「うー、いてえ」
死者と戦闘をした次の日、両手に包帯を巻いた浩之は傷の痛みに顔をしかめながら学校への道を歩いた。戦っている間はアドレナリンが分泌されていた為痛みは感じなかったが死者を素手で殴り殺した代償として拳の皮がずるむけだった。
「はあ、耕一さんにでも模せれば、こんな傷一発で治るんだろうけどなあ」
昨日の戦闘で気付いたのだが、どうやら、ただ異能者と遭遇するだけでその力の全てが解放されるという訳ではない事がわかっていた。
自分の力を意識した所為か自分がどの程度まで模倣できるのかわかるようになり、昨日の時点では精々技術を真似る程度が限度だったのである。
「どーすりゃ、もっと、使えるようになんのかねえ?」
特殊能力も、超越した技術も持たない人間が素手で勝てる限界は精々死者一人である。セリオの力があれば、それでも何とかなるだろうが、もっと強い相手が出たら不安だった。
(セリオに何か武器でも用意してもらうかな・・・)
浩之がそんな事を考えながら歩いていると、彼に話しかけてくるものがあった。
「よお、藤田」
「んっ、ああ、遠野か」
それは志貴だった。そして、彼は浩之の手に、正確にはそれに巻かれた包帯に目をとめる。
「それ、どうしたんだ?」
「ん、別に対した事じゃねえよ」
適当にお茶を濁す浩之。志貴も特には追及してこなかった。そしてその後、適当に二言三言かわし、二人は学校に着いた。そしてその日の昼休み。
「ねえ、遠野君、夜中に街を出歩いてるって話を聞いたんだけど」
浩之が転校してきたクラスのクラスメート、弓塚さつきがそう言って志貴に話しかけてきたのだ。
内容が内容の為か言い辛そうにもじもじしている。だが、浩之はそんな彼女を見て、それ以外にピンとくるものがあった。それを確かめる為、有彦に小声で話しかける。
「なあ、乾、もしかして、あの娘、遠野に気があるのか?」
「おっ、わかるのか?」
「そりゃあな。遠野見て顔真っ赤にしてるし。けど、もしかして、遠野の方は気付いてないのか?」
「ああ、うちのクラスのほとんどの奴が気付いてるってーのに、あいつ本人がさっぱり気付いてないんだよ」
「あー、そりゃあ、ひでえな。鈍感すぎるだろ、そりゃ」
彼をよく知るものに聞かれたら、お前がそれを言うか?っというような事を話しをしている浩之達の横で、さつきの想いに全く気付いていない志貴は彼女と受け応えをしていた。
「別にそんなことはしてないけど・・・・」
「本当?」
「ああ、本当だよ」
「そっか、よかったあ」
志貴の言葉にほっとした様子のさつき。
「それじゃあね、遠野君」
挨拶をして去っていく彼女、その意図がまったくわからず首を傾げる志貴。浩之と有彦やれやれっと言った感じでそれを見た。
「それじゃあ、そろそろ行くか」
「はい。それで、これが用意しておいた武器です」
「おっ、用意できたのか!」
深夜、見回りに今日もまた、見回りの時間がやってきた。その浩之にそう言ってセリオが武器を渡す。それは一本の西洋剣とメリケンサックだった。
「・・・・何か、これ古くねえか?」
剣を抜いた浩之がそう呟いた。その剣は錆びなどは浮いておらず、よく手入れてはあるが、所々に古臭さが漂っていた。
「死徒には年代を積んだ武器が有効なのです。人の想いが積み重なった武器は神秘となり、概念武装と呼ばれます」
それを見てぼやく浩之にセリオが説明する。それを聞いて浩之は感心したように頷くとメリケンサックの方を見た。
「へー、じゃあ、こいつもそうなのか?」
「はい、それは西部開拓時代から用いられてきたものだそうです。常に覇の者が所有し、先代の持ち主は執務長だそうです」
「執務長て・・・・げっ、あのじいさんかよ!?」
先代の持ち主を聞いて嫌そうな顔をする浩之。そんな彼をセリオが僅かに笑い、彼をなだめた。
「そう、執務長を嫌わないでください。執務長は浩之様の事をお認めです。この武器も執務長自ら、浩之様に渡すようおっしゃりました」
「あの爺さんが、ほんとかよ?」
疑わしそうにしながら、ま、いいかという感じにポケットにメリケンサックを入れる。
「じゃ、いくか」
「はい。剣は私が持っておきます」
そして、浩之達は夜の街へと繰り出した。
「・・・・いねえなあ」
巡回を始めて2時間、死徒の気配は一向に無かった。
「少し、探索範囲を変えて見ますか?」
そこでセリオがそう提案した時だった。浩之の目に見知った顔が映った。
「あれ?」
「どうかいたしましたか?」
セリオが浩之の様子に気付き尋ねる。それに対し、浩之は首を捻って答えた。
「いや、知り合いが居た気がしたんだけど・・・・。けど、こんな時間にうろつく奴じゃなさそうだしなあ・・」
見間違いか、っと思う浩之にセリオが思案して答える。
「その方は女性ですか?」
「んっ? ああ、そうだけど」
質問の意図がわからず、不思議そうな顔をする浩之。それに対して、セリオは即決した。
「それでは、急いで追いかけましょう。浩之様が女性の顔を見間違えるとは思いません。今は危険な時ですし、家に帰した方がいいでしょう」
「・・・・おい、セリオ、お前、俺の事そんな風に見てたのか?」
セリオの答えにジト目で睨む浩之。セリオはそ知らぬ顔。
「それよりも、早く追いかけましょう」
「くっ、わかったよ!!」
セリオの反応にがっくりした後、半ば自棄になったように答えた浩之は“彼女”が行った方へと足を向けた。そして、浩之はこの時の事を後悔するようになる。何故、直ぐにおいかけなかったのか。つい、先日、決意をしたばかりだったというのに。
「えっ?」
「ペンダントが反応してる!?」
“魔の気配”に反応するペンダントが先日の死者との遭遇の時とは比べ物にならない位強く反応し始めた。慌てて走る浩之とセリオ。そして、その先にあったものは・・・・。
「ゆ、弓塚・・・・?」
白髪の男に血を吸われるクラスメートの姿だった。
(後書き)
随分、間が開いてしまいました。
まあ、期待してくれてる人もほとんどいないと思いますけど、ちょこちょこ公開していきますんで、よかったらお付き合いお願いします。
PS.ところでさつきの志貴の呼び方って吸血鬼なる前が遠野君で、なった後、志貴君だったと思うんですけど、これであってましたっけ?
西洋剣
中世から伝わる西洋風の長剣。かなり重いので模倣をしてない浩之では扱えない。概念武装としてはそこそこ強力で物質的にも切れ味を残している。
血に濡れたメリケンサック
作られたのは100年以上前、様々な人手に渡り、血を染まって赤くなったという筋金入りの一品。先代の持ち主は現在、来栖川家に使える元ストリートファイター(笑)