「彼は生きる必要がある!そのために霊血が必要なのです!」
「和樹、霊血がどれだけのものかあなたは知っているはずです」
「ですが、アテナ!仲の良かったころに戻りたいと思い合っている者同士がいるのです!その思いのために!悲しみの涙を流させないために!!どうか霊血を!」
「……」
「アテナ!」
―――――――――――――――
「今日の夕飯は?」
「まだ決めてないよ」
和樹は部活のなかった千早と一緒(夕菜は撒いてきた)に歩いていた。
「あれ、凜ちゃんじゃない?」
二人の前方に、小柄な少女が歩いていた。
「凜ちゃん、一緒に帰らない?」
「!……ああ、和樹さんと千早さんでしたか。別にかまいませんが」
「どうかしたの?疲れたるみたいだし」
「ええ、まあ…」
「俺たちにできることならいってくれよ」
そう言って笑顔を向けると、凜は少し頬を赤くして目をそらした。
「では、すみませんが協力してください」
そういうとカバンを置き、竹刀袋から刀を出した。
「そろそろヤツが襲ってくるころです。瞬発力を生かした攻撃をしてきます。現れたと思ったらなんでもいいので攻撃してください」
「ヤツ?」
(さっきからこちらの様子を窺っているヤツだ)
(え?)
(上にいる奴だ)
小宇宙を利用して和樹に話しかけられた千早は言われた上を見た。それとほぼ同時に和樹の指先が一瞬、光った。
「!」
突然枝が折れ、驚いた様子で降ってきた背の高い青年は持ち前の身体能力で着地し、凜に跳びかかった。凜も刀を振るうが難なくかわされ逆に倒されてしまった。
「びっくりした。突然、枝が折れるんだから…それにしても、まだまだだな、凜」
「くっ」
「毎日の修行で、少しは腕が上がったと思ったけどな」
「ふざけるな!毎日毎日私を殺すつもりか!」
和樹の手を借りて起き上がると青年に向けて怒鳴りつけた。
「このままでは、部活にもさしつかえる」
「でも修行はしてもらう」
「やめろ。道場を継ぐ気はない」
「あの…お話の最中すみませんが、どなたですか?」
恐る恐る千早は口を挟んだ。
「ああ、僕は神城駿司。凜の保護者だ」
「保護者なものか」
凜が小声で言う。
「ところで、君が式森君?」
駿司が和樹の方を向いた。
「そうですが」
「君に本家から伝言だ「グラード財閥の御曹司と知らず、こちらのわがままをぶつけてすまなかった」だそうだよ」
「凜ちゃん。和樹君のこと話たの?」
「ええ、グラードのことを知れば下手な事は言わないと思ったので…」
「凜、どうしても帰る気はないのかい?」
「もちろんだ!」
「じゃあ、テストだ。一週間後にこの近くの空き地で僕と決闘だ。もし勝てたら僕が本家に口添えしてあげよう」
「わかった!その言葉、忘れるなよ!!」
そう言って走り去っていった。
「あの身体能力…獣人ですか?」
「よくわかったね。そう僕は人狼だ。今度は僕が君の正体を当てよう、君は聖闘士だな」
「…正解。千早、先に帰っててくれ」
「うん…」
千早が見えなくなるまで見送ると駿司が切り出した。
「少し歩こうか?」
「そうですね」
――――――――――――――
駿司から凜のこと、そして彼のことを聞かされた。
「それで結局、あなたはどうしたいんです?」
「よくわからない。だめだな。下手に長生きすると、自分に素直じゃなくなる」
駿司が立ち上がった。すると、足元をふらつかせ、肩膝をついた。
「病気ですか?」
「…ああ、もう治らないらしい。凜には伝えないでくれよ」
「ええ」
「それじゃあ」
駿司は明るく笑うと大きく跳躍した。
「……」
和樹はおもむろに携帯を取り出した。
「…辰巳か?ギリシア行きの飛行機を今すぐ手配してくれ」
〈いますぐですか!?〉
「いまずぐだ」
〈はっはい。わかりました〉
「頼んだ」
電話を切ると駿司がしたように大きく跳躍した。
「…今日の夕飯食べそこねたな…」
―――――――――――――――――
一週間があっという間に過ぎ、決闘の日が来た。
「凜、少しは強くなったかい?」
「もちろんだ!」
「じゃあ、本気で行くぞ!!」
「来い!」
二人の戦いが始まった。凜の放つ横なぎを駿司が受け止めた。その瞬間、立会人の和樹が拳を突き出した。
「一輝さん直伝、幻魔拳」
再び凜が突っ込んだ!しかし、駿司はそれを軽くかわし、反撃にでる。
「くっ!」
凜はそれをなんとか刀で防御する。だが、駿司の猛攻に手も足もでず、防戦一方になる。
だが、そのとき異変が起きた。駿司が急によろめいたのだ。
「ハァァ!!」
凜の渾身の一刀が駿司の腹部を深くえぐった。そのとき凜は見た、駿司の顔が斬られた痛みで歪んだものではなく優しい、兄弟のように過ごしていたときのような笑みを浮かべていたのを…
「駿司!!」
「くっ!いい一撃だ……これなら本家に帰る必要なんて…ないな」
「そんなこといい!!そんなことより!!傷の手当てだ!」
そう言って傷口に手をかざし魔力を込めようとしたが、その手を駿司が握った。
「いい…僕の体は病魔に侵されている。どの道長くない…凜」
「な、なんだ?」
「すまない…早く気づくべきだった…君には押しつけるんじゃなくて、本当に好きな事をやらせるべきだったんだ……」
「気にしていない。気にしていない…」
涙を流しながら握る手を握り返す。
いきなり、視界が揺れ気が着くと最初にぶつかりあったときのままだった。
「これはいったい…」
「なにが…」
呆然とする二人に和樹が笑いかけた。
「仲直りはできた?」
「「え?」」
「ふたりにはあるアイテムによる幻覚を見てもらった。想い合っている者同士が傷つけ合う姿は見たくなかったからな」
和樹はゆっくり歩み寄ると駿司に栓のされた瓶を渡した。
「それを飲んでください。それはどんな怪我や病気をも治す秘薬です」
「わかった」
瓶の中にあった青い液体を飲み干した。
「!?体が熱い!」
「その熱がひいたときには病は治っているはずです。凜ちゃん、すまないが駿司を見ていてくれないか?俺はこれから大事なようがあるんだ」
「か、和樹さん……」
和樹が去った後、すぐ駿司の熱もひき、二人は兄弟だったころに戻ったように話し続けた。
――――――――――
「そうですか。凛ちゃんと駿司さんのことは丸くおさまりましたか…」
「やけに声が低いぞ。千早どうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃありません!!いきなり「急用ができて聖地に行ってくる」って電話があったっきり音信不通!どれだけ心配したと思っているんですか!!!!!」
このあと和樹は千早と神代に数時間にも及ぶ説教を受けるのだった。
あとがき
アーレスです。
夕菜の出番なし!
今後、駿司さんを出すかは検討中です。
それではまた……君は小宇宙を感じたことはあるか!?
レス返し
>ジェミナスさん
『ノー・ガール・ノー・クライ』をやったとき和樹が夕菜を助ける気になるんだろうか…
>秋刀魚さん
一応、和樹の方が先に生まれております。
>teteさん
誰も“アテナとペガサスが結婚した”とは言ってませんよ〜(邪笑)
>D,さん
クロードは常に地獄のような厳しい修行をともに受けた優しい兄がいた。
和美さんは孤児院で育ち、そこで働いている母に甘えるわけにもいかない場で優しい兄、しかもその兄もたまにしか合えない。そんな相手に兄弟意識が持てるだろうか?
…ってなわけでブラコンになってしまったわけです。
>御気さん
彼等の歳と誕生日をお答えしましょう
貴鬼…4月1日 29歳
アーバレス…5月17日 18歳
アバン&ザイン…5月31日 16歳
ブラッド…7月2日 19歳
和樹…8月10日 17歳
純…9月11日 17歳
紫春…10月2日 17歳
ジン…10月28日 18歳
クロード…11月29日 15歳
龍麗…1月1日 19歳
ミレイ…1月24日 18歳
フレイ…2月29日 15歳
彼女は修行していても学校に行ったり友人と遊んだりしている間にも聖闘士たちは地獄の修行をしていたんですから、大きな差がでない筈ありません。
まぁ、ごたくは置いておいて、彼女の強さはカシオスの50分の1以下です。
>良介さん
まさにその通り!
>西手さん
頑張らせていただきます!
>SAKAさん
一話を確認してください“約”20年後とかいてあるはずです。
それとそれ以上にすると貴鬼の歳が30を超えてしまい一人だけ30過ぎのオッサンになってしまうんです…
>文・ジュウさん
良介さんと同意見です。