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「黄昏の式典 第十話〜殺人の目覚め、雷の咆哮:始まりの時・後編〜その3(月姫+奪還屋)」

黒夢 (2005-08-12 22:42)
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一度目の衝突は『試合』だった。

故に互いに死は与えず、その先にあるものがよく見えない。

二度目の衝突は『死合』だった。

故に互いの命を懸け、その先に見え隠れする死線を見つめる。

三度目の衝突は『殺し合い』だった。

故に互いのどちらかが死に、ここに明確な死が具現化する。

しかし、ならばこれは、『試合』を足掛かりに、『死合』を道標に、『殺し合い』を踏み越えて行われるコレはなんだというのだ?

『試合』ではありえない。

なぜならその身に隠しきれない殺意を宿す。

『死合』ではありえない。

なぜならすでに死を傍受して。

『殺し合い』ではありえない。

なぜなら死などに構っていない。

……いや、誰しもがすでに答えを知っている。日常にそれを繰り返している。

それは他者を際限なく喰らい、自らの力とする無垢なる意思。


万物の生きる根源的な意思でもある……『貪り合い』だ。


黄昏の式典 第十話〜殺人の目覚め、雷の咆哮:始まりの時・後編〜その3


(ケタが……違うッ!)

一瞬前まで身体があった箇所を通り過ぎた無慈悲な“気”の塊が後方にあった瓦礫を文字通り粉砕していく様を気配で感じ取り、続けて襲い来る蜂の群れに制服の端を吹き飛ばされながら、七夜は正真正銘初めて表情を驚愕と畏怖と呆れに染めた。

それほど死を見る蒼い目に捉えて放さないそれは、圧倒的すぎた。

その身から絶えることなく放たれ続ける“気”の塊は邪魔なもの全てを削岩機のように薙ぎ払い、空を縦横無尽に飛翔する蜂達は石柱さえもものともせずに触れただけで野球ボールぐらいの穴を穿つ。

これほどの『暴力』がこの世に顕現したのは瓦礫を吹き飛ばす寸前に聞こえてきたあの声からだ。


最終陣形 『蜂王陣』


その言葉が何を意味していたのかを七夜は知らない。知る必要すらない。なぜならこの場で唯一知ることに意味があることは一つだけしかないのだから。

そう。これこそが毒蜂の本気であるという事実を知れば、それだけで十分お釣りがくる。

それを確信させているのは『貪り合い』が始まったあの時から毒蜂は一歩も動いていないという信じがたい現実のためだ。

(ちっ、なんて……)

飛び回る蜂によって穴だらけにされた石柱の側面に降り立ち、七夜は七つ夜を左手に持ち替え、唇を歪めた。

(面白い!)

ビキッと、七夜の靴を起点にして石柱に大小無数の亀裂が奔った。これをチャンスと見たのか、取り囲むように蜂はいっせいに動きを止めた七夜へと襲い掛かる。

それを視界の端で捉えた七夜は他でもない毒蜂の後姿を見据え、侮蔑と嘲笑を向ける。


――――今さら蜂程度で止められると思っているのかと告げるかのように。


亀裂は弓の弦を引き絞るかのように際限なく広がり続け、ついに死を体現した魔性の矢は解き放たれた。

空気を切り裂き飛翔する矢たる七夜の狙いは毒蜂の額。もはや、小細工など必要ない。いや、小細工など仕掛けようものならそれごと喰われるだけだ。それに七夜はすでに他ならぬ己へと誓った。それすなわち、七夜の技にて『敵を討つ』という誓約を。

時間にしてコンマ一秒以下。その瞬きの一つ程度のわずかな時間で必殺の間合いまで文字通り飛び込んだ七夜はその無防備な頭部へと腰だめに構えた七つ夜をもって残像さえ残る居合いじみた神速の一振りを放つ。

しかしその瞬間、毒蜂の身体が七夜を迎え撃つかのように澱みなく動き、二人の死を見る瞳と全てを見通す瞳が交差する。

空気が破裂するかのような音が大気を震わす。その音が生れ落ちた七夜の左手首を見れば、神速の一撃は毒蜂の左手によって掴まれていた。

だが、七夜は必殺の一撃が受け止められたという事実に悔しがるよりも口を大きく裂いた。

なぜなら今まで闘い続けていた七夜にはその意味がわかったから。


今の一撃を毒蜂は避けなかったんじゃなく、避けられなかったという事実を。


そしてここで七夜でさえも思いもよらなかったことに、人生で初めて女神が微笑んだ。逃がしきれなかった衝撃によって毒蜂の足元の地面が音を立てて割れたのだ。

どんな超人とて、突然足場が崩れれば体勢が崩れる。そしてそれは毒蜂でさえ例外ではない。

「!?」

突然の事態にほんの一瞬、毒蜂は七夜から意識を逸らした。生憎とこの絶好の好機を見逃すほど七夜は甘くはない。

左手に握った七つ夜を指先だけで抛り、右手で掴む。

そしてそれと同時に無理な体勢のまま極点へと向け、右足で蹴りを放った。

だが、いくら意識を逸らしていたといってもこの程度を受け止められない毒蜂ではない。とっさに動かした右手で蹴りを受け止め……毒蜂は確かに見た。


七夜の亀裂のような凶笑を。


――――閃鞘――――八点衝


それはもはや手がぶれる、というレベルではなかった。正しく、真実、本当に、七夜の右手が消える。

「ッ!!」

数多の戦闘経験の中にもほとんど無い完全なる意表をつかれた毒蜂は口の中で舌打ちにも似た叫びを挙げ、慌てて七夜の右足と左腕を離すと人という種を、いや、吸血種として考えても遥かに勝るその目をもって消えた七夜の右手を叩き落した。

だが、その一合と同時に、まったく違う空間から新たな斬撃が発生する。

息を呑む間……いや、ここに至ってはあらゆることが皆無となる。

「斬刑に処す……!」

二合目。首を絶とうと放たれた斬撃を毒蜂はギリギリで仰け反りかわす。

三合目。身体を支える木の根といって相違ない足を狙った斬撃に対してわずかに足を引いてかわすとそのまま毒蜂は逆さのままの体勢で空中にある七夜の脳天目掛けて鋭い蹴りを繰り出す。

四合目。七夜は空中にその身がありながらも左腕で毒蜂の服の端を掴むと腕を引き、髪数本と引き換えにその蹴りをかわす。

五合目。足を上げた状態でいる無防備な毒蜂を見逃すはずも無く、至近距離で放たれる『毒手』を直感でかわすと無理な動きに身体が悲鳴を上げるのを無視して伸びきった足を絶とうとする。

六合目。だが、毒蜂は身体を沈め、素早く地に付いたままの右足を曲げ、その凶刃を数ミリ単位でかわす。しかし、わずかに体勢を崩した。

七合目。まるで未来予知でもしていたと思わせるほどに絶妙なタイミングで七つ夜を『極点』へと横薙ぎに振るう。それを毒蜂は体勢を崩したまま何とか左腕で払いのけ、ここに七夜が手繰り寄せたこの試合が始まって以来、初めて絶対の隙が毒蜂に生まれた。

そして八合目。七合目の衝突と同時に左腕へと持ち替えた七つ夜をその無防備なそこへと向けて振るう。

なんとか迫る七つ夜をかわしきろうと身を引くが、生憎と“技”として放つ七夜の銀色の閃光は体勢が崩れている毒蜂の初動よりもほんのわずかに速い。

トプッと、まるで泥の中に足を踏み入れたような音が辺りに響く。

(ようやく――――)

七夜は擬音さえ聞こえてくるような皮肉げな笑みを顔中に広げ、自らの腕から脳へと伝わった感触に歓喜する。

(――――捉えた)

その時、何かが空を舞った。

細長く、折れ曲がった、毒蜂の片腕が。

「…………」

だが、なぜか毒蜂には焦りのようなものはない。むしろ穏やかな笑みさえ浮かべ、空に飛ぶ自身の腕の先にいる七夜を見据える。

ただそれだけのことで七夜は言い知れぬ悪寒に襲われた。とっさにその身を捻り、その場から離れようと試みるが、遅い。

トンッと、まるで壁に手を当てるかのような手軽さで毒蜂の残った片腕が七夜の胸板に触れる。

七夜がまず感じたのは毒蜂の手から広がっていく自身の身体を覆う暖かさだった。それは徐々に密度を増し、最後には衝撃となって七夜の身体を蝕む。

「がッ……!?」

身を凍らせる風の如き七夜とは対を成す身を暖める火の如き圧倒的な“気”の力はなす術もなく七夜の身体を打ち抜き、弓の弦のように身体をくの字に折れ曲がらせながら弾丸のような速度で地を滑る。

それは素人目にもわかる絶好の機会。だが、毒蜂は追撃を加えようともせずにその場に止まり、頭上に落ちて来た自らの片腕を見もせずに残った片腕で掴んだ次の瞬間、闘技場を轟音が包み込んだ。見れば、先ほど七夜によって亀裂を入れられた石柱が崩れ落ちている。

しかし、今の毒蜂には届かない。その胸を占めるのは純粋な疑問。

慢心は無かった。侮りも無かった。油断も無かった。それならばなぜ、腕を切り飛ばされたのか?

あの一瞬の交差の時、七夜の速度が急激に変化した。かといって『暴力』の権化と化した蛮とは違う。

「…………」

いくら考えようが答えが出てこない。そして次に切り落とされた片腕を見る。

繋げる事は簡単だ。なにせ自身は蜂の集合体。元々人の形というものの規格が存在しない。

だが、その前にどうしても疑問を感じてしまう。

なぜ、あの『志貴』という人間はもはや混血すらも超える最強たる最終陣形となった自分をここまで追い詰めているのか?

身体能力、戦闘経験、空間把握能力、五感、第六感、その全てを毒蜂は志貴を勝っている。

しかし、実際に試合の経過を見てみれば無様にも腕を切り落とされているのだ。

思い出すのは、あの時のことだ。

美堂 蛮――――

あの『暴力』の前に敗れ去った毒蜂はあの時、確かに無数の蜂となって消えた。だが、なぜだかこうしてこの世に自我をもって存在している。

そして、そんな混乱に陥っていた毒蜂の前に突如として現れた赤屍蔵人の言葉によってこの場にいる。

「あなたはまだ、この世から消えるべき存在ではありませんよ。あなたなら、蝉丸に並ぶ最強の鬼里人たるあなたならありえるかもしれない。『運命』の名を持つ十枚の最重要カード、クローバーのKを真に目覚めさせることが……」

それは何者だと、問いかけたのを毒蜂は覚えている。

「その答えは、あなたが私と共に来ればわかりますよ。『意思』を関するハート、そのUの位地にいるあなたには、その資格があります」

そして今、この場に立ち、戦っている。

足音が響く。その先に視線を向ければ、立ち上がった七夜が何事も無かったかのように悠然と歩み寄ってきていた。しかし、その身体は所々から血を流し、歩く度に赤い血路を作り出している。

その姿からは何も感じられない。あれだけその身から溢れ出ていた獣のような殺気すらもなりを潜め、まるで嵐の前の静けさのような悪寒を感じる。

「……フ」

その姿を見た毒蜂は短く一笑すると何を思ったのか直せるはずの腕を後方に抛り投げた。

まるで、この状態でも勝てるという余裕を言外に告げるように。

「……ハ」

それに続くように無表情だった七夜に笑みが浮かぶ。だが、それは狂笑のそれではなく、心の底から楽しいことに対して笑っているようだった。

「…………」

「…………」

もはや二人の間に言葉など必要ない。

なぜなら、そんな段階は遥か前に通り過ぎている。

そう……あの時、毒蜂が本気になった時から……


両者の視線は交差し、それは今までの戦いによって言葉を超えた意思のやり取りを可能とした。


毒蜂の身体から漏れ出すのは、地を砕き、石柱に亀裂を走らせ、瓦礫を砂塵へと粉砕し、風を荒れ狂わせる完全に物質化した圧倒的なまでの“気”の奔流。

そこに片腕が在る、無いなどはもはや関係の無いことだ。なぜなら毒蜂はなおもここにいる。

そう……いる限り、戦うことはできる。

対する七夜はそのまったくの逆だった。

その身から一切の気配が消失したのだ。今まで微かにあった闘気、殺気、はては生気すらも消え失せ、ここに完全なる無の存在が生れ落ちる。

そこに身体が傷つき、動くたびに激痛が走るなどは関係の無いことだ。なぜなら七夜は無となった。

そう……無のすべきことは、対極たる有を消し去るのみ。

二人は無言で、けれども決着の準備を整った。後は……その身に溜まった力を、技を、解き放つのみ。

不意に、七夜の姿が毒蜂の視界から掻き消えていた。上下左右、毒蜂の数億にも上る目は七夜の姿を探すが、されど見つけることができない。

今までの身を焦がすような闘気と殺気は一転して鳴りを潜め、闘技場には何よりも重たい緊迫感が漂う。

しかし、会場の観客は、選手は、はっきりとわかった。


どんな結末にしろ、次でこの長かった試合に勝負がつく、と……


そしてその時は、予想よりも早く訪れた。

気がつけば、黒い影が一つ、あまりにも自然に毒蜂の懐へと潜り込んでいたのだ。これこそが七夜の仕掛けていた罠。今まで飽きることなく側面、背後からの攻撃を繰り返してきたには全てこの時のため。

「極彩と散れ……!」

そこにあるにもかかわらず、声は無数に反響する。それこそ世界が同時に話しかけてきたように。

次の瞬間、銀色の閃光の後に先ほどと同じく、細長いものが空を舞った。いうまでもない。毒蜂の残っていた片腕だ。

残っていた片腕すらも切り落とされ、続けて走る刃は首へと走る。


ブゥゥゥ――――


だが、その刃が毒蜂の首へと吸い込まれる直前、七夜は、そんな音を自身の下の方から聞こえてきたことに気づき、決して毒蜂の首から目を逸らさずにわずかに視線を下ろした。


そこにいたのは――――


今までで一番美しく――――


光り輝く――――


一匹の蜂――――


それを見た時、七夜は至極単純に悟り、口元に清々しいまでの笑みを一つこぼす。


――――まったく……蜘蛛が蜂の巣に飛び込むなど、冗談にしかならん。


次に訪れた一瞬の衝撃の中でそんなことを思いながら、『志貴』の意識は途絶えた。


目の前で倒れ伏した志貴を何をするわけでもなくただ見つめ、ついで毒蜂は己の身体へと視線を向けた。

身に着けていた服はもはや原型を留めておらず、服としてほとんどの機能が失われている。さらにはあるべきはずの二本の腕はなく、その内の一本は志貴のすぐ側に転がっていた。

ふと耳を傾ければ、会場中から歓声が響いている。それに乗り、勝敗を決める司会の声が高らかに響く。

「長き戦いも終結しました!勝者!毒「待ってくれないかい」……え?」

しかし、その勝利を告げる司会の言葉を遮り、毒蜂は言う。

「この試合、引き分けにしてもらいたい」

紡がれた言葉は予想外の衝撃となって響き渡り、会場全体がざわめいた。

「し、しかし……引き分けにしたとしても、裏稼業チームの勝利は変わりませんが……」

司会の言うとおり、ここで引き分けにしたとしても二勝一引き分けで結局は全体で見ての勝者となる。ならばここで勝利をなくすことに意味は無い。しかし、毒蜂は首を振って否定する。

「私は彼と『試合』をしてはいないよ」

どこかすっきりした表情で倒れた志貴を見つめ、毒蜂は穏やかな口調でそう切り出す。

「私も彼もこうして生きている以上、勝負などついてはいない。本当の勝敗を決するのは次の時で構わない」

そうだ。確かに『試合』には毒蜂が勝った。しかし、それに何の意味がある。あの一瞬の時、七夜は自らの腕をも犠牲にした一撃すらも致命傷を外したのだ。

結局、志貴は生き延びた。それなのに勝者となるのは毒蜂のプライドが許さない。

「志貴君……君はまだまだ強くなる。そしてその時こそ、決着をつけよう」

毒蜂は志貴のすぐ側に落ちている腕を繋げ、もう片方の腕を回収するとため息雑じりの司会の引き分けの判定を背後に聞きながら、戻っていった。


大将戦 アルクェイド・ブリュンスタッドVS天野銀次


月夜チームサイド


「……いったい、この大会にはなにがあるんでしょうか……?」

気を失っているが見た目ほどひどい怪我はなかったらしく、すでに治療魔術によって完治した志貴をベンチへと寝かし、シエルはやり場の無い思いをぶつけるように傍らに立つアルクェイドへと手を握り締め、問いかける。

「声が、聞こえたわ」

返答を期待したわけでも独り言にも似たそれに律儀に返してきたアルクェイドの声は機械のように淡々としていて、シエルの心臓の鼓動が高まった。

「声……ですか?」

それでもそれを外面に出さずに声を出せたのは流石であろう。

「ええ。楽しそうで、とてつもなく不愉快な声が……」

続けて告げる声は人間味があるものだったが、それは隠しようの無い純粋な怒りのためだ。その声の節々には抑えきれない怒気を滲ませられていて、アルクェイドは上空の彼方へとある虚空を仰ぐ。まるでそこに何かがあるとでも言う様に。

「ん……う……」

重苦しい雰囲気が辺りを包み込んでいたその時、微かに志貴の口から声が漏れ、重たそうに目蓋が開いた。

「大丈夫?志貴……」

「痛いところとかは無いですか?」

心配そうに顔を覗き込んだアルクェイドとシエルの顔を朦朧とした意識の中で見つめると、視線だけを動かして周りを見渡す。

「ここは……」

時間が経つにすれ脳裏に思い出されるのは、遠野志貴の意識が途絶えたあの瞬間。

「そっか、負けたのか……俺……ごめん」

あくまで遠野志貴の敗北した瞬間以外は覚えていないため志貴は何もできないうちに負けてしまったと思い込み悔しさに表情をゆがめ、手を強く握り締めた。

「何言ってるんですか。遠野君のせいじゃありませんよ」

「そうそう。元々シエルが負けたのが悪いんだし。それに志貴の仇は私が打ってあげるから」

二人はその様子に記憶が無いことに気づいたが、今言うことでもないだろうとそれぞれ視線で相手に釘を刺し、いつもの調子で笑いかける。

「……殺すなよ」

志貴は最後に真剣な顔でアルクェイドに一言だけ告げると、それで残った力を使い切ったのか再び意識は闇へと堕ちた。

そんな志貴の顔を不満げに見ながらアルクェイドは子どもっぽく愚痴を漏らす。

「むーこんな時ぐらいがんばれって言ってくれてもいいじゃない。あっ、それからシエル」

志貴を真似ているのか、最後に至極マジメに声を出すとそれにつられて表情を引き締めたシエルへこう言った。

「いくら志貴が寝てるからって、何かしたらただじゃおかないわよ」

「……さっさと逝ってきなさい。あーぱー吸血鬼」


裏稼業チームサイド


「手酷くやられてしまったよ」

開口一番に告げたそれにはまったく疲労の色が無かったが、毒蜂にとっては疲労というよりも肉体を構成する蜂達の一割以上を殺されたのだから十分な痛手だ。

「けッ、決められる時に決めねぇからそうなんだよ。しっかし……あれが七夜か」

それに早速噛み付く蛮ではあったが、あれほどの戦闘を見せ付けられた後ではいまいち強く言うことができない。それどころか噂は噂として思考の隅に追いやられていた七夜ん情報を必死に掘り起こそうとするほどだ。

「凄かったよねー……どうやったらあんな動きができんだろ?」

遠くからだったからこそ銀次にも捉えることができた七夜の動きは上下左右どころか空中ですら移動していたように見えたのだ。それに対し、返答したのはもはや一つの現象として通例となった銀次の背後に音も無く回り込んだ赤屍だった。

「クス……三次元の全てを地面に見立てての移動術のようですが……私ですら、あれは真似出来そうにない。しかし……実に残念だ」

「な、何がですか?」

いつもなんだかんだで赤屍と一緒になることが多い銀次はその声の響きに時々自分に対して向けているものに近いものがあると気づき、タレ銀次と化して冷や汗をだらだらと流しながらも尋ねる。

「いえ……昔、噂で鬼神と呼ばれた七夜の当主の話を聞いたことがあるのですが……滅びる前に、一度手合わせしてみたかったと思いましてね」

「手合わせじゃなくて殺し合いなんじゃ……」

思わずボソリッと呟いた銀次の返答に対する答えは「クス……」という笑い声だった。

「それはそうと、次は銀次か……」

思わず赤屍の側から逃げた銀次を見据え、蛮は話題を次の試合へと向けた。

すると周りから哀れみ(約一名微笑)すら含んだ視線を向けられ、銀次は押されるように一歩後退する。

「な、なんですか皆さん?」

その言い知れぬ雰囲気に何かを感じ取った銀次は震える声をなんとか紡ぐ。

「銀次……」

何か可哀そうなものを見る目で銀次を見て軽く肩を叩いた。

「死ぬなよ」

「死なないようにね」

続けて残った肩を毒蜂に軽く叩かれる。気分はリストラを告げられるサラリーマンだ。

「え?ええー!?なに!?どういうこと!?あのすごく綺麗な人ってそんなにやばいお人なんですか!?」

確かに底知れぬ雰囲気を醸し出してはいるが、この二人にこういうふうに言われると嫌でも不安に押しつぶされそうになる銀次であった。さらに、毒蜂はさらりと爆弾を投下した。

「そうだね……君の知っているパワー、スピード、耐久で最強の人物を足せばいいよ」

その瞬間、銀次の普段ほとんど活用していない頭脳が目まぐるしく回転する。

銀次公式

パワー → 蛮ちゃん

スピード → 赤屍さん

耐久 → おっちゃん

=即時撤退

「逃げんな」

一目散に逃げようとする銀次の首根っこを掴み、蛮は神妙な面持ちで虚空を見上げながら片手で奇妙にタバコを取り出し、火をつける。

「だ、だだだだだってパワーが蛮ちゃんでスピードが赤屍さんで耐久がおっちゃんなんて戦うどころか生き残ることも無理であります!!」

叫ぶように蛮へと懇願した銀次だったが、その切実な願いは次の蛮の言葉で跡形も無く粉砕された。

「バカヤロー!違約金のこと忘れてんのか!?十億だぞ十億!」

ただでさえいつも貧乏な二人にはもちろんそんな金など無い。

「で、でも……」

なおも渋る銀次を見かねた毒蜂は銀次の頭に手を置くと優しく撫で、まるで子どもを安心させるかのような声を発した。

「心配せずとも、君の実力なら十分間逃げ切ることぐらいは容易いことだよ」

「し、しかしですねー……」

その時、背後からあいた肩をポンッと軽く叩かれた。振り向くとそこには……

「銀次君……君を殺すのは私でありたい。くれぐれも死なないようにしてください」

にんまりと笑った黒衣の死神が立っていた。

「あのー……それは励ましなのでしょうか?」

こうして心温まる声援?を受けながら愛の戦士、天野銀次は死地へと赴いて逝った。


あとがき


ようやく……ようやく副将戦が終わった……あまりにも分けすぎてしまったので今度この副将戦はうまく一つに纏め用と思います。

勝敗についてはこうなりました。最終陣形『蜂王陣』を使用した毒蜂に対してはやはり七夜の技を使わないと勝負にすらなりませんね。単純なポテンシャルなら蛮にも匹敵すること間違いなしの七夜ですが、やはり毒蜂と比べると絶対的に相性と戦闘経験の差が出てしまうんですよね。それでも腕二本を切り落とす辺り流石といえますが。

しかし……書き終わってから改めて本当に赤屍さんと当たらなくてよかったと思いました……

さて、チームの勝敗は決まっちゃったわけですが、まだ大将戦 アルクェイドVS銀次が残っています。ある意味この試合よりも見極めが難しい試合になりますが、まぁ、気楽にやろうと思います


久しぶりのおまけです。


相性表


遠野志貴 ― 毒蜂 ○

この二人は本当に相性がいいので◎に近い○ですね。むしろこういった類の知人としてなら最高ランクに位置しています。この二人は大会中に起こる本当にどうでもよく、けれどある意味重大な事件において共同戦線を取ることになります。ちなみに当事者は志貴で、毒蜂は偶然巻き込まれた形です。


七夜志貴 ― 毒蜂 ◎

七夜志貴にしても毒蜂にしても、この二人は良い悪いに関係なく互いに大会参加者でもっとも気が合い反発する喧嘩友達みたいなものですね。むしろ大会参加者相性ベスト5に入るぐらいの相性のよさです。


裏設定6


今回は少し長くなりますが、世界のバランスについて少し説明します。

まず、この作品は多くの作品をクロスさせているため設定上の世界は大まかに分けて『魔術系統』『霊能力系統』『超能力系統』『特異能力系統』『人外系統』になっています。

この五つをもう少し詳しく説明すると、

『魔術系統』は代表として『TYPE−MOON』『デモンベイン』『ネギま!』『とある魔術の禁書目録』『風の聖痕』など作中に魔術、魔法などが存在する世界に存在するものです。(ちなみに『ネギま!』の登場人物はこのSSでは設定上そのまま『魔法使い』となっています。この部分を説明すると長くなるのでまた次回の機会に)

『霊能力系統』は代表として『GS美神』『シャーマンキング』などがそれに該当します。『GS美神』については『超能力系統』に近いものがありますが、それは所属している組織などによってどちらかに変動することになります。ちなみにそういった理由で『風の聖痕』に登場するある意味反則的な能力を持ち主、石動大樹は『超能力系統』ではなく『霊能力系統』に分類されます。

『超能力系統』は代表として『スプリガン』『絶対可憐チルドレン』『とある魔術の禁書目録』などが該当し、『霊能力系統』と間違われやすい系統です。系統としては不安定でありながら絶大な能力を持つものも多く存在し、中には『魔術系統』では魔法に近い魔術である空間転移を連発してマッハ5以上の速度で移動する少女や、明らかに魔法であるだろう万物の『ベクトル』を自由に変更できる最強の少年もいます。ちなみに『あらゆる幻想を消し去る右手』を持つ理不尽の権化たる少年もここに含まれます。

『特異系統』は一番数が多くバラつきが多いんですが代表として『ARMS』『東京アンダーグラウンド』『金色のガッシュ』『武装錬金』などなど上げたらきりがないほどに存在し、それぞれが異なるのでとりあえず上の三つの系統とは違う程度の認識で構いません。

『人外系統』はその名のとおり人以外の存在を表し、具体的に挙げると『死徒二十七祖』『位階を持つ吸血鬼』『ホムンクルス』『妖怪』『悪霊』『魔族』など様々です。これに限っては緊急事態になった場合は上の四つが協力して対処する形となります。

『人外系統』を除いた四つの系統にはそこまで大きな開きは無く、常に均衡状態を保っています。

ちなみにこれは各々に関係する最上位の者や四大組織のトップなどしか知りえませんが、この四つのどれかに分類されて所載がわかる人物は対個人戦闘能力、対集団戦闘能力、危険度ごとにSS級、S級、A級、B級、C級、D級、E級、F級などに細かく分けられています。なお、この場合もっとも比重を置かれるのは対集団戦闘能力です。その分けている人物達すらもA級以下の者は記憶にすら留めませんので、あくまで大体の現在の戦力比を計る物差し程度にしかなりませんが。

参考なまでにそれぞれのS級以上を挙げると、

『魔術系統』八神和麻、蒼崎青子、

『霊能力系統』麻倉ハオ、同期した美神&横島

『超能力系統』一方通行、『雷帝』天野銀次、

『特異系統』高槻 涼、朧

『人外系統』アルクェイド・ブリュンスタッド、アーカード

となります。

それでは長くなりましたが次回、黄昏の式典 第十話〜殺人の目覚め、雷の咆哮:始まりの時・後編〜その4をよろしくお願いします。

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