*注意書きが居るほどではないかもしれませんが、多少ダークやバイオレンスが入っていますのでご注意ください。
「この街に吸血鬼がいるなんて信じられないな」
夜、吸血鬼がその行動を行なう時間帯。浩之はセリオと共に見回りにでていた。しかし、街は平和そのものでとても凶悪な化け物が潜んでいるとは思えなかった。
「油断してはいけません」
「そりゃ、わかってるけどよお。それにしても、こんなふうに適当にぶらついてるだけで見つかるのか?」
耕一とルミラ組、そして浩之達の3組で範囲を分担して見回る事になっている。とはいえ、それでも街はそれなりに広い。相手がどんな所に現れるのかもわからず、見つかるのかと疑問に思う。
「はい。そこで、このようなものがあります」
そこで、セリオはひし形のペンダントのようなものを取り出し、説明を始める。
「これは、魔力を感知する道具だそうです探索範囲は狭いそうですが、耕一様やルミラ様は魔力を感知できる力があるそうですし、3組に別れて探せば発見率は低くないかと」
するとペンダントがグルグル回り始めた。
「これって、もしかして反応してるのか?」
「・・・・そのようです」
浩之の問いかけにセリオが彼女にしては珍しく戸惑ったように言う。それを不思議に思いながら尋ねた。
「それで、これはどっちに居るって事なんだ?」
「芹香様は魔力を感知し、その方向を指し示すそうなのですが・・・・」
ペンダントはグルグルまわっている。とてもどこか一定の方向を指し示しているようにはみえなかった。2人の間に沈黙が落ちる。
「これ、もしかして、壊れてるのか?」
「その可能性が23、2%、他の可能性としては耕一様やルミラ様を含め、探索対象が複数混在している等の理由で磁場が乱れたような状態になっているというところでしょうか?」
「・・・・・それって要するにどう言う事だ?」
「富士の樹海に磁石を持ち込んだようなものだと思っていただければわかりやすいかと」
「・・・・意味ねえ」
浩之がぼやく。しばらく途方にくれた後、まあ、仕方がないかと思い、気を取り直した。
「まあ、近づいたりしたらもっとはっきり反応したりするかもしれないしな。何とかなるだろう」
「はい、私も集音センサーなどを駆使し、努力いたします」
そして、二人は歩き出す。それから彼等は繁華街の辺りを中心に探索を開始した。
「何か、こうして歩いてるとデートみたいだな」
1時間程、探索を続けた頃、何事もなく緊張感が薄れてきた浩之がそうからかうように言う。それに対し、セリオが不思議そうな顔をした。
「デートですか?綾香お嬢様や芹香様、あるいは神岸様などが相手ならばともかく、私、相手には不適切かと」
「そんな事ないぜ。セリオはかわいいからな」
「そうですか。うれしいです」
浩之が冗談半分に褒める。すると、無表情で返してくるかと思ったセリオがかすかに笑ったのだ。
「なっ!?」
予想外のリアクションに動揺する浩之。すこし顔を赤くして慌てる。
「セ、セリオお前、今、笑ったか?」
「はい、どうやら、そのようです。長瀬主任の話では、マルチさんほどの高レベルのものではありませんが、私にも感情を構築するAIと学習機能が組みこんであるそうですから。おそらく、それが育ってきたのだと思います」
「そ、そうか・・・・」
動揺する浩之。だが、その時、突然、真剣な顔つきになった。
「どうかしましたか? 浩之様」
「セリオ、例のペンダント出してみてくれ」
その変化に気付いたセリオが問いかけると浩之は真剣な表情のまま答えた。そして、言われたままにセリオがペンダントを出すと、路地裏の方を指してペンダントがふらふらしている。それを見てセリオが驚き、尋ねた。
「どうしてわかったのですか?
「何となく嫌な感じがしたんだよ。ラルヴァと戦った時みたいな感じだ」
答え、ゆっくりと路地裏へ入っていく。そして、そこを奥に進んでいくと、そして路地を曲がった先に3人の男がいた。
「何だあいつら・・・?」
何か、変な感じがする。その男達を見てそう思った。
「浩之様、この人達は心臓が動いていません」
その時、何気なくセリオが言ったその言葉に浩之はその意味を瞬間、理解できなかった。そして、声を絞り出すように言う。
「・・・・どういう・・・ことだ?」
「彼等は“死者”と言う事です。死徒に血を座れた人間は死なずにこういった操り人形となると芹香お嬢様から聞きました」
「じゃあ、あの人達はもう死んでるっているのかよ・・・・」
「はい」
浩之が呆然と呟く。命のやり取りは知ってる。ラルヴァ等との戦いでも死に掛けた事は何度もあった。だが、ラルヴァとの戦いでは仲間が死ぬ事もなかったし、他者の死を見る事もなかった。目の前の事実に、浩之は始めて自分の受けた事の重みを知り、恐怖を感じた。
「ゆるせねえ」
だが、同時に怒りも浮かんでくる。人を殺して、あまつさえ、死後も操り人形として操る。それをした吸血鬼と、楽観的な気分でそれを止められなかった自分自身に怒りが湧いてくる。
「セリオ、あの人達を助ける方法はないのか?」
「先程、浩之様ももうされたように彼等は既に死んでいます。できる事があるとすれば、彼等を安らかに眠らせてあげる事ぐらいかと」
「そうか・・・・・」
一抹の期待を含めの問いかけに対するセリオの答えに消沈する浩之。そして、その時、“死者”の一人が浩之達の方を振り向いた。
「!!」
反射的に構えようとした浩之。だが、それよりも早く“死者”は浩之の元に飛びかかった。
「浩之様!!」
飛び掛る死者に対し、セリオが腕を向けた。そして、服の合間から銃口が滑り落ちる。
ズガアアアン
そして、その銃口から発射された銃弾が“死者”の頭部に命中し、破裂させる。その肉片が飛び散り、浩之に降りかかった。
「うげっ」
嫌悪感と恐怖感から呻きをあげる浩之。だが、その間にもさらに2人、いや2体、“死者”がセリオと浩之に一体ずつ飛び掛ってきた。
「くっ」
今度は反応が間に合う。そして、同時に浩之は自分の身体に力が湧いてくるのに気付いた。
「喰らえ!!」
腕を振るい浩之に殴りかかろうとした“死者”に対し、浩之は葵を模写し、カウンターで崩拳を放った。その一撃は強烈で、吹っ飛ぶ死者。そして、浩之は更に追い討ちをかける。
「おりゃあああ!!!!」
地面に倒れた“死者”に対し、頭部に対しとび蹴りを放つ。全力の蹴りと地面とに挟まれ、陥没する頭部。しかし、それでも、まだ“死者”は完全に死滅しなかった。その状態にも関わらず、起き上がって飛び掛ってこようとする。
「うわあああああ!!!」
浩之は相手に対し、馬乗りになってそれを防いだ。
そして、拳を振るう。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る
模倣を使う事もなく、拳の皮がすりむけ、血がにじむのもかまわず、ただひたすらに地面とサンドイッチにして頭部や胸を幾度となく叩き続ける。そして、やがて死者は停止し、彼の目の前で灰に変わって行った。
「はあ、はあ、はあ・・・・」
息をつく浩之。そのまま地面に座り込む。気がつくと先程被った肉片も灰になって消えていた。目の前の光景は“死者”となるとは本当に人間として死ぬ事なのだと彼に教えた。そして、“死者”を殴った腕や足には嫌な感触が残っていた。
「お怪我を治療します。浩之様」
その時彼の後ろからセリオが声をかけた。“死者”の姿は無い。どうやら、最後の一体も彼女が倒したようだった。
「セリオ・・・・・・」
浩之は座り込んだまま、視線すら向けないまま言った。
「俺は今、すごく嫌な気分だぞ。だから、もう、こんな事したくないし、こんな事をさせた奴を許さねえ。もう、あんなのを生み出させたりしねえ。その前に、死徒って奴を見つけてぶった倒す」
「はい、お手伝いします」
わめきちらすように言った浩之の決意の言葉。それにセリオは頷き、答えた。
(後書き)
あまり月姫キャラがでてませんが、次からはどんどん出番が多くなっていく予定です。
To Heart系のキャラはしばらく出番が無いです。この話はカオス・ロア編、平穏編、××編の3部構成で彼等は平穏編からでてくる予定です(続けばですが)