黒い種 キラ君奮闘?物語
第3話 望まぬ再会(ザフト主観)
ところ変わってザフト陣営。
先ほど奪取された『イージス』のコックピット。
そこに乗っている1人の少年。
プラントの国防委員長でもあり最高評議会の1人でもあるパトリック・ザラの息子、アスラン・ザラ。
現在イージスが最低限動作できるようOSを再構築中。
『アスラン、そちらはどうですか?』
『早く引き上げたいよなぁ~』
『さっさとしろ!』
そこに入ってくる3つの通信。
上から順に、ニコル・アマルフィ、ディアッカ・エルスマン、イザーク・ジュールの3人。
アスランと同じ『クルーゼ隊』所属のパイロットたちである。
それぞれ、ブリッツ、バスター、デュエルに搭乗中。
「あと3分くらいだ。みんなの方はどうだ?」
『さすがアスランですね、僕のほうは後1分くらいです』
『あと2分くらいかな?』
『ふん、人の事に気を回してないでさっさと終わらせろ!』
三者三様の返答を返す。
ちなみにイザークはあと1分ほどである。
「そう言えば、ストライクはどうなったんだ?」
ふと思い出したようにそう告げるアスラン。
と、ニコルが困ったように答えた。
『今、ミゲルとラスティが向かっています。
ですが、何故か体が動かなくなるとかで難航しているようです』
「そうか・・・確かにストライクの方向から謎のプレッシャーを感じたからな。
さっきの銃撃戦のときもそうだ」
さっきの銃撃戦のときのことを思い出し、アスランが頭を振る。
実は彼はこれと似たようなプレッシャーを受けたことがあるのだ。
しかしそれを思い出したくないらしい。
(まさかな。もしアイツなら悪寒だけで済む訳ないもんな)
ふふっと自嘲気味に笑うアスラン。
アスラン、過去に何があったんだ?
とそのとき、
『うわ! 何だ!』
『機体が動かないぞ!』
『何が起きたんだ!?』
突然ニコルたちの声が変わる。
「なんだ? 何かあったのか?」
突然の変化にただならぬものを感じたアスラン。
すぐさまニコルに問いかける。
『わかりません! 突然モニターにロボット鳥が映ったかと思ったら、いきなり機体が動かなくなったんです!』
「ロボット・・・鳥・・・」
ビクッとなるアスラン。
『ハイ。僕達だけじゃなく、コロニーにいる味方機全部が同じ症状みたいです』
「・・・・・・」
『トリィ♪』
ニコルからの返事と同時に、イージスのモニターにもそれが映し出される。
何かのプログラムのようだ。
そして一切の制御が効かなくなった。
「・・・・・・」
顔色が悪くなるアスラン。
しかし事態は止まらない。
『ザフトの皆さん、こんにちわ♪』
鳥ロボットに続き、妙に明るい声の男が画面に映し出された。
その顔はとても美しく、少女と言われても何の違和感もないものであった。
『何だお前は!?』
イザークが少年に向かって怒鳴りつける。
この非常事態で通信を入れてきているのだ。
この少年がこの件に関与しているということは十分に予測できる。
すると、怒鳴られた少年は少し沈んだ顔になった。
『あ、申し訳ありません。僕の名前はキラ・ヤマトと言います。
今ストライクに乗っている者です。
皆さんの機体は諸事情により僕が完全に掌握させていただきました』
頭を下げながらそう告げる少年。
だが、殊勝な態度とセリフがまるであっていない。
怒鳴りつけたイザークも黙り込んでしまう。
『本当はこんなことしたくなかったんですけど、こうでもしないと皆さん話を聞いてくれそうに無かったので。
ほんとに御免なさい!』
すまなそうに頭を下げる少年。
そんな少年の態度に、ハッキングされてコントロールを奪われたという事実が忘れ去られそうになっていた。
『・・・・・・キラ・ヤマトさんですよね? そのお話と言うのを聞かせていただけますか?』
いち早く声を出したのはニコルであった。
『ハイ、ええっと・・・』
『ニコル・アマルフィです。ニコルと呼んでください』
『あ、どうも、ニコルさん』
モニター越しにお辞儀をする2人。
その様子に再びイザークが声を荒げた。
『ニコル! そんな正体不明な奴と何をやっている!!』
『え、でも』
『今はこの状況を何とかするほうが先だろ!? オイ、お前! さっさと機体のコントロールを戻しやがれ!!!』
憤慨するイザーク。
それをなだめようと説得するニコル。
何だか話がおかしくなってきてるぞ?
『イザーク、そんな言い方をしてはだめですよ。アスランも何とか言ってください』
『・・・・・・アスラン?』
ニコルが発した人物名に反応するキラ。
その顔から表情が消えた。
『ニコルさん。アスランって、国防委員長の息子のアスラン・ザラのことですか?』
『え、ハイ。そうですけど・・・』
『貴様! なぜアスランのことを知っている!』
『黙れおかっぱ男』
『『『・・・・・・え?』』』
一瞬、静寂が訪れた。
先ほどまでのキラの態度から、今の言葉が理解できない。
しかしそんな事は構わないキラ。
『アスラン、いるならこっちに顔を見せてくれないかな?』
先ほどとは全く異質の笑みを浮かべるキラ。
途端にザフト兵全員を凄まじいプレッシャーが襲う。
「・・・やあ、キラ」
全員がフリーズして数秒後。
キラのほうに顔が見えるように回線を開くアスラン。
その表情には余裕が無い。
というか、今にも気絶しそうなほど張り詰めたものがある。
『あ、アスラン!!!』
対するキラはとても嬉しそうな表情を浮かべている。
しかし依然として黒オーラを放っている。
それでは、しばし彼らの会話をお楽しみください。
注:「」=アスラン 『』=キラ ()=周囲の人々
『久しぶりだね、アスラン(満面の笑みでニッコリ)』
「そうだな(引きつった笑みでニッコリ)・・・キラ、どうして君がそんなものに乗っているんだ?」
『君達ザフトの無能軍人がコロニーに侵攻してきたからだよ♪(キッパリ)』
「(ビクッ!)・・・・・・キラ、怒っているのかい?」
『全然。他のクズどもがどうなろうと僕には関係ないからね、アハハ~』
「そ、そうか。相変わらずだな」
(相変わらずなのか? 元からこんな奴なのか?)
『でもアスラン、軍人になったんだね』
「あ、ああ」
『へぇ~、どうして?』
「戦争を早く終わらせるためだ!! これ以上苦しむ同胞たちを放ってはおけないんだ!!!」
『なるほど』
「わかってくれたか、キラ」
『うん。君が同胞を守るためとかぬかしながらもヘリオポリスに住んでいるコーディネーターのことなんか微塵も考えていない、とても都合のいい理念を振りかざしている事がね♪』
「・・・・・・」
『まあしょうがないか。アスランって昔から視野が狭くて思い込みが激しい単純馬鹿だったもんね。
親の七光りにすがってる所為で親に逆らえないへたれ野郎だもんね。
ごめん、忘れてたよ』
(誰かこいつを止めてくれ(涙))
『まあいいや。アスラン、悪いんだけど帰ってくれないかな?
ストライク以外の機体はあげるからさ』
「え? キラ」
『いい加減に君たちの相手するのも面倒になってきたからさ。
イヤだって言うんなら別にそれでもいいけど、その場合・・・』
「・・・その・・・場合?」
『アスラン、花火って見たくない?』
「花火?」
『うん。僕がこのキーを一回押すたびに一発ずつ上がるんだ♪』
「・・・・・・今すぐに撤退するよ、キラ」
『そう? 綺麗なのにな~、残念』
「そういうわけだからキラ、ロックを外してくれないかな?」
『わかったよ』
以上、感動の再会でした。
「全機、撤退する」
『『『『・・・・・了解』』』』
アスランの号令で全ての機体が飛び上がる。
別にアスランに指揮権があるわけでもないんだが、全員が暗黙の了解的に従った。
普段からアスランをライバル視しているイザークでさえも。
未知との遭遇がよほど堪えたらしい。
「さてと、アスランたちもいなくなったことだし」
ザフトの機体が全て離脱したのを確認したキラは、ストライクを移動させる。
あるものが置いてある場所へと・・・
「ザフトはどっか行ったし、次は連合だね♪」
まだまだこれからの帝王だった。
ちなみに、
「さすがキラだわ」
「ザフトを追い返しちゃうなんて」
先ほどのやり取りを聞いていた筈の2人の少女の反応。
この2人の目や耳には特殊なフィルターでもついているんだろうか?
あとがき
前回に比べてずいぶん黒くなったと思います。
とりあえずザフトは退けました。
次は大天使です。