来訪者 横島忠夫 第5、5話
「キーやん!ビッグニュースやで!……ってなにしてるんや?」
ここは第一話でも登場した神界のとある場所。
大急ぎでやってきたサっちゃんはモニターのようなものを熱心に見ていたキーやんに話しかけた。
「いえ、ちょっと横島君の様子を見ていたんですよ」
「なんや、また見てたんか。キーやんもすっかりお気に入りのようやな」
「サっちゃんこそ、暇さえあれば見ているでしょうが。お互い様ですよ」
苦笑しながら言うキーやんの言葉に、にやつきながら同意するサっちゃん。
「違いないわ。娯楽の少ないわしらにはたまらんな彼は」
「最初に横島君をあちらの世界に送ってしまった時は申し訳無い事をしてしまったと思ったんですけど…」
「よこっちもなんだかんだで楽しそうにやっとるしなあ。あれじゃこっちの罪の意識も薄れるっちゅうもんやで」
いつの間にかサっちゃんは横島の事をよこっちと呼ぶようになっていた。
それだけ彼の事が気に入っているのだ。
「死と隣合わせの危険な世界ですけどよく考えたらこっちにいても同じ様なものですしね」
「自分所の事務所でしょっちゅう死に掛けてたって聞いてるで」
「その通りです。更にGSと言う職業を考えれば彼の死亡率は向こうの世界の一般人よりはるかに高かったでしょう」
「なんや、わしらはむしろよこっちにとったらええ事したんとちゃうか?」
「う〜ん、なんの説明も無く無理やり送った事を考えればそうとも言い切れませんが……」
「まあまあ、結果オーライっちゅうことでええやん。それより今のよこっちはどんな感じなん?」
なんとも無責任なサっちゃんの言い草に少々呆れてしまったキーやんだがすぐに気を取り直す。
「…魔王城に住むようになってから2週間程経ちましたけどもうすっかり馴染んでますね」
「相変わらず人外には好かれてるんやなぁ」
「報告では聞いていましたが実際に見てみると面白いぐらい抵抗なく受け入れられますね彼は」
「まあこっちの世界で幽霊やら魔族となかようしてたしな」
「ルシオラに至っては恋愛にまで発展していましたしね…」
「……そうやな」
そう言って一息ついてからモニターに目を向ける二人。
モニターには歩きながら話し合っている横島とサテラが映っている。
二人の表情は楽しそうで中々盛り上がっているようだ。
「サテラとかゆうたっけこの子?」
「はい。彼女にしても最初は彼を毛嫌いしていたんですけど…」
「いまやこのなつき様やもんな。大したもんやでよこっちは」
「そうですね。まだ会って2週間しか経っていないのにもう何年も一緒にいる仲の良い兄弟のようですね」
「兄弟って恋人やないんか?」
「サテラさんには恋愛とかそういった感情はまだわからないようですね。
単純に横島君といるのが楽しいんだと思います」
「あ〜言われて見ればよこっちにしても恋愛の対象には見てへんようやな」
モニターに映っている横島は確かにサテラに対して煩悩を持っているようには見えなかった。
自分の話に興奮して、ときおりじゃれついてくるサテラにも苦笑しながら冷静に対処している。
「あんだけ可愛いサテラちゃんに飛び掛らんとは珍しいもんや」
「サテラさんの精神年齢が低すぎたので横島君の射程範囲には入らなかったんだと思います」
「こっちの世界のシロちゃんやタマモちゃんみたいなもんか」
横島達はそのまま横島の部屋に入ったがそこにはハウゼルが待ち構えていた。
ハウゼルはにこやかに横島を迎えようとしたが隣にいたサテラを見つけ青筋を立ててしまう。
勢い良くサテラに襲い掛かってしまうハウゼル。
だが横島が反射的にサテラをかばってしまう。
当然の如く怒り狂うハウゼル。標的を横島に変え更に暴れまわる。
「…………………」
「うはははは!相変わらずみたいやなハウゼルのねーちゃんは」
「そ、そのようですね。しかし彼女にしても普段はむしろ大人しい性格らしいのですが」
「そんなもんよこっちに惚れる前の話やろ。女は変わるっていうしこれが彼女の地なんやないか?」
「い、いやこれは横島君が相手だからだと思いますが……」
「せやったらねーちゃんをここまで壊れるぐらいに惚れさせたよこっちは凄いって事でええやん」
「はぁ……」
モニターにはハウゼルのファイヤーレーザーによって燃え上がる横島が映っている。
「魔王城にいる魔人は後3人やったっけ?」
「ええ、ホーネット、シルキィ、メガラスの三人です」
「ホーネットちゃんはなんか考えてるようやな」
「彼女は魔王であるリトルプリンセスを横島君に説得させようと考えてるようですね」
「魔王として覚醒して欲しいってか?」
「はい」
「アホかい、よこっちがそんな役目引き受けるって本気で思ってるんか?」
「彼女はリトルプリンセスが魔王として覚醒するのが本人にとっても一番良いと考えてるようです。罪悪感は無いでしょう」
「はっ!これやから温室育ちのお嬢様は困るで。」
「本人の気持ちが一番大切なのでしょうけど 、ホーネットさんは魔王というものに囚われすぎてそこまで気が回らないんですよ」
「そんなもんかいな。わいにはようわからんわ」
「まあそう言わないであげましょう。彼女はまだまだ変われますよ」
「よこっちに接するうちに、やな」
「そういうことです」
「それやったらこの、シルキィのねえちゃんにも言えることやな」
サっちゃんはモニターに映るシルキィを見ながら言う。
先程までの映像はあまりにも酷かったためいつの間にか切り替わっていたようだ。
「彼女だけはまだ横島君に気を許してないんですよね」
「まあホーネットちゃん狙ってるのが見え見えのよこっちにそう気を許すとは思えんけどな」
「ですが……それも時間の問題じゃないでしょうか?なんだかんだで彼女も横島君の力だけは認めるようにはなってますし」
「ぷっ………しょっちゅう襲い掛かってくるメガラスを返り討ちにするのを見てやけどな」
我慢しきれなくなったのかそのまま笑い転げるサっちゃん。
「あれはもはや魔王城の名物に近い物になっていますね」
そういってキーやんはリモコンのようなものを操作しモニターに向ける。
瞬時に画面が切り替わった。どうやら録画していた物を再生するらしい。
廊下を歩く横島の背後から襲いかかろうとするメガラス。
この時は一緒に歩いていたハウゼルに燃やされた。
横島の寝込みを襲おうとしたメガラス。
この時は夜這いに来たのかと勘違いした横島の怒りの一撃により吹き飛んでいった。
サテラと談笑中の横島に襲い掛かろうとするメガラス。
邪魔をするなと怒ったサテラのムチにより捕縛され横島にぶん殴られる。
他にも多数の映像が流されていく。
サっちゃんはもう限界近くまで笑い続けている。
「すっかり彼もギャグキャラになってしまいましたね。これも横島君の力でしょうか」
「ひぃ〜ひぃ〜……無言で襲い掛かって帰り討ちにあうメガラスは反則やで。おもろすぎるわ」
「私はむしろ悲惨すぎて泣けてくるのですが……」
「そこがまたおもろいんやんけ」
「まあ否定はしませんが………」
それからしばらく、よく見たら「メガラス傑作集(笑)」と表示されている映像を見続ける二人。
「……ぷっ…………ところで最初に言ってたビッグニュースとはなんだったんですか?」
「…………おお!!忘れとったで!!!」
急に我に帰りキーやんの方を向くサっちゃん。
「キーやん!ビッグニュースやで!」
「それは最初に聞きました」
「話の腰折んなやキーやん。とにかくビッグニュースなんや!ええか、わいが向こうの創造神と交渉してたのは知っとるな?」
「もちろんです。少しでも彼の危険を無くすようにと私もしてるんですから」
「キーやんが神界の会議で無理やったさっきの交渉の時に進展があったんや!
なんとこっちの世界から、よこっちのためにもう一人応援を送れるようになったんや!」
「なっ!それは本当ですか!?」
驚きの余り手に持っていたリモコンを握りつぶしてしまう。
そのせいかモニターはメガラスの大往生シーンで固まってしまっている。
うっすらと笑いながら目を閉じ、走馬灯を感じているかの様な安らかな表情が印象的ではあるが
今は関係無い。
「もちろんや、創造神からしっかり返事もらっといたで!しかも今度は向こうの世界の事を説明しても大丈夫や!」
「GJですサっちゃん!それにしてもよくOKをもらいましたね」
「いや〜その方がおもろうなるでって言ったらあっさり了承したわあのクジラ。
あの様やったらもっと交渉したらもう2,3人そのうち送れるようになるかもしらんで」
「しかし今回は一人ですか……誰にするか迷いますね」
「ん〜そこやねん問題は。まず第一によこっちと一緒に戦えるぐらい強くないとあかん」
「彼の力はすでに人間の枠を超えていましたし…必然的に神族か魔族になりますね」
「それによこっちの知らん奴を送るのもどうかと思うしな。やっぱりそれなりに親交のある奴やないとあかんやろ」
「でしたら小竜姫はどうでしょうか?彼女なら横島君とも親しいですよ」
「あ〜ワルキューレなんかもええんとちゃうか?」
「やはりぱっと思いつくのはこの二人になりますか」
「まあそう焦ったらあかんでキーやん。他にも候補がいろいろおると思うで」
「そうですね……ゆっくりと考えますか」
「手遅れにならん内にやけどな。あ〜なんか楽しゅうなってきたな」
あ〜でもない、こ〜でもないと言った議論が神界のとある場所からしばらくの間、止むことはなかった。
後書き
久々に更新。5,5話なので少々短めです。
横島以外もランスの世界に送るのは最初から考えていた事です。
まあ誰にするかはまだ決めていませんけど。