外道 本章
注意!!
好きなキャラがイヤというか悲惨な目にあっているのは嫌だとか言う人は絶対に読まないことをお勧めします。
それを無視して読んだあと文句言われても知りません。それを踏まえて読むか読まぬか判断してください。
はっきり言って下記のキャラが好きな人には毒物のように思います。まあ、捉え方次第でしょうけど。
該当キャラ:テンカワ・アキト、ホシノ・ルリ、ラピス・ラズリ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー
ついでに碇シンジは壊れです。
和室に座するのはいつもなら2人の男であるが、今日は違った。客として来た方は少女を同伴していた。男は茶色の濃いサングラスに髭を蓄えており、どう見てもヤクザの幹部としか思えない面だった。北辰も似たような面であるから、少女はその場の雰囲気では非常に浮いていた。それに加え、少女の青い髪に赤い目、そして白い肌をしたこの世のものとは思えない幻想的な容姿が助長する。
「では、お願いする」
客たる男は淡々と言葉を口にした。
「了解した。我が最高のものに仕上げよう(それにしても科学を信望する者はなぜこうも遺伝子細工が好きなのであろうか…)」
少女について北辰の持つ情報網からほとんどその正体を掴んでいた。北辰にとってこの世界で自分から情報を隠し通せる者などそうはいないと自負できる力を持っていた。
(因果なものよ…あの時、生を終えたと思っていたのに無理やり冥府より引き戻され、使い捨てにされ、巻き込まれた。その結果が今というわけだ。あの男はどうであろうな…)
自分と同じようにある事象に巻き込まれた宿敵とでも言うべき存在に思いやった。
(生きていれば、必ず何年掛かろうとも必ずや我のもとへと現れよう…ここにはあやつの求めるものがあるのだからな…)
北辰が思い巡らし、客たる男が訝しげに北辰を見やったその時、スッと音もなく障子が開いた。
「お師様、お茶をお持ちしました」
そう言って入ってきたのは女装したシンジであった。
「うむ、おシンご苦労だった」
「では、失礼します」
シンジはチラリと少女の方を見た。その後顔を下に向けるとギラリと目が光った。北辰はそんなシンジの様子を見逃しはしなかった。
(くくく、待ちきれなかったか…しかし、シンジよ、お前は気がついているのか? その男がお前の父である事を。最も父親の方は息子と気づいていないどころか舐める様に見つめているわ…)
北辰は目の前にいた親子の様子を嘲笑った。幸いにも相手は北辰の笑みに気づかなかった。二人ともが先程のおシン…シンジの方に気が向いていたからだ。男は情欲ゆえに少女はそんな男の反応を買ったが故に睨み付けていた。
(…最初の印象では人形と思えたがどうやら違うようだな。幼いとはいえ女という事か…)
北辰のお気に入りと同じような感じゆえに思い込んだ印象を少女に抱いていたが改めた。
「あの者は?」
「我の弟子よ。ゲンドウ殿。残念だが譲れんぞ」
因果な男よと男が言い出しそうな事を機先を制して北辰は答えた。
「そうですか…」
ゲンドウと呼ばれた男は一瞬、苦味と困惑の混じった表情を浮かべたが表情を消した。
「まあ、その内に楽しめる機会がありましょう(くっ、くっ、くっ、その時はゲンドウよ…お前の最期であろうがな…)」
シンジに手を出すという事は破滅するのと同じ意なのである。北辰はそんな事をおくびにも出さず話を続けた。
「ふう、あの子が僕の教材か…ぞくぞくするな…こんな気持ち初めてだよ。これが恋って奴かな? ふふ、違うな…何だろ? これは…」
シンジはドキドキする胸を押さえた。普通の人ならそれが恋だというだろう。しかし、シンジはそうは思わなかった。だからと言ってこの気持ちが何なのかはわからなかった。ひょっとしたら無意識のうちにこれから背徳に挑むのだと感じていたのかもしれない。シンジは知らなかったが教材となる少女は生まれがどうであれシンジにとり近親者である事は間違いないのだ。
「ふふ、シンジ君、久しぶりね。何を興奮しているのかしら?」
「リツコさん!? お久しぶりです! どうしたんですか?」
シンジは声を掛けてきた女性に驚き、ついで喜びの笑顔を浮かべた。その女性は金髪に黒い眉毛をした少しきつめの美女であった。
「残念だけど、今日は碇司令のお供でよ」
「ああ、お師様と会っていたあの男ですか? って碇…司令? 僕と同じ苗字?」
「ハァ…、シンジ君…あなたのお父さんよ…」
シンジの様子にリツコはため息を吐いた。
「えぇっ!? あの髭のおじさんが僕のお父さん? 生きてたの!?」
シンジは目が飛び出るかというぐらいに驚いた。
「生きているわよ…図太くね」
「ふーん、そうだったんだ。まあ、どうでもいいや」
「どうでもって…」
シンジの態度にリツコと飛ばれた女性は絶句した。
「だって、いらない父さんですから」
シンジの言葉から父親が子供を捨てたのではなく、子供が親を捨てたのだと悟った。それと共にうらやましいとも思った。
(シンジ君はもう親を必要としていない。私はシンジ君よりも長く生きているのに母さんを捨てる事なんてできないものね…)
「そうだ! さっきお供だって言っていたって事は今暇なんですよね?」
言い事を思いついたとシンジは無邪気に笑った。
「ええ、そうよ」
何だかリツコは嫌な予感がした。
「だったら、しましょう。実は最近に教えてもらった事が女性にも有効か気になってたんです。試させて下さい」
「え!? ちょ、ちょっとぉー!?」
最初は何を言っているのかわからず戸惑いの声を上げた。シンジはそんなリツコの手をとり、庭の茂みへとリツコを連れ込んだ。
ゴソゴソとし、衣づれの音がした。
「随分見ない間に手際が良くなったわね。これじゃ前とは立場が逆じゃない」
「ふふ、男子三日会わざれば刮目して見よっていうじゃないですか。日々精進しているんです」
「そんな事言われると怖いわね」
「リツコさん程じゃありませんよ」
「ふふ、悪い子ね…ん」
「リツコさんも大分可愛がられて開発されたようですね。触れてもいないのにもうこんなに濡れている」
茂みの中で何が行われているかについては想像にお任せする。
「ん! ああっ! だ、だめ、だめよっ!! そ、そこはっ!」
「聞いたとおりここが弱いんですね? じゃあ、ここもか」
「はうっ!」
「ひくひくしてますね。」
ぴちゃぴちゃ
「ああ…イヤっ…ンン」
「あっ、だめですよ。声を出すのを我慢するのは。リツコさんの指が傷ついてるじゃないですか!!」
ペロッ! レロレロ
リツコの傷ついた手を取るとシンジは傷口を舐めだした。その舌使いは何だかとてもエロティックだった。その間にもシンジは空いている手でリツコを攻め立てていた。
「いやっ、もう…ダメ…頂戴。我慢できないの!」
「何が欲しいって言うんですか? 正直に言わなくっちゃ僕にはわかりません」
「ああ、意地悪しないで…シンジ君、あなたが誇示しているそれよ」
「それ?」
「そう、シンジ君の分身を…」
「今の僕にはこれが限界というわけか…(ミサトさんなら恥も外聞も無く叫んでるだろうけど、まだ僕にはリツコさんの理性を飛ばすまでには至ってないのか)いきますよ」
「来て!! 私の中に!! ああっ! これよ! いいわっ!」
その後しばらく茂みの置くからうめき声? が聞こえたそうな…
*
北辰とシンジは目の前に立っている少女を見つめた。その少女は青い髪に赤い目、端正な顔立ち、それに日本人とは思えぬ白い透けた色をした幻想的であった。
「この娘は綾波レイという。シンジ、お前の教材でもある」
この少女は碇ゲンドウという男より依頼されて手がける事になった少女だ。それが不幸な事なのかどうかは少女の表情を見る限り読み取れない。感情をそれ程、表す事がなかったからだ。
「はい!」
シンジはよろしくと目の前に立つ少女に一礼した。しかし、少女は何の反応も返さない。
「娘、この者は我の弟子、シンジ。今日からお前の面倒を全て見るものだ。この者の言うことを聞け」
「…はい」
「では、娘、その着ている服を脱げ…」
北辰の言葉に綾波レイという少女は素直に従った。その動作には戸惑いなど無かった。程なく少女は裸身を二人の前に晒すが今だ幼く性的な魅力など欠片もないので欲情する事などなかった。
「よいか、シンジ…最初の仕込みが肝心よ。まずはその娘にこの香油を全身に塗るのだ。このように丹念に、肌に摺りこむように」
北辰はシンジに手本を見せると今度はシンジに実践するように指示をだした。シンジは頷くと行動に移った。香油を手に取るとそこから何ともいえぬ良い香りが漂って来る。
(これは…何だ? 僕の体がうずうずとしてくる所を見ると媚薬の一種か?)
自分自身がいきり立って来るのを感じながらもその衝動を抑えて油を少女に塗りつけていった。
少女は香油を塗りたくられても無表情であった。時折、眉根を動かす事もあったが、それでも表情が出るほどのものではなかった。シンジがおシン…女の格好をしていたなら別だったかもしれない。
「………」
「…できました。お師様」
シンジは沸き起こる衝動を抑えながらの作業だったため消耗が激しかった。
「なら、顔以外の全身を用意したその包帯で包むが良い。その後は抱き上げて例の部屋へ運ぶのだ。その辺はわかっているな? あと言い聞かせ方もな? 最初が肝心だぞ。そこまでできれば今日のこの娘の処置は終わりだ」
北辰は今日の作業を言い終えるともう見るまでもなかろうと、早々にそこを立ち去った。
それを見送ったシンジは黙々と作業に取り掛かった。言われた包帯は普通に出回っているようなものではなく白い絹製のものだった。それを少女の体に巻きつけていった。
「ふう、やっとできた…(これをこれから毎日やるのか…大変だ…)」
作業が出来た頃にはシンジは疲労困ばいであった。
「………」
シンジが巻いている間も少女は無言で虚空を見詰めているようだった。
「何だか、最初見たとき人形のようだと思ったけど、これじゃ本当に人形だな」
「人形じゃないわ」
シンジの言葉に反応し、そっけなく答えた。そのことにシンジは目を丸くした。
(へえ…一応、感情らしいものがあるんだ。でもね、やっぱり君は人形なのさ)
シンジは少女の今後を思うとそう一人ごちた。
「…さて、準備が出来たから、君の生活する部屋へ案内しようか」
ひょいっとシンジはレイをお姫様抱っこするように抱き上げた。体つきが華奢な割りにふらつきもせずしっかりと運び始める。
「何故? 私は歩けるわ」
自分で動けるのにわざわざシンジが自分を抱えて運ぼうとすることに疑問を抱き聞いた。少女にしては珍しい行動だろう。
その言葉にシンジはニヤリと笑った。そして先ほど飲み込んだ言葉を言ってやることにした。
「いいや、君は今日から自分で歩いちゃいけないのさ。そして喋ってもいけない。まあ、元々無口なようだからそれほど苦労する必要は無いと思うけどね。はっきりと宣言しよう。君はもうこれからは歩いてもいけない、喋ってもいけない…君は人形になるんだ。僕たちは君を生きたまま人形に作り変える職人なのさ。話は聞いたよ? 君はあのゲンドウってオジサンの命令どおりにするんだってね? 君がこれから受ける事はそのゲンドウってオジサンの命令でもあるんだ」
それまで無表情だったレイの顔がゲンドウの命令だと聞いて目を見開いた。
(無理も無いかな? 唯一無二の信じていた人に裏切られたって感じてるのかな?)
出会ったばかりで、かつ感情をあらわにすることも無い少女ゆえに今の心境がどういうものかシンジにはわからなかった。それ故に無言のまま目的の部屋を目指して歩いていく。今までのところもそうだがここは地下施設で日のあたらない場所だ。所々に薄暗い光を放つランプがあるだけの普通の感性の持ち主なら寂しいと感じるような場所だった。
シンジが移動していくと鉄格子が並ぶ廊下に来た。シンジは迷うことなくその奥の一角を目指した。その途中途中で幾つもの鉄格子の中を覗けるがその中にはレイより少し年上か同じぐらいの娘が白いベッドの上にレイと同じ格好で寝かされていた。その娘たちは何をする出なくじっと虚ろな目で天井を見上げていた。
その光景をレイは目にしたとき震えがきた。そこには自分が最も恐れる人形そのものが横たわっているように見えたからだ。
(ふーん、何だかわからないけど他の娘たちを見てから震えてるな。怖がっている?)
シンジは目的の場所…一番奥の開いている部屋へと入るとそこにも同じように白いベッドだけがあった。そこに運んできたレイを寝かせた。
ふぁさ
そのベッドはふかふかで柔らかく最高級の寝心地のよさがあった。
「くすっ、いいでしょ? 君は今日からここで寝たまま暮らすんだ。大人になるまでね…その包帯、特殊な巻き方したから自由には動けないでしょ?」
シンジの微笑は非常に魅力的であったがレイにはそれが悪魔の笑みに見えた。今まで自分には何も無いと思っていたが、気づかなかっただけで何かを持っていたのだ。でもそれも今、この瞬間、自分の手から零れ落ち無くなったと感じた。そして、シンジの言葉が先ほど運ばれて来た時に見た娘たちの姿を思い起こさせた。それは自分が自分でなくなるという恐怖だったのかもしれない消えてなくなることを自分は望んでいたはずなのにそれがイヤだと心が叫んでいた。
「あれだけはイヤ…」
その叫びが自然と口に出た。
「大丈夫さ、君だったら」
「それでも、あれだけはイヤ…」
普段、無口である少女が力いっぱい拒否の意志を示した。彼女を知る者が見れば驚愕しただろう。
「ふう、仕方ない。聞き分けの良くない娘にはお仕置きをしなければならない決まりなんだ」
シンジは懐に手を入れると鍼(はり)を取り出した。一般のものより随分長い。
「何をするの?」
「2度とわがままを言わないようにお仕置きだよ」
シンジはそういうとレイのわき腹に鍼を刺した。
「ひぎーーーーーっ!!!!! ひぎゃああーーーーっ!!」
レイはあまりの激痛に叫びのた打ち回った。正確には使用としたが体が固定されたかの様に動かなかった。余程の苦痛だったのだろう赤い瞳からは涙がこぼれ、叫びも絶叫といってよかった。レイにしてみれば涙は生まれて初めてのものであり、叫びもまた生まれてから一番の大声であったろう。
「痛いかい? これからはちゃんと言いつけを守るんだよ? でないと僕は不本意ながらこの仕置きをしなくちゃいけないんだ。わかったならうなずくといい」
レイはこの苦痛から逃れるため夢中でうなずいたのだ。シンジはレイの様子を見てすっと鍼を抜いた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
レイは痛みがすっと無くなった事にホッとした。と共に自分はどんな苦痛にも堪えられると思ったが、そうじゃなかった事を痛感し恐怖した。先ほどの苦痛は生半可なものではなかったのだ。それ故にその苦痛を与えられる恐怖というものがレイの心に深く刻まれた。シンジの顔と原因となった鍼と共に。
「じゃ、良い子にしてさっき言ったようにするんだよ。今日は疲れたと思うから、ゆっくりとお休み」
そう言ってシンジは立ち去った。レイは落ち着くと共に自分が連れられてきた時に見た娘たちがどうしてあんな状態になっていたのか理解した。部屋は適温で過ごしやすいはずだが寒気がした。肩をぬくもりを感じたかったが体は包帯で固定され許されなかった。
レイはその日、初めて寂しい…孤独を感じた。
*
「うっ、まぶしいな」
シンジは地下から出てくると太陽の光にまぶしさを感じた。薄暗いところから急に明るいところに出てのことだ。そんなシンジに背後から近づいてくる気配を感じる。見知らぬ気配であれば容赦なく打ち据えるであろうが、信用できる気配であったため止めた。
「シンジ様」
声を掛けられシンジの予想通りの人物であることがわかった。シンジは振り返るとそこには瑠璃色の髪に金色の瞳、白い肌をした20台前半と思われる美女が青のワンピースを着て立っていた。
「ルリか…」
シンジは年上だというのに呼び捨てにした。自分がこの美女の上位者だという思いがそうさせていた。
「はい」
返事をしながら静々とシンジの方に歩み寄ってきた。
「どうしたんです?」
「…主様がシンジ様の世話をしろと…」
少しかげりのある表情で告げるが最後はニッコリと笑った。それは人形めいた笑顔だった。
「そう、お師様が」
「はい、きゃっ」
シンジはすっとルリの手を取ると勢いに任せて引き寄せた。シンジも小柄だがルリも小柄であるため釣り合いは取れていた。
「ちょうど良かった。ちょっと滾っていたものをどうしようかと思ったんだ」
そう言ってルリの腰を抱きスカートをめくりあげた。そこにはシンジを迎え入れる準備万端な門が怪しく塗れ光り、ひくついていた。シンジはそこに手を伸ばし指を進入させた。
「あん」
ルリは嬌声を上げながらもシンジの分身を手際よく取り出した。その間もシンジはルリのそこをいじりもてあそんだ。それに耐え切れなくなったルリは腰を引こうとするがシンジが腰をがっしりと抑えているので出来なかった。
「くす」
シンジはルリの悶える表情に笑みを浮かべるとルリの片足を持ち上げ自分の分身をルリの門に突き入れた。
「ひゃうっ!」
ずぶっ、ずぶっ
「あう、うう、はう」
ルリは突き入れられるたびに小さな悲鳴をあげる。そして快楽を貪欲得ようとシンジ自身を締め付ける。
「くうっ、相変わらず、すごい、うっ!」「ああっ! いいっ!」
シンジは突き入れるたびに絡み付いてくるルリの秘肉に酔いしれた。突き入れれば突き入れるほど吸い込まれ包み込まれるような感覚に陥る。それは男を狂わせる魔性の門だ。すぐさまシンジは精を吐き出した。しかし、それで治まりはしない。いやルリのそこが許さなかった。
普段のシンジであれば十分に耐えれたかもしれないが今のシンジが思った以上に疲労していたので意思が弱っていたのだ。ルリは再びシンジから精を搾り取ろうとし、シンジの唇を貪った。それが翻弄されかけたシンジを取り戻させた。シンジも負けじとルリの唇を貪る。
にちゃ、にちゃ、ずぶっ
「んんっ、はぁ、んんうん、はぁ、うん、はぁ」
互いに上下両方の粘膜接触を続ける。舌同士を絡め合い、秘肉同士をぶつけ合う。誰もいない庭に淫靡な音が響く。
例え人がいたとしても見咎めるようなものはこの屋敷にはいない。ここはそういう所なのだ。
「ぐうぅ、はぁ、シ、シンジ…さま。もっと、もっとついて、私の中に」
「はぁ、はぁ、ルリ、絡み付いてくるよ、どんどんと。でも、いくよ、ルリの奥へ、奥へ!!」
シンジは腰を激しく動かす。
ズリュ、ズブッ
激しい交わりにルリの門からぽたぽたと愛液が地面に落ちしみこんでいく。量が多いのかたれ落ちるだけでなく、太ももに幾筋も作って流れていく。
「ああ、子宮に突き当たってくる、当たってくるよ〜っ!!」
ズリュ、ブシュ!
「はぁ、はぁ」
シンジは子宮を突き破れといわんばかりに激しく突き入れていく。
「来てっ! もう、だめなの! 早く来てーーっ!」
「ああ、もうすぐだよ! もうすぐ、もうすぐ…はぁっ! いく、いくよ!」
「来てっ!!」
「うぉ!」「ああっ!」
シンジは精を放ち、ルリは達したのかぐったりとシンジに体を委ねた。
つつーーっ
ルリの門からシンジの精がたれポタッと落ちた。
「「はあっ、はあっ、はあっ、はあ」」
二人の息遣いが辺りの庭に響く。しばらく二人は心地よい余韻を楽しんだ。
「治まりましたか?」
顔を火照らせながらルリは聞いた。
「大分ね。相変わらず凄い締まりだよ。とても子を産んだ身体とは思えない」
シンジは久しぶりに味わったルリに感じたままを言った。久しぶりといったのはルリが身重であったからだ。子の父は誰かわからない。シンジかもしれないし師匠かもしれない、あるいは子の屋敷を訪ねてくる男どもの誰かだ。主たる北辰は身体で接待させる者達に当然やるべき不妊処置をせず、ルリの身体を無数の男たちが貪り、精を吐き出した結果である。
そして今だ子を産んでも女足りえるのは産んでも子を一度も抱けず、会わせてももらえない。母としての実感を持つことが出来ないがゆえであった。
「私はそういう風になるよう生まれてきたのです」
ルリは遺伝子操作によりそうなるようにデザインされて生産されたと北辰に思い込まされている。それを淡々と告げた。
「それだけでああはならないよ」
「…私を…私達を抱いても、気持ち良くなければ存在価値は無いのです。だからそうあるよう努力は惜しまないようにしているからです」
ルリは翳りを帯び、自分の妹分であるラピスの事も含めて言った。いや、同じような境遇にある同胞といってもいい女性達を含めてだ。ルリやラピス以外にも性の生き人形が居るのだ。
シンジは少しだけルリの本音が垣間見えたような気がした。
「………」
「シンジ様もこの屋敷で生きているのだからお分かりでしょう。私達の事は」
「確かに…でも全部じゃないけどね」
「今の私には何も無いのです。主に無理やり華を咲かされてから、香りの漂わせ方を、蜜の使い方を教え込まれた生き方以外は」
(そして果実さえも実らせる…か)
それからまた華を咲かせるための準備をしてと繰り返し繰り返し…
この屋敷は果樹園であり、シンジはその管理者、ルリたちは果樹なのだ。そして果樹ゆえに自分では動けない。
「今日は随分と喋るんだね。お師様に知られれば仕置きされるだろうに…」
ルリへの仕置きは先ほどシンジがレイに施したようなものではない。
「シンジ様が黙っていてさえいただければ」
「僕を信じてもいいのかな?」
シンジは少しサディスティックに嗤った。
「シンジ様はお優しいから」
「僕が、優しい?」
それは冗談のようにシンジには聞こえた。シンジは自分が優しい人間だと欠片も思ったことは無い。優しい人間はこの屋敷では生きていけないだろう。その心はこの屋敷に潜む闇に呑まれるか押しつぶされるのがオチだ。
現にそう言う者は屋敷の人形たちを不憫に思い連れ出そうとするのを何度も見てきたのだ。全て失敗しているが。自分にはそう言う想い等一度も抱かなかった。
ルリが師匠に蹂躙されるのを、屋敷にやって来る男たちに貪られるのを見ても何ら行動していない。そんな自分を優しいという。
「はい」
「…!」
迷わずそう告げるルリに得も知れぬ恐怖を感じた。そしてそれは破壊衝動となり、ルリを滅茶苦茶にしたいと思い始めた。
「…私は今日はもういいとのことです」
そんなシンジの様子を察したのかルリは告げた。その言葉には期待が篭もっているように思え、シンジは何だかルリの思惑に乗せられたのではないかと感じた。
だが、ルリの言葉について考えるだけの冷静さは残っていた。
(? 珍しいなお師様がルリを抱かないなんて。ラピスは身重だし、他に今日、可愛がるものっていなかったはず…まさかっ!?)
シンジの記憶が正しければ師匠が女を抱かぬ日など無かったはずだ。たった一つの理由を除いて。その理由とは立会い…いや、殺し合いか。
シンジは否応にも血が高ぶるのを感じる。またあの師匠の業を目にする事が出来るのだと。確かにシンジは訓練で北辰の指南を受けてはいるがそれは立会いでのものとは程遠い。
「シンジ様?」
急に黙り込んだシンジにルリは少し心配げに問い掛けた。普段、人形として殆ど感情を表さないルリとしては珍しものだ。そんなルリをシンジはいきなり両手で抱きかかえた。
「えっ!? きゃぁ!? シンジ様!?」
「…………」
シンジはルリの問いかけを無視したまま、ルリを抱えて自分の部屋へと運ぶ。シンジの鬼気迫る様子にルリもまた口を閉じた。
ドサッ!
「きゃっ!」
シンジは自分の部屋まで来ると敷かれている布団にルリを放り投げた。
「シンジ様!?」
「………」
ピシャッ!
シンジは乱暴に自分の部屋を仕切る襖を閉めた。そして中からは
「えっ! あっ!」
ビリビリ
布を引き裂くような音が聞こえた。
「ああっ! 乱暴にしないで! ん… あはっう」
その後、延々と女の嬌声が襖の奥から聞こえた。
「そうか…妖精がな…(心を開いていたか…思った通りよ)」
北辰はシンジとルリの事について報告を受けていた。二人には気付かれずに監視を付けていたのである。別段、疑ってのことではない。
「…よろしいので」
妖精をそのままで良いのかと部下たる烈山は聞いたのだ。端から見れば妖精が御曹司、シンジを篭絡せんと図っていると見えたのだ。因みに人形や、妖精、御曹司は言わば符丁のようなものだ。
「妖精に御曹司をどうこうなどできはせんよ」
「しかし…」
北辰はどうということは無いと言うが実際には見ていないからそう言うのだと烈山は思った。
「分かっておる。主も御曹司を可愛がっているのは知っている。されど妖精ゆえに御曹司に危害を加える事ができんのよ」
絶対になと言外に含んだ北辰の言葉に烈山は疑問が生じたが押さえ込んだ。
「…諾」
烈山は一礼すると北辰の下から消えた。
「シンジは我が認めた後継よ。但し我とは又違う外道だがな…」
何れこの屋敷もそれに属する人も人形も全てシンジが受け継ぐ事になる。
コホッ、コホッ
北辰が口を押さえ離すとそこには血が吐かれていた。
「ふふ、若い頃からの無理が祟ったか。あと3,4年か」
どんな業でもその術を残したいと思うのは人の業であろうか。北辰もまた死期を知ってしまった事で、その業に囚われていた。
「だが我は運がいい。我が業を継ぐに相応しい素材を見出したのだからな。明日から楽しみよ…」
ゴホゴホと咳き込みながら、先日に会った少女に業を叩き込む事に北辰は喜びを見出し思いを馳せた。
*
「あんたがシンジね」
いきなりシンジに少女が胸を張って偉そうに声を掛けてきた。少女はシンジと同じぐらいの年頃のようだ。黙っていればフランス人形のように思えるが少女の青い瞳が強い意志に輝いているのでとても生き生きしていると感じさせる。まあ、残念ながら金髪ではなく栗色の髪なのだが。
「そう言う君は誰?」
シンジは訝しげにその少女を見つめた。こんな人物が屋敷に出入りしているという事はこれまで無かったからだ。そんな態度で居るシンジに向こうはむっ、としたのか睨み返してくる。
その反応にシンジは自分の苦手なタイプだという評価と初対面の人間に対する態度じゃないということで礼儀知らずという評価を付け加えた。
「私はアスカ。惣流・アスカ・ラングレーよ。今日からここで世話になるわ。あんたのお師匠さんに私も業を教えてもらうの」
「ふーん(なんーだ、人形の素材じゃないんだ。残念…)」
シンジはアスカが自分の妹弟子になるという事で、少し残念に思った。前に師匠が自分にとって扱いが難しい…苦手と思えるタイプを完全に人形として支配できれば一人前という言葉を思い出したからだ。だが少女の言葉から師匠が女を絶ったのは、この少女が原因という事がわかった。
「だから、あんたはお払い箱って事よ」
「どうして?」
「決まっているでしょ。私があんたを圧倒的に凌駕するからよ」
少女は自信満々に宣言する。そこには揺ぎ無いまっすぐな光をもった瞳が輝いていた。
「あはっ、はは、はぁっ、はっはっはっ。いひ、いひひひ…」
その輝きを見た瞬間、シンジは哂った。
「な、なによ!?」
普段のアスカなら馬鹿にされたと思うだろう。だが、シンジから醸し出された雰囲気が薄気味悪さを感じさせた。
(さすが、お師様。目の付け所が違うよ。参ったな。これから楽しくなりそうだよ)
シンジは治まっていた笑いがまた沸き起こるのを抑えるのに苦労する。ここでまた哂ったりすれば目の前の少女と衝突することになるのは目に見えている。
「いや、すまないね。でも僕はお払い箱にはならないよ。僕は君とは違う方向だろうからね」
「何ですって!?」
アスカはシンジの言動が気に入らなかった。日本語を使い慣れていなかったので、シンジに馬鹿にされていると思ってしまった。シンジが自分はお払い箱にならないといった時点で、アスカはシンジが自分など問題にならないと見下されたと思い、頭に血が昇ってしまい衝動的にシンジに掴み掛かった。
アスカはNo.1にならなければならないという一種の強迫観念に囚われていた為、自分が一番になれないと言われたりすると容易くたがが外れるのであった。
ドガッ!
「うぐっ!」
だが、うめいたのは襲い掛かったアスカの方だった。アスカはどうやって投げられ地面に叩きつけられたのかわからなかった。今は兎に角、叩きつけられて全身に痛みが感じられ、動くに動けなかった。
「いきなり何をするんだよ。びっくりするじゃないか」
シンジは内心、やりすぎたと思って舌打ちしていた。自分はまだ未熟なので反射的に技を掛けてしまい加減などできなかった。できたのは精々、頭から落として首を折らないようにできただけだ。今の自分にそれができただけでも誉めてやりたかった。
ただ、これについては師匠から何か沙汰があるかもしれないと考えてしまった。それは当然だろう。師匠はこの少女に業を仕込もうとしていたのである。それを前に潰してしまったらどうなるかわからないとシンジにしては珍しく顔が蒼くなり、動揺した。思わずお仕置きは嫌だと叫んでしまいたかった。
とりあえず、衝動を抑えアスカから背を向ける。できるだけこの少女には弱みを見せてはいけないと心の警鐘がなっていたからだ。それに今は何を言ってもこの少女とは衝突しそうなので逃げを打つ事にした。
立ち去ろうとするシンジを見てアスカは自分の無力さが悲しかった。そして何より、自分より優れているのだといわんばかりに自分を叩き伏せたシンジに憎しみを覚えた。その憎しみは思いのほか強く殺意にまで劇的に変化した。本能でこれから先このシンジというこの少年が自分の望みを叶えるのに最大の障害だと感じたのかもしれない。
「殺してやる…」
アスカはそう呟いた。今の自分にはその力はない。でも、その力を手に入れたときには必ずと言う決意をもって。
だがこの呟きがアスカにとり、殆どトラウマといってもいいくらい魂に傷をもたらす事になった。
ピタッ
シンジはアスカの呟きを耳にして歩みを止めた。
(僕を殺す? ころす? コロス? ソウカ、ボクヲコロソウトイウノカ? ナラバ、アレハテキダ!! テキナラバ、ハイジョシナケレバナラナイ)
殺すという言葉がキーワードとなったのかシンジの雰囲気が劇的に変わった。穏やかな清流が岩をも砕く濁流へと瞬時に様変わりしたのだ。
「君が僕を殺そうというのなら……殺される前に殺す」
ただならぬシンジの雰囲気にアスカは身を縮みこませようとしたが、身体はまだ自由に動かせなかった。
シュッ!
音が聞こえアスカには何かが頬にかすったことしか感じなかった。その頬から何かがたれるのを感じた。何なのかと混乱したアスカの視界にどこから取り出したのかシンジの手にはいつの間にかナイフが握られ刃を舐めていた。僅かながら赤いものが付着しているのが見て取れた。
「ひぃ!」
それを見た瞬間、それが自分の血だと理解した。さっき自分は頬をシンジの持つナイフで切られたのだとわかり悲鳴を上げた。だが恐怖は始まったばかりだった。
太陽の光に反射したのか銀行が閃いた。シンジがナイフを振るったのだ。アスカのさっきの頬とは逆の方に赤い筋が生まれた。
「いやっ! やめてっ!!」
アスカは悲鳴をあげて止める様、懇願するがシンジは聞いていないのか次々とナイフを振るい始めた。何回、何十回と繰り返していく。そのナイフ捌きは絶妙でアスカの体の所々に赤い筋を作っていく。その傷は薄皮一枚しか切られていないので肉体的には大したものではなかった。だが心理的にはそうはいかない。赤い筋ができていく都度に自分が切り刻まれていくという錯覚に取り付かれていた。
何度も何度も悲鳴をあげ、止めるようにアスカは懇願するが、その願いは通じずナイフを振るう行為は続けられた。最後の方はアスカはただ目を見開いている状態に陥った。シンジは恐怖を与えることで肉体ではなく魂を切り刻んだのであった。
「申し訳ありません…」
シンジは師である北辰を前に土下座していた。理由は弟子となるはずのアスカを再起不能状態にまで追い込んだことであった。
「……事の詳細は聞いている。あの経緯ではああなっても仕方あるまい。我の予定が少々狂ってしまったがまあよい。沙汰は後ほど告げる」
北辰はそう告げ、シンジを下がらせた。
「さて、再び立ち上がれるか? 期待を外すなよ? 惣流・アスカ・ラングレー」
元々、北辰はアスカをそうする予定だっただけに手間が省けたと思っていた。まあ、自分ではなくシンジがやったという違いはあるのだが。
例え高い素養を持っていようとも、今のままでは一流には成れてもそれだけだ。自分や好敵手のようにその先に辿り着く事はできない。それでは育てる意味が無いのだ。絶望を知り、それでも這い上がるだけの執念を持たねば辿り着けぬ境地があるのだ。
「できねば、人形にしてくれよう」
それもまた一興ではあるかもしれん、あの見目ならば一級品に仕上げることも出来ようと唇を歪めた。
「ふう、助かった。お師様に殺されるまでは行かなくても苦行を積めと言われる位のことは覚悟してたんだけどな」
あの様子だともっと軽いものみたいだと今までの経験から読み取った。シンジは先ほどの騒動でするはずだった予定を消化する為に地下へと向かった。
(相変わらず、この地下は居心地が悪いな…それも仕方ないか)
ここは人形を作り出すための場所だ。その対象たる女の怨嗟の念が渦巻いているのだろうから。もっともそんな事で臆するほどシンジは、いや、この屋敷にいる男は柔ではない。
(ふーん、ここはダメだったのか…うまく育てば一級品になれるって期待されてたのに)
昨日まであったベッドが撤去されていたのを見て、シンジはこの部屋の主、いや囚人がどうなったのかを悟った。なんだかんだ言ってもうまく育つのは十人に一人と言われていた。
(やっぱりこの時期は、多いな)
通路を突き進みながら、時折空になっている部屋があるのを見て感じた。
(まあ、もうじき補充されるんだろうし、今の僕には関係ないか…)
少しばかりの感傷にふけっているといつの間にやら、目的地が目の前まで来ていた。
「やあ、元気している?」
「………」
シンジの声にレイは無言で返した。
「ふふ、元気なようで何より。まあ、お亡くなりになっても代わりは幾らでも居るからね」
ビクッ
(この人は私の事を知っているの!?)
普段の精神状態であれば、どうって事のない言葉であるが、ここに来てからは心を揺さぶられる事はしばしばであった事がレイを反応させた。
「さて、じゃあ何時もの訓練をやろうか?」
レイの事を知ってか知らずかシンジは指示を出した。
「……はい」
レイは素直に指示に従った。でなければ、鍼の恐怖を味わう事になるからだ。身体を仰向けのまま両腕両足で立ち、腰を浮き上がるよう限界まで行いしばらくその状態を保った後、沈めるといった奇妙な体操をここに来てからずっとやらされていた。
シンジはそれを無言で見つめていた。手を抜けば即座に仕置きをする為にだ。今の所レイはシンジにとり、言う事には素直に従うという実に扱いやすい模範生であった。
(最初から人形のような子を使う…か、確かに初心者向けかもな)
シンジは師匠がレイを自分の教材としたか分かったような気がした。実際は外に思惑があったのだがシンジに知る由はない。
もうこんな事続けるなって、もういやっ!
うるさいっ! そんなわがまま言うとはお仕置きだ!
ギャーーーッ!!
シンジが考え込んでいると隣からか言い争う声が聞こえてきた。レイもその騒ぎを耳にしてビクッと振るえ体操を止めてしまった。
「君には関係のないことだ。何も考えずに続けるんだ」
「…はい」
レイはいまだ隣からは悲鳴が聞こえており、耳を塞ぎたい気持ちになるがシンジはそれを許さずに奇妙な体操を続けるように言われ、自分のすべき事に没頭した。
しばらくすると悲鳴もやんだ。
「…あの様子じゃ、壊れたかな?」
シンジがそんな事を呟いたのは隣の担当が扱いが結構荒っぽいとして前から気になっていた者だった事思い出したからだ。
(それなりに使えるけど仕上がりが少ないとか烈空さんが言ってたっけ)
女は陶器のように扱えとコツを教わった兄弟子の言葉を思い出した。
(後で見てみてあまりにも酷い様なら…)
シンジは物騒な考えをした。そんなシンジを奇妙な体操をしながらレイは横目で観察していた。
(この人は何?)
レイはシンジが時折見せる表情から言い知れぬ恐さを感じていた。自分と違って純粋な人だというのに、同じ種である人をこうも物扱いできることを感じて、まだ自分の方が人ではないかと思えた。
「さてノルマが終わったら、遅れてしまったけど食事にしよう」
シンジが遅れてしまった為に,基本的にシンジがいなければ身動きをする事もできないレイは,食事を口にすることができなかった。
何もできない状態であれば、食事が唯一の楽しみになるのだが、実際はうんざりするだろう。なんと言っても、出される食事は基本的に草粥であり、その味は薬くさい物で楽しみにできるようなものではなかった。レイ自体も今までは食事など栄養補給に過ぎないと、余り頓着することはなかったが、この薬くさい味と臭いはあまりいい思い出のない場所を思い出す為、いい加減うんざりしていた。
それでも食べつづけなければならない。拒否しようものなら鍼を使われるだろう。
レイは無言でシンジの言葉に頷き、課せられたノルマをこなしていった。ノルマが消化されるのを確認するとシンジは食事を取りに出て行った。
彼女の生活はこのベッドに寝かされてから、ほとんど変化はない決められた事を、繰り返し繰り返し行うだけだ。
起きれば、奇妙な体操、食事は3度出されいつも薬臭い草粥、入浴はシンジに運ばれ、入れられる。それが終われば甘い香りの香油を体全体に擦り付けられる。そして就寝。
時が経つごとに感覚が平坦になっていき、今が何時なのか、昼なのか夜なのかさえ判らなくなっていった。シンジ以外の誰にも、自分と同じような境遇と思われる人物にも直接には会ったことはない。大半を独りで過ごす事は孤独に慣れている自分にはそれほど恐怖ではない。じっとしていると時折聞こえてくる悲鳴やうめきは、心を震えさせることがあるがそれも耐えれないことはない。それよりも、自分の意志では何もできず、どんどんと人形に近づいて行く…それはレイにとり、恐怖であり、じわりじわりと侵食され自分が消えていく感覚に陥っていた。
時折、ここに来る時の会話を思い出し、何時かはこの場所から開放される事はわかっている。だが、その時、今の自分のままで居られるのか不安に駆られたが細い肩を自分で抱きしめる事もできなかった。その時、目から何かが零れ、頬に伝った。
「これは何? これが涙?」
レイはこの場所に来てから、負の方面ではあったが感情を少しづつ学びはじめていた。
*
シンジは北辰に呼ばれ、彼の私室へと赴いた。シンジが訪ね、入るとそこには北辰が思わず見惚れてしまうほどのキチッとした姿勢で正座し、その背後の左右にルリ、ラピスが同じく正座で静かに控えていた。
その様子を見たシンジは、珍しく息を呑み部屋に入るのを躊躇して入り口で立ち止まってしまった。
「どうした? 入れ」
「は、はいっ! し、失礼します」
シンジはまさか厳粛に包まれた雰囲気で待っているとは予期していなかったが故に、不意討ちを食らって飲まれてしまったのだ。そんなシンジの反応にルリやラピスは少しだけ珍しいものを見たと目を丸くした。
そんなシンジの態度に北辰自身は口元に笑いを浮かべていた。
「シンジを呼んだのは他でもない。弟子の件だ」
「はい…」
シンジが神妙に頷くのを見て北辰は自分の手元に置いてあった二つの無針注射器が綿詰めされた箱を無言でシンジの前に押し出した。
「これは?」
「「「………」」」
シンジは聞くが目の前の3人は無言のままシンジを見つめた。
「えーと……」
もうヘビに睨まれたカエルのように脂汗をシンジはダラダラと流した。
(これはやっぱり、この注射器を打てという事だろうか?)
シンジは緊張のあまり、自然とごくりとつばを飲み込んでしまった。
「選べ…」
「はい?」
北辰の短い言葉にシンジは戸惑ったが、直ぐに了解した。つまり、目の前のどちらかの無針注射器を打てということだと。
(でも、これが何かということが問題だよな。まさか、毒って事はないよな?)
今までのにもお仕置きでいろんな事をされたっけとシンジは思いにふけった。今回もアスカの件で呼ばれたことからして、おそらく罰だと思われるので余計に恐い。
(問題はどちらも同じじゃなさそうだって事だ)
過去の経験から、どちらかはろくでもないもののような気がした。いや、一つはろくでもないもので、もう一つはよりろくでもないものなのだ。
(そのどちらかを選択しろというわけか)
まあ、考え込んでも分からないのだから適当に選ぶしかない、と右の方の無針注射器に手を伸ばそうとするとした時、鋭い視線を感じた。
「!」
シンジはその視線を追うと北辰の後ろに控えていたルリが目を細めていた。
(? これはダメなのか?)
シンジはルリが何かを自分に知らせようとしているのかと訝しんだ。手を引っ込めるとルリからの視線は和らいで消えた。
(やっぱりそうなのか? じゃあ、こっちが正解か)
そう思って今度は左の方の無針注射器に手を伸ばそうとするとまた、鋭い視線を感じた。
「!(まさか…)」
シンジはその視線の主を確かめる。北辰の後ろに控えていたラピスだった。さっきもそうだが視線が誰かは見なくても分かるものだった。ただ、その視線の強さに確認せずにはいられなかった。
(どういうことだ?)
シンジは混乱した。それはそうだろう。右を取ろうとすればルリが、左を取ろうとすればラピスが取ってはいけないと視線を送ってくるのだから。
(どういうことだ? お師さま!?)
わらに縋る思いで師匠たる北辰を見ると口元に薄ら笑いを浮かべていた。
(た、楽しんでいる!?)
言い知れぬ戦慄がシンジの背を駆け抜けた。北辰の笑みにどちらを取っても地獄なのかとシンジは動揺した。
(くっ! どうすればいいっ?)
判断がつかぬまま手が左右に彷徨う。右に行けばルリ、左に行けばラピスにじぃっと見つめられるのであった。
「どうした? 選ぶが良い」
北辰の抑揚の無い声がシンジの焦燥感を煽った。
(! そうなのか!?)
しばらくの逡巡の内にある結論に達した。
(そうだ、発想の転換だ! 右でも左でもダメというよりも、多分、右だけでも左だけでもって事なんだ!)
結論が出た後のシンジは素早かった。二つの無針注射器を取ると一気に腕に押し当ててそれぞれのボタンを押した。
プシュッ! という水が噴出すような音がすると共にシンジは体に何かが入って来るのを感じた。
(毒とか、あんまり変なのじゃないといいな…)
極度の緊張状態が続いたためかシンジにしては珍しくふらぁっと意識を失い倒れた。あるいは無針注射器で打ち込んだものによる効果かもしれない。
「ほーう」
北辰は一連の行動を見て楽しそうに笑った。シンジには4つの選択ができた。右を選択、左を選択、二つとも選択、そして選択しないである。北辰はシンジは最後の選択しないを選ぶと予想していたのだが、最も選びそうに無いものを選び外れた事に感心した。
確かに普段のシンジであれば北辰の予想通りの行動をしたのであろうが、今のシンジは心が揺れ動きすぎていた。
(これは未熟というべきなのか、それとも…)
北辰は倒れたシンジを介抱する二人の妖精を見やりながら、先ほどのシンジの行動を考えた。
自分の後ろに控えていた妖精がシンジに影響を与えたであろう事を感じはしたが、それがどういう意味でシンジに影響を与えたか考えねばならなかった。場合によっては修正せねばならないからだ。
(選択肢の中で一番、面倒なものを選ぶとはな)
シンジが無針注射器で注入したのは生体強化する為のナノ・マシンであった。まだまだ開発途上のものであり、不適合であれば最悪であれば死に、軽くても障害がでるという代物だ。それを通常一本の所をその倍注入してしまったのだ。どうなるか分からない。
拒絶反応を起こして死ぬ事は無い事は、数時間で分解する適合テスト用ナノ・マシンを事前に注入して分かっていたが、所詮テスト用であるし、規定量を超えているのでどんな結果になるかは分からない。
死にさえしなければどうとでもなると北辰は考えた。それぐらい妖精達はシンジに執着していた。それは産んだはずの赤子に向けられるはずの母性によるものかもしれない。
(さて、アレは這い上がる事ができるのか…だな)
もはや、シンジの事については頭の隅から追い出し、新たに弟子となるかもしれない少女に見込みどおりであれと想いを馳せた。その想いが届いたのか予想よりは少し遅れたもの復活を果たすことになる。
*
道場のような所で男と少女は対峙していた。男は年齢は四,五十台ぐらいだろいと思われ今時そんなの着ないだろうと着流しを着ていた。少女の方は十代前半ぐらいとかなり若かった。そんな彼女は真っ赤な空手着を着ていた。
そんな二人の間には尋常ではない雰囲気が立ち込めており、どちらも動こうとしなかった。だが、二人の様子には決定的な差があった。少女は目を逸らさずに、射殺してやるとばかりに睨み付け構えていた。逆に男の方は静かにただ、立っていた。少女の睨みにも、何ら痛痒を感じずむしろ心地よいと口元に笑みさえ浮かべていた。
最初に動いたのは我慢が出来なくなったのか少女からだった。その動きは野生の豹を思わせるほど俊敏で、次から次に突きを、蹴りを繰り出した。男の方はそんな少女の攻勢を反撃する事無くかわしていた。少しづつ焦れてきた少女はこのままではいけないと思い直し、フェイントを織り交ぜて攻撃し始めた。そんな攻勢に男はとうとう捌ききれなくなったのか体勢を崩し隙を作ってしまった。
「やぁっ!!」
少女はチャンスとばかりに必殺の突きを放った。
「甘いわっ!」
実際は男の誘い…罠であった。少女の突きのタイミングを見計い、突き出していた拳を反らしざま手首を取り、捻り決めた。少女の華奢な腕はあっさりと折れる。
バキッ!
いやな音が辺りに響く。
しかし、それだけでは終わらないそのまま少女の体を肩に乗せ、投げ飛ばした。それは鋭く地面に脳天直下で落とす。少女は何とか首を捻り、受身を取った。
ドスッ!
が、投げが鋭すぎた為に完全にダメージを逃す事などできない。
「がはっ!」
それどころか衝撃で一瞬、気を失い、呼吸さえもできなかった。受身が取れていなければ、今ごろは首の骨が折れ即死していたであろうからまだマシな結果であった。
もはや何も出来ない状態に陥った少女へ、男は容赦なく蹴りを叩き込んだ。
ドムッ!
少女はサッカーボールよろしく勢いよく吹き飛び壁に激突し、気絶した。
「ふむ、まだまだよな」
男はあごに手をあて、今後の教育方針を考えた。
「お師様、容赦ないですね」
そんな男に何時の間にやら現れた少年が声を掛けた。
「シンジか…当たり前よ。戦いとは命のやり取りゆえな。不味い手を打ってしまえば、どうなるかを体に叩き込んだだけよ」
お前にもそうしてやったであろうと男、北辰はシンジを見やった。
「ははっ、確かに」
口調は軽いものであったがその時の事を思い出したのかシンジの顔は引きつっていた。今でもその体験は背筋が寒くなるようなものばかりであった。
「丁度いい。シンジよ。アレを医療ポッドに放り込んでおけ」
そういい捨てると北辰はさっさとその場から立ち去った。
「相変わらず物騒だよな。さてと、惣流は無事かな? っと」
一部始終見ていたのだから大丈夫のわけがないというのにシンジは軽い口調でつぶやいて倒れている少女、惣流・アスカ・ラングレーの下へと向かった。
「うーん、流石、お師様。きれいに折っているな。これだったら医療ポッドに放り込んでおけば丸1日で直るかな? 蹴りで肋骨もヒビが入っているな」
まともに蹴りを食らっていれば、内臓破裂で死亡していただろうが、よくあの状態で蹴りに乗れたもんだとシンジは感心した。そのお陰でアスカは派手にぶっ飛んだものの命を拾う事が出来たのだ。
シンジは応急措置を行った後、アスカを米俵のように肩に担ぐと医務室へと向かった。この屋敷には所々に現代のものよりも数段先をいく技術が何故か存在し使われていた。医療ポッドもそのひとつである。
「やれやれ、こんな力仕事は久しぶりだな」
シンジはその様子からそう思えないのに口にした。
「………」
「クスッ。君は負けん気だけは変わらないんだね」
シンジのつぶやきはシンジが担いだアスカが何時の間にやら気がつき、シンジの独り言を聞いていた。アスカはシンジの言葉を自分が随分重いと言われたと解釈して、殺してやると囁いたのだ。最初の出会いの時の事を考えれば、シンジにそんな言葉を投げつける事など出来はしない。あの事でアスカは一時期、廃人同然の状態になっていたからだ。それでもなお口に出来たのは、アスカがそれを完全に克服している事を意味していた。
「まあ、まだ体動かせないでしょ? おとなしくしてやほうがいいよ? 無理すれば後に尾を引いて損をするのは君だからね」
シンジの方も最初であるならともかく、今はある程度アスカの性格を知っているので受け流した。
「………」
シンジの言葉にアスカは素直に従った。シンジに対して過去のわだかまりはある。それはそうだろう、自分を廃人一歩手前まで追い込んだのだから。ただ、それは自分の身から出た錆と言えるものであったが、忘れられるものではない。
ただ、基本品的に怜悧な頭脳を持つアスカは、シンジの言葉を合理的に考え、従うのは癪だが今は大人しくするのが賢明なのだと判断した。ただ、その判断は少し後になって後悔する事になった。
すなわち……
「ちょ、ちょっとぉ!? 何、花の乙女の裸をあんたにさらさなければいけないのよ!」
アスカは悲鳴をあげた。何故ならシンジに担がれて医務室につくなり、ベッドに投げ出され、身動き取れないのをいい事に身に付けていた服を剥ぎ取ろうとした。別にシンジはアスカに不埒な真似をしようとしたわけではない。単純に医療ポッドを使うには裸で無ければいけないからだ。
「何を今更」
アスカの言動にシンジは呆れた。シンジが服を剥ぎ取ろうとしたお陰ではだけて、年齢のわりには成長している乳房の片方がさらけ出されていた。そんなアスカを見てもシンジの視線には厭らしさなど無かった。
「別にあんたじゃなくてもいいじゃない!」
先ほどまでと違って大声を出せるぐらいには回復できたようだった。医務室と言っても医者が常駐しているわけではない。大抵は医療ポッドで済ませる事ができるからでもある。それ故に今この場にはシンジとアスカの二人きりだった。
「そんな事言っても他には居ないし」
「誰か呼びなさいよ! ルリとかラピスとか!」
アスカは妖精とも呼ばれているこの屋敷にいる女達とは違う特別な位置に居る女性の名前をあげた。彼女達は唯一、屋敷内であれば自由に動ける事を許されていた。
「そりゃ、無理だよ。わかっているでしょ? この時間だから二人ともお勤めだよ?」
「………」
シンジのさらりと言われた言葉にアスカは押し黙った。アスカもまたこの屋敷で一時的にでも生きることを選択した事で全てとは言わないが事情は大体知っていた。
その事でこの屋敷に居る男達は基本的に女を物を見るような目で見る傾向にあり、その辺だけは自分も女だけあって馴染めないでいた。ただ、北辰の弟子と言う事でアスカ自身はそんな目で見られる事は滅多にないが、その事情を知らない者には何度もそう言う視線に晒された。
又、シンジが言っているお勤めという言葉の意味も理解し、今この屋敷に自由に動ける女手が居ない事を悟った。
「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃない。どうせ、僕はアスカの全部知ってるんだし」
「なっ!?」
シンジの大胆発言にアスカは何時の間にか私はシンジに手篭めにされていたって言うの? と絶句した。
「だって、アスカが廃人寸前まで言った時、そうなった原因の僕が身の回りの世話を全てする事になったんだよ? その時にもう頭の先から足の爪先までもう全部知ったから、本当に今更だよ」
ひょっとしたら黒子の位置なんて本人なんかよりも知ってるかもねとシンジの言葉に更にアスカは脳がショートしてしまった。アスカのような微妙なお年頃にはかなりショックな事であった。事実、呆然としたアスカの服をシンジはさっさと脱がしても、気付かなかったぐらいだ。
アスカが再起動したのは医療ポッドに放り込まれて、治療用の溶液が満たされた時だった。騒ごうとするも医療ポッドからは音が漏れず、立ち去っていくシンジの背中が見えるだけだった。
*
あれから幾月経ったのか分からない。いまや時間間隔さえレイは麻痺していた。ただ、こんな扱いの中でも自分の体の成長や髪の伸び具合から、ここに来てから結構な年月が経っている事がわかった。
そんなある日、いつもの通りにシンジはやってき、いつもの繰り返しが始まると思ったが違った。
「やあ、いつものように元気しているかい?」
「………」
今までの教訓から話し掛けられたとしても反応しないのが不文律となっていた。なぜなら、人形として求められており、人形は返事しないからだ。
「今日から次の段階に入る事になった」
びくっ
シンジの淡々と告げる言葉にレイは反応した。何をするか告げられてはいないが不安が、恐怖がレイを襲った。それは表面上に出る事は無かったが、表面下では感情豊とはいえないが確かに様々な想いを抱くようになっていた。
「ふふ、怯えなくても大丈夫さ。どちらかと言うといい事じゃないかな? それにしても君のオーナー、ああ君にとっては司令と言った方がいいのかな? は無茶を言ってくるよね。本来なら、最低でも後2年は必要だってのに半年後には返せって言うんだから…」
仕込みにて人形としての身体を作り、仕上げとして女を開花させ、調律として悦びの与え方を行うのである。今回は仕込みの次、即ち仕上げを行うのである。
「………」
レイはシンジの言葉を聞いて碇司令は自分を棄ててはいないと感じ、胸のうちが少し暖かくなった。
「君なら後3年費やせば、至上のものができるのに…残念だよ。まあ、君に言ってもせん無いよね」
シンジはレイの反応など気にぜず、じゃあ、行こうかとレイを両手で抱き上げた。
何処へ行き何をするのかと、不安になったもののレイにはどうする事もできず、流れに身を任せるしかなかった。
レイが連れて行かれた先にはここを訪れた際に最初に会った男、北辰が待っていた。
「お待たせしました。お師様」
シンジの言葉に北辰は無言で頷いた。シンジは部屋の真中にある寝台にレイを置いた。
「始める」
「はい」
シンジ達は短いやり取りの末、レイに巻かれていた包帯を外していった。その後にはレイの白い裸身が横たわった。
「…見事だ」
「そうですね。お師様…」
二人の男はレイの裸身を見て息を呑んだ。そこには未成熟ながら神秘的な雰囲気を纏っていた。
「これは確かに惜しいな…」
「本当です」
冷徹に自分を見下ろす師弟にレイはゾクッと悪寒を走らせた。
「だが、致し方あるまい。これほどの素材を中途で仕上げねばならぬとは」
レイは北辰の仕上げと言う言葉に先ほど以上にぞわぞわっと背中に来た。それはこれから自分が何か徹底的に変わってしまう事を感じたのだ。
「口開けはシンジがやれ」
「いいんですか!?」
てっきり、師匠がやるものだとばかり思っていたシンジは驚いた。
「これはシンジの為の教材よ。基礎的なものを施すのはお前がやるのだ。この娘に関してはシンジだけで行え。シンジで必要とあれば手を貸すがそれとて必要最小限のみよ。心して掛かるがよい」
「わかりました」
シンジは頷くとレイをうつ伏せにした。その後、シンジは何かを探るようにレイの背中から腰にかけて指を這わせた。それをしばらく続けて何かを探り当てるともう片方に手にしていた鍼を見つけた場所に刺した。
「ひゃうっ!」
激痛が走り、レイは悲鳴を上げた。自分は何もしていないのに鍼を刺されたことに恐怖した。
「大丈夫だよ。今やったのは・・・だ。じきに身体がうずくようになるだけだ」
「うずく…?」
「蕾から華に変える為の前準備さ」
「ひゃぁ! な、なに? か、身体があ、あつい…」
シンジの言葉が引き金となったの自分の身体の変化にレイは戸惑い始めた。特に下半身が熱くなり、じゅんと湿りだしたのをレイは感じた。
「反応が凄いね。感じやすいのかな? こんなの初めて見る」
「ひぃ!」
シンジに下半身の熱くなった所を指で撫で上げられ、一瞬、電気が走ったかのようにびくりとはねた。
「凄い濡れようだ…」
指に絡みついたレイの秘所より染み出した愛液を眺め、ぺろりと舐めた。
その動作にゾクリと得体の知れぬ感覚をレイは感じ、乳房にある突起がぷくっと張れ、更に下半身が熱くなるのを感じた。
(何? 何がおきようとしているの?)
言い知れぬ不安感がレイを襲った。
「さて頃合だね。これだけ感じていれば。対して痛みは感じないかな?」
ジロジロとレイの全身をくまなく見渡し、シンジは自分も裸になった。その後、レイの前に来たシンジはその裸を堂々とした態度で見せた。
「………」
レイは今何が起きようとしているのか、混乱しながらもシンジの股間にそそり立つモノに自然と目が引き寄せられた。
最初は何をされようとしているのか分からなかった為に混乱したが、そのそそり立つモノを見て何をしようとしているのか理解した。
シンジはあのそそり立つモノを使って自分に入ってこようとしており、その事に自分の身体が反応し、興奮と期待で満ち溢れようとしていたのだ。
「さて、いくね」
レイの予想は違わずシンジは掛け声と共にレイの股間にある小さな割れ目にそのそそり立つモノをあてがった。そして…
ずぶ、ずぶずぶ、ずぶぶ…
レイの割れ目にモノが槍の様に徐々に突き刺さり、埋め込まれていった。途中、侵入を阻むもの…処女膜があったがそれさえも容易く突き破った。
「ぐぅっ! うはっ!」
レイは自分の中に侵入してきたモノに引き裂かれ、頭を殴られたような衝撃を感じ、びくんと腰を跳ね上げ、背中を折れそうな程反らした。
「くっ! 入った!!」
途中処女膜による引っかかりはあったものの、洪水のように漏れ出ていた愛液のお陰かスムーズに奥まで届いた。シンジは狭くも広くもないこの絶妙な包み具合に戸惑いと強烈な気持ちよさを感じ、射精しそうになっていた。
「す、すごい…な、何なんだ? す、吸い付いてくる」
気を抜けばすぐさま精を吐き出してしまいそうなこの感覚に今まで抱いた女とは違うものをシンジは感じていた。本能が存分にこの女…牝を犯せと訴えていた。
だが、その一方で勘がその衝動に飲まれてはいけないと鋭く警鐘を鳴らしていた。
そんな戸惑いをよそにシンジのモノを取り巻いていた肉が蠢き始めたのを感じた。
「うわっ!」
その不意打ちされた感覚にシンジは精を迸らせてしまった。内心、しまったと思ったが、それを上回る昂ぶった快感に押し流された。
「はぅっ!」
レイは最初だけ激痛を感じたがしばらくするとその痛み消え、逆に快感となって襲ってきた。普通出れば羞恥心などで受け入れる事に戸惑いがあるのだが基本的にレイは無垢な心を持っていた故にそれを素直に受け入れた。そして、それをもっともっと得る為に貪欲になっていった。それを合図に自分の中の異物を締め上げ、押し包む事を意識し始めた。そんな行為は普通できない事を少女は知らない。
彼女の動きは直ぐに成果が現れた。自分の奥に熱い何かが叩き付けられ、注ぎ込まれるのを感じブルっと身体を振るわせた。心が身体が昂ぶっていく。
「ぐぅあ! 何だ? 何だこれ?」
そうシンジは叫びながらも、腰を降り始めた。
「ああ、こんなの初めて…」
先程まで処女であったのだからその言葉は当たり前なのだが、彼女の漂わせる媚態を第三者が見れば経験を積んだ女と感じさせただろう。現に二人の交わりを見ていた北辰にはそう見えた。
「生まれながらの娼婦…やはりな」
綾波レイの出自からそれは予想されてしかるべきものと北辰は捉えていた。下手をすれば精を絞りつくされ死ぬかもしれないという危険があると判断したからこそ自分ではなく弟子を贄としたのだ。己の判断の正しさに北辰は頷いた。
「まあ、我の推測どおりならばシンジも死ぬことはあるまい…」
北辰とて無碍にシンジを贄としたわけではない。せっかく手塩にかけて育てたのにそれをあっさり手放すことはしない。シンジだけにある僅かな勝算に賭けたのだ。これだけはシンジ以外には無理だろうと思っている。根拠は碇ユイの息子であるという一点のみであったが。
その間にも二人はまるで融け合おうとするかのように腰を振り、唇を貪り、胸を揉みしだき、背中を掻き、激しく交わり始めていた。それは恋人が愛を確かめ合うようなものではなく、どちらかといえば生存競争での殺し合いに近いものを持っていた。
「もっと、もっとぉーっ!」
「ぐ、まだだ。まだ…ぐぅぅ、融けてしまいそうだ!」
最初こそ北辰は目的のために女断ちしていた身に堪らぬなと思っていたが、二人の熱気に当てられ、自分の怒張が痛いほどいきり立ち始め、何もせずとも快楽を感じ射精感がするにあたって、これはやばすぎると退散することにした。
途中で二人の交わりが自然と伝わっている人形工房ともいうべき場所では二人の気に当てられ、人形候補とその調律師達が見境なく盛りのついた猿のように交じり合い始めていたのを見て、とんでもない事になるかも知れんと自然と足早になってしまった。
これより一日後に北辰の命で様子を見に来た者たちは調律師達のほとんどが人形との交わりすぎで腹上死しており、人形は壊れていたのが発見された。一番心配されたシンジは綾波レイと共に満足そうな眠っているのが確認された。
*
最近、体調が思わしくない北辰は床から離れる事が出来なくなってきていた。やはり若い時分から体を酷使してきたつけが回ってきたようだった。
幸い弟子としてとったアスカには必要な事は荒っぽい方法でこの3年近くの間に体に叩き込んだので、後は指導だけでよかった。実技が必要な時はシンジや烈山達を使えば達せられる。
また、組織については幸いにも既に若輩ながらも代理としてシンジを指名し、何の問題も無く運営されている。本来であれば十代のガキが頂点に居る事を好ましく思わないものであるが、この組織に限ってそういう輩は居なかった。実力主義な上に、組織自体がまだ若く、未だ健全で派閥など存在しなかったからだ。
そういった上で組織の者は皆、シンジの実力を認めていたのだ。確かにシンジには未だ未熟な部分もあるが、そんな足りないものは周りが補えばいいと結束は固い。まあ要するに人気があるのだ。
多少不満がある者も確かに居るが、それは最近になって組織に属したものであったりするので、それほど問題ではない。
あったとしても、ほとんど引退同然の北辰が睨みを効かしているので表沙汰になる事は無い。それに不穏な動きをすれば、それを口実にシンジは排除に乗り出すだろう。現に掌握できそうに無い者は切り捨てるための準備をシンジはしていた。
「お師様、ご報告に上がりました」
今や、北辰に直接会うことができる少ない人物の一人であるシンジが一つの報告を持ってやってきた。
本来であれば、ある程度地位を持つ者は北辰に会えるはずなのだが一時期、見舞いが殺到して治療に差し障ると医者に締め出され制限を設けてしまったのだ。
外では嫌われる事の多い北辰であるが、身内からは信頼されており、皆、北辰の身を案じていたがゆえであった。
「うむ、最近、直轄の拠点を潰されたそうだな」
逐次報告を受けていた北辰は動揺する事はなかった。
北辰は口元に笑みを浮かべた。最早、自分では満足に動く事もできない身になってしまった、この時に宿敵が来る事を感じた。目の前に宿敵が現れればなす術なく屠られるだろう。だが、そんな逆境におろうとも、逆に来るべき時が来たと心が熱くなり、心なしか身体も軽くなったような気がした。
今の状態になる事を予想したが故に、その前兆が現れた時より、準備してきたのだ。
「はい。耳に入っておりましたか。詳細が纏まりましたのでお持ちしました。やはり、潰したのは兼ねてより、注意するように言われていた人物です」
拠点を潰された時に撮ったのであろう写真と記録を纏めた書類を差し出した。写真にはの黒服に身を包み、サングラスに黒いマスク、黒いマント、黒いブーツとを身につけると、もう、黒に何か思い入れでも有るのかというくらい、黒一色にするという徹底振りであった。
数年前に突然現れ、雷鳴のごとく闇の社会に潜む組織を次々と潰して回った男。その出で立ちから囁かれたのが黒の破壊者、黒き旋風、黒の王子、最近では黒の皇帝などなど。
噂においても黒と付く男…テンカワ・アキト。随分前にルリやラピスの寝言で聞いた事があるぐらいで、シンジはどんな男か知らないし、興味もない。今でも寝言で聞いていたなら別の反応をしたかもしれないが、自分にとり余り係わりのないものと捕らえていた。今までは。しかし、自分の組織に牙を剥き噛み付いた以上、それなりの代償を支払ってもらわねばならない。
「くくく、あやつめ、ここに辿り着くのに随分かかったものよ。いや、個人だったからか。昔は組織に、いや人材にか恵まれていたという事なのだろうな」
北辰はもう10年近く前となる宿敵の復讐劇の時と今回との事を比較した。宿敵が今回、この屋敷に辿り着くまで数年を要していた。それだけ北辰が表立って動いていなかったという事でもある。
「知っておいでなのですか?」
「ふふ、わが宿敵よ」
「!」
北辰の見せる眼光にシンジは目を見張った。そこには何事にも無頓着な目で見ていたはずの北辰に執着の色が見えたからだ。
「意外か?」
「はい、お師様にそこまで言わせる者であるとは思いませんでした」
「今の我にはあやつの相手をすることができん…口惜しいものよ」
「では?」
「うむ、あやつを倒す事が我の技を仕込んだアレの初仕事よ。でなければ我の武の後継とは言えぬ」
「いきなりハードですね。しかし、今の技量では厳しいと思います。僕の分析によれば真っ向からあの人に勝てるものは今の組織には居りません」
どう見立てても今のアスカでは無理ですからねと内心でシンジは呟いた。
「言い難い事を言うな。だが、わかっておろう…」
「はい、不足分は状況で補いましょう」
かなりの損失になるとシンジは思ったがその損失については実は余り関心が無い。何故なら相手を消耗させる為に主だった不満分子をぶつける予定だからだ。何れ反抗されるのが目に見えているなら、北辰が健在なうちに葬ってしまおうという考えからだ
それだけでは足りないだろうから、心理的揺さぶりを掛ける事も考慮している。その辺は今情報を収集中であった。
強いとは言っても所詮は個人対組織なのだ。こちらに驕りさえなければ戦略的に勝てるのであった。
何も身に付けず素っ裸の少女が刀を冗談に構え、目の前のどう見ても人間としか思えない精巧な作りの人形を睨みつけていた。
「やあっ!」
気合とともに構えていた刀で人形を袈裟斬りにした。
ドシュッ!
斬られた人形は見事に両断されその切り口からはまるで本物のごとく血が噴出した。いや本物といっても差し支えなかった。何故なら魂が宿っていないだけで構造やその組成は人間と同じだったからだ。
人を斬る練習ならばこそ本物を、と本物に限りなく近いものを用意された。本当は本物かもしれないが確かめてはいない。人形だといわれたのでそれを信じてだった。
少女・アスカはふうと息を吐いた。未だこの斬った時の感触をアスカは好きになれなかった。
最初の頃は斬った後、本当に気持ち悪くなって吐いた。ルリやラピスのような女達を人形とこの屋敷の者達が表していたこともあって、本物かもしれないと気持ち悪さに拍車に掛けた。
パチパチパチ
何処からとも無く拍手が聞こえてきた。アスカは神経を尖らし、察知すると共にさっと手にした刀を構えた。
構えた方向にはシンジが立っていた。
「なーんだ。シンジか」
「なんだとはなんだよ」
「別に」
プイっとアスカは顔を横に向けた。自分の今の状態が素っ裸でシンジに見られ放題だというのに、全然、気にしていなかった。いつかの時と大違いであった。
アスカは北辰の指導を受ける中、裸になった時の羞恥心を摩滅させていた。素肌を晒す事で動揺し、不覚を足られないようにする為の措置だった。
その時の訓練は凄まじくそのお陰で様々な視線で見られても動揺する事はなくなった。例えば先ほどの訓練の間でも妖精や人形を味わいに来た者達に発展途上とはいえその年頃にしては発育の良い体をねとつくような視線で視姦されようともだ。
シンジから見てもアスカの肢体は魅力的では有るが、そういった感情は切り離す事ができる為、今の場では興味を引くことはない。
「で、あんたがここに来たのは何のようなのよ」
アスカは実質上組織のトップに言いたい事を吐いた。今、アスカの立場は微妙であった。幾ら北辰の弟子といっても実績のない小娘が実力的にも皆に認められトップにいるシンジと対等で居ようとするアスカに反感が募っていたのだ。
(権力は人を変えるって言うけど、アスカの態度を感じて省みる事ができるから僕としてはありがたいんだよな)
シンジとしてはアスカの態度は、常に孤高である事を求められる今の立場においては実にありがたい存在であった。そういう意味でアスカの足場を固めておく事はシンジにもかなりメリットがあった。
「アスカに初仕事を伝えに来たんだ」
「初仕事?」
「そうだよ。多分、初めての人斬りなるんじゃないかな」
「人斬り…」
初めての人斬りになると聞いてアスカは自然とごくりと唾を飲み込んでいた。
「そうだよ。アスカにとっての正念場を迎える前の前哨戦さ」
「………わかったわ。ターゲットは?」
アスカの言葉にシンジは無言で資料の入った封筒を渡した。アスカは表情が硬くなっているのを意識したがどうにもならなかった。ひょっとしたら青ざめていないかと懸念したが、シンジは何の表情も見せていないので多分大丈夫と心の中で念じた。
「組織関係外の目撃者は全て消すように。サポートは”半月”がするよ」
半月とは組織の実働部隊の一つであり、他に新月、三日月、満月などがあった。何より月を冠する部隊は女性だけで構成されている。
「そう」
少しだけアスカの表情が緩んだ。アスカにとり、半月は組織の中でも一番良く知っているチームであった。多分その辺はシンジの配慮なのだろう。少しだけシンジに感謝した。もちろん口には出さなかったが。
「まあ、成功を祈っているよ。アスカが目指している場所にはこれを乗り越えなきゃ、到底行ける所じゃないんだからね」
「分かっているわよ!」
「じゃあ、よろしく」
片手をあげてシンジは挨拶をするとくるりと背を向けて立ち去ろうとした。
「ねえ、シンジ」
「ん? 何だい」
アスカに話し掛けられてその場で立ち止まり首だけをアスカのほうに向けた。
「シンジは………あるの?」
声が少しかすれてシンジの居る距離からははっきり聞こえなかったが聞きたい事は何故か分かった。シンジは首を前に戻すと言った。
「あるよ。8歳の時に叔父さん達一家を」
「!」
シンジはアスカの反応なんかお構いなくその場を立ち去った。その後、アスカは自分の掌をしばらく見つめ、ぎゅっと握り締め、顔を見上げシンジの立ち去った方を睨んだ。その瞳には何か強い決意を秘め輝いているようだった。
*
「ああ…、ですから…ああっ! つつがなく…ああ…終わりました。あうっ!」
シンジは報告に来た女と睦事を楽しみながら、結果を聞いた。
「アスカの任務は成功か…(アスカは自分の力を示して見せた。これで必要な駒も舞台も演出も全て準備は整った。後は黒の王子さまがやってくるのを待つばかりか…)」
組み敷いた女の胸に手を伸ばし、揉みしだき、今後の方針を考える。その最中でも休む事無く腰を律動させ、女のほとを突き嬌声を吐かせていた。
「はい…んん! 完璧と言って…あっ! 良いほど見事に…あぅ!」
ぬちゃぬちゃと音が響き、突き入れられる度に女は快感に打ち震えた。
「任務達成、ご苦労様。ご褒美をあげなくちゃね!」
アスカの出した結果に満足したシンジはそう宣言すると本格的に動き出した。
「ひぃっ! ああっ! ひゅああっ! ひゃぁ!」
基本的にシンジは同年代の中では小柄な部類に属し、自然と相手している女はシンジよりも大柄になるのだが、シンジが動くたびに面白いように跳ね、振るえ、口から唾液が垂れるのもかまわずに快感に身をゆだねていた。
「あっ…うっ…くはっ!」
「くうっ!!」
シンジと女は次第に昂ぶるものを極限まで盛っていき解放した。
「ああーーっ!!」
女は己自身よ折れよとばかりに仰け反り痙攣した。
(必要な部分の被害は最小限に膿は出し尽くさないとな)
シンジもまたどくどくと欲望を注ぎ尽くし、情事の後の気だるさ感じながら、女の心地よい人肌に身を委ね、しばしの休息に浸った。彼は綾波レイを調律し始めてから、飛躍的に女を悦ばせる技術を伸ばしている事を感じ満足感を得た。
だが、そんな心地よさは直ぐに破れた。
「シンジさまっ! 襲撃です!」
慌しい足音と共に閨にやってきた側近が緊急事態の報を携えて訪れたのだ。
「……」
シンジとしては折角の気分のよさをぶち壊され、多少機嫌を悪くしたが、それで状況が変わるわけではない。少しだけ頭を振り、気分を入れ替えた。
「(ふーん、思ったより少し早かったな)事前に通達した通りの手順で迎撃せよ」
「はっ!」
側近は一礼して、また慌しく去っていった。実際は何れ来るであろう事態はシンジの身近に居る者たちには通達済みであり、既に対処に入っているはずだ。今のやり取りは自分に反発する者達に見せるだけのものだ。
(さて、この組織の大掃除でもある事だし、張り切って行きますか…)
最近、大きくなりすぎたと思っている組織を整理する機会をシンジは狙っていた。今がその時なのだ。
「(組織は身軽でなければね…)さてと、先に行くね。カエデさん。本当はもう少し可愛がりたかったんだけど」
にこやかに力なく倒れ付している女に声を掛けてシンジは身形を整えると最終ステージへと向かった。
カエデと呼ばれた女も又、最初はのろのろと緩慢な動きであったが、次第に己を取り戻したのか起き上がり、直ぐに身形を整えて自分のすべき事をする為に駆け出した。
ズガガガッ!!!
一方的に何十という銃口から銃弾が一人の黒衣を纏った男に向かって吐き出された。拳銃などというちゃちなものではない。サブマシンガンどころか、対戦車銃まで待ちだしてのものだ。煙で目標が見え難くなるぐらい容赦なく。
ごくっ、誰とも無く唾を飲み込み煙が晴れるのを油断無く待った。
あれだけの攻撃をしたのだから普通なら無事で居られるわけは無い。だというのに銃弾を叩き込んだはずの男は何事も無く平然と立っていた。
「くっ、何て奴だ!」
「畜生っ!」
「何だ!? 当ってないって言うのか!?」
その場にいた男たちは口々に信じられないと叫びながら、再度、銃弾を叩き込んだ。先程よりも、より苛烈に。その様は男のいた空間そのものへの制圧射撃であり、いかに人並みはずれた反射神経を持っていようとも、物理的に回避する事など無理という程の密度のものであった。たちまち、銃弾によって発生した煙で男は再び見えなくなった。
カタカタカタ
玉切れになった音が周囲に響く。
「これだけやれば幾ら、亡霊騎士だって無理だろうぜ」
「違いねえ」
銃弾を叩き込んだ男たちは内心の不安を拭うかのようにはや口でいい、同意しあった。
カツン
「「「「「!」」」」」
足音が煙りの向こうから響いてきた。その場にいた男たちはまさか! と凍りついた。
「う、ウソだろ!?」
「あ、あれだけやったんだぞ!」
「そそ、そんなはずは…」
男たちの希望をあざ笑うかのように薄っすらと煙が晴れていく中、一歩一歩男達の方へ歩いてくる男が現れた。男は普通なら千回は軽く死ねる銃弾を叩き込まれたはずなのに無傷で立っていた。
ドンッ!!
凄まじい音響がした。音の発生は今まで何ら行動しなかった男の右手に握られた銃からだった。銃弾は男たちの一人の頭に命中し、スイカを思いっきり叩いた時のように爆ぜ、原型を留めなかった。それどころか後ろにいた二人も同様に破壊された。
男の銃はピストルというには大きくサブマシンガンというには小さいもので形状から見てオートマチックピストルを一回り大きくしたものだ。だが威力から分かるように、それは対戦車砲のように強力であり、それを撃つのは両手でだって無理だろう事が予想できる。だというのに、男は片手で撃って見せた。
「う、うわ〜〜〜っ!!」
その場にいた何十人もの男達が情けない声を挙げた。目の前にいる男は自分達の常識外の化け物だと悟ったのだ。そこにはもう戦おうという気概のある者は居なかった。
男は反撃を開始した。今まで何らアクションを起こさなかったのが不思議なくらい淀みなく軽やかに、この世に死神が顕現したかのように命を刈っていった。
男…闇の社会に黒の破壊者、亡霊騎士等様々な呼び名で呼ばれ恐れられている者、テンカワ・アキトは刈り取った命に目もくれず奥へと進むのであった。
「な…なんなんですか!? あの男は!?」
監視モニタに映る、あまりの凄まじい光景に今まで見入っていた者達が騒ぎ出した。無理もない。普通だったら死んでいるはずの者が生き残り、逆に殺戮してのけたのだから。
「あれが黒の皇帝だよ。凄まじいねえ」
慌てる部下に烈山は落ち着けと言った。少しも動揺していない烈山に部下達も落ち着きを取り戻した。
「なーに、後、同じのを2,3回ぶつければ手品の種もなくなるだろうさ」
そう軽く烈山は部下たちに言った。その言葉に部下達は震えが走った。それはそうだろう幾ら組織間では中の悪い者達ではあっても、消耗品としてボロ屑のように扱われるのであるから。
「しかし…」
「気にするな。奴等はこの組織には必要ない。それどころかこの世にさえ必要ない最低な奴らだからな」
烈山は部下の言葉を遮り、苦々しく言い放った。ここで使いつぶすのはこの組織の実質上のトップであるシンジの意志でもあった。烈山にしてみれば日頃、屋敷の女達を粗雑に扱いすぎるきらいのもの達であり、実際、そのお陰で何人もの女が潰されたのだ。
屋敷の女達の価値を知らぬ者達などこの組織には不要…。
烈山は静かに北辰たちの居る所へ向かうアキトを睨みつけ、次に使い潰す者達へ迎撃するよう命を出した。
次々にアキトの前に出て返り討ちになっていく。その余りの凄惨さにモニタから目を逸らす者が続出した。
「いままで散々好きにやったんだ。精々、組織に役に立ってもらわんとな」
烈山はそんな光景を眉一つ動かさず凝視し、冷酷な光を瞳に宿して呟いた。
「さて、随分派手な登場です。さすがお師様の宿敵ですね」
本来であればこの世界にない技術、コミュニケ(空中に自在に映像を映す技術)によりこちらへ向かってくるアキトの様子が映し出されていた。
それを楽しそうにシンジは見ていた。その後ろにはルリとラピスが何年ぶりかに見るアキトを見つめていた。シンジも北辰もルリ達に背を向けてコミュニケを見つめていたので、彼女たちがどういった表情で見つめているのかは分からなかった。
(ルリ達は一体どういう表情で彼を見ているのだろうか。思慕? 絶望? 振り返るって見てみたいけど怖いな…)
ルリ達を見てみたいという衝動に駆られるが、知りたくないという恐怖もあるがゆえにシンジは動かなかった。その辺の心の揺らぎが北辰に未熟者と言わしめる所なのかもしれない。北辰は自分の調教は完璧なのだと確信しているのかそんな様子は見せていなかった。
「ふっ、そうでなくてはな。だが、もう思うように動けぬこの身が怨めしい」
震える手を見つめて口惜しそうに言った。そんな彼は今や立って居る事にもかなりの労力を必要としており、それでは体が持たないと椅子に座り身を委ねていた。
「どうやら、膿は膿なりに役目を果たしてくれたようですね」
アキトが所持していた銃を投げ捨てたのを見てほくそ笑んだ。
「そうでなくては今までの損失に目を瞑っていた甲斐がない」
自分がまだ健在であったならば強行に排除する事も可能であった事が悔やまれた。だが、今の所はシンジ達の思惑通りの役目をこなしてくれており満足した。
アキトを無力化していくには4つの課題があった。それをクリアできてやっと五分の勝負に持ち込めるのだ。敵とするには非常に厄介であった。だがこの組織には幸いな事にその難題をクリアする力があった。
その課題とは一つ目は銃を寄せ付けない。これはディストーション・フィールドと呼ばれる個人用のバリヤーを携帯していたからだ。
ディストーション・フィールドはレーザーのような光学系のものに強く、実弾に対する防御はそれに劣るものの高出力であれば例え対戦車砲の直撃にも耐えれる代物だ。
二つ目はアキトが使用していた銃だ。あの銃だけは厄介であった。何故厄介かはこちらにもディストーション・フィールドの技術はある。だが、アキトが使用していた銃はその防御さえも突破する事ができる威力を備えていた。故にこちらがディストーション・フィールドで防御していても銃を使用されては防げないので封じる必要があった。
三つ目は今の組織には残念ながら対個人戦ではアキトに及ぶ腕を持つものが居なかった。アスカを対アキトを睨んで鍛え上げようとしたが、如何せん時間がなかった故に間に合わなかった。故にアキトの体力をこの場に来るまでに削り消耗させアスカでも対応できるレベルに引き摺り下ろす必要があった。
四つ目は実に厄介なものだ。これがある故に今まで幾つもの組織が敗れ去っていったのだ。ボソンジャンプと呼ばれる一種のテレポート…空間跳躍であり、この世界ではテンカワ・アキト唯一の能力であった。ルリによれば火星文明と呼ばれるものがありその遺跡の力によるものであるらしい。
それが使えるならばこの世界でもその火星遺跡があるという事になるのだが、如何せん今の地球には宇宙にあがる力さえない為、確かめる事はできなかった。だが、ボソンジャンプの研究は北辰が元々属していた組織においてかなり解析されており対抗手段を見出していた。
そのうちの一つ目はもうじきクリアできるだろうし、二つ目はクリアした。三つ目はここにたどり着くまでにどれだけ削れるかにかかっている。それも今の働きぶりから達成できるだろう。四つ目はこの場にで実行するしかないのでどうしようもないが。
「烈山さんもいい判断ですね」
「でなければシンジの右腕にはせん」
二人の目はコミュニケを見つめたままだ。銃弾に対して少しずつ回避する動作をつけ始めた頃に対処する者達は銃ではなく刀やナイフ等の近接戦を挑ませ始めていた。
「手品の種も尽きかけているみたいですね」
「もうすぐか…この時が来るのが長かったのか、短かったのか…」
北辰は目を瞑り、そう呟いた。
ガサッ
「おや、アスカ来たね」
「…………」
「ふーん、もう臨戦体制バッチリか。結構な事さ」
「…………」
アスカはシンジから話し掛けられても無言でコミュニケを見詰めたままだった。
「どう? これがテンカワ・アキトだよ。勝てそう?」
「………くやしいけど、ベストじゃ今の私では足元にも及ばないわね…」
ガリッ!と悔しそうにアスカはコミュニケを睨んだまま唇をかんだ。つつーっと口から血が零れ落ちる。
「そう…(珍しいな。アスカが素直に認めるなんて)」
アスカの様子を見てシンジは素直にアスカの成長を喜んだ。まずは自分を認める事から始めなければ強くはなれないのだから。
「でも、何れは辿り着いてみせる。いえ、超えて見せるわ!」
ぐっと握りこぶしを作りアスカは宣言した。
「くっ、くっ、くっ、それでこそ我が選んだ後継者よ」
「そうだね。アスカならなれるだろうさ。さてお師様、歓迎準備ですね」
シンジはこれから起こるであろう事を考え、クスクスと笑うとこの場に来て初めてルリ達の方に振り返った。彼女たちは何ら顔に感情を浮かばせず無表情であった。シンジはルリ達に奥に行こうと彼女達の腰に手をまわして即して奥の部屋へと向かい襖を閉めた。
「アスカよ。チャンスは一度きり。しくじるなよ」
「期待に応えて見せます。師匠」
アスカはコミュニケから視線を外さずに言った。その目は視線で射殺せればと思えるほどに思いが篭もっているように見えた。
バタンッ!!
勢い良く襖が開き黒衣の男、アキトが入ってきた。ここに来るまでに自分の持ち込んだ装備は使い果たしていた。それでもアキトは負ける気は目的である場所にまで辿り着いた以上、自分の奥の手を使えば何とかなるからだ。そしてその場所には何度殺しても飽き足らないと思っていた人物、北辰がいた。
「北辰っ!!」
唯一、黒衣に身を包んでいない顔に回路図のような文様がボゥっと光り、走った。アキトは感情を高ぶらせると体に過剰に組み込まれたナノ・マシンが光り輝くのだ。これは北辰が属していた組織に拉致され、実験材料とされた時に負った後遺症であった。
「久しいな、テンカワ・アキト」
北辰は椅子に座ったままアキトと静かに対峙した。そこには静寂な空気さえ漂わせていた。そんな北辰は宿敵に会えた事が嬉しいのか口元には不敵な微笑を浮かべていた。
それに対するアキトは逆にギリッっと歯を軋ませ、殺気を漲らせて北辰を睨んでいた。
「北辰! ルリちゃんとラピスを返してもらうぞっ!!」
「くっ、わははははっ!」
「何故笑う!? 北辰!!」
突然、笑い出した北辰にアキトは激昂した。
「失望したからよ。テンカワ・アキト。貴様は全然変わっていない。ここに来るまでの動きで少しはマシになっていたと思っていたのだがな…」
「………」
「ふっ、まあ良かろう。ここまで辿り着いた褒美よ。要請にあわせてやろう」
北辰は無言でいるアキトを嘲笑し、ピッっと手にしたリモコンのスイッチを押した。
バタン!
部屋の奥にあった襖が開いた。
「なっ!?」
アキトは開いた襖の奥の光景に目を見開き驚愕した。
「ああっ! いいっ! いいですぅ!」
そこには乱れ牡丹と呼ばれる体位(後背位の座位の一種で)でシンジに胸を捏ねられ、大股開きで貫かれるルリであった。アキトにその様が良く見えるようにか態々結合部に目が行くように50センチぐらいの高さがある台の上でだ。
「ル、ルリちゃん」
何よりもアキトの心に大きな衝撃を与えたのはルリのお腹が腹ボテ、つまり妊娠していながらであった。その衝撃はアキトの心の何かをガラガラと壊し、崩れた。北辰に拉致された以上、それなりの結果が待っていることを覚悟していたとしても目の前の光景にアキトは膝をつきそうな程であり、心に空白ができた。つまり、隙が。
ザクッ!
それは致命的なものとなり、軸足である左足の太ももに衝撃が走り、貫かれるのを感じた。
「グォッ!」
アキトは内心しまった! と声をあげたが、既に手遅れであった。隙を突かれた為か左足に力が入らなくなり、左の膝を地につけた。アキトは目線をすばやく怪我の箇所に向けるとそこにはナイフが深々と刺さっており、容易に抜く事ができないほどであった。
「くくく、テンカワ・アキト、もう一度あの言葉を貴様に送ってやろう。怖かろう、悔しかろう。例え鎧を纏おうとも心の弱さは守れないのだ! とな…」
アキトの無様な姿を北辰は嘲笑すると共に失望も感じていた。なぜなら自分の予想ではこのナイフの攻撃を凌ぐと計算していたのだから。そしてアキトに刺さっているナイフには毒が塗られていたのだ。これで勝負は8割方はこちらのものとなってしまった。
「くっ、北辰! 卑怯な!」
「卑怯? そうではない、敵地で気を抜いてしまった貴様が未熟なのだ」
「ぬぉーーーーっ!! 北しーーんっ!!」
アキトは気力を振り絞り立ち上がった。ナイフはそのままにしてある。抜けばかえってダメージを深くする事になるからだ。
「くく、そうでなくてはな…だが、残念だが我は相手できん」
「何ぃ!? くっ!」
いきり立つアキトに迫る影を感じアキトは咄嗟にしゃがみ込み回避した。先程まで頭があった位置に黒い影が通り過ぎる。アキトはすばやく体勢を整え構えたが、先ほどの攻撃してきた人物を見て再度、驚愕した。
そこには自分よりも小柄でありながら、覇気の塊と思わせる気迫を放つ少女が立っていた。
「なっ!? ア、アスカちゃん!?」
自分と同じようなプロテクタを装備した服装、但し黒ではなく赤、それも鮮血のような鮮やかな色であった。
「アキトさん、お久しぶり!」
屈託の無い笑みをアスカはアキトに向けた。そこには何ら戸惑いはない。
「くくく、我は貴様を相手できるほどに身体を動かせぬでな。わが最強の弟子をテンカワ・アキト、貴様に相手させよう」
やはり、アスカと知り合いであったという情報は本当であったらしいとほくそ笑んだ。
「な、なんでアスカちゃんが!? 北辰の弟子!?」
洗脳された様には見えない事にアキトは戸惑い、混乱した。
「まさかアキトさんがあの黒の王子様だったなんて、思わなかったわ」
「どうして!?」
アキトは数年前、自分の荒んだ心を癒してくれた大切な存在が今、己の敵として立ちはだかっている事に動揺した。
「私は最強を手にしなければならないの。そしてその称号は二つもいらない」
二王並び立たず。今を逃せば手に入れる事は遥か先になる。それでは間に合わないのだ。だから残念だけど完調のアキトさんには敵わないからこんな手でしか相手できないけどと内心で呟き、拳に力を入れた。
アスカの思考はドイツNervでの、そしてここでの教育の成果で歪んでいた。多少、おかしい部分があったとしても最強の称号を手に入れなければならないと思考誘導されていた。
それは強力なもので例え親しいものに対しても立ち塞がるなら打ち倒すのみという思考の流れになっていた。そしてその想いを素直に実行したのだ。
「何か変だ! 北辰! 貴様、アスカちゃんに何をした!」
次々と繰り出されるアスカの攻撃を何とか凌ぎ、捌きながら問う。一瞬でも気を散らせば意識を刈り取るのではないかと思えるほど一撃一撃に力が篭っていた。その力は常人には発揮できるような類のものではない。
アキトの脳裏にはこのアスカの鋭い動きに思い当たるものがあった。
「別に何も…弟子が貴様を倒したいと心底望んでおるのよ」
ふふ、我の後継になる為に多少強化処理を施したがなとアキトには聞こえないような小声で呟いた。
「別に私は洗脳されたりなんかしてないわ。これは私の意志でやっているの!」
「くっ! ならば!」
「きゃっ!」
アスカの言葉を引き金に防戦一方にしていたアキトは一気に攻勢に転じた。その攻撃は鋭くアスカはほとんどまぐれで避けれたようなものだった。
(消耗し、かつ負傷しているとはいえ、まだまだ力が残っているっていうの? ちょっとまずいかも…でも手を貸したりしたらアスカの敵意がこっちに向いちゃうよな…)
いつの間にやらルリをを四つんばいにして後ろからシンジは攻めながら様子を伺った。ルリの状態が状態なだけに余り激しくできないのだがそれでもシンジは心地よさを感じていた。それはルリも同じだったようでシンジが腰を打ち込む都度、咽び鳴いた。
ルリの嬌声を聞き、ラピスの視線が自分に向いてもじもじしている様子を見て取って、なぜ自分が心地よさを感じているのか悟った。そう彼女達は目の前で死闘を演じているアキトにではなく自分に感心を向けていたのだ。そう既に彼女達にアキトの影はなく自分のものになっていたのだ。
「くははは、これはいいや…ラピスおいで」
シンジの言葉にラピスは素直にしたがって目の前にやってきた。心なしか無表情だが嬉しそうに見えた。シンジはルリに繋がったままでラピスを抱き寄せ唇を貪った。その間もルリを攻める事を忘れない。そうして手の一方はルリの腰を掴み、揺すり、もう一方の手はラピスの乳房をもてあそんだ。
そこには目の前で死闘を演じているものがいるというのに三人の世界が出来上がっていた。
「くっ! (このままじゃやばい! 凌ぎきれない!! 何て化け物!)」
さすが師匠たる北辰が宿敵と言ってのけるだけのものがあると感じた。だが同時に北辰ほどの恐さ、えげつなさが無いとも感じていた。それ故にアキトガ攻勢に転じてから防戦一方に追い詰められながらも致命的な攻撃は受けてはいなかった。
だがこのままではさすがにジリ貧だった。体力面ではアキトのほうが消耗していたとはいえそれでもアスカよりも有利だったのだ。それでもアスカは冷徹にアキトの攻勢を捌きチャンスを待った。幾ら化け物じみていてもどこかに隙が生じるはずなのだ。それは北辰を相手に実践稽古をしていた事での経験則であった。
「はぁっ! たぁっ!」
本当に負傷しているのかと思えるほど左足を軸として上下のコンビネーションをアキトは放ってきた。
「し、しまった!」
アスカは一撃目を何とか凌いだものの、2撃目で完全に防御を崩されてしまった。
「うおぉーーーーっ!!」
止めの一撃とアキトの雄たけびと共に迫り来る拳。アスカはその拳から瞬きもせず見つめながらも避けきれないと覚悟を決めた。
と、その時、異変が起きた。アキトの体勢が崩れ、顔面に当るはずだった拳はアスカの頬を掠めるに留めたのである。
「! (ちゃーんす!)」
突然のアキトの変化に一瞬で左足に限界が来たのだと悟ったアスカはチャンスをものにするべく行動した。実際はアキトに毒が効き始めたのだ。
懐に飛び込まれた近距離であり、ほとんど密着した距離でもあった為、そんな状態でも繰り出せる肘打ちを丁度良い高さにあるアキトのこめかみ目掛けて真横から振り打ち叩き込んだ。
ゴツッ!
それは見事に決まる。が、これだけではアスカの攻勢は終わらない。肘打ちで生じた回転を加速させ、アキトの突き出された腕をくるりと巻き込み一本背負いを行う。それは鋭く、受身を取らせぬように頭から落とす危険なものだった。
「ぐぁ!」
肘打ちをまともに喰らい、意識が半場飛びそうになるのを無理やりつなぎ止め、危険な投げ技のダメージを最小限に留めようとアキトは動いた。その試みは何とか成功するもののそれでも全てのダメージを吸収できたわけではなかった。それにまだアスカの攻勢は続いたのだ。床に叩きつけられた衝撃もさめぬままに膝落としをみぞおちに叩き込んだのだ。
「ぐふっ!」
さすがにこれは防御しきれずまともに喰らった。そこで趨勢は決したと言っていい。それを悟ったアキトは奥の手ボソン・ジャンプを使い撤退することを選択した。
「!?」
イメージングを開始し、ジャンプしようとしたができなかった。
「ぐはっ!」
アスカはアキトが何かをしようとしたと分かっていたがそれが何か分からなかった為、蹴りを叩き込んだ。ただし、アキト自身ではなく刺さったナイフの柄に対して。
プロテクタで体を覆っているアキトに蹴りを叩き込むよりもナイフによる傷が抉れ拡大することが有効だと判断したのだ。激痛による集中力の阻害も狙っていた。
「くく、無駄よ。テンカワ・アキト。貴様が空間跳躍者であることを我が考慮してないはずがなかろうが」
「な…に…? ぐああ」
北辰の言葉に動揺しながら疑問を口にしたが、アスカに刺さっているナイフの柄頭を足でぐりぐりと動かされ、激痛が走りのたうった。
「空間跳躍者? 何ですか、それは?」
自分の動作で呻き藻掻き苦しむアキトをサディスティックな笑みを浮かべて見下ろし、自分の知らない情報だと聞いた。そこには油断はない。
「言葉の通りよ。そやつは行きたい所をイメージングし、念じればその場へ瞬間移動できるのよ」
「そんな事が!?」
「そのお陰でそやつは神出鬼没に現れ翻弄し、幾つもの組織が壊滅した。だがその手段は封じたゆえに心配は要らん。幸いボソン・ジャンプに関してはそやつを含めたその同胞たちの尊き礎のおかげで一番技術を持っていたゆえな」
既に勝負はついたと北辰は確信していた。いくらナノ・マシンにより、毒の分解作用が働こうとも時間はかかるのだ。その間に無力化してしまえばいい。
「北辰っ!! がぁっ!」
北辰の言葉を切っ掛けに最後の気力を振り絞ってたのか跳ね起きようとしたがアスカによって胸を踏みにじられ阻まれた。
それ以降はもはやアキトの運命は決した。そう、無様にアスカにされるがままに攻撃を受け続け、無力化されたのだ。
「遅かりし復讐人…その想い成就せずか」
今や四肢の骨を折られ、身動きできぬアキトを北辰は冷たく見つめた。そんな状態でも相手に屈しまいとアキトは北辰を睨みつけていた。 二人の間には様々な因縁があり、それ故にその胸中には色々な想いが渦巻いていた。
「くっ!」
この程度のことはアキトにとって昔に味わった経験に比べれば生ぬるいものだった。何とかこの危険な状態から脱しようと考えるが最大の手を封じられた今、なす術はなかった。特にこの世界に着てからは単独で行動することが常になっていたからだ。
この時になって仲間の大切さというものを再確認させられた。自分の能力を当てにしすぎた故に陥ってしまった状況で救援など考えられない。
唯一、助けとなる可能性はルリやラピスなのだが、彼女達の境遇にかなりのショックを受けており、無意識に触れることを避けていた。
「くくっ…、テンカワ・アキト。ここまで来れたのだ。最期の褒美をやろう」
くいっとアスカに顎で合図を送った。北辰の言葉に何をする気だと疑問が浮かぶと共にアキトは敗北感で打ちのめされた。
「はい…」
北辰の意を察したアスカは行動を開始した。
「な!? 何をするんだ! やめろっ! 止めるんだっ!! アスカちゃん!!」
アスカの始めた行動にアキトは焦った。アスカの手がアキトの下半身に伸びたからだ。だが手足を事由に動かせない状態での抵抗は虚しく、プロテクタが、ベルトが外され、ズボンを脱がされ、とうとう下半身を丸裸にされた。
年頃の娘であるはずのアスカの表情はアキトの状態からでは窺う事が出来なかったが、その手つきから戸惑いなどは感じられなかった。次に彼女が行った事は自分の衣服を脱ぐ事だった。
アスカの服を脱ぐ時のジッパーが降ろされる時の音がいやにアキトの耳に響いた。
「な、何をする気だ!?」
痛む体のことも忘れてアキトは叫んだ。
「ここまできて何を聞く? 貴様自身等にわかっているのではないか?」
北辰の言葉とともにギリッとアキトは噛み締めた。アキトの意志とは関係なく、その下半身が熱くなり、これからの出来事を期待して雄雄しく起立しはじめたのだ。
全身をアキトの前に惜しげもなくさらけ出し、見せつけたアスカはアキトの下半身に近づき、その元気になったモノに先ほどの堂々とした態度とは違って恐々と手を伸ばした。
少し触れたとたんアキトのモノはびくっと反応した。
「キャッ!」
その反応に驚いたアスカはかわいい悲鳴をあげて手を一度引っ込めた。
アキトはというとこんな状況だというのにしっかりと反応してしまった己に嫌悪した。
「やめろっ! 止めるんだっ!!」
アキトの拒絶する声に踏ん切りがついたのか、一度だけごくりと唾を飲み、意を決するともう一度アキトのモノを掴んだ。
「熱い…」
初めての行為にアスカは頬を染め、屋敷の女達に耳伝えに聞いた事を実行に移した。
恐る恐るアキトのモノの先端をチロっと舌でなめた。少し異臭や変な味がしたがそんなものだと聞いていた事もあり、気にせずにまたなめ始めた。
「アスカちゃん!! やめろっ!!」
アキトの声も聞こえていないのか、アキトのモノがアスカの行動に素直にぴくぴくと反応したのが面白くなり、アスカの行為はだんだん大胆になっていく。
「くくっ、止めろという割には元気が良いではないか」
「ぐぅ!」
北辰の嘲笑が、アキトの何かを耐える苦悶とチュパチュパとアスカが懸命になめる音が響いた。
最初はたどたどしかったもののアキトのモノの反応に自信を持ったアスカはこの手の事に関して百戦錬磨な女達によって叩き込まれた知識を遺憾なく活かし始めた。その手際の見事さに彼女にこの方面でも才能があった事を証明させた。
その対象となったアキトのモノは目一杯、怒張させ脹らんだ。
(す、すごい! さっきよりもまだ大きくなった。は、話が違うじゃない。こ、こんなのが入るの!?)
「がはっ!」
アスカの驚きをよそにアキトは体に走る苦痛よりも快感の方が上回り、限界を迎え昂ぶりを開放した。
「! ケホッ! ケホッ! うえぇ!」
突然、アスカは口腔内にアキトのモノから勢いよく吐き出された液体が叩きつけられた。お陰でそれに咽てしまい、たまらずアキトのモノを離し、自分の口に出された液体を吐き出した。吐き出した後も、粘着質だったのか口から糸をひいていた。
「急に、しかもこんなに出すなんて…」
アスカもこの屋敷に住んでいた以上吐き出したものが何かという事ぐらいは知っていた。
「それだけ気持ちがよかったのよ…こやつはしばらくやってなかったようだしな」
「なっ!?」
「気づかなかったのか? 貴様の行動は我には筒抜けだったのだ。ずっとな…」
「!」
北辰の言葉にアキトはガツンと頭を思いっきり殴られたようなショックを与えた。自分は北辰の掌で踊っていたのだと感じずにはいられなかった。
「アスカよ、最期の情けをくれてやるがよい」
打ちひしがれるアキトにさらに追い討ちをかけるように北辰は命じた。
「わかりました。師匠」
アスカは素直に返事をし、一度、精を存分に放ったというのに勢いを全然失っていないモノの真上に立った。
「ばっ! や、やめろっ!」
「フフ、アキトさん。アキトさんは止めろといっているのに、ここはこんなにも元気。私の中に入りたがっているわ」
アスカは小悪魔の笑みを浮かべ、愛しげにこれでもかと怒張しているモノを触った。
「だ、だめだっ!」
アキトの静止の声も空しく、アスカは自分のホトにアキトのモノを収めるように導いた。その入り口は硬く閉じられていたが、幾筋もの液体が流れ太ももを伝い濡れ光らせていた。入れやすいようにアスカ自身が指で入り口を開いた。
そこにアキトのモノを先端に触れさせたが、その時の対比でアキトのモノに比べてその入り口は小さいように見えた。その事で一瞬、躊躇したが、アスカの生来の思いっきりのよさが発揮され、一気に腰を降ろし呑みこんだ。
「がはっ!」「ぐあっ!」
アスカは突き破られ抉られた衝撃に痙攣したかのように仰け反り、アキトは突き破り、締め上げられた感触にたまらずそれぞれ声をあげ、しばらく息が出来ないほどの激痛などに動きをとめた。
つつーとアキトのモノで押し広げられたアスカ秘所の隙間から純潔の証がにじみ出てきた。
辛そうにしていたアスカが慣れてきたのか腰を動かし始め、それは少しずつ早くなっていった。ぬちゃ、ぬちゃっと淫猥な響きが嫌に大きく聞こえ、その音を聞いた北辰は口元を歪めた。
「はっ、ぐっ!」「うっ、はっ」
北辰の反応をよそにアキトとアスカは互いに段々と痺れるような感覚が走り始めていた。迫り来る快感が二人の思考は麻痺させ、欲望が肉欲を高め、貪り始めた。。
「くく、どうやら楽しんでいるようだな?」
「ほく…し…ん…くっ!」
必死に欲望に流されぬように耐えてはいるが、感触からして始めてであったはずのアスカの激しい交わりにアキトの思考はまともに出来なくなってきていた。
「どうだ? その娘の味は?」
「きっ! ラ、ラピス!!」
押し寄せる快楽の中、こみ上げてきた怒りに罵ろうとした。が、北辰に引き寄せられた全裸のラピスが視界に入り、驚愕した。そこには自分の記憶にあった透き通るような神秘性を帯びていたのとは違い、紛う事なき女としての色気を漂わせていた。
「お前が妖精たちに手をつけていなかったのは驚きだった。抱いたときの悲鳴が心地よくいまだに耳から離れん。お前の名を必死に叫びながら腰を懸命に振る様も楽しかったぞ?」
北辰は二人の妖精の純潔を散らした時の様子を思い出し嘲笑しながらラピスを抱き寄せた。そして己のいきり立つ怒張を突き出すとラピスは反射的に掴み己のホトへと導き飲み込んだ。その行動にアキトは愕然とした。
「はうっ…」
ラピスは自分の中に入ってきたモノを感じ吐息した。
「ほれ、このようにな?」
北辰は、抱えていたラピスの尻を叩いた。
「ああっ! アキトッ! アキトアキト、アキトッ!」
北辰に尻を叩かれた事を合図にラピスは腰を上下に左右にと、上げ下げ捻り己の本能に赴くままに快楽を貪り始めた。
「き、貴様っ! ぐっ!」
アキトは激昂するものの、アキトのものを飲み込み快楽を貪ろうとしているアスカに与えられる快楽に邪魔された。
「くくっ、テンカワ・アキト。お前の楽しみを我がすべて奪い取ったのでな、悪いと思って代わりにその娘に手を付けずにおいたのだ。まあ2人ではなく1人だけだが異存はあるまい? 当時の妖精などより幼いが、それでも妖精の体つきよりも、その娘の方が余程良いからな。さあ、たんと味わい遠慮なく精を放つが良い。死出への土産にな。おお、そうだ。その娘、今日が危険日だ。運がよければ死に逝くお前の血が残せるかも知れんぞ? くっ、くっ、くっ」
北辰は一頻り言いたい事を言うと跨っているラピスの腰を掴み、本格的に楽しみ始めた。アキトもまた快楽に没し始めた。次々と起こった信じたくない出来事が逃避させたのだ。
男女三組の交わりの音、嬌声が部屋を支配していく。
はぁ、はぁ、と激しい息遣い、にゅる、ずぼっと淫猥な響きが何度も何度、繰り返し繰り返し行われた。
やがてそれが唐突に終わった。
「くっ!! ぐはっ!」「あっ、ああ〜〜〜っ!!」
もう、何度目となるか分からない精の迸りを行ったアキトが血を吐き動きを止めたのだ。それが最後の輝きとなったのかアスカに対してもっとも大きな快楽を与え絶頂へと導いた。
アスカは一度大きくのけぞり、反動で戻ってくるとそのまま力尽きたアキトの胸に倒れこんだ。アスカはアキトの最後の命の輝きを自分が受け取ったと感じた。
「…テンカワ・アキト。逝ったか…」
余韻に浸るアスカに北辰の声が聞こえた。その声音にアキトの死に対する悲しみが含まれているように感じた。北辰の方を見るとぐったりとなったラピスから自分の怒張を引き抜いている所であった。
アスカは飲み込んでいたモノを腰を上げて抜いた。
こぽっ
それが栓をの役目をしていたのかモノが抜かれた途端、アスカの秘所から白い液体がダラダラと零れ落ち始めた。その白い液体には赤いものも混じっており、白と交わりピンクになっていた。
(末恐ろしい娘よ…)
今もアスカの秘所より零れ落ちていく白い液体の量は尋常ではなく、それを見た北辰はアキトは毒ではなくアスカにやり殺されたのではないかと思わせた。
それが是だとでも言うように何度も精を放ったはずのアキトのモノが主が死んだというのに未だ硬さを維持している事に薄ら寒い思いが北辰の背を駆け抜けた。
「師匠、いかがでしたか?」
半場恍惚とした表情でとうアスカに北辰は引き寄せられるものを感じた。
気が付くと北辰はアスカの腰を掴み己に引き寄せていた。女を開花させたばかりのアスカから男を狂わせる色香を感じ、こと色事に慣れていたはずの自分が無意識に反応していた事に戦慄した。
「くく、完璧だ。お前は我の後継にふさわしい」
「本当ですか!? 私を! 私を見てくれるの!?」
「ずっと見続けてきた、これからも見てやろう」
北辰の言葉にアスカは喜びの声をあげた。
「愛い奴よ。お前が欲しくなった」
沸きたった欲情に北辰は本能の命ずるままにアスカを押し倒した。しかし、人に認められたいと一番欲しい言葉をもらったアスカはその行動を歓喜をもって受け入れた。
「ああ! いいよ! 北辰様っ!」
「ふふっ、テンカワアキト。気が変わった。我もアスカに精を放つ。どちらの子が生まれるかな? 楽しみだ。お前との決着はこの結果としようぞ…」
そう北辰は物言わなくなったアキトに向かって言い放ち、アスカの中にありったけの精を何度も注ぎ込んだ。
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