黒い種 キラ君奮闘？物語
第４２話 禁断の一言
「「キラ様（さん）！！」」
「うわっ！」
大気圏を抜け、アークエンジェル、ミネルバと合流を果たしたキラ。
格納庫に降り立った瞬間、待ち構えていた２人の少女に押し倒されてしまった。
勿論ラクスとメイリンである。
目に一杯涙をため、愛する者の帰艦を喜ぶ２人。
「２人とも、心配かけてごめんね」
そんな２人の頭を撫でるキラ。
すでに彼の心は悪魔から愛と慈しみに満ちた天使へと変わっている。
「いいんです・・・キラ様が無事なら」
「でも・・・あんまり無茶しないでくださいね」
キラの胸に顔をうずめる２人。
とても幸せそうな表情である。
「さっ、そろそろブリッジに行こうか。
オーブの海域に入るはずだからね」
「「ハイ♪」」
ムギュ！×２
キラの言葉に頷き、それぞれがキラの腕を胸に抱く。
その柔らかくも暖かい感触にキラの思考が、
（２人とも成長したなぁ〜、オーブに着いたら久しぶりに・・・ふっふっふっ）
ちょっと暴走気味になってしまったとか。
実際にキラが暴走したかどうかは定かではない・・・
と、そんなキラ達から遅れること３時間。
マリューたちの乗るドミニオンも無事に地球へと降下してきていた。
彼女たちが降り立ったのは連合軍パナマ基地。
アラスカ本部に次ぐ第二の主要拠点である。
「艦長、大尉、久しぶり」
手続きを済ませ、基地内を歩いていたマリューとナタル。
そんな２人を呼び止める１人の男。
彼の名はムウ・ラ・フラガ。
エンデュミオンの鷹という異名を持つ、
三十路一歩手前のエースパイロットである。
「・・・久しぶりね・・・フラガ少佐」
「・・・相変わらず・・・お元気そうで」
だが、彼の陽気な声とは裏腹に返ってきたのは沈んだ返答だった。
「おいおい、どうしたんだよ２人とも」
予想外の暗さにフラガが尋ねる。
そして尋ねた事を後悔した。
「・・・ここに来る前に再会したのよ」
「・・・最悪最凶の悪魔と」
「・・・・・・」
フラガ硬直。
彼らの中で悪魔の通り名をもっている人物、
否、人間と呼べるかどうかさえ怪しい存在など１つしか該当しないのだ。
「・・・・・・よく無事だったな」
さすがに人生経験豊富なフラガ。
２人に比べて立ち直るのが早い。
「・・・無事と言うわけでもないわよ」
「・・・機密データなどあってないようなものでした」
「・・・・・・アイツ相手に隠せると思うほうがおかしいか」
「「ええ・・・」」
実に哀愁漂う背中を持った３人である。
過去の悪夢が走馬灯のように甦っているのだろう。
「・・・まぁ、彼には感謝しないといけない点もありますけどね」
「・・・新造戦艦を奪われたにもかかわらず不問、しかも昇進ですからね」
「・・・一体何なんだろうな、アイツは」
ここで補足説明
何故マリュー達が昇進して、しかもドミニオンの艦長をしているのか？
疑問に思われた皆さんも多数いると思われたでしょう。
ですが理由は単純、勿論キラの暗躍である。
アークエンジェルを奪った当時、キラ君にはまだ本のかけら程だが
仲間以外の他人を思いやるという心が存在した。
このままではマリュー達が酷い目にあってしまう。
と、騒ぎの張本人である事を棚にあげて色々と策を巡らせた。
何をしたかというのは挙げたらきりがないために明記しないが、
彼らの失態を追及するはずの査問委員会の場で、
「今回の事は一切不問とする」
と言う一言で終わってしまった。
しかも翌日には昇進と言う辞令が届けられたのである。
その先は語るまでもないであろう、以上。
「・・・ところでフラガ少佐、ここで補充されるパイロットというのは？」
これ以上は危険と判断したのか、ナタルが話題を変える。
「・・・ああ、優秀なパイロットだぜ」
という言葉とは裏腹にフラガの表情は沈んでいる。
「どうかなさったのですか？」
「・・・会えば解るさ」
それだけ言うと、踵を返して歩き始めるフラガ。
慌てて後を追うナタルとマリュー。
「あの坊主に比べればマシだが、それなりに凹むぞ」
「「？？？」」
そう呟くフラガ。
その言葉に首を傾げる２人。
だがこのあと、彼女達はその真意を知ることになるのであった。
「「・・・・・・」」
目の前の光景を呆然と眺めるナタルとマリュー。
彼女らがいるのはブリーフィングルーム。
そしてそこに集められているのは５人のパイロット。
そこまでならば何の問題もないのだが・・・
「「「「「・・・・・・」」」」」
やれウォークマンだのゲームだの小説だの・・・
５人が５人見事なまでに自分勝手なことをやっている。
「オマエら、真面目に聞け！！！」
フラガが怒鳴る。
だが、彼らは一瞥するでもなく各々の事に没頭している。
「・・・フラガ少佐、これは？」
「・・・こいつらが補充パイロットなんだよ」
思わずよろめくナタル。
彼女ほどではないにしろ、マリューも頭を抱える。
「・・・これが軍人ですか？」
「何でも対コーディネーター用のエリートとかで、
多少のことは多めに見てやれってさ」
「多少のことといっても、これはあまりにも・・・」
と、３人が話し合っているところに１人が近づいてきた。
「オッサン、いつまでここにいなくちゃいけないんだ？」
少年の名はオルガ・サブナック。
一応この５人の中でリーダーである。
（理由としては一番真面目、といっても他の４人とドングリの背比べ）
「貴様！上官に向かってなんと言う口の利き方だ！」
いくら丸くなったといってもやはり根は軍人のナタル。
彼女にしてみればこんな態度は許されるものではない。
だがここで、オルガの口から恐怖の単語が飛び出した。
「ん、何だこのババアは？」
「・・・・・・」
年齢に敏感な女性にとって、（四捨五入したら三十路になってしまう女性は特に）
言ってはならないその単語。
おばさんを通り越してのババア。
いくら彼らに特例が出ているとしても、それとこれとは話が違う。
「どうしたんだよ、オルガ。
あん？見慣れないババアがいるな」
「・・・ババア・・・ウザい」
「アウル、何かババアがいるぜ」
「ん、そうだな」
さらに追加攻撃を加える残りの４人。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ！！！！！！
何やら地鳴りが聞こえてきた気がする。
その中心にいるのは１人の女性。
「ちょ、ちょっとナタル！落ち着きなさい！」
事態を予見したマリューが止めに入る。
しかし、
「どうしたんだババア。黙りやがって」
誰かが放ったその言葉。
途端に膨れ上がるナタルの威圧感。
ナタルの肩に置かれていたマリューの手が思わず離れる。
「・・・フラガ少佐、ラミアス艦長」
「「は、ハイ！」」
地獄の底から聞こえてくるようなその声に竦みあがるフラガとマリュー。
直立不動で硬直する。
「・・・彼らは私たちの管轄になるんですよね？」
「そうであります、副長！」
「・・・という事は当然新人教育も私たちの仕事ですよね」
「勿論であります、副長！」
「「ではフラガ少佐、ラミアス艦長、少しの間外に出ていてください」」
「ハッ、了解いたしました！」
そのままロボットのような動き（超高速）で部屋を出て行くフラガ。
それに続いて無言のまま出て行くマリュー。
そして残ったナタルはゆっくりと視線を上げる。
「・・・・・・貴方達に教えてやろう、この世の常識ってものをな」
「な、なんだよ、この・・・ババア」
今までに感じたことのないえもいわれぬ圧力にビビるオルガ。
ならびに後ろ４人。
しかし、もう遅かった。
「・・・・・・覚悟しろ」
それから一晩、ブリーフィングルームの扉が開かれる事はなかった。
ただ、翌日の朝にその部屋から出てきた５人の少年が開口一番に、
「「「「「おはようございます！フラガ少佐！ラミアス艦長！」」」」」
と士官候補生張りの大声で礼儀正しく挨拶したとかしなかったとか。
そして同時に出てきた１人の女性が、
「なかなかマトモになりましたよね？」
と、妖しく微笑んだらしい。
以後この基地では、
『バジルール大尉には逆らうな』
と言う指示が密かに出回ったそうな。
あとがき
主役はナタル？な一話です。
多くは語りません。
次回はキラくん重視に戻ります。
タイトルはズバリ、
『企業マン ＶＳ 黒き帝王 前哨戦』
それでは次回をお楽しみに。
一応金髪の男はフラガさんです。
アズラエルは次回登場です。
ですが、しばしの間彼にはメインで頑張ってもらいます。
帝王と戦ってもらわないといけませんからね。
マリュー、ナタル、フラガらの昇進の理由は本編の通りです。
いわゆるご都合主義ですな（笑）
皇 翠輝様・ユン様・ｙｕｕｋｉ様・D,様
レスありがとうございました。