眼を開ける、くらくらとする頭を無理やり叩き起こすように。
思考がまとまらない、ここは?……黒塗りの天井が目に入る…寮じゃない。
「やあ、起きたかい陸?お帰り…立派に育って」
穏やかな物腰のかなり年上の男性……ニコッと微笑みかけられて、とりあえず頭を下げる。
オレ、どーしたんだっけ?……つか、この人だれ?
「………私は壱也……陸が帰ってきたと聞いてね……商品説明会から帰ってくれば、倒れたって……」
心配そうに覗き込まれて、うわ、顔が真っ赤になる……男の人だけど、綺麗な人だなぁ…あの人とは大違いだ。
いや、あの人だって顔の作り自体は悪くないけど、何ていうか悪人っぽい☆
「え、えっと……あっ」
微かに思い出す夢のような…何だったんだろうアレ、不思議な空間だった…座敷牢のような中で、あの人とオレが一緒にいて。
何か凄く幸せだったのを覚えてる……幸せ?…確かに夢の中の”オレ”はそう感じていた…昔のオレ?
「ああ、ランスさんが君を連れて血相を変えて帰って来てね”医者は何処だッ"てドアを蹴破って、人を蹴散らし、物を壊して…大変だったんだからね」
何だか想像したいような、想像したくないような光景だなソレ……あっ、オレ……謝らないと……でも、何だか言いにくい。
そんなオレを見て、壱也さんがクスッと笑う、優しい感じで……子ども扱いのようで顔が熱くなる。
「ランスさん……ずっと部屋の周りをウロウロしていたよ?何かあったのかい?」
頭をポスポスと軽く叩かれる……この人がオレの兄さん……だったら、婚約者とか、し、知ってるのかな?
オレが何か言う前に、手で止められて、言葉を飲み込む……。
「多分、今陸の言いたいことは知ってるよ、でも、それが私の口からは言えないな…陸が自分から思いだないといけないことだから…ごめんね」
うっ、何かとても聞ける空気じゃないかも☆………うー、気になる、昔のオレって、なに考えてたんだろう?
バンッ。
「入るぞッ!……ふん、起きたか……別にお前の心配をしたわけじゃないからな、あれだ、えっと」
突然部屋に入ってきて、あたふたと、何か自分を納得させようとしているランスさん……心配してくれたんだ、本当に。
ポリポリと頭をかきながら、どうしよう……少しだけ頬が赤くなる、すげぇ恥ずかしい…どうしよう☆
壱也さんは、そんなオレたちをニコニコと楽しそうに見守るだけで、全然助けてくれそうに無いし。
「あ、っと……ランスさん、さっきは……ごめん」
結局は単純な言葉………まっ、オレらしいって言えばオレらしいかも、さっきの夢の内容も気になるし。
このまま気まずいのも何か嫌だ。
「…………俺様は別に気にしてないと言ったろうが……もう、良いのか?」
「う、うん、だいじょうぶ……心配させてごめん」
独特の気まずい空気…謝ったのは良いけれど、中々に、そこから一歩踏み出せないわけで……どうしよう。
でも、やっぱ、ランスさんは悪い人じゃないと再確認したかも、うーん、でも、やっぱ、好きとか嫌いとかの感覚はわかんない。
「そうか」
ホッと、口元を緩めたランスさんの、その顔を見たら、急に顔がカーッと赤くなった……やばい、初めて会ったときと同じだ。
どうしよう?
○
「へえー、ランス兄貴……陸背負って走って帰ってきたんだ、やるじゃん」
「まあね、うーん、昔みたいに仲良しになるのが、僕としては一番の理想だけど、難しそうだね」
二人の言葉を聞きながら在庫を確認する、うーん、ちょっと『生シャボン』の量が足りないかも…木花は子供だから恋愛には関係ないし。
陸ちゃんとランスさんが昔どうだったかは知らないけど、木花には、ちょっと想像できないかな?
「つーかさ、記憶喪失って、頭叩いたら治るんじゃねぇーの?……こう、ガンって」
ブン、いつも手に持っている昆を振るって……その前に、死んじゃうような気がする…陸ちゃん華奢だし。
耳をピコピコ、あれ?……これの在庫はっと。
「なあ、木花はどう思う?陸の奴……昔のことを思い出すと思うか?」
「へっ?……うーん、わかんないかも?……ランスちゃんが別に何も思ってなかったら、無理に治さなくてもいいんじゃないかな?」
だって、ランスちゃんが誰かにデレデレしてるなんて想像できないし、たまーに、綺麗な女の人を見るとなっちゃうけど。
それとは意味合いが木花は違うような気がするのだ。
「………ふーん、女の子だね木花も」
「むっ、何さー、椎ちゃんのその顔、もしかして木花バカにしてる?」
「いえいえ、何だか陸が帰ってきて、おもしろくなってきたなーって、それじゃあ僕は配達に☆」
よいしょっと配達の荷物を背負って、店を出てゆく椎ちゃん……何かニヤニヤと木花を見てたのが気になる。
ムーッ、何だろう?
「あっ、ランスちゃん……陸ちゃん大丈夫だった?」
「おう、別に何とも無かったぞ、人騒がせな奴だな、ったく……おいおい、じゃれつくんじゃない…」
「むーっ、だって、何か今日、あんまり話してないよーな気がするんだけど☆」
ランスちゃん、凄く悪人面で、周りの人に冷たいけど…何だか安心する、むかし、この店に来たときは良く苛められたりしたけど。
いつからだったかな、木花が………ランス”ちゃん”って呼び出したのは、うーん、思い出せない。
「ええい、もう少し育ってから出直して来いッ!………この店にもだな、もっとウハウハの美人を……澪、何か文句でもあんのか?」
「いーえ、別にありせんよ、ええっ、まったく」
耳と尻尾をツーンとして、そっぽを向く番頭さん……ランスちゃん、陸ちゃんが帰ってきてからまったく番頭さんの相手してないから。
すぅごく、すぅごーく変なところで女心に鈍いんだから。
○
久しぶりに会ったバカ陸は、俺様のことを忘れていた、別にそんな事を気にするようなほど、俺様の心は小さくない。
しかし、ムカムカ……何だ、あの反抗的な言葉はッ!昔の俺様だったら確実にどーにかなってるぞ、くそったれ。
昔はもっと俺様を敬ってだな……そいつはもうランスちゃんランスちゃんって、しつこいほどに後を付けまわされたのに。
イライライライライラ………生意気になりおって……しかも。
「じゃあ、オレ、帰るから…ヒマな時はバイトに来てやるから♪」
何て言いやがった、ここで俺様がこいつを止めたら、まるで俺様のほうがこいつに依存しちまってるみたいじゃないか…うむむむ。
「って待てよ!ヤマトにこれから一緒に住むんじゃないのかよ陸ッ!!」
「無理だよ、オレにも色々予定があるし、来年は高校進学、勉強しなくちゃいけないの☆」
皐月のバカの言葉をまるっきり無視して、さっさと『日本』に戻ろうとする陸……くそっ、少し会わない間に本当に生意気になった。
こいつが陸じゃなけりゃあ、殴ってでも止めてやるのに、ムカムカムカ。
「あっ、じゃあねランスさん」
ニコッと笑いかけられて”お、おう”と、くそっ……俺様もこいつに出会ってから随分…甘くなった。
甘くなった。
書けないあとがき
えっと、本当はあとがきを書く気なんて無いんですけど(苦笑)まさか感想が一通でも来てるなんて驚きです、カシス・ユウ・シンクレア様、感想本当にありがとうございます、ええ、凄いクロスです…マイナーすぎますよね…ただ、日頃に妄想してることをちょくちょくと書き連ねるのが目標なので、これからも適当に読んで頂けたら幸いです、でわ。