目が慣れていないのだと思った。しかし、いつまでたっても慣れないので仕方なく小宇宙を燃やして灯り代わりにする。目の前に白い猫が現れた。その猫はだんだん大きくなり白かった体は灰色の甲羅のような角質に覆われ、尖った角が生えた。ベヒーモスだった。
ベヒーモスが咆哮するが、和樹は何の恐怖も感じなかった。そのようすに調子が狂ったのかベヒーモスは再び咆哮するがやはり、和樹は何の反応も示さない。
「なあ、さっさと帰るんなら見逃してやるからうせろ」
なげやりな和樹の言葉に怒りを示したベヒーモスが襲いかかった。
「見逃してやるって言ったのに…」
ベヒーモスに指先を向ける。ベヒーモスとの距離が大体1mくらいになったとき指が光り、ベヒーモスの体を木っ端微塵にした。
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「……っていう夢を見たんだ」
「…さすが黄金聖闘士」
「異常すぎることをあっさり受け入れられる自分が怖い…」
登校途中、和樹は千早と神代に昨晩見た夢のことを話してみた。が、従者たちに自分の主人がどれだけ人間離れしているか再確認させるだけだった。
「ベヒーモスといえば最近よく噂に聞くね」
「玖里子さん率いる生徒会が調査するって言ってたっけ」
「へ〜、そうなんだ……ん?…ハァ、また彼女か」
和樹が呟いた直後、三人に向かって火炎弾が飛んできた。千早の冷氷弾と神代の風魔弾で相殺する(和樹は腕を振る風圧で火の粉を消す)。
「…宮間では攻撃魔法を放つのが挨拶なんですか?」
「私という妻をもちながら、浮気する浮気者とその浮気相手の姉妹にお仕置きをしようとしただけです!それなのになんで防ぐんですか!?あなたたちは消し炭になって消え――」
最後まで言う前に夕菜は強制転移させられてしまった。
「助かりましたよ。玖里子さん」
和樹がそう言って振り返ると何かを投げたような姿勢でいる玖里子がいた。
「昔のあの娘って純粋無垢だったのに…どこで踏み外したのかしら…」
「俺と会ったときはすでに間違いなく踏み外してたと思うな」
「それより早く行かないと全員遅刻だよ」
神代に言われて時計を見ると確かにまずい。すでに千早と神代は走り出している。
「あ、待てよ!」
和樹が人並みの速度で追いかけ、玖里子が続く。
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「和樹、こんなところで何やってんの?」
「宮間が暴れて召喚術の大木が三階の講義室から真逆さまに落とされて自習になったからここで昼寝でもしようとしてた」
ついでに原因は安全性を考えグループ実習になっているのだが、夕菜と和樹は別々のグループになり、一緒になった和樹と和美が楽しそうにしているのを見たためである。
「ねぇ、噂って知ってる?」
「そんなのがある程度しか知らない」
「和樹ってそういうのに相変わらず疎いわね。最近、学校に犬や猫が出るの、今日も一年の子が見たっていうし。先生に言いつけるほどのことじゃないから生徒会で探そうってことになったの」
「ふ〜ん」
「でね、和樹に手伝ってもらえると嬉しいんだけど……ダメ?」
なんとなく話の途中から予想できただけにまあいいかと思ってしまう。
「いいよ。どうせ(久々に)暇だし」
そう言って欠伸をする和樹の横に立ち玖里子は自分がこの少年に会えてよかったと思った。
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風椿の五女とはいえ、財界のパーティーに出なければならない。玖里子は嫌だった。吐き気がするほどの欺瞞に満ちた笑いばかりの空間が嫌いだった。
「グラード財閥が御曹司を連れてきた」と聞いたときもただ「また、愛想よくしないといけない相手が増えた」と憂鬱になるだけだった。しかし、それはその御曹司に会うまでしかもたないかった。
「ハジメマシテきど和樹デス」
彼女は自分と同類を見つけた。親たちが話している間に二人で色々な事を話した。その頃の和樹はあまり日本語が上手くなったため、会話に苦労したが、そんなことたいした障害にはならなかった。和樹の話す神話の世界は彼女を虜にした。
それからパーティーが楽しみになった。和樹はパーティーに必ず来るわけではなかったが、それでも楽しみだった。
そして、和樹が葵学園に入学したとき彼女は大喜びした。
彼女と和樹は近かったのだろう。
彼女はただ一つ幼い頃彼が言った言葉がわからなかった。
「俺にとって母上は母上じゃない。例えこの身が滅びようとも守らないといけない相手なんだ」
マザコンなのかと思ったがそういうわけでもないらしい。
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「用件はわかったけどどこから探すんだ」
「ああ、大丈夫よ。犯人の目星はついているし、証拠も見つけてるから」
先を歩く玖里子を見ながらなんで俺が行く必要があるんだろうと思いながらついていく。
二人がたどり着いたのは保健室だった。玖里子はノックもせずに扉を開ける。
『保健室の主』こと養護教諭赤尉晴明は特に驚きもせず、入ってきた二人を見つめた。
「式森君と…風椿君か。あまり礼儀正しいとは言えないな」
「あら、ごめんなさい」
玖里子は全然すまなそうの口調で返事した。
「さっき、先生の車のところで、こんなものを拾ったんですけど。これ、猫の毛ですわよね」
「そのようだな」
和樹は玖里子の目的がわかった。
(ドクターは風椿にあげるわけにはいかないな。これでもこの人スチール聖闘士開発部のリーダーだし)
「学校の犬猫騒動って先生と何か関係があるんじゃありません?」
「…だからと言って、なにか法に触れているわけではあるまい「学園の規則に触れてるぞ」…生徒会で問題にでもするか?」
和樹につっこみをスルーして紅尉は話を進める。
「もちろん、あたしもこんなつまらないこと、取り上げる気にならないんですけど。この猫たちがどこにいるのか、ちょっと気になるんですよね。あそこ、中見たいんですけど」
彼女は隣室に通じる扉を指差す。
「部外者は入れないことになっている」
「ねぇ先生。最近犬や猫だけじゃなくて、獣みたいな鳴き声が聞こえる事件もあるんですけど、どうもそれ、ベヒーモスの声らしいんですよ。確かSランクの召喚獣って、法にふれますわよね。見せていただけます?」
「よかろう……存分に見たまえ」
紅尉は隣室への扉を開けた。
そこから黒い霧が漏れたし、灰色の、二本の角を持った獣ベヒーモスが現れた。
ベヒーモスは獲物を見るような目で玖里子を見、続いて和樹に向けたところで止まった。和樹が攻撃的な小宇宙をベヒーモスに向けて放っている。ベヒーモスは瞬間的に理解した。「自分はアレに勝てない。アレに攻撃する事は死に繋がる」とあらためて玖里子の方を向いたがすぐさま顔をそむけた。「あのメスがもしアレとつがいなら自分はアレに殺される」と。そこでベヒーモスは自分が出てきた場所の付近にもう一匹獲物がいることに気づいた。「どうやらあのオスは狙ってもいいようだ」と感じ、紅尉に噛み付き、そのまま隣室に戻っていった。器用に尻尾で扉を閉める。
扉の向こうから何か叫び声が聞こえ始めた。
「「……」」
「帰る?」
「うん…」
紅尉は行方不明となり、数日後噛み跡だらけのボロ雑巾と化した姿で発見された。
あとがき
アーレスです。
今回は和樹くんと唯一幼いころの和樹を知る玖里子さんのことをやることにしました(ベヒーモスはおまけ)。
次回はオリジナルの話をやろうと思っています。
それではまた……君は小宇宙を感じたことはあるか!?
レス返し
>D,さん
幻朧魔皇拳ですか。いいかもしれませんね。
>御気さん
次回あるまぶらほキャラと一緒に出します。
メイド編はどう絡ませるかを悩んでおります。
>文・ジュウさん
風椿のことはまた今度やります。
>ジェミナスさん
もともと秘薬として聖地には存在していました。