黒い種 キラ君奮闘？物語
第４７話 天才の挫折
キラ・ヤマト
人類史上最強のスーパーコーディネーター。
だが、あらゆる技能を備えている彼にも唯一足りないものがあった。
それは『経験』である。
「このっ・・・！！！」
目前に迫るアビスのビームランス。
それをバーニアを噴射して辛うじてかわした。
そこへ上昇したフリーダムを待ち受けていたかのようにカオスの一斉射撃が追い打ちをかける。
「チィ！」
何重にも襲い掛かるビームとミサイルの嵐。
それをおおよそモビルスーツでは不可能と思われる動きで回避。
しかし全て避ける事はできずリアウィングの一部が吹き飛ばされる。
『もらったぜ！坊主！』
衝撃により動きの乱れたフリーダム。
その隙を突いて直上からビームサーベルを構えたウィンダムが飛来。
いつぞやの氷塊の恨み！と言わんばかりの気迫。
直接通信によってパイロットの声がキラに届いた。
「へっ！オッサンにやられるか！」
が、フリーダムも腰に装備されたサーベルを引き抜き応戦。
そのままウィンダムを受け止め、かつ勢いを利用して受け流し、機体を海面へと投げ飛ばした。
「クソォ～！！！だが俺は２０代だ～～～！！！」
「ふぅ・・・言ってろ」
・・・どんな状況でもこの点だけは譲れないらしい。
彼の叫びと同時にウィンダムは海中へと沈んだ。
が、それと入れ替わるようにアビスが浮上。
一瞬集中の途切れたキラの背後を取り、
両肩のシェル状シールドを展開して内蔵されたビーム砲、連装砲を放つ。
「しつこい！！！」
近距離から放たれた攻撃をシールドで防ぐ。
しかし強度限界を超えたのか、防ぎ終わるのと同時に爆散した。
と、その爆発で生じた黒煙を利用しアビスに突っ込むフリーダム。
アビスは黒煙の中から突如現れたフリーダムに反応が遅れる。
そのまますれ違いざまにコックピット部分をサーベルで両断・・・しかけて失敗。
再びカオスから放たれたミサイルが襲い掛かった。
「クッ！このままじゃマズイ！」
攻撃を中断し回避行動に移る。
忌々しげに舌打ちするキラは、かつてないほどの焦燥感に駆られていた。
キラ・ヤマトに足りない『経験』
そう、彼はモビルスーツでの実戦経験が恐ろしいほどに少ないのである。
しかも、その数少ない実戦も電子戦闘、つまりハッキングで乗り切っているのだ。
勿論シミュレーター訓練は多くこなしているのだが、それでも実戦とは違う。
対モビルスーツの戦闘など行っていないに等しいのである。
もし彼の相手が並みのパイロット、機体であれば全く問題にはならない。
それが出来るだけの技量がキラにはある。
だが今戦っている相手は違う。
パイロットとしての技量も標準より上、そして乗っている機体の性能も高い。
何よりもキラ以上の経験を積んでいるのである。
いくら技量があったとしても、それを生かせるだけの下地がキラには無いのだ。
「シン、そっちは大丈夫か？！」
迫り来る機体を何とか退け、相棒であるシンに通信を送る。
数秒の空白の後、シンからの返信があった。
『キラさん！このままだとちょっとヤバイです！！』
焦燥した様子の声。
やはりシンも追い込まれていた。
純粋な戦闘経験で言えばシンはキラよりも上である。
しかし、シンにはキラとは別の問題点があった。
彼の乗る機体『デスティニー』
現在のシンの技量では、デスティニーの性能を生かしきる事が出来ないのである。
勿論彼が未熟と言う事ではない。
それ以上にデスティニーが高性能なのだ。
いくら機体が高性能でもそれを扱えなければ宝の持ち腐れなのだった・・・
一方、オノロゴ島上陸を防ぐべくモビルスーツ部隊の指揮に回っているカガリ。
彼女もまた自ら機体を駆り、獅子奮迅の活躍を見せていた。
「次から次に！このッ！！！」
敵をロックオンしライフルを連射。
立て続けに４機を鉄屑へと変える。
キラ、シン、アスラン、ルナマリアと、『女神の使徒』内においてはもっとも未熟とされているカガリ。
とは言え一般のパイロットなど比較にならないだけの技量を備えている。
もし軍ならば十分エースとして活躍できるほどだ。
『カガリ様！これ以上は無理です！』
『キラさん達はまだなんですか？！』
『このままじゃ押し込まれちゃいますよぉ！』
そんなカガリの元に、立て続けに入ってくる劣勢を知らせる通信。
通信してきたのはアサギ、マユラ、ジュリの３人。
元々モルゲンレーテのテストパイロットをやっており、
オーブ軍パイロットの中でもかなりの腕を持っている。
この戦いでもカガリの補佐として、敵がもっとも集中する箇所を守っていた。
「弱音を吐くんじゃない！キラ達ならきっと何とかしてくれる！！
私達は今出来る事を精一杯やるしかないんだ！！！」
３人を一喝するカガリ。
彼女とてこのままではマズイ事くらいわかっている。
しかし、そんな状況だからこそ自分に与えられた仕事を完璧にこなすしかない。
何と言っても、愛するキラに託されたのだから。
「・・・そうよね。キラさんは私たちを信じてくれてるんだから」
「その私たちが弱音なんて吐いてちゃだめよね！」
「そうよ、キラさんが敵を倒すまで、頑張らなきゃ！！」
そんなカガリの発破が効いたのか、３人娘にも気合が漲る。
しかし、
『ジュリ、マユラ、さっさと終わらせるわよ！』
『ええ、早く戦いを終わらせてキラさんからご褒美もらわなきゃ』
『あ、マユラ、アサギ！今度は私が最初だからね！
この前はマユラとアサギが２人同時だったんだから』
いざ敵集団に突っ込もうとした瞬間、カガリの耳に入ってはいけない会話が入ってしまった。
既に何かやっちゃっていたキラ君でした（笑）。
「・・・・・・お前たち、今のはどういうことだ？」
『え？どう言うって・・・あ』
言われて初めて気がついた。
自分たちが口走った事の重要性に。
「・・・・・・まあいい、帰ったら詳細に説明してもらうからな」
強烈な殺気を叩きつけて通信をきるカガリ。
そして敵集団目掛けありえないスピードで突撃していった。
なんだか普段よりもルージュが赤い気がする。
それこそ、血を思わせるほど赤く・・・
余談ではあるが、カガリのルージュはこの戦い以降、
『赤き魔神』として敵味方から恐れられる事となった。（特に某３人から）
「・・・・・・完全に僕のミスだ」
一方、戦いの後再入院が決まってしまったキラ。
彼は今、己の失態を悔やんでいた。
元々この作戦自体が無茶苦茶なのである。
キラとシンが動けない以上、勝ち目はゼロだ。
『キラさん！危ない！！』
「！！！」
シンの声に咄嗟に反応し、フルスロットルでバーニアを噴出。
襲い掛かるＧを堪えながらも機体を急上昇させる。
刹那、
ドカァァァァァン！！！
フリーダムの右足が爆散する。
海中に叩き込まれたウィンダムがいつの間にかフリーダムの背後に接近。
キラの一瞬の油断を突いてビームライフルを放ったのだ。
『見たか坊主！！！』
勝ち誇った声で高らかに告げるフラガ。
やはりオッサン発言を気にしているらしく、
普段よりも好戦的になっている。
「すまない、シン」
シンに礼を述べるキラ。
上昇が一瞬でも遅れていれば間違いなくコックピットを撃ち抜かれていただろう。
『お互い様ですよ』
それだけ言ってシンからの通信が切れる。
彼とてキラ同様に３機を同時に相手しているのだ。
いつまでも話している余裕は無いのだ。
「とにかく考えるのは後だ。今はこの状況を何とかしないと・・・」
『皆さ～ん、聞こえますか～？』
「・・・・・・へ？」
気合を入れ直し、再び敵めがけて向かおうとした瞬間、
突然目の前に見知った顔が現れた。
女神、ついに降臨。
あとがき
え～、本ＳＳでは滅多に無い戦闘シーンです。
このままカリダさんに繋いでもよかったんですが、
それではあんまりかなっと思ったのでこの話を追加いたしました。
キラ君かなり凹み気味です。
ですが、このあとに繋げるために必要だったのであえてこの展開にしました。
連合、オーブ両軍の現在の技術水準ですが、
基本的に種デス時代としております。
すなわちオーブの主力は『ムラサメ』、連合の主力は『ウィンダム』です。
なお、ダガーはとある都合上ここでは出ません。
なぜかはもう少し話数が進めばわかります。
なお、原作よりもシンの腕は未熟気味です。
いよいよバトル編完結。
カリダは何をする？
アズラエルはどう切り返す？
次回『企業マン ＶＳ 黒き女神 勝利者は誰？』にて・・・
サブタイトルは変更することにしました。
やはり内容にあっていないので・・・
D,様・イワッペ様
レスありがとうございました。
