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「白の聖女と黒き狂騎5(FATE+月姫)」

S・O・S (2005-08-18 22:49)
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 月明かりが照らす町の中。建物の屋根を飛び渡る黒い影が一つ。黒衣を纏った人影は、胸に自分の背丈の半分もない少女を抱え、夜の闇を駆け抜けていく。

 音も無く、腕の中の少女の眠りを妨げぬよう、幼い体に負担を掛けぬよう、細心の注意を払いながらシキは飛ぶ。

 ただ一心に、イリヤの身を案じながら、彼は住処である森の中の城へ戻ろうとしていた。

 ジャラララ

 廃ビルの屋上に危うげなく着地し、次の建物へと足を踏み出そうとした彼の耳に、鎖の鳴る金属音が届く。瞬間、シキは右手に短刀を構え、発作的に振り切った。

 キィン、と甲高い音を立てながら、黒衣の背中を貫かんとした釘を打ち落とす。地面に落ちた釘には、察知された原因である鎖が付いており、鎖に引かれるまま持ち主の元へと戻っていく。

「誰だ!?」

 釘が戻る方向を見て、シキが誰何の声を上げる。応じるように現れたのは、紫の長髪を持つ女。豊満な肢体を黒皮の衣装に包み。黒衣の青年と同じく顔の上半分を覆う眼帯を身に着けていた。

「残念です。弱った貴方なら、今の一撃で倒せると思ったのですが」

 女は隠れた視界にシキを映し、声だけで普通の男を腰砕けに出来そうな、魅惑的な言葉を放つ。……内容が少々物騒ではあるが……

「―――はぁ、今日は大盤振る舞いだな。もう帰ってグッスリ眠りたい所なんだけど」

 対する青年は、女の美声や容姿に無関心のまま、ひたすら疲れた口調で答えた。

「見逃すと思いますか? 貴方がどれほど強い英霊であろうと、マスターが意識を失っていては力を発揮出来ないでしょう。ともすればセイバーやアーチャーよりも、貴方は危険だ。ココで倒させて貰います」

 美しさと比例するだけの冷たい声で、女は宣言する。同時に繰り出されたのは、先ほど青年を狙った釘剣。手元の柄を巧みに操り、先端の鋭い釘は勿論、鎖すらも武器として相手へぶつけにきた。

「さて、そんなに簡単にはやられないよ。……なにより、個人的にこういう戦いは好きじゃないんだ。―――本気で、いく」

 襲い掛かる釘を、短刀の刃で弾きながら、武器を振った隙を突いて迫る鎖を、体裁きで凌ぐ。

 マスターからの魔力供給は無く、意識を失った少女を抱え、全身は『狂化』の負荷でボロボロ。不利な点を上げていけば切りが無い。絶体絶命とも言える状況で、それでも彼は思う。

 ―――それがどうした―――と。

 力が出せない。体が動かない。敵は強い。ようはソレだけだ。

 胸に抱いた少女? そんなモノは弱点ですらない。

 大切な者が、自分を信じ切った表情で眠りに就いているなら、彼に出来るのは力の限り護る事。

 ―――シキという名の英霊は、ただそれだけを続けた末に『座』へと辿り着いたのだから―――

 攻め続けていた女は、釘と鎖では埒が明かぬ事を悟った。弱っている相手にはソレで十分だと思っていたが、目の前の黒衣には通じない。彼女は青年の認識を改めた。

 ―――彼は、全力を出すに足る強敵だと―――

「……なるほど、たしかに貴方を倒すのは簡単ではない。では、私も本気でいきます」

 言うと同時に、女は動いた。

 釘を短刀で弾き、鎖を蹴り飛ばした青年に一瞬で接近し、美術品としても評価出来そうな美しい脚で蹴りを放つ。体制を崩しながらも、蹴りに反応して回避しようとしたシキは、唐突にその動きを止めた。動きを止めた黒衣の背中に、蹴りが突き刺さる。

「くっ……ハァッ!」

 苦悶に表情を歪ませながらも、シキは即座に反撃の為に短刀を振るった。しかし、女は彼の行動を嘲うように逃げると、再び二人の距離を開ける。

「―――今、イリヤを狙ったな?」

「弱点を攻める。ソレが一番効果的だっただけです……それとも、卑怯と罵りしますか?」

 冷たい、感情すら凍りつかせそうなシキの問いに、答える女の声もまた、氷のよう。

「言わないさ。ただ、後悔させてやるよ」

 温度は変わらず冷たいままに、滾る怒りを心に沈めて、青年は呟く。右手で構えた短刀の刃が、月光を映して白々と輝いた。

 激情に惑わされず、静かに対峙するシキを見て、女の秀麗な眉が僅かに上がる。英霊としてというより、生物としての本能が、目の前の存在に警鐘を鳴らすのを感じたのだ。

 彼女がシキを見たのは、実は今夜が初めてではない。

 マスターの命令で、夜中に冬木の町を巡回している時。偶然、彼とランサーの戦いを見たのが最初だ。

 ランサーとバーサーカー。二人の戦いは、英霊同士という枠の中にあってさえ、突出したレベルと言える。『必殺』の宝具を持つランサー。宝具を受けてさえ、戦いを続けたバーサーカー。どちらも最強と呼ばれるに相応しい実力者。

 闘いの結果、二人は傷を負いその場を離れた。女は去り行く背中に追い付く事も可能だったが、事情により実力を発揮出来ない今の自分では、たとえ彼らが負傷した状態でも勝てる確信は抱けず、その場は引き下がった。

 だが、昨夜に続き、今夜もまたセイバーやアーチャーという強敵と戦い。魔力を消費しすぎたのか、マスターすらも荷物としてしまった黒衣の青年を見て、コレは好機なのだという思いを消せなかった。情報も万全とは言えなくとも、可能な限り集めており、推測も含めれば青年の能力は七割がた明らかになっている。

 逆にシキは女の真名は勿論、クラス名すら分かっていない。

 そうした闘いの前段階において、自らの有利さを知るからこそ、彼女は平然としたまま口を開く。

「大言を吐くのは良いのですが、後悔するのは貴方の方では?」

「俺が? 冗談じゃない。俺が後悔するとしたら、護るべきヒトを護れなかった時だけ、そしてソレは、今じゃない」

 シキは呟きつつも、右手に持った短刀の刃を、自らの顔に巻きついた包帯に滑らせる。白い包帯が音も無く解け落ちた下に、傷一つ無い怜悧な表情と、全てを圧倒するように輝く蒼い双眸があった。

「イリヤに迷惑は掛けられないから、時間が無いんだ。さっさと終わらせるぞ」

 断言する口調には、迷いも躊躇いも無い。彼の胸に抱かれた少女は、何の不安も感じずに眠り続ける。ココは自分が最も安らげる場所だと、態度で示すように。

 今まで防御に専念していた青年は、初めて攻撃の為に動いた。殺すと決めた瞬間から、彼の行動には一切の無駄が無くなる。己に向けて再び放たれた釘を、蒼い瞳で捕らえながら短刀を振った。シキにしか見えない『線』を、なぞるように切られた釘剣は、本来の硬さを無視して切断される。

 女は自分の武器をあっさりと無効にされても、予想していた分だけ動揺は少ない。接近する青年から、逃げるように距離を取る。

「くっ、やはりその『魔眼』は厄介ですね。……しかし、マスターからの魔力に頼らず、どれだけの時間ソレを維持出来ます?」

 彼女の言葉どおり、シキは今イリヤからの魔力供給を断っていた。ラインを辿れば眠っているマスターから、無理矢理魔力を奪うことも出来るが、そんな事をするくらいなら、彼は自らの胸に短刀を突き刺すことを選択するだろう。

 マスターとサーヴァントの関係にしては、異常とも言える二人。それでも当人は、ソレを自然に受け止めていた。だから青年は、女に微笑むのだ。

「くだらない事を気にするんだな。心配せずとも、オマエを殺すまでは大丈夫だ」

 白刃の煌きにも似た、凄惨な笑みでありながら、ヒトを魅了する美しさをもつ表情。

 女は刹那の間だけ、ソレに見惚れた。或いは、絶体絶命の窮地において、なお毛ほどの揺らぎも見せない青年の気迫に呑まれたのか。どちらにせよ、その一瞬が、二人の勝負を分ける。

 トンッと地面を蹴った青年は、上に跳ぶ。逃げ場の無い空中から、見当違いの場所へ短刀を投げ放った。一見して意味の無い行動に、女は警戒を強める。黒衣の青年がこの状況で、無駄な事をするはずが無いと知るがゆえに。

 投げられた短刀を絡め取ろうと鎖を伸ばす。しかし、釘を含めた先端をシキに斬られていた分だけ、届かない。

 微かな差で、短刀の刃は吸い込まれる様に地面に突き刺さった。

 女の足元でドクンッと、無機物であるはずの廃ビルから、鼓動のような振動を感じる。英霊としてヒトより優れた感覚が、危険を感知すると同時に、移動する為に地面を蹴ろうとした。

「―――う、そ」

 意識せぬまま、呆けた声が喉から漏れる。

 蹴ろうとした地面は、存在しない。何故なら、足場としていた廃ビルが、轟音を響かせながら崩壊し始めていた。頑健な筈の建物は、短刀の刺さった場所を始点にして、その存在を『殺された』から。どれだけの敏捷があっても、足場が無くては発揮出来ない。

 驚愕を隠せない女へ、空から男が降ってくる。月の光を黒衣で奪い、漆黒の夜に染めながら、まるで死神のように。

 女は自分の見通しの甘さを悔やみながら、死を覚悟した。その心に去来するのは、聖杯への執着でも、敗北から来る絶望でもない。ただただ、自分を呼び出した一人の少女の未来を案じて。

「……」

 声として空気を震わせる事無く、口が少女の名の形に動く。無意味な筈のソレは、敗北を確信していた女に戦う意思を抱かせた。同時に彼女は、自分の愚かさに気付き、口元を歪める。

 相手の情報を知り、有利な時に戦えば勝てると思い込むとは、なんて無様。敵は英霊、世界にその価値を認められしモノ。ならば、死力を尽くさずしてどうして勝利が得られよう。

 決意した女は、己が宝具の真名を唱えて、顔を覆っていた眼帯を外す。

「―――自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)」

 現れた瞳は透き通った灰色で、人間の体の一部というよりむしろ、水晶で造られた芸術品めいた代物だった。異形の四角い瞳孔が、今まさに己を殺そうとする黒衣を捕らえる。

「……っ!?」

 呻きと共に、女の細首を貫こうとしていた手刀が止まった。動画の再生中に静止画を混ぜたように、黒衣の腕が固まっている。不自然な凝固が全身に広がろうとする寸前、シキは唇を噛み千切ると、女の顔に血を吹き掛けた。

 霧状の血液は、女の視界に入ると同時、ピシピシと音を立てながら石化していく。石と化す事で勢いを減らされながらも、血は女の瞳へ向けて進み、当たる直前に手で払いのけられる。しかし、黒衣の青年が狙ったのは、自分を捕らえる魔眼との間に障害を作る事。

 シキは彼女自身の腕で作られた一瞬の空隙で、未だ自由の利く体を捻り、崩壊を続ける廃ビルへ女を蹴り飛ばした。不自由な体勢の何処から力を出したのか、彼女は凄まじい速度で崩落する瓦礫の中に消える。

 追撃や戦場からの離脱が可能な青年は、しかし、空中から落下する際、共に落ちていく瓦礫を足蹴にして勢いを殺す以外、特に何もする事無く地面に着地した。

「……ハッ、ハァ……」

 荒い息を吐きながら、自由にならない右腕で上体を支える。俯いた顔には既に白い包帯が巻かれており、青年の消耗が尋常でないことを知らせていた。事実、彼の内蔵する魔力は限界寸前まで枯渇し、既に何時消えてもおかしくはない。

 そんな危機的状況にも関わらず、シキの左腕には安らかに眠るイリヤの姿があった。急激な魔力の消耗による、仮死状態と呼べるほどの深い眠りと、少女の持つ高い魔力と耐魔力、青年の咄嗟の判断で小柄な体を覆った黒衣がなければ、こうまで無事には済まなかっただろう。

「駄目だな、俺は。……護るって大口叩いておきながら、少しも役に立ってない」

 苦しげに、悔しげに、呻くように口を開くシキ。辛そうに立ち上がる彼の目の前で、山と積まれた廃ビルの瓦礫が揺れ動く。一際大きな震えと共に瓦礫が吹き飛び、傷らしい傷もなく、紫髪の女が立っていた。

 敵の様子を見ても、青年に驚きの色はない。魔力を込められたわけでもないのに、瓦礫如きでサーヴァントが傷つく筈もないのだから。逆に、再び美しい顔を覆う眼帯を、怪訝な表情で見つめた。

 一度見せた宝具を、この時点で封じる意味が分からない。

 青年へと歩みを進める彼女からは、戦う為の意思すら感じられず。シキは戸惑いながらも、イリヤへの危険がなくなった事を認め、全身から力を抜いた。

 安心出来る状況ではないし、動けないマスターを狙った女への怒りは消せないが、優先すべきはイリヤの安全だ。ならばこそ、回避できる危険に飛び込むべきではない。

 もし、女が再びイリヤへの害意を見せたなら、その瞬間に封じていた宝具を使い、自分と主以外の全てを『殺せ』ばいいのだから。

 そう判断したシキは、普段の穏やかさを取り戻すと、女へ語りかけた。

 しかし、その穏やかさは、己の心臓に刃を突き付けて無理矢理引き出したモノ。シキにとって宝具の使用とは、それほどの覚悟が必要な事なのだ。狂気と共に覚悟を隠し、彼は女と対峙する。

「石化の魔眼か……随分、とんでもないモノを持ってるんだな」

「希少価値という意味であれば、貴方の持つ魔眼には敵わないと思いますが?」

 不思議と、寸前まで命を取り合っていた二人の間に、険悪な雰囲気はなく。お互いに殺意を消し、気軽に会話しあう。

「価値か……たしかに皆が珍しがるけど、実際この眼を持ってて得した事なんか、数えるほどなんだけどね」

「それについては同感です。魔眼など、望まぬ者にはただの呪いに過ぎない。正直、こんなモノを好んで欲しがる魔術師という人種は、理解できません」

 話しつつも、瓦礫の上を歩いていた女の足がふらつく。宝具の発動は彼女にとっても楽ではなかったのだろう。それでも歩きは止まらず、二人の距離は狭まり、手を伸ばせば触れ合えるほどに近づいた。

 対峙する男と女。普段がどうあれ、現時点での両者の力の差は歴然。女の殺意一つで、男は何をする間もなく死ぬ。それを理解せぬ筈もないのに、シキは恐怖を欠片も見せず、静かに女を見つめていた。

 女の手が、優しさすら伴って青年の封じられた瞳を撫でる。

「貴方は強い。初見での一対一なら全サーヴァント中最強かもしれません。……しかし、貴方のミスは、自分の強さを見せすぎた事。今後、貴方の状況は悪化する事はあっても、好転することはまずありえません」

 右手はいまだ自由にならず、左手にマスターを抱えたシキは、女の愛撫とも言える手を止める事も出来ず、朗々と告げられる事実に唇を噛む。

 青年もそれは理解していた。自身の持つ『切り札』の多くは、初見でこそ最大の威力を誇る。だからこそ、使う時は『殺す』時だ。だというのに、分かっているだけで三人のサーヴァントに能力を知られている、今の状況は不味い。

「そうだな、ソレは分かる。でも、オマエがまだイリヤを狙うなら、俺はオマエを殺すぞ」

「……アーチャーが貴方を見逃した時、正直何を考えているのか分かりませんでしたが、今なら分かる気がします。私は、これだけ優勢な状況にあってなお、貴方が恐ろしい。いいえ、むしろ追い詰めれば追い詰めるほど、危機感が増してさえいる」

「無駄口を叩く暇があるなら、さっさと用件を言ってくれ。俺はともかく、イリヤには帰りを待ってる人も居る。早く帰って安心させてやりたいんだ」

 饒舌な女の言葉を遮るように、青年は言う。

 シキの急かす態度にも腹を立てず、名残惜しげに瞳から手を離すと、女は自らの要求を口にした。

「私と、手を組みませんか?」

「―――はぁ?」

 予想を超えた要求に、青年は半ば呆けた表情で問い返す。答えようとした女は、ウゥゥゥと無骨に唸る音に反応し、別の事を口にした。

「簡単な人払いの結界でしたから、流石にこの規模の破壊を行われては効果を失ったようですね。騒がしくなりそうですし、場所を移しましょう」

「良いのか? 逃げるかもしれないぞ」

「……マスターの身をそれほど大事にする貴方が、そんな分の悪い賭けに出るとは思いません。私の誘導が不満なら、貴方の望む場所で構いませんよ」

 シキが思考する間にも、法治国家たる事を示さんと、駆けつけるパトカーのサイレンが近づいてくる。迷いを振り切るように、青年は腕の中の少女を一瞥した後、女に向けて頷いた。

 青年の意思を確認し、女は地面と建物の壁を足場に駆け上がる。ふらついていたとは思えない速度に、シキもまた疲弊した体で付いて行った。そうして建物の屋根を飛び渡る事数回、廃ビルから随分と距離を空けると、女は適当な建物の屋上で足を止めた。

「この辺りまでくれば十分でしょう。先ほどの続きですが、私と手を組むつもりはありませんか?」

「そこが分からないな。何故、そんな提案をする必要がある?」

「―――私には、貴方の力が必要だからです。私の本当のマスターを助ける為に、貴方の魔眼の力を貸して欲しい。彼女と私には、聖杯への執着もありません。マスターを助けてくれたなら、貴方への協力は惜しみません」

「なるほど。それで、俺をそんなに信用する理由は?」

「宝具を開放するより早く、貴方は私を殺せた筈。それなのに、私は生きてココに居ます。ソレが信じるにたる証拠になりえませんか?」

 女が心に秘めた主の名を呟いた瞬間、たしかに青年の必殺の一撃が揺らいだ。一秒にも満たぬ刹那。しかし、その揺らぎが無ければ、女の首は男の手で刈り取られていただろう。

「どおりで、途中の蹴り一発以外、イリヤを狙いから外してたわけだ。試されてたって事かな」

「貴方の魔眼を試すつもりが、危うく殺されかけましたがね。……不躾であった事は詫びます。けれど、マスターを助ける存在を選ぶ手前、妥協するわけにはいかなかった。彼女を助けた後なら、私の命でも何でも渡しましょう。どうか、協力してくださいバーサーカー」

 美しいが感情の色を感じなかった女の声に、切実な懇願が宿る。その態度には虚偽など欠片も見出せず、シキは答えを悩みながら助けを求めるように主を見た。深い眠りに落ちた少女は答えなかったが、主の寝顔に何かを見たのか、青年は答える為に口を開きかける。

「っ……ぐぅぅ……っ!」

 唐突に、女が苦しみながら膝を着く。美しい肢体を電光が縛り、主に従わぬ猟犬に罰を与える為に痛めつけた。霊体と実体の間を彷徨うように、姿を霞ませながらも彼女は一心に願いを告げる。

「く、どうやら……時間のようっ……ですね。お願い、です。彼女を……サクラを、救っ……て」

 言い終らぬうちに、彼女は姿を消した。結局、クラス名すら教える事無く去って行った相手を、答える途中に口を半開きにしたまま見送る形になったシキは、嘆息しながら空を見上げる。

 空には、いまだ煌々と輝く月の麗姿。地上に立つ黒衣と、空に浮かぶ巨大な星。

「まったく、厄介な事になったもんだ。……オマエはどうすれば良いと思う?」

 青年は長年の親友を相手にするような、気軽な口調で月に語りかけ。夜空を支配する巨大な天体は、シキの言葉に応じて、刹那にも満たぬ一瞬だけ、黄金に輝くその身を『朱』く染めたように青年の目に映る。

 普通なら、幻覚か目の錯覚と疑う光景を見て、青年は口元を歪める。そうして一つ息を吐くと、疲弊した体に鞭打って、森の中の城へと向かい駆け出した。


 あとがせ

 八月三十一日になって、ようやく夏休みの宿題を始める。そんな学生よりも無計画な小ネタ投稿者S・O・Sです。覚えてますか?

 VSライダー戦、こういう結果に終わりました。書いては消して、書いては消してしている間に、楽勝、辛勝、引き分け……と二転三転した末です。

 この作品の基本コンセプトは、『イリヤに幸せを』。それ以外は、全く決まってません。ほとんどその場のノリと、妄想と、最近読んだ名作の影響などを受けて、コロコロ変わります。読んでくれている方には、ホント申し訳ないくらい、いい加減な作品ですが、頑張りますのでコレからもよろしくお願いします。

 最近、聞くのが辛くなってきた友人の一言感想。

「文章が読み辛い」

 ……そんな基本的な上に、どうしようもない事言われても……

 と、とりあえずレス返し〜。いつもありがとうございます。一言一言、励みにさせてもらっております。

 suiminさん>彼女の扱いはこうなりました。彼女とマスターに救いが訪れるかどうか、全てはこれからという感じでしょうか。吸血衝動に関しては、死徒の衝動の源は肉体維持の為?だったと思うので、魔力で肉体が作られているのだから、魔力で代用がきくだろうというのが一応の設定です。変わるかもしれませんがw

 皇 翠輝さん>眠いのにレスありがとうございました。七夜にしようか退魔(殺人?)衝動にしようか悩んだんですが、衝動の方だと会話が……あとホムンクルスのイリヤも対象に入りそうだし。で、七夜に登場いただきました。

 ういさん>シキとイリヤの主従。気に入っていただけたようで、凄く嬉しいです。いつか七夜とイリヤの会話も書けると良いのですが、下手すると殺されるので悩みどころです。

 生きる屍さん>ブラウン管ごしに見るならともかく、直に対面は絶対ごめんですねw おまけも喜んでもらえると、書いた甲斐がありました。投稿した分では死にませんでしたが、書いてる間は三、四回ライダーとか慎二とか死んでました。……最初の犠牲者は誰になるかな〜w

 覇邪丸さん>長時間どころか、イリヤがマスターだからあれだけ持ったのであって、士郎辺りなら一秒もたないかもしれません。シキのその後は少女の夢の中に、もうしばらくお待ち下さい。

 草薙さん>補足ありがとうございます。復元呪詛の上手い解釈なんか考えねば……アーチャーの行動は、彼なら強敵と戦う際、遊び心とか皆無で即殺のイメージが俺の脳内にあるからです。逆に七夜は強敵であればあるほど遊んじゃうんじゃないかと思うので、こういう部分が勝敗を分けるかも知れませんね

 ミーティアさん>シキの強さといい、ライダーの扱いといい、何だか中途半端で申し訳ない。過去の続きは現在捏造(妄想?)中ですので、もうちょっと待っててください。おまけの中にレンも居たのでしょうが、彼女は喋れませんからね。レン・白レン・都古ちゃん辺りでグループになってたかもしれませんな。

 春風さん>シキから七夜へ変わると、シキのステータスが全体的に強化されます。同時にスキルや宝具なども変化するので、敵対するサーヴァントは戸惑うでしょうね。予想は外してしまいましたが、逃げるシキと追うライダーみたいな、原作でのライダーVSセイバーみたいなのも考えたんですよ。自分の技量では何が何だか……諦めました。

 おーさかさんさん>仰るとおりです。シキ贔屓が過ぎているのではと自覚もあるんですが、好きという感情はこういう時中々厄介ですね。七夜はもっとかっこよく書いてあげたかったんですが、技量不足で申し訳ありません。

 mikeさん>お褒めの言葉、ありがとうございます。好きなキャラが暴れるシーンというのは、楽しんで書けるのが良いですね。あまり一人で暴れさせると、話としてのバランスが悪くなりそうですが(手遅れかw)

 空-カラ-さん>私もシキは好きです。主人公最強主義も好きか嫌いかで言えば好きです。ただ、こうして掲示板に投稿する以上、出来ればより多くの人が楽しめる作品を作りたいと思っています。(思ってるのが実行出来てるかは微妙ですが)だから今回みたいに、あんまりブイブイ(死語でしょうか?)言わせない場面もあるかもですが、これからも楽しんでくれると嬉しいです。

 kurageさん>やはりまだ前哨戦ですからね。セイバーに関しては、武器や真名が分かった所でどうしようもない正統派の強さがあります。アーチャーは皆が知ってる隠し玉があります。この二人が本気でコンビを組んで、全力の七夜と戦えば、新都の公園を上回る被害が出そうではありますが(汗)
復元描写を喜んでくれたなら、書いた本人として嬉しい限りです。

 一瞬さん>直死の魔眼自体、出鱈目も良い所ですからね。でも、魔眼が使えたら使えたで、セイバー&アーチャーならなんとかしてしまうような気もしますが。……バランスって難しいですね……頑張ります。

 くれいじーどりーむさん>苦労した部分を褒めて貰えると、嬉しさもひとしおです。イリヤは多分、他人に弱みを見せたことが無いと思うので、甘え方を知らないんじゃないかと。逆にシキは秋葉を始め、都古や晶、ちょっと違うけどレンなども相手しているので、お世話はバッチリなのでは?と思いつつ書きました。

 初心小心さん>そうなんですよ。書き上がったと思っても、納得のいく出来じゃなかったり、上手い表現が見つからなかったりと、キーボードの前で固まってばかりです。拙いどころか、立派な感想ありがとうございました。

 なまけものさん>たしかに、二人の争いはある意味致命的ですね。士郎の説得(?)の瞬間とか、全くの無防備だった訳ですから。シキとの相性ならライダーも悪いでしょうが、多分一番悪いのはアサシン。逆に有利なのは、キャスターとかギルのように遠距離から近づけないような攻撃の出来る相手でしょう。

 刻帝さん>本当ですね。読者の皆には皆のFATEやキャラがあるんだから、万人に受けるのは無理だと分かっているのに。それでも貶されると凹みますし、褒められるとつけあがります。なんとか負けないで、頑張りながら少しづつでも先に進みます。

 逆時計さん>戦闘向きというか、虐殺向きというか。七夜はいじめっ子タイプかもしれません。好きな子ほどいじめる感じ。奥の手に関しては、まだ秘密という事でw

 ニャンちゅうさん>今回、更新遅れてすみません。次からもお待たせするかもですが、気長に待っててくれると嬉しいです。七夜はイリヤが目障りだけど、殺すとシキが五月蝿いので我慢してるって感じですかね。彼の魔眼はライダーのように、相手への干渉を目的としたモノなので、強化とはちょっと違います。

 Fellさん>シキと七夜の差別化を図る為にも、別々の魔眼を所持して貰う事にしました。出番は少なくても、印象が薄まらないよう意識して書いてます。吸血衝動に関しては、私はそのつもりで書いてますね。実際、そう出来るかどうかはわかりませんが(汗)

 恒さん>霊長への絶対殺害権利でしたっけ?そこまで強力でもないですが、魔術師として優秀な凛に通用するくらいには使える魔眼です。あそこでイリヤを見捨てられるなら、シキももっと楽に人生を生きれたでしょうね。

 毎回、たくさんのレス本当にありがとうございます。これからも頑張りますので、お付き合い下さい。

 では、待ってる方が居るか分かりませんが、おまけです〜。


 夜、月がその力を最も高める満月の晩。元は豪奢を誇っていただろう城が崩れ、廃墟と化した場所に、三つの人影があった。

 一つは初老の男性。大きな体をすっぽりと覆うローブを着て、物語に出てくる魔法使いのよう。

 二つは黒衣の青年。上から下まで真っ黒な衣装の中、瞼を覆う白い包帯が印象深い。

 最後の一つは、頭上から降り注ぐ月光をその身に纏い、詳しい判別がつかない。ただ、光の中にあってすら隠すことの出来ぬ威厳と、満月すら従える圧倒的な存在感が伝える。夜を統べ、月を従え、地を蹂躙し、天を喰らう。ソレは、王。

 王の目前に立ち、押し潰されるような重圧に晒されながら、黒衣の青年は隣の男に暢気に話しかけた。

「……気のせいか、なんか月が大きくなってないか?」

 青年の懸念は、上空に輝く月。夜の満月という最高の条件を考えても、地上を照らす明るさは尋常ではない。

「ふむ。面白いな……想うだけで星すら落とすか。流石は真祖の王」

「おいおい、納得してる場合かよ。どうにかしないと、俺達ペチャンコだぞ」

「わかっとる。アッチはワシが何とかするから、お主は王の相手をしておけ」

 言って、男は視線を無言で佇む王へと向ける。

「……はぁ。なんか気軽に使われてるだけのような。使い魔って辛い身分だ……」

「『座』で年中暇を持て余す所を、わざわざワシが使ってやっているのだ、文句を言うでない。ワシのような年寄りが頑張るなら、若者はその百倍は気張るべきだろう」

「……普段は年寄り扱いした途端に怒るのに、こういう時だけソレに頼るのはどうかと思うぞ。ゼル」

 青年が疲れた口調で呟けど、何処までも気楽な調子で受け答えする男。頭上からは月が迫り、目前には星を統べる王が居るというのに、二人はまるで気負った様子がない。

 彼らは幾多の危機をこうして乗り越えてきた。

 老人が散歩と称して異世界へと赴き、その世界を支配していた魔王を倒し、姫を助けたこともある。

 乙女の生贄を欲しがる欲深な竜を見て、怒った青年が退治すると同時に、巣穴に溜め込んでいた財宝を二人で山分けした事だってあった。

 魔術結社を一つ潰した事もあれば。無力になった結社の残党に、正義という大義名分を掲げて虐殺した国を消滅させた事もある。

 時に意見を異にし、二人の喧嘩で山を平らにした事も、仲直り代わりの宴会で、酒場の酒を飲み尽くした事もあった。

 冒険譚として書き記すなら、話数は軽く百を越すだろう。数え切れない闘いを共に経験してきた二人は、お互いの力を信じ合い、協力を重ねて生き延びてきた。今、その長い戦いの歴史の中で、最強の存在を前にしたとしても、これまでのやり方を変える必要を、二人は全く感じていなかった。

「油断して血を吸われてたみたいだけど、大丈夫だよな?」

「今の所は心配無用、魔力で進行を抑えておる。魔力が尽きた後の事は、考えても仕方あるまい。ま、人を捨てても人生を楽しむには支障ない。多少不自由になるだけだ」

 青年が闘いの最中、老人が王にされた事を思い出し問い掛ければ、老人は肩こりに悩む一般人のように首筋を手で撫で、笑いながら答える。

「―――ふぅ、聞いて損した。殺されても死なないとは思うけど、生きてたらまた酒でも飲もうよ」

「お主から誘ってくるとは……少しは強くなったのか?」

「そんな直ぐに体質は変わらないって。俺がアルコール殺しても怒らないなら、ゼルにも勝てると思うけど……」

「……思うのだが、酒から酒精を抜いて飲む事の何が楽しいのだ?」

「そういうのって、飲める人間の言い分だよ」

 暢気な掛け合いを楽しみつつ、老人は超常の力を使って、ふわりと空に浮き上がる。青年も、二人のやり取りを睥睨していた王へと向けて、歩みを進めた。表情には悲壮感など欠片もなく。子供のように無邪気な笑みすら覗かせて。

 何処までも気楽に、笑い楽しみながら、死地へと赴こう。

 闘いの結末?

 それは、いまだ夜空を飾る月だけが知っている。


 ……念の為に言っておきますと、おまけは本編とは関係ありません。設定の事など考えても居ません。ただ妄想の沸くままに書き綴っただけです。変な部分が目に付いても、どうかお見逃し下さい。億が一にも好評なようでしたら、VS朱い月も書いてみたい……かもしれません。大変そうだから微妙ですが

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