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「白の聖女と黒き狂騎4(FATE+月姫)」

S・O・S (2005-06-29 00:06/2005-06-29 06:31)
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「―――狂いなさい、バーサーカー」

 ただ一言の命令。幼き少女の紡ぐその一言が、最狂を呼び覚ます。

 『彼』は、王ではない。治めるべき国も、守るべき民も持たず。彼が君臨するのは、幾千、幾万を越える人外の屍で築いた山。

 『彼』は、騎士でもない。仕えるべき主も、胸に宿す正義も必要とせず。彼はただ、自分と敵の血で作られた河を流離う。

 開かれれば世界の死を見続ける瞳。その目蓋の裏にたった一人の女性の面影を映し、彼女の為なら神を……世界をすら殺せる、狂った人間。

 その狂気に果ては無く。未来も、過去も、現在すらも問わず。自分の望みのままに殺しを続ける。

 彼の名は、

 ―――殺人貴―――

「……」

 少女の命令を受けた黒衣の従者は、魔眼を閉ざして静かに立ち尽くしていた。

「―――信じられんな」

「アレほどの力を持つ彼が、バーサーカーだと言うのですか!?」

 平静で居られなかったのは、彼と対峙していた英霊二人。驚愕の表情も隠せずに、呆然と呟く。殺す事に特化した異能や、優れた敏捷性からアサシン、或いはイレギュラークラスを想定していた彼らにとって、今まで苦戦してきたシキがバーサーカーだったという事実は、信じ難いモノだった。

「信じられない? でも本当の事よ。彼はバーサーカー、狂える戦士。さぁ、アナタ達は『彼』の前で、どれくらい立っていられるのかしら?」

 少女の圧倒的な余裕。だって彼女は知っている。今の『彼』が、真実、最狂のサーヴァントだと。

 場に居る全ての人間と、英霊から視線を奪い。彼はただ一人、立ち続ける。セイバーの剣で砕かれた筈の左手には、既に傷跡一つ残っていない。

 攻撃に出るには絶好の好機でありながら、二人の英霊は一歩も動けない。幾多の戦場に立ってきた彼らの経験と、英雄と呼ばれながらも最後に残った人間としての本能が、目の前の男を恐れ、脅え、慄いていた。

「―――っ! なんて、化け物」

 英霊を従える魔術師の反応は、もっと顕著だ。どれほど優れた魔術師であろうと、人間として生きる彼らの身体は、しきりに訴えかけている。

 ―――逃げろ、逃げろ、逃げろ―――と。

 明日の生を望むなら、『彼』から逃げろ。

 目を合わせるな。意識を向けるな。語り掛けるな。

 さもなくば―――死ぬ。

 普通の人間を辞め、「 」を目指す魔術師とて例外ではない。或いは普段から生と死を実感している彼らだからこそ、分かるのかもしれない。

 『彼』こそが、逃れ得ぬ『死の具現』だと。

「……ようこそ、この素晴らしき、惨殺空間へ」

 沈黙し続けていた黒衣の青年は、聞く者の耳を切り裂く刃のような声で呟く。

「ありえん! 狂化した後も理性があるのか!?」

 信じられない、と呻く弓兵の言葉に、バーサーカーは唇を歪めて哂う。

「……さて、理性と狂気は共存可能か否か?―――くっ、クハハハハ!」

 耐え切れぬと、背を仰け反らせて大笑した。怪訝な顔になった全員を、瞳を閉ざしたまま見下すように哂う。

「愚弄する気か、バーサーカー!?」

「ハッ、愚弄? 賢しい言葉を無理して使う必要は無い。オマエ達の役目は、吾(われ)の登場で終わりだ。……後はただ、藁のように死んでいけ」

 怒りを声に出すセイバーに、黒衣の青年は感情を動かす事無く、淡々と告げた。両の瞳を閉ざしたまま、地獄へ誘う死神のように、短刀を持った右手を敵へと差し出す。身構えるセイバーとアーチャーに警戒する様子も無く。ゆっくり一歩、見せ付けるように二歩。そして三歩目でその姿を消した。

 セイバーは唐突な黒衣の消失に動揺しながらも、自身の持つ直感のスキルを信じて、背後を振り返る。剣を振る時間は無いと、鎧を着けた左腕を向けたその判断は正しかった。

 キィン

「っ!?」

「……ほぉ、今の一撃を受けるか……なるほど、『シキ』が吾を呼ぶだけの事はある」

 刃のぶつかる金属音、それで生じた火花の閃光が、消えた黒衣を映し出した。気付かぬ間に背後へ回られていた事で、少女騎士が驚きを顔に出す。見つめ合う青年は笑う、表情のない能面を砕いて無理矢理作ったような、壊れた微笑みで。

「戯れだ。この程度では壊れるなよ、セイバー」

 目の前、籠手に刃をぶつけて向き合いながら、再び青年は姿を消した。耳に残る呟きの意味を、少女が考える寸前に衝撃が全身を襲う。気付けば小柄な体は、空を飛んでいた。

「―――くぁっ!」

 自らが吹き飛ばされた原因が、背後に回り込んだバーサーカーの蹴りだと、反射的に受身を取ろうと空中で身を捻る少女騎士が理解した瞬間。黒衣の青年は蹴り飛ばしたセイバーが着地するより速く接近し、未だ空にある身体に拳を叩き込む。

 少女は咄嗟に剣を振るい、青年の攻撃を相殺した。

 ―――した筈だった。

 『彼』が狂う前なら殴り掛かった拳は砕け、セイバーは危うげなく着地できただろう。しかし、実際は剣で防いだとは言え、勢いを殺すことは出来ず、少女の小柄な身体は近づいた地面から離れ、夜の闇へと砲弾のように突き飛ばされた。

「セイバー!?」

 主である少年の驚愕の声が響く。喉を震わせたのが、黒衣の青年が少女騎士へと蹴りを放った時だとすれば、先ほどまでの攻防が、どれだけの高速で行われたか分かって貰えるだろうか。

 魔術師である少女が視力を強化させても、攻撃を繰り出す刹那にしか、サーヴァントの動きを見ることは出来ないのだ。

「―――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)」

 唯一人、その高速戦闘に参加出来る弓兵は、セイバーを囮に使い自らの能力でバーサーカーを倒さんと、呪文を呟きながら鷹のような目で黒衣の背中を睨みつけていた。その手には何時の間に現れたのか、弓と矢が握られている。

 しかし、番えられた矢の異質さは何なのか?

 ソレはまるで、剣を無理矢理に矢へと作り変えたような、異質すぎる武器。

「バーサーカー。貴様の命、頂くぞ―――“偽・螺旋剣”(カラド・ボルグ)!」

 背後の殺気に、黒衣の青年が振り返るより一瞬速く。必殺の意思を込めた言葉と共に、恐るべき凶器は放たれた。回避も防御も間に合わないように思えた一撃へ、バーサーカーは無造作に左の拳を叩き付ける。

 激音と爆音が重なり、次いで衝撃波が周囲に吹き荒れた。放たれた矢に相当な魔力が込められていたのか、炎と煙が視界を遮る。必殺の一撃を放った筈の弓兵は、険しい顔で前を見据えていた。

 英霊という規格外の中にあって、『アーチャー』というクラス名を示す鷹のような眼光が、障害である炎と煙を貫いて、その先に立つ一人の男を凝視している。

「……あの一撃を左手一本で凌ぐか、化け物だな……」

 閃光によって潰れた視界を取り戻したサーヴァントの主達は、皮肉屋な弓兵が呆然と呟く声を聞いた。

「アハハハハ! 素晴らしい一撃だぞ、アーチャー。この身をここまで破壊したモノは久しぶりだ」

 弓兵の視線を平然と受け流し、黒衣の青年は満足げに哂う。その身体には、左肩から先が存在していない。

 英霊としても軽い怪我ではないはずなのに、消えた肩口を見て笑みは一層深さを増した。

「それだけの傷を負って、なお哂う……バーサーカーのクラスは伊達ではないようだ」

 弓兵が呆れたように呟く。しかし、その言葉に反して、彼の気配は尽きぬ戦意と緊張を放ち、黒衣の敵を睨みつけた。必殺の筈の一矢で仕留められなかったとしても、相手は大きな傷を負っている。目の前に立つ強力な敵を倒す事に、今以上の好機はないと知るが故に。

 剣呑な空気のままに、自らへと再び手に持った双剣の狙いを定めた弓兵に、バーサーカーは唇を三日月のように歪ませて、語りかける。

「今を好機と見るか……良い判断だが、無駄だ」

「ほぉ、今更口上を述べて、回復の時間を稼ごうとでもいうつもり……っば、バカな!?」

 黒衣の青年の言葉に、問い詰めるはずだったアーチャーの声が突如裏返った。目を見開き、驚愕を露にする弓兵の目の前で、消えた黒衣の左腕がゆるゆると元に戻っていく。

 最初に見えたのは、骨。不気味なほど白い骨が肩から伸びて、肘や手首、指先に至るまでの骨格を造り出す。次に血管や神経など、繊維にも似た細い管が、植物のように骨に絡みながら枝葉を広げた。骨や血管、神経を守るように、肩口から肉が溢れ出すと筋肉として腕の形を整える。最後に剥き出しの筋肉を、日を浴びたことの無い白さの肌が包み、間を置かずに黒衣が『復元』した左腕を覆った。

 左腕の再生に要された時間、僅か数秒。驚き、混乱する弓兵の前で、青年は無傷の左腕の調子を見るかの如く、ふらふらと振り回す。

「融通の利かぬ呪いだ、強敵に受けた傷は残しておくが風情だというのに」

 傷の完治した腕を、面白くなさそうに睨む。黒衣の青年自身は、己の身が万全な状態に戻った事を、少しも喜んでいなかった。

 まるで時間を遡ったような唐突な復元に、己を取り戻した弓兵が呟く。

「時を戻す呪い……復元呪詛だな。貴様、死徒だったのか。しかも、あれだけの概念武装による攻撃を受けて、復元を妨げられぬとは、よほど高位の吸血鬼を主にしたと見える」

「そういう事だ。察しが良くて助かる……忠告しておくと、吾を殺そうと思うなら、セイバーの持っていた剣で、頭か心臓を潰す事だ。それ以外では先ほどのキサマの攻撃で、全身を残らず吹き飛ばすというのも有りだな」

 秘密を見抜かれた相手を賞賛し、倒す方法まで教える。

 目の前の敵を舐めているのか? いいや、違う。強いと、自らを倒すに足る実力を持つと、認めるからこそだ。そして彼の見る目は正しかった。

「―――ならば、そうさせて頂こう!」

 黒衣の背中から、声と同時に風きり音。ヒュゴォッという鋭くも重い斬撃が、バーサーカーの頭へ振り下ろされる。

 ガッと、道路に食い込んだ剣では、青年の頭を捉えることは出来なかった。声が耳に届くより早く、セイバーの株を奪うほどの先読みで前方へと跳んでいたのだ。

「随分と速いお帰りだ、流石はセイバー」

「御託を言う暇などあるのかね?」

 前方へ跳んだ黒衣に、赤い外套の双剣が振られる。左右から斜めに走る斬撃に対し、地面に手を着いて飛び上がり、弓兵の頭上を越えてやり過ごす。

「セイバー!」

「分かっています」

 振り向く事や、仰ぎ見る事が不利にしかならぬと判断したアーチャーは、黒衣を追って駆け出した少女騎士へと声を掛け、セイバーはそれだけで弓兵の思考を理解した。アーチャーが即座に頭を下げると、白い髪を掠めるように白刃が閃く。

 弓兵の頭上を越え、置き土産とばかりに振るわれたバーサーカーの刃、ソレが振り切られる前に、弾丸の如く駆けるセイバーが目の前に現れる。振るわれた剛剣を拳で迎え撃つが、アーチャーの肩を足場にした少女騎士の勢いは凄まじく、最初の攻防を逆にするかのように、黒衣が拳から血を流して吹き飛んだ。

 行き先に有る壁を砕き、闇に消えると思われたバーサーカーは、手の届く範囲に有った電柱を掴むと、砲弾のような勢いを完全に殺して地面に降り立つ。

「……おかしな体術を使うのですね。貴方の動きには、間が無い。一瞬で最高速に達したと思えば、次の瞬間には完全に停まっている」

「おかしな、とは心外だ。この技こそが、吾そのモノだと言うのに」

 黒衣の青年は言葉とは裏腹に、愉快気な笑みを浮かべて少女騎士を見た。

 アーチャーとセイバーは、笑みを浮かべたバーサーカーを前にして、迂闊に動けない。『狂化』した彼の一撃は、既にソレ自体が必殺とも呼べる攻撃になっているのだ。

 セイバーを蹴り飛ばした際には、彼女の纏っていた鎧の一部を砕くほどに。スピードに至っては、英霊たる彼等にしても見切れぬモノに。だからこそ、セイバーとアーチャーは動けない。

 迂闊な行動は隙を作るだけ、ソレが分かるから二人の英霊は視線を交わす。その目に、自分と同じ考えが宿っている事を確認してから、セイバーは駆けた。

「―――ハァッ!」

「何度やっても、結果は変わらぬ」

 狙うは黒衣の首。振るうは剛剣、迎えるは剛拳。剣は拳を砕いたが、狙いのそれた隙をもう一方の拳が捉える。

「貴様の相手は、セイバー一人ではないぞ」

 少女の喉を打とうとした拳を、高速で飛来した矢が撃ち貫く。概念武装としてのランクが低い所為か、剣によって砕かれた拳より速く復元が始まるが、その頃にはセイバーも再び剣を振り上げていた。

 迫る白刃を見て哂い、刹那の動作で少女騎士の一撃から逃れる。攻撃は続く、間断なく飛来する矢と、気を抜けば一瞬で五体を切り裂くだろう剣を前に、狂った黒衣はなお哂う。

「ハッ、ハハハ! 素晴らしいな。これほどとは……『シキ』に感謝しよう。よくぞ、ここに吾を呼び出した!」

 狂笑とも呼べる声を上げながら、彼は襲い掛かる二人の英霊を相手取った。闇夜を舞うように動きながら、隙間無く攻撃してくる連携を回避していく。

 優勢にある筈のセイバーとアーチャーの方にこそ、余裕が感じられない。そのことを、本人達が最も理解しているのだろう。バーサーカーを相手に、守勢に回れば護り切れない事を感じるが故に、攻撃の手を休めることが出来ない。

 黒衣の青年の笑みは敵の必死さと、滑稽さを哂うかのように濃さを増す。


 しかし、そんな不利な戦いを強いられている英霊のマスターである二人、中でも黒髪の少女は、強気な瞳を輝かせて自分のやるべき事を見つけ出していた。聡明な彼女は、ソレがどれだけ危険な事かも理解している。それでも、このまま戦いを見ているだけで終りたくないと、覚悟を決めた。

「衛宮君、貴方は逃げなさい。セイバーとアーチャーは強いけど、あのバーサーカーが相手なら万が一って事もあるわ。魔術師でもない貴方は、ハッキリ言って邪魔よ」

 傍らに立つ少年に放ったキツイ言葉は、彼を危険に晒したくないと思ったから。魔術に関わる者でありながら、『全てを救う』等と言う理想を夢見る愚か者。けれど、少女はそんな少年を嫌ってはいなかった。

「逃げろって……遠坂はどうするんだ?」

「私は、アーチャーのマスターとして、やるべき事をやるだけよ」

「遠坂なら、あの戦いに参加できるのかよ」

「バカ。あんな人外魔境に突っ込める訳無いでしょ。下手に魔術を撃っても意味ないし、逆に足手まといになるのが落ちよ……狙うのは、イリヤスフィール」

 少女の鋭い視線の先には、自らの従者に絶対の自信を抱いてか、一歩も動くことの無いイリヤの姿がある。

「そうか、マスターを殺せばサーヴァントは消える……でも、あの子はまだ子供だぞ!?」

「マスターに、いいえ、魔術師に年齢なんか関係ないわ。それに衛宮君、貴方も知っているでしょう? 魔術師が、どれだけ死に近いのかを」

 目的を知った少年の激する声を、教師のように穏やかな、けれど強い口調で宥めると、未だに反論の言葉を捜す少年を無視して、バーサーカーのマスターへと歩みだす。

 サーヴァント達の戦いを刺激せぬよう、ゆっくりとイリヤへ近づく。懐から取り出したのは、少女が得意とする『宝石魔術』で作り上げた魔力の詰まった宝石。短い呪文と、少ない魔力で発動して敵を粉砕する、彼女の切り札だ。

 彼女の知る限り、イリヤスフィールは優れた魔術師だが、戦闘能力で自分が劣っているとは思わない。この距離で、宝石まで使うとなれば勝利は確実に思えた。

 近づいてくる少女に、イリヤは気付かない。

 目前の戦いに集中するにしても、無防備すぎる幼いマスターに不審を抱きつつも、遠坂と呼ばれた少女は握った宝石を、イリヤへ向ける。

 後は手首を振って投げるだけ、という瞬間。途轍もない殺気が全身に突き刺さった。殺気の源は知っているのだ、無視して投げろと理性は命ずる。しかし、死を恐れる生物としての本能が、少女の瞳を一瞬だけ『彼』へと向けてしまった。

 バーサーカーは相変わらずセイバーとアーチャーの猛攻を受けていたが、顔だけは己のマスターを狙う不届き者へ向けられて、『狂化』した後、一度も開かれることの無かった双眸が、開かれる。

 赤・紅・朱・あか・アカ

 全ての色彩を塗り潰す、原色の如き赤。ソレを内包する二つの瞳が、少女を見ていた。蒼い浄眼は消え去り、紅い狂眼が穴を埋める。

 禍々しい紅に、魂まで染められるような恐怖。だが、本当に恐ろしいと感じるのは、それほどの恐怖をヒトに与えながら、視線を逸らす事を許さない。悪魔的な美しさ。

「―――Vier Stil Erschiesung……!」

 少女が気付いた時、その唇は宝石の魔力を解き放つ呪を紡いでいた。

 ……投擲する右手の向きを、反対にした状態で……

「―――あ」

 唖然と、忘我したまま声だけが出た。自分の目の前で輝きを増す宝石。ソレが炸裂した時の威力を、少女は知っている。自らが作ったのだ。逃れる術は、無い。

「っバカヤロウ!」

 罵声、閃光、衝撃、爆音。一気に来たソレらに少女の喉が勝手に悲鳴を上げる。間近で聞いた爆音の所為で、未だ痺れの残る鼓膜に、少年の怒声が入ってきた。

「何考えてるんだ、遠坂!?」

 当然に思える少年の疑問に、少女は答える事が出来ない。彼女自身、自分が何をしたのか、理解できていなかったのだから。覚えているのは、魂を塗り潰すほどの『紅』。一瞬の自失から戻ってみれば、自分の放った宝石魔術で死にそうになっていた。

 死を覚悟した少女。背中から飛びついてきた少年が、地面に押し倒さなければソレは現実になっていただろう。そこまでを認識した少女は、未だ自分の上に居る少年に尋ねる。

「……ちょっ、衛宮君は大丈夫なの?」

「ああ、俺は大丈夫……っ」

 答える少年の言葉は途切れ、不審に思った少女の目に、衛宮と呼んだ彼の背中に広がる大怪我が映った。

「どこがよ! 凄い怪我してるじゃない」

 宝石から放たれた魔力が掠めたのだろう、背中全体にかなりの火傷を負っている。命に別状はないが、決して軽く見て良い怪我ではない。痛みに歪んでいた少年の表情は、巡らせた視界にイリヤを映して驚愕へと変わった。

 圧倒的な力を振るうバーサーカーの主が、弱々しく膝を着いていたのだ。

「……バーサーカーの『狂化』に魔力を使いすぎたみたいね。魔力が枯渇しかかってる。あれじゃ、遠からず命を落とすわ……アインツベルンの魔術師が御しきれないなんて、あのサーヴァントは何者なの?」

 少年と同じモノを見た少女が呟く。その言葉どおり、妖精にも似た儚い美を備える少女は、今にも消えてしまいそうだった。驚愕の治まった少年は、眼差しに決意を湛えて、背中の傷に走る痛みを無視して立ち上がる。


「貴様、凛に何をした!」

 戦いながらも、マスターへ注意を向けていたのは、弓兵も同じ。だからこそ、己の主へバーサーカーが何をしたのか、問わずにはいられなかった。

「目障りだったから、一睨みしただけの事」

「魔眼か。しかし、貴様の能力は直死の筈!?」

「吾は『シキ』ほど親切ではないのでな、自分の頭で考えろ」

 淡々と、答える気の無い黒衣の青年に、アーチャーとセイバーは攻撃の手を速める。新たな能力と、ソレによるマスターへの危機が、二人の英霊に焦りをもたらした。焦りは攻撃を雑にし、連携に隙を作る。隙と言っても勿論、普通の人間や魔術師、並みの英霊にも気付けぬ僅かな差でしかない。

 だが、その僅かな隙を見て、バーサーカーはむしろ落胆したように呟いた。

「……ふむ、そろそろ飽きたな。終わりにしよう」

 最初の頃に比べ、微かに大振りになっていたセイバーの剣戟。その合間を縫って一気に接近する。戸惑うセイバーが次の動作を行うより速く、少女の鎧に包まれた胸に手を置き、全力で押した。攻撃ではなく、ただドンッと、荷物を押し退けるように。

 意表を突かれたセイバーが体勢を整えるまでの一瞬で、バーサーカーは少女の纏う鎧の隙間に白銀の刃を潜らせた。剣を握る腕に、細身の胴体に、かもしかのように引き締まった脚に。ヒトを超えたモノの目にすら留まらぬ速度で、黒衣の青年の持つ白銀の刃が踊る。

「―――ぁっ」

 噴出す血と、生じた痛みに呻くセイバーの胸を、バーサーカーが蹴り飛ばす。鎧の破片を撒きながら、小柄な身体は恐ろしい勢いで吹き飛んでいった。

 少女騎士が飛ぶ先は、赤い外套。弓兵は視界の中、大きくなるセイバーの背中を受け止めた。勢いを殺しきれず、道路を踏み締めた足がズルズルと後ろに下がる。

 隙を作った自分達を襲うだろうバーサーカーの攻撃に、警戒する弓兵と少女騎士は信じられないものを見た。

「……何の真似だ、小僧」

 殺気に満ちた黒衣の青年の前に、セイバーの主である少年が立ち塞がっている。全身を恐怖で震わせ、滴る汗が服を濡らしても、少年は身を退こうとはしない。

「後ろを見ろよ、バーサーカー。マスターが、イリヤって子が倒れてるぞ」

 少年の言葉どおり、バーサーカーのマスターであるイリヤが、従者の背後で倒れ込んでいた。苦しげに息を荒げながら、地面に手を着いて懸命に前を、自分の為に戦う黒衣の背中を見ている。

「それがどうした? 吾はバーサーカー、狂ったサーヴァント。主の望むままに、壊し、殺し、滅ぼすだけのモノ……たとえソレが、マスター自身であっても、関係ない」

「嘘だっ! そんなクラス名で誤魔化すなよ。イリヤは、あの子はオマエを信じてる。オマエの勝利を、強さを信じてるから何も言わずに耐えてるんだろう!?」

 バーサーカーが言い放ったのは、聖杯戦争に関わる全ての存在を、一言で納得させるだろう、当然の言葉。しかし少年は、何も知らぬ彼は、怒る。自分の為ではなく、少女の為でもない、その怒りは、言い放った黒衣にこそ向けられていた。

「それなのに、オマエはあの子を無視して戦いを楽しむのか! そんな奴の為にあの子は苦しまなきゃいけないのかよ! それでもオマエは、あの子のサーヴァントなのか!?」

「愚者の蛮勇とは、度し難いな……もういい、疾(と)く散り逝け」

 手に持った短刀の刃のような、鋭く冷たい言葉と共に、黒衣の青年は名も知らぬ人間へと右手を振り下ろす。秒を数えるより速く、己の首を刈り取るだろう短刀の刃、雲間から差し込む月光を浴びて、冴え冴えと光るソレに魅入られたかのように固まる少年。

「シロウ!?」

「衛宮君!?」

 二人の少女は悲鳴に似た呼び掛けを叫び、自らの無力さと、停まる事無き時の流れを憎み。アーチャーは沈黙の中、黒衣の前に立つ少年を睨みつける。

 振り下ろされた白刃は、少年の首に触れる寸前で止まっていた。原因は、黒衣の右腕を掴む、持ち主を同じにする左腕。暴れる右腕をがっしりと掴む左腕は、まるで別の意思に支配されているかのよう。

「邪魔をする気か、『シキ』」

 どこか苛立つように声を上げるバーサーカー。自分の腕同士が争う姿を、驚かずに放置している。何時しか右腕は大人しくなり、手の中に有った短刀も消えていた。

 右手はゆっくりと青年の顔に向けられ、閉ざされた両目に封の如く添えられる。

「……まぁいい、少しは楽しめた。今暫しの間、幕裏にて眠るとしよう」

 呟きと同時、右手に隠された目蓋に、何処からともなく現れた包帯が巻かれていく。白い布が目蓋を覆い尽くすと、黒衣の青年は即座に主の元へと跳び退った。

「何を、してるの……戦いを……続けなさい……」

 傍へと駆け寄る従者を、押し退ける様にイリヤは言う。だが、その声はあまりにか弱く、聞いた青年は痛ましげに眉を寄せる。

「ごめんな、イリヤ。無理をさせた。今回は退こう、次の機会はいくらでもあるんだから」

 優しく抱き上げた主に謝罪し、その頭を撫でた。小さな身体から力を搾り出し、限界を迎えても弱音を言わない、強すぎる少女を慰めるように。

「しょうがないわね……おかえり、シキ」

 青年の優しさに緊張が解けたのか、少女が瞳を閉ざして眠りに落ちる。イリヤが意識を失うと、バーサーカーは未だ緊張を保つ敵へと顔を向けた。

「……キミの名前は?」

 先ほどまで自分の前に立っていた少年へ尋ねる。

「士郎。衛宮士郎が、俺の名前だ」

「ありがとう、士郎。キミのおかげで、俺は大切なモノを失わずにすんだよ」

 礼を言って、胸に抱いた主へと視線を落とす。そんな彼は、ついさっきまでの狂気など欠片も感じさせない、穏やかな空気を放っていた。

「今日は俺の負けかな……でも、次は負けない。聖杯を手に入れるのは、イリヤだ」

 穏やかに、けれど力強く彼は断言する。

「勝利宣言も良いが、この場から無事に逃げられるとでも思っているのかね?」

 皮肉げに尋ねるのは弓兵。バーサーカーを狙う弓には、青年の左腕を奪った奇妙な形の矢が番えられている。セイバーも傷から血を流しつつ、剣を支えに立ち上がっていた。

 武器を持ち、戦意を失っていない二人の英霊、意識の無い主を護りながら戦える相手ではない。逃げ切る事さえ、不可能だろう。

 絶体絶命とも言える状況の中、バーサーカーとアーチャーの視線がぶつかり合う。沈黙の中、マスターである少年と少女の精神に、緊張からの多大な負荷を掛けた数秒が過ぎて、弓兵は構えていた弓矢を消した。

「見逃してくれるのか?」

 唐突なアーチャーの武装解除にシキは問い掛け、不機嫌を露にしながらも、弓兵は答えた。

「何故だろうな。最初に会った時や直死の魔眼を開いた時、狂化した時の貴様を見て、その度に強さを認めはしたが、勝てないとは思わなかった……しかし、マスターを抱いた今の貴様には、不思議と勝てる気がしない」

 答えながらも、弓兵が視線を黒衣の胸で眠る少女へと向けた時、その鷹のような眼光に、優しい光が宿った事には、誰も気付かなかった。

 弓兵の言葉を信じたのか、シキは肩の力を抜いて黒髪の少女へ視線を向ける。

「アーチャーのマスターは、キミ?」

「遠坂凛。この名を覚えておきなさい。聖杯を手に入れる魔術師の名前よ」

「なるほど。良いマスターとサーヴァントが二組か、コレは強敵だ……じゃあ、またね」

 強気な少女の言葉に微笑むと、黒衣の青年は背後の影へ溶けるように消えて行く。

「セイバー、傷は大丈夫なのか!?」

「私は、大丈夫です……すみません、シロウ。力が及びませんでした」

「そんな、俺がしっかり魔力を供給出来れば……」

「衛宮君の言う事は尤もだけど、まずは背中の傷をなんとかなさい」

 傷を負ったセイバーを主である士郎が心配し、凛が少年の背中に広がる傷を心配する。緊張のほぐれた三人の言い合いを聞きながら、弓兵はバーサーカーの消えた虚空を眺めていた。

 サーヴァント中最優の視力を持つ彼は、黒衣を追うように視界を掠めて行った紫の髪に気付いたのだ。

「さて、私の感じた危険がただの杞憂かどうか。危ない橋は別のサーヴァントに渡ってもらうとしよう」

 一人呟く赤い外套の騎士は、背後で未だに気を遣い合っている三人の元へ向かう。己のマスターへと何時か来るバーサーカーとの再戦を考えて、セイバーとの同盟を提案する為に。


 あとがめ

 戦闘描写に迫力がでなくて泣きそうになりました。S・O・Sです。

 なんだか、私の詰まらぬ駄文に対し、かなり熱い議論が繰り広げられていた様子。

 真剣に考えて頂いた皆さん、ありがとうございます。

 まぁ、実際の所、書いてる作者がバカなんで、あんまり深く考えてないだけなんですけどね(苦笑)

 だからどうか、皆さんも肩の力を抜いて、まったり読んで頂けるとありがたいです。

 恒例の友人による一言感想。

「シキ、強すぎ」

 月姫の頃から志貴が好きなだけに、どうしても多少贔屓目で見てしまっているようです。実際は『狂化』前であれば、セイバーとの一騎打ちでも負けちゃうんですけどね。優勢だったのは『切り札』が多いおかげでしたし。『狂化』後は、今回の話で書いたように、マスターの魔力が弱点になります。

 もっと分かり易く文章に出来れば良いんですが、まだまだ未熟で申し訳ない。

 以後はレス返しです。議論などで二度、三度と書き込んでくれた方には悪いのですが、レス返しは最初の一回と限らせて頂きます。ここで作者が参加しちゃうと、本当に泥沼だと思いますので(汗)

 毎回の感想、本当にありがとうございます。次の話を書きながら何度も何度も読み返しては、励みにさせてもらっていますので、これからもどうかヨロシクお願いします。

 ういさん>お待たせしました。心配は尤もですが、まだまだ続きますよ〜。作者自身、何話まで続くのかビクビクして考えてます。描写は気にしてた所だったので、褒めてくれて凄く嬉しいです。ありがとうございました。

 suiminさん>そうなんですよね、一見しただけでは、バーサーカーとは思えません。ソレもある意味で、シキの武器なのでしょう。バーサーカーならこの場面がないと、と張り切ってましたが、難しくて途中なんどもめげそうになりました。良い展開と言ってもらえると、頑張った甲斐があります。

 ニャンちゅうさん>お待たせでした〜。たしかに二人とも同時代の有名人でしょうが、片や人外の闇の中、片や日常と非日常の狭間。と住む世界が微妙に違っていますから。アーチャーは魔術師繋がりで知ってても、バーサーカーは知らないかもしれません。

 春風さん>やっぱり強すぎますか?(汗)まぁ狂化する機会は、サーヴァントに囲まれるとかじゃない限り、滅多に出ません。というか七夜は書いてて疲れます。士郎がマスターのセイバーとなら、バーサーカーが優勢ですね。黒の姫とか宝石翁は、シキの夢という形で、出す機会があるかも?

 凛々さん>FATE自体、キャラが立ってますからそれのお陰ですね。その分、歌月とかメルブラでしか出番のない七夜は、ちょっと自信がなかったり。武器に関しては、シキはあまり獲物を選ぶタイプじゃないと思うので、当分は『七つ夜』一本のつもりです。

 なおさん>たしかに頑丈ですよね。でも、概念武装としては、お話にならないレベルだと思いますので、飛び抜けた概念を保有する宝具相手には分が悪いです。

 生きる屍さん>問題ないというか、一種の綱渡り状態だったかもしれませんが、相手が自分より強いというのは、彼にとって当たり前。だからこそ、冷静で居られたんでしょう。

 覇邪丸さん>お互いを思うが故にすれ違ってしまった二人。切ないと感じていただけたら感激です。でも、このままBADENDじゃ終わりません。私はHAPPYENDが大好きなんです!

 ジラルドさん>初書きの七夜はどうだったでしょうか? 原作の万分の一でもあのカッコよさが表現出来ていればいいんですが。

 十八三女さん>はじめまして、狂化したバーサーカーは、色々な意味で『反転』してますので、魔眼も直死ではなくなっています。新たなオリジナル要素ですので、皆さんの反応が怖いっす

 最強さん>う、確かに自分はその気がないと言えません。けれど、苦労のない戦いを面白いとも思いません。シキにはその強さの分、たっぷり苦労してもらうつもりです。

 ジーンさん>都合の良さは自覚してます。将棋でいうなら、最初に盤面を弄って、駒を並べ替えてから勝負するような物。動かした駒は元には戻せませんが、これからはもっと慎重に行きますね。

 ユウさん>ちょっと早すぎかとも思ったんですが、二人を前に狂化もしないで渡り合うのは不可能だと思ったので。次回はライダーとの連戦になります。ご期待頂けたなら、凄く嬉しいです。

 くれいじーどりーむさん>ありがとうございます。こうして貰う感想が、作者の一番のエネルギーですので、これからも燃料補給させて頂きますね!

 らふめいかーさん>そう思って頂けると、助かります。正直、作者の力量不足ゆえに、ご都合に頼らないとダメなので、ソコを指摘されると筆が動きません(苦笑)応援ありがとうございます、答えられるよう、頑張ります。

 オロナミンDさん>そういった諸々の能力補正を考えると、シキの強さに理由が出来ていいかもしれません。英霊といっても、強さにはピンキリあるみたいですしね。シキはかなり強いほうだと思っています。

 ふぇんりるもどきさん>私のご都合主義の所為で、不快な気分にさせてしまったなら、申し訳ありませんでした。こうして発表する以上、完結を目指すのは当然だと思っています。(思った事が遣り遂げられるかは別として)

 通りすがりさん>フォローありがとうございます。しかし、作品を読んで分かってもらえなかったのは、私の文才の無さの所為ですから、これからもっと精進していきます。

 なまけものさん>冒頭の部分では、まだ英霊にはなっていません。彼と姫には未だ隠された結末があります。それらも楽しみにして頂けると、嬉しいです。

 草薙さん>設定面での補足、何時もありがとうございます。私自身、あまり深く考えずに小説書いてますので、説明されて納得する事があります(赤面)。殺人貴という英霊の『表』がシキなら、『裏』は七夜。どちらが強いという事ではなく。二人合わせての殺人貴。その真の姿は……冗談ですよ?(笑)

 うんたろうさん>応援ありがとうございます。確かに読書を娯楽とするなら、楽しまないと嘘ですよね。まったりと、休みながら行きましょう(俺は休んじゃいけないんですが)w

 kurageさん>バランスを褒めてくれてありがとうございます。生前は英雄として、各々が最強を自負する英霊同士の戦いには、神経使いました。矛盾という言葉をこれほど実感したのは、初めてです。次の夢はちょっと間が空くかもしれませんが、期待に添えるよう頑張ります。

 ミーティアさん>復元呪詛の事も含めて、こういう結果で第一戦は終了しました。剣と弓、そして狂騎の戦いに、本当の決着が着くのは、まだまだ先です。これからも、どうかお楽しみ下さい。


 さて、頑張って続いているおまけですが、今回のは作品のイメージを壊す恐れがあります。読む方はご注意下さい。


「―――狂いなさい、バーサーカー」

 ただ一言の命令。幼き少女の紡ぐ、その一言が、最狂を呼び覚ます。

 黒衣の青年は沈黙の中、一人立ち尽くしていた。地に突き立つ日本刀にも似た美しさ。しかし、彼の脳内で行われる『狂化』のプロセスは、本来なら誰も知りえない。ソレを、ほんの少しだけ覗いてみよう。


「『狂化』コマンドの発動、確認しました!」

 割烹着を着た女性の告げた言葉に、その場に集う人間はざわめき出す。様々な姿をした彼らは皆、シキの意識の一つ一つが人型を取った物だ。

「戦争はまだ始まったばかりだというのに、何を考えているのかしら?」

「仕方ありませんよ。遠野君は優しい人ですから」

 人々の中央、威厳を放ちながら美しい黒の長髪を揺らしながら、お嬢様然とした少女が呟き。それを聞いたカソリック風の服を着たメガネの女性が、やんわりと窘める。

「そんな事、貴女に言われなくても分かっています! 敵の戦力はどうなってるの?」

「……強力です。『狂化』せずに戦った場合、勝率は10%を切ります」

 少女の問いに答えたのは、割烹着の女性と瓜二つの容姿を、メイド服に包んだ女性。状況を考え、最善を模索する彼女達に、能天気な声が掛けられた。

「ねー、結局どうするの? 発動するの? しないの? どっち?」

 声の持ち主は、黄金の髪を肩で切り揃えた美女。ヒトではなく、神の手による芸術に近い美貌を、迷いで曇らせながら結論を促す。

「少しは貴女も考えなさい、このアーパー吸血鬼!」

「面倒だからイヤ。貴女がデカ尻をダイエットで治すんなら、考えないでもないけど」

 カソリックの女性と、金髪の美女が険悪な雰囲気で睨みあう。一触即発の空気が弾ける寸前。美女の隣に立っていた、同じ顔の女性が呟く。

「ふぅ、喧嘩は止めよ。今はそれなりに窮地と言える状況なのだぞ? 我々が内輪揉めをしている場合ではあるまい」

 黄金の髪を伸ばし、豪奢なドレスを身に纏う美女の言葉に、険悪だった二人は渋々と矛を収めた。

「はーい、それじゃ採決を取るわよ〜。『狂化』しても良いと思うヒト〜?」

 喧騒が一段落着いた時を見計らい、赤い髪にTシャツとジーンズというラフな服装の女性が周囲の意見を聞く。悩み、他のヒトと相談しながらも、一人づつ手を上げていった。

「……計算終了。賛成派が70%を越えました。決断を……」

 紫の髪をお下げにし、大幅にアレンジした軍服のような服を着た少女が、お嬢様然とした少女へ告げる。

「しょうがないわね……『狂化』発動を承認します」

「オッケー! 行くわよ、シキ……『狂化』―――発動っ!」

 結論が出た事に朗らかな笑顔を浮かべる金髪の美女。彼女の目の前には、宙に浮いた真っ赤なスイッチと、ソレを守る幾重ものカバーが有ったが、美女は細腕で拳を作ると、スイッチ目掛けて振り下ろした。

 ガチャンッと派手を音を立てながら、カバーを粉砕してスイッチが押される。

 こうして、サーヴァント中『最狂』の彼が目覚め……たんだろうか?


 ―――やっぱりギャグは苦手だ。今回のおまけははずれって事にして置いてください。あと、おまけは本編とは(一応)関係ありません。コレに懲りる事無く、次のおまけもお楽しみに〜―――

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