ボーーーーッ、頭の中でそんな擬音が、何だか思考が纏まらない…えっと。
天涯孤独で記憶喪失だったオレ、”だった”とは……どうやら家族がいたらしい。
異界……ヤマトの万屋……『ひよこや』の家族……オレはそこの一番下の妹で。
さらには婚約者……ランスさんがいて、んな急に色々なことがわかっても、実感などはサラサラないわけで。
「りく、どうしたの?ジュース…零れてるよ?…最近ボーっとしちゃって、何かあったの?」
親友の水野の言葉に、ああっと……コポコポと地面に置いたジュースが倒れているのを……起こす。
友達連中と校舎裏で座りながら、何気ない会話……つい先日までは楽しかったそれも、今は素直に楽しめないかも。
とりあえずが心配をさせないために笑顔。
「別に平気だよ……ちょっと昨日、近所の外猫と遊びすぎて疲れただけだからさ」
「ふーん、何かちょっと怪しい」
勘のいい水野が眼を細めるのを、眼を逸らしながら横目で見つめつつ……ごめん、だっていきなり異界どうこうって言ったら引くだろうし。
そういえば……今日、壱也さんが迎えを送るって言ってたな……本当にくるのカナ?……うーん。
「りく、次の授業始まるから、いくよ〜〜〜〜〜」
「ああっ…………」
二人で道を歩く……他の生徒達も一斉に校舎の中へと駆け込んでゆく、そんなに急がなくても間に合うって☆
ガヤガヤ、何かがざわめく音、前方に何故か人が沢山たまっている………何してんだろ?
微かな疑問。
「くそっ、どけクソガキどもっ!主に野郎だけッ!……不細工は死ね!そして可愛い娘ちゃんはもっと成長してから寄って来いッッッ!」
『く、くるしいのだ』
……幻聴のような、幻聴でありますように、むしろ幻聴…えーっと、でも、現実をちゃんと受け止めるなら。
双葉の物珍しくも愛らしい姿に生徒が群がり、それにランスさんが巻き込まれてる……そんなパターン、我ながら完璧。
近寄ってみてみると、想像したとおりの光景……辺りに何人かの男子生徒が倒れて眼を回している………ら、ランスさん。
「うがぁああああああああああああ!邪魔だッッ!陸のバカは何処にいるかと聞いてるんだ!さっさと答えんかッ!」
「………ここにいます、ランスさん、ちょっと来て…あっ、水野、オレ早退するから…適当に理由ヨロシク☆」
「おう、陸、って、イタタタタタタタタッ!?」
むんぎゅっと、ランスさんの耳を掴んで引きずる……全力で、唖然としたみんなの視線が恥ずかしい……もう。
もっと普通に迎えに来れないのかよ。
○
「どーして、あんなに迎えの仕方しか出来ないわけ!」
「むむっ、俺様は別に悪くないぞ……第一、あんなに人がいるのが悪い、うん、俺様は悪くない」
「…………うわ、反省ゼロかよ………双葉も……ってあんた誰?」
眼の前に褐色肌の背の高い男性が……頭の上には耳がピコピコ……嫌な想像が頭からはなれないんだけど?
もしかして、あの小さな双葉?……大人の姿になるれるのかよ…驚きを通り越して呆れる。
「え、えっと…最初からこの姿だったらトラブルは避けられましたね……、ふ、双葉です」
「………何でもアリかよ…………」
「まあ、こいつは魔法種族のウサ耳族だからな、日頃は姿を小さくして、力を温存しているらしいぞ…ほれ」
ムギュ………理解できないのはランスさんのその行動、何でオレ……抱っこされてるわけ?……わけわからないんですけど。
つーか、恥ずかしい。
「う、うわぁああああ、は、はなせよー!」
「…何だ、妙に慌ておって、俺様に抱いてもらうというだけで光栄に思え…また勝手にいなくなられても敵わんからな」
「ちょ、ら、ランス、陸が嫌がっているので…あっ、もう時間ですッ!?」
ポンッ、そんな間抜けな効果音と同時に元の小さな姿に戻る双葉……ずっと大きいままでいられるわけではないんだ☆
『うぅ〜〜、時間制限』
はぁはぁと荒い呼吸で、手書きでソレだけを伝えてくれる双葉…………かなり力を必要とするみたい。
ランスさんはそんな双葉を右手に掴んで、ズカズカと校舎の中に……大丈夫だよな、今、じゅぎょー中だし。
○
「あー、陸ちゃん、いらっしゃーーーーーい♪」「待ってたんだぜ陸ッ!」
「おかえり、陸」「今日はゆっくりしていけるの陸?」「ランスさま、ご苦労様」
……怒涛の如き家族の迎えに少し引いてしまう……いや、一人はランスさんだけしか歓迎してないけど。
「……五月蝿いぞ貴様等、木花、飯だ、俺様の口に合うような素晴らしい料理などさらさら期待はしていないが、仕方ないから特別に食ってやる」
物凄い言い分で店の中にズカズカと入って行くランスさん、木花は嬉しそうにパタパタとお皿に沢山の料理をのせて店の中を走り回る。
……みんなはそれぞれの仕事をしながら、順番に休憩に入り食事をするらしい…オレも後で手伝わないと☆
つかさ、ランスさん何もしてないような…………奥の間に案内されながらそんな事を思ったり。
「今日のご飯は陸ちゃんの大好物……のはずッ!のじゃーん、おでんなのだーーー!」
木花が持ってきた鍋の中に大量に浮かぶ”何か”、これが文化の違い……しかも大好物って、過去のオレの情報だよな?
えっへんと、小さな木花がウサ耳を左右にピコピコさせながら、胸を張る様子は何処か可愛らしいけど、これをおでんと認めるわけには。
横に座るランスさんは物凄い勢いでそれを口の中に放り込んでゆく、ひょいひょいと空いたお皿にさらに具を盛り付けてゆく木花。
……手慣れた様子から見るに、いつも二人は一緒に食事休憩に入るらしい…何か少しムッ………あれ?
何だろ、今の☆
「がつがつがつががつがつがつがつがつがつ、んーーッ!?」
「はい、ランスちゃんお茶だよ、トントンっと☆」
ランスさんの背中を優しく叩いてあげる木花、ニコニコと微笑んでいる。
「ごくごくごく、っぷはぁーーー、がつがつがつがつがつがつがつがつ」
少し唖然となる、自分より一回り以上も年下の木花に世話をしてもらっているランスさん、何となく……可愛いかも。
木花も何だか少し嬉しそうで、落ち着かない、そわそわする………うぅ、世話焼きの血が疼く。
むかしのオレも、こんなランスさんに構っていたのかな?……そう思うと、少しだけ楽しい気分に、見てみたいかも。
その頃の自分。
「あれぇー?陸ちゃんは食べてないけど、もしかしてお腹減ってないの?」
「あーえっと」
おでんの浮かぶ鍋を見る……ギロッ、大きな目玉と眼が合う、どうやらこの世界ではこれも立派なおでんの”具”らしい。
これが大好物だったのかオレ……少し凹む、でもすぐに慣れるんだよなーーー、こんなに異常な事が続くと感覚も麻痺するわけで。
「まあ……そんなに腹減ってないんで、また後で」
「じゃあ、こっちにおいで……陸のために仕立て屋さんを呼んであるんだけど」
突然後ろから出現した壱也さんに連れてゆかれるオレ……もうどうにでもしてよ☆
○
「……っで、何やってんだ若旦那」
「えっと、陸のために……和服を仕上げてもらってるんだけど………」
澪のコメカミがピクピクと、オレはどうしようかと……そんな澪を見てもまったくうろたえない壱也さんって、もしかして天然?………開けた障子の向こうに見える純和風な裏庭の光景と、大量に畳に転がっている反物……うわー。
こんなに色んな種類があるんだと感心したり☆そういえばオレ……今まで着物なんか着た事ないかも。
水野に一度祭りに誘われたときにも、水野のお母さんに用意してもらった着物も断ったしなぁ。
「ねえねえ、これも陸ちゃんに似合うかもーー♪」
「…へえー、どれもこれも同じにしか見えねぇけどなぁ…おっ、これとか良くねぇ?」
そしてそんなオレを囲むようにしながら談笑してる皐月と双葉……それを見て番頭さん…澪の怒りがさらにたまってゆくのがわかる。
ああ、この家って……澪以外が天然なわけね、ちょっと納得。
「バイト囲んで遊んでんじゃねぇーーーーー!!働けテメェらッ!!!!貴方達はどうかお引取り下さいッ!!!」
フーッと猫の姿そのままに、尻尾と耳をピーンっとさせながら、吼える……効果音にするとシャーッて感じ。
三人とも既にタイミングを熟知しているのか、吼える一歩手前で耳をサッと両手で覆う…オレは当然わからないわけで、耳がキーン。
「皐月と木花はさっさと配達に行けっ!若旦那にゃ来客!座敷でキリキリと商談に励め…”陸”改めバイトッ!お前は店の在庫チェックやら倉庫内の掃除やら、色々としてもらうからなッ!」
吼えた後には皆は既に仕事場へ……流石プロ、でも、オレにもちゃんと仕事が与えられたのが嬉しい、よーし、頑張るぞ!
えっと、前掛け……部屋の隅に丁寧に畳まれたソレを着て、頬をパチンッ、初日だから頑張らないと☆
「ふう、やれやれ………って双葉、テメェもバイトを迎えに行くのに何時間かかってんだよ☆ったく要領悪い奴」
『ランスだって、時間がかかったのだ』
双葉の書いた文字など無視して頭をゲシッと………ムッ、今のは幾ら番頭さんでもひどい……早足でそちらに向かう。
「ランスさまはいーの、家にいてくれるだけでヨシッ、ああん、何か文句あるか?」
『不公平なのだー!』
「そうだ、双葉だけそうやって責めるのは筋違いだろっ!」
割って入る……キッと睨みつけても尻尾をパタパタと揺らしながら欠伸してる、本当にランスさん以外の前では態度があからさまに違いすぎ。
本当に猫のような性格の奴。
「何言ってんだ、お前のほうが昔は”ランスちゃん、ランスちゃん”って、てめぇの体が弱いくせに世話焼いてたくせに」
「な、何だよソレ、お、覚えてないからそんな事言われてもわかんないって!」
顔が熱くなる、むかしのオレの事なんか言われても、普通に困るんだけどッ!ってかさ、問題はそこではなくてだな。
「ふんっ、傍目から見てもウザってぇ程に”ランスちゃんランスちゃん”って、あの人はロリコンじゃねぇっつーの」
「…なっ、そんなんオレは知らないしッ!つーか、何であんたにランスさんとオレの事言われないといけないんだよ!」
「そ、それは………と・に・か・く!とにかくだっ!双葉の事で偉そうに言うのはそいつが店にとって魔法以外の役にたってからだ!」
ふんっと、鼻を鳴らして、去ってゆく澪…な、なんだよ、感じワルーーッ、人によって態度変えるなんて……あんま好きになれないかも☆
「よぉし!双葉!魔法以外で店の役に立って見せるぞ!」
『わ、わかったのだ!』
○
ぐーぐーぐーぐーぐーぐー、飯を食ったら眠くなった、故に俺様は眠る…ふぁー。
エロ本を読むのは本来、モテないような奴がすることだが、仕方なく……仕方なく読む。
むむっ、これでは肝心な乳首が見えんではないかっ!……くそっ、金を払わせておいて乳首を出さんとは!
ガラガラガラ。
「んー、おおー、澪どした?」
ポスッと、甘えるように胸におさまった澪の頭を撫でてやりながら…うむ、可愛い奴。
しかし、いつもならこの時間帯は店員達を怒鳴りながら店を闊歩してるはずなんだが、むむっ。
「いーえ、何でもありませんよ…最近、ご無沙汰ですけど…何か不服が?」
「……別に、お前はいつもと同じでグットな肉体をしているぞ……ただ、気分じゃないだけだ」
あの日以来、めっきり女を抱くことが少なくなった、異世界に飛ばされたあの日と、”あいつ”が無断で俺様の前からいなくなった日。
昔の俺様を知っている奴等が見たら驚くだろうな……魔王になってから、犯りたい時に犯り、そんな生活が100年近く続いたからなぁ。
……そしてこの世界で何の因果かガキの子守………陸。
「いま、何か別の事考えてましたね…ふーーーん、別にいいんですけど」
耳を弄くりながら、さて、何に不貞腐れてるやら……やっぱり昔の俺様だったらそんなことも気にしないで抱いて終わりだったろう。
「がははははは、もしかして、”何か”に嫉妬でもしているとかか?そいつは俺様がモテすぎるのが罪だからだ!あきらめろ!」
「冗談を、本当は……どうでも良い癖に」
”どうでも良い”……ふむ、中々的を得た言葉じゃないか……あいつの、”シィル”のせいで……どうでも良い俺様になろうとは……。
想像さえ出来なかった……そして、今度は陸が俺様に無断でいなくなりおって、ムカムカムカ、どいつもこいつも、
どいつもこいつも。
「………ランスさま?」
「ふん、何でもない、犯るぞッ!」
書けないあとがき
お、おかしい……感想が……あ、あれ?えっと、とりあえず物凄く感謝しつつ、返信…します。
3×3EVILさん=どうもありがとうございます、巣田さんのアレです、結構好きなんで、好きなランスと組ませたと…理由は単純です……ゆっくり自分のペースでやっていこうかと、ありがとうございました。
PKさん=誤字報告ありがとうございます………えーっと、これで良いですかね?(苦笑)ほめて頂き光栄です、これからものんびりとやっていこうかと思います、ありがとうございました。
TTさん=どうもありがとうございます、水野ちゃんは報われないですね……どうにかしてあげたいです、招き猫も…そっち側です、メスです(苦笑)次回かその次に出そうかと、楽しみにしていただけると幸いです、ありがとうございました。
本当にありがとうございました………えっと、期待しないで見てもらえると幸いです。
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