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「黄昏の式典 第七話〜超越者〜(シャーマンキング+ヘルシング+月姫+GS)」

黒夢 (2005-06-19 18:27)
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前半の二試合が終わり、1敗1引き分けと追い込まれた殲滅者チームだが、残った二名はこの危機的状況に晒されても慌てることも無く、それどころか寒気がするような獰猛な笑みを貼り付けてふんばり温泉チーム側を見ていた。

そう、ここからが殲滅者チームの本番なのだ。

観客も、選手も、これから出てくる殲滅者チームの者達に比べれば、今までの試合はあくまで前座だったのだろうと頭の片隅で理解はしていた。

そして迎えた副将戦……遂に、殲滅者チームの鬼札の一枚が切られる。


黄昏の式典 第七話〜超越者〜


「副将戦!遂に殲滅者チームの双璧の一人が出陣だーーーーー!!
その名もアレクサンド・アンデルセン選手!!
異端を狩る銃剣で哀れな子羊たる蓮選手をどう料理す「黙れ司会」……へ?」

裏の世界で名高いアンデルセンの登場に完全にヒートアップしていた司会の言葉をわたり、蓮が鋭く、それでいて落ち着き払った口調で口を挟む。

「貴様らがどう思っていようが、勝つのは俺だ」

それは、アンデルセンの噂を一度でも聞いたことがある者にとってはこれ以上ないぐらい馬鹿げた宣言であった。あのヴァチカンの聖堂騎士を、異端に対する絶対の戦力を前にして何を世迷言を吐くのかと。

だが、その言葉には一片の迷いすら無かった。だからこそ、その無謀を叶えられるではないかという期待に会場がざわめきだす。

「……う、うおおおおおお!!蓮選手!いきなりの勝利宣言!!イスカリオテ機関の鬼札を前にその自信はいったいどこから来るのか!?」

興奮した司会の実況に呼応するように観客のざわめきが一気に歓声に変わった。

「我らが主の教えに背く異教徒が……八つ裂きにしてやる」

アンデルセンもその挑発を受け、纏っていた殺意をさらに強めながら両手に持った銃剣を構える。

「それではこの興奮が冷めぬうちに始めましょう!!
期待の副将戦!蓮選手VSアンデルセン選手!始め!!」


試合が始まり、二人は同時に動いた。

戦いを待ちきれないのか、両者は一切の迷いも無く瞬時に距離を詰め、互いの間合いに侵入すると勢いをそのままにアンデルセンは異端を狩る銃剣を蓮は道家の至宝である宝雷剣に巫力を纏わせ、己が敵に向けて同時に突き出す。

ギーーーーン!!

互いの必殺の武器がぶつかり合う鈍く甲高い音が大きく闘技場の中で響き、それに続くように蓮が後方へと勢いよく弾け飛んだ。

それは単純に筋力の差。吸血鬼とさえ殴り合えるアンデルセンと最強クラスのシャーマンとはいえ、それ以外は普通の人間とほぼ変わりない蓮ではむしろ当然の結果とも言える。

十メートルほど吹き飛ぶと蓮は空中で器用に身を翻し、足を地面に下ろして地を滑りながらも追撃に備え宝雷剣を油断無く構える。だが、アンデルセンは狂気に光る目で蓮の右腕を睨みつけるだけで追撃は無かった。

「それが……それが貴様のO.S.か?糞餓鬼」

アンデルセンの言葉に呼応するかのように、宝雷剣に纏わせていた巫力が徐々に明確な形を形成していく。それは最後には刃がつき、腕を覆う巨大な黒い手甲のようなものを形作った。

「武神魚翅。その力は身を持って体感しろ」

にたァー、とアンデルセンは蓮のその言葉にさらに際限の無い狂気の笑みを深め、先の衝突でひしゃげた銃剣を蓮に向けて投げ捨てるとどこからか無数の銃剣を取り出し、蓮の逃げ道を封じるために広範囲に向けて放つ。

「シィィィィィィィィィィ!!!」

そしてすぐさま両手に新たな銃剣を持ちなおし、鋭く息を吐く音と共に狂気の旋風と化して蓮へ
と迫る。

蓮は高速で飛来してきたひしゃげた銃剣を叩き落とすが、尋常でないほどの力を込めて投げられた銃剣はわずかに蓮の体勢をくずした。

これでは追撃の無数の銃剣とその後ろから迫るアンデルセンには対応しきれないだろう。

だが、蓮は動じることなくそれらを冷静に見つめ何を思ったのか武神魚翅を地面に突き刺した。

それは傍から見れば迫る自分の死という事実に絶望して諦めたかのように写るだろう。

だが、蓮の瞳には絶望どころか諦めの色すら浮かんではいない。

飛来した銃剣が蓮の心臓を捕らえようとしたその時――――


――――生えるように地面から現れた無数の武具が、その全てを弾いた。


「なにぃぃぃ!?」

予想外の事態にアンデルセンは驚愕の声を上げるが、その声さえも次の瞬間には途絶えることとなった。なぜなら、同様に地面から生え出した武具がアンデルセンを狙い出現したのだ。

アンデルセンはいきなりの奇襲にわずかに頬を裂かれるが、続けて地面から襲う無数の武具を必死になってかわし続ける。

「無駄だ」

そこに、蓮の冷めた声が耳に届いた。

「刀幻境――――この技はオレと同レベルのシャーマン同士の戦いではもはや役に立たんが、
貴様らのような相手にはちょうどいい」

「ぐぅ!?」

遂にかわしきれなかった刃がアンデルセンの足を捕らえ、動きが止まった。

「四閃刀幻境」

その瞬間、無数の武具を背景に蓮がアンデルセンの前方へと現れる。

「槍」

無数の槍がアンデルセンの身体を貫き。

「刀」

無数の刀がアンデルセンの身体を切り。

「戟」

無数の戟がアンデルセンの身体を貫き、切り。

「多刃」

無数の刃がアンデルセンの身体を切り刻んだ。


全てが終わった後に残ったのは、文字通り惨状だった。

かろうじて首より上は無事で四肢も繋がっているものの全身穴だらけで切り刻まれたその様は誰がどう見てもただのもの言わぬ肉片だった。

「フン。ヴァチカンの鬼札とやらもこの程度か……」

蓮はぼろぼろのアンデルセンを一瞥するとO.S.を解き、自分の勝利を宣言するよう司会に声を
かけようとした。しかし、その時、聞きなれた声が背後から聞こえた。

「まだだ!蓮!!」

ドスッ

葉の鋭い指摘と身体を揺らす衝撃が来たのは、ほぼ同時だった。

ゆっくりとした動作で自分の脇腹の辺りを見れば、一本の銃剣が生えている。

(ばかな……)

喉にこみ上げてくる熱い血と腹部から感じる若干の痛みにようやく蓮はようやく自分は刺されたのだという事実を理解したが、遅れて襲ってきた激痛に顔を歪め、地面に膝をついた。

「ぐっ……貴様、いったいどうやって……」

背後には、全身を破壊しつくしこの手で殺したはずのアンデルセンがまるで何事も無かったかのように蓮を見下ろしていた。

蓮の射殺すような視線など意にも介さず、アンデルセンは道端に転がったボールを蹴るかのように無造作に蓮の身体を蹴り飛ばした。

「が、はっ!」

身体はなす術も無く空に上がり、地面を擦りながら横向きに倒れる。そんな蓮にアンデルセンはゆっくりとした動作で近づくと、容赦無く頭を踏みつけた。

「ぐぅ!」

「クッ、ククッ、クカカカカッ!!どうやって?どうやってだと!?この俺が!神罰の地上代行者であるイスカリオテが!!貴様のような愚者を野放しにして屈すると本気で思ったのか!?」

狂気に目を血走らせ、咆哮しながらアンデルセンは踏みつける足に徐々に力を込めていく。

「グっ!!舐めるなぁ!!」

蓮は頭を踏みつけられながらも右手にO.S.を作り出し、その手をアンデルセンへと向けた。

「何のつもりだ?いまさら何ができる?このままおとなしく俺に殺されろ」

手甲から飛び出している刃が腕に刺さっているにもかかわらず、無駄ともいえる蓮の行動をアンデルセンは何をするわけもなくただ嘲笑う。

――――それが、間違いだった。

「好都合だ」

蓮はアンデルセンに不敵な表情を向けると、絶望するどころか苦痛の中で笑った。


「おかげで十分な時間を稼がせてもらった」


「っ!?ちィ!!」

アンデルセンはその言葉の意味することに気づき、すぐさま蓮に止めを刺そうとするが、それはあまりにも遅い行動だった。

「内から痺れろ」

チリッ…

雷法――――

その瞬間、闘技場は轟音と閃光に蹂躙された。


「勝者!アンデルセン選手!!」

司会の声が観客の耳を打ち、今の戦いを称える歓声が怒涛のように聞こえてくる。

結局、試合は蓮の戦闘不能で終わった。

相打ち覚悟で放った不完全な電撃の一撃は蓮の体をも蹂躙し、全身火傷の重症を負わせ意識を刈り取った。

もっとも、勝利したアンデルセンも無事ではすまなかった。

刃を伝わり体内に入り込んだ電撃は、アンデルセンの脅威の治癒力を持ってしても回復が追いつかず、彼の身体、特に下半身を破壊し尽くしたのだ。

しかも魔術の治療を頑なに拒否するおかげでアンデルセンといえども明日までまともに歩くことす
らできないだろう。


大将戦    アーカードVS麻倉ハオ


会場はかつて無いほどに静まりかえっていた。その原因は闘技場に立つあの二人だ。

べつに二人は睨み合ってる訳でも殺気を放っているわけでもない。

ただ、その存在からわずかに漏れ出している圧倒的な力に皆声が出ないのだ。

人に生み出された最強の吸血鬼 アーカード

鬼に学び、人を超えた人の究極 麻倉ハオ

様々な強者が集う大会参加者の中でも間違いなく五本の指に入る力を持つ両者――――

その二人が今、この場で激突する!


「大将戦!ハオ選手VSアーカード選手!!始め!!」


まず、最初に動いたのはアーカードだった。

血のように紅いコートの中からゆっくりと、それでいて無駄の無い動作で銀色と漆黒の巨大な二丁の拳銃を取り出す。

本来、吸血鬼などの対化物用拳銃として作られ、人間では扱えないであろうその代物、454カスール改造銃とジャッカルは淀み無い動きで銃口が持ち上がり、眼前に立つハオへその凶暴な牙を向ける――――


――――いや、正確に言えば、向けようとした、が正しいだろう。


なぜなら、それよりも早く、アーカードの身体は突然虚空より現れた紅の巨大な腕に握り締められたのだから――――


いったいいつ現れたのか。燃え盛る炎のように鮮やかに揺らめく紅の巨人はまるで人形のように
いともたやすく最強の吸血鬼であるアーカードを掴み、動きを完全に封じたのだ。

闘技場に佇む紅の巨人はそこにあるだけで周りの大気を焦がすほどの圧倒的な存在感をこの場に示す。

アーカードは自身を掴む炎を司る自然そのものを体現したような存在を見上げると、恐怖するわけでもなく、逆に喜色に瞳を輝かせ、微かに身を震わせた。

「素晴らしい」

自然という圧倒的な存在を前にしても、その言葉には恐怖も絶望も揺らぎも無い。

あるのは、これから始まるであろう楽しくて、壮絶で、血に濡れた闘争を思い描いた狂った歓喜の響きだけだった。

不意に、アーカードは自分を見つめる視線に気づき、唯一自由に動く顔を向ける。

そして、紅の巨人の背後に立つハオの意思の炎を宿した瞳とアーカードの狂気を宿した真紅の瞳が交差した。

その瞳を受けながら、ゆっくりとハオは口を開き、己が従僕にただ一言だけ命じる。


「燃やせ。S・O・F(スピリット・オブ・ファイヤー)」


ボオッ

ハオの命を受けて、S・O・Fはアーカードを握る手から魂さえも燃やし尽くす業火の炎を上げる。

なすすべも無く燃え上がるアーカードに会場にいる誰もがハオの圧倒的勝利を確信した。

だが、その愚かな確信を打ち破るようにいまだ燃え上がる炎の中から、まるで祝詞を唱えているかのような声が高らかに響く。


「拘束制御術式 第3号 第2号 第1号解放――――


状況A『クロムウェル』発動による承認認識――――


目前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始――――」


その瞬間、業火に焼かれていたアーカードの身体が泥のように崩れ、無数の瞳を宿した深遠の闇が炎から溢れ出た。


現れた闇は炎ごと自身を握り締めていたS・O・Fの片腕に喰らいつき、いともたやすくその片腕をもぎ取る。

「へぇ……」

ハオは不敵な笑みを表情として顔に刻むと面白そうに奪い取ったS・O・Fの腕を咀嚼する闇を見つめた。

「これが公爵位の吸血鬼にして『星』側の真祖と呼ばれる不死の王アーカードか……これなら少しは楽しめるかな?」

「クックックックッ、はははははははは!!!!ああ。楽しませてやるとも!!
さぁ、始めよう。さぁ、始めるぞ!人間と!化物の!究極の闘争を!!!」

闇全体から響くアーカードの歓喜と狂気を含んだ笑い声を合図に、怒涛の勢いで闇がハオに襲いかかる。

ハオは片腕を再生させたS・O・Fを従え、前方に群がる闇を手当たり次第に燃やしていくが、増殖を続ける闇にはまるで効果が無い。

だが、闇もまたS・O・Fに阻まれハオに接近はできないでいた。

闇が進撃し、炎がそれを燃やす。永遠に続くとも思われたその攻防は始まりと同様に唐突に終わりを告げた。

同じように向かってくる闇を同じように炎で迎撃しようとしたその時


闇が――――バラケタ。


バラケタ闇は無数の犬や蝙蝠、ムカデとなって縦横無尽にハオへと襲いかかる。

完全に虚をつかれることとなったハオだが、特に慌てた様子もなく、冷然と向かって来る全てのものを炎で包みこんでいく。

ふと、ハオは足首の辺りに鋭い痛みを感じた。何かが自分の炎を抜けたという事実に驚き目を向けると、そこには小さな、本当に小さなムカデが一匹だけ蠢いていた。

それが、隙になった。

意識を逸らしたハオに向かって数万匹にも及ぶ下僕が一斉に襲いかかる。

ハオは瞬時に意識を戦闘に戻し迎撃に移るが、全てを燃やすことはできずに数匹の蝙蝠が体に纏わり付く。

それに続くように次々と下僕はハオの身体に纏わりつき、ハオを闇の中へと誘った。

それに伴い下僕を燃やしていたS・O・Fも消え、先ほどの炎に蹂躙されたアーカードの時にも思ったように誰もが終わったと頭の中で呟いた。

「まだだ」

静まり返った会場の中、ただ一人、葉の声が響く。

それに伴うように深遠と思われた闇から徐々に光が漏れ、

「あいつは……こんなんで死ぬようなやつじゃねぇ」

巨大な火柱を上げた。

突如出現した火柱は、周りを囲んでいた闇を跡形もなく消し飛ばすと、徐々に明確な形をとって具現化する。

現れたのは、正面にS・O・Fの頭部を飾り、肩には翼のように展開されたS・O・Fの両腕を展開させ、背に二本の蝋燭を携える人知を超えた有史以来最強にして究極のO.S.を纏ったハオ。

「黒雛……まさかこれを初戦で……しかも吸血鬼程度に使う羽目になるとは思わなかったよ」

ハオは静かに、それでいて激しく燃える瞳を散り散りになった闇へと向けて言い放つ。

「ふっ、ふははっ、ふはははははは!おもしろい!おもしろいぞ!人間!!
もっとだ!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!!
この私を楽しませろ!!!」

狂った狂喜の叫びを上げる飛び散った闇は蝙蝠へと姿を変えると、空に浮くハオの正面に集中して紅い拘束着を着たアーカードを形作る。

「「貴様(お前)は私(僕)の糧になれ」」

奇しくも似たようなことを言い放ち、二人の究極は激突した。


GS・月夜チームサイド


共に究極と呼ばれ恐れられる存在同士の目にも留まらぬほどの超高速空中戦闘。その光景は非日常に慣れている彼等にしてもとても信じることのできないものだった。

「次元が、違う……」

思わず、ピートがそう漏らす。だが、その言葉はこの場にいる人間全員の代弁だろう。あの二人が繰り出す一撃一撃には途方もない力が込められている。それこそ、大抵の存在ならばその一撃で跡形も無く滅ぼしてしまえるほどの……

「アルクェイド……あなたなら、彼等に勝てますか?」

シエルは額から頬に伝った一筋の汗の冷たさを感じながら、この場で唯一あの二人に対抗できる可能性がある『世界』側の真祖にして最強の真祖の姫であるアルクェイドに問う。だが、返ってきた返答はその希望すら打ち砕くものであった。

「……無理ね。満月の夜だったらわからないけど、この条件じゃどんなによくても相打ちが精一杯だわ」

「なっ!?」

信じられないアルクェイドの言葉に志貴は唖然とする。

自分が知る限り、全てを超越した最強にして究極の存在であるアルクェイドが明確に、はっきりと勝てないと告げたのだ。その衝撃は計り知れない。

「正直、私も今目の前の現実が信じられないわ……炎の精霊の頂点に君臨する炎の精霊王に連なる大精霊を従える人間に死という概念が取り除かれたネロさえ超える不死の吸血鬼……今、改めて思うわ。私達真祖を生み出した世界の意思を」

静かに語るアルクェイドの傍らで、横島は半ば呆然としながら美神に声をかけた。

「美神さん……あいつ等、もしかしてアシュタロス並みに強くないっスか……?」

「……悪い冗談だと、思いたいけどね」

いくら人界にいるせいで全力を出せていなかったとはいえ、仮にも魔界の大公爵と呼ばれた魔神アシュタロスに匹敵するという本来ならありえるはずのない事実を、美神は言外に肯定した。

在り方を人々の幻想に左右されながらも、この世界が誕生した時より存在する『表』の超越種と対等の力を持った人間と吸血鬼……美神の言葉を借りるようだが、確かに悪い冗談としか思えない。

「横島クン……それに雪乃丞とピート、一応遠野さん達にもいっておくわ。もしもあの二人と当たる事があったら試合を放棄するか、十分間逃げることに専念して棄権しなさい。戦ったとしても何もできずに死ぬだけよ」

「「「「「「「…………」」」」」」」

美神の言葉にはある種の確認の意味もあった。目の前で繰り広げられているこれを見た後になおも二人に挑むなど、それこそ自殺行為でしかない。同じチームの横島達は当然のことだが、美神はアルクェイド達にも死んで欲しくなかった。会ったばかりではあるが、こうして親しく話していた相手が死ぬ思いなど、もうしたくなかったのだ。

美神の言葉に唯一アルクェイドだけは何か言いたげだったが、志貴の釘を刺すような鋭い視線に押され黙り込む。

そのとき、会場全体が激しく揺れた。


その戦いは熾烈を超えた激烈を極めた。

ハオは黒雛で自由自在に空を翔けながら、迫り来る狗の頭部を背に伸びた黒雛の腕で切り伏せ、地獄の業火を思わせる強大な力でアーカードを燃えカスにしようと煉獄の炎を生み出す。

アーカードは両腕を無数の目を持つ狗の頭部へと変え、空を翔るハオを食い荒らさんと狗に紅い魔力を纏わせ放ち、炎を半ば無視するようにハオへと迫る。

お互いに相手を貪るべく放つ一撃一撃は大気を震わせ、世界を震撼させた。

しかし、それほどに激しい攻防だとしても二人には傷など皆無だった。

ハオの肩を狗が切り裂けばその一瞬後には再生し、アーカードの胸を黒雛の腕が抉り取れば闇がその部分を瞬時に覆い再生する。

だが、外面は再生したとしても内面はそうはいかない。

ハオはただでさえ巫力を消費する黒雛に加え、巫力による治療を繰り返すことで、すでに半分ほどの巫力を使用していた。それと同様にアーカードもまた、魂さえ燃やすS・O・Fの炎を何度もその身に受けることで、不死である身体よりも精神が疲労していた。

だが二人の闘いはそんなことは些細なことと言わんばかりに徐々に激しさを増していく。


「ふはははははは!!麻倉ハオ!ははは、これほどの力を持つお前は何をもって闘争に臨む!人を完膚なきまでに否定したはずのお前が、いったい何で人として私との闘争にサインする!」

化け物は吠える。狂気に支配され、愉悦を味わい、黒い闇の腕を吹き飛ばされながら咆哮する。

「ちょっと先を見てみたくなっただけさ。それと、僕はまだ人を認めてはいない」

それに答えるのは人間。人を超越し、神の領域にまで足をかけた人間。その人間が、身を包む鎧を粉砕されながら、静かに燃える瞳を化け物に向け、答える。

「ははは。嘘だ!虚言だ!戯言だ!お前は!今!この場に!人として私の前にいるはずだ!!
何故ならお前はこうして私と闘っている。人だからこそ!ここまで私と!化け物と闘えている!!
お前は認めている!人の意思を!信念を!理想を!狂気を!愛を!悲哀を!憎悪を!執念を!憤怒を!そして!無限に広がる可能性を!!」

徐々に勢いを増す闘争の中で、化け物は殺し合いという舞踏を踊りながら真理という歌を歌う。相手となる人間と拳をあわせ、互いにその身を炎と闇で侵食しあいながら、化け物は歌い続ける

「私の名に誓って宣言してやる。お前は狗ではない。お前はどうしようもなく人間だ!他者を否定し、自分を否定し、世界をも否定する!ああ、そうだ。お前ほど人間らしい人間を私は今まで見たことが無い!」

歌は終焉に近づき、踊りの相手である人間もその歌に同調し、歌を合わせる。

「……そうだな。確かにそういった意味じゃ、僕は人間だ。だが、それがどうした?」

衝突音、爆発音、衝撃音、粉砕音、風切り音、全てを楽器とした会場の中心で、その歌は、その歌だけが、化け物の鼓膜を激しく揺らす。

「どんな存在であろうと自分の在り方を決めるのは自分でしかない。他人にどういわれようが、世界にどう判断されようが、僕が認めないと思えば、それが僕にとっての全てになる」

相手の歌が終わり、そして、曲はクライマックスに入る。

「……――――は、はははは、あはははははは!!!素晴らしい!まさに理想の答えだ!!
合格だ!そうだ!だから人は化け物を打ち破ることが出来るのだ!!人は全てに染まり、全てに打ち勝つことができる!!それが人の最大の強み!それが世界をも恐怖させた人の強さ!今確信した!貴様なら私を殺すことが、倒すことが出来る!!」

最後に化け物の咆哮によって、歌は終わりを告げた。

ハオは底冷えするような笑みを刻みながら圧縮した炎を黒雛の腕に纏わせ、アーカードは狂気とも呼べぬ凶気の愉悦に口を裂き両腕の狗を一つに合わせ、自らに敵対するものを殲滅するために放つ。

衝突――――

一際大きい衝撃にハオは空にアーカードは地に弾き飛ばされるように距離をとる。

奇しくも、それは二人にとって絶好の間合いだった。

ハオは黒雛の背に乗った二本の蝋燭を正面のアーカードに向けると、その奥にこの世に在る全てを燃やし尽くす業火を生み出し、アーカードは腕を構成する魔犬に魔力を集中させ、紅く輝き獰猛な唸り声を上げる狗をハオへと向ける。

「鬼火――――」

「行け――――」

蝋燭から発射された超高密度の火球と極限の魔力を収縮させた赤黒い閃光が相手を破壊しつくさんという意思を持って迫り、衝突した。

凄まじい力と力は互いを貪るように徐々に力を増して、巨大な力の球体となって闘技場を蹂躙する。あまりの常識はずれな力に闘技場の地面は消滅し、最強クラスであるはずの観客席周辺に張られた結界がきしむような音を響かせ始めた。

「こ、これは……やばい!!結界班聞こえるか!?すぐに緊急用の最終防壁を発動させろ!!
何〜?宝石の翁とナイアさんの許可が無いだ〜。バカヤロー!!このままじゃ目的を果たす前に全員死んじまうぞ!!」

今にも破られそうな結界に危機感を感じた司会は緊急用の最終防壁の発動を怒鳴るように命じる。

結界班が怒声に押され防壁を発動させた数秒後、共鳴かはたまた相乗効果かで限界まで高められた力の球体は遂に破裂した。

音も光もこの世を構成する全てが消え去り、ただ凄まじい衝撃に会場全体が激しく揺れる。

全てが終わった後、闘技場には霧のようなもの覆っているためどちらが勝ったのかはわからない状態だ。

徐々に霧が晴れていき、空中に人影が浮かぶ。

「……まさか……ここまで、やるとはね……」

それは……左腕と右足を付け根から失い、今にも消えそうな黒雛を必死に制御しているハオだった。

血が流れる左腕を右手で押さえ、右足を治療させながら苦悶の表情で抉り取られたような闘技場を睨んでいる。

その底には……拘束着姿のアーカードが目を見開いた状態で横たわっていた。

「……はっ!しょ、勝者ハオ選手!!長い激闘を制したのはふんばり温泉チームです!」

半ば呆然としていたがそこは腐っても司会。すぐに現状を把握すると高らかにふんばり温泉チームの勝利を宣言する。

わ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

遅れて歓声が会場を揺らすほどの大音量で響き渡り、今までの試合を称えた。

だから、誰も気づかなかった。

アーカードの口が愉悦に大きく歪んだことに……


殲滅者チームVSふんばり温泉チーム

                  勝者 ふんばり温泉チーム


あとがき

ご愛読ありがとうございました。

今回はほとんど気迫で書ききりました……本当に疲れた……

今回、ハオVSアーカード戦については少しだけアニメも参考にさせていただきました。こうでもしないとアーカードが動かせないので……さすがに今本誌の方でやっている『アレ』を出すわけにもいきませんし……

レスにて予告した通り、前回の竜VSウォルター、葉VSセラスも含めて相性表を簡単に作って見ました。

ちなみに相性の段階は上から◎、○、△、×の四段階で表します。

例として私の好きなキャラである横島(このSSの横島。詳しいことはこの『黄昏の式典』の前の話となるGS小ネタ掲示板の方に投稿した『選択の後に』を参照)とFateの主人公衛宮士郎で表すと。

相性

横島 ― 士郎……△

理由

全てを救うことを前提にする『正義の味方』を目指す士郎と心から愛した恋人を世界のために犠牲にしてしまった横島では決してお互いの意見が合うことは無いため。

これはどのルートを辿った士郎でも同じことで、『桜だけの正義の味方』となった士郎の場合でもお互いの選択や意見が違うので、結局根本的な部分で理解しえない。

それでも×ではないのは、互いに相手の想いを共感しあえるから、根本の部分で無く表面の部分で付き合うには問題が無いからです(まあ、仲が悪い理由の一端として士郎の周りに美人が多いというのもあるのかも知れません)。

と、だいたいこういう形で作ります……なんだか、番外編としてGSとFateのクロスを書きたくなってしまいました。もっとも、Fateは第二部の方でサ……(極秘事項のため消去)。

それでは、相性表をどうぞ。


竜 ― ウォルター……○

意外にもこの二人の相性はかなり良い方です。その理由としては、共に役職は違えど仕えるものであり、主のために尽くす方向性も似ているためです。後はお互いに相手の自分とは正反対な戦いを認めたからですね。

……この考察を読む限りではかなり仲がよさそうなのに◎で無いのは……竜に有ってウォルターに無いものと言えばわかりますか?(ちなみにリーゼントなどの表面の部分ではないです)


葉 ― セラス……◎

これは恐らく予見されていた方々も多いのではないでしょうか?理由は……葉の性格からですね。葉は人間、人外、果ては敵まで隔たり無く普通に付き合いますから。セラスにしても吸血鬼の自分が普通に接されるというのは嬉しいでしょうし。

と、言う訳で葉はこの大会の参加者の大部分と◎か○ですね。


蓮 ― アンデルセン……×

これは最早言わずもがな。自分の道を自分の意思で突き進む蓮と自分の道を神のために突き進むアンデルセンでは究極的に相性が悪いです。というより、この大会でこの二人と相性が良い人物はかなり限られてきます。


ハオ ― アーカード……?

正直、この二人の場合は相性などと簡単に済ませられそうにないので不明と表記させてもらいます。


裏・設定2

今回、本文を読んでいて疑問に思ったこと言葉があると思います。

『星』側の真祖と『世界』側の真祖……これはいったいなんなのか?今回の裏・設定ではそれを簡単に説明します。


このSSの世界設定では吸血種は大まかに『世界』側の真祖、死徒、『星』側の真祖、吸血鬼の四つに分類される。

それぞれ何が違うのかを簡単に説明すると、『世界』側の真祖は文字通り世界によって生み出され、死徒は『世界』側の真祖に血を吸われたものか、死徒が他者の血を吸うことで発生する。なお、死徒に血を吸われた場合はすぐに死徒になれるわけではなく、長い年月を必要とする。

対して『星』側の真祖と呼ばれる者達は世界が生み出したのではなく、あくまで星が育んだ者達の中で偶然誕生した強大な力を宿す吸血鬼のことをさす。

吸血鬼とは生まれながらにして吸血種である者か、吸血鬼に血を吸われた者のこと。この場合は処女と童貞の男女ならばほとんど例外なく吸血鬼となり、例外として血を吸った吸血鬼が対象に血を送った場合もなる。

『世界』側の真祖と死徒については公式のものとほとんど大差が無いので省かせてもらいます。

吸血鬼には分類として男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の五つの爵位があり、この位が高いものほど強力な力を宿している。

参考程度に説明すると、男爵の爵位にいる者達はほとんどが生まれたばかりの吸血鬼で、一番数が多いありふれた爵位であり、教会の代行者クラスの実力があれば楽にとまではいかないが、確実に殲滅できる程度。

子爵の爵位にいる者は自分の能力をしっかり自覚していて、男爵とは比べ物にならない戦闘能力を保持している。もし殲滅するならば最低でも代行者クラスが五人は必要。

伯爵の爵位にいる者は吸血鬼の能力を自在に使いこなすことができ、中には様々な武具や魔具を使う者もいる。殲滅するには埋葬機関の司祭が聖典を持ち出すことが前提となってくる。

侯爵の爵位は吸血鬼の能力だけでなく、様々な魔術や秘儀を操るものが多く出てくる。ここまで来ると殲滅は至難の業で、埋葬機関の者でも数人の例外を除いては単独では殲滅不能。

最上位の公爵の爵位になると、もはや人では殲滅は不可能。ここに含まれる者達こそ、『星』側の真祖として恐れられている。

現在確認されている公爵に分類される吸血鬼の例を挙げるならば、不死の王アーカード、夜魔の森の女王リァノーン、今は滅びし吸血鬼王国の国王ストラウス、腐蝕の月光アーデルハイトなど。教会などの裏組織の見解ではまだいると思われているが、実際に確認されているのはこの四体を加えた極小数。

なお、闇の福音の二つ名で知られるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは『星』側の真祖を真似て吸血鬼になったために特例として真祖と呼ばれている。ちなみに爵位は侯爵。


さて……後書きで長々と語ってしまいましたが、これだけ長いものは恐らくもう出てこないと思うのでご安心を。後、できれば色々な感想をよろしくお願いします。質問等に関してもできるだけお答えしますので。

今回は早めに投稿してしまったので、次回は恐らくかなり遅くなると思います。どれだけ遅くなるかは私にもわかりませんが、どうか見捨てないで待っていてくれたら嬉しいです。

それでは次回、黄昏の式典 第八話〜会合の騒動〜をよろしくお願いします。

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