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「ある少年達の選んだ道 第03話(SEED)」

霧葉 (2005-07-13 12:24)
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 キラはストライクをアークエンジェルに着艦させ、掌に乗せていたカガリとラミアスを下ろすとほっと一息ついた。
 クルーゼを撃退するためにランチャーを使わずに済んだことに対する安堵である。
 ランチャー・ストライクのメインウェポンであるアグニは強力すぎるのだ。
 コロニー内で使ったりすれば、敵だけでなくコロニーの外壁まで打ち抜いてしまう。
 その中に組み込まれているシェルターも無事では済むまい。
 いざとなれば殺すことを躊躇うつもりは無いが、自分から進んで殺人者になるつもりはそれ以上に無い。

 キラは傍らに置いておいた刀を手に取る。
 「神武不殺」
 神技の領域に達した武術は敵を殺す必要すらない。
 それが彼の学んだ武術の教えである。
 敵を殺す技術を極めつくし、さらにその先の高みを目指す。
 そんな術が彼には刻み込まれている。

「どこまで殺さずにいけるかは知らんが……できれば誰も殺したくはないもんだな」

 キラは呟いて刀を腰に差す。
 コックピットを開けてウィンチに足をかけて降りていくと、自分に視線が集中するのが分かった。
 キラがストライクの機能を落としている間に集まってきたのだろう、十数人の地球軍の軍人達がその主な出所だ。

「キラ!」

 下まで降りると、キラ以外の唯一の民間人、カガリが駆け寄ってきた。

「大丈夫か? 怪我は無いか?」
「ああ。一発ももらってないからな」
「そうか。良かった……」
「心配してくれたのか?」
「当たり前だ、バカ! お前が凄い奴なのは何となくわかってたけど、素人には変わりないんだろ?」
「まあ、モビルスーツの操縦に関してはそうだな」

 と、キラ達から少し離れたところでざわめきが起こった。
 何事かと言葉を止めて視線を向ければ、大人の話を終えたらしい軍人達がキラを見ていた。
 先程まではいなかった、長身で金髪の男を先頭に歩み寄ってくる。
 男はじっとキラを見た後、口を開いた。

「君、コーディネーターだろ?」
「……あなた、礼儀という言葉を知っていますか? 俺とあなたは初対面だったと記憶していますが」

 あまりにも唐突な物言いに、キラは思わず苦笑する。
 『原作』で見たこの男の性格は割りと好感を感じていたが、いきなりこれはあまり感心できない。

「ああ、すまない。俺はムゥ・ラ・フラガ。地球連合軍の大尉だ。よろしく」
「キラ・ヤマト。平和を愛する中立国の民間人です。確かにコーディネーターではありますが、それが何か?」

 その瞬間、地球軍の兵士たちが一斉に銃を構えた。
 キラの言葉が終わるか終わらないか、というタイミングだった。
 過剰とさえ言える殺気立った反応に、しかしキラは悠然と構えていた。
 むしろ、それに対して反応を見せたのは……

「何なんだ、それは!」

 声を上げながら、カガリはキラの前に出て両腕を広げた。
 キラと違い、銃に対応する手段を持っているわけでもないのに、向けられた銃口に怯む様子を欠片も見せてない。

「コーディネーターでも、キラは敵じゃない。さっきのを見てなかったのか? どこに目を付けてるんだ、お前らは!」
「銃を下ろしなさい」

 ラミアスが、有無を言わせない語調で言った。
 その言葉が、一瞬の逡巡の後に兵士たちに銃を下ろさせた。
 張り詰めていた空気が緩んでいく。

「ラミアス大尉、これはいったい……」

 美しい黒髪をバッサリと短く切った女性士官、ナタル・バジルール少尉がキラとラミアスを見比べて問う。

「そう驚くこともないでしょう? ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの。戦火に巻き込まれるのが嫌でここに移ったコーディネーターがいたとしても、不思議じゃないわ。そうよね、キラ君」
「ま、その通りです。俺は一世代目ですしね」

 ラミアスの言葉に、キラは軽く肩をすくめながら答えた。
 この騒ぎの元凶、フラガは決まり悪そうに口を開く。

「いや、悪かったな、とんだ騒ぎにしちまって。俺は、ただ聞きたかっただけなんだよね」
「別に良いですけど、これからはもう少し考えて発言することをお勧めしますよ」
「ハハッ。これは手厳しいな」

 フラガは苦笑して頭を掻き、ストライクを見上げる。

「ここに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中のシミュレーションを結構見てきたが、ヤツら、ノロクサ動かすにも四苦八苦してたぜ」
「それはどちらかと言えば開発サイドの責任ですね。あんな未熟なソフトウェアでこれだけ複雑な機体を動かせと言う方が無茶です。キチンとしたシステムがあればナチュラルでもこいつは動かせます」
「……耳が痛いわね」

 実際にこの上なく上手く動かしてみせたキラのお墨付きに、開発サイドの人間であるラミアスが苦笑する。

「ところでそろそろ休ませてもらっても良いですかね? 連戦したせいでしょうけど、些か疲れました」
「そうね。トノムラ伍長。悪いけど、彼らを空いている部屋に案内してあげて。もっとも、ほとんどの部屋が空いているでしょうけど」
「了解しました」

 トノムラと呼ばれた男がラミアスに敬礼し、キラたちを先導して歩き出す。

「キラ君」

 ついて行こうとしたキラをラミアスが呼び止める。

「……ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」

 ラミアスの言葉にキラは微笑み、再び歩き始めた。


   第03話 再会と別離と再会


 ザフト軍、ナスカ級高速戦闘艦『ヴェサリウス』。
 ヘリオポリスへの襲撃者の乗ってきた艦の名である。
 そのミーティングルームに今、六人の男と一人の少女が集まっていた。
 彼らの視線の先には大きなモニターがある。
 そこに映し出されているのは、ミゲルのジンと戦闘を交わしたときのストライクの姿だった。

「ミゲルがこれを持って帰ってくれて助かったよ。でなければ、いくら言い訳したところで地球軍のモビルスーツ相手に機体を損ねた私は、大笑いされていたかもしれん」

 モニターに映し出されていた映像が切られ、アスラン達はクルーゼに視線を移す。

「オリジナルのOSについては君らも既に知っての通りだ。なのに何故、この機体だけがこんなに動けるかはわからん。だが、我々がこんな物をこのまま残し、放っておくわけにはいかんと言うことははっきりしている。捕獲できぬとなれば、今ここで破壊する。戦艦もな。侮らずにかかれよ」
「「「「はっ!」」」」

 クルーゼの言葉にアスラン達は敬礼を返した。
 続いてアデスが、具体的な指示を下す。

「ミゲル、オロールは直ちに出撃準備。D装備の許可が出ている。今度こそ完全に息の根を止めてやれ!」
「「はい!」」

 ミゲルとオロールは答え、出撃するために部屋を出る。

「アデス艦長」

 アスランはそれを見送るアデスに声をかけた。
 地球軍の新型モビルスーツを奪取するという任務を終えたばかりのアスランには、本来このミーティングに参加する義務は無い。
 それでも彼女がここにいるのには、それなりの目的があるのだ。

「私も出撃させてください」
「ん?」

 訝しげな視線を送るアデスに代わり、横からクルーゼが答える。

「機体が無いだろう。それに、君はあの機体の奪取という重要任務を既に果たした」
「ですが……」
「今回は譲れ、アスラン。ミゲルたちの悔しさも、君に引けは取らん」
「……はい……」
 アデスの言葉はアスランの心情を誤解したものだったが、そのまま引き下がる。
 自分の言葉に理が無いのはわかりきっていた。
 だが、それでも言わずにはいられなかったのだ。
 確かめたかった。
 あれに乗っているのが本当に彼なのか。

「キラ……」

 ミーティングルームを出たアスランは一人呟く。
 モルゲンレーテの工場区で見た少年は、確かに幼馴染の面影を残していた。
 彼がストライクに乗り込むところも見ている。
 ストライクの動きが良かったのも、あれにだけ別のOSが使われていたと考えるよりも、自分達がやったようにOSを書き換えたと考えた方が辻褄が合う。
 戦闘をしながらOSの書き換えなどという高度なプログラミングを行うなど、コーディネーターだとしてもほとんどの者には不可能だが、アスランにはできる。
 相手にもよるが、一般兵が相手ならば確実にできる。
 『黄昏の魔弾』の異名を取るエース級パイロット、ミゲル・アイマンが相手でも、成功率は五割に乗るだろう。
 幼年学校時代、自分よりも優秀なほどの能力を見せた彼ならば、もっと確実にやってのけるかもしれない。

 つらつらと考え事をしながら歩いていたアスランは、周囲の喧騒にふっと我に返る。
 いつの間にか、彼女は格納庫に来ていた。
 自分に与えられた私室へと向かっていたはずなのに。

 憂鬱なため息をこぼす。
 確かめに行きたいのは山々だが、ここに来たところで自分の機体は無いのだ。
 俯いて肩を落とし、踵を返そうとしたところでそれが目に留まった。
 今は電源が落ちているために灰色をしている機体。
 先程アスランが奪ってきたばかりの新型機。
 名をイージスと言ったか。
 アスランはしばらくそれを見つめた後、格納庫脇のロッカールームへと向かった。


 キラはベッドに横になり、自分の腕を枕にすやすやと眠っていた。
 あてがわれたこの部屋に入るなり、刀を壁に立てかけ、すぐに眠ってしまったのだ。
 よほど疲れていたのだろうが、よくこの状況で寝られるものだとカガリは少し呆れていた。

「お前、いったい何者なんだ?」

 少年の寝顔をじっと見つめながらカガリは呟いた。
 初めて会ってから数時間しか立っていないこの少年には驚かされっぱなしだ。
 いきなり戦場に放り込まれたにも関わらず、動揺せずに的確に対処してみせた精神力と判断力。
 小柄な十六歳の女とは言え、人間一人を抱えて10メートル近い高さから飛び降り、怪我一つしない運動能力。
 生身で、モビルスーツで見せた戦闘能力と技術力。
 どれをとっても只者とは思えない。
 ただの民間人、と本人は言っているが、とてもではないが信じられたものではない。
 だが、不思議なことに彼を不審とは思わなかった。
 なぜだか、彼と一緒にいると安心できた。
 彼は自分には危害を加えない、と根拠も無く信頼できた。

「変な奴だよ、お前」

 キラの顔にかかる前髪を摘まんでよけてやる。
 改めて、その顔を眺める。
 彼がひどく端整な顔立ちをしていることに、カガリはその時初めて気が付いた。
 オーラとか覇気とでも言うのだろうか。
 内面から滲み出るような力強い意志の輝きが、キラの容姿の輪郭を曖昧にしていたのだろう。
 今までまったく気がつかなかった。
 強すぎる光を放つがゆえに、太陽の輪郭をはっきりと見ることができないように。
 整った、裏を返せば特徴のない容姿がなおさらそれを助長したのではないか。
 だが、眠っていると、その陶器じみた飾り気のない端整な顔立ちが引き立つ。

 そのことを意識してしまい、カガリは急に鼓動が速くなっていくのを感じた。
 頬が熱を帯びてくるのも。
 慌てて意識を逸らそうとするが、一度意識してしまうとなかなか頭から離れない。
 ぶんぶんと頭を振ってみるが、意識するまいと思うと逆に意識してしまう、という悪循環に陥っていた。
 無理やりに別のことを考える。
 だが、今日の出来事があまりにも印象深く、自然と考えはそこに向かってしまう。
 そうすると、自失した自分の手を握り力強く引いてくれたキラの手の感触や、キミは俺が守る、と断言してのけたキラの言葉や、そう言った物が連鎖的に蘇ってきた。
 鼓動はますます高鳴り、頬はさらに熱くなる。
 だが、それが不快ではない。
 無造作に投げ出されたキラの手に、カガリはそっと指先を伸ばしていき……

「キラ君、少し話があるのだけれど良いかしら」

 廊下からかけられたラミアスの声に、熱湯に触れたかのような電撃的な速さで手を引いた。

「……キラなら寝てる。後にしてくれ」

 努めて平静を装いながら、それでも不機嫌さの滲んだ声音でカガリは振り返り、返事をした。

「そう……でも、急ぎの話なのよ。悪いけれど起こしてもらえないかしら」
「そんなこと……」
「いえ、大丈夫です。今起きました」

 できるか、と抗議しかけたカガリの背後からキラの声がかかる。
 カガリは驚いて飛び上がりそうになった。
 見ればキラが上体を起こし、入り口に佇むラミアスに視線を向けていた。

「……キラ……いつ起きた?」

 恐る恐るといった口調でカガリは問いかける。

「……? だから今だって」
「もっと詳しくだ」

 カガリは重ねて問う。
 もしかして先程の自分の姿を見られていたのではないか。
 もしそうなら、今すぐこの場から逃げ出したいくらいに恥ずかしい。

「ラミアス大尉が『急ぎの話』って言ったあたりだが、それが?」
「そ、そうか。それなら良いんだ」

 カガリはほっと安堵する。
 そんな少女の様子を不思議そうに見た後、キラはラミアスに視線を移した。

「それで、話と言うのは? まあ、だいたい予想はつきますが」
「多分、キラ君の予想通りよ。もう一度Gに乗って欲しいの」
「乗るだけで良いんですか?」

 言いにくそうに切り出したラミアスに、キラは少し意地悪く切り返す。

「……いいえ。確実に戦闘になるわ。それも、相手の数はさっきよりも多いでしょうね。情けない話だけど、ここから脱出するためにはあなたの力を借りるしかないの。お願い、力を貸して」

 ラミアスは半ば懇願するように言った。
 その言葉を聞くうちに、カガリは次第に胸の内でふつふつと沸き立ってくる感情を感じた。
 ぎりっ、と奥歯を噛み締める。

「……何でキラを戦わせようとするんだ……」

 カガリは押し殺した震える声音で言った。
 瞳に怒りを湛え、鋭くラミアスを睨む。

「争いを持ち込んできたのはお前らだろう!? だったら戦いはお前らだけで勝手にやってろ! キラは被害者なんだ! モビルスーツに乗れるっていうだけで巻き込むな!」

 怒りに満ちたカガリの言葉に、ラミアスはたじろぎ、俯く。

「……ごめんなさい」
「謝って済む問題か!」
「……ありがとう、カガリ」

 肩を震わせるカガリの頭に、キラの手がポンと乗せられる。
 視線を隣に座る少年へと向ける。
 キラは微笑んでいた。

「だけど、これくらいは想定の範囲内だ。軍艦に乗っている以上、戦闘になるのも、それに俺が駆り出されるのも予想できた」
「だからって……」
「カガリがここにいる」
「……え?」
「この艦にはカガリが乗っている。だから守る。俺にとっての戦う理由はそれで十分だ」

 キラはそう言って、数度軽くカガリの頭を掌で叩くと立ち上がった。
 彼は特に含むところがあるわけでもなく、ただ何の気なく言っただけなのだろう。
 だが、受け取る方は平静ではいられなかった。
 その言葉が浸透してくるにつれて、頬が再び熱くなってくる。
 それがカガリにはしっかりと認識できた。
 それを見られるのが恥ずかしくて、カガリは顔を伏せる。

 場に沈黙が下りて数瞬、艦内インターフォンからトノムラの声が響いた。

『ラミアス大尉、ラミアス大尉、至急ブリッジへ』
「どうしたの?」

 ラミアスがインターフォンに向かって尋ねる。
 インターフォンの向こうの声がフラガに代わる。

『モビルスーツが来るぞ。早く上がって指揮を取れ。君が艦長だ』
「え? 私が?」
『先任大尉は俺だが、この艦のことはわからん』
「……分かりました。では、アークエンジェル発進準備。総員第一戦闘配備。大尉のモビルアーマーは?」
『ダメだ、出られん』
「では、フラガ大尉にはCICをお願いします」
「あ、ちょっとストップ。ストライクの出撃準備はエールでやっておくようにしてくれませんか。さっきデータを見ましたけど、ランチャーとソードははっきり言ってモビルスーツ戦には使えません」
「……わかったわ。ストライクはエールで発進準備。パイロットが搭乗し次第、発進させて」
『了解』

 何か言いたそうな表情をしたラミアスだが、実戦経験のあるキラの意見を尊重することにしたようだ。
 キラの言葉をそのまま伝え、インターフォンを切る。

「それじゃあキラ君。よろしく頼むわ」
「頼まれましょう。まあ、俺は俺で勝手に自分の守りたいものを守るだけですが」

 おどけた仕草で敬礼の真似事をしてみせると、キラは走り出そうとする。
 カガリは反射的にキラの腕を掴んでいた。

「キラ……絶対……絶対に帰って来いよ」
「ああ、そのつもりだ」

 キラは彼女にニッと不敵に笑ってみせ、小走りに廊下の奥へと消えて行った。


 アスランはイージスに乗り、宇宙を駆けていた。
 無断での出撃であり、命令違反である。
 だが、懲罰は覚悟の上。
 それでも、確かめずにはいられなかった。
 あの機体に乗っているのが自分の幼馴染なのかどうか。

 予想していた帰還命令は無かった。
 クルーゼが黙認してくれたのだろうか。
 心の中で謝罪しながら、アスランはフェイズシフト装甲を起動し、先行した部隊が開けた穴からヘリオポリス内へと侵入した。
 中では、ミゲルをリーダーとする攻撃部隊が戦艦からの砲撃を避けるために散開したところだった。

『オロールとマッシュは戦艦を。アスラン! 無理やりついて来た根性、見せてもらうぞ』

 ミゲルから飛んだ指示に従い、オニールとマッシュの機体が離れていく。
 その向かう先にいる敵戦艦の足のように見える部分の先端から、一機のモビルスーツが飛び出すのが見えた。
 そのモビルスーツ、ストライクはまっすぐにアスラン達の方へと向かってくる。

『そーら、落ちろ!』

 ミゲル機が大型ビームライフルを構え、引き金を引く。
 だが、ビームが発射されたその時、既にストライクは射線上にいなかった。

『なにっ!?』

 ミゲルの驚きが通信機から聞こえてくる。アスランも驚きに目を瞠った。

『こいつ!』

 ミゲルが続けて二度、三度と発砲する。
 だが、いずれも当たらない。
 ランダムな機動で狙いをつけさせないのではない。
 まっすぐにこちらに向かいながら、発砲の瞬間に最低限機体を動かして回避しているのだ。
 その回避力に対する自信の表れか、ストライクはフェイスシフト装甲を起動させてもいない。

 ストライクがビームサーベルを引き抜いた。
 既にミゲル機の装備する、銃身の長い大型ビームライフルで対応できる距離ではない。
 回避行動に移るミゲルを援護するように、アスランはストライクの側面からビームライフルを放つ。
 これも難なく回避されるが、その機動のためにミゲル機から離れてしまい、剣を振るうことなく遠ざかった。

『クソッ! 何なんだ、こいつは』

 通信機から聞こえてくるミゲルの声には動揺の色が濃い。
 無理も無いだろう。
 普通、回避行動というのはロックオンされないためにやるものだ。
 ロックオンされてから発砲の瞬間に回避するなど、アスランもミゲルも聞いたことさえ無い。

「わかりません。でも、発砲のタイミングを読まれているのは確実です」
『いったい、どうやって!?』
「考えている暇はありません。来ます!」

 モニターの中に一度遠ざかったストライクが再び接近してくるのが映っていた。
 ミゲル機が発砲し、アスランもそれに合わせる。
 だが、そのいずれもがかすりさえしない。
 ストライクとジンの距離が瞬く間に縮まる。
 アスランの攻撃を避けながらも、逃げようとするミゲルに的確に追いすがる。
 まるで、アスランの攻撃もミゲルの機動も、全て読みきっているかのように。

 ついにビームサーベルの間合いにジンが捉えられた。
 一閃。
 恐ろしく無駄のない迅雷のごとき斬撃を、ミゲルは銃を盾にすることでかろうじて防ぐ。
 二閃。
 間をおかずにひるがえった剣が、体勢を崩したジンの腕を断つ。
 三閃。
 突き出された剣が、コックピットのほんの少し上を貫く。
 そこはモビルスーツの急所、機体を制御するコンピュータを収めた場所だった。
 わずか三撃。
 たった数秒の攻撃が、ミゲルの駆るジンを制御不能に陥らせていた。

 もはや動くことのないジンからミゲルが脱出する。
 それに見向きもせず、ストライクはアスランのイージスに向き直った。
 だが、攻撃してくる様子は無い。
 そのことに何かの予感を感じ、アスランは震える手を通信機に伸ばす。
 機体を奪った時には既に登録されていた、新型機同士の通信に使うものへと周波数を変更した。

「キラ……キラ・ヤマト! やっぱり君なの!?」
『ああ、そうだよ、アスラン・ザラ』

 声変わりして低くなってはいたが、それは確かにあの幼馴染の声だった。
 溢れそうな感情をぐっと抑え付ける。

「キラ、何で君がそんなものに乗っているの」

 断続的に続く爆発音。
 シャフトが破壊され、頭上から瓦礫が降り注ぐ中で、それを回避しながら言葉を続けた。

『成り行き、としか答えようがないな。少なくともアスランと戦うためではないよ』
『アスラン! どこにいるんだ、アスラン!』

 キラの返答に少し遅れて、マッシュの声が通信機に入る。
 ちらりと戦局に目をやった。
 こちらではミゲルが、向こうではオロールが落とされ、敵戦艦は離脱を果たそうとしていた。

『やれやれ、ゆっくり話してる暇は無いか』

 通信機の向こうでキラがぼやく。
 ちょうどその時だった。
 敵戦艦に撃破されたマッシュ機から、装備していたミサイルが誤発射される。
 まっすぐに飛んだミサイルは、ヘリオポリスのメインシャフトに着弾し、粉々に打ち砕いた。
 支えを失ったコロニーの大地は、それ自体の回転が生み出す遠心力に耐えられず、バラバラに分解していく。
 子供の癇癪にさらされたジグソーパズルのように。
 真空の宇宙へと吸い出されていく空気が激しい乱気流を生み出した。
 モビルスーツのエンジンに、それに耐えうるだけの推進力は備わっていない。
 アスランのイージスも、キラのストライクもその流れに巻き込まれ、宇宙へと吸い出されていく。

『今度はもっと和やかな場所で会いたいもんだな、アスラン!』
「キラァァァァァァ!!」

 全く別の方向に流されていく二機の通信は、それきりで途絶えた。
 アスランは歯噛みしつつもキラの無事を祈りつつ、乱気流の中、瓦礫にぶつからないよう必死で機体を操る。
 それしかできなかった。


『X-105ストライク、応答せよ。X-105ストライク、聞こえているか』

 ノイズ交じりにバジルールの声が通信機から聞こえてくる。
 キラは眼前に広がる光景に目を奪われていた。
 視界いっぱいに瓦礫が映っている。
 ただの瓦礫ではない。
 先程まで暮らしていた街が、所々にその原型を残しながら漂っているのだ。
 あるいは逃げ遅れた人もこの中に混じっているかもしれない。
 サイ、トール、カズイ、ミリアリア。
 別れてから彼らの姿を見ていないことが無性に気になった。
 だが、今キラにできることは友人達の要領の良さと幸運とを信じることだけだ。
 キラは大きく深呼吸をすると、バジルールに返事を返す。

「……こちらストライク。どうにか無事みたいです」

 知らず噛み締めていた奥歯、握り締めていた拳。
 それらからゆっくりと力を抜いた。

『こちらの位置はわかるな? 戻れるか?』
「大丈夫です。それじゃあ、今から戻ります」

 キラは答えると通信を切り、周囲を見回した。
 アークエンジェルに戻る前にやらなければならないことがある。
 『原作』通りならば、ここでフレイ達の乗る救命ポッドを拾うはずなのだ。
 思っていたところで、ストライクのシステムが救難信号を拾った。
 モニターに視線を巡らせ、発信源を突き止める。
 予想、否、『記憶』通り、ヘリオポリスの救命ポッドだった。
 キラはほっと安堵の息を吐き、ポッドを回収してアークエンジェルへと向かった。


 バジルールと一悶着あったが、無事に収容を認められ、着艦する。
 ストライクを格納庫の固定位置へと移動させ、システムを落としてコックピットから出た。
 救命ポッドから避難民が引っ張り出されているところだった。
 軽重力の中をポッドへ向かって飛び降りる。
 ゆっくりと落ちながら、ポッドから出てくる人々をじっと見ていた。
 出入り口からのぞいた赤い頭。
 フレイ・アルスターが整備員の手を借りて出てくる。

「フレイ!」

 彼女が『原作』通り無事だったことに安堵しながら声をかける。
 フレイは驚いたように顔を上げた。

「キラ!」

 だが、そこから先の行動は予想外だった。
 フレイはキラに抱きついてくる代わりに、自分が出てきた出入り口の穴の中へと声をかけた。

「みんな、キラよ! キラがいるわ」
「本当か!?」
「なに、キラ!?」
「ウソ!?」

 中から聞き覚えのある声が聞こえ、次々と知った顔が出てきた。
 サイ、トール、カズイ。
 そして……

「キラ!!」

 少年達を押しのけるようにして出てきた少女が、ちょうどポッドの上に降り立ったキラに、ものすごい勢いで飛びついてきた。
 先端が外側に跳ねたブラウンのショートヘア。
 オレンジ色のワンピース。

「ミリアリア!?」
「キラ……キラ……! 良かった。会いたかった!」

 ミリアリアはキラの背に両腕を回し、胸板に顔を埋める。

「……無事だったのか。良かった……」

 混乱しながらも、キラは心の底から安心したように、嬉しそうに微笑んだ。


  (続く)


あとがき
 こんにちは、霧葉です。
 今週の「ある少年達の選んだ道」はいかがだったでしょうか。
 前回も感想をいただけてとても励みになりました。

 和装帯刀のキラの絵、私としてもぜひ誰かに書いて欲しいですね。
 絵心が無いもので自分には無理ですが。
 原作と違いすぎる服装なのでイメージしづらくて(笑)

 それと、キラの中の人がとらハ3の主人公とかぶるというご指摘ですが、私はとらハ3は知りませぬ。
 2までならやったんですけどね。
 だから、たぶん似てしまったのは偶然だと思いますよ。

 皆様、拙作をこれからもどうぞよろしくお願いします。
 それではまた来週〜。

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