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「まぶらほ〜双剣のアニマ使い〜第十二話(まぶらほ+サガ フロンティア2)」

b-2nd (2005-07-02 00:03/2005-07-02 14:22)
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 キーンコーンカーンコーン

「時間だな。今日はここまでだ、今日やったところはテストに出すそうだから、各自復習しておく様に。」

 紅尉の去り際のその科白に、二年B組の生徒達は揃って嫌そうな表情をし、「うへえ」とか何とか不満そうな声をあちこちで上げている。

 というのも、紅尉はこの授業の内容の殆どをラテン語のみで解説したため、その内容の理解だけでも困難を極めたからである。

 性格素行はともかく、学業運動その他、成績だけは優秀なB組生徒たちも、これにはパニックに陥れられた。

 ちなみに何で養護教諭の紅尉がこんな事をしているかというと、いつもの教師が入院してしまった為で、後にこの教師はB組の逆恨みに晒される事となったのだが、まあソレは別の話。

 そんな中、頭を抱えるクラスメイト達をよそに、和樹は席に座ってずっと俯いていた。と言っても、それは他の生徒同様に紅尉の言葉に落ち込んでいる、という訳では無く———————

「和樹さん、大丈夫ですか、なんだかすごく眠そうですけど・・・・・・」

 近付いて来た夕菜に気付き、和樹は顔を上げどうにか返答する。

「あれ・・・夕菜?授業は?」

「ついさっき終わりました。ホントに大丈夫ですか?」

「まあ、あれだけ沢山食べれば、眠くもなるわよね。」

 その言葉に振り向いた先には、杜崎沙弓が立っていた。

「仕方ないじゃないか、今朝は何にも食べて無かったんだから・・・」

「それでも多いわよ。尤も、重箱八つ分も作ってきた宮間さんも宮間さんだけど・・・・・・」

「すみません、やっぱり多かったですよね・・・和樹さんには気を遣って全部食べてもらったりして・・・・・・」

 本当に申し訳無さそうに夕菜はそう言った。しかし・・・

「いや、むしろちょうどよかったよ。」

「「え?」」

 思いがけない返答に二人は思わず驚きの声をあげた。

「いっつもこれだと流石に食べきれないけど、今日はいろいろあってかなりお腹が空いてたから・・・」

「相変わらず微妙に人間離れしてるわね・・・でも、その様子だと授業もまともに聞いてなかったみたいね、聞こうと思ってたのに当てが外れたわ。」

 ハア、と沙弓はため息をついた。が・・・

「ああ、それなら大丈夫。」

 言いながら和樹が机から取り出したのは・・・

「これって、テープレコーダー、ですか?」

「・・・・・・ずいぶんと用意がいいわね?」

「だってホラ、紅尉先生がなんのヒネリも無く普通に授業すると思う?」

「「た、たしかに。」」(汗

 言われて思わず納得する二人。

「次の授業もあるし、今晩中には聞いておくから明日聞きに来てよ。」

「分かったわ。あ、そうそう、コレ、返しておくわね。今日もいい出来だったわ。」

 そう言って沙弓は後ろ手に持っていた空の弁当箱を和樹に向かって差し出しつつ一歩近付こうとして・・・・・・ピタリと、その動きを止めた。

「?・・・杜崎さん?」

 弁当箱を受け取りつつ和樹が覗き込んだその顔からは表情が消えていた。

「式森君、あなた、まさか・・・」

「え?」

 沙弓が続きの言葉を言おうとしたその時・・・

「あ〜〜〜〜〜〜っ!」

 突然の大声にビクッとなる和樹と沙弓。

「な、何?どうしたの夕菜?」

「すっかり忘れてました。和樹さん、紅尉先生にあれを戻すよう頼まれてましたよ?」

 言葉と共に夕菜が指差したのは教卓の上の月下美人。

「え?そうなの?」

「・・・ああ、そういえばそんな事も言ってたわね。」

「じゃ、早速行ってくるよ、ちょうど用事もあったし。」

 和樹はそう言って教室から出て行った。

「?杜崎さん、どうしたんですか、なんだか顔色が悪そうですけど・・・・・・?」

「あ、ううん、なんでもないわ。なんでも・・・」

 自分が和樹の出て行ったドアを凝視していた事に気付いた沙弓はとっさにそう答えた。しかし、その頭の中は未だに一つの思いが占めている。

(自分でもまさかとは思うけど、でもあれは、あの匂いは・・・・・・)


「失礼しまーす。」

 言うと同時にドアを開けた和樹の目の前に、ちょうどドアに手を掛けようとしていたらしい紅尉が居た。

 紅尉は和樹が手に持つ月下美人に気付き、「机の上にでも置いておいてくれ。」と言い出て行こうとしたが、和樹に話があると言われ足を停めた。

「ふむ、こちらも急ぎの用と言うわけでもないが・・・」

「できる限り早めに解決しておきたいんです。」

 和樹の何時に無く真剣な言葉に、紅尉は少し考え込んでから口を開いた。

「では、こうしよう。私は先に用事を済ませてくるから、その間、和樹君はここのベッドで休んでいたまえ。」

「え、でもまだ授業が・・・」

「昨日は随分と派手にやったようだし、そんな状態ではまともに授業を聞いてもいられないだろう?こちらとしてもすっきりした頭で理路整然と話してくれた方が聞きやすい。」

 その言葉に紅尉の気遣いを感じ、和樹はその提案を受け入れ、礼を言ってから保健室の奥のベッドに向かう。

「ああそうだ、ひとつ言い忘れていた。手前のベッドには人がいるから奥の方を——————」

 フラッ

 だが、よほど消耗していたのか、和樹は紅尉の言葉を最後まで聞く事無く、意識を失いつつ手前のベッドに倒れこんだ。

「うわわっ!?な、何だ、いったい!!?」

 悲鳴を上げ、驚きの声と共にベッドから飛び起きたのは神城凜だった。

 凜はベッドの上の和樹に気付き睨み付ける。

「おのれ式森、貴様という奴は・・・・・・おい、起きて何とか言ったらどうだ!!」

「その辺にしてやりたまえ、今の彼に起きろというのは余りに酷だ。」

 和樹の襟を掴んで振り回し始めた凜を紅尉が制止する。

「それは、どういう・・・・・・!?」

「彼の制服の下を見てみれば解る。」

 そう言われ怪訝な表情のまま和樹の制服を捲ると。

「うっ!こ・・・これは!?」

 そこにあったのは一面赤褐色を通り越し、黒ずんだ色に染められたシャツだった。ほんの僅かに残った部分から、元は淡色系の色合いであった事が伺える。

 同時にソレから漂う今まで気付かなかったのがおかしい位強い匂いが鼻をつき、凜にとって馴染みのあるその匂いがそれを染め上げたものが何であるかを如実に表していた。

「この血は、まさか返り血!?しかし、刺客のような怪しい者の気配など・・・・・・!!」

「残念ながらはずれだ。最後に刺客が襲ってきたのは一年以上前の事だし、その時もあっさりと追い払えたと聞いている。あの頃とは比べ物にならないほど強くなった今の彼に、刺客を送ろう等と馬鹿な事を考える者は居ないだろう。そもそも彼は人間相手に止めを刺すときは大抵ファイアブランドで焼き尽くしてしまうから、返り血を浴びる事など滅多に無い。」

「とするとこれは、まさか・・・・・・」

「そう、和樹君自身の血だ。彼の少々特殊な修行によって生じた傷による、ね。おそらくは着替えたり風呂に入る暇も無くて着たままになってしまったのだろう。」

「し、しかし、これだけの出血で何故生きていられるのです?それに、傷らしい傷も見当たりませんが・・・・・・?」

「・・・神城君、君は[再生者(リジェネーター)]という言葉を聞いた事があるかね?」

「?いえ、初耳ですが。」

「[再生者]というのは常人に比べはるかに高い代謝能力を持つ、いわゆる異能者の一種だ。中には肉体の欠損部分さえ補う事の出来る者もいるという。」

 いきなりの話題の転換に困惑する凜に、紅尉は説明を続ける。

「と言っても、その能力が発揮されるのは、大抵体が危険な状態に陥ったときで、普段は普通の人間と大して変わらない。ある組織においては人工的にそういった存在を作り出す研究を完成させたとも言われるが、その場合細胞分裂回数は常人と変わらないため、能力を使うほどに急速な老化と短命の宿命を背負う事になる。それに対し先天性の再生者は、その能力の程度に応じ細胞分裂回数の増加などの変化も起きている為、能力を使うことが無ければ老け難く、また常人より長く生きることも出来るという。」

 凜はそれらの話を自分の中で噛み砕き、生物部に所属していて学んだ知識も使って理解していく。

「・・・つまりそれは、再生者というのは魔法などによらずに急速な自己治癒の出来る人間、という事ですか?では、式森があれだけの出血にもかかわらず、こうして生きているのも・・・・・・」

「そう、彼が先天性の再生者だからだ。そしてこれは和樹君がここまでの強さを得た要因の一つでもある。代謝が早ければより効率良く肉体を鍛え上げられる、というわけだ。尤も、彼の能力はそれほど高いわけでもない、特に彼の祖父なんかと比べるとね。」

「式森の、祖父?」

「正確には父方の、だがね。実際にその場面を見た訳ではないが、何でも切り落とされた四肢を瞬く間に再生してみせたとかなんとか。それに対し和樹君の場合は一晩寝れば大概の傷なら癒える、という位が精々だからね。それに代謝によって消費するエネルギ−は普通の人間と変わらないから、こうして酷い怪我をするとすさまじい空腹と睡眠欲求に苛まれる事になるわけだ。」

 一通りの説明が終わり改めて凜の方を見やると、彼女はちょうど和樹を自分の眠っていたベッドに寝かせ終えたところだった。

「もういいのかね?君も確か・・・・・・」

「いえ、式森がどういった特殊な能力を持っているのであれ、あれだけの出血を伴う修行が並大抵のものでない事には変わりは無いはず。なら、私もこの位の事で音を上げるわけにはいきませんから。」

 そう言った凜の顔には新たな決意のようなものが見て取れた。そして凜は眠る和樹の顔を覗き込みながら「それにしても」と続ける。

「悩みなんかまるで無さそうな寝顔だな。厳しい修行で体は傷ついても、心では全く苦にしていないのか。まったく、その精神(こころ)の強さが、少しうらやましい。」

 そう呟いて、微笑とも苦笑ともつかない表情を浮かべた顔をあげた凜は、次の授業に出席する為すぐに部屋を後にした。

 紅尉もまた、後を追う様に部屋から出て、ドアを閉めようと振り向いた時に和樹の寝顔が目に映った。

「悩みなどまるで無さそうな寝顔、か・・・そんな君の姿に誤魔化されて、愚かな私達は式森和樹の真実(ほんとう)に、ずっと気付いてやれなかった・・・彼女達もまた、目に見える君が全てと思い込み、君を其処から連れ出す事は叶わないのか・・・・・・?」

 誰にとも知れぬ呟きを残し、紅尉はドアを閉め廊下の奥へと歩いて行った。


 その日の放課後、和樹は夕菜と並んで家路につくべく校門から出ようとしていた。

 普通ならここでB組の面々による妨害がある筈だが、今日に限って周囲には一人もその姿を見付けられない。

 発端は、和樹が教室を出た後、沙弓の様子がおかしい事に気付いた松田和美が和樹の事を聞き出したことであった。

 凜が最初に考えたのと同じ思考に辿り着き、クラスメイトが人を殺しているかもしれない事に動揺を隠せない沙弓(彼女は和樹がどういう人生を歩んできたのか知らない)に対し、血の匂いは何らかの理由で重傷を負った為と考えた和美はこれを好機と捉え、仲丸たちに和樹が教室に戻ってきたところをボコッてしまおうと持ちかけた。

 夕菜との件に関する疑惑について、和樹は未だ灰色のままである事もあり、仲丸を始めB組の面々(沙弓と夕菜除く)は一も二も無くそれに乗った。

 げに恐ろしきは人の世の妬みと僻み、『人の不幸は蜜の味、人の幸福砒素の味』は伊達ではない。

 がしかし、当の標的はなかなか現れず、最後の授業終了後になってようやく戻ってきた。

 すかさず一斉に襲いかかったが、傷はとうの昔に塞がり、さっきまでの睡眠で体力体調その他ほぼ全回復した和樹に通用する筈も無く、ドアの前に殺到した所をギリギリまで引き付けてから放たれた鬼走りによって、一人残らず吹っ飛ばされた。

 今B組の教室を覗けば、クラスメイト達の大半がギャグマンガよろしく床や天井、黒板などに突き刺さったままになっている事だろう。

 というわけで、図らずも邪魔者達(主に夕菜視点)が一掃された形となったのである。

 これで二人揃っての下校を阻むものは居ない筈、にもかかわらず、校門に寄りかかっていた小柄な人影が並んで歩く二人に反応を示した。

 最初は逆光で誰か分からなかったが、近付くにつれそれが二人の知り合いである事に気付き——————

「凜さん?どうしたんですか、こんなところで?」

 夕菜は思わず声をかけていた。

「待っていたんです、お二人を・・・いえ、正確には用があるのは式森の方なのですが・・・・・・」

「え?和樹さん・・・ですか?」

 凜の科白に夕菜は眉を顰め、その瞳に僅かながら警戒の色が浮かんだ。

「いえ!そういうことでは・・・あー、少しだけ関係ないことも無いですけど、でも!とにかく夕菜さんが考えているような事では・・・・・・!!」

 それに気付き、凜はこの前の玖里子の一件を知っている為、慌てて弁解しようとするが上手くいかず、夕菜の警戒を更に強めてしまう。

 その様子を見ていた和樹は、なぜか凜が周囲をしきりに気にしている事に気付いた。

『このままじゃ埒が明かないな・・・』

 仕方なく和樹は二人の間に割って入る。

「とりあえずここでこうしてるのもなんだし、歩きながら話さない?どうせ帰る所は一緒なんだし。」

 その言葉に凜は頷き、夕菜もひとまず警戒を解いて三人は一緒に歩き出した。


「ところで凜ちゃん、さっきからいったい何を気にしてるの?」

 夕菜と二人で聞いていた凜の部活や実家の事などの話が一段落し、丁度辺りに人が少なくなってきた所で、和樹は凜にさっきからの疑問をぶつけた。

 聞かれた内容に凜はビクッと反応し、少し間を置いて口を開いた。

「あ、ああ、実はだな、そろそろあのサディストが仕掛けて来る筈なんだ。」

「「サディスト?」」

 思いもよらぬ凜の言葉に、二人同時に訊き返す。

「他から見れば、師匠ということになるのかもしれんが・・・あんな奴、師匠だなどと思った事などない!・・・小さい頃あれだけしごいておきながら、昨日も・・・・・・!!」

 凜の顔は話すうちに下をむいていく。髪の毛に隠れて表情こそ見えないが、血の気がなくなるほど握り締められた拳と、ギリ、という歯軋りの音が、押さえ込まれている怒りの激しさを物語っていた。

 凜は和樹たちに顔を向けずそのまま歩き出し、二人もそれに続いた。

 少し歩くと三人の他に誰も居なくなる。が、凜の様子は変わらない。

 その時、和樹は僅かに何かを感じ取った。

 違和感、というには余りにも希薄なそれは、しかし瞬時にその意識を戦場におけるそれへと切り替えさせる。

 瞬間、風が吹いた、様な気がした。

 何気なくそちらに眼をやった凜の眼に映ったのは一瞬の鋼の輝き。

 と同時にその光の前に立ち塞がるかの様に立つ誰かの背中。

 その誰か——————和樹は右手に剣を喚び出し凜を襲うソレを迎撃しようとする。

 だが。

 クンッ

『(((なにっ!!?)))』

 美しくも余りに禍々しく凶悪なソレ——————およそ信じがたい速度で振るわれた日本刀は、その軌道を、標的を変え和樹に襲い掛かる。

 しかも間の悪い事に、防御の手段を気取られて対策を講じられるのを防ごうと召喚を遅らせたのが裏目に出た為、カイゼルブレイドは未だこの手に無い。

『間に・・・合わない!?』

 ゴウッ

「式森っ!!」「和樹さんっ!?」


あとがき
と言うわけで十二話です。が、覚えていて下さっている方は居られるのでしょうか?(汗
次も時間がかかると思いますが、今回ほど間が空く事は無いと思います。
よろしければレスお願いします。

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