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「幻想砕きの剣 4-6(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-08-12 20:33)
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 朝。
 日の光が差し込むと、大河は眉をしかめて手を動かす。
 朧気ながら、昨晩はカエデと未亜を抱きしめて眠った記憶がある。
 両手を動かして彼女達を探すと、右腕には慣れ親しんだ感触がある。
 未亜。
 ついでに言うと胸。

 しかし左手には何の感触も無い。
 閉じようとする瞼を強引に開けると、そこには誰も居なかった。
 しかしシーツには確かに人が居た痕跡がある。
 どうやら大河が起きだす前に目を覚まし、自室に帰って行ったらしい。
 彼女の寝顔を見られないのは残念だが、今回は諦める。

 ちなみにカエデが眼を覚ましたのは、朝日が昇り始めると同時である。
 電気なんぞ知られてもいない世界で生きていたので、年寄りのように朝が早いのだ。


 結局未亜も混じって3Pを延々と続け、カエデは未亜よりも体力がありながら、不慣れな行為であったため早めにダウン。
 未亜は善戦を続けるものの、体力差で押し切られて負け。
 絶倫ゲージだけでなく、相手が増えた事によってテクニックに幅が出来始めている。
 だからカエデが戦力に入った所で、大河が益々パワーアップするのがオチなのだが、他に手はない。
 本格的なテクニックを持った師匠でもいれば話は別だが、ブラックパピヨンも所詮は手馴れた素人である。


「未亜、未亜起きろ。
 朝風呂に入らなくてもいいのか〜?」


「ん……うぅ……おあよ……?
 お兄ちゃん、カエデさんは?」


 目を擦りながら起き上がった未亜は、カエデが…玩具が?…居ないのに気がついて部屋を見回す。
 寝起きに何かイタズラを仕掛けようとしていたらしいが、カエデは既に何処かに行ってしまっている。
 ひょっとすると、彼女はこれを察して逃げたのかもしれない。


「さぁな。
 起きたらもう居なかった。
 部屋に戻ったんじゃないのか?」


「ふ〜ん…残念。
 色々と試してみたい事があったのに」


「何をする気だよ…」


「お兄ちゃんが地球で私にした事だよ」


 色々と回想すると、大河の額に縦線が入った。
 大河がやったのは未亜が慣れてきていたからで、初心者のカエデにやるとちょっと面倒な事になりそうだからだ。
 何をやったのかは筆者も知らない。

 普段通りにキスをして起きだした大河は、手早く服を着替えて食堂に向かう。
 未亜は服を持って風呂場に向かった。
 カエデは多分、もう朝風呂を済ませているだろう。
 彼女は忍者なのだから、匂いを消すのは習性である。

 やや早めに食堂に向かうと、普段よりも空いている。
 思ったよりも早めに起きていたらしい。
 食堂の一角に、探し人の姿を見つけた。
 柱や椅子テーブルの位置関係で、周囲からは死角になっている位置だ。
 さすが忍者と言うべきか。
 自分の食事を確保して、彼女の隣に足を向けた。


「よっ、カエデ」


「あっ、師匠!
 昨日は、どうも、その……」


「?
 それにしても朝が早いんだな。
 寝顔を見てやろうと思ってたんだが、残念だったなぁ」


「あ、主よりも後に起きる訳にはいかないでござるよ…」


 顔を赤くしてしどろもどろに返事をする。
 主君(一応)に会ったのだから相応の礼を尽くして返答せねばならないのだが、昨晩の痴態がどうしても頭に浮かぶ。
 それでも数回深呼吸すると、顔の赤みはそのままだがまともに喋れるようになった。


「あ、あーと……そうだ、未亜殿はどうしたでござるか?」


「アイツは朝風呂だよ。
 昨日は色々と液体で汚れたからなぁ。
 汗とか汁とかな」


「はぅっ!?」


 思いっきりからかっている。
 カエデが恥ずかしがる顔を見るのが楽しいらしい。
 特に彼女はストレートに顔に出るので、見ていてとても楽しい。
 ベリオも顔に出やすいが、カエデほどではない。
 思いっきりセクハラだが、大河はカエデの想い人であり主君(仮)である。
 カエデにしてもちょっと恥ずかしいスキンシップくらいにしか思っていないので、何の問題もない。

 小さくなってお子様ランチ…適当に頼んだらしい…を突付くカエデ。
 顔もいい感じに赤くなっており、大河は朝っぱらから萌えだした。
 もしここに誰も居なければ、早速押し倒していたかもしれない。
 多分未亜でも似たような事をする。


「あーそれでな、話は変るんだけど」


「…なんでござるか?」


「昨日はちょっと調子に乗りすぎたけど、お前が見たがってたものを撮っておいたぞ。
 ほらコレだ」


 大河は懐から携帯電話を取り出して、昨晩撮った画像をカエデに見せた。
 それを見たカエデの頬がボッと赤く染まる。


「し、ししし師匠〜!
 朝っぱらからこんな所で何て物を見せるでござるか〜!?」


「お?
 間違えた。
 こっちだこっち」


 カエデに見せたのは、昨晩こっそり激写したカエデの喘ぐ姿。
 涙やら涎やら、はたまた別人のものらしき液、さらに白いナニかがトッピングされていて中々卑猥に仕上がっている。
 今にも脳の血管が千切れそうになるほど真っ赤になるカエデ。
 内心笑いながら、大河は本命の写真を表示させた。
 警戒しながらも、それを覗き込むカエデ。
 でもやっぱり赤くなった。
 それも当然である。
 背中だけを移したとはいえ、えらく激しい情事の後なのだ。
 色々な液体で体中が艶やかに濡れ、背中からも色っぽく淫靡な雰囲気が漂ってくる。
 しかし今度はパニックを起こす事なく、顔を赤らめながらもその画像を覗き込む。


「………やはり間違いないでござる。
 拙者の里に伝わる、護法の極み…。
 まさか拙者の背に隠されていたとは…」


「…その護法の極みってのは何なんだ?」


「拙者もよく知らないでござるが…主君を守るための、所謂結界のようなものらしいでござるよ。
 ええと……ちょっと字が小さくて読み辛いでござるが…印を組み、主を想い……いや、慕い?
 ………ダメでござる。
 態々暗号にしなくてもよかろうに…」


「忍者文字ってヤツか」


「拙者の里で使われている、一部の幹部しか知らない文字でござるよ。
 拙者も全てを知っているわけではないので、全文を読むのは無理でござる。
 もう少し時間があれば、何とか解読できるのでござるが…」


 カエデはじっと携帯電話の画像を見つめ、背中に描かれた文字を記憶する。
 一通り頭に叩き込むと、携帯電話を大河に返した。


「何とか解読してみるでござるよ。
 これがあれば、“破滅”との戦いも少しは楽になるでござろう。
 それにしても……ひょっとして、あの男はこれを捜しに…?」


 仇の姿を思い浮かべ、憎悪を燃え上がらせるカエデ。
 しかしそれを表に出さずに押さえ込み、カエデは自問自答する。
 あの男がカエデの背中に記された秘伝を探しに来たのならば、素直に差し出していれば両親は無事だったのではないか?
 無論カエデとて、里の秘伝をおいそれと伝えるわけには行かない事くらい解っている。
 両親とて、伝えるわけにはいかないと考えたからこそ隠し、そしてムドウに抵抗したのだから。
 それでもカエデは思う。
 もしあの時、と……。

 大河はじっとカエデの横顔を見つめていたが、やがて手を伸ばし、おもむろにカエデの頬を引っ張った。


「……ひひょー、はひをふるほへほはるは」
(師匠、何をするのでござるか)


「なに、弟子が妙な事を考えていそうだったんでな。
 それにしても柔らかいほっぺだなー。
 ………それはそれとしてカエデ、お前の背中になんで秘伝が隠されていたと思う?」


「? それは拙者が頭領の娘だったからではござらぬか?
 里は実力主義でござったが、世襲制もそれなりに残っていたでござるから…」


「それもあるだろうが、背中の秘伝は俺とお前が結ばれた時に浮かび上がってきた。
 それも後ろの穴でな。
 前だって浮き上がってくるのかもしれんが、これって恋人と結ばれた時にこそ秘伝がわかるって事だろう?」


「そう言われると……そうかもしれぬでござるな。
 しかし、それが一体………?」


「わかんねーかな?
 つまり、主の為なんかじゃなく、お前が心底惚れて、添い遂げたいと思った相手に使えって事じゃないか。
 ……親父さん達は、お前の幸せを心底願ってたんだな」


「……師匠…」


 カエデは俯いて顔を隠した。
 今にも涙が出てきそうで、子供のようにボロボロ泣く姿を見られたくはなかったから。
 大河は無理に顔を上げさせようとはせずに、無言でカエデを自分に寄りかからせた。


「それにな、お前のせいで親父さん達が、なんて思うのはお門違いだ。
 親って者は、多少の例外もあるけど、常に子の幸福を願うもんだ。
 もしお前が両親を助けるために自分を差し出していたとしても、それは親父さん達にとっては殺されるより辛い事だろう。
 お前の両親は、お前の幸せを願って、ムドウに抵抗した。
 それはお前のせいじゃない。
 ………その意思を無駄にするな」


「……承知…」


 カエデも理屈では解っている。
 秘伝として自分を差し出したところで、おそらく両親の末路は変らなかった。
 後の禍根を断つため、または単なる楽しみのために両親は惨殺されただろう。
 それでなくとも、自分が人質になるだけだ。
 どの道状況が悪化しただけ。


「師匠……もうちょっと…泣いていいでござるか?」


「ああ…でも、未亜が来る前には泣き止んでくれよ」


「ふふ……わかったでござるよ」


 食堂の人目につかない一席で、カエデは声を殺して泣いた。
 大河はカエデの頭をゆっくり撫でている。
 暫くくぐもった嗚咽が聞こえていた。


「いいんですか?」


「いいんです。
 カエデさんはもう取り込み済みですから」


「? はぁ…」


 大河とカエデのすぐ傍の死角で、未亜とセルは壁に寄りかかっていた。
 セルはこっそり大河達を覗き見る。
 暫くカエデは泣き止みそうにない。

 多少の妬き餅は感じるが、今乱入するほどのものではない。
 一応彼女は未亜の盟友なのだから、このくらいの役得があってもいいだろう。
 北の方たるもの、寛容の精神も持ち合わせていなければ。


「さて、そろそろご飯にしましょうか。
 セルさん、ご一緒しますか?」


「是非とも!」


 闘技場。
 ダリアを中心として、救世主クラスのメンバーが集まっている。
 所用で遅くなった大河が走ってくると、元気のいい声がかけられた。


「師匠〜!
 早く早く〜!」


「………あの、未亜さん?
 これは一体…。
 (甲斐性がありすぎるわねぇ)」


 唖然として口を開けるベリオが、未亜の袖を引っ張った。
 つい先程、ベリオに何の相談もしていなかった事に気がついた未亜はちょっと引き攣っている。
 夜の戦力が増えたと言えば聞こえはいいが、公認の愛人を増やしたようなものだ。

 ベリオの視線の先では、カエデが大河に懐いている。
 仔犬のようにじゃれついて、『構って』と言わんばかりに振られる尻尾が見えるようだ。
 きっと犬耳をつけたら、さぞかし似合う事だろう。
 想像してちょっと煩悩の海に沈みそうになったベリオは、慌てて自分を戒めた。

 それにしても、あの懐き方はどうだろう。
 昨日も結構な懐きようだったが、今日はより一層強力だ。
 それに女の直感が、大河とカエデの間にナニかがあったと訴えている。
 ベリオより経験豊富なブラックパピヨンも同じように推測しているので、まず間違いない。
 しかし、その直感もまさか未亜が原因だとは勘付かない。


「あ、あははは……まぁ、その、色々と…。
 昨日の指導の後、ちょっと…」


 しどろもどろに弁解する未亜。
 さらに突っ込もうとしたベリオだが、リリィの溜息がそれを遮った。


「はぁ……。
 ちょっとダリア先生、さっさと授業を始めましょう。
 この幼稚園児達に構ってたら、時間が幾らあっても足りないわ」


「そぉかしら〜?
 ……ま、仕方ないわね〜。
 それじゃあ、今回は様々なシチュエーションに対応するため、普段みたいなタイマンじゃなくて、乱戦にするわよ〜。
 誰を狙うも、誰かと組むも自由。
 好きなようにやってぇ〜ん」


 相変わらず何を考えているのか解らないダリアの言葉を聞いて、未亜は大河にじゃれついていたカエデを引っ張った。
 振り返るカエデの腕を引っ張り、耳元に口を近づける。


(カエデさん、昨日の約束覚えてますよね?)


(順位争いがあったら、未亜殿に協力するというアレでござるか?
 しかし、あれは師匠の妾内での順位争いの事では……)


(誰もそんな条件付けてませんよ。
 これだって、立派な順位争いです。
 盟約通り、私に協力してもらいますよ)


(む、むぅ……仕方ないでござる…。
 師匠と共に戦いたかったでござるが、北の方の命令とあっては無碍に逆らう事は出来ぬでござるよ。
 それでは未亜殿、まず誰を狙うのか、基本的な方針を示してくだされ)


 未亜の軍門に下ったカエデは、少々残念そうにしながらも、戦う以上は勝利を狙おうと真面目になった。
 しかし未亜はカエデを待たせると、そのままベリオの前まで行って何やら相談し始めた。
 暫くすると、ベリオの米神に青筋が浮き、召喚されたユーフォニアが曲がって見えるほどに力が篭もる。
 顔を引き攣らせながら、ベリオは未亜に向けて親指を立てた。
 神妙な笑顔で同じように親指を立てた未亜は、再びカエデの元に戻ってきた。


「何だったでござる?」


「同盟成立したの。
 ベリオさんは、残りが私達だけになるまでは味方でいてくれるって」


「それは助かるでござるな。
 接近戦の拙者と、援護の未亜殿、それにベリオ殿は回復と防御が専門なのでござろう?
 ちょうどいい分担が出来たでござるよ」


 そう言ってカエデは朗らかに笑った。
 ベリオの視線が棘を含んで自分を見つめている気もするが、試合前で気が昂ぶっているのだろうと勝手に判断した。
 緊張を解してあげようと親切心を出し、へにゃっと笑い返すと、ベリオの視線に含まれていた棘は消失した。
 反応に戸惑ったような顔をして、明らかに毒気が消えている。

 そのやり取りを見ていたリリィが、首を傾げて呟いた。


「……何なの?
 この妙な連帯感とか微妙にギスギスしてるベリオの雰囲気とか…」


「…………」


「…リコはリコで何時もより無口になってるし…」


 リリィの隣で突っ立っていたリコは、ちょっと唇を尖らせて大河を見つめていた。


「はぁい、それじゃ準備はいいわね〜?」


 闘技場の入り口付近まで下がったダリアが、声を大にして叫ぶ。
 闘技場の中心付近には、それぞれが距離を置いて、円を描いて立っていた。
 カエデなどは微妙に移動して未亜の方に近づき、リリィはすぐさま呪文を放てるように魔力を貯めている。
 ちなみにカエデは昨晩大河にもらったゴーグルをつけている。
 それぞれが戦闘の準備をしていた。


「それじゃ初め〜!」


 ダリアの合図と共に、6人はそれぞれ勝手に動き始めた。
 乱戦において、一箇所に留まるのは自殺行為である。
 どこに行っても危険なのには変わりないが、遮蔽物もない場所で足を止めていれば四方八方から襲い掛かる攻撃で、あっという間に逃げ場を失いタコ殴りにされるのがオチだ。
 故に、常に移動し、包囲網の隙間を抜け、逆に自分が包囲網の一部となるように動く。
 特に意識していた人物は、多少なりとも集団戦のセオリーを知っている大河とカエデくらいだが、他の面々もそれぞれの理由で動いていた。
 接近戦が苦手なので距離を取ろうとするリリィとリコ、未亜と合流しようとするベリオ。

 大河はまずリコに狙いを定めた。
 乱戦では弱い者から倒すのがセオリーである。
 リコは正面から戦えばそれなりの強さを発揮するが、それでも救世主クラスでは最下位だし、彼女の召喚魔法は発動から攻撃開始までに若干のタイムラグがある。
 あっという間に大河はリコに接近した。


「ぽよりん!」


 リコが召喚したスライムは空中から現れ、引力に従って落下した。
 しかしそれ自体が致命的な隙である。
 召喚のため一瞬動きを止め、召喚されたスライムも地に着くまでは行動できない。
 大河は落下するスライムの上を飛び越え、体を捻ってリコの背後に着地した。
 振り返ろうとするリコの首筋に、トレイターを突きつけてスッと横に引く。


「頚動脈を斬った。
 リコはリタイヤだ」


「…そうですね。
 ………では、精々四苦八苦してください」


「は?」


 あっさりした顔でダリアに顔を向けると、ダリアは一つ頷いて手招きした。
 特に悔しい顔もせず、謎の言葉を残してリコは淡々とダリアの元に歩いていく。
 ダリアの横にちょこんと腰を下ろし、完全に鑑賞モードに入ってしまった。
 その横から、ダリアが色々と話しかけている。


「ダメじゃないリコちゃん〜。
 さっきのは実力以前の問題よ〜」


「わかっています。
 あそこでは、ぽよりんではなくすぐに攻撃できるネクロノミコンを呼ぶべきでした」


「わかってるならいいのよ〜。
 …でも、解ってるならどうしてぽよりんを呼んだの?」


 大河としても結構イチかバチかの賭けだったのだが、今回は大河に軍配が上がった。
 しかし、それでも大河はリコを見て怪訝に思う。
 未亜と最初に戦った時は、彼女の行動はもっと的確だったし、それなりに動きも素早かった。
 まるで手を抜いたか、わざと負けたようではないか。

 最後に残した言葉もあり、一体どういうつもりかと考える大河だったが、すぐにそんな事を考える余裕は無くなった。


「ブレイズノン!」


「おおっと!」


 リリィの呪文詠唱が耳に入った瞬間、大河はすぐに体を投げ出して移動した。
 次の瞬間、大河が立っていた場所に火柱が上がる。
 視線を素早く動かしてリリィを探すが、少し遠くで次の呪文を唱えている。
 リリィは完全に大河の射程圏外から外れていた。


(このまま吶喊しても 、リリィの呪文は避けられない。
 それどころか足止めを食らった挙句、呪文を避けるか受けるかして体勢が崩れた所を集中攻撃される…。
 となれば、未亜・ベリオ・カエデを狙う!)


 大河はすぐに意識を切り替え、近い者から潰そうとリリィから距離をとった。
 大河が呪文の射程距離から外れたので、リリィは舌打ちして移動した。

 大河がさらに移動しようとすると、視界の隅に影が映る。


「師匠、お覚悟!」


「ちぃっ!」


 カエデが音も無く忍び寄り、突きを放ってきたのだ。
 一昨日も体感した通り、カエデは体術全般の技術においては大河を数段上回る。
 素早くコンパクトな打撃を連発されて、大河は捌ききれずにカエデの打撃を2,3発受けた。
 しかし訓練とはいえ、やはり主君に攻撃するのは躊躇われるらしく、それ程強力な攻撃ではない。
 大河はさらに追撃を受けるのを覚悟で、カエデの連撃に強引に割り込んだ。


「……ッ!」


  ブオン


 鈍い風切音が響く。
 大振りの大河の攻撃は、牽制の役目すら果たせなかった。
 カエデは大河の腕が振るわれる瞬間だけ後ろに下がり、すぐにまた距離を詰めてきたのだ。


「御免っ!」


 腕を振り切って硬直状態に陥った大河の顎に、カエデのシャイニングウィザードが突き刺さる。
 咄嗟に体を捻って衝撃を逃がしたが、それでも結構なダメージを追って吹き飛ばされる。
 受身を取って起き上がろうとしたが、更なる追い討ちが始まった。


「動くなお兄ちゃん!」


 ギリギリギリギリ……ビィィィィン!


「うおおおおお!?」


 反射的に動きを止めた大河に向かって、穿孔のような矢が放たれる!
 からくもトレイターで弾き飛ばしたが、その衝撃は非常に強烈だった。
 大河の腕が痺れて、トレイターを握っていられない。
 仕方なく左手に持ち替え、ナックルに変化させた。


「まだまだぁ!
 鬼神槍連脚〜!」


 さらにカエデが追撃してくる。
 トレイターをナックルに変化させていたので、純粋に技術で凌ぐしかないのだが、大河にはカエデの連撃を捌ききれるほどの技量はない。
 刃のついている武器ならば迫ってくる足を狙えばいいのだが、如何せんナックルで殴り飛ばしただけでは致命傷とはほど遠い。
 5発までは腕を交差させて防いだが、6発目の蹴りが防御の隙間を潜って脇腹を直撃し、さらに腕を弾き飛ばされて胸元に強烈な跳び蹴りを叩き込まれた。
 たまらず吹き飛ばされ、受身も取れずに落下した。


「そのまま寝転がってなさい!
 アークディル!」


 大河が吹き飛ばされた先は、リリィの魔法の射程内だった。
 大河の目に、真上から落下してくる氷の塊が映る。


「こんちくしょうがぁ!」


 大河は咄嗟に左手を突き出し、ナックルのバースト機能を作動させた。
 ブースターでトレイターが前進し、それに釣られて大河も浮き上がる。
 ロケットパンチをしたら、腕が分離せずに本体ごと飛んでいくような感じである。


ガゴォォオン!!


 大河ミサイルは、氷の塊を見事に粉々にして突き抜けた。
 そのまま方向を変え、リリィのいる場所に急降下する。
 まだ魔法を放つのに十分な魔力が溜まっていなかったリリィは、一歩後ろに退いた。
 その足元に魔力を流すと、魔法陣が描かれる。


「ベリオのホーリーシールド!?」

「ヴォルテックス!」


 弾かれて落下した大河は、すぐに横に全力ダッシュ。
 それを追いかけるように、リリィが放った電撃が放たれる。
 大河はトレイターを爆弾に変え、リリィの周囲に投げつけた。


ズドン!   ボカン!   バァン!
  ボムッ!     

          ギシギシギシギシギシギシ……


 爆煙が幾つも上がり、リリィを包むホーリーシールドが悲鳴を上げる。
 さらに煙でリリィは大河を見失った。
 すぐにでも移動すべきだが、今は強力な結界がある。
 それも、妙に力が入ったというか怨念が込められたというか、女の情念がたっぷり入っているような結界が。
 何故ベリオがこんな怨念を感じさせるのか疑問に思ったリリィだが、戦闘中にそんな事を考える時間はない。
 頭を振って、再び魔力を貯め始めた。
 まずはこの砂煙を一掃する、全包囲攻撃だ。


 リリィから距離を取った大河は、思わず舌打ちした。
 普段の演習でベリオが使うホーリーシールドより、数段強力な結界になっている。
 地面に描かれた魔法陣で作動している以上、その魔法陣に魔力を流し込み続けなければホーリーシールドは消える。
 つまり放っておいてもリリィの魔力は消費されていくわけだ。
 しかし全魔力を使い切るまでその場に留まるほど馬鹿でもないだろう。
 ある程度魔力が少なくなったら、今までのような遠距離での機動戦に切り替えるはずだ。


(そうなる前に、ホーリーシールドごとぶっ飛ばせる技でもあればいいんだが……。
 ……ダメだな、斧を使っても空中から落下速度を加えた攻撃でも、あれは破れそうにない。
 つーか、何だってんだ?
 何で未亜とカエデが初っ端から連携をとった挙句、リリィに守護方陣が…)


「乱戦じゃなくて、こりゃ全員VS俺一人じゃん!
 カエデ!
 師匠を援護しようという気はないのか!?
 未亜!
 何で俺一人が狙われるワケ!?
 お前何か仕組んだ!?」


「師匠…申し訳ない、未亜殿との盟約は破れぬでござる…。
 それでは、一昨日の雪辱戦のお相手願うでござる!」


「私は仕組んだけど、限りなく自業自得だよ〜」


「おんどれらああぁぁぁぁ!」


 思わず叫ぶと、その隣にベリオが立った。


「そうですね……これでは乱戦に対する演習ができません。
 大河君一人では戦いにならないでしょうから、私は大河君の側につきます」


「マジ?
 助かるぜベリオ。
 ちょっと惚れ直したぞ」


(照れ)………さあ、行きますよ!」


 ベリオと大河の反撃が始まった。
 ベリオが大河の背中に魔法陣を書き、魔力を流し込んでホーリーシールドを作動させる。
 大河はカエデに矛先を向けて、トレイターを槍にして突っ込んで行った。
 牽制にクナイを幾つも投げつけるカエデだが、全てホーリーシールドに阻まれる。
 お構いなしにカエデに接近した大河は、顔面を狙った突きでカエデの動きを止める。
 首を逸らして避けたカエデだが、そのすぐ後に鈍い衝撃を叩きつけられた。
 大河が身を翻して、トレイターを横から蹴り飛ばしたのである。
 カエデの横顔に、硬い槍が叩きつけられる。
 よろめいたカエデに追撃をかけようとしたが、カエデも然る者と言うべきか、ボディーブローが入った瞬間、カエデの姿が消え失せた。
 大河が殴ったと思ったのは、カエデではなくどこからとも無く出てきた丸太であった。


「か、変わり身の術!?」


「師匠覚悟!」


 ビュオンッ!


「うおおっ、危ねぇ!
 って甘いわぁ!」


 カエデは空から降ってきた。
 本来ならば、変わり身の術と高速移動を組み合わせ、硬直した敵に背後から奇襲をかける技である。
 勿論、その時には声など出しはしない。
 実は空中のカエデは囮で、実は未亜がカエデの背後から狙いを定めていたのだ。
 ホーリーシールドを貫いて、未亜の放った矢が大河を掠める。

 恐怖と動揺で動きを止めた大河だが、そのすぐ後のカエデの攻撃には対応した。
 まず踵落としは腕を交差させて受け止め、間髪入れずに放たれた蹴り上げは首を捻ってかわし、さらに回し蹴りを屈んで避ける。
 屈んだ顔に合わせて突き出される膝を受け止め、さらに頭上から超高速で打ち下ろされる鉄拳…雷神を後ろに下がってやり過ごす。
 空中で実に5回の連続攻撃をやってのけるカエデの技量に舌を巻きつつ、大河は正面から両手を前にして突っ込んでくるカエデを、真っ向から受け止めた。
 何かしら技を放とうとしていたようだが、その前に両手を掴んで動きを封じる。
 奇しくも膠着状態が発生したが、それも長くは続かなかった。


「ファルブレイズン!」


「「!!!!」」


 2人のド真ん中に、大型の炎が着弾したのだ。
 未亜と同盟を組んでいたカエデ、同じくベリオと組んでいる大河と違い、全て敵だと割り切っているリリィは、援軍が居ない分敵味方の区別をつける必要がない。
 チャンスがあれば、丸ごと吹っ飛ばすのが彼女である。
 狙い通りにカエデと大河を巻き込みながら、炎は火柱を立てて燃え上がった。

 辛くも直撃を避けたカエデと大河だが、体が微妙に小麦色になっている。
 頭を振ってリリィを見ると、彼女はホーリーシールドから出てきていた。
 大河はリリィを優先的に攻撃しようとするが、その行く手を未亜の放った矢が拒む。
 大河が近づけずにいると、今度はカエデが走りこんできた。
 両手に構えたクナイを一度に投げつけ、さらに腰に挿した刀を構える。
 クナイはホーリーシールドで弾けると考え、大河はカエデに集中する。

 しかしその瞬間に異変が起きた。
 ホーリーシールドが消滅したのである。


「なっ…べ、ベリオ!?
 っておぅわあああああぁぁぁぁ!」


 必死になってクナイを片っ端から叩き落し、カエデから距離を取るために後退する。
 しかし、それは背後に何かが当たった事で妨げられた。
 壁とはまだ距離があった筈だが、確かに背中に当たる感触は壁のものである。
 理由はさておき、大河は必死でクナイを捌き続けた。
 が、ベリオが大河の前に立った事でその必要も無くなった。
 彼女が纏ったホーリーシールドで、飛んできたクナイは全て弾き返される。


「ふぅ、助かったぜベリオ…」


「そうでしょうか?
 安心するのはまだ早いですよ」


「解ってる。
 まだ勝ってないしな…。
 それにしてもこの壁は…」


 振り向いた大河は、そこにあった壁の存在に唖然とした。
 白く輝く斥力の壁……ホーリーウォールである。
 言うまでも無く、この術を使えるのはこの場ではベリオしかいない。
 しかし、何故こんな所に?
 そもそもホーリーウォールは、敵だけを拒む性質を持っている。
 暫定的とはいえ同盟を結んだ大河を拒む事はしないはず。
 にも拘らず、大河を拒んだという事は……。

 慌てて未亜に目をやると、アイコンタクトで返事をしてきた。
 曰く、『ひっかかった』と…。
 ついでに言うと、先程リコに言われた『精々四苦八苦してください』が脳裏をよぎる。
 彼女はベリオ・カエデ・未亜が組んで大河を潰そうとしているのを見抜いていたらしい。
 恨みがましい視線を向けられた彼女は、心中で一言呟いて素知らぬ顔を貫いた。
 曰く、『自業自得です……フン』。


「気がついたようですね?
 大河君……貴方と未亜さんの所業を呪うがいいです」


「しょ、所業だと!?」


「そう、所業です」


「ベリオ、お前は…!」


「貴方はいい戦力でしたが、貴方がカエデさんにちょっかいを出すからいけないのですよ。
 ふふふふふふふ……」


「シャア……もといベリオ! 謀ったなベリオ!」


 ベリオが翳した手の上から、大きな大きな、それは凄まじい輝きを放つエネルギーの球体が迫ってくる。
 立場はちょっと違うが、大河にはそれが炎を上げながら突っ込んでくる空母に見えたそうな。


「こんの……不浄者ー!


「あんぎゃーーーーーーーーーー!」


 大河の視界が白く染まり、光が引いた後には真っ青なキャンバスが広がっていた。
 それが何なのか理解する暇もなく、彼の意識はそこで途絶えた。


「おー……師匠が見事に飛んでいるでござるな」


「うーん……カエデさんにちょっかいだした原因は私だって言ってなかったからね…。
 普段の浮気やナンパの罰も兼ねて、ベリオさんをけしかけてみたんだけど…ちょっと威力が大きすぎたわ」


「しかし、拙者に手を出し、あまつさえ輿入れを了承したのは師匠自身でござる。
 経過はどうあれ、それは事実。
 やはり他の奥方を納得させるのも、師匠の義務でござるよ」


「そうだね。
 私とベリオさんと(ブラックパピヨンさんと)カエデさん、こんなに女の子を囲ってるんだから、それ相応のリスクは当たり前よね」


 他人事のように言っている未亜とカエデ。
 大河は未だに空を舞っている。
 カエデの頭上を飛び越えて、ようやく地面に落下した。


「カエデさん、とりあえず次はリリィさんをやっつけて、その後…あれ?」


 カエデは既に倒れていた。
 よく見ると、彼女の頬に血が付着している。
 どうやら先程宙を舞っていた大河から流れ落ちたらしい。
 偏光ゴーグルのおかげで、流れ出た血を見ても気を失ったりはしなかったものの、直接触れてしまうとやはりダメらしい。


「えーと…。
 取り敢えず、「ヴォルテックス」……はぅ」


 未亜は何時の間にか背後に忍び寄っていたリリィの電撃で、あっさり気絶した。
 何となく釈然としない表情の彼女だったが、チャンスはチャンスである。
 三人がかりで嵌められた大河に多少の同情を覚えないでもないが、ベリオの叫びを聞く限りでは自業自得なのだろう。

 当のベリオは魔力を使いすぎたのか、フラフラしながら肩で息をしている。
 今の彼女に向けて魔法を使うのも躊躇われる。
 結局リリィは無言で近づいていき、ベリオの首に腕を回す。


「え?
 リリおきゅっ!?


 ドサッ


 ベリオはあっさり気絶した。
 リリィが周囲を見回すと、足元のベリオ、電撃で気絶した未亜、何故か何もしない内に倒れているカエデ、何をやったのか知らないがボロボロになっている大河、そして最初に敗退し無傷で見物しているリコ。
 勝利したものの、リリィはなんだか無性に虚しくなってきた。


「勝者リリィちゃん〜♪
 ぱちぱちぱちぱち〜。
 それじゃリコちゃん、賭けは私の勝ちだから、今度お昼ご飯奢ってね」


「構いません。
 どうせ私達の注文するご飯はタダですから」


 結局、一番最初に抜けたリコが真の勝者のような気がするリリィだった。




ちわっす、時守です。
今回はピンク帯との2本という事で、ちょっと短めになりました。
普段の半分以下ですね…。

この所ちょっと忙しくて、投稿スピードが落ちるかもしれません。
でも、最低週に一本程度のペースで続けるつもりです。


それではレス返しです。
…なんか今日の俺ってテンション低いなぁ…。


1.竜神帝様

はい、お互いに張り切っていきましょう!

DSJまでクロスさせるんですか……大河君なら、きっと横島君とマブダチになれると思います。
さもなくばナンパのライバルでしょうか?
どっちも成功しそうにないけど…w


2.干将・莫耶様

ハーレムクリアご苦労様です!
本当にレベル1のキャラで戦うのは辛かったですね…。
それでもナナシ以外は何とか勝ちましたが。
大河のクセが染み付いているので、タイミングを間違え妙な技が出てモロに攻撃を喰らう…泣きそうになりましたよ。
あんな性能でデュエル地獄はキツイっすよね…何とか大河で4天王を潰しました。


3.竜の抜け殻様

属性武器ですか……当分先になるかもしれませんが、参考にさせていただきます。

SSの紹介ありがとうございます。
時間がある時に行って読んでこようかと思います…でもここの所忙しくて時間がないッス。

こうなったら未亜には行く所まで行ってもらおうかと思っています。
行き着く先は……女王様かな?


4.アクト様

ああ、そう言えばあんな名前の魔王が居ましたね。

大河と未亜の子供達ですか…やはり女好きの弟とブラコンの姉ですか?
あるいは……女好きの姉とシスコンの弟とか?

そーいえば、結局未亜と大河は血が繋がっていたんでしょうか?
確かトレイターから謎を明かされる時に、『血を分けた半身』って言ってましたし。
もしそうなら、実質は実兄妹で突き進んでいる事になりますなw


5.ナイン様
仰るとおり、QEDから写しました。
実はクラスメートという裏設定があったりなかったり。


6.なまけもの様
SSのご紹介ありがとうございます!
でも読めるほどの時間がない…(涙)

惚けているリコの表情…考えただけでも和みますよ。
代わりに萌え心が燃え上がりますが。

9か10かの違い…ええ、とても大きいですね。
だって使っている数字が一つか二つかの違いですもの。
十の位が0と1の違いですもの。
これは実質10の違いと言っても過言ではないでしょうw

未亜はまだ真覚醒はしてないと思います。
ここからどんどん進んでいくかも…。

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