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▽レス始

「幻想砕きの剣 6-5(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-10-26 07:30/2005-11-04 14:07)
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「…で、何がどうなったの?」


「ここは私が作った空間の中です。
 外ではほとんど時間は流れていません。
 次元の狭間に作り出した空間なので、イムニティに追撃される心配はありませんよ」


 未亜は気がつくと、奇妙な空間の中を漂っていた。
 体の節々が痛み、悲鳴を上げているので死んだ訳ではなさそうだ。
 上も下もない空間で、リコが未亜の傍で漂っている。
 恐る恐る体を動かし、体の位置と方向を変える。
 まるで水の中にいるような浮遊感に包まれ、慣れない感覚に未亜は顔を顰めた。


「…大丈夫ですか?
 怪我と、あと平衡感覚とか…」


「う〜ん…体は痛いけど、なんとか大丈夫…。
 平衡感覚は……キモチ悪くなってきた……」


 口を抑えてしゃがむ未亜。
 しかし、しゃがむと言っても確固とした足場はなく、結局平衡感覚が揺らされるだけだった。
 顔が青くなり始めた未亜の背を摩りながら、リコは未亜に話しかける。


「……未亜さん、イムニティの事ですが…」


「うん…このままじゃ勝てないよ……む、まだちょっとキモチわるい…」


 苦しそうな顔で未亜は呻く。
 リコと…本気のリコと同じ戦術を取り、エネルギーはリコよりも遥かに貯蔵量が多い。
 破壊力もイムニティに分がある。
 さらに未亜との相性もよくない。
 イムニティとの相性もそうだが、リコとのコンビネーションの相性が致命的だ。
 お互いに長所を生かし難い。

 お兄ちゃん助けて、と内心で呟きかけて慌てて取り消す。
 ついさっき頼ってばかりだと自己嫌悪したのに、もうこのザマだ。
 それに助けを求めたら、大河は直感で感じ取って重症をおして駆けつけてきかねない。

 未亜は首を振って暗い考えを押し退けた。
 反省よりも先に、イムニティを撃退するなり逃げ切るなりしなければならない。


「とにかく情報収集を…。
 リコちゃん、あのイムニティって人はどんな人?
 仲が悪そうだったけど」


「…イムニティと私は……対になる番いにして、不倶戴天の天敵です。
 私は戦いたくないのですが、そうなるように決められていますので…」


 思いっきりケンカを売っているように見えたが、そこはスルーだ。


「決められている…?
 誰に?
 いえ、そもそもリコちゃんって何者なの?
 ここまで来て秘密とは言わないよね?」


 リコは申し訳なさそうに黙り込んだ。
 しかしその表情には逡巡の色が見える。
 暫く悩み、リコは結論を出した。
 どちらにしろ、未亜を死なせる訳には行かない。


「全てを話す事はできませんが、制約に引っ掛からない程度に話します…。
 少し長い話になりますが、聞いてくれますか?」


「うん…あ、でもイムニティは今頃どうしてるの?」


「あちらの空間では、精々2秒か3秒程度しか経っていません。
 ここは時間の流れが速い空間なのです。
 あまり長くは保ちませんが、話をするだけの時間はあります」


「そう…じゃ、お願い」


 未亜の催促を受けて、リコは語る。
 話せる事と話せない事の区別をつけて話す必要はない。
 話せない事なら、勝手にリコの口が開くのを拒否するからだ。

 全てを話し終えた時、未亜が自分を見る目は変ってしまうだろうか?
 小さな不安を抱えながら、リコは口を開いた。


「先程イムニティが言っていたように…私達は『導きの書』そのものなのです。
 大河さんは何か勘付いていたようですが……。
 私達は人ではなく、導きの書が生み出された時から存在する精霊…」


「精霊…?
 って、ようするに九十九神ってやつ?」


「いえ、あれは年経た器物に魔力や何らかの意思が宿り、精霊化したモノを言います。
 ですが、私達は最初から存在しました。
 私達が存在しなければ『導きの書』は存在せず、『導きの』書が無ければ私達も存在しない。
 私とイムニティ、二つの意思を持ち、『導きの書』を本体とする一つの生物と言えます」


 未亜にはよく理解できないが、漠然と先程戦った守護者のようなものか、と思った。
 体は一つ、頭は複数。
 しかし、あの頭達は仲違いしているようには見えなかった。


「じゃあ、どうしてリコちゃんとイムニティは敵対してるの?
 その例えで行くと、一方が消えたらもう一方も無事じゃすまないんじゃない?
 さっきのキマイラだって、ヤギの目が消し飛んだら体全体で苦しんでたし」


「蛇が斬り飛ばされても平気な顔をしてましたけどね…。
 では少し例えを変えましょう。
 私達は、本を体とした2重人格だと思ってください。
 体を2人で使っていますが、片方が消えれば…取り込む事が出来れば、残った一方は傷つかず、体を一人で使えます」


 あくまで例え話ですが、とリコは言い添えた。
 どうやらイムニティと自分が同じ人物だと例えたのが、自分でも気に入らなかったらしい。


「私達は対立する2つの目的の為に書から生まれました。
 正確に言うと、自意識を持たされて書から押し出されたのですが…」


「目的?」


「…世界は対立する二つの力で成り立っています」


「……それって、破壊と創造のこと?」


「いえ、それとはまた別の力…と言うより、破壊と創造もその一部と言えます。
 一つは支配因果律の力。
 これは未亜さん達の世界で、物理とか弱肉強食とかの言葉で表現される概念です。
 秩序の根本……『白の力』と表されています」


「……要するに…はみ出し様のない、完全に決められたルール?」


 首を捻って、未亜は答えを導き出す。
 例外の無い秩序。
 それは一般的に法則とよばれるものだ。


「そう捉えてもらって構いません。
 支配ヒエラルキーによる完全帰結型ロジック…全ては一定の総量内で循環し、全体で見れば増える事も減る事もない。
 たとえ死んでも、それは変化の一環であって滅びではありません。

 もう一つの力は、生き物の命と命が及ぼしあう力。
 無から有を生み出し、世界を成長させる精神の力です。
 こちらはロジックを含みません。
 何しろ完全な『無』から、突然『有』を生み出すのですから、法則も何もあったものではありません。
 こちらは『赤の力』と言われます
 例外の力、とも言えるでしょうか」


「それじゃリコちゃんは…赤の力の精霊なの?
 確かバストサイズでイムニティと口論していた時に、命と願いの力がどうとか言われてたもんね」


「余計な事を覚えていますね…。
 ま、まぁいいです。

 確かに私は赤の精霊。
 そしてイムニティは白の精霊です。
 私達は世界を統べるそれぞれの力の象徴で、それ自体が存在意義でもあります。
 同じ書から生み出されましたが、存在の根本からして対立していると言っていいでしょう」


「そりゃあ、ロジックとカオスの精霊だものねぇ…。
 どっちか一方が覇権を握れば、もう一方の法則が否定される。
 秩序…白の力だけなら不特定因子の存在は消えちゃうし、不特定因子…赤の力だけなら、秩序は滅茶苦茶になっちゃう。
 引いては自分の存在が否定される、って事でしょ?」


 理解が早くて助かる、とリコは頷いた。

 一度自分の力の残量を確認し、まだ空間を保持し、さらに何とか戦える程度の力量は残っている事を確認した。
 いざとなったら、未亜だけでも禁書庫前に送り出す。
 もし自分がイムニティに取り込まれてしまえば、赤と白の力が揃い、イムニティが認めた人物が救世主となってしまう。
 そうなってしまえば、未亜を逃がそうが逃がすまいが結果は同じ。
 むしろ最後の最後まで共に戦わせる方が合理的かつただ一つの手段。

 しかし、リコは赤の書…感情の力、精神の力の精霊である。
 従って多少論理的な考えをしても、結局は感情を優先する。


(未亜さんが死ぬのはイヤだし………大河さんに、恨まれたくはありませんから)


 …要約するとそういう事だ。


「さりげなく私が混沌扱いされているようですが…まぁ、概念的には間違ってはいませんね。
 赤の力は、1を10に変えてしまいますから、秩序とは正反対の力なのです。

 私は書の精霊としての役割…救世主を呼び出し、選ぶために学園に入りました。
 救世主候補生を呼び出す立場になれば、いち早く救世主を見つけられますから」


「でも、リコちゃんは救世主を選びたくないって言ってなかった?」


「選びたくありません。
 …ですが、私達は書の精霊です。
 役割を果たさねばなりませんし、また存在の奥底にそのようなプログラミングがされているのです。
 人が生きようとするのと同じように、私達は本能とも言える衝動に従って救世主候補を呼び出します。
 また、そうしなければ……その、“破滅”に対抗する事はできません。
 ……でも、救世主候補を呼ぶたびに…違っていてほしいと願っていました」


 リコの顔が悲痛に歪む。
 過去の辛い記憶が過ぎっているのだろう。
 未亜は今更のように、リコが何百年…または何千年も前から存在し、“破滅”を見て、救世主達を見てきた事を実感した。
 しかし、今は同情や慰めの言葉をかけるより、リコの話を聞かねばならない。
 回想から引き戻す意も兼ねて、未亜はリコに質問する。


「どうして救世主じゃない方がいいの?
 お兄ちゃんがよく、『救世主には何か秘密がある』とか『伝えられている偶像に何か間違いがある』って言ってるけど…」


「その通りです。
 救世主には、辛い役割があります。
 …今までの救世主達は、みんなその役目に耐えられずに、自ら命を絶ちました。
 もう……そんな光景は見たくありません」


「リコちゃん…。
 で、でも、今まで何人も救世主を選んだんだよね?
 ならどうして“破滅”が今また起こってるの?
 “破滅”を打ち払うのは、辛くて危険でしんどくても、自分から命を絶つような役割じゃない。
 救世主の役割は“破滅”を打ち払うだけじゃなくて、他に何かある。
 そしてそれがリコちゃんが救世主を選びたくないと思っている理由…そうね?

 それに、さっきも言葉を濁したでしょ、救世主を呼ばなければどうなるかって。
 救世主を呼ばなければ、“破滅”に対抗できないだけじゃなくて、他に何か大変な事が起こる」


 リコは未亜の洞察力に舌を巻く。
 さすがに大河の妹だけはある。
 多分、大河の浮気を発見するために培われた洞察力なのだろう…と思い当たると、リコは何だかちょっと哀しくなった。


「その通りです。

 救世主になるには、私とイムニティに認められなければなりません。
 そして認められた勇者は、その役割を果たすため、私とイムニティのどちらかをパートナーとして選ぶ事になります。
 でも、今までその役割を果たした者はいません。
 みな途中で白か赤の心が表れて、挫けてしまうからです。
 そうして幾万年……私達は延々と自分の命を断ち続ける救世主達を見てきました」


 リコの表情には、未亜では踏み込めない程の絶望と後悔が表れていた。
 結果が解っているのに、役目に従って救世主を選び、結局は前回以前の繰り返し。
 リコにとって自分の行為は、過去の救世主達を死刑台に導き続けたような物だろう。
 そうしなければ、最悪の事態が訪れる。
 しかしリコにはそんな事は言い訳にすら感じられなかった。


「そんなに…?
 歴代の救世主が、みんな挫折した役割…。
 その役割って、一体何なの?」


「……すみません、これは救世主以外の人には話せないのです。
 これ以外にも、幾つか機密事項として話せない事があります」


「…あ、そうなの…」


 申し訳なさそうだが、本当に喋りそうにない。
 先程言ったように、恐らく自分の存在の根底にプログラミングが成されているのだろう。
 だとすれば、ムリに喋らせるとリコの存在に致命的なダメージが与えられかねない。

 未亜を『ゴメンナサイ』という目で見るリコを見て、未亜は内心ニヤリと笑った。
 気分を変えてあげよう。


「じゃあ、お兄ちゃんだったら口が滑っちゃったかな?
 いつもお兄ちゃんの前だと、妙に饒舌になるもんね」


「はぅっ!?」


 図星を突かれて、リコが瞬時に真っ赤になった。
 幾らなんでも口を滑らせないとは思うが、ひょっとしたらと想像すると否定できない。
 ワタワタ頭を振り回しているリコを愉快気に見る。
 もう少し遊んでみたいが、リコがこの空間をどれだけ持続できるか解らない。
 早めに話を進めなければならなかった。


「ところで、さっきイムニティがマスターを選んだって言ってたけど…。
 世界の運命は、もう決定しちゃったって事なの?」


「え? あ、いえ、先程も言ったように、救世主になるには私とイムニティの両方に認められねばなりません。
 しかし、何にでも裏技というモノはあるのです。
 イムニティは私を殺すと言っていましたが、それは要するに私の意志を消して書に還元するという事です。
 書に返った私の力を間接的に操り、イムニティのマスターが赤の精霊に認められた状態を作り上げる気なのでしょう」


「そっか……うん、事情は大体わかったわ。
 それじゃ、これから対抗策を練らないとね」


 未亜とリコは腕を組んで考え込んだ。
 事情の説明は割りと簡単に済んだが、対抗策を練るとなると…。
 失敗したらもうチャンスは無いし、そもそもあれだけの火力の差を奇策一つで覆せる訳が無い。
 結局、エネルギー差を埋めなければならないのだ。
 そして場所が場所なだけに、エネルギーを摂取出来る物などない。


「ここは次元の狭間なんだよね?
 他の次元に跳んで、そこでエネルギーを取ってこれないかな?」


「今の私に、次元を超えるだけのエネルギーは残されていません。
 私一人で跳べばエネルギーを摂取する間もなく倒れ、二人で跳べばエネルギー不足で次元を超えられずに、次元の壁に激突します」


 何時ぞや大河から聞いた、次元の壁に激突すると砕け散ったり無機物と融合したりするという話を思い出す未亜。
 首を振って嫌な想像を吹っ飛ばす。


「それじゃあ……いっそ、私をマスターにする?」


「!? な、何を…」


「イムニティは、誰かをマスターにしてあんなに強い力を得たんだよね?
 だったら、私をマスターにすれば少しは対抗できるんじゃないかな」


「確かにマスターを得た私は、かなりの力を奮う事ができますが…」


 それは未亜を過酷な運命…死が決定している運命に引きずり込む事になる。


「大丈夫だよ、イムニティにも認められなければ救世主にはならないんでしょ?
 それに、いざとなったら契約解除とか……できない?」


「それは…確かに出来ますが」


 そういう問題ではない気がする。
 そもそも、未亜が言っているのはかなり身勝手な方法だ。
 未亜との契約を解除するという事は、白の主を認めるという事で…。


「あ、未亜さんと契約解除しても、白の主を認めなければ大丈夫なんですね」


「そう。
 その間は、食事とかでエネルギー補給してもらう事になるけどね。
 ……ちょっとイヤな事を考えるけど」


「?」


 未亜が少し俯いた。
 リコからは表情が見えない。


「イムニティのマスターって、救世主クラスの人よね?」


「…はい。
 私達が選ぶのは、救世主候補生の中の誰かですから。
 例外はない…筈です。
 イムニティは秩序の象徴ですから、決められたルールから能動的にはみ出す事は考えにくいです」


「じゃあきっと大丈夫だよ。
 だって仲間だもん。
 救世主になる事に命をかけてるリリィさんだって、仲間だもん。
 私達を殺してまで救世主になろうとする人が、今の救世主クラスにいると思う?」


「それは…思いませんね」


「でしょ?」


 リコは思わず納得した。
 ベリオは仲間を殺せるような性格はしてないし、カエデは救世主になる事そのものには執着していない。
 リリィは執着しているが、仲間を殺せと言われたら確実に拒否する。
 大河は救世主になると嘯いてはいるが、実際には救世主自体に疑いを持ち、今でさえ他の救世主候補生と比べて真実に近い場所にいる。
 事情を話せば、理解してくれるだろう。

 よくよく考えてみれば、あまり問題は無かった。
 それでもリコが躊躇うのは、今まで何度も繰り返されてきた悲劇のせいだ。
 また同じ運命を辿るのではないか。
 大河までも、未亜までも死なせてしまうのではないか。

 確かに今回は、大河というイレギュラーがある。
 彼なら何とか出来るのではないか、という思いもある。
 しかし、悲劇はそう簡単には覆らないのだ。

 だが、そのイレギュラーは恐らく今回限り。
 この期を逃せば、もう二度と訪れないだろう。
 この悪夢で出来た連鎖を断ち切る事ができるのか?
 賭けるべきか引くべきか、それが問題である。


「リコちゃん…」


「……解りました」


 リコは遂に決断した。


「どの道、イムニティに対抗するには強いエネルギーが必要となります。
 この後どうなるかは、臨機応変に決めるとして……未亜さん、アナタと契約します」


「うん!
 …ところで、契約するのに気をつける事ってある?」


「いえ、特にはありません。
 ですが、私からのフィードバックで未亜さんもかなりパワーアップしますから、授業などでは力を入れすぎないように気をつけてください」


「…って事は、ひょっとして体力増強とかも?」


「はい」


 それがどうかしたか、というリコ。
 未亜は暫く何かを考えていたが、くわっと目を見開くとリコの肩を鷲掴みにする。


「きゃっ?!
 み、未亜さん!
 なんですか!?」


「契約しましょう!
 今すぐしましょう、どうすればいいの!?
 早く早く早く、ハリーハリーハリー!
 アポカリプスナウ!
 疾く契約しなさい!」


「お、落ち着いて、落ち着いてください未亜さん!
 契約しますから、とにかく手を離して!」


 ちょっと早まったかもしれない。
 多分昨日リリィを相手に大騒ぎした自分はこんな感じだったんだろうな、とリコは頭の片隅で思った。

 何とか未亜に手を離してもらい、リコは呼吸を落ち着けた。


「契約には、特別な方法は必要ありません。
 極端な話、私が未亜さんを認めるだけでも完了します。
 ですがそれでは繋がりが弱く、お互いの力も増幅されはしません。
 ですから…その、繋がりを強めるために…」


 言い辛そうなリコ。
 それを見て、未亜はリコが何を言おうとしているのか見当が付いた。
 が、素直に言ってやらない。


「どうすれば繋がりが強くなるの?
 躊躇っている場合じゃないでしょ」


「そ、それはそうなのですが…未亜さんに言うには、何と言うかちょっと身の危険が感じられて…」


「よく解らないけど、私がリコちゃんに何かする訳ないじゃない」


 今正にやっている。
 言葉で責めている。
 リコに恥ずかしい言葉を言わせようとして、ネチネチ責めている。
 この辺のテクニックというか駆け引きは、大河を相手に延々と鍛えられていた。

 未亜の言葉を聞いて、リコはちょっと冷たい目をした。


「な、なぁにリコちゃん?」


「未亜さん……ベリオさんとカエデさんとリリィさんにアナタが何をしたか、私が知らないとでも思っているのですか?」


「え? ええ、え? な、ナンノコトカナー?」


 3人を相手にヤった色々な何かが脳裏を過ぎり、未亜は思わず動転した。
 実際には具体的な事は知らないのだが、未亜の普段の行動を見ていればある程度の予測はつく。
 優勢がちょっと崩れた。


「ハァ…もういいです。
 繋がりを強くするためには、交わるのが一番いいのですが…女同士でやっても、大した効果は得られません。
 何より私が物凄い危機感を感じています」


「え〜?
 でも、大した効果が無くてもやらないよりはマシじゃない?」


イ・ヤ・で・す。
 それに、そんな事すると繋がりは強くなるかもしれませんが、それ以上に体力を消耗します。
 ですから、その……キ、キス…程度で…」


 頬を赤く染めるリコ。
 恥ずかしいらしい。
 自分から求める…不本意ながらだが…のもそうだが、相手が女というのも問題だ。

 未亜は自分から言わせた事で満足したのか、リコの頬に手を這わせた。
 ちょっと悪寒を感じながらも、リコが未亜を見る。


「あ、あの、未亜さん…?」


「ふふふ…」


 ……既にレズモードに突入していらっしゃる。
 こうなるともう止められない。
 経験の少ない…というか皆無のリコに未亜の相手をするなぞ、鼠が虎の相手をするようなものだ。

 未亜の手が艶かしくリコの頬を擽る。
 背筋を走る悪寒と未知の刺激に耐えながら、リコはさっさと済ませてしまおうと目を閉じた。
 力の限りに目を瞑り、未亜の唇が接触するのを待つ。

 未亜がゆっくり近づいてくるのが感じられた。
 リコとしては、まるで銃弾が目に見える速度で迫ってくるような感覚である。


(さっさと済ませてください…!)


 内心、自分はどうしてこんな事をしているのだろうと哀しい思いに浸りながら、覚悟を決めて自分から一歩前に出る。
 いっそ頭がぶつかり合って、台無しになってくれてもいいのに。

 しかし未亜は慌てず騒がずリコを受け止めてしまった。
 柔らかい感触がリコの唇に広がる。


(ごめんなさい、大河さん…)


 別に大河に謝る理由はないのだが、気分の問題だ。
 さめざめと心で涙を流すリコ。
 だが、ぢごくはこれからだった。


む!? んむっん〜〜〜!


 突然頭を抑えられ、それと同時に柔らかい何かが唇を割って入って来た。
 リコは咄嗟に歯を食いしばるが、入って来た何か…未亜の舌は、構わずにリコの歯茎を嘗め回す。


「〜〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 ジタバタするリコだが、妙に巧みな未亜のテクニックでどんどん力が抜けていく。
 下腹のあたりに妙な熱が生じ始め、リコは本気で貞操の危機を覚えた。
 しかし体に力は入らず魔力もコントロール出来ず、遂には食いしばっていた顎の力も抜けてしまった。

ぬちゅぬりゅ
 ピチャ ピチャ
  ズズズ

 …艶かしい水音が響く。
 歯を割って入り込んだ未亜の舌とリコの舌が絡み合う音だ。
 リコは既に動けず、何とか未亜の舌を避けようとしているが、幾ら逃げようとしても補足されてしまう。
 リコの体が時々小刻みに震える以外、何も変らずキスは続けられた。

 何時の間にやら未亜の手はリコの体を這いまわっている。
 流石に胸とかにダイレクトタッチするとリコが本気で抵抗しそうなので、腕やフトモモを撫で回したりしているだけだ。
 しかしそれでも充分官能的な触れ方である。
 この辺は兄・大河からの直伝だろう……自身で味わっているから、ある意味大河以上にツボを心得ている節もある。
 リコの体が、未亜の愛撫にビクビク反応する。

 完全に力が抜けた頃になり、未亜の手が更に進行する。
 片手でリコの背筋をゆっくりなぞり、もう一方の手はスカートの上からお尻を撫で回していた。
 リコの意識が飛びそうになったら、未亜の指がリコの菊座にちょっとだけ突きこまれる。
 その異様な衝撃で、リコはまた引き戻される。
 もうリコはされるがままだ。

 そのまま5分ほど経過しただろうか。
 リコの体がビクンビクンと震え、ようやくリコは開放される。


「っぷはぁ……ゴチになりました♪」


 流石に酸欠だったのか、大きく息を吸い込んで、未亜は輝かしい笑顔で両手を合わせた。
 リコはピンク色の靄がかかってまともに動かない頭を抱えて座り込んでいる。
 ノロノロと自分と未亜との繋がりを確認すると、予想以上に強い繋がりが出来ていた。
 これなら何とかイムニティにも対抗できるだろう。
 が、そんな事は哀しさを助長するだけである。


「………ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 放心したまま、ブツブツと呟くリコ。
 流石に未亜も良心を刺激され、リコを何とか励まそうとする。
 が、加害者の未亜に何が言えるというのか。


「ごめんなさい…ごめんなさい大河さん……汚されちゃいました…」


「マテ」


 良心の痛みも吹っ飛ばして、未亜がリコの頭を掴む。
 リコはビクッと脅えたように震え、現世に戻ってきた。

 脅えるリコを正面から見て、優しい……優しい……優しい?
 とにかくそんな笑顔と声で話しかける未亜。


「どーしてそこでお兄ちゃんが出てくるのかなぁ?
 ひょっとして、お兄ちゃんがリコちゃんに何かしたのかなぁ?」


「い、いえ、そんな事は……って、ナンですかこの途方もないエネルギーは!?」


 未亜への言い訳もそこそこに、流れ込んでくるエネルギーの奔流に悲鳴を上げるリコ。
 その総量と勢いも恐ろしいが、何よりも質…波動が恐ろしい。
 燃え盛る氷と表現するべきか、それとも真っ黒く燃える太陽と言うべきか。


「こ、これは嫉妬パワー!?


女の妬き餅と嫉妬は“破滅”より怖いのよッ!


 リコならずとも、心底納得しそうな勢いだ。
 触れれば核爆発でも起こしそうなエネルギー。
 扱うのが非常に恐ろしいが、これだけの力があればイムニティにも対抗できる。
 というか、力加減を間違えれば一息に消し飛ばしてしまいそうだ。
 そう考えると、リコは自分の力を最大限に活かせる相手と契約したのかもしれない。
 未亜の赤の力…嫉妬や妬き餅といった感情は、今まで味わったどんな感情よりも激しい。
 未亜が妬き餅を妬き、その感情の力よってリコがパワーアップし、さらにフィードバックで未亜がパワーアップ。
 恐ろしい循環が出来上がった瞬間であった。


「み、未亜さん、落ち着いて、お願いですから落ち着いてください!
 エネルギーが漏れ出して、く、空間が爆砕します!」


「そんな事より、どうしてあそこでお兄ちゃんの名前が出てくるのか聞かせてほしいなぁ」


「そんな事って…あああ、も、もう臨界点突破です! 逆召喚開始!!


 リコが叫んだ途端、空間にヒビが入り始めた。
 ビキビキビキとあっという間に崩れ落ち、次元の狭間…大河が“海”と呼ぶ場所が垣間見える。
 空間が完全に崩壊する寸前、虚空に魔法陣が描かれた。


「逆召喚!」


「ねーちょっとリコちゃん!」


 次の瞬間、未亜とリコの姿は次元の狭間から消えていた。


 未亜は目を開けた。
 目の前にエネルギーの奔流…それが何なのか未亜には解らなかったが、危険な何かだという事は解る。
 その余波だけで体が悲鳴を上げる。
 エネルギーが未亜に迫ってきた。
 それに反応する間もなく、未亜の手が誰かに掴まれた。
 そして一瞬の喪失感。


ゴトゴトゴトゴト!


 喪失感が消えた時、未亜の周りは騒音で満ち溢れていた。
 硬い物と硬い物が勢いよくぶつかり、さらにバラバラと何かが落下する音。
 顔を上げると、そこには棚と棚がぶつかり合って静止していた。
 自分の上に本が山ほど乗っかっている事からして、おそらくこれは本棚なのだろう。
 とにかくここを離れなければ、本棚がいつ崩れてくるか解らない。
 本の隙間から外を覗くと、そこには見覚えのあるリコ2号…もといイムニティが居た。

 どうやら、元の世界に戻ってきたらしい。
 てっきりイムニティの攻撃が直撃していたと思ったのだが、どうやらヒットする直前にリコがあの空間に連れて行ってくれたようだ。
 そして戻ってくるなり瞬間移動で未亜をイムニティに見つからない場所まで退避させたのだろう。

 心中リコに感謝しながら、さっきのリコの言葉は忘れてあげようと思う未亜。
 元はといえば自分が加害者だし。

 リコが何処に居るのか解らないが、とにかく連絡を取らねばならない。
 如何にリコと契約してパワーアップしたとはいえ、戦い方が上手くなった訳でもないし、そもそもどれ位強くなっているのか自分では解らない。
 一人でイムニティに立ち向かうのは得策ではない。


「あら、リコ」


(!?)


 未亜がどうしようか考えていると、イムニティの声が聞こえた。
 慌ててイムニティの先に目をやると、そこにはリコが無防備に佇んでいる。
 見た所外傷は見られない。
 しかし、あんな所に何故突っ立っているのか。
 未亜はいざと言う時に援護すべく、音を立てずにジャスティに矢を番えた。

 未亜はリコをよく観察する。
 リコの雰囲気は妙に暗い…というより何処か嵐の前の静けさを思わせた。
 イムニティも違和感を感じているようだが、気にしていない。
 何か仕掛けられていても、エネルギー差で押し切れると思っているのだろう。

 しかしそれは甘い考えだった。
 リコの体が震えだす。
 魔力に関しては全く探知能力の無い未亜でも解るほどに、リコの体から何かが溢れ出していた。


「ちょ、ちょっと…リコ?」


「あなたの…」


 声をかけるイムニティ。
 それをリコの声が遮った。
 大して大きい声でもないのに、イムニティの声を簡単に掻き消す。


「……と言え………のせいだ…」


「は、はい?」


 イムニティが得体の知れない悪寒に襲われ、逃げ腰になっている。
 しかし気のせいだと自分に言い聞かせ、リコを攻撃すべくスライムと本を呼び出した。
 足元にはこっそりマジックソードの魔法陣も書いてある。
 さらに自分の真上には隕石を待機させ、体には魔力を張り巡らせている。
 何時でも雷を発生させられるように集中までした。
 要するに、火力全開での総攻撃の準備である。
 さっきまでのリコは、自分から見れば飢え死に寸前の重病人に等しい。
 何があったのか知らないが、精々30秒の間に自分に匹敵するほどの力を奮えるぐらい回復できる筈が無い。
 例え居空間に篭っていたのだとしても、30秒が30分に変る程度。
 どちらにせよ、自分の敵ではない。
 にも拘らず、イムニティは本能に従って全力で殺るつもりである。
 白の精霊たる彼女が、ロジックよりも本能を優先した。
 その屈辱を感じる暇もない。

 とにかくさっさとトドメを刺してしまおう、と決意した瞬間、リコが決然と顔を上げてイムニティを睨みつける!
 それだけでイムニティは、脳天にナイフを突き刺されたような錯覚を覚えた。
 動けないイムニティの前に、本とスライムが躍り出る。

 リコは突然走り出し、イムニティに向かって叫ぶ!!


「元はと言えば!
あなたのせいだああぁぁぁぁ!」


「な、なにごとーーーーーー!?」


 絶叫するリコ。
 イムニティと彼女の付き合いは何万年単位だが、こんなリコは初めて見た。
 ビリビリと空気が震え、微妙なバランスで支えあっていた本棚が崩れだす。


「わっ、わっ、わっ!」


 未亜が慌てて本棚の下から這い出した。

 それに目もくれず、イムニティはリコを凝視していた。
 物凄い勢いで走りこんでくるリコ。
 スライムが巨大化して飛び掛る。
 が、リコは構わず一直線に突き進む!


「君がッ!」

ドパァン!

「うっ、ウソーーー!?」


 リコの拳が唸り、スライムが中心から消し飛んだ!
 普段の冷静さはどこへやら、思わず絶叫するイムニティ。


「泣くまでッ!」


 続いて本がページを変えながら突撃、リコから少し距離を取って静止した。
 本のページから、禍々しい腕が幾本もリコ目掛けて突き出される!

ガガガガガシッ!

 その全てを左手一本で叩き折り、一瞬で肉薄して目に映らない程のジャブを一撃だけ叩きつけるリコ。
 それだけで本は原型を留めないほどに破壊された。


「ちょっ、ちょっとタンマーーー!」


 そして獣の目でイムニティを睨みつけ、今度こそ何の障害もなく一直線に突撃!


「殴るのを止めないっ!」


 なんかマジだ。
 最後の足掻きとばかりに突き出されたマジックソードを一撃の元に打ち砕き、そのままリコの拳がイムニティに迫る!!
 既にイムニティは恐怖のあまりに半泣き状態だ。

 ゴオオォォォォォォ

 未亜から受け取ったらしき嫉妬のオーラだか、キスされて舌まで入れられた哀しみの氣だか、赤なのに何となく黒っぽい魔力だかが物凄い勢いで溢れ出るリコの拳が、風を切って唸る。
 大猿になったサイヤ人(金色)がダブッて見える拳が、イムニティに突き刺さった!


パァン!


「チッ、変わり身!」


 悪夢のような一撃が突き刺さったイムニティは、なんとその場で破裂した。
 しかしリコは混乱もせずにギロリと周囲を睥睨し、突如何もない空間に向かって走り出す。


「し、死ぬかと思ったあああーーー!?」


「シネーーーーー!」


 イムニティが出現した時には、もうリコは間合いを詰めている。
 走りながらも拳を振りかぶるリコ。

 死んだら未亜がエライコトになってしまうが、んな事を突っ込める状態ではない。
 どうせ『それがどうしたーーー!』とか叫び返されるのがオチだ。
 そしてついでに殴られて成仏する…できない、悪夢が魂に刻まれて。

 リコの鉄拳…どころかギャラクティカマグナムっぽい、それこそ核搭載したマスドライバーのような一撃をイムニティが身を捻って避ける。
 避けたのに体を切り裂き、イムニティを吹き飛ばしかねない風圧に心底恐怖する。


「じょっ、冗談じゃなーーーーい!
 マスター助けてーーーーーーーーーーーーー!
 こんなの喰らったらいくら私でも死ぬーーーーーーー!」


「そこになおれエェェェェ!」


 再び瞬間移動するイムニティ。
 イムニティが消えると同時に、転がっていた本棚にリコの拳が激突する。
 それだけで巨大な本棚が宙を飛び、天井に激突して粉々になった。
 どうやら未亜と契約した事により、物凄いエネルギーが彼女の中で渦巻いているらしい。
 集中も何も無く、エネルギーによる雑な身体強化だけでこの有様。
 どっかの未分化魔神みたいだ。
 未亜から受け取ったエネルギーだけでなく、自分自身の怒りと哀しみもエネルギーに変えたのだろう。

 未亜はそれを見て青い顔をする。
 契約してマスターになったとは言え、リコが未亜に危害を加える事は不可能ではないかもしれない。


(お兄ちゃん……若気の至りのせいで、私は20歳にもならない内に三途リバーを渡るかもしれないよ…)


 限りなく自業自得だ。
 辞世の句でも考えようかと思っている未亜。

 とかなんとか考えている間に、リコは更なる進化の可能性まで見せ付ける。


「ちょっ、ちょっとリコ、待って!
 後生だから待って頂戴!
 私を殺したらアナタのマスターが救世主「どーとでもなれーーーーー!」イヤアアァァァ!?」


 冷静なんて単語は何処へやら。
 全速力で天井近くまで浮き上がって間合いを取ったイムニティを、リコはキッと睨みつける。

 いくらリコでも、空中でこれほどの攻撃を繰り出すのは難しい。
 何より、移動に時間がかかる。
 今のリコは魔力の総量こそ桁違いだが、その扱いは酷く雑だ。
 空中でスマートに移動しようと思えば、ベクトルを余さずコントロールしなければならない。
 だから空中戦では、リコの機動力は極端に落ちる。
 テレポートも同じで、魔力を…魔力も含めた質量を一度に転移させなければならない。
 今のリコにはムリな話だ。

 スピードが消えても、魔力だけで充分な脅威だが、地上に居るよりはマシだと判断したイムニティ。
 だが、考えが甘かった。
 ええもう、そりゃ蜂蜜シロップ満載のバナナ八橋より甘かった。


「ふ、ふぅ…流石にここまでは届かないわよね…。
 あれほど魔力が大きいと、テレポートには返って時間がかかる……?
 え? え? え? あの、ちょっと?
 リコ?
 何で髪飾りが光って…」


 イムニティの眼下で、リコの髪飾りが光りだす。
 見る見るうちにその光は強くなっていき……。
 リコの髪のロールがイムニティに向けられて……。


「リコれーざーーーーーー!」


「ひいいぃぃぃぃ〜〜〜!?」


 リコの髪から、ぶっ太い光線が放たれる!
 ぶっちゃけた話、公式HPの4コマ漫画のアレだ。

 ツッコミも忘れ、必死こいて逃げるイムニティ。
 レーザーはイムニティが一瞬前まで居た場所を的確に射抜き、さらに天井に大穴を空けてしまった。
 2、3階層上までブチ抜いたらしく、瓦礫が落ちて来る。

 瓦礫に紛れて落下したイムニティ。
 もう恥も外聞もなく、逃げる事しか考えてない。
 正しい判断である。


 落下したイムニティの背筋に、生涯最大の悪寒が過ぎる。
 どれくらい強い悪寒かというと、イムニティの背中が問答無用で凍傷になるくらいだ。
 咄嗟に瞬間移動するイムニティ。
 その直後、打ち下ろしの右が叩き降ろされた。
 例によって大穴が空く。
 禁書庫が丸ごと揺れた。
 禁書庫は通常空間とは少し違った場所にあるので、図書館は揺れていないだろうが…もし揺れていたら、図書館ごと崩落していたかもしれない。

 リコはイムニティを探して、目を血走らせて辺りを見回している。
 しかし今度は本当に逃げたらしく、何時まで経っても出現しない。
 それはそうだろう、と未亜も思う。
 彼女もさっさと逃げたいくらいだ。
 イムニティが居なくなった今、次の標的はおそらく未亜。
 未亜にはリコから逃げるだけの力は無い。
 いっそ今からでもリコを置いて、自力で禁書庫を駆け上がって行った方が生還確立は高いかもしれない。


「うっ…うぅぅ…うええぇぇ〜〜〜ん


 しかしリコは、イムニティの気配が感じられなくなると同時に纏っていたオーラを霧散させ、座り込んで大声で泣き始めた。
 予想外の展開に固まる未亜。
 が、とにかく自分に矛先が向かない事は解った。
 今のうちに機嫌をとっておかねば、泣き止んだら自分の命はないかもしれない。


「あ…その、えーと………ほら、泣かないで…胸くらいなら貸すから…」


「びええええぇぇぇぇ!」


 唇を奪った未亜の胸に顔を埋めて、年齢もイメージもなにもなく泣きまくるリコ。
 普段感情を抑えているだけに、一度爆発するとその勢いは比肩できる者はいない。
 罪悪感を感じながらも、未亜はリコの頭を撫で続ける。
 それは奇しくも大河と同じ行為で、リコはそれによってちょっとずつ落ち着きを取り戻していった。
 …未亜がR&Rの皆様に暗殺されない事を祈る。


「…で、導きの書は取って来たけど」


「見事に真っ白でござるな」


 リコが泣き止み、落ち着きを取り戻してから、未亜とリコは導きの書を持って戻ってきた。
 未亜はリコに半殺しにされるのではないかとビクビクしていたが、やはり彼女はマスターに直接的な危害を加える事はできないらしい。
 恨めしげな視線を受けながらも、何とか仲直りできた。

 そのまま逆召喚で禁書庫の前まで飛び、ベリオとカエデに出迎えられた。
 ベリオは毒のせいか、まだ顔色が良くない。
 カエデは右足を包帯でグルグル巻きにしている。
 聞いた話では、禁書庫から出る直前に奇襲を受け、ベリオを庇って避け損ねたらしい。

 リリィと大河はまだ目を覚ましていない。
 リリィは診療を受けて、簡易ベッドで眠っているだけだが、大河は違う。
 右腕が偉い事になっているので、そこだけ集中治療しているのだ。
 ミュリエルやダリアと初めとする、回復魔法を得意とする魔法使い達が何人も手を貸し、ゼンジー先生やルビナス達も手を貸しているので、無理な運動はともかく普通に生活する程度には、遅くても今日の夜半には回復するだろうとの事だ。
 大河自身の生命力と召喚器の恩恵に、ミュリエルが用意していたスタッフ達の尽力があってこそである。


 一方、万全ではないにしろ、充分動き回れるベリオとカエデは未亜とリコが持っている導きの書を覗き込んでいた。
 しかしリコとイムニティの両方がマスターを選んでしまったため、導きの書には何も書かれていない。
 本当にこれが導きの書かと思ったが、最下層には他にそれらしい本は無かったそうだ。


「やはり千年前の“破滅”で、本物が失われてしまったのでござろうか?」


「でもこの本、強い魔力の残滓を感じますよ。
 導きの書かどうかは別としても、何か関係があるんじゃないですか?」


 そりゃ魔力も感じるだろう。
 ついさっきまでイムニティが本に閉じ込められていた上、何重にも封印がかけてあったのだから。
 しかしリコも未亜もそれを口にする気はない。


「未亜さん、リコ・リス」


「あ、学園長先生…」


「………」


 大河の治療を終えて一段落ついたミュリエルがやってきた。
 大河の具合を尋ねる未亜を安心させて、ミュリエルも導きの書を覗き込む。
 真っ白なページを見て、眉を曇らせた。


「これが禁書庫の最下層にあった、と?」


「はい。 鎖に繋がれていました」


「その鎖はどうしたのです?」


「お兄ちゃんが外しちゃいました。
 守護者と戦った時に、こう…何て言うか、物の弾み?で」


「大河君が…」


 少し考え込むミュリエル。
 導きの書をミュリエルに渡し、未亜は大河の様子を見に行った。
 それを見送り、ベリオはミュリエルに尋ねる。


「導きの書を取って来たという事は…未亜さんとリコさんが救世主…なのでしょうか?」


「いえ……導きの書は、読むに相応しい人物だけにページを開くと言います。
 今の救世主候補生では、導きの書を読むだけの器が無かったのかもしれません。
 何れにせよ、救世主は未だ決まってはいません。
 これからも一層精進しなさい」


「「はい(でござる)!!」」


 それだけ聞いて、カエデとベリオも大河とリリィの様子を見に行った。
 後に残ったミュリエルは導きの書のページを捲り、考えを巡らせる。


「………当真大河…私のかけた封印を…物の弾みで破った…?
 それに、ページが真っ白……という事はまさか………オルタラ、イムニティ…。
 …………あら?」


 何気なくページを捲ったら、何故か○×が書いてあった。
 ちなみに×の勝ち。
 イムニティの暇潰しの名残だろうか?


「………何故?」


「………そう…結局、救世主はまだ決まらなかったの」


 リリィが目を覚まし、未亜から事の経緯を聞いていた。
 途中でリタイアしたカエデとベリオに報告も兼ねて、2人が撤退した後から話している。
 無論イムニティの事やリコの事は省いて誤魔化した。

 リリィは救世主が決まらなかった事を聞き、ほっとしたような悔しがるような顔をしていた。
 大河は未だに眠っている。
 だが気を失っているのではなく、気を失ったまま普通の睡眠に移行したようだ。
 器用なヤツである。


「救世主が決まっても、“破滅”を打ち払う方法が解らないと意味がないんだし……まぁ、今回はこれで納得しておくわ。
 さて、そろそろ帰って眠りましょうか」


 リリィの怪我も、大河の怪我もほぼ治療済みだ。
 ミュリエルからも解散の号令が出され、図書館に残っているのは救世主クラスの面々だけ。

 報告を終えた以上、ここに留まる理由はない。
 大河はまだ眠っているので、誰かが背負って行かなければならない。
 流石に右腕の怪我を見ている人間は、叩き起こして歩かせようなどとは言えなかった。


「それでは拙者が師匠を運……べないでござるな、この足では」


「私も、まだ上手く体に力が入らなくて…」


「同じくムリね。
 医者からは明日まで安静にしていろって言われてるもの」


 問題は誰が大河を背負っていくかである。
 カエデとベリオは背負っても構わないがドクターストップ、リリィは自分から背負ってやろうとまでは思わない。
 となると残りは未亜とリコ。
 だが身長の差がありすぎて、2人で担いで行くのは出来そうに無い。


「しょうがないなぁ…それじゃ、私が背負うよ」


 そう言いつつも、未亜は楽しそうだ。
 大河を自分が背負って歩くなど、滅多にない。
 逆なら何度か経験があるが、これはチャンスである。
 別に得をする訳ではないが、そこは恋する女の感性である。
 こんな事でも、惚れた相手なら嬉しいのだ。

 体力的にも、今の未亜はリコと契約しているので問題ない。
 が、それをリコが遮った。


「いえ、それには及びません。
 私が大河さんを連れて行きます。
 マスターに余計な手間はかけられません」


「む、私が運びたいのよ」


マスターはまだ体の調子が戻らないでしょう。
 力加減を間違え、大河さんに怪我をさせかねません」


「……リコちゃん、何だかさっきから言葉を一部だけ強調してない?」


 未亜とリコが静かな戦いに突入しようとしている。
 それを見て、唖然としている視線が3対。
 未亜はそれに気がついた。


「ど、どうしたんです?」


「………未亜殿……いつかはやるのではないかと思っていたでござるが…」


「…遂にやってしまったのですね…」


「……獄中では健康に気をつけてね…。
 同じクラスだったよしみで、湯たんぽの差し入れくらいはしてあげるから…」


「え? え? え? …ああ!?」


 ここに至って、ようやく未亜はリコが“マスター”を強調していた理由に気がついた。
 このままでは、未亜の世間体というか評価というか対人関係が凄い事になってしまうかもしれない。


「ち、違うんです!
 これはそういう意味じゃなくて!」


「普段が普段だけに、ちょっと信じてあげられないわね」


「やっぱり大河君に毒されたんでしょうか…」


「これは既に犯罪でござるよ……。
 未亜殿、大人しくお縄につくでござる。
 その間に北の方の地位は、拙者がかっぱらって遵守しておくでござるから」


「ほ、本当に違うのおおぉぉぉ!」


 身を捩って絶叫する未亜の声が、フローリア学園に響き渡った。
 その間に、リコは大河を連れて逃げていた。


「………作戦成功、です。 ブイ」


 未亜は何とか三人を納得させた。
 そのまま疲れ切った体を引き摺り、部屋に戻る。
 今日の情事は流石に無い。
 未亜は割と体力が残っているが、他は怪我人と毒を喰らった病人。
 この状態で情事をしようとする程、未亜はキレていない。

 翌日はミュリエルの命令で、ゆっくり休むように言われている。
 現に救世主クラスの面々は昼まで起きてこなかった。

 が、起きるなりもう元気マックスなバカが一人。


「いやー、よく寝たよく寝た…。
 ウム、右手も快調!」


「……アンタ、あの大怪我が本当に治ったの」


「ダーリンすっごいですの……興味深い体ね」


 手を振り回す大河を、リリィが呆れたように見つめている。
 ルビナスは大河の回復力を、何かのメモに書き留めていた。
 たった一日で、大河は右手を完全回復させてしまった。
 ベリオやカエデ、未亜にリコも呆れ返っている。

 休日に全員集合して何をやっているのかと言えば、大河が救世主クラスとルビナスに頼み込んだのだ。
 セルの部屋から、必要な日常品を盗って(誤字にあらず)来て届けてやらねばならない。
 リリィ達は休んでいようかと思ったが、特にやる事もなく暇を持て余していたので、文句を言いつつも承諾。
 リコは不貞寝していたが、大河の頼みとあって不承不承起きてきた…それでもまだ元気がないが。
 ルビナスは召喚の塔爆破の調査とホムンクルスの生成で忙しかったが、ちょうど一段落ついていたので、気分転換に承諾。
 その前にナナシが二つ返事で承諾したが。

 今は男子寮前で、セルの私物を持ち出すための計画を練っていた。


「…どうして私物を持ち出すために、こんな本格的な計画を立てなきゃいけないのよ?」


「セルのお陰で、傭兵科の連中が殺気立ってる。
 真正面から行くと、拉致されて拷問されてセルの居場所を吐かせられるかもしれん。
 そんな訳で、コッソリ行くぞ」


「了解ですの」


 とは言ったものの、作戦事態は大した事ではない。
 ただ、気付かれないための幻術結界やら接近されそうになった時の見張りやらが、異常に念入りなだけだ。
 それを聞いてリリィ達は面倒で気にしすぎだと思ったが、実際にはまだ足りない程だ。
 今の傭兵科は、血に飢えた野獣の巣と変わりない。
 それを正しく認識しているのは大河だけだった。


「ところで、どうしてセル君は寮を出たのですか?」


「ちょっと女絡みでな。
 今セルが寮に戻ると、鉄の掟『一人で彼女を作った罪』で生き地獄に落とされるんだ」


「? ……よく解らんでござるが、セル殿は誰かと交際を始めたでござるか?」


 こういう話題になると、未亜達も俄然興味を示して来る。
 興味なしを装っていたリリィも、耳をダンボにしていた。


「ほら、未亜とカエデは前にも会ってる筈だぞ。
 名前はアルディア。
 一昨日に召喚の塔の辺りで、女の子を見たって言ってただろ」


「……私達が見たのは………名札にティシアって書かれてた人だけど?」


「名札が付いてたからって、それがその人の名前だとは限らないだろ?
 他人の持ち物を借りてただけかもしれないし」


「アルディアさん?
 どんな人ですの〜?
 私もとっても興味があるわ〜♪」


「会えば解るだろ。
 とにかく、セルの部屋から私物を持ち出して、アルディアちゃんの家に届けに行くぞ。
 アイツ、今はアルディアちゃんの家に転がり込んでるからな」


「「「「「そ、それって……同棲!?」」」」」


 退屈凌ぎ、程度の認識だった彼女達は色めき立った。
 救世主クラスと千年前のホムンクルスと言えど、年頃の女性である。
 色恋沙汰の話には目が無い。


「同棲か同居か居候か住み込みのバイトかは知らんが、とにかく早く行こうぜ。
 割り振りはリリィが幻術結界、ベリオが部屋に入って私物を持ち出し、後は見張りだ。
 俺は部屋の連中を誘い出すから」


「「「「「「了解!!」」」」」」


 一糸乱れぬ敬礼をし、彼女達は物凄い勢いで動き出した。
 未亜達は見張りに最適なポイントをあっというまに探り出し、リリィは普段以上に気合を入れて、精巧かつ巧妙に結界を張る。
 ベリオはこっそり物陰に入り込み、メガネを外す。
 次の瞬間、ベリオは引っ込んでブラックパピヨンが表に出ていた。
 彼女の顔も、好奇心で輝いている。

 大河は全員が配置についたのを見計らい、セルの部屋の前に立つ。
 中から何かが聞こえてくる。
 太鼓の音のようで、どこかで聞いた言葉。
 どう考えても4,5人入るのが限界の部屋で、10人以上が合唱している。

   ドンどこドンドコどんどこドコドコどんどこドンドコどんドコどこどこ
     ん・ばば んばんば めらっさ めらっさ
     ん・ばば んばんば めらっさ めらっさ………


「………」


     ん・ばば んばんば ん・ば・ば!
     ん・ばば んばんば ん・ばば!

「「「「「「「「ばぶわ〜〜〜!」」」」」」」」

「うおっ!?」


 部屋の中から絶叫が響く。
 ビビって一歩後退する大河。
 その間にも中から聞こえてくる声…歌声だか祈祷だかは、次のステップに進行していた。


しっとの刺客がでんじゃらホイ
太陽〜が散々生殺し
束ねた腸〜でなわ〜とび
時間〜が来ーたら
ニ〜エ ニ〜エ 贄殺せっせー

気分は、処刑晴れ
釜を見て 笑うーよ〜
皆は 叫んでる
裏切りの 粛清を!

(注:気分は処刑晴れ 北国爺さんバブワさん主題歌)


「………………」


 自分に色々と言い聞かせつつ、大河は無言でノックした。


「誰だぁ?」


「なんだ?
 俺の所にセルが帰って来たのか?」


「救世主クラスの当真大河だよ。
 ちょっとセルを見かけたんで、言っておこうかと思っただけだ」


 大河の台詞が終わらぬ間に、凄い勢いで扉が開かれた。
 中から暗黒闘気を放つ学生がワラワラ出てくる。
 大将格らしき学生は、八墓村のように蝋燭を頭に二本つけていた。
 何を考えているのか、服装は黒を基調としながらも妙に派手な着物。
 不気味…というかヘンだ。
 似合うのが尚更よろしくない。
 が、大河の目は別の所に向いていた。


「当真!
 セルは何処に居る!?」


「あ、ああ……礼拝堂裏手の森をウロチョロしてたぞ…何時まで居るかは解らんけど。
 それより、あの写真は………」


 大河は震える手で、部屋の一角を指差した。
 その指の先には、見覚えのある人物が写っている写真………なんとダウニーの写真である。
 あまつさえアフロ型ダウニー。
 しかも乙女チックなデコレーションが成され、部屋に合ってない事夥しい。


「ん?
 ああ、アレは一種の悪夢というか、倒錯的趣味と言うヤツだな。
 俺に興味を示さなければ、部屋の中にいるのがホモだろうがバイだろうがどうでもいいから放っておいたが」


「や、やっぱりそういう趣味なのか…」


「うむ。
 しかし、アヤツは裏切られたと騒いでおったな。
 なんか漢らしくアフロにした心意気に惚れたと言っていたのに、カツラで覆い隠すなど……だったか。
 その内夜襲をかけて、堕落した根性を叩きなおすと言っていたぞ。

 それはともかく、情報提供には感謝する。
 野郎ども、儀式は中止だ!
 怨敵発見、捕獲に行くぞ!」


「「「「「「「「「「「
      オオオオォォォ!!!!
              」」」」」」」」」」」


 大河を押しのけ、真剣やら竹槍やら釘バットやら棍棒やら包丁やら銃やらビームサーベルやら打神鞭やら、体にダイナマイトを巻きつけたのも何人か。
 えらく物騒だったり文明レベルを無視している武器で武装し、総勢30人の傭兵科生徒達が廊下を集団で走っていく。
 どう見てもタコ部屋に治まりきる人数ではない。
 流石の大河も呆気にとられた。
 何となく部屋を覗き込んでみると………北国、もといサバト会場だった。
 部屋の中心に大釜があり、ボゥボゥと燃える火に炙られている。
 とりあえず大河は、火事になりそうなので火を消した。

 窓は閉め切られ、天井から床から壁から、意味不明の呪文だか模様だかが書き込まれている。
 さらに大釜の前には護摩壇が置かれ、何だかよく解らない線香らしき物が燃やされていた。
 護摩壇の上には、数珠が置かれている。
 周りの状況を見る限り、一人が護摩壇に向かって数珠を振り回しつつ呪文を唱え、大釜の周りを他の生徒が廻りながら呪文に合わせて合唱していたようだ。
 何故か太鼓は見当たらない。
 変わりに壁に新しい血の跡が見える。
 ひょっとしたら、何人かが壁か床でも殴って音を出していたのかもしれない。
 それこそ拳が砕けて血が出るまで。


「………出よう」


 大河はさっさと出て行った。
 大釜の中身に人間らしき影が見えたり、どう考えても致死量の血がぶちまけられていたり、セルの私物らしきコレクションやら何やらが燃やされていたのは気のせいだ。
 うん、きっと気のせいだ。
 気のせいでなくても、あれはマネキンだったりニワトリの血だったりするんだ。
 …そう言い聞かせないとやっていられない。


「……せめて、この部屋に入ってくるリリィとブラックパピヨンに警告してやるか」


 結界を張りに来たリリィも、リリィが去った後にセルの私物を物色しに来たブラックパピヨンも、部屋の中の惨状に目を丸くしていた。
 それはそうだろう。
 まさかフローリア学園の一角で、サバトが行なわれているとは普通思わない。
 大河から一応の忠告は受けていたが、予想以上だった。
 何にせよ、あの部屋の中にいるのは精神的衛生上よろしくない。
 得体のしれない怨念やら情念やらが渦巻いているからである。
 リリィもブラックパピヨンも、自分の役割だけ果たしてさっさと逃げ出した。
 ちなみにブラパピはリリィと顔を合わせていない。
 未亜達は幸運にも部屋の中には入らなかったので、ショックは受けていない。
 今はリリィとベリオ以外で、セルの私物を背負って王都への道……アルディアの家に向かって歩いていた。


「……はぁ…」


「………ふぅ…」


「………ほひー…」


「……皆さん何だかお疲れですの。
 …妖しいクスリでチャージする?」


「…しないわよ」


「あ、私は頂きます。
 私には毒性の類は効きませんし」


「リコさん!?」


「毒…鋭いわね


「ルビナスーーー!?」


 リリィとベリオとリコは、揃って溜息をついていた。
 リリィとベリオは精神的ショックが大きかったため、荷物を持たされてはいない。
 その皺寄せが大河に向かっているが、それは問題ない。

 リコが溜息をついているのは、言わずもがな昨日の事である。
 一晩明けても、まだショックを引き摺っているらしい。
 しかし精神的に沈んでいても、今となってはリコの体力は、救世主クラス内で文句なくトップクラスである。
 未亜というマスターを得たため、エネルギー消費の心配も殆ど無くなった。
 一見すると最も華奢でも、実際には王都までノンストップで全力疾走出来るのだ。
 その代わり、ルビナスの作ったデンジャーな匂いがするクスリを飲もうとするくらいトチ狂っているようだが…。


 大河は未亜達を先導して歩いている。
 少々荷物が多いが、全く苦にしていない。
 精々バランスを保つために、時折右に左に体を揺らすくらいである。

 カエデは溜息をつく3人を不思議そうに見ているが、未亜は意図的にそれを無視していた。
 それよりも、セルと同棲していると思われるアルディアについて根掘り穴掘り尋ねている。
 とはいえ、大河もアルディアの事をそれほど知っている訳ではない。
 知っている事と言えば、家の位置やちょっとした性格、そしてセルが言っていた『多重人格者の可能性がある』程度の事だけだ。
 最後の一つは、言いふらすような事ではない。


「ふーん…じゃあ、お兄ちゃんも詳しい事は知らないんだ」


「ああ。
 何せ会って話したのは1時間にも満たないからな。
 でもセルの事はかなり気に入ってたみたいだぞ」


「そうでなければ、同棲しようとは思わないでござろう」


 三人が話し込んでいると、アルディアの家が見えてきた。
 相変わらず、場所を考えると大きな家だ。


「ほら、あれがアルディアちゃんの家だ。
 失礼がないように振舞えよ」


「その台詞、大河君だけには言われたくありませんね…」


「同感同感」


 ベリオとリリィの言葉をさらっと流し、大河達はアルディアの家に到着した。
 噂のセルの彼女に会えると思い、ベリオもリリィもリコも憂鬱をどこかにすっ飛ばしている。

 大河が前に立ち、呼び鈴を押した。
 暫くすると、扉が音もなく、ゆっくりと少しだけ開かれる。
 扉の隙間から見える館の中は、酷く暗い。
 大河達の背筋に寒気が走る。

 扉の隙間から、ギョロリとした目が覗いた。


『-−ー―!!!!!?』
「〜〜〜〜!」


 初っ端からベリオは卒倒寸前だ。
 リリィ達も悲鳴を噛み殺している。
 ナナシですら雰囲気に脅えていた。
 真昼間だと言うのに、呪いの館の如き雰囲気が漂ってくる。


「……どちら様でしょうか…?」


「こ、ここに泊まっている筈のセルビウム・ボルトの友人です!
 彼に頼まれた物を届けに来たのですが!」


「セルビウム様の…。
 生憎ですが、セルビウム様は居られません」


 陰気な声で、目玉が返事をする。
 大河は直感する。


(く、食ったのか!?
 セルを食ったんか!?)


 この家の住人なら、それくらいはやりそうだ。
 きっと家の中を探せば、地下に通じる階段とか隠し通路とかがあって、そこには犠牲者達の遺体が放置されていたり、拷問器具が山ほど置かれている部屋があるのだ。
 大河は今からでも、この家を焼き討ちしてやりたくなった。
 多分正当防衛扱いされる。


「セルビウム様は、お嬢様の供をして王都まで出かけております…。
 恐らく夕方以降までお戻りになられません…。
 客室でお待ちになられますか?」


「い、いえ!
 そこまでお世話になる訳には行きません!
 申し訳ありませんが、セルの私物を渡しておいて頂けないでしょうか!」


「……承りました…。
 お嬢様のご友人のご友人ならば、我々にとっても大事なお客様です…。

 お友達を作る事が出来なかったお嬢様が、あのように明るくなられている…セルビウム様は、お嬢様を孤独から救い上げてくれた恩人でもあります…。
 セルビウム様共々、これからはお嬢様をよろしくお願いいたします…」


「こちらこそヨロシクお願い致します!」


 大河達はギクシャクとした動きで、セルの私物を目玉…多分執事…に渡した。
 数が多いので、半分以上は玄関に置いて行く事になる。
 が、そんな事に構っている余裕はない。
 何とか一礼して、大河達は油の切れたロボットのような歩き方で街道に戻って行く。
 暫く歩き、充分離れたら、今度は全員揃って猛ダッシュ。
 一糸乱れぬロケットスタートを決めた。


 そのままたっぷり3分は走り続けただろうか。
 一切スピードを落さず、心肺能力の限界を無視して突っ切った。
 既にアルディアの家は豆粒だ。

 そこでようやく立ち止まり、大河達は街道を外れて倒れこんだ。
 広々とした草原の上に横たわる。
 リコを除き、全員が息を切らして汗だくになっている。


「はぁ…はぁ…はぁ…な、何なのよあの屋敷の迫力は…」


「っぷ…はぁ、はぁ…ぜぃ、ぜぃ………冥界に…つ、連れて行かれるかと…」


「セルさんは………ふぅ……あんな所で、寝泊りしてるの…?」


「住めば都とは…言うけど………度が過ぎますの…」


 恐怖のあまり、限界も考えずに突っ走ってきた大河達。
 引き攣った顔で、各々感想を述べている。
 アヴァターに来てから、最大級の恐怖だった。
 寮へ帰れないとはいえ、あの家で1晩寝泊りしたセルに本気で同情と尊敬の念が沸いてくる。
 未亜と大河の感覚で言えば、青山霊園で夜明かしするようなものだ。


「……セルさん………大丈夫なのかな…普通に心臓麻痺とか起こしそうな気が…」


「…だとしても、助けに行くのは勘弁だぜ…ミイラ取りがミイラになっちまう」


「拙者も行きたくないでござる…」


 薄情ながら、誰だって怖いものは怖い。
 囚われて(?)いるのは、傭兵科でも随一の生命力を誇るギャグキャラ・セルビウム・ボルトという事もあり、誰一人として連れ戻したりしようとは思わなかった。
 放っておいても、色々と愉快な目にあうかもしれないが死にはしないだろう。


「…見物のつもりで行ったら、えらい目にあったわね…」


「マジですまん…。
 今度ばかりは俺も予想外だった」


「いいわよ……これが好奇心はネコを殺すって言葉なのね…」


「実際ネコだしな」


「黙りゃんせっ!」


 リリィの裏拳を喰らって大河は沈んだ。
 リリィがネコという意味が解らず、ベリオとカエデは首を傾げている。


「未亜殿、リリィ殿がネコとは一体…」


「あ、それはですねー」


「要らん事を喋るなぁぁ!」


 カエデと未亜の会話に乱入するリリィ。
 目が血走っている。
 ライテウスも淡く光りだしていた。
 これ以上の情報漏洩は命に関わる。

 未亜は笑ってカエデとベリオを誤魔化した。
 リリィも一応ライテウスの光を収める。
 が、カエデもベリオも納得していない。
 リリィがこれだけ慌てるのだから、並大抵の事ではないだろう。
 ……確かに並大抵の破壊力ではなかった。

 未亜としては何としても2人に伝え、リリィを猫可愛がりしたい。
 多分2人も、何の疑問も持たずにリリィを可愛がってくれるだろう。
 が、今この場では話せない。
 リリィがまだ聞き耳を立てているからだ。


(だったら、リリィさんが居ない所で話せばいいんだよね…ちょっと用事もあったし、丁度いいかな)


「あの、ベリオさん、カエデさん。
 今夜は時間が空いていますか?」


「今夜ですか?
 ……まぁ、空いている言えば空いていますが」


「拙者もでござる。
 一応予定はあるでござるが…」


 言うまでもなく、予定とは大河との情事である。
 未亜はカエデとベリオを近づけさせ、小声で耳打ちする。
 リリィも相変わらず聞き耳を立てているが、流石に聞こえていない筈だ。


(今夜の事なんですけど……ちょっと順番を入れ替えてもらえませんか?)


(順番を…でござるか?
 何故でござる?)


(いくら未亜さんと言えど、協定を無視するのは感心しませんよ)


(そうじゃありません。
 実は、お兄ちゃんに勝てるかもしれないんです)


「「 !! 」」


 大河に勝てると言われ、目の色が変った。
 無論、この場合の勝つというのは情事で終始主導権を握るという事である。
 今までは、体力が途中で尽きてしまって、必ず大河に主導権を握られていた。
 テクニック云々以前に、こなせる回数が違うのである。


(細かい事は言えませんけど、今の私は体力がメチャクチャ増強されているんです。
 今ならお兄ちゃんに匹敵する体力を得ているはずです…)


(そ、それは本当ですか?
 あの大河君以上だなんて…)


(俄かには信じられぬでござるが…それが本当だとすれば、拙者達としても手を貸すのは吝かではござらぬ。
 そーいえば、確かに未亜殿にしては息が切れていないでござるな…)


(はい。
 でも、念には念を入れたいんです。
 戦力は少しでも多い方がいいし、何より相手はあのお兄ちゃん…。
 ひょっとしたら、まだ勝てない可能性もあります。
 最低でも相打ちまでは持っていけると思いますが)


(なるほど…。
 それで、大河に体力増強の事がばれない内に、全力で襲い掛かろうと言うんですね?)


(そういう事です。
 苦節数年、やっと勝機が見えたんです…。
 お願いです、協力してください!)


 未亜がリコとの契約を決心した理由がこれである。
 体力の増え具合によっては、大河の責めを受けきれるかもしれない。
 しかし、そこまでして大河に勝ちたいか。

 頭を下げる未亜を制して、カエデとベリオは未亜の手をとった。


「そう言う事なら強力させてもらうでござる。
 拙者としても師匠を超えるのは悲願……可能性があるのなら、それに賭けてみたいでござる」


「私もです。
 一人で死地に赴かせはしません」


 三人はガッシと手を組み合った。
 One for all, All for one.
 一人は皆の為に、皆は一人の為に。
 実に麗しい友情である……淫靡な友情かもしれないが。

 その傍でリリィが何を話しているのか訝しみ、リコは機嫌が悪くなり、ナナシとルビナスは何かを考え込んでいた。
 大河は……何を考えているのか、未亜達が覚悟完了しているのを承知しながらもニヤニヤしていた。


 学園に戻ってきた大河達。
 いっそ王都まで遠出して、気晴らしがてらにセルを探そうかという意見もあったのだが、カエデとベリオと未亜が却下した。
 夜に備え、少しでも体力を残しておきたいらしい。

 カエデ・ベリオ・未亜は、三人で部屋に帰ってしまった。
 恐らく作戦会議でもするのだろう。

 リリィはゼンジー先生に呼び出され、保健室に向かった。
 どうやら昨日の診断結果について、伝えたい事があると言われたらしい。
 ルビナスは仕事に戻り、リコは何処かに消えた。

 大河はというと、我ながら命知らずだとは思うが、礼拝堂裏手の森に向かった。
 偽情報をリークされた傭兵科生徒達が、何かとんでもない事をやらかしているのではないかと思ったからだ。
 ひょっとすると、地下への通路を発見されてしまうかもしれない。
 彼らの事だから、セルを探して最下層まで突っ切りかねない。

 だが、大河の心配は無用だった。


「お? 当真じゃないか。
 さっきは情報提供ありがとう」


「ん? ああ、さっき出てきた…」


 大河は森に向かう途中、当の傭兵科生徒の団体と遭遇した。
 誰もが武装しており、まだ少し殺気立っている。
 ちょっと引きながらも、大河は平静を装う。


「どうだ、セルは発見できたか?」


「いいや、残念ながら逃げられてしまった。
 我々が接近してくるのを勘付いたのであろう。
 全く、傭兵には逃げ足は必須技能であるとはいえ、幾らなんでも素早すぎというものだ」


 幸いな事に、大河がウソをついた事には勘付いていないらしい。
 もし気付かれたら、それはもう悲惨な運命が待っているだろう。
 尤も、そうなったらセルの居場所を白状して情報酌量を請うつもりだ。


「それにしても、大人しく判決を待つならばまだしも、こうまで逃げ回るとは…。
 これはもう一度儀式を行なわねばならぬな。
 それももう一段階強力な儀式を」


「儀式って……さっきやってたアレか?
 ん・ばば んばば めらっさめらっさ、とか…」


「聞いたのか!?
 あれは門外不出の呪文なのだが……まぁいい、当真は協力者だからな。
 絶対に他人に言うなよ?」


 どこの流派の門外不出だ、とか何時の間に協力者になった、とか色々と突っ込み所があったが、口に出して言う訳には行かない。
 ちなみに大河はセルが彼女を作ったと密告し、さらにウソとは言えセルの居場所を教えた。
 傭兵科生徒達から見れば、充分協力者である。

 顔を引き攣らせながらも、大河は首を縦に振る。
 もしノーと答えれば、次の儀式の標的は言わずもがな大河だからだ。
 大河が頷くのを満足気に見る傭兵科生徒。


「本当に誰にも言うなよ。
 もし誰かに教えたら、傭兵科男子寮伝統の儀式…さっきの儀式よりも強力な呪いをかけるからな」


「…さっきも言ってたが、その儀式には段階とかレベルがあるのか?」


「うむ。
 さっきの儀式は中級レベルだ。
 呪文は下級レベルから、『キ〜タよキタキタ福がキタ〜』『ん・ばば んばんば』・『オッポレオッポレ』となっている。
 この上に最上級レベルがあるのだが、俺も伝説でしか聞いた事がない。
 OBにでも聞けば解るだろうが…。
 ちなみに上級儀式のオッポレは、団体で戦ってそのエネルギーと流血を呪いに使う大技で、時には死人や廃人が出るという…」


「ああ、もういい解った解った…。
 もう勘弁してくれ。
 で、セルにはオッポレをかけるんだな?」


「うむ。
 もしセルを見かけたら、首を…いや、衣装を洗濯して待っていろと伝えてくれ。
 それだけで意味は伝わるからな」


(衣装…?)


 色々と疑問が残るが、これ以上首を突っ込むととんでもない物が飛び出してきそうだ。
 大河はさっさと退散する事にした。


 一方、こちらはリコと未亜。
 未亜はベリオとカエデと一緒に作戦を練っていたのだが、部屋を訪ねてきたリコに連れ出されたのである。


「それで、どうしたのリコちゃん?」


「……さっきマスター達が相談していた事なのですが」


 リコは難しい顔をしていた。
 どうやら真面目な話らしいと判断して、未亜も表情を厳しくする。
 しかし、相談していた事は大河との情事対策である。
 そんなに真面目になる事だろうか?
 いや、確かに未亜達はこれ以上無い程真面目なのだが。


「……その、私も参加させていただけないでしょうか」


「へ?
 ……ええと、その、作戦会議に?」


「いえ………だから、大河さんとの…………所謂、本番に…です」


 未亜は唖然とした。
 予想外だ。
 確かにリコは大河に好意を持っていたし、ひょっとしたらいつかはこういう事になるのではないかと思っていた。
 しかし、ここまで直球で来るとは夢にも思わなかった。

 実は昨日の未亜の行為がリコの決意を固めさせてしまったのだが、未亜はそれに気付かない。
 どうやらまた不慮の事故や未亜の暴走で色々と奪われる前に、自分から大河に捧げてしまおうと思ったらしい。


「え、え、で、でもどうして?」


「……それは…その、エネルギーに問題があるのです。
 マスターから受け取ったエネルギーは膨大で強力ですが、その分安定性に欠け、何よりその強烈な感情の波動により、私の意識を引き摺ってしまいかねません。
 ですから、他から別種のエネルギーを得て均衡を保とうと…」


「そ、それなら別にお兄ちゃんじゃなくても…。
 他の男の人に抱かれろとは言わないけど、食事とかじゃダメなの?
 それにお兄ちゃんから補給されるエネルギーは、私以上に感情的だと思うんだけど…。
 だって、あのお兄ちゃんだし」


「それはそうですが、それでもマスターのエネルギーに比べれば扱いやすいです。
 だって目の前にエサをぶら下げれば、勝手にそれに集中しますから…。
 食事では充分なエネルギーを得る事は難しいのです」


 大河のエネルギーは、まるでニンジンを前にして走る馬だ。
 実際、大河は馬並みかもしれない。

 しかし、リコの本意が何処にあるのかは一目瞭然である。
 言うまでもなく、大河と未亜達との関係に割り込もうとしている。
 正確に言うなら、その輪に参加しようとしている。

 リコは可愛い。
 未亜としても、リコにちょっかいを出して愉しみたいという欲望はある。
 だが、そう簡単に許可するのも心情的に納得できない。
 昨日リコを泣かせてしまった負い目と反発が、微妙な均衡を保って釣り合った。

 その結果、未亜は問題を先送りにする。


「…保留!」


「保留…ですか?」


「とにかく今日は諦めてほしいの。
 リコちゃんも知っての通り、今はカエデさんとベリオさんと私の三人でお兄ちゃんに挑むの。
 この三人ならそれなりにチームワークが出来てるんだけど、リコちゃんが入るとリズムが崩れちゃうよ…。
 だからね、せめてお兄ちゃんに挑戦して、一度勝ってからにして。
 きっと明日の昼には結論を出すから…」


「………マスターが…そう言うのなら…」


 不満がありありと見えたが、主の言葉には従うようだ。
 とにかく、後一歩の所までは取り付けたのだ。
 一度に未亜を攻略できるとも思っていなかった。
 緒戦としては、まぁ妥協点だろう。


「…それでは、私の用事はこれだけなので…。
 精々頑張ってください」


「ご、ゴメンねリコちゃん…。
 あれ?
 でも、お兄ちゃんとシちゃったら、リコちゃんと契約した事になるんじゃないの?」


「いいえ。
 交合や接吻は、契約後の繋がりを強化する為の行為です。
 契約を交わさずに交わっても問題ありません」


 それだけ言って、リコは去って行った。
 残された未亜は頬をかく。
 何やら複雑な事態になって来てしまった気がする。


「……とにかく、今はお兄ちゃんに勝つ事が最優先よね。
 後の事はどうとでもなるわ」


 それでいいのか。


 夜。
 宵の闇が最も暗くなる時間帯。

 リコは人気の無い校舎をふらついている。
 未亜に情事参入を引き伸ばされ、リコは不貞腐れていた。
 未亜と交渉した後に部屋に篭って眠っていたのだが、夜遅くなってから目が覚めた。
 エネルギーも足りているので、眠って力を温存する必要もなく、従って睡眠欲も沸いてこない。
 布団の中で転がっているのに飽きたリコは、暇を持て余して散歩に出てきたという訳だ。

 今頃、大河の部屋では未亜達が淫靡な戦いを繰り広げている事だろう。
 想像すると、胸の中に苛立ちが募ってくる。
 彼女らしくもなく、リコは召喚の塔の壁を蹴り付けて八つ当たりした。


「…………!」

 ゲシゲシゲシゲシ!


 塔の壁にリコの足跡が付く。
 しかし今はイムニティを圧倒した時のように魔力を溢れさせている訳ではない。
 召喚の塔は小揺るぎもしなかった。
 むしろ全身を揺らして、力一杯蹴りつける様は愛らしい。
 塔を蹴る度に、ロールがぽよんぽよんと揺れた。

 暫く塔の外壁を蹴り付けて気が晴れたのか、リコは顰め面をしながら振り返った。
 もう帰って眠ろうと思ったのである。

 歩き出そうと顔を上げると、そこに赤い目があった。


「………………………………?」


 赤い目は垂れ目で、何処かで見たような気がする。
 いやそれよりも、何故こんな夜中に、自分の背後に気配もなく立っていたのか。
 予想もしなかった光景に頭が飽和状態になり、リコは状況判断も忘れて立ち竦んだ。


「…………随分鈍いじゃないの、リコ」


「……………イムニティ!?」


 その人物に声をかけられ、ようやくリコは目の前の人間が誰なのか理解した。
 咄嗟に後ろに下がったが、そこには先程まで蹴り付けていた壁。


(壁さん、蹴ったのは謝りますから、後で最高級のワックスをかけますから、そこを退いて下さい…!)


 退ける訳が無い。
 これは本気でヤバイと思ってリコが構える。
 が、リコの動きはイムニティの全体像を見た瞬間に凍りついた。


「………何の…つもり? イムニティ………………」



学園祭まであと三日〜。
このクソ忙しい時に、暢気に投稿なんぞしていて微妙に申し訳ない時守です。

学園祭が終わったら就活か…憂鬱じゃのぅ…………(;´д`)
進みたい業務には、かなり必要技能が足りないし…ま、気長にやる事にします。


それではレス返しです!

1.SRX−TP様

ご指摘ありがとうございます。<m(__)m>
“き”が抜けてたのね…微妙に意味が通るような通らないような…。
訂正しておきます。

未亜のあの発現は、単なる時守の願望でした。
折角ウリ二つなんだから、ネタにしない手はないのに…。


2.九重様

感想ありがとうございます!
マルカジリされないよーに、根性入れて執筆します。


3.砂糖様

イムのマスターは、もう一話先に伸びてしまいました。
リコVSイムは、リコが産まれてから最大級の暴走をさせてみましたが…如何でしたか?
少なくとも萌え度は以前リリィを相手に捲し立てた時の方が上だと思いますが…。


4.沙耶様

禁断の百合プレイ、書きました。
ええ書きましたよ、投稿する10分くらい前にふと思いつき、(でぃーぷな)キスだけで済ませる予定だったのに、急遽書き足しました。
出ましたか? 鼻血。


5.ディディー様

ムドウ達がお笑いキャラに………おお、丁度いいネタがあった気が…。
ネタ帳を漁ってみます。

そー言えば、“破滅”の軍勢はイムニティが現れなかったらどうするつもりだったのでしょうか?
封印されたままだった可能性は、充分あると思うのですが……。
あ、召喚の塔の爆破の真の目的は導きの書の開放だったのかも?


6.K・K様

オギャンオス!
ってEMEですかい。

もう何処をどう見ても、イムニティはシリアスキャラじゃありませんね。

ねこりりぃの進化に関しては、当然萌えの方向に進まなければいけませんね。
と言うか、萌えの前では戦闘力なんて何の意味もありませんよ、ええまったく。
萌えは世界を救うのです、ただし微妙な方向に。
頭数を揃えるとしたら…リリィがこうだから、あの人はあんな感じになって、この人かこっちの人は……やっぱり2人か3人が限度ですね。
二人目は確定として、3人目は付けるべきか付けないべきか…生半可な人選じゃ、リリィに対抗できません。


7.valy様

ネタは私が持ってくるんじゃなくて、電波が持ってきてくれるのです。
その証拠に、自分で考えて書いたはずが、何時の間にか知らない作品のネタが混じってたりするんです。
「あれ、こんなネタの漫画あったの?」という事が何度か…。
小一時間程度で電波の発信源を特定できるなら、それはもう大歓迎ですよ。


8.七無し様

レアな台詞………け、ケロロ軍曹?

ギャグになってしまえば、ある意味ダウニーは無敵モードです。
とはいえ、そろそろアフロも飽きられるかもしれないから、もう一段進化させる必要が…。
でもアフロの方がインパクト強いかな〜。
ダウニー髪型7変化とか計画してるんですけど。

同じく時守も基本情報です。


9.水城様

ボン・キュ・ボンなリコ……。
当然服は変化しない(という事にして)ので、ただでさえ短いスカートから覗く○○○が、○○○がッ!
…時間制限付なら意外とウケるかも?
巨大化も可…。
というか、原作リコEDの時、ちょっとおっぱいが大きくなっているよーな…。

ツンデレなら白の精霊も有りですね。
精霊としての役割と、自分が否定すべき感情の間で悶えるイム…とか、是非やってほしいです。
時守には、そういう細かい心の機微とかムリですから…。


10.竜神帝様

ええ、キレるでしょうね。
キレて何かしら体罰とかくわえますよ、きっと。
その辺は次回という事で…。


11.神曲様

はい、お粗末さまでした。
同人少女のいい場面…あ、本当に電波来た。
もう暫く先で、少なくとも一度は出てもらう事にします。

と言うか、アフロ神に頼んだら「同人少女をアフロにしなさい」とか言われそうです。
やるなら小麦色に焼かないと。


12.悠真様

プラスチックの櫛が折れる…苦労なされているのですね。
手強い髪にもいつか勝てる日が…来るには来ると思いますが、その時は多分イヤな勝ち方を…。
それにしても、ナンかアフロダウニーが異常にウケているのですが…ヘタに進化させない方がいいでしょうか?

いずれにせよ、ダウニーには当分苦労してもらう予定です。


13.星川 俊一様

設定を投影…と言うよりも、後付でしょうか?
似合いそうな属性を付加してますので…。

プロローグ〜5−1は、過去ログにある筈ですよ。


14.竜の抜け殻様

元々幻想砕きに出てくるキャラクターに、本当の意味でのシリアスキャラなんか居ない予定ですから。

アフロ神の降臨…やはり一度は御姿を拝見したいものです。
……後光とか背負わせて召還しちゃおっかな…。
一見する程度なら、丁度いい場面を一昨日くらいに書いてますし…。


15.なまけもの様

2Pカラーじゃなければ違法コピー商品とかも考えました。

イムはもう完全に壊れの世界に取り込まれちゃいました。
もう抜け出せませんね、きっと。
本人の自覚?
多分無いです。


16.カシス様

イムが半分壊れとはいえ、まともに戦えば勝ち目は無いので強引に突っ切らせてもらいました。

VS救世主チームは、実戦ではないと思いますけど一度はやる予定です。
その時に××を×××して救世主クラス全員で××…。

しっと団は…あれって、名前付レギュラーキャラに勝った試しがありましたっけ?
セルは勝てそうにないですが……。


17.ファフレル様

敵にギャグ属性…少なくとも2人は確定し、あと1人に別の属性を付加する予定です。

双子プレイに関しては、これが意外と簡単そうながら難しくて…。
結構先になりそうです。
というか、次の章の展開が異常に遅くなりそうなもので…。


18.なな月様

考えてみれば、シロウにとってはネットワークは天職かも…。
いや、執事の方が似合ってますね、やっぱり。

イムのマント下は…アレはときメモ2の三原咲之進のマントの下と同じです。
詮索するとなんか色々掘られます。

リコのドラムカンロール、火は噴かずとも光を噴きました。
「髪から怪光線」と名づけます。

とら…とらか……とらとアレと…あの辺と…いや、やっぱり振り分けて…。
いやむしろ長飛丸のコスプレ…。

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