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「まぶらほ〜双剣のアニマ使い〜第九話(まぶらほ+サガ フロンティア2)」

b-2nd (2005-04-01 01:02)
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 闇の中、少年が眼を覚ます。

 闇に眼が慣れてきて、彼はここが自分の部屋のベッドの上である事に気付いた。

 空は曇っているらしく、そばにあるはずの窓から射す月明かりは無い。

 しかし、彼には布団に入った記憶が無い上、寝間着に着替えた覚えも無い。おまけに今の時刻は真夜中だ。

 とりあえず記憶を辿ってみる。と、どうしてこうなったか大体予想が付いた。

 よく見れば、部屋の時計の日付はあれから丸一日以上経ち、つい先ほど月曜に変わった事を示している。

 そこでここ2日程、ほぼ日課となっている事をこなしていない事に思い至った彼は、布団から出て手早く服を着替え、ドアから出ようとする。

 が、ドアを一度開けたかと思うとまた閉めた。顔に困ったなと書いてあるのが見えそうなほど分かりやすい表情でぽりぽりと頬を掻く。

 それから少し考え込んだ後、仕方ないといった表情で窓から飛び降り、着地するなり忍者顔負けの速度と静かさで夜の街を疾走していく。


 辿り着いたのは広大な空き地だった。

 その空き地の囲みには「風椿不動産 施設建設予定地」と書かれた鉄製の看板が取り付けられている。

 囲みに沿って張られた簡易結界を、闇に紛れて今は見えない右手に握るソレで一時的に無力化し中に入る。

 彼がその中央付近に差し掛かったとき、雲が流れ、半分欠けた月は今宵初めて彼の姿を照らし出した。

 降り注ぐ月光、それを反射し鈍く輝く右手の黒の剣と左手の紅の剣、普段の彼とは違う引き締まった表情、孤高の王が如きその雰囲気。

 それらが見事に調和し、まるで一枚の名画のようなハッとする程の美しさがそこにあった。

 もしこの光景を観ている者が居たなら、魅了されずにはいられなかっただろう。

 だが、それはその美しさゆえに儚く消え去り、中央に立つ彼は戦士の表情で口を開いた。

「さあ、始めよう。今宵はいい月夜だ!」

 そう高らかに宣言するかのように言うと、二本の剣を構え、彼———ギュスターヴ17世の名で呼ばれる剣士———は静かに目を閉じた。


 少しして彼は再び眼を開けた。一分だったかもしれないし、一秒にも満たなかったかもしれない。それ程長い時間ではないだろう。

 しかし、その眼に映る光景は一変していた。

 殆ど何も無いどころか人っ子一人居なかった筈のそこに、黒光りする金属製の鎧に身を包んだ如何にも屈強そうな兵士達がこの囲まれた空間に大勢ひしめきあっていたのだ。

 数はおそらく1,000以上。その上しっかりと隊列を組み、槍兵、騎兵、弓兵等の前衛後衛もしっかりと揃っている。

 その上その軍勢を指揮するのは・・・・・・

〔どうだ?以前コテンパンにやられた軍勢に囲まれている気分は。〕

 声のした方に振り向くと、そこに居たのは黒い鎧に身を包み、自分の右手の剣と良く似た剣を携えた金髪の男。

「自分自身じゃなくご自慢の軍勢をぶつけてくるなんて、どういう心境の変化だい?[鋼の13世]殿。」

 少しおどけた調子で発せられた問いに、異世界で音に聞こえし覇王もまた、かつての悪ガキだった頃のような笑みで返す。

〔別に深い意味があるわけじゃあない、前回これをやってそろそろ一年経つ事だし、この一年の修行の成果を量ろうと思ってな。〕

「そうか、もうそんなに経つのか。分かった、今回はそれでいこう。ところで、後の二人は?」

〔心配せずとも二人にはここで参謀役をやってもらう。生きていた頃もケルヴィンはそっちの役割のほうが多かったからな。決着方法は前回と同じく、和樹が俺達の所まで辿り着くか、軍勢を壊滅させれば和樹の勝ち、和樹が戦闘不能になれば負けだ。〕

「分かった、でもな・・・・・・」

 和樹は極端なまでの前傾姿勢を取り。

「今の俺相手に1,000ちょっとじゃ、役者不足ってもんだぜ!」

 そう言い終わらないうちに正面の軍勢に向かって突撃を開始した。

〔先手必勝というわけか。だが、その程度で勝てると思ったら大間違いだぞ!ものども、かかれぇ!!〕

 そして戦いは始まった。


 しかし、何故この世界の住人でない、しかも死者のギュスターヴにこれほどの軍勢を用意する事が出来たのか?そもそもこの軍勢は何処から現れたのか?

 実はこの軍勢は存在していない、いわゆる幻影に過ぎないのだ。

 もし、この場に第三者が居たなら、虚空に向かって必死で剣を振るう和樹の姿を見る事になるだろう。

 だが、和樹はその幻影と切り結び、攻撃によって実際に傷を負っている。

 何故この様な事が起こるのか?

 実はこれらはカイゼルブレイドに宿るギュスターヴが、和樹の深層意識を介して見せているものなのだ。

 実は人間というのは結構自分の意識に体が引きずられているところがある。

 深い催眠状態で、ただの鉄の棒を焼けた火箸と思い込ませて触れさせると水ぶくれになったりする事があるのがいい例だ。

 今、和樹にはそれと同じ事がもっと顕著な形で顕れており、故にこの幻影は彼にとって現実以外の何者でもないのだ。

 しかも、和樹自身が表層意識でこれが幻影と理解したところで、ギュスターヴは深層意識を介しているため決着が付くまでこれは解けない。

 勿論、和樹が死力を尽くせばこの擬似催眠状態から抜け出すことは可能だ。が、これが修行である以上、彼がそれをすることは無いだろう。

 夢の中という現実時間に縛られぬ場所で戦闘技術、経験を得ると共に神経、反射を鍛え、こうして擬似催眠状態で実体同然の仮想敵やギュスターヴ達を相手に夢の中で得たものを体に馴染ませつつ筋力、骨格を鍛え、仕事という実戦でそれらで足りないものを補う。

 今の和樹がこれほどの強さを得るに至ったのも、日々繰り返されてきたこの壮絶な修行あってこそなのだ。

 それというのも、和樹が今最も得意とする体術と剣技だが、実は和樹はそれほど一般に言われる才能があったわけではないからである。

 勿論人並以上にはあったのだが、どちらか一本に絞った上で普通に鍛錬を続けたところで、高校の地区大会の上位に食い込むのがせいぜいだったろう。

 もとより強大な魔力を宿し生まれて来た為、同じく魔力に依存するアニマ、ひいては術のコントロールについては天性のものを持っていた。

 普通に成長しても、ヴィジランツの中でもかなり強力なアニマ使いになれただろう。

 しかし、幸か不幸か彼の周りには強い人間が多かった。

 それ故彼は刺客等から守られる度自分の弱さに泣き、そんな周りの人たちといつか対等になりたいという想いから強さを求めた。

 それが最初の動機、そして彼はがむしゃらに稽古に励むようになった。

 体術と剣技に重点を絞ったのは、式森の家系的に見てそれらに優れた人物が多かったため、自分にも才能の欠片ぐらいはあるだろうと考えての事だった。まあその考えは見事に図に当ったわけだが。

 やがて、夢の中でギュスターヴ達の過去を垣間見たり、自分の価値観を決定付ける程の転機を経たり、その他にも多くの出来事を経て、彼の中で「強くなりたい。」という想いは何時しかその動機を変えながらも確実に大きくなっていった。

 だが、そんな想いとは裏腹に、体術、剣技とも伸び悩み、ついには停滞し始めてしまった。

 想いは強迫観念に変わりかけ、「このままのやり方じゃだめだ。」と思うようになっていった。

 そして或る日、彼は夢の中でその思いを三人にぶつけた。


〔そして俺は〔死ぬほどきつい上に怪我も耐えなくなる。死なないようにカバーはするが死ぬかもしれない事に変わりはない。それでもやるか?〕って訊いたんだったな。〕

〔「それでも・・・・・・僕は・・・強くなりたい。」・・・・・・それが彼の答えでしたね。あの時は思わず耳を疑いましたよ。まだ十歳にも満たない子供があんな答えを出すなんて。あの時にはもう私達の経験した事を間接的にでも知っているから[人が死ぬ]って言う事の恐ろしさも良く知っていた筈なのに・・・・・・〕

〔尤も、あの時点で既に今の和樹の根本となる部分が出来ていたと考えれば、それほど不可思議というわけでも無いがな。それからこんな普通なら発狂してもおかしくないような事を、延々と続けてきたわけだ、我々と和樹は・・・・・・・・・〕

〔ああ、全く大したもんだ。努力の果てに才能の限界さえ打ち破るなんて、そうそう出来る事じゃないからな。〕

〔あれから幾度死にかけたか分からない位なのに・・・・・・こういうのを信念の力って言うんでしょうね・・・・・・〕

〔信念か・・・そういえば、あの時の和樹の眼はギュスターヴが「術不能者が差別されない世の中にしてみせる!」と言った時の眼に良く似ていたな・・・・・・ひょっとしたら、和樹のような人間を指すのかもしれんな、[本当の天才]というのは。〕

〔[本当の天才]?何だ、それ?〕

〔覚えてないか?和樹がしばらく前に読んでた物語に出てきた言葉だ。それも誰かの言葉の引用だったらしいが、曰く「本当の天才とは生まれながらの優れた才能の事を言うのではない。ただひたすらに努力する才能を言うのだ。」と、確かそんな内容だった筈だ。努力を以って超えられぬ才能など無いという事だな。〕

〔和樹を見てるとその通りだって事が良く分かりますね・・・〕

〔まあ尤も、それが分かったからといって実際に出来る人間はそうそう居ないだろう。よっぽど強い目的意識が無ければそうは成れない、とも言えるが。物語の中ではその人物の才能を化け物並と言っていたが・・・・・・〕

〔化け物か・・・・・・あんなに弱かった和樹が今やナイツ一族の中でも五本の指、いや、もはや三強の一角といってもいい所まで来たんだよな・・・・・・決して手の届かない筈だった所まで来たアイツを表すには、それでも足りない気がするがな。〕

 そう呟くと、ギュスターヴは後ろの二人と共に、兵を蹴散らしこちらに向かってくる和樹をジッと見つめるのだった。


〔槍技、チャージ!〕〔槍技、エイミング!〕

「なんのぉっ!」

 突進による一撃を躱し、そこを狙いすました一撃を右手の剣で受け止め、弾き返し体勢の崩れたところに—————

「これでも喰らえ!双剣技、剣嵐閃!!

 ズバアアアアアアッズガガガガガガガッ

 二本の剣から放たれた衝撃波の刃がそれぞれ扇状に広がり敵を切り裂き、やがて交差した二つの斬撃は、その点を中心に発生した大きな球形の刃の嵐となり、巻き込まれた者達は悲鳴を上げる間も無く細切れと化した。

 だが・・・・・・

「くそっ、アレを叩き込んでも倒せたのが二十人にも満たないなんて・・・分かっちゃいたけどサンダイル鋼製の鎧ってのは本当に頑丈だな・・・・・・」

 そう、効果範囲から言ってこれだけ相手が密集していれば本来四、五十人は葬れる筈が、技を喰らい鎧こそ傷ついているものの、致命傷に負った兵はその半分程度なのである。

 理由はさっき和樹自身が言っていたようにその鎧、もっと言えばそれに使われている金属にある。

 サンダイル鋼と呼ばれるソレは、その名の通り、かつてギュスターヴ達の生きていた異世界、サンダイルの金属である。

 見た目には少々黒っぽい以外はこの世界の普通の鉄と変わり無く、炭素を加えて鋼とし、硬度を増したり出来る点も同じである。

 だが、大きく違うところが主に二つある。

 一つは元から高い抗魔力を持っている事。

 そしてもう一つは、この世界の金属より遥かに高い硬度、強度を持ち得るという事である。

 カイゼルブレイドに至ってはガラティーンと合成して鍛ち直されたこともあってか、もはや伝説的とも言えるその抗魔力に加え、ダイヤモンドすら容易く切り裂いたという逸話さえあり、その強度は地上最高とすら言われる。

 それ以外にも、特殊なものと混ぜると思いがけない効果を発揮したりする事もあるのだが・・・・・・


 それはさておき、ギュスターヴが今和樹に相手させているのは嘗て彼が直接率いた近衛師団に属した鋼鉄兵たち。

 一人一人が百戦錬磨の猛者であるばかりでなく、その身を包む鎧も前述のサンダイル鋼を材料にトコトン頑丈に造り込まれている。

 一人ずつ倒していこうにも雑魚扱いするには余りに強く、かといって大規模な攻撃に向いた術はその身に纏うサンダイル鋼製の装備で殆ど無力化され、仕方なく効果範囲が広く威力の高い技を繰り出すも、鎧が頑丈で思うように敵の数が減らず、結果、技を連発せざるを得なくなり否応無く消耗させられていく。

 和樹にとっては術で広範囲にまとめてダメージを与える事が出来ない分、近代装備で固めた今の軍隊よりも余程性質が悪い。

 だが、前回は消耗から途中で力尽きたのに対し、愚痴を零しながらも今回の和樹はまだ十分余力を残していた。

 このまま行けば時間はかかるかも知れないが、残り600全てを相手にしても何とか持ち堪えられるだろう。


 そう、このまま行けば。


 ゾクリ

 「!?」

 和樹は敵兵の一人に止めを刺そうとした所で、生存本能と戦いの中で培われた勘の命ずるまま、反射的にカイゼルブレイドを持ち上げ頭上から来るナニカに対して防御姿勢を取る。

 その構えが取り終わるか取り終わらないかのうちに。

 ジリッバリバリバリバリズガンッ

 降って来た巨大な柱ほどもある金色の雷が、辺りを地面ごと打ち砕いた。

 和樹は物理的圧力すら感じるこの一撃をカイゼルブレイドで防ぎきったが、周囲に居て巻き添えを喰らった幾人かの兵士は、恐らく防ぎきれずに消滅している事だろう。

『しかし、どういうことだ?鋼鉄兵は基本的に術不能者ばかりの筈。たとえ使えるものが居たとして、あの鎧に身を包んだままじゃ基本術すら満足に使えないだろうし、まして水術の最高位たる天雷を、それもあれだけのレベルのものを放つなんて・・・・・・・・・まさか!!?』

 術の放たれたであろう左の方に意識を向けた和樹は、そこから恐ろしく強大なアニマが立ち上っているのを感じ取った。

「やっぱり術師が居たのか。カイゼルブレイドがあることだし出してこないと思ってたんだけどな。明確に言われたわけでもないのに鋼鉄兵だけだと思い込むなんて、俺もまだまだって事か。さて、相手はいったいどんな奴——————」

 ソイツを見た和樹は驚愕の余り眼を瞠った。

 余りにも予想外だったため、一瞬ここが戦場であることを忘れ動けなくなってしまうほどだった

 その男は栗色の髪に蒼い衣をまとった如何にも術師風の格好をしていた。

 直接会った事があるわけではない、しかし和樹はその男の事も、その男が誰なのかも良く知っていた。

 どれ程強い相手なのかという事も。

 そして、そこへ更に。

 ユラッ

「!!?」

 戦うときは常に発動させている炎識の魔眼が揺らぎを捉え、瞬間その意味に気付き。

「ヤバッ!」

 バク宙で飛び退き躱そうとするが、ソレは恐るべき早さでカタチを成し——————

 フィオンバシュウッ

 地面に描かれた魔法陣から噴き出した炎により、さっきより多くの兵士が巻き添えで焼き尽くされ、和樹はというと。

「あ、危なかった・・・・・・」

 靴の先端が焦げるだけでどうにか躱しきっていた。

「しっかし、あんな効果範囲の広い焼殺見た事無いぞ・・・・・・」

 そう言って愚痴りながらも冷や汗ダラダラな和樹の視線の先、さっきまで向いていた方向からちょうど四時方向に居たのは若草色の衣を纏った金髪の男。

 和樹の表情は引き攣り、本能から発せられる危険信号は先ほどの比ではない。

「このうえよりにもよってこの二人まで相手にしなきゃならないなんて・・・・・・今日こそ死ぬのか、俺は?」


あとがき
前回は多数のレス、皆様どうも有り難うございました。
次回は実質後半戦です。技の解説とかも次回に持越しです。
夕菜達の出番もちゃんとあります・・・・・・・・・多分。
そして、謎の二人の正体とは!!?といっても分かる人にはバレバレでしょうが。(笑)

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