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「ある少年達の選んだ道 第02話(SEED)」

霧葉 (2005-07-06 17:48)
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 カレッジの建物から走り出ると、そこは混乱の極致だった。
 ザフト軍のモビルスーツ、ジンが街を蹂躙し、その足元を人々が逃げ惑う。
 ヘリオポリスの防衛軍がミサイルを放ち、ジンがそれを撃墜する。
 爆発。
 爆風と火炎が吹き荒れ、それに巻かれた人々が倒れる。
 整然と立ち並んでいた建物は、あるものは崩れ落ち、あるものは火を噴き、道のあちこちに負傷者、あるいは死者が倒れ付す。
 阿鼻叫喚の戦場が、そこにあった。

 ニュースの映像が抜け出してきたかのような惨状に、サイは立ち竦む。
 信じられなかった。オーブが、ヘリオポリスが戦場になるなどとは、考えたこともなかった。
 だが、つい先刻まで自分達が平和な日常を過ごしていた街は瓦礫の山と化しつつある。
 夢、という可能性を、頬をあぶる火炎の熱が否定する。

「お、おい、ミリアリア! どこ行くんだよ!」
「イヤ! 離して、トール! キラ、キラが!」

 すぐ傍から聞こえてきた声に、サイははっとする。
 振り返れば、来た道を戻ろうとするミリアリアと、それを押し止めるトールの姿があった。
 ひどく取り乱したミリアリアの姿は、彼女のキラに対する想いの深さを思わせる。
 サイは混乱していた自分の思考が急速に醒めていくのを感じた。
 自分以上に混乱している人を見ると逆に冷静になる、というのは本当らしい。
 サイは二人のもとに歩み寄る。

「落ち着け、ミリアリア。キラは大丈夫だ」

 暴れるミリアリアの肩に手を置き、努めて冷静にサイは言った。
 それが功を奏したのか、ミリアリアの動きが止まり、視線がサイに向けられる。

「……本当?」
「ああ。キラがこの程度でどうにかなるような奴だと思うか?」
「そうだよ。『あの』キラだぜ?」
「そーそー。殺したって死なないって」

 サイの言葉の後を、カズイが、次いでトールが継ぐ。

「どっちかって言うと、俺達のほうが危ない。大丈夫だ。俺達さえ生き延びれば、キラとは絶対にまた会える」

 サイ自身、その言葉に何の根拠も無いことは理解している。
 だが、気休めでも何でも良いから、今は彼女を落ち着かせて逃げなければならない。
 それに、言っている内に、サイ自身もそんな気がしてきたのだから、不思議なものだ。
 トールとカズイもそれは同じようで、幾分か明るい表情になっている。

 四人は頷き合い、再び走り始めた。


   第02話 初陣


 巻き起こる爆発。
 立ち上る黒煙の中から二機のモビルスーツが飛び出し、地上に降り立った。
 一機は危なげなくスムーズに。もう一機は危なっかしくよたよたと。

 その危なっかしく着地したモビルスーツ、X-105ストライクのコックピットで、カガリはモニター越しに、破壊されていくコロニーを呆然と見つめていた。
 つい先刻まで平和を謳歌していた街が、今、目の前で戦火に呑まれていく。
 その原因がどこにあるのか。
 この街に争いを持ち込んだ物は何なのか。
 火を見るよりも明らかだ。

「……何で、こんなことに……」

 カガリの唇から、憤るような、悔やむような呟きが漏れた。

 父はいったい何をやっているのか。
 守るべき自国の民を、戦火に巻き込んだのだ。
 自分の国で行われていることなのだから、国のトップに立つ者が「知らない」では済まされない。

(もしも……もしもこの件に関わっているのなら……私は父上を許さない!)

 カガリは唇を噛み締める。
 怒り、悲しみ、不信。
 そういった物がごちゃごちゃと交じり合って、カガリの心は千々に乱れていた。

 と、その頭にポンと何かが触れた。
 視線を上げる。
 隣にいる少年が、右手で自身の体を支えながら左手でカガリの頭を撫でていた。
 そのゆっくりとした動きが、次第にカガリの心を落ち着けていく。
 子ども扱いするような仕草だが、腹は立たなかった。
 不思議なことに、カガリはこのキラという少年を全面的に受け入れてしまっていた。
 オーブの五氏族の一つ、アスハ家の姫君として育ったカガリは、その立場ゆえに本来は人に対する警戒心が強い。
 だが、この少年に対しては、なぜか初対面の時からその警戒心が働かないのだ。
 逆に、懐かしさのような親しみのようなものすら感じていた。

「落ち着いたみたいだな。何を考えてるのかは知らないが、混乱した頭で考えても正答には絶対に辿り着けないぞ。こんな状況だし、今はとりあえず保留にしておけ」

 そう言ってキラは手を離し、視線をモニターに戻した。

「あ、ありがとう……」

 胸に残る名残惜しさのようなものに戸惑いながら、カガリは礼を言う。

「どういたしまして。それよりも気をつけろ。喋ってると舌噛むぞ」

 キラの言う通りだった。
 カガリは頷いて口をつぐみ、視線をモニターに戻す。
 その先、正面のモニターには、こちらに向かって銃を構えるジンが映し出されていた。


『アスラン、遅かったな。大丈夫か?』
「私は問題ありません。でも、ラスティは失敗しました」
『なに?』
「向こうの機体には地球軍の士官が乗ってます」

 爆発する工場から飛び出すと、ミゲルから通信が入る。
 どこか心配そうな彼に答えながら、アスランの思考は別のところに飛んでいた。
 モニターに映る、頼りない足取りで逃げていくモビルスーツ。
 そこに乗っているであろう、幼馴染のところへ。

『チッ。ならあの機体は俺が捕獲する。お前はそいつを持って先に離脱しろ』

 ミゲルは足止めのために敵の足元に銃弾を撃ち込むと、サーベルを抜き、逃げる敵機を追って走り始めた。

(キラ……でも、そんなはずは……。キラがこんなところにいるはずがないじゃない)

 アスランは頭を振り、キラに向かおうとする思考を無理やり振り払うと、キーボードを引き出して機体のOSを操作し始めた。
 だが、ほとんど無意識の内に、視線はストライクへと向かってしまう。

 モニターの中では、ミゲルの駆るジンが、跳び上がってサーベルを振り下ろすところだった。
 と、灰色だった敵機が見る間に色彩を帯びていく。
 そのまま頭上で両腕を交差させ、ジンのサーベルを受け止めた。
 アスランは息を呑んだ。

『なにぃ!?』

 通信機から、ミゲルの驚愕が伝わってくる。

『こいつ、どうなってる!? こいつの装甲は!!』

 アスランは自分の乗るモビルスーツに同様の機能が無いか検索する。
 それはすぐに見つかった。
 フェイズシフト装甲。
 その単語だけで十分だった。

「こいつらはフェイズシフトの装甲を持っているみたいですね。展開されたら、ジンのサーベルなんて通用しません」

 ミゲルに言いながら、アスランはボタンの一つを押し込む。
 PHASE SHIFTの表示が表れ、機能の正確な作動を伝えてきた。
 同時にモニターから見える機体の各部が、赤を基調としたカラーリングに染まっていく。

『お前は早く離脱しろ。いつまでもうろうろするな』

 ミサイルと装甲車にバルカンで対応していたアスランをミゲルが急かす。
 アスランは敵のモビルスーツを一瞥する。
 そこに、別れた頃のキラの姿が重なる。
 唇を噛み締めた。
 彼がこんなところにいるはずがない。
 今すぐ確かめに行きたい気持ちを必死に抑え付け、アスランは飛び立った。


 アスランの乗ったイージスが離脱していく。
 それを見送りながら、キラは心中で安堵の息を漏らした。
 これで残るはジン一機のみ。
 これならば、キラが操縦を代わって撃破すればそれで済む。
 少なくとも二対一になるよりはずっと楽だ。

 実のところ、キラはかなり焦っていた。
 カガリがストライクに乗っていること。
 アスランが女だったこと。
 そしてストライクに乗ってから友人達を一度も見かけていないこと。
 状況が『原作』とかなり食い違ってしまっている。
 完全に計算外だ。
 それに関して考えなければならないことは山ほどある。
 だが、この切迫した状況は、そういうことを考えるには適していない。
 とりあえず保留にして、目の前で起こっている事への対処を最優先とするべきだった。
 カガリに言った言葉は、半ば自分に言い聞かせたものだったのである。

 イージスが見えなくなると、ジンが再び突っ込んで来た。
 ラミアスはバルカンを撃って応戦するが、かすりもしない。

「へたくそ! 何をやってるんだ」
「仕方ないでしょ。動かすのなんて初めてなんだから」

 カガリが怒鳴りつける。
 だが、パイロットの技術云々以前に、操作と実行の間に致命的なタイムラグがあることにキラは気づいた。
 おそらく照準にもズレがあるのだろう。

(やっぱりまだ未完成かよ)

 『原作』との食い違いがあまりに多いため少しだけ期待していたのだが、やはりOSは未完成のようだ。
 キラはこっそりと舌打ちする。
 ともあれ、キラは予定通り、ラミアスからパイロットシートを奪い取るため、行動を開始した。

「それどころか未完成だろうが、この機体。さっきから見てればソフトウェアがめちゃくちゃだ」
「まだ全て終わってないのよ、仕方ないでしょ」
「なら俺がやってやるよ。そこどけ」
「え? な、何を……」
「良いからさっさとしろ! 死にたいのか!」
「は、はいっ!」

 キラの迫力に負け、思わず、と言った感じでラミアスは退く。
 同時にキラがシートに滑り込んだ。
 レバーに手を置くが早いか、ちょうど突っ込んできたジンをカウンター気味に殴り飛ばす。
 ジンは吹っ飛び、轟音と共に倒れ伏した。

「やった!」
「喜ぶのはまだ早い。カガリ、ヤツが立ち上がったら教えてくれ」

 思わず歓声を上げたカガリにキラは鋭く言い、返事も待たずにキーボードを引き出して操作を始めた。
 凄まじい速さでキラの指がキーボードの上を踊り、それに伴いモニターの中をウィンドウが目まぐるしく動き回る。

「キラ、お前、何を……」
「OSの書き換えだ。こんなソフトでこれだけのハードがまともに動くわけが無い」

 カガリに応える間にも、キラの指は走り続ける。
 カガリは一瞬耳を疑った。
 モビルスーツ用のOSなどという複雑極まりないプログラムを、戦闘中に即興で組もうというのだ。
 カガリは中立国であるオーブの人間だから、コーディネイターの技術者も見たことがある。
 だが、彼らにもそのようなことができるとは思えない。
 そこではっとしてキラの指示を思い出す。
 慌ててキラの横顔からモニターに視線を移すと、敵のジンがちょうど立ち上がってくるところだった。

「キラ、来るぞ!」
「OK。それじゃあ、戦闘開始と行きますか」

 キラの横顔が不敵な笑みに彩られた。

 ジンは横薙ぎに剣を振るってくる。
 キラはそれを避けるのではなくさらに一歩踏み込んだ。
 斬撃の軌道を読み取り、剣を握っている手首に左肘を打ちつける。
 手首と肘では肘の方が硬いのはモビルスーツでも変わらない。
 重い破砕音と共にジンの手首が砕け、サーベルが地に落ちた。
 そこからさらに一歩踏み出し、右の掌底をジンの胸の下部に叩き込む。
 その位置にあるのはコックピット。
 人間で言えば「脳」に当たる部位を揺さぶる攻撃。
 だが……

「チッ、やる!」

 敵のパイロット、ミゲルは後ろに跳ぶことでそのダメージを減じていた。
 ジンが後ろに吹き飛んでいく。
 その巨体に突っ込まれ、不運なビルが崩れ落ちた。
 それを追いながら、キラは両腰のウェポンラックから突撃ナイフ『アーマーシュナイダー』を引き抜く。
 起き上がるジン。
 その首の両側にナイフを突き立てる。
 ナイフの刃と装甲がせめぎ合い、激しく火花を散らす。
 だが、装甲板の抵抗もむなしく、ジンの体内へと潜り込んだナイフの先端がその機能中枢を破壊する。
 ジンの両腕がだらりと垂れ下がった。

 ナイフから手を離し、一歩離れて残心。
 そのキラの目に、脱出していくジンのパイロットが映った。

「いけない、ジンから離れて!」

 同じ物を捉えたのだろう。ラミアスが叫ぶ。
 それに応じて、キラは機体にバックステップを踏ませる。
 次の瞬間。

 ドォォォォォォォォン!!

 ジンが大爆発を起こした。
 間近な距離での爆発に、激しく機体が揺さぶられる。
 振動が収まると、キラは機体の損害状況を呼び出した。
 特に異常は無いようだ。

「カガリ、無事か?」
「ああ、なんとか。こっちの人は気絶してるみたいだけどな」

 後ろを振り向いて声をかけると、少し元気が無いが、カガリの返事はすぐに返ってくる。
 キラはほっと息をついた。

(とりあえず最初の関門は突破か)

 だが、まだまだ先は長い。
 そのことを思い、安堵の吐息はすぐにため息へと変わるのだった。


 目を覚ましたラミアスの視界に映ったのは、コロニーの天井に映し出された青空と、傍らに座る一人の少女だった。
 どうやら自分はどこかに寝ているらしい、とおぼろげに認識する。

「気が付いたみたいだな。キラ!」

 ずっとラミアスを看ていたのだろう。
 彼女が目を覚ましたのに気づいた少女は、誰かの名を呼んだ。
 それに応えるように、少女が座るのとは反対の方から足音が近づいて来る。
 そちらに顔を向けると、一人の少年が歩み寄ってくるところだった。
 少年も少女も見覚えのある顔だ。
 だが、どこで見たのか。
 意識と記憶がはっきりとしない。
 ラミアスは頭に手をやろうとして、途端に右腕に走る激痛に呻いた。

「ああ、まだ動かない方が良いですよ。腕の弾の方は貫通してましたけど、さっき頭を打ったみたいですし」

 傍らまでやってきて膝を突いた、非常に特徴的な服装の少年が言う。
 意識が次第にはっきりしてきた。
 そう、確かこの二人と会ったのは工場でだ。
 なぜだか知らないが子供が工場内をうろうろしていて……

「水、要るか?」

 記憶を探るラミアスに、ぶっきらぼうな声がかけられる。
 視線を向けると、先程の少女が水が入っているらしいボトルを手に持って立っていた。

「……ありがとう……」

 礼を言ったのは良いが、まだうまく体に力が入らない。
 それを察したのか、少年が背中に手を差し入れ、起こしてくれた。
 ボトルを受け取り、水を咽喉に流し込む。
 咽喉から胃に落ちていく冷たい感触が、驚くほど頭をクリアにしてくれた。

「あなた達は……」
「俺はキラ・ヤマト。こっちはカガリ・ユラと言います。あなたはラミアス大尉、でよろしいんですよね?」

 なぜそれを、と問おうとして、ラミアスは自分の胸についているネームプレートの存在を思い出した。

「ええ、そうよ。ここはどこ?」
「モルゲンレーテの工場の近くにある公園です。あなたが気絶した後、俺は機体を近くにあったこの公園に移動させて、あなたを下ろして応急処置をしました」
「そう、ありがとう」
「どういたしまして。それで、ラミアス大尉はこれからどうするんですか?」

 キラに問われ、ラミアスは跪くストライクを見上げた。

「私は……これを守らなければなりません。このストライクをアラスカの連合軍基地まで無事送り届けるのが、私の使命です。それで……申し訳ないけれど、あなたたちをこのまま解散させるわけにはいかないの」
「何故です?」
「この機体は地球軍の重要機密です。あなたたちはそれを見てしまった。しかるべき所と連絡が取れ、処置が決定するまで、私と行動を共にしてもらわざるを得ません」
「なるほど。それは願ったり叶ったりですね」
「え?」
「ストライク、でしたか。ここにこいつがある以上、ザフトの攻撃はまだあるでしょう。ですが、さっきヘリオポリスの非常事態レベルが9に引き上げられました。シェルターはもう完全に閉鎖されてます。ならば次に安全な場所はどこか。地球連合軍の戦艦、くらいしか思い浮かびませんでした」
「つまり、自分達を保護して欲しいということ?」
「ええ。俺達は身の安全、あなたは機密保持。どちらの目的にとっても、一緒に行動するのが最善でしょう」
「……そうね。カガリさん、あなたもそれで良い?」
「ああ。そのことはあんたが気絶してる間にキラと話し合ったからな」

 丁寧に話すキラと違い、カガリの言葉はひどくつっけんどんだ。
 無理も無い、とラミアスは思う。
 自分達の家にいきなりやってきて戦闘を始めるような相手に、そうそう友好的になれるわけがない。
 キラが協力的なのもその方が有効だからに過ぎないのだろう。
 軍人という職業は、人に嫌われることの方が多い。
 そのことを理解してはいても、生来人の好いラミアスには気が重かった。

「それで、俺達はどうすれば良いんですか。こういう非常事態はあなた方の専門でしょう?」

 キラの言葉に、ラミアスは思考を切り替える。
 そうだ。
 今は意気消沈している場合ではない。
 この場にいるうちの二人は民間人の子供なのだ。
 自分がしっかりして、この子達を守らなければならない。
 軍人のそもそもの存在意義は、戦う力を持たない者達の盾となることなのだから。
 ラミアスは立ち上がり、キラ達に指示を出し始めた。


 ムウ・ラ・フラガは自身の専用機であるモビルアーマー、メビウス・ゼロを駆り、敵を追ってコロニーのシャフト内へと進入した。
 相手はラウ・ル・クルーゼの乗るシグー。
 尋常ではない相手だ。
 戦況は地球連合軍に不利、というよりも既に負けていると言ってよい。
 僚機は全て撃墜され、母艦も沈み、フラガのみがただ一人戦い続けている状態だ。

 シグーがシャフトの壁面を破壊してコロニー内へ出ていく。
 それを追い、フラガのメビウスもコロニー内の広大な空間に躍り出た。
 爆炎と黒煙を抜け、前方に白とグレーの機体を捉える。
 それをロックオンしようとして、フラガはシグーがどこかを目指していることに気づいた。
 その軌道の延長線上に視線を走らせる。
 そこには、人工の大地に跪く一機のモビルスーツがあった。

「最後の一機か!」

 宇宙で戦っている最中、ザフトの艦に向かう四機の新型を見かけた。
 状況から見て、奪われたと考えて間違いないだろう。
 ならば、あれは唯一地球連合軍に残されたモビルスーツということになる。
 それを破壊されるわけにはいかない。

 フラガはモビルスーツに向けて急降下するシグーに横合いから迫る。
 クルーゼは攻撃を諦め、先にフラガを相手にすることにしたようだ。
 とりあえずの目的は果たした。
 だが、ガンバレルを失った状態では、戦闘は単純なドッグ・ファイトになる。
 広いとはいえ限定空間であるコロニー内では、小回りの利くモビルスーツの方が有利だ。
 懸命に機体を操るフラガだが、余裕は無い。

 ついに上を取られた。
 重力に乗って急速に迫るシグー。
 だが、その行く手を一条のビームが遮った。
 回避するシグーを追い、さらにビームが疾る。
 それをことごとく回避するクルーゼの技量はさすがだが、その隙を縫ってフラガを攻撃するほどの余裕は無い。
 危機を脱したフラガは、視線を巡らせた。
 そこには、赤い翼のようなパーツを装着して飛ぶ新型の姿があった。
 左手に持ったライフルからビームを放ちながら、クルーゼのシグーに突っ込んでいく。
 シグーからの反撃も当然あるが、銃弾の一発たりとも、そのトリコロールの機体をかすりもしない。

「やるなあ。なら俺も!」

 フラガはエンジンをふかし、二機を追った。
 ガンバレルの無いメビウスでも、援護くらいはできるはずだった。
 急速に大きくなる二機のモビルスーツ。
 ビーム砲の射程にシグーを捉え、トリガーに指をかける。
 だが……

 ドォォォォォォォォン!!

 すぐ近くの山が突然爆発した。
 意識が一瞬外れ、その間にシグーに合わせていた照準も外れてしまっている。

「な、何だ!?」

 爆発の起こった山。
 その黒煙の中から、巨大な影が現れる。
 共闘しているモビルスーツと同じく白を基調としたトリコロールにカラーリングにされた戦艦、アークエンジェル。
 それが、その影の正体だった。
 フラガもクルーゼも、突然現れた戦艦の巨体に目を奪われている。

 その瞬間、その場にいる全ての人間の動きが止まっていた。
 ただ一人、あらかじめこのことを『知って』いたキラを除いて。
 そして、モビルスーツ同士の高速戦闘において、一瞬の差は致命的なまでに大きい。

「もらった!」

 シグーに肉薄したストライクがビームサーベルを振るう。
 それに反応できただけでも、クルーゼは一流のパイロットと言えよう。
 だが、完全に回避するのはいかに彼とは言えど不可能だった。
 切り飛ばされたシグーの腕が宙を舞う。
 続くキラの追撃を、クルーゼは銃を盾にすることでどうにか凌ぐ。

 ドンッ!

 ビームサーベルの高熱の刃が銃に込められた弾薬に火をつけ爆発を起こした。
 それを狙っていたのだろう。
 爆発はストライクにダメージを与えることはできなかったが、姿勢を崩すことはできていた。
 その僅かな間隙を突き、クルーゼは迷うことなく逃げる。
 追おうにもフラガのメビウス・ゼロは満身創痍であり、キラのストライクもストライカーパックの内蔵バッテリーでどうにか動いている状態である。
 追撃は不可能だった。
 キラとフラガ、二人のパイロットは同時にそれを悟った。

 キラは無念そうに小さくなっていくシグーを見つめる。
 ここでクルーゼを倒すことが出来ていれば、色々な問題が一度に解決していた可能性もあるのだ。
 一つ、ため息がこぼれた。
 視線を転じて見れば、フラガのメビウス・ゼロはアークエンジェルへと降りていくところだった。
 キラはラミアスたちのいる地上へと降下していく。
 半ば廃墟と化した地上では、カガリが居場所を示すように手を振っていた。


 (続く)


あとがき
 二度目まして、霧葉です。
 現時点で完走を書き込んでくれた方が10人。
 私の作品を読んでくれる人がこんなにいるとは思わなくてびっくりです。

 種のSSはそんなに数を読んだことは無いのですが、女アスランというのは珍しい設定なんでしょうか。
 そこに関する感想が何だか多いですね。

 ともかく、楽しんでいただけたようで何よりです。
 それではまた来週〜。

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