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「黄昏の式典 第八話〜会合の騒動〜(GS+月姫+デモンベイン)」

黒夢 (2005-07-10 12:55)
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第一試合終了後――――会場にいくつも備えられた選手専用の休憩室、その中の一室にGSチーム、月夜チーム、それに加えて通路で偶然出会ったデモンベインチームの計三チームのメンバーが集まっていた。

敵情視察が目的で闘技場に訪れていたGSチームやデモンベインチームはともかく、次に試合を控えた月夜チームがなぜいるのかというと、第一試合が終わったすぐ後の司会によって告げられた言葉がその理由に当たる。

「えーーー……皆様大変申し訳ないのですが……今行われたハオ選手とアーカード選手の激闘のため闘技場が想定していた限界損傷レベルを遥かに超えてしまったので、これから闘技場の修復作業に入らせていただきます。そのため予定されていた第二試合、月夜チームVS裏稼業チームは明日に延期させていただきますが、何とぞ理解のほどをよろしくお願いいたします」

と、そんなわけで今日の試合は早々に終了してしまい、こうして知り合いのいるチーム同士で集まったというわけだ。

まったくタイプの違うもの同士が集まったため空気が重くなるのではないかと思われていたが、意外にも気が合う者が多いようで、美神はアルクェイドや九郎と、ピートは志貴や秋葉と、雪之丞はウィンフィールドやエルザとそれぞれ今までの経緯についてそれぞれ話の花を咲かせている。

ちなみに残りの横島、シエル、アルの三人はと言うと……

「忠夫よ。そこの愚か者に斬り付けられた傷を治療してもらった礼を言い忘れていたが、今この場で礼を言おう」

「ああ、そんなこともありましたね。どうもすみませんでした。まさかこの大会の参加者ともあろう方が手加減した牽制程度の黒鍵に当たるとは思いもよらなかったので」

横島を真ん中に挟み、昨日のあの出来事について言い争っていた。

ちなみに右がハァハァ……アルたんと奇妙な言動を言っているメイド服を着た人物をバッグにしたアル、左に焼きたて!!ジャ○ンに出てきたカレーの鍋をかき回しているインド人をバックにしたシエルだ。

「ほう……視認すらできぬ速度で飛来し、鉄製の壁を容易に突き破る投擲が牽制とは……汝はよほどの馬鹿力のようだな?」

第三者が聞いても明らかに嘲笑を秘めているとわかる言葉にシエルのこめかみがピクッと痙攣したが、表情には微塵も出さずに爽やかな笑顔で口を開く。

「そうでもないですよ?私は千歳以上のあなたと違ってピチピチのか弱い女の子ですから」

ピキッと、今度はアルのこめかみに血管が浮かび上がり、それにともないアルの身体から肉眼で視認できるほどの膨大な魔力が漏れ始める。

「……どうやら汝はその身を塵に粉砕してほしいようだな」

漏れ出した魔力を両手に集中させ、見るものが見れば一般の民家を軽く二、三軒ほどは吹き飛ばせるのではないかと思わせる超攻撃的な術式が虚空に浮かび上がる。

「なに言ってるんですか?塵なのはあなたでしょう?塵紙さん?」

それに対抗するようにシエルもどこからか人知を超えた強力な概念が付加されている巨大な杭の付いた鉄の塊、俗に言うところのパイルバンカーを取り出し、アルへとその杭を向ける。

「だぁぁーーーー!!落ち着けアル!!そんなもんこんなところで使ったら確実にヤバイ!!主に俺たちが!!」

その術式がどういう類のものか読み取り、長い付き合いから本気だと気づいた九郎は美神たちとの会話を一時中断すると背後から腕を回し羽交い絞めにしてアルの動きを封じる。

「放せ九郎!この小娘に妾の力を特と思い知らせてくれる!!」

しかし、怒り狂ったアルは魔力と術式をそのままに暴れまわり、魔力の固まりが掠った九郎の前髪を少し燃やした。

……どうやら構成していた術式は炎系だったらしい。いや、この場合は業火のごとき怒りのためと表記したほうがいいであろうか?

「先輩もやめてください!というよりそんな物騒なものはしまってください!!ああもう!どうしてこの子にはそんなに突っかかるんですか!?」

同様に会話を中断して止めに入った志貴がシエルに向かい声を張り上げて怒鳴るが、怒鳴られたシエル自身手に持った第七聖典を見て訝しげに顔を歪めていた。

「私もわかってはいるんですが……なんででしょうか?彼女を見てると胸の辺りからこう、とにかくイライラしてくるんです」

本当にわからないのか、しまいには第七聖典を傍らに置き、うーんと呻き出してしまった。

ちなみに騒動の中心にいる横島はというと、

「はぁ〜〜〜〜……平和だな〜〜〜〜」

と、どこから取り出したのか、一人お茶を飲み和んでいた。なんだかよく見ると右側の前髪が焦げ、左側の前髪がわずかに切れている気もするが、気にしてはいけない。気にしたら負けなのだ!


黄昏の式典 第八話〜会合の騒動〜


「で……そろそろいいかしら?」

さすがにすぐ側で暴れられるのに苛立ってきた美神が若干の怒りを滲ませ、いまだ不毛な争いを続ける四人に声をかけることでようやく事態が動き出した。

「あ、はい。すみません、騒いじゃって……」

その苛立ちを感じ取った志貴は三人から目を逸らし、美神へと振り返ると四人を代表して申し訳なさそうに謝罪する。

……元々、志貴は関係なかったのだが……おそらく、志貴もいい加減この不毛な争いを終わらせたかったのだろう。

「妾は……!」

「お前は黙ってろ」

四人の中でいまだに騒ぎ散らし、何かを言おうとするアルの頭に九郎は容赦のない若干強めの拳骨を落とす。

「にゃ!?にゃにをする!!」

それなりに痛かったのか、アルは拳骨を落とされた箇所を両手で押さえ、大きな瞳に涙を溜めながら九郎へと振り返り非難の声を上げた。

「これ以上話し、というか俺たちの評価を下げるようなことはやめてくれ。いや、マジで」

いい加減疲れたのか、げんなりと九郎は胸に秘めた切実な思いを口にした。

「はいはい!そこまで!!私たちはふざけ合うために集まったわけじゃないのよ!!」

そこからまた言い争いが勃発しそうになるのを絶妙なタイミングで美神が手を叩き止めると、申し合わせたかのようにエルザがアルに追い討ちをかけた。

「そうロボ。それにしてもそうやって話を聞かないところ博士みたいロボ」

その瞬間、アルは雷に打たれたような衝撃を受け、顔を青ざめさせて背後に数歩よろよろと下がる。

「なっ……わ、妾があ奴に……」

よほどショックだったのだろう。その場に膝をつき、そのままうなだれてしまった。

「どうしたんだ?こいつ」

いきなりうなだれて何やらぶつぶつ言っているアルを視界に捉えながら雪之丞が不思議そうに九郎へと尋ねる。

「ああ、気にすんな。キ○ガイと同列に見られたのにショック受けてるだけだ。それよりこいつが静かな間に自己紹介を済ませちまおう。
んじゃ、早速俺から。俺は大十字九郎。アーカムシティで探偵をやってる。で、こっちは」

九郎は本当に簡単な紹介を済ませると横に立った二人に視線を送り、それを受けて二人のうち男性が一歩前に進み出た。

「覇道財閥で執事をやらせていただいていますウィンフィールドと申します」

よく映画などで執事が着るようなスーツを隙なく着こなした長身の鋭い目つきの男性が軽く会釈をし、

「エルザだロボ♪よろしくロボ♪」

その傍らにいた変わった服装に加えて俗に言うエルフ耳の少女が元気よく挨拶をした。

……しかし、どうやら語尾について追求するものは一人としていないらしい。確かにこの場にいる者たちのこれまでのことを考えればどうでもいい些細なことなのかもしれない。

「おい、アル。お前も自己紹介しとけ」

いまだにうなだれ、重い空気をまとっているアルに九郎は何の気負いもなく声をかける。これも付き合いが長いからこそできることだろう。

「妾は……妾は……にゃ?な、なんだ九郎?」

いまだ絶望という名の檻に囚われていたアルではあるが、そんな中でも九郎の言葉に反応し、床に伏したままだった顔を上げた。

「だから自己紹介だよ、自己紹介。俺たちはもう済ませたから後はお前だけだ」

「そ、そうか……妾は……妾はアル・アジフ!世界最強の魔導書にして、九郎の所有物だ!!」

まるで自分という存在を確かめるかのように言い切られた言葉には何者にも譲れない絶対の誇りがあった。しかしアルにとっては可哀想なことだが、今、この場に、それを理解できた者はいなかった。なぜなら、その時、その瞬間、確かに時が・・・…凍ったのだから。

さて、ここで少し整理しよう。まずアルの外見だが……匠が生涯の全てをかけて作り上げた精巧な人形のような超のつく美少女だ。いや、ここではあえて美幼女と表記させてもらおう。

さて、ここで問題だ。

今、アルはなんと言っただろうか?

所有物――――確かに二人の関係を簡単に示すならばそれは何よりも正しいだろう。だが今、この場で、その真の意味を理解できた者はどれだけいるのであろうか?

「って、うぉい!!てめぇアル!いきなりなに爆弾発言投下してやがりますか!?」

すぐに我に返った九郎はすばらしい勢いとスナップを利かせた突っ込みを惜しみなく繰り出す。これならばお笑い界の金字塔を目指せるだろう。

もっとも……黄金率:−Aを持っていそうな九郎では稼いだ瞬間に世界から没収されそうだが……

冗談はさておき。九郎は取るべき選択を誤ったと言っていいだろう。なぜなら、性格を含めてあらゆることを知り尽くしているはずのアルにあろうことか突っ込みを入れてしまったのだから。案の定アルは訝しげに九郎の顔を覗き見ると皆さんお待ちかねのさらなら素敵な爆弾を投下してくれた。

「なにを言う。いかに永久に変わらぬ至高の愛を誓ったとはいえ、それで妾と九郎との関係が変わるわけではあるまい」

この瞬間、九郎の運命は決まったといっていいだろう。

そう……後に伝えられる大会変態四天王の一人と呼ばれることになる運命が……

しかしそんなこと知る由も無い九郎は見ていて思わず涙と笑いを誘う過剰な反応をしてくれる。

「って冷静にさらなる爆弾投下してんじゃねぇーーーー!!ああ!見てる!見てるよ!!女性陣が俺を汚れたもの、というよりゴミを見る眼で!!」

確かにアルクェイドとエルザを除いた美神、秋葉、シエルの三人は軽蔑の眼差しで九朗を射抜いている。ちなみに男性陣の方を見てみますと。

「「「ふふふふふふフフフフフフ不不不不不不…………」」」

……なんとも形容しがたい三人の鬼がご光臨されていた。

それを視界の端に捉えた九郎は自らの直感に従い持てる全ての力を駆使し逃亡しようとする。

だが……

「美神さん……ちょ〜〜〜〜と九郎さんと漢同士の話し合いをしてきますんで、向こうに行って来ますね」

鬼と化した横島から逃げられるはずも無く、あっさりと動きを封じられた。九郎の足元をよく見てみると『縛』という文字が浮かび上がった文珠が一つ転がっていた。

「へぇ〜〜奇遇だな〜〜横島。ちょうど俺もそいつに話があったんだ。ちょうどいいから一緒に行こうぜ」

「それじゃあ、僕もご一緒しますよ。彼には色々と聞きたいことがありますし……色々と、ね」

ゆっくりと、まるで獲物をいたぶる獣のようにゆっくりと九朗に近づいてきた二人はそれぞれ片腕を拘束すると通路へと連行していく。

その際、文珠の有効範囲を抜けて暴れだした九郎を見て楽しんでいるのを見逃してはいけない。

……どうやらピートの心のうちにも立派にしっとの花が咲いていたらしい。もっとも、ピートにとって忌まわしいあのケーキ事件の時にしっかりと種を植え付けられていた感があるが、今はどうでもいいことだろう。

「俺がなにをしたーーーー!!?へるぷっ!へるぷみーー!!助けてくれア……!!?」

声を張り上げ、何とかその束縛から逃れようと九郎は必死に暴れまわるが、唐突にその動きが止まった。

「ははは!いやだなー、九郎さん。どうしたんですか?そんなに暴れて。ふざけるのもいいですけど、ちゃんと歩いてくれないと思わず倒しちゃいそうになるじゃないですか」

この場に元幽霊な少女や人狼の少女がいたら思わず見惚れてしまうだろうことは間違いないほどの清々しい笑顔で九郎に笑いかける横島だが、九郎にとっては背中に突きつけられた鋭利な物のせいでその笑顔が邪悪なものにしか見えない。

「そうだぜ〜九郎の旦那。そんなに腕を振られると思わず逆方向に曲げたくなるじゃねぇか」

「僕なんて思わず九郎さんの首筋に倒れそうになっちゃいましたよ」

それに続くように両側で腕を押さえる二人も横島と同様に笑いかけてくる。

ちなみに三人の言葉を要約すると『あんまりうるせぇと倒す拍子に殺っちまうぞこらー』『騒ぐと腕折るぞ、おい』『血ぃ吸って操り人形にしたろうか?」になる。もちろん九郎はこの秘められた言葉を理解していた。

なお、これだけは言っておくが、三人の行動はしっとからではない。

これは……そう、正義のため!許さざる悪(ロリコン)を倒すための正義の心からの行動なのだ!!

……もっとも説得力は微塵もないが、彼らがそう言う以上はそうなのだろう。

(アル!お前なら、お前だけは俺を助けてくれるよな!?)

すべての行動が封じられた九郎は最後の希望としてアルへと縋る様な視線を送るが……

「ほぉー……またずいぶんなことがあったのだな」

「まったくよ。出費は重なるし魔神と戦うことにはなるし、散々だったわ」

「ふーん……あなたも結構苦労してるのね」

などと幾分かショックから立ち直ったアルが九郎の抜けた穴をしっかりと埋めていましたとさ。

他のメンバーの二人を見るとウィンフィールドは秋葉と現在の有力企業の情報を交換し合い、エルザもシエルと現在の魔術兵装と銃器のことについて議論していた。

(裏切ったな!みんな、俺の気持ちを裏切ったな!!)

有名な某少年のようなことを心のうちで叫ぶと九郎は心温まるメンバーの気遣いに滝のような涙を流し、これから起こるであろうことを予想した。

ちなみに唯一ここで触れられていない志貴はというと、なにやら通路へと成す術もなく連行される九郎を冷や汗を滝のように流しながら見ていたという。


二十分後――――何かをやり遂げたかのようなとても満足そう表情で三人は戻ってきた。三人の説明によると、九郎は急用ができたらしくどこかに逝ったらしい。

だが……志貴だけは知っている。通路の奥から聞こえてきたある意味同類の断末魔の叫びを……

「さて、じゃあ本題に入りましょうか。元々そのために集まったんだからね」

「この大会参加者の情報、もしくは大会の裏側に関する情報の交換、でしたね」

そう。なにもこの場に集まったのは親交を深めるためだけではない。その真の目的は今シエルが言ったように参加者、大会の情報を交換するためだ。

「ええ。正直、第一試合を見てこの大会のレベルの高さを思い知ったわ。このままじゃどう足掻いても勝ち抜くのは難しいし、それに明らかに大会運営側は何かを隠してる。あなたたちもそう思ったからこうしてこの場にいるんでしょう?」

「はい。我々もお嬢様……失礼、覇道財閥総帥からのお言葉で参加させていただいておりますが、詳しい所載は何一つ伝えられてないのです」

今まで徹底した無表情で語っていたウィンフィールドではあるが、この時ばかりは表情を申し訳なさそうに崩し、自らも疑問に苦悩していた。

「……そう。正直少し期待してたんだけど……しょうがないわね。あなたは?日本の混血で最大クラスの勢力を誇る遠野家当主の遠野秋葉さん?」

遠野家……混血に対する絶対戦力とまで讃えられた鬼神七夜黄理が率いていた日本四大退魔一族の一つ、七夜一族を滅ぼした日本に存在する大部分の混血を統べる日本最大規模の混血の一族。

この大会は日本からの出場選手が大部分を占め、かつ混血全体から見れば少数ではあるが、最強とまで謳われる鬼里人からの出場……美神でなくとも秋葉が何か知っていると思うのは当然といえば当然だろう。

「……わかりません。ただ、私づけの付き人……琥珀と言うんだけど、今思い返してみれば怪しかったわね」

だが、秋葉はそれを否定し、苦々しく、まるでそこにその琥珀という人物がいるのかのように虚空を睨み付ける。

……なぜだろう……一瞬、箒を持った少女の顔が秋葉が睨んでいる場所をよぎった気がする。

「?なんで付き人が怪しいのよ?」

親しい者ならそれでわかるのだろうが、生憎と秋葉の身近な人物など知る由もない美神はその回答に疑問の意を唱える。

「それは……」

「まあ、琥珀さんは秋葉さんに似てちょっと変わってますから」

答えにくそうに言葉を詰まらせた秋葉に変わり、いつの間にか隣に来ていたシエルが答えてしまった。

「……どういう意味ですか?シエルさん……」

もちろんそれに過剰に反応した秋葉はかたわらに座り、近くの自動販売機から買ってきたのか呑気にお茶を飲んでいるシエルを目を細めて睨みつける。

「そのままの意味ですよ。まったくいつもいつも……少しは琥珀さんを抑えられないんですか?」

お茶を横のテーブルに置き、ため息をつくとどうにかしてくださいと言わんばかりに目で秋葉に不満を訴える。

「それができたらこんな苦労はしません!!」

その目が気に障ったのか、秋葉はシエルを感情のままに怒鳴りつける。それがきっかけ、というよりもせき止めていたダムの水が溢れ出したというべきだろう。とにかく徐々に両者の間に険悪な空気が流れ始め、ゆっくりと二人は闘気を撒き散らせながら立ち上がろうとする。

「二人ともそこまで!先輩は挑発しないで、秋葉もすぐに怒るなよ……」

その仲裁に入るのはすでにこの役目が通例になった志貴だ。しかし、さすがの志貴といえども度重なる騒動にいい加減疲れたのか、はたまたまた琥珀が係わっているのかもしれないことに頭を痛めているのか、声にいつもの覇気が無い。二人はその志貴の様子を見てしぶしぶ腰を下ろした。

「それよりも先の言葉はどういうことだ?付き人が怪しいなどと……もしやこのごろ雇った者か?」

秋葉が幾分か落ち着いたのを見計らって声をかけたアルではあるが、その表情は優れない。おそらく先ほど本文中にも出てきたメイド服の女性を思い出したためだろう。

「そういうわけじゃ……とにかく、遠野家にも私の知らない内に動きがあった。これだけは覚えておいてください」

これ以上この話をしたくないのか、半ば強引に話を切ると秋葉は瞑想するかのように目を瞑り、黙ってしまった。他にも色々と聞きたいことが各々にあったのだが、これ以上聞くのはあらゆる意味でなんとなく不味いと直感で気づき、それ以上の追求は無かった。

「そういえば……出資者の中に教会が挙がってましたけど、こうして考えると二ヶ月ほど前の報告の時は確かに妙でしたね」

それに変わって口を開いたのは先ほど秋葉と口喧嘩をしていたシエルだ。何かを思い出したらしく、口元に手を当てている。

「妙って、なにがだ?」

これまで美神の意外?な裏の知識のため目立つことのなかったが、それなりに裏の世界に精通し、当然多少は教会の裏について聞いたことがある雪之丞がその含むものがある言い方をするシエルに聞き返す。

「もうご存知でしょうが、私は埋葬機関に所属しています。それで日本に滞在する条件として一週間に一度教会に提示報告をしているんですが……普段は物静かで連絡員の声以外物音一つ聞こえてこないのになぜかその時は慌しく後ろの方で怒声が響いてたんです」

「本当に珍しいわね。教会って寡黙な堅物の集まりだと思ってたけど……それでその怒声ってどういうのだったの?」

以前一度ある依頼でヴァチカンに行ったことがある美神はその時の教会の印象にそぐわぬその言葉に素直に驚き、なおさらシエルが言う妙という言葉が気にかかった。

「うまく聞き取れなかったですし、記憶もおぼろげになっていますけど、たしか……要点だけをまとめると『南米・日本・欧州・アフリカに指定、執行、指令、各カードの徴集、演奏』だったと思います」

「……ちょっと待って」

色々と気にかかる言葉があったが、一つだけ、美神にとって決して聞き逃すことのできない一文があった。それは昨日、あの時、あの仮面の男に告げられた言葉……

「今、カードの徴集って言ったわよね?」

そう……『カード』だ。

「ええ、言いましたけど……それがどうかしたんですか?」

美神はこれを語るべきかどうか悩み、口元に手を当て少し考え込むしぐさをとるがすぐに決断すると語りだした。

「……昨日のことになるけど、私はアンデルセン神父に殺されかけたわ」

「殺され、ってえーーーー!!?ほ、本当っスか!?美神さん!?」

いきなりのシャレにならない告白に横島は思わず絶叫した。口には出さないが、他の者もそれぞれ驚くべきポイントが違うだろうが一様に驚いている。

「こんなこと冗談で言うわけないでしょう。まあ、それは今はいいわ。問題はその後よ。確か……火影チームの紅麗、だったわね。そいつがいきなり現れてこう言ってきたの。『……お前はこの世界の運命を左右するカードの一枚……デスティニー・カードのクローバーのQ。生き残れ。終焉の日まで』ってね。なにを言ってるのか全然わからなかったけど、やけに耳に残ったから覚えてたんだけど……教会でもカードのことに触れてるんじゃ偶然って切り捨てるわけにはいかないわ」

「デスティニー……運命ですか……どういう意味なんでしょうか?」

「さあね。わかってることは私がクローバーのQって呼ばれた以上参加者全員に似たような呼称があるかもしれないってことぐらいね」

「でも美神さん。参加者は全員合わせても四十八人しかいないんですよ?トランプは全部で五十四枚ですし、数が合いません」

ピートの言うことももっともだ。もし本当にこのカードがトランプを表しているのなら単純に考えて後六枚足りないことになる。

「わかってるわ。でも、むしろ注目するならジョーカーの方ね。これだけの人物を集めてるんだから、ジョーカーはその中でも規格外が選ばれてるはずよ。まあ、たぶんアルクェイドさんかさっきの二人だと思うけどね」

美神がそう思うのも無理はない。

現存する『世界』側の真祖にして最強の真祖の姫アルクェイド・ブリュンスタッド。

千年もの昔から転生を繰り返してきた人の究極と讃えられる未来王ハオ。

最高位の公爵位にして五大核属性『不死』の一位に名を連ねる不死の王アーカード。

確かにこの三人はこの大会……いや、それぞれが『最強』を冠するこの化け物たちは世界から見てもおそらく二十……もしかしたら十本の指に含まれるほどだ。

「いいえ。もう一人います。おそらく三人と同レベルの実力者が」

だが、シエルはその言葉を否定する。『最強』はこの三人だけではない、と。

そして、この場にいる者達は一人心当たりがあった。この化け物達と渡り合えるような、自然を操る『最強』の存在に。

「……あのコントラクターのことか?」

そう。それは契約者。太古の昔から語られる超越種と契約した偉大なる人にして、すでに失われたと思われていた絶対者。しかし……それは現在に蘇えった。絶対無慈悲たる風の支配者として……

「はい。彼……八神和麻さんの噂は何度か聞いたことがあります。曰く風の精霊王と契約をした。曰く各国の特殊部隊に壊滅的な損害を与えてきた。曰く……協会や教会に一目置かれていた魔術結社を一人で壊滅させた」

シエルの口からつむがれた最後の言葉……それは、この場にいる者達を震撼させるに十分なものだった。

「なっ……嘘でしょう……裏の五大組織の二つに認められてた結社が潰されたって、いったいどんな化け物よ、そいつ」

魔術協会と聖堂教会……この二つの組織は今さら語る必要が無いほどの犬猿の中だ。

その二つが素直に一目置いていた……それは、一つの敵対戦力として協会と教会が見ていたことに他ならない。

「わかりません……それともう一つ。これはおそらく間違いないと思うんですが……彼は魔法使い蒼崎青子と交戦しています」

魔法使い蒼崎青子――――裏の世界に一時期でも身を置いたものなら例外なく絶対に一度は聞くことになる名だ。なぜなら、彼女は裏の世界にとっての恐怖の代名詞と言われている正しく破壊の魔女なのだから。

一つ、ムカついたからぶっ壊す。

一つ、気に入らないからぶっ壊す。

一つ、なんとなくぶっ壊す。

一つ、暇つぶしにぶっ壊す。

一つ、通行の邪魔だからぶっ壊す。

……今挙げたのは彼女が壊滅させてきた組織が潰された理由の一例だ。これだけで彼女がいかにとんでもない人物かある程度知ることができる。

彼女に潰された組織の者達は一様に天を仰ぎ、こう叫ぶという。

「神よ!世界よ!星よ!なぜあんな奴を魔法使いにしたんだ!?」

……それはおそらく世界から人類に下された命題なのだろう。

ちなみに確信犯かはわからないが、滅ぼされた組織の大部分には稀代の人形師が作った人形があったとかなんとか。

まぁ、とにかくあらゆる意味で突出した存在である蒼崎青子ではあるが、ここに一人、その破壊の魔女と知らぬ仲ではない者がいた。

「先生と……!?」

思わず声を荒げるのは幼少時代、自らの眼によって蝕まれた幼い心を蒼崎青子に出会うことで救われた遠野志貴。

だが、志貴は知らない。今掛けているメガネのレンズが稀代の人形師の所有物であり、それが原因で起こる騒動……ブラボーなスーツの男、獣を操る奪還屋、通りすがりの金の魔道具を持つ少年を巻き込んだあらゆる意味で命の危機にさらされる騒動を……。

「ちょっと待って。確かに驚いたけど……志貴クン、その先生って何?」

美神も蒼崎青子の噂は何度か聞いたことがあったが、それだけに今の志貴の発言は見逃すことができない。なぜなら真の意味での師弟関係なら志貴は魔法使いにすら認められる魔術師の可能性があるからだ。

「それは……」

「すみませんが美神さん。それは兄さんのプライベートに触れることになるんで教えられません。そうですよね?兄さん」

言いよどんだ志貴に変わり、秋葉が厳と美神に告げる。

「あ、ああ。そういうことなんで……すみません」

「……まあいいわ。それで?どっちが勝ったの?」

心の中では追求したかったが、無理に追求すればとお互いの溝を深めるだけだと判断した美神は再びシエルへと顔を向けた。

「そこまではわかりません。なにせそこに教会の調査班が着いた時にはすでに両者ともいなかったらしくて。その二人だと特定できたのもあの二人特有の凄まじい魔力の残り香と膨大な風の精霊が残っていたかららしいんです。……もっとも、調査班はそこに着いた時点で半ば気づいていたらしいですけど」

「どういうこと?」

なぜ姿も確認できていないのに人物を特定できるか?

単純な疑問に押され思わず声を出した美神だが、当のシエルはどこか疲れたように一度軽くため息をつくと若干の沈黙の後にその理由を語りだした。

「……そこは岩壁や大岩が並ぶ一般人ならまず寄り付かない殺伐とした所だったんですが……半径二〜三キロほど見るも無残に破壊されつくされていたんです。具体的に言うと隕石が落ちたようにクレーターまみれで。調査班に選ばれる者はこっちの世界の有名人の特徴をこと細かく覚えさせられているんですが、あんな馬鹿げたことを一夜でできることができるもの、というよりやらかす馬鹿な人はその二人を含めてもせいぜい四、五人ぐらいなものです。ちなみに調べて見ればわかることですが、そこは一夜でできた自然の神秘としてちょっと有名になってますよ」

「……そういえばそんなニュースが前にやってたような……」

「……俺も食堂で聞き覚えがある気がする」

「……俺も修行先で聞いた記憶があるぜ」

「……ホント、どうなってんのよ。この大会……」

つくづくこの大会の非常識さを痛感させられ、思わず美神は顔を伏せ、頭を押さえた。

「……ちょっといい?」

「ん?なに?アルクェイドさん」

今まで沈黙を守っていたアルクェイドの呼びかけに反応して美神は伏せた顔を上げる。

「ここで言うべきかどうか悩んでたんだけど……あなたたちは信用できそうだから言っておくわね」

「汝、いったい何を……」

いきなりの意味ありげな言葉使いにアルが訝しげに声を発するが、それを半ばで区切るようにアルクェイドは告げた。

「ここら辺いったい……世界から隔離されてるわ」

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

世界から隔離されている――――その言葉の意味することを理解した全員は驚愕に目を見開いた。

「いえ、正確にはちょっと違うわね。隔離されてるんじゃなくて、変質してる……例えるなら固有結界……これが一番しっくり来るわ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいアルクェイド。あなたは、自分が何を言っているかわかっているんですか?」

世界から隔離されているという言葉だけでも信じられないのに、ましてや絶対の神秘の塊である魔法にもっとも近い魔術であり、かつ魔術師の禁忌にして奥義でもある固有結界に近いものが展開されているなどと、いったい誰が信じられるだろうか。

「私だって、信じられないわよ。でも、これは事実よ。しかもどういうわけか私と世界の繋がりがさっきの最後の試合の時から急速に弱くなって、今じゃ普段の半分にも満たないほどよ」

「馬鹿な……我らが今までそれに気づかずに過ごしていただけでも信じられぬというのに、『世界』の真祖たる汝の繋がりまでもそこまで低下しているというのか」

いまだ呆然と目を見開くアルの声にはいつもの覇気が微塵も無い。

『星』側の真祖は決して『星』からの供給を受けることは無い。なぜならそれら自体がすでに『星』にとっては異質な存在であり、むしろ本来ならば消したりたいほどのものだからだ。それをしないのは単に『世界』とのバランスが崩れるのを恐れているだけだ。

一方、『世界』側の真祖は元々『世界』が生み出したものであるため例外なく『世界』から供給という形で援助されている。しかし、今アルクェイドの紡ぎだした言葉はこれを根本から覆すものであり、絶対にありえないことだった。

「そういうことになるわね。一応言っておくけど、脱出は不可能よ。それはもう昨日のうちに私が試したから」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

止めとばかりに決定的な言葉を口にし、それにともなって辺りに言いようの無い沈黙が訪れた。

「考えてみれば……あの時から色々とおかしくなってきてたわね」

ボソッと、誰に聞かせるわけでもなくアルクェイドは虚空へとつぶやくが、それは傍らにいた少女によって聞かれていた。

「あの時って、なにロボ?」

そう。エルザだ。彼女にしては珍しく今まで特に場を混乱させること無く沈黙を保っていただけに、アルクェイドもその存在を失念していた。

周りの視線が再び自身に集まっていることにアルクェイドは気付き、一つ軽いため息をついた。

「しょうがないわね……志貴に心配させたくなかったから黙ってたけど……」

「何か、あったのか?」

「ええ。もう二ヶ月ぐらい前になるわね……アレと、夢の中で出会ったのは……」

「夢の中で……?」

そう困惑の声を漏らしたのは志貴だ。アルクェイド本人から自分は夢を見ないと言われていたのだからその困惑も当然だろう。だが、アルクェイドの表情に満ちているのは親しい者しかわからないようなわずかな怒り。それが、嘘を言っているのではないと言外に告げていた。

「そう、夢。でもただの夢じゃないわ。そこは可能性が最後に行き着く凍れる都。それは夢と現実の狭間にある無限に存在する可能性の墓場の一つ……だから、私はアレと相対することができた」

「アレ……?」

「……アレはこう名乗ったわ。破壊者……虐殺者……魔獣……破壊の王……ジャバウォックと」

その声に満ちるのは、紛れもない怒り。そして隠しようのない……畏怖の念だ。それは本来ならありえないことだ。

なぜなら彼女は真祖の姫と呼ばれるこの世界の最強の一つ。それが畏怖の念を覚えるなどと、あってはならないことだ。

「ジャバウォック……だと?もしやそれはビルほどの背丈がある恐竜のようなものか?」

以前の世界で相対した恐竜を思い出し、アルは問うたが、アルクェイドはそれを氷のように冷たい微笑を持って一蹴した。

「恐竜?冗談言わないで。アレはそんな可愛いものじゃないわ。アレは……人が生み出した究極の戦闘生命……世界に危険視されて、世界の最強を自負する私すら圧倒した、矛盾を孕んだこの星の究極に至る可能性を秘めた魔獣……それが、私が相対したジャバウォックと呼ばれる破壊の王よ」

もはや言葉も無く、不気味な静けさを保ったままこの場にいる全員はアルクェイドの言葉を聞き入っていた。

何を言っているのか半分も理解できていない横島ですら、アルクェイドの強さが自分を一瞬でひき肉にできるほどだとはわかる。それが、圧倒されたと、そう告げられたのだ。いったいどんな存在なのか?浅はかな思いを頭に思い浮かべて、横島は人知れず身震いしていた。

震える声で美神は声を発する。

「……冗談……じゃないようね。……一つだけ、聞かせて。それは、現実に存在するの?」

こんな馬鹿げた話、なぜ信じることができようか。この場にいる全員の気持ちを代弁するように美神は口を開くが、アルクェイドは澱みのない口調でそれを打ち砕いた。

「……ええ。正確な位置はわからないけど、それを宿してる人間の名前を考えるとたぶん日本にいるわ。確実にね」

日本――――そうアルクェイドは告げた。

ならばいる、と、全員は思った。なぜならこの地は『最強』の名を関するものが集うある種呪われた地。

ならば、真祖の姫を凌ぐ魔獣がいてもおかしくはないと、そう思ってしまった。

「……そうか……一つ聞くが、人が生み出したというのはまことか?妾も人に生み出されたものだが、妾のそれとは生み出すという概念がすでに違う。汝の言うことが全て正しいのならば、こうしてこの世界が存続しているのはありえんはずだ」

いくらアルクェイドの言葉だろうとこれだけはそう簡単に信じることはできない。なぜならそれが真実正しければ、人が星を創造したのと同等の意味を持ってしまうからだ。

もし、そんなことが現実に起こっているのならば、抑止の力が働き、歪んだ世界そのものを破壊してしまっているはずだ。

「……わからないわ。ただあの魔獣はそう言っていた。母アリスとエグリゴリによって生み出されし者ってね」

アルクェイド自身、あの時、あの場に呼ばれたことは世界がそう危険視したためだと思っていた。しかし、実際にはなんら影響もなくこうして世界は動いている。そこが、アルクェイドにもわからないことの一つだった。

「!?エグリゴリですって!?」

不意に、その名に反応したウィンフィールドは驚愕の声を上げた。

「何か知ってるの?」

大会とは関係のない話だろうが、このまま流すわけにもいかない。そうした思いが知らず美神を後押しした。

「……はい。エグリゴリ……まさか、この場でその名を聞くことになるとは思いもよりませんでした」

その表情には今までの無表情の面影はなく、苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめていた。

「エグリゴリとはニューヨークに拠点を置き、裏の世界において更なる裏の領域……人にして人を捨てたものが集う悪魔の組織です」

「悪魔の……組織……」

はい、と相槌を打つとウィンフィールドはさらに語りだす。

「彼らはアメリカの闇に巣くい、考え付く限りの惨たらしい人体実験を何十年も繰り返しているのです。その結果彼らは現代科学では説明のつかないような超兵器……サイボーグ、人造人間、クローン、さらには超能力の複製まで作り出しました……今現在各国の裏の特殊部隊に出回っている装備のほとんどはエグリゴリが過去に使っていた技術と言っていいでしょう」

「嘘、だろ……なんで、なんでそんな奴らを放っておくんだ!?」


耐えようのない怒りが渦巻いた瞳を激情のままにウィンフィールドへと向け、志貴は叫ぶ。だが、ウィンフィールドは冷たい眼差しを志貴に向けると口を開いた。

「……そうしなければ、世界が滅ぶからです」

映画などでよくありがちなその言葉に、誰もが息を呑んだ。

「アメリカ……いえ、全世界の全てのコンピューターはエグリゴリに支配された状態でした。それこそ、彼らの気まぐれ一つで核が発射され、世界が滅びるという結末もありえたのです」

淡々と事実のみを語るウィンフィールドだが、美神はその言葉に奇妙な感覚を覚えた。

「……ちょっと待って。その言い方だと、まるで過去のことみたいに聞こえるんだけど?」

そう。まるで今ではない過去を語っている。

「……それを語るには、まずこのことを語らねばなりません。


――――皆様はニューヨークで起きた事件のことをご存知でしょうか?」

はっと誰かが息を呑んだ音がやけに大きく聞こえた。

美神の口からつむがれた言葉をこの場にいる全ての人間、いや、誰もが知っている。

「世界三大事件の一つ、焼きリンゴ事件……」

そう。アシュタロス大戦、ガイア事件に並ぶ二十世紀末に起こった不可解で、一つの大都市をわずか数時間で壊滅の危機に追い込んだ忌まわしい事件だ。

「あの事件は突如として起こった磁場の狂いのため詳しいことは何一つ明らかになっていません。しかし、覇道、クロノスで共同した捜査を行った結果、エグリゴリが壊滅したことがわかりました。この件には大統領も係わっていたらしいのですが……覇道、クロノス双方から圧力をかけようと決して話そうとしないのです」

「……それだけ、しゃれにならないことがその時に起こったってことね」

美神の呟きは、虚空へと消え、それがこの会合の終焉の鐘の役割を果たした。


結局、あの話の後に月夜チーム、デモンベインチームと別れた美神達はそれぞれに与えられた部屋に戻っていた。

「そろそろ夕食だから、寝るんじゃないわよ」

「わかってますって、そんなガキじゃあるまし」

そう言いながらお互い苦笑を交えるとドアが静かに閉じられた。

「ふぅ…………」

美神が部屋から遠ざかるのを足音で確認すると横島は軽いため息をつき、備えられた窓を開けベランダに出る。

時刻はすでに夕方……横島は映像などではない、ホンモノの夕日の淡い光を全身に浴び、切なさを宿した瞳で眺めながら一人、誰に聞かせるわけでもなく、か細い声を漏らした。

「あの人たちがあの時いてくれたら、お前は死なずに済んだのかな……


ルシオラ……」


呟きは虚空へと消え、今日という日の終焉を告げた。


あとがき

皆様ご愛読ありがとうございました。

今回は投稿が一ヶ月近く遅れてしまったので、もしかしたら忘れられているのではという気持ちが拭えません。

それというのも、書いておいたデータが全て吹っ飛んじゃったのが原因でして……泣き言は言ってられないですね。とにかくそうした事情があるので本文がおかしいと思われるところがあるかもしれませんが、そういう時はレスにて知らせてください。できるだけ速やかに修正しますので。

さて、前回の試合と打って変わって今回の話は三チームで参加者の能力、この大会の裏、その関連性などを追及してみました。前にも書きましたが、この「黄昏の式典」は前章としてこのサイトに投稿した短編すべてがかかわってきます。

気づいた方もいると思いますが、このSSではニューヨークの事件の一切が報道規制を受けて、情報が出回っていません。その理由はおいおい語ることになると思いますが、理解のほどをよろしくお願いします。ちなみに覇道総帥、クロノスの長老達がこの事件の真相を知っているかは……秘密です。

なお、今回は月夜チームVS裏稼業チームの先鋒、次鋒戦の対戦表は載せませんので。

今回は相性表の書きようが無いので、本編ではおそらく起こることの無いというか書くのを止めた嘘予告のようなおまけを書かせていただきましたので、裏設定と一緒にお楽しみください。


裏設定3

今回はこのSS有数の厄介な設定の持ち主であり、皆様に好評のエヴァンジェリンについて触れようと思います。

まず、前回エヴァンジェリンは侯爵位、詳しく表記するなら四位(この四位とは侯爵位内での格付けで、最上位の一位から五位まである)の吸血鬼にして現存する『星』側の真祖を参考にしているとしましたが、正確にはその中のローズレット・ストラウスをモデルにしています。この二人の関係についてはいずれ番外編で語ろうと思いますが、その中で一つだけ、この場で語っておこうと思います。
それは……エヴァがストラウスに見つかるとき、その時が彼女の最後だということです。その理由については……次回をお楽しみに。


裏設定4

投稿が遅れたお詫びにもう一つ。

本文中にも出てきた五大核属性という言葉ですが、これには『知能』『不死』『魔力』『能力』『魔術』があり、それぞれ一位〜五位まで、計二十五体の吸血種がこれに該当します。

ちなみに本文中の通り『不死』の一位にはアーカードが、二位にはネロ・カオスと同着でもう一体います。

以下それぞれ一位は『知能』ストラウス、『魔力』アーデルハイト、『能力』ORT、『魔術』ゼルレッチ。これらは直接の強さを表すものではなく、単純な分類の順列として用いられます。


おまけ

怨念が立ち上る平地。常人なら本能を持って近づくのを躊躇するであるだろうその場所に立つ二人の人影があった。その二人はまだ少年といってもいい十六、七歳ぐらいの年齢ではあったが、その身から立ち上る闘気、その内に秘められた覚悟と信念は常人の追随を許すことなく、裏に生きる重鎮のような深さを感じ取ることができる。

「…………」

「…………」

二人は無言で向き合い、その身からの立ち上る意思のみで互いの思いのやり取りをした。そして、互いに決意を秘めた瞳で相手を射抜くと、バンダナを額に巻いた少年は右手に光り輝く剣を、対する赤がかかった髪の少年は両手に黒白の短剣をそれぞれ生み出した。

「「俺は……」」

互いにまるで申しあせたかのように剣の切っ先を相手に向けると、今まで閉じていた口を同時に開く。

「「お前を認められない!」」

その言葉にはいかなる思いが込められていたのか、二人は譲れぬ信念を抱えて駆け出した。

激突する刃と刃。その一撃一撃に少年達は思いを叫ぶ。

「なんで……なんでお前はそうやっていられるんだ!?好きだったんだろう!その人のことが!?誰よりも……何よりも!」

夫婦剣たる双剣を振るいながら少年は叫ぶ。その思いを、夢を、信念のために。

「だからだ!アイツは俺達の、世界のために死んだ!それはこの世界が好きだったからだ!!それなのに、俺がいつまでも沈んだままじゃアイツの思いを無駄にしちまうんだよ!!」

光の剣で黒の短剣を弾きながらバンダナの少年は叫ぶ。その決意を、決断を、愛のために。

「違う!俺が言いたいのはなんでお前は幸せになろうとしないんだってことだ!!お前は世界を救ったのに、お前だけ大切なものを自分の手で手放さなくちゃいけなかったのに!!表面だけで笑って、心では泣いて!!なんで後悔をするだけで幸せになろうとしないんだ!!」

納得などできない。目の前にいる同い年ぐらいの少年は、世界を救ったのだ。なのになんで、彼はそのぶん幸せになっていないのか。大切な人を失った彼が、なぜ幸せになろうとしないのか。少年は刃を持って問う。

「余計なお世話だ!!てめぇの理想は立派だと思うけどな、それを俺にまで押し付けるんじゃねーーー!!」

腹部へと迫る刃を左腕に生み出した六角形の光の盾で叩き落しながら、バンダナの少年は赤髪の少年へと一歩力強く踏み込んだ。

「憧れることはあっても、全員が全員その理想を背負えるわけじゃねぇんだよ!!俺はアイツを見捨てるしかできなかった!!」

少年は光の剣を振るい続ける。漏れ出た光の粒に、大切なあの人の影を映しながら。

「だから俺はてめぇの理想を理解できても全てを認められない!俺は、あの時からずっと後悔してる。けどな、あの時の決断が間違ってないと思ってるからだ!!」

それは長い時をもって出した答え。彼だけに許された、他の誰にも蹂躙されることのない彼だけの答え。

「誰かを犠牲にした救いが……幸せになろうとしないのに、どうして間違いじゃないんだ!!」

眼前に迫った光の剣を双剣で弾きながら、なおも赤髪の少年は怒りに燃えた咆哮を上げる。なぜなら、彼は目の前の少年が幸せになろうとしないことを許せない。バンダナの少年を好きだったその人も、この少年が幸せになることを望んで世界を救ったはずだ。それなのになぜ、少年は幸せになろうとしないのか。その怒りが、赤髪の少年を突き動かす。

一際甲高い音を響かせ、二人は互いに後方へ跳び距離をとる。

「衛宮……俺はアイツの決断のために……」

バンダナの少年は光の剣を腰に構え、

「横島……俺は彼女との誓いのために……」

赤髪の少年は黒白の双剣を前後に構え、

「「お前を認められない!!」

少年たちは再び咆哮し、剣を振るう。

どちらが間違いであるか。どちらが正しいのか。それに答えなど元から存在などしない。


魔神殺し――――

近い将来、その名で呼ばれることになる少年が叫ぶのは誰もが正しいと認める真理。
だが、真理だからこそ、その先に救いは見出せない。


正義の味方――――

子供の思い描く理想を愚直に追い続ける少年が叫ぶのは誰にも認められることのない理想。
だが、理想だからこそ、その先に救いを見出すことができる。


真理と理想――――相反する想いを胸に少年たちは今という時を闘争にゆだねる。


それが、己の信念の証明だと信じて――――


GS+Fate――――「それぞれの信念」

近日公開?


……書いといてなんですが、微妙ですね。この二人は本編で出会うことになるかもしれないので胸に秘めた想いの違いを書いてみたつもりなんですが……うまく伝わってくれましたでしょうか?

できれば突っ込みは無しの方向で。あくまでこれはおまけに過ぎないので。

ちなみに前回も書きましたが士郎はかなり好きなキャラです。もしかしたら……第二部の方で■■■と一緒に■■■■■をやるかもしれませんね。(これで気づいた方がいるかもしれませんが、その時は心のうちにしまっといてください)


次回の投稿も私生活上の都合のため遅くなると思いますが、どうかお見捨てなきようよろしくお願いします。そして、できればレスをください。おかしなところがあったり、キャラがおかしかったりしたら今後困ってしまうので。

後書きにしてはずいぶん長くなってしまいましたが、それでは次回、
黄昏の式典 第九話〜嘲笑:始まりの時・前編〜をよろしくお願いします。

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