無惨にフレームの変形したコックピットの中。
取り付けられたいくつものシグナルが危険を示す赤に光り、やがてそれさえも消えてゆく。
システム操作用のサブモニターはアラートを発することすらなく沈黙している。
明らかに致命的な損傷である。
ニコルはそれを妙に他人事のような気分で眺めていた。
時間の流れが酷く遅く感じる。
人間は死に瀕する危険が迫ると、脳の活動が活性化して思考速度が爆発的に速まり、相対的に時間の流れが遅く感じることがあるという。
危機的状況に陥ったときに過去の情景が走馬灯のように駆け巡るのは、その思考速度で以って記憶を総ざらいし、状況を打破する方法を探しているからだと。
いつかどこかで聞き及んだ知識が脳裏に浮かび、そして苦笑した。
何をどうしたところで、この状況で助かるとは思えない。
ストライクのビームサーベルによってコックピット直下の機能中枢を破壊され、機体は制御不能。
脱出しようにも、デュエルを救うために体当たりした衝撃でコックピットまでひしゃげ、フレームに右足を挟まれて身動きが取れない。
そもそも、ここまでフレームが変形してしまっていては、ちゃんとハッチが開くかどうかも怪しい。
ミラージュ・コロイドを展開したまま、すなわちPS装甲を展開しないままの状態で、しかもノーブレーキで激突したのだから当然かもしれない。
仮に脱出したところで、今度は生身で大気圏突入を敢行するはめになる。
できたらそれは遠慮したい。
だからと言ってこのまま何もしないでいては蒸し焼きになるだけだ。
何しろコックピットの温度がぐんぐん上がっていくのが体感できる。
おそらく装甲の裂け目から高温の大気が入り込んでいるのだろう。
運良く蒸し焼きを逃れたとしても、機体が制御不能では今度は墜落死が待っているだけだ。
こういう状況を「詰んだ」というのだろうか。
ため息を一つ吐くと、奇跡的に生き残っているモニターに目を向ける。
ニコルが身を呈して庇ったデュエルはバスターに拾われ、そのバスターに抱かれた状態で降下態勢に入っていた。
その遥か下方には、事の発端となったシャトルが順調に降下を続けている。
上に視線を転じれば、あれだけの戦闘をこなしてなお無傷のストライクがいた。
良かった。
自分以外は全員無事なようだ。
ニコルは安堵と共に全身の力を抜いた。
目を閉じたニコルの脳裏に色々な人の顔が浮かぶ。
お父さん、お母さん、ろくに孝行もできないうちに死んじゃってごめんなさい。
アスラン、約束を守れなくてごめんなさい。
今まで本当にお世話になりました。
イザーク、あなたは無事ですか?
イザークはボクのこと嫌いだったみたいですけど、ボクはあなたのこと、尊敬してましたよ。
ディアッカ、イザークと仲良くしてくださいね。
陰ながら応援してます。
閉ざされた瞼の端から涙が零れる。
死ぬのが怖いわけではない。
ただ、もう会えないことが哀しかった。
と、その時。
機体に軽い衝撃が走る。
何事かと目を開くと、涙に滲んだその視界に巨大な影が映っていた。
一瞬してガクンと急激な減速G。
前につんのめりながらも驚いて涙を拭って見れば、目の前にストライクがいた。
背中にとりつけられた巨大なバーニアで減速をかけながら、どこかにブリッツを運ぼうとしている。
その先を見れば、ニコル達が『足付き』と呼ぶ戦艦がいた。
再びストライクに視線を戻す。
先程までの恐ろしい雰囲気はもう無い。
どうやら助けてくれるつもりのようだ。
少女の顔に笑みが浮かぶ。
何だか妙に安心してしまった。
何しろ、今まで散々『彼』の力は見せ付けられてきている。
自分を助けるくらい、軽々とやってのけるだろう。
アスランと『彼』について話をしたせいで、妙な親近感のようなものが湧いてしまったこともある。
「本当に、お人好しなんですね」
自分自身のことを棚に挙げて僅かに苦笑の混じった微笑を浮かべて呟くと、ニコルは高温と衝撃に耐えていた意識を手放した。
第13話 君に捧ぐ最大限
医務室のベッドに横たわるキラの姿を、その枕元に置いた椅子に腰掛け、ミリアリアはじっと見つめていた。
少年の苦しげな寝顔がミリアリアの胸を締め付ける。
キラの寝顔を見るのは初めてではない。
それはたいてい芝生に寝転んで午睡に耽っている彼を起こしに行くときで、そういう時は起こすのが申し訳ないくらいに安らかな寝顔をしていて、見るたびにこの少年への愛しさを掻き立てられたものだ。
だが、今は違う。
整った眉が苦しげに歪むたびに、乱れた呼吸が呻き声となって唇から漏れるたびに、ミリアリアの胸に痛みが走る。
と、ミリアリアの背後で空気が動いた。
後ろからやって来た誰かが、ミリアリアの隣にもう一脚置かれた椅子に腰を下ろす。
それが誰なのかは、見ないでも分かる。
「……キラ、やっぱり無理してたのかな……」
「……こうやって倒れてるってことは、そうなんだろうな。あれだけの戦闘をこなしてきた上に、他にも色々やってたからな」
ミリアリアの呟くような言葉に、隣に座ったカガリが答える。
白衣に包まれたカガリの手が伸び、キラの額に浮かんだ汗をタオルで丁寧に拭っていく。
キラがこの医務室に運ばれてきてから三時間ほどが経つ。
あの時、ブリッツを抱えて帰投してきたキラは、モビルスーツの腕力を以ってブリッツのコックピットをこじ開け、パイロットを救出すると力尽きたように自分も倒れたのだ。
ヤマムラの診断によると、ブリッツのパイロット――おそらく彼女がニコル・アマルフィなのだろう――は熱射病一歩手前の重度の熱疲労と右足の骨折、キラは軽い熱痙攣と……過労。
「私達、キラの力になれてなかったのかな」
「……」
キラの負担を少しでも軽くするために、自分達は軍服を纏ったはずだった。
そして、それはなかなか上手くいっているように思えていた。
だが、結果はこれだ。
自分達がもっとしっかりしていれば、こんなことにならなかったのではないか。
ミリアリアの胸中をそんな思いが埋め尽くす。
隣にいるカガリの――「何もさせてもらえない」カガリの心情を慮る余裕など、今のミリアリアには無かった。
「それは違いますよ」
そんなミリアリアに、穏やかな声がかけられた。
二人は同時に振り返る。
先程まで入り口近くのデスクでカルテを書いていたヤマムラが、そこに立っていた。
普段着に白衣を羽織り赤十字の腕章を付ける、という今のカガリと同じ服装に加え、首から聴診器をかけている。
少し丸みを帯びた体型と常に浮かべている穏やかな微笑が、対面する相手に柔らかい印象と安心感を与えてくれる。
優れた医療技術を持ついわゆる「名医」ではないが、温厚で誠実な人格を持った医師だ。
ヘリオポリスで開業医をしていた町医者らしい。
さぞかし地域の人々に深く信頼されていたことだろう。
「あなた方がいたからこそ、この程度で済んだのですよ。もしあなた方がいなかったら、最悪の事態もあり得たかもしれません。それに、コーディネーターに過労というのは珍しくない症状なんです」
「……そうなんですか?」
「ええ。生まれつき丈夫な身体をしているせいで、自分の健康を過信してしまったり、身体の限界を把握し切れていなかったりするんでしょうね。ある程度無理が効いてしまうために頑張りすぎてしまって、ある日突然パタッと倒れてしまうことが少なくないんですよ。キラ君の場合、若い分限界を見誤ってしまったのでしょうね。そして、溜め込んだダメージが今回の熱中症を引き金に噴き出してしまったんでしょう」
そこで一度言葉を切ったヤマムラは、二人の目を順に見て微笑みかける。
「でも、大丈夫です。若い分回復力もありますから、すぐに快復しますよ。幸い、溜め込んだ疲労もそこまでひどく積み重なったものではありませんしね」
「……良かった」
ミリアリアは安堵の息を吐き出し、その表情に明るいものが戻る。
カガリも口にこそ出さなかったが、目に見えて表情が緩んだ。
「むしろ、彼女の方が危なかったですね。もう少し救助が遅ければ何かしらの障害が残ったかもしれません」
言いながらヤマムラは、今彼らがいる通路を挟んで反対側にあるもう一つのベッドを振り返った。
そこに横たわっているのは一人の小柄な少女。
腕に点滴をつけ、折れた右足を固定して吊った状態で眠っている。
と、自動ドアの開く音がした。三人の視線が一斉にそちらを向く。
「様子はどう?」
言いながら入ってきたのはフレイだった。
カガリと同様、普段着の上に白衣を羽織り赤十字の腕章をしている。
手には湯気を立てるコーヒーカップが四つ乗ったトレイがあった。
「二人とも落ち着いてるわ」
フレイが配るコーヒーカップを受け取りながらミリアリアが答えた。
だが、「二人とも」と言いながらも、椅子の位置や座っている体の向きからして、一見して少女の方は「ついで」であることがわかる。
キラの様子を見るためだけにここにいるミリアリアはともかく、名目上医療スタッフであるカガリまでそういう姿勢なのはいかがなものか、とフレイは思う。
最も、思っただけだ。
何を言ったところで無駄だろう。
仕方なく自分が少女の方につくことにして、空いているデスクにトレイを置き、ベッドに歩み寄った。
改めてブリッツのパイロット、おそらくニコル・アマルフィであろう少女を見る。
キラの話によると「原作」では男だったらしいが、既にアスラン・ザラの性別が逆転していることが確認されているので、それくらいはあり得ることと考えてよいのだろう。
身長は150センチに少し届かないくらいだろうか。
ミドルティーンの少女としても小柄な方だ。
それに加えて癖のある萌葱色の髪に縁取られた可愛らしい顔立ち。
とてもではないがモビルスーツのパイロット、それも最新鋭の機体を操り、キラに匹敵はできないまでも追随するほどの実力の持ち主とは思えない。
それほどの実力を持つ一方、温厚な性格の平和主義者であるはずで、味方につけるのが最も容易な人物であろう、というのがキラの見解だった。
もっとも、「原作」との差異が人格面に及んでいないならば、という但し書きが着くが。
そんなことを考えるうちに、フレイの胸中にふっと湧き出した思いがあった。
「足を骨折したのは、もしかするとこの娘にとって良いことだったかもしれないわね」
意図せず、その思いが口をついて出る。
他に会話の無い医務室では、その言葉は思いのほか注目を集め、三人の視線がフレイに集まった。
「だ、だって、体が治ったらこの娘って捕虜として扱われるんでしょ? でも、骨折なら治るのに時間がかかるから、その間は怪我人として扱ってもらえるじゃない。満足に歩くこともできない状態なら、バジルール中尉もそんなにうるさく言わないだろうし」
視線を浴びたフレイは、やや慌てたように言い訳じみたことを言う。
「……そうだな。そうかもしれない。ええと、何て言ったっけ……そう、人間万事塞翁が馬ってヤツだな」
カガリが頷いた。
昔、中国の北辺の塞(とりで)のそばに住んでいた老人の馬が胡(こ)の地に逃げたが、数か月後、胡の駿馬(しゆんめ)を連れて帰ってきた。
その老人の子がその馬に乗り落馬して足を折ったが、おかげで兵役を免れて命が助かったという故事から来た諺だ。
人間の禍福は転々としていて何が幸いする分からない、という意味である。
なかなかに言い得て妙だった。
それからしばらくして。医務室を見舞い客が訪れた。
アークエンジェルの艦橋はいつもよりも閑散としていた。
艦長席で上がってきた報告に目を通しているラミアス、操舵席で暇そうにモニターを眺めているノイマン、オペレーター席で作業中のロメロ。
これで全員である。
地上に無事降下し、当面の危険は去ったため、交代で休息を取っているのだ。
当直のために残っている面々も疲労のためか口数は少ない。
メインモニターに映し出されているのは夜の砂漠。
その映像は静止したまま動かず、そのことがアークエンジェルが停泊中であることを示している。
予定していた降下軌道から外れたストライクを拾うため、目的地のアラスカとはかけ離れたアフリカ大陸に下りてしまったのだ。
すぐにでも移動したいところではあるが、状況を把握するまでは迂闊に動けない。
何しろ、ここはザフトの勢力圏内なのだ。
動くにしても、もう少し情報が欲しかった。
と、その時、艦橋のドアが開いた。
「やれやれ、参ったね。空気が重いったらありゃしない」
ぼやきながら入ってきた人物に、四人の視線が向かう。
フラガだ。
「何かあったんですか?」
各部署から送られてきた報告を映し出していた情報端末から視線を上げ、ラミアスが問う。
「どうもうこうもないさ。ここに来るまでに会った連中、みんな不安げな顔してるんだぜ。空気が重いの何の。坊主が倒れたのがよっぽど堪えてるみたいだな」
「無理も無いですよ。ここは敵地のど真ん中。それなのに頼りのパイロットが意識不明と来たら、先行きが不安にもなります。……あ……」
フラガのぼやきに答えたロメロは、しまった、という表情で口を押さえる。
フラガはそれに苦笑で答えた。
「良いって良いって。俺よりも坊主の方が役に立ってるのは事実なんだから。だが、この状態はちょっとまずいだろうな」
「そんなに酷いんですか?」
「ああ。どこの部署も軒並み士気が落ちてるな」
操舵席の椅子をくるりと反転させて訊いたノイマンにフラガは頷きを返す。
エースの役割の一つに、士気の鼓舞というものがある。
他の兵士に「あの人がいれば大丈夫」と思わせ、士気を高揚させるのだ。
あるいは戦闘で敵を討ち取るという直接的な役目以上に重要な役割かもしれない。
だが、これは諸刃の剣でもある。
「あの人がいれば大丈夫」という心理は、裏を返せば「あの人がいないとダメだ」ということだ。
何らかの事情でそのエースがいなくなれば、それまでの反動のように士気に悪影響と与えることになる。
そう、今のアークエンジェルのように。
アークエンジェルに属するもう一人のパイロット、ムゥ・ラ・フラガとて腕の悪いパイロットではない。
それどころか『エンデュミオンの鷹』の異名を取る地球連合軍屈指のエースだ。
だが、機体性能の差のせいで実際の戦果に大きな差があることもあり、その影響力はキラに少々及ばない。
これまで何度も危機を乗り越えてきたアークエンジェルだが、今まで気付かなかった、あるいは目を逸らしてきた部隊としての欠陥が浮き彫りにされてしまった。
キラ・ヤマトとストライクという強力な戦力に頼りすぎているのである。
依存しているとさえ言える。
もし、今敵の襲撃を受けたらどうなるか、考えたくもなかった。
士気のこともそうだが、それ以前に戦力が絶対的に足りないのだ。
ラミアスは深くため息をつく。
と、ノイマンからラミアスに向き直り、フラガが再び口を開いた。
「憂鬱になっているところに悪いんだがね。ついでにもう一つ良くも悪くもあるニュースがあるんだが、聞くかい?」
「……聞かざるを得ないのでしょう?」
妙な含みを込めたフラガの言葉に、ため息を吐きながらラミアスは頷く。
「ここに来る途中に坊主の見舞いに行ってきたんだ。ヤマムラ先生に聞いたら、坊主の容態はそれほど酷いもんじゃなくて、今はぐっすりと熟睡してるだけの状態らしい。あと半日もすれば目を覚ますだろうとさ」
「別に悪い要素は無いように思いますが……」
「話は最後まで聞けって。で、坊主が今そんなに熟睡してる原因なんだが……症状は軽いがどうやら過労らしい」
過労。
深刻な表情を浮かべてそう言ったフラガの言葉に、ラミアスは一瞬拍子抜けした。
なんだ、そんなことか。
軽い過労程度ならたいして心配はいらないだろう、と。
そう思いかけて……気付いた。
キラが、過労。
その意味するところに。
キラ・ヤマトは十六歳のコーディネーターである。
頑健な身体を持つコーディネーター、それも人体が最も優れた回復力を示す成長期に当たる年頃の少年だ。
それが過労で寝込んでいる。
つまり、その回復力を以ってしても回復しきれなかった疲労が、その体力の許容量を超えるほどに積み重なったということである。
それほどの重労働を、自分達は彼に強いていたのだ。
考えてみれば当然なのかもしれない。
ヘリオポリス崩壊から現在まで、僅か半月程度。
その間に六回の戦闘があり、そのほとんどが孤立無援にして背水の陣。
負ければ後が無い状態で、圧倒的に優勢な相手と、最前線で戦い続けてきたのだ。
しかも、彼はそれまで平和に暮らしていた民間人だったのだ。
いくら剣の腕が立とうと、その稽古がどれだけ実戦的であろうと、やはり本物の戦場は別物である。
どれほどのプレッシャーをあの小柄な身体に背負っていたのか。
ヘリオポリス脱出から今に至るまでキラは疲労を表に出したことはないが、だからと言って疲れていないわけが無い。
だが、慢性的な人手不足による多忙のために、誰もそれに気付けなかった。
おそらくは本人すらも。
「何と言いますか……情けない軍人ですね、俺達」
「それ以前に情けない大人だな」
作業する手を止めて聞いていたロメロが自嘲的に呟いた言葉に、ノイマンがやはり自嘲的に重ねる。
それにラミアス、フラガ、ロメロ、ノイマンの四人分のため息が続いた。
沈黙が降りる。
「……少しでも、キラ君の負担を減らしてあげないといけませんね」
「ああ。俺達のできることを最大限に、だな。とりあえず、ここに来たのはそれを伝えたかっただけだ。ラミアス少佐は他のクルーに発破をかけてやってくれ。そういうのは俺よりも艦長殿の方が得意だろう」
「フラガ少佐は?」
「俺はスカイグラスパーの調整と訓練に励むとするよ。俺にできることなんて、それくらいだからな」
そう言って、フラガは艦橋から出て行った。
「私達にできる最大限のこと……やってあげなくちゃね。キラ君のためにも、私達自身のためにも」
「そうですね。とりあえず自分はオペレーションの速度と精度をもっと上げられないか、システムを見直してみます」
「それじゃあ、俺は艦の制御についてもっとちゃんと勉強してみることにします。艦の被弾率が下がれば、彼も目前の敵に安心して専念できるでしょう」
「そうね、お願い。私ももっと色々頑張らないと。戦略とか戦術とか、ナタルに教わろうかしら」
三人は頷き合い、それぞれの仕事に取り掛かった。
疲労はもちろんある。だが、その瞳には確かな力があった。
「バジルール中尉。珍しいですね、中尉がこんなところにいらっしゃるなんて」
ストライクの整備作業をする手を休めて顔を上げたマードックは、その巨体を見上げながら格納庫の入口の方から歩いてくる士官服の女性の姿を認め、立ち上がって声をかける。
声をかけられたナタルは視線を下に移動させ、マードックに向き直った。
「ストライクの状況が気になってな。大気圏突入で機体に悪影響は出ていないか?」
「特に問題はありませんね。まったく頑丈なことで。機体は少しくらい傷ついても良いから、中の坊主をきっちり守れってんだ」
毒づきながらストライクの足をガンッ、と蹴り飛ばす。
当然、マードック自身の足が痛いだけだったが。
「そちらは先程見て来た。まだ意識は戻らないが生命の危険は無いらしい。熟睡しているのと変わらない状態だそうだ」
「へえ……」
痛みに顔をしかめていたマードックは、その表情を驚きに変える。
以前ならば、ナタルがストライクの機体よりもパイロットを優先するなど考えられないことだ。
だが、それも一瞬のこと。
最近のナタルの変わり様を考えれば自然なことだろうと頷ける。
「どうした?」
「いえ、何でもありません。まあ、坊主が無事で良かった」
マードックはほっとした安堵の息を吐く。
だが、それとは対照的にナタルは表情を曇らせた。
「単純に喜んでもいられん。キラが未だに眠っている原因だが……過労だそうだ」
その意味するところに気付いたのだろう。
ナタルの言葉から一拍置いてマードックの無骨な顔に罪悪感が浮かんだ。
「……俺達のせい、なんでしょうね」
「ああ、間違いなくな」
マードックの言葉にナタルは頷く。
マードックはストライクの整備で。
ナタルは戦術・戦略に関する議論で。
キラの時間を最も多く奪っていたのは自分達だろうという自覚が、二人にはあった。
「最初はフラガ少佐のメビウス・ゼロが直るまでの間だけのつもりだったんですがね。ハードはともかく、ソフトに関しちゃあ坊主があんまりできるんで、任せっきりにしちまったんですよ。俺もウチの連中も、坊主に頼りすぎてました。おかげで今のストライクの欠陥にもようやっと気づいたわけです」
「欠陥?」
「ええ。FCSのプログラムが壊れちまってるんです。他ならぬ坊主のせいで」
「どういうことだ?」
「坊主って、剣術をやってるとかで独特な動きをするじゃないですか。だから自分の動きに合わせて機体制御プログラムを大幅に改変したらしいんですが……それに連動してるFCSのプログラムを全く弄ってなかったんですよ」
FCS(Fire Control System。火器管制システム)とは、移動している自機から移動している敵機に対し正確に射撃を行うためのシステムだ。
自分自身と目標それぞれの位置・移動方向・移動速度などを測定し、未来位置を予測して射撃の指示を出すのである。
このFCSというシステムがあればこそ、撃つ方も撃たれる方も凄まじい高速で移動する現代の戦争で、火器を命中させることができるのである。
特にモビルスーツに搭載されるFCSは非常に高性能だ。
というよりも、モビルスーツに搭載するFCSにはより高い性能が要求された、と言うべきだろうか。
何しろ、単純な速度はともかく、加減速や方向変換のスピードが航空機やモビルアーマーに比べて桁違いに速いのである。
既存のFCSではその変化の早さに計算が追いつかなかったのだ。
そこで考えられたのが、機体制御システムとの連動、という方法である。
操縦するためのプログラムとFCSを連動させることによって、自機の軌道計算にかけられる労力を大幅に削減したのだ。
その中でもストライクに搭載されたFCSは完成度の高い高性能なものだった。
その完成度の高さが、仇になった。
運動制御プログラムが大幅に変更されてしまったために、FCSが自機の動きを予測できなくなってしまったのである。
完成度が高いということは融通が利かないということだ。
無論、開発者も個々のパイロットに合わせて調整する程度の余裕はプログラムに持たせてあった。
だが、まさかFCSをまったく弄らないまま、運動制御プログラムの方だけを原型を留めないほどに作り変えられてしまうとは、思ってもいなかったことだろう。
「多分、FCSってものの存在自体、知らなかったんじゃないですかね。それくらい、弄った形跡が無いんですよ」
「………」
あり得る。
十分にあり得る話だった。
何しろ、自分が銃火器の扱いが下手なことを言うとき、例に出したのが火縄銃である。
現代では火器をコンピューターで管制していることすら知らなかった可能性もある。
あまりにも根本的な問題すぎて、ナタルとの会話で話題になったことも無い。
が。
何しろ恐ろしく優秀で有能なくせに、たまに大地震直後の活断層のごとくずれているところのあるあの少年のことだ。
そういうこともあるかもしれない。
「大気圏内ではミサイルなんかの爆発物が威力を発揮しますからね。イーゲルシュテルンくらい使えるようにしといてやりたいんですが、先にスカイグラスパーをどうにかしないといけません。FCSが直るのはまだ先のことになりそうです」
「どれくらいかかる?」
「さあ、まだ何とも言えませんね。坊主の組んだ運動制御プログラムに影響を与えないようにしないといけないんですが、その解読からかからないといけない状況でして。何せ不都合が出る都度調整して言ったらしく、何重にも、下手したら何十重にもパッチを張り重ねた複雑怪奇な代物になっちまってるんですよ。その上、プログラムの書き方も我流丸出しのえらく読みにくいものなんで」
「それは……大変だな」
「まあ、俺達の怠慢が招いた結果ですからね。しかも、それで真っ先に危険に晒されるのは坊主なんです。死ぬ気で直しますよ」
マードックは力強く言った。
ナタルはそれに頷くと、もう一度ストライクを見上げた後、視線をその隣に動かす。
「話は変わるが、ブリッツの損傷はどの程度の物だ? 直せるものなら直して再利用したいところなのだが……」
その視線の先にはこの格納庫に収容されてから手付かずのまま放置されているブリッツの姿がある。
外から見た限りではそれほど修理が困難そうには見えない。
だが、その問いにマードックは首を横に振った。
「ちょっと無理でしょうね。外から見える損傷はビームサービルで貫かれたところと、デュエルとの衝突でひしゃげたところくらいですが、内部の回線が侵入した高温の空気に焼かれちまってぼろぼろです。作り直した方がまだ早いでしょう」
「せめてミラージュ・コロイドだけでも流用できないか?」
細い顎の先を指で軽く支えるように少し俯き、ナタルは言う。
おそらくその頭蓋の内ではミラージュ・コロイドを使用したいくつもの戦術が駆け巡っていることだろう。
「そこまでちゃんと調べたわけじゃありませんから、ちょっとわかりませんね。やってみますか?」
「……そうだな。優先すべきなのはストライクとスカイグラスパーだが、時間が取れるようなら頼む」
「了解しました。ストライクとスカイグラスパーは、技術屋の意地に賭けても十二時間以内には完璧に仕上げて見せまさあ。俺達は俺達のできることで、坊主を助けてやらないといけませんからね。それでは俺はこれで」
マードックはそう言うと、ナタルに敬礼を施す。
ナタルが敬礼を返すと、マードックは踵を返し己の職務に戻っていった。
ナタルはしばし忙しそうに、そしていつも以上に熱心に働く整備員達を見回した後、格納庫を後にする。
彼女には彼女のやるべきことがあるのだ。
まずはスカイグラスパーのデータを完璧に頭に入れておかねばならない。
それが終わったらフラガのこれまでの戦闘映像を分析し、彼がスカイグラスパーをどのように使うかシミュレート、さらにはそれを使った戦術を立案する。
確かに天才肌のフラガの動きは読みにくいが、それを乗り越えて『エンデュミオンの鷹』を使いこなさなければならない。
読みにくいから。
援護しにくいから。
そう自分に言い訳し、フラガに対する戦闘支援を真剣に考えずに来た過去の自分に腹が立って仕方が無い。
甘ったれるな、と怒鳴りつけてやりたいくらいだった。
何のことは無い。
キラとの共同作業の楽しさに溺れていたのだ、自分は。
こんな体たらくでキラと、キラ・ヤマト『中尉』と並び立とうなどとはおこがましいにも程がある。
自室に戻ったナタルは早速端末に向かい、スカイグラスパーの詳細なデータを呼び出すと、睨むようにしてそれを脳裏に刻み付けていく。
彼女の死力を尽くした戦いは、既に始まっていた。
医務室を後にした、サイ、トール、カズイは、歩きながら同時に大きくため息を吐いた。
「過労、か……」
「ったく、俺達が気付いてやれないでどうすんだよ」
歩きながらカズイが自嘲気味に、次いでトールが腹立たしげに言う。
サイも含め、三人の表情には深い後悔の色があった。
皆、いつの間にかキラの限界を失念していた。
キラにも限界はあることを知ってはいても、理解してはいなかった。
彼らでさえも、こと戦闘に関してはキラの限界について実感を持てていなかったのである。
だが、今回の戦闘で思い知った。
キラは確かに最強かもしれないが、無敵でも完全でもないのだ、と。
そして同時にキラに頼り切っていた自分達に気付いたのである。
キラへの信頼は、もはや「信頼」の域を越え、「甘え」あるいは「依存」とさえ言えるものになっていた。
「俺達が、一番キラのことをわかっててやらなきゃいけなかったのにな……」
ポツリと呟いたサイの言葉を最後に、再び会話が途切れる。
沈黙が降り、重い空気が彼らを取り巻いた。
それは、今、艦内のあちらこちらで見られる光景と、原因は違えどほぼ同じものだった。
無言で歩くことしばし。
不意にサイが足を止めた。
突然のことに二人は二歩ほど先に行ってしまってから立ち止まる。
振り返って何事かと見やるトールとカズイの前で、サイは大きく深呼吸をすると両頬を掌で音高く叩いた。
パンッ!
二、三度強く頭を振り、反射的につぶっていたのであろう目を開く。
「やめよう。後悔したって何にもならない。俺たちがすべきなのは後悔じゃなくて反省だ。犯してしまったミスは、次に活かさないといけない」
衝撃でずれた眼鏡の位置を指で直しながら、サイは二人をしっかりと見据えて言う。
意識的に力強く言い切ったのは、おそらく沈んだ気持ちを入れ替えるためだろう。
自分の気持ちも、そしてトールとカズイの気持ちも。
しばしの沈黙。
「……そうだな。俺達は俺達の出来ることをやらないとな」
サイの言葉に促されるように、トールが頷いた。
「ああ。今ならまだ、遅くはないはずだ」
続いてカズイも頷く。
そして三人は顔を見合わせてもう一度頷き合うと、再び歩き始める。
誰もそれ以上話そうとはしない。
ここから先の話、具体的に何をするかということになると、廊下で話すわけにはいかない内容になるかもしれないからだ。
彼らの目的はアークエンジェルの他のクルー達と重なりつつも決定的に違うのである。
元から地球連合軍の軍人である本来のアークエンジェルのクルー達の目的は、この戦争に勝つことだ。
一方、三人を含めた「オーブ組」はかつてキラが自分達に語った目的に全面的に賛同している。
すなわち、『自分達の中から誰一人として欠けさせること無く戦争を乗り切り、みんながいる平穏な生活を取り戻すこと』である。
そのために必要なことは、まず彼らが生き残ることであり、次に彼らの家族や友人のいるオーブを守ることだ。
つまり、極端な話、地球連合とプラントのどちらが勝っても構わないのである。
もちろん、このアークエンジェルのクルー達や、ラクス、アスランなど、地球連合にもプラントにも助けたい人達はいるわけだから、最善は両者の間に和平が成り、ナチュラルとコーディネーターが共存できるようになることだ。
だが、優先順位をつけるとすれば、それは第三位以下ということになる。
行動原理がそうなのだから、当然、彼らがやろうとしていることは地球軍の利益となることばかりではない。
アークエンジェルのクルー達にはどういうわけか開明的な人物が集まっているが、それでも軍人である以上、自軍の不利益になる可能性がある行動を看過することはあるまい。
だから、彼らとしてはアークエンジェルと自分達の双方にメリットのある行動を選択しなければならないのだった。
足早に歩きながら、それぞれに思考を巡らせる。
部屋に着き中に入ると、最後に入ったサイがしっかりとドアをロックした。
そしてサイとトールはそれぞれ自分のベッドに座り、トールの上段が自分の寝床であるカズイは、トールの隣でベッドの柱に背を預けて立つ。
本来いるはずの人物がいない空のベッドに一瞬視線をやり、トールが口火を切った。
「俺はスカイグラスパーに乗ろうと思う。『原作の俺』に乗れて、俺に乗れないってことは無いだろ。せっかくある戦力を眠らせとくのももったいないしな」
「でも、『原作』ではそれが原因で……」
「わかってるさ。でも、それを言うならキラだって同じリスクを背負ってるんだ。『原作』で生き残れたからといって、現実でもそうとは限らないだろ。だったら俺もそれくらいのリスクは背負って、切り抜けて見せるさ」
「なら、俺はキラとトールと、それにフラガさんの手助けだな」
「整備の手伝いってことか?」
「そういうこと」
トールとカズイが、今、自分にできる最善のことを述べ、頷き合う。だが。
「…………」
「どうした?」
それに続くべきサイの言葉が無い。
隣に立つカズイから正面に座るサイに視線を移し、トールが訝しげに問う。
その言葉に、サイは俯かせていた顔を上げる。
「俺は……俺には何が出来るんだろう?」
どこか途方に暮れたような表情で困ったように、呟くように言った。
「「……は?」」
「いや、よく考えてみたらさ。俺に出来ることって何なんだろうって思ったんだ」
トールには自分自身が戦う力がある。
カズイにはモビルスーツやモビルアーマーの整備に関われるだけの技術と知識がある。
だが、サイにはそのどちらも無い。
トールとカズイの能力を専用とするならば、サイの能力は汎用である。
色々な方面に対応できる反面、特定分野に突出しているわけではない。
ゼネラリストは専門知識・技能において、スペシャリストには決して勝てないのだ。
ひょっとすると、一番役に立たないのは自分なのではないか。
サイはそんなことをいつになく気弱な口調と表情で言った。
そんなサイをしばし見た後、トールとカズイは顔を見合わせた。
小さくため息を吐くと、トールは立ち上がり、カズイは柱から背を離す。
そしてサイに向かって手を伸ばし……固めた拳をその頭に振り下ろした。
ゴンッ!
なかなか良い音がした。
かなり痛かったらしく、サイは数秒間声も出せずに頭を押さえる。
「何するんだよ、いきなり!?」
「うるさいっ! 何アホみたいなこと言ってるんだよ。お前にだってお前にしかできないことがあるだろうが!」
さすがに温厚なサイも腹が立ったらしく怒りを露にするが、そのサイの眼前に指を突きつけてトールが怒鳴り返す。
睨み合うサイとトール。
その間に、カズイの静かな声が滑り込んだ。
「サイ、俺達は専門馬鹿なんだよ。専門分野のこと以外は基本的にできないから、サイが舞台を整えてくれなかったら、俺達なんてただの馬鹿だぜ」
「……舞台を整える?」
カズイは頷き、見上げてくるサイを見返しながら続ける。
「例えば、この間までやってた研究。周りとぶつからないように根回ししたり研究資金のやりくりをしたり、そういう雑事をサイが全部やってくれたから、俺達は自分の専門分野に専念できたんだぜ」
「…………つまり、雑用要員ってことか?」
「そう悪い方に受け取るなよ。縁の下の力持ちってことさ。他にも俺達のまとめ役をやってくれたりな。特定の専門分野を持たない代わりに何でもできるっていうのがサイの強みだろう? 色んなことを知ってて色んな視点を持ってるから、バランス感覚が良い。だから、俺達みたいな専門馬鹿の集団のまとめ役が勤まるんだろう?」
「そうそう。行き過ぎたらサイが止めてくれるのがわかってるから、俺だってキラだって思いっきり突っ走れるんだぜ。ほら見ろ。サイにしかできないことばっかりじゃんかよ」
二人の言葉を聞いて、サイは少しの間瞑目する。
そして目を開き、苦笑気味に笑いながら言った。
「まったく、疲れてるとろくなこと考えないな」
どうやら立ち直ったようだ。トールとカズイは視線を交わし、ほっとした表情を浮かべ……
「そうだよな。俺以外にお前達の尻拭いができる奴なんているわけないじゃないか」
「「おいっ!」」
わざとらしく気障っぽい仕草で前髪をかき上げながら続けたサイに、同時に突っ込んだ。
が。
「何か異議があるのか? カズイがどうしても使いたいって言ってたカレッジの実験機材を貸してもらうために八方手を尽くしたり、せっかく貸してもらったそれをトールが落として壊したときに、教授陣に謝り倒して許してもらったりしたの、誰だっけ?」
「「う゛………」」
ジト目で言ったサイの言葉にそれ以上の反論を封じられる。
しばし冷や汗を額に浮かべる二人を睨んだ後、サイはフッと笑みを浮かべた。
「まあ良いさ。そうだな、さしあたって俺はアークエンジェルを確実に味方につけられるようにあちこちに種蒔きしとくか。仮にも味方にそういうことをするのは、キラはそんなに得意じゃないだろうからな」
その宣言で彼ら三人それぞれの、これからの行動指針が出揃った。
「これで当面の方針は決まったわけだな」
「ああ。後は実際に行動するだけだ」
トールが言い、カズイが頷く。
そして二人はサイに改めて向き直る。
彼ら自身が言ったように、サイが彼らのまとめ役、リーダーなのだ。
行動開始の号令は、彼がしないと締まらない。
二人の視線を受け、サイは口を開く。
「そうだな。それじゃあさっそく……
寝よう」
思わずずっこけた。
「ちょっと待て、何だそれは! 『これから頑張るぞ!』って場面じゃなかったのか、今のは!?」
「あのなあ。キラ程じゃないが、俺達だって疲れてるんだ。ただでさえ人手不足のアークエンジェルにこれ以上穴を開けるわけにはいかないし、キラの手伝いをするにも、ベストコンディションじゃないと逆に足を引っ張ることになりかねない。今、俺達するべき最善の行動は、これからに備えて体力を回復することだろ?」
食って掛かるトールに、サイは諭すような口調で言う。
「確かに。今すぐ動くよりも、ベストコンディションに戻してから動き始めた方が良いだろうな」
「……わかったよ。『急がば回れ』ってことだろ?」
「そういうこと」
サイにカズイも同調し、トールはしばし癖っ毛の髪をしばしグシャグシャとかき回した後、不承不承といった様子で頷いた。
だが、同時に思う。
これでこそサイだ、と。
時に突っ走りすぎる自分やキラを抑え、時に腰の重いカズイやミリアリアを煽り、絶妙のバランスで自分達のテンションをコントロールし、最高の状態を維持する。
卓越した事務処理能力と共に、この調整能力こそがサイ・アーガイルの真骨頂だと、トールは思っている。
トールだけではない。
カズイもキラもミリアリアも、そう思っている。
自分自身のことでも冷静に把握していそうなサイ本人だけが気付いていなかったというのは少し意外だったが、人間、そんなものなのかもしれない。
そんなことを考えながら布団に潜り込むと電気が消される。
そして、明日からの行動に備え、三人は眠りに就いた。
「……二人とも、ありがとな」
眠りに落ちる直前、ポツリと呟くように言ったサイの言葉に返ってきたのは。
「ぐーぐー」
「zzzzzzzz」
妙にわざとらしい寝息だけだった。
(続く)
あとがき
お久しぶりです。霧葉です。
大変長らくお待たせしました。
ええ、もう本当に長らくお待たせしちゃいまして、ごめんなさい。
一ヶ月に一本と言いつつ、前回の投稿からもう二ヶ月近くが経ってしまっているという……
うぅ……この作品、忘れられてたらどうしよう(泣)
まあ、ともかく。
どうにかこうにか第二クールを始めることができました。
書きながら、前回のアンケートは非常に励みになりました。
お答えいただいた方に感謝を。
そのアンケートの結果ですが、好きなキャラ部門はダントツでキラ君が一位でした。
二位がラクス、三位がナタルで、ここは一票差です。
四位(と言っても、それぞれ一票ずつしか入っていませんが)にニコルと、なぜかミゲル。
何やら被撃墜王がウケたらしいです。
好きなシーン部門は、やはりダントツで第十話より「キラとナタルの連携」でした。
シーンはやはりかなりばらけていて、三票以上入ったのはこのシーンだけです。
二位は二票入った第十二話「イザークの後悔」と第八話(後)「キラとミリアリア、カガリの追いかけっこ」でした。
追いかけっこはもう少し入るかと思ったんですが、二票止まりで少し意外でしたね。
残りはそれぞれ一票ずつ。
「民間人、キラを応援」「ディアッカ達の反省会」「ジョージにキレるフレイ達」「ナタル、キラを慰留」「アーネンエルベ発言」と言ったところです。
さて、それではレス返し参ります。
>シュン様
ご覧の通り、ニコル嬢はご存命でした。
コックピットは確か胸部だったと思うので、機体のど真ん中ならば逆にセーフ、というのが私の見解、つまりこの作品の設定です(笑)
種デスの方は全く見ていないのですが、機体が爆散しても無事って言うのは……何というかすさまじいご都合主義ですね(苦笑)
>タクハイ様
ご覧の通り、この時点ではニコル嬢の存命は確定です。
そして我が家のキラ君を好いていただきどうもありがとうございます。
最初はあんなにノリの良い人じゃなかったんですけど、トールとの掛け合いや、ミリィとカガリの修羅場を経て徐々にあんなキャラに(笑)
>ルクス様
ご覧の通り、ニコル嬢はどうにか生き残りました。
とりあえず、キラは意志の強いキャラにしようと真っ先に決めていたので、そういっていただけると嬉しいです。
>紅様
シュン様にもお答えしましたが、コックピットは胸部、というのが私の見解で、ゆえに機体中央、つまり腹部はセーフです。
ニコル嬢、おかげで生き延びました。
ナタルさんは、当初こんなに可愛いキャラになる予定じゃなかったんですが……
残念ながらナースカガリは登場しませんが、代わりに白衣カガリを想像して萌えてくださいませ(笑)
>柳野雫様
ご覧の通り、ニコルは生き残りました。
イザークに関しては、次話をご期待ください。
「キラ」というよりも「キラ達」を好いていただけたようで、とても嬉しいです。
彼ら学生組には作者の脇役LOVERの血が騒ぎまして、おかげでかなり優遇されております。
彼らの今後の活躍にもご期待ください。
>なまけもの様
ハルバートン提督は残念でした。
私が言って良いことじゃない気もしますが(爆)
ご覧の通りシャトルは無事、ニコルは存命でございます。
ナタルさんは、書いてる本人にも予想がつかないほど可愛くなったキャラですね。
彼女の今後もご期待ください(笑)
>KURA様
ラクス・クラインが政治家になれるか。
それはつまり、私の腕にかかっているわけですな。
責任重大です(笑)
そしてご要望ありがとうございます。
すぐに改善できるかどうかはわかりませんが、可能な限り善処いたします。
これからもビシバシ要望を浴びせてくださいませ。
>緋皇様
ご覧の通り、ニコルは生き残れました。
キラが何人落とすのか、それは作者にさえよくわかりません(遠い目)
何しろ、作者の手綱を振り切ってどんどん走っていってしまうキャラ達ですので。
>神曲様
あのお堅い人がこんなにやわらかく……
これぞツンデレの醍醐味ですね(爆)
原作でも、イザークは直情的なキャラではありますが、無抵抗の人間を殺せるような人間じゃないように思ってたんですよね。
だからこんな風にしてみました。
>encyclopedia様
原作であれだったからこそ、フレイにはサイと幸せになって欲しいのです。
絶対にフレイにはキラよりもサイの方が合うと思うんですよね。
気の強い女性の脆い面、というのもギャップの魅力と言うのはツンデレに通じるものがありますからね。
なかなか良いものでしょう?(笑)
>カットマン様
……あれ?
……ヘリオポリスでミゲルが撃ってたのって、大型のビームライフルじゃなかったんですか?(汗)
火縄銃の例は、ご覧の通り伏線のつもりでした。
突っ込んでくれてありがとうございます。
>タロー0様
カットマン様にもお答えしましたが、火縄銃の例は伏線のつもりでした。
気付いてくれてありがとうございます。
>C様
ご覧の通り、ニコル嬢はキラに助けられてアークエンジェルに言っちゃいました。
キラの毒牙にかかるかどうかは、これからの彼女と作者次第(笑)
>アーク様
ご覧の通り、シャトルは無事、ニコル嬢は生存しています。
イザークに関しては次回をご期待ください。
ラクスの黒さは書いてて苦労しますが、えらい楽しいんですよね(笑)
そして、追いかけっこ。
……ギャグシーン、少ないですかね。
頑張って読者様を笑わそうとはしてるんですが……
>迷子様
まさかそんなシーンを好きになっていただけるとは思ってもいませんでした(笑)
ミゲルもエースのはずなのに、一般人に見えてしまうこのおかしさ。
まあ、戦い方と機体しだいでは、もう少し良い勝負になるんでしょうけれど。
銃器のセンスと女心のわからなさ。
その答えは……今後の物語をご期待ください(笑)
>TNZK様
サイ、トール、カズイ、ミリアリアの学生組は、原作を見たときから気になっていたキャラでした。
何しろワタクシ、脇役LOVERですので(笑)
おかげであの通りのレベルアップとあいなったわけです。
ラクスの黒さは書いていても楽しいです。
今度の彼女の(黒い)活躍にもご期待くださいませ(笑)
>リーヴァル様
そうなんですよね。
ここからはキラ本来のフィールドですから、戦闘描写にも気合が入ろうと言うものです。
ニコル嬢はご覧の通りご存命です。
>さようならニコル様
ストライクのコックピットは胸部にあったような気がするので、ブリッツのコックピットも中心より少し上にあると思うのです。
ゆえにご覧の通りの展開となったわけですが、いかがでしょうか?
>HAPPYEND至上主義者様
ニコルに関してはだいたい予想が当たってましたね。
『種割れ』の代償は原作では特に描かれてなかったように思います。
バーサクに関しても後半では克服していたようですし。
原作のそういうところが嫌いなんですけどねえ。
>カシス様
ニコル嬢はご覧の通りご存命です。
うぅっ……
月一の約束さえ守れませんでした。
申し訳ありませんでした。
次はもっと頑張ります。
>エレキダケ様
ご覧の通り、ニコル嬢は生き残れました。
これからもどうぞお楽しみくださいませ。
>黄色の13様
あるらしいですね、アーネンエルベ(笑)
まあ、あんまり特殊なお客はいないでしょう。
せいぜい探し物が得意そうな黒尽くめの人くらいで(笑)
>M&M様
ご覧の通り、ニコル嬢はキラ君に無事救出されてしまいました。
お楽しみはまだまだ続きますよ(笑)
応援のシーンは私にとっても思い入れの深いシーンですね。
これが当たり前の光景となるのかどうか。
続きをご期待くださいませ。
さて、次回はキラ君のお目覚めです。
今度はここまで間が空かないように頑張ります。
どうか、見捨てないでくださいませ。
それでは皆様、また次回〜