ああ、神様。あんた、よっぽど俺のことが嫌いらしいな。
「どうしたの?シン。食事が進んでないみたいだけど」
「イヤ、ヒサシブリノテリョウリニカンドウシテイテ」
「そうなの?だったら、いっぱい食べてよ」
ああ、なぜに目の前に赤毛のどこか猫を連想させる美少女がいて、声をかけてくれていますか。
「あ〜。お姉ちゃん、自分が作ったみたいに言ってる〜。私とお母さんが一緒に作ったのに〜」
「あら、メイリン。サラダは私の手作りよ」
「サラダなんて手料理じゃないですよね。シンさん」
「あらあら。ルナマリアにメイリン、二人ともけんかしないの。シンさんが困っているでしょう」
「「だって〜」」
その美少女に拗ねるように抗議の声をかけるのは、お姉ちゃんというショートの美少女とは異なり長い髪を横で二つに結んでいる、やはり赤毛のこちらも美少女。
そんな二人のやり取りを笑いながらコントロールしているのが、二人の美少女の原型といってもいいような、二人の言葉を信じるなら『お母さん』と呼ばれている赤毛の長い髪を結い上げている美女。
「ははは。二人ともしょうがないな〜。それにしても、アスカ君?うちの食事は、まさか、口に合わない、なんて言わないよね?」
女性三人を優しい笑顔で見ていたかと思ったら、ちょうど三人に顔が見えない角度で、敵を射殺さんとするような目線でにらんでいる赤毛の美形の男性。
「イエ、トテモオイシイデス。ほーくサン」
「そうかいそうかい。いや、ついつい当たり前のことを聞いてしまってすまなかったね。家の料理は最高だから、そんなふざけた感想を持つはずなんかないよね。ハハハハ」
「はははは。ソンナコトアルワケナイジャナイデスカ」
マジだった。あの目は自分の望んでいない言葉を耳にした瞬間俺を殺るつもりだった!!
ああ、なんか、このほのぼの空間と殺伐空間の狭間にいる俺の今の現状を誰かどうにかしてくれ。
それにしても、なぜだ?
今この時間軸、『種無印』の世界ではまだ接点が無いはずの『種運命』のメインキャラ二人と同じテーブルで食事を取ってるんだ?
WHY?
教えて、知恵留先生!!
(そんなこと私の知ったことではないです!!それよりも、わたしはこれからメシアンのカレー祭りに行かなくてはならないんですから)
………またか!!!
今度は誰だ!!っていうか、こたえなくていい!!
ああ、変な特殊能力がいつの間にか備わってるし……
とりあえず、なぜか今俺は、ルナマリア、メイリンのホーク姉妹の家に食事に招待されています。
食事に招待されたはずなのに、なんか殺気を感じますが、それは無視する方向で。
気にしたら俺の胃、または髪型に穴が開く。
今はもうあえないマイシスター真由美、とりあえず裏話として教えて上げられるのは、ホーク家は危険で一杯ですよ。
シン君の目指せ主人公奮闘記!! その4前編
俺がプラントに来てから初めてのお給料日です。
今まで近所の知り合いの倉庫の棚卸しとかしかしたことが無い俺にとって、ちゃんとした公正な労働の対価をもらうのは初めての状況ですよ。
一体いくら位もらえるんだろうか?
「というわけで、給料ください」
「あほ。地球じゃあどうだったか知らないが、こっちでは全部口座振込みだぞ」
顔を満面の笑みにして正当な報酬を要求する俺に、マイ上司である兄貴は俺に負けないような笑顔でこう教えてくれた。
兄貴、もう少しオブラートに教えてくれてもいいのでは?
「ああ、それとこの前約束したテレビ、持ってきてやったからありがたく使えよ」
「うす。感謝します」
俺の世界では薄型プラズマテレビのような、パッと見高級そうなテレビを兄貴は俺に渡してくれた。
おお!!これは、これはいいものだ!!
「本当にもらっていいんですか?」
「ああ、別にいいぞ。もう、型が古くなってるやつだからな。安心しろ。ちゃんと映るから」
そう言って、兄貴は知り合いの電気屋の割引券も渡してくれた。
万が一修理に出すときはここにしろ、とのこと。
了解です!兄貴。あんた、ほんまにエエ男や。
兄貴、あなたに俺的「男前ポイント」十点進呈です。
「ああ、それと明日は仕事は休みだからな。ついでに今日の午後からも」
「うぃ?そうなんすか?」
「ああ。だから、今日はもう上がってもいいぞ」
「了解です。じゃあ、俺は早速テレビを見させてもらいます!!」
「ああ、まあ最近は戦争関係の番組しかやってないんだけどな」
「それでも、何も情報が入らない生活よりは飛躍的な進化っすよ」
「そうだな。ま、俺も明日は久しぶりに帰ってくる弟の愚痴を聞いてやらなくちゃならないんだがな」
「弟さんいらっしゃったんすか?」
「ああ。俺と違ってZAFTの紅服でエリートさ。でも、まあ、俺にとってはかわいい弟なんだけどな」
「そうっすか。じゃあ、弟さんによろしく言っといてください」
「ああ。ハイネにお前の事を面白く教えておくよ」
「そんな、実物より150パーセント増しで格好よく伝えて下さいよ〜」
「ははは。バ〜カ」
そんな心温まる会話を終えて、俺たちはそれぞれの家路についたのだった。
ん?ハイネ?どっかで聞いたような……
気のせいだな(キッパリ)
さて、いざ文明の利器のご威光をはやく与らなくては!!
「ああ、あと、これの充電もお願いできます?」
「はい。かしこまりました。十分ほどお待ちください」
営業用の笑顔を浮かべる店員に、ピンク色の少し女の子趣味な携帯を充電をしてもらうために手渡した。
ここは兄貴に教えてもらった電気屋だ。
なぜ俺がここにいるかというと、テレビが映らなかったからだ(泣)
兄貴、俺的「男前ポイント」五ポイントダウンです!!
うう。期待が大きかっただけにへこみ具合も大きいっす。
まあ、ついでに携帯の充電器も購入できたんでいいんだけどね。
それにしても、オーブ製の携帯だからって、充電器の値段が高いこと。
プラント製のものの三割増だぞ。
まあ、今のオーブは事実上滅亡しているようなものだから、しょうがないと言えばしょうがないんだろうけど。
ま、充電器を購入しなくちゃいけなかったんだし、そんなに財布にもダメージが無いんでいいんだけどね。
俺がどうして充電器を購入したかというと、シン・アスカ少年のためだ。
あのときの神?っぽいものの話だと、本当はシン少年の人生は終わっているはずなのに、どういうわけだか俺がシン少年の人生を継続させているのが現状だ。
だが実際は、外見はシン・アスカでも、心、魂はオオタカ・シンヤというまったく別の人間であり、シン・アスカ本人ではない。
すなわち、俺はシン・アスカもどきであり、本物のシン・アスカはもう彼岸に渡っているんだ。
でも、その事実を知っているのはこの世界では俺だけ。
この世界の誰もが、オノゴロ島で家族と一緒にシン少年が死んだという事を知らない。
ならば、唯一知っている俺は彼を供養する義務と責任があるのではないだろうか。
そう思ったから、シン少年とその家族の写真が残っている唯一の携帯の電池を充電しようと俺は思ったわけだ。
ある種の遺影の変わりに使うためだし、彼らの顔を俺が知り続けておくのに必要だと思うからだ。
この行為そのものが感傷だっていうことは分っているんだ。
でも、俺がこれからシン少年が歩むはずだった運命を逸脱するためにはどうしても必要なことだから。
だから、俺は行動に移した。
偽善だ、独善的だ、と言うことも分っている。
でも、こっちの世界に来て一ヶ月が過ぎ、生きていくために必要なものを手に入れる手段も手にした。
最低限の命の保障を俺は手にすることが出来たんだ。
そんな今だからこそ、俺はこの行為をしなくちゃならないんだと思う。
俺がこっちの世界で本当に生きていく意味で、俺の歴史を刻み込んでいくのに。
今までの自分にさようならを告げるために。
さようなら、シン・アスカ。さようなら、大鷹 真矢。
これからの自分に、新しく歩んでいく自分に祝福をかけてやるために。
おめでとう、シン・アスカ。おめでとう、オオタカ・シンヤ。
そんな、ある種の通過儀礼的なものをやらなくてはならない、と俺は思う。
だから、俺は今日と言う日を忘れない。
「まさか、C・Eになってもこれがあるとは・・・・恐るべし」
携帯の充電も無事に終わり、テレビの修理は今日の夕方には終わるとのことだったので家までの配達を頼み、俺は夕方まで突然出来た空き時間をなんとなく街をぶらつくことですごしていた。
なお、あの店ではキャンペーン中だったようで、くじ引きが開催されていて俺はそれに参加し、見事残念賞の山を手にしていた。
その残念賞の中身を確認して、俺は一体どういう道筋で人類は進化をしてきたんだろうか?という頭の痛くなる考えが浮かんでいた。
いや、だってね〜。残念賞の中身が―
「キャァァァーー!!」
いきなり耳に入ってくるそれは、俺の「聞きたくない声ベスト5」に入る「女性の叫び声」だった。
聞きたくない、だから俺はその声の発生源の方へと駆け出した。
聞きたくない、聞きたくないならその発生源の原因をとめればいい、というあまりにも独善過ぎる考えの下に。
走りついた俺の目の前に見える光景は、余りにもありきたりすぎたものだった。
っていうか、あんたらコーディネイターって理性的な生き物とかって言ってなかったかい!!
なのに、男四人で女二人を囲むとは一体どういう了見なんだか。
手に持っている残念賞の山が入っている袋からあるものを取り出し装着すると、残りの残念賞たちに心の中で謝罪と黙祷をささげ、それを終えると―
「いけーーー!!人類の夢!!時速100マイル越え!!具体的には時速160キロのスピードボール!!」
―大きく振りかぶり、バカ一号の後頭部へと思いっきり投げつけた。
「ぐはーーー!!」
俺の目に映っていた「H○の千○のキャッチャー」のミットど真ん中に自作のボールが決まると同時に、そんなひねりの無い声が聞こえた。
「な?!オーエン!!」
「どうした!!」
「だ、誰が?!」
突然起こった出来事に慌てて打ち抜かれた方向に向き直る男達。
というか、誰か一人ぐらい倒れたやつの介抱をしてやれよ。投げつけといてなんだけど。地面とキスをしっぱなしって言うのもかわいそうだぞ。
「なんだ、きさま・・・・」
「なにしやが・・・・・」
「おま・・・・」
残りのバカ三人が何か文句を言おうとしたが、いきなり黙って目を見開いて固まった。
そして、俺に指差すと同時にこんな言葉をシンクロしていった。
「「「へんたい?」」」
……OK、OK。
お前らそんな一端のたわごとが口に出来るならもうこの世に未練は無いんだな。
なら、望みどおり彼岸へと送ってやろうじゃないのよ。
俺は指を鳴らすと同時に、顔に笑みを浮かべながらこう思った。
……それにしても、そんなに変か?
パーティー用の赤鼻と口ひげの付いた黒縁の眼鏡をつけ、アフロのカツラを被った俺は?