まぶらほ そして伝説に・・・
第12話
和樹の部屋のクローゼットからつながっている超空間。
だだっ広い地面に宿泊用の大きな家が一軒あるだけの実に殺風景なところである。
和樹が修行のために作り出したこの場所に、今7人の男女がいた。
男は一人ですけどね。
「広いですね~」
「すごいわ」
「修行には最適ですね」
初めてやって来た夕菜たち3人は興味津々。
物珍しそうに周囲を見渡している。
「久しぶりよね」
「そうね」
一度ここに来たことがある和美と沙弓。
前回のときのことを思い出してか、早くも気合が入っている。
「さすがはガルフォード様。これだけの空間を維持できるなんて」
改めてフォードの凄さに感心しているフィリア。
彼女もこういった場所で修行するのは初めてではないようである。
「みんな、無事到着したようだね」
和樹、もといガルフォードが声をかける。
ここなら正体がバレる心配もないようで、本来の姿に戻っていた。
「それじゃあ早速はじめるよ」
フォードが全員を集め、説明を開始した。
修行の内容に入る前に、この空間についての説明をした。
「この空間は時間の流れが特殊でね。
こっちの一日が向こうの世界での一時間に相当するんだ。
一応こっちで60日間修行する予定だから」
「その間、あそこに寝泊りするんですか?」
フィリアが家を指差しながら言った。
「ああ、そのつもり・・・変なこと考えるなよ、6人とも」
何だか顔つきがやばくなっている6人に釘を刺すフォード。
「それじゃあ修行内容について説明するね。
まず夕菜、玖里子さん、凜ちゃんの3人。
君たちはまず魔力増幅に慣れてもらう。
戦闘ではもちろんのこと、魔力を自由に変化させるのは基本だからね。
そうそう、これを渡しておこう」
そう言って、フォードは魔力測定装置を3人に渡した。
和美がしているのと同じものである。
「右のスイッチを押せば自分の魔力値が表示されるからね。
今の時点で基礎魔力を10倍まで増幅できるはずだから。
でも、いきなりは無理だからね。
体が強い魔力に慣れてないから」
和樹の指示を受けて腕に魔力測定装置をつける3人。
すぐさまボタンを押して、自身の魔力を表示させる。
「3人とも、いいかな?」
「わかりました和樹さん・・・じゃなくてガルフォードさん」
「ま、仕方がないわね」
「基本はしっかりしておかないとな」
3人の答えに頷いて、早速開始の合図を出す。
すぐに3人が魔力増幅を開始した。
「よし、それじゃあ次。和美と沙弓とフィリアだ」
夕菜たちが始めたのを確認し、残りの3人のほうに向き直るフォード。
「3人にしてもらうのは模擬戦だ。
和美と沙弓のペアでフィリアと模擬戦を行う。
ただし、フィリアは魔力値を80万以上にはしないこと。
2人は最大魔力を長時間持続することが目的。
フィリアは少し勘が鈍ってるからそれを取り戻してもらう。
あと、少ない魔力を効果的に使う戦い方を実につけてもらうからな」
「フォードさん、魔力の最大値を上げる修行はしないんですか?」
和美が質問する。
「ああ。最大魔力を上げることも重要だけど、
高い魔力を維持して長時間使えるようなるほうが大事だからね」
フォードの言うとおりである。
いくら最大魔力値を上げたとしても、それを維持できるだけのスタミナがなければすぐに魔力を使い果たしてしまう。
瞬発力よりも持久力のほうが大切であるということだ。
「よし、それじゃあ始めてくれ」
「はい!行くわよ沙弓」
「ええ、この間のこともあるしね」
「ふん、80万までしか上げられなくてもあんたたちには負けないわ」
少し離れた位置に移動して魔力を高める3人。
やがて魔力が上がりきったのか、3人が戦い始めた。
「よし、それじゃあ俺も始めるか」
そう言ってその場に座り込むフォード。
目を閉じて座禅を組み、精神を集中させる。
いわゆる瞑想というやつである。
こうしてそれぞれの修行が始まった。
修行が始まって数時間がたち、早くも各自に修行の成果が見られた。
夕菜たち3人はもともと才能があったのだろうか、
ある程度までの魔力増幅が出来るようになっていた。
ただ、強い魔力に体が慣れていないこともあって、基礎魔力の5~6倍以上はまだ出来ないようだ。
和美、沙弓、フィリアの3人についても、
フォードの課題を意識しているために少々ぎこちない戦いになっているが、
和美、沙弓の2人は常に33万以上をキープし続け、
フィリアについても魔力を収束させて使えるように心がけていた。
といった感じで6人に関しては問題ない。
むしろ一番問題があるのはフォードである。
「・・・・・・」
瞑想することによって体内の魔力を高めて基礎魔力を上げる一方、
精神集中することによって明鏡止水の境地を得ようとしていた。が、
「・・・・・・姉さん」
最近になって自分の性癖を知ってしまったフォード。
目を閉じて集中すればするほどに危険な妄想が浮かんできてしまう。
「・・・・・・うへへへへ」
時折漏らす笑みは不気味極まりない。
フィリア達が修行に集中していてフォードの姿を見ていないことは幸いだが、この数時間ずっとこんな調子のフォード。
修行の成果どころかこれではマイナスの効果しかない。
・・・この男が一番危ないのではなかろうか?
「よし、今日はここまでだ」
それからさらに2時間。
修行の終わりを告げるフォード。
その声に6人がフォードのもとに集まる。
6人ともかなり疲れているようだ。
「みんな、今日の修行はどうだった?」
各自に感想を求めるフォード。
自分はろくにしてないくせに・・・
「結構・・・疲れました・・・ふぅ」
「でも・・・何とか・・・できるようになったわ」
「ええ・・・これからこれを・・・続けていけば」
初めての修行でずいぶん疲れている夕菜たち3人。
それでも声には嬉しさが混じっている。
結局、彼女たちは今日の時点で7~8倍までの魔力に耐えられるようになった。
成果がはっきりと自覚できるので、やりがいがあるのだろう。
「結構疲れたけど・・・私たちも・・・何とかね」
「時々途切れるけど・・・平均して・・・魔力を持続できるように・・・なったわ」
模擬戦を行っていた和美と沙弓も、
開始から7,8時間ずっと魔力を高めたまま行動できていた。
ときどき疲労によって魔力が低下したものの、すぐに立て直していた。
もう少しで完全に体が慣れるだろう。
「私も・・・何とかなりそうです」
6人の中で一番高等なことをやっていたフィリア。
さすがに他の5人に比べれば目に見えた成果は少ないものの、
魔力を収束させるという発想を身につけ、
効率のよい戦い方へと変化させていた。
「みんな、修行初日は大成功って所だね。お疲れ様」
みんなの感想とその表情に満足したのか、
笑みを浮かべて労いの言葉をかけるフォード。と、
「ガルフォードさんは何をやっていたんですか?」
「え、俺?」
夕菜が言った。
自分たちよりも遥かに強い力を持つフォードである。
きっと物凄い修行をしていたに違いない。
それでもあまり疲れた様子は見られないのだ。
単純な好奇心である。
「お、俺は・・・瞑想を」
「瞑想ですか?」
「ああ、基礎魔力を上げるとともに精神修行をね」
「最初からずっとですか?さすがはガルフォード様。
これだけの長時間集中力を切らさずに瞑想しつつけるなんて、さすがですね」
「あ、ああ・・・」
フィリアの素直な賞賛の言葉に目線を逸らすフォード。
明らかに挙動不審なのだが、恋する乙女にはそんな事気にならないらしい。
熱っぽい視線を送る6人。
(言えない、全く修行になっていなかったなんて。しかも妄想の世界に浸っていたなんて)
罪悪感でいっぱいのフォード。
少女たちの尊敬と思慕の眼差しが痛い。
「さ、さあ、今日はもう終わりだから、明日に備えて休もう」
そう言って足早に家に向かっていくフォード。
「そうですね。みなさん行きましょう」
「やはり難しいものだな」
「気にすることないわよ、神城。最初は誰だってこんなものよ」
「この事に関してはあなたたちが先輩だものね。色々と教えてもらわないと」
「沙弓、戻ったらイメージトレーニングしない?あ、フィリアさんもどうですか?」
「そうね、付き合ってあげてもいいわよ」
いつもの雰囲気はどこへやら、なんだかんだで打ち解けている様子の6人。
同じ目的を共有し、そこに向かって共に努力するということがいい意味で働いたのだろう。
6人に仲間意識が生まれ始めたようだ。
しかしこの穏やかさはすぐに消え去ることとなる。
何故ならば、このあとには大きな戦いが3つも控えているからだ。
食事、入浴、睡眠という、恋する乙女達にとっての大きな戦いが。
「はぁ・・・俺ってダメだな」
修行の成果に落ち込んで、そんな事に一切気がついていないフォード。
彼にとっての唯一の救いは、修行で体力をほとんど使わなかったことだろう。
3連戦の間、ずっと戦いの渦中にいることになるのだから。
あとがき
何だかまともな話だったな、と思える12話でした。
和樹君の不幸の絶頂は13話に持ち越しになってしまいました。
一話伸びた分、たっぷりと地獄を味わってもらいましょう。
と言う訳で和樹君、もといガルフォードの不幸3連発!!!な13話です。
レス返しです
コロ介様
この作品でのキシャー化は、瞬間的な魔力増幅状態(いわゆるハイパーモード)だという風に考えております。
普段の状態から精神異常者のレッテルを貼っておりますので、
キシャー化はあまり気にしないでいただけるとありがたいです。
主人公もかなりやばい性格してますし。
D,様
やっぱり危険ですよね。
次回はそれがフルに発揮されると思います。
どうなることやら。
mon様
毎回的確なご指摘ありがとうございます。
残念ながら私がそれを生かすことが出来ないので情けない次第であります。
確かにまぶらほのキャラを使ったオリジナル展開になってますね。
元ネタ順変えたほうがいいですかね?
相変わらずの駄文ですが、これからも温かい目で御覧になってください。