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「幻想砕きの剣 3-3(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2005-07-15 23:40)
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幻想砕きの剣 第三章 三節
   大河痛恨のミス!・僧衣の下にそれは反則・ゾンビ娘登場!  


 ブラックパピヨン……かどうかはさて置いて、怪しい人影を見失った大河は駆け足で通路を駆け戻る。
 追いかけっこの経過で、随分目も慣れてきた。
 足元に転がる石を避け、極端に柔らかそうな土を飛び越えて、記憶を辿ってベリオと未亜の居た場所に戻ってくる。
 しかし、そこには誰も居なかった。
 どこかに隠れているのかと思い、大河は声を張り上げる。


「委員長!
 ………委員長?
 おい、返事しろって!
 墓場が怖くて気絶したのかぁ?
 おーい」


 しかし、声に応える者は誰一人としていない。
 本当にベリオが気絶しているのかと、隠れられそうな所を覗き込むが何もない。

 焦った大河は墓石に近寄り、先程覗き込んで調べていた墓を探す。
 一つだけ墓石の前に大きな穴が開いている。
 その墓石に近寄ってしゃがみこむと、紛れもなく先程見た遺影と同じものが見つかった。


「これは確かにさっきの墓…。
 って事は、道を間違えたわけじゃない。
 ここは確かに委員長と未亜が居た場所だ。
 だってのに………畜生ッ、ドジった!」


 恐らく、自分が墓前の穴から這い出してきた何者かに気を取られている隙に、ブラックパピヨンか、何かしらの襲撃を受けたのだ。
 自分の迂闊さに歯軋りしながら、大河は這い蹲って地面を凝視し始める。
 未亜が倒れていた場所を中心に、それこそ血走った目で何かを探し始める。


(いくら雰囲気に呑まれて恐怖で固まっていたとはいえ、委員長が抵抗も出来なかったなんて考えられない。
 しかしホーリースプラッシュどころか、ホーリーウォールを使った痕跡さえないのはどういう事だ?

 落ち着け、落ち着いて考えろ……!
 ここを離れて、戻ってくるまで長く見積もっても15分。
 片方だけならともかく、人間2人を大きく移動させるにはちょっと時間が足りない。
 埋められてる?
 周囲にも土にも、さっきと変った様子はない。
 周囲に生き物がいた気配もない。
 だからこの地下に何か潜んでいるとしたら、その巣はもっと遠い所だ。

 問答無用で奇襲を受けて、抵抗の間もなくやられた……?
 それとも、ひょっとして気絶したままの未亜を人質にとられたのか?

 もし前者なら、未亜と委員長を運んでいったのは……気配もなく、足音を殺し、そして気絶した2人を一度に運べる巨体を有す。
 それだけの巨体なら、この柔らかい土に何か足跡が付いているはず…。

 なら後者ならば?
 委員長が何か目印を残してるはずだ…。
 それに敵は人質を取れるほどの知能を有している。
 モンスターじゃなくて人間臭いな…。

 とにかく手がかり! 
 探せ、探すんだ!)


 目を限界まで見開いて探す大河の掌に、ちょっと変った感触が感じられた。
 目を向けると、柔らかくなりすぎた土に二つの軌跡が走っている。
 大河が感じた感触は、普通の地面と軌跡がつけられた地面の感触の差だ。
 墓石の傍から発生して、真っ直ぐ通路に続いている。


「これは……未亜を引き摺った後か!?」


 言い終わる暇もなく、大河は弾かれたように走り出す。
 地面を注意深く観察しながら走るので、不自然な前傾姿勢である。
 所々で途切れる軌跡を注意深く観察し、また想定して微かな痕跡を追う。

 明らかに痕跡は、大河達が歩いてきた道を正確に逆行していた。
 それに気付いた時、大河の心に疑念が芽生えたが、焦る心がそれを打ち消してしまった。



(未亜!未亜!未亜!未亜!未亜!委員長!未亜!未亜!)


 何と言うか、未亜とベリオの比重があからさまに感じられる心の声だ。
 しかしそれを聞くものは誰も居ない。
 地面を睨みつけながら、それこそ四つん這いにならんばかりの姿勢で猛スピードで突進し、大河はあっという間に地下室から飛び出した。
 しかし、大河の進撃はそこで止まらざるを得なかった。
 大河が目印にしていた軌跡は、固いタイルで固められた廊下にはつかなかったからだ。


「クソッ、軌跡が途切れちまった…。
 地面に積もった埃は………ダメだ、地下とここの気圧差で風が起きやがったな」


 地面には埃が積もっていたが、大河が扉を開けてしまったせい、時々風が巻き起こっては埃を掻き乱している。
 幸いな事に暫くは一本道だったので、大河は周囲を観察して何か手がかりがないか考えを巡らせる。


「…………そうだ、土!
 あれだけ引き摺ってたんだから、未亜の足には地下でついた泥や土が付いてるはずだ!」


 そう考え付くと、大河は再び地面を睨み出した。
 特に注意すべき箇所は、曲がり角や階段。
 ベクトルを変える際にこそ、土は削り落とされる。

 地下に降りてきた階段を見ると、そこには段々に土が付着していた。
 大河は一気に階段を駆け上る。
 大広間まで一気に駆け抜けて扉を開けると、そこには探し人が転がっていた。


「未亜!」


 視線で周囲を警戒しながらも、一目散に大河は未亜に近づいた。
 まず最初に呼吸を確認し、外傷がない事を確認してほっと息を撫で下ろす。

 すぐにベリオの姿を求めて周囲を見回すが、ベリオの姿は何処にもなかった。
 押し込まれていた疑念が、再び顔を出した。
 しかし、今はそれよりも優先するべき事がある。


「未亜、起きろ。
 しっかりしろ、もう墓場は抜けたぞ」


「………ううぅ…うん………?」


「起きろって!」


「……お兄ちゃん?
 …………ああああああ!
 わ、わ、わた、私の足、足に!
 なんか手が! 腕が! 妙に冷たい感触がぁ!?」


「落ち着けい!」


   ゴスッ!


「あだっ!」


 錯乱しかかる未亜の脳天に、情け容赦なくチョップを叩き込む大河。
 涙目になって頭を抑えているが、自分が居るのが墓所ではないと気が付いたようだ。
 恐る恐る自分の足を見て、腕も手形も付いてない事を確認して安堵の溜息をついた。 


「お兄ちゃん、ここは……地上にあった建物?
 ……あれ?
 ベリオさんは?」


「チッ、やっぱりずっと気絶してたのか…」


「むっ。
 何か文句があるんなら、お兄ちゃんも正体不明の手に掴まれて……どしたの?」


 口惜しげに吐き捨てる大河にムッときた未亜だが、大河が妙に慌てているのに気がついた。
 未亜は何かを探すように細められた目が、まるで犯人の手がかりを探す探偵のようだと思った。
 見事にドンピシャである。


「さっきの手の主を追っかけて、地下を走り回って来たんだが…。
 戻ってきたら、委員長も未亜も居なくなってたんだよ。
 それで大慌てして、地面に残ってた軌跡を必死で辿って来たんだけど……」


「べ、ベリオさんが行方不明って事!?」


 慌てて立ち上がり、未亜は周囲を見渡した。
 ベリオの姿は何処にも見えない。


「大変!
 ええっと、どうすれば…そうだ、110番!
 って意味がないよ!
 だからその、ええっとまず学園長に……ううん、守衛さんに連絡して…」


 今度は未亜が大慌てしだした。
 しかし、打って変わって大河は静まり返っている。
 目を閉じ、人差し指と中指を揃えてコメカミに当て、じっと何かを考え込んでいた。

 しばらくすると、右往左往する未亜の襟首をとッ捕まえる。


「うきゅっ!?
 な、何するのよお兄ちゃん!」


 非難がましい未亜の視線をものともせずに、大河は厳格な口調で話し始めた。


「いいか未亜、よく聞けよ。
 委員長は、十中八九ブラックパピヨンと一緒にいる」


「ええ!?
 それって行方不明より大事じゃない!」


 首を押さえながらも立ち上がり、未亜は何所にともなく走り出そうとした。
 しかし、大河は未亜の手を掴んで制止する。


「まあその通りだが、最後まで聞けって。
 黙ってたけどな、礼拝堂の裏でハイヒールの……十中八九ブラックパピヨンの足跡を見つけた」


「足跡!?
 でも、あの辺りをうろついていたのはカモフラージュなんじゃ…」


「ブラックパピヨンは愉快犯だぞ?
 まともな理屈や行動原理なんざ通用しないんだよ。
 とにかく、足跡は明らかに礼拝堂に出入りしてたいた。
 だってのに、委員長はブラックパピヨンの事なんか全然気付いてないと言ってた」


「………まさか……ベリオさんがブラックパピヨンの共犯だって言うの?
 あのベリオさんにそんな事出来る筈ないよ。
 あんなに真面目で、責任感や正義感が強いのに…」


「俺もそう思う。
 厄介なのは、委員長が……何かの術で、操られていたらって事だ。
 地下で未亜を引き摺った後は、俺たちが通った道を正確に戻ってた。
 つまり、ブラックパピヨンが俺たちの後を尾けていたか、委員長が何らかの合図で催眠状態とかになって自分で歩いていったかって事になる」


 恐らく後者である。
 大河は15分で気絶した人間2人を移動させるのは厳しいと判断した。
 しかし、移動させるのが1人でいいなら話は別だ。
 催眠状態か何かに陥ったベリオが、未亜を引き摺っていったのであろう。
 召喚器を使えば、肉体的なハンデも十分克服できる。


「操る…?
 確かにそれなら、ベリオさんを協力させる事もできるだろうけど…。
 それなら尚更早く探しに行かなくちゃ!」


「おう!
 ……とは言っても、何所に?」


「何所にでもだよ!
 とにかくベリオさんは地下には居ないんでしょ?
 この建物から出られたら追跡の仕様がないし、そうなったらもう足を使って探すしかないじゃない!」


 未亜には洗脳がどうのと言われても、実感が沸かないらしい。
 どれだけ厄介で残酷なのか、理解が追いつかないのだ。
 身に染みている大河としては、少しでもブラックパピヨンの行き先を限定し、無駄な行動を削減して行動したい。
 しかし、この場合は未亜の言う事が正論だった。
 どうせ推測は推測でしかなく、論理的に反論のしようがなかったとしても、外れる事はありうる。
 ならばやる事は一つだけである。


「そうだな。
 俺とした事が、柄にもなく考えすぎちまった…。
 地下室の空気に当てられたかな?」


「お兄ちゃん、明日から朝一で地下室に潜って来て


「……マジな顔で言うんじゃない。
 未亜、とにかく行くぞ!」


「うん!」


 2人は2階を覗いてから、建物を飛び出した。


 召喚器まで呼び出して、二人は全力ダッシュでメインターミナルまでやって来た。
 走ってくる途中で気がついたが、学園内が妙に騒がしい。


「何かあったのかな?
 ……やっぱり、ブラックパピヨンが出没したのかな」


「多分な。
 ヤツが何であんな所にいて、わざわざ委員長を連れて行ったのかは解らんが…。
 出てきたついでに一働きしようとしても、それほどおかしくない」


「そこだけ聞くと勤労っぽいんだけどねぇ…」


 走って会話しながらも、2人の目は屋根の上や路地裏などを見渡していた。
 その目が、中庭に入った途端に倒れている人影を発見する。


「もしもし、どうかしたんですか……って委員長!?」


「えっ!?」


 学園長にベリオ誘拐を知らせる為、大河と分かれて走り出そうとしていた未亜は強引に足を止めた。
 そこには確かに横たわるベリオがいる。
 特に外傷はなさそうだが、意識を失っていた。


「なんでベリオさんがこんな所で倒れてるの?
 ブラックパピヨンと一緒だったんじゃあ……」


「さて…所詮は予想でしかなかったしな。
 ………うん、気を失ってるだけだな。
 ま、とにかく一安心だ」


 ベリオを抱き上げて、大河はベンチに下ろしてやった。
 ちょっと嫉妬した未亜だが、この状況で悋気を表に出すほど我侭ではない。
 それでも優しげな視線で大河がベリオを見つめているのが気に入らず、未亜は強引に大河の注意を引き戻した。


「それでお兄ちゃん、さっき言ってた、ベリオさんが操られてるって話だけど…」


「ああ、まだ話さない方がいいだろうな。
 いつかは言わなきゃいけない事だけど、それはブラックパピヨンを捕まえてからだ」


「うん、そうなんだけど……。
 でも、やっぱり話した方がいいんじゃない?
 感情的な理由じゃなくて、例えば…。
 ベリオさんがブラックパピヨンを追い詰めた時に、操られちゃって結局逃げられちゃいました…なんて事になっちゃうんじゃ…」


「ん、それもそうか…。
 そうは言っても、ブラックパピヨンがどうやって操ってるのか解らないと、対抗策がないからなぁ…。
 ………じゃあ、今度待ち伏せをかけるから、その前後に話そう」


「待ち伏せ?
 ああ、礼拝堂で?」


 先程大河が、ブラックパピヨンは礼拝堂に出入りしている、と言っていたのを思い出す。
 待ち伏せをかけて一気に捕縛してしまえば、後はどうとでもなる。
 待ち伏せ前にベリオに余計な情報を与えると、ブラックパピヨンに情報が漏洩しかねない。
 話すのならば、仕掛ける直前か直後だろう。


 その時、気を失っていたベリオが呻き声を出した。


「ん…んん……むぅ…」


 が、再び眠った。
 無言で未亜が、正確無比のデコピンをかます。
 しかも召喚器の身体能力強化のオマケつき。

  ビチィ!


「はうっ!?
 いたたたた!
 な、何事ですか!?
 ……あれ?
 未亜さんと大河君………ここは?」


 未亜のデコピンは、ベリオの眠気を見事に消し飛ばしたようだ。
 赤くなった額を抑えて、ベリオは周囲を見渡した。
 ベンチの上で上半身を起こし、大河と未亜を交互に見る。
 夜風が身に染みたのか、身震いをした。

 何はともあれ元気そうなので、未亜は一安心している。


「地下でブラックパピヨンに襲われたんだよ」

「ブラックパピヨンに?
 み、未亜さん、お怪我はありませんか!?」


 自分が何故気を失っていたのか、ベリオはまだ思い出せない。
 未亜の足にナニかが取り付いて、そして未亜が気絶した事は覚えている。
 その後、大河が未亜を自分に任せてナニかを追いかけていった事も。
 しかし、その後が思い出せない。
 今にも何かが出てきそうな雰囲気に戦々恐々だったが、それだけで気を失うほどヤワではないはずだ。

 経過はどうあれ、自分がブラックパピヨンに襲われたというなら、一緒に居て抵抗できない状態だった未亜が何をされているのか。
 考えるだけでも血の気が引いた。


「うん、私は大丈夫だよ。
 それよりベリオさんの方は?」


「そ、そうですか………ふぅ…。
 私は…大丈夫です。
 暫く夢見が悪そうですけど…」


 未亜の返答に心底安堵する。
 しかし、すぐにベリオは大河に振り返って頭を下げた。


「大河君、申し訳ありません…。
 未亜さんの警護を頼まれたのに、不甲斐なく……」


「そ、そう頭を下げられても…。
 元々戦力を分散したのは俺のミスだし……」


 礼拝堂裏でブラックパピヨンの足跡を見つけた時から、大河はベリオが操られているかもしれないと思っていた。
 だというのに当のブラックパピヨンらしき人物を追いかけて、その傀儡かもしれないベリオを未亜の警護につける。
 自分を犬だと思っている狼に、羊の番を頼むようなものである。
 しかし、その事実をベリオに告げるわけにはいかない。
 良心の痛みと未亜の突き刺さる視線を感じつつ、何とか誤魔化そうとする。


「そ、それにしても妙だよな!
 ブラックパピヨンは何で委員長をこんな所に置いていったんだ?」


「あ、それ私も知りたい。
 実を言うと、私も地下から引きずり出されて放置されてたの。
 特に何かされた様子もなかったし…」


 そう言うと、未亜はベリオを上から下までじっくり見た。


「ひょっとして、何か盗られてるかもしれませんね。
 特に貴重な物は持ち歩いていませんでしたが……念のため、チェックしてみます」


 ベリオは立ち上がると、ポケットや懐を改め始めた。
 何か強いショックでも受けたのか、まだ体がフラフラ左右に揺れて危なっかしい。
 財布やらなにやらを取り出して、中身を覗き込んでいるベリオ。

 その傍らで、大河は学生寮の方に目をやっていた。
 特に何が見えるわけでもないが、どうも妙な騒がしさが伝わってくる。
 未亜もそちらに注意を向けて首をかしげた。


「学生寮が騒がしいね。
 なんかこう、殺気立ってる……違う、混乱してるような」


「ああ。
 やっぱり、ブラックパピヨンが何かしでかしたんだろ」


「えっ!?」


 大河の言葉を聞いて、ベリオは急旋回して学生寮の方を向く。
 しかし、それがいけなかった。
 ただでさえ三半規管が酔っ払っている状態で、そんなマネをすればどうなるか。


 ビタン!


「いったぁー!」


 ベリオは見事に尻餅をついてしまった。
 未亜が苦笑して気遣ってくる。


「慌てるのはわかるけど、そのまま急いで行っても途中でコケるだけですよ。
 ほら、立てますか?
 とにかく平衡感覚を……………をぅ?」


「……………」


 腰をさすっているベリオを見て未亜は言葉途中で固まり、大河は瞬き一つせずにベリオを見つめている。

 ベリオがどうしたのかと訝しんでいると、残像が残るほどのスピードで未亜が動いた。
 大河の背後に回りこみ、両手を大河の目に被せる……んで、全力で掴んだ。


「いでででで!
 未亜、食い込んでる食い込んでる!
 目玉が潰れるーーーー!」


「潰れてもいいから見るなー!
 ベリオさん、なんて下着を履いてるんですか!?」


「え? え?」


「みぎゃああああ! ぐふ…」


 未亜は青筋が見えるほど手に力を篭め、視界を塞ぐというより目玉ごと潰す勢いである。
 目の前の惨劇と未亜の迫力に戸惑うベリオは、混乱して未亜の言葉の意味すら理解できない。
 ただオロオロするばかりである。

 唖然としたまま下着を隠そうともしないベリオを見て、未亜は段々ヘンな方向にヒートアップしはじめた。


「それでお兄ちゃんを誘惑するつもりですか!?
 ちょっと人よりおっぱいが大きくて、メガネまでかけたマニア向けビジュアルだからって!
 清楚な外見で、私脱いだら凄いんですとか言う気ですか!?
 キィーーーーーッ!


 激情のままに体を前後に揺さぶる未亜。
 どっかのキシャーが憑依しかけている気がする。
 当然の事ながら、未亜に目玉付近を全力で掴まれている大河も揺れている。
 前に後ろに、右に左に揺れる度に未亜の指が一層強くめり込んでいく。
 あまつさえ血涙まで出始めた。

 何がなんだかわからなかったベリオだが、ようやく未亜の言葉を理解してベリオは真っ赤になりながら丸見えだった下着を隠す。
 既に大河はぐったりしたまま動かない。
 ひょっとしたら、指が眼球を突き抜けて脳にまで入ってるのではなかろーか?


「ゆ、誘惑なんてしてません!
 大体そこまで言われるような下着じゃありませんよ!」


「ムキャーーーーッ!
 そんな大胆どころかフツーの人なら引くような下着でナニを言いマスカー!
 それともベリオさんにとってはそれが普段の下着だとでも!?
 それじゃ勝負下着の立場がなくなるでしょーがぁー!
 そんなの着けて、お兄ちゃん以外の誰に見せるって言うのよー!?
 大方昨日の指導でお兄ちゃんにムチャクチャされて、味を覚えちゃったんでしょ!?」


ぶ、侮辱もいい所です!
 確かにちょっとは『このまま流されるのもいいかなー』とか思っちゃいましたが、私は神に仕える身です!
 清廉潔白、清貧を旨とし、欲望に流される事を禁じる僧侶なのです!
 断じて誘惑などしていません!
 大体、私の下着が大胆だというのなら、未亜さんはどうなのです!?
 ステテコパンツかオムツでも履いているのですか!?」


「そういう次元の問題じゃないでしょ!
 なんなんですか、何所で買ってきたんですか!?
 そんなヒモの水着みたいな下着、どっかのアダルトショップでもなきゃ売ってませんよ!」


「そんなの普通のお店で…。
 ヒモの水着みたいな………?
 ちょ、ちょっと待ってください!」


 そう言うとベリオは一端口論を中止して、後ろを向いてゴソゴソ下着を確かめ始めた。
 未亜はさすがに息切れしたのか、荒い息をついている。
 大河はいつの間にやら放り出されて、地面でビクビク脈打っていた。
 目玉は無事なようなので、5分もすれば復活するだろう。


「なっ……なんですかこれぇ!?」


 ベリオの絶叫が響き渡った。
 背を向けられているので解らないが、ベリオはスカートを捲って自分の下着を検分したようだ。
 一瞬固まって、すぐにスカートを抑えて左右を見渡す。

 ヒモのような下着をつけて、夜の屋外で自分のスカートを捲る少女。
 誰かに見られていたら、きっと世の果てまで追いかけていって口を封じる事になるだろう。
 その時はきっと大河が最優先ターゲットだ。
 幸いな事に、大河は気絶したままなのでターゲットにはならなかった。


 未亜は相変わらず棘のある口調で話す。
 瞳孔に光が見えない。
 その表情はわかりやすく言うならば、半分白化している、と言った所か。
 しかし、ベリオにはそんな事まで気にする余裕はカケラもなかった。


「なんです?
 開いていた穴が塞がってた、とでも言うつもりですか?」


「ど、どこにが開くというのです!?」


「ああ、確かになんか開けたら速攻で千切れますね」


「千切れなくても開けません!
 そうじゃなくて、私はこんなふしだらどころか変態チックな下着なんて持ってません!
 増して自分で履くなんて論外ですっ!
 こ、これは何かの陰謀なんです!
 きっとブラックパピヨンが、私を気絶させた後に私の下着と取り替えたんです!」


 涙目になって主張するベリオ。
 無表情かつ白い目でベリオを眺める未亜。
 血の涙池を作って倒れたままの大河。
 これは如何なる地獄なのだろーか。

 その地獄に、一人の訪問者がやって来た。
 彼は生贄なのか、それとも地獄を見て回りながらも無事に帰れるダンテなのかは、言わなくたって誰でも予想がつくだろう。
 ましてソイツはギャグキャラだった。


「おーい大河ー!
 未亜さーん、寮長ー!
 聞こえたら返事してくれーぇ!」


 学生寮の方角から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
 その声に反応して、大河がピクリと動いた。
 だんだん足音が近づいてきて、中庭の入り口で止まる。


「セ、セル君?
 何かあったのですか?」


 何か揉め事があったのなら、それに乗じて未亜の視線から逃げようと考えているベリオ。
 そんなベリオの内心を半ば予測しながらも、未亜はセルに呼びかけた。
 ………ただし目だけは白化したままだ。

 乱入して来たセルも、2人の間にある殺伐とした空気を感じ取ったらしい。
 今すぐ後ろを向いて逃げ出したくなる衝動を堪えて、セルはその場に踏みとどまる。
 その時彼は、卒業して戦場に出たとしても、これほど神経を圧迫する戦場はあるまいと確信したそうだ。


「セルさん、何かあったんですか?
 私、まだベリオさんにお話があるんで急いで話してくださいな」


「り、了解しました未亜様!
 実は学園内に、ブラックパピヨンが出没したのであります!」


「「…………あ」」


 未亜とベリオは、下着騒ぎでブラックパピヨンが起こしたらしき騒ぎの事をすっかり忘れていた。
 セルは血の池に寝転がっている大河を横目でチラチラ見ながら報告を続ける。
 喋る事がなくなったら、その場で粛清されそうな予感がしたからだ。


「ブラックパピヨンは、男子生徒や男教師を怪しげな薬品でラリさせ、女性からは下着やら何やらを盗み、暗闇に紛れて逃走いたしました!
 学園は門を閉め、緊急避難と言うことで学生達は寮で待機を命じられております!
 自分は、寮の中には大河も未亜さんも寮長も見られなかったため、何処かでブラックパピヨンの罠に嵌められて動けなくなっているのではないかと懸念して探索に出た次第であります!」


「心配してくれたんですか…。
 ありがとう、セルさん………」


 未亜に笑いかけられて、心躍るセル。
 何とか白の笑みは引っ込んでくれた。
 そうでなければ、いくらセルと言えども未亜の笑顔を見て失神したかもしれない。

 一安心して、今度は視界の端で転がる親友を見た。
 相変わらず復活してない。


「ところで、大河は大丈夫なんスか?
 さっきから妙に復活が遅いんだけど……」


「そう言えばそうですね。
 未亜さん、どれだけ力を入れて掴んだんですか?」


「さぁ……。
 慌ててたから、思いっきりとしか言いようが…」


 思いっきり目玉を潰したのか?
 さすがに心配になって、うつ伏せの大河をひっくり返す。


「「「………………」」」


「……すぴー………」


 寝ていた。
 最初は本当に気絶していたのだが、そのまま本格的な睡眠にシフトしたらしい。
 時間が時間だから眠ったっておかしくないが、どういう神経をしているのだろうか。


「………起こしますか?」


「いえ、別にいいんじゃないですか?
 このまま放っておいても、多分風邪とか引きませんよ」


「りょ、寮長…そういう問題では…」


「冗談ですよ。
 セル君、大河君を運んでくれませんか?
 私も手伝いますから……」


「素直に起こしましょうよ!」


 そう言ったものの、大河の顔は目玉付近から流れ出た血がベタベタ付いていて、あまり近くで見たくない。
 仕方なく、セルは眠りこける大河の頭にヤクザキックをくれてやった。
 その後妙にスッキリした顔をしていたのは気のせいだと思いたい。


「いててて………何事だ?
 なんか万力で顔とか目とか挟まれた後に、ヤクザキックを食らったような痛みを感じるんだが…」


「「あっはっは、そんな事あるわけないじゃない(か)」」


 首謀者の2人は揃ってしらばっくれた。
 ベリオは告げ口する事もなく黙っている。
 ただ単に、ヘタな事を言うと未亜がさっきの話題をぶり返すかもしれないからだ。

 万が一、未亜と一緒に白けた笑いを浮かべているセルに、今自分がヒモ同然の下着を着けている事を知られたら……。


(セル君、その時は微塵の躊躇もなくアナタをヌッコロします


 どうせ野獣になるだろうから、正当防衛確立もバッチリである。
 僧侶なのに殺生していいのかという突っ込みは華麗にスルー。


「それで一体何がどうなったんだっけ?
 ええと………なんか、すっげぇいいモノが見えたような……」


 そこまで言った大河は未亜の背後に、ユーフォニアを握り締めて据わった目をしているベリオを発見した。
 その目は、“それ以上いらん事喋ったらこの場で殺る”と訴えている。
 大河の防衛本能が全力で騒ぎ立てる。
 即座に大河は深入りをやめた。


「それより大河、学生寮に早いトコ戻ろう。
 20分くらい前にブラックパピヨンが現れて、怪しげなクスリで男子生徒の半分くらいが行動不能にされちまってるんだ。
 行動不能っつっても、ヤバそうなクスリでラリったっつーか酔っ払ったみたいな状態になってるだけだが…。
 それで学園全体に戒厳令が出ててな」


「戒厳令!?
 そりゃまた物騒な…」


 今までのブラックっパピヨンの行動は、あくまでもイタズラ程度で済んでいた。
 当人にとってはともかくとして、公的な立場から言えば笑って済ませられるようなものばかりだ。
 だというのに、今回は騒動の桁が違う。
 これは明らかに直接的な加害行動に分類される。


「実際に物騒なんだよ!
 そんで、明日辺りには大掛かりな山狩り……学園全体を動員して、ブラックパピヨンを探し出す事になったらしい。
 それまで俺たち学生は、寮内で待機してろって命令が下ったんだ」


「………そりゃ仕方ないか…。
 わかった、今日はもう帰って寝よう」


 そう言って大河は歩き出した。
 その頭の中では、予想外の大事になったため変更を余儀なくされた予定が、幾つも修正を加えられている。

 さっさと帰ろうとする薄情な大河を追って、小走りになるセル。
 その懐から、不意に幻影石が転がり落ちた。
 それに気付くことなく、セルは足を進める。


「この幻影石は…?」


 セルが幻影石を落としたのを見て、未亜がそれを拾い上げた。
 中身が気になったが、手紙と同じで勝手に中を覗くのは失礼だろう。
 そもそも未亜には、幻影石の使い方がわからない。
 素直にセルに幻影石を渡そうとした。


「セルさん、これ落としましたよ」


「へ?
 ありがとうございます未亜さん……って、げえっ!?」


「ん?
 どーしたセル……おおおおおっ!?」


 セルの悲鳴を聞いて振り返ると、そこにはパラダイスが広がっていた。
 街灯に照らされた中庭に、何人もの半裸の少女達が佇んでいる。
 それぞれが勝手に動き、中にはお喋りをしている者もいれば、肝心な所を覆い隠す布切れを今にも剥ぎ取ろうとしている者もいる。


「こっこここっここ、ココはニライカナイじゃあー!
 おねーさん、そんなに野外プレイがしたいんなら俺がいくらでもお付き合いしますー!?」


 反射的に飛び掛った大河の手は空を切った。
 あまつさえ、鈍く重い風きり音が大河の耳を打つ。


(い、イカン!
 未亜がいるすぐ傍でなんちゅー迂闊な…!
 このプレッシャーは、未亜の………!)


 着替え中のおねーさんをすり抜けた大河の目に、正面に立つ未亜が拳を振りかぶっているのが見えた。
 周囲の気脈だか龍脈だかからナニかが未亜の拳に集まって、金色の竜の幻影が見える。


「秘拳・黄竜ーッ!」

「げはぁーーーーっ!?」


 なんだかよく解からない、圧倒的な破壊力を秘めた未亜の鉄拳が炸裂した。
 後に大河は、ジャスティによる一撃よりも重かったと語る。

 一撃殴っただけのはずなのに、吹っ飛ばされて切り裂かれて、次いで何故か氷と炎が次々に襲いかかり、さらに明らかにベクトルを無視した急激な落下。
 大河はボロボロになって石畳に沈んだ。
 ピクピクしながら、必死に声を出す。


「み、未亜……お前どこでこんな技…」


「前にお兄ちゃんが連れて来た、緋勇さんが教えてくれたの。
 今まで何度やっても出来なかったけど、今のは普通に出来たわ」


「龍麻……覚えてろよあの野郎………」


 どうやら2人は、某黄竜の器と知り合いらしい。
 大河、お前はどこまで顔が広いんだ。
 しかし、秘拳・黄竜は一人にしか宿らない技のはずだが……どーなってんだろう?

 それはともかくとして、周囲の肌色の林はまだ消えていない。
 未亜は一体何事なのかと周囲を見回す。
 その間にも大河の視界を塞ぐために、顔の上半分を踏みつけている。
 大河が新たな世界に目覚めたかどうかは定かではないが、逆らう程の体力もなく、逆らえるほどの気力も残っていない。
 大人しく踏まれるままにしていた。
 踏むといっても、軽く足をのっけられているだけなので痛みはない。


「セル君!
 こ、これは一体どういう事ですか!?
 事と次第によっては、ブラックパピヨンより先に殲滅しますよ!?
 答えなさいって言ってるでしょうが!」


「ギブ!
 寮長ギブアップ!
 みぎゃーーー!」


「ギブはいいから、さっさとこの映像を消しなさい!
 さもなくば、私のこの手が真っ赤に燃えて、『泣け!叫べ!そして死ね!』と轟き叫びかねません!」


 なんかネタが混じってるぞ委員長。

 未亜の背後では、セルがベリオにネックハンキングツリーを喰らって吊るし上げられていた。
 離れている未亜の耳にも、ミシミシと頚骨が悲鳴を上げるのが聞こえている。
 さすがに首の骨がイカレると危険だが、状況が状況なので助け舟を出す気はない。

 未亜はさっきセルに渡そうとした幻影石が発動しているのに気がついた。
 どうやら何かの拍子にスイッチが入ってしまい、周囲一帯に記録されていた映像が映し出されたらしい。
 即座に未亜はジャスティを放ち、幻影石を粉々に打ち砕いた。
 途端に映像は消滅した。

 視界は塞がれていても聞こえてくる衣擦れの音に耳を澄ませていた大河は、危うく落胆の声を上げそうになった。
 もし声を上げていたら、きっと未亜は大河の上でタップダンスを踊ってくれただろう。

 未亜は大河の顔から足を退けて、ベリオに呼びかけた。
 映像が消えたのにも気付かず、顔を真っ赤にしたままセルを縊りあげている。


「ベリオさん、幻影石はもう壊しました。
 そろそろセルさんを放さないと、尋問もできない状態になっちゃうんですけど……」


「はい?
 あ、映像が消えてる……。
 で、セル君?
 これは一体………イ、イヤー!
 泡吹いておらはるー!


 方言混じりにベリオは絶叫し、思わずセルを放り出した。
 危険な状態にあるかと想われたセルだが、そこは学園一の耐久力と生命力を誇る傭兵科。
 どことなくカクカクした動きで、あっさり立ち上がった。


「あの……セルさん、大丈夫ですか?」


「はっはっは、だいじょウブですYo、3Aさn。(ブクブク)
 コれからワ、フヅミの♂と4デKuださヒ。(ブクブクブクブク)」


 明らかに大丈夫ではない。
 口の端から泡を吹いたまま喋るので、一言喋る毎に泡が弾けて消える。
 あまつさえ、酷く首を寝違えたような方向に……正確に表現すると、ありえない方向に首がひん曲がっている。
 そのくせ表情だけは笑顔なので、末期のジャンキーのように怖かった。

 未亜は、傭兵科にはこんなモノノケみたいな生き物ばっかりいるのかと本気で考えた。
 もしそうだったら、救世主なんぞ居なくても、きっと傭兵科の生徒だけで“破滅”は追っ払えるだろう。

 思わず後ずさるベリオと未亜。
 それと入れ違いに、大河がセルに接近した。


「0お?(ブクブク)
 ドー↓しんゆ「悪鬼退散!」


 ゴキリッ!


「ヲぐッ!?」


 滑るように接近した大河は、なんの躊躇いもなく首筋に上段回し蹴りを叩き込んだ。
 骨がずれた様な、或いは外れてからすぐにくっついたような音を立てて、何故かセルの首が普通の角度に戻される。


「っててて………乱暴な…。
 何とか首は治ったな……一応礼は言っとくぜ、大河」


「いや、いいさ。
 それよりも、まぁなんだ、冥福を祈るわ」


「はぁ?
 何言ってんだお前……………はぅ!?」


 哀れむような、死者に対する哀悼のような視線を向ける親友の言葉の意味がわからず、首をかしげたセル。
 しかし、その親友の後ろにはが立っていた。
 言い逃れをしようとするが、プレッシャーに押されて舌が回らない。


「それで………さっきの幻影石はなんだったんでしょうね?
 あれは女子更衣室の映像でしたが………なぜそれが幻影石に記録されているのでしょう?」


「あ、あはははは……ふ、不思議な事もあるモンですねぇ……」


「そうですねぇ……。
 今ユーフォニアがセル君に向けられて、未だ嘗てないエネルギーが収束されているのと同じくらい不思議ですねぇ…」


「そうね…。
 今にもジャスティの矢がすっ飛んで行きそうなくらい不思議だね…」


「み、未亜さんまで!?」


 セルの脳裏に、先日喰らった2人のコンビネーションがフラッシュバックする。
 あの時と違い説教はなさそうだが、どう見てもソレ以上に物理的破壊力が増している。
 さすがのセルも耐えられるかどうか。
 逃げ道がなくなった事を自覚したセルは、ならば向けられる矛先を逸らして、自分が被る負担を少しでも軽減しようとした。


(クッ、ならば大河!
 旅は道連れ世は情け容赦無し、貴様も地獄に引き擦り込んでくれようぞ!)


「えっとその、最初はブラックパピヨンを探すためにあちこち走り回ってたんス!
 ブラックパピヨンは女生徒の下着を盗むから、それらしい所に張り付けって大河に指示されてたんス!」


 親友相手に非道い態度だ。


「大河君、それは本当ですか!?」


 セルの口車にあっさり乗せられ、ベリオは大河にも鋭い……というより極端に目つきが悪くなった視線を向ける。
 しかし、大河はあっさりとこう言い放った。


「俺はブラックパピヨンが盗む物を考慮して、出没しそうな所を探せって言っただけだ。
 女子更衣室に忍び込めなんて一言も言ってない。
 その場に未亜も居たぞ。
 確認取ってみたらどうだ?」


 顔色を一切変えずに、淀みなく言い放つのがポイントである。
 確かに大河は指示してないが、それを仄めかすような事は言った。
 無論言質を取られないためだったが、この状況をしっかり予測していたらしい。
 ……だったら対策を練っておいて助けてやれよと言いたいが、大河はヤマタノオロチが潜んでいる薮をつつくような趣味はない。
 最初の予定通り、あっさりセルを見捨てて保身に走った。


「いえ、確認を取るまでもありません。
 例え大河君が指示していたとしても、それを実行に移したのはセル君です。
 まして盗撮するなんて………。
 本当に指示していたのなら、大河君にも後でオシオキをしますが…まずはセル君、アナタです」


「お兄ちゃんは本当に指示してませんよ。
 それなのに、お兄ちゃんを巻き込もうとするなんて……ちょっと怒りました」


「オシオキですね。
 それも全力で」


「命は保障しますから。
 でも精神の安定は諦めてくださいね」


「あ、ああああ………た、大河ぁ!?」


「すまんセル、今回ばかりは助けられん。
(俺のために犠牲になってくれ。 実際お前が勝手に解釈して暴走したんだしな)」


 最後の頼みの綱も無情に切り落とされ、セルは完全に取るべき手を失った。
 後はもう、少しでも深く自分の殻に閉じこもり、天災が少しでも早く過ぎ去るのを祈るばかり。
 覚悟を決めて十字を切り、薄情な親友と見たこともない神様に一頻り文句を言った。

 それから後の記憶を、セルは生涯語る事はなかった。


「うううっぎゃあああああああああ!!!!!!!!」


「……………………!!!!!」


「…………………………………………」


 オシオキが終わる頃、そこにはセルの姿をしたある意味無害な、別の意味では有害な物体がいたそうだ。


「はしれーはしれーマキ○オー……♪ おいつけおいこせひっこぬけー……♪」byセルビウム・ボルト


 『何でアヴァターの人間が地球のアニソン知ってんだ』とか突っ込んでやるな、頼むから。


「じゃあお兄ちゃん、お風呂から上がったら部屋に行くからね」


「おう」


「よーっく洗うから、何時もよりもずっとお風呂が長くなると思うよ」


「ん、わかった。
 よーく綺麗にして来いよ、俺の為に」


「もう…バカ……いつもそうだよ」


 もう少し会話をさせれば、砂を吐けそうな気がしてきた。


 不思議な言語を喋るセルを保健室に放り込み、未亜と大河は部屋に戻った。
 ベリオは寮に戻った事を報告しに行ったようだ。

 生徒には寮で待機と言われているが、それは所詮建前上の事らしく、何人か抜け出している生徒もいる。
 しかし時間が時間だし、王都に行こうにも既に門は閉じられている。
 抜け出すのは人目を盗んで教育上よろしくない事をしたい男女(たまに同性もいる)くらいで、殆どの生徒は寮で大人しくしている。
 そもそもクスリで動けなくなった生徒は殆どが部屋で眠るしかないので、自然と寮は普段よりも静けさに満ちる。

 三人が帰って来た時も、普段に比べると不気味なほど活気がなかった。
 しかし活気がないとは『いつもより静か』程度の意味であって、なにも元気がないわけではない。
 むしろ翌日に控えたブラックパピヨン捕獲のための山狩りに備え、皆が黙々と活気や怒気を溜め込んでいるようだ。
 壁一枚隔てて廊下を歩いている間でも、生徒達が持て余した興奮がはっきりと熱気として感じられる。


 そんな事はどこ吹く風とばかりに、未亜と大河はマイペースだった。
 山狩りなら今日も似たような事をしていたし、国家機密(推定)まで出て来たのだ。
 少々規模が大きくなったからといって、今更その程度で興奮して何にも手が付かなくなる、等という事はない。

 2人は何時も通りの事をして何時も通りに眠り、明日になれば山狩りに参加する。
 ブラックパピヨンの手掛かりは見つけたし、なんとかなるだろう。
 その程度のつもりだった。


 未亜は『何時も通りの事』をするために、念入りに体を洗いに行った。
 冷静に思い返してみれば、森に分け入り、地下に潜り、掃除もろくにされていない床に倒れと、散々な一日である。
 未亜は普段よりも念入りに、それこそ隅から隅まで洗い倒そうと決めていた。


(爪の間から髪の毛一本一本まで、最低2時間はかけて洗い流す!)


 気を入れすぎてのぼせ上がらなければよいが。
 その後、浴場ではシャンプーを二本近く、石鹸を軽く3個は使い切った誰かさんが目撃されたとか。


 大河はそれほど長い時間をかける気はなかった。
 何時もよりは丁寧に洗うが、それでも未亜の入浴時間には比べるべくもない。
 早々に入浴を終えて、代えの服に着替えてベッドに寝転がった。
 代えの服と言っても、学園から支給されたジャージのような服だったが…。

 すでに時刻は0時を回っていた。
 学生寮に帰る間に交わされた、ベリオとの会話を思い出す。


――でも、これなら反ってよかったかもしれませんね。
――ブラックパピヨンは、怪しげなクスリを使って学生を行動不能にしているんでしょう?
――多少はマヌケ扱いされるかもしれませんが、看板に傷はつかないはずです。


 理屈で言えば、間違ってはいないかもしれない。
 しかし、それとは別にしてブラックパピヨンを探し出し、捕縛する必要性があった。
 ベリオ当人は知らなかったが、事はすでに写真がどうのという程度の話ではないのである。


(委員長はまず間違いなくブラックパピヨンに操られてる。
 放っておけば、ヘタすると捨て駒にされて、委員長はとんでもない事になっちまうかもしれん…。
 何が何でも逃がすわけにはいかない。
 ………明日の山狩り、委員長は遠ざけておいた方がいいかもな。
 公衆の面前で委員長が操られて、ブラックパピヨンを手助けしたり生徒に危害を加えたら……いくら何でも、庇いきれないだろうなぁ…。
 いっその事、明日の朝辺りに委員長に話しちまうか?
 ブラックパピヨンに情報が流れちまうかもしれないが、それでも委員長が利用されるよりマシってもんだ…)


(あの地下はなんだったんだ?
 それに、あの時感じた違和感は……。
 ……あの墓石の下から出てきたのは誰だ?
 単純に考えれば、墓石の下に眠ってるのは死んだ本人だ…。
 つまりルビナスって人…もといゾンビ。
 ……しかし、ゾンビにしちゃ妙だったよな。
 妙に動きがすばしっこいし、委員長の持ってた聖水とやらをかけられてもダメージを負った様子もない…)


 今日得た情報を元に、幾つもの推論を組み立て、また分析していく。
 風呂から上がったら未亜がイケナイ遊びをしに来るので、眠るわけにはいかない。
 そもそも大河のスケベ根性が眠らせてくれない。

 体は結構な疲労を訴えているのだが、ごく一部はこれからの行為を想像して猛りまくっている。
 24時間戦えますよ、と主張せんばかりだ。
 自分の若さの象徴を見て苦笑していると、微かに何かを叩く音が聞こえた。
 音はドアから響いてきた。
 か弱いが、何度もノックされている。


「未亜?
 ノックはいいから、もう入って来いよ」


「違うですの〜。
 未亜さんじゃないですの〜」


「へ?」


 聞いた事のない声がした。
 大河はその声を、つい最近どこかで聞いたような気がしたが思い出せない。


(………誰だっけ……この声………)


「あ、あの〜…夜分に恐れ入りますですの〜。
 ここは、救世主候補生の当真大河さんのお部屋でしょうか?ですの〜」


「ああ、そうだけど……」


 大河は間延びした口調の主の気配を探ってみたが、大した情報は得られなかった。
 しかし、危険を知らせるセンサーは沈黙している。
 だからと言う訳でもないが、大河は特に警戒心を抱かなかった。


「きゃい〜ん☆
 ようやく見つけたですの〜!
 偶然会ってヒトメボレする事一時間前、お友達に道を尋ねつつさ迷う事30分、ようやくダーリンに会えるですの〜!」


「ヒトメボレ!?
 ダーリン!?
 ヒトメボレってお約束の米の名前で、ダーリンって紅茶の名前と違うよな!?
 ひょっとして、君は俺に一目惚れした可愛い女の娘!?」


 警戒心はおろか理性まで吹っ飛びかけている大河。
 例え未亜という恋人がいても、大河の女好きは治らない。
 一目惚れの一言で、後先考えられるような余裕は消失している。
 何でもいいが、未亜の事はどうするつもりだろうか?
 告白にどういう返答をするにせよ、この場に未亜がやって来たら素晴らしい修羅場を形成してくれそうなのだが。

 反射的に、音も立てずにジャージから普段着に着替え、鏡を覗き込んで手櫛で髪を整えた。


「はぁ〜いですの〜♪
 ダーリンを一目見た時から、胸の奥があったかくなって、居ても立ってもいられず会いに来たんですの〜♪」


「そーですかそーですか!
 わざわざご足労願わなくても、一言呼び出してくれれば深山幽谷にでも馳せ参じたというのに!
 さぁさぁさぁ、ずずいっと奥に入ってください!」


 そう言うと、それこそ神速で扉の前まで直行し、ドアノブに手をかける。
 大河は扉を開けようとしたが、何故か扉の向こうで抵抗しているらしい。


「あ、あのぉ……灯りを消してくださいませんか?ですの〜。
 明るいところは、恥ずかしいんですの〜」


「はいはいはいはい!」


 思考力が吹っ飛んでいる大河は、謎の人物の言葉にカケラも疑いを抱かない。
 一刻も早く部屋に招きいれようと、それしか頭に残ってない。
 ランプを消して、ご丁寧にもカーテンを閉める。
 月明かりも遮られ、屋根裏部屋は真っ暗闇に包まれた。
 椅子や机に足をぶつけながら、大河はなんとかベッドに戻る。


「消しましたよー!」


「それではお邪魔しますですの〜」


 キィ、と扉が開く音がして、一瞬だけ光が差し込んだ。
 それもすぐに消え、誰かが屋根裏部屋に入ってきた。
 大河は目を凝らして闇を見通そうとするが、如何せん光が殆どない状態では輪郭を見取るのが精一杯である。
 僅かに見える少女の輪郭は、小柄で頭の上に兎の耳のような装飾が付いていた。


「真っ暗で大丈夫?
 やっぱり灯りをつけようか?」


「きゃい〜ん、ダーリンお気遣いの紳士ですの〜。
 ますます惚れ直すですの〜♪
 でもでも大丈夫ですの〜、暗い所には慣れてるんですの〜」


 なにやら人影ははしゃいでいるようだ。
 ピョンピョン跳ね回っているのにコケたりしない所を見ると、本当に暗闇には慣れているらしい。
 その間にも、大河は必死で目を凝らしている。
 全神経を研ぎ澄ませると、大河の鼻が微かな香りを嗅ぎ当てた。


(……お?
 何かいい匂いがするぞ……香水までつけて来てくれたのか?
 くぅ〜っ、可愛いなぁ〜!
 ………しかしこの匂い、どっかで……)


 大河が記憶を探っていると、少女はモジモジしながら近寄ってきた。
 さすがにベッドに腰掛ける勇気はないらしく、大河からピッタリ1メートルで立ち止まる。


「あの〜ダーリーン。
 会ったばかりでこんな事を言うのもなんですけれど〜、お嫁さんにしてほしいですの〜」


「ヨ、ヨメさんとなッ!?」


 少女は大河の予想以上に気が早かった。
 まさか一足飛びに結婚まで話が飛ぶとは思わず、大河は目を白黒させる。
 ドンと来〜いと言いたい所だが、さすがの大河も踏みとどまった。
 さすがにプロポーズされただけで、現在の恋人を放り出すのは人として最悪だろう。
 浮気はいいのかと言われそうだが、大河は基本的に自分に都合のいい世界で生きているのでそんな言葉は聞こえない。

 泣く泣く大河は、顔も知らない少女に告げる。


「む、むぅ……気持ちは嬉しいが、俺には既に恋人が……(義妹だけど)」


「それじゃあ最初は二号さんでいいですの〜。
 いつか私が一番になってみせるですの〜!」


 しかし少女は予想外にタフだった。
 大河としては非常に嬉しい申し出だが、未亜がなんと言い出すか。
 可愛い(想像)少女と未亜の両手に花を実現させるか?
 上手くいったとしても、いつ未亜に刺されるかわからない。
 すこぶるハイリスク・ハイリターンである。

 そうは言っても、大河は無意識に未亜を丸め込む方法を模索していた。
 そもそも救世主になってハーレムを作ろうと(冗談半分ながら)考えるようなヤツが、一人の少女の告白で何をうろたえているのだろーか。
 もし実行に移したら、未亜に刺されるどころか……考えるだけでも恐ろしい。
 しかしそうは言っても止まらないのが大河のサガ。


「そーゆう事ならなんとかなるッ!
 見ていろよ未亜、きっとお前を説得してみせるぞー!」


「きゃう〜ん☆
 ダーリン頼もしいですの〜♪」


 当真大河……彼は未亜だけではなく外の世界に目を向けようとして、間違った方向に邁進しつつあるようだ。
 例え9割8分殺しにされようとも、未亜に振られると思っていないのは、未亜の想いがその程度(では済まない気がする)では揺るがないと信じているのか、それとも単に想像もしていないだけなのか。


「じゃあダーリン、誓いのキスを……むちゅ〜(-з-)」


 唇を突き出す少女。
 そのまま唇を合わせようかと思ったが、何せ暗闇なので何処が口で何処が鼻だかさっぱり見えない。
 さっきまでの躊躇いをどこか遠くに放り投げて、大河は彼女を引っ張り寄せた。
 腕を強く引かれて、少女が大河に密着した。


「あんっ、強引なダーリンも男らしいですけど〜、そんなに強く引っ張ったら腕が取れちゃうですの〜」


「はっはっは、腕が取れちゃうか。
 可愛い事を言うなぁ〜。
 だったらベッドの中では『死んじゃう〜』とか言うのかな?」


「あ、それはないですの〜」


「そうかな?
 最初はみんなそう言うんだけどね」


「そうじゃなくて、私は死体なんですもの〜」


「………経?
 じゃなかった……へ?
 一体何を言って……そ、そう言えば体が妙に冷たいような…」


「はぁい、だって死んじゃってるんですもの〜♪」


「……ちょっと明かりつけていい?
 ええと、君………?」


 名前を呼ぼうとして、大河はまだ自己紹介もされていない事に気がついた。
 さすがに名前もしらない相手との口づけはよろしくない。
 ……名前を知ってりゃ、それでいいわけでもない。

 恥ずかしがる少女を説得して、大河はランプに火を灯した。
 そこに居たのは、褐色の肌と真っ白な髪の少女。
 円らな瞳、よく整った顔立ち。
 少々スレンダーすぎる体型だが、間違いなく美少女に分類される。

 彼女を見た瞬間、大河は腹を括った。
 絶対に未亜を説得してハーレムを作る、と。


「きゃー、恥ずかしいですの〜」


「な、なんだ……死体とか言うから、てっきりあっちこっちが崩れてたり取れてたりするのかと…。
 それどころかスッゲェ可愛い!」


 某ゲームに出てくるようなゾンビだったらどうしようかと戦々恐々していた大河は、予想以上の美少女っぷりに歓喜した。
 彼女なら、もし本当にゾンビだったとしても問題ない。
 腐乱死体なら手の内ようがなかったが、見た所腐っているような場所もない。
 一応検査が必要だろうが、衛生面に気をつければ、病気になる事もないだろう。
 死姦になるかもしれないが、ゾンビだって意思を持っている以上は生きているので問題ない(多分)。


「鮮度には気を使ってますの〜。
 ダーリンに可愛いって言われるなんて、棺桶の中に防腐剤をいっぱい詰めておいた甲斐があったですの〜♪」


「ぼ、防腐剤!? 棺桶!?」


「これからは2人でお墓の下に眠るですの〜」


「墓の下ァ!?」


 大河は彼女がゾンビでもオッケーだが、さすがに生き埋めにされるのは勘弁のようだ。
 どうしたもんかとパニックになりかけたが、考えてみれば彼女が本当にゾンビだという証拠はない。
 頼むから冗談であってくれと、藁の如き望みにしがみつく。


「ま、またまたそんな冗談を…。
 危うく信じる所だったじゃないか。
 さあこっちに来て…………」


「きゃいん☆」


「こんな綺麗な腕が、ゾンビの腕のはず……腕の…うで…」


 大河の手の中には、少女の腕が掴まれていた。
 ……ただし、肩から先は何にもなかったが。

 腕の主は、大河が引っ張る前の場所から動いていない。


「………えーと……」


「恥ずかしいですの〜(*^o^*)」


 片腕がもげていた。
 にも関わらず、痛がる様子も血がブシューッと噴出す気配もない。
 恥ずかしそうに身を悶えさせて、ピンピンしている。
 ついでに大河が掴んでいる腕も身悶えしていた。
 体から離れても、遠隔操作可能らしい。


「そ、そう言えば君から漂ってくる匂いは……昼間に委員長が飲ませてくれた聖水の…」


「この匂いですか〜?
 ダーリンと会った時に、女の人にビシャってかけられたんですの〜。
 冷たかったですの〜。
 匂いを消してから来た方がいいと思ったけど、なかなか落ちないし、意外といい匂いですの〜」


「じゃあ……ひょっとして地下で追いかけた…………」


「はぁい☆
 ダーリンに力強く追いかけられて、メロメロになっちゃったですの〜」


 あまりに予想外な展開に、大河の脳はフリーズした。
 ゾンビ如き今更どうとでもないが、可愛い女の子が相手という事で全く警戒していなかったのでダメージ3倍だ。。
 追っかけられて惚れるのもどうかと思うが、それ以上に先程言われた『墓の下』発言がクローズアップされる。


「お……お………おお…おうわああああぁぁぁぁぁ!?


 フリーズが解けた大河は、何憚る事もなく絶叫した。
 ベリオが張った結界があったので、外には精々でかいクシャミ程度の音しか漏れない。
 何が何だかわからなくなって、大河は少女を置いて爆走した。


「あ〜ん、ダーリン待ってくださいですの〜」


 続いて少女も走っていく。
 何ともまぁ、死後硬直が起こった後の死体とは思えないスピードだ。
 ご丁寧にも扉を閉めた後、軽やかなステップで彼女は大河の後を追いかけて行った。


 その30分後。


「お兄ちゃん、入るよ。
 ………お兄ちゃん?」


 風呂上りでほこほこの未亜が、屋根裏部屋を訪れた。
 ノックをしても返事がなく、未亜はドアを少しだけ開けて部屋を覗き込んだ。

 ランプは点いているが、誰も居ない。
 部屋に入って周りを見渡すが、どこかに隠れている様子もなかった。
 未亜はベッドに近づき、手を触れる。


「………冷えてる。
 お兄ちゃん、何処かに出かけたのかな?
 …………でも、お兄ちゃんがエッチな事をすっぽかす程重要な用事って…?」


 未亜は首を傾げて、机の上や棚の上を見回った。
 外出を知らせるようなメモは残されていない。
 本当に何があったのかと考え込んだ未亜は、ふと嗅ぎ慣れない匂いを感じた。


「香水……の匂い…………?
 お兄ちゃんは、使っても精々体育の後に柑橘系のを使うくらいだし……。
 となると………………………………」


 未亜の目がギラリと閃光を放つ。
 今の彼女を見れば、きっとダリアでも土下座して機嫌を直すよう懇願するだろう。
 サーチライトと化した未亜の視線は、床に転がる白い髪の毛を見逃さなかった。
 一緒に落ちていた白い布切れ……多分包帯の事はわからないが、これが意味するのはたった一つ。


「……女!」


 ―――未亜は殺意の波動に目覚めた!
―――瞬獄殺をマスターした!
―――武技黒掌を覚えた!
―――憑依・デビルキシャーをちょっとだけ理解した!
―――攻撃力が100上がった!
―――迫力が200上がった!
―――破壊力が3000上がった!
―――ハイパーモードに突入した!(全能力3倍)


 ドコまでナニをやりやがったのか?

 未亜は部屋の中を睥睨した。
 サーチライトだった未亜の目は、すでにメドゥーサの魔眼か秘石眼と化している。
 今にも破壊光線が発射されそうだ。
 実際に窓にヒビが入った。
 屋根から家鳴りが聞こえ出した。
 ついでに下の階の住民たちが一斉に不調を訴えだした。

 しかし、未亜は乱れのないシーツやドアについた大河の足跡を見て不自然を感じた。
 ベッドで何かをした痕跡はない。
 床にもナニかが垂れて濡れたような後はなかった。
 そしてドアにつけられた大河の足跡は、明らかに大急ぎで蹴り開けられた事を示している。

 大河が女を招きいれたのは確実だが、その後の事がわからない。
 あの大河が、女を前にして逃げ出したとでも言うのだろうか?
 兄のスケベ根性をよく知る未亜にとって、それはあり得ないと断定してもいい事だった。
 まさか招き入れたのはゾンビで、それだけならまだしも取り殺されそうになったとは思いもよらない。
 実際には彼女に殺意はなかったと思うが、墓穴に埋める気だったのには変わりはない。

 とりあえず艶めいた展開にはならなかったと判断して、未亜は瘴気を収めた。


 ―――未亜は殺意の波動を眠りにつかせた。
―――瞬獄殺を使えなくなった。
―――武技黒掌を忘れた。
―――憑依・デビルキシャーをちょっとだけ理解したままだ。
―――攻撃力が10下がった。
―――迫力が20下がった。
―――破壊力が30下がった。
―――ハイパーモードを終了した。


 なんか上昇した能力は殆ど元に戻ってない気もするが、それはまだ怒気が残ったままだからだ。
 ヤッてないのはわかったが、女を連れ込んだのは事実なのだ。
 場合によっては再び覚醒するかもしれない。

 未亜はベッドに腰掛けて、大河が帰ってくるのを待つ事にした。
 その間にジャスティの矢を研ぎ澄ませるのも忘れない。
 しゃーこ、しゃーこ、とまるで刃を研ぐような音が延々と屋根裏部屋に響き続けた。

 ちなみに大河の部屋の真下にある部屋では、包丁を持った山姥に追いかけられる夢を見た生徒が続出したそうだ。


「うひいいいいぃぃぃぃ!」


 自室で世界最大級の危機が発生した事も知らず、大河は夜の学園を失踪していた。
 冷静な思考は吹っ飛んで、脳裏には墓に連れて行かれて埋められるシーンだけがエンドレスで流れ続けている。

 闘技場、中庭、森、図書館、校舎内と、何故か人気と明かりが少ない所ばかり走り回る。
 これが凶暴なモンスターで、大河を食いに来たのであれば、問答無用でボコって終わりだったかもしれないが、生憎相手は可愛い女の子である。
 あまつさえ、彼女が例えゾンビで、大河を埋めに来たのだとしても、大河に好意を寄せているのだ。
 さすがに叩き切ってしまうのは気分が悪い。


 どう言う訳か、彼女は大河が行く先々に出現し、全く撒く事ができない。
 最初から死んでいるので体力に限界がないのか、息を乱した様子も全くない。


 食堂。
 ガサゴソガサゴソ…。
 大河が食堂に逃げ込むと、冷蔵庫の前から何かが蠢く気配がする。
 さてはゾンビ少女に先回りされたかと考え、大河は踵を反して食堂から出ようとした。


「ダーリーン、何処に行くですの〜?」


「どぅわぁ!?
 なんでそっちから入ってくるんだぁ!?」


「入り口から入ってくるのは当然ですのよ?」


 大河は窓から飛び出した。
 ゾンビ少女も後を追う。


「あ〜〜ん、ダーリン待ってですの〜!」


「……?」


 冷蔵庫を漁っていたダリアが、ちょっとだけ振り向いた。


 保健室。


「ど、何処にも居ないな!?」


「どうしたのかね?」


「ぬが!?」


 大河は気配もなく話しかけられ、30センチほどその場で跳び上がった。
 振り向くと、そこには一見温厚そうな好々爺…ゼンジー先生が立っていた。


「ゼ、ゼンジー先生ですか…あーびっくりした…」


「…何をそんなに慌てているのかね?
 急患か?」


「いえ、怪我人は別に…」


 居ないと言いかけて、大河は言葉を飲み込んだ。
 ゼンジーの目に、危険な光が宿ったのが見えたからだ。
 後手に、なにやら物騒な匂い…有体に言えば赤い液体の匂い…がする鉄の塊に手を伸ばしている。


(ヤ、ヤバイ!
 このままでは、ゾンビとジェイ○ンにダブルで追っかけられる事になってしまう!
 そんなんなったら、もう絶対に逃げ切れん!
 怪我、どっかに怪我は………と、そうだ!)


「そうそう、怪我人がこれから来るんですよ!」


 大河は一発逆転の秘策を思いついた。
 ゼンジーの手が止まる。


「これから来る?
 どういう事かね?」


「ソイツは大の薬品嫌いでして、怪我をしてるんですけど包帯を巻くだけで、医者にも保健室にも行こうとしないんですよ。
 だからちょっと言い包めて、俺を捕まえられたらご褒美をやるって事で追いかけっこをしてるんです。
 もうすぐこの部屋まで「ダーリーン♪」ってほら来たああぁぁぁ!」


 ゾンビ少女の体の冷たさに鳥肌を立てる大河と、事情を聞いてしげしげとゾンビ少女を観察するゼンジー。
 ふむ、と呟いてゼンジーはゾンビ少女を引き剥がした。


「ああん、何をするですの〜?」


「大河君から話は聞いた。
 診た所大した怪我はなさそうだが、君の顔色やら肌やらに少々異常が見られる。
 一度精密検査をせねばならん。
 諦めてそこに座りたまえ」


 異常が見られるのは当然だ。
 何せゾンビなのだから。
 しかしゾンビ少女がそう言っても、ゼンジーは全く信じようとしない。
 ゾンビですの、いやそんな筈はない、と二人が繰り返している間に大河はこっそり逃げ出した。


 召喚の塔。
 3階まで上って、大河は一息ついた。
 一つしかない入り口を監視しながら、体力の回復を図る。


「ふぅ…何とかなったけど…検査が終わったらまた来るんだろうな。
 そうなると、このまま部屋に帰るのは危険か…仕方ない、この辺でこっそり隠れ「ダーリ〜〜ン」…もう終わったのかよ」


 ゾンビ少女が塔の入り口まで走ってきていた。
 どうやって追ってきているのだろうか?
 そんな疑問を置いておいて、大河は地面との距離を測る。
 飛び降りても、なんとか無傷ですむ高さである。


「ダーリン見つけたですの!
 なんだかダーリンが走った後に、光る軌跡が見えるですの!
 これぞ愛の力ですの〜!」


 ゾンビ少女が上ってきた。
 よく見ると、包帯が新しくなっており、ついでに巻き方も本格的になっている。
 どうやらゼンジー先生が治療?したらしい。


「…ゼンジー先生は何て言ってた?」


「ゾンビだったら、異常は何もないって言ってたですの。
 腕を外して見せて、ようやく信じてくれたですの。
 でも包帯の巻き方が悪いからって、ご親切にも正式な包帯の使い方を教えてくれたですの。
 それと、私とダーリンの追いかけっこの話を聞いて、『懐かしいのぅ、過ぎ去りし甘酸っぱい青春の日々…』とか言って悦ってたですの」


「そうか………とうっ」


 もう何も言わず、大河は塔から飛び降りた。
 外壁を何度か蹴って減速し、受身をとって慣性を殺す。


「ここまで来たらもう意地だ…。
 絶対逃げ切ってやる!」


「ダーリーン、死んでもいないのに飛び降りても平気なんて凄いですの!」


 正門前。
 王都に向かう道を見て、いっその事王都まで走りきってやろうかと考えた。
 体力と小回りはともかく、直線距離でのスピードなら多分大河に利がある。
 しかし、それには真っ暗な道を駆け抜けていかなければならなかった。
 スピードはともかく、足元が危ない。


「こんちきしょおおぉぉぉう!


「追いかけっこも楽しいけど〜、落ち着いて星を見たりしたいですの〜♪
 そして2人は…………キャッ♪ ダーリン、初めてが外なんて大胆ですの〜☆」


 闘技場。
 何もない。
 身を隠す場所すらない。
 そもそも逃げ道もない。


「ゼィ、ゼィ………こ、この際だ、神の威光とやらにも縋ってみるか…」


「教会に行くんですの〜?
 さっそく結婚式なんて、とっても嬉しいですの〜!」


 息も絶え絶えになって、大河は礼拝堂にたどり着いた。
 少女を振り切るために、大河は残った体力を全て燃焼させて猛スピードで突っ走った。
 例えるなら界王拳20倍って感じだ。
 流石にかなりの距離を稼いだようで、周囲に彼女の気配はない。

 大河は急いで礼拝堂の扉を開けた。
 幸いな事に、鍵はかかっていない。
 防犯上どうよと突っ込む余裕は、今の大河にはなかった。


「ぜー、ぜー、ぜー、ぜー………ど、どうだ?
 仮にも神の家だぞ………鍵をかけちまえば、幾ら何でも入ってこれまい……。
 ここで朝まで篭城するか…?」


 大河は行きも絶え絶えに、扉に凭れて座り込んだ。
 舌を突き出し、体中が汗でビッショリと濡れて上気したままだ。

 体力自慢の大河にしては珍しく、表情からして明らかに疲労困憊に陥っている。
 後先考えずに全力疾走を続けてきたのだから当然だが、そもそもよく途中で倒れなかったものだ。
 彼の生存本能はよっぽど優秀らしい。


 ゴトッ


「あら? 大「ぬおわああああぁぁぁ!?」


 大河の背後で物音がして、声をかけられた瞬間に絶叫した。
 扉から飛び退いて振り返ると、目を丸くしたベリオが立っていた。
 大河の絶叫に余程驚いたらしく、肩を竦めて硬直している。

 大河も同様に硬直し、十数秒ほど礼拝堂は静寂に包まれた。
 呼吸をするのも忘れて縮み上がっていたベリオは、息が苦しくなってきてようやく硬直が解けた。


「な、何事ですか?
 こんな夜中に、わざわざ礼拝堂まで……。
 それに大声で叫ぶのは、近所迷惑ですよ………大河君?」


 いまだ飛び跳ねる鼓動を持て余しながら、ベリオは大河を観察した。
 珍しい事に、大河の表情は恐怖と焦燥で染まっている。
 実はベリオと未亜が地下でブラックパピヨンらしき人物に攫われた時にも似たような表情をしていたのだが、彼女はそれを知らない。
 大河は荒い息をつきながら、震える指でベリオを…正確に言うと、ベリオの隣の扉を指差した。


「あ、あ、あ……」


「あ……何です?」


「会いに……会いに来た…………」


「……へっ?」


(……会いに来た………?
 誰に…?
 大河君が指差してるのは………私!?
 そ、それにこの礼拝堂には私の他には誰も…!)


「え、えええええええ!?」


 大河の発言を勘違いして、今度はベリオが絶叫する。
 しかし、大河にはそれに驚くような気力は残ってない。
 勿論彼女が勘違いをしているのにも気付いていない。


「と、取り敢えず水を……脱水症状で目が回りそうだ」


「へ? あ、ああはいはい、水ですね!?」


 必死で息を整える大河に、ベリオは教会奥に蓄えられている聖水を差し出す。
 貪るように一息に飲み干し、大河はようやく人心地ついた。


「……っはぁ……はぁ………ふぅ…。
 た、助かったぜ委員長………相変わらず美味いな、この水は…」


「え、ええ…祝福を受けた聖水は、元々病人や怪我人の消毒、または体力の補強にも使われるものでしたから…。
 もう大丈夫ですか?」


「ああ、何とかな……ところで委員長、なんでこんな時間に礼拝堂に?
 建前とはいえ、外出禁止令が出てた筈だろ?」


「今日は色々な事がありましたから……目が冴えて眠れなかったんです。
 だから、眠れないなら眠らずに、今日遣り残していた教会の残りの仕事を片付けに来たんです。
 そっ、それよりも大河君、今さっき会いに来たって………」


 ベリオは顔を真っ赤にしたが、大河は逆に咳き込んで青褪めた。
 慌てて身を起こそうとしたが、体力の限界だったのか、体が動かない。


「そ、そうだった!
 委員長、鍵!
 はやく鍵を閉めて!」


「は、はい!
 ってた、大河君!?
 鍵を閉めて私に何をする気ですか!?」


「んな事はいいから早く!
 アイツが入ってくるだろ!」


「……アイツ?
 あの、大河君は私に会いに来たとさっき……」


「言ってない!
 つーか、俺は委員長がここにいる事さえ知らなかったんだぞ!?」


「………ああ、そうですか…」


 何処となくむくれたベリオは、理由はよくわからないが大河の言うとおり鍵を閉めようとした。
 どの道大河は動けるような体力を残していない。
 2人きりになったらスケベ根性で復活してしまうかもしれないが、ベリオはその可能性を見て見ぬふりをした。
 理由はヒミツである。

 しかし、既に時は遅かった。


「ダーリーン♪」


「はうっ!?」


 褐色の腕が、ベリオの背後から回された。
 唐突に知らない相手に抱きしめられて驚いたのか、それともその冷たさに驚いたのか、ベリオは先程の大河と同じくらいの声で絶叫する。


「っきゃあああぁぁぁ!?」


「えへへ、間違えちゃったですの。
 では改めて……ダーリーン♪」


「出たー!」


「もう、ダーリンったらぁ。
 折角のデートなのに、私を置いて言っちゃダメですのぉ」


 ゾンビ少女は、動けなくなっている大河に遠慮なく抱きついている。
 大河としてもとても嬉しい状況なのだが、如何せん肢体の冷たさが素直に喜ばせてくれない。

 一方、いきなり抱きつかれて放り出されたベリオは、急な展開に目を白黒させていた。
 大河がこれほど女の子を拒絶するのも気になるが、抱きつかれた時に感じた冷たさも気にかかる。


「あ、あの、大河君?
 その娘は一体………?
 とっても体が冷たかったんですけど……」


「ゾンビだよ!
 地下で委員長が聖水をぶっ掛けたヤツ!
 なんか俺に一目惚れして、一緒に墓場に埋まろうって誘ってくるんだ!」


「ゾッ、ゾン……!
 あ、悪霊退散〜!


 ゾンビと聞いて涙眼になったベリオが、手の中に残っていた聖水を思いっきりぶちまける。
 ゾンビ少女は大河に抱きついていたため、大河の体が盾になって殆ど聖水は掛からなかった。
 ベリオが持っていた聖水は特に強力な祝福が施されており、並みの悪霊やゾンビなど一瞬で浄化されて塵に還る。
 しかし、少量とはいえ聖水を浴びたゾンビ少女は全くダメージを負った様子はない。


「きゃん、冷たいですの〜。
 ダーリンが庇ってくれたですの〜♪
 でもアナタ、いきなり何をするんですの〜!」


「そっ、そんな……特性の聖水なのに………。
 本当にゾンビなの……!?」


 ベリオはゾンビ少女を見て唖然としている。
 その足は傍目にもガクガク震えており、明らかに怯えているのが見て取れる。
 こんなノータリンな少女のどこに怯えているのかと言われると反論しにくいが、彼女には死霊の類というだけで十分恐怖の対象なのだろう。
 k2様、以前の解説ありがとう御座います。

 青ざめているベリオを見て、ゾンビ少女はニンマリ笑った。
 大河から離れて、ベリオの正面に立ち顔を覗き込む。
 両手を広げて、口を大きく開けた。


「がお〜♪」


「キャーッ!………きゅう……」


 ベリオはあっさりと気絶した。
 ゾンビ少女から開放され、体力も回復してきていた大河は慌ててベリオの元に駆け寄った。


「おい、おい委員長!
 おいコラ委員長ってば!
 この状況で俺を一人にすんじゃねえ!
 起きろ! お・き・ろぉぉーーーっ!」


 肩を掴んでガクガク揺さぶるが、目が渦巻きになってるベリオは全く目を覚まさない。
 それでもベリオを揺さぶり続ける大河を見て、ゾンビ少女が再び大河に抱きついてきた。


「あーんダーリーン!
 最初は二号さんでもいいけど、私の目の前で他の女の人とイチャついちゃイヤですの〜!」


 ガクガクガクガク。

 大河がベリオを揺すり、ゾンビ少女が大河を揺する。
 ベリオが鞭打ちになるのではないかと思われた頃、ベリオの手がピクリと動いた。


「あーんダーリーン!」


「起きろいいんちょー! 起きろーおっ!?」


 ゴツッ!


 礼拝堂に鈍い音が響き渡った。
 ベリオを揺すっていた大河が吹っ飛ばされる。

 大河の眉間に、正確にベリオの拳が叩き込まれたのだ。

 ゆらりと立ち上がるベリオ。
 豹変した、人をバカにしたような表情でゾンビ少女を睨みつける。


「……誰がアンタのダーリンだって、腐りかけ女!」


「……へ?」


 明らかに年季の入った、ドスの効いた声。
 とてもではないが、堅物のベリオにこんな声が出せるとは思えない。

 眉間を押さえて転がっていた大河は、キャラに合わないベリオの発言に思わず固まった。
 その隣では、ゾンビ少女が大河に引っ付いてワタワタ慌てている。


「あーん、ダーリンしっかりしてですのー!」


「……ヒトを無視してんじゃないよっ!」


ガツッ!


 今度はゾンビ少女の脳天にベリオ(?)のチョップが炸裂した。
 ショックで頭が…正確に言うと首の接着面がぐらついたらしく、ゾンビ少女は頭を抑えてくいくい捻った。
 どうやらネジのようにしてくっ付けているらしい。

 ようやくゾンビ少女がベリオの方を見る。
 ここぞとばかりに、ベリオは畳み掛けた。


「この男にはアタシが初めから唾つけてるんだよ!
 後からでしゃばって来て、正妻面するんじゃないよ!」


「え、ええーと……委員長?
 恐怖でどっかキレちまったか?」


 恐る恐る声をかける大河。
 ベリオは鼻で笑って、大河を流し目で見た。


「イヤだねぇ、ホントに忘れちまってるんだから。
 委員長なんて野暮な名前で呼んでおくれでないよ。
 アンタは酔っ払って忘れてるみたいだけど、ちゃあんと私は名乗って…なかったね、そういえば」


 そう言うと、ベリオは大河を恨みがましく睨み付けた。
 睨まれた大河は、その視線に覚えがあった。
 ベリオの顔を見てから、ずっとひっかかっていた何かがようやく明確な形をとった。


「アタシの名前は闇に羽ば「ダーリーン!」
 ……フンッ!」


 ゾンビ少女が、ベリオの声を遮って大河に抱きついた。
 名乗りを邪魔されて、半端ではなく不機嫌になった彼女は問答無用の裏拳を見舞う。
 ゾンビ少女の頭がボールみたいに転がっていったが、それは無視の方向で。


「…んっんん…では改めて…。
 アタシの名前は闇に羽ばたく虹色の蝶!
 ブラックパピヨンさっ!


「何ぃ〜っ!?」



時守でーす!


さて、ようやく大河はブラックパピヨンの正体にたどり着きました。
最初に酔っ払ってなければ、こんな回り道なんぞしなかっただろうに…(苦笑)

お気楽ゾンビ娘も登場しましたし、もうすぐキャラが増えてくる…。
時守は今でも、彼女の頭をぶん殴るのに、言い知れぬ罪悪感を覚えます(涙)
お陰で大河やセルみたいに突っ込まれ役に中々回せそうにありません。


それより…ジャスティ延期やーーー(涙)
半ば予想はしていましたが、実行されると切ない…。
チクショー!
この悔しさは期末試験にぶつけちゃるーーー!


それではレス返しです。


1.>なまけもの様
やっぱり突っ込み所が少なくて、後になってちょっと後悔しました。
でも場面が場面だけに、少々ボケ辛くて…。
未亜の根性焼きとリコの血で床拭きくらいで勘弁してください。
…あ〜、でもやっぱり座りが悪いです。


2.>皇 翠輝様
ちょっと大河に知性を発揮させすぎかな、と思ったのですが…。
キャラの絡みに上出来をくださったようで、感謝しています。


3.>ななし様
時守のお粗末な脳味噌を絞った甲斐があったようです。
正直な話、森に関する推理は幾らなんでも無理があるんじゃないかと思っていたので…。


4.>干将・莫耶様
いっそ、途中から大河と未亜の役割を逆にしたほうが良かったかと考えています。

ナナシには登場して早々悪いのですが、次回の冒頭辺りでさっさと退散する事になってしまいそうです。
再登場は……カエデ登場の辺りでしょうか?
最近気付いたのですが、時守は元々あったストーリーを大幅に変更するのが苦手のようなのです。
今はイロイロと複線を張っていますが、いざ活用する段になると、大幅に更新が遅れるかもしれません。


5.>ナナシ様
そ、そう言われれば……GSのSSを読みまくっていたので、影響されたのでしょうか。
よし、それなら未亜と大河の名前を横島とルシオラに変換して、GS二次創作として第二のSSを(嘘ですよ〜)。

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