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「まぶらほ〜双剣のアニマ使い〜第八話(まぶらほ+サガ フロンティア2)」

b-2nd (2005-03-15 17:39/2005-03-17 16:25)
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「はあ・・・・・・」

 目の前のそれを見る和樹の口から思わずため息が漏れる。

「和樹さん、どうかしましたか?」

 和樹はとなりに立つ夕菜に顔を向け何かを言おうとして・・・・・・しかし苦笑を浮かべながら口をついて出たのは考えていたのとは別の言葉だった。

「・・・・・・いや、なんだか妙な事になっちゃったなー、って思って。」

「そうですね、でも、きっとどうにかなりますよ!」

 そう言う夕菜の無邪気な笑顔に僅かばかり心が軽くなるのを感じ、しかし表情は変わらぬまま、和樹は視線を戻す。

「ほんとなんでこんな事になったんだろ・・・・・・」

 そう呟く和樹の見上げる先には一軒の古ぼけた洋館が建っていた。

 さて、二人がこんな所に居るのは何故か?

 時間は少しさかのぼる。


 その部屋は沈黙に支配されていた。

 だが、ずっとそのままでいられる筈も無く、やがて和樹は諦めたように口を開いた。

「・・・・・・それで、どうしてその名前を?」

「何じゃつまらん、否定せんのか?」

「その名前が出た時点でしらばっくれるだけ無駄だろうし。」

「フム、賢明じゃな。まあおぬしらが分からぬのも無理は無い。生きている人間達は殆ど知らぬ事だが、幽霊となった者達は世界規模のネットワークを築いておってな、無差別な悪霊払いども等から身を守っておるのじゃ。当然そういった能力を持つ者達、特に強力な力を持つ者達の情報ほど早く、広く広まる事になる。」

「だから和樹さんの事も・・・・・・」

「この者の場合は二週間前のエジプトの一件が決定打じゃったな。あの一件はこっちでもかなり注目されておったからの。」

「で、八つ当たりついでに僕は無理難題を吹っかけられるわけか・・・・・・」

 和樹は思いっきりため息を吐きたくなった。

「失敬な。たとえ死した身といえど貴族の誇りまでは失ってはおらぬわ。そこまではせぬ。ただ少し憂さ晴らしついでにやってもらいたい事があるだけじゃ。見事解決すればここは明け渡そう。ちなみに拒否したらおぬしには家来として我が一族再興に協力してもらう。」

「そんな!?」

 夕菜が悲鳴じみた声を上げる。

「・・・・・・ちなみにそれも拒否した場合は?」

 その問いにフフンと不敵な笑みを浮かべるエリザベート。

「そのときはおぬしとおぬしの一族の秘密が世に知れ渡る事になるであろうな。」

 その答えにやれやれといった表情で和樹は両手を挙げて降参を示した。

「オーケイ、分かった。言う事を聞こう。それで何をすればいい?」

「うむ、実はじゃな・・・・・・」


「そして「元の住処を取り戻してこい。」と言われて今に至ると・・・・・・」

「和樹さん、誰に向かって喋ってるんですか?」

「なんでもない。ただの独り言。」

 その説明に納得したのか、夕菜は洋館の周りに張られた厳重な結界に視線を戻す。

「それにしてもどうしましょうか、これ。一通り見て回っても綻び一つありませんでしたし。」

 そう言うとウーンと唸って考え込んでしまう。

「別に結界ならどうにでもなるけど?」

「え!?本当ですか?」

 あまりにも事も無げに言う和樹に驚く夕菜。

「うん、まあ。これを使えば一発だし。」

 そう言いつつ周りに他に人がいない事を確認し、言い終わった和樹の右手にはあの黒い大剣が握られていた。

「言われてみればそれってそういう剣でしたね。じゃあ早速。」

「待った、待った。ここにだって権利上の持ち主が居るだろうしいきなりそれは拙いよ。どっかにそこの連絡先かなんか無い?」

「それもそうですね。えっと・・・・・・あ、ありました!」

「ホント!で、なんて!?」

 これで漸く帰ってゆっくり寝られると思い安堵する和樹だったが、夕菜の次の一言によってそれは脆くも崩れ去った。

「あの・・・[風椿不動産]って書いてあるんですけど・・・・・・」


 風椿不動産は銀座にあった。

 二人は受付であの洋館の担当者のことを聞き、その部屋のドアを開けた。

 そしてそこにいたのは・・・・・・

「あら、あなた達がこんな所に来るなんて・・・・・・どうかしたの?」

 葵学園三年、風椿玖里子その人であった。

『なんだかどんどんドツボに嵌ってるような気がするなあ・・・・・・』

 心の中でだけため息を吐く和樹。

「それが・・・・・・」

 そんな和樹の胸中を知ってか知らずか夕菜は玖里子に事情の説明を始めるのだった。


「なるほど、話は分かったわ。でも、こっちも仕事だし・・・・・・」

「そこを何とか・・・私と和樹さんの未来がかかってるんです!」

 その様子を和樹は大げさだなぁなどと思いながら眺めていた。

「それじゃあ・・・そうね、代わりに和樹を貰おうかしら?」

「・・・・・・・・・はい?」

 和樹は状況の変化についていけない。

「な、何を言うんですか、玖里子さん!!大体あなたは・・・・・・」

「ええ、確かに手を引いたわよ?あの話を聞いたあと麻衣香姉さんにきっぱりと今回のことは突っぱねたし。でも、それはあくまで和樹の遺伝子の話。」

 いつの間にか玖里子は真剣な顔で話をしている。顔は夕菜の方を向いているがその瞳は間違いなく和樹を映していた。

「あの一件であたしは[式森和樹]という人間に興味を持ったわ。うちの一族や知り合いにも変わり者とかは結構居るけど和樹みたいなのはいなかったから。それにその能力から言っても傍に置いといて損はないだろうし。それは和樹、あなたにとっても同じ筈だけど?」

 そう言うと玖里子は今度はしっかりと顔を和樹に向ける。

 その視線の先に振り向いた夕菜の視界に入ったのは、雰囲気をガラリと変えたあの和樹だった。

「・・・・・・そこまで評価してもらって悪い気はしないな。だが、その要求は呑めない、あんたには悪いが俺は当分誰のものにもなる気はないんでね。」

「そう言うだろうと思ってたわ。でも、それじゃ何も解決しないわよ?」

「別にかまわない。穏便に済ませたいと思っていたが、こうなってはしょうがない。幽霊相手とはいえ問答無用で追い出すような連中にかける慈悲はこちらも持ち合わせちゃいないからな、力ずくでいかせて貰う。」

「本気?風椿を相手にどうにかできるとでも?」

 玖里子はいかにも余裕たっぷりといった感じだ。

 だが、対する和樹も怯むどころか揺らぎさえしていない。

「・・・・・・いい事を教えようか?ヴィジランツの中で一族の方針決定にすら関わる最高位の幹部達は一族の中でも[タイクーン]の称号で呼ばれ、またかなり高い社会的地位を持つことが多い。が、それだけのVIPであるにも拘らず、SPをはじめ護衛をつけて行動する事は殆ど無い。あっても同じヴィジランツが1人か二人がせいぜい・・・・・・何故だと思う?」

 心なしか玖里子の表情が強張っている様に見える。

「えっと・・・つまりそれだけ強いって事ですか?」

「半分正解だ、夕菜。俺の知るその一人は以前、たった一人でSランクに相当する化物を三体まとめて瞬殺してみせた事もある位だからな。で、残りの半分だが、一言で言うなら邪魔なんだ。前にも言ったが俺達の使う術は威力、範囲共に強力なのが多いから下手すると巻き添えになりかねない。そして裏を返せば一対多の状況でこそ真価を発揮するという事。つまり組織や物量作戦の相手は得意中の得意って事だ。」

 まあ社会的にどうこうするのも出来るけど、と続けようとして、和樹は二人の顔が青くなっている事に気付いた。

「嘘でしょ?たった一人でSランク三体を瞬殺?どんな化物よそいつは・・・・・・」

「人間業とはとても思えません・・・・・・」

 そんな二人を見て、言わなきゃ良かったかな、とちょっと後悔する和樹。

『まあ、これが普通の反応か・・・でも、その人物が今日本にいて、しかも俺と血が繋がってるって言ったらどうなるんだ?』

 そんな事を考えているうちに玖里子が正気に戻った。

「はあ、もういいわ。好きにしなさい。」

「本当ですか!?」

 すかさず反応する夕菜。

「ええ。あ、でも、急いだほうがいいわよ。確かそろそろ解体工事が始まる頃だから。」

「な!?こうしちゃいられない、急ぐぞ、夕菜!」

「はい!それじゃあ玖里子さん、お邪魔しました!」

 そう言うと、二人ともあっという間に扉の外に消えていった。

 そして1人残された玖里子はというと—————

「さて、それじゃ迫真の演技を期待してるわよ、エリザベート。」

 見事なまでの悪女の表情をしていた。


 さて、驚異的な速さで戻ってきた和樹と夕菜。目の前の洋館はまだ建っていた。

「はあ、はあ・・・よ、良かった、間にあっ————」

 そう安堵を漏らそうとした既に元に戻っている和樹、しかしその眼前で————

 ピシィン

「「エ゛!!?」」

 無数の線が奔り、そして————

 ズゴゴゴゴゴゴゴォン

 ものの見事に崩壊した。

 その濛々とたちこめる土煙の中から出てきたのは。

「凜、さん?何でここに?」

「夕菜さんに式森?私は修行も兼ねてここの解体を玖里子さんに手伝わせてもらったのですが、どうかしましたか?ああ、それと式森、よく覚えていないが迷惑をかけたようだな、すまない。」

「いや、いいよ、謝られるほどの事じゃないし。ここにいるのは・・・まあ、色々あって。」

 そう言う和樹だが、落胆の色は隠しきれていなかった。

「それにしても、どうしましょうか?」

 夕菜も不安げな表情だ。

「どうするも何も、すぐばれるのは目に見えてるし、正直に言うしかないよ。」


「なるほどの。言い訳一つせぬとは見上げた心がけじゃ。」

 それを聞き二人とも安堵する。しかし。

「じゃが、それでわらわの怒りが収まると思うてか!!?

 ゴオッ

「キャアアッ!?」

「夕菜!!!」

 突然部屋に起こった突風によって、夕菜はエリザベートのいる部屋の中央まで飛ばされ、エリザベートはその手を掴み、夕菜ともども周りに発生した黒い煙の中に消えようとする。

「か、和樹さん!!」

「式森和樹!この女を帰してほしくば我が家臣となれ!!」

「くそっ!待て!!」

 傍から見るとどっかのRPGの一場面のような光景が展開されるなか、二人は完全に煙の中に消え、そこと繋がっているらしき黒い点のみが和樹の前に残された。

「ふむ、このままではちと狭いの、あそこと繋げるとするかの。」

 その点からそんな声がしたかと思うと、ボンッという音と共に窓から見える朝霜寮の一室から、さっきまでこの部屋にあった煙と同じものが溢れていた。

 やがてそれはどんどん拡大し、今にも朝霜寮を覆い尽くしそうになっている。

「きゃー!助けてー!!」

「夕菜!!」

 点から聞こえる夕菜の声に振り向く和樹。

「くそっ、汚いぞ!夕菜を返せ!!」

「言ったじゃろう?おぬし次第じゃ。」

「貴族の癖にそんな事して恥ずかしくないのか!」

「貴族だからこそ、ここで負けるわけにはいかんのじゃ。ほ〜れほれ。」

「きゃー、いやー!」

『くっそ、んなこと言って思いっきり楽しんでるじゃないか。いったい中ではどんな事が・・・いや、そんな事より、どうする?あの煙はカイゼルブレイドで消し飛ばせるけど、その場合、もし今夕菜の居る所があの煙で創られた空間だとしたら、夕菜もろとも・・・だめだ、この手は使えない。となると、残る手は・・・・・・』

「さあ、どうした?早くしないとどうなっても知らんぞ?」

「・・・・・・夕菜、少しの間じっとしてろ。」

 和樹の言葉の雰囲気が変わったことに気付きハッとなる夕菜。

「だ、駄目です!和樹さん、やめてください!!」

「ん?なんじゃ?」

 なにやら様子がおかしい事に気付くエリザベート。

 改めて和樹の方を見たエリベートの瞳に映ったのは、白く輝く右腕をこちらに向けて突き出し、それを左腕で支えている和樹の姿だった。

「何じゃと!おぬし、後五回しかない魔法をこんなにあっさり使うつもりか!!?」

「別にあっさり決めたわけじゃない。他に手が無いから、ただ、それだけだ!」

 言い終わると同時に腕の輝きは眼を開けていられないほどに強くなり—————

「おおおおおおおおっ!!いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 ズドオオオオオオオオッ

 放たれた生涯四度目の魔法はあやまたず黒い点の中に吸い込まれ、そして—————


「な、な、何よこれぇー!!!?」

 思わず絶叫した玖里子が見上げているのは、彩雲寮があった場所に建つ巨大な建造物。

「まあ、アレじゃな、悪い事はそうそう出来んということじゃ。」

 そう言って玖里子の肩に手を置き慰めるエリザベート。

 和樹の魔法により朝霜寮は玖里子の目論見どおり移動し、彩雲寮と合体した。

 そこで止まれば玖里子にとって万々歳だったのだが、地球を滅ぼしかけるほどの魔力の一欠片がそのくらいで止まる筈も無く——————

「朝霜寮のみならず、男子寮の紫雲寮、紅雲寮、女子寮の夕霧寮、深山寮、葵学園の六つの寮全部合体させるなんて・・・無茶苦茶にも程があるわよ!!?」

 その結果、合体して巨大になった寮は風椿の施設建設予定地の一部どころか全てを覆い尽くしてしまい、玖里子の企みは全て水泡に帰してしまった。

「それにしてもたいしたものじゃな、そんな無茶をしたにもかかわらず建物も歪になっておらぬし、中も迷宮の様に複雑化しているわけでもない。案外あやつは建築の才能があるかもしれんな。」

「それが何だって言うのよ、あいつのおかげで計画がパーよ・・・・・・」

 玖里子がそう言うと、突然エリザベートが真剣な表情になる。

「・・・・・・玖里子、おぬし確かあやつをそれなりに気に入っておるとか言っておったな。」

「そ、それがどうしたっていうのよ・・・・・・」

「あやつに死んでほしくないと思うなら気をつけたほうがよいぞ。あやつ、残り五回の魔法の一回をこれから使うというのに、微塵も迷いがなかった。その瞳にあったのは余りにも強い意思の光のみじゃった。否、意思というより信念と言ったほうが正しいかもしれん。あやつはきっと自分が必要と判断したら残り回数などお構いなしに魔法を使う。案外化物じみているのはあの魔力より、むしろあやつの心の方なのかもしれん。」

「・・・・・・」

「とにかくじゃな、「そうですか・・・そういうことだったんですか・・・・・・」

 冷え切った声が二人の背後から響く。

 ギギギ、と音がしそうな感じで振り向いた二人が見たのは、紅い闘気(オーラ)をまとった外面菩薩内面夜叉という表現そのままの宮間夕菜であった。

「おかしいと思ったんです、エリザベートさんが聞いているのは二週間前の情報だけの筈なのに、昨日和樹さんが一回魔法を使ったのを知ってたんですから。」

 しかもその外側も、今にも夜叉か般若にでも変わりそうである。

「ゆ、夕菜、話せば分かるわ。だから、ね?エリザベート、ほら、あんたも何か—————」

 ジリジリと後退りながら横を見る玖里子。しかしそこに居た筈のエリザベートは影も形もない。

「逃げたわね・・・・・・」

「問題なのは黒幕のほうなので別にかまいません。」

「あ、あたしなんかより和樹はいいの?」

「和樹さんならあの後たまっていた疲れが出てそのまま眠ってしまいました。今部屋に寝かせてきたところです。」

 玖里子は何とか話をそらそうとするが、悉く躱されていく。

「よりにもよって和樹さんの残り少ない魔法を利用しようとするなんて・・・覚悟はいいですか?」

 いまや夕菜から発せられるプレッシャーは某赤眼の魔王にすら匹敵するレベルになっている。

「ひいいいいいいっ!ほ、ほんの出来心だったのよ、許して!!」

「いいえ、許しません。キシャアアアアアアッ!!!!」


 その日、そこから立ち上った火柱は、遠く東京タワーからも見えたという。合掌。

 余談であるが、この一件で一つになった寮は[葵寮]の名で呼ばれる事となり、また、建設予定だった施設は、今回のことで空いた四つの寮の土地を当初の計画の土地を引き換えにして建てる事となり、その際の計画の見直し等もあって、結果として当初見込まれた利益を大幅に上回る成果を出す事になる。

 もっとも、現在進行形で黒焦げになっている今の玖里子には何の慰めにもなりはしないが。


あとがき
というわけで、思ったよりも早くキシャー降臨してしまいました。
玖里子がまさに踏んだり蹴ったりという感じですが、別に私は玖里子が嫌いな訳じゃありませんよ?
以降の話はかなり間隔が空く事が多くなると思います。

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