百年どころか千年単位での策を練っていたかもしれませんが、それはもう全部水泡に帰してますよ?
大河に調教され、同人に出会い、「“破滅”? ナニソレ?」って感じになってます。
それでもニートじゃないでしょうか?
それにニートって、“教育機関及び訓練機関に属していない”という意味だったと思いますし…。

リリィのパワーアップイベントの際は、それこそ力を入れ過ぎるほどに腕力篭めようと思います。
丸々一話分を使うほどに。

14.悠真様
クラスチェンジはしません。
なぜなら、一度チェンジしてしまうと戻れなくなってしまうからです。
だからちょっと方向を変えて……お楽しみに♪

イムが壊れまくってますからねぇ…もう原作とは似ても煮つきませんね。
どーしてこんなになっちゃったんだろう…?

浮気は浮気でも、まぁ許容範囲では?
ご主人様と師匠の違いですし…自分で書いておいてなんですが。


15.アレス=アンバー様
ねこみみがーねこみみがー!
ベリオと未亜の血涙説教……イイですね、丁度いいタイミングがあったらネタとして使ってもいいでしょうか?

冬コミに向けて、3人でカリカリ…。
クレアはそんな時間が取れるんでしょうか?
仮にも王族なのに……でも、本当に実現しそうです。
「仕事が何だ、こっちは戦争だー!」とか叫んで聖地に突撃する様が見えるようです。
……王女って有給あるのでしょうか?

しっと団を捕らえて実験は結構ですが、マトモな結果が出るかなぁ…。


16.試作弐号機様
自作させるのもイイですねぇ。
でも、リリィってどことなく不器用な感じがしませんか?
ネコミミを作る最中に、間違って針を指に刺し、ちょっと涙目になって指を舐めるリリィ……イイかも。

イムの明日は……聖地の中に!
…大河に虐められて悦ぶようになってるし、人としての道をどんどん踏み外しているような気が…。


17.カシス・ユウ・シンクレア様
皆さんネコミミに関して物凄い反応をします…。
それだけ愛されていた、という事でしょうか?

むぅ、まだルビナスに「こんな事もあろうかと」と言わせてない…これは重要な課題ですね。
ルビナスは科学者だけでなく技術屋でもあるのでは?
錬金術は神学から哲学まで網羅した学問ですから、自分で技術を開発したり応用する、というのも錬金術の範疇だと解釈しました。

いつかクレアにも同人少女を引き合わせてみたいです。
彼女も弟子入りするかもしれません…。
そうなると、王宮の予算に項目が一つ増えるかもしれません。
『聖地特別予算』とかが…。

別のキャラの同一存在を敵キャラにするのですか…誰がいいかな…。
キース・ロイヤルとか楽しそうだけど、“破滅”が洗脳されそうだしなぁ…。


18.神〔SIN〕様
森の中でバニー…あ、青カン!?
…全年齢向けでそれはないですね。
大河は一体何をしているのだろう……あれ?
確か大河とカエデが最初に戦ってカエデが勝つと、SMチックなシーンがありましたよね?
……まさか、PS版では大河が…女装?

ムドウがバギー…ああ、シーンの方ですか。
てっきりムドウが首だけ飛ばしてくるかと思いましたよ。
あれ、でもそれは……不可能、ではないかも?
参考にさせていただきます!

むぅ、救世主クラスのコスプレ姿を想像して、色々と血とか魂が疼いてしまった…。


19.舞ーエンジェル様
り、りりりりりっりりりりりりぃのぶらぱぴ……!?
キ、キレるッ! 脳が沸騰するっ! 世界を萌えの炎が包み込むっ!
とにかくアルケミストのHPに!

……探索中……帰還

ふぅ…マジで堪能させていただきました…いやいや、鼻血の出すぎで貧血になるかと思った…。
表情が…おみ足の角度が…!ちょこっと見える乳首が!コスチュームを伸ばして指に絡めてるのが!!
素晴らしい情報をありがとう!
僕にはまだ萌えられるモノがあるんだ…こんなに嬉しい事はない…!

くぅっ、金と時間さえあれば…!
こんな酷な事はないでしょう…。
邪道なれど、アルケミストのHPから通販で何とか…いや、でも速攻で売切れそう…待て待て、こういうのは直で売る以外にも幾つか残してあるはず…。
この際だから同人少女に怒られても構わん、入手できるチャンスがあれば是非に!

しかしアレですね、デュエルセイバーが人気があるのも解りますねぇ…。


20.アルカンシェル様
本当に天罰で“破滅”を降臨させそうな方々も居りますが…。
でもそうなると、いの一番に天罰を下されるのはワタクシ……天罰の前にくたばって参ります。

ある意味、幕間的話こそが本道って気がしてきていますw

ルビナスとナナシがテッカマンですか……むぅ、月光仮面はもう使ったし…。
セーラームーンはありきたりだしなぁ…。


21.K・K様
オギャンオス!
燃え尽きたのを知ったら…まず悲嘆にくれ、リリィを責めまくり(色々な意味で)、新しいナニかを用意しようとするでしょうね。
ネコミミの辿った運命を誰に知られるかが、リリィの運命の分かれ道です。

暗示がついてないと知って愕然とするリリィの顔…欲情とか甘えが前面に押し出されているとなおヨシ!

イムとクレア…さすがにここまで逝くと、次の逝き先に迷います。

同人少女の金持ちへの怒りは、人類の半数以上の叫びでしょうねぇ…。
イムが反撃したとして……ダメだ、あっさり耐えられて逆襲されるのが目に見えてる…。

では、オギャンナラ!


22.なな月様
ミニチュアロリネコりりぃ……ぜ、ゼヒともストラップにしたい!
なな月様、老師と呼んでもいいッスか!?

寒波の影響をモロに受けておられるのですね…お察しします。

「真の萌神(生ネコミミシッポ)は友を連れ、この地に舞い降りたる。
 かの者常に真の萌神と供にあり、時に影となり、時に代理となって魔王の獣欲を蹂躙せしめる。
 かくして猛り狂う者は諸共に眠りにつき、白いマットの上でプロレスを延々と…。」
 漢達の黎明、預言の書『神々の計画』より抜粋…何だか途中でヘンな方向に進みましたが。
 ネコの復活はそう遠くない…一月中には復活させる計画です。
 本当は新年早々出したかったのですが、ちょっと間に合いそうにありません。

「かの地」は色々な事を言われてますねぇ…プライドは通れても尊厳は通れない…なんてステキなw


23.ナイトメア様
同人少女の一念だけでも、ネコミミは充分復活可能ぽいですね。
ネットワークまで動員するとは…オソルベシ。

セ、セルが人間ロケットに!?
スゲェ、見せ場だよセル君!
ロマンを体現するなんて、人気投票で1ランクアップだよ!

イム…新技、道神拳…本気で使っていいですか?
ちょっと閃きました……口上どうしよう?

ロベリアに冗談抜きで同情しそうです。

あとジャイアントナナシの『DEATH・NO♪』に本気で噴出しました。
いい掛け声ですね〜、死の気配がヒシヒシと…。

むぅ、機人大戦は奥が深い…。

ムドウが頭から光線!?
…イ・ヤ・ぢゃあああぁぁぁぁ!
そんな汗臭くてゴツくてぬるぬるしてそーな光線はイヤぢゃあああぁぁ!

ケモノミミ少女達にバッドエンドはありません!
何故なら世界が問答無用で味方するからですッ!

聖地にて…………う、受け入れるべきなのでしょうか?
この混沌性も聖地の醍醐味といえば醍醐味でしょうが…。

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