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▽レス始

「ある少年達の選んだ道 第11話 後編(ガンダムSEED)」

霧葉 (2005-09-29 00:12)
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 ストライクがデュエルを撃破した瞬間、大歓声が上がった。
 ザフトが撤退を開始すると、その盛り上がりはピークに達する。

 チーム『アークエンジェル』のサポーター、もとい、不幸にも戦艦に乗る羽目になってしまった哀れな民間人達の大騒ぎを、ジョージ・アルスターは唖然として見ていた。
 彼の娘はと言えば、友人だと言っていた三人の少女――それぞれ、カガリ、リサ、リョウコといっただろうか――と共に、民間人達の戦闘に立ってストライクの応援をしていた。

 信じられなかった。
 ここにいる人々は全員ナチュラルのはずだ。
 ストライクに乗っているのがコーディネーターだとは知らないのかとも思ったが、彼らの会話を小耳に挟んだ限りではそれも無い。
 ナチュラルがコーディネーターに声援を送るなど、ジョージの価値観から見ればありえないことである。

 ありえないと言えば彼の娘だ。
 ちょうど一年ほど前に帰省してきた時はまだ『普通』だった。
 この一年の間にいったい何があったというのか。
 それを考えるとまず真っ先に思いつくのが、サイとの関係の進展である。
 となれば、フレイがこんな風に『染まって』しまったのはサイのせいという可能性が高い。
 聞けばサイはキラとは親友と言える間柄らしいではないか。

 その辺りのことを問い質すのを含め、娘を『説得』しようと試みているうちに戦闘が始まり、モントゴメリに帰れなくなってしまったのである。
 最も先遣隊は全滅の憂き目を見ることとなったので、結果的には命拾いしたとも言える。
 一方でストライクは勝利し、現在のお祭り騒ぎとなったのだ。

 ちなみに娘に対する『説得』は全く進んでいない。
 と言うよりも、格納庫で買ったフレイの怒りは甚大で、まともな会話を交わすことすらできていないのが現状だった。
 父親の苦悩は、まだ、終わらない。


   第11話前編 戦いの隙間:アークエンジェル


 モニターの中で撤退していくザフトのモビルスーツ群。
 民間人の集まる会議室と時を同じくして、艦橋でも歓声が上がっていた。
 否、艦橋以外の艦内の各部署でも同様のことが起こっているだろう。

 艦橋の最前列に座るトールは、しかし、歓声を上げるよりも早く、大きく安堵の息を吐き出した。
 勝ったこと以上に、親友が無事だったことに対してである。
 今回はかなり危なかった。
 キラがもう少し手間取っていたら、殺到してきたジンの群れによってかろうじて保たれていた戦力のバランスが崩され、やられていただろう。

 トールは勝利を決定付けたとも言えるもう一人の天才に視線を向ける。

「……すごいなあ、ナタルさん」

 ポツリと呟く。
 もはや予知でもしているとしか思えない命中精度もさることながら、テレパシーでも使っているかのようなキラとの連携には、驚きを通り越して空恐ろしさすら感じた。
 通信の一つも交わした様子は無いのに、よくもあそこまで意志の疎通ができるものだ。
 キラに対しても感じることだが、よくぞ味方でいてくれた、と思う。

「まあ、バジルール少尉だからな」

 隣に座るノイマンがトールのその呟きを捉えたのか、操舵する手を休めずに答えた。

「士官学校では有名人だったんだぜ。同時期に在籍してた連中では知らない奴はいないくらいさ」
「そうなんですか?」
「ああ。戦術シミュレーションの実技なんかじゃ、教官も含めて誰もあの人には敵わなかったからな。俺もこてんぱんにやられたクチさ。それでいて嬉しそうな顔一つしないもんだから、『氷の戦乙女』なんて言われてな」

 そこまで言って、ノイマンは声を潜める。

「ついでに、あれだけ美人だから言い寄る男も多かったんだが、今までのところ難攻不落。そういう意味もあるあだ名なんだぜ」
「へえ。ノイマンさんも玉砕したんですか?」
「馬鹿言え。あんなおっかない人、仕事以外での付き合いは勘弁して欲しいね」

 からかうように言ったトールの言葉に、ノイマンは苦笑した。

「俺の好みはもっとお淑やかなタイプだ。あの人は確かに軍人として尊敬はしてるけど、できれば私人としてはお近づきになりたくないよ」
「でも、キラと話してるときはそんなに怖い感じはしませんよ」
「そりゃあ、キラ君だからだろ。やっぱり天才同士、何か通じるものでもあるのかねえ」
「180度回頭。減速、更に20%。相対速度合わせ」

 ラミアスの命令が下り、ノイマンは雑談を切り上げ操舵に専念した。
 それに合わせ、トールも速度計などの計器へと視線を移し、艦体の移動を監視する。

 ノイマンの操舵のもと、白を基調とし曲線を多用した優美な戦艦は第八艦隊の旗艦メネラオスへと向かい、理想的な軌道を描いて飛翔していく。


「少しお願いね」

 ラミアスはそう言って艦長席を離れた。
 艦体をメネラオスに横付けしてしまうと、これ以上の操艦は必要ないから特に問題は無い。
 戦闘終了と同時に仕事から解放され、ラミアスに話しかけるタイミングを伺っていたナタルは、それを見て後を追った。

「艦長」

 ラミアスを呼び止め、彼女の乗ったエレベーターに同乗する。
 エレベーターの扉が、微かな音と共に閉まる。
 周囲から隔離された小さな密室が出来上がり、密談には最適の環境となる。

「ストライクのこと、どうされるおつもりですか?」

 問いかけるような視線を向けてくるラミアスに、ナタルはそう切り出した。

「……どうって……どういうこと?」
「あの性能だからこそ、彼が乗ったからこそ、我々はここまで来れたのだということは、この艦の誰もがわかっていることです。彼も下ろすのですか?」

 軽いGがかかりエレベーターが止まり、扉が開く。
 開放された小部屋から、ラミアスは黙って出て行く。

「艦長!」

 呼びかけながらナタルはラミアスを追う。
 民間人であるキラをこれ以上軍に留めることはできないが、彼の力はあまりにも惜しい。
 二律背反をはらんだ非常に難しい問題ではあるが、先延ばしにして良いことではないのだ。

「あなたの言いたいことはわかるわ、ナタル。でも、キラ君は軍の人間ではないわ」
「ですが、彼の力は貴重です。それをみすみす……」
「力があろうと、私達に志願を強制することはできないでしょう?」

 食い下がったナタルにラミアスはきっぱりと言い切り、これで話は終わり、とでも言うように視線を逸らすと、ナタルを置いて格納庫の方に去って行く。
 ナタルは大きくため息をついた。
 予想通りの反応だった。
 ラミアスの説得は不可能だろう。
 ハルバートンもラミアスに近い人柄を持つ人物だから、キラの下船に反対はすまい。
 キラはもうすぐ、この艦を去る。

「…………」

 何なのだろう、この喪失感は。
 自分の中に生まれた不可解な感覚にナタルは戸惑う。
 こんな感覚は生まれて初めてだった。
 思えば、キラと出会ってからと言うもの初めて尽くしのような気がする。
 用兵が面白いと思ったことも、人と話すのが楽しいと思ったことも初めてだった。
 そして、別れを寂しいと感じることも。

 我知らず、俯いてとぼとぼと歩くナタル。
 と、その背中に声が投げかけられた。

「どうしたんですか、バジルール少尉」

 振り返ると、キラがナタルの方にやってくるところだった。
 何故だろうか。
 いつもはその姿を目にするだけで心のどこかが沸き立つような感覚があるのに、今は胸の寂寥を募らせるだけだ。
 それを押し隠すように、ナタルはいつも以上に乱れたキラの服装に向けて顔を顰めてみせる。

「キラ・ヤマト。何だ、その格好は」
「整備員の皆様にもみくちゃにされましてね。どうせ次は民間人の皆様にもみくちゃにされるのが目に見えているので、面倒だしそのままにしてるんです」
「そ、そうか。ご苦労だな」

 どこか乾いた微苦笑を浮かべながら、ナタルは内心で焦る。
 もっと話したいのに、言葉が出てこない。
 用兵に関しては絶大な威力を発揮する明晰な頭脳も、何気ない会話をする上では空回りするばかりだった。

 そう言えば、キラと話すときも自分が饒舌に喋るのは戦略・戦術に関してだけで、日常会話や個人的な事柄に関してはキラの問いに言葉少なく答えるだけだったような気がする。
 自分はキラとの会話を楽しんでいたが、キラの方は本当に楽しかったのだろうか。
 笑顔を浮かべながらも、心の中では退屈していたり、嫌がっていたりしたのではないだろうか。

 ナタルの思考が、マイナス方向に突き進んでいく。
 こういうとき、知らず知らずのうちに不機嫌そうな無表情になってしまうのはナタルの損な性質だろう。
 見た目がクール・ビューティなだけに、そういう表情をすると近づきがたいオーラを人は感じてしまうのだ。
 そんなナタルに屈託無く声をかけられるという意味でも、キラは稀有な人材だった。

「バジルール少尉こそ、こんなところで何してるんです?」
「私は……ちょっとな……」

 キラの処遇についてラミアスと話していた、などというわけにもいかず、だからと言って上手い言い訳を考えることもできない。
 言葉を口にしてから、ナタルは自己嫌悪に陥る。

「……そうですか。それじゃあ、俺はこれで」

 さすがに会話を続けようが無かったのだろうか。
 キラがそう言って立ち去ろうとする。

「ま、待て!」

 ほとんど反射的に、ナタルはそれを呼び止めていた。
 キラが不思議そうに振り返る。

「どうしました?」
「……その……君に頼みがある」
「頼み?」

 ナタルの言葉に、キラが首を傾げる。
 ナタルは軽く呼吸を整え、唇を開いた。
 そのときの心境を、昔の日本人なら『清水の舞台から飛び降りるような』と表現するだろう。

「……この艦に、残ってくれないだろうか」

 キラの表情に驚きが浮かぶ。
 ナタルがそんなことを『頼む』というのが意外で驚いているのだが、ナタルは申し出の内容に驚いているのだと思い、慌てたように言葉を続けた。

「こんなことを言える立場でないことは分かっている。民間人である君達を戦争に巻き込んだ原因は我々地球軍なのだから。だが、ストライクがあれだけの性能を発揮できたのは君が乗ったからだ。戦争はこれからますます激しくなることが予想される。つまり、その……君が必要なんだ。一緒に来てくれないか」

 言ってしまった以上、後には引けない。
 ナタルは一気にまくし立てる。
 「説得」などという行為は初めてなのでかなりテンパっているが、ともかく必死さだけは伝わってくる言い方だった。
 キラは驚きから立ち直ると楽しげに笑った。

「それ、まるで口説き文句ですよ」
「……え? ……ぁ……」

 キラに言われて自分が夢中で言った内容を反芻する。
 ナタルの頬に朱が差した。そんなナタルを見て、キラはまた笑う。

「変わりましたね、バジルール少尉」
「そ、そうか?」
「ええ。以前の少尉でしたら、俺を説得しようなんて考えずに、家族や友人を人質に取ったりするでしょうから」

 キラの言葉に、確かにそうだろうと考えて思わず顔を顰め、次いで嫌悪を感じている自分にナタルは驚く。

「良いですよ。この艦の人達も、もう俺にとっては仲間ですから」

 確かに自分は変わったのかも知れない。
 そんなことを考えていた矢先だったためキラの言葉の意味が、すぐには分からなかった。

「……ほ、本当に良いのか?」
「もちろんです。頼まれなくても残るつもりでしたしね」

 内心では恐る恐る、傍から見れば無表情に念を押したナタルの言葉に、キラは即答する。
 その答えに、先程までの空虚な喪失感が嘘のように消えていくのがわかった。

「……ありがとう」

 自然と、ナタルの頭が下がった。

「ああ、そうだ。代わりに一つお願いがあります。俺のことは『君』とか『キラ・ヤマト』じゃなくて、『キラ』って呼んで下さい。友達はみんなそう呼ぶので」
「……わかった、キラ。これで良いのか」
「ええ。それじゃあ、改めてよろしくお願いします、『ナタルさん』」

 キラが差し出した右手を、ナタルはしっかりと握る。

「それじゃあ、俺はこれで」

 手を離すと、キラはそう言って去っていった。
 その背中を、ナタルは見えなくなるまで見送る。

 男のファーストネームを呼び捨てにするのは、ナタルにとって初めての経験だった。


 格納庫に入ってきたシャトル。
 その扉が開き、二人の軍人が降りてくる。
 『知将』と称される地球連合軍の名将ハルバートン提督と、その副官だ。

 シャトルから降りたハルバートンは、親しげにラミアスと言葉を交わしている。
 G計画の責任者はハルバートンなのだから、それを実行した技術者達の長であるラミアスと面識が無いはずが無い。
 そんなことを考えながら、キラはじっとハルバートンに視線を注いでいた。

 ハルバートンは、徐々にブルー・コスモスに掌握され、腐敗していく大西洋連邦政府を憂いている。
 さらに名将としての名声もあるし、部下に対して人望もある。
 引き入れられるものなら、是非とも味方に引き入れたい人物だ。
 少なくとも『原作』で見る限りでは。

 そのハルバートンが、ラミアス達との挨拶を終え、キラ達の方へやって来た。
 キラ達の前で足を止めたハルバートンは、彼らを見回し口を開く。

「君達の御家族の消息も確認してきたぞ。皆さん、御無事だ!」

 わっ、と歓声が上がった。
 『原作』では全員無事だったが、現実でもそうとは限らない。
 皆、表には出さなかったものの不安だったのだろう。
 彼らの顔には心からの安堵と喜びがある。
 仲間達のそんな様子に、キラもまた笑みを浮かべた。

「とんでもない状況の中、よく頑張ってくれたなぁ。私からも礼を言う」
「閣下、お時間があまり……」

 言葉を続けたハルバートンに、副官が耳打ちする。
 それを受け、ハルバートンは頷いた。

「うむ。後でまた君達ともゆっくりと話がしたいものだなぁ」

 そう言い残し、ハルバートンは去って行く。
 その後を副官が追い、ラミアス、ナタル、フラガも続いた。

「……とりあえず、人格面では信頼できそうだな」

 上官達が去ったことにより解散していく、人の流れに沿って格納庫を後にしながら、キラは誰にとも無く呟いた。


「最初の予定通り、カガリにはここで降りてもらいたい」
「嫌だ!」

 既に定例となっている間のある、キラ達男性陣の部屋での作戦会議。
 その席上で言われたキラの言葉に、カガリは即答した。
 その返事を予想していたのだろう。
 キラは困ったような表情を浮かべた。

「フレイが良くて私がダメなんて、納得が行くわけないだろうが」

 そう。
 先程まで会議で、既にフレイの残留は承認されている。
 サイの反対をフレイの熱意が押し切った形だ。
 反対はしていたものの、恋人と一緒にいられて嫌なはずがない。
 サイはどこか嬉しそうだ。
 羨ましかった。

「嫌だって、お前、自分の立場はわかってるだろ?」

 そんなことを考えていた矢先に、諭すようにキラは言った。
 その言葉が、カガリの中の何かを刺激した。
 そんなことは分かりきっている。
 分かっていて言っているのだ。
 それが何故わからないのか!?
 目の前が真っ赤に染まるような感覚。
 勢い良く立ち上がり、カガリはキラに向かって思いっきり怒鳴っていた。

「だからって、お前達が戦っている間、私はオーブでぬくぬくと暮らしていろって言うのか!? お前達が無事にオーブに着くのを、ただ祈りながら待ってろって言うのか!?」
「そうは言ってないだろ。お前にはお前で、オーブでやって欲しいことが……」
「そんなこと知るか! お前は知ってるのか! お前が戦場で戦っている間、私がどんな思いで待ってるか、知ってるのか!? 勝てなくても良い。負けたって良い。ただ無事で帰ってきてくれ。それだけを祈りながら待っている時間がどれだけ辛いか、お前に分かるのか!?」
「……カガリ……」

 カガリの視界があっという間に滲んでいく。
 目に涙が溜まり、吊り上がった眦から零れ落ちた。
 頬を伝う雫の感触に、袖口で目元を乱暴に拭う。
 それでも再び滲んでいく視界の中、キラはどこかうろたえたような表情を浮かべているようだった。

「一つの戦闘でさえ……そうなんだ。それが……何日も……下手したら何ヶ月も続くなんて……そんなの……耐えられない」

 言葉の端々に嗚咽が混じり、うまく喋れない。
 何度も涙を拭いながら、それでも必死に訴える。

 沈黙が落ちた。
 時折、カガリがしゃくり上げる音だけが部屋に響く。

「キラ。私からもお願い。カガリさんを残らせてあげて」
「……ミリアリア?」

 沈黙を破る言葉。
 カガリは驚きと共に声の主に視線を向けた。
 他の面々の視線も、驚きと共にその主に集まっている。
 ある意味、一番意外な人物からの援護射撃だった。

「そんなに驚くことないでしょ。私もカガリさんと同じようなことをいつも思ってるもの。キラが一番危ないところで戦ってるのに、私は安全な場所からちょっとだけ手伝うことしかできないから。いつも、キラが無事に帰ってきますように、って祈ってる。それで、想像してみたの。私がそうやってちょっと手伝うだけのこともできなくて、ただ見ていることしかできない立場だったらって。きっと、ものすごく辛くて苦しいと思う。こう言うと悪いかもしれないけど、この気持ちは最前線で戦ってるキラには絶対にわからない。だから、お願い」
「…………」

 キラは何も言い返せない。
 ミリアリアの言葉は的を射ていた。
 キラは常に真っ先に行動する人間であり、残される者の気持ちなど想像することしかできない。
 大事な『友人』である少女達にそんな思いをさせていたことを、今、初めて知ったのだ。

「……要はカガリさんが中立の立場のまま、この艦に残れれば良いんだろ?」

 言葉を失うキラに向かい、今度はサイが言葉を投げる。

「……そんなものがあればこんなに悩むか。俺だって何が何でもカガリを追い出したいわけじゃないんだ」
「あるぞ」
「「「「「「…………え?」」」」」」

 事も無げに言ったサイの言葉に、誰もが耳を疑った。
 全員の視線がサイに集まる。

「だから、あるぞ。そういう方法」
「本当か!?」

 サイの言葉にカガリは飛びついた。
 サイは軽く眼鏡のブリッジを押し上げながら頷く。

「ああ。赤十字だよ。実は、この艦に残る民間人はもう一人いる。医者のヤマムラ先生もなんだ。今、この艦で軍医みたいなことをしてくれてる先生なんだけど、俺達と同じヘリオポリスの民間人だ。軍から給料をもらってる軍医じゃなく、従軍医師、つまり戦場での医療ボランティアで、その機会があれば地球軍もザフトも区別無く診る立場の人だ。そのヤマムラ先生の助手という名目で乗り込むんなら……」
「この艦に乗ってても中立を保てる、か。なるほどね……」

 キラはサイの言葉の最後の部分を引き取り、ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回す。
 軽く顔と目を伏せて思案するキラの次の言葉を、皆が息を詰めて待った。

「……オーケー。その線で行こう。そういう手があるんなら、フレイもそうした方が良いだろうな。サイ、悪いけど根回しと書類関係は頼む」
「……キラ……本当に良いのか……?」
「こんなシーンで嘘ついてどうするんだよ。本当に決まってるだろ」

 半ば呆然としたようにカガリが言う。
 キラの返答を聞いたカガリの瞳に、一度は収まっていた涙が再び盛り上がり、溢れ出す。

「キラ!」

 叫ぶように言い、カガリはキラの胸に飛び込む。
 顔を胸板に押し付け、今度は嬉し涙で嗚咽を漏らす。
 キラは困ったような表情でそれを受け止め、周りの皆は、ミリアリアでさえも、それを微笑ましげに見守っていた。


 話が終わりカガリが泣き止むと、キラ達は解散した。
 キラは整備に向かい、トールとカズイは艦橋へ。
 ミリアリア、カガリ、フレイ、サイはそれぞれの部屋へ。

 自室に戻ったミリアリアは、仮眠を取ろうとベッドに寝転がっていた。
 隣のベッドにはカガリが座っており、上のベッドにいるべきフレイは手洗いに寄っていて、この場にはまだいない。
 とりあえず軍服の上着だけ脱いで布団を被っていたミリアリアだが、眠れない。
 先程から感じる視線のせいだ。
 この部屋にいるのは二人だけなのだから、その視線の主は決まっている。
 ちらり、ちらりと遠慮がちに伺うような態度が、いかにその少女らしくなくてもだ。

 眠ることを諦め、ミリアリアは体を起こした。
 このままでは気になって余計ストレスが溜まりそうだった。

「……どうしたの?」

 自分の方を見ていたカガリに向き直り、問いかける。
 一瞬、決まり悪そうな表情を浮かべた後、カガリは唇を開いた。

「何で私を庇うようなことを言ったんだ? 私がいない方が、ミリアリアにとっては都合が良いだろ?」

 カガリらしい、飾りの無いストレートな言葉だった。

「だって、カガリさんの気持ち、すごくわかるんだもの」

 あまりにもストレートな問いかけに、ミリアリアは微苦笑を浮かべながら答えた。

「……お人好しだな。でも、ありがとう」
「どういたしまして」

 言って微笑み合う。
 争ってばかりいた二人の間に、今までになく穏やかな空気が流れた。

 どちらからともなく二人は話し始める。
 語る内容は、やはりキラのこと。
 出会った経緯。
 好きになった理由。
 キラとの思い出。
 キラの良いところ、悪いところ。
 二人が話題にしているのが一人の少年であることを除けば、互いに自分の恋人についてのろけ合っているようにしか聞こえない会話が繰り広げられる。

 だが、キラとの付き合いが長いこと、もともとカガリは話すのがそれほど得意ではないことから、自然とミリアリアが話すことの方が多くなった。
 そのことに気づいたのだろう。カガリがぽつりと呟く。

「良いな、ミリアリアは。私の知らないキラをたくさん知っている」

 今までであれば嫉妬という感情を抜きには口にはできない言葉だったが、穏やかな空気に流されたのだろうか、その口調からは暗いものがすっぽりと抜け落ちており、純粋な羨望だけがあった。

「それを言ったらカガリさんだって。キラとあんなにスキンシップがあるのってすごく羨ましい。私なんか、キラの方から触れてくれたことなんて今まで無いのよ」
「アルテミスのあれはどうなるんだよ」
「あれは単に非常事態だったからよ。あそこで暴力を振るわれたのがフレイやカガリさんでも、同じことをしたと思うわ。カガリさんこそ、武術の稽古をつけてもらったりしてるじゃない」
「ミリアリアだって頼めば教えてもらえると思うけどな」
「ダメよ。私、運動神経悪いもの。覚えの悪い私に付き合わせて、キラの時間を奪うわけにはいかないわ」

 確かに手取り足取り教えてもらえるというのは魅力的だ。
 だが、二人の女の戦いの大前提に、キラの行動の妨げになることはしない、という暗黙の了解がある。
 『ラクス事件』の時には嫉妬に駆られて暴走してしまったが、あの一件によってますますその考えは深まっている。
 二人ともキラを想う気持ちは誰よりも強いが、だからこそキラのためであればその想いを抑えることもできるのだ。
 その想いが同量・同質であるからこそ、激しくぶつかり合うのだとも言える。

 ミリアリアの言葉に、カガリは小さくため息を吐いた。

「まったく、私達がこんなに想ってるっていうのに、何で気づかないんだよ、キラは」
「本当にね。多分、私は親友としか見られてないのよ。大事にしてくれてるのは嬉しいんだけど、サイとかトールとかカズイと同じ扱いなのよね」
「私は妹としてしか見られてないんだろうな。血縁がどうとか、そういうこととは関係無しに」

 ぼやいた二人の少女は、同時に大きなため息を吐く。
 あまりにピッタリと合ったタイミングに、顔を見合わせてどちらからともなく笑い出す。

「……お互い、苦労するな」
「……そうね」

 そんな言葉を交わし、しばしの間、部屋に二人の笑い声が響く。

 笑いの衝動がひとまず収まると、カガリは表情を改めて視線をミリアリアに向けた。

「……カガリ、で良い」
「……え?」

 何の前置きも無い唐突な言葉に、ミリアリアは戸惑いを浮かべて問い返す。

「呼び方。『さん』なんて付けないで、カガリだけで良い」

 ぶっきらぼうな、突き放すような言い方。
 だが、そんなものはただの照れ隠しであることが、ミリアリアには分かっている。
 何しろヘリオポリスで出会って以来、キラを巡ってずっと張り合ってきた仲だ。
 下手をすれば、ミリアリアはキラ以上にカガリのことを分かっている。
 同様に、カガリもミリアリアのことを分かっているのだろう。

「……うん。わかった、カガリ。それじゃあ、私のことはミリィって呼んで」
「ああ」

 だから、ミリアリアはクスリと笑ってカガリに答えた。
 それに対する返答も無愛想だが、気にもならない。

 キラを巡る『敵』同士だった二人の少女の関係は、この日を境に『好敵手』へと変化した。


「しかしまぁ、この艦一つとG一機のためにヘリオポリスを崩壊させ、アルテミスを壊滅させるとはな」
「だが、彼女らがストライクとこの艦だけでも守ったことは、いずれ必ず、我ら地球軍の利となる」

 ハルバートンの副官、ホフマンの言った言葉に、ハルバートン自身が反論する。

「アラスカは、そうは思ってないようですが……」
「フンッ! 奴等に宇宙での戦いの何が分かる! ラミアス大尉は私の意志を理解してくれていたのだ。問題にせねばならぬことは、何もない」
「……閣下……」

 なおも否定的な意見を述べるホフマンだが、ハルバートンは『アラスカ』という単語を聞いた途端に不機嫌になる。
 上層部を批判しつつ自分を弁護してくれるその言葉に、ラミアスは軽く感動した。

「このコーディネイターの子供の件は……これも不問ですかな?」

 キラのパーソナル・データが記された書類を手に取りホフマンが言う。
 来たか、とラミアスは大きく息を吸い込み、真っ直ぐにハルバートンを見つめる。
 自分に対してどのような処分が下ろうとも、それを受け入れる覚悟はできている。
 アークエンジェルのためにヘリオポリスが崩壊し、アルテミスが壊滅し、第八艦隊先遣隊が全滅した事実は覆らないのだから。
 だが彼に、キラに処罰が及ぶことは何としてでも防がなくてはならない。
 彼に対しては、もはや返しきれないほどの恩があるのだ。

「キラ・ヤマトは、友人達を守りたい。ただその一心でストライクに乗ってくれたのです。我々は彼の力なくば、ここまで来ることは出来なかったでしょう。ですが、成り行きとはいえ、彼を同胞達と戦わせることになってしまいました。我々は彼に対して大きな負債があります。これ以上協力を強いることはできません」
「しかし、このまま解放しては機密が漏れる恐れがある」
「彼は今まで何度も我々を救ってくれました。その功績に対しては信頼で答えるべきだと考えます」
「ラミアス大尉の言う通りだな。それに既に四機がザフトに渡っているのだ。今更機密もない」

 ホフマンの反論に一歩も引かずに答えるラミアスをハルバートンが援護した。
 しかし……

「僭越ですが、閣下。その件に関してはキラ・ヤマト本人から、これからも我々に協力してくれる旨、確約を得ております」
「えっ!?」
「彼の能力には目を見張るものがあります。本人にその気がある以上、我々としては是非とも協力を請うべきかと」
「本当か?」
「はい。本人に確認を取っていただいても構いません」
「……そうか。何とも良いタイミングだな。これからの問題に対処するためには、猫の手も借りたいのだからな」
「これから、ですか?」
「そうだ。この後、アークエンジェルは、現状の人員編成のまま、アラスカ本部に降りてもらわねばならん」
「「「えっ!?」」」

 ハルバートンの投げ込んだ爆弾に、ラミアスもナタルも、フラガでさえも絶句する。

「先遣隊で補充要員を送りはしたが、それでは足りんのは分かっている。だが、今の我々にはもう、アークエンジェルに割ける人員はないのだ」

 驚く三人に対して、ホフマンが補足を入れる。

「それでも、ヘリオポリスが崩壊してしまった今、アークエンジェルとGはその全てのデータを持って、なんとしてもアラスカへ降りねばならん」
「し、しかし我々は……」
「あれの開発を軌道に乗せねばならん! ザフトは次々と新しい機体を投入してくるのだぞ? なのに、利権絡みで役にも立たんことばかりに予算を注ぎ込むバカな連中は、戦場でどれほどの兵が死んでいるかを、数字でしか知らん!」

 ハルバートンの言葉には、上層部に対する明確な怒りがあった。
 地球連合軍でも数少ない良識派と呼ばれる彼は、実際の戦場も知らず利己的な打算ばかりで動く上層部が許せないのだろう。
 その思いは、ラミアスとしても大いに共感のできるものだった。

「……分かりました。閣下のお心、しかとアラスカへ届けます」
「アーマー乗りの生き残りとしては、お断りできませんな」

 ラミアスの返答に続き、フラガが言う。
 本来はハルバートンの指揮下に無いフラガの、彼なりの参加表明だった。

「頼む」

 二人の返事に、ハルバートンは頭を下げて言う。
 良識派と呼ばれるに値する態度だった。


 目の前の廊下に、長蛇の列ができていた。
 メネラオスに向かうシャトルに乗り込む順番を待つ、民間人達の列である。
 キラはその大勢の人々の中から人を探していた。
 格納庫の中でもここはカタパルトに直結しているブロックであり、ストライクは隣のブロックに格納されている。
 だから、ストライクの整備に来たついでに人探しをしているのだ。

 整備と言っても、キラがやるのは最終確認だけなのだから、キラにとってはこちらの方がよほど大仕事だった。
 何しろ、全然先に進めない。
 会う人が皆、キラを捕まえて礼を述べたり激励したりしてくるのだ。
 嬉しいのだが、時間を食って仕方が無い。
 そしてまた一人、キラに気づいて文字通り飛んで来た人影があった。

「お兄ちゃん!」

 呼びかける声に振り向くのと同時に、小さな体がキラに向かって飛び込んで来た。
 腰の辺りに抱きついてくる、幼女と言って良い年頃の女の子を抱き止める。

「おー、エルちゃんか。どうした?」
「うんとね……はい!」

 目線を合わせるようにしゃがみこんだキラの問いかけに、エルは鞄から折り紙の花を取り出してキラに差し出した。

「今まで、守ってくれてありがと!」
「これはあの時の花か」
「うん! お礼なの!」
「そうか。ありがとな」

 キラは微笑みながら受け取ると、軽く頭を撫でてやる。
 エルは照れたようにエヘヘと笑った。

「キラ君」

 呼ばれて振り向くと、見知った二人の少女が立っていた。
 エルを少し離れたところにいる母親の方へ軽く押しやると、立ち上がって向き直る。

「人気者ね、キラ君は」

 楽しげに笑いながら、二人の少女の一人、リサが言った。

「君達のおかげもあるさ。ありがたいことだよ。助けたからと言って、必ずしも好意的に受け止められるとは限らないからな。君達やカガリ、フレイなんかがそういう空気を作ってくれたおかげだ」
「そう? それなら応援したかいもあったかな」

 キラの言葉に、リョウコが照れたように言う。

「でもまあ、見つけてくれて良かった。手間が省ける。今、二人を探してるところだったんだ」
「キラ君が私達を? 何で?」
「ちょっと、君達に頼みたいことがあったんだ」

 言いながらキラは一通の封書を差し出す。

「これを届ければ良いの?」
「いや、直接届けるのはまず無理だからな。切手を貼ってポストに出してくれればそれで良い。切手代は、すまないが立て替えておいてもらえるかな」
「良いわよ、切手代くらい。命の恩人なんだから、それくらい出すわ」

 受け取ったリョウコは、キラに答えながら何気なく封書に目を落とす。
 その宛名は「ウズミ・ナラ・アスハ」、差出人は「カガリ・ユラ・アスハ」となっている。
 その名前を目にした二人の表情が、驚きに染まる。

「……え……これって……」
「……も、もしかしてカガリって……!?」
「悪いけど、今は何も聞かないで欲しい。それと、このことは誰にも言わないでくれ」
「……う、うん」
「……わかったわ」

 驚く二人に、キラは真剣な表情で頼み込む。
 それを受け、二人は神妙に頷いた。

「ありがとう。それじゃあ、俺はこれで。二人とも、元気でな」
「うん。キラ君こそ気をつけてね」
「絶対に、死んだりしちゃダメだからね」
「おう」

 二人の少女と握手を交わすと、キラは踵を返した。


 キラがストライクのもとに着くと、キャットウォークに立ってストライクを見上げている人影があった。
 ハルバートンである。
 気配を感じたのだろうか。
 キラに気づいたハルバートンがキラに向き直った。

「キラ・ヤマト君だな?」
「ええ、そうです」
「報告書で見ているよ。引き続きストライクのパイロットを引き受けてくれるそうだね」
「まあ、地球軍そのものはともかく、この艦の人達は守りたいので。何しろ、軍人とは思えないくらい良い人ばかりですからね」
「そうか。ありがとう」

 ハルバートンは頭を下げる。
 キラはそれを好意的な視線で見ていた。
 軍人だの政治家だのという人種は、とかく「礼を言う」ということができない者が多い、というのがキラの見方だったから、それができるハルバートンは好印象である。

「しかし、改めて驚かされるよ。君達コーディネイターの力というものには。ザフトのモビルスーツにせめて対抗せんと造ったものだというのに、君達が扱うと、とんでもないスーパーウェポンになってしまうようだ」

 頭を上げたハルバートンは、傍らの巨大な兵器を見上げる。
 だが、キラはその言葉に軽く首を横に振る。

「そんなに大層なものじゃありませんよ。コーディネーターというのは。ただ、一般のナチュラルよりほんの少し、人間の限界に近い位置にいるだけです。そして俺は、一般のコーディネーターよりもさらにもう少し、人間の限界に近い。ただそれだけのことです」
「……ほう……?」
「ナチュラルとコーディネーターの差異なんて、その程度のものです。少なくとも、こんな世界大戦をしてまで決着をつけなければならないものじゃありません。もっとも、戦争の理由なんて、古今東西を問わず下らないものがほとんどですけどね」
「なるほど、面白い意見だ。何にせよ、早く終わらせたいものだな、こんな戦争は」
「全くもって同感ですね」

 視線を合わせた二人は、どちらからともなく笑い合う。
 と、キャットウォークの下から声が響いてきた。

「閣下。メネラオスから、至急お戻りいただきたいとのことです」
「……やれやれ、君達とゆっくり話す暇も無いわ」

 ハルバートンは大きく息を吐き出しながら言う。

「そうですね。俺としても、提督としてはゆっくり話してみたいです」
「そうか。ならば再会を楽しみにするとしよう。良い時代が来るまで、死ぬなよ」
「提督こそ。あなたに死んでもらっては困りますから」
「閣下!」
「わかっている! まったく、無粋な連中だ。それではな、キラ君」

 下から急かしてくる声に怒鳴り返すと、ハルバートンはキラに敬礼して去って行った。


 フレイは久し振りに訪れたサイと二人きりの一時を楽しんでいた。
 肩を抱かれるままにサイに体を寄りかからせ、首を倒してサイの肩に頭を預ける。
 片手で肩に回されたサイの手を、もう一方の手でサイの服を握り、他愛の無い会話に花を咲かせる。
 プライドの高いフレイが、恋人と二人きりになったときにだけ見せる、甘えきった無防備な姿だった。

 二人とも、完全に油断していた。
 だから当然、突然ドアが開いた時には硬直するしかなかった。
 開けた方も、まさかそこにこんなピンク色の空間が形成されているとは思わなかったのだろう。
 そちらもやはり硬直していた。

 真っ先に再起動したのはフレイだった。
 慌ててサイから少し距離を取り、突然の闖入者に向かって声を上げる。

「パパ! いきなり入ってこないでよ!」

 その声に打たれたようにサイも、ドアのところに立ち尽くす男、ジョージ・アルスターも再起動を果たす。

「フレイ! こんなところで何をしている!」

 部屋の中に足早に踏み込みながらジョージは言った。

「パパこそ何してるの? 早くシャトルに乗らないと、出ちゃうわよ」
「だからお前を探していたんだ!」

 呑気とも言えるフレイの言葉にジョージは思わず怒鳴った。
 当然だろう。
 シャトルに乗り込もうとしたところ愛娘の姿は無く、慌てて探しに来てみれば、部屋で恋人といちゃついていたのだから。

「フレイ。もしかして、まだ言ってないのか?」
「だって、話す時間がなかったんだもの。あ、パパ。私はこの艦に残るから、先に降りちゃって」
「な、何だと!?」

 驚くジョージ。
 その驚きは、瞬時に怒りへと転化された。

「馬鹿なことを言うな! ここがどれだけ危険か分かっているのか!?」
「分かってるわよ。少なくともパパよりはずっとね。でも、それでも私はサイ達と一緒にいたいの」

 怒鳴るジョージとは対照的に、フレイは平然と答える。
 その言葉に、ジョージはサイをキッと睨む。

「サイ君! これはどういうことかね!?」
「サイは私の意志を尊重してくれただけ。サイを責めるのはお門違いよ」

 サイを庇うようにフレイは前に出る。
 しばし、父と娘は睨み合った。

「サイ、呼び出しよ。早く戦闘配置に……」

 膠着した空気を再び動かしたのは、第二の闖入者だった。
 なかなか艦橋に現れないサイを呼びに来たミリアリアは、声をかけながら部屋に入ってきたところで固まる。
 そして一瞬の硬直の後、慌てながら叫ぶように言った。

「……ジョージさん!? 何でまだこんなところにいるんですか! もうシャトル、出ちゃいましたよ!」

 シャトルの搭乗員に罪は無い。
 アークエンジェルに救助された民間人の名簿の中に、ジョージ・アルスターの名は無いのだから。


 (続く)


あとがき
 お久しぶりです、霧葉です。
 今回はちゃんと一週間で仕上がりました。
 あれこれ色んなエピソードを詰め込んだら、いつもより長くなっちゃいましたけど。
 これでも削ったんですけどねえ。

 お医者さんの設定ですが、これは原作と違っています。
 というより、原作の設定ではおかしいと思った、と言うべきでしょうか。
 ラミアスの怪我を民間人の医師に診てもらっていたことから、ヘリオポリスの時点でアークエンジェルに軍医はいなかったはずです。
 なのに、砂漠に降りたときにはいつの間にか軍医がいる。
 第八艦隊からの補充人員はなかったはずなのに。
 これはおかしいだろ、ということで、私の作品内では本文中のような設定となります。

 そして、空〜カラさんと鬼神さんが指摘された、このキラにフリーダムは似合わない、ということ。
 作者も全くもって同感でございます。
 彼がストライクの次に乗る機体に関しては、色々と考えておりますので、期待してお待ちください(笑)

 それでは皆様、また来週〜

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