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!警告!バイオレンス、壊れキャラ有り

「まぶらほ〜魔獣使いの少年〜第四話・後編(まぶらほ+モンコレ)」

ラフェロウ (2005-12-06 22:49)
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母方の実家の蔵で遊んでいたとき、俺は頭の中に響く声を聞いた。

その声は苦しそうな、それでいて忌々しげな声で叫んでいた。


――我ヲ出セ……我ヲ解放シロ…ッ―――


その声が酷く悲しそうに思い、俺は蔵の奥…祖父に絶対に入ってはいけなと言われている場所へと入

っていった。

何重にも鍵や鎖で閉ざされた扉を、一ヶ月前に召喚したばかりの魔法生物の能力で溶かしながら進んだ。

『ギギギギ……。」

「ありがとう。ここが最奥かな…。」

今までよりさらに厳重に封印されている扉の鍵や鎖を、ラスト・イーターが腐食させて溶かす。

便利な能力だけど、下手をすると服まで溶かしてしまうので扱いは注意が必要だ。


――ギィィィィ………ッ―――


錆び付いた音を立てて扉が開く。

開いていく扉の隙間から眩しい光が漏れてくる。

「うわ……っ」

思わず声が零れた。

そこは、小さな祭壇のある円筒形の部屋。

その部屋の壁から、いくつもの光が部屋の中心にある祭壇に向かって伸びていた。

そしてその祭壇の中心には、金色の鎖に封じられた、一振りの剣が突き刺さっていた。

その剣は、銀と赤の装飾が施された両刃の剣で、鍔には悪魔と竜の顔を象った装飾が施されていた。

俺は見惚れた。その剣に。

美しさよりも荒々しさを感じ、この光の中でも圧倒的な力の存在を放つその剣に。

―――我ヲ出セ……我ヲ解放シロ…ッ―――

あの剣から声が聞こえる。間違いない、あれはただの剣じゃ無い。

聖剣でも、魔剣でもない。

あれは………■■そのもの。

俺はゆっくりと祭壇へと近づく。

部屋を照らす光は、聖なる力を持っていて、弱いアンデッドなら浴びた瞬間灰になるほど。

剣を封印している鎖も、魔の存在を捕縛するための鎖だ。

俺はゆっくりと剣を掴む。

瞬間、今まで以上の声が頭に響いた。


―――オォ、オォ、待チワビタゾ契約者ノ末ヨ…ッ…カノ者ヨリ数千年…ヨウヤク強キ血ガ戻ッタカ…ッ―――


剣の言葉には歓喜があった。

彼は待っていたのだ、俺を、使い手としての俺を。

そう、直感した。


―――契約ハ続イテイル…我ヲ抜ケ…サスレバ我ハ貴様ノ剣トナロウゾ…ッ―――


その言葉に従うまでもなく、俺は剣の柄を握っていた。

力を込めた瞬間、金色の鎖が弾けとび、剣を開放する。

恐らく、式森の人間が解放を望むと封印が解ける仕組みだったのだろう。

そして俺は剣をゆっくりと引き抜いた。

なんの抵抗も無く引き抜かれた剣は歓喜に振るえ、その強大な力を解放した。

刃に炎が走り、俺の肉体に圧倒的な力を授けてくれる。

――――コレデ契約ハ受継ガレタ…我ガ名ハ■■■■…新シキ契約者ヨ、名ハ…?―――

「和樹……式森和樹だよ。」

この瞬間、剣と俺の契約は完了した。

剣を持った俺を見た祖父は驚愕に震えたが、何も言わず俺の頭を撫でてくれた。

それが、俺を信じての行動だと知った時、嬉しさで涙が溢れた。

12歳の秋、俺は剣を手に入れた―――――。


第四話「みられちゃった…………。」後編


「――――――――っ!?、諏訪園後ろっ!!

「え…?」

沙弓の声に後ろを振り向いたケイ。

その瞳に、巨大な角を振りかざす魔獣の姿が映った。

「――――っ、きゃっ!?!?!」

角が直撃するかと思われた瞬間、ケイが後ろへと偶然にも転び、直撃は免れた。

ケイが武術等の心得などを持っていなかったのが幸いして、身構える前に腰が抜けたのだ。

その時、彼女が持っていたビンが宙を舞い、角がそれに直撃した。

『■■■………■■■■■ッ!?!?』

ビンが砕け、中身の粉が宙に舞うと、それを浴びたベヒーモスが突然もがき苦しみだした。

直撃した角はドロドロと溶け、粉が付着した体もズルズルと崩れていった。

それを呆然と見る一同。

やがてベヒーモスは、完全に溶けて消えてしまった。

まるで、初めから存在になかったかのように…。

「諏訪園…あれって毒か何か…?」

「す、すごい効き目ね…酸か何かかしら?」

「わ、私たちは大丈夫なのかなっ?」

沙弓が呆然と床に落ちた粉を指差し、玖里子は引きつった笑みで問いかけ、千早は自分達の身体を確認する。

「ちっ、違うわよ、あれは毒でも酸でも無いわっ」

何とか立ち上がり、焦った様に話すケイ。

どうやら彼女も、まさかあの粉でベヒーモスが溶けるなんて思いもしなかったのだろう。

「じゃぁ何なの?」

「あれは、前に式森に分けて貰った【滅びの粉塵】よっ。確かにマジックアイテムを破壊する力はある

けど、でも人体とかには無害なのよっ!?」

確かに、同じように粉を浴びたケイは無傷だ。

ティテスやヘルハウンド達もなんら問題は無い。

「そうなんだ…でもなんでベヒーモスは溶けちゃったんだろ…?」

「配合間違えたんじゃないの?」

「そんなハズ無いわ、矢夜と何日も研究して作ったんだからっ」

「あら、本当に破壊したわ。」

さり気なく玖里子が自分の霊符を床に広がった粉に触れさせると、霊符がボロボロと崩れた。

「何にしても、ベヒーモスは一体じゃないみたいね…。」

「そうだね、和樹くん達が心配だし、早く合流しよう。」

「あぁ、せっかく苦労して作ったのに…。式森に上げて、お礼のデートやキスの計画がぁ……。」

真面目に話し合う沙弓と千早の横で泣き崩れるケイ。

命は助かったが、愛しの和樹へのプレゼントがパァになってしまった。

「………そういう訳にもいかないみたいね……。」

玖里子が廊下の奥を見て呟いた。

それに反応して全員がそちらを見ると、そこには数十匹もの黒い犬が。

それらは三つ目でこちらを見据えると、次々に巨大化し、魔獣の姿になった。

「最悪…何匹いるのよ…。」

沙弓が小さく声を漏らす。

ヘルハウンド達が前に出る。

千早もケイも玖里子も身構える。

『■■■■■………■■■■ッ!!!』

沙弓達の、第二戦が始まる。


「まったく、しつこいのよっ!!」

和美が炎の竜を操り、殺到してくるベヒーモス達を薙ぎ払う。

「ですが、何かおかしくないですかっ!?」

その後ろで剣鎧護法を発動させた凛が13体目のベヒーモスを切り倒す。

「このベヒーモス達、私たちの魔法が効きますよっ?、ザラマンダーっ!!」

炎の精霊魔法で焼き払う夕菜。

ヘルハウンド達も個別にベヒーモスに接近戦を仕掛け、圧倒している。

ブラウニーズのエレとリレはそんな彼らのお手伝い中。

「それよ、最初のと二匹目は強かったけど、こいつらの強さグール並みじゃないっ。」

「確かに、同じくらいに感じますねっ」

背中合わせになって肩で息をする二人。

鍛えている凛と違い、夕菜は体力面では普通の女子高生、和美は魔法と【戦闘スペル】を連発したため疲労している。

再び現れたベヒーモスを、和美の【戦闘スペル】と凛の剣鎧護法で倒したのは良いが、その後わらわらとベヒーモスが現れだした。

三人はヘルハウンドに乗って体育館を脱出し、現在校舎に向かって移動中だったのだが、校舎の方からも大量のベヒーモスが溢れ出していた。

「いったい、どこからわいてくるのでしょうかっ!?」

「分からないわ、でも一つ言える事は、こいつらベヒーモスなんかじゃないってことよ。」

「ど、どういう事ですかっ?」

ウンディーネで群がるベヒーモスを蹴散らしながら聞き返す夕菜。

「考えてもみてよ、あのベヒーモスよ?神話に名を刻み、魔法旅団が一個師団すら導入するS級の魔獣よっ?和樹だって支配する自信が無いって言うくらいのっ。そんなのが、こんな強さなわけないでしょっ?」

「そ、それもそうですね。」

そう、都市を一夜にして壊滅させるほどの魔獣が、優秀とは言えたかが学生に負ける訳が無いのだ。

そして、数が増える一方で弱体化していく個体。

「考えるに、どっかの誰かがこいつ等を生み出してるのよ、召喚なんかじゃないわっ。」

飛び掛ってくるベヒーモスもどきを魔法で吹飛ばす和美。

だが―――

「なっ!?」

爆炎からあまりダメージを負っていないベヒーモスが目の前に現れる。

「(しまった、油断したっ!こいつだけ別格だっ。)」

魔法で一撃で吹き飛ぶベヒーモスの中に、最初の個体クラスの奴が混ざっていた。

振り被られる魔獣の腕。その先には鋭い爪が。

「松田さんっ!?」・「先輩っ!?」

夕菜と凛が気づくが遅い、腕は既に和美の頭を狙っている。

ヘルハウンド達も間に合わない。

「(やられるっ!?)」

恐怖で身体が金縛りになったかのように動かない。

そしてその爪が和美の頭を切り裂こうとした時―――


――――ブンッ!!―――ドゴォッ!!!!―――


風が唸る音と何かが殴られたかのような轟音が響いた。

風の音を立てたのは和美の傍に立つ人影。轟音は10メートル以上吹き飛んで校舎の壁にめり込んでいるベヒーモス。

一瞬、本当に一瞬の間に、人影が横合いからベヒーモスを吹飛ばした。

その人影は…。

「いや〜、随分面白そうなことしてるなお前ら。」

殴ったと思われる手をプラプラさせた、日本人では在り得ない髪の色に童顔な顔立ち、そして整ったプロポーションを持つ女性。

「か、かおり先生っ!?」・「「伊庭先生っ!?」」

ほぼ同時に驚く和美と夕菜達。

「よっ、危なかったな。」

それに対して軽く挨拶するは、B組担任にして和樹の保護者、そしてゲームジャンキーで和樹LOVE。


吸血姫、伊庭かおり 降 臨


「な、なんで先生がここにっ?」

「ん〜?和樹にメシたかりに言ったらまだ帰ってないって管理人さんが言うからさ、どうせ学園だろうと思って来てみればこれだ。まったく、大人を抜きに危ないことするんじゃないっての。」

そう言ってぽかっと軽く和美の頭を叩くかおり。

言っている事がかなり正しい事に、ちょっと夕菜が驚いたのは内緒。

何せ普段はゲーム漬のダメ教師ですから。

「さ〜て、事情は知らないけど、あたしの生徒に手ぇ出したんだ、遠慮はしないぞ?」

『■■■■■………っ!』

突然乱入してきたかおりに警戒しているベヒーモス達。

かおりはそんな彼らを軽く見渡し、指をパキパキと鳴らした。

「偶には和樹にお姉ちゃんの活躍を見せないとねぇ…。」

戦っていれば和樹が注目してくれるだろうと考え、無造作にベヒーモスに近づくかおり。

危ないと止めようとする夕菜と凛。だがそれを和美が止めた。

「大丈夫よ、二人とも。」

「でも、伊庭先生一人じゃ…っ」

「そうです、武器も無しにあんな…っ」

「あ〜、武器ね…武器なら持ってるわ、あの人。」

と、何やら疲れたような、それでいて呆れたように話す和美に、夕菜は前にかおりが拳銃を持っていたのを思い出した。

だが、次の瞬間、拳銃を使って倒すのだという夕菜の考えは真っ向から否定された。

「どぉりゃぁぁぁぁっ!!」

豪快な掛け声と共に振るわれるその細腕。

だがその拳がベヒーモスに当たった瞬間、『ドゴォンッ!!』とアリエナイ轟音を立てて吹き飛ぶベヒーモス。

殴られた部分は完全に陥没し、ビクビクと少し痙攣した後、絶命したのか消えていった。

「「………………………………。」」

その光景に唖然とする二人。

「言ったでしょ、大丈夫って。あの人、素手でB級の召喚獣殴り倒せるんだから。」

「「えぇっ!?!?」」

和美の発言に今度は驚愕する二人。先ほどから二人は驚くか唖然とするかの二択が多い。

「自称吸血鬼、他称ゲーマー教師。でもその正体は本当に吸血鬼なの。」

「あ、あれって冗談じゃなかったんですか…?」

「本人が大っぴらに言ってるからそう思われてるけど、本当にあの人は吸血鬼なのよ。しかも滅茶苦茶強い。」

その言葉を肯定するかのように、ベヒーモスが3匹ほど宙を舞った。

調子が出てきたのか、今はまっている格闘ゲームの技を見た目だけ再現して戦っているかおり。

その細腕から繰出される衝撃は、恐ろしい程に重い。

「そらそらそらそらっ!!!」

連続して腕を振るい、爪でベヒーモス達を引き裂いていく。

爪だけではなく、その腕が通過した時発生する衝撃波ですら彼らにダメージを与えている。

一瞬、和美の脳裏に星と繋がってて17分割されたりネコになったりする人が浮かんだが、危険なので直ぐに忘れた。

ベヒーモスの返り血をモノともせずに薙ぎ倒していくかおり。

正しく吸血姫。いつもはやる気のない童顔が、今はとても楽しそうな顔をしているが、ちょっと恐怖。

「あ、圧倒的ですね…。」

「私たち…出番無いですかね…?」

もう笑うしかない二人。ただその笑顔が物凄く引き攣っていたが。

強力な助っ人が登場したが、今度は逆に強すぎていっそベヒーモス達が哀れに思える。

例えるならそう、序盤のボス戦に、倒すと仲間になる裏ラスボスが勇者の助けに現れたみたいな?

なんと言うか、そんな感じだ。

「相変わらず滅茶苦茶なパワーね、あの人…。」

「かおりさまつよ〜いっ」

「つよ〜いっ!」

エレとリレがきゃっきゃっとヘルハウンドの上では跳ねる。

今まで奮戦していたヘルハウンド達も、和美達の傍へと退避。

間違われて殴られたら一発でお陀仏確定なのだから。

「流石、和樹の保護者ね…。」

もはや呆れしか出てこない和美。


伊庭かおり。

式森家の分家である伊庭家の娘にして、人を超越した存在。

吸血鬼と呼ばれる存在の力を持つ人間。

力を持っているだけなので不死身ではないが、その力は人間を圧倒する。

しかもかおりの力の源となっているのは、真祖に近しい吸血鬼。

その細腕からは信じられないほどのパワーを発揮する。

そも、吸血鬼の一番の恐ろしい点は、不死性でも、吸血でもない。

そのパワーである。

特にかおりは、不死性や吸血による増殖能力を持っていない代わりに、圧倒的パワーを持っている。

その力は凄まじく、和美が言うようにB級の召喚獣すらも殴り飛ばす。

彼女曰く、本気になればA級だろうと倒せると言っているが、あながち嘘ではないだろう。

さらに彼女は、日光や十字架、聖水にも強い。なにせ人間なのだから。

彼女を分類するとしたら、【吸血鬼人間】となるだろう。

人間が吸血鬼になったのではなく、吸血鬼が人間になったのだから。

彼女が何故そうなったのかは、和樹と伊庭家の人間しか知らない事である。

ただ一つ言えることは―――


「あはははははっ、和樹見てるかーーっ!?お姉ちゃんは強いんだぞーーーっ!!」


彼女が凄まじくブラコンであると言う事だろう。

その内アーパー化しそうだ。それともネコ化だろうか?

50体近く居たベヒーモスの群れが瞬く間に消えていく。

そのあまりの光景に、和美達が哀れみの涙を滲ませたり。

そんなこんなで、和美達の方のベヒーモスは全滅した。

いと哀れ、偽ベヒーモス……。


「せやぁッ!!」

掛け声と共に唸りを上げる沙弓の右足がベヒーモスの脳天を叩き潰す。

両手両足に装着したプロテクターのお陰で怪我は少ないが、それでも消耗が激しい。

「拙いわね、霊符が切れそうよ…。」

沙弓や千早と違い、魔法行使に霊符を使用する玖里子に持久戦は辛い。

ケイは後衛タイプなのでまだ余力はあるが、群るベヒーモスを相手にするのは酷だ。

ヘルハウンド達も消耗が激しい。

「強さは下がったけど、数が……っ」

「どうするのよ杜崎っ?」

援護に徹している千早とケイが辛そうに声をあげる。

二人はあまり体力がある方ではない。が、それ以上に前衛である沙弓の疲労も大きい。

廊下を埋め尽くすベヒーモス達。

このままでは何れ押し切られるだろう。

「何とか安全な場所まで撤退しましょう。」

「でも何処に?もう学園中こいつらだらけよっ?」

今彼女達が居るのは特別校舎と本校舎を結ぶ通路の中。

何とか和樹と合流しようと移動してきたは良いが、特別校舎側からもベヒーモスが現れ(和樹が戦ってた連中)、挟み撃ちにされてしまった。

片方は沙弓達が、もう片方はヘルハウンド達が受け持っているが、このままでは何れ押し切られてしまう。

どうするか思案していて気付くのに遅れたのか、沙弓の横を一匹のベヒーモスが通過してしまう。

「っ、しまった、千早っ!」

「え…っ?」

ヘルハウンド達の援護をしていた千早も反応が遅れた。

千早の迫るベヒーモスの牙。

その牙が千早の頭を捉え―――


――――パリンッ――ドスッ!!――バリバリバリッ―――


た瞬間、窓ガラスを貫いて何かが飛来し、ベヒーモスの頭部を貫いた。

貫かれたベヒーモスはバリバリと音を立てて感電し、黒コゲになって消えた。

貫いたのは、黄色い矢で、放ったのは

「和樹くんっ!」

「ごめん、遅くなったッ!」

窓の外、グリフォンに跨って弓を構える和樹の姿。

そのまま別の矢を番えると、沙弓が相対しているベヒーモス達に向かって矢を放つ。

放たれた矢は青い色をしており、窓を割ってベヒーモス達の中を通過した瞬間、矢から大量の水が生まれ、彼らを押し流す。

「今のうちにこっちにッ」

窓の傍に来たグリフォンに乗り込む沙弓達。

ヘルハウンド達は流石に乗れないので、すぐさま和樹が檻へと戻す。

最後の沙弓が乗ろうとした所でベヒーモスが襲い掛かるが、またも和樹が放つ青い矢によって津波が生まれ、押し流される。

「よし、一度上空へッ」

『グエェェェッ!!』

バサバサと翼を羽ばたかせて空を飛ぶグリフォン。

若干定員オーバーだが、その辺りは我慢してもらう。

下手に重いなんて言おうものなら、どんな地獄を見ることか。

「はぁぁぁ……助かったわ和樹…ありがと〜。」

「あはは、遅れてすみません。あいつ等が何処から来るのか調べてたら…あの、さり気なく上着脱がさないでください。」

スリスリと頬擦りしながら和樹の制服のボタンを外している玖里子。

何気に最初の頃より手馴れている。練習しているのだろうか?

その光景を見てむっ…となる沙弓達だが、疲労が大きいため行動に移せない。

「和美達は?」

「分からないわ、多分無事だと思うけど…。」

「そう…あ、諏訪園さんはどうしてここに?」

忙しくて考えるのを後回しにしていたのか、唐突にケイに話を振る和樹。

「え?あ、私は式森に渡す物があって…。」

「渡す物?」

「うん。ほら、前に【滅びの粉塵】を分けて貰ったでしょ?それを矢夜と一緒に調べて作ったのが出来上がったの。」

「へぇ、あの魔法アイテムを生成できたんだ…。」

「えへへ、凄いでしょう?…あ、でもあのベヒーモスの攻撃でダメになっちゃったの…ごめんなさい。」

しゅん…と俯くケイ。その姿に苦笑して頭に手を置く和樹。

「なんで謝るのさ?俺は諏訪園さんが無事だったんだからそれで十分よ。」

そう言って微笑む和樹。

「式森…ありがとぉっ」

よほど嬉しかったのか、瞳を濡らして和樹に抱きつくケイ。

それを抱き止めてよしよしと頭を撫でる和樹。

で、白い目でそれを見ている幼馴染達と先輩。

「ねぇ、和樹って何時もああなの?」

「はい、無自覚に優しくして落としてるんです。」

「おまけに鈍感だから落としてることに気付かないのよね…。」

空気が二種類に分かれたグリフォンの背中。

微妙にグリフォンが冷や汗かいていたり。

「ところで、その弓とかあの矢とかってなんなの?」

ケイを引き剥がすために和樹が持つ道具に視線を落とす玖里子。

思ったとおりに、和樹は撫でるのを止めて道具へと意識を向けてくれた。

その事にケイがむくれているが、やはり鈍感は気付かない。

「ああ、これですか?これは【ブラック・ライトニング】って名前の弓で、装備していると稲妻の力が宿るんです。矢は、最初のは【トルクメンの矢】で、もう一つは【キュクレインの矢】です。どれも魔法アイテムで、矢は使い捨てなんですけど、威力は高いですよ。」

なお、弓は和樹の祖父が持っていたもので、矢は和樹が自腹で購入している道具である。

その道具を買うお金は、紅尉に紹介してもらった仕事の報酬だったりするのだが、その話は別の機会に。

「相変わらず、面白い道具持ってるわねぇ…。」

「一種の商売道具ですから。」

魔法が使えない和樹にとって、自分の身を守るためには道具に頼らざるを得ない。

魔獣達に頼って彼らを犠牲にするのを良しとしない彼なので、こういった魔法アイテムは必要不可欠なのだ。

「さてと、早い所和美達を探して―――うわ。」

下に視線を向けた和樹が、そんな声を漏らした。

沙弓達もその視線を追って下を覗き…同じ声を漏らした。

「なにあれ……?」

「かおり先生…だね…。」

「あの人…本当に無茶苦茶ね……。」

「無茶苦茶で済むレベルかしら……?」

上から順に、ケイ・千早・沙弓・玖里子のコメント。

彼らが見た地上では、B組の担任であるぐーたらゲーマーが

「あははははははっ!!」

怖いくらいハイになって暴れていた。

目が血走り、普段は気だるい表情の顔が狂喜に歪んでいる。

どうやら戦っている内に脳内麻薬出まくってきたようだ。

常識外れのB組において、実は一番常識外れなのは彼女ではないだろうか?

今も爪を振るって切り裂いたり、ヤクザキックで蹴り倒したりしている。

全員の脳裏に、暴走しちゃった姫とか、髪が赤くなる妹とかの姿が浮かんだが、全員が瞬時に危険だと判断して忘れる事にした。

大量に居たベヒーモス達は9割ほど消えており、被害を被らない場所で和美達が黄昏ていた。

「和美〜ッ」

「……あ、和樹。」

和美達の傍へと降り立つグリフォン。

瞬時にヘルハウンド達が和樹へと駆け寄り、く〜んく〜んと鼻を鳴らしてくる。

どうやらかおり嬢のお姿が怖かったようだ。

ツヴァウの背中に何やら毛が無い部分があるが、どうもかおりの攻撃に巻き込まれたらしい。

ヘルハウンド達は攻撃力は高いのだが、反面守備力が低いので、かおりの攻撃が当たれば一撃必殺確実である。

その事に苦笑しつつ、彼らを檻へと戻してやる。

ふと反応が無い夕菜達を見ると、どちらも呆然としていて意識が無い。

どうも現実逃避に入っている様子。

まぁ、3メートル級の魔獣を背負い投げしたり巴投げしたりネリチャギかましたりしている女性が居たらそりゃ引く。

しかも見た目は童顔でスタイルは上々の美女、軽く現実逃避くらいしたくもなる。

「和美、かおり先生どれくらい戦ってる?」

「そうね…そろそろ15分くらいかしら?」

和美の返答に「じゃぁそろそろだね……。」と苦笑する和樹。

その言葉に玖里子達が首を傾げると、ベヒーモスを一掃したかおりが突然膝を付いた。

「ちょ、どうしちゃったのっ?」

玖里子がその様子に慌てるが、和樹達は普段通り。

「大丈夫ですよ玖里子さん。単純に……。」

和樹がそう言いながらかおりに視線を向けると

「お腹空いたぁぁぁぁっ」

と叫んだ。

力の出し過ぎでエネルギーが尽きたようだ。

で、これはチャンスだとばかりに殺到してくる残りのベヒーモス。

だが慌てず騒がず和樹は矢を番えると、ベヒーモス達へ向けて放つ。

放たれた【キュクレインの矢】が津波を発生させながらベヒーモス達を押し流す。

「お?…あ、和樹〜っ」

突然の援護に和樹達の方を振り返り、愛しの弟の姿にヒラヒラと手を振るかおり。

その姿にちょっぴり頭痛がする和美達だが、和樹は相変わらずマイペースに「姉さんはしょうがないなぁ…」と苦笑している。

「拙いわね、また集まってきたわよ。」

玖里子が特別校舎等がある方向を見ると、黒い波がこちらへ向かって来ていた。

「かおり先生もガス欠ですし、一度避難しましょう。付いて来て。」

そう言って駆け出す和樹。グリフォンは空腹で動けないかおりを連れに行っている。

「ほら夕菜ちゃんも凛もいい加減現実に戻ってきなさいっ!」

「あぁ、和樹さんダメです、それはちゃんと初夜にぃ……あれ?」

「先輩、如何ですか私の料理…そんな、愛情が篭っていて美味しいなんて……あぁ―――はっ!?」

何やら妄想めいた…と言うか妄想的な言葉が零れていた二人。

どうも現実逃避から妄想へと移行していたようだ。

同時に覚醒して目の前の人を認識する。

「「く、玖里子さんっ!?」」

「そうよ、玖里子お姉さんよ。ほら、逃げるからちゃっちゃと走るっ」

二人の手を引いて和樹達の後を追う玖里子。何気に面倒見が良いお姉さんである。

和樹を先頭に校舎へと走り、中へと入る。

校舎内のベヒーモス達はかおりの大暴れに引かれて校庭に殺到したのか、沙弓達が相手にした連中は一

階には居なかった。

「ちょっと和樹、校舎なんかに入ったらまた追い詰められるわよっ?」

「大丈夫だよ和美。この校舎内で一番強い結界が張られている場所知ってる?」

「………そうか、保健室ねっ!」

和樹の言葉にピンッときたのか、玖里子が声を上げる。

それに対して正解と微笑み、廊下を駆け抜ける一団。

何故保健室が一番強固なのかと疑問に思っても、そこにマッドが居るからと答えれば葵学園の生徒達は

皆納得する。

グリフォンは流石に校舎内は狭いので檻へと戻っている。

ブラウニーズのエレとリレは和美の肩の上、ティテスはスペル連発で疲れたのか千早に抱かれている。

ガラララララ……ッ――――ピシャッ―――

全員が滑り込むようにして保健室へと入り、和樹が扉を閉める。

そして空かさず玖里子が霊符を使用して気配遮断結界と物理結界を強固に張る。

「おや?どうしたのだね?」

まだ書類整理をしていた紅尉が、机から振り返りながら尋ねた。

「どうした…って、紅尉先生外の騒ぎ気付かなかったんですかっ?」

「ふむ、なにやら騒がしいと思っていたが、君達だったのか…そんなにボロボロで、どうしたんだ?」

「ベヒーモスですよ、紅尉先生。」

和樹がそう答えると、紅尉の眉がピクリと跳ねた。

それに気付いたのは、和樹だけだったが。

「なるほど、式森君の予知夢が当たったのか…。それで、どうだったね。」

「どうもこうも無いわよ…。」

と言いながらも、一応紅尉に状況を報告する和美達。

学園内にベヒーモスが溢れている事。強さに個体差があり、数が少ないと強いが、多くなると弱くなる事。

倒しても倒してもきりが無い事など。

一応紅尉も召喚術や魔獣には詳しいので便りにはなるだろう。

説明を和美達に任せ、和樹はベッドに座り込んでいるかおりへと声をかける。

「かおり先生、大丈夫?」

「うぅ〜、和樹〜、お腹空いた〜。血ぃ吸わせろぉ〜っ」

まるでゾンビのようにフラフラしているかおり。

「限界以上に力使うからだよ。ここの所血も吸ってないんだし。はい。」

注意しながらも右手を差し出す和樹。

だがかおりはぷいっと顔を背けてしまう。

「?先生…?」

「やだ。首筋からじゃなきゃやだ。」

我侭言い出した。こうなると童顔が仇と言うか幸いと言うか、見た目可愛いのだが言われた和樹にしてみれば困った物だ。

仕方ないなぁ…と諦め顔で制服のボタンを外し、首を露出させる和樹。

その不思議に色っぽい姿に、見ていた凛ちゃんドキドキ。

「では、頂ま〜すっ、あむ……っ」

―――ブツ…ッ―――

「う…ッ」

かおりの伸びた犬歯が首筋に突き刺さり、動脈から和樹の血が噴出する。

それをうっとりとした恍惚の表情で飲み下すかおり。

ちゅうちゅうと血を吸い、こくこくと喉を鳴らす光景は、まさにドラキュリーナによる吸血。

その行為に痛み以上の感覚があるのか、顔が快楽の色に歪む和樹。

息が荒くなり、冷や汗が流れている。

「おいひぃ…おいひぃよ和樹ぃ…っ」

「うあ……ッ、ね、姉さん…ッ」

言葉だけ聴いてるとものすんげぇ卑猥だが、これも立派な捕食行為です。

伊庭かおりは、人間を超越したパワーを発揮できる反面、そのパワーを発揮するには人間の血が必要になる。

正確には、血に含まれる魔力をパワーに変換しているのだが、使っていれば当然無くなる。

なので、こうしてエネルギー補給が必要となる。

同時に栄養補充も出来るのでかおりにとっては一石二鳥。

いや、愛しの弟の血が吸えるのだから一石三鳥だろうか。

ただ、人の多い保健室でそんなことしてれば

「あぁ〜〜〜〜〜っ!?!?何してるんですか伊庭先生っ!!!」

当然見られる訳で。

和美達は既に知っている事なので騒がないが、夕菜達は理由なんて知りやしない。

しかも場所の関係から、夕菜達にはかおりが和樹の首筋に顔を埋めてキスしているようにしか見えない。

さらに、かおりは両手を和樹の背中に回してガッチリ掴んでいるし、ムニュムニュと大き目の胸を和樹に押し付けていたりする。

夕菜でなくとも、好きな男が別の女にこんな事されていたら普通は怒るだろう。

ただ、既に攻撃魔法を展開しているのは少々やり過ぎではないですか夕菜さん?

「ぷは…っ、煩いぞ宮間、あたしは今食事中だ。」

「えぇっ!?」

かおりが顔を上げて夕菜の方を見ると、夕菜の嫉妬に染まった顔が驚きに変わる。

そりゃそうだろう、かおりの口元からは鮮血が垂れ、唇は赤く染まっているのだから。

それをペロリと下で舐めるかおり。童顔と妖艶のギャップに、男だけでなく女でもドキッとする。

夕菜が黙ったのを確認して、再び口をつけるかおり。

口を離している間、血が流れないのは吸血鬼特有の現象なのだろうか?

「かおり先生は、力使い過ぎると空腹になって動けなくなるの。で、その際の栄養補給が吸血なの。あ、心配しなくても和樹が吸血鬼になる事はないから。」

「で、でもぉっ!」

「言わないで夕菜ちゃん。私だって羨ましいと思ってるの。」

和美の言葉にうんうんっと強く頷く沙弓と千早。

ケイは和樹の血を吸うという行為を想像して悦に入っている。

彼女の脳内では黒魔術のサバトで交わる自分と和樹の姿が。

ケイの表情は年頃の女の子の艶姿なのだが、やってる場所が不気味過ぎる。

そのまま悪魔召喚も可能なくらいに不気味な場所での交わり。まぁ本人が望んでいるのだから良いのだ

ろう。

和樹がそれを良しとするかは不明だが。

「ね、姉さんそろそろ…ッ」

「え〜、もっとぉ…もっと和樹の熱いの飲みたいぃ〜。」

だから言ってる事が卑猥ですってば。

だが、かおりも吸い過ぎて和樹が貧血になったら困るので口を離し、ペロペロと傷跡を舐める。

すると徐々に傷跡が小さくなり、やがて血が止まる。

「ふぅ〜、満腹じゃないけどまぁ満足かな。あ、紅尉先生、輸血パック貰いますね〜。」

まだ飲み足りないのか、紅尉が許可を出してないのに保管用の機械から輸血パックを取り出すかおり。

何故保健室に輸血パックとかがあるのかと聞かれれば、そこにマッドが居るから。

「構いませんが、あまりAB型ばかり飲まないでください。」

「いや〜、やっぱりABが一番後味が良いもんで。」

その会話に一瞬眩暈を感じる面々。

血にも喉越しとか後味とか色々あるらしい。

因みにかおりが手に取ったのは女子のAB型血液で、小さく『処女』と書かれていたり。

かおり曰く、男の血を吸うのは和樹だけなのだそうだ。

まぁ、和樹の血は魔術媒介に使用する血の中で最高の血液なので、含まれる魔力も桁違い。

それをパワーに変換するかおりにとっては、最高のご馳走なのだろう。

それ以外にも和樹に操を立てていると言うのが理由だろうか、純情な事で。

で、今飲んでいるのは食後のお茶のような物だろう。

パックにストローを刺してちゅうちゅう吸ってるかおりを無視して話を進める和美達。

和樹は若干血が足りないので、増血薬を飲んでいた。

「大丈夫ですか先輩?」

「うん、平気平気。何時もの事だし。」

甲斐甲斐しく世話なんかしちゃってる凛ちゃん。お弁当イベントもまだなのに好感度上昇中だ。

ただこのままだと某人狼の人の出番が無くなる可能性も高い。

それは兎も角。

「と、言う訳で、倒しても倒してもきりが無くて…。」

「こっちも同じ。和樹が来てくれなかったら危なかったわ。」

「ふむ…個体数により強さが変化か…。さらに死体が残らない…。これは、どうやら召喚などでは無い

ようだな。」

和美と玖里子の話を聞いてある程度の仮説を立てる紅尉。

「あ、それとあのベヒーモス、何でかしらないけどなんたらの粉塵っての浴びたら溶けちゃったわよ?」

「【滅びの粉塵】ですよ先輩。」

「そう、その粉塵。こう、ドロドロになって最後は分解されたみたいになって消えちゃったわ。」

その説明に、バッ…と顔を見合わせる和樹と紅尉。二人の中で、一つの仮説が完成に近づいた。

「そうか、だから支配できなかったんだ…。」

「なるほど、ならば個体数の増減や強さの上下がある訳だ…。」

二人してなんか納得しているが、理解できていない面々が首を傾げる。

「つまりどゆこと?」

かおりがちゅーちゅーと血をパックから吸いながら疑問を口にする。

それに習って頷く一同。

「ふむ、僭越ながら私が説明しよう。あのベヒーモス、恐らくベヒーモスを模したであろう生物…あれらは魔法によって作られた【魔法生物】だと思われる。」

「俺のシャドウ・ストーカーとかの事だよ。」

和樹の補足説明に、夕菜達があぁ…と思い出す魔法生物。

「誰がどの様にして彼らを生み出しているのかは不明だが、彼らの強さが変動するのは、数を増やす事で一体に対して使用している魔力量を減らしているからだろう。魔力量の少ない魔法生物は当然生物としてのレベルが下がるので、弱体化する。最初に強い個体を仕向けたのは良いが、倒されてしまったので今度は数で攻めることにしたのだろう。質より量を選んだ結果が彼らの数の多さだ。」

「【魔法生物】は魔法、魔力から生み出される一種の人工生命だから、死ぬと魔力に戻って消えてしまうんだ。だからベヒーモス達の死体が残らないし、魔法アイテムの他に【魔法生物】を死に至らしめる【滅びの粉塵】でベヒーモスが消えたんだよ。」

「へぇ〜、あれってそんな効果もあったのね…。」

「自分で作っておいて知らなかったの?」

ケイが和樹達の説明に感心したように呟くと、和美の突っ込みが入った。

「し、仕方ないじゃない、配合方法とか用途とか調べたの矢夜なんだからっ」

ケイは実際に配合して実験しただけだったり。

「兎に角、これで解決方法が分かった。ベヒーモス達を生み出している原因・元凶を倒せばそれでお終いだ。」

「そうね、でもその前にもう少し休憩しましょう。流石に疲れちゃったわ…。」

と言って長椅子に座り込む玖里子。夕菜や千早も椅子やベッド脇に座り込んでいる。

流石に何十匹もの偽ベヒーモスを相手に戦ったのだから、女子高生には辛い事だろう。

「でも、どうしてベヒーモスなのでしょうか?」

体力的にまだ大丈夫な凛が、刀の手入れをしつつ疑問を口にした。

その言葉に全員の視線が集まり、ちょっと焦る凛ちゃん。

「どういう事?それって。」

玖里子が意味が分からないとばかりに首を傾げる。

「ですから、何故生み出している奴はベヒーモスを模して生み出しているのかと…。別に他の生物でもいいような気がして…。」

「そりゃ、強いからでしょ?なんたって神話の魔獣ベヒーモスよ?」

「そうですが…でも、そのベヒーモスを模したにしては、あまりにもお粗末と言うか、手応えが無いと言いますか…。」

「あ、それ私も感じたわ。もし神話の魔獣を模したのなら、魔法生物と言えどもっと強くても良いと思わない?」

「それもそうね……。」

凛の言葉に同意した和美、その言葉に沙弓も頷く。

神話の魔獣を模した魔法生物にしては、あまりにも存在が小さいのだ。

あれだけの数を生み出す魔力があるのだから、もっと大きな存在として生み出してもおかしくないのだから。

「多分、模したベヒーモスがあれ位だったんだよ。」

「?それってどういう事よ、和樹。」

「つまり、生み出している奴が模したのは、まだベヒーモスの中でも小さい存在だったんだよ。そうでしょう、紅尉先生。」

と言って紅尉を見つめる和樹。

その視線を真っ向から受け止める紅尉。

「………………ふぅ、やれやれ…やはり気付いてたか…。」

が、直ぐに視線を外し、嘆息した。

「えぇ。これでも召喚術士ですから。」

そう言ってニヤリと笑う和樹。そんな不適な笑みにメロメロな嫉妬娘はこの際無視だ。

「ちょっと、分かるように説明してよっ。」

「落ち着きたまえ風椿君。今から説明しよう。本来なら、式森君に伝えるのは紫乃の役目だったのだがね…。」

と苦笑しつつ、紅尉が何やら呟くと、保健室の壁…昼間和樹が睨んでいた場所が音を立てて可動した。

白い壁に、大き目の入り口が姿を現す。

その光景に皆唖然とし、玖里子はいつの間に…と呆れと感心の混ざった声で呟いた。

その入り口にゆっくりと近づく和樹。

入り口の中は薄暗いが、そこに入り口が出来る前よりも強い存在感が確かにあった。

『ゴルルルルルル………』

低い唸り声。その声に、和樹と紅尉以外が全員身構えた。

多少声の低さに違いはあるが、その声の持ち主を間違えるハズが無い。

何故なら、さっきまで何十匹ものそれと戦っていたのだから。

やがてゆっくりと姿を現す存在。

突き出た角、三つの瞳、ライオンのような巨躯、そして暗い紫色の体毛。

その姿は正しく

「「「「「「「ベヒーモスっ?!?!」」」」」」」

全員が叫び、それぞれ攻撃スタイルを取る。

そしてかおりがストローが刺さった輸血パックを加えた状態でベヒーモスを殴ろうとして…和樹の腕に止められた。

「和樹っ?」

「下がって、かおり姉さん。大丈夫だから…。」

少し躊躇するかおりだが、こちらが攻撃態勢に移っても何もしないベヒーモスと、そのベヒーモスの瞳を見つめる和樹の横顔を見て、苦笑して後ろに下がる。

夕菜達が心配そうに見つめ、凛と沙弓がいつでも攻撃に移れるように身構える中、和樹はゆっくりとベヒーモスへと足を進める。

ベヒーモスも三つの瞳で和樹の目を見つめたまま、少しだけ前に出て、顔を下げた。

目と鼻の先にあるベヒーモスの顔。

だが和樹には一切の恐怖は無い。ただ、真剣な瞳でベヒーモスを見つめるだけ。

やがてベヒーモスがその巨大な口を広げる。

居並ぶ鋭利な歯。それに噛み付かれたら和樹でも危ない。

その光景に夕菜達が飛び出そうとしたが―――


――――――べろんっ♪――――――


「「「「「「「へっ?」」」」」」」

ベヒーモスが、和樹の顔を舐めたので飛び出そうとした全員が、かくっと体制を崩す。

「はは、こら、くすぐったいってっ」

『ゴルルルルッ♪』

ベロベロと和樹の顔や手を舐め回すベヒーモス。

まるで犬か猫のようなその仕草に、呆然とする面々。

ただ一人、紅尉だけはその光景を面白そうに観察していた。

「ふむ、やはり式森君の力はS級でも効果があるようだな。」

と言って、またもカルテのような紙にサラサラと言葉を書き連ねる保険医。

どうも直接実験や解剖ができないので観察することを選んだようだ。

「か、和樹さんっ、大丈夫なんですかっ?」

恐る恐る和樹に声をかける夕菜。玖里子や凛達も同じように見つめてくる。

「大丈夫、大人しいし、とっても賢いよ。それにこの子、まだ子供みたいだし。」

「「「「「「「子供ぉっ!?」」」」」」」

かおりと紅尉を除いた女子が叫んだ。

何せ体長3メートルを超える魔獣が、まだ子供だと言うのだから。

大人になったら何十メートル超えるんだ!?…と叫びたかっただろう。

ベヒーモスは、子供である事を証明するように、和樹に甘えてゴロゴロと喉を鳴らしている。

高校生に甘える神話の魔獣。中々シュールな光景だ。

「うむ。そのベヒーモスは2週間前に発見された幼生体でね、知り合いの伝で私が一週間ほど前に引き取ったのだよ。ベヒーモスの幼生体は発見数がまだ5件にも満たない希少種なので、保護の目的もあってだが。もう少し検査したら、式森君に召還してもらうなり、【檻】に入れてもらうなりするつもりだったのだが……やはり魔獣の気配には敏感だな。」

「そうですね…何故かこの子がここに居るのを感じましたから。」

甘えるベヒーモスの頭や喉を撫でながら答える和樹。

彼は、【モンスター】種の存在を身近に感じる事ができる特殊な感覚を有している。

それ故、キマイラ等の魔獣が目撃された場合、紅尉が彼を連れて捕獲に行くことも珍しくない。

因みに、捕獲された魔獣達は和樹が送り帰したり、契約したりしている。

「あの、触っても大丈夫ですか…?」

夕菜が少しビクビクしながらもベヒーモスに近づいてみる。

どうも、猫か犬のように甘えるベヒーモスを撫でたいという衝動に駆られたようだ。

見れば、凛や千早も撫でたいのか身体をウズウズさせている。

「大丈夫、嫌がる事をしなければ大人しいから。」

「そ、それじゃぁ……撫で撫で…。」

『ゴルルルッ♪』

嬉しいのかくすぐったいのか、軽く身体を揺らすベヒーモス。

だがその表情を見る限り、嫌がっている様子はない。

それを見て千早や凛もベヒーモスの身体を撫で始める。

そんな彼女達を見ながら、ふと何かに思い至ったのか、玖里子が「もしかして…」と呟く。

「どうかしたの、先輩?」

「えぇ…。紅尉先生、あのベヒーモスを引き取って連れてきたのって、ちょうど一週間くらい前なのよね?」

「あぁ、正確には8日前の夜だがね。」

その答えにピンっときたのか、深く頷く玖里子。

「和美ちゃん、例の噂が立ち始めたのって何時だった?」

「え?鳴尾の調べだと大体6日前くらいから…あら?」

和美も何かに気付いた。

「気付いた?推測だけど、最初の噂の犯人は、たぶんあのベヒーモスよ。それなら噂とちょうど時期が重なるわ。」

「そっか…だとすると、和樹も言っていたけど、今偽ベヒーモス達を生み出している犯人は、このベヒーモスを見てそれを模したって事かしら?」

頭の回転の速い二人の推理が冴え渡る。

本気で知略戦で相手したくないコンビだ。

「紅尉先生、もしかしてあのベヒーモスを校内で散歩させたりしました?」

「あぁ…紫乃が何度か夜に散歩に連れて行っていたが?」

紅尉の返答にやっぱりと頷く二人。

「そうなると、犯人はその時にベヒーモスを模したのね。でもあれだけの数を生み出せるんだから、相当魔力がある人間よね?」

「そうですね。でも、そんな生徒も教師も内の学園に居ませんよ…ねぇ?」

何故か語尾が疑問系になる和美。

その理由は傍に居る白衣の男とか、その妹とか、彼女が在籍しているクラスとか。

可能性が高いとすれば前者と中者なのだが、前者はベヒーモスを保護していただけだし、中者は現在出

張中だ。

「あぁ、そう言えば最近学園裏で異質な魔力が観測されているのだが……。」

「「それを早く言ってくださいっ!!」」

唐突に事件の真相のヒントを言い出すマッドに、知略コンビの突っ込みが入った。

そんな怪しい現象が起きているなら、最初からそこへ行けば事件解決も早かっただろうに。

真相究明にはならなかったかもしれないが。

「確かに、あのベヒーモス達は学園の裏庭の方から溢れてたよ。正確な場所までは特定できなかったけど。」

沙弓達を助けに行く前にグリフォンと共に上空から様子を眺めていた和樹。

これで犯人の居場所に目星はついた。

「それじゃ、被害が学園から出て行く前に、ケリをつけましょう。」

「そうね…でもどうやって校舎裏まで行くの?」

意気込む和美に沙弓が疑問を口にする。

廊下はおろか、校庭もベヒーモス達で溢れかえり、カーテンで窓を隠してある廊下も、先ほどからベヒーモス達がのし歩いているシルエットが見えている。

玖里子の気配遮断結界のお陰で気付かれていないが、時間の問題とも言える。

その疑問に大丈夫と答え、ベヒーモスを撫でている和樹に声をかける。

すると和樹がニヤリと笑い、ベヒーモスを軽く撫でてから校庭に面した窓へと足を向ける。

「それで、メンバーはどうする?流石に全員は無理だよ?」

「そうね…和樹と沙弓、それに神城さんは外せないわね。あと援護できる千早と私かしら?」

「あの、私は…?」

和美の言葉におずおずと挙手する夕菜。

だがその疑問は、隣に居た玖里子が答えた。

「夕菜ちゃんは魔法かなり使ったでしょ?あたしも霊符が残り少ないし、ここでお留守番よ。」

「で、でもっ!」

「大丈夫だよ夕菜。」

「和樹さん……。」

心配で顔を歪める夕菜。そんな彼女の肩に手を置いて語りかけるように言葉を紡ぐ和樹。

「大丈夫、俺は必ず帰ってくるから。だからここを守ってて。諏訪園さんもお願いするね。」

「任せて。今防護結界張ってるから。」

先ほどから保健室の壁などに何やら呪文と魔方陣を書き込んでいたケイ。

こと呪術関係においては矢夜と並んでB組トップを誇るケイの結界陣は、かなりの硬度を誇ることで有名だ。

その彼女が居るのだから保健室は安全だろう。

夕菜も和樹の言葉に深く頷き

「任せてください、和樹さんが帰ってくるまでここは私が守りますっ!」

と意気込んだ。

頭の中では「(妻になるには、やはり夫が帰ってくる場所を守るのも務まらないとっ)」なんて考えていたが。

「ティテスも念のため残って。」

「は〜い。頑張ってねカズキっ」

と言って和樹の頬に口付けをするティテス。

フェアリーキッスと呼ばれるお呪いであり、された者はその身に妖精の加護を受けることが出来るとか。

その光景に女子達が恨めしそうに和樹を見ていたが、鈍感な和樹はまったく気付かない。

和樹はそのまま窓を開け放ち、背中を外へと向ける。

「第八の門開放…出でよグリフォン、ペガサスっ」

『グルェェェェッ!!』

『ヒヒーーーンッ!!』

和樹の背中に浮かぶ魔方陣から、グリフォンが飛び出し、それに続いて純白の翼を持つ天馬、ペガサスが現れる。

伝説にも度々登場するペガサスの姿に、玖里子達が目を見開く。

二匹はそれぞれ窓の前でホバリングするように待っている。

その背中に、和樹達が次々に飛び乗る。

和樹はグリフォンの背に乗り、その後ろに和美、凛が。

ペガサスには沙弓と千早、かおりが飛び乗る。

若干定員オーバーなのだが、ほぼ女性なので二匹とも平気そうではある。

「それじゃ玖里子さん、後はお願いしますねっ」

「えぇ、任せなさいっ」

教室に残る玖里子にそう言い残し、和樹はグリフォン達を羽ばたかせる。

瞬く間に急上昇した二匹。その姿を、沈みかけている夕日が照らす。

目的地である校舎裏へと飛ぶ二匹。

眼下には、校庭や通路をのし歩くベヒーモス達の姿。

彼らはそのままやり過し、目的地である校舎裏へと辿り着く。

そこは、広めの裏庭と並び立つ樹木があるだけの空間。

「和樹、あれっ」

その空間の一角を指差す和美。

そこには、枯れた楓の木らしき樹木と、その根元に広がる黒い影があった。

影はまるで沼のように木の根元を中心に存在し、そこからズルリ、ズルリと偽ベヒーモス達が生まれてきていた。

「あれが原因だね…でもなんで木の影から…。」

「さぁ…でも原因が分かったんだし、あの木ごと吹飛ばしちゃう?」

和樹の背中の温もりを堪能しつつも物騒な事を言う和美。

だが和樹はその提案に賛成できなかった。

何故か、あの楓の木から、何かの存在を感じたから。

『■■■■……■■■ッ!!!』

思案していると、眼下のベヒーモスが和樹達に気づき、咆哮を上げた。

「まずいぞ、このままだと校舎内の連中までやってくるぞ。」

行き掛けにガメたのか、二袋目の輸血パックを飲んでいたかおりが校舎の方を見ながら叫ぶ。

「仕方が無い、とりあえずあの影を何とかしよう。」

その言葉に、かおりと沙弓、凛が頷き、身構える。

グリフォン達が滑空し、地面まで近い所に下りる。

そこへ殺到してくるベヒーモスを、和美と千早の魔法が蹴散らす。

その隙を突いて、和樹達が降り立つ。

「かおり先生と凛ちゃんは校舎側から来る敵をお願い。俺と沙弓であの影を調べるから。」

「あいよ。」

「分かりました。」

四人はそれぞれ得意な得物を装備して身構える。

和樹は黄金の剣、沙弓は籠手等のプロテクター。

凛は刀を構え、かおりは何処からか拳銃を二丁取り出して構える。力の節約の為に得物に切り替えたようだ。

「私たちは上空から援護するわ。」

「頼む。行くぞッ!」

和樹が剣を構えて飛び出すと、沙弓達もそれに合わせて動き出す。

校舎側から来るベヒーモス達は、凛とかおりが引き受け、和樹と沙弓は一直線に黒い沼へと走る。

途中邪魔するベヒーモスを切り倒し、殴り飛ばす。

和樹達の後方では、凛が刀で切り倒し、かおりが拳銃で眉間などを撃ち抜いて一撃で倒している。

だが数が兎に角多い偽ベヒーモス達。

和美と千早が上空から援護するが、長時間の戦闘は禁物。

それを誰よりも理解している和樹が、黄金の剣を牙突の構えで突っ込む。

「破あぁぁぁぁぁッ!!」

黒い沼を守るように立ち塞がるベヒーモス達を切り倒し、黒い沼へと近づいた瞬間。

『来ないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!』

バチィッ!!!―――

「ッ!?」

突然木の手前から強力な衝撃波が発生し、接近した和樹を弾き飛ばした。

「ぐはぁッ!?…ぐ…ッ」

弾き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる和樹。

「和樹っ!?」

足元まで転がってきた和樹を沙弓が抱き起こす。

群ろうとしたベヒーモス達は、和美の援護で吹飛ばされる。

「ぐ…やっぱり…あの木が原因だ…ッ」

「なんですって…っ?」

身体を支えられて立ち上がる和樹の言葉に、沙弓が枯れた木を睨む。

ただの枯れた木であった楓の前に、黒い風が渦巻き、やがて一つの形になった。

『来ないで…来ないで…来ないでぇぇぇぇっ!!!!』

「ぐぅッ!!」

「きゃっ!?」

形となったそれは、悲痛な金切り声を上げて黒い衝撃波を飛ばしてきた。

その威力に一メートルほど押し戻される二人。

上空に居たグリフォンと和美も、衝撃波に揺らされる。

「な、なんなのあれ…っ?」

衝撃波と声にかおり達もそちらを見る。

そこには、枯れた木の前で佇む、黒い少女の姿。

真っ黒に染まったその姿からでは判別は難しいが、少なくとも大人しそうな同年代の少女に見えた。

だが少女はその表情を鬼のように変え、こちらを睨んでいた。

『させない…この子は倒させない…この子は生きてるの…だから倒させない…っ』

呪詛を吐くように声を上げる少女。

和樹達にはその言葉の意味は分からなかったが、どうやら元凶はこの少女であるようだ。

「和樹、あれは何…?」

「分からない…ホーントじゃない…むしろゴーストに近い、残留思念の塊みたいだ…。」

死した人間の魂が形となるホーントやゴーストに近しい存在。

だが、和樹の感覚ではそれらとも異なると感じて居た。

むしろあれは…

「あの樹木に憑いた思い、そのもの…。」

「それがどうしてあんなに真っ黒になるのよっ!?」

降りてきたグリフォンの背から和美が叫ぶ。

人に大事にされた物などには、その人の思いが宿ることがある。

世に言う聖剣なども、人々の願いを受けて神聖化した物だ。

その逆として、魔剣なども存在するが、まさか樹木への思いが暗黒化するなど思いもしないことだ。

「理由は分からないけど、あの思念体がベヒーモス達を操ってるみたいだ。」

「じゃぁ、あれを倒せばいいのね?」

「そうだけど…でも何でだろう。あの子…凄く悲しんでる。」

身構えながらも、黒い少女を見つめる和樹。

少女の表情は鬼の形相だが、和樹には悲しんでいるようにしか見えなかった。

『させない…この子は倒させはしない…私が守るの…っ』

同じような事を繰り返す少女。

既にその事しか行動理念に存在しないのだろう。

徐々に集まり始めるベヒーモス達。

「俺があの子を何とかする、皆はベヒーモスをッ」

「仕方ないわね、無茶しないでよ。」

「危なくなったら言って。」

和樹の言葉に、心配そうにしながらもそれぞれベヒーモスの相手をする二人。

グリフォンが上空からその爪と嘴で押し倒し、群る奴は和美の【戦闘スペル】がなぎ払う。

沙弓も自己強化魔術を唱え、襲い来るベヒーモス達を次々に駆逐していく。

さらに数を増やした影響か、質が下がりまくっているベヒーモス達。

生み出されていた沼も、少女の出現と同時に沈黙している。

「教えてくれ、どうしてこんな事をするんだッ!?」

『させない…この子は生きているの…だから倒させないっ』

剣を振りながらも必死に少女に呼びかける和樹。

だが少女は同じような言葉を呪詛のように紡ぐだけで、まったく答えようとしない。

「(どうしてだ…彼女は人の思い、思念の塊、それがあの木にとり憑いた存在…つまり下級精霊だ。なのに何でアンデッドの在り方になってしまっているッ!?)」

飛び掛るベヒーモスを切り倒しながら、少しずつ近づいていく和樹。

『来ないでぇぇぇぇぇっ!!!!』

「ぐッ!!」

だが少女が放つ衝撃波に押し戻される。

剣を盾にして踏ん張るが、それでもジリジリと後ろに戻され、そこにベヒーモスが襲い掛かる。

「聞いてくれッ!俺達はその木に何かしようと思ってる訳じゃないッ!!ベヒーモス達が暴れている原

因を知りたいんだッ!」

『嘘吐きっ!そんな嘘に騙されないっ、私は聞いたわ、この子を…楓を切り倒すって!そう聞いたわっ!』

少女が、答えた。

だがその瞬間、先ほどまでとは比較にならない衝撃波が和樹を襲った。

「ぐはぁぁぁぁッ!?!?」

あまりの衝撃に空を舞い、地面に叩きつけられる和樹。

黄金の剣が遠くに飛ばされる。

「ぐ…ッ」

『■■■■■■ーーーーーッ!!』

痛みを堪えて立ち上がろうとする和樹に飛び掛るベヒーモス。

「和樹っ!?」

「和樹っ!!」

和美と沙弓が駆けつけようにも、距離がありすぎ、さらにベヒーモス達が邪魔をする。

和樹の顔面に迫る牙。既に避けるのは不可能。

だがそれでも諦めずに歯を食いしばり避けようとする和樹。

牙が彼を貫こうとした瞬間―――


『グゴォォォォォォォォッ!!!!』


咆哮が響き、ベヒーモスの巨体が和樹の視線から消えた。

その代わりに映るのは、偽ベヒーモス達よりも威風堂々と立つ暗い紫色の体毛を持つ巨獣。

『ゴルルルルル…ッ』

心配そうに和樹の顔を覗き込むその瞳には、確かな知性と優しさがあった。

「君は…保健室の…。」

『ゴルッ』

和樹の言葉に頷く巨獣。

保健室で保護されていた、紛れも無い、本物の神話の魔獣。

土属性最強の座を冠するモンスター、ベヒーモス。

その姿だった。

「どうしてここに…助けに来てくれたのかい…?」

ベヒーモスの角と身体に掴まって立ち上がる和樹。

その言葉に『ゴルッ』と頷くベヒーモス。

その仕草に、笑顔を浮かべる和樹。

「ありがとう…君の力、俺に貸してくれッ」

『グオォォォォォォォッ!!!』

和樹の言葉に答え、吼えるベヒーモス。

その咆哮に、紛い物達が後ず去る。

見比べれば判るその違い。

紛い物達の体毛は黒く濁った色。比べて本物は、鈍い光を放つ黒紫。

角も偽者に比べ一回り大きく、その三つの瞳には確かな知性が宿っている。

ベヒーモスは和樹に対して自分の背に乗れと言うかのように身体を下げる。

それを理解し、素早くその背中に乗る和樹。

それを確認したベヒーモスが、その四足で地面を確りと掴み、その口を開けた。

『グォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!――――【■■■■】――――ッ!!』

一際大きな方向と共に、和樹達では聞き取れない声でベヒーモスが叫んだ。

その瞬間、ベヒーモスを中心に地面が振動を始め、やがて地面に大きな亀裂が走る。

「っ、沙弓こっちにっ!」

「な、なんなのこれ…っ?」

近くで戦っていた沙弓を、和美のグリフォンが拾い上げる。

グリフォンの手に掴まり、地面を見下ろす沙弓。

振動はどんどん激しくなり、やがて巨大な亀裂が生まれる。

『■■■■――――っ!?!?!』

その亀裂に次々と偽ベヒーモス達が飲み込まれていく。

無差別な地震がベヒーモスを中心に襲い掛かるが、その中心地にいるベヒーモスはまったく被害を受けていない。

その背に跨っている和樹も、まったくの無傷だ。

やがて振動が収まり、割れた亀裂が元に戻る。

残ったのは、虫の息である数体の偽ベヒーモスと、和樹とベヒーモスだけ。

被害は広範囲だが、範囲を限定したのか、黒い沼と木、少女にはダメージが無い。

同様にかおり達にも被害は無く、精々地震で揺れた程度だ。

「沙弓、今のって…。」

「えぇ、間違いないわ、土属性の戦闘スペル、【クラック】よ。」

クラック。魔術で人工的に地震を起こし、敵味方構わず攻撃する無差別戦闘スペル。

空を飛んでいない限り逃れなれない強力なスペル。当然使用者にも被害が及ぶ諸刃の魔術。

だが唱えたベヒーモスは平気な顔をしている。

「そうか、あのベヒーモス、耐性を持ってるのね…。」

「そうね、仮にも土属性最強と呼ばれる存在だもの、それくらい持っていて当然と言えば当然ね。」

過酷な環境に生きる魔獣やモンスター達が持つ、炎や水、雷などに対する防御能力。

それが耐性であり、これらを持つモンスター達は、その類の魔法や攻撃をまったく寄せ付けないと言われる。

事実、ベヒーモスは大地震の中、まったくの無傷で立っている。

そのベヒーモスを模したはずの偽達だが、耐性まではコピー出来なかった様だ。

「凄い…流石はS級召喚獣だ…。君が大人になったらどうなっちゃうのかな?」

『ゴルルルッ♪』

背中を撫でる和樹。褒められたのが嬉しいのか、ベヒーモスは嬉しそうな声を上げている。

ベヒーモスは土属性最強と呼ばれているが、個体能力だけなら、ベヒモス、アース・ベヒモスと言う上の存在が居る。

だがそれらを差し引いても、ベヒーモスが最強と呼ばれる由縁。

それは、人の言葉を理解するほどの知能を持った種であり、戦闘スペルすら操る知恵にある。

本来、【戦闘スペル】は元素六属世界の住人達がこの世界の魔術師に教えたものであり、その世界の住人たるベヒーモスが使えない道理は無い。

だが、まさか3メートルを超える巨獣が魔法を唱えるなんて誰も思わないだろう。

それ故、和樹を含め、その場に居た殆どが驚愕していた。

「和樹〜〜〜っ!!」

「あ、玖里子さんっ!」

その時、校舎側から声が響く。

和樹が振り返ると、夕菜達を連れた玖里子が、こちらへ走ってきていた。

「どうしたんです、玖里子さん。」

「どうしたじゃないわよ、あんた達が出てった後、急にこの子が暴れだして、保健室のドア破壊して出てっちゃうんだもの。」

『ゴルル…』

玖里子の言葉が本当なのか、少し項垂れるベヒーモス。ちょっと照れているようだ。

「和樹さん、大丈夫でしたかっ?校舎内のベヒーモス達、全部居なくなってましたよ。」

「全部?あの数が?」

和樹の言葉に頷く夕菜。

流石にそれはおかしい。

確かにここでの戦闘で40匹近く倒したし、ベヒーモスのスペルで20匹は倒した。

それでも、校舎内などを合わせれば100匹近くの偽ベヒーモスが存在するはずだ。

「おい、校舎側からベヒーモスが来なくなったぞ。」

「こちらもです、どういうことでしょうか…。」

戻ってきたかおり達もその異変に首を傾げている。

「ふむ、どうやら一度魔力に戻し、再び生み出そうとしている様だな。」

レンズの色が違うモノクルで地面や沼を見ている紅尉先生。

どうやら玖里子に引っ張ってこられたようだ。

そのままモノクル越しに沼を観察し、その視線を上に上げ…瞳を驚愕に開いた。

「あれは…まさか…けやき君なのか…?」

「「「「「「「「「けやきっ?」」」」」」」」」

『ゴル?』

『グェ?』

『ブルルッ?』

紅尉が少女を見て発した言葉に、全員の視線が向かう。

ベヒーモス達もつられてそちらを見る。どうでも良いが、ペガサスがモシャモシャと草食べてるが止めなくて良いのだろうか?

「間違いない、あれはけやき君ではないか…どうして彼女が…。」

「先生、知り合いなんですか?」

和樹の言葉に、紅尉はモノクルをかけ直し、深く頷いた。

「彼女は私の弟子みたいなものでね…君達の先輩でもある。昔、彼女の母親と妹が病気にかかり、それを治そうと彼女は魔法を使い続けた。その際に私に治療魔法の教えを請いに来た。だが彼女の努力虚しく母親と妹は他界してしまった。その後彼女は学園の枯れそうな楓の木に自分の全魔法を使い…灰になってしまった…。」

紅尉の言葉に、全員が声を失くす。

そして気付く、あの少女は、けやきが残した思い…残留思念であり、けやきが魔法を使った楓の木こそ、あの枯れ木なのだと。

「さっき、戦った時に彼女は言ってました。「させない…この子は倒させはしない…私が守るの…っ」って。あの子は、あの枯れ木を守っているだけみたいなんです。」

「ふむ、だがどうして学園内にベヒーモスを放つなどしたのだ…?」

紅尉が首を傾げた時、玖里子が「あっ」と声を漏らした。

その声に全員の視線が集中する。

「玖里子さん、何か知ってるんですかっ?」

夕菜がずずいっと玖里子に迫る。他の面々も顔を突き出している。

「いや、知っているって言うか、一週間前くらいに、生徒会の役員から、学園内の枯れ木を撤去する案が出てたのよ。枯れ木があるだけで葵学園の品位が落ちるとかなんとか言って…。もしかしたらそれが原因かな〜なんて…。」

「なるほど…だから彼女は怒ってるんだ。多分その役員があの木の前で「切り倒す」とか「撤去」とか言ったんだろうね。それで彼女が怒り狂って…。」

「ああなった…ってことか。」

かおりが保健室からガメた二つ目の輸血パックから血を吸いながら和樹の言葉を繋げる。

「つまり、悪いのはセイトカイってこと?」

ティテスのその一言に、全員の視線が何故か玖里子に集中する。

グリフォンやペガサス、エレ・リレもじ〜…と玖里子を見ている。

「あ、あたしのせいじゃないわよっ?そもそも承認してないし、あたし正確には生徒会じゃないしっ!」

わたわたと両手を振って慌てる玖里子さんにちょっと萌えてしまう作者は無視して、その言葉に全員それもそうか…と視線を戻す。

「私たちを襲ってきたのは、その撤去作業をする人間だと思われたからでしょうね。ヘルハウンド引き連れて校内歩いてたら、そりゃ怪しまれて当然でしょうし。」

「兎に角、彼女を何とか説得しないと…。でも、可能だと思いますか?」

「ふむ、けやき君は心優しく温厚な性格なのだが…あれはもはや別人に思える。どうも、何か別の存在の介入があるようだ。」

白衣の下から別のモノクルを取り出し、黒い少女を見る。

モノクルに何が映っているのか不明だが、紅尉のまつ毛がピクリと跳ねた。

「どうやら、彼女の思念を別の存在が操っているようだ。背後に黒い影が見える。」

「じゃぁそいつを倒せば…。」

「彼女を鎮める事も可能だろう。」

紅尉のその言葉に、全員が頷く。

目標は枯れ木、その黒い影。

『来ないで…来ないで…来ないで来ないでこないでコナイデェェェェェェェェェェッ!!!!!』

身構えた和樹達に対して怨念のような叫びを上げるけやき。

既に彼女の表情は、けやきであると判断ができない程に歪んでいる。

そして、木の根元の黒い沼が、巨大になっていく。

そしてそこから、ズルズルと黒いベヒーモスが生まれてくる。

だが、先ほどまでの個体と違うのは

「大きい……っ」

凛が呟いた言葉。

明らかに巨大になっている。

元であるベヒーモスが3メートルほどであるにも関わらず、生まれてきたベヒーモスは5メートルを突破している。

「ふむ、今度は量より質を選んだようだ。ただ、魔力を詰め過ぎでもはやベヒーモスですらなくなっているようだが。」

紅尉の言葉に全員が黒いベヒーモスを見ると、確かに身体の細部が異なっている。

角が三本あれば、目が四つあったり、六本足だったり、尻尾が蛇になっていたり…。

もはやベヒーモスと呼べる形ではなくなっていた。

それらが6体、沼から現れた。

「どうやらあの沼は地脈からエネルギーを吸い取り、それを元にして紛い物を生み出しているようだな。」

「それも黒い影の仕業ですか?」

「さて、けやき君の残留思念の力か、それとも影かは判断つかないが、倒せば判るだろう。」

「そうですね…さぁはじめよ―――って、しまった、俺の剣どこ?」

さぁ戦おうか…って時にボケをかます和樹。

全員が前のめりにこける。

和樹の黄金の剣は、最悪な事に和樹達とは反対側…つまり木を挟んだ向こう側へに落ちていた。

何でそんな所に落ちたのかと聞かれれば、ベヒーモスの放った【クラック】の振動で吹っ飛ばされたから。

亀裂に落ちなかったのが不幸中の幸いと言える…のだろうか?

「ああもう仕方が無い、こうなったらこれで良いや。」

そう言って和樹は懐から収納符を取り出し、それを自分の身体に当てた。

すると符が輝き、和樹の制服の下がなにやら固いもので押し上げられた。

「よし!それじゃ、けやきさんを開放してあげようか。」

『(はい・おう・えぇ・OK)っ!』

全員がそれぞれの言葉で答え、身構える。

倒すべき敵は6匹の魔法生物。

そして、けやきと楓を蝕む黒い影。

『■■■■■■ーーーーーっ!!!』

偽ベヒーモスから似非ベヒーモスになった魔法生物が叫ぶ。

それに対するは、本家本元、本物のベヒーモス。

『グォォォォォォォォォォッ!!!!』

負けじと咆哮を上げ、角を構えて走り出す。

両者が角を突き出し、激しくぶつかり合う。

その衝撃で地面が罅割れ、足元が陥没する。

『■■■■■ーーーーーっ!!!』

体格の差で押し切ろうとする似非。

だが、子供とは言え、最強の名を冠するモンスターが、偽者に負けるなど許されない。

『グォォォォォォォォォォォォッ!!!!!』

ベヒーモスが咆哮を上げ、さらに角を押し込む。

やがてズルズルと角が進み、ガッチリと組み合った状態で、さらにベヒーモスが吼える。

『グォォォ…ッ!!ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!

『■■■■ーーーーーっ!?!?』

声にならない声とはこの事か。

似非ベヒーモスは、体格で二回りも小さいベヒーモスに、持ち上げられているのだから。

『ゴォォォォォォォッ!!!!』

角で相手の角をガッチリ絡ませた状態での持ち上げ。

地面が歪み、陥没する中、ベヒーモスがその首を振り下ろした。

ドオォォォンンッ!!!―――

轟音を立てて地面に叩きつけられる似非ベヒーモス。

その横腹に、ベヒーモスの角と爪が突き刺さる。

『■■■■■――――っ!?!?!』

ゴボッと血を吐いてもがく似非ベヒーモス。

だが直ぐに動かなくなり、魔力の塵に変わる。

それを一瞥すると、ベヒーモスは夕菜たちが相手をしている似非ベヒーモスに突っ込む。

『■■■■■っ!?!?!』

横合いから突然突っ込まれ、回避すること適わずにそのまま校舎に激突する似非ベヒーモス。

その巨体を校舎の壁へと押し付けながら角を突き刺す。

だが、この個体は尻尾が蛇になっていた個体。

その尻尾が、ベヒーモスを噛み殺そうと牙を向く。

「はぁぁ…【剣鎧護法】っ!!てやぁぁっ!!!」

――――ズバッ!!―――

それを見た凛が刀に剣鎧護法を纏わせ、蛇の胴体を切断する。

『キシャァァァァッ!?!?』

切断された蛇は地面をのたうち回り、魔力の塵となった。

「ベヒーモスさん、離れてっ!」

『ゴルッ!』

夕菜の声にベヒーモスが飛び退くと、そこに夕菜の最強呪文が降り注ぐ。

「全てを燃やし尽くしなさい、イフリートっ!!」

「剪紙成兵、【】っ!!」

さらに玖里子の霊符による灼熱の炎が加わり、似非ベヒーモスの身体を燃やし尽くす。

『■■■■――――――………』

叫び声すら炎の中に消える。

それを見て、また別の敵の姿を探すベヒーモスだが。

『グルェェェっ!!』

「そらそらそらぁっ!!」

『■■■■■ーーーーーっ!?!?』

上空から襲い掛かるグリフォンと人間離れしたパワーで殴るかおりの前に敗北寸前の似非ベヒーモス。

「くぅぅ……っ!!」

呻きながらも六本足の似非ベヒーモスを押しとどめる沙弓。

肉体強化スペルでも使ったのだろう、彼女の身体が緑色のオーラに包まれ、その肩では

「お手伝いーーーっ!!」

「するですぅーーっ!!」

ブラウニーズが小さな身体で沙弓の肩を貫こうとする角を押し返そうとしていた。

彼女達の特殊能力、お手伝い。

その能力の恩恵を受けた者は、何故か防御力が上がると言われている。

沙弓の防御呪文+ブラウニーズの能力、さらに似非ベヒーモスの身体に刺さる小剣。

「まだまだ有るわよっ!」

沙弓の後ろで小剣を投げているケイ。

その小剣に籠められた呪いが、徐々に似非ベヒーモスを蝕み、力を減少させていく。

そして、その後ろで構えるのは、【ヴァガンデの耳飾り】を身につけた少女。

「―――荒ぶる炎、破壊の権化よ、その力今我に貸し与え、全てを貫く灼熱の槍となれ―――【フレイム・ストライク】ッ!!」

彼女の両手から灼熱の炎が生まれ、やがて槍の形を形成していく。

そしてその槍を構え、狙いを定める。

「これで……終わりよッ!!」

ドスッ!!!――――

『■■■■■■ーーーーーーーーっ!!?!』

放たれた炎の槍は、似非ベヒーモスの眉間にある瞳を貫き、灼熱の炎で体内から燃やし尽くした。

「これでしまいだっ!」

そこへ、かおりが三本角の似非ベヒーモスを殴り飛ばし、二体纏めて燃やしてしまう。

残る二体の内、一体が後方に居る千早達目掛け突進する。

だが千早とティテスは慌てずに身構える。

そして、頷きあい、同時にある呪文を唱えだす。

「「―――青き光よ、眩き閃光よ、全てを貫く雷となりて、立ちはだかる者を射抜き通さん、青は水、雷は風、二つの力合わさりて、青き稲妻となれ―――【ブルー・ライトニング】っ!!」」

千早とティテスの身体から水と風の魔力が溢れ出す。

その魔力が二人が突き出した両手の前で融合し、青い稲妻となって荒れ狂う。

ピシャァァァァァァァンッ!!!!―――――

『■■■■■■■ーーーーーーーーっ!!?!?』

轟音と共に襲い来る青い稲妻が似非ベヒーモスを直撃し、さらに後方に居た別の似非ベヒーモスにまで稲妻が走る。

二匹目は痺れた程度だったが、一匹目は黒コゲになって倒れ、そのまま灰のような塵となる。

「ふむ、二種類の元素魔力を使用しての【戦闘スペル】か…今時分にこれほど強力なスペルを使えるとは、大したものだ。」

「えへへ、全部和樹くんの教えなんですけどね。」

紅尉に褒められて照れている千早と、当然だと言わんばかりに胸を張るティテス。

某ナイ乳でお悩みの方々と違い、身体の尺度から考えて恐らくCカップはあるであろう胸が誇らしげ。

それを知ったら貧乳少女達がどうなるかは…察して知るべし。

『■■■■■■ーーーーっ!!』

残った最後の似非ベヒーモスが痺れを振り払い、その爪を振るう。

その標的は、得物を持たない和樹。

ブンッ――――ザシャァァッ!!―――

腕を薙ぐ音と、何かを切り裂く音。

腕をクロスして防御していた和樹の腕を、その鋭い爪が切り裂いた。

だが、切り裂かれた和樹は、防御した腕の下で、小さく口の端を吊り上げた。

似非ベヒーモスは気付いていなかった。切り裂かれたはずの上から、血が一滴も零れず、それどころか

切り口から黄金色の装甲が見えていたことに。

四つ目である個体なのに見えていない。洒落にもならないとはこの事か。

ゴスッ!!

『■■■■■ーーーっ!?!?』

次の瞬間、声を上げたのは似非ベヒーモスだった。

その頬らしき場所を、和樹の拳が抉っていたのだ。

よろける似非ベヒーモス。

対して和樹は、軽く腕を振るう。

すると、腕や肩などから黄金色の刃が飛び出す。

破れた制服から覗くのは、黄金色の装甲。

「制服がダメになっちゃったけど…まぁいいや。」

そう言って制服の胸元を大きく開く和樹。

その中には、黄金色の鎧が輝いていた。

「ほう、黄金の鎧…装着者に【黄金の加護】を与える一級品の魔法アイテムじゃないか。」

「和樹くんのお爺さんが魔法アイテムのコレクターなんだそうです。」

紅尉の呟きに、苦笑して答える千早。

その爺さんが送ってきた曰く付きの道具も半端な数ではないのが恐ろしい。

呪い関係だけでも、既に30個近く送られてきたのだから。

それを孫が喜ぶと思って送ってきているだけに、無下に出来ないのが孫の悲しい所だ。

【黄金の加護】によって攻撃力も防御力も上昇した和樹。

その鎧は、半端な攻撃など通用しない。

「破ぁぁぁっ!!」

バキィッ!!

『■■■■ーーーっ!!』

沙弓に教えてもらった格闘術で圧倒する和樹。

そして似非ベヒーモスの顔面を回し蹴りで蹴り飛ばす。

ドガッ!!―――

鈍い音を立てて蹴られた方向へと揺らぐ巨体。

そこに、咆哮を上げてベヒーモスが突っ込む。

『ゴォォォォォォォォォォォッ!!!!』

ドスッ!…と鈍い音と共に似非ベヒーモスの身体が弓のように曲がり、背骨の辺りからベキベキと骨の

砕ける音が響く。

そしてそのまま頭を振るい、似非ベヒーモスを放り飛ばす。

ゴロゴロと地面を転がった最後の似非ベヒーモスも、暫く痙攣していたが直ぐに魔力の塵となって消え

た。

「ありがとう、ベヒーモス。」

『ゴルッ』

頭を撫でる和樹、その言葉に嬉しそうに頷くベヒーモス。

契約を交わしていないにも関わらず、意思の疎通が完璧にこなされている。

全ての似非ベヒーモスを倒し、黒い沼とけやきの前に立つ和樹達。

けやきであった思念体は、怒りと恐怖に顔を歪ませ…絶叫した。

『ユルサナイ…ユルサナイユルサナイユルサナイィィィィィッ!!ワタシノカエデヲキズツケルヒトナンテ…ミンナシンジャエバイイワッ!!!!』

和樹達が声をかける間も無く、けやきの言葉が引き金となったのか、黒い沼が再び蠢き始めた。

だが、先ほどのように似非ベヒーモスが生まれてくるのではない。

「沼が……。」

「……動いてる…っ?」

玖里子と夕菜の呟き。

黒い沼がドロドロと蠢き、段々と膨れ上がっていく。

楓の木を完全に隠すほどに巨大な黒い物体になった沼。

それがさらに何かの形を形成し始める。

「拙いな、今度は全ての魔力を一体に注ぎ込むつもりだ。」

紅尉がモノクルをかけ直しながら呟く。

徐々に形が出来上がってくる黒い物体。

10メートルを超える、ライオンとも犬ともつかぬ肉体、四本の突き出た角。

尻尾らしき物は3本に増え、背中から腕のような物を生やしている。

やがてそれらが生物的な質感を持ち始め、黒い物体の顔らしき場所に、6個の瞳がギョロリと浮かんだ

『■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーッ!!!!!!!』

もはや識別不能になった咆哮を上げる黒い獣。

その姿にはベヒーモスであった面影しかなく、もはやキマイラを超える醜悪な魔物と化していた。

名づけるなら、魔法合成獣キメラだろうか。

そのキメラが巨大な口からダラダラと涎を垂らしながら6個の瞳で和樹達を睨んだ。

もはやその瞳には、狂気しか存在しない。

『■■■■■■ーーーッ!!!』

「ッ!、散れッ!!」

和樹の言葉に全員が素早くその場を離れる。

彼らが居た場所に、キメラの前足が突き刺さった。

和樹は前転してキメラの懐に潜り込み、沙弓・千早は左へ。

和美とケイが右に非難し、夕菜達は後方へと退避した。

「破ぁぁッ!!『ドガッ!!』―――――――うわ、硬ッ」

全力で放った拳がキメラの右足に当たるが、殴った感触は正に鉄のように硬い。

こんな時でもマイペースに手の平をプラプラさせている和樹を、鋭い牙を向いた何かが襲う。

『シュアァァァァッ!!』

「おっと、よっ、はっ!」

三匹の蛇のような尻尾が、和樹を捕食せんと牙をむき出しにして襲い来る。

それを紙一重で交わし続ける和樹。

だが、敵は蛇頭の尻尾だけではなかった。

『■■■■■ーーーーッ!!』

「ッ!?しま―――――」

和樹の言葉はそれ以上続かなかった。

キメラの背中に生えた腕が、横合いから和樹を襲い、物凄いスピードで弾き飛ばした。

宙を舞う和樹。

夕菜達の前まで飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。

その額から、鮮血が流れた。

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!?!」

愛しい人の無残な姿に絶叫する夕菜。

玖里子や凛も動揺を隠せない。

だが、それ以上に感情を爆発させている者達が居た。

「てんめぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

瞳を怒りで染めた吸血姫かおりが疾走し、キメラの顔面に渾身の一発を放とうとする。

だがその身体を、和樹を吹飛ばした腕とは別の腕が弾き飛ばす。

「がはぁっ!?!」

校舎に激突して吐血するかおり。もし彼女が吸血姫でなかったら死んでいただろう衝撃に、周囲の窓が割れる。

それを横目に、沙弓が、グリフォンが、和美が、ベヒーモスが四方から襲い掛かるが、三つの蛇頭と腕に弾き飛ばされてしまう。

あのベヒーモスですら、キメラの腕に押え付けられ動けない。

グリフォンは雑木林に叩きつけられ、そこに和美が同じように叩きつけられる。

咄嗟にグリフォンが庇ったので怪我は少ないが、直ぐには動けそうにない。

沙弓は上空に弾かれた際にペガサスと千早がキャッチするが、直撃を受けたのか意識が朦朧としている。

目下最強の戦力であるベヒーモスすら圧倒するキメラ。

まさに狂気の産物たる魔物の瞳は、未だ動かない和樹を捉えていた。

「和樹さんっ、和樹さんっ!確りしてくださいっ!!」

懸命に和樹に治療魔法をかける夕菜。だが和樹の意識は戻らない。

玖里子と凛がキメラに対して魔法攻撃を行うがまるで効いていない。

「致し方ない。」

紅尉が和樹達の前に立ち、両手を掲げる。

すると、彼らの眼前に強力な結界が出現する。

「急ごしらえだから、長くは持たない。どうにか奴を倒さないと…。」

紅尉が脳内で策を練る。

だが、目の前の魔物のは躊躇する事無く結界を破ろうと攻撃を繰り返している。

かおりやグリフォンが立ち上がろうとするがダメージがでかいのか満足に立つこともできない。

沙弓は千早が癒しているが、早期復活は望めない。和美も同様だ。

夕菜は和樹に専念し、ケイは和美の下へと向かっている。

玖里子や凛では火力不足。

「さて、どうしたものか……む?」

思案していた紅尉が、何かを感じて後ろを振り返る。

そこに居るのは、倒れ付した和樹の姿。

だが確かに紅尉は感じた。和樹以上に、強大な存在を。


―――――ドクン…―――――

あぁ…体が痛い…意識が纏まらない…

―――――ドクン…―――――

俺はどうしたのだろうか……

―――――ドクン…―――――

あぁ、そうだ…あの腕に弾き飛ばされて…

―――――ドクン…―――――

それで…どうしたんだ……?

―――――ドクン…―――――

分からない…状況把握を第一優先……

―――――ドクン…―――――

瞳を開ける…泣いている夕菜が見える…

―――――ドクン…―――――

あぁ…なんて綺麗な涙だろうか…

―――――ドクン…―――――

顔を傾ける…戦っている玖里子さん達が見える…

―――――ドクン…―――――

その先には、あの黒い獣…

―――――ドクン…――――

その左右には…木に埋もれたグリフォンと、癒しの魔法を使っているボロボロの和美…

―――――ドクン…――――

校舎に手をついている…吐血したかおり姉さん…

―――――ドクン…――――

ペガサスの背には、気絶している沙弓…

―――――ドクン…――――

ベヒーモスが、押し付けてくる腕を撥ね退けようともがいている…

―――――ドクン…――――

思考が熱を持つ…だけどどこまでもクリアだ…

―――――ドクン…――――

耳障りな心音が、逆に心地よい…

―――――ドクン…―――――

泣いている夕菜…

―――――ドクンッ―――――

泣いている千早…

―――――ドクンッ―――――

ごめんね…泣かせちゃって…

―――――ドクンッ!!―――――

でも大丈夫…泣かせた怖い奴は…

―――――ドクンッ!!!―――――


――――――――――ルカラ――――――――――


―――――ドクンッッッ!!!!―――――


「和樹さんっ!?」

夕菜の慌てた声に全員がそちらを見ると、和樹がフラフラと立ち上がっていた。

衝撃と地面を転がった為にボロボロな制服の下には、黄金色に輝く鎧。

黄金の加護が無ければ即死であった可能性も高い。

「ごほっ、げほっ!……ぷっ!」

だがそれでも内臓にダメージがあるのか、咳き込んで吐血してしまう。

口の中に広がる嫌な鉄の味に顔を顰めながら、それを唾と共に吐き出す。

そして、真っ直ぐにキメラを睨む和樹。

その瞳に、何時もの優しさや穏やかさは一切存在しなかった。

「か…和樹…さん…?」

あまりに普段と違う雰囲気に夕菜も戸惑う。

「ごめんね夕菜…心配かけて。大丈夫…あれは俺が葬るから…。」

静かな、どこか壊れたように話す和樹。

何も言えなくなっている夕菜に優しく笑いかけ、ゆっくりと前に歩き出す。

結界を破ろうと攻撃を繰り返していたキメラも、和樹のその雰囲気に呑まれたのか後ず去る。

「本当なら……皆には見せたくなかったな……。」

少し悲しそうに呟く和樹。

その体に、目視できる程の魔力が渦巻く。

第零の門……

和樹の全身に六色の線と文字が浮かび上がる。

まるでそれが一つの魔方陣であるかのように緻密で幻想的な刻印。

手から顔まで浮かび上がった線と文字が輝き、和樹の胸元に一つの魔方陣を浮き上らせる。

その門は魔獣達が出入りする門とは全く違うモノであり、桁違いの魔力が渦巻いていた。

「な、何が起きてるの…っ!?」

目の前の光景に困惑する玖里子。

凛や夕菜、意識を取り戻した面々もその光景に釘付けになる。

「これが…話に聞く零番の門か…。」

その中でも普段どおりの紅尉が呟く。

以前聞いた和樹の言葉を思い出しながら。

和樹の体にある門は、全部で9個。

だが、正確には10個の門が存在する。

だがそれは門ではなく扉。

封印を目的にした零番目の門。

故に檻の門としてカウントしていない。

そして、零番の門の中、檻に封印されているのは…。

「―――――開門―――――」

小さく、だがハッキリと言葉を呟くと、30センチほどの魔方陣の周囲に、さらに大きな魔方陣が展開される。

全身を軽く包むその大きな魔方陣、その中心から、ゆっくりと何かが出てくる。

「………剣…?」

凛の、小さな呟き。

門から現れたのは、悪魔の顔が柄に刻印された剣。

鍔には悪魔と竜の顔を象った装飾。現れた刀身は、銀と赤の装飾が施された両刃の剣。

聖剣などではありえない、禍々しい程の力を放つ、まさに魔剣の姿。

やがて剣先まで門から出た剣はそのまま中心で回転して剣先を地面に向け静止する。

魔方陣が閉じ、全身の刻印が消える。

そしてその剣を掴み、二回振り回す。

一度振る度に炎が走る。

「―――――――――悪魔剣アザゼル―――――――」

和樹の言葉に答えるように、剣が炎を纏う。

悪魔剣アザゼル。

式森家の蔵の奥底に遥か昔から封印されてきた、悪魔の剣。

魔剣ではない。その比ではない。

これは悪魔そのもの。悪魔そのものが剣を象った、正真正銘の悪魔の力。

故にその力強大。故に聖なる光と鎖で封印されし存在。

だがここに契約を受け継ぎし者が居る。

その名を―――


「式森和樹………参る。」

静かに、それでいて鋭く言葉を発する和樹。

重い鎧を着ている苦を感じさせないスピードで結界を突き抜け、炎の悪魔剣を振りかざす。

『■■■■■■ーーーーッ!!!』

咆哮を上げ迎え撃つキメラ。

だがその声に、確かな恐怖があった。

「恐いか?臆するな、貴様は塵となりて消える定め。我が煉獄の剣からは逃れられんぞ。」

思考が完全に戦闘型に切り替わっている和樹。そこに慈悲は存在しない。

一閃、剣が走り、キメラの前足を切り裂く。

傷は深くない、だがその傷口が業火によって燃やされる。

『■■■■■■ーーーーっ!?!?』

悪魔剣は些細な傷からもその身を侵食する。

アザゼルは魔界の爵位を持つ上位悪魔であり、炎の化身とまで言われる存在。

様々な経典や伝説に登場し、一説には天使であった等の話も存在する。

だが、和樹の持つ悪魔剣アザゼルは、正真正銘魔界の悪魔アザゼルその者であり、彼の名を名付けられた贋作も多数存在する。

そのオリジナルとも呼べる悪魔剣アザゼルが、何故式森家の蔵に封印されたいたのかを知る者は既にない。

だが和樹にはそんな事どうでもいい。

彼が自分と契約し、力を貸してくれるのだから。

ただ、それだけの事だ。

「破ぁぁぁぁッ!!」

ズバッ!―――ザスッ!!―――

次々にキメラの巨体を斬り付ける和樹。

その傷から業火が生まれ、全身を浸食しようと燃え盛る。

だがキメラもそれに対抗しているのか、炎の侵食スピードが遅い。

「ちぃッ、これだけでかいと中々に厄介だ…むッ!」

舌打ちして剣を構えた和樹の死角から迫る蛇頭。

だがその牙が和樹に届く事は無かった。

「和樹、お姉ちゃんも手伝うぞ。」

そう言って場にそぐわない口調で蛇頭を叩き潰したのは、輸血パックを飲んで回復した吸血姫・伊庭かおり。

一応吸血鬼なので血を飲めば傷も回復するこの人。それでも自己再生レベル。

ただ、一体いくつ保健室からパックを持ってきたのか少々疑問。

『ゴォォォォォォォォォッ!!!!』

今までキメラの背中から生えた腕に押し付けられてたベヒーモスも、雄たけびを上げて立ち上がる。

そして押さえつけていた腕に噛み付き、ブチブチと音を立てて噛み切ってしまう。

最強の名を冠している存在の子、そう簡単に負けは認めない。

「すまない…。速攻で決めるッ」

「あいよっ」

『ゴルッ』

和樹の言葉に頷く一人と一匹。

かおりの胸元には、紫色の宝石が埋め込まれた首飾りがあった。。

その首飾りから、パリパリと小さな電気を発した紫色のオーラが溢れ、かおりを包み込む。

「行くよ和樹っ――――荒ぶる風よ、吹き荒れる疾風よ、勇猛なる我らを包み、風の如き速さを与えよ―――風よ唸れ、風よ叫べ、我らが走る道阻みし者打ち払い、疾くと速き暴風とせよ――――【ワールウィンド】っ!!」

【フリスアリスの首飾り】の魔力によって暴風の如く渦巻く風が生まれる。

その風がかおりだけでなく和樹とベヒーモスまで包み込む。

その瞬間、和樹の持つ悪魔剣アザゼルから強大な炎が溢れ出る。

「行くぞッ!!」

和樹の声と共にかおりとベヒーモスが走りだす。

ワールウィンドの効果で加速したベヒーモスが砲弾の如く勢いで突っ込み、キメラの左前足を直撃する。

『■■■■■ーーーーッ!!?!』

風を纏ったその一撃は、キメラの足周りだけでベヒーモス位はある前足を簡単に圧し折る。

左前足を失い、体勢が崩れたキメラの六つの瞳に映るのは、その瞳の目前を跳躍している女性の姿。

「せーーのぉっ!!」

バゴォォォンッ!!!!――――

振り下ろされた細腕の鉄拳から、信じられないインパクト音が響く。

あまりの衝撃に地面に陥没するキメラの顔面。

風を纏った吸血姫の攻撃力は、A級の召喚獣すら圧倒するだろう。

「ついでにおまけだっ」

落下しながらも懐から拳銃を取り出し、すぐさま構え発砲する。

六つの瞳の内、四つが潰される。

それでも狂気で狂うキメラは落下するかおりを噛み殺そうと牙を向き、気付く。

かおりに後ろに、かおりとは逆に飛翔している人影がある事に。

その影の体は黄金で輝き、手には恐怖すら感じる剣を持っている。

この時作り物であったキメラは初めて理解した。

――――――――これが、絶対的な死への恐怖であると――――――

「終わりだぁぁぁぁッ!!!」

剣の炎を纏い、剣先を構えて飛び掛る和樹。

刀身から生み出された炎が螺旋を描き、炎の弾丸と化す。


ドス………ッ!!!―――――


悪魔剣アザゼルがキメラの眉間に深く突き刺さり―――


『■■■■■■■ーーーーーーーーーーーッ!?!?!?!』


キメラの断末魔の声が響く。

「すまない…お前も好きでこう生まれた訳じゃないだろう…だが、お前はここに要らないッ!!」

突き刺した剣から業火の炎が走り、やがてキメラの全身を包み込む。

地響きを上げて倒れるキメラの巨体。その体は、既に彼方此方が塵となり始めていた。

『オノレ…オノレオノレオノレェェェェェッ!!!』

けやきの絶叫。

だが、最初とはまるで違うように感じるその声。言葉。

それを、和樹は誰よりも理解していた。

だからこそ、和樹はアザゼルを地面に素早く衝き立て、ボロボロの制服の懐から、無事だった弓と矢が

入った収納符を取り出す。

「けやきさんから……放れろッ!!」

ヒュンッ―――――ドスッ!―――

和樹が瞬時に放った矢が風を切り、けやきを貫くこうと飛ぶ。

誰もがけやきを貫くのだと思っていた矢が、突然軌道を変えて彼女の頭の横を通過した。

そして―――

『グギャァァァァァァァァっ!?!』

黒い影のような物体を射抜いていた。

「あれは……なるほど、ワイトだな。」

「わ、わいと?」

紅尉がモノクルを覗きながら呟いた言葉に、玖里子が?を浮かべる。

「ゴースト等と同じ怨霊が形となったアンデッドだ。ただ、ワイトの厄介な性質は、他者の肉体などを媒体にして己の体としてしまう事だろう。浄化などをしないと、何度でも媒体を交換して復活するアンデッドだ。レベルは低いが、なるほど、あれがけやき君の残留思念を操っていたのか…。」

『オノレオノレオノレェェェッ!ヨクモヨクモヨクモォォォッ!!!』

喚き散らすワイト。その体は和樹の放った【トキシンの矢】の力によって毒に犯されていた。

【トキシンの矢】は、特殊な能力を使用した対象にだけ反応する魔法の矢で、当たった者は猛毒を受け

る。

『コウナレバベツノバイタイヲサガシテェェェ―――「そうはさせないよ。」―――ナ、ナニィィッ!?!?』

ワイトの眼前(黒い影なので顔らしき場所だが)に迫る、銀と赤の刀身。

それがワイトの影に突き刺さる。

「けやきさんの楓を守ろうとする思いを利用した罪……地獄で償うことだね。」

『マ、マテッ、マッテク―――ギャァァァァァァァッ!?!!?』

アザゼルから炎が生まれ、ワイトの影を瞬く間に侵食する。

「―――――煉獄に落ちろ――――」

和樹は冷たく言い放つと、剣を一閃して黒い影を切り捨てた。


「思ったとおり、この辺一帯の地脈や植物達の魔力や命が吸い取られていたようだ。」

地面や植物などを調べていた紅尉が、立ち上がりながら口を開いた。

「じゃぁ、あのワイトが?」

「うむ、けやき君を媒体に、彼女の力を利用して魔力や生命力を集めていたのだろう。彼ら怨霊にとって、そういったエネルギーはご馳走だからな。」

「あ、動かないでよ和樹くん。」

「じっとしてて下さい…っ」

黄金の鎧を脱ぎ、傷の手当てを受けている和樹。アザゼルは再び第零の門に封印した。

その両側に座り、甲斐甲斐しく手当てしている千早と夕菜。

ブラウニーズのエレとリレも、包帯巻き巻きお手伝い。

「和樹さま痛い〜〜?」

「痛いですかぁ〜〜?」

「大丈夫、これくらいへっちゃらだよ。」

心配そうな二人の妖精に笑顔を向ける和樹。

沙弓と和美の治療は、ケイと玖里子が受け持っていた。

「くっ、怪我してなければ和樹の治療が…っ」

「諦めなさい、和美。」

なんて会話があったり。

凛は校内の見回りと保健室にある消毒液などを取りに行っている。お供はティテスだ。

グリフォンは怪我が酷いので和樹の檻の中。

和樹から供給される高純度の魔力のお陰で、瀕死の傷や猛毒でない限り大抵治ってしまう。

「しっかし、良く分からない事件だったわね…。」

沙弓の腕に包帯を巻きながら呟く玖里子。

確かに、最初は召喚獣探しで次は枯れ木の精霊(人や動物の思念体は大抵が下級精霊に分類される)、その次は他者を媒介にするアンデッドである。

正直、何が何やらと言った感じだ。

「ふむ、私の考えが正しければ、恐らく発端は生徒会の枯れ木撤去案だろう。それを聞いてしまった思念体のけやき君、つまり楓の木に宿った木を守りたいという思いが、それを止めさせようとした。だが…けやき君は心優しい子だった。自分から攻撃する事など出来やしないだろう。そこに、恐らくあのワイトがつけ込んだのだろう。けやき君の思念体を支配し、楓の木の精霊でもある彼女の力を使い周囲の魔力や生命力を吸い集めた。だがワイトにとっても木の撤去は邪魔な事だった。木が無くなれば思念体は消え、魔力等が吸えなくなる。そこで、紫乃が散歩に連れ出たベヒーモスの姿を地脈の魔力で模して操ったのだろう。」

「そうですね、俺もそんな感じだと思います。だって……。」

紅尉の仮説に同意する和樹。一度言葉を区切り、枯れた楓を見る。

そこには、楓の木を見上げるけやきの姿。

ワイトの呪縛から解き放たれたけやきは、泣きながら和樹達に謝った。

そして、ワイトの行った魔力・生命力搾取の影響で完全に枯れ木となってしまった楓を、ずっと見つめ

ているのだ。

既に日が落ちて2時間ほど。夜空には明るい月が輝いている。

「彼女は…ただ楓の木を守りたかっただけなんですから。」

「……………そうだな。」

その言葉に、全員が俯く。

枯れ果てた楓の木は、もはやどうする事もできない。

和樹の魔力ならもしかしたら復活するかもしれない。

だが、それはあまりにも危険な賭けでもある。

沈んだ空気が漂う中、和樹がボロボロの制服を羽織り、その懐から一枚の符を取り出す。

血文字で書かれた文字と六芒星が描かれたその符。

それを持って、和樹は楓の木の元へと歩く。

その行動を首を傾げながらも付いて行く面々。

だが和樹と最も付き合いの長いかおりは、なんだか嫌な予感がしていた。

「けやきさん…。」

『式森君…だったわね。ごめんなさい、私のせいでこんな事になって…。』

思念体でありながら、優しく微笑むけやき。

思念体は、その思いの強さで格が決まる。

これだけ人間と違わずに居られるのだから、それだけ楓の木に対する思いが強かったのだろう。

「気にしてません。戦ったのは、俺の意思ですから。」

『…ありがとう。貴方達のお陰で私は解放された…でもこの子はもう…。』

悲しみに俯くけやき。だが和樹はそんなけやきに笑いかけた。

「まだですよ。」

『…え…?』

「まだ、やれる事があります。」

そう言って、和樹は己の血で書いた符を指で持って構える。

指先から魔力が流れ起爆剤となり、符の媒体となっている血の魔力を活発化させる。

そして、ゆっくりと呪文を紡ぎだす。

「――汝、豊穣なる森を見守る者にして、数多の樹木を統べる精霊よ、汝が真の名を唱えし者の呼び声に耳塞ぐこと能わず――」

召喚術。

既に廃れ、世界でも使用することが出来る人間が限られる、異世界との道を繋ぐ術。

それを学び、極めようとする男の符から魔力が流れ、六芒星を描く。

その中心が渦巻き、強い大地の力を感じさせる。

「――盟約に従いて、疾く来たりて我に従え――【ドライアド】――ッ」

和樹が呪文を完成させると同時に、門から一人の女性が現れた。

緑色に輝く、艶やかな長い髪。エメラルドの瞳。

豊穣の女神を彷彿とさせる豊満な体は、薄い白い布と、植物のツタを纏っていた。

「ドライアドのエシャル…お呼びにより参上いたしましたわ、主様。」

そう言って、女神のような微笑を浮かべる女性。

その姿に夕菜や凛は自分のを押さえ驚愕。

玖里子や沙弓は「ま、負けてない…私は負けてないっ」と自分を奮い立たせ。

和美や千早、ケイは純粋に羨ましがり。

紅尉はほう…と興味深げにモノクルを直し。

かおりは憤怒の表情を浮かべていた。何故?

「ごめんねエシャル、急に呼び出して。」

「いいえ、主様の為なら私、何時如何なる時でも喜び馳せ参じますわ。それで、どのような御用でしょうか…?」

と良いながらにじり寄るエシャル。ボロボロの制服から覗く和樹の鍛えられたスマートな肉体に視線が釘付け。

「あぁ…。この楓の木を、どうにか出来ないかと思って…。」

そう言って見上げた和樹の視線の先には、枯れ葉一枚無い枯れ木。

同じように見上げたエシャルは、その楓の木を痛ましげに見上げた。

「まぁ…なんて酷い…。生命力が枯渇しておりますわ…。」

「何とか出来ないかな?」

和樹の言葉に頷いて、ゆっくりと楓の木に触れる。

「貴女が…この木を守っていたのね…?」

『は、はい…っ』

木に触れているエシャルの言葉に、けやきが困惑して返す。

「うふふ、この子がね、感謝しているわ…。よくここまで保ったわ、本来ならもう土に還っていてもお

かしくない状態ですもの…。」

『でも…私は…。』

「大丈夫…この子はまだ諦めていないわ…。」

『え…?』

エシャルの優しい言葉にけやきが顔を上げる。

そこには、樹木の精霊の優しい笑顔があった。

「紅尉先生、彼女はいったい…?」

和樹が召喚を始めた辺りで戻ってきた凛が、何やらカルテみたいなのに書き込んでいる紅尉に問い掛け

る。

そのカルテの題名に『式森和樹の女性癖歴』とか書かれていたのを努力で無視。

突っ込んだら色々問題がある。

「彼女かね?彼女は【スピリット】と呼ばれる中でも高位の存在である、樹木の精霊だよ。樹木が育つ事を喜びとする、温和な精霊だ。まさか式森君がドライアドを召喚できるとは思わなかったがね。」

樹木に宿り、樹木を愛し、樹木を育てる精霊。その中でも最も位の高い精霊、それがドライアド。

森を傷つける人間に対して攻撃を加える事もあるが、それは人間が悪いので彼女達はランクを持っていない。

殆どの精霊達が人間に無害、友好関係を築けば恩恵を与えてくれる存在なので、魔法局でもランクを付けようとは思わないのだろう。

「この子はまだ生きるわ…ただ、今はかなり生命力が枯渇している…。本当はいけない事なのだけど、主様のお願いだから特別よ…。」

そう言って微笑み、楓の木の表面に口付けするエシャル。

すると彼女の体が緑色に輝き、その輝きが楓の木へと伝わる。

和樹達にも分かるほどに楓の木に生命力が宿り、徐々に枯れた表面が瑞々しさを取り戻し始める。

やがてメキメキと音を立てて成長を始める楓。

枝からは若葉が芽吹き、一回り以上大きくなる楓。

月明かりに照らされたその光景は、まさに奇跡としか言い様が無かった。

「本来なら、樹木は長い年月を積み重ねて成長するもの…ですが、今回は特別ですよ。」

そう言って微笑むエシャルに、けやきは涙を流し頭を下げた。

『ありがとうございます…ほんとうに…っ、ありがとうございますっ』

「いえいえ、お礼なら主様に仰ってください。私は樹木の精霊として手助けしただけですもの。」

その言葉に頷き、和樹に向き直るけやき。

『式森君…ありがとう。本当にありがとう…。』

「お礼なんて良いですよ。俺は、俺が出来る最大の事をしただけですから。」

そう言って微笑む和樹に、けやきも微笑む。

「あれ…?けやきさん…体が…っ」

和美が、ふとそれに気付いた。

けやきの体が、徐々に薄くなっているのだ。

「……思念体は、その殆どが残した者の心残りである事が多い。そして、その心残りが消えれば…思念体も消える。」

紅尉が、普段どおりに呟く。だが、その視線は少しだけ下がっていた。

『…紅尉先生、色々とお世話になりました…。』

「何、君は優秀な生徒だったよ。その事を誇りたまえ。」

『はい…ありがとうございます。皆さん、本当にご迷惑をお掛けしました…。そしてありがとうございます。』

頭を下げるけやき。

それに対して「気にしていない」「良かったですね」と返す和美達。

ベヒーモスも首を縦に振っている。

『そして式森君…私と楓を助けてくれてありがとう…。』

「けやきさん…。」

『私は消えちゃうけど…この子のこと、大切にしてあげて…。』

「はい、勿論です。」

力強く答える和樹。和美や夕菜達も強く頷く。

それに対して涙を溢すけやき。既に身体はもう殆ど消えてしまっている。

『ありがとう………さそうなら。』

そう言って和樹の頬へ近づき、静かに口付けしてけやきは消えた。

和樹の頬に、確かな感触を残して。

「さようなら……けやきさん。」

夜空の星と月を見上げ、小さく手を振った。


「さて……あれ?どうしたの皆?」

振り返った和樹が見たのは、微妙に頬を膨らませたりしている和美達の姿。

和樹の疑問に「何でもない」と答えるが、皆一様に顔が歪んでる。

感動のシーンだから邪魔しなかったけど、頬とは言えキスされたのが余程堪えたらしい。

夕菜なんか指を咥えてめっちゃ和樹の頬を凝視している。

「そう?なら良いけど…。」

まぁ鈍感マイペースが気付くわけないが。

「主様。」

「あ、エシャルもありがとう。何かお礼しないとかな?」

森の精霊としての役割を破らせたのだ、何かしらの償いとしないとと考えた和樹。

これが、さらなるカオスへの引き金を引く事になるとはまるで思いもしない。

それが主人公クオリティ。あぁ素晴らしきかな修羅場ワークス!

「でしたら、私を主様の中へ住まわせてくださいませ。」

「へ?」

呆気にとられる和樹と、ピシリッ!と硬直する面々。

ベヒーモスはその様子にオロオロし、紅尉は面白そうに観察している。

「度々主様に召喚術を使わせる手間をかけていては、契約を交わした身としては心苦しいのです。ですから、主様の中へ、私を住まわせてくださいませ…ね?」

優しい笑顔とは正反対の、男を魅了する笑みを浮かべ、和樹のオープンな胸板に頬擦りするエシャル。

和樹君硬直。と言うか行動完了?

このお話だと和樹君防御力:3だものね、魅了使われたらアウトだよね。黄金の鎧脱いじゃったし。

で、その光景に硬直から氷結する女性陣。

その空気に身震いするベヒーモス。一応最強ランクの召喚獣。子供だけど。

もうなんかニヤニヤした笑みを浮かべて何かビデオで録画なんかしてるマッド。観賞用だろうか?

「い、良いけど、本当に良いの?そんなに自由に外に出られないよ?」

「はい、主様の魔力に抱かれている、それだけで私は幸せですわ…。」

「それなら…」

と、折れたのか胸元の門を展開する和樹。ちなみに零番の下、腹と胸の中間の門です。番号は9番。

「では、これからも末永くよろしくお願いしますわ…あ・る・じ・さ・ま…ちゅっ」

「っ!?」

門に入る直前に、和樹の唇を塞ぐ柔らかい感触。

それはエシャルの唇であり、それを受けてちょっとビックリな和樹君。

ちょっとビックリするだけな辺り、肝が据わっているのかマイペースなのか判断が難しいが。

で、それを見た女性陣は―――

「「「「「「「「………………#(ぴきっ)」」」」」」」」

全員額にや拳に素敵なマークを浮かべていました。

そのマークが青白くてなんか怒りを表している気がするが、和樹は気付かない。

「まったく、エシャルも悪戯好きなんだから…あれ?どうしたの皆?」

辺りに渦巻く嫉妬オーラに全く気付かない鈍感大帝。

殺気や闘気には敏感なくせに、何故嫉妬に気付かないのか。

「あ―――ッ」

かおりが一番に口を開く。

それに対して不思議そうに顔を傾ける和樹。

「あんの樹木女ぁぁぁっ!!!あたしの和樹になにしやがるっっ!!!」

吼えた。かおりが吼えた。

その姿は正しく吸血姫。血走った目が物凄く恐ろしい。

何て言うか、暴走した姫様みたいな?

「和樹さん…っ、ずるいです卑怯です差別ですっ!!私もキスしたいですっっ!!!」

次に吼えるは嫉妬の申し子夕菜。そろそろキシャーフラグが揃うかな?

その横では、和美が怒りマークを浮かべながら妖しく微笑んでいる。

「和樹〜、無差別に女落とすのは禁止って言ったわよね〜…?」

「破ったら……。」

「………お仕置き。」

暗い笑みを浮かべる千早と沙弓が言葉を続ける。

ところで、何故沙弓さんは荒縄なんて持っているのかな?

「式森、私今日式森の為に頑張ったから、ご褒美欲しいな〜。あつ〜いキッスとか…♪」

ちゃっかり協力した褒美を強請るケイ。でも額にはピクピク痙攣する怒りのマーク。

「なんだか…面白くないですね…。」

「同感だわ……。」

その後ろで刀に手をかけちゃってる凛ちゃんと、口元が引き攣っている玖里子さん。

どうも凛ちゃんフラグは完璧らしい。どうしよう、人狼の人出番が無いよ?

「え?え?え?…如何したの皆?」

思考がマイペース型に切り替わっているので、今現在どういう状態か理解できていない和樹。

それに構わず、かおりが和樹のボロボロの上着を力任せに引っ張り、身体をグリグリと押し付ける。

「入れろ、あたしをお前の檻に入れろっ、それが嫌ならキスしろこの鈍感朴念仁っっ!!」

「ちょ、かおり姉さんっ、くすぐったいよ、それに姉さんは人間だから無理だってばっ」

そのかおりを何とか押し止めようとする和樹。

でも完全に力で負けているので虚しい抵抗だ。

和樹の【檻】には、人間(もしくは人がベースの種族)は入れない。

その理由は不明だが、以前かおりが檻に入ろうとして弾かれた事あり。

「和樹さんっ!浮気も許せませんがキスはもっと許せませんっ!!」

「和樹〜、お仕置きはどれが良い?痛いのから気持ち良いのまであるわよ〜?」

ジリジリと迫る女性陣。

その光景をオロオロと見守るベヒーモス。人間で言えばまだ10歳未満。

で、その修羅場をハンディカメラでニヤニヤしながら撮影している白衣男。

どうも、和樹の味方は居ないご様子。

「え〜っと…良く分からないけど、ごめんなさ〜〜〜いっ!!」

「「「「「「「「ま〜て〜っ!!!」」」」」」」」

月明かりが照らす学園内を追いかけっこする和樹達。

それを慌てて追うベヒーモスと、やれやれと肩を竦める紅尉。

その光景を、立派な樹木となった楓が、優しく見守っていた。


「まぁ、それで制服がボロボロだったんですね…。」

「はい。しかもその後掴まってさらにボロボロになっちゃって…。」

以前もあった様な状況でお茶を啜る二人。

一人は嫉妬に燃える乙女達から逃げ延びた和樹。通称、鈍感皇帝。

もう一人は、喪服が最近妖しい色香を放つ女性、尋崎 華怜。

彼女が色っぽいのは特定の男子の前だけなのだが、その事に本人が気付くのはとってもミッション・イン・ポッシブル。

速い話無理ってこと。

何故またも華怜の部屋にお邪魔しているかと言えば、帰ってきて早々に彼女に拉致されたから。

帰宅時間は既に9時を回っていた。(玖里子は破壊された校舎などの修理の手配でまだ学園。凛は付き添い。)

追いかけっこで時間と体力を費やした面々。和樹も戦闘中のダメージが響いたのか、簡単に拉致されてしまった。

そして、華怜の愛情たっぷりの手料理を食べてご満悦な和樹君。

食後のお茶を楽しみつつ、事の顛末を語っていた。

「明日学校に行ったら制服買わないと…。」

と苦笑する和樹。どうやら朝はYシャツか体操着で登校するつもりらしい。

「あ、それなら大丈夫ですよ♪」

と言って、どこからともなく取り出される学制服。葵学園男子の制服だ。

「………あの、今何処から「さぁ、試着してみて下さい。」――はい。」

どうやら聞いてはいけない事らしい。笑顔の重圧に負けたのか大人しく従う和樹。

どうも彼は年上に弱いように思える。

「どうですか?」

「え〜っと……オーダーメイドみたくピッタリなんですけど…。」

「そうですか、良かった。」

と言って微笑む華怜。

だが和樹にはその笑顔が怖かった

寸分の狂いのない制服。いったい何時自分の体のサイズを測ったのだろうかとちょっぴり恐怖。


尋崎 華怜。現在において唯一和樹を慌てさせられるキャラクター。その底は、計り知れない。

「あ、制服のお金は良いですから、今日は泊まっていってくださいね?」

ウェッ!?

逃げられない和樹、合掌。


とりあえず、和樹君はまだ純潔です(何


なお、楓の木は後日葵学園の中庭に移植され、枯れ木から蘇った奇跡の木として学園で語り継がれる事になる。

その木の下で願った小さな願い事が叶うとか、卒業式の日に告白すると結ばれるなどの伝説(七不思議?)が生まれるが、それはもっと後の話。

今日も楓の木は、優しく生徒達を見守っている………。


余談だが、ベヒーモスは結局懐いてしまった為、和樹が引き取る事になった。


さらに余談だが、あの修羅場映像を見た紫乃が、自分もベヒーモスの世話をしたのだからご褒美をくれと強請ってきたらしい。


次回に続く。


〜今日のモンコレ〜

紫乃「みなさんこんにちは、今日のモンコレのお時間です。」

舞穂「にゃ〜、今日は時間が無いけどベヒーモス特集だよ〜。」

紫乃「作者がダラダラと文章書いてるのが悪いのです。さて、それでは早速始めましょう。」

モンコレNo9 ベヒーモス(幼生体:オリジナル)

舞穂「ベヒーモスの子供だよ〜。」

紫乃「世界でも発見例が極めて少ない子供のベヒーモスです。子供とは言え、その戦闘能力は高く、レベル5、攻撃力:3、防御力:4で、ディフェンダー+3を持ち、さらに地震への耐性と土属性スペルを一つ持つ強力な個体です。」

舞穂「にゃ〜、紫乃さん、前から出てる『ディフェンダー』って何?」

紫乃「ディフェンダーとは、戦闘時に後攻、つまり後手に回った際に能力を発揮する特殊能力の事です。ディフェンダー+3なら、後攻の時の攻撃力が、数字の分だけ+されるので、ベヒーモスの攻撃力は6になります。これとは反対に、先攻の時に効果を発揮する『チャージ』の能力があります。」

舞穂「つまり、後攻になった方が強いんだ〜。」

紫乃「ですが、先攻の攻撃で倒されたりしたら無意味なので、如何に相手の攻撃を防ぐかがディフェンダー持ちユニットの課題ですね。」

モンコレNo番外 偽ベヒーモス、ベヒーモス・レギオン、似非ベヒーモス

舞穂「紫乃さん、この子達は何〜?」

紫乃「このお話オリジナルの個体で、全て種族が魔法生物のベヒーモスを模した存在です。つまりコピーですね。偽ベヒーモスはステータスだけをコピーした個体で、幼生体同様の攻撃力・防御力を持っていますが、ディフェンダーやスペル、耐性まではコピー出来なかったようですね。ベヒーモス・レギオンは、偽ベヒーモスの更に劣化した存在です。能力も2レベル、攻/防:1/2と低くい存在です。ですが数が兎に角多いので、レギオン(群魔)と呼ばれています。」

舞穂「にゃ〜。それじゃ、えせベヒーモスって?」

紫乃「ベヒーモスの素体に、腕や瞳、角などが付加された合成獣のような存在ですね。レベル5、攻/防:5/6と強めですが、イニシアチブ−2を持っているので動きがやや遅いのが難点です。生物として歪んだ存在になってしまったのが原因でしょう。」

舞穂「紫乃さん紫乃さん、あのキメラって言うこわ〜い子が書かれてないよ?」

紫乃「あれは完全に作者オリジナルなので書く必要無いかと思いまして…。ですが一応能力だけ。レベル7で攻撃力:5、防御力:7で、特殊能力『◎背の一対の腕(対抗:攻撃限定)』を持っています。これは、攻撃を仕掛けたユニットに対して、手札を一枚捨てる事で相手に『2』ダメージを与える能力です。キメラは作者がオリジナルモンスターとして考えたユニットの一体ですね。もう3年前のユニットですが。」

舞穂「見た目はベヒーモスの体に6個の目、四本角に蛇の尻尾が3本、背中から巨人の腕が生えた、合成獣って設定なんだって〜。」

紫乃「まぁ、考えただけのユニットなので強さのバランスが狂ってますけど。」

モンコレNo10 ワイト

紫乃「【アンデッド】種であるワイトは、相手のレベルを下げる【レベルドレイン】と、死亡限定で発動可能な【新しい媒体】、この二つの能力を持つユニットです。彼らに確立した形は存在せず、媒体にした肉体などを操って活動します。操る肉体は死体等が多いですが、時に生きたままの人間やモンスター、妖精なども媒体にする事があるそうです。」

舞穂「にゃ〜、作者さんも一時お世話になってたんだって〜。でも、このお話みたいに媒体にした人の能力を使ったりはできないんだって。」

紫乃「モンコレではレベル下げと壁&復活ユニットですから。でも和樹君、退治しないで私に譲ってくれば、とっても素敵なオブジェにしてあげましたのに…。」

舞穂「にゃ〜……(汗)」

モンコレNo11 ドライアド

舞穂「樹木の精霊さん、ドライアドさ〜んっ」

紫乃「緑色の髪を持つ女性型の精霊で、気に入った樹木の中に住むと言われています。森が育つのを見守る心優しい精霊ですが、人間などが森を荒らせば、実力行使にでることもあるそうです。種族は【スピリット】、戦闘能力はありませんが、高度なスペルと、防御力の低いユニットを行動完了にする【魅了】の能力を持っています。彼女は一応準レギュラーだそうです。」

舞穂「名前はエシャルさん、おっとり系のお姉さんタイプなんだって。」

紫乃「まったく、お姉さんキャラは私の専売特許ですのに…。」

舞穂「にゃぁぁ〜…(汗)」

紫乃「それでは今日はこの辺りで。次回は閑話でレスを下さった方の推薦モンスターが登場します。今回登場したペガサスも次回紹介しますね。」

舞穂「お楽しみに〜〜っ」


あとがき。

毎度、ラフェロウでございます。

とりあえず一言    長ッ!

頑張りすぎてラフェロウの作品初の90KB越えです。

今日のモンコレとアザゼルの設定、あとがきにレス返しで100越え…。馬鹿です私(汗)

ちょうど良く区切れなくて、ズルズルと書いていたらこの長さ…。

大変読み難かったと思います。次からはこうならないように精進しますです(汗)


さて、今回は和樹君の中に封印されたいたアザゼルを皆に見られてしまうという話。

その剣と和樹の戦闘型思考を見た女性陣の反応は次回等で描きます。

ここで悪魔剣アザゼルの設定を

悪魔剣アザゼル タイプ:悪魔剣

○炎の刀身[戦闘]
これを装備したユニットが対象。対象ユニットに「攻撃力:+X、防御力:+X」する。Xの数はイニシアチブ決定タイミング時の自軍の数字と同じである。

□悪魔剣の魔力[普通/対抗]
これを装備したユニットが対象。対象ユニットに「スペル:火*」を与える。

□煉獄[普通]
ユニット1体が対象。対象ユニットに「火炎:3」ダメージを与え、死亡した場合そのユニットはゲームから除外される。


というような滅茶苦茶な能力となっております。

が、持ち主が和樹君なのであまり使う事はありません。

自分設定で、モンコレノベルに登場する魔剣アザゼルのオリジナルという事にしました。

別にあの人が和樹の先祖と言うわけではないので、期待した方ごめんなさい(汗)

悪魔剣と言うとおり、アザゼルそのものが剣の形になっている存在なので、強さは破格です。

何故そんな剣が式森家で封印されていたのか、何故和樹が契約を引き継げたのかは、空中庭園の降臨にて明らかになる予定です。

この所忙しくてハイになっていたのか、話がちょっと斜めになってきたような気がします(汗)

これからも頑張りますので、見捨てないで下さい(マテ)

なお、かおり先生の詳しい設定についても閑話にて語る予定ですので突っ込みは程ほどでお願いしたいです(汗)


ではレス返しでやんす。


サイサリス様
感想ありがとうございます。
今回のお話、やたら長くなってしまいましたがご期待に副えたでしょうか?

テストですかぁ…私も怖いです(何)
何歳になってもテストは嫌なものですよねぇ…(遠い目)
丁度テストが終わってしまった位でしょうか?遅いかもしれませんが頑張ってください!
結果の方は自己申告で構いませんから(笑)


D,様
感想ありがとうございます。
今回でベヒーモス編終了です。バランスが悪すぎなので前・中・後にすれば良かったかなぁ…とちょっと思っていたり(何)
アザゼルの能力はかなり反則ですが、裏設定として使う度に魔力を使用したり…なんてのがあります。
かおり先生は…残念ながら試みて失敗していたり(何)
この先、和樹が成長すればもしかしたら入れるかも…?
ゲームか和樹か…悩むでしょうねぇ(苦笑)


西手様
感想ありがとうございます。
面白いと思っていただいて幸いです。
和樹君の正体と言うか、詳細は今後書くと予定している「空中庭園の降臨」にて明かす予定です。
まぁ、伏線などが苦手な私なので、勘がいい人などが気付く可能性が高いですが(汗)


SLY様
感想ありがとうございます。
和樹君の前には、凶暴なキマイラすらひれ伏すのですよ(何)
あと、訂正ですがキメラではなくキマイラですので。ややこしいですがモンコレはキマイラで統一されてるみたいです。
フェアリーは必須ですよね、そうですよねっ!(←賛同者が居て嬉しい)
彼女には度々登場してもらう予定です。
鳩で消えるシーンは、勿論デルピエロさんがモデルですよ〜w(何)

カード化の方は気長にやっていくので急がなくて結構ですよ〜、強制ではありませんし(笑)
良いアイデアが浮かぶのをお待ちしてますです。


なまけもの様
感想ありがとうございます。
似てしまった口調の主…王様は王様でも道楽王だったり(何)
しかし今回黄金の鎧を纏った金ぴか和樹登場。
今後もキラキラな鎧を纏って戦う事も多いでしょう。その時寝惚けて『ワル和樹』になったら…怖っ

一家に二匹、ブラウニーズ…とっても便利で愛らしい…欲しいですね(マテ)

イケナイことはほら、カドをね、使ってですね…あぁこれ以上は一応健全で通すつもりのこの話では書

けないっ(何)
ぶっちゃけカドでオ――うわなにをするやめnuahiteふじこっ


千葉憂一様
感想ありがとうございます、そしてお久しぶりです。
ブラウニーズにノックアウトされましたか、それは嬉しい限り(何)
彼女達にはこれからも場を和ませる役として登場してもらいます。
むしろかおり達以上にレギュラー?(マテ)
沙弓嬢強し。それ以上に規格外なかおり姉。
どつきあいならこの二人がトップ争いですね。基本スペックで沙弓が不利ですが(何)

あの人とは、無敵お姉ちゃん・かおり様でした。
マッドも解説役で美味しい思い。
やっぱり白衣は説明してなんぼと言うかそれ以外に役目無いでうわなにをするや(ry

コウシンオマチドウサマデス(コラ)


kou様
感想ありがとうございます。
楽しんでいただけて光栄です。
今回のお話、少しグダグダ感がありますが、次回からはスッキリかつワクワクして読めるお話にできるように頑張ります。

堕天使ラフェロウ>おうっ、名前のルーツを見破られたっ!?(何)
ぶっちゃけ、自分のHNを考えた時に、これが一番に浮かんだんですよね。
次がデルピエロだったり(何)

無理せず頑張りたいと思います。


REKI様
感想ありがとうございます。
面白いと言っていただけるだけでラフェロウは昇天しそうです(マテ)
キマイラもモンスター種…まさに彼らには無敵な和樹君です。
まぁ、例外もあるのですが(何)
夕菜のカード化はお見事でしたよ〜。

そして第二段はマッド様ですかぁ…。

理不尽のオンパレードですな(笑)
ただ、二つばかり注意点が。
モンコレでは防御力が0だと死亡扱いなので最低でも1無いと戦闘に突入した途端死亡です(汗)
それと、種族:人間の後ろに?をつけるとなおグッドですよ(マテ)

実験器具…能力云々よりその名前が恐ろしい(何)

理不尽の共有…強っ、そして怖っ
まさに外道!…もとい理不尽っ!

女医さんもお待ちしておりますよ〜。
ブラウニーズの正体は愛らしい妖精ですよ?それ以外は認めません(マテ)

レスしてませんが、REKI様の作品読ませて頂きました。
今度感想を書き込ませていただきますね。


ダイ様
感想ありがとうございます。

むむっ、ダイ様の仰っているのは、L&aelig;vatein(害なす魔の杖)こと、スルトさんの剣ですねっ!?
実は一時期、この剣を使おうと思っていたのですが…既にモンコレ内で持ってる人居るんですよね、しかも無垢なる混沌に食われちゃったし(涙)
残念ながらダイ様の予想は外れですが、かなり良い線いってます。
と言うか、アザゼルにする前の設定にかなり近いですよその推理(汗)
感服です(何)

そうですね、こちらの和樹君も剣を主に使いますが、場合によっては別の武器も使います。
ただ唯一使えないのが、拳銃だったり(何故)

私の中では、学園=柔道部の臭いと焼きそばパンですので(何)
いやぁ、臭かったなぁ…(遠い目)
なんで私の母校の柔道部はあれほど臭いのか未だに謎です(苦笑)

キーパーソンと言うか一番壊れた人、ダイ様大正解です。
今回かおり先生が壊れです。めっちゃハイになってます(汗)

そしてかおり先生のカード化キターーーーっ
しかもこのお話のかおり先生をカード化して頂いて感謝感激。
その内かおり先生は自分でカード化しようと思っていましたが、いっそダイ様の設定で(マテ)
とりあえず、私の妄想…もとい、想像したかおり先生の設定との違いが中々に面白いカードです。

特に和樹が呼ぶならどこへでもが最高です。
その他のお邪魔は退けと(笑)

レッドジョーカー…私レア少ないので無問題でした(何)
懐かしきAレギュレーション…今思うと反則なユニットてんこ盛りでしたね(笑)

SO3のレーヴァ、折れちゃいました…(何)

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