転生日記5 四話後編 『守りぬけ、歓迎会』
「いただきま~す!」
「はい、どうぞ」
「すいません、急に押しかけちゃって」
新しく歓迎会の席に着いたのは二人の兄弟だった。
二人とも見かけは人だが、中身は違う。この兄弟は天界に住む四海竜王の内の二人、西海白竜王と北海黒竜王なのだ。
「やっぱ、持つべきは金持ちの友達だよな」
と言いながらも、物凄い勢いで料理を征服していくこの少年こそが西海白竜王である。
人身での名は竜堂終。竜王として完全覚醒していらい歳は取っていないが、これでも元現役高校生である。
その容姿は竜王らしく整っているが、終の持つ雰囲気がタダの悪童少年にしてしまっている。
「もう終兄さん、家じゃないんだから少しは遠慮してよ」
そして全ての料理を食べ尽くす勢いの兄を恥ずかしげに注意するのが、北海黒竜王である。
この少年は兄と違い、天使のような可愛さを持つ少年である。
人身での名は竜堂余。兄と同じで既に成長は止まってしまっているので、彼が人であった時の年齢のままの姿だ。
「それは私のです!」
「う、ごめん」
己の食欲の命ずるままに箸を進めていた終は、和美がキープしていた大トロに手を出してしまう。
和美は当然、終の行為を許さずに直ぐに抗議の声をあげる。
抗議された終も大トロは惜しいが、彼は基本的に弱い人間には優しいので謝りながら大トロをちゃんと返す。
「・・・珍しいな、終が自分の箸で取った料理を返すなんて」
和人は普段の終を知っているので、この終の行為が信じられない。
はるか昔、和人は母夕菜が作ってくれたクッキーを終に盗られた事がある。
その時は実力で奪い返そうと、終と大喧嘩をしたものだ。
それと結果だが、和人は父和樹に、終は竜王兄弟の長兄である東海青竜王にそれぞれ捕まりお仕置きを受けた。
そしてクッキーは、和人の炎で消し炭になっていた。
「いくら終兄さんでも、女の子から食べ物を盗ったりしませんよ」
「こら余、俺の事をどう思ってるんだ」
「えっ」
本当の事を言うか、余は迷ってしまう。
どう思ってるんだ?と聞いている最中でも箸を動かし続ける兄に、これ以外どう思えっていうんだろう?と余は内心考えてしまう。
それでも話している時は食べない終に、余は少しだけ嬉しくなる。
こう見えても、終は食事のマナーはちゃんとしているのだ。
「・・・どう思ってるって、食欲魔神だろ」
終とは親友である和人が小さい声で、しかし終には聞こえる程度の声で話す。
この二人は確かに親友と呼べる絆があるが、食べ物関係だけは敵同士なのだった。
天界でも、精霊界でも食い物の恨みは恐ろしいのだ。
「まだまだあるわ、どんどん食べなさい」
気を利かせた和人の母は、追加の寿司をメイド達に持ってこさせる。
その量に、一般的な食欲の持ち主は驚いてしまう。
「あ~、和人。友達だけで話した方が良いでしょ、私は部屋に戻るわ」
「俺も」
「僕もそうさせてもらうよ」
三咲家の三兄弟は、腹も膨れたのでこれ以上の長居は無用とさっさと逃げていってしまう。
「それじゃ、私も失礼するわね」
こうして歓迎会の会場には和人、和美、終、余の四人と大量の料理だけが残った。
「これって全部食って良いのかい?」
「「「・・・どうぞ」」」
軽く10人前はある料理を前に、まだ食欲が満たされていない終だけが喜ぶ。
先ほどまで喜んで食べていた和美も、どうやら一般人程度の食欲の持ち主のようで、もう食べる事はできなそうだ。
「それで終、おまえは本当に食いに来ただけか?」
部屋に誰もいなくなったので、和人は気になっている事を終に尋ねてみる。
和人も、まさか竜王が食い物の為だけに人界に来ると思っていない。
それにこの人界は、かつて竜王四兄弟が暮らしていた人界では無いのだ。
「ああ、和人の手伝いをしてやろうと思って来たんだ」
「ちゃんと始兄さんの許可もあります」
余の言葉で、和人は終に手伝ってもらう事にする。
こちらは人手が無いし、終の食欲は超人級だが実力も超人級なのだ、これ程の助っ人はそういない。始、すなわち竜王兄弟の長兄の許可があるのなら、何の遠慮も無い。
「本当はオマエ何か助けたくないんだけど、まあオマエには飯を食わせてもらった恩もあるしな」
照れくさそうに話す終を見て、余はつい嬉しくなってしまう。
これが、余の好きな兄の一面だったからだ。
「それで、ちゃんと計画があるんだろ?」
楽しそうに終は和人に尋ねる。終は食事も好きだが、喧嘩も大好きで血が騒ぐのだ。
「その前に計画の目的を話した方が良いかな。終達は知っているだろうが、目的は神凪だ」
「神凪ですか?」
昨日まで住んでいた家が、己の目的だと知って和美は慌ててしまう。
嫌っていた家でも、血の繋がった家族の住む家でもある。和美はまだ、神凪と完全に決別した訳ではないのだ。
「そう、詳しい理由はまだ話せないけど。俺の目的は神凪の改革、または退魔師一族としての神凪の破壊だ」
「それって・・・」
「安心しろ、神凪の人間を殺すつもりは無いよ」
それを聞いた和美は、心のどこかで安心するのを感じた。
「それでどうするんだ?」
「俺たちは神凪に対抗できる退魔師の組織を作る。今の神凪が傲慢になったのも、周りに神凪のライバルがいなかった為に起きたものだ。だから今からでも神凪にライバルを作って、自分達の力で元の神凪に戻ってもらう」
「外からキッカケを与えるんだな」
「ああ。そして自ら戻らないなら、戦争をしてでも神凪には消えてもらう」
和人としてはすぐに神凪を消したいのだが、一応助かるチャンスを与える事にしたのだ。
「治るんですか?その神凪は」
「宗主の重悟は人としてまともだ。和美の父で神凪のナンバー2である厳馬も、結構良い人かもしれないし」
「かも?ハッキリしろよな~和人」
「頑固な職人って感じなんだよ、厳馬は。炎術一筋の職人さん」
和人は神凪で会った厳馬を思い出す。
それは和美が僅かな荷物を持って、神凪の廊下を歩いている時だった。
厳馬は冷たい目で和美を見、そして一言も言わずに和美の隣を通り過ぎたのだ。
まるで和美がいないかのように。
しかし厳馬は和人の横を通る時に、和人だけが分かるように耳元で囁いたのだ。
「・・・娘を頼む」と。
「まあ厳馬は選べなかったし、知らなかったんだろ、炎術師としての生き方しか」
「だから、和美をオマエに託した、か」
「でもそれって」
三人は和美を見るが、和美はどこも変わった様子は無かった。
表面上は、だが。
「そうだ、神凪の下に風牙衆って言うのがいるだろ」
和美の暗い雰囲気に耐えられなかった終が、無理矢理話題を変える。
「・・・いますけど」
「そこの神様に頼まれたんだ、助けてやってくれって。その神様も結構良い奴なんだよ」
「・・・食い物でも貰ったのか?」
和人の言葉に、終は何も答えなかった。そしてこの沈黙が答えを雄弁に語っている。
「風牙衆も神凪が変われば救われる、俺たちが神凪を潰した場合でも救われる。ちゃんと助けるよ、俺も風牙衆には同情を感じてるし」
「でも、それじゃ可哀想です。きっと今も苦しんでる人がいるんじゃないでしょうか?」
「余の言うとおりだぜ、和人。今からでも助けてやろうよ」
終も余も、弱い人間には無条件に優しい。この弱い人間とは、自分の身を守る力の無い者だ。
風牙衆は一般的に見れば力はあるが、現状は身を守れない弱い集団だ。
今も神凪の一方的な暴力を受け、抵抗できずにいるのだから。
「でも、どうするのです?和人様」
和美も同じ神凪からの暴力を受ける身として、風牙衆には特別な感情があった。
その感情も手伝って、先ほどまでの暗い思いを忘れる事ができた。
「私が大切だったなら、どうして今まで」と
「今から退魔組織を作るんだろ、だったら風牙衆に情報部門を任せようぜ」
「俺もそのつもりさ、終」
「でも、いったいどうやって神凪から風牙衆を開放するんです、和人さん」
「金で買うのかい?」
終の意見を聞いた和人は、ワザとらしくため息をついてみせる。
もちろん終への嫌がらせだ。
「嫌だね~何でも金で済むと思ってる奴は」
「じゃあ、どうするんだよ!」
「お前ら、ここは法治国家日本だぞ。憲法で基本的人権が保障されてる」
「そんな事は始兄貴のお説教で知ってらぁ」
「それじゃ、人権保護団体って知ってるか?」
そして和人は風牙衆を助けるプランを三人に話す。
それは次のようなものであった。
まず、三咲家の息のかかった人権保護団体を1つか複数作る。
作った人権保護団体に、国際的な実績や名声を作らせる。
そして充分な実績ができたら、神凪を人権侵害の疑いがあると告発するのだ。
勿論、神凪の風牙衆への行いは調査済みで、証拠も既にちゃんと存在する。
この告発を三咲家が所有する国内外のマスコミで流せば、日本政府は無視できなくなる。
風牙衆は神凪が使役する、そう江戸時代の協定で決められ今日でもその協定は絶対だった。
しかし、これは裏の世界の話で表には出せない。
すなわち表の世界では、政府は神凪の風牙衆への基本的人権の侵害を認めるしかなく、さらに煽れば神凪と風牙衆を引き離せるだろう。
これ以上、風牙衆が神凪の元では生活できない。憲法には住む場所を自由に選ぶ権利や、職業の自由が保障されていると言えば、政府は反論できない。
まさか、裏の理由を一般人に教える訳にはいかないのだ、そうなった場合は風牙衆を自由にするしかないだろう。
「そして神凪の影響力から風牙衆を守るって理由で、三咲家が風牙衆を保護する。
そうだ、アメリカ大統領からも圧力を掛けさせるか。まあ自称自由を守る戦士だし、喜んでやってくれるでしょ。日本政府もアメリカの圧力の前じゃ、如何しようも無いだろうし」
計画を聞かされた三人は、考えてもいなかった方法に呆然としてしまう。
なにせ、終と余は法律とは常に敵の武器であったし、和美は法律の及ばない世界で生きてきたのだから。
「この計画は直ぐに始めた方が良いかも、な」
「・・・そうだな」
「そうですね」
「うん、そうだね」
こうして、合法的な風牙衆救済計画が発動したのだった。
「そうだ、終」
「なんだい?食い物の話しかい?」
「違う、和美の修行の話だ。俺が見るに、和美には風術の才能があると思うんだが」
「うん、ちゃんと有るみたいだぞ」
終達の目にも、和美のそばを踊るように飛んでいる風の精霊が見えるのだ。
「でも俺は、精霊魔術は使えないぞ」
終の正体は風を自在に操る、西海白竜王なのだ。その風術は三界でもトップクラスで、風の精霊王に匹敵する。
しかし、この風術は風牙衆が使う風術では無い。
神凪の炎術もだが、風術も精霊魔術だ。
精霊の力を借りて風を操っているのだが、白竜王は自らの力で風を操るのだ。
この違いは小さいようで、かなり大きい。
「精霊魔術の方は俺が教える。終は風の扱い方を教えてやってくれ」
「わかったよ、でもちゃんと飯を食わせてくれよ」
「・・・分かってるよ」
どんな時でも飯を忘れない終に呆れていると、和人の携帯にメールが来る。
「計画を始めて10分も経ってないのに、もう最期の鍵が見つかった」
「最期の鍵?」
「そう、ちゃんとした言葉だと証人。それも風牙衆の神凪からの暴行を受けた被害者の、ね。この被害者が神凪の人権侵害を告発するってシナリオ。たまたまビデオを撮影しながら歩いていたら、その現場に立ち会ったって設定付で」
そう話しながらメールの内容を詳しく読んでいた和人の顔が、徐々に怒りに染まっていく。
その怒りは、とても10歳の子供のものでは無かった。
彼の魂は炎の精霊王の息子で、体は日本の財界のトップに君臨する三咲家の血が流れているのだ。
「被害者は14歳の女の子だってさ。現在、逃げているらしいが捕まるのも時間の問題だって」
そこまで聞いていた終と余は、犯人が少女を捕まえた後で何をするか分かってしまう。
「俺が行く。ずっと潜ませていた部下も動いてるし、これは俺の役目だ」
和人は風牙衆への人権侵害の証拠を集める為、常に部下を張り込ませている。
その部下の一人が、その少女を助けようと飛び出したとメールにはあった。
その部下はちょっと訓練を受けた一般人だ、神凪と対峙すれば命は無い。
「和美、行く前に精霊魔術の極意を教えてやる。精霊は術者に、あるモノを求める。
それは術者の心だ。精霊が術者に望む心は4大全てで違う。そして精霊が望む心を持った時、精霊はきっと答えてくれる」
「精霊が、答える・・・」
「そうだ。そして風の精霊が術者の心に求めるのは、自由」
「・・・自由」
「和美、君の心は常に自由であれって事さ」
そう言って、和人は走って部屋を後にする。
そして帰ってくるとき、その腕には・・・
おまけ
「ちょっと、さっさとどきなさい!」
「五月蝿いわね、私を誰だと思ってるの!」
道の真ん中で、二台の車が向かい合って止まっている。
別に好きで止まっている訳では無い、狭い路地裏の道なのですれ違う事ができないのだ。
「ちょっと薬師寺くん」
「泉田センパイは黙っていてください、この小娘は私がどかせてみせますわ」
と、涼子は相手の車とその持ち主を睨みつける。
・・・その車はなんとコブラだ。
「美神さん、ヤバイですよ!相手は警察っすよ」
「警察が怖くてGSが出来るか!」
「でも、私達ってここの世界の住民じゃないんですよ。捕まったら不味いんじゃ」
その車には二人乗りの車なのに、何故か三人が乗っていた。
「ほら泉田センパイ、何か怪しい事を言ってます。この際、逮捕しましょう」
「そんな簡単に、間違いだったらどうするんです」
「おーほっほっほほ!無実の人間を逮捕するのが警察官の楽しみ、それこそがあるべき姿ではなくて?」
「絶対に違います」
この二人が言い争っているように、相手の三人組も言い争っていた。
「逃げましょうよ、美神さん!捕まるのはいやぁ~」
「五月蝿い!この美神令子が国家権力ごときから逃げる訳無いでしょ!」
「そんな事言ってないで、逃げましょうよ、美神さん」
「そうだ、警察に捕まる前に、イッパツ!」
「オノレはまたそれか!」
と、二つの世界を代表する女王様が今、激突しようとしていた。
あとがき
今回のおまけは、GS美神と薬師寺涼子の怪奇事件簿のクロスです。
何故この世界に三人がいたかは、次のおまけで。
ちゃんとこの世界に来た理由もあります。
この状態で分かった人は、きっとエスパーです。
ヒントは竜ですねw
さて、レスでも多かった風牙衆の救済。
原作を読んでいて、法律とか大丈夫だったのかな?という疑問から今回のような方法になりました。
次は和美の修行開始と、本格的に始まる神凪の風牙衆への人権侵害を告訴、勝つのは和人か神凪か?
そろそろ和美さんにも、しっかりした心をもってもらいますw
レス返し~~
良介様
>なんか、和美が和人の嫁になるの決定事項な感じですね
・・・和人は和樹の息子です。簡単には決まりませんw
>流也が助かって欲しいんですよね、ほかは別にいいから
これで大丈夫です。結果はこういう場合、主人公が勝つのがセオリーです。
こうなると流也だけが問題です。原作では何時ごろ妖魔と融合したんでしょう?
>受験に関しては辛かったす、鳥取で電車を雪が降る中待つこと1時間と15分。本気で寒かった(TT
レベルが違いますが、自分は国立の二次試験のとき試験場入室15分前まで家で寝てました。家から会場が近かったんで、親に車で連れてってもらいましたw
いや、あの時は焦りました。寝坊した原因は、試験の前の夜にここにSSを投稿してたから・・・
>花粉症に気をつけてくださいね(今年初めてかかった人間より)
一応まだ大丈夫です!これからも気をつけます。
しかし受験が終わると暇ですな。