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「黄昏の式典 第六話〜始まり=根性・信念〜(シャーマンキング+ヘルシング+月姫+GS+奪還屋)」

黒夢 (2005-06-15 20:04/2005-06-15 20:09)
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裏家業チームサイド


「クス……ついに始まりましたね。無限城どころか世界の運命すら分かつ戦いが……」

上から下まで全身黒一色の男、赤屍蔵人が帽子の切れ間から闘技場に立つ二人を一切の光を宿さぬ底の知れない瞳で捉えながら、抑え切れない喜悦を微笑として浮かべている。

「……そろそろ教えてもいいんじゃねぇか?ジャッカル。あの引き篭もりのブレイントラストの亡者どもがわざわざこんな馬鹿げた大会を開いたわけをよぉ」

タバコの火を百円ライターでつけ、赤屍の後ろの席に座るサングラスを掛けたウニ頭の男、美堂 蛮が赤屍を蛇のように鋭い眼差しで睨み、火のついたタバコの煙を存分に堪能しながら問いかけた。

「私も興味がある。元来、無限城と敵対関係にあるはずの覇道、アーカム、クロノス、さらにアレとまで手を組んでまで行うこの大会にいったい何の意味があるのかが……いや、言い直そう。手を組まなければいけない理由が、ね」

蛮に続くように今度は顔の半分を蜂の巣で覆われた奇妙な長髪の男、毒蜂が同じように問う。

「……残念ながら今はまだお話できません。ですが、これはお二人にも無関係というわけではないとだけ言っておきましょう」

「……どういう意味だ?」

「クス……」

「ちっ……」

徐々に三人の間で険悪な空気が広がりつつあるなか、その中心である赤屍の膝の上にまるで彫刻のようにタレながら固まっている勇者がいた!彼の名は天野銀次!自称愛の戦士である!……と、力説させてもらったが、彼にとって今のこの状況は笑って軽く流せることではない。

「ところで銀次クン……」

「は、はい!」

緊張や恐怖によって半ば現実逃避していた思考がその言葉で一気に目覚め、銀次は身体を直立不動の体勢にして一秒と間をおかずにシュタッ!と素早く手を上げ、赤屍に応じる。

……タレてはいるが。

「あの戦い……君ならどう見ますか?」

言われてようやく銀次は意識を赤屍から試合会場で向き合う二人に向けると、すぐさま赤屍に返答する。

「はい!あっちのおじいさんの方が強いと思います!」

一目見た感じでは若いリーゼントの男性の方が強そうではあるが、あの老人からは歴戦の兵を思わせる何かがある。それを感じ取った銀次は軍人のような言動でそう答えた。が。

「……クス」

(なぜ!?なぜそこで笑うんですか赤屍さん!?)

背後で不気味に笑う赤屍に言い知れぬ恐怖を感じたためか、銀次はさらに身体を硬直させながら滝のような汗を流し続ける。そんな銀次を見かねてか、珍しく蛮が助け舟を出した。

「ウォルター・C・ドルネーズ。通称死神ウォルター。HELLSING機関の執事で、昔は裏の世界でその名を轟かせた奴だ」

「さすがですね美堂クン。四十年近く前の通り名のことを知っているとは……」

「私も彼の噂なら耳にしたことがあるよ。しかし、もう一人は知らないな。どれほどの実力者なのかな?」

本当に興味があるのかどうなのか、手元で蜂を弄びながら、毒蜂はリーゼントの男を注視して声を漏らす。

「さぁ?一つだけ確かなのは……彼もまた、この世界に必要とされている者ということだけでですので……」

(さて、ハートの]にクローバーのY……記念すべき最初の戦いにどちらが勝つか、見ものですね)

冷たい狂気を宿した双眼に木刀の竜とウォルターの姿を収め、クス、と人知れず静かに赤屍は笑みをこぼした。


黄昏の式典 第六話〜始まり=根性・信念〜


ふんばり温泉チームサイド


「おっしゃーーーー!!それじゃダンナ!一番手、行ってきやすで!」

「おう。がんばってな、竜」

まるで抑えきれない興奮を誤魔化すかのように気合いの咆哮を轟かせ、勇み足で闘技場の中心へと歩んで行く竜を葉はいつものどんな状況であれ決して変わることの無い笑顔で見送る。

『決して油断はせぬようにな』

『けっ!俺様が憑いてんだ。そんなへまするかよ』

そんな葉とは対照的に葉の持ち霊、阿弥陀丸は相手から何かを感じ取ったのか、視線を鋭くし、竜と竜の持ち霊であるトカゲロウに忠告するが、トカゲロウは絶対の自信を声に乗せ、軽快に答え、竜の傍らに憑いて行く。

「ふん!無様に敗北などしようものなら許さんぞ」

「へっ!言ってろ」

頭のトンガリが芸術的に素晴らしい蓮は存外に言いながらも、親しいものにしかわからない言外の激励を送る。竜もその言外の意味に気づいたのだろう。振り返らず、トカゲロウと同様に軽快に答えると闘技場の中央へと歩んでいった。


殲滅者チームサイド


「ウォルターさん……気をつけてくださいね」

相手から漏れる巨大な霊力を吸血鬼特有の発達した第六感で感じ取ったためか、ウォルターの強さをよく知っているセラスではあるが、やはり不安は隠せず、若干心配そうな表情でウォルターを見る。

「心配性ですな、セラス嬢は。なに、老いぼれだが、まだまだ青い若者には負けはしません」

「そうだ。お前は自分の心配だけをしていろ。あの司会もいっていたが、お前の力は恐らくこの大会で一番下だ」

「うっ……!」

自らの主であるアーカードの容赦の無い言葉に言葉を詰まらせ、思わず俯いてしまったセラスをウォルターは孫を見るように微かな笑みをこぼして見つめると、続けて闘技場を睨み、足を一歩踏み出した。

「……では、行って参ります」

こうして、死神は出陣した。


辺りをほのかに照らす夕焼けの淡い光を全身に浴びながら、闘技場中央には執事服を隙なく着込んだ初老の男性、ウォルターといっそ見事と呼べるほどのリーゼントの男性、竜が目に見えない静かな闘志のやり取りをしながら、ただただ始まりの時を待っていた。

「大変長らくお待たせしました!それでは記念すべき大会最初の試合にして先鋒戦!
竜選手VSウォルター選手!始め!!」


ヒュパッ

司会によって開始の合図が高らかに宣言されるのと同時に、闘技場からまるで鋭利な刃物が空気を切り裂くような鋭い音が響く。

もちろん竜も今の風切り音には気づいているが、前方に佇むウォルターはこちらを侮蔑しているかのような眼差しを向けているだけで特に警戒すべきそぶりは見せていない。

この闘技場で試合前と違うことと言えば、竜が木刀を構えているのとウォルターが開始と同時に片腕をわずかに上げたくらい―――

「竜!!」

その時、同じふんばり温泉チームの仲間である蓮の切羽詰ったような怒声が竜の耳に届く。

それで、ようやく気がついた。

まるで生き物の様に動く幾本もの細い銀光が近くにある石柱ごと自分の周りを包囲していることに―――

「なっ!?」

竜は一瞬驚愕するもののすぐにその銀光について思考を走らせ、それを理解した。

(こいつは、やべェ!)

この銀光が何なのかはまだ分からないが、彼の今までの戦いで養われた直感が即座にこの場を離れろと命令している。しかし、周りを覆う銀光にはそんな隙間などない。

そうこうしながら脱出の方法を必死に模索していると、偶然正面のウォルターと眼があった。その顔には今まであった作り物を貼り付けたかのような上辺だけの温和な表情はなく、間違いなく本物の嘲笑の笑みを貼り付け、黒い手袋を着けた右手を開きながら遠巻きに見ている。

その笑みを見て、竜は漠然としながらも確信した。


あの手が閉じられれば自分は死ぬ、と――――


そんな竜の心の内をあざ笑うかのように、ウォルターはいっそう深い嘲笑を顔に刻みながら死神の鎌を振るうかの如く、無情にも開かれていた手はゆっくりと閉じられた。

その途端に何かが風を切り、夕焼けの淡い光によって妖しくきらめく数多の銀色の閃光は石柱を紙のように切り裂き、それぞれに必殺の殺意を込めて竜へと奔る。

そして一瞬後、何かが断ち切られる音と転がる音が微かに響き渡り、その音の上に被さるように幾本かの石柱が斜めに滑り、轟音を響かせながら崩れ落ちた。

「……――――なるほど」

石柱が崩れたことによって舞う砂塵など気にもせずに、ウォルターは自らが殺戮せしめたであろう存在がいる所を狂気が見え隠れする視線で射抜きながら独白する。

「それがO.S.(オーバーソウル)というものか、小僧」

砂塵が晴れたその先にいたのは、全身バラバラの物言わぬ屍ではなく、いつの間にか右肩に鎧の様なものを装着し、右手には刀というよりも巨大な刺身包丁を握り締めた竜がいた。

あの時、一瞬でO.S.を作り出した竜はとっさの判断で一番銀光が少なかった左前方の銀光を断ち切り、その開いた隙間に飛び込むことで銀光の包囲網からかろうじて脱出したのだ。

しかし、それでも無傷とは言えず、身体のあちこちから血が滴り流れている。

「いきなりたぁ、やってくれるじゃねぇか。じじい」

竜はわずかに切れた頬から流れる血を左手で乱暴に拭いながら、若干の怒りを込めてウォルターを睨みつける。

「この大会の方針は『なるべく殺すな』。つまりはデッド・オア・アライブ。そんな甘い考えではすぐに死ぬことになるぞ」

「けっ!なら、オレも殺す気でいくぜぇ」

さっきとは打って変わって油断無く刺身包丁を構える竜を見ながら、ウォルターは心の中で舌打ちをした。

彼の考えでは今の奇襲で最低でも四肢の一本や二本は奪えるはずだった。

それが、わずかに体を掠っただけに留まるなど、予想外もいいところだ。

(……どうやら、甘く見ていたようですな)

竜もそうだったようにウォルターも竜のことを尻の青いガキだと舐めていた。

確実に仕留めるつもりならば、多少動きが大降りになり、意図を悟られたとしても万全を期して片手だけではなく両手で仕掛けるべきだったのだ。

だが、いまさら後悔しても遅い。今、何よりも優先して考えるべきことは、どうやって目の前の敵を細切れにするか……ただ、それだけだ。

時間が経つにつれ、徐々に辺りが研ぎ澄まされた殺気と闘気で埋め尽くされていく。

二人は相手の出方を窺うかのようにその場から微動だにせず相手を見据え、互いの殺意の象徴である凶器は、ただただ主の命令を待ち望み鈍い輝きを放ちながら血を貪るその時を待っていた。


さて、少し話は遡り、試合開始二十分前GSチームサイド


全てのチームがそうであるように、美神たちもこれからライバルとなる相手の試合を観戦するために、用意されていた選手専用の座席に座りながら始まりの時を待っていた……のだが、そこで予想外の事態が起きた。


そのきっかけになった言葉は「同席してもよろしいですか?横島君」だ。


第一印象最悪で、とても親しいとは言えない間柄であるシエルの突然の言葉にわずかに混乱した横島だったが、次の言葉でなんとなく納得した。どうやら昨日のアルとカオスのあまりにも普通?のやり取りを見て、なんかもう全てがどうでもよくなったらしい。

というわけでばったり出会った月夜チームと同席することになった美神達は互いに交流を深める意味を込めて、これまでに起こった様々な出来事を話し合ったのだが、これが意外にも話が合い、知らぬ間にかなり打ち解けていた。


もちろん色々と大変なことも起きた。


まず手始めに横島がアルクェイドと秋葉、そして昨日のあの出会いのために自粛していたシエルまでもをいつもの調子でナンパしようとしたその直後ナイフの軌跡が横島の首を掠めたり、ピートがアルクェイドを見ながらビクビク震えていたり、止めは何が悪かったのか美神と秋葉が冷たい微笑の応酬をしていたりと、とにかく大変だった。


なにはともあれ今はようやく落ち着いてすでに始まった試合を一緒に観戦している。


「あれが、O.S.ですか……」

「噂には聞いてたけど、見るのは初めてだわ……」

闘技場で油断無く構える竜の右手の刺身包丁を凝視しながら、シエルと美神が呆然とつぶやく。

「O.S.?」

「なんスか?それ」

いきなり現れた奇妙な包丁に何故か漠然とした圧迫を受ける志貴と、近くに連れ添っていた幽霊が吸い込まれ、霊力で作られているのはわかるがそれ以上のことがまったくわからない横島がアレを知っているらしい二人に尋ねる。

するとシエルは良くぞ聞いてくれました!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、嬉々と語りだした。

「O.S.とは第三法に最も近いといわている神秘……簡単に言ってしまえば、魂の具現化です」

「なっ!?ちょ、ちょっと待てよ!そんな馬鹿なことがあるわけねぇだろうが!もしそんなことできちまったら……死んだ奴が生き返るっていってるようなもんじゃねぇか!」

信じられないことをさらりと言うシエルに思わず雪之丞が声を荒げ食い下がる。しかし、雪之丞の言うことももっともだ。魂とは万物をつかさどる情報そのもの。それを具現化できるということは、事実上生き返ったといっていいだろう。

それ対してシエルは人差し指をピンと伸ばし、まるで学校の先生のような口調で答えた。

「ええ。雪之丞君のいうとおり、実際の第三法はちょっと生き返ることに対する意味は違いますが、それさえも可能と言われています。ですが、あれは少し違うんです。O.S.とは魂を無理やり物質に押し込もうとした時にあふれ出る魂を魔力にも霊力にも存在するといわれている『巫力』を使って具現化させる能力なんです。詳しい説明は長くなるので、とりあえず不完全な魂の具現化と思ってください」

満足のいく説明を出来たためか、シエルは満面の笑みを浮かべ言葉を切る。

それでようやく周りに眼がいくようになると、ふと、アルクェイドが竜のO.S.を睨み続けていることに気づいた。

「そんなに睨んで、いったいどうしたんですか?」

「……五百年ぐらい前にロアを狩ったときちょっと、ね」

答えたアルクェイドの言葉の中には、感謝のような憎悪のような空しさのような、そんな言いようのない感情が見えた。


いまだ睨み合いを続け、絶対の自信と信頼を寄せる凶器を向け合う二人を会場全体が息を呑み注目している。

すでに変わらぬ状況のまま五分ほどの時が過ぎ去り、そろそろどちらかが痺れを切らして動き出すのではないかと会場の大部分の者が思ったその時、先ほど崩れた石柱の破片が、地面に落ちてカツンッと、まるで針を落としたかのような小さな、集中してようやく聞き取れるほどの小さな音を響かせる。


しかし……二人にとって、それはどんな大音量のゴングよりも確実な死合開始の合図になった。


まず動いたのは先ほどと同様にウォルターだった。指から続く殺意を纏った十の銀光を自由に操り、竜の身体を蹂躙するためにそれぞれが悪夢のような軌跡を描きながら一瞬で竜へと迫る。

「らぁッ!!!」

対して竜はそれを正面から迎撃する気なのか、避けようともせずに迫る銀光に向かってその身に持ちうる全ての力を込め、刺身包丁を気合の咆哮と共に振り下した。

あまりの威力に振り下ろした刺身包丁は銀光を断ち切るに留まらず、地を砕き、地面を陥没させる。その際に起こった衝撃は残った銀光の狙いを逸らせ、砂塵は竜を覆い隠し、不覚にもウォルターは竜の姿を見失ってしまった。

「ちっ!」

ウォルターは忌々しく舌打ちをするとすぐさま辺りに注意をめぐらせ、背後等の死角の警戒を強める。

(どこからくる?背後か?横か……!?)

今までの数え切れない戦闘経験から少しでも死角になるであろう箇所に気を配ったウォルターであったが、次の瞬間、試合が始まってから始めてウォルターの表情が驚愕に変わった。竜はウォルターの全ての予想を裏切り、あろうことか背後でも側面でも上空などの人間にとって絶対の死角からではなく、真正面から飛び出したのだ。

「おおおおおおお!!」

竜が雄叫びを上げながら、全てを貪る獰猛な疾風となってウォルターへと迫る。

「くっ!?」

砂塵に紛れての不意打ちと読んでいたウォルターは完全に虚をつかれることになりながらも何とかそれを阻むために十の銀光を竜の身体を覆うように展開する。

しかし、竜はそれを切り捨て、切り払い、自身が傷つき鮮血を飛び散らせながらも決して進むことを放棄せずに確実にウォルターへと接近していく。

そして遂に、ウォルターは竜の間合いに入った。

「うらぁぁぁぁッ!!!」

防御など考えていない確実に当てるためだけの捨て身の一撃がウォルターの胴へと大気を薙ぎ払いながら迫る。

「くっ!!」

当たれば上半身と下半身がサヨナラしてしまいそうなその必殺の一撃をどうにかしてかわそうと老体に鞭を打って横に大きく跳ぶが、刃の切っ先をかわしきれず、腹部が深く切られた。

「がっ!!!?」

口から鮮血を吐き散らし、その場でウォルターは地面に倒れこむ。多量の血を流す傷口を押さえ、激痛に耐えながらなんとか立ち上がろうとするが、眼前に刺身包丁を突きつけられ静止した。

「終わりだぜ。その傷じゃぁ満足に腕も動かせねぇよ」

竜は戦いの中でウォルターの武器がなんなのかすでに気づいていた。不規則な動きをし、銀光に輝くそれは――――鋼糸だ。

鋼糸は使い手が達人ならば中・遠距離では最強クラスの武器になるだろうが、近距離ではどんなに扱いなれている者でも動作が大きくなってしまい、どうしてもほんのわずかな隙ができてしまうのだ。

そのことを竜が知っていたのかどうかは定かではないが、結果的に見事にその穴を突いたことになる。

「小僧が……その身体で何を言うか」

ウォルターの言うとおり、竜の傷もかなりのものだ。全身無事なところを見つけるのが難しいほどの切り傷だらけで、中には骨にまで達しているものもある。特に左腕と右足の傷が酷く、半ば千切れかけている。はっきり言って、ウォルターより遥かに重傷だ。

「オレはまだあんたよりかは動けるぜ。それでどうすんだ?」

「……クッ、クックック」

いきなり笑い出したウォルターに、竜は気でも触れたかと思ったが、その時になってようやく竜は気づいた。

その手から伸びた銀光が自分の首に巻きついていることに――――

「どうする?小僧――――」

「…………」

竜は何も言わず刺身包丁スサノロウをウォルターの首下に向け、ウォルターもそれ以降何も言わず冷たい目で竜を睨む。

それから数分が過ぎただろうか。微動だにせずに互いの凶器を向け合ったままの二人を観客が固唾を呑んで見守っていると、突如闘技場に張られていた結界が解かれ、白衣を着た者達が竜とウォルターを担いで行ってしまった。突然の事態にざわめき出す観客たちに向けて司会から説明が入る。

「ご静粛にお願いします!ただいまの試合!両選手ともに出血多量で意識が失われておりましたので引き分けになりました!現在大会運営委員会が世界各国から集めた医療魔術のスペシャリストの方々が治療に当たっておりますのでご安心ください!!
そうゆうわけでどんどん行きましょう!続きまして次鋒戦はこの二人です!」


次鋒戦   麻倉 葉VSセラス・ヴィクトリア


ふんばり温泉チームサイド


「んじゃ、次はオイラか……ああ、そうだ」

どこまでも緩い姿勢を崩さずにゆっくりと席から立ち上がると、葉は気負いもせずにのんびりとした足並みで闘技場へと歩き出す。しかし、途中で何かを思い出したかのように蓮へと振り返った。

「蓮、後で竜に会ってもあんましキツイこというなよ」

「……ふん!一応敗北はしなかったのだから今回は見逃してやろう」

などと口では言っているが、付き合いの長い葉はそれが蓮なりの気遣いであろうことを知っている。

「相変わらず素直じゃねぇなー。蓮は」

振り向きざまに蓮に向かってそう言うと、

「うるさい!さっさと行け!!」

葉の予想通り、背後から怒声が響き、それに押されるように、葉は闘技場の中央へと歩いていった。


殲滅者チームサイド

「ウォルターさん……大丈夫でしょうか?」

腹部を切り裂かれるという重体を負い、タンカで運ばれていったウォルターを思い出してセラスは表情を曇らせる。

……もっとも、その手に持つ大砲のような銃器や腰に装備している凶悪な銃器が感動の光景を凄惨なものに変えているが……

「あれぐらいで死ぬような奴じゃない。それより、婦警。お前は自分の心配をしろといったはずだ。
この大会、殺す気で挑まなければ、殺されるのはお前だ」

「で、でも……相手は子どもですし……」

おずおずとセラスは闘技場の中心に向かう葉を見て、アーカードにそう反論する。確かに世間一般から見たら葉はまだ十代の子どもだ。しかし、アーカードはそのあまい言葉を鼻で笑った。

「子ども?子どもだと?あれが?……婦警、一つだけ忠告しておいてやろう。
あれは子どもではない。私やアンデルセンと同じ――――殺し殺される者だ」


「次鋒戦!!葉選手VSセラス選手!始め!!」


試合開始早々、セラスは事前に右手に持っていた30mm対化物用【砲】『ハルコンネン』を葉に向け、自らの主の言葉に従い若干抵抗がありながらもその重い引き金を引いた。

主力戦車を除く全ての地上・航空兵器を撃破することが出来るハルコンネンから発射された砲弾は狙い違わず葉へと直進し――――斬られた。

そう、斬られたのだ。音速で飛ぶそれを、彼の左手から伸びた何かがまるで紙を切るように容易く切り裂いたのだ。

「なっ!?へっ!?」

斬られた砲弾は左右に分かれ、目標に当たることなく葉の後方で爆発する。

直後に襲い掛かってきた肌をちりちりと焦がす熱風に晒されながらセラスは呆然としていた。

信じられなかった。かわすこともなく、防ぐこともなく、自分よりも年下のはずの少年が、どこにでもいそうな人間が、自分と比べれば脆弱なはずの人間が、本来化け物を殺すための砲弾を斬り落としたと言う事実が――――

しかし、それも当然だろう。目の前の相手は普段彼女が戦っているような低レベルな同族などではなく、この大会に出場できるレベルに達している最強クラスの人間なのだから。

戦闘者として未熟なセラスの思考は戦闘中であるにもかかわらず想定外の出来事により完全にフリーズしてしまっていた。

それでも、爆煙にまぎれて向かってきた刃をかわせたのは吸血鬼の闘争本能のなせる業なのだろうか。

一閃、二閃。止め処なく繰り出だされる刃の嵐をセラスは人間をはるかに凌駕する五感と身体能力を最大限に活かし、紙一重で避け続ける。

何とか反撃の糸口を掴もうとするが、その鋭い斬撃を前にしては不可能に近い。

「くっ……!」

苦渋の声を漏らし、必死で迫り来る刃に対処していたセラスは気づかなかったが、その斬撃は何故かセラスが避けられるように繰り出されているようだった。

(……どうすっかな〜)

あの時、反射的にO.S.を展開させてしまい成り行きでこうなってしまったが、正直この現状は葉にとって良いものではなかった。

(勝つだけだったら簡単にできんけど、それじゃぁこいつを殺しちまう)

彼の白鳥をイメージしたO.S.である『白鵠』には少なからず浄の力、つまり魔を払う力がある。

もし、そんなもので成りたての吸血鬼であるセラスに触れればどうなるか……想像に難しくないだろう。

現状の攻勢もぎりぎり避けられるようにして繰り出している言わばチャンバラのようなもので、裏を返せば、相手に悟られないようにどうやって殺さずに倒すかを考える時間を稼ぐための行動なのだ。

だが、戦闘に完全に集中し切れていないぶん、それ故に隙も生み出しやすい。

わずかだが葉の動作が乱れ、刀の動きが大振りになった。

それは、ひたすらに起死回生の時を狙っていたセラスにとって十分な隙だった。

瞬時に人間をはるかに越えた筋力を駆使して後方に大きく跳び、二十メートルほど間合いを開ける。

葉は自分の失態になんら慌てることなくすぐさま追撃を加えようとするが、それよりもセラスが左腰に装備していたアサルトライフルを左手に持ち、構えるほうが早かった。

ハンマーで殴られるような反動のため本来連射が不可能であるはずのそれは止まることなく連続で銃声を轟かせる。しかし、葉はそれにひるむことも怯えることも無く、向かってくる殺意の塊を阿弥陀丸と憑依していた時の全ての技術をつぎ込み、時にはかわし、時にはO.S.で防ぎ、時には斬り伏せて確実に前進していく。

「くっ!!」

すでにセラスも銃が効かないということはわかっていたが、これ以外に自分が出来ることなど無いということもまたわかっていた。

(せめてハルコンネンが当たれば……!!)

右肩に担ぐそれを横目で見る。

先ほどの刃の嵐の中でさえ手放さなかった自身の最高の相棒して切り札。弾はこの銃撃の中ですでに込めてはいるが、今打った所でまた斬られるかかわされるのが関の山だ。

時間を稼いでいるアサルトライフルの弾も残り少なく、状況は絶望的だった。

(こうなったら一か八か!!)

何を思ったのか、信じられないことにセラスは自分を守っていた銃撃を止め、右腰に装備していたサブマシンガンとアサルトライフルの予備弾薬を手に取った。

当然、このチャンスを逃すようなことはせず、葉はO.S.の刀を構え突進する。

するとセラスは更に信じられない行動に出た。自らの武器であるはずのアサルトライフルとサブマシンガン、さらに予備弾薬までをも葉へ投げつけたのだ。

その行動を葉は表情を変えることなく見ていたが、内心でわずかに不審に思っていた。もちろんそんなものに当たるわけも無く、少し横に身をずらすだけで軽くかわす。しかし、それこそがセラスの狙いだった。

(かかった!!)

投げつけると同時に肩から下ろしていたハルコンネンを正面に向けて構え、さっきとは違う弾頭、爆裂撒鋼焼夷弾を発射する。

だが、その砲弾は明らかに葉を狙っているものではない。

そう、狙いは葉ではなくその後ろの自らが投げ捨てた銃器。

葉もそのことに気づき、すぐにその場を離れようとするがわずかに出遅れた。

砲弾は狙い違わず見事に銃器を打ち抜き、葉を巻き込みながら轟音を引き連れる大爆発を引き起こす。

普通の人間……いや、たとえ吸血鬼であったとしても至近距離であの爆発に巻き込まれれば消滅はほぼ間違いない。

しかし、セラスにはこの程度で葉を倒せたとは到底思えなかった。爆風に押されながらもハルコンネンに貫通性にすぐれた劣化ウラン弾を装填し、第三の眼で捉えた爆煙の向こうに微かに見える人影に向けて発射しようとして――――声が聞こえた。


「阿弥陀流――――


いまだ、鼓膜が麻痺するほどの爆音が立ち込めているはずなのに……その声は何故かよく聞こえてくる。


真空仏陀切り――――」


何か、来る。そう思考の片隅で唱えた時には、すでに身体が動いていた。

目に見えない真空の刃は真っ直ぐセラスへと向かい……真っ二つに切り裂いた。


彼女の持っていたハルコンネンを……


セラスは呆然と自分の相棒だったものを見ていると、いつの間にか喉元に刀がつきつけられていることに気づく。

「ウェッヘッヘッ。オイラの勝ちだな」

屈託の無い笑みを浮かべながら葉はセラスに向かって勝利宣言をする。確かにこの状況で逆転など不可能だろう。そして、セラスはそれを理解していた。

「……ギブ、アップです」

こうして次鋒戦はふんばり温泉チームの勝利で終わった。


第一試合 ふんばり温泉チームVS殲滅者チーム 途中経過、次試合組み合わせ。


先鋒戦 木刀の竜△VSウォルター・C・ドルネーズ△

次鋒戦 麻倉 葉○VSセラス・ヴィクトリア×

副将戦 道 蓮VSアレクサンド・アンデルセン

大将戦 麻倉ハオVSアーカード


あとがき

ご愛読ありがとうございました。

今回ようやく試合が始まり、これからも気を引き締めて書いていこうと改めて決意した黒夢です。

なお、今回はあえて試合が何故こうなった等のことは書きません。質問がある方はレスにてお願いします。

しかし……そうなるとここで書くことが思い当たらない……本当にどうしましょうか……とりあえず、その場しのぎとして裏・設定を一つ入れておきます。

そういうわけであとがきに書くもののアンケートを取りたいんですが、この中からどれか一つだけ選んでください。

A.その話に試合を行なう選手のFate風の能力表。

B.各作品の主人公の相性表(これが選ばれた場合はレスで○○と××の相性は?と聞かれた場合でもお答えします)。

C.今回のような裏・設定。

D.その他(皆様の希望)。


次回の投稿ですが、私生活のほうでテストや課題が多くありますので少し遅れると思います。

それでは次回、黄昏の式典 第七話〜超越者〜をよろしくお願いします。


裏・設定1


八神和麻は魔術結社を潰した後、望んでか望まずか、どちらにしてもたびたび国家間の揉め事に首を突っ込むことになり、何度か特殊部隊とやりあうこともあった。そしてその全ての部隊に決定的打撃を与えてきたため『スプリガン』に並ぶ脅威と謳われるようになり、今では自然の災害と言う意味合いを込めて『ハリケーン』と呼ばれている。

蒼崎青子とは合わせて『局地災害指定コンビ』といわれることがある。ちなみに青子とは一度だけ出会ったことがあり、その時はそこを基点に半径二〜三キロほど大小様々なクレーターが無数に広がる荒地になった。なお、元々荒地だったので人的被害等は皆無だった。

後にこの出来事が協会の手によって明らかにされると契約者と魔法使いによる『第一次頂上決戦』と名をつけられ、後世の魔術師や精霊術師に長く語り継がれることになる。

ちなみに現在そこは一夜にして生まれた自然の神秘としてちょっとした観光名所になっている。

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