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「幻想砕きの剣 7-5(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-12-14 18:02/2005-12-21 20:37)
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 ここはフローリア学園の一角、ゴミ処理場である。
 普段は決まった人物以外は立ち入らないそこに、一人の闖入者の姿があった。
 少々険のある表情をしているが、間違いなく美少女…掃き溜めに鶴とはこの事か。

 その人物は手に持った紙袋を上げたり下げたりしながら、焼却炉の前で佇んでいる。
 焼却炉に放り込むか放り込まないか、何やら葛藤しているらしい。
 思いを振り切るかのように紙袋を焼却炉の口に近づけたかと思えば、ふっと止まって引き下がり、かと思えば頭の上や腰の後ろに手を伸ばす。
 そして頭を振って、また紙袋を焼却炉に近づける。


「うう……どうして捨てられないのよ…」


 闖入者の名は、リリィ・シアフィールドと言った。

 こうと決めたら簡単には曲げない彼女にしては珍しく、もう2時間近く焼却炉の前で佇んでいる。
 紙袋の中身は、よほど捨てづらい物なのだろう。

 リリィの脳裏に、昨日の大河の言葉が蘇る。

『な、俺のテクニックにメロメロのリリィちゃん?』

 …リリィは瞬時に沸点を超えた。


「誰がアンタなんかにー!」


 衝動に任せて、手に持っている何かをぶん投げる。
 投げられた何かは、リリィの正面に向かって飛び、見事に焼却炉に収まった。
 ボスン、と焼却炉の内壁に何かが叩きつけられる音で我に帰るリリィ。


「あ、あれ?
 紙袋は…」


 無論、さっき投げ飛ばして焼却炉の中にぶち込まれたのがそうである。
 リリィが状況を把握する前に、焦げ臭い匂いが漂ってきた。


「え、えーと……ま、まぁ…予定通り捨てられたんだし…」


 釈然としないながらも、リリィは納得しようとする。
 しかし、その胸を今まで感じた事のない喪失感が襲った。

 胸の前で拳を握り、何かに耐えるように瞠目するリリィ。
 この感覚は、何なのか?
 昔飼っていた鳥が、寿命で死んでしまった時とも違う。
 大事にしていたガラスの宝石が砕けてしまった時とも違う。
 自分だけの秘密の場所に、他人に入り込まれてしまった時とも違う。


「……うるさい…うるさいわよ、私は後悔なんかしていないんだから…」


 リリィは思い出を振り切るように、妙に力が篭った歩調で歩き出した。
 歩みがぎこちないのは、気を抜くと振り返って焼却炉に手を突っ込んででも紙袋の中身を取り戻してしまいそうだからだ。
 そんな事は許されない。
 彼女はもう決めたのだ。


「私は…私はもうネコミドバァン!!?」


 リリィの背後で、突然物凄い水音が響いた。
 慌てて振り返るリリィ。
 その先には、何だかびしょ濡れになった焼却炉。

 何が起きたのかと目を見張るリリィ。
 しかし混乱する頭よりも先に、体は勝手に動いていた。

 あっという間に焼却炉に殺到し、その蓋をこじ開ける。
 幸いにして、まだ熱くなってはいなかったので火傷はしない。
 それとも水に冷やされたのだろうか?

 そんな細かい疑問を感じる暇もなく、リリィは火が消えた焼却炉の中に身を乗り出した。


「私の!
 私のミミ!
 私のシッポは!?」


 そう、お気づきの事とは思うが、リリィが焼却しようとしていたのはネコミミシッポコスチュームだったのである!!なんと勿体無い…もとい恐れ多い事を!!

 必死になって燃えカスを穿り返すリリィ。
 この姿を見る者が居れば目を疑うだろう。
 普段の凶暴ながら優等生全とした姿からは想像も出来ない。
 まるでいじめっ子に隠された宝物を探す子供のようだ。

 やがてその手が手応えを感じる。


「私の! ………あ……」


 灰の中から引きずり出したのは、確かにリリィが今までつけていたネコミミだった。
 しかし、その殆どは既に炎に巻かれて無惨な姿を晒している。


「…私の……」


 呆然としながらも、シッポとコスチュームも拾い上げる。
 こちらも焼け焦げていたりして、もう使い物にならないだろう。

 リリィの肩に、小さな水が落ちてきた。
 ポツリポツリと水滴は数を増して行き、10秒もしない間に大雨と化した。
 さっきまでは雨雲一つ出ていなかったのに。
 実際、今も雲は出ていない。

 リリィはとても大切な何かを失くした表情で、ぼんやりと空を見上げる。
 青い空から、勢いよく水滴が文字通り雨霰と降ってくる。


「…キツネの嫁入り……いえ、これは天の涙ね…。
 そしてさっきの水音は、きっとこの子を守ろうとする人の心……」


 自分でも意味が解っていないであろう独白。
 しかしその独白はきっと的を獲ている。
 焼却炉に放り込まれたネコミミシッポコスチュームを守ろうと、空から水が叩きつけられた。
 ネコミミシッポコスチュームが燃やされてしまった事で、どれだけの人々が血の涙を流したか。
 この雨は、その涙のほんの一部なのだ。

 リリィは己が犯した、取り返しのつかない罪に気がついた。


「…何も……何も燃やすことなんてなかったのに…」


 ぎゅっと胸に掻き抱く。
 ほんの少しだけ残っているフワフワとした毛に、リリィの顔から流れた水滴が落ちた。
 暫くそうしていたが、リリィはボロボロになったネコミミ達を懐にしまい、自室に帰っていく。
 突然の雨に右往左往する生徒達に見向きもせずに。


 その後、リリィは暫く部屋に閉じ篭ったままであった。
 翌日の遠征の事を考えて眠ってしまったのだろうか、部屋には静かな…しかし魘されるような寝息が響いていた。


「………何だか、今すっごく貴重な何かが失われてしまったような気がするわ」


「…奇遇ね、私もよ」


 ここはフローリア学園の研究科の一室。
 ルビナスとナナシの部屋である。
 妙な剥製やら意味不明の道具やらが並んだ部屋で、2人の人物が腰掛けてコーヒーを飲んでいた。
 …ただしビーカーに入っている。

 部屋の主のルビナスは平気な顔をして飲んでいるが、もう一人…未亜はちょっと気味が悪そうに飲んでいる。
 毒でも飲んでいる気分なのかもしれない。
 実際、コーヒーを淹れたのはルビナスである。
 こっそり謎のクスリとか仕込んでいてもおかしくない。

 コーヒーを一息に飲み干し、未亜は棚に目をやった。
 そこには大きな容器が2つあり、別々に少女が一人ずつ入っている。
 殆ど動かず、ともすれば死体と間違えてしまいそうだが、時折口元から気泡が上っている。


「…もう殆ど完成してるみたいですね、ルビナスさんとナナシちゃんの体」


「まぁね…実を言うと、もっと前に体自体は完成してたのよね。
 でも色々と機能を付け足したりしてたら、調整が大変になっちゃって…」


 自業自得だけどね、と笑うルビナス。
 未亜はちょっと呆れたが、何も言わなかった。
 自分の兄が、ルビナスに余計なアイデアを吹き込んだりしていたのを知っているからだ。
 実際には、大河が何か言わずともルビナスがそのマッド性を遺憾なく発揮し、結局完成は伸びに伸びていただろうが。


「色々って…どれだけ付け足したんですか?
 まさか超能力とか…」


「あんな非科学的なモノ、錬金術師の名に懸けて使わないわよ」


 明らかにムッとしたルビナス。
 どうやら何かしらのこだわりというかプライドを持っているらしい。


「非科学的っていうのともちょっと違うかな…。
 超能力の類はね、脳のシナプスその他の結びつきや、霊基構造の構成、他にも色々な要素がデタラメに絡まりあって、偶然出来たものなのよ。
 要するに系統立てられた技術じゃないわけ。
 論理的を旨とする錬金術師が、そんな偶然に頼るわけないじゃない。
 脳や体や魂の働き全てを理解すれば、再現できるかもしれないけど…少なくとも今はまだムリね。
 人体の解明がそこまで進むのに、あと何百年かかるか…」


「はぁ…そうなんですか」


 未亜はイマイチ理解できなかったが、取り敢えず頷いておいた。
 ルビナスも気が済んだのか、澄ました顔でコーヒーを飲んでいる。


「ま、実際の所、人類が積み重ねてきた科学の最初の一点は、偶然からの発見だと思うけどね…。
 それはともかく、私の体の完成も近いわ。
 これで他人の脳味噌食べて、私の頭の衰えを防ぐ必要もないわね」


「やめましょーよそういう冗談…洒落に聞こえませんって。
 ……だってこんなに脳味噌並んでるし」


 真顔のルビナスに冷や汗を垂らしながら、未亜は壁際に目をやる。
 そこの一角には、所狭しと標本が並べられている。
 明らかに内臓だと解るものもあるし、これは無機物じゃないかと思う物もある。
 何気に空の容器も混じっていた。

 ルビナスは『冗談と違うわよ』と言ってみようかと思ったが、冗談として受け取ってもらえるかはかなり不安である。


「それで、どうしたの?
 明日から遠征なんでしょ?
 ダーリンとイチャついてなくていいの?」


「イチャついててもいいんですけど…それは遠征が終わってから、ゆっくりと…それはもう腰が抜けちゃうほどに」


「きっとその時には私も混じれるわね。
 あと明日か明後日に亜は体が完成して、ナナシちゃんも起きられるから」


 2人の視線は、ナナシの意識が収まっている人形に向けられた。
 今は眠っているのか、全く反応がない。

 未亜はナナシの意識はもう消えてしまっているのではないかと不安になった。


「…本当に大丈夫なんですよね、ナナシちゃん」


「大丈夫よ。
 今は聞こえないけど、毎晩毎晩騒がしいったらありゃしないの。
 元が騒々しい性格だし、ゆっくり寝ていられないわ」


 苦笑するルビナス。
 しかしその顔は明らかに面白がっている。

 あれ、と未亜は首を傾げた。


「あのー、ナナシちゃんの人形は、夜は金庫に保管してるんですよね?
 それに、ルビナスさんも毎日…じゃないけど、寮に帰ってきてるし。
 どうして騒がしいんですか?」


 未亜の質問に、あからさまにしまったという顔をするルビナス。


「…あー、実はね…ちょっとした実験…というか新しい体の新機能の実験というか…」


 何やら言葉を濁していている。
 不思議そうな顔をして、未亜はもう一度ナナシの人形を見た。


「そもそも、どうしてそんなに謎機能を付けたがるんですか?
 科学者としての意地?
 お兄ちゃんを愉しませたいから?
 それともマッドの習性?


「私が楽しいからよ」


 微塵の躊躇も無くキッパリと答えるルビナス。
 他に理由は要らない、と言わんばかりの態度である。
 そこまで潔い姿勢を取られると、未亜としても突っ込むに突っ込めない。

 しかし流石にそれだけではバツが悪いと思ったのか、付け足しくさい口調でルビナスは続ける。


「真面目な話、普通の体じゃ戦っていけないものね。
 私は…錬金術と戦術のノウハウが幾らかあるからいいけど、ナナシちゃんは戦った事なんて、地下での鎧の時だけだもの」


「あぁ、お兄ちゃんを庇ったっていう…」


「そう、それ。
 しかもそれすら戦いと呼べるようなモノじゃなくて、身代わりを務めただけ。
 新しい体は感覚素子も蘇ってるから、今までみたいに刺されようが殴られようが落下しようがもげようが、殆ど痛くないって調子じゃいかないのよ。
 今のまま戦場に出しても、あの子は足手まといにしかなれないわ。
 だったらせめて、少しでも戦闘力を底上げしておかなくちゃ」


「はぇー…」


 存外まともな理由である。
 強い痛みを感じるナナシなど、盾にすら出来ない。
 今から戦術を教え込んでも、所詮は付け焼刃だし、ナナシ本人が戦いには向いていない。
 だったら戦場に連れて行くなと言われるかもしれないが、状況が切迫してくればそうも言っていられなくなる。


「ま、戦いのための機能だけじゃないんだけど。
 やっぱりダーリンを愉しませてあげたいし、私も気持ちいいの好きだし」


「オボコなのに、経験者みたいな事を言いますね」


「……ストレートねぇ…。
 でも、一応私も…経験ある……らしいのよ?」


「ナンデ疑問系なんスか?」


 予想外のルビナスの告白。
 目をちょっと大きく開きながらも、未亜は興味津々で聞き入っている。


「疑問系なのはしょうがないじゃない。
 私の記憶、まだ殆ど戻ってないんだから」


「殆ど?
 少しは戻ったんですか?」


「ダーリンや未亜ちゃんが教えてくれた部分は、ちょっとずつ思い出してるの。
 で、その中で……何だか誰か…女の人を相手に、アヤシイ行為をした事があるような無いような…。
 多分貫通式は未体験だと思うんだけど」


 …ルビナスも未亜の同類だったのだろうか?
 未亜と違ってSではないとは思いたい。

 霧掛かった記憶を、ゆっくり引き出そうとしているルビナス。
 長くなりそうだったので、未亜は話題転換する事にした。


「それはそれとして、何時ごろダウンロードするんですか?」


「ダウンロードって…アクア・ヴィタエなんて持ってないわよ私…いつかは創るけど。
 多分今回の遠征が終わって、帰ってくる頃には……そうね、意識転送の8割は終わってるんじゃないかしら。
 いずれにせよ、意識転送自体はすぐに終わるわ。
 その時には、ダーリンにナナシちゃんを甘えさせてあげてね。
 もう長い事この人形の中にいるから、欲求不満になっちゃってるのよ」


「それはまぁ、動けない人形の中にずーっと閉じ込められていればねぇ…」


 人聞きの悪い事を、と苦笑するルビナス。
 しかし実際、ナナシにしてみれば閉じ込められているのと大差ないだろう。
 何せ指一本動かせないのだから。

 未亜はナナシ人形を手に取った。
 相変わらずピクリともしない。
 大河が来ている時には、神経も通っていないのに動いたらしいが…どういう理屈だろう?
 神経が通ってない体を動かす能力…乱装天傀?


「手荒に触っちゃダメよー、壊れちゃうから」


「壊しませんよー」


 笑いの微粒子を含んだルビナスの声に背中越しに応え、ナナシ人形をまじまじと見る。
 …一見すると、その辺のオモチャ屋で売っている人形と大差ない。
 ただナナシの意識を保存する仕掛けをしている分、少々脆くなっている手応えがある。


「この間遊びに来たお子様が、その人形を気に入っちゃってさー。
 ダメだって言ってるのに、何時の間にかかっぱらって逃げちゃって、取り戻すのが大変だったわ。
 どっかのお偉いさんの子供だったらしいけど…」


「…実験台になんかしてませんよね?」


「してないわよ…ヨガスマッシュしまくったけどね」


「あの技、徒名が折檻でしたね…」


 おそらくタンコブを山のように作っているであろうお子様に同情する未亜。
 しかしルビナスにしてみれば同情の余地はない。
 大事な実験その他の邪魔をされた挙句、大事な半身の生命線とも言えるナナシ人形を持ち逃げされたのだ。
 どういう教育を受けているのかと、小一時間ばかり問い詰めたい。 


「それにしても、これにナナシちゃんの意識が入ってるなんて、言われなければ信じられませんね…。
 一応聞いておきますけど、自爆装置とか付けてませんよね?」


「付けてるわよ」


「!!??!?!」


 本気で仰天する未亜。
 思わず勢いよく振り返り、ルビナスに向かって固まってしまう。
 何か言おうとしているのだが、混乱のあまり言葉が出てこない。

 一方、対照的に冷静なルビナス。


「正確に言うと、自爆装置なんかじゃないんだけどね。
 自衛のために付けたんだけど、ナナシちゃんはあまり使いたがらないのよねー。
 それとも、使い方を忘れちゃったのかしら?」


「自爆装置が自衛機能ですか!?
 どう考えたって、自殺か機密防衛機能じゃないですか!」


「だから、自爆装置じゃないって。
 さて、ここで問題です。
 男の浪漫・自爆装置は、自分を爆破する装置。
 では、他爆装置と言えば…?」


「…………他人を爆破する装置!?」


 ニヤリと笑うルビナス。
 恐ろしい。
 ルビナスも恐ろしいが、装置も恐ろしい。
 原理はさっぱり解らないが、これは洒落にならない。
 狙った相手を問答無用で爆破できるなら、これは強力な奇襲用具になる。
 というか、これを量産すれば“破滅”の軍団だって一蹴できる。


「でもまだまだ改良点が多いのよ。
 何せ自分で爆破対象を決定できないし、何より破壊力が小さい、火力の調節も出来ない」


「…どのくらいです?」


「自販機が丸ごと吹っ飛ぶ程度」


 充分大きい。
 しかしルビナスにとっては小さいらしい。
 多分彼女にとって充分な火力とは、部屋一つが吹き飛ぶくらいの火力を言うのだろう。


「ところで…そろそろ力を抜いた方がいいんじゃない?
 その人形、補強はしてあるけど…結構脆いわよ」


「へ?」


ぽき


 ルビナスの忠告に一歩遅れて、未亜の手の中で何かが音を立てる。
 その音を聞いた途端、未亜の全身からズザーっと音を立てながら血の気が引く。
 脂汗ダラダラ。


「……やっちゃった」


 カツン


 ナニかが落ちた音。 
 ギチギチ音を立てながら見下ろすと……生首(小)。
 無論ナナシ人形の頭である。


「あ、あああぁぁぁぁ&)#(&Q=#$#)$Q!!!!」


 もう言葉もまともに発せれないほどパニックに陥る未亜。
 無理もない。
 自分の不注意のせいで、仲のいい友人を一人殺してしまったのだ。

 しかし、対照的にルビナスは冷静である。
 未亜が暴れだす前に、落ちたナナシ人形の頭を拾い上げる。
 そして呆然自失していた未亜から人形の胴体を奪い、首をあっさりと引っ付けてしまった。


「はい、修復完了」


「!#%!==&#?
 って、そんなんでいいんですか!?
 ナナシちゃん、大丈夫なんですか!?」


「だぁい丈夫よ〜。
 さっき、どっかのガキに盗まれちゃったって言ったでしょ?
 その時にね、単純に頑丈にしただけじゃ刃物とか持ってこられたら対抗のしようがないって思ってね。
 分割されても、核の部分が無事なら問題ないように人形に細工したのよ。
 ちなみに核は複数あるわ」


 あっけらかんと言ってのけるルビナス。
 それを聞いた未亜は、気が抜けたのか背中を壁につけてズルズルへたりこんでしまった。

 それを見て、最初に言っておくべきだったなーと思うルビナス。
 実を言うとからかい半分で人形の連結を弱めていたのだが、さすがに悪趣味すぎた。
 徹夜続きでハイテンション状態になっていたので、自分の行為を振り返る余裕がなかったようだ。


(今度未亜ちゃんには、何か埋め合わせしなくっちゃ…。
 ! そーだ、処女膜回復機能とかつけて、2度目の破瓜は未亜ちゃんにさせてあげるってのはどーかしら?)


 …アイデアの是非はともかくとして、こういう機能ばっかり付加させているからルビナスは徹夜続きになるのだ。
 それでなくても色々と忙しいが、それはルビナスの能力ならば割りと余裕でこなせる範囲である。


「ほら、立って。
 暖かいコーヒー、もう一杯飲む?」


「……お、お願いします」


 さて、一方こちらはクレアとイムニティ。
 そこはかとなく重苦しい空気が漂っている。

 別に気まずい空気が発生している訳ではない。
 ただ単に、2人とも自分の世界に入り込んでしまっているだけだ。
 しかも2人揃って鼻息が荒くなってきている。

 窓を締め切り、カーテン越しに差し込む淡い光だけが馬車の中を照らす。
 その中で、2人は本を読みふけっていた。
 馬車の振動もなんのその、車酔いなぞ知った事ではない。


「……お、おおお…み、見ろイムニティ!
 これこれ、これ凄いぞっ!」


「え?
 …うわっ、こんな事まで…。
 で、でもそれならこっちだって負けてないわ」


「どれどれ…!?
 お、男同士でこんな…ふ、フケツだ…!
 こ、こんな本があったんだな…どーじんし、と言ったか?」


 …どうやら2人は同人誌(18禁)を読みまくっているようである。
 同人誌だけではなくて、ちゃんとした本もあるのだが、2人にはその区別はつけられない。
 どうしてそんな物がここにあるのかというと、イムニティがクレアの所に来る前に、超特急で王都まで移動し、さらにケモノ染みた…あるいはオタク染みた嗅覚で“聖地”を探し当ててしまったのだ。
 この辺、完全に白の精霊としての役割と性質をブッチしてしまっている…今更だが。
 イムニティがクレアの馬車の前に現れた時に持っていたのは、そこで手当たり次第に買ってきた同人誌だったのである。
 勿論大河からもらった(前借だが本人は忘れきっている)金は全額使い果たした。
 値段を計算して、一銭も残さず、効率よく買ったのはロジックの化身の面目躍如だろうか。

 イムニティはクレアの呪縛を解くとすぐさま、この本を読め、とクレアに要請した。
 訝しげな顔をしながらも、イムニティから本を受け取るクレア。
 彼女は漫画雑誌の類には殆ど触れたことがない。
 習い事やら仕事やらで忙殺され、娯楽というものにあまり触れずに育った。
 それでなくても、『このような平民の娯楽など相応しくありません』と、むしろ遠ざけられてさえいた。
 人生の2割以上を損している。
 ちなみに残りの8割は酒と宴と恋etc。

 そんな訳で、クレアは表紙を見て普通の本ではないと判断する事も出来なかった。
 読んだ事のある漫画雑誌は、大河達にフローリア学園を案内させた際に立ち読みした『月刊 赤点跳躍』くらいだったし、単行本の類は存在を知っていても触れた事が無い。

 そういった事情も手伝って、クレアは好奇心を疼かせながら本を開いた。
 ……1ページ目からSMチックなイラストだった。

 その時のクレアの驚きと衝撃は、並み大抵のものではなかった。
 てっきり血が吹き出て光物が乱舞するバイオレンスな漫画か、据え膳を食わぬ主人公がやたらとモテる類の漫画だと思っていたら、いきなり前置きもクソもないエロシーンである。
 しかもご丁寧にも、そのイラストは大河にヤられた行為そのものだった。
 無論、イムニティはそこまで計算していたりする。

 一気にパニックに陥り、再び暴れだしそうになったクレアだったが、そこは素早くイムニティが呪縛をかけた。
 暫く時間を置き、クレアが落ち着くまで待つイムニティ。
 その間にも、自分は同人誌を読み続ける。


 ようやく開放されたクレアも、色々と言いたい事はあるが、やっぱり続きが気に掛かる。
 まぁ読んでくれと言われた事だし、と言い訳をしてまた読み始めた。
 しかしやっぱり刺激が強い。
 あまつさえ、『平民が普段読んでいる娯楽本とはこーゆうモノなのか』などという誤解までする始末。

 だが、止める人間はここには一人としていない。
 むしろお互いに(無駄に)刺激しあって、次の本、次の本、まだそれ読んでるのかと読みまくっている。


 時は過ぎ、本の山が右側から左側に移動し。
 まだ読んでいない本は、右側に置かれたままの数冊のみ。
 それはもう嘗めるように目からビームとか出そうなほどに熟読した結果、ふと気がつけば馬車は王都近くまでやって来ていた。

 馬車の揺れ方の変化で、道が舗装された通路に変った事を察したクレアは、外に目を向ける。
 そろそろイムニティの姿を隠さなければならない。


「おい、イムニティ。
 本を読みたいのは心底よく解るから、そろそろ姿を隠してくれ。
 もうすぐ馬車から降りねばならん」


「………」


「イムニティ!」


「ん?
 あ、ああ、解ったわ。
 とにかく本を袋に詰め込んで」


 急いで同人誌を袋に詰める2人。
 急いでいる割には、本を傷めるような仕舞い方は一切しない。

 やがて本を全て詰め終わり…実はクレアはまだ読んでいない本を内ポケットに入れているが…、イムニティは姿を消した。
 と言っても、クレアや他の人間から見えなくなっただけで、まだ馬車の中に居る。
 やっぱり本を読んでいるのだが、さっき程には没入してない。

 車に出入りする瞬間を狙って襲撃をかけるのは、使い古された暗殺のパターンである。
 それでなくても、スピードを落とした所に襲撃をかけたり、止まる場所で待ち伏せをかけたりという事も考えられる。
 クレアの護衛を引き受けている身としては、本ばかり読んでいるわけにも行かなかった。

 終着点まであと僅か。
 クレアはふと思い出した。


「イムニティ、そこに居るのか?」


「…ええ、居るわよ。
 姿を消している時に話しかけるなら、もう少し小声にしてくれない?」


「む、わかった。
 次から気をつける。
 ところで、私に用があるとは何だったのだ?」


「?」


 姿は見えないが、首を傾げたようだ。


「だから、お主が馬車に入ってきて呪縛を解いた際、何か私に話があるとか言っていただろう。
 その後、いいから本を読めと言われたが……そもそも何のために読ませたのだ?」


 すっかり忘れていたが、クレアが本を読んだ理由はそのためだった。
 結果、見事に時を忘れて没頭してしまい、相談とかする時間が丸ごと費えてしまった。
 これも一種の罠とか精神攻撃だろうか?


「………おお!」


 しばらく沈黙した後、ポンと手を叩いた音がした。

 …イムニティ、お前マジで大丈夫か?
 冷静沈着を旨とするロジックの精霊が、変質ならまだしも自分の存在意義さえ否定しはじめてないか?

 色々な不安はうっちゃっといて、イムニティはようやく本題には入った。


「そうだったわね…。
 いやね、大した事じゃないんだけど…お金を都合してほしいのよ」


「はぁ!?」


 なんだそりゃ、とクレアは呆れ返った。
 本題と言っても、いきなりエロ漫画を見せてくるような本題だから、大した事ではないとは思っていたが…。


「金を都合と言われても…何のためにだ?
 王族といえど、いや王族だからこそ、無駄遣いは一銭たりとも許されはせんぞ」


「何のためにこの本を読ませたと思ってるのよ。
 ほらほら、この本なんか次回予告にすっごい事書いてあるわよ。
 読みたくない?
 つい1週間前に新刊が出版されたばっかりよ」


 う゛っ、と思わず言葉に詰まるクレア。
 読みたい。
 猛烈に読みたい。
 続きが気になる。
 思わず自分のポケットマネーの額を思い浮かべてしまうくらいに。


「いくら王族だからって、自分の趣味に使うお金くらいあるでしょ?
 大丈夫よ、自分のお小遣いを使ったって、誰かに咎められやしないわ。
 リフレッシュの為と理由をつければいいじゃない。
 バカ高いお金を使って、自分専用のナントカ室を造るよりはマシだって言えば誰も反論できないわよ」


「ううう…」


「マス……当真大河もこういうの好きだし、新しい話題とか出来るわよ。
 彼の事、好きなんでしょう?
 共通の話題を持っていて損は無いはずじゃない?」


「あうううぅぅぅ………」


「あの人と付き合うんなら、女同士のテクも必須よ。
 そうじゃないといいように弄ばれて、かなり悲惨な目に合うんだから。
 勿論ヤオイ本の他にも百合モノだって完備してあるわ」


 悪魔の囁きだ。
 一見すると尤もに聞こえる大義名分で外堀を埋め、乙女心をちくちく刺激する。

 顔を赤く染め、右へ左へ視線を泳がせるクレア。
 誰が見ても心が揺れているのがよく解る。


『やっぱりお前は淫乱な雌犬だな。
  縛られた上にムチで叩かれて、こんなに興奮しやがって。
  そんなに気持ちいいか?』
  『はいっ、もっと、もっと叩いてぇ!
  おマ○コを叩いてぇ!』
  『ヘンタイがっ、お望み通り躾てやる!』


「あああぅぅぁうぁうあああうぅあぅ…」


 イムニティは今度は漫画の台詞を朗読し始めた。
 教えられた訳でもないのに、大河と手口がそっくりだ。
 契約の影響か、それとも元からこんな性格だったのか。

 もうクレアは本格的にパニックだ。
 まともな判断能力など残っていない。
 チャンスを逃さず、イムニティは切り込んだ。


「ね?
 ポケットマネーをちょっと使うだけで、こんなに楽しくて刺激的な本が読めるのよ?
 手間もかからないし、王族の趣味としてはローコストだし、イイコト尽くめでしょ。
 嵩張らないから、隠しておくのも楽だしね」


「そ、それはそうだが…」


「見つからなければ何も言われないわよ〜。
 実際に買いに行くのは私が行ってもいいし、何なら隠し場所は私が担当してもいいわ」


 …何時の間にか、クレアが金を貸すのではなく自腹を切る事になっている。
 自分が隠しておいてもいいと言っているが、実際にはクレアが買った本を預かるという名目で、自分は殆ど金を使わずコレクションを増やす気だ。
 白の精霊はピンクを経過して、黒に染まりつつある。
 そーいえば大河も白の精霊のマスターなのに黒い。
 白なのに黒とはこれ如何に。

 イムニティはローコストと言っているが、それはあくまでも財力豊か(過ぎる)王族として考えたらの場合だ。
 一般の庶民的感覚からすれば、量にもよるが血反吐を吐きたくなるような金額になるのは言うまでも無い。
 しかしクレアの金銭感覚は、その辺は非常に疎い。
 政治的な金の動きと相場には聡いが、その辺に売られている品物の相場は殆ど知らない。
 当然ながら、政治的な金や相場というのは、非常に大きい金額である。

 そんな訳で、本を100冊買っても、クレアとしては本の値段というのは酷く安いモノであるように感じられた。
 そうなってしまえば、もう断る理由は無い。


「わ、わかっドンドンドン「クレア様ー! 到着しましたよー?」…!?
 イ、イムニティ、話は後だ!
 とにかく姿を隠せ!」


「むぅ…もうちょっとだったのに」


 心底残念そうに、イムニティは姿を消す。
 クレアは何食わぬ顔を装おうと、両手を頬に一度打ち付けた。
 ヒリヒリするが、パニックはやや収まった。

 それから一つ深呼吸して、クレアは馬車の扉を開けた。
 外から太陽の陽が差し込んでくる。
 パニックしていた心を癒すかのように、優しい風が吹く。
 クレアは本を読むために全く動いていなかった体を解す為、大きく伸びをした。

 御者の心配そうな顔に大丈夫だ、と笑いかけて、もう一度伸びをする。
 新鮮な空気に触れて、クレアは徐々に落ち着いてきた。
 そっと背後に注意を向けると、そこに誰かが存在しているのが解かる。
 姿を消したイムニティなのだろう。
 まるで背後霊だが、便利なので気にしない。
 いや、どっちかと言うとマスターと霊体化したサーヴァントだろうか?


「クレア様、それでは私はこれで…」


「うむ、ご苦労であった」


 御者は一礼して、馬車を引いて行く。
 クレアはそれを一瞥して見送り、王城の裏口から入って行く。
 正面から入らないのは、人目に姿を晒さないためだ。
 アヴァターの実質的指導者がこんな子供だと広まったら、それだけで不安を招くことになる。


(ま、それだけに街の雑踏に混じっても気付かれないのだがな…)


 現に未亜達は気づかなかった。
 言われなければ信じられないだろう。
 流石に王宮で働く兵士やメイドは知っているが、緘口令が効いているらしい。
 地方の領主なども、あえてクレアの姿や年齢を暴露しようとは思わない。
 そこそこ有効なカードなので、切るにはタイミングを計らなければならないからだ。

 城に入ってからは堂々と歩き、すれ違う兵士や執事の敬礼に軽く手を振って応える。
 クレアはそのまま自室へと入って行った。
 そして適当な紙に『立ち入り禁止。機密漏洩は死罪』と書き、扉に貼り付ける。
 これで人払いは完了である。
 盗聴器の類が仕掛けられていなければ、だが…その場合は、イムニティの結界を使うだけである。

 クレアは帽子を外す。


「さて、イムニティ、出てきていいぞ」


「はいな」


 イムニティが本に目を落としながら現れた。
 内容に影響でも受けているのか、少々口調がおかしい。

 とりあえずクレアは袋の中から本を一冊抜き取り、粗筋に目を通す。


「さっきの話の続きがしたいのだが…」


「ええ、いいわよ。
 集中して読めないから、本は後ね」


「むう…いたし方あるまい」


 残念そうなクレアとイムニティ。
 用事はさっさと済ませるに限る。
 特にクレアは最近冗談抜きで忙しい。
 自らが“破滅”対策に任命したアザリンがあれだけ張り切っているのに、クレアがのんびりしているなど許される事ではないのだ。
 割り振られた役割をこなそうと思えば、休んでいる暇など無い。
 今こうしてイムニティと話していられるのは、単に次の仕事まで時間があるから、そして自身の軽い休息を兼ねているからである。
 しかしそれとて、あまり長い時間をとる事は出来ない。
 忙しいのも事実だが、クレア自身が基本的に仕事の虫なのである。


「さて…私が自腹を切るのは、まぁいいだろう。
 確かに王族の道楽としては、コストはかからない…と言うより、タダ同然と言っていい。
 時期が時期だが、まあ許容範囲だろう。
 今更私の趣味や娯楽に口を出すほど、老人どもも口煩くはあるまい…今頃は自分の保身に走り回っておるだろうしな」


「だったら、提案はOKという事?」


「焦るな。
 まずは幾らか金を渡すから、私の代わりに本を買ってきてほしい。
 無論カタログの類も忘れるなよ。
 市場の相場やら流通している本やら、知りたい事は山ほどある」


 たかが漫画にそこまでするか。
 クレアは今にも市場に戦争を仕掛けそうな勢いである。
 思い立ったら一直線。
 行動力がありすぎるのも考え物だ。

 しかしイムニティはむしろ満足気である。
 これで彼女は、労せずして市場のデータを得る事が出来る。
 いざとなったら、多少のデータ改竄も出来る。
 ほぼイムニティが狙った通りの状況となっているのである。


「了解したわ。
 とは言っても、あまり長い間離れているのはね…。
 そう……今から2時間程度で戻ってくるわ。
 その時間内に、本を買えるだけ買って、データを集められるだけ集めてくる」


「うむ、頼んだぞ。
 私は……この部屋に居なければ、多分あちらの塔の3階に居る」


 そう言って、クレアは窓から塔を指差す。
 その塔には、今はアザリンが居て、“破滅”に対抗する策を練っているはずだ。

 イムニティはチラリと塔を見ると、念のために周囲の気配を探った。
 不穏な気配は感じられない。


「…それじゃ、行ってくるわ。
 何か注文はある?」


「これとこれとこれの続きがあったら買ってきてくれ」


「そっちのは、まだ新刊は出てないわよ。
 ま、あったらね」


 そう言うと、イムニティは姿を消した。
 クレアはそれを見届け、豪奢なベッドに倒れこむ。
 普段ならそのまま短時間ながら熟睡して疲労を癒すのだが、今日は違う。
 神経が昂ぶり、眠る所ではないのだ。

 まず手の中にある漫画の続きが気になる。
 そして、つい数時間前に大河にされた行為が脳裏に浮かんで…。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」


 ばふばふばふばふ


 骨まで沈み込みそうなベッドに潜り込み、枕や布団をバンバン叩く。
 勿論首筋は真っ赤に染まっており、見えないが顔はにやけたり真っ赤になったり目玉グルグルになったりして忙しい事この上ない。

 漫画を読もうと思っていたが、クレアはもうそんな余裕は無い。
 頭に恥ずかしい想像や記憶がとりとめも無く浮かび、読んだ漫画の中にあったシーンが自分と大河に置き換えられ、体がカーッと熱くなってくる。
 あまつさえ、股間とか胸の頂点がムズムズし始めた。

 その感覚が、大河によって引き起こされた快楽に繋がるものだという事を、クレアはしっかり覚えていた。


「………いや我慢だ我慢。
 今ここで、じ……自慰なんぞしたら、色々と面倒になるではないか…。
 大体、日が沈む前からナニを考えているのだ私は…。
 ヤったら服が濡れるではないか。
 何時誰がやって来るか解らぬのに、そんなマネは…」


 そこまで言うと、クレアはピタっと言葉を止めた。
 先ほど読んだ漫画のワンシーンが蘇る。


「…誰が来るか解らないから気持ちいい…だったか?
 ……本当か?
 いやいや、気持ちいいとかそういう問題ではなくてだな…。
 問題なのは私から出た蜜とかで下着が濡れ…そりゃ確かに脱げばいいのだが…」


 チラリ、とクレアは扉を見る。
 立ち入り禁止と通知を出しておいたが、場合によってはそれを無視して入ってくる者も居る。
 報告は時と場所を選ぶな、ただし状況を吟味せよ、と配下の者には教え込んでいる。
 緊急の知らせがあったりした場合は、そこが例え賢人会議のド真ん中でも殴りこんでくるだろう。
 そして、緊急の知らせというのは何時現れてもおかしくない。
 それこそ今この瞬間にでも。

 だから今からナニをするなぞ論外なのだが…。


「ま、ますますもって同じシチュエーション…。
 それに…緊急の知らせと言っても、問答無用で中まで入ってくる事は無いし…。
 …………ちょ、ちょっとぐらいなら…大丈夫…かな?」


 ダメだダメだとは思いつつ、どうしても意識がそっちに行ってしまうクレア。
 このまま悶々としていても休息にはならないから、と理由をつけて、とうとうクレアは折れた。
 いそいそと扉に鍵をかけ、カーテンを閉める。
 開けておこうかという考えも過ぎったが、さすがにそこまでの度胸も性癖も無い。

 クレアはふと床を見る。
 そこには、イムニティが持っていかなかった袋が転がっていた。
 漫画が入っていたあの袋である。
 中身を見ると、長い紐が何本も散らばっていた。
 どうやら本を纏めるのに使った紐らしい。


「…………」


 十秒経過。
 ボン、という音と供にクレアの耳から湯気が噴出した。

 クレアは顔を真っ赤にしながらも、その内の一番長い紐を手に取った。
 コブ結びをして、2,3個のコブを作り出す。

 最後にもう一度扉に鍵がかかっているか確認し、ベッドの上に乗る。
 躊躇いで動きが時々止まりながらも、クレアは下着を脱ぎ、少し考えてスカートも脱いだ。
 すぐに着られるように、横に置いておく。

 …つまり、今のクレアの格好は、上半身は普通の服、下半身は下着もスカートも無し、ただしニーソックス。
 そして手には紐を持っている。

 顔を紅潮させ、息を荒げながら、躊躇いがちにクレアは片手を自分の後ろに回し、股越しに紐の端を掴んだ。
 そのまま横たわり、なんと紐を引いて股間に食い込ませた。


「んっ……」


 声を漏らすクレア。
 暫くそのまま躊躇していたが、覚悟を決める。

 紐を食い込ませたまま、後ろに引っ張った。


「!!!!!」


 声にならない声が上がる。
 今度は前に引く。


「!!!!!!!!」


 コブがクレアの敏感な場所に擦れ、クレアは紐を手放しそうになった。
 予想以上の刺激に、頭が真っ白になる。
 このまま続けてしまったら、と思うと、クレアは恐怖を禁じ得ない。
 しかし一度始めてしまった行為は、クレアの意思でももう止まらない。


「あ、あああぁぁ…た、大河、大河、大河ぁ…」


 ついさっきの初体験を思い出しながら、クレアは紐を動かし続ける。
 紐が擦れ、コブが擦れ、その度にクレアの体はビクビクと震えた。
 もう股間は少女とは思えない程に濡れていて、垂れた蜜が布団を濡らしている。


「も、もっと…もっと強くして……乱暴に…た、大河ぁ!」


 紐の動きが、荒々しくなる。
 一拍置いて、クレアの体が激しく仰け反った。
 ピン、と体全体を緊張させて、次にはクレアは崩れ落ちた。
 荒い息が響く。
 仕事の時間が迫っている事を思い出すまで、クレアはそのまま倒れていた。


 さて、一方こちらはイムニティ。
 クレアから金をせしめたイムニティは、寄り道なんぞ考えもせず、聖地に舞い戻っていた。
 今日はイベントでもあるのか、妙に人が多い。
 怪しげな格好をしているのもちらほらと、怪しげなグッズを売っているのもちらほらと。


「さって…とにかくお目当ての本だけを先に買ってしまいましょう。
 私が読みたいのと、クレアに頼まれたの……最短ルートは…。
 人気を考えると、優先するべきは…」


 その明晰な頭脳で、無駄に綿密な計画を組み立てる。
 …導きの書と白の精霊の名が泣いているような気がしないでもない。

 時々幻影石でイムニティを撮影しようとしている人々も居たが、生憎イムニティはそれを許すつもりはなかった。
 自分の存在は、今は隠蔽しておいた方がいい。
 リコとそっくりの人物が居る、という情報が万が一ミュリエルの耳にでも入ったら、救世主クラスの人間に疑惑の目が向く。
 何よりも、この聖地に土足で踏み入られるような事が起きてしまう可能性がある。
 それだけは何が何でも避けねばならない。
 目撃情報くらいなら許容範囲だが、写真…物証はダメだ。


「…千年前までは、こんなに楽しい事なんか知らなかったのよねー。
 もしあの時、ロベリアの意思を遂行していたら、この本も…。
 恐ろしい事をしていたものだわ」


 本気で新しい世界を作ろうとするの止めようかなー、なんて考えるイムニティだった。
 それでいいのか。
 というか、同人誌の存在だけで進路変換を望む程度の志だったのだろーか。
 歴代救世主達も浮かばれまい…というか、怨霊になっても不思議ではない。
 むしろならない方が不思議だ。

 それはそれとして、イムニティは実に効率よく買い物を済ませていく。
 カタログというかパンフを見て、興味があるものはチェックを入れ、サークル名を確認して覚え、さらにヘンなコスプレをしている人物が居たら幻影石で保存する。
 そして行きかう人々にぶつかりもしない。
 何だか異常に馴染んでいるイムニティ。

 そのイムニティの前に、一人の少女が立ち塞がった。


「きゃっ!?」


「!?」


 いや、進路がかち合っただけなのだが。
 ばらっ、と本が落ちる。

シャ   シャ シャ
  シャシャ
   シャ    シャ

 …前に、四つの手が宙を裂いて本を全て確保した。
 最後の一冊に、同時に手が伸ばされる。

ガシッ ガシッ


「…………」


「…………」


「……やりますわね」


「……アナタこそ」


 本に手を伸ばしたまま2人は見詰め合う。
 左手には散らばりそうになった本を、右手には最後の一冊を。
 2人の目の間で火花が散った…ような気がする。


「……どうやらこの本は貴女の本のようね。
 ごめんなさいね、間違えちゃって」


「間違えたのではないでしょう?
 お蔭で落さずにすみました…」


 2人の持っている本は、自分が持っていた本だけである。
 バラけそうになった瞬間には、お互い交じり合っていたのにだ。
 別に自分の分だけを確保したのではない。
 ちょっとスローモーションで再生してみよう…。


「きゃっ!?」


「!?」


 ぶつかるイムニティと少女。
 手から離れ、バラバラと宙を飛ぶ本。

 瞬時に体勢を立て直す少女とイムニティ。
 この瞬間、2人の目があった。


((この女……出来る!!!!))


 …まぁ、何も言うまい。
 それはともかく、2人は眼前を飛ぶ本に手を伸ばす。
 自分の手に届く範囲にある物、地面に落ちそうな物が先だ。
 どちらの本かは関係なく、2人は両手を伸ばした。

シャ   シャ シャ

 イムニティの両手が、少女の両手が、それぞれ2冊ずつ確保する。 
 そして瞬時に、相手の本か自分の本かを判別。

  シャシャ

 自分の本は左手で確保し、相手の本は相手の側にパス。
 パスされた本は、まるでコンピュータで弾道を計算・制御されたかのように、相手が左手で確保している本の上に納まった。
 その間にも、右手は未だ宙を舞っている本を確保し続ける。

   シャ    シャ

 この繰り返しが軽く数十回。
 風切り音が数えるほどしか聞こえないのは、早すぎて音が一つに聞こえているからである。
 スローで見ると、今にも「全新系列」「天破侠乱」とか言い出しそうだ。

 そして最後の一冊。
 2人の右手が同時に伸びる。

ガシッ ガシッ

 2人は本の両側から、同時に本を掴んだ。


「…………」


「…………」


「……やりますわね」


「……アナタこそ」


 と、まぁ大体こういう経緯である。


 回想終わり。
 イムニティは本から手を離した。
 チラ、とタイトルを見ると、イムニティが知らない漫画の2次創作である事が見て取れた。
 あるいはオリジナルかもしれない。
 イムニティは少し興味が沸いた。
 まだ財布に余裕はある。


「ねぇ、その本はどんな内容なの?」


「は、これですか?
 極々普通の、バトル漫画のコメディ二次創作です。
 …興味がお有りで?」


「ええ。
 まだお金はあるから、買ってこようかと思ったんだけど…」


「でもこれ、結構希少ですよ。
 まだ残っているかどうか…」


「とにかく行ってみるわよ。
 どこで売っているのか、教えてくれない?」


「それなら、案内しますよ。
 欲しかった本は大体揃えましたし、もう他の本は買えそうにありませんから…何分資金不足で」


「本当?
 ありがとう」


 少女は本を袋にしまい、立ち上がった。
 イムニティも、手に持っていた本を全て袋に入れる。

 イムニティは、改めて少女を見た。
 それほど特徴的な風貌をしている訳ではない…と言っても、あくまでこの聖地ではの話だ。
 地味ながらも、見るものが見れば一目でコスプレだと分かる制服。
 何気に胸元が開き気味だったりする、現実にはまず存在しない制服だ。
 これで街を歩いていたら、どこかで水商売のバイトでもしていたのかと思われるだろう…いや、精々キャンペーンガールだと思われるくらいか。
 しかしその胸元も、胸自体があまり大きくないので大した意味を成さない。

 髪は少し長めで、少し茶色かかった黒。
 染めているのではなさそうだ。
 察するに、コスチュームを作ろうとしたが時間が足らず、早く出来そうな格好を選んだ、という所だろうか。
 ちなみに彼女は、一部の人間からこう呼ばれている。
 同人少女、と…。


「さぁ、それでは行きます。
 こっちですよ」


「はいはい」


 少女の足並みは、イムニティ以上に聖地に馴染んでいた。
 どこに何があるのか把握し、人通りの多さや距離を考えて、最短ルートを弾き出す。
 手に大荷物を持っているのに、ふらつきもしなければ人にぶつかりもしない。
 イムニティにぶつかったのは、何か超常的な力でも働いたのだろう。
 イムニティの演算に任せた進路とは違い、経験に裏付けされた進路である。


「…やっぱり、ここに来て長いの?」


「はい。
 生後3ヶ月くらいには、ここに連れて来られていたそうです。
 親が大好きだったもので…」


 何処に赤子連れでコミケに行くバカモノが居るのか。
 呆れるイムニティだが、そのお蔭でこれほどに馴染んでいるのかと納得した。


「そういう…ええと…」


「イムニ…もとい、インフィニティよ」


「では無限ちゃんと」


「…まぁいいけどね」


 偽名を名乗るイムニティ。
 なんとなく言葉が似ているから、その場の勢いで名乗ってしまった。
 少女は、イムニティが名乗った名前が偽名だと気付いているようである。


「では、私も…ボッサノバ・ビバノンノと呼んでください」


「…見かけによらない名前ね」


「このキャラのあだ名ですよ」


 一体何のキャラクターのコスプレをしているのか。
 まぁ、どんな格好をしようとそれは人の自由である…限度があるが。
 とりあえず、イムニティは彼女の名前を呼ぶまいと決めた。


「それで無限ちゃん、アナタはここに来たのは…今日が初めてですね?」


「ええ、知り合いからこういうイベントがある、って教えられて、王都まですっ飛んできたのよ」


「そうですか…道理で見ない顔だと思いました」


「アナタ、この会場内にいる人を全部把握してるとでも言うの?」


「全部じゃありません。
 ですが、無限ちゃんみたいにスイスイ動けるくらいに馴染んでいる人は、大体顔を覚えています」


 ムチャクチャだ。
 イムニティは、先ほど感じた少女の実力を修正する。
 彼女は自分と互角だと思ったイムニティだったが、どうやらそれは違ったらしい。
 どうやら段違いのようだ。
 これが経験の差というものだろうか。


「それより、お金は大丈夫なんですか?
 この本、他のと比べて……高いですよ」


「大丈夫。
 元々私のお金じゃないし、かなりの額を渡されたから。
 それに、上手く行けば買占めだって出来るようになるのよ」


「…………なんですって?」


 ボッサノバ・ビバノンノ…もとい、同人少女の動きが止まる。
 何かとてつもなく不穏な事を聞いた、と言わんばかりに硬直してイムニティを見つめる。


「…もう一度…言ってくれませんか?」


「?
 元々私のお金じゃない…の事?」


 首を傾げるイムニティ。
 その視線の先で、同人少女は俯いてプルプル震えだした。
 何気に両手が握り締められ、血さえ滴り落ちている。

 イムニティは下から少女の顔を覗き込んだ。
 と、その瞬間に同人少女は顔を上げる!
 その視線に、禁書庫でのリコの表情が重なり、イムニティは反射的に飛び退こうとした。

 が、遅い!


「このバカ弟子がああああぁ!」

ドガァン!


 後ろに下がろうとしたイムニティの脳天に、同人少女の踵が減り込む!


「かふっ…」


 口から血を吐くイムニティ。
 どうやら口の中を切ったらしい。

 堪らずよろめくイムニティを見据え、同人少女は仁王立ちする。
 もう周囲の視線は2人に釘付けだ。
 しかし誰一人として通報する者は居ない。
 理由は簡単で、イベントだと思われているからだ。
 現にパンフを捲っている者もチラホラ居る。
 尤も、例えイベントでなかろうとも、周囲の迷惑にならない限り誰も止めはしないだろうが…。
 周囲の迷惑?
 この聖地には、フローリア学園の生徒が沢山来ているのですよ?
 この程度が迷惑として認知されるとお思いで?

 それはともかく、イムニティは2センチくらい短くなった気がする首を支えて、ようやく同人少女に向き直った。


「な、ナニよいきなり!?
 私はアナタの弟子じゃないし、一体何が気に入らないっていうの!?」


「人の金で自分の本を買おうという、その根性に決まっているでしょうが!
 いいですか、同人誌とはメジャー雑誌に掲載されている漫画と違い、とかく誤解を受けやすいのです。
 確かにプロと呼ばれている人々が描いている既存の設定やキャラクターを無断で借り受けるという点は歓心できないかもしれません。
 しかし、それは決してメジャー雑誌の漫画と比べて劣っていたりするのではありません!
 他人が描くキャラクターの性格を掴み、絵柄を似せ、独自の設定を作ったりアナザーストーリーを作り上げたりするという、別系統の技術が必要とされる、ある意味では完全オリジナルストーリーを描く事と対等な作業なのです。
 世間一般では同人誌はマニアの領域だ、などとしたり顔で抜かす輩も居ますが、そんな連中は自分の姿を省みなさい!
 アナタ達だって漫画を読み、小説を読み、時には『こうだったら面白いのに』などと想像するでしょう!
 自分が知らないから漫画だからマニア!?
 実物に触れもせず、マスコミが都合よく捏造した歪んだ像だけを見てキモイ!?
 アンタら一度聖地に来なさい、そして本物に触れなさい!!!
 インフィニティさん、アナタは経緯はどうあれ、この聖地までやって来ました。
 聖地の事を知らなかったという事は、同人誌の存在を知った事自体それほど前ではないでしょう。
 そこで偏見に囚われなかった事は素直に感心できます。
 しかし、その軍資金を他人の金を当てにするとは何事ですか!」


「い、いいじゃないの!
 他人から貰ったお金でも、今は私のお金よ!
 …確かに借りてるだけなんだけど、まぁ仮契約でも契約は契約よね」


「だぁからお前はアフォなのだぁ!」


 押されながらも必死に反論するイムニティ。
 しかしその反論は、物凄い迫力の同人少女の一喝によって掻き消された。
 アンタはマスターアジアか。


「サークルの人たちが必死で、世間の白い目にも印刷所の締め切りにも眠気にも負けずに書き上げた珠玉の作品達…。
 そして限られた予算の中で、真に欲するアイテムだけを競って求める我々購読者…。
 他人の金などという、自らの財布を痛めぬ買い方をしたとて、それでは真の楽しみは得られません!
 己が汗水垂らして稼ぎ、爪に火を灯しつつ捻出した自費を使ってこそ、サークルと購読者は対等の立場に立つ事が出来る!
 ちょっと興味が沸いた物を衝動的に買っていては、お話になりません。
 確かにそういう楽しみ方があるのも認めましょう、しかし私と一瞬とはいえ対等に渡り合ったアナタがそのような行為に走るなど、私には我慢なりません!」


「アナタが我慢ならなくても、私にはなんの関係も」


「あります!
 はっきり言いましょう、あなたの考えは侮辱です!
 私に対するものならばまだ我慢も効きましょう、しかし無限ちゃんのは聖地に対する侮辱と言っても過言ではありません!
 幼稚園の遠足みたいに一月に300円しか貰えない子供ならいざ知らず、無限ちゃんはバイトも出来る年齢でしょう!」


 確かに出来る…というかしている。
 そもそも、今イムニティが聖地に居るのはある意味サボリだったりする。
 それを思い出したのか、益々イムニティが言葉に詰まる。
 それ見たことかと、同人少女はカサに来て責めかかった。


「自腹を切りなさい、自腹を!
 最初から他人の財布を当てにするなど、言語道断です!
 親の脛をかじっているニートでさえも、ここでは自分の財布のみを頼るのです!」


 力いっぱい拳を握って断言する。
 確かに同人少女の言う事は一理あった。
 玉石混淆のこの聖地の中で、自分の懐を痛めずに買い物が出来るなどと思わない方がいい。
 例え今はよくても、何が切欠で財布を放り出すハメになるか解らないのだ。
 もしその時に、何が欲しいか、何処が質のいいサークルかを見分ける目がなかったら?
 あっという間に散財し、残るのは興味のないジャンルの本だけだ。
 別に聖地に限った事ではない。
 他人に時々タカったり奢られたりするのはいいが、最初からそれを当てにするな、という事だ。

 さて、同人少女から激しい叱責を叩きつけられたイムニティはと言うと……かなりショックを受けていた。


「ニ、ニート……今の私はニート以下……?
 そりゃ確かに学校にも行ってないし就職も就職活動もしてないけど、それは私には戸籍なんて無いし、そもそも行く必要もないからよ…。
 バイトはしてるわ……で、でもよく考えてみたらそれもマスターに従うのは当然の事であって、それで給料を貰っても別に誇れるような事じゃない…。
 そー言えばそのバイトもエスケイプしてるようなモノだし、私って一体……?

 そ、そう…そうよ、私は書の精霊なんだから…ああっ、でもリコは学校に行っているからニートじゃないわ。
 根本からして、今の私は書の精霊だからどーとかこーとか言える行動をしてない…。
 わ、私は、私は、私は………?」


 ネガティブゾーンにはまり込むイムニティ。
 ブツブツと小声で呟きながら、周囲を巻き込んで黒い空間を展開している。

 一方同人少女の方はと言うと、何時の間にやらイムニティを相手に説教垂れるのではなく、自分の世界というか主張に嵌まり込んでしまっているようだ。
 その強硬かつ一方的ながらも、誇りと自尊心を持った主張に、周囲の観客達はうんうんと、人によっては涙さえ流しながら頷いている。
 彼女は女神になれるかもしれない。
 ………彼女の趣味に習って、某ネコの同人誌が流行りまくるような気がする。


「そう、これはアナタのために言っているのです!
 決して他人様のカネだとしても予算や生活費を殆ど気にせず買い捲れるアナタに嫉妬したわけではありません!
 ええ違いますとも、貧乏人が、苦学生が必死こいて資金を捻出しているのに、アナタという人は、アナタと言う人は!
 チクショー、チクショー、何だかとってもコンチクショーーー!」


 ………ま、根っ子はこんなモンですね。
 しかしそこはそれ、このくらいならキャラの持ち味として受け止めてしまうのが聖地の人々。
 落胆される事も無く、それどころかむしろオチがついた事で満足する始末。

 同人少女はまだ叫び続ける。
 しかしそれとは反対に、イムニティはネガティブゾーンから復帰しつつあった。
 いや、復帰どころかむしろ覚醒とか黄泉帰りとか表現した方が適切かもしれない。
 なぜなら、そのバックには鉄をも溶かす粋な3000度の炎が燃え盛っているからだ。


「ふ、ふふふふ……そう…そうね、確かに今の私はニート以下かもしれない…。
 でも!
 ヒトは!
 そう、ヒトは忘れる生き物なのよ!
 私がニートよりも、リコよりも下だという事は今は認めましょう、でも同じ過ちは二度としないわ!
 お金を出してくれるというなら有難く頂くけど、最初からそれを狙うような事は絶対にしない!
 クレアともいい友人になれそうだし、もう金づるとして見るようなマネはしないわ。
 そうやって生きるからこそ、ヒトは成長するのよ。
 見ていなさいリコ、マスターの下僕…もとい、ええとパートナーとして相応しいのはこの私よ!」


 見ていなさいと言われても、リコは何を言われているのかさっぱり解らないだろうが…そこはその場の勢いだ。
 やはりリコに対する敵対心というかライバル心は、相変わらず燃え盛っているらしい。
 経過はどうあれ、とにかくイムニティは立ち直った。
 何時の間にか、同人少女がその肩に手を置いている。


「そう、それでこそ私が見込んだ聖闘士です。
 アナタが道に迷う時、暗がりで惑う時、私はどっか近所の家の屋根の上に立って、マントを靡かせながら見守り、時に手を貸しましょう。
 そしてアナタは私をその時こう呼ぶのです。
タイガーヂョーと!!」


「よろしくお願いします、師匠!」


 強くお互いの手を握り合う。
 2人の間に、無駄に強い師弟の絆が結ばれた…かもしれない。
 周囲の観客が、幻影石を発動させまくっている。


「さぁ、まずは全力で殴りあう代わりに、閉店時間まで聖地巡りをしてオタク度チェックです!」


「お供します!」


 …ちなみに師匠とは英語でマスターというのだが、浮気か? イムニティよ。


 そして日が暮れて……。
 王城の一室、クレアの部屋である。
 クレアは本の読みたさ故か、普段の数倍のスピードで仕事を片付けてしまった。
 そして空いた時間を、自室でイムニティを今か今かと待つ事に費やしていたのだ。
 イムニティが置いて行った漫画があるので退屈はしなかったが、そろそろ帰ってこないのかと心配になっている。


「ん? おお、イムニティ、帰ったか」


 本を数冊読み終えた時、ようやくイムニティが帰ってきた。
 クレアはイムニティを見て目を輝かせ、次いで怪訝な顔をした。

 イムニティは、何やらえらくボロボロになっているのである。
 戦闘の後という訳でもなさそうだが、一体どういう事だろうか。


「ただいま、クレア。
 それと…ごめんなさい」


「な、何だいきなり?
 まさか財布を盗られて本を買えなかったとか、そういうオチか?」


「いえ、そっちは抜かりないわ。
 謝ったのはこちらの都合よ。
 気にしないで」


「???」


 正直に告白しようとは思わないのか、イムニティはクレアを金づるとして見ていた事は黙っていた。
 経過と目的はどうあれ、合意の上で契約したのだから責められるような事はないと思っているのかもしれない。
 それに、ビジネス上の取引とは大体そういうものであろう。


「それより、なぜそんな格好になっておるのだ?」


「ああ、これ?」


 イムニティは所々破れている服を摘んで見ると、誇らしげに微笑んだ。


「とても、素晴らしい人に会ったのよ」


「…………?」




えー、後書を書くのをすっかり忘れていて、今更書いている時守です。
せ、世界の至宝を燃やしてしまいました。
どうしよう。

それはそれとして、あと一週間ほどでDSD発売です!
丁度冬休みだし、速攻でヤルぜぇぇ!
クレア、今度こそ幸せになってくれい!


それではレス返しです!

1.砂糖様
…イムの口から、人間の上半身が出てくる所を想像してしまいました…。
何かの漫画であったよーな気がします。

精霊と言っても、所詮は大河と契約するどっか抜けた精霊ですからね。
こうなるのも無理はないかと…。

セルは…自分で書いてて、ちょっと羨ましくなりました。
そして自分が虚しくなりました。
中高生時代よ、カムバーック!って感じです。

恥らう女の子はいいですね、もっと恥ずかしがらせてイヂメたくなります。
恥ずかしいのを我慢して、ナニかをしてくれる女の子とゆーのは、これはっ、これはもう!
そーいえばセルもクレアに気があったようですね…ちなみにアルディアは、クレアよりちょっと年上のギリギリな年齢です。
こっちでもロリ扱いだよ、セル…。


2.神曲様
駄目なヤツは何をやっても駄目…むぅ、耳が痛い…。
しかしその理論で行くと、イムニティはともかくダウニーは洒落にならない事になりますよ(汗)

今回のクレアは、別の方向に暴走していましたが…どうでしょう?


3.アレス=アンバー様
イムニティが801を書いている…何故だろう、物凄くリアルに想像できる…。
みかん箱の上とかで、ドテラを着て広いデコを光らせながらカリカリカリカリカリカリ…偶に派手なアクションをする。
そして時々大河やリコが差し入れに来るのだが、ちょっと油断すると引きずり込まれて、最終的には売り子まで…。

モンスターの女装は、こっちから願い下げってカンジです、いやホントに。
想像して飲んでた酒が一気に抜けました。

しっと団が“破滅”の軍団…その手があったかッ!
…ひょっとして“破滅”って、モテない男たちのエネルギーの暴走だったり…。


4.神〔SIN〕様
確かに、未亜ルートではあの2人の関係が意外な形で描かれました。
あれ、こいつら一匹狼じゃないのかなー、と思ったのですが…一種のシンパシーというヤツでしょうか。
ムドウもシェザルも、自分の望んだ道を突っ切って、その果てで死ぬというのは解りきっていた事なのかもしれません。
ただ、その道というのが人の範疇から外れていただけで。

イムニティが薔薇に目覚めた…今度はダレのナニを覚醒させましょうかねぃ…。

聖地に関しては…案外居るかもしれません。
自分の楽しみのためなら、どこまでも行く連中がネットワークには結構居るんで。
でも、案外アニメやドラマとしてアヴァターに存在するかもしれませんよ?
EVAの世界だけではなく、こうしてSSを読んだり書いたりしているのと全く同じ様子が、どこか別の世界で、偶然にもスクリーンの中に映し出されているかもしれません。

連結魔術とパラダイム・シフトは、何ら関係はありません。


5.くろこげ様
本人が幸せと言っていても、見守る視線がナマ暖かくなるのは仕方ないでしょうねぇ…。
クレアだけでなく、女性陣全員がそれに当てはまる気がします。

しっとマスク…不死身っぷりでは対抗馬になりそうですが、アレは軍人のクセしてパンピーよりも弱い事が…。


6.アト様
ご指摘ありがとうございます!
後で直しておきます。


7.流星様
そうですねぇ、幸せも不幸も本人の主観次第ですから…本人が良いと言えばそれでいいって事で。
腐女子になってもMになっても、別に人に迷惑はかけてませんし。
…親が見たら嘆くかもしれませんが。

○リキュアか…そうなると、もう一人増やした方がいいでしょうか?


8.鈴音様
ついでにと思って書いたのですが…ウケてくださって何よりです。
現代版浦島太郎とか名づけようと思ったのですけどね。

日にちが経つのが遅いのは、どうしても…。
キャラが多くなってきてしまったので、一通り書こうとすると長くなってしまいます。
えーと、ルビナスとナナシのボディが完成するのは…目算して7-8くらいだと思います。
さらに濡れ場に突入するまで2話か3話…話進むの遅すぎです。


9.試作弐号機様
王都の聖地は春葉源と呼ばれています…すいません、今適当につけました。
イムがタコ部屋で原稿に向かってカリカリやってても、何の違和感も感じないのは何故でしょう。
カップリング…ヘタをするとダウニーまで混じって三角な関係を描くかもしれません。

イムとクレアはある意味でツーカーの仲になってもらいたいと思います。


10.竜の抜け殻様
えー…戦闘シーンは、あと2週間ほどお待ちください(爆)

イムの腐女子化は、意表を突く事だけを考えていましたから…。


11.3×3EVIL様
エロスも戦闘…描くのが大変という意味でも至言だと思います。

ここまで来ると、全員に観察されながらヤられるのは洗礼でしょうねぇ。
リリィは勿論、他にも計画している人が居たり…。


12.ディディー様
親が親なら子も子と言いますが、使役者と使い魔にも当てはまるんでしょうか。

セルは…死にはしないと思いますけど、死どころか最悪出番が無くなる可能性が…。
一応君の役割は重要だから、頑張ってくれセル!


13.なまけもの様
うわ、我ながら誤字が多い…。
後で直しておきます。

リコが赤の精霊でイムが白の精霊って、正直ややこしいですよ。
だってリコは見た目からして、全体的にイムよりも白っぽいじゃないですか。
イムもイムで赤い髪飾りしてるし、紫色だし…。

ピアッシングは、確かにあの歳にはキツイと思いますが…逆に言えば、もう少し成長して、お互いが真剣に合意していれば許容範囲だと思っています。
自分達がやる事が一生モノだと自覚し、なおかつその責任を取るのであれば、何の問題も無い筈です。
現に、デンジャーな所ではありませんが、中学生辺りから自分で耳にピアスをつける人とか居るじゃないですか。
場所が特殊なだけで、やる事は大差ない…んじゃないかなぁ?
いざとなれば、体に穴を開けずに突起を糸で縛るとかゆー手もありますぜ。


14.竜神帝様
光太郎とネットワークで会っていた時に少し。
殆ど話した事はありませんが、大河は彼を『格好付けの師匠』として崇めていたりします。
あの人のような格好の付け方は、形から入るとしても決して見苦しいものではないと思いますから。


15.悠真様
キスだけでああなるのに、ムチまで使って……よく羞恥でイカレなかったものです。

ふっふっふ、アルストロメリアについては秘策があるのですよ。
呆れるほどに単純で、やられてみれば『そんだけかい!』と言いそうな秘策ですが…読まれないかとても不安です。
痛そうなのが苦手…なら、強すぎる刺激で痛みと快感のスレスレに悶えるってのは大丈夫でしょうか?

16.ななし様
解りやすすぎましたか。
まぁ、大体はそういう事です。

時間と気力が許す限り続けてみます!


17.紅様
ピアッシング…どこに付けようかなぁ?
…って、ふと気付けば実行するのが前提になってますね。
時期が時期だけに、“破滅”を退けるまでは実行できませんけど。

…彫られた事あるんですか?
勝手に……。
ストーカーチックでちょっと怖いデスね。

服の下はエロで、パッと見ると普段の凛々しい王女様。
しかして見る者が見れば、某所がちょっと立っているのが……萌えェーー!


18.沙耶様
まずは一言だけ送りましょう。

  オールハンデッド、ガンパレード!
 全 軍 抜 刀 、 突 撃 ー !

縄…縄か……。
…………亀ですか?
でもエロイ方面に進んだら、飼い主と独裁者がブラックホールよりも黒くなって出てきますよ?
それこそ、某巨乳嬢に世界の全ての悪を借りて来るくらいはしますよ。
ヘタすると独裁者が原作よりも白くなって、ネコと幼女のために世界を滅ぼしかねません。


19.AL様
幻獣ですか…しかし、そうすると設定はどうするべきでしょうか…。
ああ、一応コジツケはできるのですが……。
でもそうですね、別の世界から魔物を引っ張り込むのはアリですか。


20.カシス・ユウ・シンクレア様
男性化薬ですか?
いえいえ、見るのと実体験するのはまた別物ですよ?
だから別のシーンで……ゲフンゲフン。

クレアに調教させる…イイ!
今後の参考にさせていただきます!

セル君とアルディアについては、もう一波乱二波乱くらいはありそうです。
結構無茶な設定にしましたから…。

今後も頑張らせていただきます!
そしてさっさと内定もらって、卒論と研究終わらせて、最後の自由を満喫いたす所存です!
…ホントに、上手く行くといいなぁ…。


21.アルカンシェル様
みんな好き…というかウチの妹にそっち系の人が居ますから…もう慣れました。
オープンな兄ちゃんだねー、などと言われているようです。

セルはもう暫く幸せでいさせてあげようと思います。
原作では救いが無かったからなぁ…あ、でもハーレムエンドでは結婚してたみたいですね。

謎の執事より、アルディアが重要人物なんですが…どーも謎のジュウケイのほうが書きやすいです。

イムとクレアの、コアな会話…ですね、一応はw


22.黄色の13様
終わりのクロニクルですか…呼んだ事はありませんが、粗筋を見て興味が沸いてきました。
今度買ってみようと思います…昼飯代を削って。

佐山…というと、主人公ですよね?
さて、掛け合わせるとどんな大河になるのやら…。

23.K・K様
オギャンオス!
オギャンナラ!って、早すぎるだろ!
つまらんノリツッコミは放置して、もうちょっとイムとクレアを壊してみました。
ベリオとブラパピ、カエデにも何か目新しい属性を付けたいのですが…丁度いいネタとタイミングがないんですよ。

砂糖吐く展開が珍しい…?
あ、考えてみればホノボノじゃなくてエロに走ってばかりだった…。
またやってみようと思います。

では、オギャンナラ!
…民名書房か……どんな技を解説するべきだろう…。


24.舞―エンジェル様
か、かえで…かえでが、ば、ばにー……ぬぬおおおおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉお……(走り去る)

ぉぉぉおぉぉおおおおお(戻ってくる)おおお!
はぁ、はぁ…ぎ、銀河系を一周してきたでおじゃる……。
むぅ、流石は本家…いい仕事してくれますなッ!
暫く様子を見るつもりでしたが、覚悟完了して発売日に買いに行かねばッ!

複数プレイに燃えるツンデレ……というと、「私はこんなに愛されてるのよ、見て見て」とか「それは私のだ!返せ!」って感じでしょうか?


25.ナイトメア様
イムはこの際だから、もー少し堕落してもらいたいモノです。
Mに腐女子に出歯亀…あとナニをつけようかなぁ…。
あ、でもカエデとベリオとブラパピが先か。

お…オオオォォォォォォ!?
こ、これはまた素晴らしいデムパの数々!
ああっ、こんな事なら、高校生時代にもっとアニメを見ておけばよかった!
なにせアクエリオンを見るまで、イメージが12年前のアニメで止まってましたから…勿体無い…。
ヨシ、今から勉強しなおしだ!

ふぁいなるじぇらしーすぱーくは、女性が複数でやると破壊力が跳ね上がりますよ?
しかも制御も利きません。
古来より、嫉妬に狂った女性、しかも集団は誰にもコントロールできませぬ。

味方ごと敵を吹き飛ばして爽やかな笑顔を見せる学園長サマに萌えましたw

む、むどう…そこまでおちた…いや、のぼりつめたか…。
さぁ、今からボ帝を倒しに旅立つのだ!
そして銀河系内から消えてくれ!


26.なな月様
実際、あの方々が本気になったら、ガルガンチュワなんぞより余程恐ろしい…。
しかし諸葛孔明よ、アンタはどこまでナニを予測してるんだ?

ええ、クレアに関してはそれでいいですとも!
危険思想どころか理想ですとも!
ちなみに朝は仕事に行こうとする所を引き止められて、抵抗しながらもヤられてしまいます。

マジカルアンバーを描く事の方が、余程難題のよーな気もしますが…何とかやってみます。
…一人くらいは、苦労人の常識人を入れねば…。

ちっちゃなネコりりぃ……それは…ミニチュアですか?
それともロリですか?
即座にロリと答えた方はネ申と認定したいと思い枡。

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