「がはっ、ぐ、はぁ、はあ・・・・・・」
和樹は荒く息を吐きながらよろよろと立ち上がった。
ビチャリ、ボタタタッ
口から吐き出した血の立てる不快な音に表情を顰めながらも、カイゼルブレイドを手に正面を見据える。
その表情は時折苦痛に歪むが、その原因は先ほどの一撃に加え、あの激痛がぶり返し出したからであった。
『くっそ、痛みで意識が飛びそうだ・・・・・・でも、おかげで原因が分かった・・・となると、こっちはこれ以上使えないか・・・・・・』
心の中でそう呟くと、和樹は左手にぶら下げていたファイアブランドを自分の中にしまい、カイゼルブレイドを両手で構えた。
(((!!?)))
意識の繋がっている三人の困惑が伝わるが、和樹はそれを意に介さず、何の表情も浮かべずにさっきまで自分の居た所に立つシルマールを殺意を込めて睨みつける。
樹・石
〔樹術、ニードルショット。〕
それに応える様にシルマールは数多ある術の中でも特に速射性に優れる術を放ち、それが戦闘再開の合図となった。
「ッ!?」
カッカッカッ、ドンッ
背後から襲った石術、マグマプロージョンを和樹は横に跳んで躱す。
「ああ、くそっ、こっちはまだ傷の痛みが引いてないってのにそんなバカスカバカスカ撃って来んなあっ!」
術師がシルマール一人になったのにもかかわらず、和樹は劣勢を未だ覆せずにいた。
ヴァンアーブルが倒れた事で、飛んでくる術の数はその前の半分近くに減っていたが、今は兵士達との的確な連携でその穴を埋めているのだ。
いや、威力の高い術の連発によって多数の巻き添えを出ていた以前と比べ、今は殆ど被害を出していない事を考えると格段に効率良くなっていると言えるだろう。
対する和樹は両手持ちに変えて剣の振りは鋭く速くなったが、[真名開放]による消耗の上に未だ収まらぬ痛みにさっきのダメージ、加えて大軍を相手にし続けて蓄積した疲労、躱しきれずに受けた無数の傷と満身創痍もいいところである。
そして、何より厄介なのが——————
集中・水・パンチ
〔氣術、雷光拳。〕
ヒュゴッ
「ぅおわっ!」
気付かぬうちに接近して、あの特殊な技を使ってくるシルマールの存在であった。
威力は自分の体で実証済みのうえ、アニマというものを熟知しているシルマールが本気で気配を消して攻撃してくるのだから躱し難くやり辛い事この上ない。
『このままじゃいずれ殺られるな・・・・・・』
和樹は躱した時に掠ってチリチリになった自分の髪を見て、打って出る決意を固めた。
スゥ・・・・・・
式森の家に伝わる[紅いサソリ]の暗殺術で姿を認識できなくし、包囲の間をすり抜けシルマールを探す。
『拙い、そろそろ姿を隠しきれなく・・・・・・居た!!』
技の継続時間の限界がすぐそこに迫る中、和樹はひしめく鎧の中に一際目立つ後姿を見付け—————
『これで、終わりだ!!!』
その後ろに付けると同時に、必殺の一撃を繰り出すべく剣を大上段に構え、振り下ろすべく力を込めた。
—————実際、和樹に全く気の緩みが無かったかと言えば嘘になるだろう。ようやく決着までの道筋が見えた事を考えれば仕方ない事だったのかも知れない—————
—————だが、だとしても余りにも迂闊だったと言わざるを得まい、今相手にしている男が何を以って伝説となったかを失念していたと言う事に他ならないのだから—————
ゴォンッ
「・・・え?」
一瞬、和樹は何が起きたか理解できなかった。
と言ってもそれはホントに一瞬の事で、その剣が地面に深く突き刺さる頃には、振り下ろし始めの所を裏拳で弾かれその軌道を逸らされた事を理解していた。
何故?という思考が浮かばなかったのは、ひとえに三人によって戦場の鉄則を骨の髄まで叩き込まれていたおかげだろう。
それ故に最早死そのものと化して迫るシルマールの右拳を直視する事となり、それを前に和樹の脳裏に浮かんだのは唯一つ。
『こんな終わり、納得なんか出来るか!!!』
ドゴォォォォォォン!!!
爆炎と煙が辺りを包み、やがて収まったそれの中から現れたのは—————
(((「・・・・・・・・・え!?」)))
其処に在ったのは、体の右半分を吹き飛ばされたシルマールと、炎のアニマを纏った左拳を突き出したまま自分のやった事が信じられず呆然としている和樹の姿だった。
〔まさか、同じ技で相殺したってのか?〕
〔馬鹿な、ラーニングしたとでも言うつもりか!?シルマール師があの技の開発にどれだけ時間を費やしたか、お前だってよく知っているだろう!!?〕
〔それはそうだが、そうでもなければ説明がつかないぞ?〕
〔さっきのは炎の技でしたよね・・・ひょっとして炎識の魔眼で・・・・・・〕
〔!?それならば確かにありえなくも無いが・・・あの至近距離からの攻撃相手にそんな事が可能なのか?〕
和樹はそのやり取りを自分の中で反芻しながら、徐々に自分のやった事を理解し始めた。
なるほど、確かにシルマールが氣術と呼んでいた内の炎の技を使えるようになっている。それどころか、これならちょっとした応用でほかの氣術も—————
ドサッ
「うおっ!?」
倒れてきたシルマールを体で受け止めた和樹は、既に崩壊を始めたその体を離そうとその肩を掴むと・・・・・・
—————王の血に連なりし強き子よ、このチカラが貴方の願いを貫く助けとならんことを—————
そんな声が聞こえたかと思うとシルマールリオンが光を放ち、それが収まった時にはもうその姿は消えていた。
消えるその瞬間、感情など持たされていなかった筈の彼の横顔が笑っている様に見えたのは、ただの和樹の錯覚だったのだろうか?
ザッ
思考に沈みかけた和樹を、再び周囲を取り囲んだ兵士達の足音が現実に引き戻す。
即座に剣を構え直そうとする和樹。しかし・・・・・・
『ぐ・・・左手が・・・・・・』
さっきの一件のせいかまともに動かなくなってしまった左手を諦め、右手一本で剣を正面に構える。
当然敵はそんな事お構いなしに五、六人で一斉に襲い掛かる。
誰もがこれで終わり、そう思った。だが・・・・・・
ズパンッ
「・・・・・・・・・あれ?」
ただ咄嗟に振るっただけの筈の和樹の剣は、一太刀で迫る兵士達をいとも容易く薙ぎ払った。
自分のやったことを理解できないでいる和樹に、好機と見た兵士たちが次々と襲い掛かるが、和樹の剣はそれらを今までからは考えられないくらい軽々と屠っていく。
やがて、和樹はポツリと呟いた。
「・・・・・・そうか・・・解った。」
瞬間、和樹の剣氣がガラリと変わる。
圧倒的な威圧感。
それに当てられ動きを止めた兵士達は、その時になってようやく自分達の数がさっきまでの半分程度にまで減っている事に気付く。
だが、時既に遅し。
ビカン
半分イメージの世界であるが故に具現化された電球マークが和樹の頭上で輝き—————
「こっちの体ももう持たないからな、多少無理を押しても—————」
再び取り出したファイアブランドをハンカチで左手に縛りつけて構え—————
「一撃で決めさせてもらう!」
フォン
和樹の姿がその場から掻き消え—————
ズパパパパパパパパァンッ
無数の光条が奔ったかと思うと、
フォン
「双剣絶技、無影尽葬!」
ドンッ
姿を現した和樹が技の名を告げ両手の剣をしまうと同時に、その超高速の動きにより発生した衝撃波が切り刻まれた残り全ての兵士達を吹き飛ばした。
そこまでは良かったのだが・・・・・・
「ぐげっ!」
ついでにそれは無理をしすぎた和樹をもまとめて吹き飛ばし、そこで遂に和樹は意識を手放してしまった。
〔・・・やれやれ、最後の最後でなんともまあ、勝ったとは言え随分と締まらない終わり方だな・・・・・・〕
〔ま、まあそう言うなってケルヴィン、追い込まれてからは相変わらずの凄まじい成長振りも見せてくれたんだし、今回は[明鏡止水]の境地にまで至ったんだ、このくらいは、な?〕
〔でも、和樹がこれまでに掛けた時間を考えると、いくら他にも色々教えたとは言えどう考えても遅過ぎるんですけどね・・・・・・〕
〔そりゃまあそうなんだが・・・こればっかりは才能に拠る所が大きいからな〜・・・それよりもさっきのあれ、一体どうしたんだ?今まで技を使ったくらいであんなふうに痛みを訴える事は無かったのに・・・・・・〕
〔さてな、和樹は何か気付いていた様だったが・・・まあ、明日になれば紅尉に聞きに行くだろうし、そうなればはっきりするだろう。〕
「やばいやばいやばいやばいぃぃ〜!!」
あの後暫くして和樹は眼を覚まし、急いで部屋に戻って今は朝の六時。
十分早い時間のはずだが、沙弓との約束+前に聞いたリクエストに応える為それなりに手の込んだ弁当を作らなければならない上、昨日は丸一日寝ていたせいで仕込など一切無しの状態、そこからそれを作るのは至難の業と言えた。
「材料は・・・だめだ、どうやっても一人分が精一杯だ・・・あああ、こんな事ならもっと大量に買い込んどくんだったー!」
余りにテンパり過ぎて考えている事が独り言になって駄々漏れている事にも気付いていない。
そんな状態でもその動きは熟練の料理人のそれであるのは流石と言うべきか。
だがどれ程手早くかつ見事に調理をこなせた所で人の身で時間と言う無慈悲な絶対者に勝てる筈も無く、時計の針は刻々と進んでいき、和樹に犠牲を強いる。
「時間は・・・ゲッ、もうこんな・・・仕方ない、朝飯は諦めるしかないかぁ、はぁ・・・・・・」
どうやら彼が式森和樹である以上、どうやっても二枚目キャラには成れないらしい。
そうして和樹は右手に学生鞄、左手に力作の弁当、そして空きっ腹を抱えて学校へと向かった。
尚、早くに起きて和樹が部屋に居ないのに気付き仕方なく一人で登校した夕菜に、大挙して纏わり付いた男子生徒(主に二年B組、しかもB組に限っては女子も混じっていた)に校門の所で出くわした和樹が、その余りの鬱陶しさに空腹から来るいらつきも相まって通りすがりの弓道部員から弓をひったくって物陰からアローレインをかました(勿論夕菜には当てなかったが)のは全くの余談である。
更に余談としてB組生徒の一人、演劇部部長の中田一子がこの事件を元に「緑門に矢の雨は降るか」と言う題名の脚本を後に書いたとか書かなかったとか。
あとがき
まずは非常に間が空いてしまった事をお詫びいたします。
今回の事ではっきりしました、少なくとも自分には文章を短くまとめる才能は無いようです。
この辺の話は今の和樹の実力がどの程度のものなのかとそこに至る大まかな過程を描くと共に、多少の伏線を交えると言う外せない部分でした。
しかし、だからといって本編からこうも外れてしまっていい筈も無く。
全ては自分の至らなさのせいです。申し訳ありません。
次回からは本格的に原作三話目に入っていきます。面白いものになるよう精一杯書いていきますので宜しくお願いします。
装備固有術:[真名開放](封魔剣カイゼルブレイド)
エッグとの戦いを経て進化を遂げた六つの武器、六大遺宝の力を完全開放する術。
発動の際にその名をキーとする為こう呼ばれるが、名前は同じでも効果は当然ながらそれぞれ全く違う。
同じなのは発動条件と、発動の際の消費のみ。
当然ながら使い手と担い手以外は使う事が出来ず、使い手の方が効力が幾分落ちる。
そのうえ一度使用すると同じものでもう一度使用するのに24時間待たなければならない。
カイゼルブレイドのそれは魔に属する力が一切存在できない空間を創り出し、またその中に居る使用者以外の魔力を持つ者は活動を抑制され、魔力が高い者ほどその影響は強くなるというもの。
空間の展開を止めない限り使用者自身も術等を使えず消耗し続けるが、魔神や魔獣相手にはジョーカー的な強さを発揮する術である。
・威力‐ 消費WP20 JP20 LP1 HP最大値の1/2
・ステータス異常:術、術技、魔法使用不可
・能力値変化:Morale Psycho Quick Defence Magicダウン
双剣術技:龍嵐剣
二本の剣での烈風剣の同時発動による術技だが、こっちは強化と言うより進化型の術技。
二つの烈風がぶつかる事によって使用者の正面に向かい直進する強大な風の渦となって進路上の全てを破壊する。
その際風の渦がどういう訳か東洋の龍のような姿を象る為この名がついた。
強力なものの多い術技の中でも特に強力なものの一つである。
・威力134 消費JP14
双剣絶技:無影尽葬
残像剣の進化型の技。
この話中では明鏡止水に至るとデュエルコマンドが六つまで使えると言う設定になっており、五つ以上のコマンド入力を必要とする技を絶技と呼んでいる。
この技は全体攻撃技の為デュエルコマンドが存在しないが立派な絶技である。
残像剣よりも更に高速になり残像どころか影すら捉えられなくなっており、衝撃波すら伴う。
加えて一撃必殺効果まで付き凶悪極まりない技である。
・威力120 消費WP14
・ステータス異常:一撃必殺
装備固有技:虚刃
カイゼルブレイドの装備固有技でカウンター技。和樹が二人の術を防いだのもこれである。
カイゼルブレイドの外形に沿って発生する魔力無効化フィールド、それを用いた術、魔法用のカウンター技である。
名前の由来は魔法を迎撃する際に飛ばしたフィールドが限りなく不可視に近い刃の形をとる事から。
性能は非常に高く、そこそこの使い手でも魔法を主体とする相手に対しては大抵優位に立てる。
・威力‐ 消費WP‐
・回避性能:30+(剣のスキルレベル*2−敵のスキルレベル)
・備考:担い手は回避性能が30を下回らない。
氣術:雷光拳 集中・水・パンチ
術技の体術版、氣術の中でも基本に位置する技。
とは言え、ほかの術技と同様、なかなかに高性能。
中身はその名の通り、水のアニマに含まれる電撃の属性を含んだパンチ。
体術のローリングサンダーの弱体化版とも取れるが、こっちはJP消費の上ステ−タス異常付きの為、使い勝手としてはこっちのが上かも知れない。
尚、いないとは思いますが、ここに書いた技はあくまでこの話の中だけのものなので、実際のゲームでやってもカスタムアーツにしかなりませんのであしからず。
・威力42 消費JP4
・ステータス異常:マヒ