Revenge For The Destiny
〜本編〜
第1話前編「怨敵との再会〜前編〜」
西暦2195年、アステロイドベルト付近……小惑星と細かな岩石以外何も無かったそこに、突如として黒い穴が開いた。そしてそこから純白の船体…ユーチャリス2がその姿を現す。船体が全て抜け出ると同時に穴は閉まり、後は何も無かったようにただ漆黒の宇宙(そら)が残るのみだった。
「戻ってきたのか…あの時に…ルリちゃん、現在日時は?」
「ちょっと待って下さい…わかりました。現在日時は西暦2195年4月20日…アキトさんが地球にジャンプした日ですね。現在地はアステロイドベルトです」
ルリがそう報告すると同時に安堵の溜息をつく残りの2人。ガルム達にとってはいつもの移動方法とは言え、初めての彼らにはやはり不安も多かったようである。するとその時、サルタヒコのレーダーが何かを捉えた。
『おりょ?これは……マスター、9時方向に漂流中の物体を発見。データ照合した結果木連の標準型小型艇と判明。外観からしてどうやら一部損傷している模様です』
「サルタヒコ、内部に生命反応は?」
『えっとー…3名ですね。この反応から見て内1人は子供のようです』
「よし、木連の公用回線で繋いでくれ」
そうアキトが言って数秒後、あちらも通信が入ったのに気づいたらしく、回線が繋がる。モニターに出たのは宇宙服を着込んだ40代ちょっと前といったあたりの男性だった。始めは疲労困憊した表情をしていたが、それがあちらのモニターに出たであろうアキトの顔を見て驚愕に変わる。そして彼の口からとんでもない一言が飛び出した。
『貴様……もしや、テンカワアキトか!?』
「!!なぜ俺の名前を……」
見た事も無い人物に名前を呼ばれてビックリするアキト。後の2人も唖然とした表情に変わるった。さらに次の言葉で完全に固まることとなる。
『我がわからぬか…「我?……ちょっと待てまさか…」…まあ無理も無いかもしれんな。我の名は北上辰一郎(きたかみしんいちろう)…北辰と言えばわかるであろう』
「「「はぁっ!!?」」」
眼をまん丸にして口をあごが外れそうなほど開けたマヌケ顔で固まる3人。まぁ無理も無いが。彼らの知っている北辰とウインドゥに映っている男性とでは雰囲気がまるで違う。彼らの知っている北辰は頬はこけ、眼はぎらついた正に狂獣と言った雰囲気だったのに対し、ウインドゥに映っている男性は少し細めではあるが普通の顔に優しそうな眼と完全に正反対なのだから。
それから数分立ってから、3人がようやくこちらの世界に戻ってきたのを確認して北辰が話し出す。
『さて……そろそろいいか?』
「あ、ああ………」
『実は一つ頼みがある…もっとも、お主から全てを奪った我なれば、頼み事など出来る立場ではないのはわかってはいるが…この船には我の他に我の妻と娘が乗っておる。だが、見ての通りこの船はもう持たぬ。我を煮るなり焼くなり宇宙(そら)の藻屑にするなり好きにしていい故、どうか…どうか妻と娘だけは助けて貰えぬだろうか…無茶な頼みなのは重々承知…だが……我はともかく、妻と娘には罪は無い……頼む!!このとおりだ……!!』
最後の方は完全に涙声になりながら、土下座までして頼み込む北辰。するとそこまで黙っていたルリが憤怒の形相で怒り出した。
「よくもぬけぬけと言えたものですね…恥を知りなさい、外道!!あなたのせいで…あなたのせいでどれだけアキトさんが苦しんだと思ってるんですか!!夢を、希望を奪われ、挙句の果てにはユリカさんとの絆まで失って!!そうしたあなたがどの面を下げて言えるというんですか!!」
『待って下さい!!夫があなた方にした事については私も聞いております。夫の命で贖えぬと言われるのなら、私の命を使ってもかまいません。ですからどうか、どうか娘だけは……娘だけはお助け下さい!!』
『嫌です!!父様も母様も居なくなるなんて、そんなの嫌です!!それなら楓も一緒に…!!』
ルリの後に話したのは北辰の妻とおぼしきどう見てもせいぜい20代後半か、下手をしたら20代半ば前の女性である。腰まで伸びた緑の黒髪に黒い瞳。はっきり言ってしまおう、もし原作(劇場版)の北辰が彼女の写真を出して『妻だ』といったら『どこの良家からさらってきやがったんだこのドチクショウ!!』と言いたくなるくらいの美人である。その次は娘と思われる少女。年のころは10歳前後といった所か。母親譲りの黒髪をオカッパ風にした子だ。これまた『本当にあいつの娘か?本当は血は繋がってないんじゃねーのか?』と言いたくなるほど可愛い。名前は楓と言うようだ。
……んで、現在の状況はと言うと………。
『何を言うておる!!我の犯した罪をお前達まで被る必要は無い!!』
『あなたこそ何を仰られますか!!婚儀を交わした時に死ぬも生きるも2人で共に、と言われたではないですか!!辰一郎様が死ぬ時は、椿も死ぬ時でございます!!』
どうやら奥さんの名前は椿と言うらしい。
『お前まで死んだら1人残される楓はどうなるのだ!!頼む、楓と共に生きてくれ!!我はもはや畜生道に落ちた身。今さらどうなろうと自業自得なれど、お前達まで犠牲になる事は無い!!』
『嫌です!!父様とも母様とも離れたくありません!!父様と母様が死ぬと言うのなら楓も一緒に死にます!!』
………何と言うか、まぁ…所謂一つの愁嘆場である。そしてそれを見ながら後頭部にでっかい汗を貼り付けてる人が2人。ルリとアキトだ。
「なぁルリちゃん、何か俺貧乏な家に借金の取立てに来た高利貸しになった気分なんだけど……(汗)」
「わ、私もです…何かこう、凄い罪悪感がひしひしと……(汗)」
そう言って2人が後ろを向くと、イネスもうんうんと頷いている。それを見たアキトはしょうがないなといった表情で北辰達に話しかけた。
「おーい北辰、聞こえるかー?」
『む……我の処遇が決まったか…で、我はどうなるのだ?このまま放置か?それとも重力波砲で消し飛ばすか?』
こんな事を言うあたり、どうやら北辰の中では死ぬ事は決定済みらしい。
「あー、まぁとりあえず3人ともこっちに来てくれるか?」
『『!!』』
そんなアキトの言葉に嬉し涙で頬をぬらす女性2人。そして北辰は……。
『本気か?我がお主に何をしたか覚えておるのか?』
「いいんだよ、どうせお前に対する憎しみとかはあの火星の戦いではっ倒した時にほとんどなくなってしまってたし、な。それに、憎しみは憎しみしか生まない。その鎖は誰かがどこかで断ち切らなきゃ、永遠に延び続けていくだけだ。とりあえずサレナで迎えに行くから船外で待っといてくれ」
『承知した…すまぬ、テンカワ…』
アキトの言葉に深々と頭を下げる北辰。そして3人を連れてアキトがブリッジに入ってきた。
「ルリちゃん、頼んでおいたお粥、作っといてくれた?」
「はい」
アキトの言葉にそう答えてお粥の乗ったお盆から3人の前のテーブル(折りたたみ式)に置くルリ。どうやら3人の様子からしばらく何も食べてないだろうと予想を付けたアキトが頼んでおいたらしい。ただ…何やらルリちゃんの口元が怪しい…と言うかニヤリと笑っているような……(汗)
「何から何まで、本当にありがとうございます…」
「……ジュル…『こら楓、はしたないですよ』い、いただきまーす!!まむまむ…」
「くぅ…すまぬ…むぐぉっ!!」
3人がそれに口をつけた瞬間、北辰だけが突然口を押さえてうめき声を上げた。
「!!」 「あなた!!?」
「る、ルリちゃん、一体何を!!!?」
北辰の様子に慌てふためくアキトと椿と楓。そして次の瞬間…
「か…辛いーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「は?」「ふぇ?」「何?」
そう叫んで口を押さえたまま転げだす北辰と、それを見て唖然とする3人。ちなみに右から椿、楓、アキトの順である。そしてしてやったりと言った表情の瑠璃ちゃんが説明を始める。ちなみにイネスさんも同じような顔だ。説明役を取られて多少残念そうではあるが。
「ふふふ、あなたの分だけイネスさん特製の無色無臭の超激辛調味料を入れておいたんですよ。一番の被害者であるアキトさんが許しちゃいましたけど、まだあなた個人に対しては今一釈然としない私達からのせめてもの意趣返しです。あ、ちなみにただ辛いだけで体に害とかは無いですから安心して下さい…プッ…クスクスクス…」
そして笑いをこらえて中断したルリちゃんの説明をイネスさんが補足する。
「ま、まぁ一過性のものではあるけど一応後遺症もあるけどね。見ればわかると思うけど……ププッ…アハハハハハハハ!!もうダメ!!」
そして何とか説明を終えたイネスさんも笑い転げだす。残り3人も似たり寄ったりである。
「…クッ…クスクスクスクス…ご、ごめんなさい…けど…その顔は…クスクスクス…」
口元を押さえて笑いをこらえるのに必死な椿さん。
「キャハハハハハハハ!!!父様変な顔ー!!」
笑い過ぎで涙まで出てる楓ちゃん。
「プックククククククク…ハハハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハハ!!!」
アキトに至っては腹を押さえてしゃがみこんで大笑いしている。
「ひ、ひっはひはんはほひふほは(い、一体何だというのだ)?」
【も、モニターに出しますね…プッククク♪】
AIのサルタヒコまでうけてる始末。モニターに映ったその顔は……
「は、はんはーほはー(な、何じゃーこりゃー)!!」
唇が思いっきりタラコ状になっていた………そりゃもうデフォルメされた長さんの如く(笑)それから小1時間ほど、ユーチャリス2のブリッジから笑い声が途切れる事は無かったそうな……。
To Be Continued……
後書きと言う名のトークプレイス
(九龍、以下(九)と言う訳で改めまして、はじめまして。元アンスリウムの九龍と申します。
(アキト、以下(秋)テンカワアキトだ…何でまた本来のHNとは別のHNで書いてたんだ?まぁ、戻した理由はわかるが…。
(九)某所のBBSで公表しちゃったからねぇ、同一人物だって。それに、今回からようやくナデシコ本来の時間軸に戻るから切りがよかったし。別のHNで書いてた理由だけど…実はこれ、そこで書いてた奴が詰まった時に出てきたネタだったんだよね。だからそれをほっぽってこっちに来たって思われたくなかったもんでさ…(汗)
(秋)で、今回は北辰と和解か…たまにあるネタだな。理由は様々だけど。
(九)大概壊れてるけどね、どっちかもしくは両方が。ちなみに今回壊れ表記がついてるけど…これって壊れでもいいよね?書いた俺が言うのも何だけどさ。
(秋)間違ってはいないだろうな。実際劇場版の北辰とは似ても似付かん訳だし。
(九)さて、それでは北辰一家の解説を…。
○北上辰一郎(きたかみ しんいちろう/39歳)…北辰の本名。アキト達と同じ逆行者。やや痩せ型ではあるが至極普通の男である。木連式の師範をやっていた。詳しい説明は次回するので今はまだ細かい所は秘密。
○北上椿(きたかみ つばき/26歳)…北辰の妻。良妻賢母を地で行く木連女性の鏡のような女性。12年前のとある場所で北辰と出会いお互いに一目惚れ。幸いと言うか何と言うか、北辰の家は木連式の中でも大家と言える家系だったために周囲の反対はそれほどでも無かったらしい。流石に楓を身篭った時はかなり騒がれたらしいが。腰まで伸ばしている黒髪がチャームポイント。
○北上楓(きたかみ かえで/10歳)…北辰の娘。見た目は……『痕』に出てくる同名の女の子(苦笑)性格は明朗快活天真爛漫、この二言に尽きます。
(九)ま、こんなトコかな。
(秋)しかし楓ちゃんの歳から逆算すると奥さんの当時の年齢は……(汗)十分外道の所業だと思うのだが?
(九)お約束でしょ、ある意味。それに、木連ってそこらへんの文化って言うか風習が結構古めかしいって感じがするんだよね。だからこの都市で結婚はともかく婚約とかはあってても全然おかしく無さそうだし。
(秋)まぁ、やった事(笑)は外道の所業だと言う事には変わらんがな。
(九)確かに。それでは今回はこの辺でお別れといたしましょう。それでは皆様、また次回〜♪
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