「ちぃーす、藤田浩之です。よろしくお願いしまーす」
芹香に吸血鬼の事を聞かされて数日後、さっそく三咲町に越してきた浩之はHRの時間転校先の新しい学校で挨拶をし、そして指定された席に座った。
「よっ、よろしくな」
すると、早速隣の生徒が彼に話しかけてきた。オレンジ色の髪の一見不良のような奴だったが、自分自身目つきが悪いなどと言われる事がある所為か、外見にはあまり気にしない浩之は気軽に受け応えした。
「おう、よろしく」
“まあ、俺は長くて一月位しかいないんだがな”心の中で手を振る。すると彼の目に、オレンジ色の髪の奴の斜め後ろに座る黒髪の眼鏡の生徒に目が入った。
(・・・・なんだ?)
その一見、人畜無害そうな生徒を見た瞬間、浩之は一瞬、危機感のようなものを覚えた。ラルヴァとの戦いの時やエクストリームで強い相手と試合をした時に感じた殺気にも似た、しかし違う何か。それをとてつもなく鋭くしたようものをこちらを向いてすらいない相手から感じたのだ。
(まっ、気の所為か)
しかし、感じたのは一瞬だったので、すぐ興味を無くす。HRが終わり、授業が始まる。授業範囲は元の学校とほとんど苦労することもなく、そして昼休みを迎えた。
「よっ、藤田、一緒に飯でも食おうぜ」
HRの時間に声をかけてきた隣の生徒、乾有彦が浩之を誘ってくる。特に断る理由もなかったので、浩之は応じた。
「志貴、お前も付き合うよな。食堂いくぞ」
そして、黒髪眼鏡の少年、遠野志貴を誘う。それを見てこの二人は友人だったんだな、と思う浩之。
「わかった」
志貴は軽く答え、そして浩之の方を向いて言った。
「遠野志貴だ。よろしくな」
「おう」
そして、軽く挨拶をかわし、食堂に向かう。そして注文をすませると適当な席を見つけ、座ると、その前に一人の少女が座った。
「相席してもいいですか?」
眼鏡をつけた少女。その少女を見た瞬間、外見的には特に共通項もないのに、浩之は何故か芹香に似ていると思った。どちらもどこか神秘的というか、世離れした感じがするのだ。
「あ、シエル先輩!! 勿論ですよ。大歓迎です!!」
勢いよく答える有彦。志貴も軽く笑顔を浮かべ答えた。
「ええっ、もちろんいいですよ、シエル先輩」
(先輩って事は3年か)
似てると思ったのは二人とも年上だったからかと思う。そしてシエルは浩之に目をやって尋ねた。
「えーと、会うのは初めてですよね。遠野君と乾君の友達ですか?」
「あ、こいつ、転校生の藤田つーんですよ。隣の席になったんで、せっかくだから交流を深めようかと思って誘ったんす」
浩之の代りに答える乾。遅れて浩之が挨拶する。
「うっす。藤田っす」
ぞんざいな挨拶だったが特に気にした様子もなく微笑んだ様子で答えるシエル。
「そうですか、始めまして。私はシエルと言います。学年は3年で藤田君達より一つ上ですね。よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ」
答え、そして浩之は手元のカツカレーを食べようとする。だが、それを見てシエルの目が光った。
「藤田君、カレー好きなんですか?」
「へっ? え、ええ、まあ、好きっすけど」
特別と言う程ではないが、一応好物ではあったのでそう答える。
「そうですか、そうですよね」
その答えを聞いて満面の笑みを浮かべ、うんうんと頷くシエル。見ると彼女の手元にあるのもカレーがあった。
(俺って美人と縁もあるけど、変わり者とも縁があるんだな)
そんな彼女を見て浩之はそんな事を思った。
そして、放課後校門を出ようとした浩之の目に付く姿があった。
「浩之様、お迎えに上がりました」
そこにセリオの姿があった。彼女は現在、浩之と一緒に芹香が用意したマンスリーマンションに住んでいた。
そして、それを見て浩之と一緒に校舎をでた有彦が驚いた顔をし、志貴も興味深げに見た。
「おい、あれ、メイドロボだよな。藤田、おまえ、ブルジョワだったんだな」
「いや、セリオは別に俺のもんって訳じゃなくて、借りものつーか、預けてもらったつーか」
有彦の言葉を否定する浩之。そして、セリオの元に駆け寄った。
「セリオ、迎えに来てくれたのか。サンキューな」
「いえ、あちらはご友人ですか?」
「んっ、まあ、そうなもんだな。まだ、あって一日しかたってないけど」
セリオは浩之の言葉に受け応えをすると、セリオは有彦の方を見て言う。浩之がセリオに教えようとする前に有彦が身を乗り出した。
「俺、乾有彦、よろしくな、セリオちゃん。いやー、それにしても最近のメイドロボってほんと人間そっくりだな。耳のセンサーがなきゃ、見た目じゃわかんねーわ」
感心したような様子の有彦を志貴は呆れたような目でみた後、セリオの方を見て挨拶した。
「俺は、遠野志貴、よろしくな、セリオ・・・でいいのか?」
呼び方を確認し、それに対し、セリオは頷き、挨拶を返した。
「はい、それで結構です。乾様、遠野様、浩之様をよろしくお願いします」
「くぅー!! 乾様だってよ。いいねえー、見た目かわいい女の子にそんな事言われるとなんつーか、こう背徳的な気分になるな。俺もメイドロボ買おうかなー!」
興奮した勢いを見せる有彦に今度は浩之も呆れた様子を見せる。そして、有彦の興奮も覚めた頃、彼等は別れ、帰る事にした。
「んじゃあな」
「おう、また、明日な」
お互い反対方向に歩き出す。そして、マンションに帰りついた浩之はセリオの作った夕食をとり、そして夜を迎えた。
(後書き)
次回からいよいよ戦闘シーンが出てくる予定です。
ところで志貴と有彦の席位置ってどうなってましたっけ?